霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 朝(あした)の一驚(いつきやう)〔六三七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第3篇 反間苦肉 よみ(新仮名遣い):はんかんくにく
章:第9章 朝の一驚 よみ(新仮名遣い):あしたのいっきょう 通し章番号:637
口述日:1922(大正11)年04月26日(旧03月30日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
綾彦とお民は、朝起きるとさっそく黒姫に暇乞いをする。黒姫は理由を問う。綾彦とお民は、昨晩浅公らが酔いに任せて、自分たちを計略にかけてここに連れて来たことを自慢しあっていたのを聞いてしまった、と話す。
黒姫は、浅公らを呼んで問い詰め、ウラナイ教を追放する、と言い渡す。梅公は、悪神がウラナイ教を混乱させようと憑依して、あんなことを言わせたのだ、と言い訳する。
黒姫と高山彦は、悪霊退散のために浅公らに谷川で禊をしてくるように、と言う。そして綾彦・お民が聞いた話は、悪霊が浅公らに言わせた嘘だったのだ、と言い聞かせて納得させた。
梅公は禊をしに行く道すがら、自分の策略を自慢する歌を歌い、禊終わって帰ってくる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-03-17 18:02:14 文字数:5230 OBC :rm1809
愛善世界社版:144頁 八幡書店版:第3輯 690頁 修補版: 校定版:148頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 晩秋(ばんしう)の長(なが)き夜(よ)はいつしか明(あ)けて、002朝霧(あさきり)籠(こ)むる東南(とうなん)の天(てん)に、003太陽(たいやう)は霞(かす)みて低(ひく)うかかり居(を)る。004高山彦(たかやまひこ)は漸(やうや)く起(お)き上(あが)り、005不便(ふべん)の地(ち)に似(に)あはぬ贅沢(ぜいたく)三昧(ざんまい)、006朝風呂(あさぶろ)、007丹前(たんぜん)、008長火鉢(ながひばち)、009入(い)り日(ひ)の影(かげ)に当(あた)つたやうな細長(ほそなが)き体(からだ)に、010長煙管(ながぎせる)を持(も)つた黒姫(くろひめ)と二人(ふたり)睦(むつ)まじさうに、011ニタニタと、012昨夜(さくや)の夢(ゆめ)を思(おも)ひ出(だ)してか、013悦(えつ)に入(い)つて居(を)る。014斯(かか)る処(ところ)へ新参者(しんざんもの)の夫婦(ふうふ)連(づれ)、015恭(うやうや)しく両手(りやうて)をつかへ、
016綾彦(あやひこ)『コレハコレハお二人(ふたり)様(さま)、017お早(はや)う御座(ござ)います、018昨夜(さくや)はいかい御(ご)厄介(やくかい)になりまして、019吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)は暖(あたた)かく寝(ね)さして頂(いただ)きました。020どうぞ今日(けふ)より、021折角(せつかく)の思召(おぼしめし)では御座(ござ)いますが、022吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)にお暇(ひま)を下(くだ)さいませ』
023 黒姫(くろひめ)、024怪訝(けげん)な顔(かほ)にて、
025黒姫『お前(まへ)は昨夜(ゆうべ)来(き)た許(ばか)りぢやないか、026あれ程(ほど)固(かた)い事(こと)を云(い)つて居(を)つて、027一夜(ひとよさ)の間(ま)にさうグラグラと心(こころ)をかへて何(ど)うするのだい。028大方(おほかた)お民(たみ)を高城山(たかしろやま)へ遣(つか)はすのが、029夫婦(ふうふ)共(とも)お気(き)に入(い)らぬのだらう、030ヤアそれは若(わか)い夫婦(ふうふ)として御(ご)無理(むり)もない、031併(しか)しながら此処(ここ)が辛抱(しんばう)だ、032前夜(ぜんや)も云(い)つたやうに、033一(ひと)つの苦労(くらう)心配(しんぱい)と云(い)ふ事(こと)がなければ、034人間(にんげん)は誠(まこと)の花(はな)が咲(さ)きませぬぞや』
035綾彦『重(かさ)ね重(がさ)ねの御(ご)教訓(けうくん)、036誠(まこと)に有難(ありがた)う御座(ござ)います、037併(しか)し乍(なが)ら吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)は一旦(いつたん)神(かみ)様(さま)にお任(まか)せした以上(いじやう)は、038仮令(たとへ)夫婦(ふうふ)がこの儘(まま)生別(いきわか)れにならうとも、039ソンナ事(こと)に執着心(しふちやくしん)は持(も)ちませぬ。040併(しか)しながら、041夜前(やぜん)承(うけたまは)れば皆様(みなさま)のお酒(さけ)の上(うへ)のお話(はなし)に、042八(はち)人(にん)の方(かた)が八百長(やほちやう)をお行(や)りなされて、043私(わたくし)をウラナイ教(けう)に引(ひ)き込(こ)む手段(しゆだん)で、044俄(にはか)に芝居(しばゐ)を仕組(しぐ)まれましたのですから、045私(わたくし)のやうな馬鹿(ばか)正直者(しやうぢきもの)は、046到底(たうてい)あの方々(かたがた)と共(とも)に暮(くら)す事(こと)は出来(でき)ませぬから、047どうぞお暇(ひま)を下(くだ)さいませ』
048黒姫(くろひめ)『何(なん)と妙(めう)な事(こと)を仰有(おつしや)るぢやないか、049誠(まこと)正直(しやうぢき)一方(いつぱう)のウラナイ教(けう)に、050ソンナ八百長(やほちやう)芝居(しばゐ)があるものか、051大方(おほかた)お前(まへ)旅(たび)の疲(つか)れで、052ソンナ夢(ゆめ)でも見(み)たのだらう』
053綾彦(あやひこ)『イエイエ決(けつ)して夢(ゆめ)では御座(ござ)いませぬ、054夜前(やぜん)貴方(あなた)様(さま)に御(ご)挨拶(あいさつ)をして、055寝(ね)さして貰(もら)はうと思(おも)ひ、056廊下(らうか)を通(とほ)りますと、057皆(みな)さまがお酒(さけ)に酔(よ)ひ、058面白(おもしろ)さうなお話(はなし)、059聞(き)くともなしに吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)の耳(みみ)に雷(らい)の如(ごと)くに響(ひび)いたのは、060夜前(やぜん)普甲峠(ふかふたうげ)の辛辣(しんらつ)な計略(けいりやく)、061一伍(いちぶ)一什(しじふ)の自慢話(じまんばなし)、062私(わたくし)は腹(はら)が立(た)つやら恐(おそ)ろしいやら、063一旦(いつたん)有難(ありがた)いと思(おも)うた信念(しんねん)も煙(けぶり)と消(き)え、064唯(ただ)口惜(くちを)しさに二人(ふたり)は一睡(いつすゐ)もせず、065夜(よ)の明(あ)けるのを待(ま)つて泣(な)いて居(を)りました。066必(かなら)ず夢(ゆめ)ぢや御座(ござ)いませぬ、067何卒(どうぞ)お暇(ひま)を下(くだ)さいませ』
068 黒姫(くろひめ)不思議(ふしぎ)の顔(かほ)をして、
069黒姫『何(なん)とお前(まへ)合点(がつてん)が行(ゆ)かぬ事(こと)を仰有(おつしや)る。070どうかして居(を)るのぢやないかな、071此処(ここ)の若(わか)い者(もの)には、072毎日(まいにち)噛(か)みて含(ふく)めるやうに誠(まこと)の道(みち)が説(と)き聞(き)かしてある。073鵜(う)の毛(け)で突(つ)いたほども嘘(うそ)を云(い)ふものはない、074あまり正直(しやうぢき)で間(ま)が抜(ぬ)けて、075当世(たうせい)に役(やく)に立(た)たぬやうな代物(しろもの)ばかりぢや、076ソンナ筈(はず)は断(だん)じてありませぬ、077それや何(なに)かの幻(まぼろし)でせう』
078お民『イエイエ決(けつ)して幻(まぼろし)でも何(なん)でも御座(ござ)いませぬ、079現(げん)に夜前(やぜん)のお方(かた)が自慢話(じまんばなし)に仰有(おつしや)つたのをお民(たみ)は確(たし)かに聞(き)きました』
080と聞(き)くより黒姫(くろひめ)は訝(いぶか)しがり、
081黒姫『一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい、082妙(めう)な事(こと)を云(い)ひなさる、083今(いま)査(しら)べて見(み)ませう。084これこれ浅公(あさこう)、085幾公(いくこう)、086梅公(うめこう)、087寅公(とらこう)、088辰公(たつこう)、089鳶公(とびこう)、090皆々(みなみな)此処(ここ)へ、091尋(たづ)ねたい事(こと)がある、092出(で)て来(き)なさい』
093と稍(やや)慄(ふる)ひ声(ごゑ)で呶鳴(どな)り立(た)てる。094此(この)声(こゑ)に一同(いちどう)八(はち)人(にん)はバラバラと現(あら)はれ来(きた)り、095各自(めいめい)蛙(かへる)踞(つくば)ひになつて、
096一同『今(いま)吾々(われわれ)を、097お呼(よ)びになつたのは、098何(なに)御用(ごよう)で御座(ござ)いますか、099ねつから間(ま)に合(あ)ひませず、100偶(たま)に人(ひと)を助(たす)けた位(くらゐ)で沢山(たくさん)の御(ご)馳走(ちそう)を戴(いただ)き、101まだ其(その)上(うへ)に何彼(なにか)の恩命(おんめい)を下(くだ)し給(たま)ふのは余(あま)り勿体(もつたい)なくて冥加(みやうが)に尽(つ)きます、102何一(なにひと)つ御(ご)恩報(おんはう)じも致(いた)さず、103誠(まこと)に恥(はづ)かしい次第(しだい)で御座(ござ)います。104ヤアお前(まへ)は夜前(やぜん)の人(ひと)、105マアマアよかつたねエ、106これと云(い)ふのも全(まつた)くウラナイ教(けう)の神(かみ)様(さま)のお蔭(かげ)だ、107次(つぎ)には私(わたくし)達(たち)のお蔭(かげ)だよ、108此(この)御恩(ごおん)は何時迄(いつまで)も忘(わす)れてはなりませぬぞえ』
109 綾彦(あやひこ)、110煮(に)え切(き)らぬ返事(へんじ)、
111綾彦『ヘエ』
112お民(たみ)『ヒン』
113浅公(あさこう)『これこれお民(たみ)さまとやら、114その返事(へんじ)は何(なん)だ。115痩馬(やせうま)か何(なん)ぞの様(やう)にあげづらをしてヒンなぞと、116命(いのち)の恩人(おんじん)に向(むか)つて嘲弄(てうろう)するのかい、117イヤ挑戦(てうせん)的(てき)態度(たいど)を執(と)るのだな』
118お民(たみ)『ヘン』
119黒姫(くろひめ)『お前(まへ)達(たち)八(はち)人(にん)の者(もの)、120夜前(やぜん)の話(はなし)をもう一遍(いつぺん)詳(くは)しうして下(くだ)さらぬか』
121 梅(うめ)、122肩(かた)を怒(いか)らし得意顔(とくいがほ)で、
123梅公『アヽ夜前(やぜん)の吾々(われわれ)の功名(こうみやう)手柄話(てがらばなし)ですか、124よう聞(き)いて下(くだ)さいました。125唯(ただ)一回(いつくわい)だけでは折角(せつかく)の神謀(しんぼう)奇略(きりやく)、126ではない辛苦(しんく)艱難(かんなん)したことが、127貴女(あなた)のお心(こころ)に十分(じふぶん)徹底(てつてい)しないやうな心持(こころもち)がして物足(ものた)りないと思(おも)つて居(ゐ)ました。128それはそれは随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)な鬼(おに)の手下(てした)共(ども)』
129と針小(しんせう)棒大(ぼうだい)にべらべらと喋(しやべ)り立(た)てるを黒姫(くろひめ)は、
130黒姫『アヽそれは嘘(うそ)ぢやあるまいなア』
131梅公『エヽ決(けつ)して決(けつ)して嘘(うそ)と坊子(ぼうづ)の頭(あたま)は生(うま)れてからいうた事(こと)がありませぬ、132正真(しやうしん)正銘(しやうめい)ネツトプライスの物語(ものがたり)ですよ』
133黒姫『それでもお前(まへ)、134夜前(やぜん)酒(さけ)を飲(の)みて、135種々(しゆじゆ)の手段(しゆだん)を廻(めぐ)らし、136八百長(やほちやう)をやつて此(この)方(かた)を無理(むり)に信仰(しんかう)させ、137引張(ひつぱ)つて来(き)た手柄話(てがらばなし)を交(かは)る交(がは)るやつて居(ゐ)たぢやないか、138誠(まこと)一(ひと)つの神(かみ)の教(をしへ)の道(みち)に居(ゐ)ながら、139何(なん)と云(い)ふ事(こと)をするのだい。140綾彦(あやひこ)夫婦(ふうふ)が大変(たいへん)残念(ざんねん)がつてこれから暇(ひま)をくれと云(い)うて居(ゐ)らつしやる所(ところ)だ。141何程(なんぼ)云(い)つて聞(き)かしてもお前(まへ)等(ら)は駄目(だめ)だ、142サア只今(ただいま)限(かぎ)り浅(あさ)、143幾(いく)外(ほか)六(ろく)人(にん)破門(はもん)する。144エヽ汚(けが)らはしい、145ウラナイ教(けう)を破(やぶ)る者(もの)は外(そと)からでない、146ウラナイ教(けう)から現(あら)はれるから気(き)をつけよと神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)つた、147何程(なにほど)要害(えうがい)堅固(けんご)な針(はり)をもつて固(かた)めた丹波栗(たんばぐり)でも、148中(なか)からはぢけ落(お)ちるやうに、149お前(まへ)等(ら)はウラナイ教(けう)の爆裂弾(ばくれつだん)ぢや、150神(かみ)様(さま)のお道(みち)の面汚(つらよご)し、151アヽ汚(けが)らはしい、152トツトと一(いち)時(じ)も早(はや)く帰(かへ)つて下(くだ)さい』
153梅公『それは何(なに)を仰有(おつしや)います、154傘屋(かさや)の丁稚(でつち)ぢやないが、155骨(ほね)折(お)つて小言(こごと)を聞(き)かされては梅公(うめこう)一同(いちどう)も一向(いつこう)算盤(そろばん)が合(あ)ひませぬ』
156黒姫『それでも蛙(かはづ)は口(くち)からと云(い)うて、157現在(げんざい)お前(まへ)の口(くち)から自白(じはく)したぢやないか』
158 梅公(うめこう)は空(そら)とぼけて、
159梅公『アヽあれですかい、160夜前(やぜん)は沢山(たくさん)なお酒(さけ)を頂(いただ)いて気(き)が緩(ゆる)みたものですから、161其処(そこ)へ大江山(おほえやま)の悪魔(あくま)の霊(れい)が襲(おそ)うて来(き)よつて、162吾々(われわれ)八(はち)人(にん)の功名(こうみやう)手柄(てがら)を抹殺(まつさつ)しやうと思(おも)ひ、163私(わたくし)を初(はじ)め皆(みな)にのり憑(うつ)り、164酒(さけ)は私(わたくし)には余(あま)り呑(の)まさず、165悪霊(あくれい)が皆(みな)飲(の)みて仕舞(しま)ひ、166遂(つひ)には私(わたくし)等(ら)の口(くち)を藉(か)りて反間(はんかん)苦肉(くにく)の策(さく)をやりよつたのですよ、167真実(ほんと)に悪霊(あくれい)と云(い)ふものは油断(ゆだん)のならぬものですなア、168アハヽヽヽ。169オイ浅(あさ)、170幾(いく)、171寅(とら)、172辰(たつ)、173鳶(とび)、174鷹公(たかこう)、175貴様(きさま)も余程(よほど)腹帯(はらおび)を締(し)めぬと昨夜(ゆうべ)の様(やう)に魔霊(まれい)に襲(おそ)はれ、176鬼(おに)の容器(いれもの)になつて仕舞(しま)うぞよ』
177辰公(たつこう)『偉(えら)さうに云(い)ふない、178貴様(きさま)にも矢張(やつぱり)鬼(おに)が憑(つ)いて居(ゐ)るのぢやないか』
179梅公(うめこう)『それやさうだ。180お互(たがひ)さまぢや、181悪平等(あくべうどう)的(てき)に、182吾々(われわれ)八(はち)人(にん)にすつかり憑依(ひようい)しよつたのだ、183アヽ何(なん)だか気分(きぶん)が悪(わる)い、184どうぞ高山彦(たかやまひこ)さま、185黒姫(くろひめ)さま、186一遍(いつぺん)悪魔(あくま)の入(はい)らぬやう、187ウンと神霊(しんれい)注射(ちうしや)の鎮魂(ちんこん)をして下(くだ)さいませな』
188黒姫(くろひめ)『オホヽヽヽ、189アヽさうだつたか、190大抵(たいてい)ソンナ事(こと)だと思(おも)うて居(ゐ)た。191之(これ)から気(き)をつけなさい、192追(おつ)て鎮魂(ちんこん)して上(あ)げるから、193谷川(たにがは)にでも行(い)つて充分(じゆうぶん)体(からだ)を清(きよ)めて来(く)るのだよ』
194梅公(うめこう)『オイ、195大江山(おほえやま)の鬼(おに)の住宅(ぢうたく)七軒(しちけん)の奴(やつ)、196サア洗濯(せんたく)だ。197又(また)もや鬼(おに)の来(こ)ぬまに洗濯婆(せんたくば)サン婆(ば)サン』
198と志(し)やり散(ち)らし乍(なが)ら、199尻引(しりひ)きからげ、200細(ほそ)い岩戸(いはと)を潜(くぐ)り谷川(たにがは)目蒐(めが)けて走(はし)り行(ゆ)く。201後(あと)には高山彦(たかやまひこ)、202黒姫(くろひめ)、203綾彦(あやひこ)、204お民(たみ)の四(よ)人(にん)。
205黒姫(くろひめ)『ヤア油断(ゆだん)のならぬ悪霊(あくれい)ぢや、206折角(せつかく)の綾彦(あやひこ)夫婦(ふうふ)が善(ぜん)の道(みち)に救(すく)はれようとなさる最中(さいちう)に、207執拗(しつえう)なる鬼(おに)の霊(れい)がやつて来(き)よつて引落(ひきおと)しにかからうとする。208高山(たかやま)さま、209確(しつか)りせないと、210何時(いつ)悪霊(あくれい)が襲来(しふらい)するやら分(わか)りませぬなア』
211高山彦(たかやまひこ)『ヤアさうだなア、212これこれお二人(ふたり)のお方(かた)、213心配(しんぱい)なさるな、214今(いま)お聞(きき)の通(とほ)りだから決(けつ)してウラナイ教(けう)にはソンナ悪(わる)いものは居(を)りませぬ、215安心(あんしん)なされ』
216綾彦(あやひこ)『悪霊(あくれい)と云(い)ふものはソンナものですか、217ヘエ油断(ゆだん)がなりませぬなア』
218黒姫(くろひめ)『隅(すみ)から隅(すみ)まで、219蜘蛛(くも)の巣(す)を張(は)つたやうに手配(てくば)りをして居(ゐ)ますから、220一寸(ちよつと)も油断(ゆだん)は出来(でき)ませぬよ、221貴女(あなた)は未(ま)だウラナイ教(けう)は初(はじ)めてですから、222霊(れい)の事(こと)を云(い)つても分(わか)りますまいが、223暫(しばら)く信神(しんじん)して見(み)なさい、224何(なに)も彼(か)もすつかり分(わか)つて来(き)ます、225さうしたらお前(まへ)さまの疑(うたがひ)も氷解(ひようかい)するでせう』
226お民(たみ)『アヽ左様(さやう)で御座(ござ)いましたか、227誠(まこと)にお気(き)を揉(も)ましまして申訳(まをしわけ)が御座(ござ)いませぬ、228どうぞ宜敷(よろしく)お願(ねが)ひ致(いた)します』
229黒姫(くろひめ)『アヽ、230それで好(よ)い好(よ)い、231奥(おく)へ往(い)つて神(かみ)様(さま)にこの解決(かいけつ)がついたお礼(れい)を云(い)つて来(き)なさい』
232 二人(ふたり)は叮嚀(ていねい)に頭(あたま)を下(さ)げ、233静々(しづしづ)と神壇(かみだな)の間(ま)に進(すす)み行(ゆ)く。
234 梅公(うめこう)外(ほか)七(しち)人(にん)は黒姫(くろひめ)の面部(めんぶ)にさつと現(あら)はれた低気圧(ていきあつ)の襲来(しふらい)を、235危機(きき)一髪(いつぱつ)の間(ま)にやつと許(ゆる)され、236虎口(ここう)を逃(のが)れた心地(ここち)して谷川(たにがは)目蒐(めが)けて禊(みそぎ)のために走(はし)り行(ゆ)く。237梅公(うめこう)は道々(みちみち)、
238梅公『嗚呼(ああ)恐(おそ)ろしや恐(おそ)ろしや
239剣(つるぎ)を渡(わた)る心地(ここち)して
240あらぬ智慧(ちゑ)をば絞(しぼ)り出(だ)し
241反間(はんかん)苦肉(くにく)の策(さく)を立(た)て
242漸(やうや)く目的(もくてき)成就(じやうじゆ)して
243意気(いき)揚々(やうやう)と立(た)ち帰(かへ)り
244黒姫(くろひめ)さまの御(おん)前(まへ)に
245忠臣(ちうしん)気取(きどり)で報告(はうこく)し
246やつと解(ほど)けた閻魔顔(えんまがほ)
247福禄寿(げほう)の様(やう)なハズバンド
248高山彦(たかやまひこ)の目(め)の前(まへ)で
249手柄話(てがらばなし)を諄々(じゆんじゆん)と
250並(なら)べ立(た)つれば黒姫(くろひめ)も
251相好(さうがう)崩(くづ)して感歎(かんたん)し
252褒美(ほうび)の積(つも)りで甘酒(うまざけ)を
253どつさり飲(の)まして呉(く)れた故(ゆゑ)
254出会(であ)うた時(とき)に笠(かさ)ぬげと
255世(よ)の諺(ことわざ)の其(その)儘(まま)に
256前後(ぜんご)を忘(わす)れて舌鼓(したつづみ)
257うつて廻(まは)つた酒(さけ)の酔(よ)ひ
258副守(ふくしゆ)か何(なに)か知(し)らねども
259功名心(こうみやうしん)にかり出(だ)され
260迂闊(うつか)と喋(しやべ)つた謀(たく)み事(ごと)
261天(てん)に口(くち)あり壁(かべ)に耳(みみ)
262いつの間(ま)にかは綾彦(あやひこ)や
263お民(たみ)の奴(やつ)に顛末(てんまつ)を
264一切(いつさい)残(のこ)らず聞(き)き取(と)られ
265知(し)らぬが仏(ほとけ)、神心(かみごころ)
266白河(しらかは)夜船(よぶね)のぐうぐうと
267夢路(ゆめぢ)を渡(わた)り起(お)き上(あが)り
268互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せて
269旨(うま)くやつたな、ようやつた
270俺(おれ)の知識(ちしき)はこの通(とほ)り
271文殊(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)も丸跣(まるはだし)
272是(これ)から信者(しんじや)を集(あつ)めるは
273是(これ)より外(ほか)に手段(しゆだん)なし
274これや好(よ)い事(こと)を覚(おぼ)えたと
275心(こころ)窃(ひそか)に誇(ほこ)りつつ
276肩肱(かたひぢ)怒(いか)らす折柄(をりから)に
277黒姫(くろひめ)さまの高(たか)い声(こゑ)
278こいつアてつきり御(ご)褒美(はうび)と
279喜(よろこ)び勇(いさ)み八(はち)人(にん)が
280西瓜頭(すゐくわあたま)を並(なら)ぶれば
281電光(でんくわう)石火(せきくわ)雷(いかづち)の
282轟(とどろ)くやうな凄(すご)い声(こゑ)
283胆玉(きもたま)取(と)られ臍(へそ)ぬかれ
284爪(つめ)を取(と)られて恥(はぢ)をかき
285此(この)難関(なんくわん)を如何(いか)にして
286突破(とつぱ)し呉(く)れむと首(くび)ひねる
287折(をり)しも浮(う)かぶ守護神(しゆごじん)
288法螺(ほら)を副守(ふくしゆ)のべらべらと
289布留那(ふるな)の弁(べん)の黒姫(くろひめ)を
290煙(けぶり)に捲(ま)いて大江山(おほえやま)
291鬼(おに)の悪霊(あくれい)の仕業(しわざ)よと
292大責任(だいせきにん)を転嫁(てんか)する
293早速(さつそく)の頓智(とんち)、梅公(うめこう)が
294甘(うま)い理屈(りくつ)に欺(あざむ)かれ
295閻魔(えんま)の顔(かほ)は忽(たちま)ちに
296急転(きふてん)直下(ちよくか)の地蔵顔(ぢざうがほ)
297鬼(おに)と仏(ほとけ)の入替(いれか)はり
298やつと破門(はもん)を助(たす)かつて
299黒姫(くろひめ)さまの命令(めいれい)で
300憑依(ひようい)もしない悪霊(あくれい)を
301放(ほ)り出(だ)すために谷川(たにがは)で
302禊(みそぎ)をせいと教(をし)へられ
303胸(むね)撫(な)で下(お)ろし皺(しわ)延(の)ばし
304国家(こくか)興亡(こうばう)はまだ愚(おろ)か
305危急(ききふ)存亡(そんばう)の身(み)の始末(しまつ)
306川(かは)に流(なが)した心地(ここち)して
307漸(やうや)く此処(ここ)にやつて来(き)た
308あゝ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
309孫呉(そんご)に勝(まさ)る兵法(へいはふ)を
310際限(さいげん)もなく編(あ)み出(いだ)し
311虱殺(しらみごろ)しに諸人(もろびと)を
312一人(ひとり)も残(のこ)さずウラナイの
313教(をしへ)の道(みち)に引(ひ)き入(い)れて
314鼻高姫(はなたかひめ)や黒姫(くろひめ)の
315笑壺(ゑつぼ)に入(い)るが吾々(われわれ)の
316上分別(じやうふんべつ)では在(あ)るまいか
317知識(ちしき)の浅(あさ)い浅公(あさこう)よ
318意気地(いくぢ)の弱(よわ)い幾公(いくこう)よ
319うめい智慧(ちゑ)出(だ)す梅公(うめこう)の
320手足(てあし)の爪(つめ)でも頂戴(ちやうだい)し
321煎(せん)じて飲(の)めば偉(えら)くなる
322寅公(とらこう)、辰公(たつこう)、鳶公(とびこう)よ
323是(これ)から俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)を
324聞(き)いて出世(しゆつせ)をするがよい
325黒姫(くろひめ)さまの大将(たいしやう)が
326口(くち)を極(きは)めてべらべらと
327お節(せつ)を説(と)いてウラナイの
328道(みち)に入(い)れよと全力(ぜんりよく)を
329尽(つく)して見(み)てもあの通(とほ)り
330弁論(べんろん)よりも実行(じつかう)だ
331直接(ちよくせつ)行動(かうどう)に限(かぎ)るぞや
332さは然(さ)りながら皆(みな)の者(もの)
333夢(ゆめ)にもコンナ計略(はかりごと)を
334高山(たかやま)さまや黒姫(くろひめ)に
335必(かなら)ず喋舌(しやべ)つちやならないぞ
336若(も)しも分(わか)つた其(その)時(とき)は
337皆(みな)、各々(めいめい)の鼻(はな)の下(した)
338大旱魃(だいかんばつ)の大恐慌(だいきようくわう)
339蛙(かへる)は口(くち)から、うつかりと
340酒(さけ)を飲(の)む時(とき)や心得(こころえ)よ
341心(こころ)一(ひと)つの遣(つか)ひよで
342賢(かしこ)も見(み)える又(また)阿呆(あほ)に
343見(み)えると思(おも)へば口(くち)だけは
344どうぞ慎(つつし)み下(くだ)されよ
345賛成(さんせい)のお方(かた)は手(て)をあげて
346拍手(はくしゆ)喝采(かつさい)してお呉(く)れ
347あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
348御霊(みたま)幸倍(さちはへ)坐(ま)しませよ
349月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
350朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
351仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
352黒姫(くろひめ)さまが怒(おこ)るとも
353金輪(こんりん)奈落(ならく)この秘密(ひみつ)
354云(い)うてはならぬぞお互(たがひ)の
355身(み)の一大事(いちだいじ)と心得(こころえ)て
356必(かなら)ず口外(こうぐわい)するでない
357秘密(ひみつ)はどこ迄(まで)秘密(ひみつ)だよ
358神(かみ)の奥(おく)には奥(おく)がある
359其(その)又(また)奥(おく)には奥(おく)がある
360奥(おく)の分(わか)らぬ梅公(うめこう)の
361智慧(ちゑ)の奥山(おくやま)踏(ふ)み分(わ)けて
362確(しか)と梅公(うめこう)に従(つ)いて来(こ)い
363こいでこいでと松世(まつよ)はこいで
364末法(まつぱう)の世(よ)が来(き)て門(かど)に立(た)つ
365一(ひと)つ違(ちが)へば俺(おれ)達(たち)も
366門(かど)に立(た)たねば、ならぬとこ
367持(も)つて生(うま)れた智慧(ちゑ)の徳(とく)
368大(おほ)きな顔(かほ)して黒姫(くろひめ)に
369賞(ほ)めて貰(もら)うて傲然(ごうぜん)と
370ウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)
371あゝ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
372唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
373曲津(まがつ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
374身(み)の過(あやま)ちは都合(つがふ)好(よ)く
375宣(の)り直(なほ)すのが智慧(ちゑ)の徳(とく)
376あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
377叶(かな)はぬ時(とき)があつたなら
378頭(あたま)を下(さ)げて梅公(うめこう)に
379ドンナ事(こと)でも聞(き)くがよい
380聞(き)くは当座(たうざ)の恥(はぢ)なれど
381聞(き)かずに知(し)つた顔(かほ)をして
382失敗(しつぱい)したら末代(まつだい)の
383それこそ恥(はぢ)となる程(ほど)に
384阿呆(あはう)正直(しやうぢき)今迄(いままで)の
385態度(たいど)すつくり立替(たてか)へて
386権謀(けんぼう)、術策(じゆつさく)、戦略(せんりやく)に
387心(こころ)の底(そこ)から立直(たてなほ)せ
388あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
389何故(なぜ)に是程(これほど)よい智慧(ちゑ)が
390梅公(うめこう)だけは出(で)るであろ
391あゝ其(その)筈(はず)ぢや其(その)筈(はず)ぢや
392厳(いづ)の霊(みたま)のお筆先(ふでさき)
393一度(いちど)に開(ひら)く梅(うめ)の花(はな)
394梅(うめ)で開(ひら)いて常磐(ときは)の松(まつ)で
395世界(せかい)治(をさ)める神(かみ)の道(みち)
396見違(みちが)ひするなよ皆(みな)の奴(やつ)
397黒姫(くろひめ)さまは偉(えら)くとも
398高山(たかやま)さまを貰(もら)うてから
399何(なん)とはなしにぼつとした
400これから俺(おれ)が全軍(ぜんぐん)の
401参謀(さんぼう)総長(そうちやう)である程(ほど)に
402参謀(さんぼう)本部(ほんぶ)の梅公(うめこう)の
403指揮(しき)命令(めいれい)に従(したが)つて
404事(こと)を執(と)るなら毛(け)の条(すぢ)の
405横幅(よこはば)程(ほど)も違算(ゐさん)なし
406余程(よつぽど)偉(えら)い守護神(しゆごじん)
407俺(おれ)に守護(しゆご)をして御座(ござ)る
408必(かなら)ず俺(おれ)が云(い)ふでない
409日(ひ)の出神(でのかみ)や竜宮(りうぐう)の
410乙姫(おとひめ)さまのお脇立(わきだち)
411中(なか)でも一層(いつそう)偉(えら)い奴(やつ)
412吾(わ)が神勅(しんちよく)を軽蔑(けいべつ)し
413必(かなら)ずぬかりを取(と)らぬやう
414皆(みな)の奴(やつ)等(ら)に気(き)をつける
415あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
416叶(かな)はぬ時(とき)の神頼(かみだの)み
417アハヽヽ ハツハア アハヽヽヽ』
418一同(いちどう)『アハヽヽヽ、419随分(ずゐぶん)偉(えら)くメートルを上(あ)げたものだなア』
420梅公(うめこう)『何(なに)をごてごて吐(ほざ)くのだ、421貴様(きさま)等(ら)の命(いのち)の親(おや)だ、422お飯(まま)の種(たね)だ、423サアサア黒姫(くろひめ)さまがお待(ま)ち兼(かね)だ。424御禊(みそぎ)がすみたら帰(かへ)らう』
425 一同(いちどう)はバラバラと元(もと)の地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)に向(むか)つて帰(かへ)り行(ゆ)く。
426(大正一一・四・二六 旧三・三〇 加藤明子録)
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