霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 相見(あひみ)互(たがひ)〔六三九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第4篇 舎身活躍 よみ(新仮名遣い):しゃしんかつやく
章:第11章 相身互 よみ(新仮名遣い):あいみたがい 通し章番号:639
口述日:1922(大正11)年04月28日(旧04月02日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
元ウラナイ教で、今は三五教の宣伝使となっていた常彦は、観音峠の頂上で旅の疲れからうとうとしていると、みすぼらしい二人の男が登ってくるのに出くわした。これは、黒姫の元から逃げてきた板公と滝公であった。
板公と滝公は、松姫のところも追い出され、困窮していた。二人は常彦を三五教の宣伝使と認め、空腹を満たすために食物の提供を求めた。常彦は握り飯を与えた。
飢えを満たした二人は常彦に礼を言う。常彦は、二人が板公と滝公であることを認め、このような境遇に陥った訳を尋ねた。二人は黒姫のところで失敗をして逃げた顛末を語った。
常彦は、青彦やお節、紫姫らの一行が黒姫のところに行ったと聞いて、三五教信心堅固な彼らがウラナイ教になったことを不審に思う。そこで魔窟ケ原に行って事の真相を確かめたい、と言う。
滝公と板公は、常彦に恩義を感じて、三五教の人間としてお供したい、と申し出て許可を得る。三人が須知山峠の頂上まで来て休んでいると、そこへ鬼鷹、荒鷹の二人が通りかかった。
鬼鷹、荒鷹は丹州に言われて、こちら方面にやってきたのだ、という。そして、弥仙山の麓の村で、玉照姫という尊い神人が生まれたこと、黒姫が玉照姫をウラナイ教に引き込んで利用しようとしていることを伝えた。
鬼鷹、荒鷹は丹州に言われたとおりの方向に旅を続けた。常彦は、弥仙山に興味を抱きつつ、最初に決めた目的地に進むことを思案した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-03-19 18:54:39 文字数:5925 OBC :rm1811
愛善世界社版:187頁 八幡書店版:第3輯 706頁 修補版: 校定版:193頁 普及版:85頁 初版: ページ備考:愛世版と校定版は目次「身」、本文「見」。八幡版は目次も本文も「見」。普及版は目次も本文も「身」。
001降(ふ)りみ降(ふ)らずみ空(そら)低(ひく)う
002四辺(あたり)は暗(くら)く黄昏(たそが)れて
003山時鳥(やまほととぎす)遠近(をちこち)に
004本巣(ほんざう)かけたか、かけたかと
005八千八(はつせんや)声(こゑ)の血(ち)を吐(は)いて
006声(こゑ)も湿(しめ)りし五月空(さつきぞら)
007憂(うき)に悩(なや)める人々(ひとびと)を
008教(をし)へて神(かみ)の大道(おほみち)に
009救(すく)はむものと常彦(つねひこ)が
010鬼ケ城(おにがじよう)山(ざん)後(あと)にして
011足(あし)もゆらゆら由良(ゆら)の川(かは)
012蛇(じや)が鼻(はな)、長谷(はせ)の郷(さと)を越(こ)え
013生野(いくの)を過(す)ぎての檜山(ひのきやま)
014須知(しゆち)、蒲生野(こもの)を乗(の)り越(こ)えて
015駒(こま)に鞭打(むちう)つ一人旅(ひとりたび)
016観音峠(くわんおんたうげ)の頂上(ちやうじやう)に
017シトシト来(きた)る雨(あめ)の空(そら)
018遠(とほ)く彼方(あなた)を見渡(みわた)せば
019天神山(てんじんやま)や小向山(こむきやま)
020花(はな)の園部(そのべ)も目(ま)の下(した)に
021横田(よこた)、木崎(きざき)と開展(かいてん)し
022高城山(たかしろやま)は雲表(うんぺう)に
023姿(すがた)現(あら)はす夜明(よあ)け頃(ごろ)
024眼下(がんか)の野辺(のべ)を眺(なが)むれば
025生命(いのち)の苗(なへ)を植(うゑ)つける
026早乙女(さをとめ)達(たち)の田(た)の面(おも)に
027三々(さんさん)伍々(ごご)と隊(たい)をなし
028御代(みよ)の富貴(ふうき)を唄(うた)ふ声(こゑ)
029さながら神代(かみよ)の姿(すがた)なり。
030 常彦(つねひこ)は峠(たうげ)の上(うへ)の岩石(がんせき)に凭(もた)れ、031夜(よ)の旅路(たびぢ)の疲(つか)れを催(もよほ)し、032昇(のぼ)る旭(あさひ)を遥拝(えうはい)しつつ、033知(し)らず識(し)らずに睡魔(すゐま)に襲(おそ)はれ居(ゐ)る。
034 観音峠(くわんおんたうげ)の頂上(ちやうじやう)さして、035東(ひがし)より登(のぼ)り来(く)る二人(ふたり)の乞食姿(こじきすがた)、
036甲(かふ)(滝公)『人間(にんげん)も、037斯(か)う落魄(おちぶ)れては、038どうも仕方(しかた)がないぢやないか。039何程(なにほど)男(をとこ)は裸(はだか)百貫(ひやくくわん)だと云(い)つても、040破(やぶ)れ襦袢(じゆばん)を一(いち)枚(まい)身(み)に着(つ)けて、041斯(こ)うシヨボシヨボと、042雨(あめ)の降(ふ)る五月雨(さみだれ)の空(そら)、043どこの家(うち)を尋(たづ)ねても、044戸(と)をピツシヤリ閉(し)めて、045野良(のら)へ出(で)て居(を)る者(もの)ばつかり、046茶(ちや)一杯(いつぱい)餐(よ)ばれる所(ところ)も無(な)し、047谷川(たにがは)の水(みづ)を掬(すく)つて飲(の)めば、048塩分(しほけ)はあるが、049忽(たちま)ち腹(はら)の加減(かげん)を悪(わる)うして了(しま)ふ。050裸(はだか)で物(もの)は遺失(おと)さぬ代(かは)りに、051何(なに)か有(あ)りつかうと思(おも)つても、052せめて着物(きもの)丈(だけ)なつとなければ、053相手(あひて)になつて呉(く)れる者(もの)もなし。054純然(じゆんぜん)たるお乞食(こじき)さまと、055誤解(ごかい)されて了(しま)ふ。056実(じつ)に残念(ざんねん)だなア』
057乙(おつ)(板公)『天下(てんか)を救済(きうさい)するの、058誠(まこと)の道(みち)ぢやのと、059偉相(えらさう)に言(い)つて居(ゐ)るウラナイ教(けう)の高城山(たかしろやま)の松姫(まつひめ)も、060今迄(いままで)とは態度(たいど)一変(いつぺん)し、061飯(めし)の上(うへ)の蠅(はへ)を払(はら)ふ様(やう)に虐待(ぎやくたい)をしよつたぢやないか。062これと云(い)ふのも、063ヤツパリ此方(こちら)の智慧(ちゑ)が足(た)らぬからぢや。064雨(あめ)には嬲(なぶ)られ、065風(かぜ)にはなぶられ、066おまけに蚊(か)にまで襲撃(しふげき)され、067七(しち)尺(しやく)の男子(だんし)が、068此(この)広(ひろ)い天地(てんち)に身(み)を容(い)るる所(ところ)もなき様(やう)になつたのも要(えう)するに、069智慧(ちゑ)が廻(まは)らぬからだよ。070あの梅公(うめこう)の奴(やつ)を始(はじ)め、071松姫(まつひめ)の如(ごと)きは、072随分(ずゐぶん)陰険(いんけん)な代物(しろもの)だが、073巧妙(うま)く黒姫(くろひめ)に取入(とりい)つて、074今(いま)では豪勢(がうせい)なものだ。075何(なん)とかして、076モウ一度(いちど)黒姫(くろひめ)の部下(ぶか)になる訳(わけ)にはいかうまいかなア』
077甲(かふ)(滝公)『一旦(いつたん)男子(だんし)が広言(くわうげん)を吐(は)いて、078此方(こちら)から暇(ひま)を呉(く)れた以上(いじやう)、079ノメノメと尾(を)を掉(ふ)つて帰(い)ぬ事(こと)が出来(でき)ようか。080鷹(たか)は飢(う)ゑても穂(ほ)を喙(つ)まぬ……と云(い)ふ事(こと)がある。081ソンナ弱音(よわね)を吹(ふ)くな、082暗(やみ)の後(あと)には月(つき)が出(で)るぢやないか』
083乙(おつ)(板公)『人間(にんげん)の運命(うんめい)と云(い)ふものは定(き)まつて居(ゐ)ると見(み)える。084黒姫(くろひめ)や高姫(たかひめ)、085松姫(まつひめ)はどこともなしに、086丸(まる)い豊(ゆたか)な顔(かほ)をして居(を)るが、087丸顔(まるがほ)に憂(うれ)ひなし、088長顔(なががお)に憂(うれ)ひありと云(い)つて、089俺(おれ)達(たち)は金(かね)さへ有(あ)れば、090社会(しやくわい)にウリザネ顔(かほ)だと言(い)つて、091歓待(もて)る代物(しろもの)だけれど、092今日(けふ)の様(やう)な態(ざま)になつては、093ますます貧相(ひんさう)に……自分(じぶん)乍(なが)ら見(み)えて来(く)る。094自分(じぶん)から愛想(あいさう)をつかす様(やう)な物騒(ぶつそう)な肉体(にくたい)、095何程(なにほど)馬鹿(ばか)の多(おほ)い世(よ)の中(なか)だと言(い)つて、096誰(たれ)が目(め)をかけて呉(く)れる者(もの)が有(あ)らうか。097アーア仕方(しかた)がない。098何(なん)とか一身(いつしん)上(じやう)の処置(しよち)を附(つ)ける事(こと)にしようかい。099ヌースー式(しき)をやつては、100神界(しんかい)へ対(たい)して罪(つみ)を重(かさ)ね、101万劫(まんごふ)末代(まつだい)苦(くる)しみの種(たね)を蒔(ま)かねばならず、102実(じつ)、103さうだと言(い)つて、104自殺(じさつ)は罪悪(ざいあく)であり、105死(し)ぬにも死(し)なれず、106困(こま)つた者(もの)だ。107どうしたら此(この)煩悶(はんもん)苦悩(くなう)が解(と)けるであらう。108否(いや)スツパリと忘(わす)れられるだらう』
109甲(かふ)(滝公)『心(こころ)一(ひと)つの持(も)ちやうだ。110刹那心(せつなしん)を楽(たのし)むんだよ』
111乙(おつ)(板公)『貴様(きさま)はまだ、112ソンナ気楽(きらく)な事(こと)を言(い)つて居(ゐ)るが、113衣食(いしよく)足(た)りて礼節(れいせつ)を知(し)るだ。114今日(けふ)で三日(みつか)も何(なに)も食(く)はずに、115胃(ゐ)の腑(ふ)は身代限(しんだいかぎ)りを請求(せいきう)する。116一歩(いつぽ)も歩(あゆ)む事(こと)も出来(でき)なくなつて、117どうして刹那心(せつなしん)が楽(たのし)めよう。118刹那(せつな)々々(せつな)に苦痛(くつう)を増(ます)ばつかりぢやないか。119アーアこれを思(おも)へば、120黒姫(くろひめ)の御恩(ごおん)が今更(いまさら)の如(ごと)く分(わか)つて来(き)たワイ』
121甲(かふ)(滝公)『ヤア情(なさけ)ない事(こと)を言(い)ふな。122そら其処(そこ)に三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が立(た)つて居(を)るぞ』
123乙(おつ)(板公)『モウ斯(か)うなつちやア、124三五教(あななひけう)もウラナイ教(けう)も有(あ)るものぢやない。125食(く)はぬが悲(かな)しさぢや。126飢渇(きかつ)に迫(せま)つてから、127恥(はづか)しいも何(なに)も有(あ)つたものかい』
128と常彦(つねひこ)の佇(たたず)む前(まへ)に進(すす)み寄(よ)り、
129乙(おつ)(板公)『モシモシ、130あなたは三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)ぢやありませぬか』
131と力(ちから)無(な)き声(こゑ)に、132常彦(つねひこ)はフツと目(め)を醒(さま)し、
133常彦『アーア夜(よる)の旅(たび)で草臥(くたび)れたと見(み)えて、134知(し)らぬ間(ま)に寝込(ねこ)んで了(しま)うたワイ。135……ヤアお前(まへ)は乞食(こじき)と見(み)えるな。136何(なん)ぞ御用(ごよう)で御座(ござ)るか』
137 乙(おつ)は何(なん)にも言(い)はず、138口(くち)と腹(はら)を指(さ)し、139飢(うゑ)に迫(せま)れる事(こと)を示(しめ)した。
140常彦(つねひこ)『ヤア一人(ひとり)かと思(おも)へば、141二人(ふたり)連(づれ)ぢやな。142幸(さいは)ひ、143ここに握(にぎ)り飯(めし)が残(のこ)つて居(を)る。144失礼(しつれい)だが之(これ)をお食(あが)りなさらぬか』
145乙(おつ)(板公)『ハイそれは有難(ありがた)う御座(ござ)います。146早速(さつそく)頂戴(ちやうだい)致(いた)しませう。147……オイ滝公(たきこう)、148助(たす)け船(ぶね)だ兵站部(へいたんぶ)が出来(でき)たぞ。149サア御(お)礼(れい)を申(まを)せ』
150滝公(たきこう)『アーそんなら頂戴(ちやうだい)しようかなア、151恥(はづか)しい事(こと)だ。152旅人(たびびと)の弁当(べんたう)を貰(もら)つて食(く)ふのは、153生(うま)れてから始(はじ)めてだ』
154と四個(よんこ)の握(にぎ)り飯(めし)を分配(ぶんぱい)し、155二(ふた)ツづつ、156飛(と)び付(つ)く様(やう)に平(たひら)げて了(しま)ひ、
157乙(おつ)(板公)『アーアこれで少(すこ)し人間(にんげん)らしい気(き)がして来(き)た。158……イヤ宣伝使(せんでんし)様(さま)、159有難(ありがた)う御座(ござ)います。160……併(しか)し乍(なが)ら此(この)先(さき)は又(また)どうしたら宜(よ)からうかなア』
161滝公(たきこう)『刹那心(せつなしん)だよ。162又(また)神(かみ)様(さま)がお助(たす)け下(くだ)さる。163心配(しんぱい)するな。164……何(いづ)れの方(かた)か知(し)りませぬが有難(ありがた)う御座(ござ)いました。165これでヤツと、166こつちのものになりました』
167と見上(みあ)ぐる途端(とたん)にハツと驚(おどろ)き顔(かほ)を隠(かく)す。
168常彦(つねひこ)『ヤア失礼(しつれい)乍(なが)らあなたは、169ウラナイ教(けう)の滝公(たきこう)さまぢやありませぬか。170ヤアあなたは板公(いたこう)さま、171どうしてそんな姿(すがた)におなりなさつた。172何(なに)か様子(やうす)が御座(ござ)いませう。173差支(さしつかへ)なくばお聞(き)かせ下(くだ)さいませいなア』
174板公(いたこう)『恥(はづか)しい所(ところ)、175お目(め)にかかりました。176実(じつ)は斯(か)うなるも身(み)から出(で)た錆(さび)、177何(なん)とも言(い)ひ様(やう)がありませぬが、178実(じつ)の所(ところ)は、179あまり宣伝(せんでん)の効果(かうくわ)が挙(あ)がらないので、180一寸(ちよつと)した事(こと)をやりました。181それが此(この)通(とほ)り大零落(だいれいらく)の淵(ふち)に沈(しづ)む端緒(たんちよ)となつたのです』
182滝公(たきこう)『誠(まこと)に赤面(せきめん)の至(いた)り、183智慧(ちゑ)も廻(まは)らぬ癖(くせ)に、184人真似(ひとまね)をして、185大変(たいへん)な失敗(しつぱい)を演(えん)じ、186闇(やみ)の谷底(たにそこ)へ転落(てんらく)し、187生命(いのち)カラガラな目(め)に遭(あ)ひ、188終(つひ)には黒姫(くろひめ)の御(ご)機嫌(きげん)を損(そこ)ねたのみならず、189青彦(あをひこ)、190お節(せつ)に踏(ふ)み込(こ)まれ、191一生(いつしやう)懸命(けんめい)逃(に)げて来(き)ました。192それから私(わたくし)等(ら)二人(ふたり)は高城山(たかしろやま)へ参(まゐ)り、193松姫(まつひめ)の前(まへ)に尻(しり)を捲(まく)つて、194ウラナイ教(けう)の内幕(うちまく)を暴露(ばくろ)してやらうと、195強圧(きやうあつ)的(てき)に出(で)た所(ところ)、196中々(なかなか)の強者(しれもの)、197吾々(われわれ)の智嚢(ちなう)を搾(しぼ)り出(だ)した狂言(きやうげん)も、198松姫(まつひめ)に対(たい)しては兎(う)の毛(け)の露(つゆ)程(ほど)も脅威(けふゐ)を与(あた)へず、199シツペイ返(がへ)しを喰(くら)つて、200生命(いのち)からがら此処(ここ)までやつて来(き)ました。201併(しか)し乍(なが)ら窮(きう)すれば乱(らん)すと云(い)ふ諺(ことわざ)もありますが、202吾々(われわれ)は一旦(いつたん)誠(まこと)の道(みち)を聞(き)いた者(もの)、203仮令(たとへ)餓死(がし)しても人(ひと)の物(もの)を失敬(しつけい)する事(こと)は絶対(ぜつたい)に厭(いや)で堪(たま)らず、204最早(もはや)生命(いのち)の瀬戸際(せとぎは)、205一生(いつしやう)の大峠(おほたうげ)となつた所(ところ)、206あなたに巡(めぐ)り会(あ)ひ、207一塊(いつくわい)のパンを与(あた)へられて、208漸(やうや)く人間(にんげん)心地(ごこち)が致(いた)しました。209これもアカの他人(たにん)に恵(めぐ)まれるのであつたならば残念(ざんねん)ですが、210有難(ありがた)い事(こと)には、211一旦(いつたん)御(お)心易(こころやす)うして居(ゐ)たあなたに救(すく)はれたと云(い)ふのも、212まだ天道(てんだう)は吾々(われわれ)を棄(す)て給(たま)はざる証(しるし)と、213何(なん)となく勇気(ゆうき)が出(で)て来(き)ました』
214常彦(つねひこ)『今(いま)のお言葉(ことば)に、215青彦(あをひこ)お節(せつ)が黒姫(くろひめ)の所(ところ)へ往(い)つたと仰有(おつしや)つたが、216ソレヤ本当(ほんたう)ですか』
217滝公(たきこう)『ヘエヘエ本当(ほんたう)も本当(ほんたう)、218一文(いちもん)生中(きなか)の、219掛値(かけね)も御座(ござ)いませぬ。220今頃(いまごろ)は黒姫(くろひめ)も、221青彦(あをひこ)お節(せつ)其(その)他(た)の二三(にさん)人(にん)の男女(だんぢよ)に欺(あざむ)かれて、222道場(だうぢやう)を破(やぶ)られ、223フサの国(くに)へでも逃(に)げて行(い)つたかも知(し)れますまい、224高城山(たかしろやま)の松姫(まつひめ)の様子(やうす)が何(なん)だか変(へん)で御座(ござ)いましたから……』
225板公(いたこう)『ナーニ黒姫(くろひめ)はそんな奴(やつ)ぢやない。226キツと青彦(あをひこ)、227お節(せつ)は袋(ふくろ)の鼠(ねずみ)、228舌(した)の先(さき)で巧(うま)くチヨロまかされて居(を)るに違(ちが)ひない。229それよりも惜(を)しいと思(おも)うのは、230紫姫(むらさきひめ)さまに、231馬公(うまこう)鹿公(しかこう)と云(い)ふ若(わか)い男(をとこ)だ。232キツと、233ウラナイ教(けう)に沈没(ちんぼつ)して居(を)るに相違(さうゐ)ない』
234常彦(つねひこ)『ハテナ、235吾々(われわれ)も御(ご)両人(りやうにん)の知(し)らるる通(とほ)り、236ウラナイ教(けう)のカンカンであつたが、237余(あま)り内容(ないよう)が充実(じゆうじつ)せないのと、238黒姫(くろひめ)の言心行(げんしんかう)一致(いつち)を欠(か)いだ其(その)点(てん)が腑(ふ)に落(お)ちず、239又(また)数多(あまた)の信者(しんじや)に対(たい)して、240吾々(われわれ)部下(ぶか)の宣伝使(せんでんし)として弁解(べんかい)の辞(ことば)がないので、241アヽ最早(もはや)ウラナイ教(けう)は前途(さき)が見(み)えた。242根底(こんてい)から崩(くづ)れて了(しま)つた。243斯(か)う云(い)ふ事(こと)で、244どうして天下(てんか)の修斎(しうさい)が出来(でき)ようぞ、245信仰(しんかう)に酔払(よつぱら)つた連中(れんちう)は今(いま)の所(ところ)、246稍(やや)命脈(めいみやく)を保(たも)つて居(ゐ)るが、247酔払(よつぱら)つた酒(さけ)は何時(いつ)しか醒(さ)める如(ごと)く、248信仰(しんかう)も追々(おひおひ)冷却(れいきやく)するは当然(たうぜん)の帰結(きけつ)と、249前途(ぜんと)を見越(みこ)して、250ヤツパリ天下(てんか)を救(すく)ふは三五教(あななひけう)だと、251直(ただち)に三五教(あななひけう)に入信(にふしん)し、252鬼ケ城(おにがじよう)の邪神(じやしん)退治(たいぢ)と出掛(でか)け、253それより諸方(しよはう)を宣伝(せんでん)し廻(まは)つて居(ゐ)るのだ。254それにしても合点(がつてん)のゆかぬは、255あれ程(ほど)決心(けつしん)の堅(かた)かつた青彦(あをひこ)、256お節(せつ)に紫姫(むらさきひめ)さまぢや。257これには何(なに)か深(ふか)い様子(やうす)が有(あ)る事(こと)であらう。258コラ斯(か)うしても居(を)られない。259一時(いつとき)も早(はや)く魔窟(まくつ)ケ原(はら)へ行(い)つて、260事(こと)の真偽(しんぎ)を確(たしか)め、261其(その)上(うへ)で又(また)作戦(さくせん)計画(けいくわく)を定(さだ)めねばなるまい。262アーア困(こま)つた事(こと)が出来(でき)たワイ』
263と手(て)を組(く)んで太(ふと)い息(いき)をつく。
264滝公(たきこう)『これに就(つい)て常彦(つねひこ)さま、265あなたは何(なに)かお考(かんが)へがありますか。266ならう事(こと)なら、267私(わたくし)達(たち)も共々(ともども)に三五教(あななひけう)の為(ため)に尽(つく)さして頂(いただ)きたいのですが、268何(なに)を言(い)うても零落(おちぶ)れた此(この)体(からだ)、269あなたの顔(かほ)にかかはりますから……』
270常彦(つねひこ)『ソラ何(なに)を仰有(おつしや)る。271衣服(いふく)は何時(なんどき)でも替(か)へられる。272あなたの今迄(いままで)の失敗(しつぱい)の経験(けいけん)に会(あ)つて鍛(きた)へ上(あ)げられたる其(その)身魂(みたま)は、273容易(ようい)に得(え)られるものでない。274何(なに)は兎(と)も角(かく)一緒(いつしよ)に参(まゐ)りませう。275また都合(つがふ)の好(よ)い所(ところ)が有(あ)れば、276衣服(いふく)でも買(か)つて上(あ)げませう。277兎(と)も角(かく)青彦(あをひこ)以下(いか)の救援(きうゑん)に向(むか)はねばならぬ。278サア滝公(たきこう)、279板公(いたこう)、280参(まゐ)りませう』
281 二人(ふたり)は何(なん)にも言(い)はず、282嬉(うれ)し涙(なみだ)に暮(く)れ乍(なが)ら、283常彦(つねひこ)の後(あと)に従(したが)ひ、284西北(せいほく)指(さ)して、285今迄(いままで)の衰耗(すゐまう)敗残(はいざん)の気(き)に充(みた)された態度(たいど)は忽(たちま)ち枯木(かれき)に花(はな)の咲(さ)きし如(ごと)く、286イソイソとして従(つ)いて行(ゆ)く。
287 山頭(さんとう)寒巌(かんがん)に倚(よ)りて立(た)てる古木(こぼく)も春(はる)の陽気(やうき)に会(あ)ひて深緑(しんりよく)の芽(め)を吹(ふ)き出(だ)したる如(ごと)く、288青(あを)ざめた顔(かほ)は忽(たちま)ち桜色(さくらいろ)と変(かは)り、289常彦(つねひこ)に絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)の至誠(しせい)を捧(ささ)げつつ、290花(はな)咲(さ)き匂(にほ)ふ枯木峠(かれきたうげ)を打渡(うちわた)り、291神(かみ)の救(すく)ひをエノキ峠(たうげ)の急坂(きふはん)後(あと)に見(み)て、292握(にぎ)り拳(こぶし)をホドいて夏風(なつかぜ)に、293そよぐ蕨(わらび)の野辺(のべ)を打渡(うちわた)り、294とある茶店(ちやみせ)に立入(たちい)りて、295再(ふたた)び腹(はら)を拵(こしら)へ忽(たちま)ち太(ふと)る大原(おほはら)の郷(さと)、296テクテク来(きた)る須知山(しゆちやま)峠(たうげ)の絶頂(ぜつちやう)に、297青葉(あをば)を渡(わた)る涼(すず)しき夏(なつ)の風(かぜ)を受(う)け乍(なが)ら、298かたへの巌(いはほ)に腰(こし)打掛(うちか)け、
299常彦(つねひこ)『アヽ早(はや)いものだ、300モウ一息(ひといき)で聖地(せいち)に到着(たうちやく)する。301世継王(よつわう)山(ざん)の山麓(さんろく)には、302悦子姫(よしこひめ)さまの経綸場(けいりんば)が出来(でき)たと云(い)ふ事(こと)だ。303一(ひと)つ立寄(たちよ)つて見(み)ようかな。304大抵(たいてい)青彦(あをひこ)の様子(やうす)も分(わか)らうから………イヤイヤ今度(こんど)は素通(すどほり)をして、305青彦(あをひこ)に対面(たいめん)し、306救(すく)はるるものならば、307どこまでも誠(まこと)を尽(つく)して忠告(ちうこく)を与(あた)へ、308其(その)上(うへ)にて悦子姫(よしこひめ)様(さま)の庵(いほり)を御(お)訪(たづ)ねする事(こと)にしよう。309幸(さいはひ)に青彦(あをひこ)以下(いか)が改心(かいしん)をして、310三五教(あななひけう)に復帰(ふくき)したとすれば、311先(さき)へ妙(めう)な事(こと)をお耳(みみ)に入(い)れ置(お)くのは却(かへつ)て青彦(あをひこ)の為(ため)に面白(おもしろ)くない。312友人(いうじん)の道(みち)として絶対(ぜつたい)秘密(ひみつ)にしてやるが本当(ほんたう)だらう』
313滝公(たきこう)『青彦(あをひこ)さまはよもや、314ウラナイ教(けう)になつて居(を)る気遣(きづか)ひは有(あ)りますまい』
315板公(いたこう)『何(なん)とも、316保証(ほしよう)がでけぬ、317突然(とつぜん)の事(こと)で吾々(われわれ)も岩窟(いはや)退治(たいぢ)に来(き)たのだと思(おも)つて驚(おどろ)いたが、318後(あと)になつてよくよく考(かんが)へて見(み)れば、319どうも黒姫(くろひめ)と云(い)ひ、320青彦(あをひこ)、321紫姫(むらさきひめ)さま其(その)他(た)の顔色(がんしよく)に少(すこ)しも変(へん)な色(いろ)が浮(う)かんで居(を)らなかつた。322黒姫(くろひめ)の魔術(まじゆつ)に依(よ)りて剣尖山(けんさきやま)の滝(たき)の麓(ふもと)でうまくシテやられたのかも知(し)れない、323兎(と)も角(かく)も常彦(つねひこ)さまをお頼(たの)み申(まを)して、324吾々(われわれ)も弟子(でし)となつた以上(いじやう)は、325青彦(あをひこ)さま一行(いつかう)を元(もと)の道(みち)へ救(すく)はねばなりますまい。326これから首尾(しゆび)能(よ)く凱旋(がいせん)する迄(まで)、327悦子姫(よしこひめ)様(さま)の庵(いほり)を訪(たづ)ねなさらぬ方(はう)が、328万事(ばんじ)の都合(つがふ)が良(よ)い様(やう)に思(おも)ひます。329ナア常彦(つねひこ)さま』
330常彦(つねひこ)『アヽ私(わたくし)はさう考(かんが)へるのだ。331何(なに)に付(つ)けても大事件(だいじけん)が突発(とつぱつ)した様(やう)なものだ』
332と話(はな)す折(をり)しも、333坂(さか)を登(のぼ)り来(きた)る二人(ふたり)の男(をとこ)、
334男(をとこ)(荒鷹、鬼鷹)『ヤアあなたは常彦(つねひこ)さまぢやありませぬか。335何処(どこ)へお出(い)でになつて居(ゐ)ました? 吾々(われわれ)二人(ふたり)は丹州(たんしう)と共(とも)に弥仙山(みせんざん)の麓(ふもと)に当(あた)つて、336紫(むらさき)の雲(くも)、337日々(にちにち)立昇(たちのぼ)るのを見(み)て、338コレヤ何(なに)か神界(しんかい)の経綸(けいりん)が有(あ)るのだらうと其(その)雲(くも)を目当(めあて)に参(まゐ)りました。339所(ところ)が近(ちか)くへ寄(よ)つて見(み)れば、340恰度(ちやうど)虹(にじ)の様(やう)で、341其(その)雲(くも)は一寸(ちよつと)向(むか)ふの方(はう)に靉靆(たなび)いて居(ゐ)る。342コレヤ大変(たいへん)だ、343どこまで行(い)つても雲(くも)を掴(つか)むとは此(この)事(こと)だと、344丹州(たんしう)さまにお別(わか)れをして、345ここまでやつて来(き)ました』
346常彦(つねひこ)『ヤアお前(まへ)は鬼(おに)ケ城(じやう)言霊戦(ことたません)の勇士(ゆうし)、347荒鷹(あらたか)、348鬼鷹(おにたか)のお二人(ふたり)さま、349どこへ行(ゆ)く積(つも)りだ』
350荒鷹(あらたか)『丹州(たんしう)さまは吾々(われわれ)に向(むか)ひ仰有(おつしや)るには、351一寸(ちよつと)神界(しんかい)の御用(ごよう)があるから弥仙山(みせんざん)を中心(ちうしん)として暫(しばら)く此(この)辺(へん)を探険(たんけん)しようと思(おも)ふから、352お前(まへ)達(たち)はこれから聖地(せいち)を指(さ)して進(すす)んで行(ゆ)け。353併(しか)し乍(なが)ら聖地(せいち)に立寄(たちよ)る事(こと)はならぬ。354須知山(しゆちやま)峠(たうげ)を指(さ)して行(ゆ)けとの御(お)言葉(ことば)、355どこを目的(あて)ともなくやつて来(き)ました。356其(その)時々(ときどき)に神(かみ)が懸(うつ)つて知(し)らしてやるから、357安心(あんしん)して行(ゆ)けとの事(こと)、358大方(おほかた)伊吹山(いぶきやま)の邪神(じやしん)退治(たいぢ)に行(ゆ)くのではなからうかと思(おも)つて参(まゐ)りました。359併(しか)しあなたのお顔(かほ)を見(み)るなり、360何(なん)だか向(むか)ふへ行(ゆ)くのが張合(はりあひ)が抜(ぬ)けた様(やう)な気(き)がしてなりませぬワイ』
361常彦(つねひこ)『それは不思議(ふしぎ)な事(こと)を聞(き)くものだ。362何(なに)か外(ほか)に聞(き)いた事(こと)は有(あ)りませぬか』
363鬼鷹(おにたか)『ヤア有(あ)ります有(あ)ります、364大変(たいへん)な変(かは)つた事(こと)があるのですよ』
365常彦(つねひこ)『変(かは)つた事(こと)とは何(なん)ですか』
366鬼鷹(おにたか)『弥仙山(みせんざん)の麓(ふもと)の村(むら)に、367お玉(たま)と云(い)ふ娘(むすめ)があつて、368夫(をつと)も無(な)いのに腹(はら)が膨(ふく)れ、369十八(じふはち)ケ月目(げつめ)に生(う)み落(おと)したのが女(をんな)の子(こ)、370玉照姫(たまてるひめ)とか云(い)つて、371生(うま)れてから百(ひやく)日(にち)にもならないのに、372種々(いろいろ)の事(こと)を説(と)いて聞(き)かせる、373さうして室内(しつない)を自由(じいう)に立(た)つて歩(ある)くと云(い)ふ噂(うはさ)で……あの近在(きんざい)は持切(もちき)りで御座(ござ)います。374それに就(つい)て、375ウラナイ教(けう)の黒姫(くろひめ)の奴(やつ)、376抜目(ぬけめ)のない……其(その)子供(こども)を何(な)んとか彼(か)とか云(い)つて、377手(て)に入(い)れようとし、378幾度(いくたび)も使(つかい)を遣(つか)はし、379骨(ほね)を折(お)つて居(を)るさうですが、380爺(ぢい)と婆(ばば)アとが、381中々(なかなか)頑固者(ぐわんこもの)で容易(ようい)に渡(わた)さない。382家(うち)の血統(ちすぢ)が断(き)れると云(い)つて居(を)るさうです。383なかなかウラナイ教(けう)も抜目(ぬけめ)がありませぬなア』
384常彦(つねひこ)『不思議(ふしぎ)な事(こと)が有(あ)るものだなア。385兎(と)も角(かく)吾々(われわれ)も一度(いちど)其(その)子(こ)が見(み)たいものだが、386それよりも先(さき)に定(き)めた問題(もんだい)から解決(かいけつ)せなくてはならぬ。387其(その)問題(もんだい)さへ解決(かいけつ)がつかば、388黒姫(くろひめ)の様子(やうす)も分(わか)り、389子供(こども)の因縁(いんねん)も分(わか)るだらう。390併(しか)し鬼鷹(おにたか)さま、391荒鷹(あらたか)さま、392あなたは何処(どこ)へ行(ゆ)く積(つも)りか』
393荒(あら)、394鬼(おに)『まだ行先(ゆくさき)不明(ふめい)……私(わたくし)の行(ゆ)く所(ところ)は何処(どこ)で御座(ござ)います……と実(じつ)はあなたにお尋(たづ)ねしたいと思(おも)つて居(ゐ)るのです』
395常彦(つねひこ)『兎(と)も角(かく)丹州(たんしう)さまのお言葉(ことば)通(どほ)り、396行(ゆ)く所(とこ)までお出(い)でなさいませ。397神(かみ)の綱(つな)に操(あやつ)られて居(を)るのだから、398今(いま)何(なに)を考(かんが)へた所(ところ)で仕方(しかた)が有(あ)りますまい。399併(しか)し丹州(たんしう)さまは……あなた方(がた)、400何(なん)と思(おも)うて居(ゐ)ますか』
401荒鷹(あらたか)『どうもあの方(かた)は、402吾々(われわれ)としては、403正(せい)とも邪(じや)とも、404賢(けん)とも愚(ぐ)とも、405見当(けんたう)が取(と)れませぬ。406つまり一種(いつしゆ)の……悪(わる)く言(い)へば怪物(くわいぶつ)ですなア。407併(しか)し何(なん)とも言(い)はれぬ崇高(すうかう)な所(ところ)があつて、408自然(しぜん)に吾々(われわれ)は頭(あたま)が下(さ)がり、409何程(なにほど)下目(しため)に見(み)ようと思(おも)うても、410知(し)らぬ間(ま)に吾々(われわれ)の守護神(しゆごじん)は服従(ふくじゆう)致(いた)します』
411鬼鷹(おにたか)『私(わたくし)も同感(どうかん)です。412何(なん)でも特別(とくべつ)の神界(しんかい)の使命(しめい)を受(う)けた方(かた)に違(ちが)ひありませぬワ、413元(もと)吾々(われわれ)が使(つか)つて居(を)つた其(その)時分(じぶん)から、414少(すこ)し変(へん)だなアと思(おも)うて居(ゐ)た。415今日(こんにち)の所(ところ)では、416兎(と)も角(かく)不可解(ふかかい)な人物(じんぶつ)だ。417時々(ときどき)頭上(づじやう)より閃光(せんくわう)を発射(はつしや)したり、418眉間(みけん)からダイヤモンドの様(やう)な光(ひかり)が放出(はうしゆつ)して忽(たちま)ち人(ひと)を射(い)る。419到底(たうてい)凡人(ぼんじん)の品等(ひんとう)すべき限(かぎ)りではありませぬワ』
420 常彦(つねひこ)、421手(て)を組(く)み、422首(くび)をうな垂(だ)れ、423思案(しあん)に暮(く)れて居(を)る。424荒鷹(あらたか)、425鬼鷹(おにたか)は、
426荒鷹、鬼鷹『左様(さやう)なら常彦(つねひこ)さま、427又(また)惟神(かむながら)に再会(さいくわい)の時(とき)を楽(たのし)みませう』
428と一礼(いちれい)して、429スタスタ坂(さか)を南(みなみ)へ下(くだ)り行(ゆ)く。430常彦(つねひこ)は少(すこ)しも気付(きづ)かず、431瞑目(めいもく)して俯(うつ)むいて居(を)る。
432滝公(たきこう)『モシ常彦(つねひこ)さま二人(ふたり)の方(かた)はモウ行(ゆ)かれました』
433と背中(せなか)を揺(ゆす)る。434常彦(つねひこ)は夢(ゆめ)からさめた様(やう)な心地(ここち)、
435常彦(つねひこ)『ナニ、436二人(ふたり)はモウ行(ゆ)かれたと……エー何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)のお仕組(しぐみ)だらう。437とも角(かく)、438弥仙山(みせんさん)麓(ろく)へ往(い)つて見(み)たいやうな気(き)がするが、439始(はじ)めに思(おも)ひ立(た)つた青彦(あをひこ)の事件(じけん)から解決(かいけつ)するのが順序(じゆんじよ)だ。440サア皆(みな)さま、441参(まゐ)りませう……』
442(大正一一・四・二八 旧四・二 松村真澄録)
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