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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第23巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 南海の山
第1章 玉の露
第2章 副守囁
第3章 松上の苦悶
第4章 長高説
第2篇 恩愛の涙
第5章 親子奇遇
第6章 神異
第7章 知らぬが仏
第8章 縺れ髪
第3篇 有耶無耶
第9章 高姫騒
第10章 家宅侵入
第11章 難破船
第12章 家島探
第13章 捨小舟
第14章 籠抜
第4篇 混線状態
第15章 婆と婆
第16章 蜈蚣の涙
第17章 黄竜姫
第18章 波濤万里
霊の礎(八)
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第23巻(戌の巻)
> 第1篇 南海の山 > 第3章 松上の苦悶
<<< 副守囁
(B)
(N)
長高説 >>>
第三章
松上
(
しようじやう
)
の
苦悶
(
くもん
)
〔七一五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
篇:
第1篇 南海の山
よみ(新仮名遣い):
なんかいのやま
章:
第3章 松上の苦悶
よみ(新仮名遣い):
しょうじょうのくもん
通し章番号:
715
口述日:
1922(大正11)年06月10日(旧05月15日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
若彦の館を訪れた三人の客とは、案の定杢助、国依別、玉治別であった。若彦が、先ほど館に魔我彦・竹彦がやってきたことを告げると、三人は青山峠で魔我彦たちが、国依別と玉治別を殺害しようとしたことを明かした。
若彦は驚いたが、杢助は一計を案じて若彦に授けた。若彦はそ知らぬふりをして、魔我彦・竹彦が待つ客室に戻ってきた。そして、信者で病気になっている者があるから後で鎮魂を施してほしい、と魔我彦に頼み、それまで館で休んでいるように伝えた。
魔我彦は若彦の様子や、三人の来客ということから、杢助たちがやってきて事が露見したのではないかと気を揉む。そこで様子を探ろうと竹彦に神懸りをやらせた。
竹彦の神懸りは八岐大蛇の眷属だと名乗り、杢助・国依別・玉治別がやってきて復讐を企んでいるから、あきらめて自害しろと魔我彦に告げた。魔我彦が何とかして助けてくれ、と頼むと、八岐大蛇の眷属は庭の松の木の上に登れ、と命じた。
松の木の下には杢助らがやってきた。杢助は二人を雷のような声で怒鳴りつけた。魔我彦が八岐大蛇の眷属に助けを求めると、八岐大蛇の眷属は松の木の上から紫の雲に乗せて救ってやるから飛び降りろ、と命じた。
魔我彦と竹彦は、松の木の上から飛び降りて真っ逆さまに落下し、人事不省となった。国依別と玉治別は二人を介抱し、息を吹き返した。
魔我彦と竹彦を怨んでいるか、という杢助の問いかけに、国依別・玉治別は揃って毛筋ほども怨みの心はない、と宣言した。
また杢助は高姫一派の姦計を白状するようにと魔我彦・竹彦に迫るが、魔我彦は高姫との約束を破るわけにはいかない、と拒否した。杢助は約束を守ろうという良心がまだ魔我彦に残っているとして、追及をやめた。
杢助はこれまでの経緯を宣伝歌に歌うと、若彦・国依別・玉治別には三国ケ岳の探検を命じ、自分は魔我彦と竹彦を連れて聖地に帰ることとなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
宇都山郷(宇津山郷)
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-15 01:38:23
OBC :
rm2303
愛善世界社版:
39頁
八幡書店版:
第4輯 507頁
修補版:
校定版:
40頁
普及版:
17頁
初版:
ページ備考:
001
原野
(
げんや
)
を
遠
(
とほ
)
く
見晴
(
みは
)
らした
若彦館
(
わかひこやかた
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
招
(
せう
)
ぜられた
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
は、
002
杢助
(
もくすけ
)
、
003
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
004
国依別
(
くによりわけ
)
であつた。
005
若彦
(
わかひこ
)
『これはお
三人
(
さんにん
)
様
(
さま
)
、
006
打
(
う
)
ち
揃
(
そろ
)
うてよくも
御
(
お
)
入来
(
いで
)
下
(
くだ
)
さいました。
007
今
(
いま
)
も
今
(
いま
)
とて
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
の
噂
(
うはさ
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りました。
008
呼
(
よ
)
ぶより
誹
(
そし
)
れとはよう
云
(
い
)
つたものですなア』
009
杢助
(
もくすけ
)
『
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
の
命
(
めい
)
に
依
(
よ
)
つて、
010
紀
(
き
)
の
国
(
くに
)
へ
急遽
(
きふきよ
)
出張
(
しゆつちやう
)
致
(
いた
)
しました』
011
若彦
(
わかひこ
)
『
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
は、
012
矢張
(
やは
)
り
相変
(
あひかは
)
らず
勤
(
つと
)
めて
居
(
を
)
られますか』
013
杢助
(
もくすけ
)
『これは
又
(
また
)
妙
(
めう
)
なお
尋
(
たづ
)
ね、
014
教主
(
けうしゆ
)
が
変
(
かは
)
つてなるものですか』
015
若彦
(
わかひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さまは
何
(
ど
)
うなりました』
016
杢助
(
もくすけ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さまは
相変
(
あひかは
)
らず
聖地
(
せいち
)
で
働
(
はたら
)
いて
居
(
を
)
られます』
017
若彦
(
わかひこ
)
『ハテナ』と
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れる。
018
若彦
(
わかひこ
)
『
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
如何
(
どう
)
致
(
いた
)
しましたか』
019
杢助
(
もくすけ
)
『
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
とお
二人
(
ふたり
)
、
020
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
の
別殿
(
べつでん
)
にお
仕
(
つか
)
へになつて
居
(
を
)
ります。
021
併
(
しか
)
し
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
をお
尋
(
たづ
)
ねですな。
022
誰
(
たれ
)
か
当館
(
たうやかた
)
へ
来
(
き
)
た
者
(
もの
)
がありますか』
023
若彦
(
わかひこ
)
『ハイ、
024
先程
(
さきほど
)
魔我彦
(
まがひこ
)
、
025
竹彦
(
たけひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
参
(
まゐ
)
りました』
026
国依別
(
くによりわけ
)
は
是
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くより
俄
(
にはか
)
に
眉
(
まゆ
)
を
吊
(
つ
)
りあげ、
027
何
(
なん
)
と
無
(
な
)
しに
不穏
(
ふおん
)
な
色
(
いろ
)
を
顔面
(
がんめん
)
に
漂
(
ただよ
)
はした。
028
国依別
(
くによりわけ
)
『
其
(
そ
)
の
魔我彦
(
まがひこ
)
は
何処
(
どこ
)
に
参
(
まゐ
)
りましたか』
029
若彦
(
わかひこ
)
『
離
(
はな
)
れの
座敷
(
ざしき
)
で
休息
(
きうそく
)
して
居
(
を
)
られます』
030
杢助
(
もくすけ
)
『アハヽヽヽ、
031
これは
妙
(
めう
)
だ。
032
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬものだなア』
033
若彦
(
わかひこ
)
『
魔我彦
(
まがひこ
)
が
何
(
なに
)
を
致
(
いた
)
しましたか』
034
杢助
(
もくすけ
)
『イエ、
035
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
位
(
ぐらゐ
)
恐
(
おそ
)
ろしいものはありませぬ』
036
若彦
(
わかひこ
)
『
何
(
なん
)
だか、
037
そはそはと
両人
(
りやうにん
)
は
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますので、
038
これには
深
(
ふか
)
い
様子
(
やうす
)
のある
事
(
こと
)
と
思
(
おも
)
ひ、
039
どつこにも
逃
(
に
)
げないやうに
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
をもつて
監守
(
かんしゆ
)
さして
置
(
お
)
きました。
040
一体
(
いつたい
)
何
(
ど
)
んな
事
(
こと
)
をやつたのです』
041
杢助
(
もくすけ
)
は、
042
青山峠
(
あをやまたうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
より
谷底
(
たにぞこ
)
へ
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
043
国依別
(
くによりわけ
)
を
突
(
つ
)
き
落
(
おと
)
し、
044
殺害
(
さつがい
)
を
企
(
くはだ
)
てた
事
(
こと
)
を
小声
(
こごゑ
)
に
耳打
(
みみう
)
ちした。
045
若彦
(
わかひこ
)
は
倒
(
たふ
)
れむ
許
(
ばか
)
りに
打
(
う
)
ち
驚
(
おどろ
)
き、
046
若彦
(
わかひこ
)
『どこ
迄
(
まで
)
も
執念深
(
しふねんぶか
)
き
高姫
(
たかひめ
)
一派
(
いつぱ
)
の
奸計
(
かんけい
)
。
047
何
(
ど
)
うしても
金狐
(
きんこ
)
、
048
大蛇
(
をろち
)
、
049
悪鬼
(
あくき
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が
退
(
の
)
かぬと
見
(
み
)
えますな。
050
何
(
ど
)
う
致
(
いた
)
しませう。
051
此
(
この
)
儘
(
まま
)
追
(
お
)
ひ
帰
(
かへ
)
すか、
052
但
(
ただし
)
は
帰順
(
きじゆん
)
させるか
二
(
ふた
)
つに
一
(
ひと
)
つの
方法
(
はうはふ
)
を
執
(
と
)
らねばなりますまい』
053
杢助
(
もくすけ
)
『まア
私
(
わたし
)
に
任
(
まか
)
して
下
(
くだ
)
さい』
054
と
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
んでやや
思案
(
しあん
)
に
耽
(
ふけ
)
る。
055
暫
(
しばら
)
くありて
杢助
(
もくすけ
)
は
若彦
(
わかひこ
)
の
耳
(
みみ
)
に
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せた。
056
若彦
(
わかひこ
)
は
打
(
う
)
ち
頷
(
うなづ
)
き、
057
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
離
(
はな
)
れ
座敷
(
ざしき
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
058
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
059
若彦
(
わかひこ
)
『アヽ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
であつた。
060
各自
(
めいめい
)
自分
(
じぶん
)
の
部屋
(
へや
)
に
帰
(
かへ
)
つて
休息
(
きうそく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
061
……
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
062
竹彦
(
たけひこ
)
さま、
063
長
(
なが
)
らくお
待
(
ま
)
たせ
致
(
いた
)
しました。
064
嘸
(
さぞ
)
お
退屈
(
たいくつ
)
でせう』
065
魔我彦
(
まがひこ
)
『
何卒
(
どうぞ
)
お
構
(
かま
)
ひ
下
(
くだ
)
さいますな。
066
お
客
(
きやく
)
さまは
何
(
ど
)
うなりましたか』
067
若彦
(
わかひこ
)
『ハイ、
068
ほんの
近
(
ちか
)
くの
百姓
(
ひやくしやう
)
が
見
(
み
)
えましたので
御座
(
ござ
)
います。
069
何
(
いづ
)
れも
用
(
よう
)
をたして
帰
(
かへ
)
りました。
070
何卒
(
どうぞ
)
御悠
(
ごゆつ
)
くりとして
下
(
くだ
)
さい。
071
併
(
しか
)
し
一
(
ひと
)
つ
貴方
(
あなた
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
仕度
(
した
)
き
事
(
こと
)
が
御座
(
ござ
)
います』
072
魔我彦
(
まがひこ
)
『お
願
(
ねが
)
ひとは
何事
(
なにごと
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
073
若彦
(
わかひこ
)
『
実
(
じつ
)
は
熱心
(
ねつしん
)
な
信者
(
しんじや
)
が
病気
(
びやうき
)
にかかつて
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
籠
(
こも
)
つて
居
(
を
)
りますが、
074
何
(
ど
)
うも
怪
(
あや
)
しい
病気
(
びやうき
)
ですから、
075
一遍
(
いつぺん
)
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
鎮魂
(
ちんこん
)
を
願
(
ねが
)
ひ
度
(
た
)
いのです』
076
魔我彦
(
まがひこ
)
『
神徳
(
しんとく
)
の
充実
(
じゆうじつ
)
した
貴方
(
あなた
)
がゐらつしやるのに、
077
何
(
ど
)
うして
私
(
わたし
)
のやうな
者
(
もの
)
がお
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
ひませうか』
078
若彦
(
わかひこ
)
『あの
病人
(
びやうにん
)
は
何
(
ど
)
うしても
貴方
(
あなた
)
の
鎮魂
(
ちんこん
)
を
受
(
う
)
けなくては
癒
(
なほ
)
らないのです。
079
総
(
すべ
)
てものは
相縁
(
あひえん
)
奇縁
(
きえん
)
と
云
(
い
)
うて、
080
何程
(
なにほど
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
だと
云
(
い
)
うても、
081
意気
(
いき
)
の
合
(
あは
)
ぬものは
到底
(
たうてい
)
効能
(
かうのう
)
がありませぬ。
082
何卒
(
どうぞ
)
貴方
(
あなた
)
急
(
いそ
)
ぎませぬから、
083
お
休
(
やす
)
みになつたら
鎮魂
(
ちんこん
)
を
施
(
ほどこ
)
して
下
(
くだ
)
さい』
084
魔我彦
(
まがひこ
)
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
085
一
(
ひと
)
つ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
願
(
ねが
)
つて
見
(
み
)
ませう』
086
若彦
(
わかひこ
)
『
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
087
本人
(
ほんにん
)
も
喜
(
よろこ
)
ぶ
事
(
こと
)
でせう。
088
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
089
何
(
なに
)
か
物怪
(
もののけ
)
が
憑
(
つ
)
いて
居
(
を
)
ると
見
(
み
)
えて、
090
昼
(
ひる
)
は
平穏
(
へいおん
)
です。
091
夜分
(
やぶん
)
になつてから
一
(
ひと
)
つお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
しませう』
092
魔我彦
(
まがひこ
)
は
傲然
(
ごうぜん
)
として、
093
魔我彦
『ハイ
宜敷
(
よろし
)
い』
094
と
大
(
おほ
)
ぴらに
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
095
表
(
おもて
)
の
方
(
はう
)
には
杢助
(
もくすけ
)
、
096
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
097
国依別
(
くによりわけ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
小声
(
こごゑ
)
になりて、
098
何事
(
なにごと
)
か
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
099
若彦
(
わかひこ
)
は
二人
(
ふたり
)
に
向
(
むか
)
ひ、
100
若彦
(
わかひこ
)
『
些
(
すこ
)
しく
表
(
おもて
)
に
用
(
よう
)
が
御座
(
ござ
)
いますれば
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
します。
101
何卒
(
どうぞ
)
御悠
(
ごゆつ
)
くりと
今日
(
けふ
)
はお
休
(
やす
)
み
下
(
くだ
)
さいませ。
102
今晩
(
こんばん
)
お
世話
(
せわ
)
にならなくてはなりませぬから』
103
と
云
(
い
)
ひ
捨
(
すて
)
て
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
る。
104
後
(
あと
)
に
二人
(
ふたり
)
は
小声
(
こごゑ
)
になり、
105
魔我彦
(
まがひこ
)
『
何
(
ど
)
うも
怪
(
あや
)
しいぢやないか。
106
何
(
ど
)
うやら、
107
杢助
(
もくすけ
)
がやつて
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るやうな
気
(
き
)
がしてならぬ。
108
まかり
間違
(
まちが
)
へば
青山峠
(
あをやまたうげ
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
が
露見
(
ろけん
)
したのだなからうかなア』
109
竹彦
(
たけひこ
)
『
私
(
わたし
)
も
何
(
なん
)
だか
心持
(
こころもち
)
が
悪
(
わる
)
くなつて
来
(
き
)
た。
110
何
(
ど
)
うぞして
此処
(
ここ
)
を
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
す
工夫
(
くふう
)
はあるまいかなア』
111
魔我彦
(
まがひこ
)
『ひよつとしたら
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
、
112
谷底
(
たにぞこ
)
で
蘇生
(
そせい
)
したかも
知
(
し
)
れないぞ。
113
それなら
大変
(
たいへん
)
だ。
114
一
(
ひと
)
つお
前
(
まへ
)
神懸
(
かむがが
)
り
[
※
三版・御校正本・愛世版は「神懸り」、校定版は「神憑り」。
]
をやつて
見
(
み
)
て
呉
(
く
)
れ』
115
竹彦
(
たけひこ
)
は
言下
(
げんか
)
に
手
(
て
)
を
組
(
く
)
み、
116
瞑目
(
めいもく
)
した。
117
忽
(
たちま
)
ち
身体
(
しんたい
)
震動
(
しんどう
)
して、
118
竹彦
(
たけひこ
)
『ウヽヽ、
119
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
の
眷属
(
けんぞく
)
であるぞよ。
120
今
(
いま
)
表
(
おもて
)
に
杢助
(
もくすけ
)
、
121
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
122
国依別
(
くによりわけ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
現
(
あら
)
はれて、
123
今夜
(
こんや
)
を
待
(
ま
)
つて
復讐
(
ふくしう
)
せむとの
企
(
たく
)
みをやつて
居
(
を
)
るぞよ』
124
魔我彦
(
まがひこ
)
『それは
大変
(
たいへん
)
です、
125
何
(
なん
)
とかして
助
(
たす
)
かる
工夫
(
くふう
)
はありますまいか』
126
竹彦
(
たけひこ
)
『ウヽヽ、
127
もうかうなる
以上
(
いじやう
)
は、
128
館
(
やかた
)
の
周囲
(
ぐるり
)
は
荒男
(
あらをとこ
)
が
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
き
警戒
(
けいかい
)
して
居
(
ゐ
)
る。
129
力強
(
ちからづよ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
は
表
(
おもて
)
に
隠
(
かく
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
130
もはや
袋
(
ふくろ
)
の
鼠
(
ねずみ
)
、
131
両人
(
りやうにん
)
の
身体
(
からだ
)
は
逃
(
のが
)
れる
見込
(
みこみ
)
はあるまい』
132
魔我彦
(
まがひこ
)
『ハテ、
133
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
134
何
(
ど
)
うしたら
良
(
よ
)
からう』
135
と
顔色
(
かほいろ
)
を
変
(
か
)
へてまごつく。
136
竹彦
(
たけひこ
)
『ウヽヽ、
137
周章
(
あわて
)
るには
及
(
およ
)
ばぬ。
138
先
(
ま
)
づ
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ち
着
(
つ
)
けよ。
139
かういふ
時
(
とき
)
こそ
刹那心
(
せつなしん
)
が
必要
(
ひつえう
)
だ。
140
何
(
いづ
)
れ
人
(
ひと
)
を
呪
(
のろ
)
はば
穴
(
あな
)
二
(
ふた
)
つ、
141
天
(
てん
)
に
向
(
むか
)
つて
唾
(
つばき
)
したやうなものだ。
142
自業
(
じごう
)
自得
(
じとく
)
だ、
143
諦
(
あきら
)
めて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
命
(
いのち
)
をやつたらよからう』
144
魔我彦
(
まがひこ
)
は
益々
(
ますます
)
狼狽
(
うろた
)
へ、
145
魔我彦
(
まがひこ
)
『
命
(
いのち
)
惜
(
を
)
しさに
吾々
(
われわれ
)
は
信仰
(
しんかう
)
もし、
146
宣伝使
(
せんでんし
)
もやつて
居
(
ゐ
)
るのです。
147
そんな
事
(
こと
)
があつて
耐
(
たま
)
るものですか。
148
かういふ
所
(
ところ
)
を
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さるのが
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だ。
149
何
(
なん
)
とかよいお
指図
(
さしづ
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
150
竹彦
(
たけひこ
)
『ウンウン、
151
自業
(
じごう
)
自得
(
じとく
)
だ。
152
仕方
(
しかた
)
がない、
153
今
(
いま
)
表
(
おもて
)
に
折伏
(
しやくふく
)
の
剣
(
つるぎ
)
を
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
研
(
と
)
いで
居
(
ゐ
)
るぞ。
154
あの
業物
(
わざもの
)
で、
155
すつぱりとやられたら、
156
二人
(
ふたり
)
の
身体
(
からだ
)
は
見事
(
みごと
)
梨割
(
なしわ
)
りになるだらう、
157
ウフヽヽヽ』
158
魔我彦
(
まがひこ
)
『
何卒
(
なにとぞ
)
、
159
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
を
此処
(
ここ
)
から
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
160
もうこれきり
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
しますから……』
161
竹彦
(
たけひこ
)
『ウンウンウン、
162
先
(
ま
)
づ
周章
(
あわて
)
ずと
日
(
ひ
)
が
暮
(
くれ
)
る
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
つたらよからう。
163
何程
(
なにほど
)
謝罪
(
あやま
)
つた
所
(
ところ
)
で、
164
これだけ
大勢
(
おほぜい
)
強
(
つよ
)
い
奴
(
やつ
)
が
取巻
(
とりま
)
いて
居
(
ゐ
)
るから
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
はしない。
165
なまじいに
逃
(
に
)
げ
隠
(
かく
)
れ
致
(
いた
)
して、
166
名
(
な
)
もなき
奴
(
やつこ
)
に
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
られ
恥
(
はぢ
)
を
曝
(
さら
)
すよりも、
167
汝
(
なんぢ
)
が
持
(
も
)
てる
懐剣
(
くわいけん
)
で
刺違
(
さしちが
)
へて
死
(
し
)
んだがよからう。
168
それが
最善
(
さいぜん
)
の
方法
(
はうはふ
)
だ』
169
魔我彦
(
まがひこ
)
『この
不安
(
ふあん
)
状態
(
じやうたい
)
がどうして
今夜
(
こんや
)
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
てますか。
170
また
大切
(
たいせつ
)
な
一
(
ひと
)
つの
命
(
いのち
)
を、
171
さう
易々
(
やすやす
)
と
放
(
ほ
)
る
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまい』
172
竹彦
(
たけひこ
)
『ウヽヽ、
173
この
肉体
(
にくたい
)
も
可愛
(
かはい
)
さうなものだが、
174
其
(
その
)
方
(
はう
)
も
可愛
(
かはい
)
さうだ。
175
併
(
しか
)
し
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
176
国依別
(
くによりわけ
)
の
命
(
いのち
)
を
易々
(
やすやす
)
と
取
(
と
)
らうと
企
(
たく
)
んだ
張本人
(
ちやうほんにん
)
は
魔我彦
(
まがひこ
)
だから
仕方
(
しかた
)
がない、
177
観念
(
かんねん
)
致
(
いた
)
せ』
178
魔我彦
(
まがひこ
)
『これが
何
(
ど
)
うして
観念
(
かんねん
)
が
出来
(
でき
)
ませう』
179
竹彦
(
たけひこ
)
『ウヽヽ、
180
命
(
いのち
)
が
惜
(
をし
)
いか、
181
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
抓
(
つめ
)
つて
人
(
ひと
)
の
痛
(
いた
)
さを
知
(
し
)
れ、
182
貴様
(
きさま
)
が
命
(
いのち
)
の
惜
(
を
)
しいのも、
183
玉
(
たま
)
、
184
国
(
くに
)
両人
(
りやうにん
)
が
命
(
いのち
)
の
惜
(
を
)
しいのも
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だ。
185
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
186
玉
(
たま
)
、
187
国
(
くに
)
両人
(
りやうにん
)
は
常
(
つね
)
から
命
(
いのち
)
が
大切
(
たいせつ
)
だと
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
る
位
(
くらゐ
)
だから、
188
死
(
し
)
ぬのは
嫌
(
いや
)
なに
違
(
ちが
)
ひない。
189
それに
引
(
ひき
)
かへ
貴様
(
きさま
)
は
高姫
(
たかひめ
)
と
共
(
とも
)
に、
190
日々
(
にちにち
)
烏
(
からす
)
の
啼
(
な
)
くやうに
命
(
いのち
)
はいらぬ、
191
お
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
なら
仮令
(
たとへ
)
どうなつても
惜
(
を
)
しくないと
云
(
い
)
うて
居
(
を
)
るぢやないか。
192
命
(
いのち
)
の
無
(
な
)
くなるのは
貴様
(
きさま
)
の
日頃
(
ひごろ
)
の
願望
(
ぐわんもう
)
成就
(
じやうじゆ
)
ぢや、
193
こんな
目出度
(
めでた
)
い
事
(
こと
)
は
又
(
また
)
とあるまい。
194
アハヽヽヽ』
195
魔我彦
(
まがひこ
)
『
貴方
(
あなた
)
は
何
(
いづ
)
れの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが、
196
ちと
気
(
き
)
に
食
(
く
)
はぬ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
197
お
引取
(
ひきとり
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
198
竹彦
(
たけひこ
)
『ウヽヽ、
199
さうだらう、
200
気
(
き
)
に
食
(
く
)
はぬだらう。
201
尤
(
もつと
)
もぢや、
202
口先
(
くちさき
)
でこそ
命
(
いのち
)
はいらぬと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
つても、
203
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
な
時
(
とき
)
になると、
204
娑婆
(
しやば
)
に
未練
(
みれん
)
の
残
(
のこ
)
るのは
人間
(
にんげん
)
として、
205
普通
(
ふつう
)
一般
(
いつぱん
)
の
当然
(
たうぜん
)
の
執着心
(
しふちやくしん
)
だ。
206
その
執着心
(
しふちやくしん
)
を
取
(
と
)
らなければ、
207
誠
(
まこと
)
の
神業
(
しんげふ
)
は
成就
(
じやうじゆ
)
致
(
いた
)
さぬぞ』
208
魔我彦
(
まがひこ
)
『
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
なら
肉体
(
にくたい
)
を
持
(
も
)
つて
御用
(
ごよう
)
を
致
(
いた
)
し
度
(
た
)
う
御座
(
ござ
)
います。
209
アヽ
しま
つた
事
(
こと
)
をした。
210
何
(
ど
)
うしたらよからうかなア。
211
日
(
ひ
)
はだんだんと
暮
(
く
)
れて
来
(
く
)
る。
212
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
れば
何
(
ど
)
んな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はされるか
知
(
し
)
れやしない、
213
翼
(
つばさ
)
でもあれば、
214
たつて
帰
(
かへ
)
るのだけれど』
215
竹彦
(
たけひこ
)
『ウヽヽアハヽヽヽ、
216
それ
程
(
ほど
)
命
(
いのち
)
が
惜
(
を
)
しければ
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
申
(
まを
)
す
様
(
やう
)
に
致
(
いた
)
すか』
217
魔我彦
(
まがひこ
)
『
命
(
いのち
)
の
助
(
たす
)
かる
事
(
こと
)
なら
何
(
ど
)
んな
事
(
こと
)
でも
致
(
いた
)
します。
218
何
(
ど
)
うぞ
早
(
はや
)
く
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
219
竹彦
(
たけひこ
)
『ウンウンウン、
220
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
は
庭先
(
にはさき
)
のこの
松
(
まつ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
登
(
のぼ
)
り、
221
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
奏上
(
そうじやう
)
致
(
いた
)
せ。
222
さうすれば
天上
(
てんじやう
)
より
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
をもつて
汝
(
なんぢ
)
の
身体
(
からだ
)
を
迎
(
むか
)
へ
取
(
と
)
り、
223
安全
(
あんぜん
)
地帯
(
ちたい
)
に
送
(
おく
)
つてやらう。
224
何
(
ど
)
うぢや
嬉
(
うれ
)
しいか』
225
魔我彦
(
まがひこ
)
『ハイ、
226
助
(
たす
)
かる
事
(
こと
)
なれば
結構
(
けつこう
)
です。
227
そんなら
何時
(
いつ
)
から
登
(
のぼ
)
りませう』
228
竹彦
(
たけひこ
)
『
時
(
とき
)
遅
(
おく
)
れては
一大事
(
いちだいじ
)
、
229
半時
(
はんとき
)
の
猶予
(
いうよ
)
もならぬ。
230
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
登
(
のぼ
)
つてゆけ。
231
竹彦
(
たけひこ
)
の
肉体
(
にくたい
)
も
共
(
とも
)
に
登
(
のぼ
)
るのだぞ。
232
ウンウンウン』
233
と
云
(
い
)
ひながら
霊
(
れい
)
は
元
(
もと
)
に
帰
(
かへ
)
つた。
234
魔我彦
(
まがひこ
)
は
四辺
(
あたり
)
キヨロキヨロ
見廻
(
みまは
)
し、
235
人
(
ひと
)
無
(
な
)
きを
幸
(
さいは
)
ひ
庭先
(
にはさき
)
の
大木
(
たいぼく
)
を
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
猿
(
ましら
)
の
如
(
ごと
)
くかけ
登
(
のぼ
)
つた。
236
竹彦
(
たけひこ
)
も
続
(
つづ
)
いて
頂上
(
ちやうじやう
)
に
登
(
のぼ
)
りついた。
237
二人
(
ふたり
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
声
(
こゑ
)
の
限
(
かぎ
)
り
奏上
(
そうじやう
)
した。
238
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
若彦
(
わかひこ
)
を
初
(
はじ
)
め、
239
杢助
(
もくすけ
)
、
240
玉
(
たま
)
、
241
国
(
くに
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
一同
(
いちどう
)
は
松上
(
しようじやう
)
の
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
242
『アハヽヽヽ』と
笑
(
わら
)
ひどよめいて
居
(
ゐ
)
る。
243
二人
(
ふたり
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
汗
(
あせ
)
みどろになつて
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
244
杢助
(
もくすけ
)
は
態
(
わざ
)
と
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で、
245
杢助
(
もくすけ
)
『サア、
246
是
(
これ
)
から
曲津彦
(
まがつひこ
)
と
竹取別
(
たけとりわけ
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
料理
(
れうり
)
して
酒
(
さけ
)
の
肴
(
さかな
)
に
一杯
(
いつぱい
)
やらうかい』
247
と
雷
(
らい
)
の
如
(
ごと
)
く
呶鳴
(
どな
)
りつけた。
248
魔我彦
(
まがひこ
)
は
是
(
これ
)
を
聞
(
き
)
き
戦慄
(
せんりつ
)
し、
249
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
慄
(
ふる
)
ひ
声
(
ごゑ
)
になり、
250
遂
(
つひ
)
には
息
(
いき
)
も
出
(
で
)
なくなつて
仕舞
(
しま
)
つた。
251
竹彦
(
たけひこ
)
は『ウヽヽ』と
又
(
また
)
もや
松上
(
しようじやう
)
にて
神懸
(
かむがが
)
り
[
※
三版・御校正本・愛世版は「神懸り」、校定版は「神憑り」。
]
を
始
(
はじ
)
めた。
252
魔我彦
(
まがひこ
)
『
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
通
(
どほ
)
り
此処迄
(
ここまで
)
避難
(
ひなん
)
しましたが、
253
あの
通
(
とほ
)
り
杢助
(
もくすけ
)
以下
(
いか
)
の
連中
(
れんちう
)
が
樹下
(
じゆか
)
を
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
いて
居
(
を
)
ります。
254
どうぞ
早
(
はや
)
く
雲
(
くも
)
をもつて
迎
(
むか
)
ひに
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
255
竹彦
(
たけひこ
)
『ウンウンウン、
256
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
濃厚
(
のうこう
)
な
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
、
257
汝
(
なんぢ
)
の
身体
(
しんたい
)
を
取囲
(
とりかこ
)
んで
居
(
ゐ
)
るのが
目
(
め
)
に
入
(
い
)
らぬか。
258
活眼
(
くわつがん
)
を
開
(
ひら
)
いて
四辺
(
あたり
)
を
熟視
(
じゆくし
)
せよ』
259
魔我彦
(
まがひこ
)
『
何
(
ど
)
うしても
我々
(
われわれ
)
の
目
(
め
)
には
見
(
み
)
えませぬ』
260
竹彦
(
たけひこ
)
『ウンウンウン、
261
見
(
み
)
えなくつても
雲
(
くも
)
は
雲
(
くも
)
だ。
262
竹彦
(
たけひこ
)
の
肉体
(
にくたい
)
と
手
(
て
)
を
繋
(
つな
)
いで
天
(
てん
)
に
向
(
むか
)
つて
飛
(
と
)
びあがれ。
263
さうすれば
摘
(
つま
)
み
上
(
あ
)
げて
此
(
この
)
館
(
やかた
)
より
脱出
(
だつしゆつ
)
せしめ、
264
安全
(
あんぜん
)
地帯
(
ちたい
)
に
救
(
すく
)
うてやらう。
265
男
(
をとこ
)
は
決断力
(
けつだんりよく
)
が
肝要
(
かんえう
)
だ。
266
サア
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
267
と
促
(
うなが
)
され、
268
魔我彦
(
まがひこ
)
は
無我
(
むが
)
夢中
(
むちう
)
になつて
竹彦
(
たけひこ
)
の
手
(
て
)
をとり、
269
一
(
ひい
)
イ
二
(
ふう
)
ウ
三
(
みつ
)
ツと
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へて
一二
(
いちに
)
尺
(
しやく
)
飛
(
と
)
び
上
(
あが
)
つた
途端
(
とたん
)
に、
270
松上
(
しようじやう
)
より
眼下
(
がんか
)
の
荒砂
(
ばらす
)
を
敷
(
し
)
きつめた
庭
(
には
)
に
真逆
(
まつさか
)
様
(
さま
)
に
墜落
(
つゐらく
)
し、
271
蛙
(
かはづ
)
をぶつつけたやうにビリビリと
手足
(
てあし
)
を
慄
(
ふる
)
はせ、
272
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
に
陥
(
おちい
)
つた。
273
若彦
(
わかひこ
)
、
274
杢助
(
もくすけ
)
、
275
玉
(
たま
)
、
276
国
(
くに
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
者
(
もの
)
は
此
(
この
)
光景
(
くわうけい
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
277
忽
(
たちま
)
ち
樹下
(
じゆか
)
に
人山
(
ひとやま
)
を
築
(
きづ
)
き、
278
水
(
みづ
)
よ
水
(
みづ
)
よと
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
に
慌
(
あわ
)
て
廻
(
まは
)
る。
279
お
光
(
みつ
)
は
手桶
(
てをけ
)
を
提
(
さ
)
げ
慌
(
あわただ
)
しく
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
る。
280
杢助
(
もくすけ
)
は
直
(
ただ
)
ちに
水
(
みづ
)
を
含
(
ふく
)
み、
281
両人
(
りやうにん
)
の
面部
(
めんぶ
)
に
息吹
(
ゐぶき
)
の
狭霧
(
さぎり
)
を
吹
(
ふ
)
きかけ、
282
漸
(
やうや
)
くにして
二人
(
ふたり
)
は
唸
(
うな
)
りながら
生気
(
せいき
)
に
復
(
ふく
)
し、
283
四辺
(
あたり
)
をキヨロキヨロ
見廻
(
みまは
)
し、
284
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
285
国依別
(
くによりわけ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て『キヤツ』と
叫
(
さけ
)
び、
286
又
(
また
)
もや
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
に
陥
(
おちい
)
つて
仕舞
(
しま
)
つた。
287
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
魔我彦
(
まがひこ
)
を、
288
国依別
(
くによりわけ
)
は
竹彦
(
たけひこ
)
をひつ
抱
(
かか
)
へ、
289
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
深
(
ふか
)
く
運
(
はこ
)
び
入
(
い
)
れ、
290
夜具
(
やぐ
)
を
敷
(
し
)
いて
鄭重
(
ていちよう
)
に
寝
(
ね
)
させ、
291
神前
(
しんぜん
)
に
向
(
むか
)
つて
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
292
更
(
あらた
)
めて
鎮魂
(
ちんこん
)
を
施
(
ほどこ
)
した。
293
漸
(
やうや
)
くにして
二人
(
ふたり
)
は
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
きかへす。
294
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
295
何
(
ど
)
うでした。
296
随分
(
ずゐぶん
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさつたでせう』
297
魔我彦
(
まがひこ
)
『ハイ、
298
誠
(
まこと
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
のない
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
299
何
(
ど
)
うぞ
命
(
いのち
)
だけは
御
(
ご
)
猶予
(
いうよ
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
300
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
ける
宣伝使
(
せんでんし
)
がどうしてお
前
(
まへ
)
の
命
(
いのち
)
が
欲
(
ほ
)
しからう。
301
お
蔭
(
かげ
)
で
大変
(
たいへん
)
な
修業
(
しうげふ
)
をさして
貰
(
もら
)
ひました。
302
併
(
しか
)
し
此
(
この
)
後
(
ご
)
はあんな
危険
(
きけん
)
な
事
(
こと
)
は
止
(
や
)
めて
貰
(
もら
)
ひたいものだ。
303
天
(
あめ
)
の
真浦
(
まうら
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が、
304
駒彦
(
こまひこ
)
、
305
秋彦
(
あきひこ
)
に
宇津山
(
うづやま
)
郷
(
がう
)
の
断崖
(
だんがい
)
から
雪中
(
せつちう
)
へ
落
(
おと
)
されたよりも
余程
(
よほど
)
険難
(
けんのん
)
でしたよ』
306
魔我彦
(
まがひこ
)
は
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
をして
俯向
(
うつむ
)
く。
307
国依別
(
くによりわけ
)
『
竹彦
(
たけひこ
)
さま、
308
気
(
き
)
がつきましたか』
309
竹彦
(
たけひこ
)
『ハイ、
310
気
(
き
)
がつきました。
311
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬワイ。
312
余
(
あま
)
り
成功
(
せいこう
)
を
急
(
いそ
)
いだものですから
何分
(
なにぶん
)
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
は
高姫
(
たかひめ
)
さまの
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
の
妨害
(
ばうがい
)
をなさる
悪人
(
あくにん
)
だと
信
(
しん
)
じきつて、
313
あゝ
云
(
い
)
ふ
無謀
(
むぼう
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
314
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
魔我彦
(
まがひこ
)
の
精神
(
せいしん
)
は
存
(
ぞん
)
じませぬが、
315
決
(
けつ
)
して
竹彦
(
たけひこ
)
はそんな
悪人
(
あくにん
)
ではありませぬ。
316
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
の
邪霊
(
じやれい
)
が
私
(
わたし
)
に
憑
(
つ
)
いてあんな
事
(
こと
)
をさせたのですよ。
317
何卒
(
なにとぞ
)
私
(
わたし
)
を
恨
(
うら
)
まぬやうに
願
(
ねが
)
ひます』
318
杢助
(
もくすけ
)
『
随分
(
ずゐぶん
)
不減口
(
へらずぐち
)
を
叩
(
たた
)
く
男
(
をとこ
)
だな。
319
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
も
是
(
これ
)
で
悪
(
あく
)
は
出来
(
でき
)
ないと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
分
(
わか
)
つたであらう』
320
魔我彦
(
まがひこ
)
『
私
(
わたくし
)
も
肉体
(
にくたい
)
がやつたのではありませぬ。
321
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
の
眷族
(
けんぞく
)
が
憑
(
かか
)
つたのですから、
322
どうぞ
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
しを
願
(
ねが
)
ひます』
323
杢助
(
もくすけ
)
『
大体
(
だいたい
)
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
脱線
(
だつせん
)
的
(
てき
)
熱心
(
ねつしん
)
に
惚込
(
ほれこ
)
んで
居
(
ゐ
)
るから、
324
そんな
不善
(
ふぜん
)
的
(
てき
)
な
事
(
こと
)
を
平気
(
へいき
)
でやつて、
325
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
が
勤
(
つと
)
まると
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
るのだ』
326
魔我彦
(
まがひこ
)
『
何事
(
なにごと
)
も
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまの
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
通
(
どほ
)
りだと
思
(
おも
)
つて、
327
高姫
(
たかひめ
)
さまの
意志
(
いし
)
を
一寸
(
ちよつと
)
忖度
(
そんたく
)
して
居
(
を
)
る
処
(
ところ
)
へ
守護神
(
しゆごじん
)
がやつて
来
(
き
)
て、
328
霊肉
(
れいにく
)
一致
(
いつち
)
、
329
二人
(
ふたり
)
を
谷底
(
たにぞこ
)
へ
突落
(
つきおと
)
し、
330
殺
(
ころ
)
さうとしたのです。
331
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
魔我彦
(
まがひこ
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
何
(
なに
)
も
知
(
し
)
りませぬ』
332
杢助
(
もくすけ
)
『
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
333
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
青山峠
(
あをやまたうげ
)
の
絶頂
(
ぜつちやう
)
から、
334
あの
深
(
ふか
)
い
谷間
(
たにま
)
へつき
落
(
おと
)
され、
335
すんでの
事
(
こと
)
で
五体
(
ごたい
)
を
粉砕
(
ふんさい
)
するやうな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はされても、
336
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
両人
(
りやうにん
)
に
対
(
たい
)
し
鵜
(
う
)
の
毛
(
け
)
の
露
(
つゆ
)
程
(
ほど
)
も
恨
(
うら
)
んで
居
(
ゐ
)
ないのは
実
(
じつ
)
に
感服
(
かんぷく
)
の
至
(
いた
)
りだ。
337
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
も
此
(
この
)
両
(
りやう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
心
(
こころ
)
を
汲
(
く
)
みとつて、
338
少
(
すこ
)
し
改心
(
かいしん
)
したらどうだ。
339
さうして
改心
(
かいしん
)
を
証明
(
しようめい
)
する
為
(
ため
)
に、
340
今迄
(
いままで
)
の
高姫
(
たかひめ
)
一派
(
いつぱ
)
の
計略
(
けいりやく
)
を
此処
(
ここ
)
ですつかり
自白
(
じはく
)
したがよからう』
341
魔我彦
(
まがひこ
)
『そればつかりは
自白
(
じはく
)
出来
(
でき
)
ませぬ、
342
高姫
(
たかひめ
)
さまから
仮令
(
たとへ
)
死
(
し
)
んでも
云
(
い
)
うてはならないと
口留
(
くちど
)
めされ、
343
私
(
わたし
)
も
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
、
344
舌
(
した
)
を
抜
(
ぬ
)
かれても
言
(
い
)
はないと
固
(
かた
)
く
約
(
やく
)
したのですから』
345
杢助
(
もくすけ
)
『
仮令
(
たとへ
)
善
(
ぜん
)
にもせよ、
346
悪
(
あく
)
にもせよ、
347
まだ
良心
(
りやうしん
)
に
輝
(
かがや
)
きがあると
見
(
み
)
えて、
348
約束
(
やくそく
)
を
守
(
まも
)
ると
云
(
い
)
ふ
心
(
こころ
)
がけは
見上
(
みあ
)
げたものだ。
349
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
是
(
これ
)
以上
(
いじやう
)
は
最早
(
もはや
)
追及
(
つゐきふ
)
せぬ。
350
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
351
国依別
(
くによりわけ
)
さまこの
両人
(
りやうにん
)
を
赦
(
ゆる
)
しておやりでせうなア』
352
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
赦
(
ゆる
)
すも
許
(
ゆる
)
さぬもありませぬ。
353
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
経綸
(
しぐみ
)
、
354
我々
(
われわれ
)
に
油断
(
ゆだん
)
は
大敵
(
たいてき
)
だと
云
(
い
)
ふ
実地
(
じつち
)
の
教育
(
けういく
)
を
与
(
あた
)
へて
下
(
くだ
)
さつたのですから、
355
其
(
その
)
お
役
(
やく
)
に
使
(
つか
)
はれなさつた
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
に
対
(
たい
)
し、
356
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
と
感謝
(
かんしや
)
こそすれ、
357
寸毫
(
すんがう
)
も
不足
(
ふそく
)
に
思
(
おも
)
つたり
恨
(
うら
)
んだりは
致
(
いた
)
しませぬ』
358
国依別
(
くによりわけ
)
『
私
(
わたし
)
も
玉治別
(
たまはるわけ
)
と
同感
(
どうかん
)
です。
359
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
360
竹彦
(
たけひこ
)
さま、
361
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さい。
362
当
(
あた
)
つて
砕
(
くだ
)
けよと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
363
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
層一層
(
そういつそう
)
親密
(
しんみつ
)
にして、
364
神界
(
しんかい
)
の
御用
(
ごよう
)
を
勤
(
つと
)
めようぢやありませぬか』
365
杢助
(
もくすけ
)
は
立
(
た
)
つて
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
366
しら
けた
此
(
この
)
場
(
ば
)
の
回復
(
くわいふく
)
を
図
(
はか
)
つた。
367
杢助
『
大和
(
やまと
)
河内
(
かはち
)
を
踏
(
ふ
)
み
越
(
こ
)
えて
368
漸々
(
やうやう
)
此処
(
ここ
)
に
紀
(
き
)
の
国
(
くに
)
の
369
青山峠
(
あをやまたうげ
)
の
谷間
(
たにあひ
)
に
370
言依別
(
ことよりわけ
)
の
御言
(
みこと
)
もて
371
勇
(
いさ
)
み
進
(
すす
)
んで
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
372
音
(
おと
)
に
名高
(
なだか
)
き
十津川
(
とつがは
)
の
373
激潭
(
げきたん
)
飛沫
(
ひまつ
)
の
谷
(
たに
)
の
水
(
みづ
)
374
衣類
(
いるゐ
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎて
真裸体
(
まつぱだか
)
375
ざんぶとばかり
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
みて
376
御禊
(
みそぎ
)
を
修
(
しう
)
する
折
(
をり
)
からに
377
樹々
(
きぎ
)
の
青葉
(
あをば
)
も
追々
(
おひおひ
)
に
378
黒
(
くろ
)
ずみ
来
(
きた
)
り
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
の
379
影
(
かげ
)
は
漸
(
やうや
)
く
隠
(
かく
)
ろひて
380
闇
(
やみ
)
を
彩
(
いろど
)
る
折
(
をり
)
からに
381
頭上
(
づじやう
)
をかすめて
落
(
お
)
ち
来
(
きた
)
る
382
二
(
ふた
)
つの
影
(
かげ
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
383
青淵
(
あをぶち
)
目
(
め
)
がけて
顛落
(
てんらく
)
し
384
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
に
なる
滝
(
たき
)
の
385
辺
(
かたへ
)
に
二人
(
ふたり
)
を
抱
(
いだ
)
きあげ
386
よくよく
見
(
み
)
ればこは
如何
(
いか
)
に
387
玉治別
(
たまはるわけ
)
や
国依別
(
くによりわけ
)
の
388
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
389
青山峠
(
あをやまたうげ
)
の
断崖
(
だんがい
)
より
390
つき
落
(
おと
)
されて
此
(
この
)
さまと
391
聞
(
き
)
いたる
時
(
とき
)
の
驚
(
おどろ
)
きは
392
流石
(
さすが
)
に
豪気
(
がうき
)
の
杢助
(
もくすけ
)
も
393
胸
(
むね
)
に
浪
(
なみ
)
をば
打
(
う
)
たせつつ
394
闇
(
やみ
)
を
辿
(
たど
)
りて
漸々
(
やうやう
)
に
395
二人
(
ふたり
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
平岩
(
ひらいは
)
の
396
麓
(
ふもと
)
に
漸
(
やうや
)
く
近寄
(
ちかよ
)
つて
397
其
(
その
)
夜
(
よ
)
を
明
(
あ
)
かし
両人
(
りやうにん
)
に
398
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
けば
魔我彦
(
まがひこ
)
や
399
竹彦
(
たけひこ
)
二人
(
ふたり
)
の
悪戯
(
いたづら
)
と
400
聞
(
き
)
いて
再
(
ふたた
)
び
胸
(
むね
)
躍
(
をど
)
り
401
深
(
ふか
)
き
仔細
(
しさい
)
のある
事
(
こと
)
と
402
此処
(
ここ
)
に
三人
(
みたり
)
はとるものも
403
取敢
(
とりあへ
)
ずして
若彦
(
わかひこ
)
が
404
館
(
やかた
)
に
訪
(
たづ
)
ね
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
405
思
(
おも
)
ひがけなき
両人
(
りやうにん
)
が
406
離
(
はな
)
れ
座敷
(
ざしき
)
でひそびそと
407
深
(
ふか
)
き
企
(
たく
)
みを
語
(
かた
)
り
合
(
あ
)
ふ
408
善悪
(
ぜんあく
)
邪正
(
じやせい
)
の
其
(
その
)
報
(
むく
)
い
409
忽
(
たちま
)
ち
現
(
あら
)
はれ
北
(
きた
)
の
空
(
そら
)
410
雲
(
くも
)
を
払
(
はら
)
つて
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
る
411
北極星
(
ほくきよくせい
)
の
動
(
うご
)
きなき
412
若彦
(
わかひこ
)
さまが
雄心
(
をごころ
)
に
413
再
(
ふたた
)
び
動
(
うご
)
く
三人
(
みたり
)
連
(
づ
)
れ
414
魔我彦
(
まがひこ
)
竹彦
(
たけひこ
)
両人
(
りやうにん
)
は
415
虚実
(
きよじつ
)
の
程
(
ほど
)
は
知
(
し
)
らねども
416
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
前非
(
ぜんぴ
)
を
心
(
こころ
)
から
417
悔
(
く
)
いしが
如
(
ごと
)
く
見
(
み
)
えにける
418
嗚呼
(
ああ
)
頼
(
たの
)
もしや
頼
(
たの
)
もしや
419
仕組
(
しぐみ
)
の
糸
(
いと
)
に
操
(
あやつ
)
られ
420
心
(
こころ
)
にかかりし
村雲
(
むらくも
)
も
421
愈
(
いよいよ
)
晴
(
は
)
らす
今日
(
けふ
)
の
宵
(
よひ
)
422
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
423
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましまして
424
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
が
迷
(
まよ
)
ひをば
425
晴
(
は
)
らさせ
給
(
たま
)
へ
魔我彦
(
まがひこ
)
や
426
竹彦
(
たけひこ
)
一派
(
いつぱ
)
の
迷信
(
めいしん
)
を
427
朝日
(
あさひ
)
の
豊栄
(
とよさか
)
昇
(
のぼ
)
るごと
428
照
(
てら
)
し
明
(
あか
)
して
三五
(
あななひ
)
の
429
道
(
みち
)
の
誠
(
まこと
)
を
四方
(
よも
)
の
国
(
くに
)
430
国
(
くに
)
の
内外
(
うちと
)
の
島々
(
しまじま
)
に
431
月日
(
つきひ
)
の
如
(
ごと
)
く
明
(
あきら
)
かに
432
照
(
てら
)
させたまへ
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
433
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
達
(
たち
)
八百万
(
やほよろづ
)
434
百
(
もも
)
の
御伴
(
みとも
)
の
神
(
かみ
)
達
(
たち
)
の
435
御前
(
みまへ
)
に
頸根
(
うなね
)
つきぬきて
436
遥
(
はるか
)
に
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る
437
慎
(
つつし
)
み
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る』
438
と
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
つて
両人
(
りやうにん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
439
杢助
(
もくすけ
)
『サア、
440
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
441
竹彦
(
たけひこ
)
さま、
442
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
と
共
(
とも
)
に
聖地
(
せいち
)
へ
帰
(
かへ
)
りませう。
443
若彦
(
わかひこ
)
、
444
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
445
国依別
(
くによりわけ
)
は
是
(
これ
)
より
伊勢路
(
いせぢ
)
に
渡
(
わた
)
り
近江
(
あふみ
)
に
出
(
い
)
で、
446
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
を
探険
(
たんけん
)
して
聖地
(
せいち
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
447
聖地
(
せいち
)
には
又
(
また
)
もや
高姫
(
たかひめ
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
が
劃策
(
くわくさく
)
されてあるから、
448
杢助
(
もくすけ
)
は
是
(
これ
)
より
両人
(
りやうにん
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
449
すぐ
帰国
(
きこく
)
致
(
いた
)
さう』
450
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
忙
(
いそが
)
しげに
此
(
この
)
館
(
やかた
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
いで
)
た。
451
魔我彦
(
まがひこ
)
、
452
竹彦
(
たけひこ
)
は
何
(
なん
)
となく
心
(
こころ
)
落着
(
おちつ
)
かぬ
面持
(
おももち
)
にて、
453
悄々
(
すごすご
)
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
聖地
(
せいち
)
をさして
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
454
(
大正一一・六・一〇
旧五・一五
加藤明子
録)
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【第3章 松上の苦悶|第23巻|如意宝珠|霊界物語|/rm2303】
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