霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 心(こころ)の禊(みそぎ)〔二〇三二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻 篇:第1篇 伊佐子の島 よみ(新仮名遣い):いさごのしま
章:第5章 心の禊 よみ(新仮名遣い):こころのみそぎ 通し章番号:2032
口述日:1934(昭和9)年08月04日(旧06月24日) 口述場所:伊豆別院 筆録者:森良仁 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
アヅミ王以下重臣たちは、高鉾の神・神鉾の神の御宣旨に感激し、百日の修祓に取り掛かろうと、今度は山麓を流れる駒井川に集った。
駒井川の水はとうとうとして壮観な勢いを見せていた。一同は川中の巌に陣取り、日夜心力を尽くして禊の神事に仕えていた。
国津神たちは禊の祈念に余念なく取り組んでいる折しも、突如、上流から半死半生となって助けを求めながら流れ落ちてくる、一人の男があった。
国津神たちがよく見ると、それはかねてから敵と狙う、サール国王エールスに他ならなかった。アヅミ王はとっさにわが身の危険も忘れて激流に飛び込むと、エールス王を川州に助け上げ、介抱を始めた。
王以外の神々はこのときばかり恨みを晴らそうと、おのおの石を掴んでエールスを打ち殺そうと集まってきた。アヅミ王は右手を差し上げ、罪はわれわれの心にあったのであり、エールスといえども神の子、乱暴してはならないと一同を制した。
エールス王はアヅミ王の介抱により正気を取り戻すと、回りを見回して、助けてくれたお礼を言うどころか、自分の禊を邪魔したと言って、アヅミ王一同を非難した。
王妃、大臣以下の神々は怒ってエールス王に襲いかかろうとした。アヅミ王は一人必死に一同をなだめて回ったが制しきれず、王以外の神々はいっせいにエールス王に石を投げつけた。
すると不思議なことに、エールス王の姿は煙となって水中に消えてしまった。一同が茫然としていると、水中から大きな蛟竜が現ると、神鉾の神の化身であると自らの正体を明かした。
そして、アヅミ王の心は禊を終わり、大神の大御心にかなったことを告げた。また王妃以下大臣たちはまだ心の修行が足りず、改めて百日の修祓に仕えるべきことを宣言した。そして、山の神殿には神鉾の神が御霊を止めることを託宣した。
ここにアヅミ王は三日の禊によって許され、月光山の神殿に奉仕し、国政を司ることを得た。王妃以下大臣たちは改めて百日の荒行を命じられ、その後月光山の神殿に仕えることを許された。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4031 OBC :rm8105
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 447頁 修補版: 校定版:99頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 アヅミ王(わう)以下(いか)の国津神(くにつかみ)等(たち)は高鉾(たかほこ)の神(かみ)、002神鉾(かみほこ)の神(かみ)の御宣示(みことのり)により感激(かんげき)し、003七日(なぬか)七夜(ななよ)の禊(みそぎ)を修(しう)し再(ふたた)び百(ひやく)日(にち)の修祓(しうばつ)に取(と)りかからむと、004今回(こんくわい)は月見(つきみ)ケ池(いけ)の聖場(せいぢやう)を離(さ)けて、005山麓(さんろく)を流(なが)るる駒井川(こまゐがは)の清流(せいりう)に修祓式(しうばつしき)を行(おこな)ひにける。006駒井川(こまゐがは)の水(みづ)は滔々(たうたう)として蒼(あを)く流(なが)れ、007川中(かはなか)の巌(いはほ)を噛(か)みて立(た)ち上(あが)る飛沫(しぶき)は霧(きり)の如(ごと)く日光(につくわう)に映(えい)じ、008宛然(さながら)白銀(はくぎん)の錦(にしき)を散(ち)らせし如(ごと)く、009その壮観(さうくわん)さ目(め)も眩(くら)むばかりなりける。010一同(いちどう)は川中(かはなか)の大巌(おほいは)の上(うへ)に起立(きりつ)し、011或(あるひ)は端坐(たんざ)し、012日夜(にちや)心力(しんりよく)を尽(つく)し、013禊(みそぎ)の神事(みわざ)に仕(つか)へ奉(まつ)りける。
014 アヅミ王(わう)は歌(うた)ふ。
015『月見池(つきみいけ)七日(なぬか)七夜(ななよ)の禊(みそぎ)さへ
016吾(わが)魂(たましひ)の垢(あか)は取(と)れなく
017大神(おほかみ)の大御(おほみ)言葉(ことば)に省(かへり)みれば
018身体(からたま)霊魂(みたま)は未(ま)だ清(きよ)まらず
019速川(はやかは)の滝津瀬(たきつせ)聞(き)けば物凄(ものすご)し
020高鉾神(たかほこがみ)の御声(みこゑ)にも似(に)て
021魂(たましひ)を打(う)ち叩(たた)かるる心地(ここち)かな
022駒井(こまゐ)の川(かは)の滝津瀬(たきつせ)の音(ね)は
023速川(はやかは)の中(なか)に峙(そばだ)つ巌ケ根(いはがね)に
024吾(われ)立(た)ち居(を)れば水煙(みづけむり)立(た)つも
025駒井川(こまゐがは)速瀬(はやせ)に立(た)ちて身体(からたま)を
026洗(あら)ふ禊(みそぎ)の勇(いさ)ましきかも
027川底(かはそこ)の真砂(まさご)の白(しろ)も見(み)えぬまで
028水(みづ)蒼(あを)みたる深(ふか)き流(なが)れよ
029駒井川(こまゐがは)深(ふか)き流(なが)れの底(そこ)よりも
030なほまさるらむ吾(わが)身(み)の汚(けが)れは
031月光山(つきみつやま)聖所(すがど)に城(しろ)を構(かま)へつつ
032吾(わが)曇(くも)りたる心(こころ)を嘆(なげ)かふ
033嘆(なげ)くべき時(とき)にはあらじ吾(わが)魂(たま)を
034清(きよ)めてイドムの城(しろ)をかへさむ
035形(かたち)ある宝(たから)に心(こころ)引(ひ)かれつつ
036吾(わが)魂(たましひ)の曇(くも)りを恐(おそ)るる
037さはいへど親(おや)の賜(たま)ひしイドム城(じやう)
038やみやみ人手(ひとで)に渡(わた)すべきかは
039月(つき)も日(ひ)も流(なが)るる駒井(こまゐ)の川水(かはみづ)に
040吾(わが)魂(たましひ)の垢(あか)を洗(あら)はむ
041勇(いさ)ましき駒井(こまゐ)の川(かは)の水音(みなおと)は
042吾(わが)魂(たましひ)を蘇(よみがへ)らすも
043山(やま)と山(やま)に包(つつ)まれ流(なが)るる駒井川(こまゐがは)の
044水(みづ)澄(す)み切(き)りて冷(ひ)え渡(わた)るなり
045大魚(おほな)小魚(をな)あまた集(つど)へる谷川(たにがは)に
046禊(みそぎ)し居(を)れば足(あし)こそばゆき
047吾(わが)足(あし)を魚族(うろくづ)来(きた)りつつくらし
048未(ま)だ身体(からたま)の垢(あか)の取(と)れずや』
049 ムラジ姫(ひめ)は汀(みぎは)の浅瀬(あさせ)に立(た)ちながら、050半身(はんしん)を浸(ひた)し静(しづ)かに歌(うた)ふ。
051『心地(ここち)よき流(なが)れなるかな吾(わが)魂(たま)は
052この水音(みなおと)に洗(あら)はれにける
053洗(あら)へども身体(からたま)霊魂(みたま)の汚(けが)れをば
054完全(うまら)に委曲(つばら)に落(お)とす術(すべ)なし
055吾(わが)王(きみ)の速瀬(はやせ)に立(た)ちて巌ケ根(いはがね)に
056禊(みそぎ)給(たま)へる御姿(みすがた)雄々(をを)しも
057駒井川(こまゐがは)速瀬(はやせ)を見(み)れば村肝(むらきも)の
058心(こころ)勇(いさ)みて身体(からたま)戦(をのの)く
059主(ス)の神(かみ)の御旨(みむね)に叶(かな)ひ奉(まつ)らむと
060百日(ももか)百夜(ももよ)の禊(みそぎ)に立(た)つも
061百木々(ももきぎ)の茂(しげ)みの露(つゆ)のかたまりて
062この速川(はやかは)となりにけるかも
063川幅(かははば)は広(ひろ)く水底(みなそこ)深(ふか)くして
064流(なが)れ急(せは)しき駒井(こまゐ)の滝津瀬(たきつせ)
065岸(きし)の辺(べ)の木々(きぎ)の梢(こずゑ)に鶯(うぐひす)は
066春(はる)を歌(うた)へど吾(わが)魂(たま)寒(さむ)し
067庭躑躅(にはつつじ)岸辺(きしべ)に匂(にほ)ひて水底(みなそこ)に
068赤(あか)白(しろ)紫(むらさき)の花(はな)を写(うつ)せり
069滝津瀬(たきつせ)の音(おと)高々(たかだか)と夜(よ)もすがら
070響(ひび)かひながら月(つき)を流(なが)せり
071朝(あさ)されば天津(あまつ)日(ひ)流(なが)れ夕(ゆふ)されば
072月(つき)の流(なが)れる駒井(こまゐ)の川水(かはみづ)』
073 シウランは歌(うた)ふ。
074『七日(なぬか)七夜(ななよ)禊(みそぎ)の業(わざ)も甲斐(かひ)なくて
075百日(ももか)の禊(みそぎ)を此処(ここ)にするかも
076吾(わが)魂(たま)は十重(とへ)に二十重(はたへ)に汚(けが)れしか
077月見(つきみ)の池(いけ)の水(みづ)にも洗(あら)へず
078速川(はやかは)の流(なが)れをあびて吾(わが)魂(たま)は
079軍(いくさ)の司(つかさ)と仕(つか)へ得(う)べけむ
080今日(けふ)よりは猛(たけ)き心(こころ)を洗(あら)ひ去(さ)り
081言霊軍(ことたまいくさ)の司(つかさ)とならばや
082岸(きし)の辺(べ)に清(すが)しく鳴(な)ける河鹿(かはしか)の
083声(こゑ)は水面(みのも)に慄(ふる)へて流(なが)るる
084夜昼(よるひる)の差別(けぢめ)もあらず清(すが)しかる
085言霊(ことたま)宣(の)れる天晴(あは)れ河鹿(かじか)よ
086河鹿(かじか)にも劣(おと)れる醜(しこ)の言霊(ことたま)を
087持(も)てる吾(わが)身(み)の愧(はづ)かしき哉(かな)
088夜昼(よるひる)を河鹿(かじか)は駒井(こまゐ)の川水(かはみづ)に
089洗(あら)ひて言霊(ことたま)澄(す)みたりにけむ
090桃(もも)桜(さくら)匂(にほ)へる花(はな)のあかあかと
091水(みづ)にうつろふ春(はる)は長閑(のど)けし
092速川(はやかは)の瀬筋(せすぢ)流(なが)るる桜花(さくらばな)は
093何処(いづく)の海(うみ)に息所(やすど)を定(さだ)めむ
094吾(わが)心(こころ)瀬筋(せすぢ)流(なが)るる花(はな)の如(ごと)
095果(はて)しも知(し)らずなりにけりしな
096水(みづ)冷(ひ)ゆる此(こ)の谷川(たにがは)に禊(みそぎ)して
097蘇(よみがへ)らさむ吾(わが)魂(たましひ)を
098月光山(つきみつやま)新(あらた)に建(た)てし宮内(みやうち)に
099神(かみ)や天降(あも)らすを待(ま)つ禊(みそぎ)なり
100一度(ひとたび)は天降(あも)りましたる主(ス)の神(かみ)の
101汚(けが)れを忌(い)みて帰(かへ)りましける
102世(よ)の中(なか)に神(かみ)の守(まも)りのなかりせば
103片時(かたとき)だにも生命(いのち)保(たも)てじ
104谷々(たにだに)を縫(ぬ)ひて流(なが)るる速川(はやかは)の
105水瀬(みなせ)の水(みづ)は冷(ひ)え渡(わた)りけり
106川水(かはみづ)はよし冷(ひ)ゆるとも百日日(ももかひ)は
107この川中(かはなか)に立(た)ちて禊(そそ)がむ
108玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)消(き)ゆると思(おも)ふまで
109冷(ひ)え渡(わた)るなり駒井(こまゐ)の流(なが)れは』
110 左守(さもり)のナーマンは歌(うた)ふ。
111『吾(わが)王(きみ)の御後(みあと)に従(したが)ひ来(き)て見(み)れば
112駒井(こまゐ)の禊(みそぎ)は冷(ひ)え渡(わた)るなり
113冷(ひ)ゆるとも何(なに)か恐(おそ)れむ王(きみ)のため
114御国(みくに)の為(ため)と思(おも)へば安(やす)し
115王(きみ)の為(ため)国(くに)の為(ため)にはあらずして
116吾(わが)魂(たましひ)を清(きよ)むる為(ため)なり
117吾(わが)魂(たま)の汚(けが)れ全(まつた)く清(きよ)まらば
118国(くに)と王(きみ)との為(ため)となるべし
119吾(わが)魂(たま)の曇(くも)りし故(ゆゑ)に吾(わが)王(きみ)を
120月光山(つきみつやま)に忍(しの)ばせ奉(まつ)るも
121思(おも)ひ見(み)ればさも恐(おそ)ろしき吾(われ)なるよ
122王(きみ)を悩(なや)ませ国(くに)失(うしな)ひて
123祭政(さいせい)一致(いつち)この大道(だいだう)を忘(わす)れしゆ
124イドムの国(くに)は覆(くつが)へりたり
125政治(まつりごと)なさむと思(おも)へば身体(からたま)も
126霊魂(みたま)も共(とも)に清(きよ)むべきなり
127主(ス)の神(かみ)の生(う)ませ給(たま)ひし国原(くにはら)に
128禊(みそぎ)なくして生命(いのち)保(たも)たむ
129玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)は神(かみ)の賜物(たまもの)と
130思(おも)ひて禊(みそぎ)の業(わざ)にいそしむ
131政治(まつりごと)なさむと思(おも)へば真先(まつさき)に
132禊(みそぎ)の祓(はら)ひ勤(つと)むべきなり
133主(ス)の神(かみ)の恵(めぐ)みを忘(わす)れ吾(わが)力(ちから)に
134国(くに)治(をさ)むると誤(あやま)りてゐし
135誤(あやま)てる心(こころ)抱(いだ)きて政治(まつりごと)
136如何(いか)になすとも治(をさ)まるべしやは
137政治(まつりごと)は第一(だいいち)神(かみ)を祀(まつ)ることよ
138神(かみ)の御国(みくに)は神(かみ)の任意(まま)なり
139百(ひやく)日(にち)の禊(みそぎ)終(をは)れば村肝(むらきも)の
140心(こころ)改(あらた)めて王事(わうじ)に仕(つか)へむ
141言霊(ことたま)の剣(つるぎ)を右手(めて)に振(ふ)りかざし
142王(きみ)が政治(まつり)を補(たす)け奉(まつ)らむ
143滔々(たうたう)と流(なが)るる水(みづ)の瀬(せ)をはやみ
144行方(ゆくへ)を知(し)らぬ駒井(こまゐ)の川(かは)かな
145月光山(つきみつやま)峯(みね)より落(お)つる木々(きぎ)の葉(は)の
146露(つゆ)は集(つど)ひて川(かは)となりしか
147一(いち)人(にん)の露(つゆ)の力(ちから)も重(かさ)なれば
148末(すゑ)に誠(まこと)の川(かは)となるべし』
149 ターマンは歌(うた)ふ。
150『春霞(はるがすみ)棚引(たなび)きそむる谷間(たにあひ)に
151吾(われ)は謹(つつし)み禊(みそぎ)するかも
152巌(いは)を噛(か)み流(なが)るる水(みづ)の音(おと)高(たか)く
153生言霊(いくことたま)を非時(ときじく)歌(うた)ふ
154巌(いは)を打(う)つ速瀬(はやせ)の水(みづ)の響(ひびき)さへ
155心(こころ)にかかる国(くに)の行末(ゆくすゑ)
156王(きみ)思(おも)ひ国(くに)を思(おも)ひて月光(つきみつ)の
157山(やま)に朝夕(あさゆふ)詣(まう)でけるかな
158汚(けが)れたる吾(わが)身体(からたま)を主(ス)の神(かみ)の
159御前(みまへ)に運(はこ)ぶと思(おも)へば恐(おそ)ろし
160山(やま)は裂(さ)け海(うみ)はあせなむ世(よ)ありとも
161誠(まこと)の道(みち)は踏(ふ)み外(はづ)すまじ
162速川(はやかは)の水(みづ)に浸(ひた)れば自(おのづか)ら
163吾(わが)魂(たましひ)は清(きよ)まる心地(ここち)す
164主(ス)の神(かみ)の誠(まこと)の道(みち)をあゆめども
165禊(みそぎ)の業(わざ)は始(はじ)めなりけり
166天地(あめつち)の雲霧(くもきり)汚(けが)れも払(はら)ふべし
167禊(みそぎ)の道(みち)の功(いさを)ありせば』
168 かく神々(かみがみ)等(たち)は禊(みそぎ)に余念(よねん)なき折(をり)もあれ、169上流(じやうりう)より生命(いのち)を助(たす)けて呉(く)れいと死物狂(しにものぐる)ひに叫(さけ)びつつ半死(はんし)半生(はんしやう)の体(てい)となり、170彼方(あちら)此方(こちら)の巌(いは)に頭(あたま)を打(う)ちつけながら、171全身(ぜんしん)紅(あけ)に染(そ)みつつ流(なが)れ来(きた)る一人(ひとり)の男(をとこ)あり。172禊(みそぎ)に余念(よねん)なかりしアヅミ王(わう)は目(め)ざとくも打(う)ち見(み)やれば、173豈計(あにはか)らむや、174日頃(ひごろ)敵(てき)とねらひしエールス王(わう)の無残(むざん)なる姿(すがた)なりけるにぞ、175アヅミ王(わう)は吾(わが)身(み)の危険(きけん)を忘(わす)れて激流(げきりう)に飛(と)び込(こ)み、176半死(はんし)半生(はんしやう)のエールス王(わう)を脇(わき)に抱(かか)へ下流(かりう)の稍(やや)水瀬(みなせ)弱(よわ)き処(ところ)へ救(すく)ひ来(きた)り、177川(かは)の洲(す)へ救(すく)ひ上(あ)げ、178水(みづ)を吐(は)かせ種々(しゆじゆ)様々(さまざま)と介抱(かいはう)なしける。179シウランを始(はじ)めナーマン、180ターマン、181ムラジ姫(ひめ)も、182何人(なんびと)ならむと速瀬(はやせ)を横切(よこぎ)り近付(ちかづ)き見(み)れば、183吾(わが)本城(ほんじやう)を攻(せ)め落(おと)したるエールスなりければ、184怨(うら)みを晴(は)らし、185城(しろ)を取返(とりかへ)さむは此(こ)の時(とき)なりと集(あつま)り来(きた)り、186荒石(あらいし)を掴(つか)んで打(う)ち殺(ころ)さむといきまき居(ゐ)る。
187 ムラジ姫(ひめ)は声(こゑ)高(たか)らかに歌(うた)ふ。
188『我国(わがくに)に仇(あだ)を為(な)したるエールスの
189司(つかさ)の知死期(ちしご)心地(ここち)よきかな』
190 ナーマンは歌(うた)ふ。
191『吾(わが)王(きみ)を悩(なや)まし奉(まつ)りし仇(あだ)なれば
192神(かみ)の罰(きため)にあひしなるらむ
193今(いま)こそは天(てん)の与(あた)へよ首(くび)打(う)ちて
194イドムの城(しろ)を奪(うば)ひ還(かへ)さむ』
195 ターマンは歌(うた)ふ。
196『荒川(あらかは)に禊(みそぎ)なしたる報(むく)いにて
197仇(あだ)は吾手(わがて)に入(い)りにけるかも
198川(かは)の瀬(せ)の石(いし)を拾(ひろ)ひて此(こ)の仇(あだ)を
199打(う)ちて殺(ころ)さむ面白(おもしろ)きかな』
200 アヅミ王(わう)は右手(みぎて)を差(さ)し上(あ)げ、201空中(くうちう)を押(おさ)へる如(ごと)き体(てい)をしながら、
202『待(ま)て暫(しば)しエールス王(わう)も主(ス)の神(かみ)の
203貴(うづ)の御子(みこ)なりただに許(ゆる)せよ
204吾(わが)御霊(みたま)神(かみ)に離(はな)れし罪(つみ)なれば
205エールス王(わう)を怨(うら)むに及(およ)ばじ』
206 エールス王(わう)は稍(やや)正気付(しやうきづ)き、207四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)しながら、208アヅミ王(わう)の吾(わが)前(まへ)に立(た)ち介抱(かいはう)せるを見(み)て、209声(こゑ)高(たか)らかに笑(わら)ひ歌(うた)ふ。
210『吾(わが)生命(いのち)何故(なにゆゑ)ならば助(たす)けしぞ
211吾(わが)荒行(あらぎやう)をよぎらむとするか
212吾(われ)こそはエールス王(わう)よ腰(こし)弱(よわ)き
213汝(なれ)に救(すく)はれ顔(かほ)の立(た)つべき』
214 ムラジ姫(ひめ)は目(め)を釣(つ)り上(あ)げて歌(うた)ふ。
215『心(こころ)弱(よわ)き吾(わが)王(きみ)なるかもイドム城(じやう)
216奪(うば)ひし仇(あだ)を許(ゆる)し給(たま)ふか
217生命(いのち)をば救(すく)はれ彼(かれ)は逆(さか)しまに
218譏(そし)り散(ち)らせり許(ゆる)し給(たま)ふな』
219 アヅミ王(わう)は歌(うた)ふ。
220『悪(にく)らしと日頃(ひごろ)思(おも)ひし仇(あだ)ながら
221艱(なや)める見(み)れば助(たす)けたくなりぬ
222とに角(かく)に仇(あだ)の艱(なや)みにつけ入(い)りて
223報(むく)ゆる心(こころ)は愧(は)づべきものぞや
224堂々(だうだう)と表(おもて)に立(た)ちて戦(たたか)はむ
225されど吾(われ)等(ら)は弓矢(ゆみや)の要(えう)なし
226主(ス)の神(かみ)の生言霊(いくことたま)を振(ふ)りかざし
227仇(あだ)を言向(ことむ)け和(やは)さむと思(おも)ふ』
228 ナーマンは歌(うた)ふ。
229『吾(わが)王(きみ)の仰(おほ)せ宜(うべ)よと思(おも)へども
230悪(にく)き仇(あだ)をば許(ゆる)すべきやは
231玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)救(すく)はれ譏(そし)り言(ごと)
232吐(は)くこの仇(あだ)を如何(いか)で許(ゆる)さむ』
233 ターマンは歌(うた)ふ。
234『主(ス)の神(かみ)の悪(にく)しみに依(よ)りて玉(たま)の緒(を)の
235生命(いのち)危(あやふ)き汝(なれ)にあらずや
236救(すく)はれて荒(あら)き言葉(ことば)を吐(は)き散(ち)らす
237汝(なれ)は誠(まこと)の曲津(まがつ)神(かみ)なり
238いざさらば石(いし)もて打(う)たむエールスの
239玉(たま)の生命(いのち)の消(き)ゆる処(とこ)まで』
240 茲(ここ)にアヅミ王(わう)はエールス王(わう)の生命(いのち)を救(すく)へよと頻(しき)りに厳命(げんめい)すれども、241怨(うら)み骨髄(こつずい)に徹(てつ)したる他(た)の司(つかさ)等(たち)は、242この機会(きくわい)に打殺(うちころ)さむと四方(しはう)八方(はつぱう)より石(いし)を拾(ひろ)つて投(な)げつけければ、243不思議(ふしぎ)やエールスの姿(すがた)は水煙(みづけむり)となりて水中(すいちう)に消(き)えにける。244アヅミ王(わう)を始(はじ)め一行(いつかう)禊(みそぎ)の面々(めんめん)は此(こ)の体(てい)を見(み)て不思議(ふしぎ)の念(ねん)に堪(た)へやらず、245茫然(ばうぜん)として水中(すいちう)を見詰(みつ)めけるが、246胴(どう)の廻(まは)り七八丈(しちはちぢやう)もあらむかと思(おも)はるる蛟竜(かうりう)、247大口(おほぐち)を開(ひら)き紅(あか)き舌(した)を吐(は)き出(だ)しながら、248一行(いつかう)の頭上(づじやう)に鎌首(かまくび)を立(た)て、249一呑(ひとの)みにせむず勢(いきほひ)を示(しめ)しける。
250 茲(ここ)にアヅミ王(わう)は従容(しようよう)として少(すこ)しも騒(さわ)がず、251四(よ)人(にん)の狼狽(らうばい)せる姿(すがた)を静(しづ)かに眺(なが)めながら、
 
252『一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)』
 
253と歌(うた)ひ行(ゆ)くにつれ、254蛟竜(かうりう)の姿(すがた)は次第(しだい)々々(しだい)に細(ほそ)り行(ゆ)きて、255終(つひ)には小(ちひ)さき蠑螈(いもり)となり、256アヅミ王(わう)の足許(あしもと)に這(は)ひ寄(よ)り来(きた)る。257アヅミ王(わう)は蠑螈(いもり)を掌(てのひら)に載(の)せ、258再(ふたた)び天(あま)の数歌(かずうた)を宣(の)りければ、259掌(てのひら)よりシユーシユーと煙(けむり)立(た)ち昇(のぼ)り、260見(み)る見(み)る天(てん)に冲(ちう)し、261煙(けむり)の中(なか)より仄(ほの)かに見(み)ゆる竜(りう)の姿(すがた)以前(いぜん)に優(まさ)る巨体(きよたい)なりける。262何処(いづく)ともなく神(かみ)の声(こゑ)あり、263雷(いかづち)の如(ごと)く響(ひび)き来(きた)る。
264『美(うつく)しきアヅミの王(きみ)の魂(たましひ)を
265主(ス)の大神(おほかみ)は諾(うべな)ひ給(たま)へり
266汝(な)が心(こころ)清(きよ)まりぬれば百(ひやく)日(にち)の
267禊(みそぎ)は済(す)みぬはや帰(かへ)りませよ
268吾(われ)こそは高日(たかひ)の宮(みや)より天降(あも)りたる
269神鉾神(かみほこがみ)ぞ心(こころ)安(やす)かれ』
270 アヅミ王(わう)は恭(うやうや)しく歌(うた)ふ。
271『有難(ありがた)し吾(わが)魂(たましひ)をみそなはす
272神(かみ)の言葉(ことば)に蘇(よみがへ)りたり』
273 空中(くうちう)より再(ふたた)び神(かみ)の声あり。
274『高光(たかみつ)の山(やま)の尾(を)の上(へ)の神苑(かみぞの)に
275神鉾(かみほこ)の神(かみ)御霊(みたま)とどめむ
276アヅミ王(わう)は神(かみ)の御殿(みとの)に仕(つか)へつつ
277イドムの国(くに)の基(もとゐ)を定(さだ)めよ
278ムラジ姫(ひめ)の心(こころ)は未(いま)だ汚(けが)れたり
279百日(ももか)の禊(みそぎ)の功(いさを)は消(き)えたり
280シウランやナーマン、ターマン三柱(みはしら)の
281禊(みそぎ)は水(みづ)の泡(あわ)となりけり
282改(あらた)めて百日(ももか)の禊(みそぎ)に仕(つか)ふべし
283月光山(つきみつやま)は聖所(すがど)なりせば』
284 茲(ここ)にアヅミ王(わう)は三日(みつか)の禊(みそぎ)にて許(ゆる)され、285月光山(つきみつやま)の神殿(しんでん)に奉仕(ほうし)し、286国政(こくせい)を見(み)る事(こと)となり、287ムラジ姫(ひめ)以下(いか)は改(あらた)めて百日(ももか)百夜(ももよ)の荒行(あらぎやう)を命(めい)ぜられ、288月光山(つきみつやま)の神殿(しんでん)及(およ)び政務(せいむ)に仕(つか)ふることを許(ゆる)されにける。
289(昭和九・八・四 旧六・二四 於伊豆別院 森良仁謹録)
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