霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 蛸船(たこぶね)〔一八一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻 篇:第1篇 水波洋妖 よみ(新仮名遣い):すいはようよう
章:第5章 蛸船 よみ(新仮名遣い):たこぶね 通し章番号:1814
口述日:1926(大正15)年06月29日(旧05月20日) 口述場所:天之橋立なかや別館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高砂丸の乗客一同は皆、常磐丸によって救出され、嵐も去った。
コブライとコオロは、自分たちを助けてくれた一行の中に玄真坊がいるのを見つけ、その正体を暴こうと、幻真坊の旧悪を歌に歌いだす。
幻真坊はもう自分は改心して三五教の宣伝使の弟子になったと説明するが、コブライとコオロは承知しない。
三人は取っ組み合いのけんかを始めるが、照国別の争いを戒める歌に仲裁される。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:3923 OBC :rm7205
愛善世界社版:55頁 八幡書店版:第12輯 625頁 修補版: 校定版:58頁 普及版:22頁 初版: ページ備考:
001 高砂丸(たかさごまる)の沈没(ちんぼつ)を見(み)てその危難(きなん)を救(すく)ふべく、002照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)の乗(の)れる常磐丸(ときはまる)は現場(げんば)に馳(は)せつけ、003救(すく)ひの綱(つな)を投(な)げかけて一人(ひとり)も残(のこ)らず吾(わが)船(ふね)に救(すく)ひあげて了(しま)つた。004一同(いちどう)の乗客(じやうきやく)は九死(きうし)に一生(いつしやう)を得(え)て005照国別(てるくにわけ)を神(かみ)の如(ごと)く感謝(かんしや)し尊敬(そんけい)し、006喜(よろこ)びの声(こゑ)は狭(せま)き船中(せんちう)に湧(わ)く如(ごと)くであつた。
007 さしも烈(はげ)しかりし暴風(ばうふう)はピタリと止(や)んで海面(かいめん)俄(にはか)に凪(な)ぎ渡(わた)り、008恰(あたか)も畳(たたみ)の上(うへ)を辷(すべ)る如(ごと)き光景(くわうけい)となつて来(き)た。009救(すく)はれた人々(ひとびと)の中(なか)には010一旦(いつたん)玄真坊(げんしんばう)と事(こと)を共(とも)にせし泥棒(どろばう)の小頭分(こがしらぶん)コブライ、011コオロの両人(りやうにん)があつた。012コブライ、013コオロの両人(りやうにん)は014自分(じぶん)を救(すく)うて呉(く)れた船(ふね)の中(なか)に泰然(たいぜん)と坐(すわ)つてゐる玄真坊(げんしんばう)の姿(すがた)を見(み)て、015船(ふね)の片隅(かたすみ)に頭(かしら)を鳩(あつ)め囁(ささや)き初(はじ)めた。
016コブライ『オイ、017コオロ、018どうやら宣伝使(せんでんし)の側(そば)に神(かみ)さま然(ぜん)と口(くち)をへの字(じ)に曲(ま)げて坐(すわ)り込(こ)んでゐる男(をとこ)は玄真坊(げんしんばう)ぢやなからうかのう』
019コオロ『俺(おれ)も最前(さいぜん)から、020よう似(に)た奴(やつ)だと思(おも)つて考(かんが)へてゐるのだが、021何分(なにぶん)尊(たふと)い宣伝使(せんでんし)の側(そば)に虱(しらみ)の卵(たまご)見(み)たいに、022しがみついて離(はな)れぬものだから、023「オイ、024どうだ」と声(こゑ)をかける訳(わけ)にも行(ゆ)かず、025俺(おれ)の僻目(ひがめ)ぢやなからうか、026若(も)しも人違(ひとちが)ひではないかと控(ひか)へてゐたが、027どうもよく似(に)てゐるやうだ。028縦(たて)から見(み)ても横(よこ)から見(み)ても、029何処(どこ)から観察(くわんさつ)しても熟視(じゆくし)しても、030調査(てうさ)しても、031正真(しやうしん)正銘(しやうめい)の玄真坊(げんしんばう)とより思(おも)はれないぢやないか。032ここで一(ひと)つ、033歌(うた)でもよんで、034彼奴(あいつ)を此処(ここ)へつり出(だ)す工夫(くふう)をしようぢやないか』
035コ『一旦(いつたん)は俺(おれ)等(たち)に辛(つら)い目(め)を見(み)せよつた敵(かたき)だと云(い)つても036俺(おれ)の命(いのち)を助(たす)けてくれた仲間(なかま)だから、037あつて過(す)ぎた事(こと)はモウ忘(わす)れようぢやないか。038過越(すぎこし)苦労(くらう)は禁物(きんもつ)だと三五教(あななひけう)でも教(をし)へてるからのう』
039コオ『何(なに)、040彼奴(あいつ)が玄真坊(げんしんばう)とすれや、041旧悪(きうあく)の露顕(ろけん)を恐(おそ)れて俺(おれ)達(たち)を助(たす)けるものかい。042キツト俺(おれ)等(たち)ア水(みづ)を呑(の)んで誰(たれ)に助(たす)けて貰(もら)つたか夢現(ゆめうつつ)で分(わか)らなかつたが、043彼奴(あいつ)に助(たす)けて貰(もら)つた気(き)づかひは毛頭(まうとう)なからうよ。044もし玄真坊(げんしんばう)が俺(おれ)等(たち)と見(み)たならば、045助(たす)けるふりして水(みづ)の中(なか)へ投(はう)り込(こ)んだに違(ちが)ひない。046兎(と)に角(かく)、047俺(おれ)等(たち)二人(ふたり)は玄真坊(げんしんばう)にとつては、048非常(ひじやう)の邪魔物(じやまもの)で目(め)の上(うへ)の瘤(こぶ)だからのう』
049コ『如何(いか)にも、050そらさうだ。051彼奴(あいつ)に助(たす)けて貰(もら)つたのでないとすれや、052何(なに)も憚(はばか)る事(こと)はない。053ここで一(ひと)つ054彼奴(あいつ)の旧悪(きうあく)を歌(うた)つて宣伝使(せんでんし)さまに訴(うつた)へようぢやないか』
055コオ『そんなら俺(おれ)が一口(ひとくち)云(い)ふから、056あと又(また)お前(まへ)が一口(ひとくち)歌(うた)へ、057俺(おれ)が一口(ひとくち)お前(まへ)が一口(ひとくち)、058交(かは)り代(がは)りに歌(うた)ひさへすれや片見(かたみ)怨(うら)みがなくて可(い)いだらう。059サア初(はじ)めるぞ』
060と云(い)ひ乍(なが)ら、061少(すこ)しばかり立膝(たてひざ)をして、062玄真坊(げんしんばう)の面(つら)を睨(にら)みつけ乍(なが)ら歌(うた)ひ初(はじ)めた。
063コ『ここは名(な)に負(お)ふハルの海(うみ)』
064コオ『ヨーイヨーイ ヨイトサヨイトサ』
065コ『往来(ゆきき)の船(ふね)も沢山(たくさん)に
066竿舵(さをかぢ)干(ほ)さず続(つづ)いてる』
067コオ『ヨーイヨーイ ヨイトサヨイトサ』
068コ『高砂丸(たかさごまる)に乗(の)り込(こ)んで
069ドテライ時化(しけ)に出会(でつくは)し
070船(ふね)は忽(たちま)ち転覆(てんぷく)し
071水(みづ)に流(なが)されブクブクと
072已(すで)に土左衛門(どざゑもん)となりかけた』
073コオ『ヨーイヨーイ ヨイトサヨイトサ』
074コ『オイ、075後(あと)はお前(まへ)の番(ばん)だ、076俺(おれ)が囃役(はやしやく)だ』
077コオ『ヨシヨシ之(これ)からが正念場(しやうねんば)だ、078シツカリ囃(はや)せよ。
079天道(てんだう)は人(ひと)を殺(ころ)さない
080救(すく)ひの船(ふね)が現(あら)はれて
081一人(ひとり)も残(のこ)らず常磐丸(ときはまる)
082助(たす)けて下(くだ)さつた有難(ありがた)さ』
083コ『ヨーイヨーイ ヨイトサヨイトサ』
084コオ『中(なか)に一(ひと)つの不思議(ふしぎ)さは
085人並(ひとなみ)勝(すぐ)れた大男(おほをとこ)
086天下(てんか)無双(むさう)の貴婦人(きふじん)と
087海(うみ)に飛(と)び込(こ)み忽(たちま)ちに
088虎(とら)か獅子(しし)かと云(い)ふやうな
089怪体(けつたい)な姿(すがた)を現(あら)はして
090荒波(あらなみ)かき別(わ)けブクブクと
091逃(に)げて行(い)つたのが面白(おもしろ)い
092此奴(こいつ)ア又(また)どうした者(もの)だらう
093狐(きつね)狸(たぬき)の化(ば)けたのと
094一緒(いつしよ)に船(ふね)に乗(の)りしため
095彼(あ)のやうな時化(しけ)に会(あ)うたのか』
096コ『ヨーイヨーイ ヨイトサヨイトサ』
097コオ『それは如何(どう)でもよいとして
098肝腎要(かんじんかなめ)の生命(いのち)をば
099助(たす)けて貰(もら)うた嬉(うれ)しさに
100感謝(かんしや)の歌(うた)を歌(うた)ひませう
101三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
102照国別(てるくにわけ)とか云(い)ふお方(かた)
103吾(わが)身(み)の危難(きなん)を顧(かへり)みず
104伊猛(いたけ)り狂(くる)ふ荒波(あらなみ)を
105物(もの)ともせずに乗(の)りきつて
106危(あやふ)き人(ひと)の生命(せいめい)を
107守(まも)らせ玉(たま)ふは生神(いきがみ)か
108但(ただ)しは神(かみ)の御(ご)化身(けしん)か
109お礼(れい)は言葉(ことば)に尽(つく)されぬ
110幾重(いくへ)も感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る』
111コ『ヨイヨイ ヨイトサヨイトサ』
112コオ『それに一(ひと)つの不思議(ふしぎ)さは
113オーラの山(やま)に立籠(たてこも)り
114世人(よびと)を欺(あざむ)く星下(ほしくだ)し
115怪体(けたい)な芸当(げいたう)演(えん)じたる
116贋天帝(にせてんてい)の贋化身(にせけしん)
117天下(てんか)唯一(ゆゐいつ)の贋救主(にせきうしゆ)
118玄真坊(げんしんばう)のデレ助(すけ)が
119すました顔(かほ)して乗(の)つてゐる
120こんな汚(けが)れた身魂(みたま)奴(め)が
121ハルの湖原(うなばら)渡(わた)りなば
122又(また)もや竜神(りうじん)腹(はら)立(た)てて
123荒風(あらかぜ)起(おこ)し浪(なみ)立(た)てて
124舟(ふね)を覆(かへ)すに違(ちが)ひない
125思(おも)へば思(おも)へば恐(おそろ)しや
126悪魔(あくま)の権化(ごんげ)の玄真坊(げんしんばう)
127オーラの山(やま)を失敗(しくじ)つて
128谷蟆山(たにぐくやま)に迷(まよ)ひ込(こ)み
129スガの港(みなと)のダリヤ姫(ひめ)
130手(て)ごめにせむと息捲(いきま)きつ
131きつい肱鉄(ひぢてつ)喰(く)はされて
132性懲(しやうこ)りもなく附(つ)け狙(ねら)ふ
133蛙(かはづ)の面(つら)に水(みづ)とやら
134恥(はぢ)を知(し)らない売僧(まいす)坊主(ばうず)
135タラハン城(じやう)へと乗(の)り込(こ)んで
136左守(さもり)の司(かみ)に駄々(だだ)をこね
137無理(むり)難題(なんだい)を吹(ふ)きかけて
138しこたま金(かね)を奪(うば)ひとり
139追手(おつて)に追(お)はれてドンブリと
140深谷川(ふかたにがは)に身(み)を沈(しづ)め
141一度(いちど)は幽冥(いうめい)旅行(りよかう)まで
142やつて来(こ)よつた曲者(くせもの)よ
143又(また)もや娑婆(しやば)に舞(ま)ひ戻(もど)り
144吾々(われわれ)二人(ふたり)を誑(たぶら)かし
145千草(ちぐさ)の姫(ひめ)とか云(い)ふ奴(やつ)に
146うつつを抜(ぬ)かし巾着(きんちやく)を
147しめて殺(ころ)されたりと聞(き)く
148その糞坊主(くそばうず)が泰然(たいぜん)と
149常磐(ときは)の丸(まる)に坐(すわ)り込(こ)み
150横柄面(わうへいづら)を下(さ)げよつて』
151コ『ヨイヨイ ヨイトサヨイトサ』
152コオ『すましてけつかる憎(にく)らしさ
153これこれまうし宣伝使(せんでんし)
154怪体(けたい)な奴(やつ)が居(を)りまする
155其奴(そいつ)は油断(ゆだん)がなりませぬ
156女(をんな)と見(み)たら娘(むすめ)でも
157人(ひと)の女房(にようばう)でも構(かま)はない
158目尻(めじり)を下(さ)げて涎(よだれ)くり
159物(もの)に致(いた)さなおかぬ奴(やつ)
160彼奴(あいつ)が船(ふね)に居(を)る限(かぎ)り
161此(この)船中(せんちう)の御(ご)一同(いちどう)
162懐中(くわいちう)用心(ようじん)なさいませ
163私(わたし)も一度(いちど)は泥棒(どろばう)の
164仲間(なかま)に這入(はい)つた事(こと)あれど
165改心(かいしん)致(いた)した其(その)上(うへ)は
166決(けつ)して後(あと)へは戻(もど)らない
167これこれこの通(とほ)り修験者(しうげんじや)
168蓑笠(みのかさ)つけて居(を)りまする
169人(ひと)の門戸(もんこ)に立(た)ち乍(なが)ら
170お経(きやう)を読(よ)んで世(よ)を渡(わた)る
171改心組(かいしんぐみ)の吾々(われわれ)は
172決(けつ)して心配(しんぱい)要(い)りませぬ』
173コ『ヨイヨイ ヨイトサヨイトサ』
174コオ『彼処(あそこ)にけつかる糞坊主(くそばうず)
175天帝(てんてい)の化身(けしん)と化(ば)け込(こ)んで
176人(ひと)をたばかる大泥棒(おほどろばう)
177重(かさ)ねて懐中物(くわいちうぶつ)御(ご)用心(ようじん)
178命(いのち)助(たす)けて貰(もら)ひました
179お礼(れい)に宣伝使(せんでんし)に玄真坊(げんしんばう)
180ありし昔(むかし)の悪行(あくかう)を
181根(ねつ)から葉(はつ)から曝(さら)け出(だ)し
182謹(つつし)み訴(うつた)へ奉(たてまつ)る
183天地(てんち)の神(かみ)も御(ご)照覧(せうらん)
184コブライ、コオロの申(まを)す事(こと)
185決(けつ)して偽(いつは)りありませぬ
186お礼(れい)に気(き)をつけおきまする
187あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
188御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
189コ『ヨイヨイ ヨイトサヨイトサ』
190 玄真坊(げんしんばう)はたまりかねてや、191ツカツカと座(ざ)を立(た)つて二人(ふたり)の側(そば)に寄(よ)り添(そ)ひ、192言葉(ことば)も低(ひく)う丁寧(ていねい)に、
193『ヤア、194コオロさまに、195コブライさま、196先(ま)づ先(ま)づ御(ご)壮健(さうけん)でお目出度(めでた)う。197イヤモウ、198キツウ膏(あぶら)を皆(みな)さまの前(まへ)でとられました。199もう此(この)辺(へん)でどうか御(ご)勘弁(かんべん)を願(ねが)い度(た)いものですな』
200コブ『ヘン…これ位(くらゐ)で御(ご)勘弁(かんべん)が願(ねがひ)い度(た)いものですな…ソラ、201ナーン吐(ぬ)かしてけつかる。202これや貴様(きさま)、203俺(おれ)をえらい目(め)に遭(あ)はした事(こと)は覚(おぼ)えて居(ゐ)るだらうな。204サア之(これ)から貴様(きさま)の生首(なまくび)を引(ひ)つこ抜(ぬ)いてチツト不恰好(ぶかつかう)だけど、205煙草入(たばこいれ)の根付(ねつけ)にしてやるから、206因果腰(いんぐわごし)を定(き)めて居(を)れ。207のうコオロ、208さうでもせぬと、209腹(はら)の虫(むし)が承知(しようち)せぬぢやないか』
210コオ『ウンそらさうだとも、211こんな奴(やつ)を助(たす)けてたまるものか。212此奴(こいつ)の所在(ありか)をどこ迄(まで)も探(さが)し出(だ)して、213怨(うら)みをはらさにやおかぬと、214修験者(しゆげんじや)と迄(まで)なり下(さが)つて居(を)つたのだもの、215今日(こんにち)会(あ)つたのは優曇華(うどんげ)の花(はな)咲(さ)く春(はる)に会(あ)つたやうなものだ。216サア玄真坊(げんしんばう)、217返答(へんたふ)はドヽヽヽどうだい』
218と握(にぎ)り拳(こぶし)で胸(むね)を三(み)つ四(よ)つ打(う)ち乍(なが)ら雄猛(をたけ)びする其(そ)の可笑(をか)しさ。219蠑螈(いもり)が井戸(ゐど)の底(そこ)から放(ほ)り上(あ)げられて、220踊(をど)つて居(ゐ)るやうなスタイルである。
221玄真坊(げんしんばう)『ヤア本当(ほんたう)に悪(わる)かつた、222済(す)まなかつた。223然(しか)し乍(なが)ら之(これ)も因縁(いんねん)づくぢやと見直(みなほ)し、224聞直(ききなほ)し、225何卒(どうぞ)俺(わし)の罪(つみ)を許(ゆる)してくれ。226俺(おれ)もな、227スツカリ改心(かいしん)して三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)のお弟子(でし)となつたのだから、228俺(おれ)に指(ゆび)一本(いつぽん)触(さ)えてもヤツパリ宣伝使(せんでんし)様(さま)に御(ご)無礼(ぶれい)した事(こと)になるのだからのう』
229コ『ヘン、230虎(とら)の威(ゐ)をかる野良狐(のらぎつね)奴(め)が、231うまく、232ぬけやうとしても、233玩具(おもちや)の脇差(わきざし)だ、234ぬきさしならないぞ。235サア之(これ)から荒料理(あられうり)だ。236オイ、237コオロ、238此(この)船中(せんちう)の無聊(むれう)を慰(なぐさ)むるために、239チツト古(ふる)いけれど蛸(たこ)一匹(いつぴき)料理(れうり)して、240皆(みな)さまにお目(め)にかけようぢやないか』
241コオ『航路(かうろ)の安全(あんぜん)を祈(いの)るため竜神(りうじん)さまにこの蛸(たこ)を料理(れうり)して、242お供(そな)へするのも信心(しんじん)の一(ひと)つだ。243又(また)あんな時化(しけ)がくると叶(かな)はないからのう、244イツヒヽヽヽ小気味(こぎみ)のいい事(こと)だワイ』
245玄(げん)『オイ、246コブライ、247コオロの両人(りやうにん)、248本真剣(ほんしんけん)に俺(おれ)を料理(れうり)するつもりか、249エー、250それなら、251それで此方(こちら)にも一(ひと)つの覚悟(かくご)がある。252無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)の三五教(あななひけう)に入信(にふしん)した俺(おれ)だけど、253正当(せいたう)防衛(ばうゑい)は許(ゆる)されてあるから、254小泥棒(こどろぼう)の一匹(いつぴき)や二匹(にひき)255ばらす位(くらゐ)、2551何(なん)の手間隙(てまひま)要(い)るものか。256サア見事(みごと)相手(あひて)になるならなつて見(み)よ』
257と団栗眼(どんぐりまなこ)をむき出(だ)し仁王立(にわうだ)ちになつて船底(ふなそこ)に四股(しこ)を踏鳴(ふみな)らしてゐる。258コオロ、259コブライの両人(りやうにん)は、
260『何(なに)、261猪口才(ちよこざい)な、262売僧(まいす)坊主(ばうず)』
263と云(い)ふより早(はや)く、264一人(ひとり)は首(くび)つ玉(たま)に喰(くら)ひつき、265一人(ひとり)は足(あし)を引(ひつ)攫(さら)へ、266せまい船(ふね)の中(なか)で転(こ)けつ輾(まろ)びつ一場(いちぢやう)の活劇(くわつげき)を演(えん)じ出(だ)した。
267 照国別(てるくにわけ)は此(この)体(てい)を見(み)るより、
268『争(あらそ)ひは枉津(まがつ)の神(かみ)の仕業(しわざ)ぞや
269静(しづ)かなるこそ神(かみ)の御心(みこころ)。
270憎(にく)まれて憎(にく)み返(かへ)すは枉神(まがかみ)の
271醜(しこ)の業(わざ)なり畏(おそ)れつつしめ。
272よき事(こと)と悪(あ)しき事柄(ことがら)行(ゆ)き交(か)ひて
273此(この)世(よ)の中(なか)は開(ひら)け行(ゆ)くなり』
274 コオロ、275コブライの二人(ふたり)は此(この)歌(うた)を聞(き)くより、276パツト手(て)を放(はな)せば玄真坊(げんしんばう)は鼻汁(はな)をすすり乍(なが)らヤツトの事(こと)で起(お)き上(あが)り、
277『有難(ありがた)し照国別(てるくにわけ)の師(し)の君(きみ)の
278生言霊(いくことたま)に命(いのち)拾(ひろ)ひぬ。
279コブライやコオロの君(きみ)に殴(なぐ)られて
280罪(つみ)消(き)えなむと思(おも)へば嬉(うれ)し』
281コオ『吾(わが)命(いのち)助(たす)け玉(たま)ひし師(し)の君(きみ)の
282厳言霊(いづことたま)に反(そむ)くよしなし』
283コ『憎(にく)い奴(やつ)とは思(おも)へども宣伝使(せんでんし)
284待(ま)てとの声(こゑ)に力(ちから)抜(ぬ)けたり』
285照国(てるくに)『争(あらそ)ひの雲(くも)も漸(やうや)く晴(は)れ行(ゆ)きて
286誠(まこと)のかがみ照(て)るぞ目出度(めでた)き』
287照公(てるこう)『不思議(ふしぎ)なる神(かみ)の助(たす)けに会(あ)ひ乍(なが)ら
288尚(なほ)も争(あらそ)ふ人心(ひとごころ)かな』
289梅公(うめこう)『ただ人(びと)の心(こころ)は広(ひろ)く押(お)し並(な)べて
290今(いま)目(め)の前(まへ)に三人(みたり)の姿(すがた)よ。
291晴(は)れて又(また)曇(くも)る五月(さつき)の大空(おほぞら)に
292さも似(に)たるかな人(ひと)の心(こころ)は』
293 梅公別(うめこうわけ)は照国別(てるくにわけ)に少時(しばし)の暇(いとま)を乞(こ)ひ、294救(すく)ふべき人(ひと)ありと言挙(ことあ)げし乍(なが)ら浜辺(はまべ)の町(まち)に舟(ふね)を横(よこ)たへ、295一先(ひとま)づ上陸(じやうりく)し、296更(さら)に小舟(こぶね)を借(か)り受(う)け297湖中(こちう)に浮(うか)ぶ太魔(たま)の島(しま)を指(さ)して艪(ろ)を操(あやつ)り乍(なが)ら別(わか)れ行(ゆ)く。
298 常磐丸(ときはまる)は順風(じゆんぷう)に帆(ほ)を上(あ)げ乍(なが)らスガの港(みなと)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。
299(大正一五・六・二九 旧五・二〇 於天之橋立なかや別館 北村隆光録)
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