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霊界物語
天祥地瑞(第73~81巻)
第81巻(申の巻)
総説
第1篇 伊佐子の島
第1章 イドム戦
第2章 月光山
第3章 月見の池
第4章 遷座式
第5章 心の禊
第6章 月見の宴
第2篇 イドムの嵐
第7章 月音し
第8章 人魚の勝利
第9章 維新の叫び
第10章 復古運動
第3篇 木田山城
第11章 五月闇
第12章 木田山颪
第13章 思ひの掛川
第14章 鷺と烏
第15章 厚顔無恥
第4篇 猛獣思想
第16章 亀神の救ひ
第17章 再生再会
第18章 蠑螈の精
第19章 悪魔の滅亡
第20章 悔悟の花
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霊界物語
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天祥地瑞(第73~81巻)
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第81巻(申の巻)
> 第1篇 伊佐子の島 > 第6章 月見の宴
<<< 心の禊
(B)
(N)
月音し >>>
第六章
月見
(
つきみ
)
の
宴
(
えん
)
〔二〇三三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
篇:
第1篇 伊佐子の島
よみ(新仮名遣い):
いさごのしま
章:
第6章 月見の宴
よみ(新仮名遣い):
つきみのえん
通し章番号:
2033
口述日:
1934(昭和9)年08月05日(旧06月25日)
口述場所:
伊豆別院
筆録者:
谷前清子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
イドム国を手に入れたサール国王エールスは、風光明媚なイドム城に妃や重臣たちを集め、宴を開いていた。
述懐の歌を歌う中に、左守のチクターは、王を主の神と称え、重臣を高鉾・神鉾の天津神になぞらえて王を賞賛した。
右守のナーリスは左守の行き過ぎた言葉を戒めるが、逆に王の不興を買ってしまう。王は右守に、本国を守るように言いつけてサール国に帰し、厄介払いしてしまう。
忠臣でうるさがたの右守がいなくなった後は、左守チクター、軍師エーマンらの奸臣のみが残ることとなった。重臣たちは国務を忘れて、王、王妃とともに詩歌管弦・酒宴の歓楽にふけっていた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm8106
愛善世界社版:
八幡書店版:
第14輯 454頁
修補版:
校定版:
123頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
イドムの
城
(
しろ
)
は
風光
(
ふうくわう
)
絶佳
(
ぜつか
)
の
勝地
(
しようち
)
にして、
002
東北
(
とうほく
)
を
流
(
なが
)
るる
水乃川
(
みなのがは
)
は
大栄山
(
おほさかやま
)
の
溪々
(
たにだに
)
の
流
(
なが
)
れを
集
(
あつ
)
めて
川幅
(
かははば
)
広
(
ひろ
)
く
淙々
(
そうそう
)
たり。
003
サールの
国王
(
こくわう
)
エールスは、
004
大栄山
(
おほさかやま
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
え、
005
大兵
(
たいへい
)
を
率
(
ひき
)
ゐて
不意
(
ふい
)
にイドム
城
(
じやう
)
を
占領
(
せんりやう
)
し、
006
数多
(
あまた
)
の
従神
(
じうしん
)
と
共
(
とも
)
に
此処
(
ここ
)
に
住
(
す
)
みけるが、
007
大栄山
(
おほさかやま
)
北面
(
ほくめん
)
のサールの
国
(
くに
)
の
風光
(
ふうくわう
)
に
比
(
くら
)
べて
住
(
す
)
み
心地
(
ここち
)
よく、
008
春夏
(
しゆんか
)
秋冬
(
しうとう
)
恰
(
あたか
)
も
花園
(
はなぞの
)
に
住
(
す
)
む
心地
(
ここち
)
して、
009
地上
(
ちじやう
)
の
天国
(
てんごく
)
の
生活
(
せいくわつ
)
を
楽
(
たの
)
しみける。
010
月
(
つき
)
は
蒼空
(
あをぞら
)
に
皎々
(
かうかう
)
として
輝
(
かがや
)
き、
011
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
清
(
すが
)
しき
夕
(
ゆふ
)
べ、
012
水乃川
(
みなのがは
)
に
面
(
めん
)
せる
大殿
(
おほとの
)
の
窓
(
まど
)
を
押
(
お
)
し
開
(
ひら
)
き、
013
川
(
かは
)
の
面
(
おもて
)
を
瞰下
(
かんか
)
しながら、
014
軍師
(
ぐんし
)
を
初
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
、
015
右守
(
うもり
)
その
他
(
た
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
等
(
たち
)
と
月見
(
つきみ
)
の
宴
(
えん
)
を
開
(
ひら
)
き、
016
水乃川
(
みなのがは
)
の
水面
(
すゐめん
)
に
浮
(
うか
)
ぶ
月
(
つき
)
をほめながら、
017
恍惚
(
くわうこつ
)
として
美酒
(
びしゆ
)
美食
(
びしよく
)
にあきゐたりける。
018
エールス
王
(
わう
)
は
水乃川
(
みなのがは
)
の
夜
(
よる
)
の
流
(
なが
)
れを
見
(
み
)
やりながら
歌
(
うた
)
ふ。
019
『
北
(
きた
)
の
国
(
くに
)
サールの
都
(
みやこ
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でて
020
イドムの
城
(
しろ
)
に
吾
(
われ
)
は
酒
(
さけ
)
酌
(
く
)
む
021
春
(
はる
)
もよし
夏
(
なつ
)
も
亦
(
また
)
よし
秋
(
あき
)
もよし
022
イドムの
国
(
くに
)
は
地上
(
ちじやう
)
の
天国
(
てんごく
)
023
イドム
城
(
じやう
)
主
(
あるじ
)
アヅミを
追
(
お
)
ひ
散
(
ち
)
らし
024
武勇
(
ぶゆう
)
を
天下
(
てんか
)
に
現
(
あら
)
はしにけり
025
吾
(
わが
)
武勇
(
ぶゆう
)
伊佐子
(
いさご
)
の
島
(
しま
)
に
伝
(
つた
)
はりて
026
四方
(
よも
)
の
木草
(
きくさ
)
も
吾
(
われ
)
になびけり
027
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
にかかるは
月光
(
つきみつ
)
の
028
山
(
やま
)
にひそめるアヅミ
王
(
わう
)
なり
029
待
(
ま
)
て
暫
(
しば
)
し
百
(
もも
)
の
軍
(
いくさ
)
をととのへて
030
月光山
(
つきみつやま
)
の
砦
(
とりで
)
をはふらむ
031
真珠
(
しんじゆ
)
を
涙
(
なみだ
)
に
造
(
つく
)
る
真珠湖
(
しんじゆこ
)
の
032
人魚
(
にんぎよ
)
をとりてなぐさまむかな
033
水乃川
(
みなのがは
)
流
(
なが
)
るる
月日
(
つきひ
)
の
光
(
かげ
)
見
(
み
)
れば
034
真珠
(
しんじゆ
)
の
玉
(
たま
)
にさも
似
(
に
)
たるかな
035
山
(
やま
)
も
野
(
の
)
も
青
(
あを
)
く
清
(
すが
)
しく
鳥
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
036
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
冴
(
さ
)
ゆるイドムの
城
(
しろ
)
かも
037
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
楽
(
たの
)
しきものは
国
(
くに
)
ひろめ
038
戦
(
いくさ
)
の
道
(
みち
)
の
勝利
(
しようり
)
なりけり
039
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
伊佐子
(
いさご
)
の
島
(
しま
)
を
統
(
す
)
べ
守
(
まも
)
り
040
国津神
(
くにつかみ
)
等
(
ら
)
の
王
(
きみ
)
となりけり』
041
サツクス
姫
(
ひめ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
042
『
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
の
謀計
(
はかりごと
)
皆
(
みな
)
図
(
づ
)
に
当
(
あた
)
り
043
イドムの
城
(
しろ
)
は
吾手
(
わがて
)
に
入
(
い
)
れり
044
春夏
(
はるなつ
)
の
眺
(
なが
)
め
妙
(
たへ
)
なるこの
国
(
くに
)
の
045
主
(
あるじ
)
とならす
王
(
きみ
)
の
雄々
(
をを
)
しさ
046
アヅミ
王
(
わう
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
覚
(
さま
)
して
水乃川
(
みなのがは
)
に
047
静
(
しづ
)
かに
浮
(
うか
)
ぶ
月
(
つき
)
と
日
(
ひ
)
のかげ
048
魚族
(
うろくづ
)
の
遊
(
あそ
)
べる
様
(
さま
)
の
明
(
あき
)
らかに
049
この
高殿
(
たかどの
)
ゆ
見
(
み
)
ゆる
広川
(
ひろかは
)
050
真珠湖
(
しんじゆこ
)
の
人魚
(
にんぎよ
)
をとりてこの
川
(
かは
)
に
051
放
(
はな
)
ちて
見
(
み
)
れば
面白
(
おもしろ
)
かるらむ
052
さるにてもアヅミの
王
(
わう
)
は
必
(
かなら
)
ずや
053
イドムの
城
(
しろ
)
を
窺
(
うかが
)
ひゐるらむ
054
アヅミ
王
(
わう
)
の
砦
(
とりで
)
をはふり
月光
(
つきみつ
)
の
055
山
(
やま
)
を
追
(
お
)
はずば
心
(
こころ
)
もとなし
056
夜
(
よる
)
されば
枕
(
まくら
)
を
高
(
たか
)
く
安
(
やす
)
らかに
057
寝
(
いね
)
むと
思
(
おも
)
へばアヅミ
王
(
わう
)
を
滅
(
ほろ
)
ぼせ
058
豊
(
ゆた
)
かなるイドムの
国
(
くに
)
は
月光
(
つきみつ
)
の
059
山
(
やま
)
の
砦
(
とりで
)
に
黒雲
(
くろくも
)
迷
(
まよ
)
ふ
060
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
もさはやかに
照
(
て
)
るイドムの
国
(
くに
)
の
061
黒雲
(
くろくも
)
なるよ
月光山
(
つきみつやま
)
は』
062
左守
(
さもり
)
チクターは
歌
(
うた
)
ふ。
063
『
天ケ下
(
あめがした
)
の
風致
(
ふうち
)
にとめるイドム
城
(
じやう
)
に
064
王
(
きみ
)
と
酒
(
さけ
)
酌
(
く
)
む
今宵
(
こよひ
)
の
楽
(
たの
)
しさ
065
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
も
清
(
きよ
)
く
流
(
なが
)
るる
水乃川
(
みなのがは
)
066
瞰下
(
みおろ
)
すこれの
館
(
やかた
)
めでたき
067
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
も
真下
(
ました
)
を
流
(
なが
)
るるこの
城
(
しろ
)
は
068
紫微
(
しび
)
の
宮居
(
みやゐ
)
にまがふべらなる
069
紫微
(
しび
)
の
宮
(
みや
)
如何
(
いか
)
に
清
(
すが
)
しくありとても
070
イドムの
城
(
しろ
)
に
及
(
およ
)
ばざるべし
071
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
は
主
(
ス
)
の
大神
(
おほかみ
)
よ
左守
(
さもり
)
吾
(
われ
)
は
072
高鉾
(
たかほこ
)
の
神
(
かみ
)
右守
(
うもり
)
は
神鉾
(
かみほこ
)
073
主
(
ス
)
の
神
(
かみ
)
は
高鉾
(
たかほこ
)
神鉾
(
かみほこ
)
二柱
(
ふたはしら
)
074
従
(
したが
)
へイドムの
城
(
しろ
)
に
天降
(
あも
)
らせり
075
かかる
世
(
よ
)
にかかる
目出度
(
めでた
)
き
国
(
くに
)
を
得
(
え
)
て
076
四海
(
しかい
)
に
臨
(
のぞ
)
む
王
(
きみ
)
は
主
(
ス
)
の
神
(
かみ
)
』
077
右守
(
うもり
)
のナーリスは
歌
(
うた
)
ふ。
078
『
心得
(
こころえ
)
ぬ
左守
(
さもり
)
チクターの
言葉
(
ことば
)
かな
079
神
(
かみ
)
を
無視
(
なみ
)
せることの
恐
(
おそ
)
ろし
080
人
(
ひと
)
の
国
(
くに
)
力
(
ちから
)
に
奪
(
うば
)
ひほこらかに
081
神
(
かみ
)
に
擬
(
なぞら
)
ふは
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
きよ
082
主
(
ス
)
の
神
(
かみ
)
を
斎
(
いつ
)
き
奉
(
まつ
)
りて
朝夕
(
あさゆふ
)
に
083
仕
(
つか
)
へざりせば
国
(
くに
)
は
滅
(
ほろ
)
びむ
084
エールスの
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
始
(
はじ
)
めチクター
等
(
ら
)
085
心
(
こころ
)
かへずば
過
(
あやま
)
ちあらむ
086
吾
(
わが
)
言葉
(
ことば
)
諾
(
うべな
)
ひ
給
(
たま
)
ひて
今日
(
けふ
)
よりは
087
主
(
ス
)
の
大神
(
おほかみ
)
を
敬
(
うやま
)
ひ
給
(
たま
)
へ
088
王
(
きみ
)
の
手
(
て
)
にイドムの
城
(
しろ
)
は
入
(
い
)
りたれど
089
未
(
ま
)
だゑらぐべき
時
(
とき
)
は
来
(
きた
)
らじ
090
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
は
未
(
いま
)
だ
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
の
091
心
(
こころ
)
のままに
従
(
したが
)
はざるべし
092
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
の
威力
(
ゐりよく
)
に
服
(
ふく
)
したるのみぞ
093
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
服
(
まつろ
)
ひ
居
(
を
)
らじ
094
この
城
(
しろ
)
は
美
(
うつく
)
しけれど
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
の
095
恨
(
うらみ
)
の
的
(
まと
)
となりしを
知
(
し
)
らずや』
096
エールス
王
(
わう
)
は
憤然
(
ふんぜん
)
として
面色
(
かほいろ
)
を
変
(
か
)
へながら
歌
(
うた
)
ふ。
097
『ナーリスの
礼
(
ゐや
)
なき
言葉
(
ことば
)
聞
(
き
)
くにつけ
098
吾
(
わが
)
心持
(
こころもち
)
尖
(
とが
)
り
初
(
そ
)
めたり
099
大栄山
(
おほさかやま
)
の
嶮
(
けん
)
を
越
(
こ
)
えたる
吾
(
われ
)
なれば
100
汝
(
なれ
)
が
言葉
(
ことば
)
は
杞憂
(
きいう
)
なるべし
101
イドム
城
(
じやう
)
は
吾
(
われ
)
にかなへりとこしへに
102
これの
勝地
(
しようち
)
に
住
(
す
)
まむと
思
(
おも
)
ふ
103
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
にかかるは
故郷
(
ふるさと
)
の
104
サールの
国
(
くに
)
よ
吾子
(
わがこ
)
を
思
(
おも
)
へり
105
明日
(
あす
)
よりはサールの
国
(
くに
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
り
106
城
(
しろ
)
をかためて
固
(
かた
)
く
守
(
まも
)
れよ
107
諸々
(
もろもろ
)
の
司
(
つかさ
)
を
束
(
つか
)
ねナーリスは
108
サールの
国
(
くに
)
の
安
(
やす
)
きを
守
(
まも
)
れ
109
この
国
(
くに
)
は
左守
(
さもり
)
のチクター、エーマンの
110
軍師
(
ぐんし
)
のあれば
安
(
やす
)
けかるらむ』
111
右守
(
うもり
)
のナーリスは
歌
(
うた
)
ふ。
112
『
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
の
御言
(
みこと
)
畏
(
かしこ
)
み
今
(
いま
)
よりは
113
サールの
国
(
くに
)
に
急
(
いそ
)
ぎ
帰
(
かへ
)
らむ
114
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
よサツクス
姫
(
ひめ
)
よゆるみなく
115
イドムの
国
(
くに
)
に
臨
(
のぞ
)
ませ
給
(
たま
)
へ
116
王
(
きみ
)
の
威
(
ゐ
)
に
恐
(
おそ
)
れて
数多
(
あまた
)
の
司
(
つかさ
)
等
(
ら
)
は
117
心
(
こころ
)
ならずも
従
(
したが
)
ひ
居
(
ゐ
)
るぞや
118
すきあらば
百
(
もも
)
の
司
(
つかさ
)
は
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
119
王
(
きみ
)
を
襲
(
おそ
)
はむと
謀
(
はか
)
らひ
居
(
ゐ
)
るも
120
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
驕
(
おご
)
りて
思
(
おも
)
はざる
121
なやみに
遇
(
あ
)
はせ
給
(
たま
)
ふまじ
王
(
きみ
)
』
122
エーマンは
歌
(
うた
)
ふ。
123
『
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
の
軍
(
いくさ
)
を
率
(
ひき
)
ゐ
漸
(
やうや
)
くに
124
イドムの
国
(
くに
)
を
服
(
まつろ
)
へやはしぬ
125
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
と
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
軍略
(
ぐんりやく
)
に
126
イドムの
城
(
しろ
)
は
陥
(
おちい
)
りにけり
127
イドム
王
(
わう
)
アヅミの
臣
(
けらい
)
数多
(
かずおほ
)
く
128
ひそみてあれば
心
(
こころ
)
許
(
ゆる
)
せじ
129
さりながら
軍師
(
ぐんし
)
エーマンのある
限
(
かぎ
)
り
130
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
安
(
やす
)
く
穏
(
おだひ
)
にましませ
131
幾万
(
いくまん
)
の
敵
(
てき
)
の
一度
(
いちど
)
に
攻
(
せ
)
め
来
(
く
)
とも
132
吾
(
わが
)
戦略
(
せんりやく
)
に
討
(
う
)
ちこらし
見
(
み
)
む』
133
エールス
王
(
わう
)
は
欣然
(
きんぜん
)
として
歌
(
うた
)
ふ。
134
『エーマンの
言葉
(
ことば
)
吾意
(
わがい
)
にかなひたり
135
かたく
守
(
まも
)
れよイドムの
国
(
くに
)
を
136
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
なに
月
(
つき
)
の
流
(
なが
)
るる
水乃川
(
みなのがは
)
137
ながめて
吾
(
われ
)
は
酒
(
さけ
)
酌
(
く
)
まむかな』
138
サツクス
姫
(
ひめ
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
139
『エーマンの
厳
(
いづ
)
の
言霊
(
ことたま
)
勇
(
いさ
)
ましし
140
右守
(
うもり
)
の
心
(
こころ
)
と
裏表
(
うらおもて
)
なる
141
吾
(
あが
)
王
(
きみ
)
の
旨
(
むね
)
をそこなふナーリスは
142
国
(
くに
)
に
帰
(
かへ
)
りて
世
(
よ
)
を
固
(
かた
)
めよや』
143
ナーリスは
歌
(
うた
)
ふ。
144
『いざさらば
国
(
くに
)
に
帰
(
かへ
)
らむ
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
の
145
いますイドムの
城
(
しろ
)
を
離
(
はな
)
れて』
146
かくてナーリスはエールス
王
(
わう
)
始
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
に
暇
(
いとま
)
を
告
(
つ
)
げ、
147
月下
(
げつか
)
の
原野
(
げんや
)
を
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
従者
(
じうしや
)
と
共
(
とも
)
に
馬
(
うま
)
に
鞭
(
むち
)
うち、
148
大栄山
(
おほさかやま
)
の
頂
(
いただき
)
さしてサールの
故国
(
ここく
)
に
帰
(
かへ
)
らむと
急
(
いそ
)
ぎける。
149
エールス
王
(
わう
)
は
誠忠
(
せいちう
)
無比
(
むひ
)
なる
右守
(
うもり
)
のナーリスが
言葉
(
ことば
)
を
忌
(
い
)
み
嫌
(
きら
)
ひ、
150
チクターやエーマンの
奸佞
(
かんねい
)
邪智
(
じやち
)
なる
贋忠臣
(
にせちうしん
)
の
言葉
(
ことば
)
を
喜
(
よろこ
)
び、
151
常
(
つね
)
にナーリスに
対
(
たい
)
して
心中
(
しんちう
)
おだやかならざりけるが、
152
余
(
あま
)
り
住心地
(
すみごこち
)
よからぬサールの
国
(
くに
)
の
守
(
まも
)
りとして
右守
(
うもり
)
を
追
(
お
)
ひ
帰
(
かへ
)
し、
153
故国
(
ここく
)
を
守
(
まも
)
らしむることとなり、
154
右守
(
うもり
)
は
遠
(
とほ
)
く
膝下
(
ひざもと
)
を
離
(
はな
)
れ
大栄山
(
おほさかやま
)
を
越
(
こ
)
えて
帰
(
かへ
)
りければ、
155
王
(
わう
)
の
機嫌
(
きげん
)
はこの
上
(
うへ
)
なく、
156
昼夜
(
ちうや
)
の
区別
(
くべつ
)
なく
国内
(
こくない
)
の
美
(
うつく
)
しき
女神
(
めがみ
)
を
集
(
あつ
)
めて、
157
詩歌
(
しいか
)
管絃
(
くわんげん
)
の
快楽
(
けらく
)
に
耽
(
ふけ
)
る
事
(
こと
)
となりぬ。
158
軍師
(
ぐんし
)
のエーマンも、
159
左守
(
さもり
)
のチクターも、
160
共
(
とも
)
に
国務
(
こくむ
)
を
忘
(
わす
)
れて
歓楽
(
くわんらく
)
に
耽
(
ふけ
)
り、
161
恰
(
あだか
)
もイドム
城
(
じやう
)
は
青楼
(
せいろう
)
の
如
(
ごと
)
き
感
(
かん
)
を
呈
(
てい
)
しけり。
162
満月
(
まんげつ
)
の
空
(
そら
)
に
輝
(
かがや
)
く
夕
(
ゆふべ
)
、
163
エールス
王
(
わう
)
はサツクス
姫
(
ひめ
)
を
始
(
はじ
)
め、
164
左守
(
さもり
)
のチクター、
165
軍師
(
ぐんし
)
エーマンその
他
(
た
)
の
司
(
つかさ
)
を
一堂
(
いちだう
)
に
集
(
あつ
)
め、
166
数多
(
あまた
)
の
美人
(
びじん
)
に
酌
(
しやく
)
をさせながら
心地
(
ここち
)
よげに
歌
(
うた
)
ふ。
167
『
僕
(
ぼく
)
はサールの
都
(
みやこ
)
の
主
(
あるじ
)
168
今
(
いま
)
はイドムの
王
(
きみ
)
となる
169
月
(
つき
)
は
皎々
(
かうかう
)
青空
(
あをぞら
)
渡
(
わた
)
る
170
吾
(
われ
)
はいういう
酒
(
さけ
)
を
酌
(
く
)
む
171
月
(
つき
)
の
浮
(
う
)
かるる
水乃
(
みなの
)
の
川
(
かは
)
を
172
見
(
み
)
つつ
酒
(
さけ
)
酌
(
く
)
むイドム
城
(
じやう
)
173
右守
(
うもり
)
ナーリス
故国
(
ここく
)
へ
帰
(
かへ
)
し
174
胸
(
むね
)
の
雲霧
(
くもきり
)
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
る
175
伊佐子
(
いさご
)
島根
(
しまね
)
を
二
(
ふた
)
つに
横
(
よ
)
ぎる
176
大栄
(
おほさか
)
山脈
(
さんみやく
)
なけりやよい
177
山
(
やま
)
がなければサールが
見
(
み
)
える
178
サール
恋
(
こひ
)
しく
姫
(
ひめ
)
思
(
おも
)
ふ
179
国
(
くに
)
に
残
(
のこ
)
せし
七
(
しち
)
人
(
にん
)
をとめ
180
さぞや
待
(
ま
)
つだろ
歎
(
なげ
)
くだろ
181
あまた
臣
(
けらい
)
をサールに
残
(
のこ
)
し
182
吾
(
われ
)
はイドムの
城
(
しろ
)
に
住
(
す
)
む
183
空
(
そら
)
は
青々
(
あをあを
)
底
(
そこ
)
ひも
知
(
し
)
れぬ
184
星
(
ほし
)
の
真砂
(
まさご
)
のきらきらと
185
イドム
城址
(
じやうし
)
のアヅミの
王
(
わう
)
は
186
生命
(
いのち
)
からがら
月光山
(
つきみつやま
)
へ
187
月光山
(
つきみつやま
)
にはアヅミがこもる
188
どうで
一度
(
いちど
)
は
涙雨
(
なみだあめ
)
189
人魚
(
にんぎよ
)
棲
(
す
)
むてふ
真珠
(
しんじゆ
)
の
湖
(
うみ
)
へ
190
うかぶ
真珠
(
しんじゆ
)
の
月
(
つき
)
の
光
(
かげ
)
191
世
(
よ
)
にも
名高
(
なだか
)
きイドムの
城
(
しろ
)
も
192
今
(
いま
)
は
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
住
(
す
)
みどころ
193
伊佐子
(
いさご
)
島根
(
しまね
)
は
広
(
ひろ
)
しと
言
(
い
)
へど
194
おなじ
月日
(
つきひ
)
の
光
(
かげ
)
拝
(
をが
)
む』
195
と
頗
(
すこぶ
)
る
上機嫌
(
じやうきげん
)
である。
196
サツクス
姫
(
ひめ
)
は
又
(
また
)
歌
(
うた
)
ふ。
197
『
真珠
(
しんじゆ
)
湖水
(
こすゐ
)
の
人魚
(
にんぎよ
)
をとりて
198
真珠
(
しんじゆ
)
吐
(
は
)
かして
遊
(
あそ
)
びたい
199
望
(
もち
)
の
月
(
つき
)
照
(
て
)
るこの
高殿
(
たかどの
)
に
200
真珠
(
しんじゆ
)
みたよな
星
(
ほし
)
が
照
(
て
)
る
201
月
(
つき
)
は
追
(
お
)
ひ
追
(
お
)
ひ
御空
(
みそら
)
を
高
(
たか
)
く
202
昇
(
のぼ
)
り
昇
(
のぼ
)
りて
夜
(
よ
)
が
更
(
ふ
)
ける
203
水乃川
(
みなのがは
)
の
河鹿
(
かじか
)
の
声
(
こゑ
)
は
204
王
(
きみ
)
の
威勢
(
ゐせい
)
をうたふてる
205
王
(
きみ
)
の
威勢
(
ゐせい
)
にイドムの
城
(
しろ
)
は
206
陥
(
お
)
ちて
涼
(
すず
)
しき
月
(
つき
)
が
照
(
て
)
る
207
野辺
(
のべ
)
を
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
夏夜
(
なつよ
)
の
風
(
かぜ
)
に
208
のりて
出
(
い
)
で
来
(
く
)
る
虫
(
むし
)
の
声
(
こゑ
)
209
花
(
はな
)
の
香
(
かを
)
りは
吹
(
ふ
)
く
夏風
(
なつかぜ
)
に
210
城
(
しろ
)
の
中
(
なか
)
まで
吹
(
ふ
)
いて
来
(
く
)
る
211
春
(
はる
)
は
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
き
夏
(
なつ
)
さり
来
(
く
)
れば
212
月
(
つき
)
の
澄
(
す
)
みきるイドム
城
(
じやう
)
213
月
(
つき
)
の
流
(
なが
)
るる
水乃
(
みなの
)
の
川
(
かは
)
は
214
朝
(
あした
)
夕
(
ゆふ
)
べに
虫
(
むし
)
が
啼
(
な
)
く
215
清
(
きよ
)
き
流
(
なが
)
れの
水乃
(
みなの
)
の
川
(
かは
)
は
216
いく
日
(
ひ
)
見
(
み
)
るともあきはせぬ
217
秋
(
あき
)
の
月夜
(
つきよ
)
の
水乃
(
みなの
)
の
川
(
かは
)
は
218
さぞや
涼
(
すず
)
しかろ
清
(
すが
)
しかろ』
219
左守
(
さもり
)
のチクターは
歌
(
うた
)
ふ。
220
『
王
(
きみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
の
御光
(
みひか
)
り
受
(
う
)
けて
221
今日
(
けふ
)
はイドムの
月
(
つき
)
を
観
(
み
)
る
222
山
(
やま
)
は
大栄
(
おほさか
)
流
(
なが
)
れは
水乃
(
みなの
)
223
城
(
しろ
)
はイドムよ
空
(
そら
)
に
月
(
つき
)
224
月
(
つき
)
は
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
東
(
ひがし
)
の
山
(
やま
)
を
225
雲
(
くも
)
が
悋気
(
りんき
)
で
影
(
かげ
)
かくす
226
十重
(
とへ
)
に
二十重
(
はたへ
)
に
包
(
つつ
)
める
雲
(
くも
)
を
227
分
(
わ
)
けてのぞいた
月
(
つき
)
の
顔
(
かほ
)
228
雲
(
くも
)
のとばりをそと
引
(
ひ
)
き
開
(
あ
)
けて
229
月
(
つき
)
がのぞいたイドム
城
(
じやう
)
230
水
(
みづ
)
は
淙々
(
そうそう
)
常磐
(
ときは
)
の
流
(
なが
)
れ
231
王
(
きみ
)
は
隆々
(
りうりう
)
世
(
よ
)
を
治
(
し
)
らす
232
この
世
(
よ
)
からなる
天国住
(
てんごくずま
)
ひ
233
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
かおもしろや
234
日頃
(
ひごろ
)
企画
(
たくみ
)
し
思
(
おも
)
ひは
晴
(
は
)
れて
235
今
(
いま
)
はイドムの
城
(
しろ
)
に
住
(
す
)
む
236
虫
(
むし
)
の
啼
(
な
)
く
音
(
ね
)
も
小鳥
(
ことり
)
の
声
(
こゑ
)
も
237
王
(
きみ
)
の
千歳
(
ちとせ
)
を
歌
(
うた
)
ふてる
238
姿
(
すがた
)
清
(
すが
)
しきサツクス
姫
(
ひめ
)
の
239
花
(
はな
)
の
顔
(
かむばせ
)
月
(
つき
)
が
照
(
て
)
る
240
花
(
はな
)
は
桜
(
さくら
)
か
牡丹
(
ぼたん
)
か
百合
(
ゆり
)
か
241
王
(
きみ
)
の
御側
(
みそば
)
の
花
(
はな
)
がよい
242
蝉
(
せみ
)
のなく
音
(
ね
)
も
河鹿
(
かじか
)
の
声
(
こゑ
)
も
243
今日
(
けふ
)
のお
酒
(
さけ
)
の
肴
(
さかな
)
ぞや』
244
エーマンは
歌
(
うた
)
ふ。
245
『
右守
(
うもり
)
ナーリス、サールに
帰
(
かへ
)
り
246
今
(
いま
)
は
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
鬼
(
おに
)
はない
247
右守司
(
うもりつかさ
)
の
日頃
(
ひごろ
)
の
言葉
(
ことば
)
248
いつも
私
(
わたし
)
の
癪
(
しやく
)
となる
249
雲
(
くも
)
を
払
(
はら
)
ふたイドムの
城
(
しろ
)
は
250
晴
(
は
)
れて
清
(
すが
)
しき
秋
(
あき
)
の
月
(
つき
)
251
月
(
つき
)
は
御空
(
みそら
)
を
水乃
(
みなの
)
の
川
(
かは
)
に
252
清
(
きよ
)
く
清
(
すが
)
しく
冴
(
さ
)
え
渡
(
わた
)
る
253
上
(
うへ
)
と
下
(
した
)
とに
月影
(
つきかげ
)
ながめ
254
王
(
きみ
)
の
御側
(
みそば
)
で
酒
(
さけ
)
を
酌
(
く
)
む
255
戦争
(
いくさ
)
するより
働
(
はたら
)
くよりも
256
月
(
つき
)
に
酒
(
さけ
)
酌
(
く
)
むおもしろさ
257
死
(
し
)
んで
花身
(
はなみ
)
が
咲
(
さ
)
かぬと
聞
(
き
)
けば
258
生
(
い
)
きて
物言
(
ものい
)
ふ
花
(
はな
)
に
酔
(
よ
)
ふ
259
宵
(
よひ
)
の
月光
(
つきかげ
)
ながめて
酒
(
さけ
)
に
260
酔
(
よ
)
ふてよいよい
夜
(
よる
)
の
花
(
はな
)
261
夜
(
よる
)
の
花
(
はな
)
をば
手折
(
たを
)
りてここに
262
天津
(
あまつ
)
御国
(
みくに
)
の
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ふ
263
空
(
そら
)
に
聳
(
そび
)
ゆる
大栄山
(
おほさかやま
)
の
264
上
(
うへ
)
に
湧
(
わ
)
き
立
(
た
)
つ
雲
(
くも
)
の
峰
(
みね
)
265
ながめゐる
間
(
ま
)
に
姿
(
すがた
)
の
変
(
かは
)
る
266
雲
(
くも
)
の
峰
(
みね
)
かよ
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
267
酒
(
さけ
)
と
物言
(
ものい
)
ふ
花
(
はな
)
さへあれば
268
たとへお
城
(
しろ
)
は
滅
(
ほろ
)
ぶとも
269
アヅミ、ムラジの
住
(
すま
)
ひし
城
(
しろ
)
に
270
月
(
つき
)
を
見
(
み
)
ながら
酒
(
さけ
)
びたり』
271
エールス
王
(
わう
)
は
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
272
エーマンをしつかと
睨
(
にら
)
み、
273
酔眼
(
すいがん
)
朦朧
(
もうろう
)
として
歌
(
うた
)
ふ。
274
『エーマンの
言葉
(
ことば
)
礼
(
ゐや
)
なしこの
城
(
しろ
)
の
275
滅
(
ほろ
)
ぶと
言
(
い
)
ひしそのたはごとは
276
とこしへに
栄
(
さかえ
)
あれよと
祈
(
いの
)
るこそ
277
汝
(
なれ
)
が
日頃
(
ひごろ
)
の
務
(
つと
)
めならずや
278
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
き
心
(
こころ
)
を
持
(
も
)
ちて
吾
(
わが
)
軍
(
ぐん
)
の
279
司
(
つかさ
)
とするは
危
(
あやふ
)
かるべし』
280
エーマンは
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る
歌
(
うた
)
ふ。
281
『
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
よ
許
(
ゆる
)
し
給
(
たま
)
はれ
吾
(
わが
)
宣
(
の
)
りし
282
言葉
(
ことば
)
は
酒
(
さけ
)
の
戯言
(
たはごと
)
なりしよ
283
酒
(
さけ
)
と
言
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
に
心
(
こころ
)
を
奪
(
うば
)
はれて
284
あらぬ
事
(
こと
)
をば
口走
(
くちばし
)
りつつ
285
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
の
御代
(
みよ
)
安
(
やす
)
かれと
朝夕
(
あさゆふ
)
に
286
戦争
(
いくさ
)
の
業
(
わざ
)
をはげむ
吾
(
われ
)
なり
287
願
(
ねが
)
はくば
広
(
ひろ
)
き
心
(
こころ
)
に
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
し
288
許
(
ゆる
)
させ
給
(
たま
)
へ
礼
(
ゐや
)
なき
言葉
(
ことば
)
を』
289
サツクス
姫
(
ひめ
)
は
仲
(
なか
)
をとりて
歌
(
うた
)
ふ。
290
『
吾
(
わが
)
王
(
きみ
)
にこひのみ
申
(
まう
)
すエーマンが
291
礼
(
ゐや
)
なき
言葉
(
ことば
)
を
許
(
ゆる
)
し
給
(
たま
)
はれ
292
エーマンは
酒癖
(
さけぐせ
)
悪
(
わる
)
き
男
(
をとこ
)
故
(
ゆゑ
)
293
心
(
こころ
)
にもなきことを
吐
(
は
)
くなり
294
エーマンの
清
(
きよ
)
き
心
(
こころ
)
は
予
(
かね
)
て
知
(
し
)
る
295
吾
(
わが
)
言
(
こと
)
わけを
許
(
ゆる
)
しませ
王
(
きみ
)
』
296
さしも
賑
(
にぎ
)
はひたる
月見
(
つきみ
)
の
宴席
(
えんせき
)
は、
297
エーマンの
脱線歌
(
だつせんか
)
にエールス
王
(
わう
)
の
憤激
(
ふんげき
)
となり、
298
一座
(
いちざ
)
は
興
(
きよう
)
ざめ、
299
しらけ
切
(
き
)
つたるまま
夜
(
よ
)
は
深々
(
しんしん
)
と
更
(
ふ
)
けわたり、
300
宴席
(
えんせき
)
は
閉
(
と
)
ぢられにける。
301
さりながらエールス
王
(
わう
)
の
怒
(
いか
)
りは
漸
(
やうや
)
くにとけ、
302
エーマンは
何
(
なん
)
の
咎
(
とが
)
めもなく、
303
元
(
もと
)
の
軍師
(
ぐんし
)
の
職
(
しよく
)
に
異動
(
いどう
)
なかりける。
304
(
昭和九・八・五
旧六・二五
於伊豆別院
谷前清子
謹録)
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(N)
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