霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第23巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 南海の山
第1章 玉の露
第2章 副守囁
第3章 松上の苦悶
第4章 長高説
第2篇 恩愛の涙
第5章 親子奇遇
第6章 神異
第7章 知らぬが仏
第8章 縺れ髪
第3篇 有耶無耶
第9章 高姫騒
第10章 家宅侵入
第11章 難破船
第12章 家島探
第13章 捨小舟
第14章 籠抜
第4篇 混線状態
第15章 婆と婆
第16章 蜈蚣の涙
第17章 黄竜姫
第18章 波濤万里
霊の礎(八)
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい|
サブスク
のお知らせ
霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第23巻(戌の巻)
> 第3篇 有耶無耶 > 第9章 高姫騒
<<< 縺れ髪
(B)
(N)
家宅侵入 >>>
第九章
高姫
(
たかひめ
)
騒
(
さわぎ
)
〔七二一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
篇:
第3篇 有耶無耶
よみ(新仮名遣い):
うやむや
章:
第9章 高姫騒
よみ(新仮名遣い):
たかひめさわぎ
通し章番号:
721
口述日:
1922(大正11)年06月11日(旧05月16日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
若彦の館の門を潜って一人の女が入ってきた。門番がとがめると、女は門番をたしなめて足早に奥に入って行った。女は玄関番の久助と言い争い、そこへ若彦が現れて女を見ると、はっとして奥へ通した。
女は若彦の妻・玉能姫であった。玉能姫は、高姫が若彦に対して陰謀を企んでいる危急を知らせに来たのであった。玉能姫は、高姫またはその使いが食べ物を持って来たなら、決して口にしてはならない、と告げた。
若彦は承知して、玉能姫に礼を言う。そこへ玄関に騒々しい争いの声が聞こえてきた。高姫がやってきて、玉能姫がここへ来ただろうと怒鳴っている。
高姫は奥へ勝手に入ってきて、若彦と玉能姫が会談している部屋に現れた。そして憎まれ口を叩いている。高姫は二人を脅したりすかしたりして、玉の隠し場所を白状させようとする。
若彦は怒り、玉能姫は去ろうとするが、高姫は食ってかかって怒鳴りたてる。そこへ常楠夫婦、木山彦夫婦、秋彦、駒彦、虻公、蜂公がやってきて、奥の争い声を聞いてやってきた。
一行は若彦の前に平伏する。高姫は皆が陰謀を企てにやってきたのだろう、と非難を始めるが、駒彦、秋彦は何のことやらわからずに途方に暮れている。久助が一行を大広間に案内しようとすると、高姫はまたもや言いがかりをつけて一行の行く手を阻む。
秋彦と駒彦は、自分たちは教主・言依別命に絶対服従しており、若彦を玉能姫を崇敬していると言って高姫を無視して通ろうとした。
高姫は怒って秋彦と駒彦のえりを掴んで引き倒した。それを見た常楠は怒って、大力に任せて高姫の襟首を掴み、館の外へと放り出した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-06-29 17:24:57
OBC :
rm2309
愛善世界社版:
141頁
八幡書店版:
第4輯 545頁
修補版:
校定版:
143頁
普及版:
65頁
初版:
ページ備考:
001
若彦
(
わかひこ
)
の
門
(
もん
)
を
潜
(
くぐ
)
つて
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
る
一人
(
ひとり
)
の
美人
(
びじん
)
があつた。
002
門番
(
もんばん
)
の
秋公
(
あきこう
)
、
003
七五三
(
しめ
)
公
(
こう
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
此
(
この
)
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
004
秋公
(
あきこう
)
『モシモシ、
005
何処
(
どこ
)
のお
女中
(
ぢよちう
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
006
何
(
なん
)
の
御用
(
ごよう
)
で
御座
(
ござ
)
るか、
007
門番
(
もんばん
)
の
私
(
わたくし
)
に
一応
(
いちおう
)
御用
(
ごよう
)
の
趣
(
おもむき
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいませ』
008
女
(
をんな
)
『
少
(
すこ
)
しく
様子
(
やうす
)
あつて……
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
主人
(
しゆじん
)
に
会
(
あ
)
ひ
度
(
た
)
う
御座
(
ござ
)
いますから』
009
七五三
(
しめ
)
公
(
こう
)
『
名
(
な
)
も
分
(
わか
)
らぬ
女
(
をんな
)
を
通
(
とほ
)
す
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
り
成
(
な
)
りませぬ』
010
女
(
をんな
)
『お
前
(
まへ
)
は
此処
(
ここ
)
の
門番
(
もんばん
)
ではないか、
011
妾
(
わたし
)
が
如何
(
いか
)
なる
者
(
もの
)
か
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
で、
012
門番
(
もんばん
)
が
勤
(
つと
)
まりますか』
013
と
たしなめ
乍
(
なが
)
ら、
014
足早
(
あしばや
)
に
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
つた。
015
七五三
(
しめ
)
公
(
こう
)
『アヽ
薩張
(
さつぱり
)
駄目
(
だめ
)
だ、
016
女
(
をんな
)
と
言
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
押
(
お
)
し
尻
(
けつ
)
の
強
(
つよ
)
いものだ。
017
然
(
しか
)
し
彼奴
(
あいつ
)
は
何処
(
どこ
)
ともなしに
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い
女
(
をんな
)
であつたが
一体
(
いつたい
)
何
(
なに
)
だらうかなア』
018
秋公
(
あきこう
)
『ひよつとしたら
大将
(
たいしやう
)
の
レコ
かも
知
(
し
)
れぬぞ』
019
と
小指
(
こゆび
)
を
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
せる。
020
七五三
(
しめ
)
公
(
こう
)
『
当家
(
うち
)
の
大将
(
たいしやう
)
に
限
(
かぎ
)
つてそんな
者
(
もの
)
があつて
堪
(
たま
)
らうかい。
021
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
と
言
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
な
奥様
(
おくさま
)
があるのだが、
022
今
(
いま
)
は
再度山
(
ふたたびさん
)
の
麓
(
ふもと
)
の
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
に、
023
三五教
(
あななひけう
)
の
館
(
やかた
)
を
建
(
た
)
てて
熱心
(
ねつしん
)
に
活動
(
くわつどう
)
して
居
(
を
)
られると
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
024
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
遥々
(
はるばる
)
国
(
くに
)
を
隔
(
へだ
)
てて
忠実
(
ちうじつ
)
に
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
為
(
な
)
さると
言
(
い
)
つて、
025
大変
(
たいへん
)
な
評判
(
へうばん
)
だから、
026
そんな
事
(
こと
)
があつて
堪
(
たま
)
るものか』
027
秋公
(
あきこう
)
『さうだと
言
(
い
)
つて
思案
(
しあん
)
の
外
(
ほか
)
と
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
028
ひよつとしたら
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまが
御
(
お
)
入来
(
いで
)
になつたのぢやあるまいかな』
029
七五三
(
しめ
)
公
(
こう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
言
(
い
)
へ、
030
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
がどうして
一人
(
ひとり
)
お
入来
(
いで
)
になるものか。
031
少
(
すく
)
なくとも
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
のお
供
(
とも
)
は、
032
屹度
(
きつと
)
従
(
つ
)
いて
居
(
を
)
らねばならぬ
筈
(
はず
)
だ』
033
秋彦
(
あきひこ
)
『そこが……
微行
(
しのび
)
と
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
034
きつと
大将
(
たいしやう
)
が
恋
(
こひ
)
しくなつて、
035
御
(
ご
)
微行
(
びかう
)
と
出掛
(
でか
)
けられたのだらう』
036
と
門番
(
もんばん
)
は
美人
(
びじん
)
の
噂
(
うはさ
)
に
有頂天
(
うちやうてん
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
037
美人
(
びじん
)
は
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り
玄関先
(
げんくわんさき
)
に
立
(
た
)
ち、
038
小声
(
こごゑ
)
になつて、
039
女
(
をんな
)
『
若彦
(
わかひこ
)
様
(
さま
)
は
御
(
ご
)
在宅
(
ざいたく
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
040
と
訪
(
おとな
)
うた。
041
玄関番
(
げんくわんばん
)
の
久助
(
きうすけ
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
走
(
はし
)
り
出
(
い
)
で、
042
久助
(
きうすけ
)
『ハイ、
043
若彦
(
わかひこ
)
の
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
は
今
(
いま
)
奥
(
おく
)
に
居
(
ゐ
)
られます。
044
誰方
(
どなた
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
045
御
(
お
)
名
(
な
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいませ』
046
女
(
をんな
)
『
少
(
すこ
)
しく
名
(
な
)
は
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げられぬ
仔細
(
しさい
)
が
御座
(
ござ
)
います。
047
お
会
(
あ
)
ひ
申
(
まを
)
しさへすれば
分
(
わか
)
りますから、
048
何卒
(
どうぞ
)
「
女
(
をんな
)
が
一人
(
ひとり
)
お
訪
(
たづ
)
ねに
参
(
まゐ
)
つた」と
伝
(
つた
)
へて
下
(
くだ
)
さいませ』
049
久助
(
きうすけ
)
『
私
(
わたし
)
は
姓名
(
せいめい
)
を
承
(
うけたま
)
はらずにお
取次
(
とりつぎ
)
を
致
(
いた
)
しますると、
050
大変
(
たいへん
)
に
叱
(
しか
)
られますから、
051
何卒
(
どうぞ
)
名
(
な
)
を
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
052
さうでなければお
取次
(
とりつぎ
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
に
出来
(
でき
)
ませぬ』
053
女
(
をんな
)
『
左様
(
さやう
)
なれば
妾
(
わたし
)
から
進
(
すす
)
んでお
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
るべく
通
(
とほ
)
りませう』
054
久助
(
きうすけ
)
『
是
(
これ
)
は
怪
(
け
)
しからぬ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
055
此処
(
ここ
)
は
私
(
わたし
)
の
関所
(
せきしよ
)
、
056
さう
無暗
(
むやみ
)
に
通
(
とほ
)
る
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
りなりませぬ』
057
女
(
をんな
)
『
左様
(
さやう
)
なれば
取次
(
とりつ
)
いで
下
(
くだ
)
さいませ』
058
久助
(
きうすけ
)
『
見
(
み
)
れば
貴女
(
あなた
)
は
相当
(
さうたう
)
の
人格者
(
じんかくしや
)
と
見
(
み
)
えるが、
059
私
(
わたし
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
りませぬか。
060
玄関番
(
げんくわんばん
)
は
玄関番
(
げんくわんばん
)
としての
職責
(
しよくせき
)
を
守
(
まも
)
らねばなりませぬから、
061
何程
(
なにほど
)
通
(
とほ
)
して
上
(
あ
)
げ
度
(
た
)
くとも、
062
姓名
(
せいめい
)
の
分
(
わか
)
らない
方
(
かた
)
は
化物
(
ばけもの
)
だか
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
れませぬ。
063
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
乍
(
なが
)
ら
何卒
(
どうぞ
)
お
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
064
美人
(
びじん
)
は
稍
(
やや
)
声
(
こゑ
)
を
高
(
たか
)
め、
065
女
(
をんな
)
『コレ
久助
(
きうすけ
)
、
066
お
前
(
まへ
)
はまだ
聖地
(
せいち
)
に
上
(
のぼ
)
つた
事
(
こと
)
もなく、
067
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
へ
来
(
き
)
た
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
いので
分
(
わか
)
らぬのも
無理
(
むり
)
はないが、
068
名
(
な
)
を
名告
(
なの
)
らずとも
玄関番
(
げんくわんばん
)
をして
居
(
ゐ
)
る
位
(
くらゐ
)
なら、
069
大抵
(
たいてい
)
分
(
わか
)
りさうなものだ。
070
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つても
妾
(
わたし
)
は
通
(
とほ
)
るのだから
邪魔
(
じやま
)
をして
下
(
くだ
)
さるな』
071
と
何処
(
どこ
)
やらに
強味
(
つよみ
)
のある
言
(
い
)
ひ
振
(
ぶ
)
り。
072
久助
(
きうすけ
)
は
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
073
久助
(
きうすけ
)
『ハテナ、
074
貴女
(
あなた
)
は
奥様
(
おくさま
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか。
075
ア、
076
いやいや
奥様
(
おくさま
)
ではあるまい。
077
尊
(
たふと
)
き
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
は
結構
(
けつこう
)
な
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
遊
(
あそ
)
ばして、
078
今
(
いま
)
では
女房
(
にようばう
)
とは
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
079
格式
(
かくしき
)
がズツと
上
(
うへ
)
になられ、
080
当家
(
たうけ
)
の
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
も
容易
(
ようい
)
にお
側
(
そば
)
へ
寄
(
よ
)
れないと
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
081
そんな
立派
(
りつぱ
)
な
方
(
かた
)
が
供
(
とも
)
を
連
(
つ
)
れずに、
082
軽々
(
かるがる
)
しく
一人
(
ひとり
)
御
(
お
)
入来
(
いで
)
遊
(
あそ
)
ばす
道理
(
だうり
)
がない。
083
アヽ
此奴
(
こいつ
)
は、
084
てつきり
魔性
(
ましやう
)
のものだ。
085
……こりやこりや
女
(
をんな
)
、
086
絶対
(
ぜつたい
)
に
通
(
とほ
)
る
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
りならぬぞ』
087
と
大声
(
おほごゑ
)
に
呶鳴
(
どな
)
りつけてゐる。
088
若彦
(
わかひこ
)
は
久助
(
きうすけ
)
の
大声
(
おほごゑ
)
に
何事
(
なにごと
)
の
起
(
おこ
)
りしかと、
089
座
(
ざ
)
を
起
(
た
)
つて
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
090
美人
(
びじん
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
打
(
う
)
ち
驚
(
おどろ
)
き、
091
若彦
『ア、
092
お
前
(
まへ
)
は
玉
(
たま
)
……』
093
と
言
(
い
)
ひかけて
俄
(
にはか
)
に
口
(
くち
)
を
つぐ
み、
094
居
(
ゐ
)
直
(
なほ
)
つて、
095
若彦
『
何
(
いづ
)
れの
女中
(
ぢよちう
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが、
096
何卒
(
どうぞ
)
奥
(
おく
)
へお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
097
女
(
をんな
)
『ハイ、
098
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
099
御
(
ご
)
神務
(
しんむ
)
御
(
ご
)
多忙
(
たばう
)
の
中
(
なか
)
を
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
に
上
(
あが
)
りまして、
100
誠
(
まこと
)
に
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
101
左様
(
さやう
)
なればお
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
ひ、
102
奥
(
おく
)
に
通
(
とほ
)
して
頂
(
いただ
)
きませう』
103
若彦
(
わかひこ
)
『サア
私
(
わたし
)
に
従
(
つ
)
いて
御
(
お
)
入来
(
いで
)
なさいませ。
104
コレ
久助
(
きうすけ
)
、
105
お
前
(
まへ
)
は
此処
(
ここ
)
にしつかりと
玄関番
(
げんくわんばん
)
をして
居
(
を
)
るのだよ、
106
一足
(
ひとあし
)
も
奥
(
おく
)
へ
来
(
き
)
てはいけないから』
107
と
言
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
てて
両人
(
りやうにん
)
は
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
108
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つた
久助
(
きうすけ
)
は
首
(
くび
)
を
稍
(
やや
)
左方
(
さはう
)
に
傾
(
かたむ
)
け
舌
(
した
)
を
斜
(
はすかい
)
に
噛
(
か
)
み
出
(
だ
)
し、
109
妙
(
めう
)
な
目付
(
めつき
)
をして
合点
(
がてん
)
の
往
(
ゆ
)
かぬ
面持
(
おももち
)
にて
天井
(
てんじやう
)
を
眺
(
なが
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
110
若彦
(
わかひこ
)
は
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
女
(
をんな
)
と
二人
(
ふたり
)
静
(
しづ
)
かに
座
(
ざ
)
を
占
(
し
)
め、
111
若彦
(
わかひこ
)
『
貴方
(
あなた
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
殿
(
どの
)
では
御座
(
ござ
)
らぬか。
112
大切
(
たいせつ
)
な
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
しながら、
113
何故
(
なぜ
)
案内
(
あんない
)
も
無
(
な
)
く
一人
(
ひとり
)
で
此処
(
ここ
)
へお
入来
(
いで
)
になりましたか。
114
私
(
わたし
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ
誓
(
ちか
)
つた
以上
(
いじやう
)
、
115
貴女
(
あなた
)
と
此
(
この
)
館
(
やかた
)
で
面会
(
めんくわい
)
する
事
(
こと
)
は
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
りませぬ』
116
玉能姫
(
たまのひめ
)
『お
言葉
(
ことば
)
は
御尤
(
ごもつと
)
もで
御座
(
ござ
)
いますが、
117
之
(
これ
)
には
深
(
ふか
)
い
仔細
(
しさい
)
があつて
参
(
まゐ
)
りました。
118
貴方
(
あなた
)
の
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
119
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
より
大切
(
たいせつ
)
な
神業
(
しんげふ
)
を
命
(
めい
)
ぜられ、
120
次
(
つい
)
で
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
の
館
(
やかた
)
の
主人
(
あるじ
)
となりましたが、
121
それに
就
(
つ
)
いて
高姫
(
たかひめ
)
さまの
部下
(
ぶか
)
に
仕
(
つか
)
へて
居
(
を
)
る
人
(
ひと
)
達
(
たち
)
が、
122
「
三個
(
さんこ
)
の
神宝
(
しんぽう
)
は、
123
屹度
(
きつと
)
妾
(
わたし
)
と
貴方
(
あなた
)
とが
申
(
まを
)
し
合
(
あは
)
せ
当館
(
たうやかた
)
に
隠
(
かく
)
してあるに
相違
(
さうゐ
)
ないから、
124
若彦
(
わかひこ
)
の
生命
(
いのち
)
をとつてでも、
125
其
(
その
)
神宝
(
しんぽう
)
の
所在
(
ありか
)
を
白状
(
はくじやう
)
させねばならぬ」と
言
(
い
)
つて、
126
大変
(
たいへん
)
な
陰謀
(
いんぼう
)
を
企
(
くはだ
)
てて
居
(
を
)
りますから、
127
妾
(
わたし
)
もそれを
聞
(
き
)
いて
心
(
こころ
)
落
(
お
)
ち
着
(
つ
)
かず、
128
何
(
なん
)
にも
御存
(
ごぞん
)
じの
無
(
な
)
い
貴方
(
あなた
)
に
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
を
掛
(
か
)
けては、
129
妻
(
つま
)
たる
妾
(
わたし
)
の
責任
(
せきにん
)
が
済
(
す
)
むまいと
思
(
おも
)
つて、
130
長途
(
ちやうと
)
の
旅
(
たび
)
を
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
忍
(
しの
)
んで
御
(
ご
)
報告
(
はうこく
)
に
参
(
まゐ
)
りました』
131
若彦
(
わかひこ
)
『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
つたか。
132
それは
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
133
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
任
(
まか
)
した
私
(
わたし
)
、
134
仮令
(
たとへ
)
高姫
(
たかひめ
)
が
如何
(
いか
)
なる
企
(
たく
)
みを
以
(
もつ
)
て
参
(
まゐ
)
りませうとも、
135
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
力
(
ちから
)
に
依
(
よ
)
つて
切
(
き
)
り
抜
(
ぬ
)
ける
覚悟
(
かくご
)
で
御座
(
ござ
)
います。
136
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
の
上
(
うへ
)
、
137
休息
(
きうそく
)
なされたら
一時
(
ひととき
)
も
早
(
はや
)
くお
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
138
万一
(
まんいち
)
此
(
この
)
事
(
こと
)
が
他
(
た
)
に
洩
(
も
)
れましてはお
互
(
たがひ
)
の
迷惑
(
めいわく
)
「
若彦
(
わかひこ
)
、
139
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
者
(
もの
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たのに、
140
矢張
(
やつぱり
)
人目
(
ひとめ
)
を
忍
(
しの
)
んで
夫婦
(
ふうふ
)
が
会合
(
くわいがふ
)
して
居
(
を
)
る」と
言
(
い
)
はれてはなりませぬから、
141
教主
(
けうしゆ
)
のお
許
(
ゆる
)
しある
迄
(
まで
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
にお
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
142
その
代
(
かは
)
り
私
(
わたし
)
も
何処
(
どこ
)
までも
独身
(
どくしん
)
で
道
(
みち
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
を
)
りますから、
143
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
144
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
貴方
(
あなた
)
に
限
(
かぎ
)
つて
左様
(
さやう
)
な
気遣
(
きづか
)
ひは
要
(
い
)
りますものか。
145
互
(
たがひ
)
に
心
(
こころ
)
の
裡
(
うち
)
は
信用
(
しんよう
)
し
合
(
あ
)
つた
仲
(
なか
)
ですから、
146
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
左様
(
さやう
)
な
さも
しい
心
(
こころ
)
は
起
(
おこ
)
しませぬ。
147
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
で
御座
(
ござ
)
いませうが
何
(
いづ
)
れ
遠
(
とほ
)
からぬ
中
(
うち
)
、
148
高姫
(
たかひめ
)
さまか、
149
又
(
また
)
は
部下
(
ぶか
)
の
方々
(
かたがた
)
が
食物
(
たべもの
)
を
以
(
もつ
)
て
見
(
み
)
えませうから、
150
決
(
けつ
)
してお
食
(
あが
)
りになつてはなりませぬ。
151
是
(
これ
)
だけは
特
(
とく
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
して
置
(
お
)
きます』
152
若彦
(
わかひこ
)
『ハイ、
153
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
う
御座
(
ござ
)
います、
154
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
まで
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
下
(
くだ
)
さいまして
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
の
段
(
だん
)
、
155
何時迄
(
いつまで
)
も
忘却
(
ばうきやく
)
致
(
いた
)
しませぬ』
156
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
嬉
(
うれ
)
し
気
(
げ
)
に
若彦
(
わかひこ
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて
笑顔
(
ゑがほ
)
を
作
(
つく
)
り、
157
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
を
滲
(
にじ
)
ませて
居
(
ゐ
)
る。
158
斯
(
か
)
かる
処
(
ところ
)
へ
玄関
(
げんくわん
)
に
当
(
あた
)
つて
争
(
あらそ
)
ひの
声
(
こゑ
)
おいおい
高
(
たか
)
くなつて
来
(
く
)
る。
159
二人
(
ふたり
)
は
何事
(
なにごと
)
ならんと
耳
(
みみ
)
を
澄
(
す
)
ませ
聞
(
き
)
き
入
(
い
)
れば、
160
高姫
(
たかひめ
)
の
癇声
(
かんごゑ
)
として、
161
高姫
『
此処
(
ここ
)
へ
玉能姫
(
たまのひめ
)
が
来
(
き
)
たであらう』
162
久助
(
きうすけ
)
の
声
(
こゑ
)
『イヤイヤ
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
女
(
をんな
)
らしい
者
(
もの
)
は
一人
(
ひとり
)
も
来
(
き
)
ませぬ。
163
此
(
この
)
館
(
やかた
)
は
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
の
命令
(
めいれい
)
に
依
(
よ
)
つて
当分
(
たうぶん
)
の
間
(
うち
)
、
164
女
(
をんな
)
は
禁制
(
きんせい
)
で
御座
(
ござ
)
る』
165
高姫
(
たかひめ
)
の
声
(
こゑ
)
『
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つて
隠
(
かく
)
してもチヤンと
門番
(
もんばん
)
に
聞
(
き
)
いて
来
(
き
)
たのだ。
166
女
(
をんな
)
が
一人
(
ひとり
)
此処
(
ここ
)
へ
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
た
筈
(
はず
)
だ、
167
上
(
うへ
)
も
下
(
した
)
も
心
(
こころ
)
を
合
(
あは
)
せ、
168
しやうも
無
(
な
)
い
女
(
をんな
)
を
引
(
ひ
)
き
摺
(
ず
)
り
込
(
こ
)
み、
169
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
のあり
丈
(
た
)
けを
尽
(
つく
)
し、
170
表面
(
うはべ
)
は
誠
(
まこと
)
らしく
見
(
み
)
せて
居
(
を
)
る
若彦
(
わかひこ
)
の
企
(
たく
)
みであらう。
171
彼奴
(
あいつ
)
は
青彦
(
あをひこ
)
と
言
(
い
)
つて、
172
妾
(
わし
)
が
育
(
そだ
)
ててやつた
男
(
をとこ
)
だ。
173
エー、
174
通
(
とほ
)
すも
通
(
とほ
)
さぬもあるか、
175
言
(
い
)
はば
弟子
(
でし
)
の
館
(
やかた
)
に
師匠
(
ししやう
)
が
来
(
き
)
たのだ。
176
邪魔
(
じやま
)
致
(
いた
)
すな』
177
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
て、
178
久助
(
きうすけ
)
の
止
(
とど
)
むるを
振
(
ふ
)
り
払
(
はら
)
ひ、
179
三四
(
さんよ
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
を
玄関
(
げんくわん
)
に
待
(
ま
)
たせ
置
(
お
)
き、
180
畳
(
たたみ
)
を
足
(
あし
)
にて
強
(
きつ
)
く
威喝
(
ゐかつ
)
させ
乍
(
なが
)
ら
若彦
(
わかひこ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り、
181
高姫
(
たかひめ
)
『オホヽヽヽ、
182
若彦
(
わかひこ
)
さま、
183
悪
(
わる
)
い
処
(
ところ
)
へカシヤ
婆
(
ばば
)
が
参
(
まゐ
)
りまして
誠
(
まこと
)
に
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
様
(
さま
)
、
184
折角
(
せつかく
)
意茶
(
いちや
)
つかうと
思
(
おも
)
ひなさつた
処
(
ところ
)
を、
185
風流気
(
ふうりうげ
)
の
無
(
な
)
い
皺苦茶
(
しわくちや
)
婆
(
ばば
)
が
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
て、
186
折角
(
せつかく
)
の
興
(
きよう
)
を
醒
(
さ
)
ましました。
187
お
前
(
まへ
)
さまは
羊頭
(
やうとう
)
を
掲
(
かか
)
げて
狗肉
(
くにく
)
を
売
(
う
)
る
山師
(
やまし
)
の
様
(
やう
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
ぢや。
188
玉能姫
(
たまのひめ
)
殿
(
どの
)
、
189
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
の
眼力
(
がんりき
)
に
違
(
たが
)
はず、
190
表面
(
うはべ
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
事
(
こと
)
を……ヘン……
仰有
(
おつしや
)
つて
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
を
誤魔化
(
ごまくわ
)
して
御座
(
ござ
)
つたが、
191
今日
(
けふ
)
の
醜態
(
ざま
)
は
何
(
なん
)
で
御座
(
ござ
)
りますか。
192
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
身分
(
みぶん
)
で
一人
(
ひとり
)
の
伴
(
とも
)
も
連
(
つ
)
れずに、
193
大切
(
たいせつ
)
な
神業
(
しんげふ
)
を
遊
(
あそ
)
ばす
夫
(
をつと
)
の
側
(
そば
)
へ
忍
(
しの
)
んで
来
(
く
)
るとは、
194
実
(
じつ
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
貴方
(
あなた
)
の
行
(
おこな
)
ひ、
195
高姫
(
たかひめ
)
も
実
(
じつ
)
に
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました。
196
本当
(
ほんたう
)
に
凄
(
すご
)
いお
腕前
(
うでまへ
)
、
197
爪
(
つめ
)
の
垢
(
あか
)
でも
煎
(
せん
)
じて
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
う
御座
(
ござ
)
いますワ。
198
オホヽヽヽ』
199
若彦
(
わかひこ
)
『これはこれは
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
200
遠方
(
ゑんぱう
)
の
所
(
ところ
)
ようこそいらせられました』
201
高姫
(
たかひめ
)
『よう
来
(
き
)
たのでは
無
(
な
)
い、
202
悪
(
わる
)
く
来
(
き
)
たのですよ。
203
お
前
(
まへ
)
さまも
気持
(
きもち
)
良
(
よ
)
く
楽
(
たの
)
しまうと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
た
処
(
ところ
)
へ、
204
皺苦茶
(
しわくちや
)
婆
(
ばば
)
アがやつて
来
(
き
)
て、
205
折角
(
せつかく
)
の
楽
(
たの
)
しみを
滅茶
(
めちや
)
々々
(
めちや
)
にされて
胸
(
むね
)
が
悪
(
わる
)
いでせう。
206
月
(
つき
)
に
村雲
(
むらくも
)
、
207
花
(
はな
)
には
嵐
(
あらし
)
、
208
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
には
往
(
ゆ
)
きますまいがな。
209
西
(
にし
)
は
妹山
(
いもやま
)
、
210
東
(
ひがし
)
は
背山
(
せやま
)
、
211
中
(
なか
)
を
隔
(
へだ
)
つる
高姫川
(
たかひめがは
)
、
212
本当
(
ほんたう
)
に
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
が
出
(
で
)
て
参
(
まゐ
)
りました。
213
コレコレ
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
214
恥
(
はづ
)
かし
相
(
さう
)
に
赭
(
あか
)
い
顔
(
かほ
)
して
何
(
なん
)
ぢやいな。
215
阿婆擦
(
あばずれ
)
女
(
をんな
)
の
癖
(
くせ
)
に、
216
殊勝
(
しゆしよう
)
らしう
見
(
み
)
せようと
思
(
おも
)
つて、
217
そんな
芝居
(
しばゐ
)
をしても、
218
他
(
はた
)
のお
方
(
かた
)
は
誤魔化
(
ごまくわ
)
されませうが、
219
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
に
限
(
かぎ
)
つて
其
(
その
)
手
(
て
)
は
喰
(
く
)
ひませぬぞエ。
220
「その
手
(
て
)
でお
釈迦
(
しやか
)
の
顔
(
かほ
)
撫
(
な
)
でた」と
言
(
い
)
ふのはお
前
(
まへ
)
さまの
事
(
こと
)
だ。
221
アヽア
怖
(
こは
)
い
怖
(
こは
)
い、
222
こりや
一通
(
ひととほ
)
りの
狸
(
たぬき
)
ではあるまい。
223
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると
高姫
(
たかひめ
)
の
睾丸
(
きんたま
)
……オツトドツコイ……
胆玉
(
きもだま
)
まで
抜
(
ぬ
)
かれますワイ』
224
玉能姫
(
たまのひめ
)
『これはこれは
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
225
遠方
(
ゑんぱう
)
の
処
(
ところ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
226
今
(
いま
)
承
(
うけたま
)
はれば
貴方
(
あなた
)
は
色々
(
いろいろ
)
と
我々
(
われわれ
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
事
(
こと
)
に
就
(
つ
)
いて、
227
誤解
(
ごかい
)
をして
居
(
ゐ
)
らつしやいますが、
228
決
(
けつ
)
して
左様
(
さやう
)
な
考
(
かんが
)
へを
以
(
もつ
)
て
来
(
き
)
たのでは
御座
(
ござ
)
いませぬ』
229
高姫
(
たかひめ
)
『そんな
事
(
こと
)
は
今々
(
いまいま
)
の
信者
(
しんじや
)
に
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
だ。
230
蹴爪
(
けづめ
)
の
生
(
は
)
えた
高姫
(
たかひめ
)
には、
231
根
(
ね
)
つから
通用
(
つうよう
)
致
(
いた
)
しませぬワイなア』
232
と
小面
(
こづら
)
憎気
(
にくげ
)
に
頤
(
あご
)
をしやくつて
見
(
み
)
せる。
233
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
も
無
(
な
)
く
迷惑相
(
めいわくさう
)
に
俯向
(
うつむ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
234
高姫
(
たかひめ
)
『コレ、
235
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
236
イヤお
節
(
せつ
)
さま、
237
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまいがな。
238
誠
(
まこと
)
水晶
(
すゐしやう
)
の
生粋
(
きつすゐ
)
の
日本
(
やまと
)
魂
(
だましひ
)
ぢやと
教主
(
けうしゆ
)
が
見込
(
みこ
)
んで、
239
大切
(
たいせつ
)
な
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
言
(
い
)
ひ
付
(
つ
)
けられた
貴女
(
あなた
)
の
精神
(
せいしん
)
が、
240
さうグラ
付
(
つ
)
く
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
では
如何
(
どう
)
なりますか。
241
妾
(
わたし
)
は
是
(
これ
)
から
貴女
(
あなた
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
会合
(
くわいがふ
)
を
実地
(
じつち
)
に
目撃
(
もくげき
)
した
証拠人
(
しようこにん
)
だから、
242
三五教
(
あななひけう
)
一般
(
いつぱん
)
に
報告
(
はうこく
)
致
(
いた
)
しまして
信者
(
しんじや
)
大会
(
たいくわい
)
を
開
(
ひら
)
き、
243
お
前
(
まへ
)
さまの
御用
(
ごよう
)
を
取上
(
とりあ
)
げて
仕舞
(
しま
)
はねば、
244
折角
(
せつかく
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
三千
(
さんぜん
)
年
(
ねん
)
の
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
も
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
になります。
245
サア
如何
(
どう
)
ぢや、
246
返答
(
へんたふ
)
をしなされ。
247
三
(
み
)
つの
玉
(
たま
)
は
何処
(
どこ
)
へ
隠
(
かく
)
してある。
248
それを
聞
(
き
)
かねば、
249
お
前
(
まへ
)
さまの
様
(
やう
)
なグラグラする
瓢箪鯰
(
へうたんなまづ
)
には
秘密
(
ひみつ
)
は
守
(
まも
)
れませぬ。
250
サア
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
251
若彦
(
わかひこ
)
さま、
252
夫婦
(
ふうふ
)
共謀
(
きようぼう
)
してドハイカラの
言依別
(
ことよりわけ
)
を
誤魔化
(
ごまくわ
)
して
居
(
を
)
つたが、
253
最早
(
もはや
)
化
(
ば
)
けの
現
(
あら
)
はれ
時
(
どき
)
、
254
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つても
高姫
(
たかひめ
)
が
承知
(
しようち
)
しませぬぞエ。
255
一般
(
いつぱん
)
に
報告
(
はうこく
)
されるのが
苦
(
くる
)
しければ……
魚心
(
うをごころ
)
あれば
水心
(
みづごころ
)
ありとやら……
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
も
血
(
ち
)
もあれば
涙
(
なみだ
)
もある。
256
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
の
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
を
見
(
み
)
て、
257
心地
(
ここち
)
よいとは
滅多
(
めつた
)
に
思
(
おも
)
ひませぬ。
258
サア
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま、
259
お
前
(
まへ
)
さまはチツと
妾
(
わし
)
の
言
(
い
)
ひ
様
(
やう
)
が
強
(
きつ
)
うて
腹
(
はら
)
も
立
(
た
)
つであらうが、
260
そこは
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
して、
261
御
(
ご
)
神宝
(
しんぽう
)
の
所在
(
ありか
)
を
妾
(
わし
)
にソツと
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
262
さうすればお
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
夫婦
(
ふうふ
)
のアラも
分
(
わか
)
らず、
263
妾
(
わし
)
も
亦
(
また
)
誠
(
まこと
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
が
出来
(
でき
)
て
結構
(
けつこう
)
だから』
264
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
妾
(
わたし
)
は
一度
(
いちど
)
教主
(
けうしゆ
)
様
(
さま
)
から
玉
(
たま
)
はお
預
(
あづか
)
り
致
(
いた
)
しましたが、
265
不思議
(
ふしぎ
)
な
方
(
かた
)
が
現
(
あら
)
はれて
遠
(
とほ
)
い
国
(
くに
)
へ
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
かれましたから、
266
実際
(
じつさい
)
の
事
(
こと
)
は
何処
(
どこ
)
に
隠
(
かく
)
されてあるか、
267
妾
(
わたし
)
風情
(
ふぜい
)
が
分
(
わか
)
つて
堪
(
たま
)
りますか。
268
又
(
また
)
仮令
(
たとへ
)
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
りましても、
269
三十万
(
さんじふまん
)
年
(
ねん
)
の
間
(
あひだ
)
は
口外
(
こうぐわい
)
は
出来
(
でき
)
ない
事
(
こと
)
になつて
居
(
を
)
りますから、
270
それ
許
(
ばか
)
りは
如何
(
どう
)
仰有
(
おつしや
)
つても
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げられませぬ。
271
何卒
(
どうぞ
)
貴女
(
あなた
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
と
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
とで、
272
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
御
(
ご
)
発見
(
はつけん
)
なさるが
宜
(
よろ
)
しう
御座
(
ござ
)
いませう』
273
高姫
(
たかひめ
)
『エー、
274
ツベコベと
小理屈
(
こりくつ
)
を
言
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
ぢやなア。
275
そんな
事
(
こと
)
を
勿体
(
もつたい
)
ない、
276
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
に
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
を
掛
(
か
)
けたり、
277
天眼通
(
てんがんつう
)
を
使
(
つか
)
うて
堪
(
たま
)
りますか。
278
お
前
(
まへ
)
さまが
只
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
「
斯
(
こ
)
う
斯
(
こ
)
うぢや」と
言
(
い
)
ひさへすれば
良
(
い
)
いぢやないか』
279
若彦
(
わかひこ
)
『
現在
(
げんざい
)
夫
(
をつと
)
の
私
(
わたくし
)
にさへも
仰有
(
おつしや
)
らぬのですから、
280
何程
(
なにほど
)
お
尋
(
たづ
)
ねになつても
駄目
(
だめ
)
ですよ』
281
高姫
(
たかひめ
)
『エー、
282
お
前
(
まへ
)
までが
横槍
(
よこやり
)
を
入
(
い
)
れるものぢやない。
283
夫婦
(
ふうふ
)
が
腹
(
はら
)
を
合
(
あは
)
して
隠
(
かく
)
して
居
(
を
)
るのであらう。
284
そんな
事
(
こと
)
はチヤーンと
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
るのだ』
285
若彦
(
わかひこ
)
は
稍
(
やや
)
語気
(
ごき
)
を
荒
(
あら
)
らげ、
286
若彦
(
わかひこ
)
『
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
るのなら
何故
(
なぜ
)
貴女
(
あなた
)
勝手
(
かつて
)
にお
探
(
さが
)
しなさらぬか。
287
貴女
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
は
矛盾
(
むじゆん
)
撞着
(
どうちやく
)
脱線
(
だつせん
)
だらけぢやありませぬか』
288
高姫
(
たかひめ
)
『
脱線
(
だつせん
)
とはお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だ。
289
教主
(
けうしゆ
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
がある
迄
(
まで
)
夫婦
(
ふうふ
)
顔
(
かほ
)
を
合
(
あは
)
さぬと
誓
(
ちか
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
290
今日
(
けふ
)
の
脱線
(
だつせん
)
振
(
ぶ
)
りは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
291
矛盾
(
むじゆん
)
撞着
(
どうちやく
)
はお
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
事
(
こと
)
ぢやないか。
292
余
(
あんま
)
り
人
(
ひと
)
の
事
(
こと
)
を
けなす
と
屑
(
くづ
)
が
出
(
で
)
ますぞ。
293
オホヽヽヽ』
294
と
嘲
(
あざけ
)
る
様
(
やう
)
に
笑
(
わら
)
ふ。
295
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
若彦
(
わかひこ
)
様
(
さま
)
、
296
妾
(
わたし
)
は
之
(
これ
)
でお
暇
(
いとま
)
致
(
いた
)
します。
297
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
298
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
ゆるりと
遊
(
あそ
)
ばしませ。
299
左様
(
さやう
)
なら』
300
と
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
らうとするを、
301
高姫
(
たかひめ
)
はグツと
肩
(
かた
)
を
押
(
おさ
)
へ、
302
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ、
303
逃
(
に
)
げ
様
(
やう
)
と
云
(
い
)
つたつて
逃
(
にが
)
しはせぬぞえ。
304
金輪
(
こんりん
)
奈落
(
ならく
)
の
底
(
そこ
)
迄
(
まで
)
、
305
神宝
(
しんぽう
)
の
所在
(
ありか
)
を
白状
(
はくじやう
)
させねば
措
(
を
)
きませぬぞ』
306
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
是
(
これ
)
許
(
ばか
)
りは
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げられませぬ』
307
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なん
)
と、
308
マア、
309
夫婦
(
ふうふ
)
がよく
腹
(
はら
)
を
合
(
あは
)
したものだ。
310
本当
(
ほんたう
)
に
羨
(
うらや
)
ましい
程
(
ほど
)
、
311
仲
(
なか
)
の
良
(
よ
)
い
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
様
(
さま
)
ぢや。
312
オホヽヽヽ』
313
玉能姫
(
たまのひめ
)
『
何卒
(
どうぞ
)
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
314
其処
(
そこ
)
放
(
はな
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
315
妾
(
わたし
)
は
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
へ
帰
(
かへ
)
らねばなりませぬから、
316
一時
(
ひととき
)
の
間
(
ま
)
も
神業
(
しんげふ
)
を
疎略
(
おろそか
)
に
出来
(
でき
)
ませぬ』
317
高姫
(
たかひめ
)
『オホヽヽヽ、
318
一時
(
ひととき
)
の
間
(
ま
)
も
疎略
(
おろそか
)
に
出来
(
でき
)
ない
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
振
(
ふ
)
り
棄
(
す
)
てて、
319
夫
(
をつと
)
の
側
(
そば
)
へなれば
幾日
(
いくにち
)
も
幾日
(
いくにち
)
もかかつて、
320
遥々
(
はるばる
)
紀
(
き
)
の
国
(
くに
)
迄
(
まで
)
お
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばすのだから、
321
実
(
じつ
)
に
立派
(
りつぱ
)
なものだ』
322
玉能姫
(
たまのひめ
)
『それでも
退引
(
のつぴ
)
きならぬ
御用
(
ごよう
)
が
出来
(
でき
)
ましたので、
323
多忙
(
たばう
)
の
中
(
なか
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
して
参
(
まゐ
)
つたので
御座
(
ござ
)
います』
324
高姫
(
たかひめ
)
『その
用
(
よう
)
とは
何事
(
なにごと
)
で
御座
(
ござ
)
るか、
325
サア、
326
それを
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はう。
327
妾
(
わし
)
に
聞
(
き
)
かせぬ
様
(
やう
)
な
御用
(
ごよう
)
なら
何
(
いづ
)
れ
碌
(
ろく
)
な
事
(
こと
)
ではあるまい。
328
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
若夫婦
(
わかふうふ
)
は
寄
(
よ
)
つて
如何
(
どん
)
な
企
(
たく
)
みをして
居
(
を
)
るか
分
(
わか
)
つたものぢやない。
329
サアもう
斯
(
こ
)
うなつては
私
(
わし
)
も
勘忍袋
(
かんにんぶくろ
)
の
緒
(
を
)
が
切
(
き
)
れた。
330
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
うても
舌
(
した
)
を
抜
(
ぬ
)
いてでも
言
(
い
)
はして
見
(
み
)
せる』
331
と
癇声
(
かんごゑ
)
に
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てて
居
(
を
)
る。
332
此
(
この
)
時
(
とき
)
玄関
(
げんくわん
)
に
騒々
(
さうざう
)
しき
人
(
ひと
)
の
足音
(
あしおと
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
333
暫
(
しば
)
らくすると
秋彦
(
あきひこ
)
、
334
駒彦
(
こまひこ
)
、
335
木山彦
(
きやまひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
外
(
ほか
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
兄弟
(
きやうだい
)
、
336
慌
(
あわただ
)
しく
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
きつけて
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
337
八
(
はち
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
手
(
て
)
をついて
若彦
(
わかひこ
)
の
前
(
まへ
)
に
平伏
(
へいふく
)
した。
338
若彦
(
わかひこ
)
『ヤア、
339
其方
(
そなた
)
は
駒彦
(
こまひこ
)
、
340
秋彦
(
あきひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
では
御座
(
ござ
)
らぬか、
341
何用
(
なによう
)
あつてお
越
(
こ
)
しなされた』
342
駒彦
(
こまひこ
)
『ハイ、
343
熊野
(
くまの
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
へお
礼
(
れい
)
の
為
(
た
)
めに
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
しました』
344
高姫
(
たかひめ
)
はカラカラと
打笑
(
うちわら
)
ひ、
345
高姫
(
たかひめ
)
『アハヽヽヽ、
346
オホヽヽヽようもようも
揃
(
そろ
)
つたものだ。
347
何
(
なに
)
かお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
諜
(
しめ
)
し
合
(
あ
)
はせ
大陰謀
(
だいいんぼう
)
を
企
(
くはだ
)
てて
居
(
ゐ
)
た
所
(
ところ
)
、
348
アタ
間
(
ま
)
の
悪
(
わる
)
い、
349
憎
(
にく
)
まれ
者
(
もの
)
の
高姫
(
たかひめ
)
がやつて
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るので
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
350
熊野
(
くまの
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
へお
礼
(
れい
)
詣
(
まゐ
)
りをしたとは、
351
子供
(
こども
)
騙
(
だま
)
しの
様
(
やう
)
な
逃口上
(
にげこうじやう
)
、
352
立派
(
りつぱ
)
な
聖地
(
せいち
)
には
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が
御座
(
ござ
)
るぢやないか。
353
それにも
拘
(
かか
)
はらず
熊野
(
くまの
)
へお
礼
(
れい
)
詣
(
まゐ
)
りとは
方角
(
はうがく
)
違
(
ちが
)
ひにも
程
(
ほど
)
がある。
354
何事
(
なにごと
)
も
嘘言
(
うそ
)
で
固
(
かた
)
めた
事
(
こと
)
は
直
(
すぐ
)
剥
(
は
)
げるものだ。
355
オホヽヽヽ、
356
あの、
357
マア
皆
(
みな
)
さんの
首尾
(
しゆび
)
悪
(
わる
)
相
(
さう
)
な
顔
(
かほ
)
わいな。
358
梟鳥
(
ふくろどり
)
が
夜食
(
やしよく
)
に
外
(
はづ
)
れてアフンとした
様
(
やう
)
な
其
(
その
)
様子
(
やうす
)
、
359
写真
(
しやしん
)
にでも
撮
(
と
)
つて
置
(
お
)
いたら、
360
よい
記念
(
きねん
)
になりませうぞい』
361
と
言葉尻
(
ことばじり
)
をピンと
撥
(
は
)
ねた
様
(
やう
)
に
捨台詞
(
すてぜりふ
)
を
使
(
つか
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
362
駒彦
(
こまひこ
)
一行
(
いつかう
)
は
何
(
なに
)
が
何
(
なに
)
やら
合点
(
がてん
)
往
(
ゆ
)
かず
途方
(
とはう
)
に
暮
(
く
)
れ、
363
黙然
(
もくねん
)
として
看守
(
みまも
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
364
若彦
(
わかひこ
)
『
皆様
(
みなさま
)
、
365
後
(
あと
)
でゆつくりとお
話
(
はなし
)
を
承
(
うけたま
)
はりませう。
366
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
神前
(
しんぜん
)
へおいで
遊
(
あそ
)
ばして、
367
お
礼
(
れい
)
を
済
(
す
)
まして
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませ。
368
……オイ
久助
(
きうすけ
)
、
369
御
(
ご
)
神殿
(
しんでん
)
へ
此
(
この
)
方々
(
かたがた
)
を
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
申
(
まを
)
せ』
370
久助
(
きうすけ
)
は
玄関
(
げんくわん
)
より
若彦
(
わかひこ
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
きつけ
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
371
久助
(
きうすけ
)
『サア、
372
皆様
(
みなさま
)
、
373
大広間
(
おほひろま
)
へ
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
しませう』
374
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
悪人
(
あくにん
)
共
(
ども
)
、
375
イヤ
同
(
おな
)
じ
穴
(
あな
)
の
狐衆
(
きつねしう
)
、
376
暫
(
しばら
)
くお
待
(
ま
)
ちなされ。
377
若彦
(
わかひこ
)
と
腹
(
はら
)
を
合
(
あ
)
はせ、
378
御
(
ご
)
神殿
(
しんでん
)
へお
礼
(
れい
)
と
云
(
い
)
ひ
立
(
た
)
て、
379
巧
(
うま
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
御
(
ご
)
所存
(
しよぞん
)
であらう。
380
そんなアダトイ
事
(
こと
)
を
成
(
な
)
さつても、
381
世界
(
せかい
)
の
見
(
み
)
え
透
(
す
)
く
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
はチヤンと
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
りますぞえ。
382
何故
(
なぜ
)
男
(
をとこ
)
らしう
此
(
この
)
場
(
ば
)
で
斯様
(
かやう
)
々々
(
かやう
)
の
次第
(
しだい
)
と
白状
(
はくじやう
)
なさらぬのだ。
383
今日
(
こんにち
)
三五教
(
あななひけう
)
に
於
(
おい
)
て、
384
誠
(
まこと
)
の
神力
(
しんりき
)
の
備
(
そな
)
はつた
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
は
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
で
御座
(
ござ
)
る。
385
高姫
(
たかひめ
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くか、
386
若彦
(
わかひこ
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
くか。
387
サア
事
(
こと
)
の
大小
(
だいせう
)
、
388
軽重
(
けいちよう
)
を
考
(
かんが
)
へた
上
(
うへ
)
、
389
速
(
すみや
)
かに
返答
(
へんたふ
)
なされ。
390
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
に
依
(
よ
)
つて
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
にも
量見
(
りやうけん
)
が
御座
(
ござ
)
るぞや』
391
秋彦
(
あきひこ
)
、
392
駒彦
(
こまひこ
)
は
口
(
くち
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
393
秋
(
あき
)
、
394
駒
(
こま
)
『
私
(
わたくし
)
は
第一
(
だいいち
)
に
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
、
395
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
には
玉能姫
(
たまのひめ
)
様
(
さま
)
、
396
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
には
若彦
(
わかひこ
)
さまの
崇敬者
(
すうけいしや
)
ですよ。
397
何程
(
なにほど
)
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
が
強
(
つよ
)
いと
言
(
い
)
つて、
398
自家
(
じか
)
広告
(
くわうこく
)
を
為
(
な
)
さつても、
399
根
(
ね
)
つから
我々
(
われわれ
)
の
耳
(
みみ
)
には
這入
(
はい
)
りませぬ。
400
サア
皆
(
みな
)
さま、
401
御
(
ご
)
神殿
(
しんでん
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
しませう』
402
と
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
かうとする。
403
高姫
(
たかひめ
)
は
夜叉
(
やしや
)
の
如
(
ごと
)
く
立腹
(
りつぷく
)
し、
404
秋彦
(
あきひこ
)
、
405
駒彦
(
こまひこ
)
の
襟髪
(
えりがみ
)
を
両手
(
もろて
)
にひん
握
(
にぎ
)
り、
406
力
(
ちから
)
をこめて
後
(
うしろ
)
へドツと
引
(
ひ
)
き
倒
(
たふ
)
した。
407
常楠
(
つねくす
)
、
408
木山彦
(
きやまひこ
)
は
余
(
あま
)
りの
乱暴
(
らんばう
)
にムツと
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
て、
409
常楠
(
つねくす
)
『
何処
(
どこ
)
の
何人
(
なにびと
)
か
知
(
し
)
らぬが、
410
罪
(
つみ
)
も
無
(
な
)
い
我々
(
われわれ
)
の
伜
(
せがれ
)
を
打擲
(
ちやうちやく
)
するとは
言語
(
ごんご
)
道断
(
だうだん
)
、
411
年
(
とし
)
は
寄
(
よ
)
つても
昔
(
むかし
)
執
(
と
)
つた
杵柄
(
きねづか
)
の
腕
(
うで
)
の
冴
(
さ
)
えは
今
(
いま
)
に
変
(
かは
)
りは
致
(
いた
)
さぬ。
412
さア
高姫
(
たかひめ
)
とやら、
413
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
れよ』
414
とグツと
襟首
(
えりくび
)
を
掴
(
つか
)
みて
常楠
(
つねくす
)
が
強力
(
がうりき
)
に
任
(
まか
)
せて、
415
猫
(
ねこ
)
を
抓
(
つま
)
んだ
様
(
やう
)
に
館
(
やかた
)
の
外
(
そと
)
に
放
(
はう
)
り
出
(
だ
)
した。
416
高姫
(
たかひめ
)
はそれきり
如何
(
どう
)
なつたか
暫
(
しばら
)
く
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
せなかつた。
417
一同
(
いちどう
)
は
神殿
(
しんでん
)
に
向
(
むか
)
ひ
感謝
(
かんしや
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して
高姫
(
たかひめ
)
の
無事
(
ぶじ
)
を
祈
(
いの
)
りけるこそ
殊勝
(
しゆしよう
)
なれ。
418
(
大正一一・六・一一
旧五・一六
北村隆光
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 縺れ髪
(B)
(N)
家宅侵入 >>>
霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第23巻(戌の巻)
> 第3篇 有耶無耶 > 第9章 高姫騒
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第9章 高姫騒|第23巻|如意宝珠|霊界物語|/rm2309】
合言葉「みろく」を入力して下さい→