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霊界物語
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第1巻(子の巻)
第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
第4巻(卯の巻)
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第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
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第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
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第13巻(子の巻)
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第25巻(子の巻)
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第39巻(寅の巻)
第40巻(卯の巻)
第41巻(辰の巻)
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第49巻(子の巻)
第50巻(丑の巻)
第51巻(寅の巻)
第52巻(卯の巻)
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第61巻(子の巻)
第62巻(丑の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第23巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 南海の山
01 玉の露
〔713〕
02 副守囁
〔714〕
03 松上の苦悶
〔715〕
04 長高説
〔716〕
第2篇 恩愛の涙
05 親子奇遇
〔717〕
06 神異
〔718〕
07 知らぬが仏
〔719〕
08 縺れ髪
〔720〕
第3篇 有耶無耶
09 高姫騒
〔721〕
10 家宅侵入
〔722〕
11 難破船
〔723〕
12 家島探
〔724〕
13 捨小舟
〔725〕
14 籠抜
〔726〕
第4篇 混線状態
15 婆と婆
〔727〕
16 蜈蚣の涙
〔728〕
17 黄竜姫
〔729〕
18 波濤万里
〔730〕
霊の礎(八)
余白歌
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> 第3篇 有耶無耶 > 第11章 難破船
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第一一章
難破船
(
なんぱせん
)
〔七二三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
篇:
第3篇 有耶無耶
よみ(新仮名遣い):
うやむや
章:
第11章 難破船
よみ(新仮名遣い):
なんぱせん
通し章番号:
723
口述日:
1922(大正11)年06月12日(旧05月17日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫は舟に乗り、もう玉を手に入れたも同然と得意になっているが、四人の部下は舟をこぐのに疲れて文句を言い始める。
たちまち雲と風が起こり、高姫の舟は暗礁に乗り上げて木っ端微塵になってしまった。玉能姫は淡路島の磯端に着いてその夜は風をやり過ごした。
夜が明けると、うめき声が聞こえてきた。見ると浜辺に高姫ら五人が打ち上げられて苦しんでいる。玉能姫は鎮魂をして五人の息を吹き返させた。
高姫は自分を助けたのが玉能姫だと知ると、またしても憎まれ口とともに食ってかかり、教主や杢助にも悪態をつきはじめた。
高姫の部下の四人は、命の恩人に対する高姫の悪口に愛想が尽きたと言って、玉能姫の弟子にしてくれと頼み出す。玉能姫は人の弟子を横取りすることはできないと言って断り、高姫と一緒に舟に乗って戻るようにと促す。
しかし高姫は断固として断り、あくまで家島に行くと言ってきかない。そこへ船頭がやってきて、難船したなら乗せてあげようと声を掛ける。高姫は渡りに舟と船頭の舟に乗って行ってしまう。
玉能姫は四人の男を乗せて、高姫の舟の後を追った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-07-01 17:29:10
OBC :
rm2311
愛善世界社版:
177頁
八幡書店版:
第4輯 559頁
修補版:
校定版:
180頁
普及版:
82頁
初版:
ページ備考:
001
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
も
高姫
(
たかひめ
)
が
002
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
供
(
とも
)
を
伴
(
とも
)
なひて
003
三
(
み
)
つの
宝
(
たから
)
の
所在
(
ありか
)
をば
004
探
(
さぐ
)
らにや
止
(
や
)
まぬ
闇
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
の
005
大海原
(
おほうなばら
)
を
打
(
う
)
ち
渡
(
わた
)
り
006
心
(
こころ
)
の
駒
(
こま
)
の
狂
(
くる
)
ふまに
007
家島
(
えじま
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
008
其
(
その
)
目的
(
もくてき
)
は
玉能丸
(
たまのまる
)
009
玉
(
たま
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
探
(
さぐ
)
らむと
010
操
(
あやつ
)
るすべも
白浪
(
しらなみ
)
の
011
上
(
うへ
)
を
辷
(
すべ
)
つて
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く
012
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
は
汗脂
(
あせあぶら
)
013
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
くに
搾
(
しぼ
)
りつつ
014
浪
(
なみ
)
のまにまに
漂
(
ただよ
)
ひて
015
遂
(
つひ
)
に
進路
(
しんろ
)
を
取
(
と
)
り
外
(
はづ
)
し
016
心
(
こころ
)
も
淡路
(
あはぢ
)
の
島影
(
しまかげ
)
に
017
かかる
折
(
をり
)
しも
暗礁
(
あんせう
)
に
018
船
(
ふね
)
の
頭
(
かしら
)
は
衝突
(
しようとつ
)
し
019
忽
(
たちま
)
ち
浪
(
なみ
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
みて
020
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
憂目
(
うきめ
)
をば
021
見
(
み
)
ながら
心
(
こころ
)
は
何処迄
(
どこまで
)
も
022
執念深
(
しふねんぶか
)
き
高姫
(
たかひめ
)
が
023
宝探
(
たからさが
)
しの
物語
(
ものがたり
)
024
褥
(
しとね
)
の
船
(
ふね
)
に
横
(
よこ
)
たはり
025
心
(
こころ
)
の
海
(
うみ
)
に
日月
(
じつげつ
)
の
026
浮
(
う
)
かぶまにまに
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
つる
027
瑞月
(
ずいげつ
)
霊界
(
れいかい
)
物語
(
ものがたり
)
028
底
(
そこ
)
ひも
知
(
し
)
れぬ
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
029
神
(
かみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
の
荒浪
(
あらなみ
)
を
030
ときわけかきわけ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
031
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
032
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ。
033
高姫
(
たかひめ
)
は
首尾
(
しゆび
)
よく
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
船頭
(
せんどう
)
を
まき
散
(
ち
)
らし、
034
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として
闇
(
やみ
)
の
海原
(
うなばら
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
した。
035
浜辺
(
はまべ
)
の
明火
(
あかりび
)
は
漸
(
やうや
)
く
遠
(
とほ
)
ざかり
眼
(
まなこ
)
に
映
(
うつ
)
らない
迄
(
まで
)
になつて
来
(
き
)
た。
036
高姫
(
たかひめ
)
は
鼻
(
はな
)
蠢
(
うごめ
)
かしながら、
037
高姫
(
たかひめ
)
『アヽ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
、
038
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
であつた。
039
モウ
斯
(
こ
)
うなれば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
、
040
滅多
(
めつた
)
に
後
(
あと
)
から
追
(
お
)
ひかけ
来
(
く
)
る
気遣
(
きづか
)
ひもあるまい。
041
仮令
(
たとへ
)
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
で
宝
(
たから
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さぐ
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
042
そつと
此
(
この
)
船
(
ふね
)
に
積
(
つ
)
み
込
(
こ
)
み、
043
廻
(
まは
)
り
道
(
みち
)
をして
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
れば
好
(
い
)
いのだ。
044
さうして
其
(
その
)
玉
(
たま
)
は、
045
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
に
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んで
置
(
お
)
けば、
046
誰
(
たれ
)
が
来
(
き
)
たとて
取
(
と
)
られる
気遣
(
きづか
)
ひはない。
047
オホヽヽヽ、
048
待
(
ま
)
てば
海路
(
うなぢ
)
の
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くとやら、
049
時節
(
じせつ
)
は
待
(
ま
)
たねばならぬものだ』
050
貫州
(
くわんしう
)
『モシモシ
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
051
貴方
(
あなた
)
は
既
(
すで
)
に
已
(
すで
)
にお
宝
(
たから
)
が
手
(
て
)
に
入
(
はい
)
つたやうな
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますな、
052
取
(
と
)
らぬ
狸
(
たぬき
)
の
皮算用
(
かはざんよう
)
では
御座
(
ござ
)
いますまいか』
053
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なに
)
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だよ、
054
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
うても
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
睨
(
にら
)
んだら
間違
(
まちが
)
ひはない。
055
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
や、
056
杢助
(
もくすけ
)
、
057
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
連中
(
れんちう
)
が
嘸
(
さぞ
)
や
嘸
(
さぞ
)
アフンとする
事
(
こと
)
であらう。
058
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
顔
(
かほ
)
が
今
(
いま
)
見
(
み
)
るやうに
思
(
おも
)
はれて
可愍
(
いぢらし
)
いやうな
心持
(
こころもち
)
がして
来
(
き
)
た。
059
お
天道
(
てんだう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
ある
証拠
(
しようこ
)
には、
060
今夜
(
こんや
)
に
限
(
かぎ
)
つてお
月様
(
つきさま
)
も
現
(
あら
)
はれず、
061
星
(
ほし
)
ばかりの
大空
(
おほぞら
)
、
062
いつもからあの
玉
(
たま
)
が
欲
(
ほ
)
しい
欲
(
ほ
)
しいと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
た
故
(
せい
)
か、
063
今日
(
けふ
)
の
星
(
ほし
)
の
光
(
ひかり
)
はまた
格別
(
かくべつ
)
だ。
064
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもあれ
丈
(
だ
)
け
天道
(
てんだう
)
様
(
さま
)
が
星々
(
ほしほし
)
と
云
(
い
)
つて、
065
沢山
(
たくさん
)
に
睨
(
にら
)
んで
御座
(
ござ
)
る
天下
(
てんか
)
の
重宝
(
ぢうほう
)
だから、
066
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れば
大
(
たい
)
したものだ、
067
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
うても
玉
(
たま
)
を
呑
(
の
)
んだ
以上
(
いじやう
)
は
聖地
(
せいち
)
へ
帰
(
かへ
)
り、
068
高姫
(
たかひめ
)
内閣
(
ないかく
)
を
組織
(
そしき
)
し、
069
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
を
幕僚
(
ばくれう
)
に
任
(
にん
)
じてやる
考
(
かんが
)
へだから、
070
勇
(
いさ
)
んで
船
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
いで
下
(
くだ
)
されや』
071
貫州
(
くわんしう
)
『
余
(
あま
)
り
気張
(
きば
)
つたものですから、
072
私
(
わたし
)
のハンドルは
知覚
(
ちかく
)
精神
(
せいしん
)
を
喪失
(
さうしつ
)
し、
073
最早
(
もはや
)
用
(
よう
)
をなさないやうになつて
仕舞
(
しま
)
ひました』
074
高姫
(
たかひめ
)
『エヽ、
075
今頃
(
いまごろ
)
に
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
心細
(
こころぼそ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
076
兎
(
うさぎ
)
の
糞
(
ふん
)
で、
077
長続
(
ながつづ
)
きがしないものは、
078
到底
(
たうてい
)
まさかの
時
(
とき
)
に
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
ひませぬぞ。
079
ここは
一
(
ひと
)
つ
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
080
伸
(
の
)
るか
反
(
そ
)
るかの
境目
(
さかひめ
)
だから、
081
些
(
ちつ
)
と
腕
(
うで
)
に
撚
(
よ
)
りでもかけて
噪
(
はしや
)
ぎなされ』
082
鶴公
(
つるこう
)
『オイ
貫州
(
くわんしう
)
、
083
お
前
(
まへ
)
もさうか、
084
俺
(
おれ
)
も
何
(
ど
)
うやら
機関
(
きくわん
)
の
油
(
あぶら
)
が
切
(
き
)
れたやうだ。
085
腕
(
うで
)
も
何
(
なに
)
も
むし
れさうになつて
仕舞
(
しま
)
つた』
086
清公
(
きよこう
)
『
俺
(
おれ
)
もさうだ』
087
高姫
(
たかひめ
)
『まだこれから
長
(
なが
)
い
海路
(
かいろ
)
だのに、
088
明石
(
あかし
)
海峡
(
かいけふ
)
前
(
まへ
)
で
くた
ばつて
仕舞
(
しま
)
つては
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いぢやないか。
089
ちと
確
(
しつか
)
りと
性念
(
しやうねん
)
を
据
(
す
)
ゑてモ
一働
(
ひとはたら
)
きやつて
貰
(
もら
)
はねば、
090
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
御用
(
ごよう
)
は
勤
(
つと
)
め
上
(
あが
)
りませぬぞえ。
091
出世
(
しゆつせ
)
が
仕度
(
した
)
くば
今
(
いま
)
気張
(
きば
)
らねば、
092
後
(
あと
)
の
後悔
(
こうくわい
)
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
ひませぬぞ。
093
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
に
又
(
また
)
とない
功名
(
こうみやう
)
を
現
(
あら
)
はさうと
思
(
おも
)
へば、
094
人
(
ひと
)
のよう
致
(
いた
)
さぬ
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
し、
095
人
(
ひと
)
のよう
往
(
ゆ
)
かぬ
所
(
ところ
)
へ
往
(
い
)
つて
来
(
こ
)
ねば
真
(
まこと
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
は
頂
(
いただ
)
けませぬ。
096
サア
皆
(
みな
)
さま、
097
先
(
さき
)
楽
(
たの
)
しみにもう
一気張
(
ひときば
)
りだ』
098
貫州
(
くわんしう
)
『
斯
(
か
)
う
腕
(
うで
)
が
抜
(
ぬ
)
けるやうに
怠
(
だる
)
くなつて
来
(
き
)
ては
損
(
そん
)
も
得
(
とく
)
も
構
(
かま
)
うて
居
(
を
)
れますか。
099
欲
(
よく
)
にも
得
(
とく
)
にもかへられませぬ
今晩
(
こんばん
)
の
苦
(
くる
)
しさ、
100
こりや
何
(
ど
)
うしても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬのかも
知
(
し
)
れませぬぜ。
101
何
(
なん
)
とは
無
(
な
)
しに
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
恐
(
おそ
)
ろしくなり、
102
大罪
(
だいざい
)
を
犯
(
をか
)
すやうな
気
(
き
)
がしてなりませぬワイ。
103
一
(
ひと
)
つ
暗礁
(
あんせう
)
にでも
乗
(
の
)
り
上
(
あ
)
げやうものなら
忽
(
たちま
)
ち
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
、
104
土左衛門
(
どざゑもん
)
と
早替
(
はやがは
)
り、
105
竜宮行
(
りうぐうゆ
)
きをせなならぬかも
知
(
し
)
れませぬ。
106
何
(
ど
)
うでせう、
107
風
(
かぜ
)
のまにまに、
108
浪
(
なみ
)
のまにまに
任
(
まか
)
せ、
109
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
が
休
(
やす
)
まして
貰
(
もら
)
つたら、
110
又
(
また
)
元気
(
げんき
)
がついて
働
(
はたら
)
けるかも
知
(
し
)
れませぬ』
111
高姫
(
たかひめ
)
『
一刻
(
いつこく
)
の
猶予
(
いうよ
)
もならぬのだから
休
(
やす
)
む
事
(
こと
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
になりませぬ』
112
貫州
(
くわんしう
)
『アヽ、
113
何程
(
なにほど
)
休
(
やす
)
まずに
働
(
はたら
)
かうと
思
(
おも
)
つても、
114
肝腎
(
かんじん
)
のハンドルが
吾々
(
われわれ
)
の
命令
(
めいれい
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
しないのだから
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
115
高姫
(
たかひめ
)
さま、
116
貴女
(
あなた
)
一
(
ひと
)
つ
漕
(
こ
)
いで
御覧
(
ごらん
)
、
117
さうしたら
吾々
(
われわれ
)
の
辛
(
つら
)
い
事
(
こと
)
が
味
(
あぢ
)
ははれませう。
118
人
(
ひと
)
を
使
(
つか
)
はうと
思
(
おも
)
へば、
119
人
(
ひと
)
に
使
(
つか
)
はれて
見
(
み
)
なくては
部下
(
ぶか
)
の
苦痛
(
くつう
)
が
分
(
わか
)
りませぬからなア』
120
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
について
来
(
き
)
たのだ。
121
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
に
船
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
げと
云
(
い
)
ふのか、
122
そりや
些
(
ちつ
)
と
了見
(
りやうけん
)
が
違
(
ちが
)
ひはせぬかの。
123
高姫
(
たかひめ
)
が
船
(
ふね
)
が
使
(
つか
)
へるのなれば、
124
誰
(
たれ
)
がこんな
秘密
(
ひみつ
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
に、
125
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
く
)
るものか。
126
船
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
がすために
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
たのだから、
127
そんなに
気
(
き
)
なげをせずに
一
(
ひと
)
つ
身魂
(
みたま
)
に
撚
(
より
)
をかけて
気張
(
きば
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
128
その
代
(
かは
)
りこの
事
(
こと
)
が
成就
(
じやうじゆ
)
致
(
いた
)
したら、
129
立派
(
りつぱ
)
にお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しますから』
130
鶴公
(
つるこう
)
『お
礼
(
れい
)
も
何
(
なに
)
も
入
(
い
)
りませぬ。
131
我々
(
われわれ
)
は
手柄
(
てがら
)
したいの、
132
名
(
な
)
が
残
(
のこ
)
したいの、
133
人
(
ひと
)
に
誇
(
ほこ
)
りたいのと
云
(
い
)
ふやうな、
134
そんな
小
(
ちひ
)
さい
心
(
こころ
)
は
持
(
も
)
ちませぬ。
135
何時
(
いつ
)
も
貴女
(
あなた
)
は
口癖
(
くちぐせ
)
のやうに、
136
此
(
この
)
事
(
こと
)
が
成就
(
じやうじゆ
)
致
(
いた
)
したら
出世
(
しゆつせ
)
さすとか、
137
お
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
すとか、
138
万劫
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
名
(
な
)
を
残
(
のこ
)
してやるとか、
139
神
(
かみ
)
に
祀
(
まつ
)
つてやらうとか
仰有
(
おつしや
)
いますが、
140
第一
(
だいいち
)
そのお
言葉
(
ことば
)
が
気
(
き
)
に
喰
(
く
)
ひませぬワイ。
141
そんな
名誉
(
めいよ
)
や
欲望
(
よくばう
)
に
駆
(
か
)
られて
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
が
出来
(
でき
)
ますものか。
142
我々
(
われわれ
)
は
手柄
(
てがら
)
がしたさに
貴女
(
あなた
)
について
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るやうに
思
(
おも
)
はれては
片腹痛
(
かたはらいた
)
い。
143
何
(
なん
)
だか
自分
(
じぶん
)
の
良心
(
りやうしん
)
を
侮辱
(
ぶじよく
)
されたやうな
気
(
き
)
がしてなりませぬ。
144
何卒
(
どうぞ
)
これからそんな
子供騙
(
こどもだま
)
しのやうな
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はぬやうにして
下
(
くだ
)
さい。
145
たら
だとか、
146
けれど
とかの
語尾
(
ごび
)
のつく
間
(
あひだ
)
は
駄目
(
だめ
)
ですよ。
147
そんな
疑問詞
(
ぎもんし
)
は
根
(
ね
)
つから
葉
(
は
)
つから
腹
(
はら
)
の
虫
(
むし
)
が
承認
(
しようにん
)
致
(
いた
)
しませぬ』
148
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
はそんな
立派
(
りつぱ
)
な
事
(
こと
)
を
口
(
くち
)
で
云
(
い
)
うて
居
(
を
)
るが、
149
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
はさうぢやあるまい。
150
名誉心
(
めいよしん
)
のない
奴
(
やつ
)
はこの
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
一人
(
ひとり
)
だつて
有
(
あ
)
らう
筈
(
はず
)
がない。
151
赤裸々
(
せきらら
)
に
腹
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
を
叩
(
たた
)
けば、
152
誰
(
たれ
)
だつて
手柄
(
てがら
)
が
仕度
(
した
)
いと
云
(
い
)
ふ
心
(
こころ
)
の
無
(
な
)
い
者
(
もの
)
は
有
(
あ
)
るまい。
153
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
だつて
矢張
(
やつぱり
)
名誉
(
めいよ
)
も
欲
(
ほ
)
しい、
154
手柄
(
てがら
)
もしたい、
155
これが
偽
(
いつは
)
らざるネツトプライスの
告白
(
こくはく
)
だ。
156
皆
(
みな
)
の
者共
(
ものども
)
、
157
それに
間違
(
まちが
)
ひはあるまいがな、
158
オホヽヽヽ』
159
一同
(
いちどう
)
『エヽさうですかいな』
160
と
のか
ず
触
(
さは
)
らずのやうな、
161
あぢ
な
味噌
(
みそ
)
を
嘗
(
な
)
めた
時
(
とき
)
のやうに、
162
せう
事
(
こと
)
なしに
冷淡
(
れいたん
)
な
返事
(
へんじ
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
163
一天
(
いつてん
)
俄
(
にはか
)
に
墨
(
すみ
)
を
流
(
なが
)
せし
如
(
ごと
)
く
掻
(
か
)
き
曇
(
くも
)
り、
164
星影
(
ほしかげ
)
さへ
見
(
み
)
えなくなつた。
165
忽
(
たちま
)
ち
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
颶風
(
ぐふう
)
に
山岳
(
さんがく
)
の
如
(
ごと
)
き
浪
(
なみ
)
立
(
た
)
ち
狂
(
くる
)
ひ、
166
玉能丸
(
たまのまる
)
を
毬
(
まり
)
の
如
(
ごと
)
くに
翻弄
(
ほんろう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
167
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
船
(
ふね
)
は
淡路島
(
あはぢしま
)
の
北岸
(
ほくがん
)
近
(
ちか
)
く
進
(
すす
)
んで
居
(
ゐ
)
たと
見
(
み
)
え、
168
島
(
しま
)
の
火影
(
ほかげ
)
は
幽
(
かす
)
かに
瞬
(
またた
)
き
始
(
はじ
)
めた。
169
高姫
(
たかひめ
)
は
其
(
その
)
火光
(
くわくわう
)
を
目当
(
めあて
)
に
船
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
げよと
厳命
(
げんめい
)
する。
170
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
最早
(
もはや
)
両腕
(
りやううで
)
共
(
とも
)
萎
(
な
)
へて
艪櫂
(
ろかい
)
を
操縦
(
さうじう
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なくなつて
居
(
ゐ
)
た。
171
船
(
ふね
)
は
忽
(
たちま
)
ち
暗礁
(
あんせう
)
に
乗
(
の
)
り
上
(
あ
)
げたと
見
(
み
)
え、
172
船底
(
ふなぞこ
)
はバリバリバリ、
173
パチパチパチ、
174
メキメキメキと
大音響
(
だいおんきやう
)
を
立
(
た
)
てて
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
となり、
175
高姫
(
たかひめ
)
以下
(
いか
)
は
荒波
(
あらなみ
)
に
呑
(
の
)
まれて
仕舞
(
しま
)
つた。
176
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
甲斐
(
かひ
)
々々
(
がひ
)
しく
襷
(
たすき
)
十文字
(
じふもんじ
)
に
綾取
(
あやど
)
り、
177
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
りながら
高姫
(
たかひめ
)
が
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひ
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
折
(
をり
)
しも、
178
俄
(
にはか
)
の
颶風
(
ぐふう
)
に
遇
(
あ
)
ひ
淡路島
(
あはぢしま
)
の
火影
(
ほかげ
)
の
瞬
(
またた
)
きを
目当
(
めあて
)
に
辛
(
から
)
うじて
磯端
(
いそばた
)
に
安着
(
あんちやく
)
し、
179
夜明
(
よあけ
)
を
待
(
ま
)
つ
事
(
こと
)
とした。
180
風
(
かぜ
)
は
歇
(
や
)
み
雲
(
くも
)
は
散
(
ち
)
り、
181
忽
(
たちま
)
ち
紺碧
(
こんぺき
)
の
空
(
そら
)
に
金覆輪
(
きんぷくりん
)
の
太陽
(
たいやう
)
は、
182
山
(
やま
)
の
端
(
は
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
海面
(
かいめん
)
に
清鮮
(
せいせん
)
なる
光
(
ひかり
)
を
投
(
な
)
げ、
183
鴎
(
かもめ
)
の
群
(
むれ
)
は
嬉々
(
きき
)
として
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぼく
)
に
浪
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
を
翺翔
(
こうしよう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
184
漁夫
(
ぎよふ
)
の
群
(
むれ
)
と
見
(
み
)
えて
四五
(
しご
)
の
小
(
ちひ
)
さき
帆掛船
(
ほかけぶね
)
は
遥
(
はるか
)
の
彼方
(
かなた
)
に
見
(
み
)
えつ
隠
(
かく
)
れつ
太陽
(
たいやう
)
に
照
(
てら
)
されて
浮
(
う
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
185
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
東天
(
とうてん
)
に
向
(
むか
)
ひ
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
する
折
(
をり
)
しも、
186
傍
(
かたはら
)
より
呻吟
(
うめき
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
187
怪
(
あや
)
しみながらよくよく
見
(
み
)
れば、
188
波
(
なみ
)
に
打
(
う
)
ち
上
(
あ
)
げられた
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
体
(
からだ
)
、
189
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
の
態
(
てい
)
にて『ウンウン』と
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
のみ
僅
(
わづか
)
に
発
(
はつ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
190
近
(
ちか
)
より
見
(
み
)
れば、
191
高姫
(
たかひめ
)
一行
(
いつかう
)
であるに
打驚
(
うちおどろ
)
き、
192
色々
(
いろいろ
)
と
介抱
(
かいほう
)
をなし
鎮魂
(
ちんこん
)
を
修
(
しう
)
し、
193
魂寄
(
たまよ
)
せの
神言
(
かみごと
)
を
唱
(
とな
)
へ
漸
(
やうや
)
う
五
(
ご
)
人
(
にん
)
を
蘇生
(
そせい
)
せしめた。
194
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
背
(
せ
)
を
擦
(
さす
)
り
乍
(
なが
)
ら、
195
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
確
(
しつか
)
りなさいませ。
196
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
きましたか』
197
と
優
(
やさ
)
しき
声
(
こゑ
)
にて
労
(
いた
)
はる。
198
高姫
(
たかひめ
)
は
初
(
はじ
)
めて
気
(
き
)
がつきたるが
如
(
ごと
)
く、
199
高姫
(
たかひめ
)
『アヽ
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが、
200
危
(
あやふ
)
い
所
(
ところ
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいまして
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
201
是
(
これ
)
と
云
(
い
)
ふのも
全
(
まつた
)
く
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
が、
202
貴女
(
あなた
)
にお
憑
(
うつ
)
り
遊
(
あそ
)
ばして
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつたのに
違
(
ちが
)
ひありませぬ。
203
アヽ
外
(
ほか
)
の
者
(
もの
)
は
何
(
ど
)
うなつたか』
204
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
205
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なされますな、
206
皆
(
みな
)
妾
(
わたし
)
が
御
(
ご
)
介抱
(
かいはう
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げ、
207
漸
(
やうや
)
う
気
(
き
)
がつきました。
208
大変
(
たいへん
)
なお
疲
(
つか
)
れと
見
(
み
)
えて
横
(
よこ
)
になつて
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
られます』
209
高姫
(
たかひめ
)
『
妾
(
わたし
)
の
名
(
な
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
る
方
(
かた
)
は
何
(
いづ
)
れの
御
(
お
)
人
(
ひと
)
だ』
210
とよくよく
見
(
み
)
れば
玉能姫
(
たまのひめ
)
である。
211
高姫
(
たかひめ
)
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
かいナア、
212
ようまア
来
(
こ
)
られました。
213
夜前
(
やぜん
)
の
荒浪
(
あらなみ
)
に
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
船
(
ふね
)
を
操
(
あやつ
)
つて、
214
この
大海原
(
おほうなばら
)
を
渡
(
わた
)
るなどとは
偉
(
えら
)
い
度胸
(
どきよう
)
の
女
(
をんな
)
だ。
215
さうしてお
前
(
まへ
)
は
妾
(
わたし
)
を
助
(
たす
)
けて、
216
高姫
(
たかひめ
)
の
頭
(
あたま
)
を
押
(
おさ
)
へる
積
(
つも
)
りだらうが、
217
さうはいけませぬぞえ』
218
玉能姫
(
たまのひめ
)
『イエイエ
滅相
(
めつさう
)
な
事
(
こと
)
、
219
どうして
左様
(
さやう
)
な
野心
(
やしん
)
を
持
(
も
)
ちませう。
220
どこ
迄
(
まで
)
いても
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
221
高姫
(
たかひめ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
で
御座
(
ござ
)
いますもの』
222
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
る。
223
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
云
(
い
)
うたぢやないか。
224
要
(
えう
)
するにお
前
(
まへ
)
はお
前
(
まへ
)
、
225
私
(
わし
)
は
私
(
わし
)
と
云
(
い
)
ふ
傲慢
(
がうまん
)
不遜
(
ふそん
)
なお
前
(
まへ
)
の
了見
(
りやうけん
)
、
226
弱味
(
よわみ
)
に
付
(
つ
)
け
込
(
こ
)
んで
同等
(
どうとう
)
の
権利
(
けんり
)
を
握
(
にぎ
)
つたやうな
其
(
その
)
口吻
(
くちぶり
)
、
227
どうしても
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
腑
(
ふ
)
に
落
(
お
)
ちませぬ。
228
お
前
(
まへ
)
に
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
うたと
思
(
おも
)
へば
結構
(
けつこう
)
なやうなものの、
229
余
(
あま
)
り
嬉
(
うれ
)
しうも
無
(
な
)
いやうな
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
しますワイ。
230
オヽさうぢやさうぢや、
231
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
が
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
臨時
(
りんじ
)
道具
(
だうぐ
)
にお
使
(
つか
)
ひなさつたのだ。
232
……アヽ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
、
233
よう
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました。
234
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
如
(
ごと
)
き
曇
(
くも
)
り
切
(
き
)
つた
身魂
(
みたま
)
にお
憑
(
かか
)
り
遊
(
あそ
)
ばすのは、
235
並大抵
(
なみたいてい
)
の
事
(
こと
)
では
御座
(
ござ
)
いますまい。
236
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
お
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
します。
237
……コレコレ
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
238
唯今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
はこの
生宮
(
いきみや
)
へ
憑
(
うつ
)
り
替
(
か
)
へ
遊
(
あそ
)
ばしたから、
239
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
此
(
この
)
後
(
ご
)
は
私
(
わたし
)
の
真似
(
まね
)
をして
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
だなんて、
240
そんな
野心
(
やしん
)
を
起
(
おこ
)
してはなりませぬぞ。
241
チツト
嗜
(
たしな
)
みなされ』
242
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
243
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
で
大切
(
たいせつ
)
な
生命
(
いのち
)
をお
助
(
たす
)
かり
遊
(
あそ
)
ばして、
244
お
目出度
(
めでた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
245
高姫
(
たかひめ
)
『そりや
貴女
(
あなた
)
、
246
嘘
(
うそ
)
でせう。
247
死
(
し
)
ねば
良
(
よ
)
いのに
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
もガシヤ
婆
(
ばば
)
が
頑張
(
ぐわんば
)
つて
夫婦
(
ふうふ
)
の
仲
(
なか
)
を
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
す
奴
(
やつ
)
、
248
お
目出度
(
めでた
)
いと
云
(
い
)
ふのは
口先
(
くちさき
)
許
(
ばか
)
り、
249
真実
(
ほんと
)
の
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
は
大
(
おほ
)
きにお
目出度
(
めでた
)
うありますまい、
250
オホヽヽヽ』
251
玉能姫
(
たまのひめ
)
『それは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
います。
252
暴言
(
ばうげん
)
にも
程
(
ほど
)
があるぢやありませぬか』
253
高姫
(
たかひめ
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
よ。
254
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
や
杢助
(
もくすけ
)
等
(
ら
)
と
腹
(
はら
)
を
合
(
あは
)
せ、
255
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
に
蛸
(
たこ
)
の
揚壺
(
あげつぼ
)
を
喰
(
く
)
はせ、
256
面目玉
(
めんぼくだま
)
を
潰
(
つぶ
)
させ、
257
高姫
(
たかひめ
)
を
進退
(
しんたい
)
維
(
こ
)
れ
谷
(
きは
)
まる
窮地
(
きゆうち
)
に
陥
(
おとしい
)
れたお
前
(
まへ
)
、
258
どこに
私
(
わたし
)
が
助
(
たす
)
かつたのが
目出度
(
めでた
)
いと
云
(
い
)
ふ
道理
(
だうり
)
が
御座
(
ござ
)
んすかいな。
259
阿諛
(
あゆ
)
諂佞
(
てんねい
)
、
260
巧言
(
こうげん
)
令色
(
れいしよく
)
至
(
いた
)
らざる
無
(
な
)
き
貴女
(
あなた
)
方
(
がた
)
には、
261
高姫
(
たかひめ
)
も
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
よりイヤもう
感心
(
かんしん
)
仕
(
つかまつ
)
りました。
262
それだけの
悪智慧
(
わるぢゑ
)
が
廻
(
まは
)
らねば
大
(
だい
)
それたあんな
大望
(
たいもう
)
は
出来
(
でき
)
ますまい』
263
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
妾
(
わたし
)
が
此処
(
ここ
)
へ
来
(
こ
)
なかつたら、
264
貴女
(
あなた
)
は
既
(
すで
)
に
生命
(
いのち
)
の
無
(
な
)
い
処
(
ところ
)
ぢやありませぬか。
265
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けられ
乍
(
なが
)
ら、
266
余
(
あま
)
りと
云
(
い
)
へば
余
(
あま
)
りのお
愛想
(
あいそ
)
尽
(
づ
)
かし、
267
妾
(
わたし
)
も
実
(
じつ
)
に
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました』
268
高姫
(
たかひめ
)
『それはお
前
(
まへ
)
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
口
(
くち
)
びらたい
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのかい。
269
天道
(
てんだう
)
は
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
さずと
云
(
い
)
つて、
270
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
271
どんな
事
(
こと
)
があつても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げてお
助
(
たす
)
けなさるのは
必定
(
ひつぢやう
)
だ。
272
万々一
(
まんまんいち
)
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
が
溺
(
おぼ
)
れて
死
(
し
)
ぬ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
があつたら、
273
それこそ
三千
(
さんぜん
)
年
(
ねん
)
の
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
のお
仕組
(
しぐみ
)
が
薩張
(
さつぱり
)
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
になつて
仕舞
(
しま
)
ふぢやないか。
274
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
三角
(
さんかく
)
にしようと
四角
(
しかく
)
にしようと
餅
(
もち
)
にしようと
団子
(
だんご
)
にしようと、
275
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
遊
(
あそ
)
ばす
大国治立
(
おほくにはるたちの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は、
276
そんな
不利益
(
ふりえき
)
な
事
(
こと
)
を
遊
(
あそ
)
ばす
筈
(
はず
)
がない。
277
仮令
(
たとへ
)
お
前
(
まへ
)
が
来
(
こ
)
なくてもあれ
御覧
(
ごらん
)
なさい。
278
沢山
(
たくさん
)
の
漁船
(
れふせん
)
が
浪
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
を
往来
(
わうらい
)
して
居
(
を
)
るぢやないか。
279
世界
(
せかい
)
に
鬼
(
おに
)
は
無
(
な
)
いと
云
(
い
)
ふ。
280
見
(
み
)
ず
知
(
し
)
らずの
赤
(
あか
)
の
他人
(
たにん
)
でも
人
(
ひと
)
が
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
れば
助
(
たす
)
けたうなるものぢや。
281
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
けた
時
(
とき
)
の
愉快
(
ゆくわい
)
さと
云
(
い
)
うたら
譬方
(
たとへかた
)
の
無
(
な
)
いものだ。
282
お
前
(
まへ
)
さまは
赤
(
あか
)
の
他人
(
たにん
)
とは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
矢張
(
やつぱ
)
り
曲
(
まが
)
りなりにも
同
(
おな
)
じ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
の
懐
(
ふところ
)
にくつついて
居
(
ゐ
)
る
虱
(
しらみ
)
のやうなものだ。
283
虱
(
しらみ
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
284
霊界
(
れいかい
)
物語
(
ものがたり
)
第五
(
だいご
)
巻
(
くわん
)
の
総説
(
そうせつ
)
ぢやないが、
285
広大
(
くわうだい
)
無辺
(
むへん
)
の
大御心
(
おほみこころ
)
が
分
(
わか
)
つて
耐
(
たま
)
りますかい。
286
暫
(
しば
)
しの
間
(
あひだ
)
でも
私
(
わたし
)
を
助
(
たす
)
けてやつたと
夢見
(
ゆめみ
)
たときの
愉快
(
ゆくわい
)
さは、
287
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
はれぬ
感
(
かん
)
がしただらう。
288
仮令
(
たとへ
)
刹那
(
せつな
)
の
愉快
(
ゆくわい
)
でも
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
があつたらこそ、
289
そんな
結構
(
けつこう
)
な
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うたのだ。
290
サアサア
早
(
はや
)
く
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
に
感謝
(
かんしや
)
なさいませ。
291
アヽ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
はお
恵
(
めぐみ
)
が
深
(
ふか
)
いから、
292
こんな
玉隠
(
たまかく
)
しの
身魂
(
みたま
)
にさへも
喜
(
よろこ
)
びを
与
(
あた
)
へて
下
(
くだ
)
さるか。
293
思
(
おも
)
へば
尊
(
たふと
)
い
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
の
強
(
つよ
)
い
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
。
294
杢助
(
もくすけ
)
や
玉能姫
(
たまのひめ
)
に
守護
(
しゆご
)
して
居
(
を
)
る
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は、
295
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
に
対
(
たい
)
し
一度
(
いちど
)
も
束
(
つか
)
の
間
(
ま
)
も
嬉
(
うれ
)
しいと
云
(
い
)
ふ
感
(
かん
)
を
与
(
あた
)
へて
呉
(
く
)
れた
事
(
こと
)
はない。
296
その
筈
(
はず
)
だ、
297
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
うても
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
悪
(
あく
)
の
一番
(
いちばん
)
醜
(
ひど
)
い
時
(
とき
)
の
分霊
(
わけみたま
)
が
守護
(
しゆご
)
して
居
(
ゐ
)
るのだから、
298
注文
(
ちうもん
)
するのが
此方
(
こつち
)
の
不調法
(
ぶてうはふ
)
だ、
299
オホヽヽヽ』
300
とそろそろ
元気
(
げんき
)
づいて
来
(
く
)
るに
従
(
したが
)
ひ、
301
再
(
ふたた
)
び
意地
(
いぢ
)
くねの
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
捏
(
こ
)
ね
出
(
だ
)
したり。
302
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
貴女
(
あなた
)
、
303
船
(
ふね
)
はどうなりました』
304
高姫
(
たかひめ
)
『オホヽヽヽ、
305
船
(
ふね
)
が
残
(
のこ
)
る
位
(
くらゐ
)
なら
誰人
(
たれ
)
が
海
(
うみ
)
へ
はま
るものか。
306
お
前
(
まへ
)
も
思
(
おも
)
ひの
外
(
ほか
)
智慧
(
ちゑ
)
の
足
(
た
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひなさるな。
307
あの
船
(
ふね
)
にはエラさうに
玉能丸
(
たまのまる
)
と
印
(
しるし
)
が
入
(
い
)
れてあつたが、
308
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
の
船
(
ふね
)
ぢやありますまい。
309
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
用船
(
ようせん
)
だ。
310
それを
僣越
(
せんゑつ
)
至極
(
しごく
)
にも
自分
(
じぶん
)
の
船
(
ふね
)
のやうに
思
(
おも
)
ひ、
311
玉能丸
(
たまのまる
)
なんて
記
(
しる
)
した
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
れば、
312
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
には
既
(
すで
)
に
既
(
すで
)
に
船
(
ふね
)
一艘
(
いつそう
)
窃盗
(
どろぼう
)
して
居
(
を
)
つたのだ。
313
お
前
(
まへ
)
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らこれも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
深
(
ふか
)
いお
仕組
(
しぐみ
)
かも
知
(
し
)
れませぬ。
314
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
名
(
な
)
のついた
船
(
ふね
)
が
暗礁
(
あんせう
)
に
衝突
(
ぶつつ
)
かつて
木
(
こ
)
つ
端
(
ぱ
)
微塵
(
みじん
)
になつたと
思
(
おも
)
へばオホヽヽヽ、
315
心地
(
ここち
)
よい
事
(
こと
)
だ。
316
この
船
(
ふね
)
がお
前
(
まへ
)
の
前途
(
ぜんと
)
の
箴
(
しん
)
をなして
居
(
を
)
るのだ。
317
余
(
あま
)
り
慢心
(
まんしん
)
をして
我
(
が
)
を
張
(
は
)
り
通
(
とほ
)
すと
又
(
また
)
此
(
この
)
船
(
ふね
)
のやうに
暗礁
(
あんせう
)
に
乗
(
の
)
り
上
(
あ
)
げ、
318
破滅
(
はめつ
)
の
厄
(
やく
)
に
遇
(
あ
)
はねばなりますまい。
319
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
気
(
き
)
をつけて
置
(
お
)
くから
云
(
い
)
ふ
中
(
うち
)
に
改心
(
かいしん
)
をなさらぬと、
320
トコトンのどん
詰
(
づま
)
りになつて
地団駄
(
ぢだんだ
)
踏
(
ふ
)
んでも
後
(
あと
)
の
祭
(
まつり
)
、
321
誰
(
たれ
)
も
構
(
かま
)
うては
呉
(
く
)
れませぬぞエ。
322
……コレコレ
貫州
(
くわんしう
)
、
323
皆々
(
みなみな
)
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
起
(
お
)
きて
来
(
こ
)
ぬかいな、
324
男
(
をとこ
)
の
癖
(
くせ
)
に
何
(
なに
)
を
弱
(
よわ
)
つて
居
(
を
)
るのだ』
325
貫州
(
くわんしう
)
『いやモウ
余
(
あま
)
り
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しまして
立
(
た
)
つ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬワ。
326
ナア
鶴公
(
つるこう
)
、
327
お
前
(
まへ
)
も
感心
(
かんしん
)
しただらう』
328
鶴公
(
つるこう
)
『さうともさうとも、
329
四
(
よ
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
揃
(
そろ
)
つて
感心
(
かんしん
)
した。
330
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
うて
置
(
お
)
きながら、
331
竹篦返
(
しつぺいがへ
)
しの
能弁
(
のうべん
)
には
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
が
塞
(
ふさ
)
がらぬワイ。
332
ナア
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
、
333
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
には
心
(
こころ
)
から
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました。
334
ようマア
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました。
335
お
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
ちませうが
狂人
(
きちがひ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だと
思
(
おも
)
つて
何卒
(
どうぞ
)
勘弁
(
かんべん
)
してやつて
下
(
くだ
)
さいませ。
336
海
(
うみ
)
の
向
(
むか
)
ふに
須磨
(
すま
)
の
精神
(
せいしん
)
病院
(
びやうゐん
)
が
御座
(
ござ
)
いますから、
337
其処
(
そこ
)
へお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
して
監禁
(
かんきん
)
して
貰
(
もら
)
ひますから、
338
どうぞそれ
迄
(
まで
)
御
(
ご
)
辛抱
(
しんばう
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
339
生命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
の
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
、
340
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
』
341
高姫
(
たかひめ
)
『コラコラ
鶴
(
つる
)
、
342
貫
(
くわん
)
、
343
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
344
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
して
狂人
(
きちがひ
)
とは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
不心得
(
ふこころえ
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
345
そんな
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
すと
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
師匠
(
ししやう
)
でもないぞ、
346
弟子
(
でし
)
でもない。
347
破門
(
はもん
)
するからさう
思
(
おも
)
へ』
348
鶴公
(
つるこう
)
『
捨
(
す
)
てる
神
(
かみ
)
もあれば
拾
(
ひろ
)
ふ
神
(
かみ
)
もある。
349
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
はようしたものだ。
350
私
(
わたくし
)
は
唯今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
りお
前
(
まへ
)
さまに
愛憎
(
あいそ
)
が
尽
(
つ
)
きたから、
351
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
のお
弟子
(
でし
)
にして
頂
(
いただ
)
きます。
352
否々
(
いやいや
)
生命
(
いのち
)
の
親様
(
おやさま
)
、
353
孝行
(
かうかう
)
な
子
(
こ
)
となりて
尽
(
つく
)
します。
354
高姫
(
たかひめ
)
さま、
355
長
(
なが
)
らく
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけさして
下
(
くだ
)
さいました。
356
私
(
わたくし
)
も
是
(
これ
)
で
四十二
(
しじふに
)
の
厄祓
(
やくばら
)
ひ、
357
家内中
(
かないぢう
)
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
煤払
(
すすはら
)
ひをしたやうな
気分
(
きぶん
)
になりました』
358
高姫
(
たかひめ
)
は
面
(
かほ
)
を
膨
(
ふく
)
らし
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
睨
(
にら
)
み
付
(
つ
)
けて
居
(
ゐ
)
る。
359
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
四
(
よ
)
人
(
にん
)
のお
方
(
かた
)
、
360
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
は
何処迄
(
どこまで
)
も
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
教養
(
けうやう
)
をお
受
(
うけ
)
下
(
くだ
)
さいませ。
361
妾
(
わたし
)
は
他人
(
ひと
)
様
(
さま
)
の
弟子
(
でし
)
を
横取
(
よこど
)
りしたと
云
(
い
)
はれましては
迷惑
(
めいわく
)
で
御座
(
ござ
)
います。
362
断
(
だん
)
じて
弟子
(
でし
)
でもなければ
親子
(
おやこ
)
でもないと
思
(
おも
)
うて
下
(
くだ
)
さい』
363
鶴公
(
つるこう
)
『そりや
貴女
(
あなた
)
御
(
ご
)
無理
(
むり
)
です。
364
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
私
(
わたくし
)
の
心
(
こころ
)
が
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
を
離
(
はな
)
れて、
365
貴女
(
あなた
)
に
密着
(
みつちやく
)
して
仕舞
(
しま
)
つたのだから、
366
何彼
(
なにか
)
の
因縁
(
いんねん
)
と
諦
(
あきら
)
めて
下
(
くだ
)
さいませ。
367
お
許
(
ゆる
)
しなくば
貴女
(
あなた
)
に
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
うた
此
(
この
)
生命
(
いのち
)
、
368
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱ
)
り
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げてお
返
(
かへ
)
し
致
(
いた
)
しますから』
369
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
のお
心
(
こころ
)
はよく
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
370
併
(
しか
)
し
妾
(
わたし
)
を
助
(
たす
)
けると
思
(
おも
)
うて
断念
(
だんねん
)
して
下
(
くだ
)
さい。
371
それよりも
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
妾
(
わたし
)
の
船
(
ふね
)
に
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
をお
乗
(
の
)
せ
申
(
まを
)
して
帰
(
かへ
)
りませう』
372
一同
(
いちどう
)
『ハイさう
致
(
いた
)
しませう』
373
と
言葉
(
ことば
)
を
揃
(
そろ
)
へて
頷
(
うなづ
)
く。
374
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
は
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
に
乗
(
の
)
つて
帰
(
かへ
)
りなさい。
375
私
(
わたし
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
に
助
(
たす
)
けられる
因縁
(
いんねん
)
が
無
(
な
)
いのだから。
376
あの
通
(
とほ
)
り
沢山
(
たくさん
)
の
船
(
ふね
)
、
377
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
れば
何処
(
どこ
)
かの
船
(
ふね
)
が
来
(
こ
)
う。
378
それに
沢山
(
たくさん
)
の
賃銀
(
ちんぎん
)
を
与
(
あた
)
へれば
何処
(
どこ
)
へでも
乗
(
の
)
せて
往
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れるから、
379
お
節
(
せつ
)
惚
(
のろ
)
けのお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
はどうでも
勝手
(
かつて
)
にするがよいワイのう。
380
私
(
わたし
)
は
一
(
ひと
)
つの
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
する
迄
(
まで
)
帰
(
かへ
)
らないから、
381
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
帰
(
かへ
)
りなさい』
382
鶴公
(
つるこう
)
『アヽ、
383
こんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うても
貴女
(
あなた
)
は
矢張
(
やつぱ
)
り
執着心
(
しふちやくしん
)
が
退
(
の
)
かぬと
見
(
み
)
えますな。
384
家島
(
えじま
)
とか
神島
(
かみしま
)
とかへ
行
(
い
)
つて
宝
(
たから
)
を
呑
(
の
)
んで
来
(
く
)
る
積
(
つも
)
りでせう』
385
と
聞
(
き
)
くより
高姫
(
たかひめ
)
は
癇声
(
かんごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げ、
386
高姫
(
たかひめ
)
『
構
(
かま
)
ふな、
387
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
知
(
し
)
つた
事
(
こと
)
かい』
388
と
呶鳴
(
どな
)
りつけた。
389
此
(
この
)
時
(
とき
)
一艘
(
いつそう
)
の
漁船
(
れふせん
)
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
くに
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
寄
(
よ
)
り
来
(
きた
)
り、
390
船頭
(
せんどう
)
『
夜前
(
やぜん
)
は
大変
(
たいへん
)
な
暴風雨
(
ばうふうう
)
だつたが、
391
茲
(
ここ
)
に
一艘
(
いつそう
)
の
船
(
ふね
)
が
毀
(
こは
)
れたと
見
(
み
)
えて
板片
(
いたぎれ
)
が
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
る。
392
大方
(
おほかた
)
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
は
難船
(
なんせん
)
したのだらう。
393
サア
私
(
わたし
)
の
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
向
(
むか
)
ふへ
帰
(
かへ
)
らつしやい、
394
賃銀
(
ちんぎん
)
は
幾何
(
いくら
)
でもよいから』
395
高姫
(
たかひめ
)
『アヽ
流石
(
さすが
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だ。
396
お
前
(
まへ
)
は
偉
(
えら
)
いものだ。
397
サア
私
(
わたし
)
を
乗
(
の
)
せて
下
(
くだ
)
さい。
398
賃銀
(
ちんぎん
)
は
幾何
(
いくら
)
でも
上
(
あ
)
げるから』
399
船頭
(
せんどう
)
『
見
(
み
)
れば
此処
(
ここ
)
に
船
(
ふね
)
が
一艘
(
いつそう
)
着
(
つ
)
いて
居
(
を
)
るが、
400
是
(
これ
)
は
誰
(
たれ
)
の
船
(
ふね
)
だな』
401
高姫
(
たかひめ
)
『あれかいな、
402
あれは
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
る
連中
(
れんちう
)
の
船
(
ふね
)
だ。
403
最前
(
さいぜん
)
から
乗
(
の
)
せて
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
つて
頼
(
たの
)
んで
居
(
を
)
るのに、
404
根
(
ね
)
つから
乗
(
の
)
せてやらうと
云
(
い
)
はぬのだ。
405
エグイ
奴
(
やつ
)
があればあるもの。
406
……よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
407
サア
乗
(
の
)
せて
貰
(
もら
)
はう』
408
船頭
(
せんどう
)
『サアサア
乗
(
の
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
409
コレコレお
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
、
410
なぜこの
婆
(
ばば
)
アを
乗
(
の
)
せてやらぬのだ。
411
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い
男
(
をとこ
)
だなア』
412
鶴公
(
つるこう
)
『
船頭
(
せんどう
)
さま、
413
この
婆
(
ばば
)
アは
一寸
(
ちよつと
)
気
(
き
)
が
違
(
ちが
)
うて
居
(
を
)
るから
何
(
なに
)
云
(
い
)
ふか
分
(
わか
)
りませぬ。
414
最前
(
さいぜん
)
からこの
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
りなさいと
云
(
い
)
ふのに、
415
自分
(
じぶん
)
から
乗
(
の
)
らないと
頑張
(
ぐわんば
)
つて、
416
駄々
(
だだ
)
をこね、
417
あんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだから
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
418
お
前
(
まへ
)
さま、
419
要心
(
ようじん
)
して
須磨
(
すま
)
の
精神
(
せいしん
)
病院
(
びやうゐん
)
へでも
送
(
おく
)
つてやつて
下
(
くだ
)
さい。
420
途中
(
とちう
)
海
(
うみ
)
へでも
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
むと
大変
(
たいへん
)
だから、
421
綱
(
つな
)
かなんかで、
422
がんじ
搦
(
がら
)
めに
縛
(
くく
)
つて
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
の
荷物
(
にもつ
)
で
押
(
おさ
)
へて
置
(
お
)
かぬと
耐
(
たま
)
りませぬぜ』
423
高姫
(
たかひめ
)
『こりや
鶴
(
つる
)
、
424
恩
(
おん
)
知
(
し
)
らず
奴
(
め
)
、
425
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだ』
426
と
睨
(
ね
)
め
付
(
つ
)
け、
427
高姫
(
たかひめ
)
『サア
船頭
(
せんどう
)
さま、
428
早
(
はや
)
くやつて
下
(
くだ
)
さい。
429
サア
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
430
船頭
(
せんどう
)
『ハイ、
431
左様
(
さやう
)
なら
何処
(
どこ
)
へでもお
供
(
とも
)
致
(
いた
)
しませう』
432
と、
433
艪
(
ろ
)
を
取
(
と
)
り、
434
西
(
にし
)
に
向
(
むか
)
つて
漕
(
こ
)
いで
行
(
ゆ
)
く。
435
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
を
吾
(
わが
)
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
せ、
436
自
(
みづか
)
ら
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
りながら
高姫
(
たかひめ
)
の
船
(
ふね
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
追
(
お
)
うて
往
(
ゆ
)
く。
437
(
大正一一・六・一二
旧五・一七
加藤明子
録)
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