霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 蜈蚣(むかで)(なみだ)〔七二八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第4篇 混線状態 よみ(新仮名遣い):こんせんじょうたい
章:第16章 蜈蚣の涙 よみ(新仮名遣い):むかでのなみだ 通し章番号:728
口述日:1922(大正11)年06月13日(旧05月18日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
蜈蚣姫と高姫は、バラモン教のために三五教と闘う苦心を明かしながら、打ち解けて話しにふけっている。
そのうちに、高姫が連れている二人の男は誰かと蜈蚣姫が聞いた。高姫が、一人はバラモン教の友彦だと答えると、蜈蚣姫は驚いた。友彦は、過去に蜈蚣姫の娘と駆け落ちしていたという。
高姫に呼ばれた友彦は、ここがバラモン教の蜈蚣姫の館だと知ると、途端に青くなってしまった。友彦はおそるおそる高姫の後について蜈蚣姫の間に進む。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-07-06 18:44:20 OBC :rm2316
愛善世界社版:261頁 八幡書店版:第4輯 591頁 修補版: 校定版:265頁 普及版:123頁 初版: ページ備考:
001バラモン(けう)御教(みをしへ)
002自転倒(おのころ)(じま)(ひろ)めむと
003はやる(こころ)(おに)(じやう)
004鬼熊別(おにくまわけ)(つま)となり
005(あさ)(ゆふ)なに(つか)へてし
006蜈蚣(むかで)(ひめ)一心(いつしん)
007バラモン(けう)回復(くわいふく)
008(こころ)(ふか)(ちか)ひつつ
009三国(みくに)(だけ)立籠(たてこも)
010千々(ちぢ)(こころ)(なや)ませて
011三五教(あななひけう)神宝(かむだから)
012黄金(こがね)(たま)(うば)()
013筐底(けうてい)(ふか)(をさ)めつつ
014得意(とくい)(はな)(うごめ)かせ
015(また)もや第二(だいに)計画(けいくわく)
016()りかからむとする(とき)
017(あめ)真浦(まうら)宣伝使(せんでんし)
018(たま)(かた)看破(かんぱ)され
019難攻(なんこう)不落(ふらく)(ほこ)りたる
020三国(みくに)(だけ)山寨(さんさい)
021木端(こつぱ)微塵(みじん)(くだ)かれて
022無念(むねん)(なみだ)()()なく
023瞋恚(しんい)(ほのほ)()やしつつ
024(こころ)(かた)(おい)()
025(たくみ)(とほ)魔谷(まや)(だけ)
026スマートボールを(はじ)めとし
027数多(あまた)教徒(けうと)呼集(よびつど)
028鷹鳥山(たかとりやま)()(こも)
029三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
030鷹鳥姫(たかとりひめ)神策(しんさく)
031(くつがへ)さむと朝夕(あさゆふ)
032(こころ)(くだ)()(くだ)
033(つく)せし甲斐(かひ)荒風(あらかぜ)
034()りて果敢(はか)なき(ゆめ)()
035(ねがひ)(もろ)くも()()せて
036()がみしながら執拗(しつえう)
037(また)もや此処(ここ)飛出(とびいだ)
038(くも)りし(むね)明石潟(あかしがた)
039朝夕(あさゆふ)(いの)神島(かみしま)
040家島(えじま)左手(ゆんで)(なが)めつつ
041()(たましひ)()小舟(をぶね)
042(この)()瀬戸(せと)(なみ)()
043大島(おほしま)小島(こじま)小豆島(せうどしま)
044(なみ)()(ぎは)漂着(へうちやく)
045()つの(たから)所在(ありか)をば
046(さぐ)らむものと国城(くにしろ)
047(やま)目蒐(めが)けて一行(いつかう)
048(あたま)(かず)四十八(しじふはち)
049(しこ)岩窟(いはや)陣取(ぢんど)りて
050手下(てした)四方(よも)(くば)りつつ
051(やま)尾上(をのへ)(かは)()
052(くま)なく(さが)(もと)めつつ
053(この)岩窟(いはやど)暫時(しばし)()
054(かり)住家(すみか)(つくろ)ひて
055(とき)()(をり)しも高姫(たかひめ)
056(かみ)仕組(しぐみ)白浪(しらなみ)
057(うへ)(すべ)つて上陸(じやうりく)
058(また)もや此処(ここ)()(きた)
059不思議(ふしぎ)(えん)蜈蚣姫(むかでひめ)
060(こころ)(つの)(はや)しつつ
061肩肱(かたひぢ)(いか)らし剛情(がうじやう)
062日頃(ひごろ)固意地(かたいぢ)どこへやら
063()けて(うれ)しきバラモンの
064(みち)(とも)なる高姫(たかひめ)
065()くより顔色(がんしよく)一変(いつぺん)
066()つて(かは)つた待遇(たいぐう)
067()()ましたりと高姫(たかひめ)
068(うしろ)()いて(した)()
069素知(そし)らぬ(かほ)にて(おく)()
070(すす)()るこそ可笑(をか)しけれ
071高姫(たかひめ)(ひさ)(ぶり)御座(ござ)いましたなア。072貴女(あなた)魔谷(まや)(だけ)(とき)めいて()られました(とき)073(わたし)鷹鳥山(たかとりやま)(いほり)(むす)び、074バラモン(けう)(もつと)必要(ひつえう)なる、075如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)(たづ)ねあてむものと、076三五教(あななひけう)馬鹿(ばか)正直(しやうぢき)信徒(しんと)駆使(くし)し、077(いち)(にち)(はや)()()れて、078大自在天(だいじざいてん)(さま)献納(けんなふ)仕度(した)いと()けても()れても(こころ)(なや)ませ、079()うかして貴女(あなた)面会(めんくわい)機会(きくわい)得度(えた)いものと(かんが)へて()りましたが、080(なに)()うても人目(ひとめ)(せき)(へだ)てられ、081(おも)ふに(まか)せず、082()ひたさ()たさを(こら)へて今日(けふ)()(まで)(くら)して()ました。083天運(てんうん)循環(じゆんかん)()ひませうか、084今日(けふ)(また)日頃(ひごろ)(した)ひまうす貴女(あなた)に、085斯様(かやう)安全(あんぜん)地帯(ちたい)拝顔(はいがん)()たと()ふのは、086(これ)(まつた)大自在天(だいじざいてん)(さま)高姫(たかひめ)誠意(せいい)をお(みと)(あそ)ばして、087こんな(うれ)しい対面(たいめん)(よろこ)びを(あた)へて(くだ)さつたのでせう。088(わたし)(あま)(うれ)しうて(なに)からお(はなし)をしてよいやら(わか)りませぬ』
089蜈蚣姫(むかでひめ)時世(ときよ)時節(じせつ)で、090今日(けふ)はバラモン(けう)となり、091明日(あす)三五教(あななひけう)(へん)ずるとも、092(こころ)のドン(ぞこ)大自在天(だいじざいてん)(さま)(おも)真心(まごころ)さへあれば、093人間(にんげん)(つく)つた名称(めいしよう)雅号(ががう)(すゑ)(すゑ)です。094大神(おほかみ)(さま)はキツとお(たがひ)(こころ)(かがみ)にかけた(ごと)()洞察(どうさつ)(あそ)ばして、095目的(もくてき)()げさせて(くだ)さるでせう「(ゆき)(こほり)096(あめ)(あられ)(へだ)つとも、097()つれば(おな)谷川(たにがは)(みづ)」とやら、098()(のぞ)(へん)(おう)円転(ゑんてん)滑脱(くわつだつ)099千変(せんぺん)万化(ばんくわ)100自由(じいう)自在(じざい)活動(くわつどう)をなすだけの用意(ようい)がなければ到底(たうてい)神業(しんげふ)参加(さんか)する(こと)出来(でき)ませぬ。101メソポタミヤの本国(ほんごく)には綺羅星(きらほし)(ごと)立派(りつぱ)神司(かんづかさ)(なら)んで()りますが、102(いづ)れも猪突(ちよつとつ)主義(しゆぎ)頑愚(ぐわんぐ)()(がた)き、103時勢(じせい)(あは)ない融通(ゆうづう)()かぬ(もの)(ばか)りで、104(まへ)さまのやうな豁達(かつたつ)自在(じざい)活動(くわつどう)をする(ひと)一人(ひとり)もありませぬので、105あゝバラモン(けう)立派(りつぱ)教理(けうり)はありながら、106(これ)活用(くわつよう)する人物(じんぶつ)がないと()()心配(しんぱい)して()りました。107(しか)るに貴女(あなた)のやうな抜目(ぬけめ)のない宣伝使(せんでんし)が、108バラモン(けう)(なか)(かく)れて()たかと(おも)へば、109勿体(もつたい)なくて(うれ)(なみだ)(こぼ)れます。110(かみ)(さま)何時(いつ)経綸(しぐみ)人間(にんげん)(こしら)へて(かみ)使(つか)うて()るから、111(かなら)心配(しんぱい)(いた)すな、112サアと()(ところ)になりたら、113因縁(いんねん)身魂(みたま)(かみ)()()せて御用(ごよう)(つと)めさせて、114立派(りつぱ)神政(しんせい)成就(じやうじゆ)をさして()せる(ほど)に、115何処(どこ)()んな(もの)(かく)してあるか(わか)りは(いた)さぬぞよ。116(てき)(なか)にも味方(みかた)あり味方(みかた)(なか)にも(てき)があると仰有(おつしや)つた(かみ)(さま)()教示(けうじ)(あらそ)はれぬもの、117もう(この)(うへ)何事(なにごと)心配(しんぱい)(いた)しませぬ。118何卒(どうぞ)高姫(たかひめ)さま、119(これ)からは()()けて姉妹(きやうだい)となり、120神業(しんげふ)参加(さんか)しようではありませぬか』
121高姫(たかひめ)何分(なにぶん)不束(ふつつか)(わたし)122()(とど)かぬ(こと)ばかりで御座(ござ)いますから、123何卒(なにとぞ)貴女(あなた)(いもうと)だと(おも)うて、124(なに)かにつけて()指導(しだう)(ねが)ひます』
125蜈蚣姫(むかでひめ)(たがひ)()()かぬ(こと)()らせあうて、126(いよいよ)千騎(せんき)一騎(いつき)活動(くわつどう)(いた)し、127(をつと)汚名(をめい)回復(くわいふく)(いた)さねば、128女房(にようばう)(やく)()みませぬからなア。129高姫(たかひめ)(さま)130貴女(あなた)(をつと)美山(みやま)(さま)(たい)申訳(まをしわけ)がありますまい』
131高姫(たかひめ)(わたし)(をつと)美山別(みやまわけ)()存知(ぞんぢ)(とほ)人形(にんぎやう)のやうな(をとこ)で、132(わたし)(みぎ)()けと()へば「ハイ」と()うて(みぎ)()き、133(ひだり)()へば(ひだり)()くと()ふ、134本当(ほんたう)柔順(おとな)しい結構(けつこう)(ひと)ですから、135(わたし)願望(ぐわんもう)成就(じやうじゆ)136手柄(てがら)(あら)はして()せた(ところ)で、137(あま)(よろこ)びも(いた)しますまい。138その(かは)失敗(しつぱい)しても落胆(らくたん)もせず、139何年間(なんねんかん)()(わたし)(いへ)()()し、140(かみ)(さま)御用(ごよう)をして()ましても、141小言(こごと)(ひと)()はないと()(たよ)りない(をとこ)ですから、142まどろしく最早(もはや)相手(あひて)には(いた)しませぬ、143生人形(いきにんぎやう)()ゑて()いたやうな心組(つもり)()りますよ、144ホヽヽヽヽ』
145蜈蚣姫(むかでひめ)(わたし)もそんな柔順(じうじゆん)(をつと)()うて見度(みた)御座(ござ)いますわ。146なんと高姫(たかひめ)さま、147貴女(あなた)世界一(せかいいち)のお仕合(しあは)(もの)148さういふ柔順(じうじゆん)(をとこ)(ばか)()(なか)にあつたら、149(この)(ごろ)のやうな女権(ぢよけん)拡張(くわくちやう)だの、150男女(だんぢよ)同権(どうけん)だのと(さわ)必要(ひつえう)はありませぬ。151(わたし)(をつと)柔順(おとな)しい(こと)柔順(おとな)しいが、152柔順(おとなし)やうが(ちつ)(ちが)ふので(こま)ります、153オホヽヽヽ』
154高姫(たかひめ)()んな(ところ)旦那(だんな)(さま)のお惚気(のろけ)()かして(もら)うちや()()れませぬわ、155ホヽヽヽヽ』
156(いや)らしく(わら)ふ。
157蜈蚣姫(むかでひめ)高姫(たかひめ)さま、158(わら)(どころ)ぢやありませぬ。159(この)(なが)年月(としつき)160(わたし)今日(けふ)(まで)(わら)(ごゑ)()いた(こと)もなし、161(わたし)(うれ)しいと(おも)うた(こと)(ただ)(いつ)ぺんも御座(ござ)いませぬ。162メソポタミヤの顕恩郷(けんおんきやう)は、163素盞嗚(すさのをの)(みこと)家来(けらい)太玉(ふとだまの)(かみ)や、164八人(やたり)乙女(をとめ)蹂躙(じうりん)され、165()むを()鬼雲彦(おにくもひこ)棟梁(とうりやう)(さま)遥々(はるばる)(うみ)(わた)り、166大江山(おほえやま)屈竟(くつきやう)()(えら)(やかた)()て、167立派(りつぱ)神業(しんげふ)開始(かいし)(あそ)ばした(ところ)168部下(ぶか)者共(ものども)(あま)心得(こころえ)(わる)いのと利己主義(われよし)(つよ)いため、169丹波栗(たんばぐり)ぢやないが、170(うち)からと(そと)からと瓦解(ぐわかい)され、171(いた)はしや折角(せつかく)(こころ)(いた)めて(つく)()げた立派(りつぱ)大江城(おほえじやう)()て、172伊吹山(いぶきやま)()()り、173此処(ここ)(また)もや素盞嗚(すさのをの)(みこと)一派(いつぱ)(なや)まされ、174やみやみとフサの(くに)()(かへ)り、175素盞嗚(すさのをの)(みこと)(かく)()(おびや)かさむと、176鬼雲姫(おにくもひめ)(おく)さまと(とも)(かへ)られました。177アヽ(おも)へば(おも)へばお()(どく)(たま)りませぬ。178それにつけても(わたし)(をつと)鬼熊別(おにくまわけ)は、179副棟梁(ふくとうりやう)として(おに)(じやう)(とりで)(かま)へ、180鬼雲彦(おにくもひこ)(さま)()神業(しんげふ)誠心(せいしん)誠意(せいい)(たす)(いた)して()りましたが、181()(また)(もろ)くも三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)や、182味方(みかた)裏返(うらがへ)りの(ため)183破滅(はめつ)(やく)()ひ、184アヽ(いた)ましや鬼熊別(おにくまわけ)(わが)(つま)は、185棟梁(とうりやう)(あと)()うて波斯(フサ)(くに)(かへ)つて仕舞(しま)ひました。186(その)(とき)(をつと)(わたし)()(にぎ)り「これ女房(にようばう)187(わたし)棟梁(とうりやう)(さま)(おん)(ため)波斯(フサ)(くに)(わか)れて()くが、188何卒(どうぞ)(まへ)三国(みくに)(だけ)()(こも)り、189会稽(くわいけい)(はぢ)(すす)(たから)所在(ありか)(さが)()し、190功名(こうみやう)手柄(てがら)(あら)はして(かへ)つて()れ」と()うて、191(なみだ)をホロリと(なが)された(とき)は、192(わたし)(こころ)()んなで御座(ござ)いましたらう。193(てん)にも()にも()()(どころ)()いやうな心持(こころもち)(いた)しました。194人間(にんげん)として(かた)(こと)天下(てんか)(ふた)つある。195(その)(ひと)つは天国(てんごく)(のぼ)(こと)196(ひと)つは立派(りつぱ)家来(けらい)()(こと)御座(ござ)います。197バラモン(けう)もせめて一人(ひとり)立派(りつぱ)家来(けらい)があれば、198()んな(みぢ)めな(こと)にはならないのですが、199アヽ(おも)へば(おも)へば残念(ざんねん)(こと)だ』
200皺面(しわづら)(なみだ)(ただよ)はせ、201(つひ)には(こゑ)(はな)つて()()しにける。
202高姫(たかひめ)『そのお(なげ)きは御尤(ごもつと)もで御座(ござ)います。203(しか)(なが)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)204オツトドツコイ大自在天(だいじざいてん)(さま)()眷族(けんぞく)(かか)らせ(たま)(まこと)生宮(いきみや)高姫(たかひめ)(あら)はれて、205貴女(あなた)(あひ)提携(ていけい)して活動(くわつどう)する(うへ)は、206最早(もはや)大丈夫(だいぢやうぶ)御座(ござ)います。207何卒(なにとぞ)(ちから)(おと)さず、208もう一働(ひとはたら)(わたし)(とも)(あそ)ばして(くだ)さいませ。209あの(たま)さへ()()らば、210バラモン(けう)(たちま)暗夜(あんや)太陽(たいやう)(あら)はれた(ごと)く、211世界(せかい)(かがや)(わた)るは(あきら)かで御座(ござ)いますから……、212蜈蚣姫(むかでひめ)さま、213(この)岩窟(いはや)大江山(おほえやま)(おに)(じやう)とはどちらが立派(りつぱ)御座(ござ)いますか』
214蜈蚣姫(むかでひめ)『とても(くら)べものにはなりませぬ。215三国(みくに)(だけ)岩窟(いはや)(くら)ぶればまアざつと三分(さんぶ)(いち)(くらゐ)なものです。216(わたし)立派(りつぱ)(おに)(じやう)()はれ、217だんだんとこんな(せま)(ところ)(はい)らねばならないやうに()ちて仕舞(しま)ひました。218(おも)へば(おも)へば残念(ざんねん)(たま)りませぬ。219それでも(なん)とかしてこの目的(もくてき)()げたいと朝夕(てうせき)(かみ)(さま)(いの)り、220何卒(どうぞ)(おん)大将(たいしやう)()夫婦(ふうふ)()健全(けんぜん)(この)目的(もくてき)飽迄(あくまで)遂行(すゐかう)(あそ)ばすやうに、221(また)(わが)(つま)無事(ぶじ)神業(しんげふ)奉仕(ほうし)するやうにと、222夢寐(むび)にも(わす)れずに祈願(きぐわん)(いた)して()ります。223(これ)からは貴女(あなた)二人(ふたり)(はら)(あは)せ、224飽迄(あくまで)初志(しよし)貫徹(くわんてつ)せねばなりませぬ』
225高姫(たかひめ)左様(さやう)御座(ござ)います。226何分(なにぶん)宜敷(よろし)()指導(しだう)(ねがひ)ます。227(しか)(なが)(この)立派(りつぱ)岩窟(いはや)()今日(けふ)はお(ひと)(すくな)(こと)御座(ござ)いますな』
228蜈蚣姫(むかでひめ)『ハイ、229今日(けふ)神前(しんぜん)()祭典(さいてん)(いた)して()りますので、230(たれ)此処(ここ)には()りませぬ。231あの(とほ)音楽(おんがく)(こゑ)(きこ)えて()るでせう。232あれが祭典(さいてん)(こゑ)です』
233高姫(たかひめ)(わたし)一度(いちど)参拝(さんぱい)させて(いただ)()いもので御座(ござ)います』
234蜈蚣姫(むかでひめ)何卒(どうぞ)(あと)(ゆる)りと参拝(さんぱい)して(くだ)さいませ。235中途(ちうと)(はい)りますと(みな)(もの)()()り、236完全(くわんぜん)にお(まつり)出来(でき)ませぬから、237……(とき)高姫(たかひめ)さま、238貴女(あなた)のお()れになつた二人(ふたり)(をとこ)は、239ありや一体(いつたい)何者(なにもの)御座(ござ)いますか』
240高姫(たかひめ)『ついお(はなし)()()つて貴女(あなた)申上(まをしあ)げる(こと)(わす)れて()ましたが、241(かれ)はバラモン(けう)宣伝使(せんでんし)友彦(ともひこ)()(をとこ)242一人(ひとり)(わたし)召使(めしつかい)貫州(くわんしう)()阿呆(あほう)とも(かしこ)いとも、243(せい)とも(じや)とも見当(けんたう)()かない(をとこ)御座(ござ)います』
244蜈蚣姫(むかでひめ)(なん)(あふ)せられます。245バラモン(けう)友彦(ともひこ)()たとは、246それは(また)(めう)(かみ)(さま)のお引合(ひきあは)せ、247……(あま)姿(ふう)(かは)つて()るので見違(みちが)へて()つた。248アヽさう()けば(はな)(さき)(あか)(ところ)があつたやうだ。249彼奴(あいつ)(わし)一人娘(ひとりむすめ)をチヨロまかし、250()()()つて何処(いづく)ともなく姿(すがた)(かく)した(をとこ)251(めぐ)(めぐ)つてこんな(ところ)()るとは(これ)(また)不思議(ふしぎ)252あれに(たづ)ねたら(さだ)めて(むすめ)消息(せうそく)(わか)るであらう。253……コレコレ高姫(たかひめ)さま、254(この)(こと)秘密(ないしよ)にして()いて(くだ)さい。255(わたし)直接(ちよくせつ)遠廻(とほまは)しに()いて()ますから』
256心臓(しんざう)(なみ)()たせながら、257そはそはとして()る。258高姫(たかひめ)(この)()()つて(つぎ)()(あら)はれ両人(りやうにん)(むか)ひ、
259高姫(たかひめ)友彦(ともひこ)さまに貫州(くわんしう)260退屈(たいくつ)だつたらう。261蜈蚣姫(むかでひめ)さまが一寸(ちよつと)(おく)(とほ)つて()れと仰有(おつしや)るから(とほ)つて(くだ)さい。262此処(ここ)もバラモン(けう)射場(いば)だから……、263友彦(ともひこ)さま、264(まへ)(おや)(うち)(もど)つたやうなものだ。265(ひさ)()りで蜈蚣姫(むかでひめ)(さま)()面会(めんくわい)出来(でき)るから(よろこ)びなさい』
266友彦(ともひこ)(なん)仰有(おつしや)る。267此処(ここ)蜈蚣姫(むかでひめ)(さま)のお(やかた)ですか、268そりや(ちが)ひませう。269世界(せかい)(おな)()沢山(たくさん)御座(ござ)います。270まさか本山(ほんざん)()られた、271副棟梁(ふくとうりやう)鬼熊別(おにくまわけ)(おく)さまの蜈蚣姫(むかでひめ)さまではありますまい』
272高姫(たかひめ)『さうだとも さうだとも、273チツとは不首尾(ふしゆび)(こと)があらうが辛抱(しんばう)しなくては仕方(しかた)がない。274(にげ)やうと()つたつて()げられはせぬワ。275(まへ)可愛(かあい)(むすめ)婿(むこ)だから、276さう(きつ)くも(あた)らつしやるまい。277安心(あんしん)して(わたし)()いて御座(ござ)れ』
278 友彦(ともひこ)顔色(がんしよく)(たちま)蒼白(さうはく)となり、279(おそ)(おそ)高姫(たかひめ)(あと)について(おく)()(すす)()く。
280大正一一・六・一三 旧五・一八 加藤明子録)
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