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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第18巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 弥仙の神山
第1章 春野の旅
第2章 厳の花
第3章 神命
第2篇 再探再険
第4章 四尾山
第5章 赤鳥居
第6章 真か偽か
第3篇 反間苦肉
第7章 神か魔か
第8章 蛙の口
第9章 朝の一驚
第10章 赤面黒面
第4篇 舎身活躍
第11章 相身互
第12章 大当違
第13章 救の神
第5篇 五月五日祝
第14章 蛸の揚壺
第15章 遠来の客
第16章 返り討
第17章 玉照姫
霊の礎(四)
余白歌
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霊界物語
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第18巻(巳の巻)
> 第2篇 再探再険 > 第4章 四尾山
<<< 神命
(B)
(N)
赤鳥居 >>>
第四章
四尾山
(
よつをやま
)
〔六三二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
篇:
第2篇 再探再険
よみ(新仮名遣い):
さいたんさいけん
章:
第4章 四尾山
よみ(新仮名遣い):
よつおやま
通し章番号:
632
口述日:
1922(大正11)年04月25日(旧03月29日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
自転倒島の真秀良場、青垣山をめぐらせる下津岩根の貴の苑、この世を治める丸山の、神の稜威は世継王山。桶伏の丸き神の丘、黄金の玉が隠された貴の聖地の永久に動かぬ御代の神柱。
国武彦が常永に鎮まりまして、天翔り国翔ける神力を潜め居る弥仙山。木の花姫の生御魂である埴安彦や埴安姫が築いた神の都は、いつしか栄えて開ける梅の花。
悦子姫一行は、英子姫から弥仙山に神業があると聞いて山に上り、玉照姫の出産に立ち会った。
悦子姫は神の大命を被って、音彦、加米彦、夏彦に命じて世継王山の麓にささやかな家を造らせた。ここに国治立命、豊国姫命を鎮祭した。
ある日、悦子姫を尋ねてくる四人の男女があった。それは、紫姫、青彦、馬、鹿の四人連れであった。
悦子姫は、紫姫のみを部屋に入れて人払いをした。その他の一同は、仕方なく外で待っている。その間、夏彦と加米彦は軽口を叩き合っている。
加米彦が悦子姫に人払いの解除を催促に行くと、一同は呼び戻された。そして神命により悦子姫は近江の竹生島に音彦を伴って行く事になった、と告げた。竹生島には、神素盞嗚大神がお隠れになっている。
加米彦と夏彦は、残って世継王山麓の館を守ることになった。年長者の夏彦を主と決めた。
紫姫一行は、神命によって行く先を授けられた。青彦は、日の出神より若彦と名を賜った。
翌朝、悦子姫と音彦は竹生島へと発ち、紫姫は供の三人に行く先も告げないまま、由良川の河辺伝いに西北指して進んでいった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-03-11 19:49:34
OBC :
rm1804
愛善世界社版:
57頁
八幡書店版:
第3輯 658頁
修補版:
校定版:
59頁
普及版:
26頁
初版:
ページ備考:
001
天
(
あめ
)
と
地
(
つち
)
との
神
(
かみ
)
の
水火
(
いき
)
002
うまらにつばらに
大八洲
(
おほやしま
)
003
天
(
あま
)
の
沼矛
(
ぬほこ
)
の
一雫
(
ひとしづく
)
004
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
真秀良場
(
まほらば
)
や
005
青垣山
(
あをがきやま
)
を
繞
(
めぐ
)
らせる
006
下津
(
したつ
)
岩根
(
いはね
)
の
貴
(
うづ
)
の
苑
(
その
)
007
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
治
(
をさ
)
むる
丸山
(
まるやま
)
の
008
神
(
かみ
)
の
稜威
(
みいづ
)
は
世継王
(
よつわう
)
山
(
やま
)
009
力
(
ちから
)
隠
(
かく
)
して
桶伏
(
をけふせ
)
の
010
丸
(
まる
)
き
姿
(
すがた
)
の
神
(
かみ
)
の
丘
(
をか
)
011
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
隠
(
かく
)
されし
012
貴
(
うづ
)
の
聖地
(
せいち
)
の
永久
(
とこしへ
)
に
013
動
(
うご
)
かぬ
御代
(
みよ
)
の
神柱
(
かむばしら
)
014
国武彦
(
くにたけひこ
)
の
常永
(
とことは
)
に
015
鎮
(
しづ
)
まりまして
天
(
あま
)
翔
(
かけ
)
り
016
国
(
くに
)
かけります
神力
(
しんりき
)
を
017
潜
(
ひそ
)
めて
茲
(
ここ
)
に
弥仙山
(
みせんざん
)
018
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
の
生御魂
(
いくみたま
)
019
埴安彦
(
はにやすひこ
)
や
埴安姫
(
はにやすひめ
)
の
020
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
建
(
た
)
てましし
021
神
(
かみ
)
の
都
(
みやこ
)
の
何時
(
いつ
)
しかに
022
開
(
ひら
)
けて
栄
(
さか
)
ゆる
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
023
薫
(
かほ
)
り
床
(
ゆか
)
しき
松
(
まつ
)
の
世
(
よ
)
の
024
弥勒
(
みろく
)
の
御代
(
みよ
)
に
老松
(
おいまつ
)
の
025
茂
(
しげ
)
る
川辺
(
かはべ
)
や
小雲川
(
こくもがは
)
026
清
(
きよ
)
き
流
(
なが
)
れの
底
(
そこ
)
深
(
ふか
)
く
027
四方
(
よも
)
の
神々
(
かみがみ
)
人々
(
ひとびと
)
の
028
霊魂
(
みたま
)
を
洗
(
あら
)
ふ
白瀬川
(
しらせがは
)
029
神
(
かみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
に
由良
(
ヨルダン
)
の
030
ほまれを
流
(
なが
)
す
生田川
(
いくたがは
)
031
イクタの
悩
(
なや
)
み
凌
(
しの
)
ぎつつ
032
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
は
033
天
(
あめ
)
と
地
(
つち
)
との
神柱
(
かむばしら
)
034
堅磐
(
かきは
)
常磐
(
ときは
)
に
建
(
た
)
て
給
(
たま
)
ふ
035
暗
(
やみ
)
を
晴
(
は
)
らして
英子姫
(
ひでこひめ
)
036
万代
(
よろづよ
)
寿
(
ことほ
)
ぐ
亀彦
(
かめひこ
)
が
037
鶴
(
つる
)
の
巣籠
(
すごも
)
る
松ケ枝
(
まつがえ
)
に
038
千代
(
ちよ
)
の
礎
(
いしずゑ
)
固
(
かた
)
めつつ
039
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
紊
(
みだ
)
す
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
040
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
041
四方
(
よも
)
に
塞
(
ふさ
)
がる
叢雲
(
むらくも
)
を
042
神
(
かみ
)
の
伊吹
(
いぶき
)
に
吹払
(
ふきはら
)
ひ
043
清
(
きよ
)
めにや
山家
(
やまが
)
の
肥後
(
ひご
)
の
橋
(
はし
)
044
神子坂
(
みこさか
)
橋
(
ばし
)
の
手前
(
てまへ
)
まで
045
スタスタ
来
(
きた
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
046
朧
(
おぼろ
)
にかかる
月影
(
つきかげ
)
を
047
透
(
すか
)
して
向
(
むか
)
ふを
眺
(
なが
)
むれば
048
虫
(
むし
)
が
知
(
し
)
らすか
何
(
なん
)
となく
049
心
(
こころ
)
にかかる
春霞
(
はるがすみ
)
050
シカと
見
(
み
)
えねど
陽炎
(
かげろふ
)
の
051
瞬
(
またた
)
く
間
(
ま
)
もなく
宣伝歌
(
せんでんか
)
052
耳
(
みみ
)
さす
如
(
ごと
)
く
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る
053
ツと
立止
(
たちと
)
まり
道
(
みち
)
の
辺
(
へ
)
に
054
様子
(
やうす
)
窺
(
うかが
)
ふ
折
(
をり
)
もあれ
055
夜目
(
よめ
)
にシカとは
分
(
わか
)
らねど
056
どこやら
気分
(
きぶん
)
が
悦子姫
(
よしこひめ
)
057
床
(
ゆか
)
しき
影
(
かげ
)
とおとなへば
058
案
(
あん
)
にたがはぬ
麻柱
(
あななひ
)
の
059
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
悦子姫
(
よしこひめ
)
060
川瀬
(
かはせ
)
も
響
(
ひび
)
く
音彦
(
おとひこ
)
や
061
まだシーズンは
来
(
きた
)
らねど
062
名
(
な
)
は
夏彦
(
なつひこ
)
や
加米彦
(
かめひこ
)
の
063
随従
(
みとも
)
の
影
(
かげ
)
は
四人
(
よにん
)
連
(
づ
)
れ
064
情
(
つれ
)
無
(
な
)
き
浮世
(
うきよ
)
に
揉
(
も
)
まれたる
065
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
のつれづれを
066
徒然草
(
つれづれぐさ
)
を
褥
(
しとね
)
とし
067
互
(
たがひ
)
にあかす
物語
(
ものがたり
)
068
神徳
(
しんとく
)
照
(
て
)
らす
一
(
ひ
)
イ
二
(
ふ
)
ウ
三
(
み
)
四
(
よ
)
069
五
(
いつ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
六人
(
むたり
)
連
(
づ
)
れ
070
七度
(
ななたび
)
八度
(
やたび
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
071
百度
(
ももたび
)
千度
(
ちたび
)
万度
(
よろづたび
)
072
亀
(
かめ
)
と
加米
(
かめ
)
との
呼吸
(
いき
)
合
(
あは
)
せ
073
顕幽
(
けんいう
)
二界
(
にかい
)
に
出没
(
しゆつぼつ
)
し
074
五六七
(
みろく
)
の
御代
(
みよ
)
を
来
(
きた
)
すまで
075
心
(
こころ
)
の
帯
(
おび
)
を
堅
(
かた
)
く
締
(
し
)
め
076
尽
(
つ
)
くさにや
山家
(
やまが
)
の
道
(
みち
)
の
辺
(
べ
)
に
077
深
(
ふか
)
き
思
(
おも
)
ひを
残
(
のこ
)
しつつ
078
東
(
ひがし
)
と
西
(
にし
)
へ
別
(
わか
)
れ
路
(
ぢ
)
の
079
積
(
つも
)
る
願
(
ねが
)
ひの
山坂
(
やまさか
)
を
080
さらばさらばの
声
(
こゑ
)
共
(
とも
)
に
081
別
(
わか
)
れ
行
(
ゆ
)
くこそ
雄々
(
をを
)
しけれ
082
悦子
(
よしこ
)
の
姫
(
ひめ
)
はスタスタと
083
三人
(
みたり
)
の
益良夫
(
ますらを
)
伴
(
ともな
)
ひて
084
胸突坂
(
むなつきざか
)
を
辿
(
たど
)
りつつ
085
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
に
浮
(
う
)
かぶ
雲
(
くも
)
086
英子
(
ひでこ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
御
(
おん
)
言葉
(
ことば
)
087
由縁
(
ゆかり
)
ありげに
味
(
あぢ
)
はひつ
088
霞
(
かすみ
)
を
辿
(
たど
)
る
心地
(
ここち
)
して
089
いと
勇
(
いさ
)
ましくかけて
行
(
ゆ
)
く
090
山
(
やま
)
の
老樹
(
らうじゆ
)
は
大空
(
おほぞら
)
を
091
封
(
ふう
)
じて
月日
(
つきひ
)
を
隠
(
かく
)
しつつ
092
深
(
ふか
)
き
仕組
(
しぐみ
)
を
包
(
つつ
)
むなる
093
躑躅
(
つつじ
)
の
花
(
はな
)
のここかしこ
094
胸
(
むね
)
もいろいろ
乱
(
みだ
)
れ
咲
(
さ
)
く
095
咲耶
(
さくや
)
の
姫
(
ひめ
)
を
祀
(
まつ
)
りたる
096
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
匂
(
にほ
)
ふ
神
(
かみ
)
の
山
(
やま
)
097
恵
(
めぐみ
)
も
高
(
たか
)
き
須弥仙
(
しゆみせん
)
の
098
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
099
アヽ
天国
(
てんごく
)
か
楽園
(
らくゑん
)
か
100
山
(
やま
)
と
山
(
やま
)
とに
挟
(
はさ
)
まれし
101
青麦畑
(
あをむぎばたけ
)
菜種花
(
なたねばな
)
102
紫雲英
(
げんげ
)
の
花
(
はな
)
も
咲
(
さ
)
きみちて
103
心持
(
こころもち
)
よき
花
(
はな
)
むしろ
104
蝶
(
てふ
)
舞
(
ま
)
ひ
遊
(
あそ
)
ぶ
神苑
(
しんゑん
)
に
105
心
(
こころ
)
も
赤
(
あか
)
き
丹頂
(
たんちやう
)
の
106
鶴
(
つる
)
の
下
(
お
)
りたる
如
(
ごと
)
くなる
107
景色
(
けしき
)
眺
(
なが
)
めて
賤
(
しづ
)
の
屋
(
や
)
の
108
細
(
ほそ
)
き
煙
(
けぶり
)
も
豊彦
(
とよひこ
)
が
109
雪
(
ゆき
)
を
欺
(
あざむ
)
く
白髯
(
しらひげ
)
を
110
折柄
(
をりから
)
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
春風
(
はるかぜ
)
に
111
いぢらせ
乍
(
なが
)
らコツコツと
112
あかざ
の
杖
(
つゑ
)
にすがりつつ
113
神
(
かみ
)
の
使
(
つか
)
ひか
真人
(
しんじん
)
か
114
やつれし
人
(
ひと
)
に
似
(
に
)
もやらず
115
威風
(
ゐふう
)
備
(
そな
)
はる
翁
(
おきな
)
どの
116
頼
(
たの
)
むとかけし
言
(
こと
)
の
葉
(
は
)
の
117
刹那
(
せつな
)
の
風
(
かぜ
)
に
煽
(
あふ
)
られて
118
心
(
こころ
)
もそよぐ
悦子姫
(
よしこひめ
)
119
神
(
かみ
)
にひかるる
思
(
おも
)
ひにて
120
伏屋
(
ふせや
)
の
前
(
まへ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
121
三月
(
さんぐわつ
)
三日
(
みつか
)
の
菱餅
(
ひしもち
)
に
122
擬
(
まが
)
ふべらなる
門
(
かど
)
の
戸
(
と
)
に
123
驚
(
おどろ
)
き
乍
(
なが
)
ら
何気
(
なにげ
)
なう
124
表戸
(
おもてど
)
開
(
ひら
)
く
音彦
(
おとひこ
)
が
125
悦子
(
よしこ
)
の
姫
(
ひめ
)
を
伴
(
とも
)
なひて
126
しけこき
小屋
(
こや
)
の
上
(
あが
)
り
口
(
ぐち
)
127
休
(
やす
)
らふ
折
(
をり
)
しも
老夫婦
(
らうふうふ
)
128
蝶
(
てふ
)
よ
花
(
はな
)
よと
育
(
はぐく
)
みし
129
生命
(
いのち
)
と
頼
(
たの
)
む
掌中
(
しやうちう
)
の
130
娘
(
むすめ
)
のお
玉
(
たま
)
が
病気
(
いたつき
)
の
131
心
(
こころ
)
にかかる
物語
(
ものがたり
)
132
うまらにつばらに
宣
(
の
)
りつれば
133
慈愛
(
じあい
)
の
権化
(
ごんげ
)
の
悦子姫
(
よしこひめ
)
134
真玉手
(
またまで
)
玉手
(
たまで
)
さし
延
(
の
)
べて
135
娘
(
むすめ
)
のお
玉
(
たま
)
を
撫
(
な
)
でさすり
136
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
けとつおいつ
137
老
(
おい
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
に
打向
(
うちむか
)
ひ
138
豊彦
(
とよひこ
)
豊姫
(
とよひめ
)
お
玉
(
たま
)
さま
139
必
(
かなら
)
ず
心配
(
しんぱい
)
遊
(
あそ
)
ばすな
140
一生
(
いつしやう
)
癒
(
なほ
)
らぬ
脹
(
は
)
れ
病
(
やまひ
)
141
生命
(
いのち
)
にかかる
気遣
(
きづか
)
ひは
142
ない
た
涙
(
なみだ
)
を
晴
(
は
)
らしませ
143
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
大神
(
おほかみ
)
が
144
五六七
(
みろく
)
の
御代
(
みよ
)
の
礎
(
いしずゑ
)
と
145
神
(
かみ
)
の
水火
(
いき
)
をば
固
(
かた
)
めまし
146
お
玉
(
たま
)
の
方
(
かた
)
の
体
(
たい
)
を
藉
(
か
)
り
147
三
(
み
)
つの
御霊
(
みたま
)
の
睦
(
むつ
)
み
合
(
あ
)
ひ
148
宿
(
やど
)
りましたる
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
149
人
(
ひと
)
の
呼吸
(
いき
)
にて
固
(
かた
)
めたる
150
曇
(
くも
)
りの
多
(
おほ
)
き
魂
(
たま
)
でない
151
水晶玉
(
すいしやうだま
)
のミツ
御霊
(
みたま
)
152
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
を
兼
(
か
)
ねませる
153
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
154
教
(
をしへ
)
を
守
(
まも
)
る
神人
(
しんじん
)
の
155
今日
(
けふ
)
は
嬉
(
うれ
)
しき
誕生日
(
たんじやうび
)
156
黒白
(
あやめ
)
も
分
(
わ
)
かぬ
暗
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
も
157
愈
(
いよいよ
)
開
(
ひら
)
き
春
(
はる
)
の
空
(
そら
)
158
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
159
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませと
160
祈
(
いの
)
る
折
(
をり
)
しも
忽
(
たちま
)
ちに
161
ホギヤアホギヤアと
産
(
うぶ
)
の
声
(
こゑ
)
162
爺
(
ぢぢ
)
と
姿
(
ばば
)
アは
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
163
おつたま
消
(
げ
)
たるお
玉
(
たま
)
まで
164
妊娠
(
おと
)
がしてから
十八月
(
じふやつき
)
165
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
恙
(
つつが
)
なく
166
生
(
う
)
み
落
(
おと
)
したる
音彦
(
おとひこ
)
や
167
万代
(
よろづよ
)
祝
(
いは
)
ふ
加米彦
(
かめひこ
)
が
168
手
(
て
)
の
舞
(
まひ
)
足
(
あし
)
の
踏
(
ふ
)
む
所
(
ところ
)
169
知
(
し
)
らぬ
許
(
ばか
)
りに
雀躍
(
こをどり
)
し
170
芽出度
(
めでた
)
い
芽出度
(
めでた
)
いお
芽出
(
めで
)
たい
171
千代
(
ちよ
)
に
八千代
(
やちよ
)
に
伊勢蝦
(
いせえび
)
の
172
曲
(
まが
)
つた
腰
(
こし
)
の
夏彦
(
なつひこ
)
が
173
百
(
もも
)
の
齢
(
よはひ
)
を
重
(
かさ
)
ねつつ
174
ピンピンシヤンと
跳
(
は
)
ねまはる
175
此
(
この
)
瑞祥
(
ずゐしやう
)
のミツ
御霊
(
みたま
)
176
悦子
(
よしこ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
計
(
はか
)
らひに
177
玉照姫
(
たまてるひめ
)
と
命名
(
めいめい
)
し
178
述
(
の
)
ぶる
挨拶
(
あいさつ
)
そこそこに
179
口籠
(
くちごも
)
りたる
涙声
(
なみだごゑ
)
180
涙
(
なみだ
)
の
雨
(
あめ
)
を
凌
(
しの
)
ぎつつ
181
門口
(
かどぐち
)
出
(
い
)
づる
四
(
よ
)
つの
笠
(
かさ
)
182
四
(
よ
)
ツつの
杖
(
つゑ
)
は
地
(
ち
)
を
叩
(
たた
)
き
183
春
(
はる
)
の
霞
(
かすみ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
184
笠
(
かさ
)
は
空中
(
くうちう
)
に
揺
(
ゆら
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く
185
夜
(
よ
)
は
烏羽玉
(
うばたま
)
と
暮
(
く
)
れ
果
(
は
)
てて
186
一夜
(
ひとや
)
を
明
(
あ
)
かす
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
187
鴉
(
からす
)
の
声
(
こゑ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
188
又
(
また
)
もや
進
(
すす
)
む
四
(
よ
)
つの
杖
(
つゑ
)
189
弥仙
(
みせん
)
の
山
(
やま
)
の
絶頂
(
ぜつちやう
)
に
190
四足
(
しそく
)
の
草蛙
(
わらぢ
)
に
恙
(
つつが
)
なく
191
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
余
(
あま
)
りの
身
(
み
)
を
乗
(
の
)
せて
192
神
(
かみ
)
の
御声
(
みこゑ
)
を
笠
(
かさ
)
の
内
(
うち
)
193
厳
(
いづ
)
の
御前
(
みまへ
)
のいと
清
(
きよ
)
く
194
鬼
(
おに
)
も
大蛇
(
をろち
)
もコンパスの
195
谷間
(
たにま
)
を
指
(
さ
)
して
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く
196
茲
(
ここ
)
に
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
一行
(
いつかう
)
は
197
峰
(
みね
)
の
嵐
(
あらし
)
に
送
(
おく
)
られて
198
老木
(
らうぼく
)
茂
(
しげ
)
る
谷路
(
たにみち
)
を
199
流
(
なが
)
れに
沿
(
そ
)
ひて
逸早
(
いちはや
)
く
200
進
(
すす
)
み
進
(
すす
)
みて
檜山
(
ひのきやま
)
201
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
も
202
一度
(
いちど
)
に
開
(
ひら
)
く
梅迫
(
うめざこ
)
や
203
道
(
みち
)
も
直
(
すぐ
)
なる
上杉
(
うへすぎ
)
の
204
郷
(
さと
)
を
後
(
うしろ
)
に
味方原
(
みかたばら
)
205
深
(
ふか
)
き
仕組
(
しぐみ
)
は
白瀬川
(
しらせがは
)
206
浪音
(
なみおと
)
高
(
たか
)
き
音彦
(
おとひこ
)
が
207
加米
(
かめ
)
と
夏
(
なつ
)
とを
伴
(
とも
)
なひて
208
悦子
(
よしこ
)
の
姫
(
ひめ
)
を
守
(
まも
)
りつつ
209
綾
(
あや
)
の
聖地
(
せいち
)
に
上
(
のぼ
)
り
来
(
く
)
る
210
珍
(
うづ
)
の
御言
(
みこと
)
を
蒙
(
かうむ
)
りし
211
悦子
(
よしこ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
胸
(
むね
)
の
内
(
うち
)
212
うちあけかねし
苦
(
くるし
)
みは
213
神
(
かみ
)
より
外
(
ほか
)
に
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
の
214
計
(
はか
)
り
知
(
し
)
られぬ
仕組
(
しぐみ
)
なり
215
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
216
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
217
悦子姫
(
よしこひめ
)
は、
218
世継王
(
よつわう
)
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
に、
219
神
(
かみ
)
の
大命
(
たいめい
)
を
被
(
かうむ
)
りて、
220
加米彦
(
かめひこ
)
、
221
夏彦
(
なつひこ
)
、
222
音彦
(
おとひこ
)
に
命
(
めい
)
じ、
223
些
(
ささ
)
やかなる
家
(
いへ
)
を
作
(
つく
)
らしめ、
224
ここに
国治立
(
くにはるたちの
)
命
(
みこと
)
、
225
豊国姫
(
とよくにひめの
)
命
(
みこと
)
の
二神
(
にしん
)
を
鎮祭
(
ちんさい
)
し、
226
加米彦
(
かめひこ
)
、
227
夏彦
(
なつひこ
)
をして
之
(
これ
)
を
守
(
まも
)
らしめ、
228
自
(
みづか
)
らは
音彦
(
おとひこ
)
を
伴
(
とも
)
なひ、
229
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
隠
(
かく
)
れ
給
(
たま
)
ふ
近江
(
あふみ
)
の
竹生島
(
ちくぶしま
)
に
出立
(
しゆつたつ
)
せむとする
折
(
をり
)
しも、
230
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
在処
(
ありか
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
きた
)
る
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
男女
(
だんぢよ
)
、
231
日
(
ひ
)
は
漸
(
やうや
)
く
西山
(
せいざん
)
に
没
(
かく
)
れし
黄昏時
(
たそがれどき
)
、
232
門
(
もん
)
の
戸
(
と
)
を
叩
(
たた
)
いて、
233
女
『モシモシお
尋
(
たづ
)
ね
申
(
まを
)
します。
234
此
(
この
)
お
家
(
うち
)
は
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
のお
館
(
やかた
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
235
と
優
(
やさ
)
しき
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
。
236
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤアどこやらで
聞
(
き
)
いた
事
(
こと
)
の
有
(
あ
)
る
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
だ……おい
夏彦
(
なつひこ
)
、
237
表
(
おもて
)
を
開
(
あ
)
けて
見
(
み
)
よ』
238
夏彦
(
なつひこ
)
『
此
(
この
)
木
(
き
)
の
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
つた
山
(
やま
)
の
裾
(
すそ
)
の
一軒家
(
いつけんや
)
、
239
薄暗
(
うすぐら
)
くなつてから、
240
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
く
)
るよな
者
(
もの
)
は、
241
どうせ
本物
(
ほんもの
)
であるまい……
加米彦
(
かめひこ
)
、
242
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが
開
(
あ
)
けて
下
(
くだ
)
さらぬか。
243
私
(
わし
)
は
又
(
また
)
弥仙山
(
みせんざん
)
の
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
がすると
困
(
こま
)
るからなア』
244
加米彦
(
かめひこ
)
『エー
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
男
(
をとこ
)
だなア。
245
昼
(
ひる
)
になるとビチビチはしやいで、
246
夜
(
よる
)
になると
悄気
(
せうげ
)
て
了
(
しま
)
ふ
加米彦
(
かめひこ
)
……オツトドツコイ
夏彦
(
なつひこ
)
の
様
(
やう
)
な
男
(
をとこ
)
だなア』
247
夏彦
(
なつひこ
)
『ハヽヽヽ、
248
オイ
加米彦
(
かめひこ
)
、
249
チツト
勘定
(
かんぢやう
)
が
違
(
ちが
)
ひはしませぬか、
250
ソンナ
計算
(
けいさん
)
をやつて
居
(
を
)
ると、
251
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
も
経
(
た
)
たずに
破産
(
はさん
)
の
運命
(
うんめい
)
に
陥
(
おちい
)
り、
252
身代
(
しんだい
)
限
(
かぎ
)
りの
処分
(
しよぶん
)
を
受
(
う
)
けますぞ』
253
加米彦
(
かめひこ
)
『ナーニ、
254
一寸
(
ちよつと
)
神霊術
(
しんれいじゆつ
)
に
依
(
よ
)
つて、
255
人格
(
じんかく
)
交換
(
かうくわん
)
をやつたのだ。
256
お
前
(
まへ
)
の
肉体
(
にくたい
)
には
加米彦
(
かめひこ
)
が
憑
(
うつ
)
り、
257
加米彦
(
かめひこ
)
の
肉体
(
にくたい
)
にはお
前
(
まへ
)
の
霊
(
れい
)
が
憑
(
うつ
)
つて
居
(
を
)
るのだから、
258
所謂
(
いはゆる
)
、
259
お
前
(
まへ
)
が
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けるのは
畢竟
(
つまり
)
加米彦
(
かめひこ
)
が
開
(
あ
)
けるのだ。
260
……オイ
加米彦
(
かめひこ
)
の
代表者
(
だいへうしや
)
、
261
夏彦
(
なつひこ
)
が
命令
(
めいれい
)
する、
262
……
早
(
はや
)
く
開
(
あ
)
けないか』
263
夏彦
(
なつひこ
)
『エー
何
(
なん
)
とかかとか
言
(
い
)
つて、
264
責任
(
せきにん
)
を
忌避
(
きひ
)
する
事
(
こと
)
ばつかり
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
やがる。
265
……アヽ
仕方
(
しかた
)
がない、
266
ソンナラ
准
(
じゆん
)
加米彦
(
かめひこ
)
が
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けてやらうかい』
267
と
小声
(
こごゑ
)
に
囁
(
ささや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
268
ガラリと
開
(
あ
)
けた。
269
夏彦
(
なつひこ
)
『ヤアあなたは
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
、
270
……ヤア
青彦
(
あをひこ
)
さま、
271
馬
(
うま
)
さま、
272
鹿
(
しか
)
さま、
273
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
だ。
274
サア
這入
(
はい
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
275
……オイオイ
夏彦
(
なつひこ
)
の
代理
(
だいり
)
、
276
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
光来
(
くわうらい
)
だ。
277
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
取次
(
とりつぎ
)
を
申
(
まを
)
さぬか』
278
加米彦
(
かめひこ
)
『モウ
人格
(
じんかく
)
変換
(
へんくわん
)
だ。
279
併
(
しか
)
し
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げるのは、
280
矢張
(
やつぱり
)
加米彦
(
かめひこ
)
の
特権
(
とくけん
)
だ』
281
と
一間
(
ひとま
)
に
入
(
い
)
り、
282
加米彦
『モシモシ
悦子姫
(
よしこひめ
)
さま、
283
紫姫
(
むらさきひめ
)
さま
一行
(
いつかう
)
が
見
(
み
)
えました』
284
悦子姫
(
よしこひめ
)
『それは
良
(
い
)
い
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
285
実
(
じつ
)
は
夜前
(
やぜん
)
から、
286
一寸
(
ちよつと
)
、
287
神界
(
しんかい
)
の
御用
(
ごよう
)
があるので、
288
鎮魂
(
ちんこん
)
をかけて
置
(
お
)
いたのです。
289
青彦
(
あをひこ
)
、
290
馬公
(
うまこう
)
、
291
鹿公
(
しかこう
)
さんも
来
(
き
)
ましたでせう』
292
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤアあなたは
変
(
へん
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますネ』
293
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
天眼通
(
てんがんつう
)
、
294
自他神通
(
じたしんつう
)
の
妙法
(
めうはふ
)
を
以
(
もつ
)
て、
295
人
(
ひと
)
の
霊魂
(
みたま
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
使
(
つか
)
うたのです、
296
ホヽヽヽ』
297
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤアそンな
事
(
こと
)
があなたに
出来
(
でき
)
るとは、
298
今迄
(
いままで
)
思
(
おも
)
はなかつた。
299
人
(
ひと
)
は
見掛
(
みかけ
)
に
依
(
よ
)
らぬものですネー』
300
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまを
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く、
301
私
(
わたくし
)
の
居間
(
ゐま
)
へお
連
(
つ
)
れ
申
(
まを
)
して
下
(
くだ
)
さい』
302
加米彦
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
303
と
加米彦
(
かめひこ
)
は、
304
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
下
(
さが
)
り、
305
加米彦
『アヽやつぱり
女
(
をんな
)
は
女連
(
をんなづ
)
れだ。
306
モシモシ
紫姫
(
むらさきひめ
)
さま、
307
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
が
特別
(
とくべつ
)
待遇
(
たいぐう
)
を
以
(
もつ
)
てあなた
一人
(
ひとり
)
に
限
(
かぎ
)
り、
308
拝謁
(
はいえつ
)
を
許
(
ゆる
)
すと
仰
(
あふ
)
せられます。
309
どうぞ
奥
(
おく
)
へお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さい』
310
紫姫
(
むらさきひめ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
311
と
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したり。
312
悦子姫
(
よしこひめ
)
『コレ
音彦
(
おとひこ
)
さま、
313
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
314
あなた
暫
(
しばら
)
く、
315
妾
(
わたし
)
の
声
(
こゑ
)
の
聞
(
きこ
)
えぬ
所
(
とこ
)
に
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
316
少
(
すこ
)
し
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
がありますから……』
317
加米彦
(
かめひこ
)
『
女
(
をんな
)
は
曲者
(
くせもの
)
とはよく
言
(
い
)
つたものだ、
318
ナア
音彦
(
おとひこ
)
さま、
319
今迄
(
いままで
)
は
音彦
(
おとひこ
)
々々
(
おとひこ
)
と
仰有
(
おつしや
)
つたが、
320
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまがお
出
(
い
)
でになるが
早
(
はや
)
いか、
321
一寸
(
ちよつと
)
相談
(
さうだん
)
があるから、
322
聞
(
きこ
)
えぬ
所
(
とこ
)
へ
往
(
い
)
て
下
(
くだ
)
さい……なンテ
本当
(
ほんたう
)
に
馬鹿
(
ばか
)
にされますなア』
323
音彦
(
おとひこ
)
『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
324
皆
(
みな
)
さま、
325
暫
(
しばら
)
く
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
へでも
往
(
い
)
つて、
326
面白
(
おもしろ
)
い
話
(
はなし
)
でも
致
(
いた
)
しませう。
327
何時
(
なんどき
)
吾々
(
われわれ
)
は
斯
(
か
)
うやつて
居
(
を
)
つても、
328
悦子姫
(
よしこひめ
)
女王
(
ぢよわう
)
から、
329
ドンナ
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
が
下
(
さが
)
つて、
330
何処
(
どこ
)
へ
出張
(
しゆつちやう
)
を
命
(
めい
)
ぜられるやら
分
(
わか
)
つたものぢやない。
331
今
(
いま
)
の
内
(
うち
)
に
一
(
ひと
)
つゆつくりと、
332
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
で
打解
(
うちと
)
けて
話
(
はなし
)
を
致
(
いた
)
しませうかい。
333
青彦
(
あをひこ
)
さま、
334
馬
(
うま
)
さま、
335
鹿
(
しか
)
さま、
336
サア
参
(
まゐ
)
りませう』
337
と
音彦
(
おとひこ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
338
半丁
(
はんちやう
)
許
(
ばか
)
り
離
(
はな
)
れたる
木下闇
(
こしたやみ
)
に、
339
探
(
さぐ
)
り
探
(
さぐ
)
り
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
340
加米彦
(
かめひこ
)
『アヽ
暗
(
くら
)
い
暗
(
くら
)
い、
341
丸
(
まる
)
で
弥仙山
(
みせんざん
)
に
野宿
(
のじゆく
)
した
時
(
とき
)
の
様
(
やう
)
だ』
342
夏彦
(
なつひこ
)
『キヤツキヤツ、
343
ザアザア、
344
ウンウン、
345
バチバチ、
346
ガラガラ……ガ、
347
サアこれから
幕開
(
まくあ
)
きと
御座
(
ござ
)
い』
348
加米彦
(
かめひこ
)
『エーしやうもない
事
(
こと
)
言
(
い
)
ふな。
349
言霊
(
ことたま
)
の
幸
(
さち
)
はふ
国
(
くに
)
だ。
350
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
夏彦
(
なつひこ
)
、
351
貴様
(
きさま
)
は
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまに
電波
(
でんぱ
)
を、
352
チヨイチヨイ
送
(
おく
)
つて
居
(
ゐ
)
るが、
353
長持
(
ながもち
)
の
蓋
(
ふた
)
だ、
354
片一方
(
かたいつぱう
)
はアイても、
355
片一方
(
かたいつぱう
)
はアク
気遣
(
きづか
)
ひはないワ。
356
モウ
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り、
357
執着心
(
しふちやくしん
)
を
棄
(
す
)
てたが
宜
(
よ
)
からうぞ』
358
夏彦
(
なつひこ
)
『
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ひよるのだ。
359
蛙
(
かはづ
)
は
口
(
くち
)
から、
360
……それや
貴様
(
きさま
)
の
事
(
こと
)
だよ』
361
加米彦
(
かめひこ
)
『ナーニ、
362
貴様
(
きさま
)
の
霊
(
れい
)
が
俺
(
おれ
)
の
肉体
(
にくたい
)
に
始終
(
しじう
)
出入
(
でいり
)
しよつて、
363
ソンナ
心
(
こころ
)
を
出
(
だ
)
しよるのだ。
364
貴様
(
きさま
)
の
霊
(
れい
)
が
憑依
(
ひようい
)
した
時
(
とき
)
の
恋
(
こひ
)
の
猛烈
(
まうれつ
)
さ……と
云
(
い
)
つたら、
365
九寸
(
くすん
)
五分
(
ごぶ
)
式
(
しき
)
だ、
366
まだも
違
(
ちが
)
へば
軋死
(
あつし
)
式
(
しき
)
、
367
首吊
(
くびつ
)
り
式
(
しき
)
、
368
暴風雨
(
ばうふうう
)
地震
(
ぢしん
)
式
(
しき
)
の
恋
(
こひ
)
の
雲
(
くも
)
が
包
(
つつ
)
ンで
来
(
き
)
よつて、
369
暗澹咫尺
(
あんたんしせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜずと
云
(
い
)
ふ……
時々
(
ときどき
)
幕
(
まく
)
が
下
(
お
)
りるのだよ。
370
もう
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
改心
(
かいしん
)
をして、
371
俺
(
おれ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
離
(
はな
)
れて
呉
(
く
)
れ。
372
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
小豆飯
(
あづきめし
)
を
三升
(
さんじよう
)
三合
(
さんがふ
)
、
373
油揚
(
あぶらあげ
)
を
三十三
(
さんじふさん
)
枚
(
まい
)
買
(
か
)
つて、
374
四辻
(
よつつじ
)
まで
送
(
おく
)
つてやる、
375
斯
(
こ
)
れでモウさつぱりと
諦
(
あきら
)
めるのだよ』
376
夏彦
(
なつひこ
)
『
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
やがるのだ。
377
勝手
(
かつて
)
な
熱
(
ねつ
)
ばつかり
吹
(
ふ
)
きよつて、
378
……
弥仙山
(
みせんざん
)
の
極秘
(
ごくひ
)
を、
379
音彦
(
おとひこ
)
さまの
前
(
まへ
)
で
暴露
(
ばくろ
)
しようか』
380
加米彦
(
かめひこ
)
『どうなつと
勝手
(
かつて
)
にしたが
宜
(
い
)
いワい。
381
大胆
(
だいたん
)
不敵
(
ふてき
)
の
加米彦
(
かめひこ
)
は
梟鳥
(
ふくろどり
)
式
(
しき
)
だ。
382
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
暗夜
(
あんや
)
になればなる
程
(
ほど
)
、
383
元気
(
げんき
)
旺盛
(
わうせい
)
となつて
来
(
く
)
るのだ。
384
弥仙山
(
みせんざん
)
に
野宿
(
のじゆく
)
した
時
(
とき
)
は、
385
貴様
(
きさま
)
の
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
俺
(
おれ
)
の
肉体
(
にくたい
)
に
憑依
(
ひようい
)
しよつて、
386
臆病
(
おくびやう
)
な
態
(
ざま
)
を
見
(
み
)
せたぢやないか。
387
他人
(
ひと
)
の
事
(
こと
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
れば、
388
皆
(
みな
)
吾
(
わ
)
が
事
(
こと
)
であるぞよ、
389
改心
(
かいしん
)
なされ……』
390
夏彦
(
なつひこ
)
『どこまでも
厳重
(
げんぢう
)
な
鉄条網
(
てつでうまう
)
を
張
(
は
)
りよつて、
391
攻撃
(
こうげき
)
する
余地
(
よち
)
がなくなつた。
392
まつ
四角
(
しかく
)
な
顔
(
かほ
)
に
四角
(
しかく
)
い
肩
(
かた
)
を
聳
(
そび
)
やかし、
393
四角
(
しかく
)
四面
(
しめん
)
な、
394
冗談
(
ぜうだん
)
一
(
ひと
)
つ
言
(
い
)
はぬ
様
(
やう
)
な
風
(
かぜ
)
を
装
(
よそほ
)
うて
居乍
(
ゐなが
)
ら、
395
ぬらりくらりと、
396
まるで
蛸入道
(
たこにふだう
)
の
様
(
やう
)
な
代物
(
しろもの
)
だなア。
397
カメと
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
ア、
398
六角
(
ろくかく
)
の
甲
(
かふ
)
を
着
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
る
奴
(
やつ
)
だが、
399
此奴
(
こいつ
)
は
二角
(
にかく
)
程
(
ほど
)
落
(
おと
)
して
来
(
き
)
よつた。
400
カメと
鼈
(
すつぽん
)
との
混血児
(
こんけつじ
)
だなア。
401
……オーさうさう
混血児
(
こんけつじ
)
で
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
した。
402
コンコン
鳴
(
な
)
く
奴
(
やつ
)
ア、
403
やつぱり、
404
ケツだ。
405
小豆飯
(
あづきめし
)
に
油揚
(
あぶらあげ
)
式
(
しき
)
の
霊魂
(
みたま
)
だ。
406
其
(
その
)
勢
(
せい
)
か、
407
能
(
よ
)
く
口
(
くち
)
が
滑
(
なめ
)
らかに
辷
(
すべ
)
る
哩
(
わい
)
』
408
音彦
(
おとひこ
)
『オイ
加米彦
(
かめひこ
)
、
409
充分
(
じゆうぶん
)
に
今日
(
けふ
)
は
気焔
(
きえん
)
を
吐
(
は
)
いて
聞
(
き
)
かして
呉
(
く
)
れ。
410
明日
(
あす
)
はお
別
(
わか
)
れせにやならぬかも
分
(
わか
)
らないからなア』
411
加米彦
(
かめひこ
)
『エーそれや
音彦
(
おとひこ
)
さま、
412
本当
(
ほんたう
)
ですか』
413
音彦
(
おとひこ
)
『どうやらソンナ
気配
(
けはい
)
がする
様
(
やう
)
だ。
414
どうも
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまのお
顔色
(
かほいろ
)
に
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だ』
415
加米彦
(
かめひこ
)
『アハー、
416
あなたは、
417
間
(
ま
)
がな
隙
(
すき
)
がな、
418
あの
美
(
うつく
)
しい
別嬪
(
べつぴん
)
を
見詰
(
みつ
)
めて
御座
(
ござ
)
る
丈
(
だけ
)
あつて
違
(
ちが
)
つてますなア。
419
男
(
をとこ
)
を
怪
(
あや
)
しい
笑靨
(
ゑくぼ
)
の
中
(
なか
)
に
巻
(
ま
)
き
込
(
こ
)
みて
了
(
しま
)
ふ
丈
(
だけ
)
の
魔力
(
まりよく
)
を
保有
(
ほいう
)
して
御座
(
ござ
)
る
女王
(
ぢよわう
)
さまだから、
420
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
音彦
(
おとひこ
)
さまも
恋縛
(
れんばく
)
を
受
(
う
)
けなさつたと
見
(
み
)
えるワイ……ヤアお
芽出
(
めで
)
たう、
421
おウラ
山吹
(
やまぶき
)
さま、
422
……
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
道心
(
だうしん
)
堅固
(
けんご
)
の
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
だ。
423
太田
(
おほた
)
道灌
(
だうくわん
)
ぢやないが「
七重
(
ななへ
)
八重
(
やへ
)
花
(
はな
)
は
咲
(
さ
)
けども
山吹
(
やまぶき
)
の、
424
実
(
み
)
の
一
(
ひと
)
つだになきぞ
悲
(
かな
)
しき」とウツカリ
秋波
(
しうは
)
でも
送
(
おく
)
らうものなら、
425
三十珊
(
さんじつサンチ
)
の
巨弾
(
きよだん
)
で
撃退
(
げきたい
)
されて
了
(
しま
)
ふよ。
426
自惚
(
うぬぼれ
)
と
梅毒気
(
かさけ
)
の
無
(
な
)
い
者
(
もの
)
は
滅多
(
めつた
)
にないから、
427
音彦
(
おとひこ
)
さま、
428
能
(
よ
)
う
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けなさい』
429
音彦
(
おとひこ
)
『アハヽヽヽ、
430
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
431
それは、
432
例
(
れい
)
の
人格
(
じんかく
)
交換
(
かうくわん
)
ぢや
有
(
あ
)
りませぬか。
433
音彦
(
おとひこ
)
でなくて
実際
(
じつさい
)
は
加米彦
(
かめひこ
)
さまの
事
(
こと
)
でせう。
434
お
芽出
(
めで
)
たいお
方
(
かた
)
ですネ』
435
一同
(
いちどう
)
大声
(
おほごゑ
)
を
挙
(
あ
)
げて
笑
(
わら
)
ふ。
436
加米彦
(
かめひこ
)
『モウ
密談
(
みつだん
)
も
済
(
す
)
みただらう。
437
宜
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かして
帰
(
かへ
)
りませうか、
438
コンナ
暗
(
くら
)
がりへ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれて、
439
夜分
(
やぶん
)
に
目
(
め
)
の
見
(
み
)
えぬ
人間
(
にんげん
)
は、
440
聊
(
いささ
)
か
迷惑
(
めいわく
)
だ。
441
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
暗
(
くら
)
い
晩
(
ばん
)
に
得意
(
とくい
)
な
奴
(
やつ
)
はアマ
夏彦
(
なつひこ
)
一匹
(
いつぴき
)
位
(
くらゐ
)
なものだ、
442
ワツハヽヽヽ』
443
と
仇笑
(
あだわら
)
ひつつ
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
444
加米彦
(
かめひこ
)
、
445
門口
(
かどぐち
)
より、
446
加米彦
『モシモシ
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
、
447
モウ
御
(
ご
)
安産
(
あんざん
)
は
済
(
す
)
みましたかな、
448
男
(
をとこ
)
でしたか
女
(
をんな
)
でしたか、
449
……
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふお
名
(
な
)
をおつけになりました。
450
……
玉照彦
(
たまてるひこ
)
ですか……』
451
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ホヽヽヽ、
452
加米
(
かめ
)
さまですか。
453
エライ
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました。
454
サア
皆
(
みな
)
さまと
一緒
(
いつしよ
)
にお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
455
加米彦
(
かめひこ
)
『お
役目
(
やくめ
)
なれば、
456
罷
(
まか
)
り
通
(
とほ
)
るツ。
457
悦子姫
(
よしこひめ
)
殿
(
どの
)
、
458
紫姫
(
むらさきひめ
)
殿
(
どの
)
、
459
許
(
ゆる
)
させられえ』
460
とワザと
体
(
からだ
)
を
角立
(
かどだ
)
て、
461
紙雛
(
かみびな
)
の
様
(
やう
)
なスタイルで、
462
稍
(
やや
)
反
(
そ
)
り
気味
(
ぎみ
)
になつて、
463
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
にズーツと
通
(
とほ
)
る。
464
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
加米
(
かめ
)
さま、
465
冗談
(
ぜうだん
)
も
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
にして
置
(
お
)
きなさらぬか。
466
妾
(
わたし
)
は
明早朝
(
みやうさうてう
)
、
467
音彦
(
おとひこ
)
さまと
此処
(
ここ
)
を
立出
(
たちい
)
で、
468
或
(
あ
)
る
所
(
ところ
)
へ
参
(
まゐ
)
ります。
469
加米彦
(
かめひこ
)
さまと
夏彦
(
なつひこ
)
さま、
470
どうぞ
留守
(
るす
)
をシツカリ
頼
(
たの
)
みます』
471
加米彦
(
かめひこ
)
『ヘー、
472
ヤツパリ……ヤツパリですなア』
473
悦子姫
(
よしこひめ
)
『エツ、
474
何
(
なん
)
ですと』
475
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤア、
476
何
(
なん
)
でも
有
(
あ
)
りませぬ。
477
ヤツパリあなたは
神界
(
しんかい
)
の
大切
(
たいせつ
)
な
御用
(
ごよう
)
をなさるお
方
(
かた
)
、
478
到底
(
たうてい
)
吾々
(
われわれ
)
ヘツポコの
計
(
はか
)
り
知
(
し
)
る
可
(
べか
)
らざる
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
が
有
(
あ
)
ると
見
(
み
)
えますワイ』
479
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ホヽヽヽ』
480
紫姫
(
むらさきひめ
)
『ホヽヽヽ』
481
音彦
(
おとひこ
)
『
唯今
(
ただいま
)
承
(
うけたま
)
はれば、
482
私
(
わたくし
)
はあなたと
共
(
とも
)
に、
483
どつかへ
参
(
まゐ
)
るのですか』
484
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ハイ
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
乍
(
なが
)
ら、
485
どうぞ
妾
(
わたし
)
に
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
486
音彦
(
おとひこ
)
『ハイ
承知
(
しようち
)
仕
(
つかまつ
)
りました。
487
どこまでも、
488
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
ならば、
489
お
伴
(
とも
)
致
(
いた
)
しませう』
490
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤア
音彦
(
おとひこ
)
の
命
(
みこと
)
、
491
万歳
(
ばんざい
)
々々
(
ばんざい
)
』
492
と、
493
度拍子
(
どべうし
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
大声
(
おほごゑ
)
で
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てる。
494
音彦
(
おとひこ
)
『
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
495
永
(
なが
)
らく
御
(
ご
)
昵懇
(
ぢつこん
)
になりましたが、
496
暫
(
しばら
)
くお
別
(
わか
)
れせなくてはなりませぬ。
497
どうぞ
機嫌
(
きげん
)
よく
留守
(
るす
)
をして
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいませや』
498
加米彦
(
かめひこ
)
『ハイハイ
畏
(
かしこ
)
まりました。
499
あなたも、
500
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまと
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
よく、
501
相
(
あひ
)
提携
(
ていけい
)
して、
502
極秘
(
ごくひ
)
的
(
てき
)
神業
(
しんげふ
)
に
御
(
ご
)
参加
(
さんか
)
下
(
くだ
)
されませ』
503
と
意味
(
いみ
)
有
(
あ
)
りげに、
504
ニタリと
笑
(
わら
)
ふ。
505
夏彦
(
なつひこ
)
『
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
、
506
私
(
わたくし
)
はお
伴
(
とも
)
は
叶
(
かな
)
ひませぬか』
507
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
508
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
で、
509
あなたは
暫
(
しばら
)
く、
510
妾
(
わらは
)
の
帰
(
かへ
)
るまで、
511
加米彦
(
かめひこ
)
さまと
留守
(
るす
)
をして
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
512
加米彦
(
かめひこ
)
『アハヽヽヽ、
513
態
(
ざま
)
を
見
(
み
)
い、
514
サア
明日
(
あす
)
からは
此
(
この
)
加米彦
(
かめひこ
)
の、
515
何事
(
なにごと
)
も
指揮
(
しき
)
命令
(
めいれい
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
するのだぞ。
516
……モシモシ
悦子姫
(
よしこひめ
)
さま、
517
どうぞあなたのお
留守中
(
るすちう
)
は、
518
夏彦
(
なつひこ
)
が
吾々
(
われわれ
)
の
命令
(
めいれい
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
致
(
いた
)
します
様
(
やう
)
に、
519
厳
(
きび
)
しく
命令
(
めいれい
)
を
下
(
くだ
)
しておいて
下
(
くだ
)
さい。
520
上下
(
じやうげ
)
の
区別
(
くべつ
)
がついて
居
(
ゐ
)
ませぬと、
521
凡
(
すべ
)
ての
点
(
てん
)
に
於
(
おい
)
て
矛盾
(
むじゆん
)
撞着
(
どうちやく
)
、
522
政治
(
せいぢ
)
上
(
じやう
)
の
統一
(
とういつ
)
を
紊
(
みだ
)
しますから……』
523
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
524
あなたお
年
(
とし
)
は
幾歳
(
いくつ
)
でしたかネー』
525
加米彦
(
かめひこ
)
『ハイ
私
(
わたくし
)
はザツト
二十
(
にじつ
)
才
(
さい
)
で
御座
(
ござ
)
います』
526
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
違
(
ちが
)
ひませう……』
527
加米彦
(
かめひこ
)
『イエ
別
(
べつ
)
に……さう
沢山
(
やつと
)
も
違
(
ちが
)
ひませぬが……
精神
(
せいしん
)
上
(
じやう
)
から
申
(
まを
)
せば、
528
先
(
ま
)
づ
二十
(
にじつ
)
才
(
さい
)
……
現界
(
げんかい
)
に
肉体
(
にくたい
)
を
現
(
あら
)
はしてからは
三十三
(
さんじふさん
)
年
(
ねん
)
になります』
529
悦子姫
(
よしこひめ
)
『それは
大変
(
たいへん
)
な
違算
(
ゐさん
)
ぢやありませぬか』
530
加米彦
(
かめひこ
)
『
何分
(
なにぶん
)
亡父
(
ぼうふ
)
が
貧乏暮
(
びんばふぐら
)
しをして
居
(
ゐ
)
たものですから、
531
素寒貧
(
すかんぴん
)
で、
532
十三
(
じふさん
)
(
仰山
(
ぎやうさん
)
)な
遺産
(
ゐさん
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ、
533
アハヽヽヽ』
534
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
夏彦
(
なつひこ
)
さまは
幾才
(
いくつ
)
ですか』
535
夏彦
(
なつひこ
)
『ハイ
私
(
わたくし
)
は
見
(
み
)
た
割
(
わり
)
とは、
536
ひね
南瓜
(
かぼちや
)
で
御座
(
ござ
)
います。
537
精神
(
せいしん
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
538
肉体
(
にくたい
)
は
四十八
(
しじふはち
)
になりました』
539
悦子姫
(
よしこひめ
)
『アヽそれなら
年長者
(
ねんちやうしや
)
を
以
(
もつ
)
て
上役
(
うはやく
)
と
定
(
さだ
)
めます。
540
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
541
妾
(
わたし
)
が
此家
(
ここ
)
を
出立
(
しゆつたつ
)
するが
最後
(
さいご
)
、
542
何事
(
なにごと
)
も
夏彦
(
なつひこ
)
さまの
指揮
(
しき
)
命令
(
めいれい
)
に
従
(
したが
)
つて、
543
神妙
(
しんめう
)
に
留守
(
るす
)
をして
下
(
くだ
)
さいや』
544
加米彦
(
かめひこ
)
『ヘエ………』
545
悦子姫
(
よしこひめ
)
、
546
稍
(
やや
)
顔色
(
がんしよく
)
を
変
(
か
)
へ、
547
悦子姫
『
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
548
お
嫌
(
いや
)
ですか』
549
加米彦
『イヤイヤ
滅相
(
めつそう
)
もない、
550
何事
(
なにごと
)
もあなたの
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
従
(
したが
)
ひます』
551
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
夏彦
(
なつひこ
)
さまの
命令
(
めいれい
)
は
即
(
すなは
)
ち
妾
(
わたし
)
の
命令
(
めいれい
)
、
552
どうぞ
宜
(
よろ
)
しうお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
します』
553
とワザと
両手
(
りやうて
)
をついて
叮嚀
(
ていねい
)
に
下
(
した
)
から
出
(
で
)
る。
554
加米彦
『エー
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は、
555
夏彦
(
なつひこ
)
の
下
(
した
)
に
従
(
つ
)
くのは
虫
(
むし
)
が
好
(
す
)
きませぬが、
556
其処
(
そこ
)
まで
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいますれば、
557
謹
(
つつし
)
みてお
受
(
うけ
)
致
(
いた
)
します。
558
……
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
のお
代理
(
だいり
)
夏彦
(
なつひこ
)
様
(
さま
)
、
559
どうぞ
宜
(
よろ
)
しう、
560
何事
(
なにごと
)
も
御
(
ご
)
指導
(
しだう
)
下
(
くだ
)
さいませ』
561
夏彦
(
なつひこ
)
『お
互様
(
たがひさま
)
に
宜
(
よろ
)
しうお
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
します』
562
悦子姫
(
よしこひめ
)
『どうぞお
二人
(
ふたり
)
さま、
563
公私
(
こうし
)
混同
(
こんどう
)
せない
様
(
やう
)
に
頼
(
たの
)
みますで……』
564
二人
(
ふたり
)
一度
(
いちど
)
に、
565
夏彦、加米彦
『ハイハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
566
と
両手
(
りやうて
)
を
突
(
つ
)
き、
567
今度
(
こんど
)
は
真面目
(
まじめ
)
になつてお
受
(
うけ
)
をする。
568
紫姫
(
むらさきひめ
)
『
青彦
(
あをひこ
)
さま、
569
馬
(
うま
)
さま、
570
鹿
(
しか
)
さま、
571
これから
妾
(
わたし
)
は、
572
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
より
重大
(
ぢうだい
)
なる
使命
(
しめい
)
を
蒙
(
かうむ
)
りました。
573
明朝
(
みやうてう
)
未明
(
みめい
)
に
此処
(
ここ
)
を
立出
(
たちい
)
で、
574
妾
(
わたし
)
の
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
へ、
575
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい。
576
さうして
青彦
(
あをひこ
)
さまと
云
(
い
)
ふお
名
(
な
)
は、
577
一寸
(
ちよつと
)
都合
(
つがふ
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
りますから、
578
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
名
(
な
)
を
改
(
あらた
)
めて、
579
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
より
若彦
(
わかひこ
)
とお
改
(
か
)
へになりましたから、
580
其
(
その
)
お
積
(
つ
)
もりで
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいや』
581
青彦
(
あをひこ
)
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
582
何
(
なん
)
だか
天
(
あま
)
の
稚彦
(
わかひこの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
に
能
(
よ
)
く
似
(
に
)
たよな
名
(
な
)
ですなア。
583
嬉
(
うれ
)
しい
様
(
やう
)
でもあり、
584
悲
(
かな
)
しい
様
(
やう
)
な
気持
(
きもち
)
も
致
(
いた
)
します。
585
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
586
何事
(
なにごと
)
も
神命
(
しんめい
)
のまにまに、
587
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
を
致
(
いた
)
します。
588
どうぞ
宜
(
よろ
)
しう……』
589
紫姫
(
むらさきひめ
)
『ハイ、
590
不束
(
ふつつか
)
な
妾
(
わたし
)
、
591
どうぞ
宜
(
よろ
)
しう
御
(
ご
)
指導
(
しだう
)
を
仰
(
あふ
)
ぎます。
592
……まだ
夜明
(
よあ
)
けまでには
間
(
ま
)
が
御座
(
ござ
)
いますれば、
593
皆
(
みな
)
さま
一休眠
(
ひとやすみ
)
致
(
いた
)
しませう』
594
音彦
(
おとひこ
)
『それや
結構
(
けつこう
)
です。
595
サア
皆
(
みな
)
さま、
596
お
休眠
(
やすみ
)
なさいませ。
597
お
先
(
さき
)
へ
失礼
(
しつれい
)
』
598
と
横
(
よこ
)
になつて、
599
早
(
はや
)
くも
高鼾
(
たかいびき
)
をかく。
600
加米彦
(
かめひこ
)
『ナント
罪
(
つみ
)
のない
男
(
をとこ
)
だなア。
601
今
(
いま
)
物
(
もの
)
を
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
つたかと
思
(
おも
)
えば、
602
早
(
はや
)
高鼾
(
たかいびき
)
だ。
603
人間
(
にんげん
)
も
茲
(
ここ
)
まで
総
(
すべ
)
てに
超越
(
てうゑつ
)
すれば、
604
モウ
占
(
しめ
)
たものだ、
605
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
の
眼力
(
がんりき
)
も
偉
(
えら
)
いワイ』
606
夏彦
(
なつひこ
)
『コレコレ
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
607
皆様
(
みなさま
)
のお
就寝
(
やすみ
)
の
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
になります。
608
あなたも
早
(
はや
)
く、
609
おとなしくお
睡眠
(
やすみ
)
なさい』
610
加米彦
(
かめひこ
)
『コレハコレハ
上官
(
じやうくわん
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
、
611
確
(
たしか
)
に
遵守
(
じゆんしゆ
)
し
奉
(
たてまつ
)
る、
612
恐惶
(
きようくわう
)
頓首
(
とんしゆ
)
、
613
アツハヽヽヽ』
614
と
笑
(
わら
)
ひ
転
(
こ
)
けた
儘
(
まま
)
、
615
呼吸
(
こきふ
)
不整調
(
ふせいてう
)
な
高鼾
(
たかいびき
)
をかく。
616
一同
(
いちどう
)
は
之
(
こ
)
れに
倣
(
なら
)
うて、
617
残
(
のこ
)
らず
寝
(
しん
)
に
就
(
つ
)
きたり。
618
鶏
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
に
目
(
め
)
をさまし、
619
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
音彦
(
おとひこ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
620
綾
(
あや
)
の
大橋
(
おほはし
)
打渡
(
うちわた
)
り、
621
山家
(
やまが
)
方面
(
はうめん
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
622
紫姫
(
むらさきひめ
)
は、
623
由良川
(
ゆらがは
)
の
川辺
(
かはべ
)
伝
(
づた
)
ひに、
624
西北
(
せいほく
)
指
(
さ
)
して
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
625
行先
(
ゆくさき
)
をも
告
(
つ
)
げずトボトボと
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
626
嗚呼
(
ああ
)
、
627
紫姫
(
むらさきひめ
)
は
今後
(
こんご
)
如何
(
いか
)
なる
活動
(
くわつどう
)
をなすならむか。
628
(
大正一一・四・二五
旧三・二九
松村真澄
録)
629
(昭和一〇・六・一 王仁校正)
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