霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 波濤(はたう)万里(ばんり)〔七三〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第4篇 混線状態 よみ(新仮名遣い):こんせんじょうたい
章:第18章 波濤万里 よみ(新仮名遣い):はとうばんり 通し章番号:730
口述日:1922(大正11)年06月13日(旧05月18日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
岩窟の中のバラモン教の祭典が済んで、老若男女が礼拝所から出てきた。信者の中の一人の老いた男・久助は、友彦を見るなり、六ケ月前に自宅に忍び入って強盗を働いた男だと認めて食ってかかる。
その様子を見て蜈蚣姫を始め一同はあきれてしまう。そこへ、鶴公、清公、武公が東助の使いとしてやってきて、友彦の後を追ってやって来たが、この岩窟に逃げ込んだはずだから、召捕りに来たという。蜈蚣姫は三人に対して、友彦はここにいるから縛って連れて行くようにと申し渡す。
高姫はかつての部下だった三人が、東助の家来になっていることに皮肉を言う。高姫と三人が言い合っている間に、友彦は這って逃げ出そうとしていた。しかし清・鶴・武が連れて来た犬に噛り付かれてしまう。
鶴公、清公、武公は友彦を縛って引っ立てていった。一方蜈蚣姫は、高姫、貫州、久助を連れてオーストラリヤの一つ島に渡ることになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:竜宮島・オーストラリヤ(オースタリヤ) データ凡例: データ最終更新日:2022-10-15 02:02:36 文字数:3230 OBC :rm2318
愛善世界社版:282頁 八幡書店版:第4輯 599頁 修補版: 校定版:287頁 普及版:133頁 初版: ページ備考:
001世界(せかい)の楽土(らくど)と聞(きこ)えたる
002メソポタミヤの瑞穂国(みづほくに)
003顕恩郷(けんおんきやう)に現(あら)はれし
004バラモン教(けう)の棟梁神(とうりやうしん)
005鬼雲彦(おにくもひこ)が懐中(ふところ)の
006刀(かたな)と恃(たの)む副棟梁(ふくとうりやう)
007鬼熊別(おにくまわけ)や蜈蚣姫(むかでひめ)
008中(なか)に生(うま)れた一粒(ひとつぶ)の
009蕾(つぼみ)の花(はな)の小糸姫(こいとひめ)
010年(とし)は二八(にはち)か二九(にく)からぬ
011仇(あだ)な姿(すがた)に憧憬(あこが)れて
012教(をしへ)の道(みち)の友彦(ともひこ)が
013力(ちから)限(かぎ)りに付(つ)き纏(まと)ひ
014言葉(ことば)尽(つく)して説(と)き落(おと)し
015二人(ふたり)の親(おや)や人(ひと)の目(め)の
016関所(せきしよ)を越(こ)えて波斯(フサ)の国(くに)
017荒野(あらの)ケ原(はら)を打渡(うちわた)り
018高山(かうざん)数々(かずかず)乗(の)り越(こ)えて
019釈迦(しやか)の生(うま)れし月氏国(つきのくに)
020錫蘭島(セイロンたう)に身(み)を忍(しの)び
021夫婦(ふうふ)仲良(なかよ)く暮(くら)す内(うち)
022恋(こひ)の魔風(まかぜ)に煽(あふら)れて
023力(ちから)と恃(たの)む小糸姫(こいとひめ)は
024只(ただ)一通(いつつう)の遺書(かきおき)を
025残(のこ)して浪路(なみぢ)を打渉(うちわた)り
026何処(いづく)の果(は)てや白波(しらなみ)の
027船(ふね)に姿(すがた)は消(き)えにけり
028とり残(のこ)されし友彦(ともひこ)は
029夜食(やしよく)に外(はづ)れた梟鳥(ふくろどり)
030つまらぬ顔(かほ)を曝(さら)しつつ
031執念深(しふねんぶか)くも蛇(くちなは)の
032魅(みい)れし如(ごと)く気(き)も狂(くる)ひ
033胸(むね)を焦(こが)して自転倒(おのころ)の
034神島(かみしま)さして進(すす)み来(く)る。
035尋(たづ)ねる由(よし)も夏(なつ)の夜(よ)の
036虫(むし)に脛(すね)をば刺(さ)されつつ
037山川(やまかは)渉(わた)り蓑笠(みのかさ)の
038軽(かる)き扮装(いでたち)此処(ここ)彼処(かしこ)
039彷徨(さまよ)ひ巡(めぐ)りて宇都山(うづやま)の
040里(さと)に輿(みこし)を据(す)ゑ乍(なが)ら
041支離(しり)滅裂(めつれつ)の説法(せつぱふ)を
042説(と)き広(ひろ)め居(ゐ)る折柄(をりから)に
043三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
044天(あめ)の真浦(まうら)の神人(かみびと)が
045其(その)神力(しんりき)に恐怖(きようふ)して
046又(また)もや此処(ここ)を駆(か)け出(いだ)し
047流(なが)れ流(なが)れて淡路島(あはぢしま)
048隈(くま)なく廻(めぐ)り北(きた)の果(はて)
049洲本(すもと)の里(さと)の酋長(しうちやう)が
050館(やかた)の内(うち)の失敗(しつぱい)に
051廁(かはや)の穴(あな)より籠脱(かごぬ)けし
052着衣(ちやくい)を黄色(きいろ)に染(そ)め乍(なが)ら
053此(この)世(よ)の瀬戸(せと)の浪(なみ)の上(うへ)
054堅磐(かきは)常磐(ときは)に浮(う)かびたる
055小豆(せうど)ケ島(しま)に漂着(へうちやく)し
056狐狸(きつねたぬき)に魅(み)せられし
057如(ごと)き怪訝(けげん)な顔(かほ)をして
058国城山(くにしろやま)の岩窟(がんくつ)に
059当途(あてど)もなしに来(き)て見(み)れば
060胸(むね)の動悸(どうき)も高姫(たかひめ)が
061差俯向(さしうつむ)いて独語(ひとりごと)
062聞(き)くより誰(たれ)かと尋(たづ)ぬれば
063口(くち)から先(さき)に生(うま)れたる
064布留那(ふるな)の弁(べん)の高姫(たかひめ)は
065口(くち)を極(きは)めて喋(しやべ)り出(だ)す
066鼻持(はなもち)ならぬ屁理屈(へりくつ)に
067忽(たちま)ち据(す)わる糞度胸(くそどきよう)
068臭(くさ)い婆(ばば)アと知(し)り乍(なが)ら
069鼻(はな)を抓(つま)んで岩窟(いはやど)に
070伴(ともな)ひ進(すす)み来(き)て見(み)れば
071思(おも)ひがけなき蜈蚣姫(むかでひめ)
072般若(はんにや)の様(やう)な面(つら)をして
073鼻先(はなさき)赤(あか)い出歯(でば)男(をとこ)
074出歯亀(でばがめ)式(しき)の友彦(ともひこ)を
075見(み)るより早(はや)く仏頂面(ぶつちやうづら)
076蟹(かに)の様(やう)なる泡(あわ)を吹(ふ)き
077怨(うら)みの数々(かずかず)繰返(くりかへ)す
078その権幕(けんまく)の恐(おそ)ろしさ
079流石(さすが)の友彦(ともひこ)肝(きも)潰(つぶ)し
080小糸(こいと)の姫(ひめ)が残(のこ)したる
081皺苦茶(しわくちや)だらけの遺書(かきおき)を
082怖々(おづおづ)前(まへ)に差(さ)し出(いだ)し
083蜈蚣(むかで)の姫(ひめ)の手(て)に渡(わた)す
084婆(ばば)アは手早(てばや)く我(わが)顔(かほ)の
085皺(しわ)と同時(いつしよ)に伸(の)べ乍(なが)ら
086潤(うる)んだ眼(まなこ)を光(ひか)らせて
087覗(のぞ)いて見(み)れば此(こ)は如何(いか)に
088スパルタ文字(もじ)にて記(しる)したる
089恋(こひ)しき娘(むすめ)が筆(ふで)の蹟(あと)
090愛想(あいそ)づかしの数々(かずかず)を
091並(なら)べ立(た)てたる可笑(をか)しさに
092流石(さすが)の婆(ばば)も吹(ふ)き出(いだ)し
093音(おと)に名高(なだか)きオセアニヤ
094竜宮島(りうぐうじま)に名(な)も高(たか)き
095黄竜姫(わうりようひめ)は吾(わが)子(こ)ぞと
096初(はじ)めて悟(さと)る蜈蚣姫(むかでひめ)
097嬉(うれ)し悲(かな)しの泣(な)き笑(わら)ひ
098一座(いちざ)白(しら)けた最中(さいちう)に
099岩窟(いはや)の口(くち)を押開(おしひら)き
100ドヤドヤ出(で)て来(く)る男(をとこ)あり
101あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
102霊(みたま)も腰(こし)もスツカリと
103抜(ぬ)かした馬鹿(ばか)の友彦(ともひこ)が
104身(み)の上(うへ)こそは哀(あは)れなる
105 奥(おく)の間(ま)の祭典(さいてん)は済(す)んだと見(み)えて、106数多(あまた)の老若(らうにやく)男女(なんによ)は此(この)場(ば)にドヤドヤと現(あら)はれ来(きた)り、107蜈蚣姫(むかでひめ)に祭典(さいてん)無事(ぶじ)終了(しうれう)の報告(はうこく)をして居(ゐ)る。108頭(あたま)の頂辺(てつぺん)が饅頭(まんぢう)の様(やう)に禿(は)げた男(をとこ)、109友彦(ともひこ)の顔(かほ)を見(み)るなり、
110男(をとこ)『ヤア、111貴様(きさま)は六(ろく)ケ月(げつ)以前(いぜん)に我(わが)家(や)に忍(しの)び入(い)り、112我(わが)留守宅(るすたく)を幸(さいはひ)に女房(にようばう)を○○し、113額(ひたい)に負傷(てきず)を負(お)はせ逃(に)げ去(さ)つたる友彦(ともひこ)と言(い)ふ奴(やつ)であらう。114俺(おれ)が門口(かどぐち)へ帰(かへ)つて来(く)る途端(とたん)、115我(わが)家(や)より血刀(ちがたな)提(ひつさ)げ飛(と)び出(だ)した奴(やつ)の顔(かほ)そつくりだ。116貴様(きさま)は留守(るす)の家(いへ)に巧言(こうげん)を以(もつ)て入(い)り込(こ)み、117友彦(ともひこ)の宣伝使(せんでんし)だと申(まを)し、118女房(にようばう)の隙(すき)を覗(うかが)ひ大(だい)それた事(こと)を致(いた)して逃(に)げ失(う)せた奴(やつ)、119最早(もはや)天命(てんめい)の尽(つき)、120覚悟(かくご)をせい』
121 此(この)男(をとこ)の言葉(ことば)に蜈蚣姫(むかでひめ)始(はじ)め一同(いちどう)は、122呆(あき)れて二人(ふたり)の顔(かほ)を穴(あな)もあけよと許(ばか)り睨(にら)みつけて居(ゐ)る。
123友彦(ともひこ)『滅相(めつさう)な事(こと)を仰(あふ)せられては困(こま)ります。124他人(たにん)の空似(そらに)と申(まを)しまして、125世界(せかい)には、126二人(ふたり)や三(さん)人(にん)は同(おな)じスタイルの者(もの)はある相(さう)です。127貴方(あなた)のお見違(みちが)ひで御座(ござ)いませう。128何卒(どうぞ)とつくり調(しら)べて下(くだ)さいませ』
129男(をとこ)『私(わし)は明石(あかし)の里(さと)の久助(きうすけ)と言(い)ふ者(もの)だが、130日(ひ)の暮(くれ)まぎれに顔(かほ)はよく分(わか)らねど、131鼻(はな)の頭(あたま)の赤(あか)い特徴(しるし)が何(なに)よりの証拠(しようこ)だ。132も一(ひと)つ確(たしか)める為(た)めに女房(にようばう)が次(つぎ)の間(ま)にお籠(こも)りをして居(ゐ)るから、133呼(よ)んで来(き)て調(しら)べさして見(み)る。134……これこれお民(たみ)、135一寸(ちよつと)来(き)てお呉(く)れ』
136友彦(ともひこ)『メヽヽ滅相(めつさう)な。137御(ご)夫婦(ふうふ)共(とも)御(ご)苦労(くらう)を掛(か)けて済(す)みませぬ。138過(す)ぎ去(さ)つた事(こと)は水(みづ)に流(なが)したが却(かへつ)て御(ご)都合(つがふ)が宜(よろ)しからう。139過越(すぎこ)し苦労(くらう)は神(かみ)様(さま)の道(みち)に大禁物(だいきんもつ)だ』
140久助(きうすけ)『お前(まへ)の方(はう)は御(ご)都合(つがふ)が宜(よ)からうが、141久助(きうすけ)にとつては、142無理(むり)難題(なんだい)を掛(か)けた様(やう)に皆(みな)の人々(ひとびと)に思(おも)はれては誠(まこと)に御(ご)都合(つがふ)が悪(わる)い』
143と言(い)つて居(を)る所(ところ)へ女房(にようばう)お民(たみ)はシトシトと出(い)で来(きた)り、144友彦(ともひこ)の顔(かほ)を見(み)るや否(いな)や、
145お民(たみ)『アツ泥棒(どろばう)』
146と言(い)つたきりビツクリ腰(ごし)を抜(ぬ)かして仕舞(しま)つた。147久助(きうすけ)は驚(おどろ)いて、
148久助(きうすけ)『こりやこりや女房(にようばう)、149是(これ)丈(だ)け沢山(たくさん)の人(ひと)が居(を)るのだから、150泥棒(どろばう)の一人(ひとり)位(くらゐ)は恐(おそ)るるには足(た)らぬ。151まア気(き)をしつかりと持(も)つて呉(く)れ』
152と背(せな)を無理(むり)に叩(たた)く。153貫州(くわんしう)は両手(もろて)を組(く)んで『ウン』と霊(れい)を送(おく)る。154お民(たみ)は漸(やうや)う気(き)を取(と)り直(なほ)し、
155お民(たみ)『お前(まへ)は此(この)春(はる)吾(わが)家(や)に入(い)り来(きた)り妾(わたし)に無礼(ぶれい)を加(くは)へた上(うへ)、156金(かね)を浚(さら)つて逃(に)げ去(さ)つた悪党者(あくたうもの)、157妾(わたし)が額(ひたい)の疵(きず)は汝(なんぢ)が残(のこ)せし罪(つみ)の痕(あと)、158之(これ)でも言(い)ひ分(ぶん)あるか』
159と歯(は)を食(く)ひ縛(しば)り目(め)を睜(いか)らし睨(にら)みつける。160友彦(ともひこ)は、
161友彦(ともひこ)『ハイ、162誠(まこと)に……』
163と僅(わづ)かに言(い)つたきり、164床(ゆか)に頭(かしら)をすりつけて地震(ぢしん)の神(かみ)の神懸(かんがか)り[※三版・御校正本・愛世版では「神懸り」、校定版では「神憑り」。]をやつて居(ゐ)る。
165 岩戸(いはと)を開(ひら)いて入(い)り来(きた)る三(さん)人(にん)の男(をとこ)、
166男(をとこ)『ヘイ、167御免(ごめん)なさい、168私(わたし)は淡路島(あはぢしま)の洲本(すもと)の酋長(しうちやう)、169今(いま)は東助(とうすけ)様(さま)の家来(けらい)となつた清公(きよこう)、170武公(たけこう)、171鶴公(つるこう)の三(さん)人(にん)で御座(ござ)る。172極悪(ごくあく)無道(ぶだう)のバラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)と名告(なの)る大盗賊(だいたうぞく)、173雪隠(せつちん)の跨(また)げ穴(あな)より脱(ぬ)け出(だ)し、174浜辺(はまべ)に繋(つな)ぎし酋長(しうちやう)の所有船(もちぶね)を盗(ぬす)み、175艪(ろ)を操(あやつ)り海原(うなばら)に逃(に)げ去(さ)りしと訴(うつた)ふる者(もの)あり。176我々(われわれ)酋長(しうちやう)の命令(めいれい)に依(よ)り直(ただち)に船(ふね)を用意(ようい)し友彦(ともひこ)の後(あと)を追(お)ひ来(く)る折(をり)しも暴風(ばうふう)に出会(であ)ひ、177艪(ろ)は折(を)れ進退(しんたい)の自由(じいう)を失(うしな)ひ漸(やうや)く此(この)島(しま)に漂着(へうちやく)し、178見(み)れば泥棒(どろばう)が乗(の)つて来(き)た東助(とうすけ)と刻印(しるし)のついた釣船(つりぶね)、179てつきり此(この)島(しま)に逃(に)げ忍(しの)び居(を)るならむと、180吾々(われわれ)三(さん)人(にん)後(あと)を追(お)つ駆来(かけき)て見(み)れば、181嗅覚(しうかく)鋭利(えいり)な此(この)犬(いぬ)の力(ちから)によつて、182此処(ここ)まで尋(たづ)ねて参(まゐ)つた捕手(とりて)の役人(やくにん)で御座(ござ)る。183もう斯(こ)うなつてはお隠(かく)しになつても駄目(だめ)で御座(ござ)る。184糞(くそ)の臭(にほひ)が此(この)岩窟(いはや)の中(なか)まで続(つな)がつて居(ゐ)る以上(いじやう)は、185てつきり泥棒(どろばう)は当岩窟(たういはや)に居(を)るに相違(さうゐ)御座(ござ)るまい、186さア速(すみや)かにお渡(わた)し召(め)され』
187と肩臂(かたひぢ)怒(いか)らし仁王立(にわうだ)ちになつて力味(りきみ)かへり居(ゐ)る。
188蜈蚣姫(むかでひめ)『皆(みな)さま、189御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)つた。190此処(ここ)に犬(いぬ)が一匹(いつぴき)居(を)りまする。191何卒(どうぞ)早(はや)く縛(しば)つて御(お)帰(かへ)り下(くだ)さい。192どうも斯(こ)うもならぬ友彦(ともひこ)と言(い)ふ野良犬(のらいぬ)で御座(ござ)います。193オホヽヽヽ』
194と歯(は)の脱(ぬ)けた口(くち)から零(こぼ)れた様(やう)な笑(わら)ひをする。195高姫(たかひめ)は目敏(めざと)く三(さん)人(にん)の顔(かほ)を見(み)て、
196高姫(たかひめ)『誰(たれ)かと思(おも)へば清(きよ)に武(たけ)、197鶴(つる)の三(さん)人(にん)ぢやないか。198東助(とうすけ)船頭(せんどう)と共謀(ぐる)になつてようこの高姫(たかひめ)を馬鹿(ばか)にした。199さア良(よ)い処(ところ)へうせた。200もう量見(りやうけん)ならぬぞ。201……モシモシ蜈蚣姫(むかでひめ)さま、202貴女(あなた)の部下(ぶか)を十(じふ)人(にん)ばかりお貸(かし)下(くだ)され。203如何(どう)も斯(こ)うもならぬ反逆者(うらがへりもの)、204懲戒(みせしめ)の為(た)め縛(しば)りつけて、205チツと許(ばか)り膏(あぶら)をとつてやらねばなりませぬ』
206三(さん)人(にん)『アハヽヽヽ、207オイ高(たか)……婆(ばば)ア何(なに)を吐(ぬ)かすのだ。208勿体(もつたい)なくも淡路島(あはぢしま)の洲本(すもと)に於(おい)て雷名(らいめい)隠(かく)れなき人子(ひとご)の司(つかさ)、209東助(とうすけ)様(さま)の御(ご)家来(けらい)だぞ。210今迄(いままで)は貴様(きさま)に清(きよ)だの、211武(たけ)だの、212鶴(つる)だのと頤(あご)の先(さき)で使(つか)はれて来(き)たが、213もう今日(こんにち)の俺(おれ)達(たち)はチツと相場(さうば)が違(ちが)ふのだから其(その)心組(つもり)で謹(つつし)んで返答(へんたふ)をせい。214無礼(ぶれい)な事(こと)を致(いた)すと貴様(きさま)も一緒(いつしよ)に召捕(めしと)つて帰(かへ)らうか』
215 高姫(たかひめ)は泰然(たいぜん)自若(じじやく)として、
216高姫(たかひめ)『オホヽヽヽ、217鉛製(なまりせい)の閻魔(えんま)の様(やう)な其(その)態(ざま)は何(なん)だ。218見(み)つともない。219玩具(おもちや)の九寸(くすん)五分(ごぶ)を以(もつ)て嚇(おど)かす様(やう)な事(こと)をしたつて此(この)高姫(たかひめ)は、220いつかな いつかなビク付(つ)く様(やう)な弱(よわ)い女(をんな)で御座(ござ)いませぬワイ。221之(これ)でも猪食(ししく)つた犬(いぬ)だ。222見事(みごと)召捕(めしと)るなら召捕(めしと)つて見(み)よ』
223と争(いさか)ふ其(その)隙(すき)を考(かんが)へ、224友彦(ともひこ)は四(よ)つ這(ば)ひになつて、225ノソリノソリと黒(くろ)い褌(まわし)を尾(を)の様(やう)に垂(た)らし乍(なが)ら、226表口(おもてぐち)さして遁(に)げ出(だ)さうとする。227三(さん)人(にん)の引張(ひつぱ)つて来(き)た洋犬(かめ)はワンワンと威喝(ゐかつ)し乍(なが)ら友彦(ともひこ)の尻(しり)に噛(か)じり付(つ)いた。228蜈蚣姫(むかでひめ)は何(なに)が何(なに)やら、229二組(ふたくみ)も三組(みくみ)も混線(こんせん)した此(この)争(いさか)ひに肝(きも)を潰(つぶ)し、230一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、
231蜈蚣姫(むかでひめ)『南無(なむ)バラモン教主(けうしゆ)大国別(おほくにわけの)命(みこと)、232守(まも)り給(たま)へ幸倍(さちはへ)給(たま)へ』
233と一心(いつしん)不乱(ふらん)に汗(あせ)を流(なが)して祈願(きぐわん)して居(ゐ)る。234清(きよ)、235武(たけ)、236鶴(つる)の三(さん)人(にん)は友彦(ともひこ)を高手(たかて)小手(こて)に縛(いまし)め、237岩窟(いはや)の外(そと)に引(ひ)き出(だ)し、238茨(いばら)の苔(むち)を携(たづさ)へ、
239三人『さあ、240泥棒(どろばう)、241キリキリ歩(あゆ)めツ』
242と引張(ひつぱ)り行(ゆ)く。
243 是(これ)より蜈蚣姫(むかでひめ)は、244高姫(たかひめ)、245貫州(くわんしう)、246久助(きうすけ)を伴(ともな)ひ、247宝(たから)の所在(ありか)の探索(たんさく)を兼(か)ね、248オースタリヤの女王(ぢよわう)黄竜姫(わうりようひめ)に面会(めんくわい)せむと、249一艘(いつそう)の船(ふね)に身(み)を託(たく)し果物(くだもの)を数多(あまた)積込(つみこ)み、250小豆(せうど)ケ島(しま)を後(あと)に、251瀬戸(せと)の海(うみ)を乗(の)り切(き)り馬関(ばくわん)海峡(かいけふ)を越(こ)え、252西(にし)へ西(にし)へと進(すす)み行(ゆ)く。
253(大正一一・六・一三 旧五・一八 北村隆光録)
254(昭和一〇・六・五 旧五・五 王仁校正)
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