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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第23巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 南海の山
第1章 玉の露
第2章 副守囁
第3章 松上の苦悶
第4章 長高説
第2篇 恩愛の涙
第5章 親子奇遇
第6章 神異
第7章 知らぬが仏
第8章 縺れ髪
第3篇 有耶無耶
第9章 高姫騒
第10章 家宅侵入
第11章 難破船
第12章 家島探
第13章 捨小舟
第14章 籠抜
第4篇 混線状態
第15章 婆と婆
第16章 蜈蚣の涙
第17章 黄竜姫
第18章 波濤万里
霊の礎(八)
余白歌
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第23巻(戌の巻)
> 第1篇 南海の山 > 第1章 玉の露
<<< 総説
(B)
(N)
副守囁 >>>
第一章
玉
(
たま
)
の
露
(
つゆ
)
〔七一三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
篇:
第1篇 南海の山
よみ(新仮名遣い):
なんかいのやま
章:
第1章 玉の露
よみ(新仮名遣い):
たまのつゆ
通し章番号:
713
口述日:
1922(大正11)年06月10日(旧05月15日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月19日
概要:
舞台:
青山峠
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
国依別と玉治別は、熊野の滝にこもる若彦の宣伝使に会おうと、大台ケ原の峰(青山峠)を旅していた。すると後から三五教の宣伝歌を歌いながら追ってくる二人がある。
それは魔我彦と竹彦であった。魔我彦と竹彦は、国依別と玉治別に谷底をのぞかせると、後ろから谷底に突き落としてしまった。
魔我彦と竹彦は、変性男子の系統である高姫を差し置いて、若彦の妻・玉能姫にたいへんなご神業をさせたのは、国依別と玉治別らの企みだとして、天下国家の害毒を除いたのだ、と嘯く。
魔我彦は、自分の策謀で最終的に言依別命を狙っていることを明かし、そのために若彦のところに行って活動するのだ、と言う。竹彦はしかし、魔我彦の陰謀を知って、それをゆすりの種にしようという素振りを示す。
魔我彦は青い顔になって大台ケ原の峰を行く。夜が更けてくると、竹彦は霊懸りになって国依別・玉治別の怨念を語りだした。魔我彦と竹彦は恐ろしさにその場に人事不省となり倒れてしまった。
夜が明けると魔我彦と竹彦は目を覚まし、国依別と玉治別が昨晩幽霊になって竹彦の体に懸ってきたくらいだから、両人はすでに死んだと安心し、杖をつきながら岩道を下っていった。
一方、突き落とされた国依別・玉治別は鋭い崖石にもぶつからず、谷底の青淵に落ち込み、ちょうどそこで水行をしていた杢助に助けられていた。
国依別と玉治別は杢助の問いかけに対して魔我彦と竹彦を怨んではいない、と答え、三人揃って熊野の滝を指して進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-06-21 18:31:14
OBC :
rm2301
愛善世界社版:
7頁
八幡書店版:
第4輯 495頁
修補版:
校定版:
7頁
普及版:
2頁
初版:
ページ備考:
001
経
(
たて
)
と
緯
(
よこ
)
との
機
(
はた
)
を
織
(
お
)
る
002
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
003
玉照彦
(
たまてるひこ
)
や
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
004
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
神勅
(
しんちよく
)
を
005
四方
(
よも
)
に
伝
(
つた
)
ふる
宣伝使
(
せんでんし
)
006
国依別
(
くによりわけ
)
や
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
007
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
は
神徳
(
しんとく
)
も
008
大台
(
おほだい
)
ケ
原
(
はら
)
の
峰
(
みね
)
つづき
009
日
(
ひ
)
の
出ケ岳
(
でがだけ
)
より
流
(
なが
)
れ
来
(
く
)
る
010
深谷川
(
ふかたにがは
)
の
畔
(
ほとり
)
をば
011
青葉
(
あをば
)
滴
(
したた
)
る
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
み
012
飛沫
(
ひまつ
)
を
飛
(
と
)
ばす
千仭
(
せんじん
)
の
013
谷
(
たに
)
の
絶景
(
ぜつけい
)
眺
(
なが
)
めつつ
014
足
(
あし
)
を
休
(
やす
)
らふ
折柄
(
をりから
)
に
015
追々
(
おひおひ
)
近付
(
ちかづ
)
く
宣伝歌
(
せんでんか
)
016
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
眺
(
なが
)
むれば
017
草鞋
(
わらぢ
)
脚絆
(
きやはん
)
の
扮装
(
いでたち
)
に
018
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
に
饅頭笠
(
まんぢうがさ
)
019
二
(
ふた
)
つの
影
(
かげ
)
はゆらゆらと
020
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
021
国依別
(
くによりわけ
)
『
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
022
あなたも
随分
(
ずゐぶん
)
永
(
なが
)
らく
無言
(
むごん
)
の
行
(
ぎやう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
ましたネー。
023
若彦
(
わかひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
熊野
(
くまの
)
の
滝
(
たき
)
で
荒行
(
あらぎやう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
ましたが、
024
どうでせう、
025
まだ
依然
(
いぜん
)
として
継続
(
けいぞく
)
して
居
(
ゐ
)
るでせうか』
026
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
私
(
わたくし
)
も
実
(
じつ
)
は
若彦
(
わかひこ
)
さまに
会
(
あ
)
ひたいので、
027
やつて
来
(
き
)
た
途中
(
とちう
)
、
028
ゆくりなくも
貴方
(
あなた
)
にお
目
(
め
)
にかかり、
029
様子
(
やうす
)
を
伺
(
うかが
)
ひたいと
思
(
おも
)
つた
所
(
ところ
)
です』
030
国依別
(
くによりわけ
)
『
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまが、
031
あれ
丈
(
だけ
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
遊
(
あそ
)
ばしたのだから、
032
若彦
(
わかひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
も
聞
(
き
)
いたら
大変
(
たいへん
)
に
喜
(
よろこ
)
ぶ
事
(
こと
)
でせう。
033
それに
就
(
つい
)
ては
何時
(
いつ
)
までも
紀
(
き
)
の
国路
(
くにぢ
)
に
居
(
を
)
つて
貰
(
もら
)
ふ
訳
(
わけ
)
にはゆかないから、
034
実
(
じつ
)
は
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
内命
(
ないめい
)
を
奉
(
ほう
)
じて、
035
お
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
たのですよ』
036
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
私
(
わたくし
)
も
堅
(
かた
)
い
秘密
(
ひみつ
)
を
守
(
まも
)
り、
037
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
口外
(
こうぐわい
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないのだが、
038
貴方
(
あなた
)
と
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
だから
云
(
い
)
つても
差支
(
さしつかへ
)
あるまいが、
039
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
悪霊
(
あくれい
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
身辺
(
しんぺん
)
を
付
(
つ
)
け
狙
(
ねら
)
うて
居
(
ゐ
)
るから、
040
迂濶
(
うつかり
)
した
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
ひますまい。
041
……
時
(
とき
)
に
彼
(
あ
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
はどうやら
三五教
(
あななひけう
)
らしいですな。
042
何人
(
なんびと
)
か、
043
近寄
(
ちかよ
)
つて
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
、
044
此
(
この
)
絶景
(
ぜつけい
)
を
眺
(
なが
)
めて
待
(
ま
)
ちませうか』
045
国依別
(
くによりわけ
)
『ヤアもう
顔
(
かほ
)
が
判然
(
はつきり
)
する
程
(
ほど
)
近寄
(
ちかよ
)
つて
来
(
き
)
ました。
046
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
待
(
ま
)
つ
事
(
こと
)
にしませう』
047
斯
(
か
)
く
言
(
い
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
048
宣伝歌
(
せんでんか
)
は
俄
(
にはか
)
に
歇
(
や
)
んで、
049
二
(
ふた
)
つの
笠
(
かさ
)
追々
(
おひおひ
)
と、
050
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みを
分
(
わ
)
けて
近寄
(
ちかよ
)
つて
来
(
き
)
た。
051
見
(
み
)
れば
魔我彦
(
まがひこ
)
、
052
竹彦
(
たけひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
053
二人
(
ふたり
)
の
端座
(
たんざ
)
せるに
驚
(
おどろ
)
いた
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
で、
054
魔我彦
(
まがひこ
)
『ヤア
貴方
(
あなた
)
は
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
055
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
で
御座
(
ござ
)
つたか。
056
何
(
いづ
)
れへ
宣伝
(
せんでん
)
にお
出
(
い
)
でになるお
考
(
かんが
)
へですか』
057
国依別
(
くによりわけ
)
『
誰
(
たれ
)
かと
思
(
おも
)
へば、
058
魔我彦
(
まがひこ
)
さまに
竹彦
(
たけひこ
)
さま。
059
あなたこそ
何方
(
どちら
)
へ、
060
何用
(
なによう
)
あつて
御
(
お
)
出
(
い
)
でになります。
061
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
より
御
(
お
)
命
(
めい
)
じになつたのですか。
062
此
(
この
)
紀
(
き
)
の
国
(
くに
)
の
方面
(
はうめん
)
は
若彦
(
わかひこ
)
の
宣伝
(
せんでん
)
区域
(
くゐき
)
と
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
063
其処
(
そこ
)
へ
貴方
(
あなた
)
がお
出
(
い
)
でになるのは、
064
チツト
合点
(
がつてん
)
が
行
(
ゆ
)
きませぬ』
065
と
問
(
と
)
はれて
魔我彦
(
まがひこ
)
稍
(
やや
)
口籠
(
くちごも
)
り、
066
手持
(
てもち
)
無沙汰
(
ぶさた
)
の
様
(
やう
)
な
顔付
(
かほつき
)
して、
067
魔我彦
『ハイ……
私
(
わたくし
)
は
宣伝
(
せんでん
)
に
来
(
き
)
たのでは
有
(
あ
)
りませぬ。
068
熊野
(
くまの
)
の
滝
(
たき
)
へ、
069
罪穢
(
つみけが
)
れを
洗
(
あら
)
ふ
為
(
ため
)
に
荒行
(
あらぎやう
)
にやつて
来
(
き
)
たのです』
070
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
遥々
(
はるばる
)
斯
(
こ
)
んな
所
(
ところ
)
まで
荒行
(
あらぎやう
)
に
来
(
こ
)
なくても、
071
聖地
(
せいち
)
には
立派
(
りつぱ
)
な
那智
(
なち
)
の
滝
(
たき
)
が
落
(
お
)
ちて
居
(
ゐ
)
るぢやありませぬか』
072
魔我彦
(
まがひこ
)
はソワソワし
乍
(
なが
)
ら、
073
魔我彦
『なんと、
074
天下
(
てんか
)
の
絶景
(
ぜつけい
)
ですな。
075
緑
(
みどり
)
滴
(
したた
)
る
木々
(
きぎ
)
の
梢
(
こずゑ
)
と
云
(
い
)
ひ、
076
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
の
水音
(
みづおと
)
と
云
(
い
)
ひ、
077
実
(
じつ
)
に
勇壮
(
ゆうさう
)
ですなア』
078
と
成
(
な
)
るべく
話
(
はなし
)
を
外
(
ほか
)
へ
転
(
てん
)
ぜようと
努
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
079
玉
(
たま
)
、
080
国
(
くに
)
の
二人
(
ふたり
)
は
其
(
その
)
意
(
い
)
を
察
(
さつ
)
し、
081
ワザと
忘
(
わす
)
れた
様
(
やう
)
な
風
(
ふう
)
をなし、
082
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
流石
(
さすが
)
は
大台
(
おほだい
)
ケ
原
(
はら
)
に
源
(
みなもと
)
を
発
(
はつ
)
した
丈
(
だけ
)
あつて、
083
随分
(
ずゐぶん
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
流
(
なが
)
れです。
084
あの
渓川
(
たにがは
)
の
巨岩
(
きよがん
)
怪石
(
くわいせき
)
に
水
(
みづ
)
の
噛
(
か
)
み
付
(
つ
)
いて、
085
水煙
(
みづけぶり
)
を
立
(
た
)
て、
086
白銀
(
はくぎん
)
の
玉
(
たま
)
を
飛
(
と
)
ばす
光景
(
くわうけい
)
と
云
(
い
)
つたら、
087
実
(
じつ
)
に
天下
(
てんか
)
の
絶勝
(
ぜつしよう
)
です。
088
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
にせめて
三日
(
みつか
)
も
遊
(
あそ
)
んで
居
(
を
)
れば、
089
生命
(
いのち
)
が
延
(
の
)
びるやうな
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
しますワイ』
090
魔我彦
(
まがひこ
)
は
恐
(
こは
)
相
(
さう
)
に
谷底
(
たにそこ
)
を
覗
(
のぞ
)
き
見
(
み
)
て、
091
驚
(
おどろ
)
いた
様
(
やう
)
に、
092
魔我彦
『アヽ
大変
(
たいへん
)
々々
(
たいへん
)
』
093
と
足掻
(
あがき
)
をする。
094
玉
(
たま
)
、
095
国
(
くに
)
の
二人
(
ふたり
)
は
其
(
その
)
驚
(
おどろ
)
きに
何事
(
なにごと
)
か
大事
(
だいじ
)
の
突発
(
とつぱつ
)
せるならむと、
096
慌
(
あわて
)
て
谷底
(
たにそこ
)
を
覗
(
のぞ
)
く。
097
魔我彦
(
まがひこ
)
は
竹彦
(
たけひこ
)
に
目配
(
めくば
)
せし
乍
(
なが
)
ら、
098
全身
(
ぜんしん
)
の
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
めて
二人
(
ふたり
)
の
背後
(
はいご
)
よりドツと
押
(
お
)
した。
099
何条
(
なんでう
)
堪
(
たま
)
るべき、
100
二人
(
ふたり
)
は
千仭
(
せんじん
)
の
谷間
(
たにま
)
に
風
(
かぜ
)
を
切
(
き
)
つて
顛落
(
てんらく
)
した。
101
木々
(
きぎ
)
の
青葉
(
あをば
)
は
追々
(
おひおひ
)
黒
(
くろ
)
ずんで、
102
太陽
(
たいやう
)
の
高山
(
かうざん
)
の
頂
(
いただ
)
きに
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
し、
103
黄昏
(
たそがれ
)
の
空気
(
くうき
)
四辺
(
しへん
)
を
圧
(
あつ
)
する。
104
魔我彦
(
まがひこ
)
『アハヽヽヽ、
105
何程
(
なにほど
)
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
でも、
106
斯
(
こ
)
うなつては
駄目
(
だめ
)
だ、
107
玉
(
たま
)
、
108
国
(
くに
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
109
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
に
巧
(
うま
)
く
取
(
と
)
り
入
(
い
)
り、
110
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
系統
(
ひつぱう
)
の
高姫
(
たかひめ
)
さまに
揚壺
(
あげつぼ
)
を
喰
(
く
)
はし、
111
若彦
(
わかひこ
)
の
女房
(
にようばう
)
…
元
(
もと
)
のお
節
(
せつ
)
や
杢助
(
もくすけ
)
の
女
(
あま
)
つちよに
御用
(
ごよう
)
をさせる
様
(
やう
)
にしよつたのは、
112
皆
(
みんな
)
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
の
企
(
たく
)
みだ。
113
是
(
こ
)
れから
先
(
さき
)
、
114
生
(
い
)
かして
置
(
お
)
けば、
115
どんなに
邪魔
(
じやま
)
をしやがるか
分
(
わか
)
つたものぢやない。
116
一
(
ひと
)
つはお
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
、
117
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
ぢや。
118
竹彦
(
たけひこ
)
、
119
巧
(
うま
)
く
行
(
い
)
つたぢやないか』
120
竹彦
(
たけひこ
)
『
俄
(
にはか
)
に
其処
(
そこ
)
らが
暗
(
くら
)
くなつて
来
(
き
)
て
分
(
わか
)
りませぬが、
121
うまく
寂滅
(
じやくめつ
)
したでせうか。
122
万一
(
まんいち
)
此
(
この
)
中
(
うち
)
の
一人
(
ひとり
)
でも
生
(
い
)
き
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
ようものなら、
123
忽
(
たちま
)
ち
陰謀
(
いんぼう
)
露顕
(
ろけん
)
、
124
吾々
(
われわれ
)
は
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
儘
(
まま
)
で
安楽
(
あんらく
)
に
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい』
125
魔我彦
(
まがひこ
)
『アハヽヽヽ、
126
そんな
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
はするものでない。
127
断崖
(
だんがい
)
絶壁
(
ぜつぺき
)
屹立
(
きつりつ
)
した、
128
岩
(
いは
)
ばかりの
所
(
ところ
)
へ
落
(
お
)
ちたのだから、
129
体
(
からだ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みじん
)
、
130
こんな
者
(
もの
)
が
助
(
たす
)
かるなら、
131
それこそ
煎豆
(
いりまめ
)
に
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
くワ。
132
アハヽヽヽ』
133
と
心地
(
ここち
)
よげに
笑
(
わら
)
ふ。
134
竹彦
(
たけひこ
)
『それでも
煎豆
(
いりまめ
)
に
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
く
時節
(
じせつ
)
が
来
(
く
)
ると、
135
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
136
油断
(
ゆだん
)
がなりませぬぞ』
137
魔我彦
(
まがひこ
)
『そりや
比喩事
(
たとへごと
)
だよ。
138
そんな
事
(
こと
)
を
心配
(
しんぱい
)
して
居
(
ゐ
)
て
思惑
(
おもわく
)
が
成就
(
じやうじゆ
)
するか。
139
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
を
表面
(
おもて
)
へ
出
(
だ
)
さねば、
140
到底
(
たうてい
)
五六七
(
みろく
)
の
神政
(
しんせい
)
は
完全
(
くわんぜん
)
に
樹立
(
じゆりつ
)
するものでない。
141
吾々
(
われわれ
)
は
天下
(
てんか
)
国家
(
こくか
)
の
害毒
(
がいどく
)
を
除
(
のぞ
)
いた
殊勲者
(
しゆくんしや
)
だ。
142
万一
(
まんいち
)
一人
(
ひとり
)
や
半分
(
はんぶん
)
生
(
い
)
き
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
つて
不足
(
ふそく
)
を
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
143
肝腎
(
かんじん
)
の
高姫
(
たかひめ
)
さまの
勢力
(
せいりよく
)
さへ
旺盛
(
わうせい
)
ならば
何
(
なん
)
でもない。
144
勝
(
か
)
てば
善軍
(
ぜんぐん
)
、
145
敗
(
ま
)
くれば
魔軍
(
まぐん
)
だ。
146
何程
(
なにほど
)
平等愛
(
べうどうあい
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
でも
力
(
ちから
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だ。
147
力
(
ちから
)
が
無
(
な
)
ければ
国祖
(
こくそ
)
国常立
(
くにとこたちの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
でも、
148
むざむざと
艮
(
うしとら
)
へ
押籠
(
おしこ
)
められなさるのだから、
149
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
吾々
(
われわれ
)
は
勢力
(
せいりよく
)
を
旺盛
(
わうせい
)
にし、
150
部下
(
ぶか
)
を
多
(
おほ
)
く
抱
(
かか
)
へ、
151
一方
(
いつぱう
)
には
害物
(
がいぶつ
)
を
除却
(
ぢよきやく
)
せねばならぬ。
152
摂受
(
せつじゆ
)
の
剣
(
けん
)
と
折伏
(
しやくふく
)
の
剣
(
けん
)
は、
153
平和
(
へいわ
)
の
女神
(
めがみ
)
でさへも
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから……』
154
竹彦
(
たけひこ
)
『こんな
宣伝使
(
せんでんし
)
の
二人
(
ふたり
)
位
(
くらゐ
)
葬
(
はうむ
)
つた
所
(
ところ
)
で、
155
肝腎
(
かんじん
)
の
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
が
頑張
(
ぐわんば
)
つて
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は
何
(
なん
)
にもならぬぢやないか。
156
根本
(
こんぽん
)
的
(
てき
)
治療
(
ちれう
)
を
施
(
ほどこ
)
さんとすれば、
157
先
(
ま
)
づ
言依別
(
ことよりわけ
)
を
第一
(
だいいち
)
の
強敵
(
きやうてき
)
と
認
(
みと
)
めねばなるまい』
158
魔我彦
(
まがひこ
)
はニタリと
笑
(
わら
)
ひ、
159
魔我彦
『
天機
(
てんき
)
漏
(
も
)
らす
可
(
べ
)
からず。
160
吾
(
わが
)
神算
(
しんさん
)
鬼謀
(
きぼう
)
、
161
後
(
のち
)
にぞ
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
らるるであらう』
162
竹彦
(
たけひこ
)
『
大樹
(
たいじゆ
)
を
伐
(
き
)
らむとする
者
(
もの
)
は、
163
先
(
ま
)
づ
其
(
その
)
枝
(
えだ
)
を
伐
(
き
)
るの
筆法
(
ひつぱふ
)
ですかな』
164
魔我彦
(
まがひこ
)
『
音
(
おと
)
高
(
たか
)
し
音
(
おと
)
高
(
たか
)
し。
165
天
(
てん
)
に
口
(
くち
)
、
166
壁
(
かべ
)
に
耳
(
みみ
)
、
167
モウ
此
(
この
)
話
(
はなし
)
は
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
言
(
い
)
はぬ
事
(
こと
)
にせう。
168
是
(
こ
)
れから
熊野
(
くまの
)
の
滝
(
たき
)
へ
下
(
くだ
)
り、
169
若彦
(
わかひこ
)
に
会
(
あ
)
つて
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
分別
(
ふんべつ
)
をするのだから、
170
ウツカリ
喋舌
(
しやべ
)
つてはならないぞ。
171
お
前
(
まへ
)
は
表面
(
へうめん
)
俺
(
わし
)
の
随行者
(
ずゐかうしや
)
となつた
心持
(
こころもち
)
で、
172
何
(
なに
)
を
若彦
(
わかひこ
)
が
尋
(
たづ
)
ねても、
173
知
(
し
)
らぬ
存
(
ぞん
)
ぜぬの
一点張
(
いつてんばり
)
で
居
(
ゐ
)
るが
宜
(
よ
)
からうぞ』
174
竹彦
(
たけひこ
)
『
委細
(
ゐさい
)
承知
(
しようち
)
しました。
175
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私
(
わたし
)
の
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
喋
(
しやべ
)
つた
時
(
とき
)
は
如何
(
どう
)
しますか』
176
魔我彦
(
まがひこ
)
『そんな
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
を
何時
(
いつ
)
までも
抱
(
かか
)
へて
居
(
を
)
る
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
は、
177
忽
(
たちま
)
ち……ムニヤムニヤ』
178
竹彦
(
たけひこ
)
『
忽
(
たちまち
)
……の
後
(
あと
)
を
瞭然
(
はつきり
)
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さい』
179
魔我彦
(
まがひこ
)
『そんな
事
(
こと
)
聞
(
き
)
く
必要
(
ひつえう
)
が
何処
(
どこ
)
に
有
(
あ
)
るか』
180
竹彦
(
たけひこ
)
『
我
(
わが
)
身
(
み
)
に
係
(
かか
)
はる
一大事
(
いちだいじ
)
、
181
どうも
意味
(
いみ
)
有
(
あ
)
り
気
(
げ
)
なお
言葉
(
ことば
)
でした。
182
猿
(
さる
)
の
小便
(
せうべん
)
ぢやないが、
183
キ
に
懸
(
かか
)
つてならない。
184
それを
聞
(
き
)
かねば、
185
私
(
わたし
)
も
一
(
ひと
)
つの
考
(
かんが
)
へがある』
186
魔我彦
(
まがひこ
)
『ハテ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひ
出
(
だ
)
しやがつたものだ』
187
竹彦
(
たけひこ
)
『こんな
事
(
こと
)
なら
竹彦
(
たけひこ
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
こ
)
なんだがよかつたに……
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
を、
188
谷底
(
たにそこ
)
へ
転
(
まく
)
るのには、
189
一人
(
ひとり
)
では
都合
(
つがふ
)
好
(
よ
)
う
行
(
ゆ
)
かず……アーア
一利
(
いちり
)
あれば
一害
(
いちがい
)
ありだ。
190
肝腎
(
かんじん
)
の
処
(
とこ
)
になつて
竹彦
(
たけひこ
)
の
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
発動
(
はつどう
)
し、
191
斯
(
こ
)
んな
事
(
こと
)
を
素破抜
(
すつぱぬ
)
かうものなら、
192
高姫
(
たかひめ
)
も、
193
魔我彦
(
まがひこ
)
一派
(
いつぱ
)
も、
194
それこそ
大変
(
たいへん
)
だ。
195
アーア
後悔
(
こうくわい
)
しても
仕方
(
しかた
)
がない。
196
……と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
貴方
(
あなた
)
の
心理
(
しんり
)
状態
(
じやうたい
)
でせう。
197
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
198
私
(
わたし
)
も
同
(
おな
)
じく
共謀者
(
きようぼうしや
)
だから
滅多
(
めつた
)
に
拙劣
(
へた
)
な
事
(
こと
)
は
申
(
まを
)
しませぬ。
199
併
(
しか
)
し
国依別
(
くによりわけ
)
、
200
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
亡霊
(
ばうれい
)
が
貴方
(
あなた
)
や
私
(
わたし
)
に
憑依
(
ひようい
)
して
喋
(
しやべ
)
つた
時
(
とき
)
は、
201
コリヤ
例外
(
れいぐわい
)
だから
仕方
(
しかた
)
がない、
202
アハヽヽヽ』
203
と
気楽
(
きらく
)
相
(
さう
)
に
笑
(
わら
)
ひ
転
(
こ
)
ける。
204
魔我彦
(
まがひこ
)
は
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
205
蒼白
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
になつて、
206
肩
(
かた
)
で
息
(
いき
)
をし
乍
(
なが
)
ら
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
207
夜
(
よる
)
の
張
(
とばり
)
はますます
濃厚
(
のうこう
)
の
色
(
いろ
)
を
増
(
ま
)
し、
208
遂
(
つひ
)
には
相互
(
さうご
)
の
姿
(
すがた
)
さへ
闇
(
やみ
)
に
没
(
ぼつ
)
して
了
(
しま
)
つた。
209
木々
(
きぎ
)
の
梢
(
こずゑ
)
を
揉
(
も
)
む
暴風
(
ばうふう
)
の
音
(
おと
)
、
210
何
(
なん
)
となく
騒
(
さわ
)
がしく、
211
陰鬱
(
いんうつ
)
身
(
み
)
に
迫
(
せま
)
り、
212
鬼哭
(
きこく
)
啾々
(
しうしう
)
恰
(
あたか
)
も
根底
(
ねそこ
)
の
国
(
くに
)
に
独
(
ひと
)
り
彷徨
(
さまよ
)
ふ
如
(
ごと
)
き
不安
(
ふあん
)
寂寥
(
せきれう
)
を
感
(
かん
)
じた。
213
二人
(
ふたり
)
は
互
(
たがひ
)
に
負
(
まけ
)
ん
気
(
き
)
を
出
(
だ
)
し、
214
何
(
なん
)
となく
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
の
恐怖
(
きようふ
)
を
抑
(
おさ
)
へ、
215
強
(
つよ
)
い
事
(
こと
)
を
話
(
はな
)
し
合
(
あ
)
つて、
216
此
(
この
)
寂
(
さび
)
しさと
不安
(
ふあん
)
を
紛
(
まぎ
)
らさうとして
居
(
ゐ
)
る。
217
風
(
かぜ
)
はますます
烈
(
はげ
)
しく、
218
夜
(
よ
)
は
追々
(
おひおひ
)
更
(
ふ
)
けて
来
(
く
)
る。
219
女
(
をんな
)
を
責
(
せ
)
める
様
(
やう
)
な
小猿
(
こざる
)
の
声
(
こゑ
)
、
220
彼方
(
あちら
)
にも
此方
(
こちら
)
にも、
221
キヤアキヤアと
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
るかと
思
(
おも
)
へば、
222
山岳
(
さんがく
)
も
震動
(
しんどう
)
する
許
(
ばか
)
りの
狼
(
おほかみ
)
の
声
(
こゑ
)
刻々
(
こくこく
)
に
高
(
たか
)
まり
来
(
きた
)
る。
223
青白
(
あをじろ
)
い
火
(
ひ
)
は
闇
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
よりポツと
現
(
あら
)
はれ、
224
ボヤボヤと
燃
(
も
)
えては
消
(
き
)
え、
225
燃
(
も
)
えては
消
(
き
)
え、
226
二人
(
ふたり
)
の
身辺
(
しんぺん
)
を
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
き、
227
遂
(
つひ
)
には
頭上
(
づじやう
)
を
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
燃
(
も
)
え
狂
(
くる
)
ふ。
228
二人
(
ふたり
)
は
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎ、
229
耳
(
みみ
)
を
詰
(
つ
)
め、
230
頭
(
あたま
)
抱
(
かか
)
へて
大地
(
だいち
)
にかぶり
付
(
つ
)
いて
了
(
しま
)
つた。
231
首筋
(
くびすぢ
)
の
辺
(
あた
)
りを、
232
誰
(
たれ
)
ともなく
氷
(
こほり
)
の
如
(
よ
)
うな
手
(
て
)
で
撫
(
な
)
でるものがある。
233
頭
(
あたま
)
の
先
(
さき
)
から
睾丸
(
きんたま
)
までヒヤリと
氷
(
こほり
)
の
如
(
ごと
)
き
冷
(
つめ
)
たさを
感
(
かん
)
じて
来
(
き
)
た。
234
竹彦
(
たけひこ
)
は
慄
(
ふる
)
い
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
235
竹彦
(
たけひこ
)
『のー
恨
(
うら
)
めしやなア。
236
如何
(
いか
)
に
魔我彦
(
まがひこ
)
、
237
騙
(
だま
)
し
討
(
う
)
ちとは
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
な
奴
(
やつ
)
。
238
モウ
斯
(
こ
)
うなる
上
(
うへ
)
は
汝
(
なんぢ
)
が
素
(
そ
)
つ
首
(
くび
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
き、
239
根
(
ね
)
の
国
(
くに
)
底
(
そこ
)
の
国
(
くに
)
に
落
(
おと
)
して
呉
(
く
)
れむ。
240
覚悟
(
かくご
)
せーよ』
241
と
暗
(
くら
)
がりに
霊懸
(
れいがか
)
りをやり
出
(
だ
)
した。
242
魔我彦
(
まがひこ
)
は、
243
魔我彦
『オイ
竹彦
(
たけひこ
)
、
244
厭
(
いや
)
らしい
事
(
こと
)
をするものではない。
245
チツと
落着
(
おちつ
)
かぬか。
246
そりや
貴様
(
きさま
)
、
247
神経
(
しんけい
)
だ。
248
今
(
いま
)
から
発狂
(
はつきやう
)
して
如何
(
どう
)
なるか。
249
チト
気
(
き
)
を
大
(
おほ
)
きう
持
(
も
)
たぬかい』
250
竹彦
(
たけひこ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
此
(
この
)
恨
(
うら
)
み
晴
(
は
)
らさで
置
(
お
)
かうか……
押
(
お
)
しも
押
(
お
)
されもせぬ
宣伝使
(
せんでんし
)
の
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
251
国依別
(
くによりわけ
)
を
亡
(
な
)
き
者
(
もの
)
にせうと
企
(
たく
)
んだ、
252
汝
(
なんぢ
)
の
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
が
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれ、
253
竹彦
(
たけひこ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
借
(
か
)
つて
讐
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つてやるのだ。
254
其
(
その
)
方
(
はう
)
も
今迄
(
いままで
)
高姫
(
たかひめ
)
の
部下
(
ぶか
)
となり、
255
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
を
苦
(
くるし
)
めよつた
揚句
(
あげく
)
、
256
猶
(
なほ
)
飽
(
あ
)
き
足
(
た
)
らいで、
257
我々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
を
谷底
(
たにぞこ
)
に
突
(
つ
)
き
落
(
おと
)
し
殺
(
ころ
)
すとは、
258
極悪
(
ごくあく
)
無道
(
ぶだう
)
の
痴者
(
しれもの
)
。
259
只今
(
ただいま
)
幽界
(
いうかい
)
の
閻魔
(
えんま
)
の
庁
(
ちやう
)
より
命令
(
めいれい
)
を
受
(
う
)
けて、
260
汝
(
なんぢ
)
を
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
たのだ。
261
サア
最早
(
もはや
)
逃
(
のが
)
るるに
由
(
よし
)
なし。
262
尋常
(
じんじやう
)
に
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
せ。
263
花
(
はな
)
は
三吉野
(
みよしの
)
、
264
人
(
ひと
)
は
武士
(
ぶし
)
だ。
265
せめてもの
名残
(
なごり
)
に
潔
(
いさぎよ
)
く
散
(
ち
)
つたがよからう』
266
と
冷
(
つめ
)
たい
手
(
て
)
で
首
(
くび
)
の
周囲
(
まはり
)
を
撫
(
な
)
でまはす。
267
青
(
あを
)
い
火
(
ひ
)
は
燃
(
も
)
えては
消
(
き
)
え、
268
燃
(
も
)
えては
消
(
き
)
え、
269
ブンブンと
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
魔我彦
(
まがひこ
)
の
周囲
(
しうゐ
)
を
飛
(
と
)
び
廻
(
まは
)
る。
270
猿
(
さる
)
の
声
(
こゑ
)
、
271
狼
(
おほかみ
)
の
声
(
こゑ
)
は
刻々
(
こくこく
)
に
烈
(
はげ
)
しくなつて
来
(
く
)
る。
272
魔我彦
(
まがひこ
)
は
余
(
あま
)
りの
恐
(
こは
)
さに
魂
(
たま
)
消
(
き
)
え、
273
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
274
竹彦
(
たけひこ
)
も
亦
(
また
)
其
(
その
)
場
(
ば
)
にバタリと
倒
(
たふ
)
れて、
275
後
(
あと
)
は
風
(
かぜ
)
の
音
(
おと
)
のみ。
276
やがて
下弦
(
かげん
)
の
月
(
つき
)
は
研
(
と
)
ぎすました
草刈
(
くさか
)
り
鎌
(
がま
)
の
様
(
やう
)
な
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はし、
277
熊野灘
(
くまのなだ
)
から
浮上
(
うきあが
)
り、
278
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
を
怪
(
あや
)
しげに
覗
(
のぞ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
279
夜
(
よ
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れた。
280
小猿
(
こざる
)
の
群
(
むれ
)
、
281
何処
(
いづく
)
ともなく
両人
(
りやうにん
)
の
前
(
まへ
)
に
飛
(
と
)
び
来
(
きた
)
り、
282
足
(
あし
)
の
裏
(
うら
)
を
掻
(
か
)
き、
283
顔
(
かほ
)
を
掻
(
か
)
いた。
284
其
(
その
)
痛
(
いた
)
さに
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
き、
285
両人
(
りやうにん
)
は
期
(
き
)
せずして
一度
(
いちど
)
に
起
(
お
)
きあがりたり。
286
魔我彦
(
まがひこ
)
『アヽ
夜前
(
やぜん
)
は
大変
(
たいへん
)
な
恐
(
おそ
)
ろしい
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うた。
287
お
蔭
(
かげ
)
で
新
(
あたら
)
しい
日天
(
につてん
)
様
(
さま
)
が
出
(
で
)
て
下
(
くだ
)
さつて、
288
稍
(
やや
)
心強
(
こころづよ
)
くなつて
来
(
き
)
た。
289
これと
云
(
い
)
ふも
全
(
まつた
)
く
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
のお
助
(
たす
)
けだ。
290
月
(
つき
)
の
御魂
(
みたま
)
と
云
(
い
)
ふものは
出
(
で
)
たり
出
(
で
)
なかつたり、
291
大
(
おほ
)
きうなつたり、
292
小
(
ちひ
)
さくなつたり、
293
まるで
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
の
様
(
やう
)
なものだ、
294
チツとも
当
(
あて
)
になりやしない。
295
天地
(
てんち
)
から
鑑
(
かがみ
)
を
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
せてあるぞよ……と
仰有
(
おつしや
)
つたが、
296
本当
(
ほんたう
)
に
愛想
(
あいさう
)
が
ツキ
の
神
(
かみ
)
ぢや。
297
何時
(
いつ
)
も
形
(
かたち
)
も
変
(
かは
)
らず
晃々
(
くわうくわう
)
と
輝
(
かがや
)
き
給
(
たま
)
ふのは
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
ばかりぢや。
298
それだから
俺
(
おれ
)
は
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
でなければ
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けぬと
云
(
い
)
ふのだ。
299
月
(
つき
)
の
御魂
(
みたま
)
なんて、
300
精神
(
せいしん
)
の
定
(
きま
)
らぬ
事
(
こと
)
は、
301
天
(
てん
)
を
見
(
み
)
ても
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
るぢやないか。
302
それに
就
(
つい
)
て
坤
(
ひつじさる
)
の
金神
(
こんじん
)
ぢや。
303
未
(
ひつじ
)
や
申
(
さる
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
碌
(
ろく
)
な
奴
(
やつ
)
ぢやない。
304
紙
(
かみ
)
を
喰
(
く
)
らつたり、
305
人
(
ひと
)
を
掻
(
か
)
きまはしたりする
奴
(
やつ
)
だよ』
306
竹彦
(
たけひこ
)
『
本当
(
ほんたう
)
にさうだなア。
307
猿
(
さる
)
の
奴
(
やつ
)
悪戯
(
いたづら
)
しやがつて、
308
そこら
中
(
ぢう
)
を
掻
(
か
)
きむしりやがつた。
309
此方
(
こちら
)
が
吃驚
(
びつくり
)
して
起
(
お
)
きるが
最後
(
さいご
)
、
310
一目散
(
いちもくさん
)
に
逃
(
に
)
げて
了
(
しま
)
ひやがつたぢやないか。
311
是
(
こ
)
れもヤツパリ
坤
(
ひつじさる
)
の
金神
(
こんじん
)
の
力
(
ちから
)
の
無
(
な
)
いと
云
(
い
)
ふ
証拠
(
しようこ
)
だ。
312
アハヽヽヽ』
313
魔我彦
(
まがひこ
)
『
併
(
しか
)
し
昨夜
(
ゆうべ
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
如何
(
どう
)
なつただらうかなア』
314
竹彦
(
たけひこ
)
『どうも
斯
(
こ
)
うもあるものか。
315
人
(
ひと
)
の
体
(
からだ
)
に
幽霊
(
いうれい
)
となつて
憑
(
うつ
)
つて
来
(
き
)
やがつた
位
(
くらゐ
)
だから、
316
心配
(
しんぱい
)
は
最早
(
もはや
)
有
(
あ
)
るまい』
317
魔我彦
(
まがひこ
)
『そらさうだ。
318
青
(
あを
)
い
火
(
ひ
)
を
点
(
とぼ
)
して、
319
パツパツとアタ
煩雑
(
うる
)
さい、
320
出
(
で
)
て
来
(
き
)
やがつて、
321
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
りの
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
だなア。
322
サアこれから
若彦
(
わかひこ
)
の
居所
(
ゐどころ
)
を
訪
(
たづ
)
ね
一
(
ひと
)
つの
活動
(
はたらき
)
をするのだ。
323
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
険難
(
けんのん
)
だから、
324
早
(
はや
)
く
目的
(
もくてき
)
地点
(
ちてん
)
まで
往
(
ゆ
)
かう』
325
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ちスタスタと
坂路
(
さかみち
)
を、
326
又
(
また
)
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
く
蓑笠
(
みのかさ
)
を
着
(
つ
)
け、
327
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
を
突
(
つ
)
いて、
328
ケチンケチンと
音
(
おと
)
させ
乍
(
なが
)
ら
岩路
(
いはみち
)
を
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
329
○
330
谷底
(
たにぞこ
)
には
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
331
赤裸
(
まつぱだか
)
となつて
水行
(
すゐぎやう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
た。
332
そこへ
薄
(
うす
)
暗
(
くら
)
がりに
二
(
ふた
)
つの
影
(
かげ
)
、
333
青淵
(
あをぶち
)
へ
向
(
むか
)
つてドブンと
許
(
ばか
)
り
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
来
(
き
)
たものがある。
334
男
(
をとこ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
手早
(
てばや
)
く
二人
(
ふたり
)
を
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げ、
335
イロイロと
人口
(
じんこう
)
呼吸
(
こきふ
)
を
施
(
ほどこ
)
したり、
336
指
(
ゆび
)
を
曲
(
ま
)
げたりして
蘇生
(
そせい
)
せしめた。
337
男
(
をとこ
)
『モシモシあなたの
服装
(
ふくさう
)
を
見
(
み
)
れば、
338
夜陰
(
やいん
)
にて
確
(
たしか
)
には
分
(
わか
)
りませぬが、
339
宣伝使
(
せんでんし
)
の
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
えますが、
340
一体
(
いつたい
)
どなたで
御座
(
ござ
)
いますか』
341
国依別
(
くによりわけ
)
『
悪者
(
わるもの
)
に
突
(
つ
)
き
落
(
おと
)
され、
342
思
(
おも
)
はず
不覚
(
ふかく
)
を
取
(
と
)
りました。
343
其
(
その
)
刹那
(
せつな
)
、
344
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は
最早
(
もはや
)
粉砕
(
ふんさい
)
の
厄
(
やく
)
に
遭
(
あ
)
うたものと
覚悟
(
かくご
)
をして
居
(
ゐ
)
ましたが、
345
よう
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました』
346
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
私
(
わたくし
)
も
実
(
じつ
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
です。
347
此
(
こ
)
れだけ
沢山
(
たくさん
)
の
岩
(
いは
)
が
並
(
なら
)
んで
居
(
ゐ
)
るのに、
348
少
(
すこ
)
しの
怪我
(
けが
)
もなく、
349
此
(
この
)
青淵
(
あをぶち
)
へうまく
落込
(
おちこ
)
んだのも、
350
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
、
351
又
(
また
)
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
のお
助
(
たす
)
けで
御座
(
ござ
)
います。
352
此
(
この
)
御恩
(
ごおん
)
は
決
(
けつ
)
して
忘
(
わす
)
れませぬ』
353
男
(
をとこ
)
『
確
(
たし
)
かに
分
(
わか
)
らぬが、
354
お
前
(
まへ
)
さまは
何処
(
どこ
)
ともなしに
聞覚
(
ききおぼ
)
えの
有
(
あ
)
る
声
(
こゑ
)
だ。
355
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまに
国依別
(
くによりわけ
)
さまぢやありませぬか』
356
と
問
(
と
)
はれて
二人
(
ふたり
)
は、
357
玉
(
たま
)
、
358
国
(
くに
)
『ハイ
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
359
さうして
貴方
(
あなた
)
は
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
で……』
360
と
皆
(
みな
)
まで
聞
(
き
)
かず
男
(
をとこ
)
は、
361
男
(
をとこ
)
『アヽそれで
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました。
362
私
(
わたし
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
のお
指図
(
さしづ
)
に
依
(
よ
)
つて、
363
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
の
承諾
(
しようだく
)
を
得
(
え
)
、
364
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
へ、
365
何故
(
なにゆゑ
)
か
急
(
きふ
)
に
派遣
(
はけん
)
され、
366
水行
(
すゐぎやう
)
をしかけた
所
(
ところ
)
へ、
367
あなた
方
(
がた
)
が
落
(
お
)
ちて
来
(
こ
)
られたのです。
368
モウ
少
(
すこ
)
し
私
(
わたし
)
の
来
(
く
)
るのが
遅
(
おそ
)
かつたならば
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
でした。
369
私
(
わたし
)
は
杢助
(
もくすけ
)
ですよ』
370
と
聞
(
き
)
いて
二人
(
ふたり
)
は、
371
安心
(
あんしん
)
と
喜悦
(
よろこび
)
の
念
(
ねん
)
に
堪
(
た
)
へず、
372
杢助
(
もくすけ
)
の
体
(
からだ
)
に
喰
(
くら
)
ひついて、
373
嬉
(
うれ
)
し
泣
(
な
)
きに
泣
(
な
)
くのであつた。
374
杢助
(
もくすけ
)
『
随分
(
ずゐぶん
)
暗
(
くら
)
い
夜
(
よ
)
さだが、
375
其
(
その
)
二人
(
ふたり
)
の
声
(
こゑ
)
で
少
(
すこ
)
しも
疑
(
うたが
)
う
余地
(
よち
)
はない。
376
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
に
長
(
なが
)
らく
居
(
を
)
つては
面白
(
おもしろ
)
くない。
377
今回
(
こんくわい
)
の
私
(
わたし
)
の
使命
(
しめい
)
はこれで
終
(
をは
)
つたのだらうから、
378
どつか
平坦
(
へいたん
)
な
所
(
ところ
)
へ
行
(
い
)
つて、
379
詳
(
くは
)
しう
話
(
はなし
)
を
承
(
うけたま
)
はりませう。
380
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
つても
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
の
水音
(
みなおと
)
では、
381
十分
(
じふぶん
)
の
話
(
はなし
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ』
382
と
云
(
い
)
ひつつ、
383
闇
(
やみ
)
に
白
(
しろ
)
く
光
(
ひか
)
つた
羊腸
(
やうちやう
)
の
小径
(
こみち
)
を、
384
探
(
さぐ
)
り
探
(
さぐ
)
り
下
(
くだ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
385
路
(
みち
)
が
木
(
き
)
の
蔭
(
かげ
)
に
遮
(
さへぎ
)
られて
見
(
み
)
えなくなると、
386
白
(
しろ
)
い
白狐
(
びやくこ
)
の
影
(
かげ
)
一二間
(
いちにけん
)
前
(
まへ
)
をノソノソと
歩
(
あゆ
)
む。
387
杢助
(
もくすけ
)
は
其
(
その
)
跡
(
あと
)
を
目当
(
めあて
)
に
七八丁
(
しちはつちやう
)
許
(
ばか
)
り
降
(
くだ
)
り、
388
平
(
ひら
)
たき
岩
(
いは
)
の
上
(
うへ
)
に
腰
(
こし
)
をおろし、
389
杢助
(
もくすけ
)
『サアサア
御
(
お
)
二人
(
ふたり
)
さま、
390
此処
(
ここ
)
でゆつくりと
夜明
(
よあ
)
けを
待
(
ま
)
ちませうかい』
391
二人
(
ふたり
)
は『ハイ』と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
392
濡
(
ぬ
)
れた
着物
(
きもの
)
を
脱
(
ぬ
)
いで、
393
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
絞
(
しぼ
)
り
直
(
なほ
)
し、
394
岩
(
いは
)
にパツと
拡
(
ひろ
)
げて
乾
(
かわ
)
かして
居
(
ゐ
)
る。
395
昼
(
ひる
)
の
暑
(
あつ
)
さに
岩
(
いは
)
は
焼
(
や
)
けたと
見
(
み
)
え、
396
非常
(
ひじやう
)
な
暖
(
あたた
)
かみがある。
397
着物
(
きもの
)
は
少時
(
しばらく
)
の
間
(
うち
)
に
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
く
乾燥
(
かんさう
)
した。
398
国依別
(
くによりわけ
)
『
天道
(
てんだう
)
は
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
さずとはよう
言
(
い
)
つたものだ。
399
何処
(
どこ
)
も
彼
(
か
)
も
夜露
(
よつゆ
)
で
冷
(
ひや
)
やかうなつて
居
(
ゐ
)
るのに、
400
此
(
この
)
岩
(
いは
)
計
(
ばか
)
りは
全然
(
まるで
)
ストーブの
様
(
やう
)
だ。
401
日輪
(
にちりん
)
様
(
さま
)
もお
上
(
あが
)
りなさらぬのに、
402
着物
(
きもの
)
が
乾
(
かわ
)
くと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
珍
(
めづら
)
しい
事
(
こと
)
だ。
403
これもヤツパリ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
だらう。
404
サア
皆
(
みな
)
さま、
405
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
致
(
いた
)
しませう』
406
と
茲
(
ここ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
天地
(
てんち
)
も
揺
(
ゆる
)
ぐばかりの
大音声
(
だいおんじやう
)
を
発
(
はつ
)
して、
407
スガスガしく
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
408
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
つて、
409
暫
(
しばら
)
く
夜明
(
よあ
)
けを
待
(
ま
)
つ
事
(
こと
)
にした。
410
夜
(
よ
)
は
漸
(
やうや
)
くに
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れ、
411
木々
(
きぎ
)
の
梢
(
こずゑ
)
に
置
(
お
)
く
露
(
つゆ
)
に
一々
(
いちいち
)
太陽
(
たいやう
)
の
光
(
ひかり
)
宿
(
やど
)
つて、
412
恰
(
あたか
)
も
五色
(
ごしき
)
の
果実
(
くだもの
)
一面
(
いちめん
)
に
実
(
み
)
のるが
如
(
ごと
)
く
麗
(
うる
)
はしくなつて
来
(
き
)
た。
413
玉治別
(
たまはるわけ
)
『スンデの
事
(
こと
)
で、
414
玉治別
(
たまはるわけ
)
も
魂
(
たま
)
の
宿換
(
やどが
)
へする
所
(
とこ
)
だつたが、
415
東天
(
とうてん
)
には
金烏
(
きんう
)
の
玉
(
たま
)
晃々
(
くわうくわう
)
と
輝
(
かがや
)
き
玉
(
たま
)
ひ、
416
一面
(
いちめん
)
の
草木
(
くさき
)
には
吾輩
(
わがはい
)
の
分身
(
ぶんしん
)
分魂
(
ぶんこん
)
、
417
空間
(
すきま
)
もなく
憑依
(
ひようい
)
して
居
(
ゐ
)
る。
418
ヤツパリ
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
限
(
かぎ
)
りますよ。
419
なア
杢助
(
もくすけ
)
さま』
420
杢助
(
もくすけ
)
『アハヽヽヽ、
421
体
(
からだ
)
や
着物
(
きもの
)
が
燥
(
はし
)
やいだと
見
(
み
)
えて、
422
徐々
(
そろそろ
)
燥
(
はし
)
やぎかけましたなア』
423
国依別
(
くによりわけ
)
『オイ
玉公
(
たまこう
)
、
424
そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
言
(
い
)
つてる
時
(
とき
)
ぢやないぞ。
425
昨夜
(
ゆうべ
)
の
讐
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つと
云
(
い
)
ふ……そんな
気
(
き
)
は
無
(
な
)
いが、
426
併
(
しか
)
し
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
にあゝ
云
(
い
)
ふ
非常
(
ひじやう
)
手段
(
しゆだん
)
を
用
(
もち
)
ひた
以上
(
いじやう
)
は、
427
何
(
なに
)
かこれには
深
(
ふか
)
い
計略
(
たくみ
)
が
有
(
あ
)
るに
違
(
ちがひ
)
ない。
428
余程
(
よほど
)
これは
考
(
かんが
)
へねばなるまいぞ。
429
杢助
(
もくすけ
)
さま、
430
どうでせう』
431
杢助
(
もくすけ
)
『さうだ。
432
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
ではない。
433
余程
(
よほど
)
注意
(
ちうい
)
を
払
(
はら
)
つて
居
(
を
)
らねば、
434
此
(
この
)
辺
(
へん
)
は
某々
(
ぼうぼう
)
らの
陰謀地
(
いんぼうち
)
だから……。
435
さうして
其
(
その
)
悪者
(
わるもの
)
は
誰
(
たれ
)
だい。
436
名
(
な
)
は
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
ますかなア』
437
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
分
(
わか
)
つたでもなし、
438
分
(
わか
)
らぬでもなし。
439
他人
(
ひと
)
の
事
(
こと
)
は
言
(
い
)
はぬが
宜
(
よろ
)
しからう』
440
国依別
(
くによりわけ
)
『
マガ
な
隙
(
すき
)
がな
吾々
(
われわれ
)
の
行動
(
かうどう
)
を
阻止
(
そし
)
せむと
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
る
マガ
ツ
神
(
かみ
)
の
容器
(
いれもの
)
でせう。
441
何
(
いづ
)
れ
心
(
こころ
)
のマガつた
奴
(
やつ
)
に
違
(
ちがひ
)
ありますまい』
442
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
悪人
(
あくにん
)
タケ
タケしい
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だから、
443
誰
(
たれ
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
444
マア
止
(
や
)
めにして
推量
(
すゐりやう
)
に
任
(
まか
)
しませうかい』
445
杢助
(
もくすけ
)
『
モクスケ
して
語
(
かた
)
らずと
云
(
い
)
ふ
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
の
考
(
かんが
)
へらしい。
446
ヤア
感心
(
かんしん
)
々々
(
かんしん
)
。
447
それでこそ
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
448
今迄
(
いままで
)
の
二人
(
ふたり
)
に
加
(
くは
)
へた
悪虐
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
を
無念
(
むねん
)
には
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
ませぬか』
449
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
過越
(
すぎこし
)
苦労
(
くらう
)
は
禁物
(
きんもつ
)
だ』
450
国依別
(
くによりわけ
)
『
刹那心
(
せつなしん
)
だ。
451
綺麗
(
きれい
)
さつぱりと
谷川
(
たにがは
)
へ
流
(
なが
)
しませう。
452
天下
(
てんか
)
の
政権
(
せいけん
)
を
握
(
にぎ
)
る
内閣
(
ないかく
)
でさへも、
453
敵党
(
てきたう
)
に
渡
(
わた
)
して
花
(
はな
)
を
持
(
も
)
たす
志士
(
しし
)
仁人
(
じんじん
)
的
(
てき
)
宰相
(
さいしやう
)
の
現
(
あら
)
はれぬ
時節
(
じせつ
)
だから……アハヽヽヽ……マア
此
(
この
)
岩
(
いは
)
の
上
(
うへ
)
でカトウ
約束
(
やくそく
)
をして、
454
杢助
(
もくすけ
)
内閣
(
ないかく
)
でも
組織
(
そしき
)
し、
455
熊野
(
くまの
)
の
滝
(
たき
)
へ
政見
(
せいけん
)
発表
(
はつぺう
)
と
出
(
で
)
かけませうかい』
456
杢助
(
もくすけ
)
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
は
蓑
(
みの
)
、
457
笠
(
かさ
)
、
458
金剛杖
(
こんがうづえ
)
、
459
草鞋
(
わらじ
)
、
460
脚絆
(
きやはん
)
に
小手脛
(
こてすね
)
当
(
あ
)
て、
461
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
462
熊野
(
くまの
)
の
滝
(
たき
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
463
(
大正一一・六・一〇
旧五・一五
松村真澄
録)
464
(昭和一〇・六・四 王仁校正)
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