霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 再生(さいせい)再会(さいくわい)〔二〇四四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻 篇:第4篇 猛獣思想 よみ(新仮名遣い):もうじゅうしそう
章:第17章 再生再会 よみ(新仮名遣い):さいせいさいかい 通し章番号:2044
口述日:1934(昭和9)年08月15日(旧07月6日) 口述場所:水明閣 筆録者:林弥生 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
偽チンリウ姫を見破り、宴席でそのことを歌にほのめかした従臣の朝月は、はるか孤島の荒島に島流しにされてしまった。
絶海の孤島で、朝月は魚貝を採りつつ飢えをしのぎ、海原を眺めながら述懐の歌を歌っていた。
朝月は述懐の歌に、アララギ・センリウの姦計に陥った故国を憂い、また昨日の夢に不思議にも、命を奪われたかと思われたチンリウ姫が海亀に助けられて無事にイドム国にたどり着いたことを思い返して、神の恵みを祈っていた。
すると、チンリウ姫を救った神亀が荒島の波打ち際にぽかりと姿を現し、朝月を招くかのように首を上下に振りはじめた。朝月は、これぞ琴平別命の化身の救いと喜び、神亀の背中に飛び乗った。亀は朝月を背に乗せると、南へ南へとまっしぐらに進んで行く。
朝月が神亀に感謝の歌を歌ううちに、一日かけて神亀は、イドム国の真砂の浜辺に朝月を送り届けた。
亀に感謝の別れを告げた後、朝月が古木の茂る森に分け入って行くと、小さな小屋があり、そこからはかすかに女性の歌声が聞こえてきた。それは、チンリウ姫の述懐の歌であった。
朝月は自ら名乗ってチンリウ姫に目通りを申し出るが、姫は朝月がこのような場所にいるはずがないことを疑って警戒した。またもし本物だったとしても、朝月も自分とエームス王子の結婚を計った悪人の一人であると非難した。
朝月は、チンリウ姫が島流しにあった後、アララギ・センリウの企みを公の場で暴こうとしたために自分も島流しにあい、神亀に救われた経緯をチンリウ姫に訴え、忠誠を誓った。
チンリウ姫はようやく朝月に心を許し、朝月は姫に仕えてしばらく森の中で時を待つこととなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4213 OBC :rm8117
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 520頁 修補版: 校定版:363頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 エームス王(わう)の妃(きさき)チンリウ姫(ひめ)は贋物(にせもの)である。002其(そ)の実(じつ)は、003侍女(じぢよ)のセンリウ女(ぢよ)がアララギと腹(はら)を合(あは)せ、004エームス王(わう)始(はじ)め数多(あまた)の重臣(ぢうしん)どもを籠絡(ろうらく)してゐることを覚(さと)つた朝月(あさづき)は、005宴会(えんくわい)の席(せき)に於(おい)て其(そ)の事(こと)をほのめかしたので、006忽(たちま)ちアララギ、007センリウ等(ら)の激怒(げきど)をかひ、008即座(そくざ)に重罪(ぢゆうざい)に処(しよ)せられ、009海洋(かいやう)万里(ばんり)の荒浪(あらなみ)にただよふ荒島(あらしま)に流(なが)された。010朝月(あさづき)は、011慷慨(かうがい)悲憤(ひふん)のあまり述懐(じゆつくわい)を歌(うた)ふ。
012 潮(しほ)のひびきは滔々(たうたう)と岩間(いはま)に木霊(こだま)し、013寄(よ)せ来(く)る浪(なみ)は白馬(はくば)の鬣(たてがみ)を打(う)ちふり、014岸辺(きしべ)の岩石(がんせき)にかみつく如(ごと)き物凄(ものすさま)じき光景(くわうけい)なりけり。015朝月(あさづき)はこの島(しま)の王者然(わうじやぜん)として貝(かひ)などを採集(さいしふ)し、016餓(うゑ)を凌(しの)ぎつつ運(うん)を天(てん)に任(まか)せながら縹渺(へうべう)たる海原(うなばら)を眺(なが)めて歌(うた)ふ。
017『仰(あふ)げば高(たか)し久方(ひさかた)の
018雲井(くもゐ)の空(そら)は果(は)てもなく
019青(あを)に解(と)け入(い)る吾(わが)みたま
020ふくれふくれて月(つき)となり
021又(また)別(わか)れては星(ほし)となり
022極(きは)みも知(し)らぬ大宇宙(だいうちう)
023わが物顔(ものがほ)に渡(わた)りゆく
024われは朝月(あさづき)のかげなれや
025波(なみ)を分(わ)けつつ昇(のぼ)りゆく
026朝日(あさひ)の光(かげ)に照(て)らされて
027昼(ひる)は姿(すがた)をかくせども
028夜(よる)さり来(く)れば夕月(ゆふづき)の
029光(かげ)はきらきら波間(なみま)を照(て)らし
030千尋(ちひろ)の海(うみ)の底(そこ)ひには
031清(きよ)く澄(す)みきる夕月(ゆふづき)や
032朝(あした)の月(つき)のゆらゆらに
033波(なみ)にたゆたふ雄々(をを)しさよ
034伊佐子(いさご)の島(しま)を後(あと)にして
035千重(ちへ)の荒浪(あらなみ)渡(わた)りつつ
036独木(まるき)の舟(ふね)に来(き)て見(み)れば
037音(おと)に名高(なだか)き荒島(あらしま)は
038ただ一本(いつぽん)の木(き)も草(くさ)も
039荒風浪(あらかぜなみ)に吹(ふ)かれつつ
040生(お)ふるひまなき岩(いは)の島(しま)
041堅磐(かきは)常磐(ときは)に海中(わだなか)に
042浮(うか)ぶも雄々(をを)しこの島根(しまね)
043朝月(あさづき)はここに流(なが)されて
044世塵(せぢん)を知(し)らず安々(やすやす)と
045堅磐(かきは)常磐(ときは)に栄(さか)ゆなり
046荒浪(あらなみ)如何(いか)に猛(たけ)るとも
047暑(あつ)さ寒(さむ)さは襲(おそ)ふとも
048何(なに)か恐(おそ)れむ大丈夫(ますらを)が
049弥猛心(やたけごころ)をくじくべき
050ああ面白(おもしろ)や面白(おもしろ)や
051この荒島(あらしま)は広(ひろ)ければ
052永久(とは)の住家(すみか)と定(さだ)めつつ
053百(もも)の魚族(うろくづ)友(とも)として
054竜宮(りうぐう)の王(わう)とうたはれむ
055さはさりながらあはれなるかな
056チンリウ姫(ひめ)は曲者(くせもの)の
057奸計(たくみ)の罠(わな)に陥(おちい)りて
058似(に)ても似(に)つかぬ替玉(かへだま)の
059センリウ侍女(じぢよ)と強(し)ひられて
060思(おも)はぬ罪(つみ)をかぶせられ
061隠(かくれ)の島(しま)に流(なが)されし
062其(そ)の憐(あは)れさの身(み)に迫(せま)り
063木田山(きたやま)城(じやう)に開(ひら)かれし
064祝賀(しゆくが)の宴(えん)に出席(しゆつせき)し
065うち出(いだ)したる言霊(ことたま)の
066激(はげ)しき矢玉(やだま)に怖(お)ぢおそれ
067心(こころ)きたなきアララギは
068わが言(こと)の葉(は)をさへぎりつ
069疑惑(ぎわく)の罪(つみ)と強(し)ひながら
070恋(こひ)に狂(くる)へる若王(わかぎみ)や
071娘(むすめ)のセンリウ女(ぢよ)とともに
072わが身(み)を憎(にく)める其(そ)のあまり
073高手(たかて)や小手(こて)にいましめて
074この荒島(あらしま)に流(なが)したり
075われは大丈夫(ますらを)覚悟(かくご)はすれど
076隙間(すきま)の風(かぜ)にもあてられず
077宮中(きうちう)深(ふか)く育(そだ)ちたる
078チンリウ姫(ひめ)を魔(ま)の島(しま)に
079流(なが)したるこそ憎(にく)らしき
080さはさりながら魔(ま)の島(しま)の
081名(な)を負(お)ふ隠(かくれ)の島ケ根(しまがね)は
082夕(ゆふ)さり来(く)れば荒浪(あらなみ)に
083全島(ぜんたう)姿(すがた)をかくすなる
084危険(きけん)の島(しま)に捨(す)てたるは
085姫(ひめ)が生命(いのち)をとらむ為(ため)の
086アララギどもの謀計(はかりごと)
087思(おも)へば思(おも)へば憎(にく)らしや
088今(いま)となりては
089泣(な)けど悔(くや)めど姫君(ひめぎみ)の
090姿(すがた)は最早(もはや)荒浪(あらなみ)の
091腹(はら)に呑(の)まれて影(かげ)もなし
092神(かみ)の恵(めぐみ)の幸(さち)はひて
093若(も)しも此(こ)の世(よ)に在(おは)すならば
094水底(みそこ)を潜(くぐ)りてこの島(しま)に
095来(きた)らせ給(たま)へ惟神(かむながら)
096天地(てんち)の神(かみ)に願(ね)ぎまつる
097ああされど
098不思議(ふしぎ)なるかな
099昨夜(ゆふべ)の夢(ゆめ)にチンリウ姫(ひめ)は
100亀(かめ)の背中(せなか)に乗(の)せられて
101とある磯辺(いそべ)にたどりつき
102茂樹(しげき)の森(もり)にささやけき
103庵(いほり)を造(つく)りて住(す)み給(たま)ふ
104夢(ゆめ)か現(うつつ)か幻(まぼろし)か
105心(こころ)にかかるは姫(ひめ)の上(うへ)
106完全(うまら)に委曲(つばら)に御在処(みありか)を
107知(し)らむと思(おも)へど是非(ぜひ)もなし
108ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
109恩頼(みたまのふゆ)を賜(たま)へかし。
110天(てん)青(あを)く海原(うなばら)青(あを)きこの島(しま)に
111姫(ひめ)を偲(しの)びて青息(あをいき)つくも
112伊佐子(いさご)島(じま)遠(とほ)く離(さか)れる荒島(あらしま)に
113一人(ひとり)住(す)む身(み)は淋(さび)しかりけり
114さりながら世(よ)の憂(う)さごとを聞(き)かずして
115一人(ひとり)楽(たの)しき今日(けふ)のわれなり
116木田山(きたやま)の城(しろ)は間(ま)もなく滅(ほろ)ぶべし
117アララギ母子(おやこ)の暴虐(ぼうぎやく)の手(て)に
118チンリウ姫(ひめ)隠(かくれ)の島(しま)に流(なが)されて
119水泡(みなわ)と消(き)えしは果敢(はか)なかりけり
120さりながら姫(ひめ)は生命(いのち)を保(たも)たすと
121われは聞(き)けるも夢(ゆめ)の枕(まくら)に
122悪人(あくにん)の栄(さか)えて善人(ぜんにん)の亡(ほろ)ぶべき
123例(ためし)は神代(かみよ)にあらじとぞ思(おも)ふ
124憎(にく)みても余(あま)りありけりアララギの
125いやしき心(こころ)に出(い)でし曲業(まがわざ)』
126 斯(か)く歌(うた)ふ折(をり)しも、127チンリウ姫(ひめ)を真砂(まさご)の浜(はま)に送(おく)りとどけたる巨大(きよだい)なる神亀(しんき)は、128波打(なみう)ち際(ぎは)にボカリと浮(う)き上(あが)り、129頸(くび)を上下(じやうげ)に振(ふ)りながら朝月(あさづき)を招(まね)くものの如(ごと)く見(み)えける。130朝月(あさづき)はこれぞ全(まつた)く海(うみ)の守護神(しゆごじん)琴平別(ことひらわけの)命(みこと)の化身(けしん)ぞと勇(いさ)み喜(よろこ)び、131直(ただち)に丘(をか)を下(くだ)りて汀辺(みぎはべ)に走(はし)りつき、
132『有難(ありがた)し琴平別(ことひらわけ)の御(おん)迎(むか)へ
133伊佐子(いさご)の島(しま)に送(おく)らせ給(たま)へ』
134と、135合掌(がつしやう)しながら神亀(しんき)の背(せ)に飛(と)び乗(の)れば、136亀(かめ)は波上(はじやう)に大(だい)なる頭(あたま)をもたげ、137南(みなみ)へ南(みなみ)へと波(なみ)をかきわけながら、138まつしぐらに進(すす)みゆく。
139 朝月(あさづき)は歌(うた)ふ。
140『有難(ありがた)し天地(てんち)の神(かみ)の御恵(みめぐみ)に
141琴平別(ことひらわけ)は現(あ)れましにけり
142一本(いつぽん)の草(くさ)も木(き)もなき荒島(あらしま)に
143われは淋(さび)しく暮(くら)し居(ゐ)たるを
144琴平別(ことひらわけ)神(かみ)の化身(けしん)に救(すく)はれて
145千重(ちへ)の波路(なみぢ)を渡(わた)らふ今日(けふ)かな
146大栄(おほさか)の山(やま)は雲間(くもま)に霞(かす)みつつ
147天津(あまつ)日(ひ)のかげ朧(おぼろ)に見(み)ゆるも
148北(きた)を吹(ふ)く風(かぜ)に送(おく)られわれは今(いま)
149神亀(しんき)の背(せな)に乗(の)りて帰(かへ)るも
150チンリウ姫(ひめ)もわれと同(おな)じくこの亀(かめ)に
151救(すく)はれにけむ聞(き)かまほしさよ』
152 斯(か)く歌(うた)ひつつ、153亀(かめ)のゆくままに任(まか)せ居(ゐ)たりしが翌日(あくるひ)の暁頃(あかつきごろ)、154空(そら)に朝月(あさづき)白(しら)けて、155海風(うなかぜ)徐(おもむろ)に袖(そで)を吹(ふ)く頃(ころ)、156真砂(まさご)の浜辺(はまべ)に着(つ)きにける。
157 朝月(あさづき)は、158亀(かめ)の背(せ)より汀(みぎは)に飛(と)び下(お)り、159神亀(しんき)に向(むか)つて合掌(がつしやう)しながら歌(うた)ふ。
160『波(なみ)荒(あら)き孤島(こたう)になげきし朝月(あさづき)も
161汝(なれ)の功(いさを)に救(すく)はれにけり
162何時(いつ)までも汝(なれ)の恵(めぐ)みは忘(わす)れまじ
163わが歎(なげ)かひはまたく晴(は)れけり
164東北(とうほく)の空(そら)に霞(かす)める高山(たかやま)は
165大栄山(おほさかやま)かなつかしき山(やま)
166この聖所(すがど)イドムの国(くに)の浜(はま)ならむ
167大栄山(おほさかやま)の北(きた)に見(み)ゆれば』
168 ここに朝月(あさづき)は亀(かめ)に感謝(かんしや)し、169別(わか)れを告(つ)げて汀(みぎは)の真砂(まさご)をザクザクふみならしながら、170遥(はる)か前方(ぜんぱう)にこんもりと古木(こぼく)の茂(しげ)りたる茂樹(しげき)の森(もり)を目当(めあて)に辿(たど)り行(ゆ)く。
171 朝月(あさづき)は只一人(ただひとり)、172茂樹(しげき)の森(もり)かげをあてどもなく辿(たど)り行(ゆ)くにぞ、173目立(めだ)ちて太(ふと)き槻(つき)の根元(ねもと)に萱(かや)を以(もつ)て結(むす)びたる矮屋(わいをく)をみとめ、174足音(あしおと)を忍(しの)ばせ近(ちか)より、175中(なか)の様子(やうす)を窺(うかが)ひ居(ゐ)たりける。176矮屋(わいをく)の中(なか)よりは微(かすか)なる女(をんな)のうたふ声(こゑ)響(ひび)き来(きた)る。
177『わが国(くに)は敵(てき)に奪(うば)はれわが父母(ふぼ)は
178行方(ゆくへ)知(し)れぬぞ悲(かな)しかりけり
179エールスの醜(しこ)の司(つかさ)にわが父(ちち)は
180城(しろ)を奪(うば)はれかくれましけむ
181妾(わらは)亦(また)か弱(よわ)き身(み)もて敵軍(てきぐん)に
182とらはれ遠(とほ)く送(おく)られにけり
183水(みづ)濁(にご)る木田山(きたやま)城(じやう)にとらへられ
184なげきの月日(つきひ)を泣(な)き暮(くら)したり
185二十(にじふ)年(ねん)われに仕(つか)へしアララギは
186悪魔(あくま)となりてわれに反(そむ)きぬ
187如何(いか)ならむ罪(つみ)犯(をか)せしか知(し)らねども
188今日(けふ)の吾(わが)身(み)は淋(さび)しかりけり
189玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)とらむとアララギは
190われを隠(かくれ)の島(しま)に送(おく)りし
191荒浪(あらなみ)に呑(の)まれむとする折(をり)もあれ
192琴平別(ことひらわけ)に救(すく)はれしはや
193大栄山(おほさかやま)遥(はる)かに高(たか)く北(きた)の空(そら)に
194霞(かす)むを見(み)ればわが国(くに)なるらむ
195さりながらイドムの国(くに)も今(いま)ははや
196サールの配下(はいか)となれる悲(かな)しさ
197隠島(かくれじま)漸(やうや)く逃(のが)れわれは今(いま)
198茂樹(しげき)の森(もり)にかくれ泣(な)くかも
199父母(ちちはは)に一度(いちど)会(あ)はまく欲(ほ)りすれど
200今日(けふ)の吾(わが)身(み)は詮術(せんすべ)もなき
201万斛(ばんこく)の涙(なみだ)湛(たた)へてわれは今(いま)
202泣(な)くより外(ほか)に術(すべ)なかりけり
203いたづらに森(もり)の木蔭(こかげ)に朽(く)ちむかと
204思(おも)へば悲(かな)しき吾(わが)身(み)なりけり』
205 朝月(あさづき)はこの歌(うた)を聞(き)き、206正(まさ)しく隠島(かくれじま)に流(なが)されしチンリウ姫(ひめ)なることを覚(さと)り、207雀躍(こをど)りしながら声(こゑ)高(たか)らかに歌(うた)ふ。
208『われこそは木田山(きたやま)城(じやう)に仕(つか)へたる
209朝月司(あさづきつかさ)のなれの果(は)てぞや
210この家(いへ)に忍(しの)ばせ給(たま)ふは正(まさ)しくも
211チンリウ姫(ひめ)と覚(さと)らひにけり
212アララギのきたなき心(こころ)の謀計(たくらみ)に
213かくなりませし姫(ひめ)を悲(かな)しむ
214われも亦(また)チンリウ姫(ひめ)を贋物(にせもの)と
215言挙(ことあ)げなしてやらはれにけり
216アララギやセンリウ姫(ひめ)の憤(いきどほ)りに
217われ荒島(あらしま)に流(なが)されしはや
218姫君(ひめぎみ)を案(あん)じわづらひ荒島(あらしま)ゆ
219隠(かくれ)の島ケ根(しまがね)遥(はる)かに仰(あふ)ぎぬ
220琴平別(ことひらわけ)神(かみ)の化身(けしん)に送(おく)られて
221われは真砂(まさご)の浜(はま)に着(つ)きぬる』
222 中(なか)よりチンリウ姫(ひめ)の声(こゑ)として、
223『いぶかしや茂樹(しげき)の森(もり)に人(ひと)の声(こゑ)
224聞(きこ)ゆは狐狸(こり)の仕業(しわざ)なるらめ
225わが住家(すみか)破屋(あばらや)なれど表戸(おもてど)は
226魔神(まがみ)の為(ため)には開(ひら)かざるべし
227朝月(あさづき)は木田山(きたやま)城(じやう)の左守神(さもりがみ)
228此処(ここ)に来(きた)らむ理由(りいう)はあらじ
229いろいろと言葉(ことば)構(かま)へてたぶらかす
230狐狸(こり)の謀計(たくみ)の浅(あさ)はかなるも
231アララギやセンリウ姫(ひめ)と相共(あひとも)に
232われをはかりし朝月(あさづき)の曲津(まが)
233よしやよし真(まこと)の朝月(あさづき)なればとて
234われは死(し)すともまみえざるべし』
235 朝月(あさづき)は悲(かな)しげに、
236『思(おも)ひきや茂樹(しげき)の森(もり)にたどり来(き)て
237姫(ひめ)の怒(いか)りの言葉(ことば)聞(き)くとは
238姫君(ひめぎみ)を陰(かげ)に日向(ひなた)にかばひつつ
239誠(まこと)尽(つく)せし朝月(あさづき)なるよ
240やさしげに見(み)ゆるアララギ、センリウの
241類(たぐひ)と思(おぼ)すが悲(かな)しかりけり
242姫君(ひめぎみ)をかばひし言葉(ことば)にたたられて
243われ荒島(あらしま)に流(なが)されしはや
244かくなればサールの国(くに)へは帰(かへ)れまじ
245忍(しの)びて住(す)まむ茂樹(しげき)の森(もり)に
246木田山(きたやま)の城(しろ)は滅(ほろ)びむアララギの
247人(ひと)もなげなるその振舞(ふるま)ひに
248城内(じやうない)の司(つかさ)は四分(しぶん)五裂(ごれつ)して
249アララギ母子(おやこ)を呪(のろ)はぬものなし
250隣国(りんこく)のイドムを攻(せ)めたる酬(むく)いにて
251サールの国(くに)は今(いま)に亡(ほろ)びむ
252御(おん)父(ちち)のアヅミの王(きみ)はやがて今(いま)
253伊佐子(いさご)の島根(しまね)を領有(うしは)ぎ給(たま)はむ
254朝月(あさづき)の清(きよ)き心(こころ)をさとりませ
255姫(ひめ)に仕(つか)ふと慕(した)ひ来(き)しものを』
256 チンリウ姫(ひめ)は歌(うた)ふ。
257『いろいろの汝(な)が言霊(ことたま)にわが胸(むね)の
258雲(くも)は晴(は)れたりとく入(い)りませよ
259なよ草(ぐさ)の女(をみな)一人(ひとり)のこの庵(いほ)に
260汝(な)が訪(と)ひ来(き)しも不思議(ふしぎ)なるかな
261汝(なれ)も亦(また)琴平別(ことひらわけ)に救(すく)はれしか
262われも神亀(しんき)に送(おく)られ来(きた)りぬ』
263 斯(か)く歌(うた)ひながら、264柴(しば)の戸(と)を中(なか)よりパツと押開(おしひら)けば、265朝月(あさづき)は大地(だいち)にひれ伏(ふ)し、266ハラハラと落涙(らくるい)しながら、
267『姫(ひめ)様(さま)、268御(お)懐(なつ)かしう御座(ござ)います。269私(わたし)は貴女(あなた)の御(お)身(み)の上(うへ)を気(き)の毒(どく)に存(ぞん)じ、270大(だい)祝賀会(しゆくがくわい)の席上(せきじやう)に於(おい)て、271今(いま)のチンリウ姫(ひめ)様(さま)は贋物(にせもの)にして、272アララギの奸計(かんけい)より斯(か)くなれるものとの諷刺(ふうし)を歌(うた)ひましたため、273アララギ母子(おやこ)及(およ)びエームス王(わう)の激怒(げきど)にふれ、274奸佞(かんねい)邪智(じやち)の心(こころ)きたなき司(つかさ)どもに審判(さば)かれ、275遂(つひ)に海中(かいちう)の荒島(あらしま)という無人島(むじんたう)に流(なが)され、276孤独(こどく)を託(かこ)ちつつあるところへ、277琴平別(ことひらわけ)の神(かみ)、278亀(かめ)と化(くわ)して現(あら)はれ給(たま)ひ、279たつた今(いま)の先(さき)、280真砂(まさご)の浜辺(はまべ)に私(わたし)を送(おく)りとどけて下(くだ)さつたのです。281必(かなら)ずや姫(ひめ)様(さま)も隠島(かくれじま)より琴平別(ことひらわけ)の神(かみ)に救(すく)はれて、282此(こ)の辺(あた)りにおしのびの事(こと)と察知(さつち)致(いた)しまして、283森林(しんりん)を彷徨(さまよ)ふうち、284フツとこの御(お)住居(すまゐ)が目(め)にとまり、285足音(あしおと)をしのばせ近(ちか)より、286屋内(をくない)の様子(やうす)を窺(うかが)へば、287かすかに聞(きこ)ゆる御(おん)歌(うた)のふしに、288てつきり姫(ひめ)様(さま)と打(う)ち喜(よろこ)び、289畏(おそ)れながら屋外(をくぐわい)に立(た)ち、290歌(うた)もて御(お)尋(たづ)ね致(いた)した次第(しだい)で御座(ござ)います。291何卒(なにとぞ)姫(ひめ)様(さま)の御(ご)仁慈(じんじ)によりまして、292私(わたし)を僕(しもべ)として御(お)使(つか)ひ下(くだ)さらうならば、293有難(ありがた)い仕合(しあは)せと存(ぞん)じます。294私(わたし)は再(ふたた)びサールの国(くに)に足(あし)を踏(ふ)み入(い)れる考(かんが)へは御座(ござ)いませぬ。295この島(しま)も御(おん)父(ちち)の領分(りやうぶん)とは言(い)ひながら、296サールの国王(こくわう)エールスが暴威(ぼうゐ)を振(ふる)ふ領域内(りやうゐきない)で御座(ござ)いますれば、297彼(かれ)等(ら)が手下(てした)の奴輩(やつばら)に見(み)つかつては危険(きけん)で御座(ござ)いますから、298この森林(しんりん)を幸(さいは)ひ、299姫(ひめ)様(さま)の御(お)側(そば)に仕(つか)へて時(とき)待(ま)つ事(こと)と致(いた)しませう。300一(いち)時(じ)は御(おん)父王(ちちぎみ)は城(しろ)を捨(す)てて退却(たいきやく)されましたなれど、301賢明(けんめい)なるアヅミ王(わう)様(さま)は必(かなら)ず軍備(ぐんび)を整(ととの)へ、302捲土(けんど)重来(ぢゆうらい)して、303イドム城(じやう)を回復(くわいふく)し、304善政(ぜんせい)を敷(し)き給(たま)ふものと、305私(わたし)は今(いま)より期待(きたい)いたして居(を)ります。306次(つぎ)にサールの国(くに)は最早(もは)や滅亡(めつばう)の徴(きざし)現(あら)はれ居(を)りますれば、307伊佐子(いさご)の島(しま)は全部(ぜんぶ)アヅミ王(わう)様(さま)の治下(ちか)に復(ふく)する事(こと)と存(ぞん)じます。308姫(ひめ)様(さま)、309御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
310と、311いろいろと言葉(ことば)を尽(つく)して、312朝月(あさづき)はチンリウ姫(ひめ)を慰(なぐさ)めながら、313暫時(しばし)この森林(しんりん)を住家(すみか)として時(とき)を待(ま)ちゐたりける。
314(昭和九・八・一五 旧七・六 於水明閣 林弥生謹録)
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