荘厳な宮居が完成し、修祓を終わったアヅミ王は恭しく神殿に登って祓いの儀式を行った。そして、遷宮式の祝詞を奏上した。
主の大御神、高鉾の神、神鉾の神の前に畏まり奏上するに、敵に攻められイドム城を失ったのは、先祖の志を軽んじ、大神の御恵みを忘れてほしいままな政を行ってきた罪であると悟りました。。
ここに心を改めて、月光山のいただきに大宮柱太敷き立てて主の大神の大御霊をお迎えすることにいたしました。
ついては、月光山を益々栄えしめたまいて、イドムの城を奪還せしめ給うよう願い、そのあかつきには、上下ともに心の驕りを戒めて、大神の大御心にかなうよう誓い奉ります。
この神殿に天降りまして、イドムの国とともに、サールの国までもことごとく、大御神の御恵みに潤いますよう、直く正しき心を持ちますよう、お願い申し上げます。
そして伊左子島の安泰を祈願する歌を歌った。王妃、大臣たちもそれぞれ前非を悔い、心を新たにする決意を神前に歌った。
すると突然殿内が鳴動し、地鳴り、振動が激しく起こった。アヅミ王は畏れかしこみ、罪を悔いる歌を歌った。
すると、神前に三柱の天津神が現れた。一柱は主の大神と見えて、お姿は光に包まれてわずかに御影を拝することができるばかりであった。白衣をまとい、右手におのおの鉾を持った神は、まぎれもなく高鉾の神・神鉾の神であった。
一同は神々の降臨にひれ伏し、感謝と喜びにただうずくまっていた。アヅミ王はおそるおそる奏上し、イドム城を奪ったサール国の国津神を「醜神(しこがみ)、鬼」と呼び、彼らをイドム城から追い払って下さるよう、神々にお願いした。
高鉾の神・神鉾の神は、醜神はアヅミ王をはじめとするイドム国の国津神たちの心の中に潜んでいるのであり、鬼は自らの心が生んだものであると託宣した。そして、誠の力は「真言」であると諭した。
そして三柱の神々は御姿を隠してしまった。再び天地が振動すると大空の雲が左右に分かれ、虹のような天の浮橋がかかると、三柱の神々の荘厳な姿をほのかに仰ぎ見ることができるのみであった。
アヅミ王は謹みの色をあらわにし、サール国のエールス王に国を奪われたのも、すべてイドム国の国津神の御魂の罪であることを粛然として悟った。一同は、イドムの国津神の罪が深いために、神殿に大御神が鎮まることかなわないことを悟り、百日の禊を決意した。
そしておのおの述懐の歌を歌いながら神前に感謝の祝詞を捧げ、神殿を後にして月光山城内に帰って行った。