霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 四尾山(よつをやま)〔六三二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第2篇 再探再険 よみ(新仮名遣い):さいたんさいけん
章:第4章 四尾山 よみ(新仮名遣い):よつおやま 通し章番号:632
口述日:1922(大正11)年04月25日(旧03月29日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
自転倒島の真秀良場、青垣山をめぐらせる下津岩根の貴の苑、この世を治める丸山の、神の稜威は世継王山。桶伏の丸き神の丘、黄金の玉が隠された貴の聖地の永久に動かぬ御代の神柱。
国武彦が常永に鎮まりまして、天翔り国翔ける神力を潜め居る弥仙山。木の花姫の生御魂である埴安彦や埴安姫が築いた神の都は、いつしか栄えて開ける梅の花。
悦子姫一行は、英子姫から弥仙山に神業があると聞いて山に上り、玉照姫の出産に立ち会った。
悦子姫は神の大命を被って、音彦、加米彦、夏彦に命じて世継王山の麓にささやかな家を造らせた。ここに国治立命、豊国姫命を鎮祭した。
ある日、悦子姫を尋ねてくる四人の男女があった。それは、紫姫、青彦、馬、鹿の四人連れであった。
悦子姫は、紫姫のみを部屋に入れて人払いをした。その他の一同は、仕方なく外で待っている。その間、夏彦と加米彦は軽口を叩き合っている。
加米彦が悦子姫に人払いの解除を催促に行くと、一同は呼び戻された。そして神命により悦子姫は近江の竹生島に音彦を伴って行く事になった、と告げた。竹生島には、神素盞嗚大神がお隠れになっている。
加米彦と夏彦は、残って世継王山麓の館を守ることになった。年長者の夏彦を主と決めた。
紫姫一行は、神命によって行く先を授けられた。青彦は、日の出神より若彦と名を賜った。
翌朝、悦子姫と音彦は竹生島へと発ち、紫姫は供の三人に行く先も告げないまま、由良川の河辺伝いに西北指して進んでいった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-05-13 16:11:18 文字数:7258 OBC :rm1804
愛善世界社版:57頁 八幡書店版:第3輯 658頁 修補版: 校定版:59頁 普及版:26頁 初版: ページ備考:
001天(あめ)と地(つち)との神(かみ)の水火(いき)
002うまらにつばらに大八洲(おほやしま)
003天(あま)の沼矛(ぬほこ)の一雫(ひとしづく)
004自転倒(おのころ)島(じま)の真秀良場(まほらば)や
005青垣山(あをがきやま)を繞(めぐ)らせる
006下津(したつ)岩根(いはね)の貴(うづ)の苑(その)
007此(この)世(よ)を治(をさ)むる丸山(まるやま)の
008神(かみ)の稜威(みいづ)は世継王(よつわう)山(やま)
009力(ちから)隠(かく)して桶伏(をけふせ)の
010丸(まる)き姿(すがた)の神(かみ)の丘(をか)
011黄金(こがね)の玉(たま)の隠(かく)されし
012貴(うづ)の聖地(せいち)の永久(とこしへ)に
013動(うご)かぬ御代(みよ)の神柱(かむばしら)
014国武彦(くにたけひこ)の常永(とことは)に
015鎮(しづ)まりまして天(あま)翔(かけ)り
016国(くに)かけります神力(しんりき)を
017潜(ひそ)めて茲(ここ)に弥仙山(みせんざん)
018木(こ)の花姫(はなひめ)の生御魂(いくみたま)
019埴安彦(はにやすひこ)や埴安姫(はにやすひめ)の
020神(かみ)の命(みこと)の建(た)てましし
021神(かみ)の都(みやこ)の何時(いつ)しかに
022開(ひら)けて栄(さか)ゆる梅(うめ)の花(はな)
023薫(かほ)り床(ゆか)しき松(まつ)の世(よ)の
024弥勒(みろく)の御代(みよ)に老松(おいまつ)の
025茂(しげ)る川辺(かはべ)や小雲川(こくもがは)
026清(きよ)き流(なが)れの底(そこ)深(ふか)く
027四方(よも)の神々(かみがみ)人々(ひとびと)の
028霊魂(みたま)を洗(あら)ふ白瀬川(しらせがは)
029神(かみ)の仕組(しぐみ)に由良(ヨルダン)の
030ほまれを流(なが)す生田川(いくたがは)
031イクタの悩(なや)み凌(しの)ぎつつ
032神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)は
033天(あめ)と地(つち)との神柱(かむばしら)
034堅磐(かきは)常磐(ときは)に建(た)て給(たま)ふ
035暗(やみ)を晴(は)らして英子姫(ひでこひめ)
036万代(よろづよ)寿(ことほ)ぐ亀彦(かめひこ)が
037鶴(つる)の巣籠(すごも)る松ケ枝(まつがえ)に
038千代(ちよ)の礎(いしずゑ)固(かた)めつつ
039此(この)世(よ)を紊(みだ)す曲津(まがつ)神(かみ)
040鬼雲彦(おにくもひこ)を言向(ことむ)けて
041四方(よも)に塞(ふさ)がる叢雲(むらくも)を
042神(かみ)の伊吹(いぶき)に吹払(ふきはら)ひ
043清(きよ)めにや山家(やまが)の肥後(ひご)の橋(はし)
044神子坂(みこさか)橋(ばし)の手前(てまへ)まで
045スタスタ来(きた)る宣伝使(せんでんし)
046朧(おぼろ)にかかる月影(つきかげ)を
047透(すか)して向(むか)ふを眺(なが)むれば
048虫(むし)が知(し)らすか何(なん)となく
049心(こころ)にかかる春霞(はるがすみ)
050シカと見(み)えねど陽炎(かげろふ)の
051瞬(またた)く間(ま)もなく宣伝歌(せんでんか)
052耳(みみ)さす如(ごと)く聞(きこ)え来(く)る
053ツと立止(たちと)まり道(みち)の辺(へ)に
054様子(やうす)窺(うかが)ふ折(をり)もあれ
055夜目(よめ)にシカとは分(わか)らねど
056どこやら気分(きぶん)が悦子姫(よしこひめ)
057床(ゆか)しき影(かげ)とおとなへば
058案(あん)にたがはぬ麻柱(あななひ)の
059神(かみ)の司(つかさ)の悦子姫(よしこひめ)
060川瀬(かはせ)も響(ひび)く音彦(おとひこ)や
061まだシーズンは来(きた)らねど
062名(な)は夏彦(なつひこ)や加米彦(かめひこ)の
063随従(みとも)の影(かげ)は四人(よにん)連(づ)れ
064情(つれ)無(な)き浮世(うきよ)に揉(も)まれたる
065心(こころ)の底(そこ)のつれづれを
066徒然草(つれづれぐさ)を褥(しとね)とし
067互(たがひ)にあかす物語(ものがたり)
068神徳(しんとく)照(て)らす一(ひ)イ二(ふ)ウ三(み)四(よ)
069五(いつ)の御霊(みたま)の六人(むたり)連(づ)れ
070七度(ななたび)八度(やたび)九(ここの)十(たり)
071百度(ももたび)千度(ちたび)万度(よろづたび)
072亀(かめ)と加米(かめ)との呼吸(いき)合(あは)せ
073顕幽(けんいう)二界(にかい)に出没(しゆつぼつ)し
074五六七(みろく)の御代(みよ)を来(きた)すまで
075心(こころ)の帯(おび)を堅(かた)く締(し)め
076尽(つ)くさにや山家(やまが)の道(みち)の辺(べ)に
077深(ふか)き思(おも)ひを残(のこ)しつつ
078東(ひがし)と西(にし)へ別(わか)れ路(ぢ)の
079積(つも)る願(ねが)ひの山坂(やまさか)を
080さらばさらばの声(こゑ)共(とも)に
081別(わか)れ行(ゆ)くこそ雄々(をを)しけれ
082悦子(よしこ)の姫(ひめ)はスタスタと
083三人(みたり)の益良夫(ますらを)伴(ともな)ひて
084胸突坂(むなつきざか)を辿(たど)りつつ
085心(こころ)の空(そら)に浮(う)かぶ雲(くも)
086英子(ひでこ)の姫(ひめ)の御(おん)言葉(ことば)
087由縁(ゆかり)ありげに味(あぢ)はひつ
088霞(かすみ)を辿(たど)る心地(ここち)して
089いと勇(いさ)ましくかけて行(ゆ)く
090山(やま)の老樹(らうじゆ)は大空(おほぞら)を
091封(ふう)じて月日(つきひ)を隠(かく)しつつ
092深(ふか)き仕組(しぐみ)を包(つつ)むなる
093躑躅(つつじ)の花(はな)のここかしこ
094胸(むね)もいろいろ乱(みだ)れ咲(さ)く
095咲耶(さくや)の姫(ひめ)を祀(まつ)りたる
096木(こ)の花(はな)匂(にほ)ふ神(かみ)の山(やま)
097恵(めぐみ)も高(たか)き須弥仙(しゆみせん)の
098山(やま)の麓(ふもと)に来(き)て見(み)れば
099アヽ天国(てんごく)か楽園(らくゑん)か
100山(やま)と山(やま)とに挟(はさ)まれし
101青麦畑(あをむぎばたけ)菜種花(なたねばな)
102紫雲英(げんげ)の花(はな)も咲(さ)きみちて
103心持(こころもち)よき花(はな)むしろ
104蝶(てふ)舞(ま)ひ遊(あそ)ぶ神苑(しんゑん)に
105心(こころ)も赤(あか)き丹頂(たんちやう)の
106鶴(つる)の下(お)りたる如(ごと)くなる
107景色(けしき)眺(なが)めて賤(しづ)の屋(や)の
108細(ほそ)き煙(けぶり)も豊彦(とよひこ)が
109雪(ゆき)を欺(あざむ)く白髯(しらひげ)を
110折柄(をりから)吹(ふ)き来(く)る春風(はるかぜ)に
111いぢらせ乍(なが)らコツコツと
112あかざの杖(つゑ)にすがりつつ
113神(かみ)の使(つか)ひか真人(しんじん)か
114やつれし人(ひと)に似(に)もやらず
115威風(ゐふう)備(そな)はる翁(おきな)どの
116頼(たの)むとかけし言(こと)の葉(は)の
117刹那(せつな)の風(かぜ)に煽(あふ)られて
118心(こころ)もそよぐ悦子姫(よしこひめ)
119神(かみ)にひかるる思(おも)ひにて
120伏屋(ふせや)の前(まへ)に来(き)て見(み)れば
121三月(さんぐわつ)三日(みつか)の菱餅(ひしもち)に
122擬(まが)ふべらなる門(かど)の戸(と)に
123驚(おどろ)き乍(なが)ら何気(なにげ)なう
124表戸(おもてど)開(ひら)く音彦(おとひこ)が
125悦子(よしこ)の姫(ひめ)を伴(とも)なひて
126しけこき小屋(こや)の上(あが)り口(ぐち)
127休(やす)らふ折(をり)しも老夫婦(らうふうふ)
128蝶(てふ)よ花(はな)よと育(はぐく)みし
129生命(いのち)と頼(たの)む掌中(しやうちう)の
130娘(むすめ)のお玉(たま)が病気(いたつき)の
131心(こころ)にかかる物語(ものがたり)
132うまらにつばらに宣(の)りつれば
133慈愛(じあい)の権化(ごんげ)の悦子姫(よしこひめ)
134真玉手(またまで)玉手(たまで)さし延(の)べて
135娘(むすめ)のお玉(たま)を撫(な)でさすり
136首(くび)を傾(かたむ)けとつおいつ
137老(おい)の夫婦(ふうふ)に打向(うちむか)ひ
138豊彦(とよひこ)豊姫(とよひめ)お玉(たま)さま
139必(かなら)ず心配(しんぱい)遊(あそ)ばすな
140一生(いつしやう)癒(なほ)らぬ脹(は)れ病(やまひ)
141生命(いのち)にかかる気遣(きづか)ひは
142ないた涙(なみだ)を晴(は)らしませ
143厳(いづ)の御霊(みたま)の大神(おほかみ)が
144五六七(みろく)の御代(みよ)の礎(いしずゑ)と
145神(かみ)の水火(いき)をば固(かた)めまし
146お玉(たま)の方(かた)の体(たい)を藉(か)り
147三(み)つの御霊(みたま)の睦(むつ)み合(あ)ひ
148宿(やど)りましたる神(かみ)の御子(みこ)
149人(ひと)の呼吸(いき)にて固(かた)めたる
150曇(くも)りの多(おほ)き魂(たま)でない
151水晶玉(すいしやうだま)のミツ御霊(みたま)
152厳(いづ)の御霊(みたま)を兼(か)ねませる
153三五(さんご)の月(つき)の大神(おほかみ)の
154教(をしへ)を守(まも)る神人(しんじん)の
155今日(けふ)は嬉(うれ)しき誕生日(たんじやうび)
156黒白(あやめ)も分(わ)かぬ暗(やみ)の夜(よ)も
157愈(いよいよ)開(ひら)き春(はる)の空(そら)
158アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
159御霊(みたま)幸(さち)はひましませと
160祈(いの)る折(をり)しも忽(たちま)ちに
161ホギヤアホギヤアと産(うぶ)の声(こゑ)
162爺(ぢぢ)と姿(ばば)アは云(い)ふも更(さら)
163おつたま消(げ)たるお玉(たま)まで
164妊娠(おと)がしてから十八月(じふやつき)
165神(かみ)の恵(めぐみ)に恙(つつが)なく
166生(う)み落(おと)したる音彦(おとひこ)や
167万代(よろづよ)祝(いは)ふ加米彦(かめひこ)が
168手(て)の舞(まひ)足(あし)の踏(ふ)む所(ところ)
169知(し)らぬ許(ばか)りに雀躍(こをどり)し
170芽出度(めでた)い芽出度(めでた)いお芽出(めで)たい
171千代(ちよ)に八千代(やちよ)に伊勢蝦(いせえび)の
172曲(まが)つた腰(こし)の夏彦(なつひこ)が
173百(もも)の齢(よはひ)を重(かさ)ねつつ
174ピンピンシヤンと跳(は)ねまはる
175此(この)瑞祥(ずゐしやう)のミツ御霊(みたま)
176悦子(よしこ)の姫(ひめ)の計(はか)らひに
177玉照姫(たまてるひめ)と命名(めいめい)し
178述(の)ぶる挨拶(あいさつ)そこそこに
179口籠(くちごも)りたる涙声(なみだごゑ)
180涙(なみだ)の雨(あめ)を凌(しの)ぎつつ
181門口(かどぐち)出(い)づる四(よ)つの笠(かさ)
182四(よ)ツつの杖(つゑ)は地(ち)を叩(たた)き
183春(はる)の霞(かすみ)に包(つつ)まれて
184笠(かさ)は空中(くうちう)に揺(ゆら)ぎ行(ゆ)く
185夜(よ)は烏羽玉(うばたま)と暮(く)れ果(は)てて
186一夜(ひとや)を明(あ)かす森(もり)の中(なか)
187鴉(からす)の声(こゑ)と諸共(もろとも)に
188又(また)もや進(すす)む四(よ)つの杖(つゑ)
189弥仙(みせん)の山(やま)の絶頂(ぜつちやう)に
190四足(しそく)の草蛙(わらぢ)に恙(つつが)なく
191七(しち)尺(しやく)余(あま)りの身(み)を乗(の)せて
192神(かみ)の御声(みこゑ)を笠(かさ)の内(うち)
193厳(いづ)の御前(みまへ)のいと清(きよ)く
194鬼(おに)も大蛇(をろち)もコンパスの
195谷間(たにま)を指(さ)して下(くだ)り行(ゆ)く
196茲(ここ)に四(よ)人(にん)の一行(いつかう)は
197峰(みね)の嵐(あらし)に送(おく)られて
198老木(らうぼく)茂(しげ)る谷路(たにみち)を
199流(なが)れに沿(そ)ひて逸早(いちはや)く
200進(すす)み進(すす)みて檜山(ひのきやま)
201神(かみ)の恵(めぐみ)の木(こ)の花(はな)も
202一度(いちど)に開(ひら)く梅迫(うめざこ)や
203道(みち)も直(すぐ)なる上杉(うへすぎ)の
204郷(さと)を後(うしろ)に味方原(みかたばら)
205深(ふか)き仕組(しぐみ)は白瀬川(しらせがは)
206浪音(なみおと)高(たか)き音彦(おとひこ)が
207加米(かめ)と夏(なつ)とを伴(とも)なひて
208悦子(よしこ)の姫(ひめ)を守(まも)りつつ
209綾(あや)の聖地(せいち)に上(のぼ)り来(く)る
210珍(うづ)の御言(みこと)を蒙(かうむ)りし
211悦子(よしこ)の姫(ひめ)の胸(むね)の内(うち)
212うちあけかねし苦(くるし)みは
213神(かみ)より外(ほか)に世(よ)の人(ひと)の
214計(はか)り知(し)られぬ仕組(しぐみ)なり
215アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
216御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ。
217 悦子姫(よしこひめ)は、218世継王(よつわう)山(ざん)の麓(ふもと)に、219神(かみ)の大命(たいめい)を被(かうむ)りて、220加米彦(かめひこ)、221夏彦(なつひこ)、222音彦(おとひこ)に命(めい)じ、223些(ささ)やかなる家(いへ)を作(つく)らしめ、224ここに国治立(くにはるたちの)命(みこと)、225豊国姫(とよくにひめの)命(みこと)の二神(にしん)を鎮祭(ちんさい)し、226加米彦(かめひこ)、227夏彦(なつひこ)をして之(これ)を守(まも)らしめ、228自(みづか)らは音彦(おとひこ)を伴(とも)なひ、229神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の隠(かく)れ給(たま)ふ近江(あふみ)の竹生島(ちくぶしま)に出立(しゆつたつ)せむとする折(をり)しも、230悦子姫(よしこひめ)の在処(ありか)を尋(たづ)ねて来(きた)る四(よ)人(にん)の男女(だんぢよ)、231日(ひ)は漸(やうや)く西山(せいざん)に没(かく)れし黄昏時(たそがれどき)、232門(もん)の戸(と)を叩(たた)いて、
233女『モシモシお尋(たづ)ね申(まを)します。234此(この)お家(うち)は悦子姫(よしこひめ)様(さま)のお館(やかた)では御座(ござ)いませぬか』
235と優(やさ)しき女(をんな)の声(こゑ)。
236加米彦(かめひこ)『ヤアどこやらで聞(き)いた事(こと)の有(あ)る様(やう)な声(こゑ)だ……おい夏彦(なつひこ)、237表(おもて)を開(あ)けて見(み)よ』
238夏彦(なつひこ)『此(この)木(き)の生(は)え茂(しげ)つた山(やま)の裾(すそ)の一軒家(いつけんや)、239薄暗(うすぐら)くなつてから、240女(をんな)の声(こゑ)を出(だ)して尋(たづ)ねて来(く)るよな者(もの)は、241どうせ本物(ほんもの)であるまい……加米彦(かめひこ)、242御(ご)苦労(くらう)だが開(あ)けて下(くだ)さらぬか。243私(わし)は又(また)弥仙山(みせんざん)の様(やう)な声(こゑ)がすると困(こま)るからなア』
244加米彦(かめひこ)『エー気(き)の弱(よわ)い男(をとこ)だなア。245昼(ひる)になるとビチビチはしやいで、246夜(よる)になると悄気(せうげ)て了(しま)ふ加米彦(かめひこ)……オツトドツコイ夏彦(なつひこ)の様(やう)な男(をとこ)だなア』
247夏彦(なつひこ)『ハヽヽヽ、248オイ加米彦(かめひこ)、249チツト勘定(かんぢやう)が違(ちが)ひはしませぬか、250ソンナ計算(けいさん)をやつて居(を)ると、251一(いち)年(ねん)も経(た)たずに破産(はさん)の運命(うんめい)に陥(おちい)り、252身代(しんだい)限(かぎ)りの処分(しよぶん)を受(う)けますぞ』
253加米彦(かめひこ)『ナーニ、254一寸(ちよつと)神霊術(しんれいじゆつ)に依(よ)つて、255人格(じんかく)交換(かうくわん)をやつたのだ。256お前(まへ)の肉体(にくたい)には加米彦(かめひこ)が憑(うつ)り、257加米彦(かめひこ)の肉体(にくたい)にはお前(まへ)の霊(れい)が憑(うつ)つて居(を)るのだから、258所謂(いはゆる)、259お前(まへ)が戸(と)を開(あ)けるのは畢竟(つまり)加米彦(かめひこ)が開(あ)けるのだ。260……オイ加米彦(かめひこ)の代表者(だいへうしや)、261夏彦(なつひこ)が命令(めいれい)する、262……早(はや)く開(あ)けないか』
263夏彦(なつひこ)『エー何(なん)とかかとか言(い)つて、264責任(せきにん)を忌避(きひ)する事(こと)ばつかり考(かんが)へて居(ゐ)やがる。265……アヽ仕方(しかた)がない、266ソンナラ准(じゆん)加米彦(かめひこ)が戸(と)を開(あ)けてやらうかい』
267と小声(こごゑ)に囁(ささや)き乍(なが)ら、268ガラリと開(あ)けた。
269夏彦(なつひこ)『ヤアあなたは紫姫(むらさきひめ)様(さま)、270……ヤア青彦(あをひこ)さま、271馬(うま)さま、272鹿(しか)さま、273久(ひさ)し振(ぶり)だ。274サア這入(はい)つて下(くだ)さい。275……オイオイ夏彦(なつひこ)の代理(だいり)、276紫姫(むらさきひめ)様(さま)の御(ご)光来(くわうらい)だ。277悦子姫(よしこひめ)様(さま)に御(お)取次(とりつぎ)を申(まを)さぬか』
278加米彦(かめひこ)『モウ人格(じんかく)変換(へんくわん)だ。279併(しか)し悦子姫(よしこひめ)様(さま)に申上(まをしあ)げるのは、280矢張(やつぱり)加米彦(かめひこ)の特権(とくけん)だ』
281と一間(ひとま)に入(い)り、
282加米彦『モシモシ悦子姫(よしこひめ)さま、283紫姫(むらさきひめ)さま一行(いつかう)が見(み)えました』
284悦子姫(よしこひめ)『それは良(い)い所(ところ)へ来(き)て下(くだ)さつた。285実(じつ)は夜前(やぜん)から、286一寸(ちよつと)、287神界(しんかい)の御用(ごよう)があるので、288鎮魂(ちんこん)をかけて置(お)いたのです。289青彦(あをひこ)、290馬公(うまこう)、291鹿公(しかこう)さんも来(き)ましたでせう』
292加米彦(かめひこ)『ヤアあなたは変(へん)な事(こと)を仰有(おつしや)いますネ』
293悦子姫(よしこひめ)『天眼通(てんがんつう)、294自他神通(じたしんつう)の妙法(めうはふ)を以(もつ)て、295人(ひと)の霊魂(みたま)を自由(じいう)自在(じざい)に使(つか)うたのです、296ホヽヽヽ』
297加米彦(かめひこ)『ヤアそンな事(こと)があなたに出来(でき)るとは、298今迄(いままで)思(おも)はなかつた。299人(ひと)は見掛(みかけ)に依(よ)らぬものですネー』
300悦子姫(よしこひめ)『紫姫(むらさきひめ)さまを一(いち)時(じ)も早(はや)く、301私(わたくし)の居間(ゐま)へお連(つ)れ申(まを)して下(くだ)さい』
302加米彦『承知(しようち)致(いた)しました』
303と加米彦(かめひこ)は、304次(つぎ)の間(ま)に下(さが)り、
305加米彦『アヽやつぱり女(をんな)は女連(をんなづ)れだ。306モシモシ紫姫(むらさきひめ)さま、307悦子姫(よしこひめ)様(さま)が特別(とくべつ)待遇(たいぐう)を以(もつ)てあなた一人(ひとり)に限(かぎ)り、308拝謁(はいえつ)を許(ゆる)すと仰(あふ)せられます。309どうぞ奥(おく)へお通(とほ)り下(くだ)さい』
310紫姫(むらさきひめ)『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います』
311と奥(おく)の一間(ひとま)に姿(すがた)を隠(かく)したり。
312悦子姫(よしこひめ)『コレ音彦(おとひこ)さま、313加米彦(かめひこ)さま、314あなた暫(しばら)く、315妾(わたし)の声(こゑ)の聞(きこ)えぬ所(とこ)に居(ゐ)て下(くだ)さい。316少(すこ)し御(ご)相談(さうだん)がありますから……』
317加米彦(かめひこ)『女(をんな)は曲者(くせもの)とはよく言(い)つたものだ、318ナア音彦(おとひこ)さま、319今迄(いままで)は音彦(おとひこ)々々(おとひこ)と仰有(おつしや)つたが、320紫姫(むらさきひめ)さまがお出(い)でになるが早(はや)いか、321一寸(ちよつと)相談(さうだん)があるから、322聞(きこ)えぬ所(とこ)へ往(い)て下(くだ)さい……なンテ本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)にされますなア』
323音彦(おとひこ)『何(なに)は兎(と)も角(かく)、324皆(みな)さま、325暫(しばら)く林(はやし)の中(なか)へでも往(い)つて、326面白(おもしろ)い話(はなし)でも致(いた)しませう。327何時(なんどき)吾々(われわれ)は斯(か)うやつて居(を)つても、328悦子姫(よしこひめ)女王(ぢよわう)から、329ドンナ御(ご)命令(めいれい)が下(さが)つて、330何処(どこ)へ出張(しゆつちやう)を命(めい)ぜられるやら分(わか)つたものぢやない。331今(いま)の内(うち)に一(ひと)つゆつくりと、332芝生(しばふ)の上(うへ)で打解(うちと)けて話(はなし)を致(いた)しませうかい。333青彦(あをひこ)さま、334馬(うま)さま、335鹿(しか)さま、336サア参(まゐ)りませう』
337と音彦(おとひこ)は先(さき)に立(た)ち、338半丁(はんちやう)許(ばか)り離(はな)れたる木下闇(こしたやみ)に、339探(さぐ)り探(さぐ)り進(すす)み行(ゆ)く。
340加米彦(かめひこ)『アヽ暗(くら)い暗(くら)い、341丸(まる)で弥仙山(みせんざん)に野宿(のじゆく)した時(とき)の様(やう)だ』
342夏彦(なつひこ)『キヤツキヤツ、343ザアザア、344ウンウン、345バチバチ、346ガラガラ……ガ、347サアこれから幕開(まくあ)きと御座(ござ)い』
348加米彦(かめひこ)『エーしやうもない事(こと)言(い)ふな。349言霊(ことたま)の幸(さち)はふ国(くに)だ。350併(しか)し乍(なが)ら夏彦(なつひこ)、351貴様(きさま)は紫姫(むらさきひめ)さまに電波(でんぱ)を、352チヨイチヨイ送(おく)つて居(ゐ)るが、353長持(ながもち)の蓋(ふた)だ、354片一方(かたいつぱう)はアイても、355片一方(かたいつぱう)はアク気遣(きづか)ひはないワ。356モウ今日(けふ)限(かぎ)り、357執着心(しふちやくしん)を棄(す)てたが宜(よ)からうぞ』
358夏彦(なつひこ)『何(なに)を言(い)ひよるのだ。359蛙(かはづ)は口(くち)から、360……それや貴様(きさま)の事(こと)だよ』
361加米彦(かめひこ)『ナーニ、362貴様(きさま)の霊(れい)が俺(おれ)の肉体(にくたい)に始終(しじう)出入(でいり)しよつて、363ソンナ心(こころ)を出(だ)しよるのだ。364貴様(きさま)の霊(れい)が憑依(ひようい)した時(とき)の恋(こひ)の猛烈(まうれつ)さ……と云(い)つたら、365九寸(くすん)五分(ごぶ)式(しき)だ、366まだも違(ちが)へば軋死(あつし)式(しき)、367首吊(くびつ)り式(しき)、368暴風雨(ばうふうう)地震(ぢしん)式(しき)の恋(こひ)の雲(くも)が包(つつ)ンで来(き)よつて、369暗澹咫尺(あんたんしせき)を弁(べん)ぜずと云(い)ふ……時々(ときどき)幕(まく)が下(お)りるのだよ。370もう良(い)い加減(かげん)に改心(かいしん)をして、371俺(おれ)の肉体(にくたい)を離(はな)れて呉(く)れ。372其(その)代(かは)りに小豆飯(あづきめし)を三升(さんじよう)三合(さんがふ)、373油揚(あぶらあげ)を三十三(さんじふさん)枚(まい)買(か)つて、374四辻(よつつじ)まで送(おく)つてやる、375斯(こ)れでモウさつぱりと諦(あきら)めるのだよ』
376夏彦(なつひこ)『何(なに)を言(い)やがるのだ。377勝手(かつて)な熱(ねつ)ばつかり吹(ふ)きよつて、378……弥仙山(みせんざん)の極秘(ごくひ)を、379音彦(おとひこ)さまの前(まへ)で暴露(ばくろ)しようか』
380加米彦(かめひこ)『どうなつと勝手(かつて)にしたが宜(い)いワい。381大胆(だいたん)不敵(ふてき)の加米彦(かめひこ)は梟鳥(ふくろどり)式(しき)だ。382斯(か)う云(い)ふ暗夜(あんや)になればなる程(ほど)、383元気(げんき)旺盛(わうせい)となつて来(く)るのだ。384弥仙山(みせんざん)に野宿(のじゆく)した時(とき)は、385貴様(きさま)の副(ふく)守護神(しゆごじん)が俺(おれ)の肉体(にくたい)に憑依(ひようい)しよつて、386臆病(おくびやう)な態(ざま)を見(み)せたぢやないか。387他人(ひと)の事(こと)ぢやと思(おも)うて居(を)れば、388皆(みな)吾(わ)が事(こと)であるぞよ、389改心(かいしん)なされ……』
390夏彦(なつひこ)『どこまでも厳重(げんぢう)な鉄条網(てつでうまう)を張(は)りよつて、391攻撃(こうげき)する余地(よち)がなくなつた。392まつ四角(しかく)な顔(かほ)に四角(しかく)い肩(かた)を聳(そび)やかし、393四角(しかく)四面(しめん)な、394冗談(ぜうだん)一(ひと)つ言(い)はぬ様(やう)な風(ふう)を装(よそほ)うて居乍(ゐなが)ら、395ぬらりくらりと、396まるで蛸入道(たこにふだう)の様(やう)な代物(しろもの)だなア。397カメと云(い)ふ奴(やつ)ア、398六角(ろくかく)の甲(かふ)を着(き)て居(ゐ)る奴(やつ)だが、399此奴(こいつ)は二角(にかく)程(ほど)落(おと)して来(き)よつた。400カメと鼈(すつぽん)との混血児(こんけつじ)だなア。401……オーさうさう混血児(こんけつじ)で思(おも)ひ出(だ)した。402コンコン鳴(な)く奴(やつ)ア、403やつぱり、404ケツだ。405小豆飯(あづきめし)に油揚(あぶらあげ)式(しき)の霊魂(みたま)だ。406其(その)勢(せい)か、407能(よ)く口(くち)が滑(なめ)らかに辷(すべ)る哩(わい)』
408音彦(おとひこ)『オイ加米彦(かめひこ)、409充分(じゆうぶん)に今日(けふ)は気焔(きえん)を吐(は)いて聞(き)かして呉(く)れ。410明日(あす)はお別(わか)れせにやならぬかも分(わか)らないからなア』
411加米彦(かめひこ)『エーそれや音彦(おとひこ)さま、412本当(ほんたう)ですか』
413音彦(おとひこ)『どうやらソンナ気配(けはい)がする様(やう)だ。414どうも悦子姫(よしこひめ)さまのお顔色(かほいろ)に現(あら)はれて居(ゐ)る様(やう)だ』
415加米彦(かめひこ)『アハー、416あなたは、417間(ま)がな隙(すき)がな、418あの美(うつく)しい別嬪(べつぴん)を見詰(みつ)めて御座(ござ)る丈(だけ)あつて違(ちが)つてますなア。419男(をとこ)を怪(あや)しい笑靨(ゑくぼ)の中(なか)に巻(ま)き込(こ)みて了(しま)ふ丈(だけ)の魔力(まりよく)を保有(ほいう)して御座(ござ)る女王(ぢよわう)さまだから、420何時(いつ)の間(ま)にか音彦(おとひこ)さまも恋縛(れんばく)を受(う)けなさつたと見(み)えるワイ……ヤアお芽出(めで)たう、421おウラ山吹(やまぶき)さま、422……併(しか)し乍(なが)ら道心(だうしん)堅固(けんご)の悦子姫(よしこひめ)様(さま)だ。423太田(おほた)道灌(だうくわん)ぢやないが「七重(ななへ)八重(やへ)花(はな)は咲(さ)けども山吹(やまぶき)の、424実(み)の一(ひと)つだになきぞ悲(かな)しき」とウツカリ秋波(しうは)でも送(おく)らうものなら、425三十珊(さんじつサンチ)の巨弾(きよだん)で撃退(げきたい)されて了(しま)ふよ。426自惚(うぬぼれ)と梅毒気(かさけ)の無(な)い者(もの)は滅多(めつた)にないから、427音彦(おとひこ)さま、428能(よ)う気(き)を付(つ)けなさい』
429音彦(おとひこ)『アハヽヽヽ、430加米彦(かめひこ)さま、431それは、432例(れい)の人格(じんかく)交換(かうくわん)ぢや有(あ)りませぬか。433音彦(おとひこ)でなくて実際(じつさい)は加米彦(かめひこ)さまの事(こと)でせう。434お芽出(めで)たいお方(かた)ですネ』
435 一同(いちどう)大声(おほごゑ)を挙(あ)げて笑(わら)ふ。
436加米彦(かめひこ)『モウ密談(みつだん)も済(す)みただらう。437宜(よ)い加減(かげん)に気(き)を利(き)かして帰(かへ)りませうか、438コンナ暗(くら)がりへ放(ほ)り込(こ)まれて、439夜分(やぶん)に目(め)の見(み)えぬ人間(にんげん)は、440聊(いささ)か迷惑(めいわく)だ。441斯(か)う云(い)ふ暗(くら)い晩(ばん)に得意(とくい)な奴(やつ)はマア夏彦(なつひこ)一匹(いつぴき)位(くらゐ)なものだ、442ワツハヽヽヽ』
443と仇笑(あだわら)ひつつ先(さき)に立(た)ち帰(かへ)つて行(ゆ)く。444加米彦(かめひこ)、445門口(かどぐち)より、
446加米彦『モシモシ悦子姫(よしこひめ)様(さま)、447モウ御(ご)安産(あんざん)は済(す)みましたかな、448男(をとこ)でしたか女(をんな)でしたか、449……何(なん)と云(い)ふお名(な)をおつけになりました。450……玉照彦(たまてるひこ)ですか……』
451悦子姫(よしこひめ)『ホヽヽヽ、452加米(かめ)さまですか。453エライ失礼(しつれい)を致(いた)しました。454サア皆(みな)さまと一緒(いつしよ)にお這入(はい)り下(くだ)さいませ』
455加米彦(かめひこ)『お役目(やくめ)なれば、456罷(まか)り通(とほ)るツ。457悦子姫(よしこひめ)殿(どの)、458紫姫(むらさきひめ)殿(どの)、459許(ゆる)させられえ』
460とワザと体(からだ)を角立(かどだ)て、461紙雛(かみびな)の様(やう)なスタイルで、462稍(やや)反(そ)り気味(ぎみ)になつて、463悦子姫(よしこひめ)の居間(ゐま)にズーツと通(とほ)る。
464悦子姫(よしこひめ)『加米(かめ)さま、465冗談(ぜうだん)も良(い)い加減(かげん)にして置(お)きなさらぬか。466妾(わたし)は明早朝(みやうさうてう)、467音彦(おとひこ)さまと此処(ここ)を立出(たちい)で、468或(あ)る所(ところ)へ参(まゐ)ります。469加米彦(かめひこ)さまと夏彦(なつひこ)さま、470どうぞ留守(るす)をシツカリ頼(たの)みます』
471加米彦(かめひこ)『ヘー、472ヤツパリ……ヤツパリですなア』
473悦子姫(よしこひめ)『エツ、474何(なん)ですと』
475加米彦(かめひこ)『ヤア、476何(なん)でも有(あ)りませぬ。477ヤツパリあなたは神界(しんかい)の大切(たいせつ)な御用(ごよう)をなさるお方(かた)、478到底(たうてい)吾々(われわれ)ヘツポコの計(はか)り知(し)る可(べか)らざる御(ご)経綸(けいりん)が有(あ)ると見(み)えますワイ』
479悦子姫(よしこひめ)『ホヽヽヽ』
480紫姫(むらさきひめ)『ホヽヽヽ』
481音彦(おとひこ)『唯今(ただいま)承(うけたま)はれば、482私(わたくし)はあなたと共(とも)に、483どつかへ参(まゐ)るのですか』
484悦子姫(よしこひめ)『ハイ御(ご)苦労(くらう)様(さま)乍(なが)ら、485どうぞ妾(わたし)に従(つ)いて来(き)て下(くだ)さいませ』
486音彦(おとひこ)『ハイ承知(しようち)仕(つかまつ)りました。487どこまでも、488神(かみ)様(さま)の為(ため)ならば、489お伴(とも)致(いた)しませう』
490加米彦(かめひこ)『ヤア音彦(おとひこ)の命(みこと)、491万歳(ばんざい)々々(ばんざい)』
492と、493度拍子(どべうし)の抜(ぬ)けた大声(おほごゑ)で呶鳴(どな)り立(た)てる。
494音彦(おとひこ)『加米彦(かめひこ)さま、495永(なが)らく御(ご)昵懇(ぢつこん)になりましたが、496暫(しばら)くお別(わか)れせなくてはなりませぬ。497どうぞ機嫌(きげん)よく留守(るす)をして居(ゐ)て下(くだ)さいませや』
498加米彦(かめひこ)『ハイハイ畏(かしこ)まりました。499あなたも、500悦子姫(よしこひめ)さまと御(ご)機嫌(きげん)よく、501相(あひ)提携(ていけい)して、502極秘(ごくひ)的(てき)神業(しんげふ)に御(ご)参加(さんか)下(くだ)されませ』
503と意味(いみ)有(あ)りげに、504ニタリと笑(わら)ふ。
505夏彦(なつひこ)『悦子姫(よしこひめ)様(さま)、506私(わたくし)はお伴(とも)は叶(かな)ひませぬか』
507悦子姫(よしこひめ)『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。508併(しか)し乍(なが)ら神(かみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)で、509あなたは暫(しばら)く、510妾(わらは)の帰(かへ)るまで、511加米彦(かめひこ)さまと留守(るす)をして居(ゐ)て下(くだ)さいませ』
512加米彦(かめひこ)『アハヽヽヽ、513態(ざま)を見(み)い、514サア明日(あす)からは此(この)加米彦(かめひこ)の、515何事(なにごと)も指揮(しき)命令(めいれい)に服従(ふくじゆう)するのだぞ。516……モシモシ悦子姫(よしこひめ)さま、517どうぞあなたのお留守中(るすちう)は、518夏彦(なつひこ)が吾々(われわれ)の命令(めいれい)に服従(ふくじゆう)致(いた)します様(やう)に、519厳(きび)しく命令(めいれい)を下(くだ)しておいて下(くだ)さい。520上下(じやうげ)の区別(くべつ)がついて居(ゐ)ませぬと、521凡(すべ)ての点(てん)に於(おい)て矛盾(むじゆん)撞着(どうちやく)、522政治(せいぢ)上(じやう)の統一(とういつ)を紊(みだ)しますから……』
523悦子姫(よしこひめ)『加米彦(かめひこ)さま、524あなたお年(とし)は幾歳(いくつ)でしたかネー』
525加米彦(かめひこ)『ハイ私(わたくし)はザツト二十(にじつ)才(さい)で御座(ござ)います』
526悦子姫(よしこひめ)『違(ちが)ひませう……』
527加米彦(かめひこ)『イエ別(べつ)に……さう沢山(やつと)も違(ちが)ひませぬが……精神(せいしん)上(じやう)から申(まを)せば、528先(ま)づ二十(にじつ)才(さい)……現界(げんかい)に肉体(にくたい)を現(あら)はしてからは三十三(さんじふさん)年(ねん)になります』
529悦子姫(よしこひめ)『それは大変(たいへん)な違算(ゐさん)ぢやありませぬか』
530加米彦(かめひこ)『何分(なにぶん)亡父(ぼうふ)が貧乏暮(びんばふぐら)しをして居(ゐ)たものですから、531素寒貧(すかんぴん)で、532十三(じふさん)(仰山(ぎやうさん))な遺産(ゐさん)も御座(ござ)いませぬ、533アハヽヽヽ』
534悦子姫(よしこひめ)『夏彦(なつひこ)さまは幾才(いくつ)ですか』
535夏彦(なつひこ)『ハイ私(わたくし)は見(み)た割(わり)とは、536ひね南瓜(かぼちや)で御座(ござ)います。537精神(せいしん)は兎(と)も角(かく)も、538肉体(にくたい)は四十八(しじふはち)になりました』
539悦子姫(よしこひめ)『アヽそれなら年長者(ねんちやうしや)を以(もつ)て上役(うはやく)と定(さだ)めます。540加米彦(かめひこ)さま、541妾(わたし)が此家(ここ)を出立(しゆつたつ)するが最後(さいご)、542何事(なにごと)も夏彦(なつひこ)さまの指揮(しき)命令(めいれい)に従(したが)つて、543神妙(しんめう)に留守(るす)をして下(くだ)さいや』
544加米彦(かめひこ)『ヘエ………』
545 悦子姫(よしこひめ)、546稍(やや)顔色(がんしよく)を変(か)へ、
547悦子姫『加米彦(かめひこ)さま、548お嫌(いや)ですか』
549加米彦『イヤイヤ滅相(めつそう)もない、550何事(なにごと)もあなたの御(ご)命令(めいれい)に従(したが)ひます』
551悦子姫(よしこひめ)『夏彦(なつひこ)さまの命令(めいれい)は即(すなは)ち妾(わたし)の命令(めいれい)、552どうぞ宜(よろ)しうお頼(たの)み申(まを)します』
553とワザと両手(りやうて)をついて叮嚀(ていねい)に下(した)から出(で)る。
554加米彦『エー実(じつ)の所(ところ)は、555夏彦(なつひこ)の下(した)に従(つ)くのは虫(むし)が好(す)きませぬが、556其処(そこ)まで仰有(おつしや)つて下(くだ)さいますれば、557謹(つつし)みてお受(うけ)致(いた)します。558……悦子姫(よしこひめ)様(さま)のお代理(だいり)夏彦(なつひこ)様(さま)、559どうぞ宜(よろ)しう、560何事(なにごと)も御(ご)指導(しだう)下(くだ)さいませ』
561夏彦(なつひこ)『お互様(たがひさま)に宜(よろ)しうお願(ねがひ)致(いた)します』
562悦子姫(よしこひめ)『どうぞお二人(ふたり)さま、563公私(こうし)混同(こんどう)せない様(やう)に頼(たの)みますで……』
564 二人(ふたり)一度(いちど)に、
565夏彦、加米彦『ハイハイ承知(しようち)致(いた)しました』
566と両手(りやうて)を突(つ)き、567今度(こんど)は真面目(まじめ)になつてお受(うけ)をする。
568紫姫(むらさきひめ)『青彦(あをひこ)さま、569馬(うま)さま、570鹿(しか)さま、571これから妾(わたし)は、572悦子姫(よしこひめ)様(さま)の神(かみ)様(さま)より重大(ぢうだい)なる使命(しめい)を蒙(かうむ)りました。573明朝(みやうてう)未明(みめい)に此処(ここ)を立出(たちい)で、574妾(わたし)の行(ゆ)く所(ところ)へ、575御(ご)苦労(くらう)乍(なが)ら従(つ)いて来(き)て下(くだ)さい。576さうして青彦(あをひこ)さまと云(い)ふお名(な)は、577一寸(ちよつと)都合(つがふ)の悪(わる)い事(こと)が有(あ)りますから、578今日(けふ)限(かぎ)り名(な)を改(あらた)めて、579日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)より若彦(わかひこ)とお改(か)へになりましたから、580其(その)お積(つ)もりで居(ゐ)て下(くだ)さいや』
581青彦(あをひこ)『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。582何(なん)だか天(あま)の稚彦(わかひこの)命(みこと)様(さま)に能(よ)く似(に)たよな名(な)ですなア。583嬉(うれ)しい様(やう)でもあり、584悲(かな)しい様(やう)な気持(きもち)も致(いた)します。585併(しか)し乍(なが)ら、586何事(なにごと)も神命(しんめい)のまにまに、587絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)を致(いた)します。588どうぞ宜(よろ)しう……』
589紫姫(むらさきひめ)『ハイ、590不束(ふつつか)な妾(わたし)、591どうぞ宜(よろ)しう御(ご)指導(しだう)を仰(あふ)ぎます。592……まだ夜明(よあ)けまでには間(ま)が御座(ござ)いますれば、593皆(みな)さま一休眠(ひとやすみ)致(いた)しませう』
594音彦(おとひこ)『それや結構(けつこう)です。595サア皆(みな)さま、596お休眠(やすみ)なさいませ。597お先(さき)へ失礼(しつれい)』
598と横(よこ)になつて、599早(はや)くも高鼾(たかいびき)をかく。
600加米彦(かめひこ)『ナント罪(つみ)のない男(をとこ)だなア。601今(いま)物(もの)を言(い)つて居(を)つたかと思(おも)えば、602早(はや)高鼾(たかいびき)だ。603人間(にんげん)も茲(ここ)まで総(すべ)てに超越(てうゑつ)すれば、604モウ占(しめ)たものだ、605悦子姫(よしこひめ)様(さま)の眼力(がんりき)も偉(えら)いワイ』
606夏彦(なつひこ)『コレコレ加米彦(かめひこ)さま、607皆様(みなさま)のお就寝(やすみ)の御(お)邪魔(じやま)になります。608あなたも早(はや)く、609おとなしくお睡眠(やすみ)なさい』
610加米彦(かめひこ)『コレハコレハ上官(じやうくわん)の御(ご)命令(めいれい)、611確(たしか)に遵守(じゆんしゆ)し奉(たてまつ)る、612恐惶(きようくわう)頓首(とんしゆ)、613アツハヽヽヽ』
614と笑(わら)ひ転(こ)けた儘(まま)、615呼吸(こきふ)不整調(ふせいてう)な高鼾(たかいびき)をかく。616一同(いちどう)は之(こ)れに倣(なら)うて、617残(のこ)らず寝(しん)に就(つ)きたり。
618 鶏(とり)の声(こゑ)に目(め)をさまし、619悦子姫(よしこひめ)は音彦(おとひこ)を伴(ともな)ひ、620綾(あや)の大橋(おほはし)打渡(うちわた)り、621山家(やまが)方面(はうめん)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。622紫姫(むらさきひめ)は、623由良川(ゆらがは)の川辺(かはべ)伝(づた)ひに、624西北(せいほく)指(さ)して三(さん)人(にん)の男(をとこ)を伴(ともな)ひ、625行先(ゆくさき)をも告(つ)げずトボトボと下(くだ)り行(ゆ)く。626嗚呼(ああ)、627紫姫(むらさきひめ)は今後(こんご)如何(いか)なる活動(くわつどう)をなすならむか。
628(大正一一・四・二五 旧三・二九 松村真澄録)
629(昭和一〇・六・一 王仁校正)
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