霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 大当(おほあて)(ちがひ)〔六四〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第4篇 舎身活躍 よみ(新仮名遣い):しゃしんかつやく
章:第12章 大当違 よみ(新仮名遣い):おおあてちがい 通し章番号:640
口述日:1922(大正11)年04月28日(旧04月02日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
黒姫から、玉照姫をウラナイ教に向かえるようにと命令を受けた、富彦、寅若、菊若、の三人は、豊彦の家へやってきた。三人は弥仙山の神のお告げだと偽って、豊彦を説得しようとする。
しかしのっけから、豊彦のあばら家を馬鹿にした発現をし、豊彦の不興を買う。三人は偽の神懸りをするが、豊彦に見破られて追い出されてしまう。
三人は作戦を練り、明日お玉が七十五日の忌明けのお参りに弥仙山に登る際に誘拐し、自分たちが助け出したように見せかけて、豊彦に取り入ることにした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-15 00:51:35 OBC :rm1812
愛善世界社版:202頁 八幡書店版:第3輯 712頁 修補版: 校定版:209頁 普及版:92頁 初版: ページ備考:
001(つき)(かたむ)いて(やま)(した)
002(ひと)(おい)(みだ)りに(みち)()くとかや
003弥仙(みせん)(やま)(ふもと)なる
004(しづ)伏家(ふせや)豊彦(とよひこ)
005三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
006悦子(よしこ)(ひめ)一行(いつかう)
007(むすめ)のお(たま)(たす)けられ
008()にも(すぐ)れし初孫(うひまご)
009(かほ)(なが)めて老夫婦(らうふうふ)
010(てふ)(はな)よと(いた)はりつ
011(かみ)(をしへ)()(さと)
012(この)(こと)四方(よも)何時(いつ)となく
013(かぜ)のまにまに(つた)はりて
014於与岐(およぎ)(さと)(ぢい)さまは
015弥仙(みせん)(やま)諸共(もろとも)
016(その)()(たか)くなりにける
017老若(らうにやく)男女(なんによ)絡繹(らくえき)
018(あり)(うま)きに(つど)ふが(ごと)
019豊彦(とよひこ)老爺(らうや)教示(けうじ)をば
020(かみ)(ごと)くに(うやま)ひて
021(ひる)終日(ひねもす)()終夜(よもすがら)
022(すく)ひを(もと)めて(まゐ)()る。
023 (なか)目立(めだ)つて(さん)(にん)大男(おほをとこ)024宣伝使(せんでんし)(ふく)()けながら、
025(をとこ)御免(ごめん)なさいませ。026(わたし)富彦(とみひこ)027寅若(とらわか)028菊若(きくわか)(まを)(もの)029(この)(たび)弥仙山(みせんざん)のお(みや)参拝(さんぱい)(いた)し、030神勅(しんちよく)()りて(うけたま)はれば、031(この)山麓(さんろく)(ひと)()豊彦(とよひこ)()(かた)(あら)はれ、032(まこと)(をしへ)(つた)ふる(ゆゑ)033(なんぢ)()(さん)(にん)帰路(きろ)立寄(たちよ)り、034()豊彦(とよひこ)をウラナイ(けう)(いざな)(かへ)れ、035(むすめ)のお(たま)(およ)今度(こんど)(うま)れた玉照姫(たまてるひめ)本山(ほんざん)(むか)(かへ)れ……との、036()()りとの(おん)神示(しめし)037(かみ)(さま)のお言葉(ことば)(うたが)はれずと、038弥仙(みせん)山麓(さんろく)彼方(あちら)此方(こちら)(さが)(うち)039(みち)()(ひと)(うけたま)はれば於与岐(およぎ)(もり)彼方(あなた)(ひと)()こそ、040豊彦(とよひこ)さまの住宅(ぢうたく)()いた(ゆゑ)041()神勅(しんちよく)により出張(しゆつちやう)(つかまつ)りました』
042門口(かどぐち)()つた(まま)呶鳴(どな)つて()る。043(さいは)今日(けふ)参詣者(さんけいしや)もなく、044老夫婦(らうふうふ)(むすめ)045(まご)()(にん)046弥仙(みせん)神霊(しんれい)(まつ)りたる霊前(れいぜん)に、047拝跪(はいき)黙祷(もくたう)する最中(さいちう)であつた。048豊彦(とよひこ)拝礼(はいれい)()へ、049門口(かどぐち)(ちか)(すす)(きた)り、
050豊彦(とよひこ)『どなたか()らぬが、051門口(かどぐち)(なに)(たづ)ぬる(ひと)()るらしい、052(いづ)れの(かた)か、053()()()けてお這入(はい)りなされませ』
054寅若(とらわか)『ハイ有難(ありがた)う』
055斜交(はすかひ)になつた雨戸(あまど)をガラリと()け、
056寅若(とらわか)『ヤア随分(ずゐぶん)立派(りつぱ)(うち)だなア……オイ富彦(とみひこ)057菊若(きくわか)058這入(はい)れ、059……(きたな)(うち)不似合(ふにあひ)綺麗(きれい)(むすめ)さまが御座(ござ)るなア、060下水(せせなぎ)()いた杜若(かきつばた)()はうか、061谷底(たにそこ)山桜(やまざくら)062これはどつか()(ところ)植替(うゑか)へたならば、063随分(ずゐぶん)立派(りつぱ)(もの)になるだろう』
064豊彦(とよひこ)『コレコレお(まへ)さまの仰有(おつしや)(とほ)りムサ(くる)しい茅屋(あばらや)なれど、065これでも(わたし)唯一(ゆゐいつ)休養場(きうやうば)ぢや、066……あまり失礼(しつれい)ぢやありませぬか』
067足音(あしおと)(あら)く、068(やぶ)(だたみ)威喝(ゐかつ)(なが)ら、069(あが)(ぐち)()りて()て、070ジロジロと(さん)(にん)(かほ)(にら)みつけて()る。
071寅若(とらわか)『ヤアこれはお(ぢい)さま、072(まこと)失言(しつげん)(いた)しました。073(けつ)して(わる)(まを)したのぢや御座(ござ)いませぬ。074(すこ)しも(かざ)りのない、075正直(しやうぢき)正銘(しやうめい)な、076(こころ)(えい)じた(まま)申上(まをしあ)げたのだから、077(わる)(おも)つて(くだ)さいますな、078(ゆが)みかかつた(いへ)を、079立派(りつぱ)(いへ)だと()つた(はう)(かへ)つて嘲弄(てうろう)した(こと)になりませう。080多福(かめ)(つか)まへて、081(まへ)別嬪(べつぴん)だと()へば、082多福(かめ)馬鹿(ばか)にしたと()つて(おこ)(やう)なもので、083()(かく)(かみ)(みち)(つか)へて()(もの)は、084チツとも斟酌(しんしやく)とか巧言(じやうず)とかが()りませぬ、085()(さは)りましたら、086どうぞ(ゆる)して(くだ)さいませ』
087豊彦(とよひこ)『ソレヤお(まへ)()(とほ)りぢやが、088(しか)(ろく)挨拶(あいさつ)もせないで、089イキナリ吾々(われわれ)住宅(ぢうたく)非難(ひなん)すると()ふのは、090あまり此方(こつち)()()いものぢやない。091(まへ)宣伝使(せんでんし)だと仰有(おつしや)つたが、092()()うたら(ひと)感情(かんじやう)(がい)するか、093(がい)せないか(くらゐ)(わか)りさうなものだなア』
094寅若(とらわか)只今(ただいま)(まを)したのは(けつ)して寅若(とらわか)では()りませぬ。095弥仙山(みせんざん)(しづ)まります大神(おほかみ)眷属(けんぞく)096寅若(とらわか)天狗(てんぐ)()つたのです。097天狗(てんぐ)()(やつ)()()ちぶれて、098(かみ)(さま)下働(したばたら)きばつかりやつて()ますから、099行儀(ぎやうぎ)()ければ、100作法(さはふ)()らず、101(さけ)()みの極道(ごくだう)天狗(てんぐ)もあり、102どうぞお(ゆる)(くだ)さいませ。103何分(なにぶん)身魂(みたま)(みが)()ぎて()るものだから、104(かん)(やす)うて(すぐ)(うつ)られて(こま)ります、105アハヽヽヽ』
106豊彦(とよひこ)『さうして()神勅(しんちよく)(おもむき)はどう()(こと)だ、107(はや)()かして(もら)ひませう』
108寅若(とらわか)御存(ごぞん)じの(とほ)り、109(わたくし)はあまり素直(すなほ)身魂(みたま)で、110種々(いろいろ)(かみ)憑依(ひようい)(いた)しますから、111余程(よほど)審神(さには)をせねばなりませぬが、112(この)富彦(とみひこ)()宣伝使(せんでんし)は、113それはそれは立派(りつぱ)(もの)御座(ござ)います。114(じつ)富彦(とみひこ)()神勅(しんちよく)()つたのです。115サア富彦(とみひこ)さま、116()神勅(しんちよく)次第(しだい)をお(ぢい)さまにお()らせなされ』
117 富彦(とみひこ)118両手(りやうて)()み、119威丈高(ゐたけだか)になり、
120富彦(とみひこ)『コヽヽ(この)(はう)は、121弥仙山(みせんざん)守護(しゆご)(いた)木花(このはな)咲耶姫(さくやひめ)であるぞよ。122(この)(たび)(なんぢ)(うち)に、123木花姫(このはなひめ)御霊(みたま)124玉照姫(たまてるひめ)(つか)はしたのは、125(ふか)仕組(しぐみ)()(こと)ぢや、126何事(なにごと)(みな)(かみ)からさせられて()るのだから、127(わが)()であつて、128(わが)()ではないぞよ。129体内(たいない)宿(やど)つて(じつ)月目(げつめ)(うま)()でたる(この)玉照姫(たまてるひめ)は、130(かみ)のお(やく)()てる(ため)に、131(むかし)から因縁(いんねん)身魂(みたま)(さが)して、132(その)(はう)(むすめ)御用(ごよう)をさせたのであるぞよ。133サア()れからは(その)玉照姫(たまてるひめ)(かみ)御用(ごよう)()てるが()いぞよ。134(かみ)(まを)(こと)()かねば()(やう)(いた)して()かしてやるぞよ。135返答(へんたふ)はどうぢや、136豊彦(とよひこ)137(うけたま)はらう』
138 豊彦(とよひこ)139平気(へいき)(かほ)でニタリと(わら)ひ、140(さん)(にん)(かほ)をギヨロギヨロ(なが)め、
141豊彦『ハヽヽヽヽ、142(まへ)(たち)143巧妙(うま)(こと)()りますなア。144田舎(いなか)老爺(ぢぢい)ぢやと(おも)うて、145一杯(いつぱい)()けようと(たく)んで()ても、146()()えても(この)(ぢい)はナカナカ、147()でも蒟蒻(こんにやく)でも()(やつ)ぢやない。148(まへ)(たち)とは役者(やくしや)七八(しちはち)(まい)(うへ)だから、149(その)()()ひませぬワイ、150アツハヽヽヽ、151なる(ほど)人間(にんげん)()十月(とつき)(うま)れるだらうが、152此方(こちら)()はそんな仕入(しいれ)とはチツと(たね)(ちが)ふのだ。153(かみ)さまもタヨリ()いものだなア。154実際(じつさい)前様(まへさん)大神(おほかみ)(うつ)つて仕組(しぐ)まれたのならば、155(この)玉照姫(たまてるひめ)何時(いつ)宿(やど)つて、156(なん)月目(げつめ)分娩(ぶんべん)したか、157(また)(なん)()(かた)取上(とりあ)げて(くだ)さつたか(わか)つて()(はず)だ。158サアそれを()かして(くだ)さい』
159 富彦(とみひこ)160(あせ)をタラタラ()し、161真青(まつさを)(かほ)をして、
162富彦『ヤア大神(おほかみ)()つたのは(じつ)眷属(けんぞく)だ。163……ケヽヽ眷属(けんぞく)はモウ引取(ひきと)る。164今度(こんど)本当(ほんたう)大神(おほかみ)(さま)がお(うつ)りなさるから、165()無礼(ぶれい)(いた)してはならぬぞ。166ウーム』
167()つた()り、168パタリと(たふ)れ、169(また)もや()()つて、170姿勢(ゐずまゐ)(なほ)し、
171富彦今度(こんど)こそは真正(ほんま)(かみ)だ。172(あたま)(たか)い、173(さが)(さが)(さが)()らう……』
174豊彦(とよひこ)『ヘン、175(また)かいな、176どうで(ろく)(かみ)ぢやあるまい。177大方(おほかた)(はね)()天狗(てんぐ)か、178()()(きつね)なんかだらう。179随分(ずゐぶん)(この)(あつ)いのに、180そんな芸当(げいたう)無報酬(むほうしう)でやつて()せて(くだ)さるのも大抵(たいてい)ぢやない。181あんたは慈悲心(じひしん)(ふか)(ひと)ぢや、182(その)(てん)(だけ)(この)(ぢい)(おほ)いに感謝(かんしや)する。183今朝(けさ)二三(にさん)(にん)(まゐ)つて()よつたが、184(まへ)(やう)野天狗(のてんぐ)(つき)がやつて()て、185法螺(ほら)()くの()かんのつて、186随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)かつた。187(まへ)もウラナイ(けう)宣伝使(せんでんし)なら、188(ひと)修業(しうげふ)をなされ。189(その)(やう)(こと)衆生(しうじやう)済度(さいど)なぞとは、190(おも)ひも()りませぬぞい』
191富彦(とみひこ)大神(おほかみ)(むか)つて無礼(ぶれい)千万(せんばん)な、192(その)(はう)(この)(かみ)嘲弄(てうろう)(いた)すか。193量見(りやうけん)ならぬぞ』
194豊彦(とよひこ)『ハヽヽヽヽ、195此方(こつち)から量見(りやうけん)ならぬ。196サア(ひと)審神(さには)してやらう。197……(むすめ)のお(たま)妊娠(にんしん)()何時(いつ)ぢや。198(なん)(げつ)(はら)んで()つた、199ハツキリ()うて()よ。200十月(とつき)(くらゐ)出来(でき)(やう)普通(ふつう)粗製(そせい)濫造品(らんざうひん)とはチツと(ちが)ふのだ。201特別(とくべつ)神界(しんかい)から(ねん)(ねん)()れて、202鍛錬(たんれん)鍛錬(たんれん)(くは)調製(てうせい)された玉照姫(たまてるひめ)だよ。203サアサア()てて御覧(ごらん)なさい』
204富彦(とみひこ)十二(じふに)(げつ)だ。205間違(まちが)ひなからう。206(この)(たま)(うし)(つな)(また)げたに()つて、207十二(じふに)(げつ)(かか)つたのぢや。208どうぢや(おそ)()つたか』
209豊彦(とよひこ)『アハヽヽヽ、210これ富彦(とみひこ)さんとやら、211()加減(かげん)に、212そんな芸当(げいたう)はお()めなさい。213随分(ずゐぶん)エライ(あせ)だ』
214富彦(とみひこ)大神(おほかみ)折角(せつかく)結構(けつこう)(こと)()うて()かしてやらうと(おも)ひ、215因縁(いんねん)身魂(みたま)(うつ)つて()らしてやれ(ども)216(この)(ぢい)()(つよ)うて、217(すこ)しも改心(かいしん)(いた)さぬから、218(かみ)()むを()ず、219(ちやう)()つて引取(ひきと)るより仕方(しかた)はないぞよ。220(あと)後悔(こうくわい)(いた)さぬ(やう)()()けて()くぞよ』
221豊彦(とよひこ)『ヘエヘエ有難(ありがた)御座(ござ)んす。222(たぬき)さまか、223(きつね)さまか()らぬが、224()()えても、225(この)(うち)(かみ)(さま)立派(りつぱ)なお(みや)だ。226エー四足(よつあし)這入(はい)(ところ)ぢやない。227(けが)らはしい、228()(くだ)さい、229玉照姫(たまてるひめ)(さま)大変(たいへん)()機嫌(きげん)(わる)い。230サアサア()なつしやい()なつしやい』
231(はうき)()つて()()てる。232富彦(とみひこ)手持(てもち)無沙汰(ぶさた)に、233手拭(てぬぐひ)(かほ)()いて()る。
234寅若(とらわか)『オイ(ぢい)さま、235あまりぢやないか。236(ひと)(ほこり)(なん)ぞの(やう)に、237(はうき)()()すと()(はふ)があるか。238よい(とし)して()つて、239チツと(くらゐ)行儀(ぎやうぎ)作法(さはふ)心得(こころえ)たらどうだい』
240豊彦(とよひこ)『エーエー(かみ)(さま)のお(みや)(なか)へ、241ノコノコ這入(はい)つて()四足(よつあし)に、242行儀(ぎやうぎ)(なに)()るものかい、243行儀(ぎやうぎ)()ふものは人間(にんげん)同士(どうし)244(また)人間(にんげん)か、245より以上(いじやう)(かみ)(さま)(たい)してこそ必要(ひつえう)だ。246グヅグヅ(ぬか)すと、247(この)(はうき)(あたま)(うへ)まで(まゐ)るぞ』
248 菊若(きくわか)(ぢい)()()げた(はうき)をクワツと(つか)み、
249菊若(きくわか)『モシモシお(ぢい)さま、250(しづ)まり(くだ)さい。251短気(たんき)損気(そんき)だ。252さうお(まへ)(やう)神懸(かむがかり)けなしては(はなし)出来(でき)ぬ。253マア(しづ)まつた(しづ)まつた』
254豊彦(とよひこ)『お(まへ)(たち)説教(せつけう)()(みみ)()たぬ。255()()えても、256(この)豊彦(とよひこ)(かみ)(さま)()神徳(しんとく)(いただ)いて、257何処(どこ)(をしへ)にもつかず、258独立(どくりつ)独歩(どくぽ)で、259(かみ)(さま)直接(ちよくせつ)御用(ごよう)(いた)して()るのだ。260(ひと)(たす)けるのは(かみ)(みち)だから、261(まへ)さへ改心(かいしん)して、262(ひく)うなつて()れば、263どんな結構(けつこう)(こと)でも(をし)へてやるが、264そんな態度(たいど)では一息(ひといき)()()(こと)出来(でき)ぬ。265サアサア(かへ)つた(かへ)つた』
266(たま)『お(ぢい)さま、267あまり(ひど)(こと)()はぬが(よろ)しい』
268豊彦(とよひこ)『コレコレお(たま)269(まへ)(だま)つて()なさい。270(また)こんな(やつ)因縁(いんねん)()けられては煩雑(うるさ)いから……』
271寅若(とらわか)『ヤアお(たま)さま、272(はな)せる、273さうなくては(をんな)ではない。274ヤツパリ社交界(しやかうかい)(はな)(をんな)だ。275挨拶(あいさつ)(とき)氏神(うぢがみ)276そこを(うま)斡旋(あつせん)(らう)()つて(くだ)さい。277(まへ)さま(ところ)(ゆか)置物(おきもの)御覧(ごらん)なされ。278(わたくし)()此処(ここ)(もん)(くぐ)るや(いな)や、279()うお(いで)やす……と()つて、280あの(なが)(あたま)をうちつけて、281福禄寿(げほう)(ざう)叮嚀(ていねい)挨拶(あいさつ)をして()るぢやないか。282あんな無心(むしん)福禄寿(げほう)さまでも、283吾々(われわれ)()威勢(ゐせい)には……いや神格(しんかく)には感応(かんのう)して、284(かしこ)まつて御座(ござ)る。285それに(この)(ぢい)さまはあまり剛情(がうじやう)()ぎる。286(わたし)(たち)()つても、287中々(なかなか)年寄(としよ)りの片意地(かたいぢ)()かつしやるまいから……(むすめ)にかけたら()(はな)()(おやぢ)さまに、288(たま)さまからトツクリと()(やは)らぐ(やう)()つて(くだ)さい』
289(たま)『ホヽヽヽヽ』
290豊彦(とよひこ)『エー()ねと()つたら()なぬか』
291(ゆか)()ちる(ほど)四股(しこ)()む。292(さん)(にん)は、
293三人『エーお(ぢい)さま、294(また)()にかかります。295今日(けふ)大変(たいへん)天候(てんこう)(わる)いから……(また)日和(ひより)(かんが)へてお邪魔(じやま)(まゐ)ります』
296豊彦(とよひこ)『エーグヅグヅ()はずに、297(はや)()んで()れ、298玉照姫(たまてるひめ)(さま)()機嫌(きげん)(わる)くなると(こま)るから……オイ()ア、299(しほ)()つて()い。300そこらを(ひと)(きよ)めないと、301(なん)だか四足(よつあし)(にほひ)がして仕方(しかた)がないワ、302アハヽヽヽ』
303 (さん)(にん)突出(つきだ)される(やう)怪訝(けげん)(かほ)して(この)()立出(たちい)で、304スタスタと弥仙山(みせんざん)急坂(きふはん)にさしかかる。
305菊若(きくわか)『オイ此処(ここ)らで(ひと)つ、306一服(いつぷく)しやうぢやないか』
307寅若(とらわか)『あまり怪体(けつたい)(わる)くつて、308黒姫(くろひめ)さまに()はす(かほ)がない。309(やす)()にもならぬぢやないか。310そこらの蝶々(てふてふ)糞蛙(くそがへる)まで、311(おれ)(たち)(かほ)()て、312馬鹿(ばか)にして()やがる(やう)心持(こころもち)がする。313どつか、314(かへる)(てふ)()らぬ(ところ)()つて一服(いつぷく)しやうかい』
315胸突坂(むなつきざか)(あと)から追手(おつて)にでも()ひかけられる(やう)な、316(あは)てた姿(すがた)で、317三本桧(さんぼんひのき)(ふもと)までやつて()た。
318三人『アヽ此処(ここ)()休息所(きうそくしよ)がある。319清水(しみづ)()いて()る。320(みづ)でも()んで、321ゆつくりと第二(だいに)作戦(さくせん)計画(けいくわく)着手(ちやくしゆ)する(こと)としやうかい』
322 (さん)(にん)樹下(じゆか)涼風(すずかぜ)()(なが)ら、323雑談(ざつだん)(とき)(うつ)した。
324菊若(きくわか)『これ(ほど)名高(なだか)くなつた豊彦(とよひこ)()(ぢい)も、325あの玉照姫(たまてるひめ)()(あか)(ばう)出来(でき)て、326それがイロイロの(こと)()らすと()ふのが()びものになつて、327毎日(まいにち)日日(ひにち)328桃李(たうり)(もの)()はずして小径(せうけい)をなす(やう)に、329あちらこちらから、330信者(しんじや)(あつ)まるのだ。331黒姫(くろひめ)さまが毎朝(まいあさ)()きて、332行水(ぎやうずゐ)をなさると(ひがし)(てん)(あた)つて(むらさき)(くも)靉靆(たなび)くから、333(なん)でも弥仙山(みせんざん)方面(はうめん)(ちが)ひないから一遍(いつぺん)偵察(ていさつ)()()いと()はれ、334(この)(あひだ)335(おれ)一人(ひとり)(この)山麓(さんろく)まで()()ると、336大変(たいへん)人気(にんき)だ。337(むらさき)(くも)出所(でどころ)は、338どうしても、339あの茅屋(あばらや)間違(まちが)ひない。340そして毎晩(まいばん)(ひがし)(てん)(あた)つて大変(たいへん)綺麗(きれい)(ほし)(かがや)(はじ)めた。341偉人(ゐじん)出現(しゆつげん)には、342キツと(てん)明星(みやうぜう)(あら)はれると()(こと)だが、343テツキリそれに間違(まちがひ)ないと、344(ただち)立帰(たちかへ)つて報告(はうこく)をした(ところ)345黒姫(くろひめ)さまは……「マア()て、346(いつ)週間(しうかん)水行(すゐぎやう)をして、347ハツキリと神勅(しんちよく)()ける」と仰有(おつしや)つて、348(よる)349(うし)(こく)から()()でて、350(みな)()らぬ()に、351何百杯(なんびやくぱい)とも()れぬ水行(すゐぎやう)(あそ)ばした結果(けつくわ)352イヨイヨそれに間違(まちがひ)ない。353グツグツして()ると、354三五教(あななひけう)(やつ)()られて(しま)ふから、355(まへ)(たち)(はや)(ほか)(もの)秘密(ひみつ)で、356(その)子供(こども)(もら)つて()い……との(おん)(あふ)せ、357あんな茅屋(あばらや)(むすめ)358(ふた)返事(へんじ)でウラナイ(けう)に、359熨斗(のし)()けて献上(けんじやう)するかと(おも)ひきや、360今日(けふ)鼻息(はないき)361到底(たうてい)一通(ひととほ)りや二通(ふたとほり)りでは、362梃子(てこ)()はぬ。363それに寅若(とらわか)先生(せんせい)364最初(さいしよ)からヘマな神懸(かむがか)三版・御校正本・愛世版では「神懸り」、校定版では「神憑り」。()つて(おやぢ)(にら)まれ、365第二線(だいにせん)として(あら)はれた富彦(とみひこ)は、366老爺(ぢぢい)審神(さには)(にら)まれ、367ヨロヨロと受太刀(うけだち)になり……これはヤツパリ野天狗(のてんぐ)御座(ござ)いました……と出直(でなほ)した(ところ)(うま)いものだが、368今度(こんど)(また)大神(おほかみ)と、369(ふと)()やがつて、370零敗(ゼロはい)()はされ、371最早(もはや)回復(くわいふく)見込(みこ)みなく、372終局(しまひ)()てにや、373(ほうき)掃出(はきだ)された無態(ぶざま)さ……()んな(こと)を、374怪我(けが)(はし)にでも、375黒姫(くろひめ)さまや(ほか)連中(れんちう)()かれようものなら、376馬鹿(ばか)らしくつて、377(そと)(ある)けやしない。378(なん)とか(ひと)智慧(ちゑ)(しぼ)()して、379会稽(くわいけい)(はぢ)(すす)がねばなるまい。380(なん)ぞよい(かんが)へはなからうか』
381寅若(とらわか)(べつ)方法(はうはふ)手段(しゆだん)もないが、382()梅公(うめこう)(しき)だなア。383それが最後(さいご)手段(しゆだん)だ』
384富彦(とみひこ)梅公(うめこう)(しき)()(そこ)なうと、385滝板(たきいた)(しき)になり、386終局(しまひ)におつ()()されにやならぬ(やう)(こと)になると大変(たいへん)だ。387此奴(こいつ)(ひと)つ、388熟思(じゆくし)熟考(じゆくかう)余地(よち)充分(じゆうぶん)(そん)するぞ』
389寅若(とらわか)『ナーニ、390目的(もくてき)手段(しゆだん)(えら)ばずだ。391(ぜん)(ため)にするのだから、392(べつ)(つみ)になると()(こと)もあるまい。393(ひと)決行(けつかう)しやうぢやないか』
394菊若(きくわか)『アヽ結構(けつこう)々々(けつこう)395結構(けつこう)()だらけ、396(ねこ)(はい)だらけだ。397弥仙山(みせんざん)大神(おほかみ)さまは、398(ねこ)使者(つかはしめ)だと()(こと)だ、399(なん)でも今度(こんど)(ねこ)(かぶ)つて、400梅滝流(うめたきりう)()らうぢやないか』
401富彦(とみひこ)梅滝流(うめたきりう)とはソラ(なん)だ』
402菊若(きくわか)(その)正中(まんなか)()くのだ。403普甲峠(ふかふたうげ)梅公(うめこう)()(くち)は、404味方(みかた)(はち)(にん)()つたものだから、405大変(たいへん)都合(つがふ)()かつた。406船岡山(ふなをかやま)近所(きんじよ)()つた滝板(たきいた)芝居(しばゐ)は、407何分(なにぶん)役者(やくしや)(すくな)いものだから、408バレて(しま)つたのだよ。409(しか)吾々(われわれ)(さん)(にん)では、410どうする(こと)出来(でき)ぬぢやないか、411(さん)(にん)()れば文珠(もんじゆ)智慧(ちゑ)()つても、412(ほど)よい考案(かうあん)(うか)んで()ない。413ハテ(こま)つた(こと)だなア』
414寅若(とらわか)(うはさ)()けば、415明日(あす)はお(たま)七十五(しちじふご)(にち)忌明(いみあけ)で、416弥仙山(みせんざん)へお(まゐ)りするさうだ。417どうぢや。418吾々(われわれ)(さん)(にん)(ひと)つ、419(からだ)一面(いちめん)日蔭葛(ひかげかづら)でも(かぶ)つて、420(たま)参詣路(さんけいみち)(おびや)かし、421グツと(くく)つて猿轡(さるぐつわ)()め、422山伝(やまづた)ひに()(かへ)り、423さうして(ほか)連中(れんちう)(ぢぢ)(うち)()()け、424「お(まへ)さまの(うち)は、425大事(だいじ)のお(たま)さまを悪者(わるもの)(ため)(かどは)かされたさうぢや。426()(どく)なが、427(なん)吾々(われわれ)(ちから)一杯(いつぱい)(ほね)()つて(さが)して()るから、428(その)褒美(ほうび)玉照姫(たまてるひめ)さまを、429三日(みつか)でも、430四日(よつか)でもよいから、431()して(くだ)さらぬか」……と()つて、432チヨロまかすより(ほか)(みち)()るまい、433どうだ賛成(さんせい)かなア』
434菊若、富彦『ヤアあまり名案(めいあん)でもないが、435()うなれば仕方(しかた)()い。436マアそれ(くらゐ)(こと)辛抱(しんばう)しやうかい。437(しか)(うま)くいかうかな』
438寅若(なに)()(かく)一遍(いつぺん)都合(つがふ)よくいく(やう)に、439(そら)大神(おほかみ)(さま)参拝(さんぱい)をして()う。440今晩中(こんばんぢう)(さん)(にん)一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、441木花姫(このはなひめ)(さま)()分霊(ぶんれい)(まへ)で、442(いの)つて(いの)つて(いの)(たふ)すのだ、443さうすれば(かみ)さまだつて……終局(しまひ)にや五月蠅(うるさ)いから……エー仕方(しかた)がない、444一遍(いつぺん)()いてやらう……と仰有(おつしや)るに(ちが)ひない。445さうでなくちや、446どうしてウラナイ(けう)(かへ)(こと)出来(でき)ようか。447青彦(あをひこ)さまや、448紫姫(むらさきひめ)さまに(はづ)かしいぞ』
449()(なが)ら、450山上(さんじやう)目蒐(めが)けて(すす)()く。451一夜(いちや)頂上(ちやうじやう)社前(しやぜん)()()かし、452一生(いつしやう)懸命(けんめい)願望(ぐわんばう)成就(じやうじゆ)祈願(きぐわん)()らし()る。453(はた)して大神(おほかみ)(さま)()聴許(ちやうきよ)(あそ)ばすであらうか。
454大正一一・四・二八 旧四・二 松村真澄録)
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