霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 長高説(ちやうかうぜつ)〔七一六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第1篇 南海の山 よみ(新仮名遣い):なんかいのやま
章:第4章 長高説 よみ(新仮名遣い):ちょうこうぜつ 通し章番号:716
口述日:1922(大正11)年06月10日(旧05月15日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台:錦の宮 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
杢助は魔我彦と竹彦をひそかに聖地に連れ帰った後、表戸を閉ざして聖地の様子を窺っていた。また玉治別、若彦、国依別の三人も密かに聖地に戻って高姫一派の陰謀を探っていた。
高姫はそうとは知らず、聖地の役員信者たちに、緊急事態が突発したと触れ回って、錦の宮の八尋殿に集めた。
高姫は、集まった信者一同を前にいかめしく祭典を執り行うと、得意げに壇上に登り、教主言依別命がお節(玉能姫)や杢助を重用することに対して非難を始めた。
座中から加米彦が立って高姫に異議を唱え、秋山彦の館で沓島の鍵を盗んで如意宝珠の玉を呑み込んだ件をたしなめた。
高姫が加米彦に反論すると、加米彦は高姫に異議のある者は起立するように、と呼びかけた。すると満場の者が起立した。
高姫は、自分こそ変性男子の系統で日の出神の生き宮であるから、教祖の資格がある者だとますますいきり立つ。佐田彦と波留彦は立ち上がり、日の出神なら玉の隠し場所を透視せよ、と高姫に挑戦する。
高姫は壇上で、神に理屈を言う者は改心ができていない、魔我彦、竹彦の両宣伝使こそ改心ができた立派な宣伝しだ、とわめきたてる。そこへ杢助が魔我彦と竹彦を連れて現れる。
杢助は、魔我彦と竹彦の説には感服した、と高姫に告げる。高姫はてっきり杢助が自分の見方に付いたと思って居丈高になる。
しかし魔我彦と竹彦は、高姫の案に相違して、高姫の悪事の企みを壇上でしゃべってしまう。杢助に自分の企みを一同の前でさらされて、高姫は壇上から駆け下り、一目散に館に走り帰ってしまった。
そこに言依別命が現れて、一同に会釈すると神前に天津祝詞を唱え、皆は解散することになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-06-24 17:09:42 文字数:8070 OBC :rm2304
愛善世界社版:57頁 八幡書店版:第4輯 514頁 修補版: 校定版:58頁 普及版:25頁 初版: ページ備考:
001 杢助(もくすけ)は魔我彦(まがひこ)、002竹彦(たけひこ)二人(ふたり)と共(とも)に窃(ひそか)に聖地(せいち)に帰(かへ)り、003表戸(おもてど)を閉(とざ)し暫(しば)らく外出(ぐわいしゆつ)せず、004聖地(せいち)の様子(やうす)を窺(うかが)つて居(ゐ)た。005玉治別(たまはるわけ)、006若彦(わかひこ)、007国依別(くによりわけ)の三(さん)宣伝使(せんでんし)も密(ひそか)に聖地(せいち)に帰(かへ)り、008国依別(くによりわけ)が館(やかた)に深(ふか)く忍(しの)び、009高姫(たかひめ)一派(いつぱ)の陰謀(いんぼう)を偵察(ていさつ)しつつあつた。010神(かみ)ならぬ身(み)の高姫(たかひめ)は此(この)事(こと)は夢(ゆめ)にも知(し)らず、011鬼(おに)の来(こ)ぬ間(ま)の洗濯(せんたく)するは今(いま)此(この)時(とき)と、012私(ひそ)かに聖地(せいち)の役員(やくゐん)信徒(しんと)の宅(たく)に布令(ふれ)を廻(まは)し、013緊急(きんきふ)事件(じけん)突発(とつぱつ)せりと触(ふ)れ込(こ)んで、014錦(にしき)の宮(みや)の八尋殿(やひろどの)に集(あつ)めた。
015 此(この)日(ひ)は風(かぜ)烈(はげ)しく急雨(きふう)盆(ぼん)を覆(くつが)へす如(ごと)く、016雷鳴(かみなり)さへも天(てん)の東西(とうざい)南北(なんぼく)に巻舌(まきじた)を使(つか)つてゴロツキ出(だ)した。017斯(か)かる烈(はげ)しき風雨(ふうう)雷電(らいでん)にも屈(くつ)せず、018緊急(きんきふ)事件(じけん)と聞(き)いて爺(ぢい)も婆(ばば)も猫(ねこ)も杓子(しやくし)も、019脛腰(すねこし)の立(た)つ者(もの)は満場(まんぢやう)立錐(りつすゐ)の余地(よち)なきまでに寄(よ)り集(あつ)まつた。020此(この)時(とき)高姫(たかひめ)は烏帽子(えぼし)、021狩衣(かりぎぬ)厳(いか)めしく神殿(しんでん)に進(すす)み、022言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)、023尻(けつ)でも喰(くら)へと言(い)ふ鼻息(はないき)にて斎主(さいしゆ)を勤(つと)め、024型(かた)の如(ごと)く祭典(さいてん)を済(す)ませ、025アトラスの様(やう)な曼陀羅(まんだら)の面(つら)を講座(かうざ)の上(うへ)に曝(さら)し、026満座(まんざ)の一同(いちどう)に向(むか)ひ、027鬼(おに)の首(くび)を篦(へら)で掻(か)き斬(き)つた様(やう)に得意気(とくいげ)に壇上(だんじやう)に肩(かた)を揺(ゆす)り、028腮(あご)を上下(うへした)にしやくり乍(なが)ら、
029高姫(たかひめ)『皆(みな)さま、030今日(けふ)は斯(か)くの如(ごと)き結構(けつこう)なお日和(ひより)にも拘(かかは)らず、031残(のこ)らず御(ご)参集(さんしふ)下(くだ)さいまして、032日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)も満足(まんぞく)に存(ぞん)じます。033言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)は先日(せんじつ)より少(すこ)しく病気(びやうき)の態(てい)にて引(ひ)き籠(こも)られ、034又(また)杢助(もくすけ)の総務殿(そうむどの)は何(いづ)れへかお出(い)でになり、035此(この)三五教(あななひけう)の本山(ほんざん)は首(くび)の無(な)い人間(にんげん)の様(やう)だ、036二進(につち)も三進(さつち)も動(うご)きが取(と)れないと、037大勢(おほぜい)様(さま)の中(なか)には御(ご)心配(しんぱい)遊(あそ)ばしたお方(かた)があつた様(やう)ですが、038日(ひ)の出神(でのかみ)の御(ご)神徳(しんとく)は偉(えら)いものです。039教主(けうしゆ)が出勤(しゆつきん)せなくても、040杢助(もくすけ)其(その)他(た)の幹部(かんぶ)宣伝使(せんでんし)が居(ゐ)なくても、041御(ご)神力(しんりき)に依(よ)つて、042斯(か)くの如(ごと)く一人(ひとり)も残(のこ)らず参集(さんしふ)して下(くだ)さつたと言(い)ふのは、043未(いま)だ天道(てんだう)様(さま)は此(この)高姫(たかひめ)を捨(す)て給(たま)はざる証(しるし)で御座(ござ)いませう。044杢助(もくすけ)総務(そうむ)の召集(せうしふ)でも言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)の召集(せうしふ)でも、045此(この)八尋殿(やひろどの)の建設(けんせつ)以来(いらい)、046是(これ)だけ立錐(りつすゐ)の余地(よち)なき迄(まで)お集(あつ)まりになつた事(こと)は御座(ござ)いませぬ。047それだから神力(しんりき)が強(つよ)いか、048学力(がくりき)が強(つよ)いか、049神力(しんりき)と学力(がくりき)との力競(ちからくら)べを致(いた)さうと神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)るのです。050論(ろん)より証拠(しようこ)、051実地(じつち)を見(み)て御(ご)改心(かいしん)なさるが一等(いつとう)です。052時(とき)に緊急(きんきふ)事件(じけん)と申(まを)しまするのは外(ほか)でも御座(ござ)らぬ。053我々(われわれ)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)、054而(しか)も変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)の肉体(にくたい)、055及(およ)び錚々(さうさう)たる幹部(かんぶ)の御(ご)連中(れんちう)を差措(さしお)き、056たかの知(し)れたお節(せつ)の成(な)り上(あが)りの玉能姫(たまのひめ)や、057杢助(もくすけ)の娘(むすめ)お初(はつ)の如(ごと)き者(もの)に、058ハイカラの教主(けうしゆ)が大切(たいせつ)なる御(ご)神業(しんげふ)をソツと命令(めいれい)し、059吾々(われわれ)始(はじ)め幹部(かんぶ)の御(お)歴々(れきれき)にスツパヌケを喰(く)はすと言(い)ふ事(こと)は、060如何(いか)に御(ご)神業(しんげふ)とは言(い)へ、061吾々(われわれ)一同(いちどう)を侮辱(ぶじよく)したる仕打(しう)ちでは御座(ござ)りますまいか。062幹部(かんぶ)役員(やくゐん)は申(まを)すも更(さら)なり此処(ここ)にお集(あつ)まりの方々(かたがた)は何(いづ)れも熱心(ねつしん)なる三五教(あななひけう)の信者(しんじや)様(さま)計(ばか)りで御座(ござ)りませう、063神(かみ)様(さま)のお仕組(しぐみ)の御用(ごよう)を各々(めいめい)に致(いた)し度(た)いばつかりで、064地位(ちゐ)財産(ざいさん)を捨(す)てて此処(ここ)へ来(き)乍(なが)ら、065訳(わけ)の分(わか)らぬ杢助(もくすけ)一派(いつぱ)の者(もの)に蹂躙(じうりん)されて、066指(ゆび)を啣(くは)へてアフンとして見(み)て居(を)ると言(い)ふ事(こと)がありませうか。067斯(か)う見渡(みわた)す所(ところ)、068大分(だいぶん)立派(りつぱ)な男(をとこ)さまも居(を)られますが、069貴方(あなた)等(がた)は睾丸(きんたま)を提(さ)げて居(を)られますか。070実(じつ)に心外(しんぐわい)千万(せんばん)ではありますまいかな』
071 加米彦(かめひこ)は満座(まんざ)の中(なか)よりヌツと立(た)ち上(あが)り、
072加米彦『高姫(たかひめ)さまに質問(しつもん)があります、073何事(なにごと)も神界(しんかい)の御(ご)経綸(けいりん)は我々(われわれ)人間(にんげん)の容喙(ようかい)すべき所(ところ)ではありますまい。074如何(いか)に日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)ぢやと仰有(おつしや)つても、075神(かみ)様(さま)が高姫(たかひめ)さまの命令(めいれい)に服従(ふくじゆう)せよとは、076何処(どこ)の筆先(ふでさき)にも書(か)いてはありませぬ。077日(ひ)の出神(でのかみ)呼(よ)ばはりは廃(や)めて貰(もら)ひ度(た)い。078貴女(あなた)こそ聖地(せいち)及(およ)び神界(しんかい)の御(ご)経綸(けいりん)を混乱(こんらん)顛覆(てんぷく)させる魔神(まがみ)の容器(いれもの)でせう』
079 高姫(たかひめ)は講座(かうざ)より地団駄(ぢだんだ)を踏(ふ)み、080目(め)を釣(つ)りあげ、
081高姫『誰(たれ)かと思(おも)へば汝(おまへ)は秋山彦(あきやまひこ)の門番(もんばん)加米彦(かめひこ)ではないか。082世界(せかい)の大門開(おほもんびら)きを致(いた)す此(この)高姫(たかひめ)の申(まを)す事(こと)、083たかが知(し)れた一軒(いつけん)の家(うち)の門番(もんばん)が容喙(ようかい)すべき限(かぎ)りでない。084すつ込(こ)つで居(ゐ)なされ』
085と一口(ひとくち)に叩(たた)きつけ様(やう)とする。086加米彦(かめひこ)は負(まけ)ず気(ぎ)になり、087高姫(たかひめ)の立(た)てる壇上(だんじやう)に現(あら)はれて一同(いちどう)を見渡(みわた)し、
088加米彦『皆(みな)さま、089私(わたくし)は今(いま)高姫(たかひめ)さまの仰(あふ)せられた如(ごと)く、090秋山彦(あきやまひこ)の門番(もんばん)を致(いた)して居(を)りました加米彦(かめひこ)で御座(ござ)いますが、091然(しか)し乍(なが)ら高姫(たかひめ)さまも大門(おほもん)の番人(ばんにん)ぢやと只今(ただいま)自白(じはく)されたではありませぬか。092門番(もんばん)の分際(ぶんざい)として大奥(おほおく)の事(こと)が如何(どう)して分(わか)りませう。093それに就(つ)いても私(わたくし)は秋山彦(あきやまひこ)の館(やかた)、094即(すなは)ち神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)、095国武彦(くにたけひこの)命(みこと)様(さま)の御(おん)隠(かく)れ館(やかた)の門番(もんばん)を致(いた)して居(を)つた者(もの)、096其(その)時(とき)に冠島(かむりじま)、097沓島(くつじま)の鍵(かぎ)を応答(こたへ)なく盗(ぬす)んで行(い)つて玉(たま)を呑(の)み込(こ)んだ人(ひと)があると言(い)ふ事(こと)は、098私(わたくし)が今(いま)申(まを)し上(あ)げずとも、099皆(みな)さんは既(すで)に已(すで)に御(ご)承知(しようち)の事(こと)と存(ぞん)じます。100斯様(かやう)なる権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)到(いた)らざるなき生宮(いきみや)さまの言葉(ことば)が、101如何(どう)して真剣(しんけん)に真面目(まじめ)に信(しん)ぜられませうか。102皆(みな)様(さま)冷静(れいせい)によく御(お)考(かんが)へを願(ねが)ひます』
103 座中(ざちう)より『尤(もつと)も尤(もつと)も』『賛成(さんせい)々々(さんせい)』『ヒヤヒヤ』『ノウノウ』の声(こゑ)交々(こもごも)起(おこ)つて来(く)る。
104 高姫(たかひめ)は烈火(れつくわ)の如(ごと)く、
105高姫(たかひめ)『今(いま)「ノウノウ」と言(い)つたお方(かた)は此(この)日(ひ)の出神(でのかみ)の前(まへ)に出(で)て来(き)て下(くだ)さい。106吾(わが)党(たう)の士(し)と考(かんが)へます。107サア早(はや)く此処(ここ)へお越(こ)しなされ』
108加米彦(かめひこ)『恐(おそ)らく一人(ひとり)もありますまい、109私(わたくし)の説(せつ)に対(たい)し「ノウノウ」と言(い)つたお方(かた)は賛成(さんせい)の意味(いみ)を間違(まちが)つて言(い)はれたのでせう。110皆(みな)さま、111失礼(しつれい)な申(まを)し分(ぶん)で御座(ござ)いますが、112中(なか)には老人(らうじん)や子供衆(こどもしう)も居(を)られますから、113一寸(ちよつと)説明(せつめい)を致(いた)します。114「ヒヤヒヤ」と言(い)へば私(わたくし)の説(せつ)に賛成(さんせい)したと言(い)ふ事(こと)、115「ノウノウ」と言(い)へば賛成(さんせい)せないと言(い)ふ事(こと)です。116如何(どう)です。117尚(ま)一度(いちど)宣(の)り直(なほ)して貰(もら)ひませう。118さうして不賛成(ふさんせい)のお方(かた)は「ノウノウ」と言(い)つて下(くだ)さい』
119 場(ぢやう)の四隅(しすみ)よりは『ヒヤヒヤ』の声(こゑ)計(ばか)りである。120殊更(ことさら)大(おほ)きな声(こゑ)で『ノウノウ、121然(しか)し高姫(たかひめ)の説(せつ)にはノウノウだ』と付(つ)け加(くは)へた。122高姫(たかひめ)は口角(こうかく)泡(あわ)を吹(ふ)き乍(なが)ら、
123高姫『皆(みな)さま、124今(いま)となつて分(わか)らぬと言(い)うても余(あんま)りぢやありませぬか、125大切(たいせつ)なるお宝(たから)を隠(かく)されて、126よう平気(へいき)で居(を)られますな。127第一(だいいち)言依別(ことよりわけ)のドハイカラの教主(けうしゆ)は、128杢助(もくすけ)の様(やう)な奴(やつ)にチヨロまかされ、129系統(ひつぽう)の生宮(いきみや)の高姫(たかひめ)を疎外(そぐわい)し、130さうして其(その)宝(たから)をば何処(どこ)かへ隠(かく)して仕舞(しま)つた。131皆(みな)さまはそんな章魚(たこ)の揚壺(あげつぼ)を喰(く)はされた様(やう)な目(め)に遇(あ)ひ乍(なが)ら、132平気(へいき)で御座(ござ)るとは無神経(むしんけい)にも程(ほど)があるぢやありませぬか。133何程(なにほど)言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)が偉(えら)くても、134杢助(もくすけ)の力(ちから)が強(つよ)くても、135神界(しんかい)の事(こと)が学(がく)や智慧(ちゑ)で分(わか)りますか。136昔(むかし)からの根本(こつぽん)の因縁(いんねん)、137大先祖(おほせんぞ)は如何(いか)なる事(こと)を致(いた)して居(を)つたか、138如何(いか)なる因縁(いんねん)で此(この)世(よ)へ生(うま)れて来(き)たか、139日(ひ)の出神(でのかみ)の誠(まこと)のお活動(はたらき)は如何(どん)なものか、140竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の御(ご)正体(しやうたい)は如何(どう)かと言(い)ふ明瞭(めいれう)な答(こた)へが出来(でき)ますか。141モウ是(これ)からは錦(にしき)の宮(みや)を始(はじ)め此(この)八尋殿(やひろどの)は、142及(およ)ばず乍(なが)ら此(この)高姫(たかひめ)が総監(そうかん)致(いた)します。143玉能姫(たまのひめ)や初稚姫(はつわかひめ)の女(をんな)を選(えら)んで、144大切(たいせつ)な御用(ごよう)をさせると言(い)ふ訳(わけ)の分(わか)からぬ教主(けうしゆ)に、145随喜(ずゐき)渇仰(かつかう)して居(を)る方々(かたがた)の気(き)が知(し)れませぬ。146チツと皆(みな)さん、147耳(みみ)の穴(あな)を掃除(さうぢ)して日(ひ)の出神(でのかみ)の託宣(たくせん)を聞(き)き、148活眼(くわつがん)を開(ひら)いて実地(じつち)の行(おこな)ひをよくお調(しら)べなされ。149根本(こつぽん)の要(かなめ)を掴(つか)んだ日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)を差措(さしお)いて、150枝(えだ)の神(かみ)の憑(うつ)つた肉体(にくたい)に何(なに)が分(わか)りますか。151ここは一(ひと)つ……誰(たれ)の事(こと)でも無(な)い、152皆(みな)お前(まへ)さん等(ら)の一身(いつしん)上(じやう)に関(くわん)する大問題(だいもんだい)、153否(いや)国家(こくか)の大問題(だいもんだい)です』
154加米彦(かめひこ)『只今(ただいま)高姫(たかひめ)さまのお言葉(ことば)に就(つ)いて異議(いぎ)のある方(かた)は起立(きりつ)を願(ねが)ひます』
155 一同(いちどう)は残(のこ)らず起立(きりつ)し『異議(いぎ)あり異議(いぎ)あり』と叫(さけ)んだ。
156加米彦(かめひこ)『皆(みな)さまの御(ご)精神(せいしん)は分(わか)りました。157私(わたくし)の申(まを)した事(こと)に御(ご)賛成(さんせい)のお方(かた)は何卒(どうぞ)尚(も)一度(いちど)起立(きりつ)を願(ねが)ひます』
158 高姫(たかひめ)は隼(はやぶさ)の如(ごと)き目(め)を睜(みは)り、159各人(かくじん)の行動(かうどう)を監視(かんし)して居(ゐ)る。160壇下(だんか)の信者(しんじや)は高姫(たかひめ)に顔(かほ)を睨(にら)まれ、161起立(きりつ)もせず坐(すわ)りもせず、162中腰(ちうごし)で居(を)るものも沢山(たくさん)あつた。
163加米彦(かめひこ)『皆(みな)さまに伺(うかが)ひますが、164教主(けうしゆ)が神界(しんかい)の御(ご)命令(めいれい)に拠(よ)つて、165玉能姫(たまのひめ)さま、166初稚姫(はつわかひめ)さまに御用(ごよう)を仰(あふ)せ付(つ)けられたのが悪(わる)いとすれば、167まだまだ横暴(わうばう)極(きは)まる悪(わる)い事(こと)が此処(ここ)に一(ひと)つある様(やう)に思(おも)ひます』
168 聴衆(ちやうしう)の中(なか)より『有(あ)る有(あ)る、169沢山(たくさん)にある』と呶鳴(どな)る者(もの)がある。
170加米彦(かめひこ)『その職(しよく)に非(あら)ざる身(み)を以(もつ)て、171神勅(しんちよく)も伺(うかが)はず、172教主(けうしゆ)の承諾(しようだく)も得(え)ず、173部下(ぶか)の役員(やくゐん)を任免(にんめん)黜陟(ちゆつちよく)すると言(い)ふ事(こと)は、174少(すこ)しく横暴(わうばう)ではありますまいか。175黒姫(くろひめ)様(さま)、176鷹依姫(たかよりひめ)様(さま)、177竜国別(たつくにわけ)様(さま)、178テーリスタン、179カーリンスを聖地(せいち)より追出(おひだ)したのは、180果(はた)して何人(なんぴと)の所為(しよゐ)だと思(おも)ひますか』
181 此(この)時(とき)高姫(たかひめ)は肩(かた)を斜(ななめ)に聳(そび)やかし乍(なが)ら、
182高姫(たかひめ)『加米彦(かめひこ)、183そりや何(なに)を言(い)ひなさる。184系統(ひつぽう)の生宮(いきみや)、185日(ひ)の出神(でのかみ)が命令(めいれい)をなさつて、186黒姫(くろひめ)以下(いか)を海外(かいぐわい)諸国(しよこく)へ玉(たま)探(さが)しにお遣(や)り遊(あそ)ばしたのだ。187何程(なにほど)言依別(ことよりわけ)や初稚姫(はつわかひめ)が偉(えら)いと言(い)つても、188日(ひ)の出神(でのかみ)には叶(かな)ひますまい。189学(がく)や智慧(ちゑ)で定(さだ)めた規則(きそく)が何(なに)になるか。190そんな屁理屈(へりくつ)は神界(しんかい)には通(とほ)りませぬぞや』
191加米彦(かめひこ)『これ高姫(たかひめ)さま、192お前(まへ)さまは二(ふた)つ目(め)には日(ひ)の出神(でのかみ)だと仰有(おつしや)るが、193そんな立派(りつぱ)な神(かみ)様(さま)なら何故(なぜ)宝玉(ほうぎよく)を隠(かく)されて、194それを知(し)らずに居(を)りましたか。195それの分(わか)らぬ様(やう)な日(ひ)の出神(でのかみ)なら我々(われわれ)は信頼(しんらい)する丈(だ)けの価値(かち)がありませぬ』
196 一同(いちどう)は『ヒヤヒヤ』と叫(さけ)ぶ。197中(なか)には『加米彦(かめひこ)さま、198確(しつか)り頼(たの)みます』と弥次(やじ)る者(もの)もあつた。
199高姫(たかひめ)『誰(たれ)が何(なん)と言(い)つても日(ひ)の出神(でのかみ)に間違(まちが)ひはない。200そんな小(ちひ)さい事(こと)に齷齪(あくせく)して居(を)る様(やう)な日(ひ)の出神(でのかみ)なれば、201如何(どう)して此(この)三千(さんぜん)世界(せかい)の御用(ごよう)が勤(つと)まりますか。202物(もの)が分(わか)らぬにも程(ほど)がある。203仮令(たとへ)此(この)高姫(たかひめ)一人(ひとり)になつたとて此(この)事(こと)仕遂(しと)げねば措(お)きませぬぞ』
204加米彦(かめひこ)『高姫(たかひめ)さま、205一人(ひとり)になつてもと今(いま)言(い)はれましたな。206此(この)通(とほ)り沢山(たくさん)の方々(かたがた)が見(み)えて居(を)つても、207只(ただ)一人(ひとり)も貴女(あなた)の説(せつ)に賛成(さんせい)する者(もの)が無(な)いのを見(み)れば、208既(すで)に已(すで)に一人(ひとり)になつて居(ゐ)るのではありませぬか』
209 場(ぢやう)の四隅(よすみ)より『妙々(めうめう)』『賛成(さんせい)々々(さんせい)』『しつかり頼(たの)む』『孤城(こじやう)落日(らくじつ)』等(とう)の弥次(やじ)り声(ごゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。
210高姫(たかひめ)『盲目(めくら)千(せん)人(にん)、211目明(めあき)一人(ひとり)の世(よ)の中(なか)とはよくも言(い)つた者(もの)だ。212神(かみ)様(さま)の御(ご)心中(しんちう)をお察(さつ)し申(まを)す。213あゝあ、214斯(こ)んな分(わか)らぬ身魂(みたま)の曇(くも)つた人民(じんみん)計(ばか)りを、215根(ね)の国(くに)、216底(そこ)の国(くに)の苦(くる)しみから助(たす)けてやらうと思召(おぼしめ)す大神(おほかみ)様(さま)や、217日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)の広大(くわうだい)無辺(むへん)のお心(こころ)がおいとしい』
218と涙(なみだ)を拭(ぬぐ)ふ。
219加米彦(かめひこ)『高姫(たかひめ)さま、220貴女(あなた)の誠心(まごころ)は我々(われわれ)も認(みと)めて居(を)りますが、221然(しか)し乍(なが)ら根本(こんぽん)的(てき)に大誤解(だいごかい)があるのを我々(われわれ)は遺憾(ゐかん)に存(ぞん)じます。222貴女(あなた)の肉体(にくたい)は変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)だから曲津(まがつ)神(かみ)が抱込(だきこ)んで、223国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)のおでましを妨害(ばうがい)し、224再(ふたた)び悪魔(あくま)の世界(せかい)にしやうとして居(ゐ)るのですから、225ちつとは省(かへり)みなさつたが宜(よろ)しからう、226我々(われわれ)の様(やう)な肉体(にくたい)に憑(うつ)つた処(ところ)で悪魔(あくま)の目的(もくてき)は達(たつ)しない。227断(き)つても断(き)れぬ系統(ひつぽう)の肉体(にくたい)を応用(おうよう)して日(ひ)の出神(でのかみ)だと誤魔化(ごまくわ)すのですから御(ご)用心(ようじん)なさらぬと、228遂(つひ)には貴女(あなた)の身(み)の破滅(はめつ)は言(い)ふに及(およ)ばず、229大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)経綸(けいりん)を妨害(ばうがい)し天下(てんか)に大害毒(だいがいどく)を流(なが)す様(やう)になりますから、230此処(ここ)は一(ひと)つ冷静(れいせい)にお考(かんが)へを願(ねが)ひたい。231寄(よ)ると触(さは)ると幹部(かんぶ)を始(はじ)め数多(あまた)の信者(しんじや)は、232此(この)事(こと)計(ばか)りに頭(あたま)を悩(なや)めて居(を)りますが、233然(しか)し貴女(あなた)が変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)でもあり、234断(き)つても断(き)れぬお方(かた)ぢやと言(い)ふので皆(みんな)遠慮(ゑんりよ)して居(を)るのです。235此(この)加米彦(かめひこ)なればこそ、236職(しよく)を賭(と)して斯(か)かる苦言(くげん)を申(まを)し上(あ)げるのです。237決(けつ)して貴女(あなた)を排斥(はいせき)しようとか、238除(の)け者(もの)にしようとの悪(わる)い心(こころ)は少(すこ)しもありませぬ。239第一(だいいち)貴女(あなた)のお身(み)の上(うへ)を案(あん)じ、240大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)経綸(けいりん)を完全(くわんぜん)に成就(じやうじゆ)して頂(いただ)き、241世界(せかい)の人民(じんみん)もミロクの神政(しんせい)を謳歌(おうか)し、242一(いち)時(じ)も早(はや)く松(まつ)の世(よ)をつくり上(あ)げ度(た)いとの熱心(ねつしん)から御(ご)忠告(ちうこく)を申(まを)し上(あ)げるのです。243何卒(どうぞ)よくお考(かんが)へを願(ねが)ひます』
244高姫(たかひめ)『秋山彦(あきやまひこ)の門番(もんばん)、245加米彦(かめひこ)、246そりや何(なに)を言(い)ふか。247ヤツとの事(こと)で宣伝使(せんでんし)の末席(はしくれ)に加(くは)へられたと思(おも)つて、248ようツベコベと其(そ)んな屁理屈(へりくつ)が言(い)へたものだ。249系統(ひつぽう)を抱(だ)き込(こ)んで目的(もくてき)を立(た)てると言(い)ふ事(こと)は、250それは言依別(ことよりわけの)命(みこと)の事(こと)だ。251此(この)高姫(たかひめ)は正真(しやうしん)正銘(しやうめい)の変性(へんじやう)男子(なんし)よりも早(はや)い神(かみ)様(さま)の御(ご)降臨(かうりん)、252云(い)はば変性(へんじやう)男子(なんし)よりも高姫(たかひめ)の方(はう)が先輩(せんぱい)と云(い)つても異論(いろん)はありますまい。253打割(うちわ)つて言(い)へば、254変性(へんじやう)男子(なんし)よりも此(この)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)が教祖(けうそ)とならねばならぬ者(もの)だ。255変性(へんじやう)男子(なんし)の肉体(にくたい)は最早(もはや)昇天(しようてん)されたのだから、256後(あと)は高姫(たかひめ)が教祖(けうそ)の御用(ごよう)をするのが神界(しんかい)の経綸(けいりん)上(じやう)当然(たうぜん)の帰結(きけつ)であります。257然(しか)し乍(なが)ら一歩(いつぽ)を譲(ゆづ)つて変性(へんじやう)女子(によし)の言依別(ことよりわけ)を教主(けうしゆ)にしてやつて置(お)いてあるのは、258皆(みんな)此(この)高姫(たかひめ)が黙(だま)つて居(を)るからだ。259然(しか)し最早(もはや)斯(こ)うなつては勘忍袋(かんにんぶくろ)の緒(を)がきれて来(き)た。260日(ひ)の出神(でのかみ)が加米彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)を今日(けふ)限(かぎ)り免職(めんしよく)させ、261杢助(もくすけ)の総務役(そうむやく)を解(と)き、262言依別(ことよりわけの)命(みこと)を放逐(はうちく)し、263玉治別(たまはるわけ)、264国依別(くによりわけ)の没分暁漢(わからずや)も今日(けふ)限(かぎ)り免職(めんしよく)させるから、265今後(こんご)ノソノソ帰(かへ)つて来(き)ても皆(みな)さまは相手(あひて)になつてはなりませぬぞ』
266加米彦(かめひこ)『アハヽヽヽ、267何程(なにほど)高姫(たかひめ)さまが地団駄(ぢだんだ)踏(ふ)んで呶鳴(どな)らつしやつても、268少(すこ)しも我々(われわれ)に於(おい)ては痛痒(つうよう)を感(かん)じませぬ。269お前(まへ)に任命(にんめい)されたのではない。270言依別(ことよりわけの)神(かみ)様(さま)に任(にん)ぜられたのだから、271要(い)らぬ御(ご)心配(しんぱい)をして下(くだ)さいますな』
272高姫(たかひめ)『お前(まへ)等(ら)の知(し)つた事(こと)ぢや無(な)い。273善一筋(ぜんひとすぢ)の誠(まこと)正直(しやうぢき)を立(た)て通(とほ)す妾(わたし)の仕込(しこ)んだ魔我彦(まがひこ)、274竹彦(たけひこ)両人(りやうにん)こそ、275本当(ほんたう)に立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)だ。276是(これ)から誰(たれ)が何(なん)と言(い)つても魔我彦(まがひこ)を総務(そうむ)にし、277竹彦(たけひこ)を副総務(ふくそうむ)に神(かみ)が致(いた)すから左様(さやう)心得(こころえ)なされ。278嫌(いや)なお方(かた)は退(の)いて下(くだ)され。279此(この)錦(にしき)の宮(みや)は高姫(たかひめ)が誰(たれ)が何(なん)と言(い)つても総監(そうかん)致(いた)すのだから』
280 此(この)時(とき)佐田彦(さだひこ)、281波留彦(はるひこ)の両人(りやうにん)は壇上(だんじやう)に駆上(かけあが)り、
282佐田彦(さだひこ)『吾々(われわれ)は言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)より或(ある)特別(とくべつ)の使命(しめい)を帯(お)び、283御(ご)神宝(しんぱう)の御用(ごよう)を勤(つと)めた者(もの)であります。284何(なん)と言(い)つても高姫(たかひめ)さまは其(その)隠(かく)し場所(ばしよ)が分(わか)らなくては駄目(だめ)ですよ。285大勢(おほぜい)の者(もの)が如何(どう)しても貴女(あなた)に畏服(ゐふく)するのは、286貴方(あなた)が天眼力(てんがんりき)で玉(たま)の所在(ありか)を言(い)ひ当(あて)なくては日(ひ)の出神(でのかみ)も通(とほ)りませぬ』
287 高姫(たかひめ)は目(め)を瞋(いか)らせ、
288高姫(たかひめ)『エヽ、289又(また)しても門掃(かどはき)の成上(なりあが)りがツベコベと何(なに)を言(い)ふのだ。290玉(たま)の所在(ありか)が分(わか)らぬ様(やう)な事(こと)で、291斯(こ)んな啖呵(たんか)がきれますか。292屹度(きつと)時節(じせつ)が来(き)たなれば現(あらは)して見(み)せて上(あ)げよう』
293佐田彦(さだひこ)『日(ひ)の出神(でのかみ)も時節(じせつ)には叶(かな)ひませぬかな』
294波留彦(はるひこ)『吾々(われわれ)の心(こころ)の裡(うち)にチヤンと仕舞(しま)ひ込(こ)んであるのだが、295常平生(つねへいぜい)から人(ひと)の心(こころ)が見(み)え透(す)くと仰有(おつしや)る日(ひ)の出神(でのかみ)さまに、296此(この)胸(むね)の中(なか)を一寸(ちよつと)透視(とうし)して貰(もら)ひませうか』
297と襟(えり)を両方(りやうはう)に開(あ)け、298胸板(むないた)を出(だ)して稍(やや)反身(そりみ)になり、299握(にぎ)り拳(こぶし)を固(かた)めてウンウンと殴(なぐ)つて見(み)せた。
300高姫(たかひめ)『ツベコベと神(かみ)に向(むか)つて理屈(りくつ)を言(い)ふ間(あひだ)は駄目(だめ)だ。301誰(たれ)が何(なん)と言(い)つても魔我彦(まがひこ)、302竹彦(たけひこ)位(ぐらゐ)立派(りつぱ)な者(もの)はありませぬワイ。303妾(わたし)の言(い)ふことが気(き)に喰(く)はぬ人(ひと)はトツトと尻(しり)からげて帰(かへ)つて下(くだ)さい。304お筆先(ふでさき)に此(この)大本(おほもと)は大勢(おほぜい)は要(い)らぬ。305誠(まこと)の者(もの)が三(さん)人(にん)さへあれば立派(りつぱ)に御用(ごよう)が勤(つと)めあがると、306変性(へんじやう)男子(なんし)のお筆(ふで)にチヤンと出(で)て居(を)る。307今(いま)が立替(たてかへ)立直(たてなほ)しの時期(じき)ぢや、308サアサア早(はや)う各自(めいめい)に覚悟(しがく)を成(な)さいませ。309此処(ここ)は大勢(おほぜい)は要(い)りませぬ。310大勢(おほぜい)あるとゴテついて、311肝腎(かんじん)の御用(ごよう)の邪魔(じやま)になる。312日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)が天晴(あつぱ)れ神政(しんせい)成就(じやうじゆ)さして見(み)せるから、313其(その)時(とき)には又(また)集(あつ)まつて御座(ござ)れ。314神(かみ)は我(わが)子(こ)、315他人(ひと)の子(こ)の隔(へだ)ては致(いた)さぬから、316其(その)時(とき)になつたら、317「高姫(たかひめ)様(さま)始(はじ)め魔我彦(まがひこ)、318竹彦(たけひこ)の宣伝使(せんでんし)、319エライ取違(とりちが)ひを致(いた)して居(を)りましたから、320何卒(どうぞ)御(ご)勘弁(かんべん)下(くだ)さりませ」と逆(さか)トンボリになつてお詫(わび)に来(き)なされ。321気好(きよ)う赦(ゆる)して上(あ)げるから、322今(いま)は御(ご)神業(しんげふ)の邪魔(じやま)になるからトツトと帰(かへ)つて下(くだ)され。323帰(かへ)るのが嫌(いや)なら高姫(たかひめ)の言(い)ふ事(こと)を聞(き)いて、324改心(かいしん)をなさるが宜(よ)からう』
325 斯(か)かる所(ところ)へ杢助(もくすけ)は魔我彦(まがひこ)、326竹彦(たけひこ)両人(りやうにん)を従(したが)へ、327ノソリノソリと人(ひと)を分(わ)けてやつて来(き)た。328群集(ぐんしふ)は三(さん)人(にん)の姿(すがた)を見(み)て思(おも)はず雨霰(あめあられ)と拍手(はくしゆ)した。329杢助(もくすけ)一行(いつかう)は一同(いちどう)に目礼(もくれい)し乍(なが)ら講座(かうざ)に上(のぼ)り、
330杢助(もくすけ)『アヽ是(これ)は是(これ)は高姫(たかひめ)様(さま)、331御(ご)演説(えんぜつ)御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)いました。332嘸(さぞ)お疲(つか)れでせう。333貴女(あなた)の御(ご)信任(しんにん)厚(あつ)き魔我彦(まがひこ)、334竹彦(たけひこ)の立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)が見(み)えました。335是(これ)から貴女(あなた)に代(かは)つて演説(えんぜつ)なさるさうです。336私(わたし)も大変(たいへん)に両人(りやうにん)さんのお説(せつ)には感服(かんぷく)致(いた)しました』
337 高姫(たかひめ)は百万(ひやくまん)の援軍(ゑんぐん)を得(え)たる如(ごと)き得意面(とくいづら)を曝(さら)し、338肩(かた)を聳(そび)やかし稍(やや)仰向(あふむ)き乍(なが)ら、
339高姫(たかひめ)『杢助殿(もくすけどの)、340アヽそれは御(ご)苦労(くらう)であつた。341よう其処(そこ)迄(まで)改心(かいしん)が出来(でき)て結構(けつこう)だ。342是(これ)から何事(なにごと)も高姫(たかひめ)の申(まを)す事(こと)を聞(き)きなさるか、343イヤ改心(かいしん)をなさるか』
344杢助(もくすけ)『改心(かいしん)の徹底(とことん)迄(まで)いつたものは、345最早(もはや)改心(かいしん)する余地(よち)がありませぬ。346貴女(あなた)の様(やう)に改心(かいしん)から後戻(あともど)りをして慢心(まんしん)が出来(でき)ると、347又(また)改心(かいしん)する機会(きくわい)がありまするが、348吾々(われわれ)の如(ごと)き者(もの)は、349融通(ゆうづう)の利(き)かぬ困(こま)つた者(もの)です。350貴女(あなた)の様(やう)に慢心(まんしん)しては改心(かいしん)し、351改心(かいしん)しては慢心(まんしん)し、352慢心(まんしん)改心(かいしん)、353改心(かいしん)慢心(まんしん)と自由(じいう)自在(じざい)の芸当(げいたう)は、354到底(たうてい)吾々(われわれ)の様(やう)な朴訥(ぼくとつ)な人間(にんげん)では不可能事(ふかのうじ)です、355アツハヽヽヽ』
356と豪傑(がうけつ)笑(わら)ひをする。357群集(ぐんしふ)は手(て)を拍(う)つて笑(わら)ふ。
358高姫(たかひめ)『アヽ魔我彦(まがひこ)、359竹彦(たけひこ)、360好(い)い処(ところ)へ帰(かへ)つて御座(ござ)つた。361皆(みな)さまに合点(がつてん)の往(ゆ)く様(やう)に此処(ここ)で改心(かいしん)の話(はなし)を聞(き)かして下(くだ)さい。362さうすれば此(この)高姫(たかひめ)の日頃(ひごろ)教育(けういく)した力(ちから)も現(あら)はるるなり、363お前(まへ)さまの善一筋(ぜんひとすぢ)の一分(いちぶ)一厘(いちりん)歪(くる)はぬ日本(やまと)魂(だましひ)の生粋(きつすゐ)が証明(しようめい)されるのだから、364サア早(はや)うチヤツと皆(みな)さまに大々(だいだい)的(てき)訓戒(くんかい)を与(あた)へて下(くだ)さい。365これこれ加米彦(かめひこ)、366佐田彦(さだひこ)、367波留彦(はるひこ)、368余(あんま)り沢山(たくさん)に講座(かうざ)に居(を)ると窮屈(きうくつ)でいかぬ。369暫(しば)らく下(した)へおりて、370魔我彦(まがひこ)や、371竹彦(たけひこ)の大(だい)宣伝使(せんでんし)の御(ご)説教(せつけう)を聞(き)くのだよ。372さうすれば、373チツトはお前(まへ)さまの我(が)も折(を)れて宜(よ)からう』
374と得意(とくい)満面(まんめん)に溢(あふ)れ肩(かた)を揺(ゆす)りイソイソといきつて居(ゐ)る。375魔我彦(まがひこ)は大勢(おほぜい)に向(むか)ひ、
376魔我彦『皆(みな)さま、377私(わたくし)は高姫(たかひめ)様(さま)の神(かみ)様(さま)に御(ご)熱心(ねつしん)なる御(ご)態度(たいど)に心(こころ)の底(そこ)から感銘(かんめい)致(いた)しまして、378如何(どう)かして高姫(たかひめ)様(さま)の思惑(おもわく)を立(た)てさし度(た)いと思(おも)ひ、379御(ご)心中(しんちう)を忖度(そんたく)致(いた)しまして紀伊(きい)の国(くに)に罷(まか)り出(い)で、380実(じつ)の処(ところ)は若彦(わかひこ)を巧(うま)く誑(たぶら)かし聖地(せいち)へ連(つ)れ帰(かへ)り、381杢助(もくすけ)さま、382言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)を或(ある)難題(なんだい)を塗(ぬ)りつけ放逐(はうちく)しやうと企(たく)みつつ、383大台(おほだい)ケ原(はら)の峰続(みねつづ)き青山峠(あをやまたうげ)までスタスタやつて往(い)つた所(ところ)、384玉治別(たまはるわけ)、385国依別(くによりわけ)の両(りやう)宣伝使(せんでんし)が谷(たに)の風景(ふうけい)を眺(なが)めて、386休息(きうそく)して居(を)られました。387そこで高姫(たかひめ)様(さま)の一番(いちばん)お邪魔(じやま)になるのは言依別(ことよりわけの)命(みこと)、388それについで命(みこと)の信任(しんにん)厚(あつ)き玉治別(たまはるわけ)、389国依別(くによりわけ)の両人(りやうにん)を、390何(なん)とかして葬(はうむ)り去(さ)らうと思(おも)ひ進(すす)んで行(い)つた所(ところ)、391折(をり)よくも日(ひ)の暮前(くれまへ)両人(りやうにん)に出会(でつくわ)し、392二人(ふたり)の隙(すき)を覗(うかが)ひ千仭(せんじん)の谷間(たにま)へ突落(つきおと)し、393高姫(たかひめ)様(さま)の邪魔(じやま)ものを除(のぞ)かむものと考(かんが)へて居(を)りました。394万々一(まんまんいち)都合(つがふ)よく行(ゆ)けば、395あとに残(のこ)つた言依別(ことよりわけの)命(みこと)位(ぐらゐ)は最早(もはや)物(もの)の数(かず)でもないと、396忽(たちま)ち悪心(あくしん)を起(おこ)し、397思(おも)ひきつて谷底(たにぞこ)へ突(つ)き込(こ)みました。398両人(りやうにん)は五体(ごたい)が滅茶(めちや)々々(めちや)になつて斃死(くたば)つただらうと思(おも)つて居(ゐ)ましたが、399あに計(はか)らむや妹図(いもうとはか)らむや、400若彦(わかひこ)の館(やかた)に於(おい)て杢助(もくすけ)様(さま)始(はじ)め玉(たま)、401国(くに)両(りやう)宣伝使(せんでんし)に出会(でくわ)した時(とき)のその苦(くる)しさ怖(こは)さ、402屹度(きつと)復讎(かたき)を討(う)たれるに相違(さうゐ)ないと思(おも)つて心配(しんぱい)を致(いた)し、403生(い)きた心地(ここち)も無(な)くガタガタ慄(ふる)へ乍(なが)ら、404矢庭(やには)に庭先(にはさき)の松(まつ)の樹(き)に駆上(かけのぼ)り、405神憑(かむがか)りの言(げん)を信(しん)じ雲(くも)に乗(の)つて逃(に)げ出(だ)さうと思(おも)ひ、406過(あやま)つて二人(ふたり)共(とも)樹上(じゆじやう)より大地(だいち)に向(むか)つて真逆(まつさか)様(さま)に墜落(つゐらく)し、407人事(じんじ)不省(ふせい)に陥(おちい)つて居(を)る所(ところ)を、408玉(たま)、409国(くに)の両(りやう)宣伝使(せんでんし)の手厚(てあつ)き御(ご)保護(ほご)を受(う)け、410さうして鵜(う)の毛(け)の露(つゆ)ほども怨(うら)み給(たま)はず、411却(かへつ)て神(かみ)様(さま)から結構(けつこう)な教訓(けうくん)を受(う)けたと喜(よろこ)んで下(くだ)さつた時(とき)の吾々(われわれ)の心(こころ)、412到底(たうてい)高姫(たかひめ)さまの教(をし)へられる事(こと)とは天地(てんち)雲泥(うんでい)の違(ちが)ひで御座(ござ)いました。413そこで私(わたくし)は何故(なぜ)此(この)様(やう)な善(ぜん)のお方(かた)を悪(わる)く思(おも)つたか知(し)らぬと、414懺悔(ざんげ)の念(ねん)に堪(た)へず考(かんが)へ込(こ)んで居(を)りましたが、415矢張(やつぱり)言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)の教理(けうり)を聞(き)いて御座(ござ)るお蔭(かげ)で、416斯(こ)んな立派(りつぱ)な人格(じんかく)になられたのであらうと深(ふか)く感(かん)じました。417又(また)私(わたくし)があの様(やう)な悪心(あくしん)を起(おこ)したのも、418矢張(やつぱり)高姫(たかひめ)さまの感化力(かんくわりよく)がさせた事(こと)だとホトホト恐(おそ)ろしくなりました。419如何(どう)しても人間(にんげん)は師匠(ししやう)を選(えら)ばねばなりませぬ。420水(みづ)は方円(はうゑん)の器(うつは)に随(したが)ふとか申(まを)しまして、421教(をそ)はる師匠(ししやう)、422交(まじ)はる友(とも)によつて善(ぜん)にもなり、423悪(あく)にもなるものと堅(かた)く信(しん)じます。424私(わたくし)は皆(みな)さまに今日(こんにち)迄(まで)の取違(とりちがひ)を此処(ここ)にお詫(わび)致(いた)します』
425高姫(たかひめ)『コレコレ魔我彦(まがひこ)、426誰(たれ)がそんな乱暴(らんばう)な事(こと)をせいと言(い)ひましたか、427それは大方(おほかた)言依別(ことよりわけ)の霊(れい)が憑(うつ)つたのだらう』
428竹彦(たけひこ)『イヽエ、429言依別(ことよりわけ)さまの身魂(みたま)は余(あんま)り尊(たふと)く清(きよ)らかで、430我々(われわれ)の様(やう)な小(ちひ)さい曇(くも)つた鏡(かがみ)にはおうつりに成(な)りませぬ。431全(まつた)く高姫(たかひめ)さまや、432黒姫(くろひめ)さまの生霊(いきりやう)が憑(うつ)りましてな』
433 聴衆(ちやうしう)は手(て)を拍(う)つてドヨメキ渡(わた)る。434杢助(もくすけ)は又(また)もや口(くち)を開(ひら)き、
435杢助(もくすけ)『皆(みな)さま、436私(わたくし)は言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)より内命(ないめい)を奉(ほう)じ、437十津川(とつがは)の谷間(たにあひ)へ急行(きふかう)せよとの仰(あふ)せにより行(い)つて見(み)れば、438谷川(たにがは)に似合(にあ)はぬ大滝(おほたき)の下(した)に立派(りつぱ)な青(あを)い淵(ふち)がありました。439そこで水行(すゐぎやう)して居(ゐ)ると上(うへ)から二人(ふたり)の男(をとこ)が突然(とつぜん)降(ふ)り来(きた)り、440ザンブとばかり淵(ふち)へ落(お)ち込(こ)んだ。441日(ひ)の暮(くれ)紛(まぎ)れに何人(なんぴと)か分(わか)らねども見逃(みのが)す訳(わけ)にも行(ゆ)かぬ、442直(ただち)に淵(ふち)へとび込(こ)んで救(すく)ひ上(あ)げ色々(いろいろ)と介抱(かいほう)した所(ところ)、443二人(ふたり)の男(をとこ)は漸(やうや)く息(いき)を吹(ふ)き返(かへ)しました。444よくよく見(み)れば、445玉治別(たまはるわけ)、446国依別(くによりわけ)の宣伝使(せんでんし)で御座(ござ)いました。447それより両人(りやうにん)に向(むか)ひ如何(どう)して斯(こ)んな所(ところ)へ落(お)ち込(こ)んだのですかと尋(たづ)ねて見(み)ましたが、448御(ご)両人(りやうにん)は他人(たにん)に瑕瑾(きず)をつけまいと言(い)ふ誠心(まごころ)から、449現在(げんざい)此(この)魔我彦(まがひこ)、450竹彦(たけひこ)につき落(おと)された事(こと)を一言(いちごん)も発(はつ)せず隠(かく)して居(を)られました。451さうして二人(ふたり)に対(たい)して毛頭(まうとう)怨(うら)みを抱(いだ)いて居(を)られないのには私(わたくし)も感服(かんぷく)致(いた)しました。452是(これ)と言(い)ふのも全(まつた)く瑞(みづ)の御霊(みたま)の大精神(だいせいしん)を体得(たいとく)して居(を)られるからだと、453流石(さすが)の杢助(もくすけ)も感涙(かんるゐ)に咽(むせ)び、454それより三(さん)人(にん)は道(みち)を急(いそ)いで若彦(わかひこ)の館(やかた)に行(い)つて見(み)れば、455魔我彦(まがひこ)、456竹彦(たけひこ)の両人(りやうにん)が何事(なにごと)か善(よ)からぬ虚言(きよげん)を構(かま)へ若彦(わかひこ)を唆(そその)かし大陰謀(だいいんぼう)を企(たく)まむとして居(ゐ)る所(ところ)でありました。457然(しか)し乍(なが)ら流石(さすが)の悪人(あくにん)も誠(まこと)の心(こころ)に感(かん)じ斯(か)くの如(ごと)く改心(かいしん)を致(いた)して、458自分(じぶん)の罪状(ざいじやう)を逐一(ちくいち)皆(みな)さまの前(まへ)に曝(さら)け出(だ)し真心(まごころ)を示(しめ)して居(を)られます。459之(これ)でも言依別(ことよりわけ)様(さま)の教(をしへ)が悪(あく)と言(い)はれませうか。460高姫(たかひめ)さまの教(をしへ)は果(はた)して完全(くわんぜん)なもので御座(ござ)いませうか』
461と釘(くぎ)をさされて高姫(たかひめ)はグツとつまり、462壇上(だんじやう)を蹴散(けち)らす如(ごと)き勢(いきほひ)で肩(かた)を斜(はすかい)に首(くび)を左右(さいう)に振(ふ)り乍(なが)ら、463己(おの)が館(やかた)へ足早(あしばや)に帰(かへ)り行(ゆ)く。
464 斯(か)かる所(ところ)へ言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)は莞爾(くわんじ)として現(あら)はれ、465一場(いちぢやう)の演説(えんぜつ)を試(こころ)みた。466玉治別(たまはるわけ)、467国依別(くによりわけ)、468若彦(わかひこ)の三(さん)人(にん)は此(この)場(ば)に悠然(いうぜん)として現(あら)はれ来(きた)り、469一同(いちどう)に会釈(ゑしやく)し、470神殿(しんでん)に向(むか)ひ天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し終(をは)つて一同(いちどう)解散(かいさん)したり。471今後(こんご)の高姫(たかひめ)は如何(いか)なる行動(かうどう)を執(と)るならむか。
472(大正一一・六・一〇 旧五・一五 北村隆光録)
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