霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 神(かみ)か魔(ま)か〔六三五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第3篇 反間苦肉 よみ(新仮名遣い):はんかんくにく
章:第7章 神か魔か よみ(新仮名遣い):かみかまか 通し章番号:635
口述日:1922(大正11)年04月25日(旧03月29日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
七八人のウラナイ教の手下たちが、普甲峠の麓で雑談にふけっている。ウラナイ教は三五教に教勢を奪われ、最近は高姫、黒姫の機嫌がすこぶる悪いという。
手下たちはそこで、一計を案じて策略で信者をこしらえることにした。
丑公、寅公、辰公、鷹公、鳶公の五人がバラモン教の兇徒に扮して、三五教の夫婦の参詣者を襲った。そこへ、梅公、浅公、幾公の三人がウラナイ教の宣伝使として登場し、言霊の神力で兇徒を蹴散らす芝居を行った。
夫婦は、綾彦とお民と言った。すっかりウラナイ教の神力と慈悲を信じてしまった。ウラナイ教の男たちは、宿も提供すると言って、二人を魔窟ケ原へと連れて来た。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-03-15 17:42:29 文字数:5410 OBC :rm1807
愛善世界社版:111頁 八幡書店版:第3輯 678頁 修補版: 校定版:115頁 普及版:50頁 初版: ページ備考:
001四方(よも)の山々(やまやま)紅葉(もみぢ)して
002錦(にしき)織(おり)なす佐保姫(さほひめ)が
003衣(ころも)を飾(かざ)る秋(あき)の空(そら)
004日脚(ひあし)短(みじか)き山坂(やまさか)を
005下(くだ)つて来(きた)るウラナイの
006道(みち)の教(をしへ)のヘボ司(つかさ)。
007 七八(しちはち)人(にん)の荒男(あらをとこ)、008普甲峠(ふかふたうげ)の麓(ふもと)の木蔭(こかげ)に休(やす)らひ乍(なが)ら、009雑談(ざつだん)に耽(ふけ)り居(ゐ)る。
010甲(かふ)『此(この)頃(ごろ)の比沼(ひぬ)真名井(まなゐ)の参詣者(さんけいしや)は、011随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)にあるではないか。012三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が到頭(たうとう)あの聖地(せいち)を占領(せんりやう)して了(しま)ひよつて、013終(しまひ)にはウラナイ教(けう)の高姫(たかひめ)さまの懐刀(ふところがたな)とまで持(も)て囃(はや)された青彦(あをひこ)までが、014たうとう三五教(あななひけう)へ陥落(かんらく)して了(しま)ひよつた。015音彦(おとひこ)、016加米彦(かめひこ)両人(りやうにん)も変(へん)な奴(やつ)だが、017何時(いつ)陥落(かんらく)するか分(わか)りやしないぞ。018此(この)頃(ごろ)の高姫(たかひめ)さまや、019黒姫(くろひめ)さまの御(ご)機嫌(きげん)の悪(わる)い事(こと)と云(い)つたらないぢやないか。020なぜあの様(やう)に何(なん)でもない事(こと)にツンケンと目(め)に角(かど)を立(た)てるのだらう』
021乙(おつ)『きまつた事(こと)よ。022俺(おれ)達(たち)は毎日(まいにち)日日(ひにち)、023路傍(ろばう)宣伝(せんでん)をやつて居(を)つても、024一(ひと)つも土産(みやげ)がないものだから、025誰(たれ)だつて吾々(われわれ)の様(やう)な喰(くら)ひ潰(つぶ)しを、026沢山(たくさん)養(やしな)うて置(お)くのは詰(つま)らぬから、027自然(しぜん)に黒姫(くろひめ)さまだつて御(ご)機嫌(きげん)が悪(わる)くなるのは当然(あたりまへ)だ。028何時(いつ)も仰有(おつしや)るだらう。029お前(まへ)達(たち)一人(ひとり)が一人(ひとり)づつ信者(しんじや)を拵(こしら)へて来(く)れば、030十(じふ)人(にん)で十(じふ)人(にん)の信者(しんじや)が出来(でき)る。031その信者(しんじや)が又(また)一人(ひとり)づつ殖(ふ)やして行(ゆ)けば、032別(べつ)に宣伝使(せんでんし)がなくても、033自然(しぜん)に教線(けうせん)が拡(ひろ)まると仰有(おつしや)つただらう。034それに毎日(まいにち)日日(ひにち)、035斯(か)うして往来(ゆきき)の人(ひと)を掴(つか)まへて宣伝(せんでん)にかかつて居(を)つても、036誰一人(たれひとり)帰順(きじゆん)する者(もの)がないぢやないか。037比沼(ひぬ)の真名井(まなゐ)さまは、038三月(みつき)に一遍(いつぺん)位(くらゐ)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が出(で)て来(く)る丈(だけ)だ。039それに自然(ひとりで)に信者(しんじや)が殖(ふ)えて来(く)る。040それだから、041要(えう)するに吾々(われわれ)はモ一(ひと)つどつかに徹底(てつてい)せない所(ところ)があるのだらう。042今日(けふ)は何(なん)とかして、043一人(ひとり)でも入信者(にふしんじや)を拵(こしら)へて帰(い)ななくては、044合(あ)はす顔(かほ)がないぢやないか』
045丙(へい)『さうだと言(い)つて、046来(こ)ぬ者(もの)を無理(むり)に引(ひ)つ張(ぱ)つて帰(い)ンだ所(ところ)で仕方(しかた)がない。047心(こころ)の底(そこ)から……アヽ、048ウラナイ教(けう)は有難(ありがた)い神(かみ)様(さま)だと云(い)ふ感(かん)じを与(あた)へてやらねば、049本当(ほんたう)の信仰(しんかう)に導(みちび)く事(こと)は出来(でき)ぬぢやないか』
050甲(かふ)『それもさうだが、051何(なん)ぞ良(い)い方法(はうはふ)は有(あ)るまいかなア。052俺(おれ)達(たち)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に言葉(ことば)を尽(つく)し教理(けうり)を研究(けんきう)して説(と)き立(た)てるのだが、053どうしたものか、054誰(たれ)も彼(かれ)も九分(くぶ)九厘(くりん)になるとみな逃(に)げて了(しま)ふ。055偶(たまたま)信者(しんじや)が出来(でき)たと思(おも)へば、056青彦(あをひこ)やお節(せつ)の様(やう)に、057直(すぐ)に三五教(あななひけう)へ走(はし)つて了(しま)ふ。058本当(ほんたう)に妙(めう)だなア』
059丁(てい)『目的(もくてき)は手段(しゆだん)を選(えら)ばずと云(い)ふ事(こと)がある。060一(ひと)つ、061是(こ)れ丈(だけ)チヨイチヨイ詣(まゐ)る、062比沼(ひぬ)の真名井(まなゐ)の参詣者(さんけいしや)を計略(けいりやく)を以(もつ)て入信(にふしん)させたらどうだ』
063乙(おつ)『何(なん)ぞ良(い)い妙案(めうあん)奇策(きさく)があるのか』
064丁(てい)『あるともあるとも、065併(しか)しお前(まへ)達(たち)の様(やう)な馬鹿(ばか)正直者(しやうぢきもの)では、066到底(たうてい)出来(でき)ない芸当(げいたう)だから、067先(ま)づ発表(はつぺう)は見合(みあ)はす事(こと)にしようかい』
068丙(へい)『さうだと言(い)つて、069今日(けふ)も又(また)獲物(えもの)なしに帰(かへ)る訳(わけ)にも行(ゆ)かず、070日(ひ)はズツプリ暮(く)れて了(しま)つたなり、071内(うち)へ帰(かへ)つて大(おほ)きな顔(かほ)して、072麦飯(むぎめし)も頂(いただ)けぬぢやないか。073ドンナ手段(しゆだん)でも構(かま)はぬ、074良(い)い方法(はうはふ)があるなら教(をし)へて呉(く)れ』
075丁(てい)『何(なん)でも俺(おれ)の言(い)ふ様(やう)にするか、076俺(おれ)の妙案(めうあん)奇策(きさく)を用(もち)ゐたら成功(せいこう)疑(うたが)ひなしだ。077天(てん)に口(くち)あり壁(かべ)に耳(みみ)、078大(おほ)きな声(こゑ)では言(い)はれぬが、079実(じつ)は斯(か)う斯(か)う斯(か)ういふ手段(しゆだん)だ』
080と一同(いちどう)の耳元(みみもと)に口(くち)を寄(よ)せ何事(なにごと)か囁(ささや)いた。081一同(いちどう)は、
082一同『合点(がつてん)だ合点(がつてん)だ』
083と唸(うなづ)き、084大道(だいだう)の中央(まんなか)に五(ご)人(にん)の男(をとこ)、085横(よこ)になつて道(みち)を塞(ふさ)ぎ、086酒(さけ)に酔(よ)うた気分(きぶん)で寝転(ねころ)ンだ。087甲(かふ)乙(おつ)丙(へい)の三(さん)人(にん)は依然(いぜん)として傍(かたはら)の森林(しんりん)に身(み)を潜(ひそ)めて居(ゐ)る。088日(ひ)はズツプリと暮(く)れ、089誰彼(たれかれ)の顔(かほ)も見(み)えなくなつて了(しま)つた。090向(むか)ふの方(はう)より男女(だんぢよ)の二人(ふたり)、091ひそひそと囁(ささや)き乍(なが)ら、092斯(か)かる計略(たくみ)のありとは、093神(かみ)ならぬ身(み)の知(し)る由(よし)もなく、094空(そら)の星(ほし)や山(やま)の形(かたち)、095木(き)の枝(えだ)などを目標(めあて)に、096覚束(おぼつか)なげに歩(あゆ)み来(きた)り、097一人(ひとり)の横腹(よこはら)をグツと踏(ふ)み、098『キヤツ』と驚(おどろ)き逃(に)げむとする途端(とたん)に、099二人(ふたり)は二三(にさん)人(にん)の腹(はら)、100脚(あし)の辺(あた)りを踏(ふ)み、101辷(すべ)つてバツタリと倒(たふ)れたり。
102丑公(うしこう)『タヽヽ誰(たれ)ぢやい、103俺(おれ)の睾丸(きんたま)を踏(ふ)みよつて……馬鹿(ばか)にしやがる』
104寅公(とらこう)『俺(おれ)も何処(どこ)の奴(やつ)か、105腰(こし)を踏(ふ)みよつた』
106辰公(たつこう)『アイタヽヽ、107腹(はら)をグサと踏(ふ)みよつて………ヤイヤイ何処(どこ)の奴(やつ)だ、108人(ひと)の体(からだ)を土足(どそく)にかけて……一体(いつたい)何(なに)をするのだ。109……オイ皆(みな)の奴(やつ)、110起(お)きぬかい、111此奴(こいつ)ア何(なん)でも夫婦(めをと)連(づれ)と見(み)える。112モウ量見(りやうけん)ならぬ、113皆(みな)寄(よ)つて集(たか)つて叩(たた)き延(の)ばし、114フン縛(じば)つて、115宮津(みやづ)の海(うみ)へ放(ほ)り込(こ)ンだろうかい』
116一同『賛成(さんせい)々々(さんせい)』
117と何(いづ)れも作(つく)り声(ごゑ)、118滅多(めつた)矢鱈(やたら)に四方(しはう)八方(はつぱう)より叩(たた)きつける。
119男(をとこ)『コレハコレハ誠(まこと)に済(す)まぬ事(こと)を致(いた)しました。120あまり暗(くら)いものですから、121足許(あしもと)も見(み)えず……どうぞ御(ご)勘弁(かんべん)を遊(あそ)ばして下(くだ)さいませ』
122寅公(とらこう)『ナーニ勘弁(かんべん)も糞(くそ)もあるものか。123俺(おれ)を誰(たれ)だと思(おも)つて居(ゐ)やがる。124大江山(おほえやま)の鬼雲彦(おにくもひこ)の一(いち)の乾児(こぶん)、125鬼虎(おにとら)だぞ。126モウ斯(か)うなる以上(いじやう)は何(なん)と云(い)つたつて、127叩(たた)き延(の)ばし、128大江山(おほえやま)の本城(ほんじやう)へ連(つ)れ帰(かへ)り、129手足(てあし)をもぎ取(と)り、130酒(さけ)の肴(さかな)にしてやるか、131さもなくば海(うみ)へぶち込(こ)むか、132二(ふた)つに一(ひと)つだ、133……オイ兄弟(きやうだい)、134俺(おれ)達(たち)に無礼(ぶれい)を加(くは)へた代物(しろもの)だ、135此奴(こいつ)二人(ふたり)共(とも)殺(や)つて了(しま)へ』
136一同『ヨーシ』
137と又(また)もや無性(むしやう)矢鱈(やたら)に叩(たた)く、138踏(ふ)む、139蹴(け)る、140有(あ)らむ限(かぎ)りの打擲(ちやうちやく)をやつて居(ゐ)る。141女(をんな)は悲鳴(ひめい)を揚(あ)げ、
142女『人殺(ひとごろ)しイ 人殺(ひとごろ)しイ』
143丑公(うしこう)『ナーニ、144人殺(ひとごろ)しとは貴様(きさま)の事(こと)だ、145スツテの事(こと)で俺(おれ)を踏(ふ)み殺(ころ)さうとしやがつたぢやないか。146まかり違(ちが)へば俺(おれ)達(たち)が殺(ころ)される所(ところ)だ。147殺(ころ)すか、148殺(ころ)されるか、149どちらかが死(し)ぬのだ、150モウ斯(か)うなる以上(いじやう)は何(なん)と云(い)つても、151思(おも)ふ存分(ぞんぶん)制敗(せいばい)をしてやらう』
152男(をとこ)『お腹(はら)が立(た)ちませうが、153知(し)らず知(し)らずの不調法(ぶてうはふ)、154どうぞ今度(こんど)ばかりはお見逃(みのが)し下(くだ)さいませ』
155寅公(とらこう)『ヤア何(なん)と言(い)つても一度(いちど)量見(りやうけん)ならぬと言(い)つたら、156金輪(こんりん)奈落(ならく)の底(そこ)迄(まで)量見(りやうけん)ならぬのだ。157オイ皆(みな)の奴(やつ)、158槍(やり)だ、159刀(かたな)だ、160早(はや)く持(も)つて来(こ)い。161………コラ夫婦(ふうふ)の奴(やつ)、162貴様(きさま)が来(く)ると思(おも)つて最前(さいぜん)から、163数十(すうじふ)人(にん)の手下(てした)を四辺(あたり)の森林(しんりん)に忍(しの)ばせ、164待(ま)つて居(ゐ)た』
165と二人(ふたり)の男女(だんぢよ)に向(むか)つて殻竿勝(からざをがち)の様(やう)に叩(たた)きつける。166夫婦(ふうふ)は悲鳴(ひめい)をあげ、
167夫婦『助(たす)けて呉(く)れイ 助(たす)けて呉(く)れイ』
168と声(こゑ)を限(かぎ)りに泣(な)き叫(さけ)ぶ。169忽(たちま)ち此(この)場(ば)に現(あら)はれた二三(にさん)人(にん)の大男(おほをとこ)、
170大男『ヤアヤア吾(われ)こそはウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)だ。171大江山(おほえやま)の鬼雲彦(おにくもひこ)が家来(けらい)の奴輩(やつばら)、172仮令(たとへ)何百(なんびやく)人(にん)一度(いちど)に攻(せ)め来(きた)る共(とも)、173ウラナイ教(けう)の神(かみ)の神力(しんりき)を以(もつ)て、174汝(なんじ)悪魔(あくま)の一群(ひとむれ)、175片(かた)つ端(ぱし)から滅(ほろぼ)し呉(く)れむ、176覚悟(かくご)を致(いた)せ』
177寅公(とらこう)『何(なに)猪口才(ちよこざい)な、178何程(なにほど)神力(しんりき)があると言(い)つても、179多寡(たくわ)が知(し)れた二人(ふたり)や三(さん)人(にん)の木端(こつぱ)武者(むしや)、180味方(みかた)は殆(ほとん)ど百(ひやく)人(にん)、181グヅグヅ吐(ぬか)さず、182一時(いつとき)も早(はや)く此(この)場(ば)を立去(たちさ)れツ。183吾々(われわれ)に無礼(ぶれい)を働(はたら)いた二人(ふたり)の男女(だんぢよ)、184是(こ)れより制敗(せいばい)する所(ところ)だ。185俺(おれ)達(たち)の行動(かうどう)を妨(さまた)ぐると、186汝(なんぢ)等(ら)諸(もろ)共(とも)手足(てあし)を縛(しば)り大江山(おほえやま)の本城(ほんじやう)へ連(つ)れ帰(かへ)り、187五体(ごたい)をグタグタに切(き)つて切(き)つて切(き)り屠(はふ)り、188酒(さけ)の肴(さかな)にして呉(く)れむ、189覚悟(かくご)を致(いた)せ』
190大男(おほをとこ)『ハヽヽヽ、191何(なに)を吐(ぬか)しやがる、192何(なに)ほど鬼雲彦(おにくもひこ)の家来(けらい)、193仮令(たとへ)百万(ひやくまん)千万(せんまん)一度(いちど)に攻(せ)め寄(よ)せ来(きた)る共(とも)、194ウラナイ教(けう)の神力(しんりき)、195唯(ただ)一本(いつぽん)の指先(ゆびさき)にて、196汝(なんぢ)等(ら)を縦横(じうわう)無尽(むじん)に斬(き)り立(た)て薙立(なぎた)て、197海(うみ)の藻屑(もくづ)と致(いた)し呉(く)れむ、198覚悟(かくご)を致(いた)せ』
199辰公(たつこう)『ヤアヤア家来(けらい)の奴輩(やつばら)、200此(この)両人(りやうにん)は申(まを)すに及(およ)ばず、201邪魔(じやま)ひろぐウラナイ教(けう)の三(さん)人(にん)の奴輩(やつばら)、202四方(しはう)より取囲(とりかこ)み、203槍(やり)を以(もつ)て唯(ただ)一突(ひとつ)き、204大江山(おほえやま)の本城(ほんじやう)へ一(いち)時(じ)も早(はや)く連(つ)れ帰(かへ)れ』
205 一人(ひとり)の男(をとこ)、206暗(くら)がりより、
207男(をとこ)『ヤア鬼(おに)の奴輩(やつばら)、208ウラナイ教(けう)の言霊(ことたま)を喰(くら)つて見(み)よ、209手(て)も足(あし)もビクとも致(いた)さぬ様(やう)に、210霊縛(れいばく)を加(くは)へて呉(く)れむ。211一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)』
212 丑(うし)、213寅(とら)を始(はじ)め五(ご)人(にん)の男(をとこ)、
214五人『アイタヽヽ。215痛(いた)いワ痛(いた)いワ、216手(て)も足(あし)も石地蔵(いしぢざう)の様(やう)になつて動(うご)きよらぬ………オイもしウラナイ教(けう)の大先生(だいせんせい)達(たち)、217如何(いか)なる鬼(おに)の乾児(こぶん)の吾々(われわれ)も是(こ)れには閉口(へいこう)致(いた)します。218偉(えら)い御(ご)神力(しんりき)だ。219どうぞ霊縛(れいばく)を解(と)いて下(くだ)さい。220決(けつ)して決(けつ)してモウ貴方(あなた)等(がた)には相手(あひて)にはなりませぬ、221併(しか)し乍(なが)ら此(この)二人(ふたり)の男女(だんぢよ)は吾々(われわれ)を土足(どそく)にかけた無礼者(ぶれいもの)、222これ丈(だけ)はどうしても貰(もら)うて帰(かへ)ります』
223 暗中(あんちう)より、
224声(浅公、幾公、梅公)『まださう云(い)ふ事(こと)を吐(ぬか)すと、225今度(こんど)は言霊(ことたま)の神力(しんりき)に依(よ)つて、226汝(なんぢ)が五体(ごたい)をグタグタに解体(かいたい)しよか。227サアどうぢや、228一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)…………』
229五人『アイタヽヽ、230ヤア叶(かな)はぬ叶(かな)はぬ、231どうぞ勘忍(かんにん)して下(くだ)さいませ』
232 暗(くら)がりより、
233声(浅公、幾公、梅公)『ソンナラ汝(なんぢ)を赦(ゆる)して遣(つか)はす。234二人(ふたり)を此処(ここ)に残(のこ)して一時(いつとき)も早(はや)く此(この)場(ば)を立去(たちさ)れ…………ヤイヤイ森(もり)の中(なか)の数百(すうひやく)人(にん)の鬼(おに)の眷族(けんぞく)共(ども)、235手足(てあし)が動(うご)かなくなつて物(もの)も言(い)へず、236憐(あは)れな者(もの)だ。237此(この)方(はう)が今日(けふ)は特別(とくべつ)を以(もつ)て赦(ゆる)してやらう。238黙(だま)つてサツサと大江山(おほえやま)へ帰(かへ)つて行(ゆ)け…………ヤイそこな腰抜(こしぬけ)共(ども)、239貴様(きさま)も早(はや)く立去(たちさ)らぬか』
240 寅(とら)、241丑(うし)、242鷹(たか)、243辰(たつ)、244鳶(とび)、245一(いち)時(じ)に泣(な)き声(ごゑ)を出(だ)して、
246五人『逃(に)げと仰有(おつしや)つても、247手(て)も足(あし)も、248チツトも動(うご)きませぬ。249どうぞ霊縛(れいばく)を解(と)いて下(くだ)さいませ』
250 暗(くら)がりより、
251声(浅公、幾公、梅公)『オヽさうだつたな、252貴様(きさま)丈(だけ)を忘(わす)れて居(を)つた。253サア霊縛(れいばく)を解(と)いてやる、254一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)………これで結構(けつこう)だ、255サア早(はや)く逃(に)げ帰(かへ)らう』
256 五(ご)人(にん)一度(いちど)に、
257五人『有難(ありがた)う御座(ござ)います、258モウ此(こ)れ限(き)り悪(わる)い事(こと)は致(いた)しませぬ。259なンとウラナイ教(けう)は偉(えら)い御(ご)神力(しんりき)で御座(ござ)います、260恐(おそ)れ入(い)りました』
261 暗(くら)がりより、
262声(浅公、幾公、梅公)『エー四(し)の五(ご)の吐(ぬか)さず、263トツトと帰(かへ)れ』
264 忽(たちま)ち五(ご)人(にん)の影(かげ)は足音(あしおと)立(た)てて一生(いつしやう)懸命(けんめい)、265西方(せいはう)指(さ)して走(はし)つて行(ゆ)く。266暗(くら)がりより三(さん)人(にん)一度(いちど)に、
267三人(浅公、幾公、梅公)『ハヽヽヽ人(ひと)の恐(おそ)れる悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の鬼神(おにがみ)共(ども)、268脆(もろ)いものだ。269とうと御(ご)神力(しんりき)にくたばりよつたワイ。270モシモシ旅(たび)のお方(かた)、271偉(えら)い危(あぶ)ない事(こと)で御座(ござ)いました。272お怪我(けが)はありませぬか』
273男(をとこ)(綾彦)『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。274私(わたくし)は弥仙山(みせんざん)の麓(ふもと)に住居(すまゐ)致(いた)す、275綾彦(あやひこ)と申(まを)す者(もの)、276一人(ひとり)は私(わたくし)の女房(にようばう)のお民(たみ)と申(まを)します。277比沼(ひぬ)の真名井(まなゐ)ケ原(はら)へ参詣(さんけい)を致(いた)し、278途中(とちう)に日(ひ)を暮(く)らし、279由良(ゆら)の湊(みなと)まで行(い)つて宿(やど)をとらうと思(おも)ひ、280此処(ここ)までやつて来(き)ました所(ところ)、281大江山(おほえやま)の鬼(おに)共(ども)に取囲(とりかこ)まれ、282生命(いのち)を夫婦(ふうふ)共(とも)取(と)られようとする、283危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)、284お助(たす)け下(くだ)さいましてコンナ有難(ありがた)い事(こと)が、285天(てん)にも地(ち)にも御座(ござ)いませうか。286此(この)御恩(ごおん)を如何(どう)して返(かへ)したら宜(よろ)しう御座(ござ)いませうか』
287お民(たみ)『誠(まこと)に誠(まこと)に、288危(あやふ)い所(ところ)、289生命(いのち)を拾(ひろ)うて下(くだ)さいまして……貴方(あなた)様(さま)は、290吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)が生命(いのち)の親(おや)で御座(ござ)います。291御恩(ごおん)返(がへ)しには、292如何(いか)なる事(こと)でも仰(あふ)せ付(つ)け下(くだ)さいませ。293夫婦(ふうふ)の者(もの)が力(ちから)の尽(つく)せる限(かぎ)り御用(ごよう)を致(いた)します』
294 暗(くら)がりより、
295三人(浅公、幾公、梅公)『私(わたくし)はウラナイ教(けう)の者(もの)で御座(ござ)います。296浅(あさ)、297幾(いく)、298梅(うめ)と申(まを)す三(さん)人(にん)の者(もの)。299あなたも是(こ)れから神(かみ)様(さま)の御(ご)恩報(おんはう)じに、300無(な)い生命(いのち)だと思(おも)つて、301ウラナイ教(けう)の道(みち)に入(い)り、302神(かみ)様(さま)の為(ため)にお働(はたら)きなさい。303それが一番(いちばん)、304吾々(われわれ)に対(たい)する恩返(おんがへ)し……また神(かみ)様(さま)に対(たい)する孝行(かうかう)と申(まを)すもの、305………』
306 綾彦(あやひこ)、307お民(たみ)一(いち)時(じ)に涙声(なみだごゑ)、
308綾彦、お民『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)います。309モウ斯(か)うなる以上(いじやう)は無(な)い生命(いのち)を拾(ひろ)つて貰(もら)うたので御座(ござ)いますから、310仰(あふ)せに従(したが)ひます、311如何様(いかやう)の事(こと)なつと仰(あふ)せつけ下(くだ)さいませ』
312浅公(あさこう)『ヤアよしよし、313承知(しようち)致(いた)した。314サア是(こ)れから吾々(われわれ)が館(やかた)へお越(こ)しなさい。315斯(か)う云(い)ふ所(ところ)にグヅグヅして居(を)ると、316又(また)剣呑(けんのん)です。317私(わたし)達(たち)は急(いそ)いで帰(かへ)らねばなりませぬから、318あなたも一緒(いつしよ)にお越(こ)し下(くだ)さい、319何時(なんどき)蒸(む)し返(かへ)しに来(く)るかも知(し)れませぬよ』
320夫婦(ふうふ)『それはそれは有難(ありがた)う御座(ござ)います。321生命(いのち)を助(たす)けて戴(いただ)いた上(うへ)に、322又(また)今晩(こんばん)御(お)世話(せわ)になるので御座(ござ)いますか』
323浅公(あさこう)『何(なに)、324ソンナ御(ご)心配(しんぱい)はチツトも要(い)らない。325世界(せかい)の人(ひと)を普(あまね)く救(すく)ふのが、326ウラナイ教(けう)の神(かみ)様(さま)の御(ご)趣旨(しゆし)だ。327サアサア帰(かへ)りませう』
328夫婦(ふうふ)『有難(ありがた)う御座(ござ)います。329然(しか)らばあなた様(さま)方(がた)の御(ご)厄介(やくかい)に与(あづか)りませうか』
330浅公(あさこう)『チツとも遠慮(ゑんりよ)は要(い)らぬ、331サアお出(いで)なさい。332あなたは道(みち)の勝手(かつて)も知(し)らないし、333マンなかをお出(い)でなさい。334吾々(われわれ)は後先(あとさき)を警護(けいご)して上(あ)げませう』
335夫婦(ふうふ)『何(なに)から何(なに)まで御(ご)親切(しんせつ)に……何時(いつ)の世(よ)にかは忘(わす)れませう。336是(こ)れと云(い)ふのも、337真名井(まなゐ)の神(かみ)様(さま)のおかげ……』
338浅公(あさこう)『コレコレ御(ご)夫婦(ふうふ)、339今(いま)何(なん)と仰有(おつしや)つた、340真名井(まなゐ)の神(かみ)様(さま)のお蔭(かげ)と云(い)はれましたが、341真名井(まなゐ)の神(かみ)様(さま)にお蔭(かげ)があるなら、342参拝(さんぱい)した下向(げかう)の途(みち)に、343コンナ災難(さいなん)に遭(あ)ふ筈(はず)がないぢやありませぬか。344もしも吾々(われわれ)ウラナイ教(けう)の取次(とりつぎ)が来(こ)なかつたならば、345あなたは、346それこそ大変(たいへん)な目(め)に遇(あ)つて居(を)るのですよ。347モウ真名井(まなゐ)さまの事(こと)はスツカリと思(おも)ひ切(き)つて、348私(わたくし)達(たち)の信(しん)ずるウラナイ教(けう)へ入信(にふしん)しなさい』
349夫婦(ふうふ)『入信(にふしん)さして下(くだ)さいますか、350有難(ありがた)う御座(ござ)います』
351と三(さん)人(にん)の中(なか)に挟(はさ)まれ、352薄明(うすあか)りの道(みち)をトボトボと、353魔窟(まくつ)ケ原(はら)指(さ)して誘(いざな)はれ行(ゆ)く。354魔窟(まくつ)ケ原(はら)の中途(なかば)迄(まで)帰(かへ)り来(く)る折(をり)しも以前(いぜん)の丑(うし)、355寅(とら)、356鷹(たか)、357辰(たつ)、358鳶(とび)の五(ご)人(にん)、
359五人『ヤアこれは、360浅公(あさこう)、361幾公(いくこう)、362梅公(うめこう)、363御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)いました。364今(いま)私(わたくし)達(たち)が御(ご)神前(しんぜん)で御(ご)祈願(きぐわん)をして居(を)りました所(ところ)、365普甲峠(ふかふたうげ)の麓(ふもと)に大江山(おほえやま)の鬼雲彦(おにくもひこ)の眷族(けんぞく)数多(あまた)現(あら)はれ、366二人(ふたり)の旅人(たびびと)を捕(とら)まへて無体(むたい)の乱暴(らんばう)、367既(すで)に生命(いのち)まで奪(と)らむと致(いた)して居(を)るのが天眼(てんがん)に映(うつ)りました。368ヤアこら大変(たいへん)だと、369又(また)もや天眼通(てんがんつう)を光(ひか)らかし見(み)れば、370森蔭(もりかげ)に潜(ひそ)む百(ひやく)人(にん)余(あま)りの鬼(おに)の手下(てした)共(ども)、371ヤア此奴(こいつ)ア助(たす)けねばなるまいと気(き)を焦(いら)てど、372何分(なにぶん)遠隔(ゑんかく)の土地(とち)、373そこへ天眼(てんがん)に映(えい)じたのはあなた方(がた)三(さん)人(にん)、374二人(ふたり)の叫(さけ)び声(ごゑ)を聞(き)きつけ、375韋駄天(ゐだてん)走(ばし)りに駆(かけ)つけるのが見(み)えた時(とき)の嬉(うれ)しさ、376吾々(われわれ)五(ご)人(にん)は神前(しんぜん)より一生(いつしやう)懸命(けんめい)に霊縛(れいばく)をかけると、377鬼(おに)の手下(てした)の奴(やつ)共(ども)、378身体(しんたい)強直(きやうちよく)し苦(くるし)み悶(もだ)へる可笑(をか)しさ、379蜘蛛(くも)の子(こ)を散(ち)らすが如(ごと)く逃(に)げ失(う)せよつた。380あの時(とき)に吾々(われわれ)が、381此方(こちら)から応援(おうゑん)せなかつたら、382随分(ずゐぶん)貴方(あなた)等(がた)も危(あやふ)いものであつた』
383 浅(あさ)、384幾(いく)、385梅(うめ)の三(さん)人(にん)、
386三人(浅公、幾公、梅公)『それは御(ご)苦労(くらう)でした。387併(しか)しさう仰(おつしや)ると、388吾々(われわれ)の働(はたら)きはサツパリ ゼロの様(やう)に聞(きこ)えますなア』
389寅公(とらこう)『イヤ決(けつ)して決(けつ)して、390あなた方(がた)が居(を)つて呉(く)れたばつかりに、391此方(こちら)の鎮魂(ちんこん)が利(き)いたのだ。392全(まつた)くはあなた方(がた)三(さん)人(にん)の功績(こうせき)が九分(くぶ)九厘(くりん)だ。393……ヤア其処(そこ)に御座(ござ)るお二人(ふたり)の方(かた)、394霊眼(れいがん)で見(み)た通(とほ)りだ。395能(よ)うマア貴方(あなた)、396助(たす)けて貰(もら)ひなさつた。397型(かた)の良(い)い方(かた)だ。398サアサア吾々(われわれ)の本拠(ほんきよ)へお越(こ)しなさいませ』
399夫婦(ふうふ)『これはこれは、400あなた方(がた)はウラナイ教(けう)のお方(かた)で御座(ござ)いますか、401いかい御(お)世話(せわ)になりました。402どうぞ宜(よろ)しうお頼(たの)み申(まを)します』
403寅公(とらこう)『ヤア何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)の御(お)引合(ひきあは)せだ。404モウ斯(か)うなつては兄弟(きやうだい)も同様(どうやう)だ。405何(なん)の隔(へだ)ても、406遠慮(ゑんりよ)も要(い)らぬ。407互(たがひ)に心(こころ)を打明(うちあ)けて神(かみ)様(さま)の為(ため)に働(はたら)きませう。408御(おん)大将(たいしやう)の黒姫(くろひめ)様(さま)や、409高山彦(たかやまひこ)さまも大変(たいへん)に御(お)喜(よろこ)びなさいませう』
410夫婦(ふうふ)『あなた方(がた)の御(おん)大将(たいしやう)が御座(ござ)いますのか』
411寅公(とらこう)『ヘエヘエ、412有(あ)りますとも、413それはそれは立派(りつぱ)な、414偉(えら)い方(かた)ですよ。415吾々(われわれ)は影(かげ)も踏(ふ)めぬ位(くらゐ)な者(もの)です。416サアサア今日(けふ)の吾々(われわれ)の手柄(てがら)を、417一(ひと)つ帰(かへ)つて御(おん)大将(たいしやう)に報告(はうこく)致(いた)しませう』
418夫婦(ふうふ)『どうぞ宜(よろ)しう、419あなた方(がた)から御(お)頼(たの)み下(くだ)さいませ』
420寅公(とらこう)『ヤア心配(しんぱい)なさるな。421神(かみ)の道(みち)は結構(けつこう)なものですよ。422一寸(ちよつと)会(あ)うても十(じふ)年(ねん)の知己(ちき)の様(やう)なものです……サアサア行(ゆ)かう』
423と十(じふ)人(にん)の同勢(どうぜい)は地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
424(大正一一・四・二五 旧三・二九 松村真澄録)
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