明治三十八年の正月の九日
出口の澄子、緑の黒髪ふつと切り神の御前に供へ奉る。王仁怪しみてその故を問ふ。彼答へず。王仁頻りに問ふて惜かず。すなはち徐ろに答へて曰く、吾が髪を切りしは神の為め道の為めはたまた救の為なり。ある人の深き迷ひを覚さんが為なり。その人の目覚めざるに於ては神の道は明かなること能はじ。また迷へる羊を救ふ能はじ。またわが夫の踏み給へる道を立つる事能はず。これ妾が心の誠を証して神に第一に、ある人の深き罪を謝し、道の栄えを祈りたるなりと。
祈病癒祝詞
掛巻くも畏き吾皇神の大御前に恐み恐みも白さく、何国何郡何村何某(何々の)病ありて月日佐麻禰久病臥せり。彼これをもつて(斎主名)に事計りて畏こけれども、吾皇神の大前を斎き奉りて、蒼生を恵み給ふ恩頼を祈願奉らんとして、今日の吉日の吉時に(名)に礼代の幣帛を捧げ持ちて恐み恐みも称辞竟へ奉らしむ。掛巻くも畏き皇神この有様を平らけく安らけく聞食して、(病人名)が悩む病を速に直し給ひ癒し給ひて、堅磐に常磐に息内長く夜の守り日の守りに守り給へ幸へ給へと畏み畏み白す。
祈家内安全祝詞
掛巻くも畏き吾大神の大前に恐み恐みも曰さく。(何国何郡何村何某伊)、吾大神の恩頼に依りて、その家の弥益々に立栄えんことを祈願白さんとして、(斎主名)に礼代の幣帛を捧げ持ちて恐み恐みも称辞竟へ奉らしむ。この状を平けく安らけく聞食して、(何某)が家内には八十枉津霊の枉事あらしめず、家業撓むことなく怠る事なく勤み勉めて、その家門を起さしめ給ひ広めしめ給ひ、堅磐に常磐に息内長く子孫の八十連に至るまで、五十橿八桑枝の如く立栄えしめ給ひ、過犯す事のあらむをば見直し聞直し坐して、夜の守日の守に守り給へ幸へ給へと恐み恐みも白す。