霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 赤面(せきめん)黒面(こくめん)〔六三八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第3篇 反間苦肉 よみ(新仮名遣い):はんかんくにく
章:第10章 赤面黒面 よみ(新仮名遣い):せきめんこくめん 通し章番号:638
口述日:1922(大正11)年04月26日(旧03月30日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
帰ってきた梅公は、黒姫に、自分は因縁の身魂だから、とつっかかる。黒姫は梅公をたしなめて、綾彦・お民に初の宣伝を聞かせるのだから、お前たちも聞くように、と言って宣伝歌を歌う。
黒姫はこのあと、百日百夜宮川の滝に禊をなし、高山彦と一緒にいったんフサの国に戻って高姫に報告をした。高姫は自転倒島に戻り、衣懸松の下に庵を結んで三五教覆滅を企んでいた。また由良の港の秋山彦の館に入って鍵を盗み、如意宝珠を呑み込んで逃げ出した。
黒姫はそれと行き違いに自転倒島の魔窟ケ原に戻ってきたが、夏彦、常彦らがウラナイ教を見限って出て行ってしまった。それというのも、黒姫と高山彦はもともと夫婦であったが、黒姫が独身主義を標榜して宣伝をしていた手前、夫があるとは信者たちに言えなかった。そこで、神界の都合と称して高山彦を婿入りさせたために、信望を失ったのである。
綾彦は魔窟ケ原で黒姫の身辺を世話し、お民は高城山の松姫の侍女となった。しかしウラナイ教では綾彦・お民の素性を知らず、普通の信者として遇していた。
黒姫が綾彦を共にまたもや宮川で禊中、青彦一行と出会い、青彦一行は何を思ったかにわかにウラナイ教に寝返ったため、黒姫は意気揚々として魔窟ケ原に戻ってきた。
黒姫は高山彦に青彦らを紹介する。黒姫が紫姫にウラナイ教の心得を説いていると、板公と滝公が帰ってきた。板公と滝公は、黒姫の命令でお節を捕まえに行ったが失敗した旨を報告する。
黒姫は板公、滝公の無体に怒って叱り付ける。紫姫が、お節は自分たちが助け出して、青彦と共にここに来ている、と言うと、板公と滝公はあわてて逃げ出していく。黒姫は泣きまねをして紫姫の手間をごまかした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-03-07 03:18:22 OBC :rm1810
愛善世界社版:160頁 八幡書店版:第3輯 696頁 修補版: 校定版:165頁 普及版:72頁 初版: ページ備考:
001 谷川(たにがは)(みそぎ)()まして、002梅公(うめこう)一行(いつかう)(ふたた)地底(ちてい)(やかた)(かへ)()たり、
003梅公(うめこう)高山彦(たかやまひこ)(さま)004黒姫(くろひめ)(さま)005(かげ)大江山(おほえやま)悪霊(あくれい)も、006スツカリ退散(たいさん)(いた)しました。007そこら(ぢう)(なん)ともなしに(かる)くなつた(やう)で、008明晰(めいせき)頭脳(づなう)益々(ますます)明晰(めいせき)になり、009モウ()れで大宇宙(だいうちう)根本(こつぽん)が、010現界(げんかい)011神界(しんかい)012幽界(いうかい)の、013万事(ばんじ)万端(ばんたん)()()(ごと)明瞭(めいれう)に、014(うめ)心鏡(しんきやう)(えい)ずる(やう)になつて()ました。015随分(ずゐぶん)御禊(みそぎ)()ふものは結構(けつこう)なものですなア』
016黒姫(くろひめ)『さうだろさうだろ、017何時(いつ)もそれぢやから、018(あさ)(ばん)(ひる)と、019()さへあれば、020(みづ)(いただ)きなさいと()うとるのぢや。021()(みづ)とお(つち)御恩(ごおん)第一(だいいち)ぢや。022何時(いつ)(みづ)(かぶ)るのは、023(かはづ)(ぎやう)ぢやと()つてブツブツ叱言(こごと)()つてらつしやるが、024今日(けふ)合点(がてん)がいつただらう』
025梅公(うめこう)『ヤアもう徹底(てつてい)(てき)(わか)りました。026有難(ありがた)(こと)には、027()出神(でのかみ)(さま)竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまが(わたくし)肉体(にくたい)にお(かか)(くだ)さいまして、028結構(けつこう)御座(ござ)いました』
029黒姫(くろひめ)『これこれ梅公(うめこう)030(なん)()傲慢(ごうまん)不遜(ふそん)(こと)()ひなさる。031()出神(でのかみ)(さま)は、032(まこと)水晶(すゐしやう)生粋(きつすゐ)根本(こつぽん)(もと)身魂(みたま)でなければお(うつ)りなさらず、033(また)竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまは、034因縁(いんねん)身魂(みたま)でなければ、035(たれ)にも、036()れにもお(うつ)りなさる(はず)がない。037(むかし)から(かみ)はものを()はなンだぞよ。038()(かは)()(かみ)(うつ)りて、039世界(せかい)(ひと)(なに)かの(こと)()らせねばならぬから、040因縁(いんねん)身魂(みたま)(かみ)(うつ)りて、041世界(せかい)(はじ)まりの(こと)から、042行末(ゆくすゑ)(こと)043身魂(みたま)因縁(いんねん)性来(しやうらい)(こま)かう()いて()かして、044世界(せかい)人民(じんみん)改心(かいしん)さすぞよ。045稲荷(いなり)(くらゐ)(たれ)にも(うつ)るが、046(まこと)大神(おほかみ)禰宜(ねぎ)巫子(みこ)には(うつ)らぬぞよ」と変性(へんじやう)男子(なんし)身魂(みたま)仰有(おつしや)つて御座(ござ)る。047それに(なん)ぞや、048下司(げす)身魂(みたま)にソンナ結構(けつこう)(かみ)(さま)(うつ)りなさる(はず)があるものか。049()出神(でのかみ)生宮(いきみや)が、050さう(ふた)つもあつたり、051竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまの生宮(いきみや)が、052さう彼方(あつち)にも此方(こつち)にも出来(でき)(たま)るものか。053(まへ)一寸(ちよつと)()いと(ぢき)によい()になつて、054慢心(まんしん)をするなり、055一寸(ちよつと)(しか)られると、056(すぐ)(あを)くなつてビシヨビシヨとして(しま)ふ。057それと()ふのも、058(ひと)腹帯(はらおび)(しま)つて()らぬからぢや。059身魂(みたま)相応(さうおう)御用(ごよう)をさされるのぢやから、060慢心(まんしん)をし、061高上(たかあが)りをしてブチヤダレヌ(やう)にしなされや、062灯台下(とうだいもと)はまつ(くら)がり、063自分(じぶん)(かほ)(すみ)(わか)るまい。064(そら)()いて()(なか)(ある)かうと(おも)へば、065(たか)(いし)(つまづ)いて、066(さか)トンボリを()たねばならぬぞよ。067()いた(くち)がすぼまらぬ(やう)なことのない(やう)に、068各自(めいめい)心得(こころえ)たが()いぞ』
069梅公(うめこう)『ヤア承知(しようち)(いた)しました。070(しか)(なが)ら、071臨時(りんじ)()降臨(かうりん)(あそ)ばしたのだから仕方(しかた)がありませぬ』
072黒姫(くろひめ)『そら(なに)()ひなさる。073神憑(しんぺう)には公憑(こうひよう)074私憑(しひよう)(ふた)つの種類(しゆるゐ)がある。075(その)(なか)でも私憑(しひよう)()ふのは、076因縁(いんねん)身魂(みたま)(だけ)によりお(うつ)りなさらぬと()(こと)ぢや。077国治立(くにはるたちの)(みこと)変性(へんじやう)男子(なんし)肉体(にくたい)078()出神(でのかみ)系統(ひつぽう)肉体(にくたい)079竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)(また)その系統(ひつぽう)肉体(にくたい)と、080チヤンと(きま)つて()るのぢや。081公憑(こうひよう)()うて、082(うへ)(はう)身魂(みたま)にも、083(なか)身魂(みたま)にも、084()身魂(みたま)にも臨機(りんき)応変(おうへん)(うつ)ると()(やう)な、085ソンナ自堕落(じだらく)(かみ)さまとは(ちが)ひまつせ。086竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまを、087(なん)(おも)うて()りなさる。088チツトお筆先(ふでさき)でも拝読(いただ)きなさい。089(ふで)さへ(はら)()()みておきたら、090目前(まさか)(とき)に、091ドンナ神力(しんりき)でも(あた)へて(くだ)さる。092兎角(とかく)(まへ)(たち)は、093()(わる)いとか、094()(にく)いとか、095クドイとか、096首尾(しゆび)一貫(いつくわん)せぬとか、097肉体(にくたい)(まぜ)つとるとか、098ここは神諭(しんゆ)ぢや、099(この)(てん)人諭(じんゆ)ぢやと、100屁理屈(へりくつ)ばつかり仰有(おつしや)るから、101サツパリ(わけ)(わか)らぬ(やう)になつて(しま)うのだ。102()出神(でのかみ)生宮(いきみや)のお()(あそ)ばしたお筆先(ふでさき)審神(さには)したり、103しやうとするから間違(まちが)ふのだ。104()れから、105絶対(ぜつたい)有難(ありがた)いと(おも)うていただきなさい』
106梅公(うめこう)(わたくし)はお(みち)(ひら)因縁(いんねん)身魂(みたま)ぢやありませぬか』
107黒姫(くろひめ)『きまつた(こと)ぢや。108因縁(いんねん)なくて、109(この)結構(けつこう)なウラナイ(けう)()られるものか』
110梅公(うめこう)因縁(いんねん)身魂(みたま)(なか)でも、111(わたくし)(もつと)因縁(いんねん)(ふか)いものでせう。112高姫(たかひめ)さまは高天原(たかあまはら)因縁(いんねん)のある()ぢやし、113黒姫(くろひめ)さまは、114くろう(かた)まりの(はな)()くとお筆先(ふでさき)因縁(いんねん)があるなり、115(わたくし)三千(さんぜん)世界(せかい)一度(いちど)(ひら)(うめ)(はな)()ふ、116変性(へんじやう)男子(なんし)初発(しよつぱつ)のお筆先(ふでさき)()()因縁(いんねん)()ぢやありませぬか。117(なん)()つても(うめ)(うめ)118一度(いちど)(ひら)(やく)梅公(うめこう)守護神(しゆごじん)のお(やく)でせう』
119黒姫(くろひめ)(この)(ひろ)世界(せかい)に、120(うめ)()のつくのは、121(まへ)ばつかりぢやないわいな』
122梅公(うめこう)『それでも、123(いま)あなた、124因縁(いんねん)身魂(みたま)ばつかり()()せて()ると仰有(おつしや)つたぢやありませぬか。125ウラナイ(けう)引寄(ひきよ)せられた人間(にんげん)(うち)に、126(うめ)()()いた(もの)が、127一人(ひとり)でもありますか。128(まつ)(をさ)めると()ふ、129(まつ)因縁(いんねん)のある松姫(まつひめ)さまは、130高城山(たかしろやま)であの(とほ)羽振(はぶ)りを()かし、131なぜ(この)梅公(うめこう)は、132さうあなたから軽蔑(けいべつ)されるのでせう』
133黒姫(くろひめ)『もうチツと修業(しうげふ)しなされ。134さうしたら(また)135松姫(まつひめ)(かた)(なら)べる(やう)にならうも()れぬ。136(しか)今日(けふ)(はじ)めて綾彦(あやひこ)137(たみ)に、138宣伝(せんでん)を、139竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)肉体(にくたい)が、140直接(ちよくせつ)にしてあげるから、141(まへ)もシツカリ()きなされ。142そして(この)肉体(にくたい)宣伝振(せんでんぶり)をよく(はら)()()みて、143世界(せかい)(まこと)(ひら)くのぢやぞえ』
144梅公(うめこう)『それは有難(ありがた)御座(ござ)います。145吾々(われわれ)傍聴(ばうちやう)(えい)()まして……』
146黒姫(くろひめ)『コレコレあまり(しやべ)るものぢやない……(をとこ)だてら……(くち)(わざはひ)(もん)ぢや。147(だま)つて謹聴(きんちやう)しなさい』
148(おさ)へつけ(なが)ら、149(すこ)(まが)つた腰付(こしつき)をして底太(そこぶと)(こゑ)張上(はりあ)(うた)(はじ)めたり。
150黒姫(むかし)(むかし)その(むかし)
151(とほ)神代(かみよ)(はじ)めより
152国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)
153千座(ちくら)置戸(おきど)()(たま)
154()(うしとら)(かく)れまし
155三千(さんぜん)(ねん)(その)(あひだ)
156苦労(くらう)艱難(かんなん)(あそ)ばして
157(この)()永久(とは)(ひら)かむと
158種々(いろいろ)雑多(ざつた)()をやつし
159(かげ)守護(しゆご)(あそ)ばされ
160ミロクの御代(みよ)()(たま)
161時節(じせつ)(まゐ)りて煎豆(いりまめ)
162(はな)()御代(みよ)となりかはり
163変性(へんじやう)男子(なんし)(おん)身魂(みたま)
164道具(だうぐ)使(つか)ふて(むかし)から
165(すゑ)(すゑ)まで見通(みとほ)され
166(たふと)きお(ふで)(いだ)しまし
167()()ちぶれた神々(かみがみ)
168今度(こんど)一緒(いつしよ)()にあげて
169それぞれお()(たま)ひつつ
170(かみ)御用(ごよう)()(たま)
171時節(じせつ)()たのを竜宮(りうぐう)
172乙姫(おとひめ)(さま)活溌(くわつぱつ)
173()(さつ)しの()(かみ)(ゆゑ)
174(いま)まで生命(いのち)(たくは)へた
175金銀(きんぎん)珠玉(しゆぎよく)珊瑚珠(さんごじゆ)
176(のこ)らず(たから)()()して
177大神(おほかみ)(さま)(たてま)つり
178(きた)ない(こころ)をスツパリと
179(うみ)(なが)して因縁(いんねん)
180身魂(みたま)()れし黒姫(くろひめ)
181神政(しんせい)成就(じやうじゆ)機関(きくわん)とし
182(あら)はれ(たま)うた(たふと)さよ
183(いま)まで竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)
184(みぐる)しかつた御霊(みたま)(だけ)
185系統(ひつぽう)身魂(みたま)(うつ)られて
186懺悔(ざんげ)(あそ)ばし一番(いちばん)
187改心(かいしん)なされた利巧者(りかうもの)
188三千(さんぜん)世界(せかい)()()ちた
189神々(かみがみ)さまは竜宮(りうぐう)
190乙姫(おとひめ)さまを手本(てほん)とし
191(ちから)一杯(いつぱい)身魂(みたま)をば
192(みが)いて今度(こんど)()大謨(たいも)
193(やく)()つた(その)(うへ)
194それぞれお()(いただ)いて
195結構(けつこう)(かみ)(まつ)られる
196三千(さんぜん)世界(せかい)(うめ)(はな)
197一度(いちど)(ひら)くと()(こと)
198(なが)らく(うみ)(そこ)(そこ)
199住居(すまゐ)なされた竜宮(りうぐう)さま
200(にく)のお(みや)にをさまりて
201(ひろ)世界(せかい)民草(たみくさ)
202(まこと)(ひと)つのお仕組(しぐみ)
203(あら)はしなさるお(はたら)
204()()(かみ)()()うて
205今度(こんど)御用(ごよう)(もと)となり
206(かみ)大望(たいもう)成就(じやうじゆ)させ
207(てん)にまします三体(さんたい)
208大神(おほかみ)(さま)()世界(せかい)
209()うなりましたとお()にかけ
210手柄(てがら)(あそ)ばす仕組(しぐみ)ぞや
211(この)仕組(しぐみ)三五(あななひ)
212(かみ)(をしへ)厳御霊(いづみたま)
213変性(へんじやう)男子(なんし)筆先(ふでさき)
214くまめる(やう)()いてある
215(その)筆先(ふでさき)()(やう)
216()らぬ(めくら)のミヅ御霊(みたま)
217変性(へんじやう)女子(によし)()(かへ)
218(かはづ)行列(ぎやうれつ)(むか)ふミヅ
219(みづ)御霊(みたま)偉相(えらさう)
220()出神(でのかみ)筆先(ふでさき)
221(なん)ぢや()ンぢやとケチをつけ
222黒姫(くろひめ)までも馬鹿(ばか)にする
223され(ども)此方(こちら)はどこまでも
224(こば)(こば)りて()()たが
225(あま)何時(いつ)まで(わか)らねば
226是非(ぜひ)(およ)ばず(ちやう)()
227(あく)(かがみ)(あら)はして
228万劫(まんごう)末代(まつだい)()(のこ)
229変性(へんじやう)男子(なんし)(ただ)一人(ひとり)
230変性(へんじやう)女子(によし)(また)一人(ひとり)
231それに(なん)ぞや()御霊(みたま)
232()つもあつてたまるかい
233(この)(こと)からが間違(まちが)ひぢや
234変性(へんじやう)男子(なんし)(たて)(やく)
235変性(へんじやう)女子(によし)(よこ)(やく)
236(たて)(よこ)とを和合(わがふ)させ
237(にしき)(はた)()仕組(しぐみ)
238()出神(でのかみ)()となりて
239竜宮(りうぐう)(さま)のお手伝(てつだ)
240今度(こんど)一番(いちばん)()出世(しゆつせ)
241(あそ)ばす(こと)()らないか
242(かなら)(かなら)三五(あななひ)
243(よこ)(をしへ)(まよ)ふなよ
244(たて)七分(しちぶ)(よこ)三分(さんぶ)
245これでなければ立派(りつぱ)なる
246(まこと)(はた)()れないに
247三五教(あななひけう)大本(おほもと)
248次第(しだい)々々(しだい)(みだ)()
249(たて)三分(さんぶ)(よこ)七分(しちぶ)
250変性(へんじやう)男子(なんし)先走(さきばし)
251変性(へんじやう)女子(によし)弥勒(みろく)さま
252(なん)ぢや()ンぢやと身勝手(みがつて)
253理屈(りくつ)(なら)べて(けむ)()
254(この)(まま)()てて()いたなら
255変性(へんじやう)男子(なんし)永年(ながねん)
256艱難(かんなん)苦労(くらう)(みづ)(あわ)
257(みづ)(あわ)にはさせまいと
258系統(ひつぽう)身魂(みたま)()()いて
259()出神(でのかみ)(あら)はれて
260(まこと)筆先(ふでさき)()きしるし
261一度(いちど)()めよと(すす)むれど
262変性(へんじやう)女子(によし)頑固者(ぐわんこもの)
263どうして()れが()まれよかと
264(こゑ)荒立(あらだ)()げつける
265それ(ほど)(いや)なら()までよい
266(あと)吠面(ほえづら)かわくなと
267()うて()かしてやつたれど
268(わけ)(わか)らぬ頑固者(ぐわんこもの)
269(かみ)(めぐみ)(あだ)()
270(なに)ほど親切(しんせつ)(つく)しても
271モウこの(うへ)(たす)けやうが
272()いと(くや)みて高姫(たかひめ)
273何時(いつ)(なみだ)をポロポロと
274(こぼ)して御座(ござ)るお慈悲心(じひしん)
275それに(つづ)いて(わか)らぬは
276金勝要(きんかつかね)大御神(おほみかみ)
277この肉体(にくたい)もド(しぶ)とい
278まだまだ(しぶ)とい(やつ)がある
279仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
280生命(いのち)(つな)()れるとも
281()出神(でのかみ)筆先(ふでさき)
282(あて)にならぬと()ねつける
283()花姫(はなひめ)生宮(いきみや)
284(うそ)本真(ほんま)()らねども
285(あら)はれ()でた男女郎(をとこめらう)
286()(じや)になろがどうしようが
287改心(かいしん)させねば()くものか
288(たて)から(よこ)から八方(はつぱう)から
289探女(さぐめ)醜女(しこめ)(つか)はして
290いろいろ(ほね)()るけれど
291(もと)より愚鈍(ぐどん)(うま)れつき
292(いし)地蔵(ぢざう)打向(うちむか)
293説教(せつけう)するよな塩梅(あんばい)
294どしても()かうと(いた)さない
295()花姫(はなひめ)肉体(にくたい)
296改心(かいしん)させねば何時(いつ)までも
297(かみ)仕組(しぐみ)成就(じやうじゆ)せぬ
298ウラナイ(けう)(さか)やせぬ
299サア()れからは黒姫(くろひめ)
300指図(さしづ)(したが)()をやつし
301千変(せんぺん)万化(ばんくわ)活動(くわつどう)
302一日(ひとひ)(はや)因縁(いんねん)
303身魂(みたま)改心(かいしん)さす(やう)
304(いの)つて()れよ黒姫(くろひめ)
305これから(ひやく)(にち)百夜(ひやくよさ)
306剣尖山(けんさきやま)谷川(たにがは)
307(うぶ)のお(みづ)()(きよ)
308一心(いつしん)不乱(ふらん)祈念(きねん)する
309アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
310御霊(みたま)(さち)はひましませよ』
311(あせ)をブルブルに()き、312身体(しんたい)一面(いちめん)ポーツポーツと湯気(ゆげ)()て、
313黒姫『アーア(くる)しいこと。314……世界(せかい)人民(じんみん)(たす)けようと(おも)へば、315並大抵(なみたいてい)ぢやない、316変性(へんじやう)男子(なんし)高姫(たかひめ)さまの()苦労(くらう)()()みて、317おいとしう御座(ござ)るわいの、318オンオンオン』
319()(くづ)れる。
320 これより黒姫(くろひめ)は、321(ひやく)(にち)百夜(ひやくや)322宮川(みやかは)(たき)水行(すゐぎやう)をなし、323高山彦(たかやまひこ)懇望(こんもう)もだし(がた)く、324一旦(いつたん)数多(あまた)信徒(しんと)宣伝使(せんでんし)仕立(した)てて、325自転倒(おのころ)(じま)東西(とうざい)南北(なんぼく)間配(まくば)()き、326()()()つて、327フサの(くに)(わた)り、328高姫(たかひめ)身許(みもと)()きける。329高姫(たかひめ)三五教(あななひけう)勢力(せいりよく)(あなど)(がた)きを黒姫(くろひめ)より()き、330黒姫(くろひめ)北山村(きたやまむら)本山(ほんざん)(のこ)()き、331(みづか)らは二三(にさん)弟子(でし)(とも)に、332自転倒(おのころ)(じま)(わた)り、333(ふたた)魔窟(まくつ)(はら)(あら)はれ、334衣懸松(きぬかけまつ)(した)にて(いほり)(むす)び、335三五教(あななひけう)覆滅(ふくめつ)根拠地(こんきよち)(つく)らむとして()たのである。336(また)もやそれより由良(ゆら)(みなと)人子(ひとご)(つかさ)337秋山彦(あきやまひこ)(やかた)(おい)て、338冠島(かむりじま)339沓島(くつじま)宝庫(はうこ)(かぎ)()り、340(つひ)には如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)()み、341空中(くうちう)白煙(はくえん)となりて(ふたた)()(かへ)りしが、342それと行違(ゆきちがひ)黒姫(くろひめ)は、343(また)もや魔窟(まくつ)(はら)(あら)はれ、344草庵(さうあん)焼跡(やけあと)(あらた)(いほり)(むす)び、345前年(ぜんねん)高姫(たかひめ)(とも)(きづ)()きたる地底(ちてい)大岩窟(だいがんくつ)(きよ)(さだ)め、346極力(きよくりよく)宣伝(せんでん)従事(じうじ)して()たりしなり。347(しか)るに黒姫(くろひめ)部下(ぶか)(つか)ふる夏彦(なつひこ)348常彦(つねひこ)349(その)()弟子(でし)(ども)は、350フサの(くに)より扈従(こじう)(きた)(なが)ら、351(すこ)しも黒姫(くろひめ)(をつと)ある(こと)()らざりける。352黒姫(くろひめ)独身(どくしん)主義(しゆぎ)高唱(かうしやう)し、353(さか)ンに宣伝(せんでん)をして()手前(てまへ)354今更(いまさら)(をつと)ありとは打明(うちあ)()ね、355(ひそか)高姫(たかひめ)(つう)じて、356神界(しんかい)都合(つがふ)(しよう)し、357(はじ)めて(をつと)()つた(ごと)(よそほ)ひける。358高山彦(たかやまひこ)表面(へうめん)入婿(いりむこ)として(きた)るや、359以前(いぜん)事情(じじやう)()らざりし弟子(でし)(たち)は、360黒姫(くろひめ)(この)行動(かうどう)(あきた)らず、361(つひ)にウラナイ(けう)脱退(だつたい)するに(いた)りたるなり。362夏彦(なつひこ)363常彦(つねひこ)以下(いか)(おも)なる(もの)は、364(この)(とき)高城山(たかしろやま)立籠(たてこも)り、365東南(とうなん)地方(ちはう)宣伝(せんでん)()たれば、366(うめ)367(あさ)368(いく)などの(はか)らひに()りて、369(あらた)入信(にふしん)したる綾彦(あやひこ)(こと)(すこ)しも()らざりける。370また高城山(たかしろやま)松姫(まつひめ)侍女(じぢよ)として(つか)()るお(たみ)素性(すじやう)も、371()()かず、372(ただ)普通(ふつう)信者(しんじや)とのみ(おも)ひて取扱(とりあつか)()たりしなり。373黒姫(くろひめ)(また)もや剣尖山(けんさきやま)(ふもと)(なが)るる宮川(みやかは)に、374綾彦(あやひこ)(ほか)一人(ひとり)(ともな)ひ、375(みそぎ)最中(さいちう)376紫姫(むらさきひめ)377青彦(あをひこ)一行(いつかう)出会(でつくは)し、378青彦(あをひこ)(ふたた)びウラナイ(けう)復帰(ふくき)せしと()き、379(よろこ)(いさ)みて、380この岩窟(がんくつ)意気(いき)揚々(やうやう)として(かへ)()たりしなり。
381
382黒姫(くろひめ)『サアサアこれが(わし)(かり)出張所(しゆつちやうじよ)だ。383大江山(おほえやま)悪魔(あくま)(ふせ)ぎに地下室(ちかしつ)(こしら)へて()るのだから、384這入(はい)つて(くだ)さいませ。385……青彦(あをひこ)386(まへ)勝手(かつて)をよく()つてる(はず)ぢや。387どうぞ(みな)さまを叮嚀(ていねい)案内(あんない)をしてあげて(くだ)さいな』
388鹿公(しかこう)『ヤアこれは(また)奇妙(きめう)なお住居(すまゐ)ですな、389三五教(あななひけう)反対(はんたい)で、390穴有教(あなありけう)だなア、391ヤア結構(けつこう)結構(けつこう)392穴有難(あなありがた)(あな)たふとやだ』
393一人(ひとり)々々(ひとり)394ゾロゾロと(すべ)()む。
395黒姫(くろひめ)『モシモシ高山彦(たかやまひこ)さま、396極道(ごくだう)息子(むすこ)(かへ)つて()ました。397どうぞ勘当(かんどう)(ゆる)してやつて(くだ)さい』
398高山彦(たかやまひこ)『ヤアお(まへ)常々(つねづね)(やかま)しう()つて()つた……これが青彦(あをひこ)だらう』
399青彦(あをひこ)『ハイ(はじ)めてお()にかかります。400どうぞ(よろ)しう()(ねが)(いた)します』
401高山彦(たかやまひこ)『ハイハイ、402もう()れからは、403あまりグラつかぬ(やう)にして(くだ)さい』
404青彦(あをひこ)(けつ)して(けつ)して、405()心配(しんぱい)(くだ)さいますな』
406高山彦(たかやまひこ)『ヤアなンと綺麗(きれい)(むすめ)さまがお(いで)になつたぢやないか』
407青彦(あをひこ)(この)(かた)由緒(ゆいしよ)ある(みやこ)(かた)御座(ござ)いますが、408伊勢(いせ)(さま)()参拝(さんぱい)(をり)409黒姫(くろひめ)(さま)言霊(ことたま)()いて、410大変(たいへん)感心(かんしん)(あそ)ばし、411「どうぞ(わたし)入信(にふしん)(いた)したう御座(ござ)いますから、412青彦(あをひこ)さま、413(たの)みて(くだ)さいな」ナンテ、414それはそれはお(やさ)しい口許(くちもと)でお(たの)みになりました。415(わたくし)もコンナ綺麗(きれい)(かた)が、416(をとこ)ばつかりの(ところ)へお(いで)になつては、417(さぞ)()迷惑(めいわく)だらうと(おも)ひましたけれども、418折角(せつかく)のお(たの)み、419無下(むげ)(ことわ)(わけ)にもゆかず、420黒姫(くろひめ)(さま)()取次(とりつぎ)(いた)しました。421黒姫(くろひめ)さまは(ふた)返辞(へんじ)承知(しようち)して(くだ)さいました』
422紫姫(むらさきひめ)『ホヽヽヽヽ』
423(そで)(かほ)(かく)す。
424黒姫(くろひめ)『コレ青彦(あをひこ)425チツと(ちが)つては()らぬかな』
426青彦(あをひこ)『アーさうでしたかなア。427あまり(うれ)しかつたので、428精神(せいしん)錯乱(さくらん)(いた)しました。429どうぞ見直(みなほ)聞直(ききなほ)しを(ねが)ひます』
430黒姫(くろひめ)青彦(あをひこ)(まへ)久振(ひさしぶり)(おや)(うち)(かへ)つたのだから、431()(ゆる)して(おく)でゆつくりと()なされ、432(いま)新顔(しんがほ)ばつかりで、433(まへ)()つて()(もの)は、434みなフサの(くに)本山(ほんざん)()つたり、435高城山(たかしろやま)()つて()る、436馴染(なじみ)がなくて(さび)しいだらうが、437()()(もの)ばつかりだから、438気兼(きがね)なしにユツクリと(やす)まつしやい。439馬公(うまこう)鹿公(しかこう)も、440トツトとお(やす)み、441(また)明日(あす)になつたら結構(けつこう)(はなし)()かしてあげる。442……サテ紫姫(むらさきひめ)さまとやら、443あなたは三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)におなりになつたのは、444(なに)(かん)じてですかなア。445(なに)(ひと)つの動機(どうき)がなければ、446あなたの(やう)賢明(けんめい)淑女(しゆくぢよ)が、447あの(やう)(みづ)御霊(みたま)()(かへ)(けう)入信(にふしん)なさる道理(だうり)がない。448みな(おく)()つて睡眼(やす)みて(しま)つたから、449(たれ)()(もの)もないから、450遠慮(ゑんりよ)なしに(はな)して(くだ)さいな』
451紫姫(むらさきひめ)『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)います、452(べつ)()れと()動機(どうき)御座(ござ)いませぬ。453国家(こくか)(ため)社会(しやくわい)(ため)舎身(しやしん)(てき)活動(くわつどう)をなさる(みづ)御霊(みたま)大神(おほかみ)さまに同情(どうじやう)(へう)しまして、454つい(なん)とはなしに宣伝使(せんでんし)になりました』
455黒姫(くろひめ)『それはそれは結構(けつこう)(こと)だ。456身魂(みたま)因縁(いんねん)がなくては、457到底(たうてい)(たふと)宣伝使(せんでんし)にはなれませぬ。458三五教(あななひけう)もウラナイ(けう)も、459みな変性(へんじやう)男子(なんし)460変性(へんじやう)女子(によし)と、461(たて)(よこ)との身魂(みたま)(あら)はれて(にしき)(はた)仕組(しぐみ)をなさるのぢやが、462(しか)(なが)ら、463素盞嗚(すさのをの)(みこと)(あま)岩戸(いはと)()めるお(やく)で、464大神(おほかみ)(さま)が、465(この)()(みだ)れた行方(やりかた)がさしてあると仰有(おつしや)る。466ナンボ(かみ)(さま)仰有(おつしや)(こと)でも……これ(だけ)(みだ)れた()(なか)を、467(をさ)める(こと)()いて、468(みだ)れた(はう)()守護(しゆご)をしられて(たま)りますか。469そこで吾々(われわれ)(もと)三五教(あななひけう)熱心(ねつしん)取次(とりつぎ)だが、470(いま)では変性(へんじやう)女子(によし)行方(やりかた)愛想(あいさう)をつかし、471()むを()ず、472ウラナイ(けう)()をつけて、473(かみ)(さま)御用(ごよう)をして()りますのぢや。474(おな)(こと)なら三五教(あななひけう)()()けたいけれど、475高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)は、476支部(しぶ)ぢやとか、477隠居(いんきよ)ぢやとか()はれるのが(しやく)(さは)るので、478()むを()結構(けつこう)結構(けつこう)なウラル(けう)の「ウラ」の二字(にじ)()り、479アナナイ(けう)の「ナイ」の二字(にじ)をとつて、480(おもて)ばつかり、481裏鬼門(うらきもん)金神(こんじん)変性(へんじやう)女子(によし)(をしへ)一寸(ちよつと)()いと()ふ、482生粋(きつすゐ)日本(やまと)(だましひ)のウラナイ(けう)ぢや。483(まへ)も、484(おな)宣伝使(せんでんし)になるのなら、485()はせものの三五教(あななひけう)()めてウラナイ(けう)になりなされ。486あなたのお(とく)ぢや。487否々(いやいや)天下(てんか)(ため)ぢや』
488紫姫(むらさきひめ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)さまは、489それ(ほど)(わる)いお(かた)御座(ござ)いますか。490世界(せかい)万民(ばんみん)(ため)千座(ちくら)置戸(おきど)()うて、491世界(せかい)(あく)一身(いつしん)引受(ひきう)け、492人民(じんみん)(わる)(こと)は、493みな(われ)(わる)いのぢやと()つて、494犠牲(ぎせい)になつて(くだ)さる(かみ)さまぢや()りませぬか』
495黒姫(くろひめ)『それはさうぢやけれども、496(ひと)()(つよ)うて改心(かいしん)出来(でき)ぬものぢやから、497神界(しんかい)のお仕組(しぐみ)成就(じやうじゆ)しませぬ。498(なん)()うても、499高天原(たかあまはら)から、500手足(てあし)(つめ)まで()かれて、501おつ()()される(やう)(かみ)ぢやから、502大抵(たいてい)()はいでも(わか)つとる。503(まへ)()(むね)()()てて()思案(しあん)なさいませ』
504紫姫(むらさきひめ)『ウラナイ(けう)には、505ちツとも……仰有(おつしや)(とほ)(うら)がないので御座(ござ)いますか』
506黒姫(くろひめ)勿論(もちろん)(こと)507()えた()きの、508正真(しやうしん)正銘(しやうめい)509(しか)(なが)ら、510(かみ)(さま)のお仕組(しぐみ)(おく)(ふか)いからなア、511一寸(ちよつと)やそつとに、512人間(にんげん)理屈(りくつ)(くらゐ)では(わか)りませぬ。513マアマア(しばら)絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)信神(しんじん)して()なさい。514()神徳(かげ)段々(だんだん)(わか)つて()るから』
515 ()(はな)(をり)しも、516(あは)ただしく(はし)(かへ)つた二人(ふたり)(をとこ)
517黒姫(くろひめ)『ヤアお(まへ)(たき)(いた)とぢやないか』
518滝公、板公『ハイ左様(さやう)御座(ござ)います』
519黒姫(くろひめ)昨日(きのふ)から此処(ここ)()()した()り、520どこをウロウロ迂路(うろ)ついとつたのだい』
521滝公(たきこう)『ハイ昨日(きのふ)(おそ)がけに、522一人(ひとり)(をんな)(とほ)りましただらう。523それをあなたが(つか)まへて()いと仰有(おつしや)つたものだから、524此奴(こいつ)(また)525梅公(うめこう)故智(こち)(なら)つて、526(ひと)大手柄(おほてがら)(あら)はし、527あの(をんな)入信(にふしん)させてやるか、528あまり()かねば、529(いづ)三五教(あななひけう)(やつ)だから、530(たた)(つぶ)してやらうかと(おも)うて、531あなたの()命令(めいれい)()ひかけて()きました』
532黒姫(くろひめ)(たれ)(たた)(つぶ)せと()つたのか。533丹波村(たんばむら)のお(せつ)(ちが)ひないから、534(つか)まへて()いと()つたのだ、535そして(その)(せつ)如何(どう)したのぢやい』
536滝公(たきこう)板公(いたこう)二人(ふたり)537尻引(しりひ)(まく)つて……お(せつ)(はし)る、538二人(ふたり)()ひかける、539船岡山(ふなをかやま)手前(てまへ)までやつて()ると、540()()れかける。541(せつ)(いし)(つまづ)きパタリと(たふ)れたので、542(その)(あひだ)()ひつき、543無理(むり)無体(むたい)手足(てあし)(くく)り、544(やみ)(はやし)()()つて、545グツと(しば)りつけ、546猿轡(さるぐつわ)()ませ、547(ふたた)姿(すがた)(あら)ため、548……コレコレどこのお女中(ぢよちう)()らぬが、549コンナ(ところ)悪者(わるもの)(くく)られて可愛想(かあいさう)に……と()つて(たす)けてやる。550さうすれば如何(いか)なお(せつ)もウラナイ(けう)親切(しんせつ)(かん)じて、551三五教(あななひけう)(おも)()るだらう……と(おも)ひまして、552一寸(ちよつと)智慧(ちゑ)()しました。553さうした(ところ)が、554(まへ)さまがやつて()て、555種々(いろいろ)仰有(おつしや)るものだから、556(くら)がり(なが)()案内(あんない)しました。557……あなた(おぼ)えが御座(ござ)いませう……(たちま)ちお(せつ)(いき)()れ、558(いや)らしい(こゑ)()して、559()けて()よつた、560(その)途端(とたん)(わたくし)尻餅(しりもち)()いて、561(くら)さは(くら)し、562(かたはら)谷川(たにがは)へサクナダリに()(たき)つ、563(こし)イタツ磐根(いはね)打据(うちす)ゑて、564それはそれは(えら)()()ひました。565(しばら)くは()()(うしな)うて、566半死(はんじに)になつて(しま)ひ、567(くるし)みて()るのに、568あなたは(そば)()()(なが)(わたくし)見殺(みごろ)しにして(かへ)りなさつたぢやないか。569何時(いつ)(ひと)(たす)ける(たす)けると仰有(おつしや)るが、570アンナ(とき)(たす)けて(もら)はねば、571(つね)(おん)大将(たいしやう)(あふ)いで()甲斐(かひ)がありませぬワ』
572黒姫(くろひめ)『そら(なに)()うのだ、573(わし)何故(なぜ)ソンナ(ところ)()必要(ひつえう)があるか、574(また)(なん)とした乱暴(らんばう)(こと)をするのだい。575ソンナ(こと)がウラナイ(けう)(をしへ)にありますか。576モウ今日(けふ)(かぎ)り、577破門(はもん)するツ、578サア()()()()け』
579滝公(たきこう)悪人(あくにん)悪人(あくにん)とせず、580(おに)でも、581(じや)でも、582餓鬼(がき)(むし)けらでも(たす)けるのが、583ウラナイ(けう)ぢや()りませぬか。584()()けとはチツと(きこ)えませぬワ』
585黒姫(くろひめ)『モシ紫姫(むらさきひめ)さま、586()()取違(とりちがひ)する(もの)がチヨコチヨコ出来(でき)ますので、587(まこと)(こま)ります。588(しか)(なが)ら、589コンナ(もの)ばつかりぢや御座(ござ)いませぬ。590これは大勢(おほぜい)(なか)でも、591()りに()つて一番(いちばん)(わる)(やつ)御座(ござ)います。592そして(また)入信(にふしん)してから、593(いく)らもならぬものですから、594つい脱線(だつせん)をしましてナ』
595板公(いたこう)『モシモシ黒姫(くろひめ)さま、596(あんま)(ひど)いぢやありませぬか、597(わたくし)悪人(あくにん)なら、598モツとモツと大悪人(だいあくにん)沢山(たくさん)()りますで……綾彦(あやひこ)だつて、599(たみ)だつて、600改心(かいしん)さしたのは、601あなた()らぬか()らぬが、602それはそれは大変(たいへん)(えら)(こと)をやつて入信(にふしん)させたのだ。603(わたし)兄弟子(あにでし)兵法(へいはふ)(なら)つて(うま)くやらうと(おも)つたのが(あて)(はづ)れた(だけ)のものですよ、604あれ(ほど)(やかま)しう(した)(もの)(うはさ)をして()るのに、605あなたの(みみ)這入(はい)らぬ(はず)はない、606(いち)(ねん)からになるのに、607世界(せかい)()()くと()ふあなたが、608()つとらぬとは()はれませぬ。609(はら)(そこ)(たた)けば、610権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)(てき)手段(しゆだん)(もち)ゐるな。611(しか)(おれ)()らぬ(ところ)では都合(つがふ)よく()れ、612勝手(かつて)たるべし」と()ふ、613あなたの()精神(せいしん)でせう』
614滝公(たきこう)『ソンナこたア、615()はなくても()まつて()るワイ。616あれ(ほど)617(かみ)取次(とりつぎ)する(もの)は、618独身(ひとりみ)でなければ()かぬと仰有(おつしや)つた黒姫(くろひめ)さまでさへも、619ヤツパリ()うた(こと)をケロリと(わす)れて因縁(いんねん)だとか、620()都合(つがふ)だとか理屈(りくつ)()けて、621ハズバンドを()たつしやるのだもの、622()(だけ)野暮(やぼ)だよ』
623黒姫(くろひめ)(なに)()ふのだ。624(はや)()(くだ)さい』
625滝公(たきこう)都合(つがふ)(わる)うおますかなア……(はじ)めての入信者(にふしんじや)(まへ)ですから、626()るべくは、627コンナ内幕話(うちまくばなし)()ひたくはありませぬが、628(まへ)さまが今日(けふ)から除名(ぢよめい)すると仰有(おつしや)つた以上(いじやう)は、629今迄(いままで)師匠(ししやう)でもなければ、630弟子(でし)でもない。631(ちから)一杯(いつぱい)奮戦(ふんせん)して、632どこまでも素破抜(すつぱぬ)きませうか』
633 黒姫(くろひめ)(くちびる)(ふる)はし、634()逆立(さかだ)て、635クウクウ()()ひしばつて、636(いか)つて()る。
637滝公(たきこう)『モシ黒姫(くろひめ)さま、638(いか)(なか)れ……と()(こと)がありますなア。639(いか)つて()るのぢやありませぬか。640チツと(わら)ひなされ』
641黒姫(くろひめ)『ウーム ウーム』
642()()ひしばり、643()()いて()る。
644紫姫(むらさきひめ)『これはこれは(たき)さまとやら、645(いた)さまとやら、646()加減(かげん)にお(しづ)まりなさいませ。647夜前(やぜん)あなたがお(せつ)さまを(なや)めて御座(ござ)(ところ)を、648(わたし)(ほか)(さん)(にん)(もの)がよく()()りました。649黒姫(くろひめ)さまは(けつ)してお()でぢやありませぬ。650(わたし)(つれ)鹿(しか)()(をとこ)黒姫(くろひめ)さまの……(やみ)(さいは)ひ……声色(こはいろ)使(つか)つたのですよ。651それに黒姫(くろひめ)さまがお()でになつたなぞと仰有(おつしや)つてはお()(どく)ですワ、652(せつ)さまはこの(おく)()て、653スヤスヤ(やす)みてゐらつしやいますよ』
654滝公、板公『エー(なん)仰有(おつしや)る、655(せつ)さまが……そいちやア大変(たいへん)だ』
656紫姫(むらさきひめ)『さう()心配(しんぱい)なされますな、657青彦(あをひこ)さまも()えて()ります』
658滝公(たきこう)『ヤアうつかりして()ると、659ドンナ()()ふか(わか)らぬぞ。660仇討(かたきうち)に……岩窟(いはや)退治(たいぢ)()よつたのだなア。661……オイ板公(いたこう)662黒姫(くろひめ)さまはどうでも()い。663生命(いのち)あつての物種(ものだね)だ、664見付(みつ)からぬ(うち)に、665一刻(いつこく)(はや)(この)()退却(たいきやく)だ』
666(たき)駆出(かけだ)す。667(いた)(つづ)いて、
668板公『オイ合点(がつてん)だ』
669(あと)()ふ。670黒姫(くろひめ)は、
671黒姫『オイこれこれ、672滝公(たきこう)673板公(いたこう)674()つた()つた、675()ひたい(こと)がある』
676 (たき)(いた)両人(りやうにん)は、677岩穴(いはあな)(そと)から(うち)(のぞ)いて、
678滝公、板公黒姫(くろひめ)さま、679左様(さやう)なら、680ゆつくりと、681青彦(あをひこ)やお(せつ)に、682(あぶら)(しぼ)られなさつたが()からう、683アバヨ、684アハヽヽヽ、685ウフヽヽヽ』
686()つた()り、687何処(どこ)ともなく……それ()りウラナイ(けう)には姿(すがた)()せなくなりにけり。
688 紫姫(むらさきひめ)()(どく)がり、
689紫姫『モシモシ黒姫(くろひめ)さま、690(はら)()ちませうが、691(わか)(ひと)仰有(おつしや)(こと)692どうぞ(ゆる)して()げて(くだ)さいませ、693……イヤもう(ひと)使(つか)へば()使(つか)ふと(まを)しまして、694()苦心(くしん)(ほど)695(さつ)(まを)します』
696黒姫(くろひめ)『これはこれは、697親切(しんせつ)によう()うて(くだ)さいました。698無茶(むちや)ばつかり(まを)しまして(こま)ります。699これと()ふのも、700(けつ)して(けつ)して、701(たき)(いた)(まを)すのぢや御座(ござ)いませぬ。702(また)さう()(やう)(わる)(こと)をする(をとこ)ぢや()りませぬが、703素盞嗚(すさのをの)(みこと)悪神(あくがみ)眷属(けんぞく)(うつ)つて、704吾々(われわれ)(くるし)めやうと(おも)うて、705アンナ(こと)()つたり、706したりするのです。707チツとも油断(ゆだん)はなりませぬ。708悪神(あくがみ)使(つか)はれた、709滝公(たきこう)板公(いたこう)こそ不憫(ふびん)(もの)御座(ござ)います、710オンオンオン』
711()真似(まね)をする。
712紫姫(むらさきひめ)黒姫(くろひめ)さま、713モウお(やす)みなさいましたらどうでせう。714大分(だいぶん)()()けた(やう)です』
715黒姫(くろひめ)『ハイ有難(ありがた)う、716ソンナラお(さき)御免(ごめん)(かうむ)りませう。717明日(あす)(また)ゆつくりと、718根本(こつぽん)のお(はなし)()いて(もら)ひませう』
719紫姫(むらさきひめ)『ハイ有難(ありがた)う』
720(たがひ)(しん)()きにける。
721大正一一・四・二六 旧三・三〇 松村真澄録)
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