霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 家島探(えじまさがし)〔七二四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第3篇 有耶無耶 よみ(新仮名遣い):うやむや
章:第12章 家島探 よみ(新仮名遣い):えじまさがし 通し章番号:724
口述日:1922(大正11)年06月12日(旧05月17日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫を乗せた舟の船頭は東助といった。高姫は東助に、家島まで急ぐようにと言いつけた。途中、高姫は饅頭を伏せたような島が目に入って、島の様子を東助に尋ねたが、東助が神島は船頭に恐れられていて誰も足を踏み入れるものはいない、と答えると、高姫はやはり玉の隠し場所は家島に違いないと思い込んでしまった。
家島に着くと、高姫は山林の中に姿を隠してしまった。東助は煙草を吸いながら浜辺で待っている。そこへ玉能姫らが追いついてきた。
鶴公は東助に、高姫がどこへ行ったかしきりに尋ねた。東助がとぼけると、高姫はてっきり山に登って行ったに違いないと、玉能姫を山に登らせようとする。
玉能姫は急ぐことはないので休息しようと言う。玉能姫は、玉は竜神がどこかに持って行ってしまったので、本当のありかは自分は知らないのだが、高姫が心配で追って来たのだ、と明かした。そして、もっと日の当たるところで休息しようと二三町ばかり山を登ったところで腰を下ろした。
一行は雑談にふけって時を費やすが、ついに貫州が正体を表し、実は高姫を示し合わせて玉能姫をここにおびき寄せたのだ、と脅しにかかる。玉能姫は、そんなことは淡路島ですでに見抜いていた、と笑う。
貫州たちは何とかして玉能姫を山に登らせようとするが、玉能姫は男たちを突き飛ばして坂を走りくだって逃げる。後からは男たちが追いかけてくる。坂の下では、高姫が現れて手を広げ、行く手をさえぎった。
玉能姫は危機に陥り、木花姫命に祈願を凝らした。すると辺りは濃い霧に包まれ、玉能姫は逃げることができた。後を振り返ると、高姫一行の周りだけに霧がかかっている。
玉能姫が磯端に着くと、虻公と蜂公が助けに来ていた。玉能姫は自分の乗ってきた舟に乗ると、東助の舟の綱を解いて流してしまい、虻公、蜂公とともに帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-07-02 18:08:02 文字数:5122 OBC :rm2312
愛善世界社版:195頁 八幡書店版:第4輯 565頁 修補版: 校定版:198頁 普及版:91頁 初版: ページ備考:
001負(まけ)ぬ気(き)強(つよ)き高姫(たかひめ)は
002折(をり)から漕来(こぎく)る漁夫船(れふしぶね)
003是(これ)幸(さいは)ひと飛(と)び乗(の)りて
004海(うみ)の底(そこ)より尚(なほ)深(ふか)き
005執着心(しふちやくしん)に駆(か)られつつ
006三(み)つの宝(たから)の所在(ありか)をば
007諸越山(もろこしやま)の果(は)て迄(まで)も
008探(さが)し当(あ)てねば措(お)くものか
009仮令(たとへ)蛇(じや)となり鬼(おに)となり
010屍(かばね)は野(の)べに曝(さら)すとも
011海(うみ)の藻屑(もくづ)となるとても
012此(この)一念(いちねん)を晴(は)らさねば
013大和(やまと)魂(だましひ)が立(た)つものか
014日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)と
015自(みづか)ら謳(うた)うた手前(てまへ)ある
016愈(いよいよ)実地(じつち)を嗅出(かぎだ)して
017日(ひ)の出神(でのかみ)の神力(しんりき)を
018現(あら)はし呉(く)れむと夜叉姿(やしやすがた)
019髪(かみ)振(ふ)り乱(みだ)し海風(かいふう)に
020身(み)を梳(くしけづ)り荒浪(あらなみ)を
021乗(の)り切(き)り乗(の)り切(き)り漸(やうや)くに
022高砂沖(たかさごおき)にと着(つ)きにける。
023船頭(せんどう)『もしもしお客(きやく)さま、024右手(みぎて)に見(み)ゆるはあれが有名(いうめい)な高砂(たかさご)の森(もり)、025それから続(つづ)いて石(いし)の宝殿(ほうでん)、026曽根(そね)の松(まつ)の名所(めいしよ)、027如何(どう)です、028一寸(ちよつと)彼処(あそこ)へお寄(よ)りになつては』
029高姫(たかひめ)『や、030妾(わし)はそんな事(こと)どころぢやない。031一時(ひととき)も早(はや)く家島(えじま)迄(まで)行(ゆ)かねばならぬのだ。032お前(まへ)、033御(ご)苦労(くらう)だが何卒(どうぞ)気張(きば)つて一刻(いつこく)でも早(はや)く漕(や)つて下(くだ)さい。034それそれ後(あと)から今(いま)の五(ご)人(にん)の悪党者(あくたうもの)が追(お)ひ駆(かけ)て来(く)る。035追(お)ひ付(つ)かれては大変(たいへん)だからなア』
036船頭(せんどう)『儂(わし)も力(ちから)一杯(いつぱい)漕(こ)いで居(を)るのだが、037何(なん)と言(い)うても向方(むかう)は五(ご)人(にん)だから、038交(かは)る交(がは)る身体(からだ)を休(やす)め以(もつ)て来(く)るのだから旨(うま)いものだ。039然(しか)し乍(なが)ら儂(わし)も此(この)界隈(かいわい)にては艪(ろ)では名(な)を売(う)つたもの、040船頭(せんどう)の東助(とうすけ)と言(い)へば名高(なだか)い者(もの)ですよ。041其(その)代(かは)り賃銀(ちんぎん)は他人(ひと)の三人前(さんにんまへ)払(はら)うて貰(もら)はねばなりませぬ』
042高姫(たかひめ)『三倍(さんばい)でも五倍(ごばい)でも十倍(じふばい)でも構(かま)ふものか。043一歩(ひとあし)でも早(はや)く着(つ)きさへすれば払(はら)つてやる。044然(しか)し一歩(ひとあし)でも後(おく)れる様(やう)の事(こと)があつては矢張(やつぱり)三人前(さんにんまへ)ほか払(はら)ひませぬぞや』
045東助(とうすけ)『有難(ありがた)う、046それなら是(これ)から一気張(ひときば)り致(いた)しませう。047何程(なにほど)上手(じやうず)な者(もの)でも此(この)東助(とうすけ)には叶(かな)ひませぬからな』
048と捩鉢巻(ねぢはちまき)を締(し)め浸黒(しぐろ)い膚(はだへ)を出(だ)して凩(こがらし)に向(むか)ひ汗(あせ)を流(なが)し乍(なが)ら、049一層(いつそう)烈(はげ)しく艪(ろ)を漕出(こぎだ)した。
050高姫(たかひめ)『これこれ、051船頭(せんどう)さま、052左手(ひだりて)に饅頭(まんじう)の様(やう)な島(しま)が浮(う)いて居(ゐ)るが、053あれは何(なん)と言(い)ふ島(しま)だい』
054船頭(せんどう)『あれですか、055あれは瀬戸(せと)の海(うみ)の一(ひと)つ島(じま)と言(い)ひ神島(かみしま)とも言(い)ひましてな、056それはそれは恐(おそ)ろしい島(しま)ですよ。057昔(むかし)から私(わたくし)の様(やう)な船頭(せんどう)でも寄(よ)りついた事(こと)は無(な)いのですから』
058高姫(たかひめ)『あの島(しま)へ去年(きよねん)の五(ご)月(ぐわつ)の五日(いつか)に船(ふね)を漕(こ)いで行(い)つた女(をんな)があるだらう。059お前(まへ)、060聞(き)いて居(を)るだらうなア』
061東助(とうすけ)『滅相(めつさう)も無(な)い事(こと)仰有(おつしや)いますな。062常(つね)の日(ひ)でさへも彼(あ)の島(しま)へ船(ふね)は着(つ)きませぬ。063况(ま)して五月(ごぐわつ)五日(いつか)と言(い)へば神島(かみしま)の神(かみ)様(さま)が高砂(たかさご)の森(もり)へお渡(わた)り遊(あそ)ばす日(ひ)だから、064船頭(せんどう)は総休(そうやす)みです。065此(この)辺(へん)一帯(いつたい)は昔(むかし)から五日(いつか)の日(ひ)に限(かぎ)つて船(ふね)は出(だ)しませぬ。066万一(まんいち)我慢(がまん)をして船(ふね)を出(だ)さうものなら、067忽(たちま)ち船(ふね)は顛覆(てんぷく)し生命(いのち)をとられて仕舞(しま)ふのだから、068何処(どこ)の阿呆(あはう)だつて、069そんな日(ひ)に船(ふね)を出(だ)したり恐(おそ)ろしい神島(かみしま)などへ渡(わた)りますものか』
070高姫(たかひめ)『あの島(しま)には何(なに)か宝物(ほうもつ)でも隠(かく)してある様(やう)な噂(うはさ)は聞(き)きはせぬかな』
071東助(とうすけ)『沢山(たくさん)の船頭(せんどう)に交際(つきあつ)て居(ゐ)ますが、072そんな話(はなし)の気(け)位(くらゐ)も聞(き)いた事(こと)はありませぬワイ。073神(かみ)様(さま)の話(はなし)を言(い)つても海(うみ)が荒(あ)れると言(い)ふ位(くらゐ)だから、074もう此(この)話(はなし)は是(これ)きりにして下(くだ)さい』
075高姫(たかひめ)『さうかなア、076矢張(やつぱり)さうすると家島(えじま)に違(ちが)ひない。077さア早(はや)く頼(たの)みます』
078東助(とうすけ)『承知(しようち)しました』
079と一生(いつしやう)懸命(けんめい)、080向(むか)う風(かぜ)に逆(さか)らひつつ漸(やうや)く家島(えじま)の岸(きし)に着(つ)いた。
081高姫(たかひめ)『あゝ御(ご)苦労(くらう)だつた。082流石(さすが)は東助(とうすけ)さま、083よう早(はや)う着(つ)けて下(くだ)さつた。084お礼(れい)は沢山(たくさん)に致(いた)しますぞえ、085後(あと)からの連中(れんちう)が来(き)ても妾(わし)が此(この)山(やま)へ登(のぼ)つたと言(い)つてはいけませぬぞえ。086若(も)しも尋(たづ)ねたら、087高姫(たかひめ)は神島(かみしま)に上(あ)がらしやつたと言(い)うてお呉(く)れ、088屹度(きつと)だよ』
089東助(とうすけ)『はい、090承知(しようち)致(いた)しました』
091 高姫(たかひめ)はパタパタと忙(いそが)がしげに老樹(らうじゆ)こもれる山林(さんりん)の中(なか)に姿(すがた)を隠(かく)して仕舞(しま)つた。092東助(とうすけ)は只(ただ)一人(ひとり)舷(ふなばた)に腰(こし)を掛(か)け松葉(まつば)煙草(たばこ)をくゆらして居(ゐ)る。
093 半時(はんとき)ばかり経(た)つと、094玉能姫(たまのひめ)の一行(いつかう)を乗(の)せた小船(こぶね)は矢(や)を射(い)る如(ごと)く此(この)場(ば)に寄(よ)り来(きた)り、
095玉能姫(たまのひめ)『あ、096お前(まへ)さまは高姫(たかひめ)さまを乗(の)せて来(き)た船頭(せんどう)さま、097まア御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)いましたな。098高姫(たかひめ)さまは此(この)山(やま)へお登(のぼ)りでしたか』
099東助(とうすけ)『え……その……何(なん)で……御座(ござ)います』
100と頭(あたま)をガシガシ掻(か)いて居(ゐ)る。101其(その)間(ま)に船(ふね)は岩端(いはばた)に繋(つな)がれ五(ご)人(にん)は上陸(じやうりく)した。
102玉能姫(たまのひめ)『あなたの乗(の)せた来(き)た女(をんな)の方(かた)は此(この)山(やま)へ登(のぼ)られましたか』
103東助(とうすけ)『はい、104登(のぼ)られたか、105登(のぼ)られぬか、106つい……昼寝(ひるね)をして居(を)つたものですから根(ね)つから分(わか)りませぬ。107貴女(あなた)等(がた)が若(も)し此処(ここ)へおいでになつてお尋(たづ)ねになつたら、108神島(かみしま)へ行(い)かしやつたでせう』
109鶴公(つるこう)『ハヽヽヽヽ、110何(なん)と歯切(はぎ)れのせぬ、111どつちやへも付(つ)かずの答(こたへ)だな。112一体(いつたい)船頭(せんどう)さま、113お前(まへ)は神島(かみしま)へ寄(よ)つたのかい』
114東助(とうすけ)『滅相(めつさう)も無(な)い、115誰(たれ)があんな所(ところ)へ寄(よ)せ着(つ)けますかい』
116鶴公(つるこう)『そんなら、117如何(どう)して高姫(たかひめ)さまが神島(かみしま)へ寄(よ)つたのだ、118実(じつ)の処(ところ)は此(この)家島(えじま)へ着(つ)いたのだけれど、119神島(かみしま)へだと言(い)つてスコタンを喰(く)はして呉(く)れと頼(たの)まれたのだらう。120それに違(ちが)ひない。121お前(まへ)は船頭(せんどう)に似合(にあ)はず腹(はら)の黒(くろ)い者(もの)だな』
122東助(とうすけ)『何(なに)を言(い)つても金(かね)のもの言(い)ふ世(よ)の中(なか)ですからな。123船頭(せんどう)だつて金儲(かねまう)けは矢張(やつぱり)大切(たいせつ)ですワイ』
124鶴公(つるこう)『ハヽヽヽヽ、125分(わか)つた分(わか)つた、126てつきり此(この)島(しま)だ。127玉能姫(たまのひめ)様(さま)、128さア早(はや)く登(のぼ)りませうか。129貴女(あなた)の大切(たいせつ)な宝(たから)を掘(ほ)り出(だ)して呑(の)まれて了(しま)はれちや大変(たいへん)ですぜ』
130玉能姫(たまのひめ)『それもさうですが、131余(あんま)り慌(あわて)るには及(およ)びませぬ。132探(さが)すと言(い)つたつて是(これ)だけ広(ひろ)い島(しま)、133さう容易(ようい)に見当(みあた)るものぢやありませぬわ、134まア一服(いつぷく)致(いた)しませう』
135貫州(くわんしう)『玉能姫(たまのひめ)様(さま)の仰有(おつしや)る通(とほ)り慌(あわて)るには及(およ)ばぬぢやないか。136高姫(たかひめ)は高姫(たかひめ)で勝手(かつて)に探(さが)すだらう、137一(いち)日(にち)や二日(ふつか)歩(ある)いたつて探(さが)しきれるものぢやないから。138まア、139玉能姫(たまのひめ)様(さま)、140先(ま)づゆつくりとさして貰(もら)ひませう。141随分(ずゐぶん)疲労(くたぶ)れましたから』
142玉能姫(たまのひめ)『あ、143さう為(な)さいませ。144私(わたし)は実(じつ)の所(ところ)、145宝(たから)の所在(ありか)は存(ぞん)じませぬ。146只(ただ)一度(いちど)手(て)に触(ふ)れた計(ばか)り、147後(あと)は竜神(りうじん)様(さま)が何処(どつ)かへお隠(かく)しなされたのですから……此(この)広(ひろ)い世界(せかい)の何処(どこ)かの島(しま)に隠(かく)してあるのでせう。148妾(わたし)が此処(ここ)へ追(お)つ駆(かけ)てきたのは、149高姫(たかひめ)様(さま)のお身(み)の上(うへ)を案(あん)じ、150お気(き)が違(ちが)うては居(を)らぬかと、151宣伝使(せんでんし)としてまさかの時(とき)にお助(たす)け申(まを)さうと思(おも)つて来(き)たのですから、152斯(こ)んな危(きつ)い山(やま)に上(あが)るのは止(よ)しませう。153まアまア木蔭(こかげ)へでも這入(はい)つて、154風(かぜ)の当(あた)らぬ暖(ぬく)い処(ところ)で日向(ひなた)ぼつこりを致(いた)しませう』
155と先(さき)に立(た)ち二三丁(にさんちやう)山(やま)を登(のぼ)り、156日当(ひあた)りよき処(ところ)にて休息(きうそく)する。157見(み)れば非常(ひじやう)に大(おほ)きな清水(しみづ)を漂(ただよ)はした池(いけ)が展開(てんかい)して居(ゐ)る。
158鶴公(つるこう)『何(なん)と好(い)い景色(けしき)で御座(ござ)いますな。159こんな高(たか)い山(やま)に大(おほ)きな池(いけ)があるとは不思議(ふしぎ)ですわ』
160玉能姫(たまのひめ)『此処(ここ)は陸(あげ)の竜宮(りうぐう)かも知(し)れませぬな』
161東助(とうすけ)『此(この)島(しま)には斯(こ)んな小(ちひ)さい池(いけ)だけぢやありませぬ。162山(やま)の頂上(ちやうじやう)にも中(なか)程(ほど)にも大変(たいへん)大(おほ)きな深(ふか)い池(いけ)があつて、163底(そこ)知(し)らずぢやと言(い)ふ事(こと)です。164実(じつ)に不思議(ふしぎ)な島(しま)ですわ。165此(この)広(ひろ)い島(しま)に昔(むかし)から誰一人(たれひとり)住(す)んだ人(ひと)がないのも一(ひと)つの不思議(ふしぎ)、166何(なん)でも大(おほ)きな大蛇(だいじや)が出(で)て来(き)て、167人(ひと)の臭(にほひ)がすると皆(みんな)呑(の)んで仕舞(しま)うといふ噂(うはさ)ですから、168誰(たれ)だつて、169此処(ここ)に住居(すまゐ)する者(もの)はありませぬ』
170貫州(くわんしう)『さうかな、171随分(ずゐぶん)恐(おそ)ろしい所(ところ)と見(み)えるわい。172斯(こ)んな所(とこ)に一人(ひとり)放(ほ)かして置(お)かれたら堪(たま)るまいなア』
173清公(きよこう)『そりや、174さうとも。175誰(たれ)だつてやりきれないわ』
176 色々(いろいろ)雑談(ざつだん)に耽(ふけ)り一時(ひととき)ばかり光陰(くわういん)を空費(くうひ)した。
177貫州(くわんしう)『さア玉能姫(たまのひめ)様(さま)、178高姫(たかひめ)さまは屹度(きつと)此(この)山(やま)の頂上(ちやうじやう)さして登(のぼ)られたに違(ちが)ひありませぬ。179宝(たから)を先(さき)に掘(ほ)り出(だ)し呑(の)まれて仕舞(しま)つては大変(たいへん)ですから、180ボツボツと出掛(でか)けませうな』
181玉能姫(たまのひめ)『妾(わたし)は少(すこ)し足(あし)を痛(いた)めましたから、182此処(ここ)に休(やす)んで待(ま)つて居(ゐ)ます。183何卒(どうぞ)御(ご)苦労(くらう)だが貴方(あなた)等(がた)五人(ごにん)連(づ)れ行(い)つて下(くだ)さい』
184貫州(くわんしう)『いや、185それはなりませぬ。186もう斯(こ)うなれば本音(ほんね)を吹(ふ)くが、187吾々(われわれ)は絶対(ぜつたい)に高姫(たかひめ)崇拝者(すうはいしや)だ。188こりや、189お節(せつ)、190斯(こ)うなる以上(いじやう)はジタバタしてもあかないぞ。191綺麗(きれい)薩張(さつぱり)と玉(たま)の所在(ありか)を白状(はくじやう)致(いた)せ。192四(し)の五(ご)のと吐(ぬか)すが最後(さいご)、193此(この)池(いけ)へ岩(いは)を括(くく)り着(つ)け、194四(よ)人(にん)の荒男(あらをとこ)が放(ほ)り込(こ)んで仕舞(しま)ふが如何(どう)だ』
195玉能姫(たまのひめ)『今更(いまさら)そんな啖呵(たんか)をきらなくても、196淡路島(あはぢしま)より船(ふね)を出(だ)した時(とき)から、197高姫(たかひめ)と八百長(やほちやう)喧嘩(げんくわ)をし、198目(め)と目(め)と合図(あひづ)をして居(ゐ)たでせう。199そんな事(こと)の分(わか)らぬ玉能姫(たまのひめ)ですか。200そんな嚇(おど)し文句(もんく)を並(なら)べたつて迂濶(うつかり)と乗(の)る様(やう)な不束(ふつつか)な女(をんな)とはチツと違(ちが)ひますぞ。201繊弱(かよわ)き女(をんな)と思(おも)ひ侮(あなど)つての其(その)暴言(ばうげん)、202此(この)玉能姫(たまのひめ)は斯(こ)う見(み)えても若彦(わかひこ)が妻(つま)、203教主(けうしゆ)言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)より御(ご)信任(しんにん)を辱(かたじけな)ふした抜目(ぬけめ)のない女(をんな)です。204お前(まへ)さん等(ら)の五(ご)人(にん)や十(じふ)人(にん)が何程(なにほど)捩鉢巻(ねぢはちまき)をして気張(きば)つた処(ところ)で何(なん)になりますか。205ウンと一声(ひとこゑ)、206霊縛(れいばく)をかけるが最後(さいご)、207気(き)の毒(どく)乍(なが)ら万劫(まんご)末代(まつだい)動(うご)きのとれぬ石地蔵(いしぢざう)になつて仕舞(しま)ひますよ。208それでも御(ご)承知(しようち)なら、209何(なん)なりと試(こころ)みにやつて御覧(ごらん)』
210貫州(くわんしう)『あゝ仕方(しかた)の無(な)い女(をんな)だなあ』
211鶴公(つるこう)『もしもし玉能姫(たまのひめ)様(さま)、212嘘言(うそ)ですよ。213貫州(くわんしう)はいつもあんな狂言(きやうげん)をやつて空威張(からゐば)りをする癖(くせ)があるのです。214アハヽヽヽ』
215東助(とうすけ)『何(なん)だ、216お前(まへ)達(たち)は山賊(さんぞく)か知(し)らぬと思(おも)つたら、217此(この)山中(さんちう)で気楽(きらく)さうに芝居(しばゐ)をしてゐるのか、218随分(ずゐぶん)下手(へた)な芝居(しばゐ)だなア』
219玉能姫(たまのひめ)『何(なん)でも宜(よろ)しいよ。220之(これ)から高姫(たかひめ)さまに会(あ)うて玉(たま)の所在(ありか)でも知(し)らして上(あ)げませうかな』
221貫州(くわんしう)『やア流石(さすが)は玉能姫(たまのひめ)様(さま)ぢや。222実(じつ)に立派(りつぱ)な御(ご)精神(せいしん)、223貫州(くわんしう)誠(まこと)に感服(かんぷく)仕(つかまつ)りました。224宣伝使(せんでんし)はさうでなくては往(ゆ)きますまい。225堅(かた)いばつかりが女(をんな)ぢや御座(ござ)いませぬ。226まアよう其処(そこ)まで打解(うちと)けて下(くだ)さいました。227貴女(あなた)がさう出(で)て下(くだ)されば、228敵(てき)もなく味方(みかた)もなく三五教(あななひけう)は益々(ますます)天下(てんか)泰平(たいへい)、229大発展(だいはつてん)は火(ひ)を睹(み)る如(ごと)く明(あきら)かで御座(ござ)います。230さア玉能姫(たまのひめ)様(さま)、231お手(て)を引(ひ)いて上(あ)げませうか。232……おい清公(きよこう)、233貴様(きさま)はお腰(こし)を押(お)してお上(あ)げ申(まを)せ。234俺(おれ)はお手(て)を引(ひ)いて此(この)急坂(きふはん)を登(のぼ)るから』
235玉能姫(たまのひめ)『ホヽヽヽヽ、236年寄(としより)か何(なん)ぞの様(やう)に如何(いか)に女(をんな)の身(み)なればとて、237これしきの山(やま)が苦(くる)しうて如何(どう)なりますか。238何卒(どうぞ)お構(かま)ひ下(くだ)さいますな。239さアさアお先(さき)へお上(あが)り下(くだ)さい。240妾(わたし)は一番(いちばん)後(あと)から参(まゐ)ります』
241貫州(くわんしう)『いや、242さうはなりませぬ。243高姫(たかひめ)さまの御(ご)命令(めいれい)ですから……オツトドツコイ……そりや嘘言(うそ)だ。244中途(ちうと)に逃(に)げられては虻蜂(あぶはち)とらずになつて仕舞(しま)ふ。245あゝ迂濶(うつかり)副守(ふくしゆ)の奴(やつ)、246囁(ささや)来(き)よつた。247もしもし玉能姫(たまのひめ)様(さま)、248此奴(こいつ)ア皆(みんな)私(わたくし)に憑依(ひようい)してる野天狗(のてんぐ)が混(ま)ぜ返(かへ)すのだから、249お心(こころ)に触(さ)へて下(くだ)さいますな』
250玉能姫(たまのひめ)『霊肉(れいにく)一致(いつち)の野天狗(のてんぐ)様(さま)が仰有(おつしや)つたのでせう、251ホヽヽヽヽ左様(さやう)なれば貴方(あなた)等(がた)の御(ご)心配(しんぱい)成(な)さらぬ様(やう)に真(ま)ん中(なか)に参(まゐ)りませう。252玉能姫(たまのひめ)が逃(に)げない様(やう)に十分(じふぶん)御(ご)監督(かんとく)なされませ』
253貫州(くわんしう)『別(べつ)に貴女(あなた)を監督(かんとく)する必要(ひつえう)もありませず、254悪(わる)い所(ところ)へ気(き)を廻(まは)して貰(もら)つては困(こま)りますよ』
255玉能姫(たまのひめ)『何(いづ)れそちらは高姫(たかひめ)様(さま)を加(くは)へて荒男(あらをとこ)や神力(しんりき)の強(つよ)い方(かた)が六(ろく)人(にん)、256此方(こちら)は一人(ひとり)、257到底(たうてい)衆寡(しうくわ)敵(てき)しますまい。258一層(いつそう)の事(こと)此(この)池(いけ)へ飛(と)び込(こ)んで死(し)にませうかな』
259鶴公(つるこう)『それは何(なん)と云(い)ふ事(こと)を仰有(おつしや)るのだ。260死(し)ぬのはお前(まへ)さんの勝手(かつて)だ。261然(しか)し乍(なが)ら此方(こちら)が困(こま)る、262宝(たから)の所在(ありか)を白状(はくじやう)した上(うへ)では死(し)ぬるなつと生(いき)るなつと勝手(かつて)になされ。263それ迄(まで)はどうあつてもお前(まへ)に死(し)なれては高姫(たかひめ)さまの願望(ぐわんばう)が成就(じやうじゆ)致(いた)しませぬから、264何程(なにほど)死(し)なうと踠(もが)いたつて、265斯(こ)う五(ご)人(にん)の荒男(あらをとこ)が付(つ)いて居(ゐ)る以上(いじやう)は駄目(だめ)ですよ。266観念(かんねん)なさいませ、267あゝ然(しか)し乍(なが)ら可惜(あつたら)美人(びじん)を死(し)なすのも勿体(もつたい)ないものだなア』
268玉能姫(たまのひめ)『それでお前(まへ)さま達(たち)の腹(はら)の底(そこ)はすつかり分(わか)りました。269妾(わたし)にも覚悟(かくご)がある』
270と言(い)ふより早(はや)く後(あと)から跟(つ)いて来(く)る三(さん)人(にん)を苦(く)も無(な)く突倒(つきこか)し、271急坂(きふはん)目蒐(めが)けて韋駄天(ゐだてん)走(ばし)りに元来(もとき)し道(みち)へ降(くだ)り来(く)る。272五(ご)人(にん)は捩鉢巻(ねぢはちまき)を締(し)め乍(なが)ら、
273五(ご)人(にん)『オーイ、274玉能姫(たまのひめ)、275待(ま)つた、276逃(に)がして堪(たま)らうか、277おいおい皆(みな)の奴(やつ)、278彼奴(あいつ)が船(ふね)に乗(の)る迄(まで)に引(ひ)つ掴(つか)まへねばなるまい。279さア急(いそ)げ急(いそ)げ』
280と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に追(お)つ駆(か)ける。281玉能姫(たまのひめ)は阿修羅(あしゆら)王(わう)の如(ごと)く髪(かみ)振(ふ)り乱(みだ)し、282血相(けつさう)を変(か)へて力限(ちからかぎ)りに下(くだ)り来(きた)る。283道(みち)の真(ま)ん中(なか)に大手(おほて)を拡(ひろ)げて立(た)ち現(あら)はれた一人(ひとり)の婆(ばば)は高姫(たかひめ)であつた。
284高姫(たかひめ)『オホヽヽヽ、285到頭(たうとう)高姫(たかひめ)の計略(けいりやく)にかかり此(この)島(しま)まで引摺(ひきず)り廻(まは)されて来(き)よつた。286いい馬鹿者(ばかもの)だな。287さアもう斯(こ)うなる以上(いじやう)は何程(なにほど)踠(もが)いても駄目(だめ)だ。288何処(どこ)にお宝(たから)を隠(かく)したのか、289神妙(しんめう)に白状(はくじやう)するが宜(よ)い。290此(この)期(ご)に及(およ)んで愚図(ぐづ)々々(ぐづ)言(い)ふなら、291お前(まへ)の生命(いのち)でもとつて仕舞(しま)ふまいものでもない。292此(この)高姫(たかひめ)の身(み)の上(うへ)にもなつて見(み)て貰(もら)ひ度(た)い。293いい年(とし)をして、294お前(まへ)の様(やう)な若(わか)い女(をんな)や初稚姫(はつわかひめ)の様(やう)なコメツチヨに馬鹿(ばか)にしられて、295如何(どう)して世(よ)の中(なか)が歩(ある)けませうぞ。296賢(かしこ)相(さう)でも流石(さすが)は若(わか)い丈(だ)けあつて、297肝腎(かんじん)の知慧(ちゑ)がぬけて居(ゐ)る。298さア如何(どう)ぢや、299玉能姫(たまのひめ)、300もはや否応(いやおう)はあるまい』
301玉能姫(たまのひめ)『オホヽヽヽ、302何処(どこ)までも疑(うたが)ひ深(ぶか)い訳(わけ)の分(わか)らぬ方(かた)ですこと。303知(し)らぬ事(こと)は何(なん)と仰(あふ)せられても知(し)りませぬ。304仮令(たとへ)首(くび)が千切(ちぎ)れても言(い)はぬと云(い)つたら言(い)ひませぬから、305其(その)心組(つもり)で覚悟(かくご)遊(あそ)ばせ』
306 斯(か)く争(あらそ)ふ処(ところ)へ五(ご)人(にん)の男(をとこ)、307地響(ぢひび)き打(う)たせ乍(なが)ら此(この)場(ば)にドヤドヤとやつて来(き)た。308玉能姫(たまのひめ)の身辺(しんぺん)は危機(きき)一髪(いつぱつ)に迫(せま)つて来(き)た。309流石(さすが)の玉能姫(たまのひめ)も進退(しんたい)谷(きは)まり如何(いかが)はせむと案(あん)じつつ一生(いつしやう)懸命(けんめい)に『木花姫(このはなひめの)命(みこと)助(たす)け給(たま)へ』と祈願(きぐわん)を籠(こ)めた。310忽(たちま)ち四辺(しへん)は濃霧(のうむ)に包(つつ)まれ咫尺(しせき)を弁(べん)ぜず、311恰(あだか)も白襖(しろふすま)を立(た)てた如(ごと)く見(み)えなくなつて仕舞(しま)つたのを幸(さいは)ひ、312玉能姫(たまのひめ)は少(すこ)しく道(みち)を横(よこ)にとり、313あと振(ふ)り返(かへ)り見(み)れば濃霧(のうむ)は高姫(たかひめ)一派(いつぱ)の附近(ふきん)に極限(きよくげん)され、314外(そと)は一面(いちめん)の快晴(くわいせい)である。315玉能姫(たまのひめ)は神恩(しんおん)を感謝(かんしや)し乍(なが)ら磯端(いそばた)に漸(やうや)く辿(たど)り着(つ)いた。
316 玉能姫(たまのひめ)の消息(せうそく)如何(いか)にと案(あん)じ煩(わづら)ひ、317虻(あぶ)、318蜂(はち)の両人(りやうにん)は一艘(いつそう)の船(ふね)を操(あやつ)り乍(なが)ら、319丁度(ちやうど)此(この)場(ば)についた所(ところ)である。
320玉能姫(たまのひめ)『ア、321お前(まへ)は虻(あぶ)、322蜂(はち)の両人(りやうにん)、323よう来(き)て下(くだ)さつた。324話(はなし)はまア後(あと)でゆつくりしよう』
325虻公(あぶこう)『何卒(どうぞ)此(この)船(ふね)に乗(の)つて下(くだ)さい』
326玉能姫(たまのひめ)『いえいえ妾(わたし)は乗(の)つて来(き)た船(ふね)がある。327一人(ひとり)で操(あやつ)つて帰(かへ)りますから、328お前(まへ)さまは其(その)儘(まま)妾(わたし)に従(つ)いて帰(かへ)つて下(くだ)さい』
329と言(い)ふより早(はや)く船(ふね)に飛(と)び乗(の)り、330高姫(たかひめ)の乗(の)り来(きた)りし船(ふね)の綱(つな)を解(と)き放(はな)ち、331波(なみ)のまにまに漂(ただよ)はせ置(お)き二艘(にそう)の船(ふね)は矢(や)を射(い)る如(ごと)く再度山(ふたたびやま)の麓(ふもと)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
332(大正一一・六・一二 旧五・一七 北村隆光録)
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