霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 婆(ばば)と婆(ばば)〔七二七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第4篇 混線状態 よみ(新仮名遣い):こんせんじょうたい
章:第15章 婆と婆 よみ(新仮名遣い):ばばとばば 通し章番号:727
口述日:1922(大正11)年06月13日(旧05月18日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高姫は瀬戸内海を西へ航海し、小豆ケ島に着いた。この島には岩窟が多くあって怪物が住むと伝えられていた。
貫州は岩窟の様子を見に中に入って行った。一人残された高姫は、することなすこと裏目に出る自分の境遇を思い起こして、自分に憑いている日の出神に疑いの心を起こす。
そして、腹の中にいる霊を責め立て始めた。高姫が腹の中の玉のようになっている霊を捻りつぶそうとすると、霊は自分は日の出神などではなく、木常姫の霊だと白状した。
木常姫は、高姫の肉体は自分の分霊が凝ってできたのだから、他所へ移ることはできないと言う。高姫は自分の守護神が日の出神ではないと感づいていたような発言をする。
しかし、日の出神と偽って現れた以上は、どこまでも日の出神で通さねばならないのだ、と逆に霊を叱りつけ、今度は自分が霊を教育して使ってやるのだと吠えている。
そこへ東助の館の便所から逃げてきた友彦が偶然やってきた。高姫が自問自答しているのを見て、気がふれているのだと思って思わず独り言を言う。それが高姫の耳に入って、今度は高姫は友彦に八つ当たりを始めだした。
友彦はバラモン教時代の高姫を見知っており、二人は互いに名乗りをする。そこへ貫州が岩窟から出てきた。
貫州は、どうやらここは泥棒の一団の隠れ家らしいと報告する。一行は岩窟の中へ進んで行くと、現れたのはバラモン教の蜈蚣姫であった。蜈蚣姫は高姫を三五教の鷹鳥姫と見て襲おうとする。
高姫は、元は自分もバラモン教だったことを明かして、バラモン教のために三五教に潜入していたのだと蜈蚣姫を丸め込んでしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-15 02:00:00 文字数:7105 OBC :rm2315
愛善世界社版:243頁 八幡書店版:第4輯 584頁 修補版: 校定版:247頁 普及版:114頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は貫州(くわんしう)と共(とも)に玉能姫(たまのひめ)より贈(おく)つた新造(しんざう)の船(ふね)を操(あやつ)り乍(なが)ら、002漸(やうや)くにして瀬戸(せと)内海(ないかい)の最大(さいだい)巨島(きよたう)小豆(せうど)ケ島(しま)に到着(たうちやく)し、003磯端(いそばた)に船(ふね)を繋(つな)ぎ、004暫(しば)し此(この)島(しま)に滞在(たいざい)し、005山(やま)の谷々(たにだに)までも隈(くま)なく宝(たから)の所在(ありか)を探(さが)さむと、006国城山(くにしろやま)の中腹(ちうふく)まで登(のぼ)りつめた。007茲(ここ)には巨大(きよだい)なる岩窟(いはや)があつて、008昔(むかし)から怪物(くわいぶつ)の潜(ひそ)む魔窟(まくつ)と称(とな)へられて居(ゐ)る。
009貫州(くわんしう)『高姫(たかひめ)様(さま)、010ここには立派(りつぱ)な岩窟(いはや)が有(あ)りますなア。011玉能姫(たまのひめ)の奴(やつ)、012ヒヨツとしたら斯(こ)う云(い)ふ所(ところ)へ隠(かく)して置(お)いたかも知(し)れませぬ。013昔(むかし)から人(ひと)の出入(でいり)した事(こと)のない、014深(ふか)い岩窟(がんくつ)だと杣人(そまびと)が云(い)つて居(を)りましたから、015一(ひと)つ探険(たんけん)して見(み)ませうか』
016高姫(たかひめ)『マア暫(しばら)く考(かんが)へさして貰(もら)はう。017どこ迄(まで)も注意深(ちういぶか)い玉能姫(たまのひめ)の事(こと)であるから、018吾々(われわれ)両人(りやうにん)が此(この)岩窟(がんくつ)へ這入(はい)るや否(いな)や、019見張(みは)らして置(お)いた味方(みかた)の奴(やつ)が穴(あな)でも塞(ふさ)ぎ、020徳利詰(とつくりづめ)にでもしよつたら、021それこそ大変(たいへん)だ。022此(この)界隈(かいわい)をせめて四五丁(しごちやう)四面(しめん)調査(しら)べた上(うへ)の事(こと)にしよう』
023貫州(くわんしう)『そんな心配(しんぱい)は要(い)りますまい。024そんなら此処(ここ)に貴女(あなた)は待(ま)つて居(ゐ)て下(くだ)さい。025私(わたし)は一人(ひとり)探険(たんけん)して来(き)ますから……』
026と云(い)ふより早(はや)く、027岩窟(がんくつ)の中(なか)へ腰(こし)を屈(かが)めて、028ノソノソ這(は)ふ様(やう)に這入(はい)つて了(しま)つた。029後(あと)に高姫(たかひめ)は腕(うで)を組(く)み胡床(あぐら)をかき、030思案(しあん)に暮(く)れて独語(ひとりごと)。
031高姫(たかひめ)『あゝする事(こと)成(な)す事(こと)、032鶍(いすか)の嘴(はし)程(ほど)喰(く)ひ違(ちが)うと云(い)ふのは、033ヤツパリ大自在天(だいじざいてん)大国別(おほくにわけの)命(みこと)の御(ご)神慮(しんりよ)に背(そむ)いた酬(むく)いかも知(し)れない。034一旦(いつたん)鬼雲彦(おにくもひこ)の部下(ぶか)となり、035バラモン教(けう)の教理(けうり)を称(とな)へ乍(なが)ら、036又(また)もや三五教(あななひけう)の変性(へんじやう)男子(なんし)が恋(こひ)しくなり、037ウラナイ教(けう)と銘(めい)打(う)つて、038中間教(ちうかんけう)を捻(ひね)り出(だ)し、039何時(いつ)の間(ま)にか大自在天(だいじざいてん)の名(な)も唱(とな)へぬ様(やう)になり、040再(ふたた)び国治立(くにはるたちの)命(みこと)を信(しん)じ、041再転(さいてん)して素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の三五教(あななひけう)に逆戻(ぎやくもど)りをなし、042今(いま)又(また)三五教(あななひけう)の幹部(かんぶ)の為(ため)に散々(さんざん)な目(め)に遇(あ)はされ、043日(ひ)の出神(でのかみ)さまも如何(どう)して御座(ござ)るのだらうか。044此(この)頃(ごろ)は高姫(たかひめ)の精神(せいしん)も変(へん)だが、045日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)も何(なん)とはなしに便(たよ)りなうなつて来(き)た。046あれ程(ほど)光(ひか)る玉(たま)の所在(ありか)が分(わか)らぬ様(やう)な日(ひ)の出神(でのかみ)では、047実際(じつさい)の事(こと)役(やく)に立(た)たぬ。048ヒヨツとしたら此(この)頃(ごろ)は眼病(がんびやう)でも患(わづら)つて居(を)られるのではあるまいかなア。049あゝ最早(もはや)瞋恚(しんい)の雲(くも)に包(つつ)まれて、050一寸先(いつすんさき)も見(み)えなくなつて了(しま)つた。051どこを探(たづ)ねたら此(この)玉(たま)の行衛(ゆくゑ)が分(わか)るであらうか。052但(ただし)は熱心(ねつしん)な黒姫(くろひめ)が最早(もはや)手(て)に入(い)れて居(を)るのではあるまいか、053サツパリ五里(ごり)霧中(むちう)所(どころ)か岩前(がんぜん)夢中(むちう)に彷徨(はうくわう)すると云(い)ふ高姫(たかひめ)の今日(けふ)の境遇(きやうぐう)。054アーアもう神(かみ)様(さま)が厭(いや)になつて了(しま)つた。055時々(ときどき)腹(はら)の中(なか)からイロイロの事(こと)を言(い)つて聞(き)かして呉(く)れるが、056後(あと)振(ふ)り返(かへ)り眺(なが)むれば、057一(ひと)つとして神勅(しんちよく)の的中(てきちう)した事(こと)はなく、058自分(じぶん)の体(からだ)に憑依(ひようい)して居(ゐ)る霊(れい)には、059何(なん)とはなしに贔屓(ひいき)がつくものだから、060自分(じぶん)もチツと怪(あや)しいとは思(おも)ひ乍(なが)ら、061今(いま)の今迄(いままで)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)で頑張(ぐわんば)り、062貫(つ)き通(とほ)して来(き)たが、063明石(あかし)の灘(なだ)で難船(なんせん)に遭(あ)ひ、064又(また)家島(えじま)では船(ふね)を奪(と)られ島流(しまなが)し同様(どうやう)の憂目(うきめ)に会(あ)うても、065何(なん)にも知(し)らして呉(く)れぬ様(やう)な盲神(めくらがみ)の容器(いれもの)になつた所(ところ)で、066日(ひ)に日(ひ)に恥(はぢ)の上塗(うはぬ)りをするばつかりだ、067アヽ如何(どう)したらよからうかなア。068今更(いまさら)聖地(せいち)へ引返(ひきかへ)し、069言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)や杢助(もくすけ)に対(たい)し謝罪(あやま)るのも馬鹿(ばか)げて居(ゐ)るし、070モウ仕方(しかた)がない、071毒(どく)を喰(く)はば皿(さら)迄(まで)舐(ねぶ)れだ。072今(いま)となつて、073ヤツパリ妾(わたし)は日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)では有(あ)りませなんだと……そんな事(こと)は是(これ)迄(まで)威張(ゐば)つた手前(てまへ)、074言(い)はれた義理(ぎり)でもなし。075……一(ひと)つ守護神(しゆごじん)に談判(だんぱん)をして其(その)上(うへ)の事(こと)にしよう。076……コレコレ腹(はら)の中(なか)の守護神(しゆごじん)、077チツと発動(はつどう)して妾(わたし)の質問(しつもん)に答(こた)へて下(くだ)さい。078今度(こんど)は今迄(いままで)の様(やう)なヨタリスクは聞(き)きませぬぞ。079ネツトプライスの誠(まこと)一(ひと)つを開陳(かいちん)なされ。080返答(へんたふ)に依(よ)つては高姫(たかひめ)も今日(けふ)限(かぎ)りお前(まへ)の言(い)ふ事(こと)は聞(き)かぬのだから、081サア早(はや)く発動(はつどう)せぬか、082口(くち)を切(き)らぬか』
083と拳(こぶし)を固(かた)めて臍(へそ)の辺(あた)りを力(ちから)一杯(いつぱい)擲(なぐ)りつけて居(を)る。084如何(どう)したものか、085今日(けふ)に限(かぎ)りて日(ひ)の出神(でのかみ)と称(しよう)する憑依物(ひよういぶつ)も、086チウの声(こゑ)一(ひと)つ挙(あ)げず、087臍(へそ)の下(した)あたりに萎縮(ゐしゆく)して、088小(ちひ)さき毬(まり)の様(やう)になつて付着(ふちやく)して居(ゐ)る。089高姫(たかひめ)は力(ちから)一杯(いつぱい)其(その)玉(たま)の上(うへ)から握(にぎ)り詰(つ)め、
090高姫(たかひめ)『サアどうぢや、091なんとか返答(へんたふ)せぬか。092結構(けつこう)な変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)の肉体(にくたい)を、093今迄(いままで)よくも弄物(おもちや)にしよつた。094捻(ひね)り潰(つぶ)してやらうか』
095と腹(はら)の皮(かは)が千切(ちぎ)れる程(ほど)力(ちから)を籠(こ)めて、096グリグリとした固(かた)い塊(たま)を握(にぎ)り潰(つぶ)さうとする。097腹(はら)の中(なか)より、
098(木常姫の霊)『アヽ痛(いた)い痛(いた)い。099白状(はくじやう)します。100どうぞ宥(こら)へて下(くだ)さい。101私(わたし)は金毛(きんまう)九尾(きうび)の狐(きつね)の乾児(こぶん)、102昔(むかし)エルサレムの宮(みや)で、103大八洲彦(おほやしまひこの)命(みこと)以下(いか)の神々(かみがみ)を苦(くるし)めた木常姫(こつねひめ)の霊(みたま)で御座(ござ)います。104其(その)木常姫(こつねひめ)の分霊(ぶんれい)が疑(こ)つて貴女(あなた)の肉体(にくたい)が形作(かたちづく)られ、105此(この)世(よ)に生(うま)れて来(き)たのだ。106そして私(わたし)は同(おな)じ身魂(みたま)の分派(わかれ)だから、107お前(まへ)に憑(うつ)るより外(ほか)に憑(うつ)る事(こと)は出来(でき)ないのだ』
108高姫(たかひめ)『よう白状(はくじやう)した。109大方(おほかた)そんな事(こと)だらうと思(おも)うて居(を)つたのだ。110併(しか)し乍(なが)ら同(おな)じ身魂(みたま)の因縁(いんねん)なれば、111お前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)り離(はな)す訳(わけ)に行(ゆ)かず、112妾(わたし)も実際(じつさい)はお前(まへ)と別(わか)れとも無(な)い。113併(しか)し木常姫(こつねひめ)の霊魂(みたま)だなぞと、114何(なん)と云(い)ふ弱音(よわね)を吹(ふ)くのか。115始(はじ)めから日(ひ)の出神(でのかみ)と偽(いつは)つて現(あら)はれた以上(いじやう)は、116どこまでも日(ひ)の出神(でのかみ)で通(とほ)さぬか。117そんな気(き)の弱(よわ)い守護神(しゆごじん)は妾(わたし)は嫌(きら)ひだ。118サア是(これ)から妾(わたし)がキツと教育(けういく)をしてやるから、119今迄(いままで)の様(やう)に此(この)肉体(にくたい)を自由(じいう)自在(じざい)に使(つか)ふ事(こと)はならぬぞ。120高姫(たかひめ)が今度(こんど)はお前(まへ)を使(つか)ふのだから、121さう思(おも)へ』
122木常姫(こつねひめ)の霊(れい)『肉体(にくたい)が霊(れい)をお使(つか)ひになれば、123体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)になりはしませぬか』
124高姫(たかひめ)『エー又(また)しても、125お前(まへ)までが理屈(りくつ)を言(い)ふのか。126世間(せけん)の奴(やつ)は皆(みんな)表面(へうめん)でこそ霊主(れいしゆ)体従(たいじう)と済(す)ました顔(かほ)して吐(ほざ)いて居(ゐ)るが、127分(わか)らぬ奴(やつ)だなア。128物質(ぶつしつ)の世(よ)の中(なか)にそんな馬鹿(ばか)な事(こと)が如何(どう)して行(おこな)へるものか。129体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)が天地(てんち)の真理(しんり)だ。130妾(わし)は今迄(いままで)お前(まへ)の霊(れい)に従(したが)ひ、131霊主(れいしゆ)体従(たいじゆう)を守(まも)つて来(き)て、132一(ひと)つも碌(ろく)な事(こと)は出来(でき)なんだぢやないか。133体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)に世(よ)の中(なか)は限(かぎ)る。134虚偽(きよぎ)式(しき)生活(せいくわつ)は此(この)高姫(たかひめ)の取(と)らざる所(ところ)、135これからはスツクリ気(き)を持直(もちなほ)し、136赤裸々(せきらら)に露骨(ろこつ)に、137体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)を標榜(へうぼう)して世(よ)の中(なか)に立(た)つ心組(つもり)だから、138お前(まへ)もそう心得(こころえ)ろ』
139木常姫(こつねひめ)の霊(れい)『アヽ仕方(しかた)がない。140何(なに)を言(い)つても水(みづ)のでばなに聞(き)いて呉(く)れる筈(はず)がないから、141ここ暫(しばら)くは沈黙(ちんもく)の幕(まく)をおろさうか。142アハヽヽヽ』
143と自問(じもん)自答(じたふ)を荐(しき)りにやつて居(を)る。
144 此(この)所(ところ)へ糞(くそ)まぶれになつて登(のぼ)つて来(き)た一人(ひとり)の宣伝使(せんでんし)があつた。145宣伝使(せんでんし)は岩窟(いはや)の前(まへ)に中婆(ちうばば)の首(かうべ)を垂(た)れ、146モノログして居(を)るのを見(み)て、
147宣伝使(せんでんし)『ハハア、148此奴(こいつ)ア気違(きちがひ)だなア。149独(ひと)り言(い)うては独(ひと)り答(こた)へて居(ゐ)よる。150昔(むかし)から腹(はら)の中(なか)から自然(しぜん)にものを言(い)ふ病気(びやうき)があると云(い)ふ事(こと)を聞(き)いて居(を)つたがテツキリ斯(こ)んな奴(やつ)の事(こと)を云(い)うたのだらう。151神懸(かむがかり)[※三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。このセリフ内の他の2ヶ所も同じ。]にしては少(すこ)し調子(てうし)が違(ちが)ふ。152併(しか)し乍(なが)ら病気(びやうき)でも何(なん)でも可(い)い、153腹(はら)の中(なか)より何(なん)でも可(い)いから、154物(もの)を言(い)つて呉(く)れると、155実否(じつぴ)は兎(と)も角(かく)も、156神懸(かむがかり)として誤魔化(ごまくわ)すのに都合(つがふ)が好(い)いけれど……自分(じぶん)の様(やう)に何時(いつ)まで修行(しうぎやう)しても、157鎮魂(ちんこん)しても、158腹(はら)の中(なか)からウンともスンとも言(い)うて来(こ)ない者(もの)には困(こま)つて了(しま)ふ。159あちらでも神懸(かむがかり)の真似(まね)をしては失敗(しつぱい)し、160こちらでも真似(まね)をしては失敗(しつぱい)し、161到頭(たうとう)洲本(すもと)の酋長(しうちやう)の宅(たく)に於(おい)て、162九分(くぶ)九厘(くりん)と云(い)ふ所(ところ)で、163女房(にようばう)に看破(かんぱ)され肝(きも)を潰(つぶ)し居(を)る所(ところ)へ、164死(し)んだ筈(はず)の主人(しゆじん)が帰(かへ)つて来(き)よつて大(おほ)いに面目玉(めんぼくだま)を潰(つぶ)し、165雪隠(せついん)の中(なか)から籠脱(かごぬ)けをやつた時(とき)の苦(くる)しさ、166恐(こは)さ、167大自在天(だいじざいてん)様(さま)のお蔭(かげ)で漸(やうや)く海辺(うみべ)に無事(ぶじ)到着(たうちやく)し、168一艘(いつそう)の舟(ふね)を見付(みつ)けて、169無理(むり)やりに沖(おき)へ漕出(こぎだ)し、170暴風(ばうふう)に吹(ふ)き流(なが)され、171此島(ここ)までやつて来(き)たのだが、172雪隠(せついん)を潜(くぐ)つた時(とき)に、173自分(じぶん)の宣伝使(せんでんし)服(ふく)は雪隠(せついん)の雑巾役(ざふきんやく)を勤(つと)めよつたと見(み)えて、174未(いま)だに怪体(けつたい)な臭気(にほひ)がする。175アヽ困(こま)つた事(こと)だ。176一層(いつそう)の事(こと)、177再(ふたた)び改悪(かいあく)して、178此(この)婆(ばば)を裸(はだか)にし、179臭(くさ)い着物(きもの)と取換(とりかへ)こをしてやらうかなア』
180と何時(いつ)の間(ま)にか小声(こごゑ)が大(おほ)きくなり、181高姫(たかひめ)の耳(みみ)に聞(きこ)えて来(き)た。182高姫(たかひめ)は、183大部分(だいぶぶん)宣伝使(せんでんし)の独語(ひとりごと)を聞(き)き悟(さと)り、
184高姫(たかひめ)『オツホヽヽヽ、185糞(くそ)まぶれの宣伝使(せんでんし)、186雪隠(せんち)の雑巾(ざふきん)と日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の教服(けうふく)と換(かへ)るなんて、187そんな大(だい)それた野心(やしん)を起(おこ)すものぢやない。188チヤンとお前(まへ)の腹(はら)の底(そこ)まで見抜(みぬ)いてあるのだから……』
189宣伝使(せんでんし)『ヤアお前(まへ)は何処(どこ)の婆(ばば)アか知(し)らぬが、190俺(おれ)の腹中(はら)をさう早(はや)くから見透(みす)かして居(を)るのなれば仕方(しかた)がない。191止(や)めて置(お)かう。192俺(おれ)の着物(きもの)にはドツサリと黄金色(わうごんしよく)のババが付(つ)いて、193ババの着物(きもの)になつて了(しま)つた。194貴様(きさま)のを脱(ぬ)がした所(ところ)でヤツパリババの着物(きもの)だ。195……オイ婆(ばあ)さま、196どこぞ其処(そこ)らの谷川(たにがは)で俺(おれ)の着物(きもの)を洗濯(せんたく)して呉(く)れぬか』
197高姫(たかひめ)『日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の宣伝使(せんでんし)と、198洗濯婆(せんたくばば)と間違(まちが)へられては迷惑(めいわく)だ。199こんな高(たか)い山(やま)の水(みづ)もない所(ところ)に、200洗濯婆(せんたくばば)が居(を)るものか。201谷川(たにがは)の畔(ほとり)へでも行(い)つて探(さが)して来(こ)い。202婆(ばば)は川(かは)に付物(つきもの)だ。203此(この)婆(ばば)は世界(せかい)の人民(じんみん)の身魂(みたま)を洗濯(せんたく)する大和(やまと)魂(だましひ)の根本(こつぽん)の洗濯婆(せんたくばば)だぞ。204……ヘン宣伝使(せんでんし)面(づら)をしやがつて、205何(なに)をとぼけて居(ゐ)るのだ。206余程(よつぽど)よい頓馬(とんま)野郎(やらう)だなア』
207と今(いま)までの腹立(はらだ)ち紛(まぎ)れに、208宣伝使(せんでんし)の方(はう)へ鉾(ほこ)を向(む)けて了(しま)つた。
209宣伝使(せんでんし)『なんと口(くち)の達者(たつしや)な婆(ばば)アも有(あ)ればあるものだ。210恰度(ちやうど)今(いま)ウラナイ教(けう)を立(た)てて居(を)る高姫(たかひめ)の様(やう)な、211口喧(くちやかま)しい婆(ば)アさまぢやないか』
212高姫(たかひめ)『その高姫(たかひめ)は此(この)肉体(にくたい)ぢや。213わしの名(な)を如何(どう)して知(し)つて居(を)るか』
214宣伝使(せんでんし)『私(わし)は其(その)時(とき)に雉子(きぎす)と云(い)つた男(をとこ)だ。215お前(まへ)が鬼雲彦(おにくもひこ)の膝元(ひざもと)へ出(で)て来(き)て、216バラモン教(けう)を聞(き)いて居(を)つた時(とき)、217私(わし)も聴(き)いて居(を)つた。218あの時(とき)の事(こと)を思(おも)へば随分(ずゐぶん)年(とし)が寄(よ)つたものだなア……今(いま)はバラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)友彦(ともひこ)と云(い)ふ名(な)を賜(たま)はつて、219自転倒(おのころ)島(じま)一(いち)円(ゑん)の宣伝(せんでん)に廻(まは)つて居(を)るのだ』
220高姫(たかひめ)『アヽさうかい。221そんなしやつ面(つら)で宣伝(せんでん)が出来(でき)たかな』
222友彦(ともひこ)『センデン万化(ばんくわ)に身(み)を窶(やつ)し、223獅子(しし)奮迅(ふんじん)の勢(いきほひ)で活動(くわつどう)した結果(けつくわ)、224とうと糞塵(ふんぢん)の中(なか)に陥(おちい)り、225フン失(しつ)の所(ところ)だつた。226アハヽヽヽ』
227と打解(うちと)けて笑(わら)ふ。
228高姫(たかひめ)『お前(まへ)もそこまで糞度胸(くそどきよう)がすわつて、229雪隠(せんち)の中(なか)まで潜(もぐ)れば、230最早(もはや)是(これ)から上(あが)り坂(ざか)だ。231糞(くそ)に生(わ)く雪隠虫(せんちむし)は遂(つひ)には這(は)ひあがつて、232空中(くうちう)飛行(ひかう)自在(じざい)の玉蠅(たまばへ)となり、233どんな偉(えら)い人間(にんげん)の頭(あたま)へでも止(と)まつて、234糞(くそ)を放(ひ)りかける様(やう)になるものだ。235お前(まへ)も是(これ)から一(ひと)つ糞発(ふんぱつ)して、236妾(わし)と一緒(いつしよ)に活動(くわつどう)したらどうだ。237フンパツせいと云(い)つても雪隠(せんち)へ往(い)て尻(しり)をまくるのだないぞツ』
238友彦(ともひこ)『お前(まへ)は随分(ずゐぶん)口(くち)の達者(たつしや)な糞婆(くそばば)ぢやなア。239併(しか)し乍(なが)らヤツパリ、240ウラナイ教(けう)とか云(い)ふ中間教(ちうかんけう)を立(た)て通(とほ)して居(を)るのかい』
241高姫(たかひめ)『バラモン教(けう)も、242鬼雲彦(おにくもひこ)の大将(たいしやう)、243大江山(おほえやま)の砦(とりで)から三五教(あななひけう)に追(お)ひまくられて逃(に)げ帰(かへ)る様(やう)な腰抜教(こしぬけけう)なり、244ウラナイ教(けう)から一寸(ちよつと)都合(つがふ)に依(よ)りて、245元(もと)の三五教(あななひけう)へ逆転(ぎやくてん)して見(み)たのだが、246ヤツパリ此奴(こいつ)も糞詰(ふんづま)り教(けう)だ。247何分(なにぶん)穴(あな)の無(な)い教(をしへ)だから、248万事(ばんじ)万端(ばんたん)行詰(ゆきつま)りだらけ、249それに分(わか)らず漢(や)が幹部(かんぶ)を占(し)めて居(を)るのだから活動(くわつどう)しようと思(おも)つても手(て)も足(あし)も出(だ)し様(やう)がない。250併(しか)し乍(なが)らバラモン、251ウラル、252ウラナイ、253三五(あなない)、254四教(しけう)を通(つう)じて一番(いちばん)勢力(せいりよく)の有(あ)るのは依然(やつぱり)三五(あななひ)の道(みち)だ。255此島(ここ)には天上(てんじやう)天下(てんか)唯我(ゆゐが)独尊(どくそん)的(てき)の三(みつ)つの宝(たから)があるのだが、256其奴(そいつ)の隠(かく)し場所(ばしよ)を探(さが)し当(あ)てさへすれば、257三五教(あななひけう)は吾々(われわれ)の自由(じいう)自在(じざい)になり、258天晴(あつぱ)れ神政(しんせい)成就(じやうじゆ)は出来(でき)るのだから、259玉(たま)の所在(ありか)を探(さが)さうと思(おも)つて、260一人(ひとり)の家来(けらい)を連(つ)れて此島(ここ)まで来(き)た所(ところ)だが、261お前(まへ)も事(こと)と品(しな)に依(よ)つたら家来(けらい)にしてやるから、262今迄(いままで)の経路(けいろ)を物語(ものがた)つて呉(く)れ。263先(ま)づ第一(だいいち)にお前(まへ)の着物(きもの)の因縁(いんねん)から聞(き)かう。264雪隠(せついん)から脱(ぬ)け出(で)た事(こと)は聞(き)いたが、265それは何処(どこ)の雪隠(せついん)だい』
266 友彦(ともひこ)は有(あ)りし次第(しだい)を悉(ことごと)く物語(ものがた)りける。
267高姫(たかひめ)『さうすると、268お前(まへ)は東助(とうすけ)の宅(たく)へ行(い)つたのだな。269彼奴(あいつ)は三(さん)人(にん)の男(をとこ)を連(つ)れて帰(かへ)つた筈(はず)だが、270お前(まへ)見(み)たのかい』
271友彦(ともひこ)『何(なん)だか三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の服(ふく)を着(つ)けて居(を)つたやうだ。272併(しか)し乍(なが)ら東助(とうすけ)にスツカリ服従(ふくじゆう)して、273是(これ)から東助(とうすけ)を大将(たいしやう)に、274高姫(たかひめ)の所在(ありか)を探(たづ)ね打亡(うちほろ)ぼさねば置(お)かぬと云(い)うて、275力(りき)んで居(ゐ)ましたよ』
276と嘘(うそ)を並(なら)べ立(た)て、277高姫(たかひめ)の肝(きも)を挫(ひし)がうとする。278高姫(たかひめ)は驚(おどろ)いて口(くち)を尖(とが)らせ、279目(め)をグルグルと廻転(くわいてん)させ乍(なが)ら、
280高姫(たかひめ)『そりや本当(ほんたう)か。281そして何時(いつ)出(で)て来(く)ると云(い)つて居(を)つたかな』
282友彦(ともひこ)『何(なん)でも東助(とうすけ)の囁(ささや)くのを聞(き)けば、283高姫(たかひめ)は小豆島(せうどじま)に漂着(へうちやく)したに違(ちがひ)ないから、284数百(すうひやく)人(にん)の軍勢(ぐんぜい)を引連(ひきつ)れ、285全島(ぜんたう)を片(かた)つ端(ぱし)から捜索(そうさく)して、286高姫(たかひめ)を生擒(とりこ)にして連(つ)れ帰(かへ)り、287舌(した)を抜(ぬ)いてやると云(い)つてましたよ。288用心(ようじん)せぬと何時(なんどき)やつて来(く)るか分(わか)りませぬぜ。289アツハヽヽヽ』
290と笑(わら)ふ。291高姫(たかひめ)は其(その)顔(かほ)をチラリと見(み)て、
292高姫(たかひめ)『エー腹(はら)の悪(わる)い。293そんな恐喝(おどし)を食(く)ふものか、294小豆(せうど)ケ島(しま)へ来(き)たと云(い)ふ事(こと)がどうして東助(とうすけ)に分(わか)る道理(だうり)があらう。295又(また)お前(まへ)の声色(こはいろ)と云(い)ひ、296顔色(かほいろ)と云(い)ひ、297嘘(うそ)を吐(つ)いて居(ゐ)るのだろ』
298友彦(ともひこ)『アヽそこまで看破(かんぱ)されては仕方(しかた)がない。299お察(さつ)しの通(とほ)りだ。300マア嘘(うそ)にして置(お)きませうかい』
301 斯(か)く話(はな)し合(あ)ふ所(ところ)へ、302顔(かほ)一面(いちめん)に蜘蛛(くも)の巣(す)だらけになつた貫州(くわんしう)は、303数多(あまた)の衣類(いるゐ)を小脇(こわき)に抱(かか)へて出(で)て来(き)た。304高姫(たかひめ)はこれを見(み)て、
305高姫(たかひめ)『ヤアお前(まへ)は貫州(くわんしう)、306一体(いつたい)其(その)顔(かほ)は如何(どう)したのだ』
307貫州(くわんしう)『ハイ此処(ここ)は恐(おそ)ろしい泥棒(どろばう)の岩窟(いはや)と見(み)えて、308沢山(たくさん)の掠奪品(りやくだつひん)が山(やま)の如(ごと)く積(つ)んで有(あ)りました。309私(わたし)も泥棒(どろばう)のウハマヘをはねて、310大泥棒(おほどろばう)となり、311顔(かほ)は此(この)通(とほ)りクモ助(すけ)になつて出(で)て来(き)ました。312資本(もと)が何分(なにぶん)懸(かか)らぬ代物(しろもの)だから、313安(やす)うまけと来(き)ます。314絹物(きぬもの)も有(あ)れば、315木綿物(もめんもの)も有(あ)るが、316突込(つつこ)みで一(いつ)尺(しやく)何程(なんぼ)で卸(おろし)ませうかい。317……ヤア何(なん)だ、318怪(あや)しい臭気(にほひ)がすると思(おも)へば、319そこに糞(くそ)まぶれの着物(きもの)を着(き)てる奴(やつ)が一人(ひとり)立(た)つて居(ゐ)る。320大方(おほかた)雪隠虫(せんちむし)のお化(ば)けだらう。321早速(さつそく)此奴(こいつ)ア買手(かひて)が出来(でき)た。322世(よ)の中(なか)はようしたものだ。323斯(こ)んな山中(さんちう)に店(みせ)出(だ)しした所(ところ)で、324たアれも買手(かひて)は有(あ)るまいと思(おも)うて居(を)つたのに、325出(だ)せ買(か)はう……とか云(い)つて、326不思議(ふしぎ)なものだなア』
327と一人(ひとり)洒落(しやれ)てゐる。
328高姫(たかひめ)『お前(まへ)そんな悪(わる)い事(こと)をして、329何(なん)ともないのか。330神(かみ)様(さま)に済(す)まぬぢやないか』
331貫州(くわんしう)『私(わたし)の天眼通(てんがんつう)で糞(くそ)まぶれの人間(にんげん)が今(いま)出(で)て来(く)ると云(い)ふ事(こと)を、332チヤンと悟(さと)りました。333こんな所(ところ)で洗濯(せんたく)する訳(わけ)には行(ゆ)かず、334困(こま)つてるだらうと思(おも)つて、335慈善(じぜん)的(てき)に抱(かか)へて来(き)たのだ。336サア俺(おれ)の物(もん)ぢやないけれど、337お前(まへ)勝手(かつて)に着(き)たがよからう』
338友彦(ともひこ)『持主(もちぬし)の分(わか)らぬ着物(きもの)を勝手(かつて)に着(き)る訳(わけ)には行(い)きませぬ。339買(か)ふとか、340借(か)るとかせなくては、341黙(だま)つて着服(ちやくふく)すれば泥棒(どろばう)になりますから……』
342貫州(くわんしう)『殊勝(しゆしよう)らしい事(こと)を言(い)ふな。343お前(まへ)は宣伝使(せんでんし)のサツクを嵌(は)めて泥棒(どろばう)をやつて居(を)つた男(をとこ)に違(ちが)ひない。344お前(まへ)の面付(つらつき)は、345どう贔屓目(ひいきめ)に見(み)ても、346泥棒(どろばう)としか俺(おれ)の天眼通(てんがんつう)に映(えい)じない、347大方(おほかた)貴様(きさま)の…ここは親分(おやぶん)の根拠地(こんきよち)だらう。348何(なん)だか此(この)岩窟(いはや)の奥(おく)には大勢(おほぜい)の声(こゑ)が聞(きこ)えて居(を)つたから、349ソツト是(こ)れ丈(だけ)の着物(きもの)を引抱(ひつかか)へ逃(に)げ出(だ)して来(き)たのだが、350貴様(きさま)も大方(おほかた)岩窟(ここ)の乾児(こぶん)に違(ちが)ひあるまい』
351友彦(ともひこ)『これは聊(いささ)か迷惑(めいわく)だ。352実(じつ)の所(ところ)は始(はじ)めて此(この)島(しま)へ漂着(へうちやく)したばかりだから、353そんな痛(いた)うない腹(はら)を探(さぐ)るものだない。354併(しか)し此(この)着物(きもの)は暫(しばら)く拝借(はいしやく)しよう。355其(その)代(かは)りに私(わし)の衣類(いるゐ)を渡(わた)すからお前(まへ)御(ご)苦労(くらう)だが、356岩窟(いはや)の中(なか)まで持(も)ち運(はこ)んで置(お)いてくれぬか』
357 貫州(くわんしう)は、
358貫州『勝手(かつて)にせい』
359と捨台詞(すてぜりふ)を残(のこ)して、360又(また)もや岩窟(がんくつ)の中(なか)に駆込(かけこ)んだ。361高姫(たかひめ)、362友彦(ともひこ)も続(つづ)いて岩窟(がんくつ)の中(なか)に入(はい)る。363或(あるひ)は広(ひろ)く、364或(あるひ)は狭(せま)く、365起伏(きふく)ある天然(てんねん)の隧道(トンネル)を、366身(み)を堅(たて)にし横(よこ)にし、367或(あるひ)は這(は)ひなどして漸(やうや)く広(ひろ)き窟内(くつない)に進(すす)み入(い)つた。368どこともなく糸竹(しちく)管絃(くわんげん)の音(おと)が聞(きこ)えて来(く)る。369三(さん)人(にん)は怪(あや)しげに耳(みみ)を澄(す)まして其(その)音(おと)の出所(しゆつしよ)を佇(たたず)み考(かんが)へ込(こ)んだ。370或(あるひ)は前(まへ)に聞(きこ)え、371後(うしろ)に聞(きこ)え、372右(みぎ)かと思(おも)へば左(ひだり)、373左(ひだり)かと思(おも)へば頭(あたま)の上(うへ)に、374地(ち)の底(そこ)に音(おと)がする。375途方(とはう)に暮(く)れ、376半時(はんとき)ばかり無言(むごん)の儘(まま)、377顔(かほ)を見合(みあは)せて考(かんが)へ込(こ)んでゐた。378傍(かたはら)の岩壁(がんぺき)は音(おと)もなくパツと開(ひら)いて、379中(なか)より現(あら)はれ来(きた)る一人(ひとり)の婆(ばば)ア、380三(さん)人(にん)を見(み)るより、
381婆(蜈蚣姫)『アヽ、382お前(まへ)は鷹鳥山(たかとりやま)に巣(す)を構(かま)へて居(を)つた鷹鳥姫(たかとりひめ)其(その)他(た)の奴(やつ)だなア。383アヽよい所(ところ)へやつて来(き)た。384サア是(こ)れから日頃(ひごろ)の恨(うら)みを晴(は)らし、385金剛(こうがう)不壊(ふえ)の玉(たま)や紫(むらさき)の玉(たま)の所在(ありか)を白状(はくじやう)させねば置(お)かぬ』
386高姫(たかひめ)『これはこれは御(ご)高名(かうめい)は予(かね)て承(うけたま)はりて居(を)りましたが、387一(ひと)つ谷(たに)を隔(へだ)てた魔谷(まや)ケ岳(だけ)と鷹鳥山(たかとりやま)、388御(ご)近所(きんじよ)で居(を)り乍(なが)ら、389誠(まこと)に御(ご)不沙汰(ぶさた)を致(いた)して居(を)りました。390妾(わたし)も其(その)玉(たま)を……よもやお前(まへ)さまが何々(なになに)してゐるのではあるまいかと思(おも)うて来(き)たのです。391人(ひと)を疑(うたが)うて誠(まこと)に済(す)みませぬが、392貴女(あなた)もあの玉(たま)に就(つい)ては非常(ひじやう)な執着心(しふちやくしん)がお有(あ)りなさるのだから、393妾(わたし)が疑(うたが)ふのも強(あなが)ち無理(むり)では有(あ)りますまい』
394とシツペ返(かへ)しに捲(まく)し立(た)てる。395蜈蚣姫(むかでひめ)は顔色(かほいろ)を変(か)へ、
396蜈蚣姫『盗人(ぬすびと)猛々(たけだけ)しいとはお前(まへ)の事(こと)だ。397何(なに)なと勝手(かつて)にほざいたがよからう。398此穴(ここ)にはスマートボールや其(その)他(た)の勇士(ゆうし)が沢山(たくさん)に抱(かか)へてあるから、399最早(もはや)お前(まへ)達(たち)は袋(ふくろ)の鼠(ねずみ)も同様(どうやう)、400運(うん)の尽(つ)きぢやと諦(あきら)めて、401神妙(しんめう)に白状(はくじやう)したがよからう。402あのマア迷惑相(めいわくさう)な面付(つらつき)わいの、403オツホヽヽヽ』
404と肩(かた)を揺(ゆす)り、405腮(あご)をしやくり、406舌(した)まで出(だ)して笑(わら)ひ転(こ)ける憎(にく)らしさ。
407高姫(たかひめ)『お前(まへ)さまは音(おと)に名高(なだか)い鬼(おに)ケ城(じやう)山(ざん)、408鬼熊別(おにくまわけ)の奥(おく)さま蜈蚣姫(むかでひめ)さまと云(い)ふお方(かた)でせうがなア。409妾(わたし)も元(もと)は鬼雲彦(おにくもひこ)の弟子(でし)となり、410バラモン教(けう)の教理(けうり)を信用(しんよう)して聞(き)いた事(こと)がある高姫(たかひめ)で御座(ござ)います。411今(いま)は一寸(ちよつと)都合(つがふ)があつて、412三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)と化(ば)け込(こ)んでゐるのだが、413心(こころ)の底(そこ)はお前(まへ)さまと同様(どうやう)、414ヤツパリ大自在天(だいじざいてん)様(さま)を信仰(しんかう)し、415生命(いのち)までも捧(ささ)げて、416千騎(せんき)一騎(いつき)の活動(くわつどう)をしてゐるので御座(ござ)います。417どうぞして三五教(あななひけう)の三(みつ)つの宝(たから)を奪(うば)ひ取(と)り、418それを手柄(てがら)にメソポタミヤの本山(ほんざん)へ献上(けんじやう)し、419御(ご)神業(しんげふ)を助(たす)けたいばつかりに、420斯(こ)うして化(ば)けてゐるのですよ。421貴女(あなた)方(がた)は今迄(いままで)妾(わたし)を敵(てき)と思(おも)うて御座(ござ)るが、422決(けつ)して敵(てき)ではありませぬ。423強力(きようりよく)なる味方(みかた)です。424玉(たま)の所在(ありか)が分(わか)らうものなら、425それこそ隠(かく)す所(どころ)か、426貴女(あなた)の手(て)を経(へ)て鬼雲彦(おにくもひこ)様(さま)に奉(たてまつ)つて貰(もら)ふ考(かんが)へで、427これ丈(だけ)苦労(くらう)をしてゐるのです。428三五教(あななひけう)の教主(けうしゆ)言依別(ことよりわけの)命(みこと)が、429玉能姫(たまのひめ)、430初稚姫(はつわかひめ)と云(い)ふ女(をんな)や子供(こども)に現(うつつ)を抜(ぬ)かし、431肝腎(かんじん)の玉(たま)を隠(かく)さして了(しま)ひよつたのだから、432何(なん)でも其(その)所在(ありか)を探(さが)さうと思(おも)つて、433此島(ここ)までやつて来(き)たのが、434神(かみ)様(さま)の不思議(ふしぎ)の縁(えん)で、435思(おも)はぬ所(ところ)でお目(め)に掛(かか)りました』
436蜈蚣姫(むかでひめ)『アヽそう聞(き)くとメソポタミヤでお目(め)に掛(かか)つた高姫(たかひめ)さまによく似(に)てゐる。437それなら何故(なぜ)妾(わたし)が魔谷(まや)ケ岳(だけ)に居(を)つた時(とき)、438お前(まへ)さまは三五教(あななひけう)ぢやと云(い)つて反対(はんたい)をしたのだ。439それが一体(いつたい)合点(がつてん)がいかぬぢやないか』
440高姫(たかひめ)『アハヽヽヽ、441誰(たれ)も彼(か)れも皆(みな)、442此(この)高姫(たかひめ)の腹(はら)は知(し)らない奴(やつ)計(ばか)りだから、443三五教(あななひけう)の熱心(ねつしん)な宣伝使(せんでんし)とのみ思(おも)うて居(ゐ)る矢先(やさき)に、444何程(なにほど)お前(まへ)さまに会(あ)ひたうても、445会(あ)ふことが出来(でき)ない。446そんな事(こと)ども分(わか)つた位(くらゐ)なら、447今迄(いままで)の苦心(くしん)が水(みづ)の泡(あわ)になるのだから、448妾(わたし)の心(こころ)もチツと推量(すゐりやう)して下(くだ)さい。449神(かみ)の奥(おく)には奥(おく)があり、450其(その)又(また)奥(おく)には奥(おく)があるのだから、451そんな企(たく)みをして居(を)れば直(すぐ)に発覚(はつかく)しますから、452事(こと)を成(な)さむとする者(もの)は仮令(たとへ)、453自分(じぶん)の夫(をつと)であらうが、454女房(にようばう)であらうが、455何程(なにほど)信用(しんよう)した弟子(でし)であらうが、456一口(ひとくち)でも喋(しやべ)る様(やう)な事(こと)では、457成就(じやうじゆ)しませぬからな。458オホヽヽヽ』
459蜈蚣姫(むかでひめ)『何(なん)とお前(まへ)さまは感心(かんしん)な人(ひと)ぢや。460さう事(こと)が分(わ)かれば敵(てき)でもなし、461姉妹(きやうだい)同様(どうやう)、462サアどうぞ奥(おく)へ通(とほ)つてゆつくりと寛(くつ)ろいで下(くだ)さい。463昔話(むかしばなし)をして互(たがひ)に楽(たのし)みませう』
464と今迄(いままで)と打(う)つて変(かは)つた挨拶(あいさつ)振(ぶ)りに、465高姫(たかひめ)は与(くみ)し易(やす)しと心(こころ)の中(なか)に笑(わら)ひ乍(なが)ら、466蜈蚣姫(むかでひめ)の後(あと)に従(つ)いて、467奥(おく)の間(ま)に進(すす)み入(い)る。
468 貫州(くわんしう)、469友彦(ともひこ)は入口(いりぐち)の間(ま)に木(き)の根(ね)で造(つく)つた火鉢(ひばち)を与(あた)へられ、470手(て)をあぶり乍(なが)ら、471様子(やうす)如何(いか)にと待(ま)つて居(ゐ)た。472高姫(たかひめ)は今後(こんご)如何(いか)なる策略(さくりやく)をめぐらすならむか。
473(大正一一・六・一三 旧五・一八 松村真澄録)
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