霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 蜈蚣(むかで)の涙(なみだ)〔七二八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第4篇 混線状態 よみ(新仮名遣い):こんせんじょうたい
章:第16章 蜈蚣の涙 よみ(新仮名遣い):むかでのなみだ 通し章番号:728
口述日:1922(大正11)年06月13日(旧05月18日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
蜈蚣姫と高姫は、バラモン教のために三五教と闘う苦心を明かしながら、打ち解けて話しにふけっている。
そのうちに、高姫が連れている二人の男は誰かと蜈蚣姫が聞いた。高姫が、一人はバラモン教の友彦だと答えると、蜈蚣姫は驚いた。友彦は、過去に蜈蚣姫の娘と駆け落ちしていたという。
高姫に呼ばれた友彦は、ここがバラモン教の蜈蚣姫の館だと知ると、途端に青くなってしまった。友彦はおそるおそる高姫の後について蜈蚣姫の間に進む。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-07-06 18:44:20 文字数:4274 OBC :rm2316
愛善世界社版:261頁 八幡書店版:第4輯 591頁 修補版: 校定版:265頁 普及版:123頁 初版: ページ備考:
001バラモン教(けう)の御教(みをしへ)を
002自転倒(おのころ)島(じま)に広(ひろ)めむと
003はやる心(こころ)の鬼(おに)ケ城(じやう)
004鬼熊別(おにくまわけ)の妻(つま)となり
005朝(あさ)な夕(ゆふ)なに仕(つか)へてし
006蜈蚣(むかで)の姫(ひめ)は一心(いつしん)に
007バラモン教(けう)の回復(くわいふく)を
008心(こころ)に深(ふか)く誓(ちか)ひつつ
009三国(みくに)ケ岳(だけ)に立籠(たてこも)り
010千々(ちぢ)に心(こころ)を悩(なや)ませて
011三五教(あななひけう)の神宝(かむだから)
012黄金(こがね)の玉(たま)を奪(うば)ひ取(と)り
013筐底(けうてい)深(ふか)く納(をさ)めつつ
014得意(とくい)の鼻(はな)を蠢(うごめ)かせ
015又(また)もや第二(だいに)の計画(けいくわく)に
016取(と)りかからむとする時(とき)に
017天(あめ)の真浦(まうら)の宣伝使(せんでんし)
018お玉(たま)の方(かた)に看破(かんぱ)され
019難攻(なんこう)不落(ふらく)と誇(ほこ)りたる
020三国(みくに)ケ岳(だけ)の山寨(さんさい)も
021木端(こつぱ)微塵(みじん)に砕(くだ)かれて
022無念(むねん)の涙(なみだ)遣(や)る瀬(せ)なく
023瞋恚(しんい)の炎(ほのほ)を燃(も)やしつつ
024心(こころ)も固(かた)き老(おい)の身(み)の
025企(たくみ)を通(とほ)す魔谷(まや)ケ岳(だけ)
026スマートボールを始(はじ)めとし
027数多(あまた)の教徒(けうと)を呼集(よびつど)へ
028鷹鳥山(たかとりやま)に立(た)て籠(こも)る
029三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
030鷹鳥姫(たかとりひめ)の神策(しんさく)を
031覆(くつがへ)さむと朝夕(あさゆふ)に
032心(こころ)を砕(くだ)き身(み)を砕(くだ)き
033尽(つく)せし甲斐(かひ)も荒風(あらかぜ)に
034散(ち)りて果敢(はか)なき夢(ゆめ)の間(ま)の
035願(ねがひ)は脆(もろ)くも消(き)え失(う)せて
036歯(は)がみしながら執拗(しつえう)に
037又(また)もや此処(ここ)を飛出(とびいだ)し
038曇(くも)りし胸(むね)も明石潟(あかしがた)
039朝夕(あさゆふ)祈(いの)る神島(かみしま)や
040家島(えじま)を左手(ゆんで)に眺(なが)めつつ
041身(み)も魂(たましひ)も捨(す)て小舟(をぶね)
042此(この)世(よ)の瀬戸(せと)の浪(なみ)を越(こ)え
043大島(おほしま)、小島(こじま)、小豆島(せうどしま)
044浪(なみ)打(う)ち際(ぎは)に漂着(へうちやく)し
045三(み)つの宝(たから)の所在(ありか)をば
046探(さぐ)らむものと国城(くにしろ)の
047山(やま)を目蒐(めが)けて一行(いつかう)の
048頭(あたま)の数(かず)も四十八(しじふはち)
049醜(しこ)の岩窟(いはや)に陣取(ぢんど)りて
050手下(てした)を四方(よも)に配(くば)りつつ
051山(やま)の尾上(をのへ)や河(かは)の瀬(せ)を
052隈(くま)なく探(さが)し求(もと)めつつ
053此(この)岩窟(いはやど)を暫時(しばし)の間(ま)
054仮(かり)の住家(すみか)と繕(つくろ)ひて
055時(とき)待(ま)つ折(をり)しも高姫(たかひめ)が
056神(かみ)の仕組(しぐみ)も白浪(しらなみ)の
057上(うへ)を辷(すべ)つて上陸(じやうりく)し
058又(また)もや此処(ここ)に出(い)で来(きた)る
059不思議(ふしぎ)の縁(えん)に蜈蚣姫(むかでひめ)
060心(こころ)の角(つの)を生(はや)しつつ
061肩肱(かたひぢ)怒(いか)らし剛情(がうじやう)の
062日頃(ひごろ)の固意地(かたいぢ)どこへやら
063解(と)けて嬉(うれ)しきバラモンの
064道(みち)の友(とも)なる高姫(たかひめ)と
065聞(き)くより顔色(がんしよく)一変(いつぺん)し
066打(う)つて変(かは)つた待遇(たいぐう)に
067仕(し)済(す)ましたりと高姫(たかひめ)は
068後(うしろ)を向(む)いて舌(した)を出(だ)し
069素知(そし)らぬ顔(かほ)にて奥(おく)の間(ま)へ
070進(すす)み入(い)るこそ可笑(をか)しけれ
071高姫(たかひめ)『久(ひさ)し振(ぶり)で御座(ござ)いましたなア。072貴女(あなた)が魔谷(まや)ケ岳(だけ)に時(とき)めいて居(を)られました時(とき)、073妾(わたし)も鷹鳥山(たかとりやま)に庵(いほり)を結(むす)び、074バラモン教(けう)に最(もつと)も必要(ひつえう)なる、075如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を尋(たづ)ねあてむものと、076三五教(あななひけう)の馬鹿(ばか)正直(しやうぢき)の信徒(しんと)を駆使(くし)し、077一(いち)日(にち)も早(はや)く手(て)に入(い)れて、078大自在天(だいじざいてん)様(さま)に献納(けんなふ)仕度(した)いと明(あ)けても暮(く)れても心(こころ)を悩(なや)ませ、079何(ど)うかして貴女(あなた)に面会(めんくわい)の機会(きくわい)を得度(えた)いものと考(かんが)へて居(を)りましたが、080何(なに)を云(い)うても人目(ひとめ)の関(せき)に隔(へだ)てられ、081思(おも)ふに任(まか)せず、082遇(あ)ひたさ見(み)たさを耐(こら)へて今日(けふ)が日(ひ)迄(まで)暮(くら)して来(き)ました。083天運(てんうん)循環(じゆんかん)と云(い)ひませうか、084今日(けふ)は又(また)日頃(ひごろ)お慕(した)ひまうす貴女(あなた)に、085斯様(かやう)な安全(あんぜん)地帯(ちたい)で拝顔(はいがん)を得(え)たと云(い)ふのは、086是(これ)全(まつた)く大自在天(だいじざいてん)様(さま)の高姫(たかひめ)が誠意(せいい)をお認(みと)め遊(あそ)ばして、087こんな嬉(うれ)しい対面(たいめん)の喜(よろこ)びを与(あた)へて下(くだ)さつたのでせう。088妾(わたし)は余(あま)り嬉(うれ)しうて何(なに)からお話(はなし)をしてよいやら分(わか)りませぬ』
089蜈蚣姫(むかでひめ)『時世(ときよ)時節(じせつ)で、090今日(けふ)はバラモン教(けう)となり、091明日(あす)は三五教(あななひけう)と変(へん)ずるとも、092心(こころ)のドン底(ぞこ)に大自在天(だいじざいてん)様(さま)を思(おも)ふ真心(まごころ)さへあれば、093人間(にんげん)の作(つく)つた名称(めいしよう)雅号(ががう)は末(すゑ)の末(すゑ)です。094大神(おほかみ)様(さま)はキツとお互(たがひ)の心(こころ)を鏡(かがみ)にかけた如(ごと)く御(ご)洞察(どうさつ)遊(あそ)ばして、095目的(もくてき)を遂(と)げさせて下(くだ)さるでせう「雪(ゆき)氷(こほり)、096雨(あめ)や霰(あられ)と隔(へだ)つとも、097落(お)つれば同(おな)じ谷川(たにがは)の水(みづ)」とやら、098機(き)に臨(のぞ)み変(へん)に応(おう)じ円転(ゑんてん)滑脱(くわつだつ)、099千変(せんぺん)万化(ばんくわ)、100自由(じいう)自在(じざい)の活動(くわつどう)をなすだけの用意(ようい)がなければ到底(たうてい)神業(しんげふ)に参加(さんか)する事(こと)は出来(でき)ませぬ。101メソポタミヤの本国(ほんごく)には綺羅星(きらほし)の如(ごと)く立派(りつぱ)な神司(かんづかさ)は並(なら)んで居(を)りますが、102何(いづ)れも猪突(ちよつとつ)主義(しゆぎ)の頑愚(ぐわんぐ)度(ど)し難(がた)き、103時勢(じせい)に合(あは)ない融通(ゆうづう)の利(き)かぬ者(もの)計(ばか)りで、104お前(まへ)さまのやうな豁達(かつたつ)自在(じざい)の活動(くわつどう)をする人(ひと)は一人(ひとり)もありませぬので、105あゝバラモン教(けう)も立派(りつぱ)な教理(けうり)はありながら、106之(これ)を活用(くわつよう)する人物(じんぶつ)がないと明(あ)け暮(く)れ心配(しんぱい)して居(を)りました。107然(しか)るに貴女(あなた)のやうな抜目(ぬけめ)のない宣伝使(せんでんし)が、108バラモン教(けう)の中(なか)に隠(かく)れて居(ゐ)たかと思(おも)へば、109勿体(もつたい)なくて嬉(うれ)し涙(なみだ)が零(こぼ)れます。110神(かみ)様(さま)は何時(いつ)も経綸(しぐみ)の人間(にんげん)を拵(こしら)へて神(かみ)が使(つか)うて居(ゐ)るから、111必(かなら)ず心配(しんぱい)致(いた)すな、112サアと云(い)ふ所(ところ)になりたら、113因縁(いんねん)の身魂(みたま)を神(かみ)が引(ひ)き寄(よ)せて御用(ごよう)を勤(つと)めさせて、114立派(りつぱ)に神政(しんせい)成就(じやうじゆ)をさして見(み)せる程(ほど)に、115何処(どこ)に何(ど)んな者(もの)が隠(かく)してあるか分(わか)りは致(いた)さぬぞよ。116敵(てき)の中(なか)にも味方(みかた)あり味方(みかた)の中(なか)にも敵(てき)があると仰有(おつしや)つた神(かみ)様(さま)の御(ご)教示(けうじ)は争(あらそ)はれぬもの、117もう此(この)上(うへ)は何事(なにごと)も心配(しんぱい)致(いた)しませぬ。118何卒(どうぞ)高姫(たかひめ)さま、119是(これ)からは打(う)ち解(と)けて姉妹(きやうだい)となり、120神業(しんげふ)に参加(さんか)しようではありませぬか』
121高姫(たかひめ)『何分(なにぶん)不束(ふつつか)な妾(わたし)、122行(ゆ)き届(とど)かぬ事(こと)ばかりで御座(ござ)いますから、123何卒(なにとぞ)貴女(あなた)の妹(いもうと)だと思(おも)うて、124何(なに)かにつけて御(ご)指導(しだう)を願(ねが)ひます』
125蜈蚣姫(むかでひめ)『互(たがひ)に気(き)の付(つ)かぬ事(こと)は知(し)らせあうて、126愈(いよいよ)千騎(せんき)一騎(いつき)の活動(くわつどう)を致(いた)し、127夫(をつと)の汚名(をめい)を回復(くわいふく)致(いた)さねば、128女房(にようばう)の役(やく)が済(す)みませぬからなア。129高姫(たかひめ)様(さま)、130貴女(あなた)の夫(をつと)美山(みやま)様(さま)に対(たい)し申訳(まをしわけ)がありますまい』
131高姫(たかひめ)『妾(わたし)の夫(をつと)美山別(みやまわけ)は御(ご)存知(ぞんぢ)の通(とほ)り人形(にんぎやう)のやうな男(をとこ)で、132妾(わたし)が右(みぎ)へ向(む)けと云(い)へば「ハイ」と云(い)うて右(みぎ)を向(む)き、133左(ひだり)と云(い)へば左(ひだり)を向(む)くと云(い)ふ、134本当(ほんたう)に柔順(おとな)しい結構(けつこう)な人(ひと)ですから、135妾(わたし)が願望(ぐわんもう)成就(じやうじゆ)、136手柄(てがら)を表(あら)はして見(み)せた所(ところ)で、137余(あま)り喜(よろこ)びも致(いた)しますまい。138その代(かは)り失敗(しつぱい)しても落胆(らくたん)もせず、139何年間(なんねんかん)斯(こ)う妾(わたし)が家(いへ)を飛(と)び出(だ)し、140神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)をして居(ゐ)ましても、141小言(こごと)一(ひと)つ云(い)はないと云(い)ふ頼(たよ)りない男(をとこ)ですから、142まどろしくて最早(もはや)相手(あひて)には致(いた)しませぬ、143生人形(いきにんぎやう)を据(す)ゑて置(お)いたやうな心組(つもり)で居(を)りますよ、144ホヽヽヽヽ』
145蜈蚣姫(むかでひめ)『妾(わたし)もそんな柔順(じうじゆん)な夫(をつと)に添(そ)うて見度(みた)う御座(ござ)いますわ。146なんと高姫(たかひめ)さま、147貴女(あなた)は世界一(せかいいち)のお仕合(しあは)せ者(もの)、148さういふ柔順(じうじゆん)な男(をとこ)計(ばか)り世(よ)の中(なか)にあつたら、149此(この)頃(ごろ)のやうな女権(ぢよけん)拡張(くわくちやう)だの、150男女(だんぢよ)同権(どうけん)だのと騒(さわ)ぐ必要(ひつえう)はありませぬ。151妾(わたし)の夫(をつと)も柔順(おとな)しい事(こと)は柔順(おとな)しいが、152柔順(おとなし)やうが些(ちつ)と違(ちが)ふので困(こま)ります、153オホヽヽヽ』
154高姫(たかひめ)『斯(こ)んな所(ところ)で旦那(だんな)様(さま)のお惚気(のろけ)を聞(き)かして貰(もら)うちや遣(や)り切(き)れませぬわ、155ホヽヽヽヽ』
156と嫌(いや)らしく笑(わら)ふ。
157蜈蚣姫(むかでひめ)『高姫(たかひめ)さま、158笑(わら)ひ所(どころ)ぢやありませぬ。159此(この)長(なが)の年月(としつき)、160妾(わたし)は今日(けふ)迄(まで)笑(わら)ひ声(ごゑ)を聞(き)いた事(こと)もなし、161妾(わたし)も嬉(うれ)しいと思(おも)うた事(こと)は唯(ただ)の一(いつ)ぺんも御座(ござ)いませぬ。162メソポタミヤの顕恩郷(けんおんきやう)は、163素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の家来(けらい)太玉(ふとだまの)神(かみ)や、164八人(やたり)乙女(をとめ)に蹂躙(じうりん)され、165止(や)むを得(え)ず鬼雲彦(おにくもひこ)の棟梁(とうりやう)様(さま)は遥々(はるばる)海(うみ)を渡(わた)り、166大江山(おほえやま)に屈竟(くつきやう)の地(ち)を選(えら)み館(やかた)を建(た)て、167立派(りつぱ)に神業(しんげふ)を開始(かいし)し遊(あそ)ばした所(ところ)、168部下(ぶか)の者共(ものども)が余(あま)り心得(こころえ)が悪(わる)いのと利己主義(われよし)が強(つよ)いため、169丹波栗(たんばぐり)ぢやないが、170内(うち)からと外(そと)からと瓦解(ぐわかい)され、171お痛(いた)はしや折角(せつかく)心(こころ)を痛(いた)めて造(つく)り上(あ)げた立派(りつぱ)な大江城(おほえじやう)を捨(す)て、172伊吹山(いぶきやま)に逃(に)げ去(さ)り、173此処(ここ)で又(また)もや素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の一派(いつぱ)に悩(なや)まされ、174やみやみとフサの国(くに)へ逃(に)げ帰(かへ)り、175素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の隠(かく)れ家(が)を脅(おびや)かさむと、176鬼雲姫(おにくもひめ)の奥(おく)さまと共(とも)に帰(かへ)られました。177アヽ思(おも)へば思(おも)へばお気(き)の毒(どく)で堪(たま)りませぬ。178それにつけても妾(わたし)の夫(をつと)の鬼熊別(おにくまわけ)は、179副棟梁(ふくとうりやう)として鬼(おに)ケ城(じやう)に砦(とりで)を構(かま)へ、180鬼雲彦(おにくもひこ)様(さま)の御(ご)神業(しんげふ)を誠心(せいしん)誠意(せいい)お助(たす)け致(いた)して居(を)りましたが、181是(こ)れ又(また)脆(もろ)くも三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)や、182味方(みかた)の裏返(うらがへ)りの為(ため)、183破滅(はめつ)の厄(やく)に遇(あ)ひ、184アヽ痛(いた)ましや鬼熊別(おにくまわけ)の我(わが)夫(つま)は、185棟梁(とうりやう)の後(あと)を追(お)うて波斯(フサ)の国(くに)に帰(かへ)つて仕舞(しま)ひました。186其(その)時(とき)夫(をつと)は妾(わたし)の手(て)を握(にぎ)り「これ女房(にようばう)、187私(わたし)は棟梁(とうりやう)様(さま)の御(おん)為(ため)に波斯(フサ)の国(くに)へ別(わか)れて行(ゆ)くが、188何卒(どうぞ)お前(まへ)は三国(みくに)ケ岳(だけ)に立(た)て籠(こも)り、189会稽(くわいけい)の恥(はぢ)を雪(すす)ぎ宝(たから)の所在(ありか)を探(さが)し出(だ)し、190功名(こうみやう)手柄(てがら)を現(あら)はして帰(かへ)つて呉(く)れ」と云(い)うて、191涙(なみだ)をホロリと流(なが)された時(とき)は、192妾(わたし)の心(こころ)は何(ど)んなで御座(ござ)いましたらう。193天(てん)にも地(ち)にも身(み)の置(お)き所(どころ)が無(な)いやうな心持(こころもち)が致(いた)しました。194人間(にんげん)として難(かた)き事(こと)天下(てんか)に二(ふた)つある。195其(その)一(ひと)つは天国(てんごく)に昇(のぼ)る事(こと)、196も一(ひと)つは立派(りつぱ)な家来(けらい)を得(う)る事(こと)で御座(ござ)います。197バラモン教(けう)もせめて一人(ひとり)立派(りつぱ)な家来(けらい)があれば、198斯(こ)んな惨(みぢ)めな事(こと)にはならないのですが、199アヽ思(おも)へば思(おも)へば残念(ざんねん)な事(こと)だ』
200と皺面(しわづら)に涙(なみだ)を漂(ただよ)はせ、201遂(つひ)には声(こゑ)を放(はな)つて泣(な)き伏(ふ)しにける。
202高姫(たかひめ)『そのお歎(なげ)きは御尤(ごもつと)もで御座(ござ)います。203併(しか)し乍(なが)ら日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)、204オツトドツコイ大自在天(だいじざいてん)様(さま)の御(ご)眷族(けんぞく)の憑(かか)らせ給(たま)ふ真(まこと)の生宮(いきみや)高姫(たかひめ)が現(あら)はれて、205貴女(あなた)と相(あひ)提携(ていけい)して活動(くわつどう)する上(うへ)は、206最早(もはや)大丈夫(だいぢやうぶ)で御座(ござ)います。207何卒(なにとぞ)お力(ちから)を落(おと)さず、208もう一働(ひとはたら)き妾(わたし)と共(とも)に遊(あそ)ばして下(くだ)さいませ。209あの玉(たま)さへ手(て)に入(い)らば、210バラモン教(けう)は忽(たちま)ち暗夜(あんや)に太陽(たいやう)の現(あら)はれた如(ごと)く、211世界(せかい)に輝(かがや)き渡(わた)るは明(あきら)かで御座(ござ)いますから……、212蜈蚣姫(むかでひめ)さま、213此(この)岩窟(いはや)は大江山(おほえやま)の鬼(おに)ケ城(じやう)とはどちらが立派(りつぱ)で御座(ござ)いますか』
214蜈蚣姫(むかでひめ)『とても比(くら)べものにはなりませぬ。215三国(みくに)ケ岳(だけ)の岩窟(いはや)に比(くら)ぶればまアざつと三分(さんぶ)の一(いち)位(くらゐ)なものです。216妾(わたし)も立派(りつぱ)な鬼(おに)ケ城(じやう)を追(お)はれ、217だんだんとこんな狭(せま)い所(ところ)へ入(はい)らねばならないやうに落(お)ちて仕舞(しま)ひました。218思(おも)へば思(おも)へば残念(ざんねん)で耐(たま)りませぬ。219それでも何(なん)とかしてこの目的(もくてき)を遂(と)げたいと朝夕(てうせき)神(かみ)様(さま)を祈(いの)り、220何卒(どうぞ)御(おん)大将(たいしやう)御(ご)夫婦(ふうふ)が御(ご)健全(けんぜん)で此(この)目的(もくてき)を飽迄(あくまで)も遂行(すゐかう)遊(あそ)ばすやうに、221又(また)我(わが)夫(つま)の無事(ぶじ)に神業(しんげふ)に奉仕(ほうし)するやうにと、222夢寐(むび)にも忘(わす)れずに祈願(きぐわん)致(いた)して居(を)ります。223是(これ)からは貴女(あなた)と二人(ふたり)で腹(はら)を合(あは)せ、224飽迄(あくまで)も初志(しよし)を貫徹(くわんてつ)せねばなりませぬ』
225高姫(たかひめ)『左様(さやう)で御座(ござ)います。226何分(なにぶん)に宜敷(よろし)く御(ご)指導(しだう)を願(ねがひ)ます。227併(しか)し乍(なが)ら此(この)立派(りつぱ)な岩窟(いはや)に似(に)ず今日(けふ)はお人(ひと)が少(すくな)い事(こと)で御座(ござ)いますな』
228蜈蚣姫(むかでひめ)『ハイ、229今日(けふ)は神前(しんぜん)の間(ま)で祭典(さいてん)を致(いた)して居(を)りますので、230誰(たれ)も此処(ここ)には居(を)りませぬ。231あの通(とほ)り音楽(おんがく)の声(こゑ)が聞(きこ)えて居(ゐ)るでせう。232あれが祭典(さいてん)の声(こゑ)です』
233高姫(たかひめ)『妾(わたし)も一度(いちど)参拝(さんぱい)させて頂(いただ)き度(た)いもので御座(ござ)います』
234蜈蚣姫(むかでひめ)『何卒(どうぞ)後(あと)で緩(ゆる)りと参拝(さんぱい)して下(くだ)さいませ。235中途(ちうと)に入(はい)りますと皆(みな)の者(もの)の気(き)が散(ち)り、236完全(くわんぜん)にお祭(まつり)が出来(でき)ませぬから、237……時(とき)に高姫(たかひめ)さま、238貴女(あなた)のお連(つ)れになつた二人(ふたり)の男(をとこ)は、239ありや一体(いつたい)何者(なにもの)で御座(ござ)いますか』
240高姫(たかひめ)『ついお話(はなし)に身(み)が入(い)つて貴女(あなた)に申上(まをしあ)げる事(こと)を忘(わす)れて居(ゐ)ましたが、241彼(かれ)はバラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)の友彦(ともひこ)と云(い)ふ男(をとこ)、242も一人(ひとり)は妾(わたし)の召使(めしつかい)の貫州(くわんしう)と云(い)う阿呆(あほう)とも賢(かしこ)いとも、243正(せい)とも邪(じや)とも見当(けんたう)の付(つ)かない男(をとこ)で御座(ござ)います』
244蜈蚣姫(むかでひめ)『何(なん)と仰(あふ)せられます。245バラモン教(けう)の友彦(ともひこ)が来(き)たとは、246それは又(また)妙(めう)な神(かみ)様(さま)のお引合(ひきあは)せ、247……余(あま)り姿(ふう)が変(かは)つて居(を)るので見違(みちが)へて居(を)つた。248アヽさう聞(き)けば鼻(はな)の先(さき)に赤(あか)い所(ところ)があつたやうだ。249彼奴(あいつ)は私(わし)の一人娘(ひとりむすめ)をチヨロまかし、250手(て)に手(て)を取(と)つて何処(いづく)ともなく姿(すがた)を隠(かく)した男(をとこ)、251廻(めぐ)り廻(めぐ)つてこんな所(ところ)へ来(く)るとは是(これ)又(また)不思議(ふしぎ)、252あれに尋(たづ)ねたら定(さだ)めて娘(むすめ)の消息(せうそく)が分(わか)るであらう。253……コレコレ高姫(たかひめ)さま、254此(この)事(こと)は秘密(ないしよ)にして置(お)いて下(くだ)さい。255妾(わたし)が直接(ちよくせつ)に遠廻(とほまは)しに聞(き)いて見(み)ますから』
256と心臓(しんざう)に波(なみ)を打(う)たせながら、257そはそはとして居(ゐ)る。258高姫(たかひめ)は此(この)場(ば)を立(た)つて次(つぎ)の間(ま)に現(あら)はれ両人(りやうにん)に向(むか)ひ、
259高姫(たかひめ)『友彦(ともひこ)さまに貫州(くわんしう)、260退屈(たいくつ)だつたらう。261蜈蚣姫(むかでひめ)さまが一寸(ちよつと)奥(おく)へ通(とほ)つて呉(く)れと仰有(おつしや)るから通(とほ)つて下(くだ)さい。262此処(ここ)もバラモン教(けう)の射場(いば)だから……、263友彦(ともひこ)さま、264お前(まへ)は親(おや)の家(うち)へ戻(もど)つたやうなものだ。265久(ひさ)し振(ぶ)りで蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)に御(ご)面会(めんくわい)が出来(でき)るから喜(よろこ)びなさい』
266友彦(ともひこ)『何(なん)と仰有(おつしや)る。267此処(ここ)が蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)のお館(やかた)ですか、268そりや違(ちが)ひませう。269世界(せかい)に同(おな)じ名(な)は沢山(たくさん)御座(ござ)います。270まさか本山(ほんざん)に居(を)られた、271副棟梁(ふくとうりやう)の鬼熊別(おにくまわけ)の奥(おく)さまの蜈蚣姫(むかでひめ)さまではありますまい』
272高姫(たかひめ)『さうだとも さうだとも、273チツとは不首尾(ふしゆび)な事(こと)があらうが辛抱(しんばう)しなくては仕方(しかた)がない。274逃(にげ)やうと云(い)つたつて逃(に)げられはせぬワ。275お前(まへ)も可愛(かあい)い娘(むすめ)の婿(むこ)だから、276さう酷(きつ)くも当(あた)らつしやるまい。277安心(あんしん)して妾(わたし)に伴(つ)いて御座(ござ)れ』
278 友彦(ともひこ)は顔色(がんしよく)忽(たちま)ち蒼白(さうはく)となり、279恐(おそ)る恐(おそ)る高姫(たかひめ)の後(あと)について奥(おく)の間(ま)に進(すす)み往(ゆ)く。
280(大正一一・六・一三 旧五・一八 加藤明子録)
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