霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 副守(ふくしゆの)囁(ささやき)〔七一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第1篇 南海の山 よみ(新仮名遣い):なんかいのやま
章:第2章 副守囁 よみ(新仮名遣い):ふくしゅのささやき 通し章番号:714
口述日:1922(大正11)年06月10日(旧05月15日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台:熊野の若彦館 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
熊野の那智の滝で罪穢れを洗い清めた若彦の館に、魔我彦と竹彦が訪ねて来た。魔我彦、竹彦は玉照彦・玉照姫の使者として来たのだ、と傲然と構えている。
魔我彦と竹彦は、聖地で杢助と初稚姫が幅を利かせているために高姫が非常に心配をしている、と報告し、言依別命が玉能姫と不倫をしているなどど嘘の報告をなし、若彦を取り崩そうとする。
しかし若彦は、それが本当だとしても小さなことだ、と取り合わない。魔我彦は必死で若彦の心を崩そうとするが、竹彦が茶々を入れて邪魔をする。竹彦は神懸りになって、魔我彦・竹彦が国依別と玉治別を谷底へ突き落としたことを仄めかすようなことを言い、逆に魔我彦が焦り出す。
そこへ、若彦に三人の男の来客があった。若彦は魔我彦・竹彦が逃げないように見張りをつけて、接客に出た。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-06-22 19:57:35 文字数:5430 OBC :rm2302
愛善世界社版:24頁 八幡書店版:第4輯 501頁 修補版: 校定版:24頁 普及版:10頁 初版: ページ備考:
001 罪(つみ)も穢(けが)れも那智(なち)の滝(たき)、002洗(あら)ひ流(なが)した若彦(わかひこ)は、003心(こころ)もすがすがしく三五教(あななひけう)の教理(けうり)を遠近(ゑんきん)に伝(つた)ふべく、004普陀落(ふだらく)山(さん)の麓(ふもと)に館(やかた)を造(つく)り、005教(をしへ)を四方(よも)に布(し)きつつあつた。006門(もん)を叩(たた)いて、
007『頼(たの)まう頼(たの)まう』
008と訪(おとな)ふ二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)がある。009門番(もんばん)の秋公(あきこう)、010七五三(しめ)公(こう)は此(この)声(こゑ)に眠(ねむ)りを醒(さ)まし、011大欠伸(おほあくび)をしながら、
012七五三(しめ)公(こう)『オイ秋公(あきこう)、013誰(たれ)だか門外(もんぐわい)に訪(おとな)ふ人(ひと)がある。014早(はや)く起(お)きて開(あ)けてやらないか』
015秋公(あきこう)『夜(よ)も碌(ろく)に明(あ)けてゐないのに、016此(こ)の門(もん)開(あ)ける必要(ひつえう)があるか。017少(すこ)し時刻(じこく)が早(はや)いから、018マア一寝入(ひとねいり)したがよからう』
019 門(もん)を叩(たた)く声(こゑ)益々(ますます)忙(いそが)はしい。020七五三(しめ)公(こう)は夜具(やぐ)を被(かぶ)つた儘(まま)、
021七五三公『オイオイ開(あ)けるのは秋公(あきこう)の役(やく)だ。022早(はや)く起(お)きぬかい』
023秋公(あきこう)『夫(それ)程(ほど)喧(やかま)しく言(い)ふなら、024貴様(きさま)開(あ)けてやれ』
025七五三公『オレは其(その)名(な)の如(ごと)くしめる役(やく)だ。026愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(を)ると、027又(また)若彦(わかひこ)の大将(たいしやう)からお目玉(めだま)を頂戴(ちやうだい)するぞ。028エー仕方(しかた)の無(な)い奴(やつ)だ』
029と寝巻(ねまき)の儘(まま)、030仏頂面(ぶつちやうづら)を下(さ)げて片足(かたあし)に下駄(げた)、031片足(かたあし)に草履(ざうり)を穿(は)き、032三尺帯(さんしやくおび)を引摺(ひきず)り乍(なが)ら、033門(もん)をガラガラと開(ひら)いた。034二人(ふたり)は丁寧(ていねい)に会釈(ゑしやく)し、
035二人の宣伝使『若彦(わかひこ)の宣伝使(せんでんし)は御(ご)在宅(ざいたく)ですかな』
036七五三(しめ)公(こう)『そんな難(むつ)かしいことを言(い)つて解(わか)るかい。037居(を)るか、038居(を)らぬかと云(い)ふのか。039さうしてお前(まへ)は何(なん)と云(い)ふ宣伝使(せんでんし)だ』
040男『ハイ私(わたくし)は魔我彦(まがひこ)、041外(ほか)一人(ひとり)は竹彦(たけひこ)と云(い)つて三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)です。042大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)に依(よ)つて、043遥々(はるばる)参(まゐ)つたのですから案内(あんない)して下(くだ)さい』
044七五三公『曲(まが)つたとか、045曲(まが)らぬとか、046案内(あんない)とか、047門内(もんない)とか、048お前(まへ)の言(い)ふ事(こと)は全然(さつぱり)訳(わけ)が分(わか)らぬ。049そんな英語(えいご)を使(つか)はずに俺(おれ)達(たち)に分(わか)る様(やう)に云(い)つて呉(く)れ』
050魔我彦(まがひこ)『アハヽヽヽ、051訳(わけ)の分(わか)らぬ門番(もんばん)もあつたもんぢやなア。052こんな奴(やつ)が門番(もんばん)して居(ゐ)る位(くらゐ)だから、053大抵(たいてい)若彦(わかひこ)の御(お)手並(てなみ)も分(わか)つてゐるワイ』
054七五三(しめ)公(こう)『一寸(ちよつと)待(ま)つて呉(く)れ。055今(いま)お前(まへ)は此家(ここ)の御(ご)主人(しゆじん)を若彦(わかひこ)と云(い)つたなア。056何故(なぜ)若彦(わかひこ)さまと言(い)はないのだ。057そんな無茶(むちや)なこと云(い)ふ奴(やつ)は、058此(こ)の門(もん)は通(とほ)されぬのだ。059大方(おほかた)魔谷(まや)ケ岳(だけ)の蜈蚣姫(むかでひめ)の乾児(こぶん)だらう。060三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)だなんて、061うまく化(ばけ)て来(き)たのではないかな。062……オイ秋公(あきこう)、063貴様(きさま)起(お)きて来(こ)い。064大変(たいへん)な奴(やつ)がやつて来居(きを)つたぞ』
065 秋公(あきこう)は此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いて、066寝巻(ねまき)の儘(まま)此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、
067秋公『大変(たいへん)な奴(やつ)とは此奴(こいつ)か。068如何(どう)したといふのだ』
069七五三公『此方(こちら)の主人(しゆじん)を若彦(わかひこ)なんて呼(よ)びつけにしやがるものだから、070むかつくのだよ秋公(あきこう)』
071秋公『それはむかつくとも、072オイ何処(どこ)の奴(やつ)か知(し)らぬが今日(けふ)は帰(かへ)つて呉(く)れ』
073魔我彦(まがひこ)『其(その)方(はう)は謂(ゐ)はば若彦(わかひこ)の門番(もんばん)でないか。074大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)で来(き)た吾々(われわれ)を、075通(とほ)すの通(とほ)さぬのと云(い)ふ権利(けんり)があるか。076早(はや)く案内(あんない)を致(いた)せ』
077と稍(やや)怒(いか)りを帯(お)びた語気(ごき)で呶鳴(どな)りつけた。078二人(ふたり)は頭(あたま)を掻(か)き乍(なが)ら、
079秋公(あきこう)『マア是(これ)から吾々(われわれ)門番(もんばん)は手水(てうづ)を使(つか)ひ、080着物(きもの)を着換(きか)へ、081朝飯(あさめし)を食(く)つて悠(ゆつ)くりと案内(あんない)をしてやるから、082それ迄(まで)其処(そこ)に待(ま)つてゐるが好(よ)いワイ』
083竹彦(たけひこ)『魔我彦(まがひこ)さま、084広(ひろ)いと云(い)つてもたかが知(し)れた若彦(わかひこ)の屋敷(やしき)、085サア、086行(ゆ)きませう』
087と先(さき)に立(た)ち奥(おく)に入(い)る。088若彦(わかひこ)は涼(すず)しさうな薄衣(うすぎぬ)を着(き)て、089庭先(にはさき)の掃除(さうぢ)に余念(よねん)無(な)く、090箒目(はうきめ)を正(ただ)しく砂(すな)の上(うへ)に画(ゑが)いてゐる。
091魔我彦(まがひこ)『アヽ彼(あ)れが何(ど)うやら若彦(わかひこ)の宣伝使(せんでんし)らしい。092大将(たいしやう)は朝(あさ)早(はや)くから彼(あ)の通(とほ)り、093箒(はうき)を以(もつ)て園丁(ゑんてい)の役(やく)を勤(つと)めて居(を)るのに、094門番(もんばん)の奴(やつ)グウグウと寝(ね)やがつて、095ポンついてゐやがる。096ウラナイ教(けう)の北山村(きたやまむら)の本山(ほんざん)でも、097依然(やつぱり)さうだつた。098門番(もんばん)は威張(ゐば)るばかりで働(はたら)かぬものだ。099なア竹彦(たけひこ)、100貴様(きさま)も波斯(フサ)の国(くに)ではウラナイ教(けう)の門番(もんばん)をしてゐた時(とき)、101依然(やつぱり)さうだつたなア』
102竹彦(たけひこ)『そんなことを今頃(いまごろ)に持(も)ち出(だ)すものぢやありませぬぞ。103さうしてウラナイ教(けう)なんて、104疾(とう)の昔(むかし)に消滅(せうめつ)して了(しま)ひ、105今(いま)は吾々(われわれ)は立派(りつぱ)な三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)だ。106昔(むかし)の門番(もんばん)を、107こんな処(ところ)で担(かつ)ぎ出(だ)されると吾々(われわれ)の沽券(こけん)が下(さが)る。108そんな過去(すぎさ)つたことを云(い)ふのなら、109青山峠(あをやまたうげ)の谷間(たにあひ)の突発(とつぱつ)事件(じけん)を此処(ここ)で開陳(かいちん)しようか』
110魔我彦(まがひこ)『シーツ』
111竹彦(たけひこ)『シーツとはなんだ。112人(ひと)を四足扱(よつあしあつか)ひにしやがつて、113シーシー云(い)うと、114死(し)んだ奴(やつ)が又(また)恨(うら)めしやーナアーとやつて来(く)るぞ。115縁起(えんぎ)を祝(いは)ふ神(かみ)の道(みち)だ。116四(し)と九(く)とは言(い)はぬやうに慎(つつし)んだがよからう』
117と佇(たたず)んで若彦(わかひこ)の掃除(さうぢ)を見(み)乍(なが)ら二人(ふたり)が囁(ささや)いてゐる。118其(そ)の声(こゑ)が耳(みみ)に入(い)り若彦(わかひこ)は、119箒(はうき)を手(て)にしながら両人(りやうにん)の姿(すがた)を眺(なが)めて、
120若彦(わかひこ)『アヽ貴方(あなた)は魔我彦(まがひこ)さまに竹彦(たけひこ)さま、121朝(あさ)早(はや)くから、122よくお入来(いで)になりました。123どうぞ奥(おく)へ通(とほ)つて下(くだ)さい。124一別(いちべつ)以来(いらい)の御(お)話(はな)しも悠(ゆつ)くり承(うけたま)はりませう』
125 魔我彦(まがひこ)は儼然(げんぜん)として、
126魔我彦『私(わたくし)は玉照彦(たまてるひこ)、127玉照姫(たまてるひめ)様(さま)の御(お)使(つかひ)として、128遥々(はるばる)参(まゐ)つたもので御座(ござ)います』
129竹彦(たけひこ)『謂(ゐ)はば神(かみ)様(さま)の御(お)使(つかひ)、130謹(つつし)みて御(お)聴(き)きなさるがよろしからう』
131と傲然(ごうぜん)と構(かま)へてゐる。132若彦(わかひこ)は腰(こし)を屈(かが)め、
133若彦『何(なに)は兎(と)もあれ、134奥(おく)へ御(お)通(とほ)り下(くだ)さいませ』
135と先(さき)に立(た)つ。136二人(ふたり)は離(はな)れ座敷(ざしき)に招(まね)かれ、137茶湯(ちやゆ)の饗応(きやうおう)を受(う)け、138暫(しばら)く打寛(うちくつろ)いで四方山(よもやま)の話(はなし)に耽(ふけ)る事(こと)となつた。139若彦(わかひこ)は表(おもて)に出(い)で部下(ぶか)の役員(やくゐん)信者(しんじや)と共(とも)に、140神殿(しんでん)に朝(あさ)の拝礼(はいれい)を為(な)し、141一場(いちぢやう)の説教(せつけう)を了(をは)り朝飯(あさめし)を喰(く)つて居(ゐ)る。142侍女(じぢよ)は膳部(ぜんぶ)を拵(こしら)へ、143離(はな)れ座敷(ざしき)の二人(ふたり)の前(まへ)に持運(もちはこ)び、144朝飯(あさめし)をすすめて居(ゐ)る。145若彦(わかひこ)は朝餉(あさげ)を済(す)まし、146衣紋(えもん)を繕(つくろ)ひ、147離座敷(はなれざしき)の二人(ふたり)が前(まへ)に現(あら)はれ、
148若彦(わかひこ)『これはこれは御(お)両人(ふたり)様(さま)、149長(なが)らく御(お)待(ま)たせ致(いた)しました。150遥々(はるばる)の御(お)越(こ)し、151何(なん)の御(ご)馳走(ちそう)も無(な)く誠(まこと)に済(す)みませぬ』
152魔我彦(まがひこ)『三五教(あななひけう)の教理(けうり)は一汁(いちじふ)一菜(いつさい)と云(い)ふ御(ご)規則(きそく)で御座(ござ)る。153それにも関(かか)はらず、154イヤもう贅沢(ぜいたく)な御(ご)馳走(ちそう)に預(あづか)りました。155聖地(せいち)に於(おい)ては到底(たうてい)玉照彦(たまてるひこ)様(さま)でも、156こんな御(ご)馳走(ちそう)は見(み)られたことも御座(ござ)りませぬ。157併(しか)し乍(なが)ら折角(せつかく)の御(おん)志(こころざし)、158無(む)にするも如何(いかが)かと存(ぞん)じ、159快(こころよ)く頂戴(ちやうだい)致(いた)しました。160アハヽヽヽ』
161若彦(わかひこ)『吾々(われわれ)も三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、162一汁(いちじふ)一菜(いつさい)の御(ご)規則(きそく)はよく守(まも)つて居(を)ります。163併(しか)し乍(なが)ら今日(けふ)は神(かみ)様(さま)の御(お)入来(いで)ですから、164神(かみ)様(さま)に御(ご)馳走(ちそう)を奉(たてまつ)つたのです。165魔我彦(まがひこ)さまや、166竹彦(たけひこ)さまに御(お)上(あ)げ申(まを)したのでは御座(ござ)らぬ。167貴方(あなた)は神(かみ)様(さま)に上(あ)げたものを、168気(き)の毒(どく)だから御食(よば)れましたと仰有(おつしや)つたが、169神(かみ)様(さま)の分(ぶん)まで御(お)食(あが)りになつたのですか』
170と竹篦返(しつぺがへ)しを喰(く)はされ、171二人(ふたり)はギヤフンとして円(まる)い目(め)を剥(む)く。
172魔我彦(まがひこ)『今日(こんにち)吾々(われわれ)の参(まゐ)つたのは大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)、173玉照彦(たまてるひこ)、174玉照姫(たまてるひめ)の二柱(ふたはしら)の神司(かむづかさ)より、175御(ご)神慮(しんりよ)を伝(つた)ふべく出張(しゆつちやう)致(いた)しました。176貴方(あなた)は聖地(せいち)の大変(たいへん)を知(し)つて居(を)りますか』
177若彦(わかひこ)『聖地(せいち)は無事(ぶじ)安穏(あんをん)に神業(しんげふ)が栄(さか)えて居(を)るぢやありませぬか』
178魔我彦(まがひこ)『さてさて貴方(あなた)は長(なが)らく聖地(せいち)を離(はな)れてゐるから解(わか)らぬと見(み)えるワイ。179貴方(あなた)の御(ご)存知(ぞんぢ)の杢助(もくすけ)と云(い)ふ奴(やつ)、180全然(すつかり)聖地(せいち)へ入(い)り込(こ)み、181初稚姫(はつわかひめ)の少女(ちつぺ)の言(い)ふ事(こと)を楯(たて)に取(と)り、182横暴(わうばう)を極(きは)め、183誰(たれ)も彼(かれ)も人心(じんしん)離反(りはん)し、184今(いま)に大変動(だいへんどう)が起(おこ)らんとして居(ゐ)る。185それで高姫(たかひめ)さまも非常(ひじやう)に御(ご)心配(しんぱい)を遊(あそ)ばして御座(ござ)るのです』
186若彦(わかひこ)『さうすると貴方(あなた)は高姫(たかひめ)さまの旨(むね)を奉(ほう)じて来(こ)られたのか、187或(あるひ)は言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)様(さま)の旨(むね)を奉(ほう)じて御(お)入来(いで)になつたのか、188それから第一番(だいいちばん)に聴(き)かして貰(もら)ひませう』
189竹彦(たけひこ)『そんな事(こと)は如何(どう)でも好(よ)いぢやないか』
190と言(い)はんとするを魔我彦(まがひこ)は周章(あわて)て押(お)し止(とど)め、
191魔我彦(まがひこ)『コレコレ竹彦(たけひこ)さま、192お前(まへ)は約束(やくそく)を守(まも)らぬか。193お前(まへ)の言(い)ふべきところではない、194謂(ゐ)はば従者(じゆうしや)ぢやないか』
195竹彦(たけひこ)『従者(じゆうしや)か何(なに)か知(し)らぬが依然(やつぱり)表面(へうめん)は魔我彦(まがひこ)と同格(どうかく)の立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)だ。196余(あんま)り偉(えら)さうに言(い)つて貰(もら)ひますまい。197青山峠(あをやまたうげ)の絶頂(ぜつちやう)は何(ど)うですな』
198と顔(かほ)を覗(のぞ)き込(こ)む。
199魔我彦(まがひこ)『青山(あをやま)に日(ひ)が隠(かく)らば烏羽玉(うばたま)の夜(よ)は出(いで)なむ。200朝日(あさひ)の笑(ゑ)み栄(さか)え来(き)て、201拷綱(たくづぬ)の白(しろ)き腕(ただむき)淡雪(あはゆき)の若(わか)やる胸(むね)を、202素手抱(すだだ)き手抱(ただ)きまながり、203真玉手(またまで)玉手(たまで)さし巻(ま)き、204腿長(ももなが)にいほしなせ、205豊御酒(とよみき)奉(たてまつ)らせ。206アハヽヽヽ』
207と笑(わら)ひに紛(まぎ)らす。
208竹彦(たけひこ)『ヘン、209うまい処(とこ)へ脱線(だつせん)するワイ』
210魔我彦(まがひこ)『沈黙(ちんもく)だ』
211若彦(わかひこ)『杢助(もくすけ)が何(ど)うしたと言(い)ふのですか』
212魔我彦(まがひこ)『杢助(もくすけ)はお前(まへ)さまを紀州(きしう)下(くんだ)りまで追(お)ひやつて置(お)き、213お前(まへ)の女房(にようばう)玉能姫(たまのひめ)をうまく抱(だ)き込(こ)み、214聖地(せいち)へ連(つ)れて行(ゆ)き、215言依別(ことよりわけ)の命(みこと)に密(そつ)と○○(まるまる)させて、216それを手柄(てがら)に威張(ゐば)つて居(を)るのだ。217それが為(ため)に聖地(せいち)の風紀(ふうき)は紊(みだ)れ、218「町内(ちやうない)で知(し)らぬは亭主(ていしゆ)ばかりなり」と云(い)ふ事(こと)が突発(とつぱつ)して居(ゐ)ますよ。219お前(まへ)さんは杢助(もくすけ)や、220言依別(ことよりわけ)を何(なん)と思(おも)ひますか。221肝腎(かんじん)の女房(にようばう)を○○(まるまる)されて、222それで安閑(あんかん)としてゐるのですかな。223高姫(たかひめ)さまが大変(たいへん)に憤慨(ふんがい)なされて「アヽ若彦(わかひこ)さんは気(き)の毒(どく)ぢや、224何卒(どうぞ)一日(いちじつ)も早(はや)く此(この)事(こと)を知(し)らして上(あ)げ、225私(わし)と一緒(いつしよ)に力(ちから)を協(あは)して聖地(せいち)を改革(かいかく)せねばならぬ」と仰有(おつしや)つて、226錦(にしき)の宮(みや)に御(お)願(ねが)ひを遊(あそ)ばしたところ、227玉照彦(たまてるひこ)、228玉照姫(たまてるひめ)の神司(かむづかさ)に大神(おほかみ)が御(ご)降臨(かうりん)遊(あそ)ばし、229「不届(ふとどき)至極(しごく)の言依別(ことよりわけ)、230今日(こんにち)より其(その)職(しよく)を免(めん)じ、231高姫(たかひめ)に一切(いつさい)万事(ばんじ)を委任(ゐにん)する。232就(つい)ては杢助(もくすけ)を叩(たた)き出(だ)し、233若彦(わかひこ)さんを総務(そうむ)にするのだから早(はや)く聖地(せいち)へ帰(かへ)つて貰(もら)へ」との有(あ)り難(がた)き御(おん)言葉(ことば)、234それ故(ゆゑ)吾々(われわれ)は遥々(はるばる)と参(まゐ)りました』
235若彦(わかひこ)『それは御(ご)苦労(くらう)でした。236併(しか)し乍(なが)ら貴方(あなた)の仰有(おつしや)る大変(たいへん)とは、237そんなものですか。238それはホンの小(ちひ)さい問題(もんだい)ぢやありませぬか。239例令(たとへ)玉能姫(たまのひめ)が○○(まるまる)されたと言(い)つても、240吾々(われわれ)さへ黙(だま)つて居(を)れば済(す)むことだ。241其(そ)の位(くらゐ)な事(こと)が、242何(なに)大変(たいへん)であらう。243アハヽヽヽ』
244と手(て)も無(な)く笑(わら)ふ。245魔我彦(まがひこ)はキツとなり、
246魔我彦『これは怪(け)しからぬ。247自分(じぶん)の女房(にようばう)を○○(まるまる)され乍(なが)ら平気(へいき)で笑(わら)うてゐるとは、248無神経(むしんけい)にも程度(ほど)がある。249イヤ、250貴方(あなた)は玉能姫(たまのひめ)以上(いじやう)のナイスが出来(でき)たので、251これ幸(さいは)ひと思(おも)つてゐるのでせう』
252若彦(わかひこ)『私(わたし)は神界(しんかい)に捧(ささ)げた身(み)の上(うへ)、253玉能姫(たまのひめ)を措(お)いて他(ほか)に女(をんな)などは一人(ひとり)もナイスだ。254アハヽヽヽ』
255と木(き)で鼻(はな)を擦(こす)つたように笑(わら)つて取(と)り合(あ)はぬ。
256魔我彦(まがひこ)『それよりも未(ま)だ未(ま)だ一大事(いちだいじ)がある。257如意(によい)宝珠(ほつしゆ)や、258紫(むらさき)の玉(たま)や、259黄金(こがね)の玉(たま)を隠(かく)した張本人(ちやうほんにん)は言依別(ことよりわけの)命(みこと)だ。260可愛相(かはいさう)に黒姫(くろひめ)さまや、261竜国別(たつくにわけ)、262鷹依姫(たかよりひめ)其(その)他(た)の連中(れんちう)は、263玉(たま)探(さが)しに世界中(せかいぢう)へ出(で)て了(しま)つた。264さうして言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)は何(なん)でも目的(もくてき)があつて、265自分(じぶん)一人(ひとり)で何処(どこ)かへ隠(かく)して了(しま)ひよつたのだから、266何処(どこ)までも詮議立(せんぎだて)をしなくてはなりませぬ。267何(なに)を云(い)つても玉能姫(たまのひめ)を○○(まるまる)するために、268お前(まへ)さまを斯(こ)んな遠国(ゑんごく)へ、269杢助(もくすけ)と諜(しめ)し合(あは)せて追(お)ひやるやうな代物(しろもの)だからなア』
270若彦(わかひこ)『アヽさうですか、271私(わたし)は言依別(ことよりわけ)様(さま)が何(なに)をなさらうとも、272神界(しんかい)に仕(つか)へて居(ゐ)る方(かた)だから、273少(すこ)しも異存(いぞん)は申(まを)しませぬ、274絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)ですから』
275魔我彦(まがひこ)『服従(ふくじゆう)も事(こと)に依(よ)りますよ。276些(ちつ)と冷静(れいせい)に御(お)考(かんが)へなさい。277天下(てんか)の大事(だいじ)ですから。278教主(けうしゆ)一人(ひとり)と天下(てんか)とには換(かへ)られますまい』
279若彦(わかひこ)『彼(あ)の賢(かしこ)い抜目(ぬけめ)の無(な)い玉治別(たまはるわけ)や、280国依別(くによりわけ)が付(つ)いて居(を)るのですから、281滅多(めつた)なことはありますまい。282もしも左様(さやう)なことがあれば、283屹度(きつと)知(し)らして来(く)る筈(はず)になつて居(を)るのですから』
284竹彦(たけひこ)『玉治別(たまはるわけ)や国依別(くによりわけ)は、285モウ現世(このよ)には………』
286と言(い)ひかけるのを、287魔我彦(まがひこ)は『シーツ』と制(せい)し止(とど)める。
288竹彦(たけひこ)『又(また)人(ひと)をシーなんて馬鹿(ばか)にするない。289シーシー死骸(しがい)、290死人(しにん)、291しぶとい、292知(し)らぬ神(かみ)に祟(たた)り無(な)し。293死(し)んだがマシであつたかいなア』
294と首(くび)を篦棒(べらぼう)に振(ふ)り、295長(なが)い舌(した)を出(だ)してゐる。296魔我彦(まがひこ)は心(こころ)も心(こころ)ならず、
297魔我彦(まがひこ)『若彦(わかひこ)さま、298此(この)男(をとこ)は些(ちつ)と逆上(ぎやくじやう)してゐますから、299何(なに)を云(い)ふか解(わか)りませぬ。300チツとキ印(じるし)ですから其(そ)のつもりで聴(き)いて下(くだ)さい』
301若彦(わかひこ)『玉治別(たまはるわけ)と国依別(くによりわけ)さまの消息(せうそく)は御(ご)存知(ぞんぢ)でせうな』
302魔我彦(まがひこ)『………』
303竹彦(たけひこ)『此(こ)の竹彦(たけひこ)は知(し)つても知(し)りませぬ。304併(しか)し乍(なが)ら副(ふく)守護神(しゆごじん)が能(よ)く知(し)つてゐますよ』
305 魔我彦(まがひこ)は矢庭(やには)に両手(りやうて)を組(く)み、306竹彦(たけひこ)に向(むか)つてウンと一声(ひとこゑ)、307魔我彦(まがひこ)は、
308魔我彦『副守(ふくしゆ)の奴(やつ)、309除(ど)けーツ』
310と呶鳴(どな)り立(た)てゐる。
311竹彦(たけひこ)『ウヽヽ油断(ゆだん)を致(いた)すと谷底(たにぞこ)へ突落(つきおと)されるぞよ。312一旦(いつたん)谷底(たにぞこ)へ落(おと)した上(うへ)で神(かみ)が救(たす)けて、313誠(まこと)の御用(ごよう)を致(いた)さすぞよ。314此(この)世(よ)は神(かみ)の自由(じいう)であるから、315人間(にんげん)のうまい計画(たくみ)は成就(じやうじゆ)致(いた)さぬぞよ。316蛙(かはづ)は口(くち)から、317われとわが手(て)に白状(はくじやう)致(いた)さして面(つら)の皮(かは)を引剥(ひんむ)くぞよ』
318魔我彦(まがひこ)『下(さが)れ下(さが)れ、319下(さが)り居(を)らう。320其(その)方(はう)は野天狗(のてんぐ)であらう』
321竹彦(たけひこ)『野天狗(のてんぐ)でも何(なん)でも可(い)いわ、322谷底(たにぞこ)ぢや、323押(おし)も押(おさ)れもせぬ三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)でも、324矢張(やつぱり)押(お)されて谷底(たにぞこ)へ落(お)ちてアフンと致(いた)すことがあるぞよ。325今(いま)に上(うへ)が下(した)になり下(した)が上(うへ)になるぞよ。326神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわけ)るぞよ』
327魔我彦(まがひこ)『エー喧(やかま)しい野天狗(のてんぐ)だ。328下(さが)れと云(い)つたら下(さが)らぬか』
329竹彦(たけひこ)『ウヽヽ若彦(わかひこ)殿(どの)、330気(き)をつけたがよからうぞよ。331悪(あく)の誘惑(いうわく)に乗(の)つてはならぬぞよ。332何程(なにほど)うまいこと申(まを)して来(き)ても、333神(かみ)に伺(うかが)うた上(うへ)でなければ、334聞(き)いてはならぬぞよ。335マガマガマガ』
336魔我彦(まがひこ)『モシモシ若彦(わかひこ)さま、337困(こま)つた邪神(じやしん)が憑依(ひようい)したものですなア』
338若彦(わかひこ)『イヤ邪神(じやしん)でもありますまい。339大方(おほかた)此(こ)の守護神(しゆごじん)の言(い)ふことは、340事実(じじつ)に近(ちか)いやうですよ。341国依別(くによりわけ)、342玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)は、343若(も)しや或(あるひ)はマガタケル彦(ひこ)に谷底(たにぞこ)へ突(つ)き落(おと)されたのではありますまいかな』
344竹彦(たけひこ)『ウヽヽ流石(さすが)は若彦(わかひこ)の宣伝使(せんでんし)だ。345汝(なんぢ)の天眼通(てんがんつう)、346天晴(あつぱ)れ天晴(あつぱ)れ』
347 魔我彦(まがひこ)は顔(かほ)蒼白(あをざ)め、348ソロソロ遁腰(にげごし)になつて此(この)場(ば)を立去(たちさ)らうとする。
349若彦(わかひこ)『マア魔我彦(まがひこ)さま、350悠(ゆつ)くりなさいませ。351天(あめ)が下(した)には敵(てき)も無(な)ければ味方(みかた)も有(あ)りませぬよ。352神(かみ)様(さま)が善悪(ぜんあく)は御(お)審判(さば)き下(くだ)さいますから、353吾々(われわれ)は何事(なにごと)が起(おこ)らうとも惟神(かむながら)に任(まか)して居(を)れば好(よ)いのですよ。354サア、355お茶(ちや)なつと召上(めしあが)りませ』
356と茶(ちや)を汲(く)んで突(つ)き出(だ)す。357魔我彦(まがひこ)は身体(しんたい)ワナワナと戦(をのの)き出(だ)した。
358 斯(かか)る処(ところ)へ召使(めしつかひ)のお光(みつ)と云(い)ふ女(をんな)、359あわただしく走(はし)り来(きた)り、
360お光(みつ)『只今(ただいま)三(さん)人(にん)のお客様(きやくさま)が見(み)えました。361何(ど)う致(いた)しませう』
362若彦(わかひこ)『表(おもて)の奥(おく)の間(ま)へ御(お)通(とほ)し申(まを)して置(お)け』
363魔我彦(まがひこ)『モシモシ其(そ)の三(さん)人(にん)の方(かた)と云(い)ふのは、364何(ど)んな御(お)方(かた)で御座(ござ)いますか』
365お光(みつ)『なんでも宣伝使(せんでんし)さまのやうです。366大変(たいへん)大(おほ)きな御(お)方(かた)が一人(ひとり)混(まじ)つてゐられます』
367 魔我彦(まがひこ)の面色(かほいろ)はサツと変(かは)つた。368竹彦(たけひこ)は身体(からだ)をブルブルと慄(ふる)はせ乍(なが)ら、369又(また)神憑(かむがか)りになつて、
370竹彦(たけひこ)『それ来(き)た それ来(き)た、371谷(たに)ぢや谷(たに)ぢや、372玉(たま)ぢや玉(たま)ぢや、373クニクニクニモクモクモク』
374と呶鳴(どな)り出(だ)した。375若彦(わかひこ)は、
376若彦(わかひこ)『コレお光(みつ)や、377四五(しご)人(にん)の男(をとこ)を此処(ここ)へ招(よ)んで来(き)てお呉(く)れ』
378 『ハイ』と答(こた)へて、379お光(みつ)は表(おもて)を指(さ)して姿(すがた)を隠(かく)し、380暫(しばら)くありて甲(かふ)、381乙(おつ)、382丙(へい)、383丁(てい)、384戊(ぼう)の五(ご)人(にん)の大男(おほをとこ)を伴(つ)れて来(き)た。
385若彦(わかひこ)『ヤア五(ご)人(にん)の男(をとこ)ども、386私(わし)は表(おもて)のお客(きやく)さまに少(すこ)し用(よう)があるから、387二人(ふたり)のお客(きやく)さまを見放(みはな)さないやうに、388大切(たいせつ)に保護(ほご)をして居(を)るのだよ。389出口(でぐち)入口(いりぐち)に気(き)をつけて悪魔(あくま)の侵入(しんにふ)せないように守(まも)つてあげて呉(く)れ。390遁(に)げられては一寸(ちよつと)都合(つがふ)が悪(わる)いからなア』
391甲(かふ)『ハイ何事(なにごと)もチヤンと私(わたくし)の胸(むね)に御座(ござ)います。392御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな』
393若彦(わかひこ)『何分(なにぶん)宜(よろ)しう頼(たの)む。394モシ魔我彦(まがひこ)さま、395竹彦(たけひこ)さま、396私(わたし)は表(おもて)の客人(きやくじん)に一寸(ちよつと)会(あ)つて来(き)ます。397何(ど)うぞ悠(ゆつ)くりお茶(ちや)でも上(あが)つて遊(あそ)んで下(くだ)さいませ』
398と五(ご)人(にん)の男(をとこ)に目配(めくば)せし、399悠々(いういう)と此(この)場(ば)を立(た)つて表屋(おもや)の方(はう)に姿(すがた)を隠(かく)す。
400(大正一一・六・一〇 旧五・一五 外山豊二録)
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