霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 鷺(さぎ)と烏(からす)〔二〇四一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻 篇:第3篇 木田山城 よみ(新仮名遣い):きたやまじょう
章:第14章 鷺と烏 よみ(新仮名遣い):さぎとからす 通し章番号:2041
口述日:1934(昭和9)年08月14日(旧07月5日) 口述場所:水明閣 筆録者:森良仁 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
チンリウ姫は、侍女母娘の命を憐れに思い、敵国の太子エームスの妃となることを承諾した。
エームス太子は城内に命じて、さっそく結婚式を行うこととした。太子はチンリウ姫を奥殿に招き、この結婚が成ったなら、チンリウ姫の父王をイドム城に迎えて、姫の心に報いよう、と誓った。
結婚式が始まり、仲介役となったアララギは祝歌を歌った。続いてエームス太子、チンリウ姫、朝月、夕月、センリウと喜びの歌を歌い、結婚の儀式を済ませることとなった。
チンリウ姫が太子の寝室に進みいることになった直前、アララギがすぐれない面持ちで姫を別室に招いた。そして語るに、
これまでエームス太子は何度も妃を迎えたが、いずれも一晩きりで命を落としている。
それというのも実は、太子は猛獣の化け物である。
このことは、サール国の侍女たちから噂で聞いた確かな話である。
そこで自分の娘センリウは姫にそっくりであることから、今夜は安全のため、身代わりに立てて様子を見てみましょう。
というものだった。これはアララギの計略であったが、チンリウ姫は疑いもなく乳母の提案を聞き入れ、センリウと着物を着替えてその夜は別室に控えていた。
翌朝、センリウが無事であったのを見て、チンリウ姫はアララギに、『何ともなかったようだが太子は替え玉に気づかれたのだろうか』、と相談した。
アララギは、『太子は替え玉に気づいてはいないようだが、太子の心をもっと姫に向かわせるためには、祭壇にある水晶の花瓶を庭で打つとよい』と姫に勧めた。
チンリウ姫は何の疑いもなく、花瓶を庭に持ち出して打つと、花瓶は二つに割れてしまった。
アララギは突然姫のたぶさを掴んで引きずりまわし、家宝を打ち壊した大罪人、と叫んだ。たちまち姫は捕り手に囲まれてしまった。アララギは、替え玉が気づかれないように姫の口に猿轡をかませ、顔を殴って容貌がわからないようにしてしまった。
チンリウ姫は、家宝を打ち壊した罪人・センリウとして、遠島の刑に処せられることになってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:3815 OBC :rm8114
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 504頁 修補版: 校定版:306頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 茲(ここ)にチンリウ姫(ひめ)は乳母(うば)アララギの、002ことを解(わ)けての懇願(こんぐわん)により、003敵(てき)の大将(たいしやう)エールスの太子(たいし)エームスの妃(きさき)となる事(こと)を心(こころ)ならずも承諾(しようだく)し、004一(いち)時(じ)の難(なん)を免(まぬが)れむとしたるこそ憐(あは)れなれ。005エームス王(わう)は欣喜(きんき)雀躍(じやくやく)しながら、006群臣(ぐんしん)に命(めい)じ、007奥殿(おくでん)に於(おい)て目出度(めでた)く結婚式(けつこんしき)を行(おこな)ふ事(こと)を厳命(げんめい)せしにぞ、008木田山(きたやま)城内(じやうない)は鼎(かなへ)の沸(わ)くが如(ごと)く、009上(うへ)を下(した)への大騒(おほさわ)ぎ、010若王(わかぎみ)の目出度(めでた)き結婚(けつこん)なりと、011尊(たか)きも卑(ひく)きも歓(ゑら)ぎ喜(よろこ)ばむものはなかりけり。012中(なか)にもチンリウ姫(ひめ)は結婚(けつこん)の花形(はながた)役者(やくしや)として、013今日(けふ)までの牢獄住(らうごくずま)ひに引替(ひきか)へ、014地獄(ぢごく)より天国(てんごく)に上(のぼ)りし如(ごと)くなれど、015心中(しんちう)稍(やや)悲歎(ひたん)の涙(なみだ)に暮(く)れ居(ゐ)たりけり。016エームス王(わう)はチンリウ姫(ひめ)を奥殿(おくでん)に招(まね)き温顔(をんがん)を満面(まんめん)に湛(たた)へながら歌(うた)ふ。
017 エームス王(わう)の歌(うた)。
018『夕顔(ゆふがほ)の匂(にほ)へる庭(には)に汝(な)が姿(すがた)
019認(みと)めて吾(われ)は悩(なや)みに落(お)ちたり
020何事(なにごと)も時世(ときよ)時節(じせつ)と諦(あきら)めて
021吾(われ)に許(ゆる)せし君(きみ)は愛(かな)しも
022君(きみ)が心(こころ)吾(われ)にあはずば玉(たま)の緒(を)の
023生命(いのち)死(し)せむと悩(なや)み来(き)しよな
024天地(あめつち)の神(かみ)の恵(めぐみ)の露(つゆ)浴(あ)びて
025今日(けふ)は嬉(うれ)しく君(きみ)に会(あ)ふかも
026玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)も吾(われ)は惜(を)しむまじ
027君(きみ)の心(こころ)に抱(いだ)かるる身(み)は
028父母(ちちはは)の礼(ゐや)なき業(わざ)を許(ゆる)しませ
029やがて酬(むく)いむ君(きみ)の心(こころ)に
030汝(な)が父(ちち)を安(やす)きに救(すく)ひまゐらせて
031イドムの城(しろ)に迎(むか)へ奉(まつ)らむ
032吾(わが)心(こころ)君(きみ)の御前(みまへ)に打(う)ち明(あ)けて
033二心(ふたごころ)なきを誓(ちか)ひ置(お)くべし』
034 チンリウ姫(ひめ)は歌(うた)ふ。
035『若王(わかぎみ)の大御心(おほみこころ)に叶(かな)ひたる
036吾(わが)幸(さち)はひを神(かみ)に感謝(ゐやひ)す
037永久(とこしへ)に王(きみ)の御側(みそば)に仕(つか)へつつ
038吾(わが)垂乳根(たらちね)に会(あ)ふ日(ひ)を待(ま)たむ
039垂乳根(たらちね)の心(こころ)の悩(なや)み思(おも)ひつつ
040はからず王(きみ)にいそひ奉(まつ)るも』
041 エームス王(わう)は歌(うた)ふ。
042『玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)をかけし恋(こひ)故(ゆゑ)に
043天(てん)にも昇(のぼ)る思(おも)ひするかな
044朝月(あさづき)や夕月(ゆふづき)、アララギ、センリウの
045真心(まごころ)照(て)りて今日(けふ)は楽(たの)しも』
046 アララギは歌(うた)ふ。
047『若王(わかぎみ)の清(きよ)き御前(みまへ)に招(まね)かれて
048嬉(うれ)しさゆゑに吾(わが)魂(たま)震(ふる)ふも
049チンリウの姫(ひめ)の心(こころ)を慰(なぐさ)めつ
050今日(けふ)の吉日(よきひ)に吾(われ)は逢(あ)ひにき
051若王(わかぎみ)に永久(とは)に仕(つか)へて吾(われ)も亦(また)
052御国(みくに)の栄(さか)えを祈(いの)り奉(まつ)らむ』
053 朝月(あさづき)は歌(うた)ふ。
054『若王(わかぎみ)の御言(みこと)畏(かしこ)みさまざまと
055言霊(ことたま)打(う)ちて破(やぶ)れけるかな
056如何(いか)にして姫(ひめ)の心(こころ)を迎(むか)へむと
057千々(ちぢ)に心(こころ)を砕(くだ)きけるかや
058チンリウ姫(ひめ)心(こころ)うごきて吾(わが)魂(たま)は
059いや新(あた)らしく光(ひか)りそめたり』
060 夕月(ゆふづき)は歌(うた)ふ。
061『吾(われ)も亦(また)如何(いかが)なるやと危(あや)ぶみし
062姫(ひめ)の心(こころ)は動(うご)き初(そ)めたり
063アララギの生言霊(いくことたま)の助(たす)けにて
064今日(けふ)の吉日(よきひ)に逢(あ)ふぞ嬉(うれ)しき』
065 いよいよ茲(ここ)に盛大(せいだい)なる結婚(けつこん)の式(しき)を挙(あ)げることとなり、066城(しろ)の内外(ないぐわい)には国津神(くにつかみ)等(たち)の歓呼(くわんこ)の声(こゑ)、067天地(てんち)を動(ゆる)がすばかりなり。068殿中(でんちう)には荘厳(さうごん)なる結婚式(けつこんしき)が開(ひら)かれてゐる。069媒介役(ばいかいやく)たるアララギは祝歌(しゆくか)を歌(うた)ふ。
070『天地(あめつち)の開(ひら)き初(そ)めてゆ例(ためし)なき
071今日(けふ)の吉日(よきひ)に逢(あ)ふぞ目出度(めでた)き。
072大栄山(おほさかやま)に日(ひ)は昇(のぼ)り
073木田川(きたがは)面(おもて)に月(つき)浮(うか)ぶ
074木田山(きたやま)城(じやう)の清庭(すがには)に
075大宮柱(おほみやばしら)太知(ふとし)りて
076備(そな)へも堅(かた)き此(こ)の城(しろ)に
077エールス王(わう)の若王(わかぎみ)は
078アヅミの王(きみ)の愛娘(まなむすめ)
079チンリウ姫(ひめ)を迎(むか)へまし
080今日(けふ)の夕(ゆふ)べの吉時(よきとき)に
081華燭(くわしよく)の典(てん)を挙(あ)げ給(たま)ひ
082夫婦(ふうふ)仲(なか)よく睦(むつ)まじく
083千代(ちよ)の堅(かた)めを永久(とこしへ)に
084サールの国(くに)の国王(こくわう)と
085国津神(くにつかみ)等(ら)に敬(うやま)はれ
086堅磐(かきは)常磐(ときは)の巌ケ根(いはがね)に
087果(はて)なき広(ひろ)き国原(くにはら)を
088領有(うしは)ぎ給(たま)ふ代(よ)となりぬ
089父大王(ちちだいわう)は大栄(おほさか)の
090御山(みやま)を越(こ)えて今(いま)ははや
091イドムの国(くに)の王(わう)となり
092アヅミの王(きみ)を退(しりぞ)けて
093時(とき)めき給(たま)ふ尊(たふと)さよ
094さはさりながら吾(わが)王(きみ)は
095仁慈(じんじ)無限(むげん)にましまして
096国津神(くにつかみ)等(ら)を愍(あは)れまし
097恵(めぐみ)の露(つゆ)に霑(うるほ)ひて
098鳥獣(てうじう)虫魚(ちうぎよ)にいたるまで
099王(きみ)の御徳(みとく)に服従(まつろ)ひて
100今日(けふ)の吉日(よきひ)を歌(うた)ふなり
101木田山(きたやま)城(じやう)の茂森(しげもり)の
102梢(こずゑ)に潜(ひそ)む田鶴(たづ)の声(こゑ)
103いともさやかに聞(きこ)ゆなり
104松(まつ)は千歳(ちとせ)の色(いろ)深(ふか)く
105常磐(ときは)の状(さま)を現(あら)はせり
106チンリウ姫(ひめ)は賢女(さかしめ)よ
107又(また)細女(くはしめ)よ此(こ)の国(くに)の
108妃(きさき)の君(きみ)と現(あ)れまして
109四方(よも)に輝(かがや)き給(たま)ふべし
110吾(われ)は二十年(はたとせ)姫君(ひめぎみ)の
111御側(みそば)に侍(はべ)り仕(つか)へ来(き)て
112今日(けふ)の吉日(よきひ)に逢(あ)ひけるも
113神(かみ)の恵(めぐみ)の露(つゆ)なれや
114ああ有難(ありがた)し目出度(めでた)しと
115今日(けふ)の吉日(よきひ)を祝(ほ)ぎ奉(まつ)る』
116 エームス王(わう)は歌(うた)ふ。
117『昔(むかし)より例(ためし)も聞(き)かぬ喜(よろこ)びに
118逢(あ)ひにけらしな姫(ひめ)を娶(めと)りて
119天地(あめつち)は清(きよ)く晴(は)れつつ吾(わが)胸(むね)も
120御空(みそら)の月(つき)と晴(は)れ渡(わた)りつつ
121大栄山(おほさかやま)尾(を)の上(へ)に澄(す)める月光(つきかげ)も
122今日(けふ)は一入(ひとしほ)清(すが)しかりけり
123野辺(のべ)を吹(ふ)く風(かぜ)の響(ひびき)も何(なん)となく
124今日(けふ)の喜(よろこ)び歌(うた)ふがに聞(きこ)ゆ
125大栄山(おほさかやま)尾根(をね)にかがよふ月影(つきかげ)も
126木田(きた)の流(なが)れに浮(うか)びて祝(いは)ふ
127小波(さざなみ)も立(た)たぬ夕(ゆふ)べの川(かは)の面(も)に
128月影(つきかげ)円(まる)く澄(す)みきらひたり
129吾(わが)心(こころ)頓(とみ)に勇(いさ)みて天地(あめつち)に
130生(いき)の生命(いのち)の尊(たふと)さ思(おも)ふ
131吾(わが)父(ちち)の心(こころ)和(なご)めて妻(つま)の為(ため)に
132イドムの国(くに)を蘇(よみがへ)らせむ
133斯(か)くならばアヅミの王(きみ)は吾(わが)父(ちち)よ
134エールスも亦(また)父(ちち)なりにけり
135イドム国(こく)サールの国(くに)と手(て)を引(ひ)きて
136伊佐子(いさご)の島(しま)に永(なが)く栄(さか)えむ』
137 チンリウ姫(ひめ)は歌(うた)ふ。
138『何事(なにごと)も皆(みな)打(う)ち忘(わす)れ今日(けふ)の日(ひ)の
139吾(われ)は嫁(とつぎ)を楽(たの)しむものなり
140時(とき)まちて父(ちち)の御国(みくに)を返(かへ)さむと
141思(おも)ふは吾(わが)身(み)の願(ねが)ひなりけり
142情(なさけ)あるエームス王(わう)の妃(ひ)となりて
143親(おや)に孝養(かうやう)尽(つく)さむと思(おも)ふ
144木田山(きたやま)城(じやう)照(て)らす夕(ゆふ)べの月(つき)見(み)れば
145笑(ゑ)ませ給(たま)へり王(きみ)の面(おも)に似(に)て』
146 朝月(あさづき)は歌(うた)ふ。
147『国津(くにつ)神(かみ)山(やま)の如(ごと)くに集(あつ)まりて
148今日(けふ)の吉日(よきひ)を歌(うた)ふ声(こゑ)すも
149幾万(いくまん)の国津神(くにつかみ)等(ら)の鬨(とき)の声(こゑ)
150天(あめ)と地(つち)とに響(ひび)き渡(わた)れり』
151 夕月(ゆふづき)は歌(うた)ふ。
152『夕月(ゆふづき)の光(ひかり)冴(さ)えにつ若王(わかぎみ)の
153今日(けふ)の喜(よろこ)び祝(いは)ふがに見(み)ゆ
154吾(われ)も亦(また)これの蓆(むしろ)に列(つら)ねられ
155嬉(うれ)しさあまりて言(こと)の葉(は)もなし
156山(やま)も川(かは)も歓(ゑら)ぎ喜(よろこ)ぶ状況(さま)見(み)えて
157五月(さつき)の雨(あめ)は晴(は)れ上(あが)りたり』
158 センリウは歌(うた)ふ。
159『姫君(ひめぎみ)の雄々(をを)しき心(こころ)の幸(さち)はひに
160安(やす)けく異邦(いはう)の月(つき)を見(み)しかな
161前(さき)の日(ひ)にイドムの城(しろ)に眺(なが)めてし
162月(つき)にも増(ま)して清(すが)しかりけり
163吾(わが)姿(すがた)面(おも)ざしまでも姫君(ひめぎみ)に
164似(に)たりと人(ひと)の言(い)ふぞあやしき』
165 アララギは歌(うた)ふ。
166『姫君(ひめぎみ)も汝(なれ)も吾乳(わがちち)呑(の)み足(た)りて
167はぐくまれたる為(ため)なりにけり
168賤女(はしため)といへども汝(なれ)は乳兄弟(ちきやうだい)
169姫(ひめ)にまがひて美(うるは)しきかも』
170 いよいよチンリウ姫(ひめ)は結婚(けつこん)の儀式(ぎしき)を済(す)ませ、171是(これ)より王(わう)の寝室(しんしつ)に進(すす)み入(い)る事(こと)となりけるが、172乳母(うば)のアララギは勝(すぐ)れざる面持(おももち)にて、173窃(ひそ)かにチンリウ姫(ひめ)を一間(ひとま)に招(お)ぎ語(かた)るらむ。
174『姫(ひめ)様(さま)、175大変(たいへん)な私(わたし)には心配事(しんぱいごと)が出来(でき)ました。176如何(いかが)致(いた)しませうかと思案(しあん)に暮(く)れて居(を)りますが、177どうか御(お)許(ゆる)し下(くだ)さいませ。178乳母(うば)が一生(いつしやう)の過(あやま)ちですから』
179と、180チンリウ姫(ひめ)は意外(いぐわい)の乳母(うば)の言葉(ことば)に胸(むね)を轟(とどろ)かせながら、
181『今(いま)となり怪(あや)しき言葉(ことば)聞(き)くものか
182汝(なれ)の面(おもて)に愁(うれ)ひ漂(ただよ)ふ』
183 乳母(うば)のアララギは一入(ひとしほ)声(こゑ)を潜(ひそ)めて、
184『姫(ひめ)様(さま)、185これが心配(しんぱい)せずに居(を)られませうか。186滝津瀬(たきつせ)、187山風(やまかぜ)の側女(そばめ)に承(うけたまは)りますれば、188今(いま)まで王(わう)様(さま)は幾度(いくたび)も美(うるは)しき妃(きさき)をお迎(むか)へになつたさうでありますが、189何(いづ)れも一晩(ひとばん)きりでお生命(いのち)がなくなるさうで、190其(そ)の噂(うはさ)が遠近(をちこち)に伝(つた)はり、191それゆゑに此(こ)の国(くに)では王(わう)様(さま)の妃(きさき)になるものはないさうで御座(ござ)います。192如何(いか)に高貴(かうき)な身(み)になつても生命(いのち)がなくてはなりませぬからなあー。193かくなる上(うへ)は逃(に)げ出(いだ)さうとしても蟻(あり)の這(は)ひ出(で)る隙間(すきま)もありませぬから』
194と、195息(いき)はづませて耳打(みみう)ちする。
196 チンリウ姫(ひめ)は歌(うた)ふ。
197『恐(おそ)ろしき事(こと)を聞(き)くかもアララギの
198言葉(ことば)も真言(まこと)と思(おも)へば恐(おそ)ろし
199如何(いか)にして此(こ)の場(ば)を逃(のが)れ永遠(とこしへ)の
200吾(われ)は生命(いのち)をながらへむかな
201アララギによき智慧(ちゑ)あればかしてたべ
202吾(わが)玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)は重(おも)し』
203 アララギは一入(ひとしほ)声(こゑ)を潜(ひそ)めて言(い)ふ。
204『姫(ひめ)様(さま)、205この王(わう)様(さま)は熊(くま)と虎(とら)との中(なか)から出来(でき)た猛獣(まうじう)の化物(ばけもの)で、206あんな優(やさ)しい姿(すがた)はして居(ゐ)られますが、207夜分(やぶん)になつて抱(だ)き付(つ)かれますと、208余(あま)りに腕(うで)の力(ちから)が強(つよ)いため、209か弱(よわ)き姫君(ひめぎみ)様(さま)は一息(ひといき)に締(し)め殺(ころ)されて、210なくなるとの事(こと)、211私(わたし)も廿(にじふ)年間(ねんかん)お仕(つか)へしまして、212今(いま)此(こ)の所(ところ)で大切(たいせつ)な姫君(ひめぎみ)様(さま)を殺(ころ)されたら申訳(まうしわけ)が立(た)たず、213いろいろ考(かんが)へた結果(けつくわ)、214一(ひと)つのよき智慧(ちゑ)を搾(しぼ)り出(だ)しました。215つまり吾(わが)娘(むすめ)センリウは乳兄弟(ちきやうだい)の間柄(あひだがら)故(ゆゑ)、216姫(ひめ)様(さま)と面貌(おもざし)、217姿(すがた)寸分(すんぶん)違(たが)はず、218菖蒲(あやめ)と燕子花(かきつばた)との区別(くべつ)が分(わか)らぬと申(まう)しますから、219是(これ)を幸(さいは)ひ姫(ひめ)様(さま)の御(ご)装束(しやうぞく)を着替(きか)へさせ、220姫(ひめ)様(さま)はセンリウの着物(きもの)を召(め)して暗(くら)がりに隠(かく)れ、221今晩(こんばん)一夜(いちや)だけ様子(やうす)を考(かんが)へる事(こと)に致(いた)しませう。222センリウは賤(いや)しき私(わたし)の娘(むすめ)で御座(ござ)いますから、223貴賤(きせん)の差(さ)は天地(てんち)に比(くら)ぶべきもので御座(ござ)ります。224それで今夜(こんや)の替玉(かへだま)を御(お)許(ゆる)し下(くだ)さらば、225屹度(きつと)姫(ひめ)様(さま)の危難(きなん)をお救(すく)ひ申(まう)し上(あ)げます』
226と、227言葉巧(ことばたく)みに説(と)き立(た)つれば、228チンリウ姫(ひめ)は乳母(うば)アララギの黒(くろ)き心(こころ)を少(すこ)しも覚(さと)らず、229盛装(せいさう)を脱(ぬ)ぎ捨(す)てセンリウ姫(ひめ)に着替(きか)へさせ、230自分(じぶん)はセンリウ女(ぢよ)の着物(きもの)を着(ちやく)し一間(ひとま)に潜(ひそ)み待(ま)ち居(ゐ)たりける。231然(しか)るに其(そ)の夜(よ)は余(あま)り変(かは)りたる様(さま)もなく、232センリウ女(ぢよ)は欣然(きんぜん)として朝庭(あさには)を逍遥(せうえう)して居(ゐ)る。233チンリウ姫(ひめ)は乳母(うば)の袖(そで)を引(ひ)きて小声(こごゑ)になりながら、
234『乳母(うば)、235夜前(やぜん)は何(なに)も事(こと)がなかつたさうだが、236王(わう)様(さま)は一体(いつたい)何(なん)と思召(おぼしめ)して御座(ござ)らうぞ。237替玉(かへだま)を使(つか)はれて御心(みこころ)が付(つ)かないのであろうか』
238と、239稍(やや)心配気(しんばいげ)に言(い)ひければ、240乳母(うば)アララギはチンリウ姫(ひめ)の耳(みみ)に口(くち)を寄(よ)せ、
241『此(こ)の祭壇(さいだん)に飾(かざ)りある水晶(すゐしやう)の花瓶(くわびん)を庭(には)に持出(もちだ)し、242小石(こいし)を持(も)ちて静(しづ)かに打(う)つ時(とき)は、243忽(たちま)ち王(わう)様(さま)の歓心(くわんしん)を得(え)て、244必(かなら)ず姫(ひめ)様(さま)を愛(あい)し給(たま)ふと言(い)ふ事(こと)で御座(ござ)ります。245王(わう)様(さま)は吾(わが)娘(むすめ)センリウを真正(まこと)の姫(ひめ)様(さま)と思(おも)ふて居(ゐ)られますさうですから、246夜前(やぜん)の替玉(かへだま)を恐(おそ)れ多(おほ)くて申(まう)されませぬから、247此(こ)の花瓶(くわびん)を庭(には)に持(も)ち出(だ)し、248少(すこ)しくお打(う)ち下(くだ)さいませ。249清(きよ)き音(ね)が出(で)ますから』
250と、251最(い)と懇切(ねんごろ)に説(と)き諭(さと)せば、252おぼこ娘(むすめ)のチンリウ姫(ひめ)は深(ふか)き計略(けいりやく)のあるとは知(し)らず、253水晶(すゐしやう)の花瓶(くわびん)を庭(には)に持(も)ち出(だ)し打(う)ち給(たま)ひければ、254水晶(すゐしやう)の花瓶(くわびん)はポカリと二(ふた)つに破(やぶ)れたり。255之(これ)を見(み)るより乳母(うば)アララギは、256チンリウ姫(ひめ)の髻(たぶさ)をグツと握(にぎ)りて引摺(ひきず)り廻(まは)しながら、
257『汝(なんぢ)は姫(ひめ)様(さま)の侍女(じぢよ)でありながら、258お家(いへ)の重宝(たから)を石(いし)をもつて叩(たた)き破(やぶ)るとは言語(ごんご)道断(だうだん)、259吾子(わがこ)であつて吾子(わがこ)でない。260皆様(みなさま)、261大罪人(だいざいにん)が現(あら)はれました』
262と、263大音声(だいおんじやう)に呼(よ)ばはるや、264数多(あまた)の司(つかさ)等(たち)が集(あつ)まり来(きた)り、265十重(とへ)二十重(はたへ)に取巻(とりま)き、266狼藉者(らうぜきもの)を逃(のが)すなと手毎(てんで)に得物(えもの)をもつて攻(せ)め来(きた)る。
267 チンリウ姫(ひめ)は事(こと)の意外(いぐわい)に驚(おどろ)き、268乳母(うば)アララギに向(むか)ひ、
269『汝(なんぢ)の娘(むすめ)にあらず』
270と呼(よ)ばはりければ、271アララギは発覚(はつかく)しては大事(おほごと)と、272姫(ひめ)の口(くち)に真綿(まわた)を含(ふく)ませ猿轡(さるぐつわ)をかませ、273頭部(とうぶ)面部(めんぶ)を打(う)ち据(す)ゑければ、274血(ち)にじみ上(あが)り似(に)ても似(に)つかぬ醜悪(しうあく)なる面(おも)となりければ、275茲(ここ)に憐(あは)れや大罪人(だいざいにん)としてチンリウ姫(ひめ)は遠島(ゑんたう)の刑(けい)に処(しよ)せられけり。
276(昭和九・八・一四 旧七・五 於水明閣 森良仁謹録)
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