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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第18巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 弥仙の神山
第1章 春野の旅
第2章 厳の花
第3章 神命
第2篇 再探再険
第4章 四尾山
第5章 赤鳥居
第6章 真か偽か
第3篇 反間苦肉
第7章 神か魔か
第8章 蛙の口
第9章 朝の一驚
第10章 赤面黒面
第4篇 舎身活躍
第11章 相身互
第12章 大当違
第13章 救の神
第5篇 五月五日祝
第14章 蛸の揚壺
第15章 遠来の客
第16章 返り討
第17章 玉照姫
霊の礎(四)
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霊界物語
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> 第5篇 五月五日祝 > 第14章 蛸の揚壺
<<< 救の神
(B)
(N)
遠来の客 >>>
第一四章
蛸
(
たこ
)
の
揚壺
(
あげつぼ
)
〔六四二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
篇:
第5篇 五月五日祝
よみ(新仮名遣い):
ごがついつかのいわい
章:
第14章 蛸の揚壺
よみ(新仮名遣い):
たこのあげつぼ
通し章番号:
642
口述日:
1922(大正11)年04月28日(旧04月02日)
口述場所:
筆録者:
東尾吉雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高山彦と黒姫は、玉照姫を迎えに行った富彦、寅若、菊若の消息を待っていた。そこへ三人はそっと中に入ってきた。首尾を尋ねる黒姫に、富彦は数百万の三五教徒に囲まれて奮戦したが、いったん退却してきたのだ、と大法螺を吹く。
黒姫が三人を叱りつけると、すごすごと居間に引き下がって行った。黒姫はふと思い当たることがあり、綾彦を呼んでその身元を尋ねる。綾彦はかたくなに身元を明かすことを拒んだ。
黒姫は青彦を呼んで、綾彦は、豊彦の息子ではないか、と鎌をかける。青彦はそのことを認めてしまう。黒姫は、綾彦夫婦と玉照姫を交換しようと思いつき、青彦に相談を持ちかけた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-03-07 12:39:15
OBC :
rm1814
愛善世界社版:
231頁
八幡書店版:
第3輯 723頁
修補版:
校定版:
239頁
普及版:
106頁
初版:
ページ備考:
愛世版・校定版・八幡版・普及版いずれも「壺」を使っている。
001
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
の
地下室
(
ちかしつ
)
に、
002
ウラナイ
教
(
けう
)
の
双壁
(
そうへき
)
と
己
(
おのれ
)
も
許
(
ゆる
)
し
人
(
ひと
)
も
許
(
ゆる
)
した、
003
素人
(
しろうと
)
離
(
ばな
)
れのした
黒姫
(
くろひめ
)
が、
004
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
睦
(
むつま
)
じさうに
晩酌
(
ばんしやく
)
をグビリグビリとやつて
居
(
ゐ
)
る。
005
黒姫
『コレ
高山
(
たかやま
)
さま、
006
時節
(
じせつ
)
は
待
(
ま
)
たねばならぬものだなア。
007
お
前
(
まへ
)
と
偕老
(
かいらう
)
同穴
(
どうけつ
)
の
契
(
ちぎり
)
を
結
(
むす
)
び
乍
(
なが
)
ら、
008
枯木
(
こぼく
)
寒巌
(
かんがん
)
に
依
(
よ
)
つて、
009
三冬
(
さんとう
)
暖気
(
だんき
)
無
(
な
)
しと
云
(
い
)
ふやうな、
010
没分暁漢
(
わからずや
)
の
部下
(
ぶか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
や
信者
(
しんじや
)
の
動揺
(
どうえう
)
を
恐
(
おそ
)
れて
気兼
(
きが
)
ねをして、
011
貴方
(
あなた
)
をフサの
国
(
くに
)
の
本山
(
ほんざん
)
に、
012
私
(
わし
)
はこの
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
渡
(
わた
)
つて、
013
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
にお
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
に、
014
所在
(
あらゆる
)
最善
(
さいぜん
)
の
努力
(
どりよく
)
を
尽
(
つく
)
し、
015
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
宣伝
(
せんでん
)
して
来
(
き
)
たが、
016
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
追
(
お
)
ひ
追
(
お
)
ひと
年
(
とし
)
は
寄
(
よ
)
る、
017
無常
(
むじやう
)
迅速
(
じんそく
)
の
感
(
かん
)
に
打
(
う
)
たれて、
018
何処
(
どこ
)
とも
無
(
な
)
く
心淋
(
うらさび
)
しく、
019
どうぞ
晴
(
は
)
れて
夫婦
(
めをと
)
と
名乗
(
なの
)
つて
暮
(
くら
)
したいと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
020
これ
迄
(
まで
)
独身
(
どくしん
)
主義
(
しゆぎ
)
を
高張
(
かうちやう
)
して
来
(
き
)
た
手前
(
てまへ
)
、
021
今更
(
いまさら
)
掌
(
てのひら
)
を
覆
(
かへ
)
したやうな
所作
(
しよさ
)
もならず、
022
本当
(
ほんたう
)
に
空
(
そら
)
行
(
ゆ
)
く
雲
(
くも
)
を
眺
(
なが
)
めて
雁
(
かり
)
がねの
便
(
たよ
)
りもがなと、
023
明
(
あ
)
け
暮
(
く
)
れ
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れた
事
(
こと
)
は
幾度
(
いくたび
)
あつたでせう、
024
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
何程
(
なにほど
)
お
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
お
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
だといつても、
025
自分
(
じぶん
)
に
取
(
と
)
つて
一生
(
いつしやう
)
の
快楽
(
くわいらく
)
を
犠牲
(
ぎせい
)
にしてまで、
026
痩
(
や
)
せ
我慢
(
がまん
)
をはつて
居
(
を
)
つても、
027
こいつは
駄目
(
だめ
)
だ。
028
初
(
はじ
)
めの
内
(
うち
)
は、
029
黒姫
(
くろひめ
)
は
偉
(
えら
)
いものだ、
030
言行
(
げんかう
)
一致
(
いつち
)
だといつて
褒
(
ほ
)
めて
呉
(
く
)
れよつたが、
031
終
(
しま
)
ひには
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
取次
(
とりつ
)
ぎする
者
(
もの
)
は、
032
女
(
をんな
)
だつて
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
するのは
当然
(
あたりまえ
)
だ。
033
何
(
なに
)
感心
(
かんしん
)
する
事
(
こと
)
があるものか。
034
あれや
大方
(
おほかた
)
、
035
どつか
身体
(
からだ
)
の
一部
(
いちぶ
)
に
欠陥
(
けつかん
)
があるので、
036
負惜
(
まけをし
)
みを
出
(
だ
)
して
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
るのだ……
何
(
なん
)
ぞと
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
が
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
た。
037
エヽ、
038
アタ
阿呆
(
あはう
)
らしい。
039
これだけ
辛抱
(
しんばう
)
して
居
(
を
)
つても
悪
(
わる
)
く
言
(
い
)
はれるのなら、
040
持
(
も
)
ちたい
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
つて、
041
公然
(
こうぜん
)
とやつた
方
(
はう
)
が、
042
何程
(
なにほど
)
ましか
知
(
し
)
れないと、
043
いよいよ
決行
(
けつかう
)
して
見
(
み
)
たが、
044
初
(
はじ
)
めの
内
(
うち
)
は
夏彦
(
なつひこ
)
、
045
常彦
(
つねひこ
)
をはじめ、
046
頑固
(
ぐわんこ
)
連
(
れん
)
が
追々
(
おひおひ
)
脱退
(
だつたい
)
し、
047
聊
(
いささ
)
か
面喰
(
めんくら
)
つたが、
048
案
(
あん
)
じるより
生
(
う
)
むが
易
(
やす
)
いといつて、
049
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら、
050
私
(
わたし
)
と
貴方
(
あなた
)
の
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
も
信者
(
しんじや
)
の
話頭
(
わとう
)
に
上
(
のぼ
)
らなくなり、
051
この
頃
(
ごろ
)
はソロソロと、
052
青彦
(
あをひこ
)
やお
節
(
せつ
)
、
053
おまけに
紫姫
(
むらさきひめ
)
といふ
様
(
やう
)
な、
054
賢明
(
けんめい
)
な
淑女
(
しゆくぢよ
)
迄
(
まで
)
が
帰順
(
きじゆん
)
したり、
055
入信
(
にふしん
)
したり、
056
実
(
じつ
)
に
結構
(
けつこう
)
な
機運
(
きうん
)
に
向
(
むか
)
つて
来
(
き
)
たものだ。
057
これからは
高山
(
たかやま
)
さま、
058
もう
一寸
(
ちよつと
)
も
遠慮
(
ゑんりよ
)
はいらないから、
059
私
(
わたし
)
ばかりに
命令
(
めいれい
)
をささずに、
060
あなたは
天晴
(
あつぱ
)
れ
黒姫
(
くろひめ
)
の
夫
(
をつと
)
として、
061
権利
(
けんり
)
を
振
(
ふる
)
うて
下
(
くだ
)
さいねエ』
062
高山彦
(
たかやまひこ
)
『アヽさうだなア、
063
待
(
ま
)
てば
海路
(
かいろ
)
の
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くとやら、
064
時
(
とき
)
の
力
(
ちから
)
位
(
くらゐ
)
、
065
結構
(
けつこう
)
なものの
恐
(
おそ
)
ろしいものは
無
(
な
)
いなア』
066
黒姫
(
くろひめ
)
『
時
(
とき
)
に
寅若
(
とらわか
)
、
067
富彦
(
とみひこ
)
、
068
菊若
(
きくわか
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
069
ここを
出
(
で
)
てから
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
にもなるに、
070
まだ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ない。
071
何
(
なに
)
か
道
(
みち
)
で
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
でも
出来
(
でき
)
たのではあるまいか。
072
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
にかかつて
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いワ』
073
高山彦
(
たかやまひこ
)
『そう
心配
(
しんぱい
)
するものでも
無
(
な
)
い。
074
何事
(
なにごと
)
も
時節
(
じせつ
)
の
力
(
ちから
)
だ』
075
かく
言
(
い
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
076
ソツと
岩
(
いは
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けて
辷
(
すべ
)
り
込
(
こ
)
んだ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
077
黒姫
(
くろひめ
)
『アヽ、
078
噂
(
うはさ
)
をすれば
影
(
かげ
)
とやら、
079
寅若
(
とらわか
)
エロウ
遅
(
おそ
)
かつたぢやないか。
080
首尾
(
しゆび
)
はどうだつたなナ』
081
寅若
(
とらわか
)
『ハイ、
082
委細
(
ゐさい
)
の
様子
(
やうす
)
は
悠
(
ゆつ
)
くりと、
083
明日
(
あす
)
の
朝
(
あさ
)
でも
申上
(
まをしあ
)
げませう。
084
ナア
菊若
(
きくわか
)
、
085
富彦
(
とみひこ
)
、
086
エライ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うたぢやないか』
087
黒姫
(
くろひめ
)
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は、
088
あまり
遠
(
とほ
)
い
道
(
みち
)
でも
無
(
な
)
いのに、
089
どうして
御座
(
ござ
)
つた。
090
今日
(
けふ
)
で
七日目
(
なぬかめ
)
ぢやないか。
091
何時
(
いつ
)
も
都合
(
つがふ
)
が
良
(
よ
)
い
時
(
とき
)
は、
092
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
門口
(
かどぐち
)
から
呶鳴
(
どな
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るが、
093
今日
(
けふ
)
はコソコソと
細
(
ほそ
)
うなつて
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのは、
094
余
(
あま
)
り
結構
(
けつこう
)
な
話
(
はな
)
しぢや
有
(
あ
)
るまい、
095
明日
(
あす
)
の
朝
(
あさ
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げるとは、
096
そら
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
097
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から、
098
日日
(
ひにち
)
毎日
(
まいにち
)
指折
(
ゆびお
)
り
数
(
かぞ
)
へて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
099
サア
早
(
はや
)
く
実地
(
じつち
)
の
事
(
こと
)
を、
100
包
(
つつ
)
まず
隠
(
かく
)
さず
云
(
い
)
ひなさいや』
101
寅若
(
とらわか
)
、
102
頭
(
あたま
)
をガシガシ
掻
(
か
)
き
乍
(
なが
)
ら、
103
言
(
い
)
ひ
難
(
にく
)
さうに、
104
寅若
(
とらわか
)
『あの、
105
何
(
なん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
106
それはそれは、
107
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
で、
108
何
(
なん
)
とも
彼
(
か
)
とも、
109
注進
(
ちうしん
)
の
仕方
(
しかた
)
が
有
(
あ
)
りませぬワイ。
110
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
111
物質
(
ぶつしつ
)
的
(
てき
)
獲物
(
えもの
)
は
一寸
(
ちよつと
)
時期
(
じき
)
尚早
(
しやうそう
)
で、
112
暫時
(
ざんじ
)
機
(
き
)
の
熟
(
じゆく
)
するまで
保留
(
ほりう
)
して
置
(
お
)
きましたが、
113
霊的
(
れいてき
)
には
大変
(
たいへん
)
な
収獲
(
しうくわく
)
がありました』
114
黒姫
(
くろひめ
)
『
又
(
また
)
しても
又
(
また
)
しても、
115
霊的
(
れいてき
)
の
収獲
(
しうくわく
)
と
仰有
(
おつしや
)
るが、
116
それはお
前
(
まへ
)
の
慣用
(
くわんよう
)
的
(
てき
)
辞令
(
じれい
)
だ。
117
もう
霊的
(
れいてき
)
の
収獲
(
しうくわく
)
には、
118
この
黒姫
(
くろひめ
)
もウンザリしました。
119
ハツキリと
成功
(
せいこう
)
だつたとか、
120
不成功
(
ふせいこう
)
だつたとか、
121
女王
(
ぢよわう
)
の
前
(
まへ
)
に
陳述
(
ちんじゆつ
)
するのだよ』
122
と
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らせ、
123
目
(
め
)
を
丸
(
まる
)
うして
睨
(
にら
)
みつける。
124
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
り、
125
三人
『イヤもう、
126
斯
(
こ
)
うなれば
委細
(
ゐさい
)
残
(
のこ
)
らず
言上
(
ごんじやう
)
いたします。
127
紫雲
(
しうん
)
棚引
(
たなび
)
く
東北
(
とうほく
)
の
天
(
てん
)
、
128
如何
(
いか
)
なる
神
(
かみ
)
の
出現
(
しゆつげん
)
したまふやと、
129
心
(
こころ
)
を
清
(
きよ
)
め
身
(
み
)
を
清
(
きよ
)
め、
130
途々
(
みちみち
)
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
唱
(
とな
)
へながら、
131
弥仙
(
みせん
)
の
山麓
(
さんろく
)
までやつて
行
(
い
)
つた。
132
時
(
とき
)
しもあれ、
133
噂
(
うはさ
)
に
高
(
たか
)
き
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
生母
(
せいぼ
)
お
玉
(
たま
)
の
方
(
かた
)
は、
134
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
威風
(
ゐふう
)
に
恐
(
おそ
)
れてか、
135
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
嬰児
(
あかご
)
を
背
(
せ
)
に、
136
弥仙山
(
みせんざん
)
に
向
(
むか
)
つて
雲
(
くも
)
を
起
(
おこ
)
し、
137
雨
(
あめ
)
を
呼
(
よ
)
び、
138
為
(
ため
)
に
地
(
ち
)
は
震
(
ふる
)
ひ
雷鳴
(
らいめい
)
轟
(
とどろ
)
き、
139
山岳
(
さんがく
)
は
一度
(
いちど
)
に
崩
(
くづ
)
るる
許
(
ばか
)
りの
大音響
(
だいおんきやう
)
を
発
(
はつ
)
し、
140
面
(
おもて
)
を
向
(
む
)
く
可
(
べ
)
からざる
景色
(
けしき
)
となつて
来
(
き
)
た。
141
流石
(
さすが
)
の
寅若
(
とらわか
)
、
142
富彦
(
とみひこ
)
、
143
菊若
(
きくわか
)
の
三勇将
(
さんゆうしやう
)
も、
144
暫
(
しば
)
し
躊躇
(
ためら
)
ふ
折柄
(
をりから
)
に、
145
忽
(
たちま
)
ちあなたの
御霊
(
みたま
)
や、
146
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
御霊
(
みたま
)
が、
147
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
憑依
(
ひようい
)
遊
(
あそ
)
ばされ、
148
勇気
(
ゆうき
)
百倍
(
ひやくばい
)
して
弥仙山
(
みせんざん
)
目蒐
(
めが
)
けて
驀地
(
まつしぐら
)
にかけ
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
149
時
(
とき
)
しもあれや、
150
山
(
やま
)
の
中腹
(
ちうふく
)
より、
151
現
(
あら
)
はれ
出
(
いで
)
たる
三五教
(
あななひけう
)
の
奴輩
(
やつぱら
)
、
152
各自
(
てんで
)
に
柄物
(
えもの
)
を
携
(
たづさ
)
へ、
153
僅
(
わづ
)
か
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
吾々
(
われわれ
)
の
一隊
(
いつたい
)
に
向
(
むか
)
つて
攻
(
せ
)
めよせ
来
(
きた
)
るその
勢
(
いきほひ
)
の
凄
(
すさま
)
じさ、
154
されども
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
155
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
の
御霊
(
みたま
)
の
憑
(
かか
)
つた
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
156
何条
(
なんでう
)
怯
(
ひる
)
むべき。
157
群
(
むら
)
がる
敵
(
てき
)
に
向
(
むか
)
つて
電光
(
でんくわう
)
石火
(
せきくわ
)
、
158
突撃
(
とつげき
)
攻撃
(
こうげき
)
、
159
言霊
(
ことたま
)
の
火花
(
ひばな
)
を
散
(
ち
)
らして
戦
(
たたか
)
うたり。
160
さはさり
乍
(
なが
)
ら、
161
此方
(
こちら
)
は
形
(
かたち
)
許
(
ばか
)
りの
九寸
(
くすん
)
五分
(
ごぶ
)
、
162
只
(
ただ
)
一本
(
いつぽん
)
あるのみ。
163
群
(
むら
)
がる
敵
(
てき
)
は
数百
(
すうひやく
)
千万
(
せんまん
)
の
同勢
(
どうぜい
)
、
164
全山
(
ぜんざん
)
人
(
ひと
)
を
以
(
もつ
)
て
埋
(
うづ
)
まり、
165
如何
(
いか
)
に
防
(
ふせ
)
ぎ
戦
(
たたか
)
うとも、
166
遉
(
さすが
)
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
も
是
(
こ
)
れには
敵
(
てき
)
し
兼
(
か
)
ねたりと
見
(
み
)
え、
167
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
にお
使
(
つか
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばされ、
168
血路
(
けつろ
)
を
開
(
ひら
)
いてターターターと、
169
滝水
(
たきみづ
)
の
落
(
お
)
ちるが
如
(
ごと
)
く、
170
一潟
(
いつしや
)
千里
(
せんり
)
の
勢
(
いきほひ
)
にて、
171
こなたに
向
(
むか
)
つて
予定
(
よてい
)
の
退却
(
たいきやく
)
、
172
鬼神
(
おにがみ
)
も
欺
(
あざむ
)
くその
早業
(
はやわざ
)
、
173
勇
(
いさ
)
ましかりける
次第
(
しだい
)
なり』
174
黒姫
(
くろひめ
)
『コレ、
175
富彦
(
とみひこ
)
、
176
寅若
(
とらわか
)
の
今
(
いま
)
言
(
い
)
つた
通
(
とほ
)
り、
177
間違
(
まちがひ
)
は
無
(
な
)
からうなア』
178
富彦
(
とみひこ
)
『ヘーヘー、
179
間違
(
まちが
)
つて
堪
(
たま
)
りますものか。
180
あなたは
常
(
つね
)
に
吾々
(
われわれ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に、
181
仁慈
(
じんじ
)
のお
心
(
こころ
)
をお
注
(
そそ
)
ぎ
下
(
くだ
)
さいまする、
182
其
(
その
)
一念
(
いちねん
)
が
幸
(
さち
)
はひ
給
(
たま
)
ひて、
183
御
(
ご
)
分霊
(
ぶんれい
)
忽
(
たちま
)
ち
降下
(
かうか
)
し
給
(
たま
)
ひ、
184
さしもの
強敵
(
きやうてき
)
に
向
(
むか
)
つて、
185
獅々
(
しし
)
奮迅
(
ふんじん
)
の
応戦
(
おうせん
)
をやつたのも、
186
全
(
まつた
)
くあなた
様
(
さま
)
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
の
神徳
(
しんとく
)
の
然
(
しか
)
らしむる
処
(
ところ
)
、
187
万々一
(
まんまんいち
)
お
両方
(
ふたかた
)
の
御霊
(
みたま
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
無
(
な
)
き
時
(
とき
)
は、
188
如何
(
いか
)
に
吾々
(
われわれ
)
勇
(
ゆう
)
なりと
雖
(
いへど
)
も、
189
忽
(
たちま
)
ち
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
に
粉砕
(
ふんさい
)
されしは
勿論
(
もちろん
)
のこと、
190
然
(
しか
)
るに
僅
(
わづか
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
以
(
もつ
)
て、
191
かく
迄
(
まで
)
よく
奮闘
(
ふんとう
)
し、
192
敵
(
てき
)
の
胆
(
きも
)
を
寒
(
さむ
)
からしめたるは、
193
形体
(
けいたい
)
上
(
じやう
)
に
於
(
おい
)
ては
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
194
精神
(
せいしん
)
上
(
じやう
)
に
於
(
おい
)
て、
195
敵
(
てき
)
を
威嚇
(
ゐくわく
)
せしこと、
196
幾何
(
いくばく
)
なるか
計
(
はか
)
り
知
(
し
)
られませぬ。
197
マアマア
御
(
お
)
喜
(
よろこ
)
び
下
(
くだ
)
さいませ』
198
黒姫
(
くろひめ
)
『それは
先
(
ま
)
づ
結構
(
けつこう
)
であつた。
199
併
(
しか
)
し、
200
お
玉
(
たま
)
に
玉照姫
(
たまてるひめ
)
は
何
(
ど
)
うなつたのか』
201
富彦
(
とみひこ
)
『オイ
菊若
(
きくわか
)
、
202
これからは
貴様
(
きさま
)
の
番
(
ばん
)
だ。
203
確
(
しつか
)
りと
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げるのだぞ』
204
菊若
(
きくわか
)
『ハイハイ、
205
申上
(
まをしあ
)
げます。
206
いやもう
何
(
なん
)
のかのと
云
(
い
)
うた
処
(
ところ
)
で、
207
向
(
むか
)
うはたつた
女
(
をんな
)
の
一人
(
ひとり
)
』
208
黒姫
(
くろひめ
)
『ナニ、
209
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
』
210
菊若
(
きくわか
)
『
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
と
思
(
おも
)
ひきや、
211
四辺
(
あたり
)
の
物蔭
(
ものかげ
)
より
来
(
く
)
るワ
来
(
く
)
るワ、
212
恰
(
あたか
)
も
蟻
(
あり
)
の
宿替
(
やどが
)
への
如
(
ごと
)
く、
213
ゾロゾロゾロと
此方
(
こなた
)
へ
向
(
むか
)
つて
馳
(
は
)
せ
来
(
きた
)
る。
214
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
丹州
(
たんしう
)
の
霊縛
(
れいばく
)
にかけられ、
215
身体
(
しんたい
)
忽
(
たちま
)
ち
強直
(
きやうちよく
)
し』
216
黒姫
(
くろひめ
)
『
何
(
なに
)
、
217
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が』
218
菊若
(
きくわか
)
『イエイエ、
219
滅相
(
めつさう
)
な、
220
丹州
(
たんしう
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
221
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
目蒐
(
めが
)
けて、
222
霊縛
(
れいばく
)
を
加
(
くは
)
へ
強直
(
きやうちよく
)
させようとかかつた
処
(
ところ
)
、
223
流石
(
さすが
)
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
224
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
威霊
(
ゐれい
)
憑
(
かか
)
らせ
給
(
たま
)
ふ
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
如何
(
いかん
)
ともするに
由
(
よし
)
なく、
225
敵
(
てき
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
死力
(
しりよく
)
を
尽
(
つく
)
して
押
(
お
)
しよせ
来
(
きた
)
る。
226
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
227
アヽ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
いと、
228
勇気
(
ゆうき
)
百倍
(
ひやくばい
)
して、
229
挑
(
いど
)
み
戦
(
たたか
)
はむとする
折
(
をり
)
しも、
230
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
憑
(
かか
)
り
給
(
たま
)
うた
御魂
(
みたま
)
の
命令
(
めいれい
)
、
231
汝
(
なんぢ
)
は
一先
(
ひとま
)
づ
引返
(
ひきかへ
)
し、
232
時機
(
じき
)
を
待
(
ま
)
つて
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
の
準備
(
じゆんび
)
をなすが
得策
(
とくさく
)
なりと、
233
流石
(
さすが
)
神謀
(
しんぼう
)
鬼略
(
きりやく
)
に
富
(
と
)
ませ
給
(
たま
)
う
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
234
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
霊
(
みたま
)
の
命令
(
めいれい
)
もだし
難
(
がた
)
く、
235
みすみす
敵
(
てき
)
を
見捨
(
みす
)
て
一目散
(
いちもくさん
)
に
立帰
(
たちかへ
)
つて
候
(
さふらふ
)
』
236
と
言
(
い
)
ひをはつて
冷汗
(
ひやあせ
)
を
拭
(
ふ
)
く。
237
黒姫
(
くろひめ
)
『コレコレ、
238
私
(
わたし
)
が
馬鹿
(
ばか
)
になつて
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
ればお
前
(
まへ
)
、
239
それや
何
(
なん
)
という
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
くのだい。
240
みな
嘘
(
うそ
)
だらう。
241
一人
(
ひとり
)
か
二人
(
ふたり
)
の
木端
(
こつぱ
)
武者
(
むしや
)
に
怖
(
おそ
)
れて
一目散
(
いちもくさん
)
に
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
つたのだらう。
242
そんなお
前
(
まへ
)
さん
達
(
たち
)
の
下司
(
げす
)
身魂
(
みたま
)
に
私
(
わし
)
の
霊魂
(
みたま
)
が
憑
(
うつ
)
つて
堪
(
たま
)
るものか。
243
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな』
244
寅若
(
とらわか
)
『そんなら、
245
あなたの
名
(
な
)
を
騙
(
かた
)
つて、
246
四足
(
よつあし
)
か
何
(
なん
)
かが
憑
(
つ
)
いたのでせうか』
247
富彦
(
とみひこ
)
『そうかも
知
(
し
)
れぬよ。
248
豊彦
(
とよひこ
)
の
爺
(
ぢぢ
)
が
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ただ
無
(
な
)
いか』
249
黒姫
(
くろひめ
)
『それ
見
(
み
)
なさい。
250
お
前
(
まへ
)
らは
豊彦
(
とよひこ
)
の
家
(
うち
)
へ
行
(
い
)
つて
尻
(
けつ
)
を
喰
(
く
)
はされて、
251
謝罪
(
あやま
)
つて
逃
(
に
)
げて
帰
(
かへ
)
つたのだらう。
252
エヽ
仕方
(
しかた
)
のない
男
(
をとこ
)
だ。
253
はるばる
高山
(
たかやま
)
さまがフサの
国
(
くに
)
から、
254
選
(
よ
)
りに
選
(
よ
)
つて
連
(
つ
)
れて
御座
(
ござ
)
つたお
前
(
まへ
)
は
大将株
(
たいしやうかぶ
)
ぢやないか。
255
そらまた
何
(
なん
)
とした
腰抜
(
こしぬ
)
けだ』
256
寅若
(
とらわか
)
『
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つてもフサの
国
(
くに
)
なれば、
257
地理
(
ちり
)
をよく
存
(
ぞん
)
じて
居
(
を
)
りますが、
258
この
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
は
地理
(
ちり
)
不案内
(
ふあんない
)
で、
259
思
(
おも
)
うやうに
戦闘
(
せんとう
)
も
出来
(
でき
)
ず、
260
さうして
陽気
(
やうき
)
が
眠
(
ねむ
)
たいですから、
261
思
(
おも
)
うやうな
活動
(
くわつどう
)
も、
262
実際
(
じつさい
)
の
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
なかつたのです。
263
併
(
しか
)
し
一遍
(
いつぺん
)
失敗
(
しつぱい
)
したつて、
264
さう
気
(
き
)
なげをしたものぢやありませぬ。
265
失敗
(
しつぱい
)
毎
(
ごと
)
に
経験
(
けいけん
)
を
重
(
かさ
)
ね、
266
遂
(
つひ
)
には
成功
(
せいこう
)
するものですから、
267
マア
今度
(
こんど
)
の
失敗
(
しつぱい
)
は
結局
(
けつきよく
)
成功
(
せいこう
)
の
門口
(
かどぐち
)
ですなア』
268
黒姫
(
くろひめ
)
『エヽ、
269
おきなされ。
270
敗軍
(
はいぐん
)
の
将
(
しやう
)
は
兵
(
へい
)
を
語
(
かた
)
らずという
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
るぢやないか。
271
余
(
あま
)
り
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
減
(
へ
)
らず
口
(
ぐち
)
を
叩
(
たた
)
くものぢや
無
(
な
)
い。
272
奥
(
おく
)
へ
這入
(
はい
)
つて
麦飯
(
むぎめし
)
なと、
273
ドツサリ
食
(
く
)
つて
休
(
やす
)
みなさい。
274
折角
(
せつかく
)
機嫌
(
きげん
)
よう
飲
(
の
)
んで
居
(
を
)
つた
酒
(
さけ
)
までさめて
了
(
しま
)
つた。
275
エヽ
早
(
はや
)
く
寝
(
ね
)
なさらぬか』
276
と
長煙管
(
ながぎせる
)
が
折
(
お
)
れる
程
(
ほど
)
火鉢
(
ひばち
)
を
叩
(
たた
)
く。
277
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
頭
(
あたま
)
を
抱
(
かか
)
へ、
278
こそこそと
奥
(
おく
)
に
影
(
かげ
)
を
隠
(
かく
)
した。
279
黒姫
(
くろひめ
)
『
高山
(
たかやま
)
さま、
280
もうお
休
(
やす
)
みなさいませ。
281
私
(
わたし
)
は
一寸
(
ちよつと
)
綾彦
(
あやひこ
)
に
詮議
(
せんぎ
)
をしたい
事
(
こと
)
がありますからお
前
(
まへ
)
が
側
(
そば
)
に
居
(
を
)
られると、
282
ツイ
臆
(
を
)
めてよう
言
(
い
)
はないと
困
(
こま
)
るから、
283
私
(
わたし
)
は
女
(
をんな
)
の
事
(
こと
)
であり、
284
やあはりと
尋
(
たづ
)
ねて
見
(
み
)
ますから、
285
早
(
はや
)
く
寝
(
やす
)
んで
下
(
くだ
)
さい』
286
高山彦
(
たかやまひこ
)
『ハイハイ、
287
お
邪魔
(
じやま
)
になりませう。
288
さやうなればお
先
(
さ
)
き
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
りませう』
289
黒姫
(
くろひめ
)
『
記憶
(
おぼ
)
えて
居
(
ゐ
)
らつしやい。
290
貴方
(
あなた
)
こそお
邪魔
(
じやま
)
になりませう。
291
紫姫
(
むらさきひめ
)
のお
側
(
そば
)
へでも
往
(
い
)
つて、
292
ゆつくりと
夜明
(
よあ
)
かしをなさいませ』
293
と、
294
ツンとした
顔
(
かほ
)
をする。
295
高山彦
(
たかやまひこ
)
『ハヽヽヽ、
296
形勢
(
けいせい
)
頗
(
すこぶ
)
る
不隠
(
ふおん
)
と
成
(
な
)
つて
来
(
き
)
た。
297
どれどれ
雷
(
かみなり
)
の
落
(
お
)
ちぬ
間
(
うち
)
に
退却
(
たいきやく
)
しよう、
298
アヽ
桑原
(
くはばら
)
桑原
(
くはばら
)
』
299
と
捨台詞
(
すてぜりふ
)
を
残
(
のこ
)
し、
300
ノソリノソリと
奥
(
おく
)
へ
行
(
ゆ
)
く。
301
黒姫
(
くろひめ
)
『
高山
(
たかやま
)
さまはあゝ
見
(
み
)
えても、
302
やつぱり
可愛相
(
かはいさう
)
な
程
(
ほど
)
正直
(
しやうぢき
)
な
人
(
ひと
)
だ。
303
何処
(
どこ
)
ともなしに、
304
身魂
(
みたま
)
にいいとこが
有
(
あ
)
るワイ』
305
と
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆす
)
り、
306
又
(
また
)
もや
長煙管
(
ながぎせる
)
に
煙草
(
たばこ
)
をつぎ
乍
(
なが
)
ら、
307
黒姫
『
綾彦
(
あやひこ
)
綾彦
(
あやひこ
)
』
308
と
呼
(
よ
)
ぶ
声
(
こゑ
)
に
綾彦
(
あやひこ
)
はこの
場
(
ば
)
に
現
(
あらは
)
れ、
309
両手
(
りやうて
)
をつき、
310
綾彦
『
今
(
いま
)
お
呼
(
よ
)
びになりましたのは
私
(
わたくし
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか』
311
黒姫
(
くろひめ
)
『アヽ
左様
(
さやう
)
ぢや
左様
(
さやう
)
ぢや、
312
お
前
(
まへ
)
に
折入
(
をりい
)
つて
尋
(
たづ
)
ねたいと
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
たのぢやが、
313
ここへ
来
(
き
)
てから
大分
(
だいぶ
)
になりますが、
314
一体
(
いつたい
)
お
前
(
まへ
)
のお
国許
(
くにもと
)
は
何処
(
どこ
)
ぢやな、
315
色々
(
いろいろ
)
と
誰
(
たれ
)
に
尋
(
たづ
)
ねさしても
言
(
い
)
ひなさらぬが、
316
大方
(
おほかた
)
何処
(
どこ
)
かで
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をして
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
たのだらう。
317
それを
体
(
てい
)
よう
真名井
(
まなゐ
)
さまへ
詣
(
まゐ
)
つたなぞと、
318
誤魔化
(
ごまくわ
)
しとるのだらう』
319
綾彦
(
あやひこ
)
『イエイエ
滅相
(
めつさう
)
もない、
320
生
(
うま
)
れてから
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は、
321
塵
(
ちり
)
程
(
ほど
)
もやつた
覚
(
おぼ
)
えは
有
(
あ
)
りませぬ』
322
黒姫
(
くろひめ
)
『そんならお
前
(
まへ
)
の
処
(
ところ
)
は
何処
(
どこ
)
ぢや。
323
虱
(
しらみ
)
でさへも
生
(
うま
)
れ
所
(
どこ
)
は
有
(
あ
)
るのに、
324
滅多
(
めつた
)
に
天
(
てん
)
から
降
(
ふ
)
つたのでもあるまい。
325
地
(
ち
)
の
底
(
そこ
)
から
湧
(
わ
)
いて
出
(
で
)
たのでも
有
(
あ
)
るまい。
326
お
父
(
とう
)
さまや、
327
お
母
(
かあ
)
さまが
有
(
あ
)
るだらう。
328
処
(
ところ
)
と
親
(
おや
)
の
名
(
な
)
と
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さい』
329
綾彦
(
あやひこ
)
『これ
許
(
ばか
)
りはどうぞ
赦
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
330
黒姫
(
くろひめ
)
『それ
見
(
み
)
たかな。
331
矢張
(
やつぱり
)
怪
(
あや
)
しい
人
(
ひと
)
ぢや。
332
私
(
わし
)
は
何処
(
どこ
)
までも、
333
言
(
い
)
うて
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
秘密
(
ひみつ
)
を
守
(
まも
)
る、
334
私
(
わし
)
丈
(
だけ
)
に
言
(
い
)
ひなさらぬかいな』
335
綾彦
(
あやひこ
)
『
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
はいつも
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り、
336
世界中
(
せかいぢう
)
隅
(
すみ
)
から
隅
(
すみ
)
まで
見
(
み
)
え
透
(
す
)
く、
337
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
の
生宮
(
いきみや
)
ぢやありませぬか。
338
そんな
事
(
こと
)
お
尋
(
たづ
)
ねなさらないでも、
339
遠
(
とほ
)
の
昔
(
むかし
)
に
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
御存
(
ごぞん
)
じの
筈
(
はず
)
、
340
煽動
(
おだて
)
て
下
(
くだ
)
さいますな』
341
黒姫
(
くろひめ
)
『ソラさうぢや。
342
霊
(
れい
)
の
方
(
はう
)
ではお
前
(
まへ
)
の
身魂
(
みたま
)
は
何
(
なん
)
の
身魂
(
みたま
)
ぢや、
343
昔
(
むかし
)
の
根本
(
こつぽん
)
は
何
(
ど
)
んな
事
(
こと
)
をして
居
(
を
)
つた。
344
また
行
(
ゆ
)
く
先
(
さき
)
は
何
(
ど
)
う
成
(
な
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
345
能
(
よ
)
く
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
るが、
346
肉体
(
にくたい
)
上
(
じやう
)
の
事
(
こと
)
は
畑
(
はたけ
)
が
違
(
ちが
)
うから、
347
聞
(
き
)
いた
方
(
はう
)
が
便利
(
べんり
)
がよい。
348
こんな
事
(
こと
)
を
神
(
かみ
)
さまに
勿体
(
もつたい
)
なうて、
349
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
かけずともお
前
(
まへ
)
に
聞
(
き
)
いた
方
(
はう
)
が
早
(
はや
)
いぢやないか。
350
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
も、
351
これ
丈
(
だけ
)
長
(
なが
)
らく
世話
(
せわ
)
に
成
(
な
)
つて
居
(
ゐ
)
ながら、
352
何故
(
なぜ
)
生
(
うま
)
れた
処
(
ところ
)
を
言
(
い
)
はれぬのか』
353
と
言葉
(
ことば
)
に
角
(
かど
)
を
立
(
た
)
て、
354
長煙管
(
ながぎせる
)
で
畳
(
たたみ
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
叩
(
たた
)
いた。
355
綾彦
(
あやひこ
)
『
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても、
356
これ
丈
(
だけ
)
は
申上
(
まをしあ
)
げられませぬ。
357
どうぞあなた、
358
天眼通
(
てんがんつう
)
でお
調
(
しら
)
べ
下
(
くだ
)
さいませ、
359
私
(
わたくし
)
の
口
(
くち
)
が
一旦
(
いつたん
)
いかなる
事
(
こと
)
があつても
国処
(
くにところ
)
、
360
親
(
おや
)
の
名
(
な
)
は
言
(
い
)
うで
無
(
な
)
いと、
361
両親
(
りやうしん
)
にいましめられ、
362
決
(
けつ
)
して
生命
(
いのち
)
にかかる
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
つても
申
(
まを
)
しませぬと
約束
(
やくそく
)
をして
出
(
で
)
た
以上
(
いじやう
)
は、
363
何処迄
(
どこまで
)
も
申上
(
まをしあ
)
げる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ』
364
黒姫
(
くろひめ
)
『ハヽヽヽ、
365
お
前
(
まへ
)
は
親
(
おや
)
に
孝行
(
かうかう
)
な
人
(
ひと
)
ぢや。
366
親
(
おや
)
の
言葉
(
ことば
)
をよく
守
(
まも
)
つて、
367
どうしてもいけぬと
仰有
(
おつしや
)
るのは、
368
実
(
じつ
)
に
感心
(
かんしん
)
ぢや。
369
人間
(
にんげん
)
はさう
無
(
な
)
くては
成
(
な
)
らぬ。
370
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
371
お
前
(
まへ
)
はモ
一
(
ひと
)
つ
大事
(
だいじ
)
の
親
(
おや
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
ますか。
372
大方
(
おほかた
)
忘
(
わす
)
れたのだらう』
373
綾彦
(
あやひこ
)
『
私
(
わたくし
)
は
親
(
おや
)
と
云
(
い
)
つたら、
374
お
父
(
とう
)
さまと、
375
お
母
(
かあ
)
さまと
二人
(
ふたり
)
より
御座
(
ござ
)
いませぬ。
376
其
(
その
)
上
(
うへ
)
にま
一
(
ひと
)
つ
大事
(
だいじ
)
の
親
(
おや
)
とは、
377
それや
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
378
黒姫
(
くろひめ
)
『アーアー、
379
お
前
(
まへ
)
も
見
(
み
)
た
割
(
わり
)
とは
愚鈍
(
ぐどん
)
な
人
(
ひと
)
ぢやな。
380
あれ
程
(
ほど
)
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
、
381
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
さまのお
筆先
(
ふでさき
)
を
読
(
よ
)
んで
居
(
を
)
つて、
382
まだ
判
(
わか
)
らぬのかいなア。
383
自分
(
じぶん
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
生
(
う
)
んで
呉
(
く
)
れた
親
(
おや
)
は
仮
(
かり
)
の
親
(
おや
)
ぢやぞい。
384
吾々
(
われわれ
)
の
霊魂
(
みたま
)
、
385
肉体
(
にくたい
)
の
根本
(
こつぽん
)
をお
授
(
さづ
)
け
下
(
くだ
)
さつた、
386
天地
(
てんち
)
の
誠
(
まこと
)
の
親
(
おや
)
が
有
(
あ
)
る
事
(
こと
)
を、
387
お
前
(
まへ
)
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
るぢや
無
(
な
)
いか』
388
綾彦
(
あやひこ
)
『ハイ、
389
それはお
筆先
(
ふでさき
)
でお
蔭
(
かげ
)
をいただいて
居
(
を
)
ります』
390
黒姫
(
くろひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は、
391
誠
(
まこと
)
の
親
(
おや
)
が
大切
(
だいじ
)
か、
392
肉体
(
にくたい
)
の
親
(
おや
)
が
大切
(
たいせつ
)
か、
393
どちらが
大切
(
たいせつ
)
か
考
(
かんが
)
へてみなされ』
394
綾彦
(
あやひこ
)
『それは
何方
(
どちら
)
も
大切
(
たいせつ
)
で
御座
(
ござ
)
います』
395
黒姫
(
くろひめ
)
『
何方
(
どちら
)
も
大切
(
たいせつ
)
な
事
(
こと
)
は
決
(
きま
)
つてゐるが、
396
併
(
しか
)
し
其
(
その
)
中
(
なか
)
でも、
397
重
(
おも
)
い
軽
(
かる
)
いが
有
(
あ
)
るだらう。
398
僅
(
わづ
)
か
百
(
ひやく
)
年
(
ねん
)
や
二百
(
にひやく
)
年
(
ねん
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
生
(
う
)
んで
呉
(
く
)
れた
親
(
おや
)
が
大切
(
だいじ
)
か、
399
幾億万
(
いくおくまん
)
年
(
ねん
)
と
知
(
し
)
れぬ
身魂
(
みたま
)
の
生命
(
いのち
)
を
与
(
あた
)
へて
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さる、
400
慈悲
(
じひ
)
深
(
ぶか
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
大切
(
だいじ
)
か、
401
それが
聞
(
き
)
きたい』
402
綾彦
(
あやひこ
)
『ハイ………』
403
黒姫
(
くろひめ
)
『
天地
(
てんち
)
の
根本
(
こつぽん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
私
(
わし
)
は、
404
つまり
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
代
(
かは
)
りぢや。
405
何故
(
なぜ
)
親
(
おや
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いて
私
(
わし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
聞
(
き
)
けぬのかい。
406
一寸
(
ちよつと
)
信心
(
しんじん
)
の
仕方
(
しかた
)
が
間違
(
まちが
)
うて
居
(
ゐ
)
やせぬか』
407
かかる
処
(
ところ
)
へ
紫姫
(
むらさきひめ
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
408
紫姫
(
むらさきひめ
)
『
今
(
いま
)
承
(
うけたま
)
はりますれば、
409
大変
(
たいへん
)
に
綾彦
(
あやひこ
)
さまに、
410
何
(
なに
)
かお
尋
(
たづ
)
ねのやうですが、
411
何
(
ど
)
うぞ
私
(
わたくし
)
に
任
(
まか
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
412
私
(
わたくし
)
が
機
(
をり
)
を
見
(
み
)
て、
413
綾彦
(
あやひこ
)
さまに
篤
(
とつく
)
りと
尋
(
たづ
)
ねまして、
414
お
返事
(
へんじ
)
を
致
(
いた
)
します』
415
黒姫
(
くろひめ
)
『さよかさよか、
416
どうぞ
貴女
(
あなた
)
、
417
やあはりと
問
(
と
)
うて
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さい。
418
何分
(
なにぶん
)
婆
(
ばば
)
の
言
(
い
)
ふことは、
419
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬと
見
(
み
)
えますワイ、
420
綺麗
(
きれい
)
な
貴女
(
あなた
)
のお
尋
(
たづ
)
ねなら、
421
綾彦
(
あやひこ
)
も
惜気
(
をしげ
)
なく
言
(
い
)
ひませう』
422
紫姫
(
むらさきひめ
)
『ホヽヽヽ、
423
サア、
424
綾彦
(
あやひこ
)
さま、
425
もうお
寝
(
やす
)
みなさいませ。
426
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
427
夜
(
よ
)
も
更
(
ふ
)
けました、
428
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
休息
(
きうそく
)
を』
429
黒姫
(
くろひめ
)
『ハイハイ、
430
早
(
はや
)
く
寝
(
ね
)
て
下
(
くだ
)
さい』
431
紫姫
(
むらさきひめ
)
『さやうなら』
432
紫姫
(
むらさきひめ
)
は
綾彦
(
あやひこ
)
の
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
き、
433
廊下
(
らうか
)
伝
(
づた
)
ひに
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
る。
434
黒姫
(
くろひめ
)
は
又
(
また
)
もや
疳声
(
かんごゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
435
黒姫
『
青彦
(
あをひこ
)
青彦
(
あをひこ
)
』
436
と
呼
(
よ
)
び
立
(
た
)
ててゐる。
437
青彦
(
あをひこ
)
は
周章
(
あわ
)
てて
此
(
こ
)
の
場
(
ば
)
に
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
438
青彦
『ハイ、
439
何
(
なん
)
の
御用
(
ごよう
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか』
440
黒姫
(
くろひめ
)
『
青彦
(
あをひこ
)
、
441
お
前
(
まへ
)
もお
節
(
せつ
)
を
高城山
(
たかしろやま
)
へやつて、
442
さぞ
淋
(
さび
)
しからう。
443
心
(
こころ
)
の
裡
(
うち
)
は
私
(
わたし
)
もよく
察
(
さつ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
444
本当
(
ほんたう
)
にお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ぢや。
445
同情
(
どうじやう
)
の
涙
(
なみだ
)
は、
446
いつも
外
(
そと
)
へ
零
(
こぼ
)
さずに、
447
内
(
うち
)
へ
流
(
なが
)
して
居
(
を
)
る』
448
と
追従
(
つゐしやう
)
らしく
言
(
い
)
ふ。
449
青彦
(
あをひこ
)
『
何
(
なに
)
御用
(
ごよう
)
かと
思
(
おも
)
へば、
450
そんな
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
451
イヤそんな
事
(
こと
)
なら、
452
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな、
453
却
(
かへつ
)
て
私
(
わたし
)
は
気楽
(
きらく
)
で
宜
(
よろ
)
しう
御座
(
ござ
)
います』
454
黒姫
(
くろひめ
)
『お
前
(
まへ
)
に
折入
(
をりい
)
つて
尋
(
たづ
)
ねたい
事
(
こと
)
がある。
455
外
(
ほか
)
でも
無
(
な
)
いが、
456
あの
綾彦
(
あやひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
は、
457
弥仙山
(
みせんざん
)
の
麓
(
ふもと
)
の、
458
於与岐
(
およぎ
)
の
村
(
むら
)
の
豊彦
(
とよひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
の
息子
(
むすこ
)
ぢやないか』
459
青彦
(
あをひこ
)
『あなた、
460
それが
何
(
ど
)
うして
分
(
わか
)
りましたか』
461
黒姫
(
くろひめ
)
はしたり
顔
(
がほ
)
にて、
462
黒姫
(
くろひめ
)
『そんな
事
(
こと
)
が
判
(
わか
)
らないで、
463
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
さまの
生宮
(
いきみや
)
ぢやと
言
(
い
)
はれますかいな。
464
蛇
(
じや
)
の
道
(
みち
)
は
矢張
(
やつぱり
)
蛇
(
へび
)
だ。
465
間違
(
まちが
)
ひは
有
(
あ
)
らうまいがな』
466
青彦
(
あをひこ
)
『ヤア、
467
あなたの
御
(
ご
)
明察
(
めいさつ
)
には
恐縮
(
きようしゆく
)
致
(
いた
)
しました。
468
それに
間違
(
まちが
)
ひは
有
(
あ
)
りますまい』
469
黒姫
(
くろひめ
)
『さうだらう さうだらう、
470
流石
(
さすが
)
はお
前
(
まへ
)
はよう
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
る。
471
正直
(
しやうぢき
)
な
男
(
をとこ
)
だ。
472
時
(
とき
)
にお
前
(
まへ
)
に
折入
(
をりい
)
つて
相談
(
さうだん
)
があるが、
473
乗
(
の
)
つて
下
(
くだ
)
さるまいかな』
474
青彦
(
あをひこ
)
『これは
又
(
また
)
、
475
改
(
あらた
)
まつての
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
476
何
(
なん
)
なりと
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
477
黒姫
(
くろひめ
)
『ヤア、
478
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い。
479
お
前
(
まへ
)
も
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
る
通
(
とほ
)
り
於与岐
(
およぎ
)
の
里
(
さと
)
に、
480
お
玉
(
たま
)
といふ
綺麗
(
きれい
)
な
娘
(
むすめ
)
が
有
(
あ
)
つて
玉照姫
(
たまてるひめ
)
とかいふ、
481
不思議
(
ふしぎ
)
な
子
(
こ
)
が
出来
(
でき
)
たといふ
事
(
こと
)
ぢや。
482
それは
何
(
ど
)
うしても
斯
(
こ
)
うしても、
483
ウラナイ
教
(
けう
)
へ
引
(
ひ
)
き
入
(
い
)
れねば、
484
神界
(
しんかい
)
のお
仕組
(
しぐみ
)
が
成就
(
じやうじゆ
)
しないから、
485
此
(
こ
)
の
間
(
あひだ
)
も、
486
寅若
(
とらわか
)
や、
487
富彦
(
とみひこ
)
、
488
菊若
(
きくわか
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
遣
(
つか
)
はして
交渉
(
かうせふ
)
に
遣
(
や
)
つたが、
489
何
(
ど
)
うやら
失敗
(
しつぱい
)
して
帰
(
かへ
)
つたらしい、
490
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
491
よう
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
492
向
(
むか
)
うの
老爺
(
おやぢ
)
が
孫
(
まご
)
を
呉
(
く
)
れんのも、
493
一
(
ひと
)
つの
理由
(
りいう
)
がある。
494
何故
(
なぜ
)
といつたら、
495
あの
綾彦
(
あやひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
行衛
(
ゆくゑ
)
不明
(
ふめい
)
となり、
496
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
お
玉
(
たま
)
とやらが、
497
年寄
(
としより
)
の
世話
(
せわ
)
をして
居
(
を
)
るさうだ。
498
そのお
玉
(
たま
)
に、
499
男
(
をとこ
)
も
無
(
な
)
いのに
子
(
こ
)
が
胎
(
やど
)
り、
500
其
(
その
)
子
(
こ
)
が
又
(
また
)
妙
(
めう
)
な
神力
(
しんりき
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
るので、
501
エライ
評判
(
へうばん
)
ぢやげな。
502
そこで
其
(
その
)
子
(
こ
)
を
貰
(
もら
)
うには、
503
綾彦
(
あやひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
元
(
もと
)
へ
還
(
かへ
)
してやらねば
成
(
な
)
るまい。
504
若
(
も
)
しも
三五教
(
あななひけう
)
の
連中
(
れんちう
)
が、
505
綾彦
(
あやひこ
)
とお
民
(
たみ
)
が、
506
爺
(
ぢい
)
さまの
子
(
こ
)
ぢやと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
探知
(
さとら
)
うものなら、
507
何
(
ど
)
んな
手段
(
しゆだん
)
を
運
(
めぐ
)
らしてでも、
508
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
んで
交換
(
かうくわん
)
に
玉照姫
(
たまてるひめ
)
を
貰
(
もら
)
つて
了
(
しま
)
ふに
違
(
ちが
)
ひ
無
(
な
)
い。
509
さうなれば、
510
此方
(
こつち
)
は
薩張
(
さつぱり
)
、
511
蛸
(
たこ
)
の
揚壺
(
あげつぼ
)
を
喰
(
く
)
つた
様
(
やう
)
な
羽目
(
はめ
)
に
成
(
な
)
らねばならぬ。
512
どうぢや、
513
青彦
(
あをひこ
)
、
514
何
(
なん
)
とかお
前
(
まへ
)
の
智慧
(
ちゑ
)
で、
515
玉照姫
(
たまてるひめ
)
を
此方
(
こつち
)
の
者
(
もの
)
にする
工夫
(
くふう
)
は
有
(
あ
)
るまいかな』
516
青彦
(
あをひこ
)
『それは
重大
(
ぢうだい
)
事件
(
じけん
)
ですなア。
517
よくよく
考
(
かんが
)
へませう。
518
どうぞ
此処
(
ここ
)
限
(
かぎ
)
り
他
(
た
)
に
漏
(
も
)
れないやうに、
519
絶対
(
ぜつたい
)
秘密
(
ひみつ
)
を
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
520
黒姫
(
くろひめ
)
『よしよし、
521
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わし
)
と
二人
(
ふたり
)
限
(
き
)
りだ。
522
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまにだつて、
523
此
(
こ
)
の
事
(
こと
)
成就
(
じやうじゆ
)
する
迄
(
まで
)
は、
524
言
(
い
)
はぬと
言
(
い
)
つたら
言
(
い
)
はないから、
525
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さい』
526
青彦
(
あをひこ
)
『
左様
(
さやう
)
ならば
充分
(
じゆうぶん
)
熟考
(
じゆくかう
)
した
上
(
うへ
)
、
527
又
(
また
)
コツソリと
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
致
(
いた
)
しませう。
528
今晩
(
こんばん
)
はこれでお
寝
(
やす
)
みなされませ』
529
青彦
(
あをひこ
)
は
一間
(
ひとま
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
530
後
(
あと
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
はニタリと
笑
(
わら
)
ひ、
531
黒姫
『アーアー、
532
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つても
青彦
(
あをひこ
)
だ。
533
今
(
いま
)
ウラナイ
教
(
けう
)
で
誰
(
たれ
)
がエライと
言
(
い
)
つても、
534
彼
(
かれ
)
に
越
(
こ
)
した
奴
(
やつ
)
は
有
(
あ
)
りはしない、
535
三五教
(
あななひけう
)
が
欲
(
ほ
)
しがつた
筈
(
はづ
)
だ。
536
持
(
も
)
つ
可
(
べ
)
きものは
家来
(
けらい
)
なりけりだ、
537
アヽどれどれ、
538
高山
(
たかやま
)
さまが
淋
(
さび
)
しがつて
御座
(
ござ
)
るであらう、
539
一寸
(
ちよつと
)
話相手
(
はなしあひて
)
になつて
上
(
あ
)
げませう』
540
と、
541
独言
(
ひとりご
)
ちつつ
一間
(
ひとま
)
に
入
(
い
)
る。
542
(
大正一一・四・二八
旧四・二
東尾吉雄
録)
543
(昭和一〇・六・二 王仁校正)
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