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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第23巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 南海の山
第1章 玉の露
第2章 副守囁
第3章 松上の苦悶
第4章 長高説
第2篇 恩愛の涙
第5章 親子奇遇
第6章 神異
第7章 知らぬが仏
第8章 縺れ髪
第3篇 有耶無耶
第9章 高姫騒
第10章 家宅侵入
第11章 難破船
第12章 家島探
第13章 捨小舟
第14章 籠抜
第4篇 混線状態
第15章 婆と婆
第16章 蜈蚣の涙
第17章 黄竜姫
第18章 波濤万里
霊の礎(八)
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(B)
(N)
籠抜 >>>
第一三章
捨小舟
(
すてをぶね
)
〔七二五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
篇:
第3篇 有耶無耶
よみ(新仮名遣い):
うやむや
章:
第13章 捨小舟
よみ(新仮名遣い):
すておぶね
通し章番号:
725
口述日:
1922(大正11)年06月12日(旧05月17日)
口述場所:
筆録者:
谷村真友
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玉能姫に逃げられた高姫一行は海岸にやってくるが、自分たちが乗ってきた舟もなくなっているのに気が付いた。
高姫は東助に当り散らし、玉能姫とぐるになって自分たちを計略にはめたのだろうと責め立てる。東助は覚えのない非難に怒るが、高姫はあくまでも東助を疑い、部下たちに東助を見張らせて自分は山の上に行ってしまった。
その間に東助は、高姫の部下たちに自分の弁解をして打ち解ける。また、東助は自分が淡路島の大金持ちということを明かして気を引く。
そうしているうちに、東助の持ち舟は波に流されて岸に戻ってきた。それを見た貫州は高姫に知らせに行くが、その間に東助と他の三人は舟に乗って島を出てしまった。
海岸から高姫と貫州が呼びかけても、東助は天罰が当たったのだと二人を助ける気はない。鶴公、清公、武公は東助の子分になってしまった。
高姫は今度は貫州に当り散らす。しかし貫州も日の出神のくせにまったく神力がないと高姫に非難の応酬をする。高姫は怒って黙って山上に上って行ってしまうが、貫州は境遇を悲観して、松の枝から首を吊ってしまった。
しかし足が枝に引っかかってうまくいかなかったのだが、物音に驚いた高姫は、貫州が首を吊って息絶えてしまったと思って嘆き、貫州に詫びを入れ始めた。
貫州は高姫の我を折ってやろうと思って、幽霊の振りをして高姫に改心の約束をさせる。しかし高姫は貫州の首が締まっていないことに気づくと、また元のように威張り出した。
貫州はまた首を吊ろうと思って適当な松の枝を探していてると、高姫は貫州の横面を張ってやめさせた。
二人が磯端に戻ってくると、玉能姫からの贈り物として、舟が一艘横付けになっていた。高姫は、玉能姫が竜神が玉を持っていったと言ったのは、玉が竜宮島に隠してあるに違いないと一人合点し、玉能姫や東助の後は追わず、舟に果物を積むと貫州と共に竜宮島を目指して西へと漕ぎ出した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-07-03 18:36:03
OBC :
rm2313
愛善世界社版:
209頁
八幡書店版:
第4輯 571頁
修補版:
校定版:
212頁
普及版:
97頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
一行
(
いつかう
)
を
包
(
つつ
)
みたる
濃霧
(
のうむ
)
は、
002
暫
(
しばら
)
くにして
消散
(
せうさん
)
し、
003
四辺
(
あたり
)
は
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
く
明
(
あか
)
るくなつて
来
(
き
)
た。
004
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
は
如何
(
いか
)
にと、
005
高姫
(
たかひめ
)
以下
(
いか
)
血眼
(
ちまなこ
)
になつて
探
(
さが
)
し
廻
(
まは
)
せど、
006
何
(
なん
)
の
影
(
かげ
)
もなく
終
(
つひ
)
には、
007
船着場
(
ふなつきば
)
迄
(
まで
)
一行
(
いつかう
)
ゾロゾロやつて
来
(
き
)
た。
008
見
(
み
)
れば
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
乗
(
の
)
つて
来
(
き
)
た
船
(
ふね
)
も
高姫
(
たかひめ
)
の
船
(
ふね
)
もない。
009
高姫
(
たかひめ
)
は
地団太
(
ぢだんだ
)
踏
(
ふ
)
んで
口惜
(
くや
)
しがり、
010
高姫
(
たかひめ
)
『アヽ
残念
(
ざんねん
)
、
011
口惜
(
くちを
)
しやな、
012
お
節
(
せつ
)
の
奴
(
やつ
)
、
013
濃霧
(
のうむ
)
を
幸
(
さいは
)
ひに
三
(
み
)
つの
宝
(
たから
)
を
掘出
(
ほりだ
)
し、
014
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
つたか。
015
それにしても
残念
(
ざんねん
)
なは
船
(
ふね
)
迄
(
まで
)
どうやら
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
つたらしい。
016
まるで
島流
(
しまなが
)
しに
遭
(
あ
)
はされた
様
(
やう
)
なものだ。
017
……コレコレ
東助
(
とうすけ
)
さま、
018
第一
(
だいいち
)
お
前
(
まへ
)
が
気
(
き
)
がきかぬからだ。
019
船頭
(
せんどう
)
は
船
(
ふね
)
にくつついて
居
(
を
)
れば
好
(
よ
)
いのに、
020
職責
(
しよくせき
)
を
忘
(
わす
)
れて
宣伝使
(
せんでんし
)
の
様
(
やう
)
に
山
(
やま
)
に
登
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
るものだから、
021
こんな
目
(
め
)
に
逢
(
あ
)
うたのだ。
022
サアどうして
下
(
くだ
)
さる』
023
東助
(
とうすけ
)
『どうして
下
(
くだ
)
さるもあつたものかい。
024
大切
(
たいせつ
)
な
商売
(
しやうばい
)
道具
(
だうぐ
)
を
盗
(
と
)
られて
仕舞
(
しま
)
つて
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
出
(
だ
)
し
様
(
やう
)
が
無
(
な
)
い。
025
帰
(
かへ
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
026
第一
(
だいいち
)
お
前
(
まへ
)
が
此
(
こ
)
んな
所
(
ところ
)
へ
謀反
(
むほん
)
を
起
(
おこ
)
して
遣
(
や
)
つて
来
(
く
)
るものだから、
027
神罰
(
しんばつ
)
が
当
(
あた
)
つたのだ。
028
サア
俺
(
おれ
)
の
船
(
ふね
)
をどうして
呉
(
く
)
れる』
029
高姫
(
たかひめ
)
『ヨウマアそんな
事
(
こと
)
が
言
(
い
)
へたものだ、
030
大切
(
たいせつ
)
なお
客
(
きやく
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
ながら、
031
船
(
ふね
)
を
盗
(
と
)
られてどうするのだ。
032
大方
(
おほかた
)
お
節
(
せつ
)
の
奴
(
やつ
)
と
腹
(
はら
)
を
合
(
あ
)
はし、
033
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
を
斯
(
こ
)
んな
所
(
ところ
)
へ
押込
(
おしこ
)
める
計略
(
けいりやく
)
をして
居
(
を
)
つたのだらう。
034
油断
(
ゆだん
)
も
隙
(
すき
)
もあつたものだ
無
(
な
)
い』
035
東助
(
とうすけ
)
は
大
(
おほ
)
いに
怒
(
いか
)
り、
036
東助
『
女
(
をんな
)
と
思
(
おも
)
ひ
柔
(
やはら
)
かく
申
(
まを
)
せば、
037
無体
(
むたい
)
の
難題
(
なんだい
)
、
038
此
(
この
)
東助
(
とうすけ
)
は
貴様
(
きさま
)
の
如
(
ごと
)
き
悪人
(
あくにん
)
ではない。
039
正直
(
しやうぢき
)
一方
(
いつぱう
)
の
名
(
な
)
の
通
(
とほ
)
つた
船頭
(
せんどう
)
だ。
040
男
(
をとこ
)
の
顔
(
かほ
)
に
泥
(
どろ
)
を
塗
(
ぬ
)
り
居
(
を
)
つたなア。
041
モウ
量見
(
りやうけん
)
致
(
いた
)
さぬ
覚悟
(
かくご
)
をせい』
042
高姫
(
たかひめ
)
頤
(
あご
)
をシヤクリ
乍
(
なが
)
ら、
043
高姫
『オホヽヽヽ、
044
何程
(
なにほど
)
力
(
ちから
)
が
強
(
つよ
)
くても、
045
此方
(
こちら
)
は
五
(
ご
)
人
(
にん
)
、
046
お
前
(
まへ
)
は
一人
(
ひとり
)
、
047
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だよ。
048
それよりも
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
白状
(
はくじやう
)
したらどうだ』
049
東助
(
とうすけ
)
『
白状
(
はくじやう
)
せいと
云
(
い
)
つたつて
知
(
し
)
らぬ
事
(
こと
)
が
白状
(
はくじやう
)
出来
(
でき
)
るかい。
050
余
(
あんま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
051
高姫
(
たかひめ
)
『オホヽヽヽ、
052
アノ
白
(
しら
)
つぱくれようわいのう。
053
知
(
し
)
らぬかと
思
(
おも
)
うてツベコベと
其
(
その
)
弁解
(
べんかい
)
、
054
余人
(
よじん
)
は
知
(
し
)
らぬが、
055
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
のドン
底
(
ぞこ
)
迄
(
まで
)
見透
(
みす
)
かす
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
の
高
(
たか
)
い、
056
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
を
誤魔化
(
ごまくわ
)
さうとはチツト
虫
(
むし
)
が
好過
(
よす
)
ぎるぞ。
057
お
前
(
まへ
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
にいくら
金
(
かね
)
を
貰
(
もら
)
うた。
058
うまい
事
(
こと
)
をやつたな』
059
東助
(
とうすけ
)
は
余
(
あま
)
りの
腹立
(
はらだ
)
たしさに、
060
物
(
もの
)
をも
言
(
い
)
はず
唇
(
くちびる
)
をビリビリ
振
(
ふる
)
はせ、
061
拳
(
こぶし
)
を
握
(
にぎ
)
り
無念
(
むねん
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
062
高姫
(
たかひめ
)
は、
063
高姫
『さうだらう、
064
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
があるまい。
065
何程
(
なにほど
)
弁解
(
べんかい
)
を
巧
(
たくみ
)
に
致
(
いた
)
しても、
066
神
(
かみ
)
の
前
(
まへ
)
では
言霊
(
ことたま
)
は
使
(
つか
)
へまいがな。
067
お
前
(
まへ
)
も
大勢
(
おほぜい
)
の
前
(
まへ
)
で
化
(
ば
)
けの
皮
(
かは
)
をむかれ
残念
(
ざんねん
)
であらうが、
068
それが
自業
(
じごう
)
自得
(
じとく
)
だ。
069
つまり
己
(
おのれ
)
が
あざのう
た
縄
(
なは
)
で
己
(
おの
)
が
首
(
くび
)
を
絞
(
しめ
)
たも
同然
(
どうぜん
)
、
070
ほんにほんに
可愛相
(
かはいさう
)
なものだ。
071
悪
(
あく
)
の
企
(
たく
)
みは
到底
(
たうてい
)
成就
(
じやうじゆ
)
せぬといふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つただらう。
072
淡路島
(
あはぢしま
)
で
難船
(
なんせん
)
した
時
(
とき
)
に
時間
(
じかん
)
を
見計
(
みはか
)
らひ、
073
ノソノソ
遣
(
や
)
つて
来
(
き
)
て
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
をだまし
込
(
こ
)
み、
074
甘
(
うま
)
くやらうと
考
(
かんが
)
へたのも
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
、
075
忽
(
たちま
)
ち
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
眼力
(
がんりき
)
に
看破
(
かんぱ
)
され、
076
其
(
その
)
態
(
ざま
)
は
何
(
な
)
んだ。
077
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
の
癖
(
くせ
)
に、
078
メソメソと
吠面
(
ほえづら
)
かわき
見
(
み
)
つともない。
079
何
(
いづ
)
れは
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
同類
(
どうるゐ
)
だから、
080
玉
(
たま
)
の
隠
(
かく
)
し
場所
(
ばしよ
)
も
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
る
筈
(
はず
)
だ。
081
どうだお
前
(
まへ
)
、
082
玉能姫
(
たまのひめ
)
は
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
つたであらうがな』
083
東助
(
とうすけ
)
は
口許
(
くちもと
)
を
痙攣
(
けいれん
)
させ
乍
(
なが
)
ら、
084
東助
(
とうすけ
)
『シヽ
知
(
し
)
らぬワイ、
085
バヽ
馬鹿
(
ばか
)
にするな』
086
と
漸
(
やうや
)
う
奇数
(
きすう
)
的
(
てき
)
に
癇声
(
かんごゑ
)
を
出
(
だ
)
して
呶鳴
(
どな
)
つた。
087
高姫
(
たかひめ
)
『シヽ
知
(
し
)
らぬぢや
無
(
な
)
からう。
088
シヽしぶといワイ。
089
バヽ
馬鹿
(
ばか
)
にするないと
言
(
い
)
つたが、
090
お
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
から
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にしようとかかつて
馬鹿
(
ばか
)
を
見
(
み
)
たのだから
仕方
(
しかた
)
があるまい』
091
貫州
(
くわんしう
)
『モシモシ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
092
肝腎
(
かんじん
)
の
船
(
ふね
)
が
無
(
な
)
くては、
093
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ないぢやありませぬか。
094
そんな
話
(
はなし
)
は
次
(
つぎ
)
の
次
(
つぎ
)
にして、
095
先決
(
せんけつ
)
問題
(
もんだい
)
として
船
(
ふね
)
の
詮索
(
せんさく
)
から
掛
(
かか
)
らなくては、
096
我々
(
われわれ
)
安心
(
あんしん
)
が
出来
(
でき
)
ないぢやありませぬか』
097
高姫
(
たかひめ
)
『オホヽヽヽ、
098
お
前
(
まへ
)
は
年
(
とし
)
が
若
(
わか
)
いから
心配
(
しんぱい
)
するのだが、
099
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
同類
(
どうるゐ
)
東助
(
とうすけ
)
の
居
(
を
)
る
以上
(
いじやう
)
は
屹度
(
きつと
)
人
(
ひと
)
を
替
(
か
)
へて、
100
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
船
(
ふね
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
るに
違
(
ちが
)
ひない。
101
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
手早
(
てばや
)
く
東助
(
とうすけ
)
奴
(
め
)
其
(
その
)
船
(
ふね
)
に
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
り、
102
一目散
(
いちもくさん
)
に
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
る
計略
(
けいりやく
)
、
103
今度
(
こんど
)
船
(
ふね
)
が
来
(
き
)
たら
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
東助
(
とうすけ
)
を
放
(
はな
)
してならぬぞ。
104
此奴
(
こいつ
)
が
乗
(
の
)
つたら
此方
(
こちら
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
帰
(
かへ
)
るのだから、
105
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
此奴
(
こいつ
)
の
見張
(
みは
)
りをして
居
(
を
)
つて
呉
(
く
)
れ。
106
そうして
船
(
ふね
)
が
来
(
き
)
たら
此
(
この
)
中
(
なか
)
から
一人
(
ひとり
)
妾
(
わたし
)
を
迎
(
むか
)
ひに
来
(
く
)
るのだ。
107
それ
迄
(
まで
)
船
(
ふね
)
も
船頭
(
せんどう
)
も
取
(
と
)
つ
捉
(
つか
)
まへて
放
(
はな
)
す
事
(
こと
)
ならぬぞや』
108
と
云
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
て
山上
(
さんじやう
)
目蒐
(
めが
)
けて
足早
(
あしばや
)
に
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
109
後
(
あと
)
に
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
は
磯端
(
いそばた
)
に
座
(
ざ
)
を
占
(
し
)
め、
110
広
(
ひろ
)
き
海面
(
かいめん
)
を
眺
(
なが
)
めて
呆気
(
ほうけ
)
た
様
(
やう
)
な
顔
(
かほ
)
をして
居
(
を
)
る。
111
東助
(
とうすけ
)
はやうやう
心
(
こころ
)
柔
(
やはら
)
いだと
見
(
み
)
えて、
112
そろそろ
喋
(
しや
)
べり
出
(
だ
)
した。
113
東助
(
とうすけ
)
『オイお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
、
114
俺
(
おれ
)
を
高姫
(
たかひめ
)
とやらが
言
(
い
)
うた
様
(
やう
)
な
悪人
(
あくにん
)
だと
思
(
おも
)
ふのか。
115
俺
(
おれ
)
は
肝腎
(
かんじん
)
の
商売
(
しやうばい
)
道具
(
だうぐ
)
を
盗
(
と
)
られて
仕舞
(
しま
)
ひ、
116
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
思
(
おも
)
はぬ
難題
(
なんだい
)
を
吹
(
ふ
)
き
掛
(
かけ
)
られ、
117
こんな
引合
(
ひきあ
)
はぬ
事
(
こと
)
はあつたものぢやない。
118
本当
(
ほんたう
)
に
災難
(
さいなん
)
と
云
(
い
)
ふものは
何時
(
いつ
)
来
(
く
)
るか
分
(
わか
)
らぬものだワイ』
119
貫州
(
くわんしう
)
『
俺
(
おれ
)
も
別
(
べつ
)
にお
前
(
まへ
)
を
悪人
(
あくにん
)
の
様
(
やう
)
には
思
(
おも
)
はぬが、
120
高姫
(
たかひめ
)
の
大将
(
たいしやう
)
がアー
言
(
い
)
ひ
出
(
だ
)
したら
全然
(
まるき
)
り
気違
(
きちが
)
ひだから、
121
メツタに
口答
(
くちごた
)
へは
出来
(
でき
)
ないので
黙
(
だま
)
つて
辛抱
(
しんばう
)
して
居
(
ゐ
)
たのだが、
122
お
前
(
まへ
)
の
様子
(
やうす
)
といひ
顔色
(
かほいろ
)
と
云
(
い
)
ひ、
123
全
(
まつた
)
く
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
腹
(
はら
)
を
合
(
あ
)
はして
居
(
を
)
る
様
(
やう
)
な
男
(
をとこ
)
でないと
思
(
おも
)
ふ』
124
東助
(
とうすけ
)
『アヽ
好
(
よ
)
う
言
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れた。
125
それで
俺
(
おれ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
安心
(
あんしん
)
した。
126
皆
(
みな
)
さまは
如何
(
どう
)
いふ
御
(
ご
)
感想
(
かんさう
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
られますか、
127
腹蔵
(
ふくざう
)
なく
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
128
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に、
129
三人
『
貫州
(
くわんしう
)
の
云
(
い
)
つた
通
(
とほ
)
り、
130
どうもお
前
(
まへ
)
が
悪
(
わる
)
いとは
思
(
おも
)
はれないよ。
131
本当
(
ほんたう
)
にエライお
災難
(
さいなん
)
だ、
132
御
(
ご
)
同情
(
どうじやう
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げる。
133
何分
(
なにぶん
)
あの
大将
(
たいしやう
)
はあの
通
(
とほ
)
りだから
困
(
こま
)
つてしまふ。
134
玉能姫
(
たまのひめ
)
が
逃
(
に
)
げて
帰
(
い
)
ぬ
際
(
さい
)
に、
135
船
(
ふね
)
を
何処
(
どこ
)
かへ
流
(
なが
)
し
居
(
を
)
つたのは
憎
(
にく
)
らしいが、
136
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今
(
いま
)
高姫
(
たかひめ
)
に
捨
(
す
)
てられては
鼻
(
はな
)
の
下
(
した
)
は
忽
(
たちま
)
ちだからなア』
137
東助
(
とうすけ
)
『
皆
(
みな
)
さま、
138
そんな
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
らないよ。
139
私
(
わし
)
は
淡路島
(
あはぢしま
)
の
者
(
もの
)
だが、
140
お
前方
(
まへがた
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
や
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
幾日
(
いくにち
)
遊
(
あそ
)
んで
食
(
く
)
つて
居
(
を
)
つても、
141
滅多
(
めつた
)
に
俺
(
おれ
)
の
家
(
うち
)
は
潰
(
つぶ
)
れはせぬ。
142
斯
(
こ
)
うして
俺
(
おれ
)
は
船頭
(
せんどう
)
が
好
(
す
)
きでやつて
居
(
を
)
るものの、
143
淡路島
(
あはぢしま
)
で
第一等
(
だいいちとう
)
の
物持
(
ものもち
)
の
主人公
(
しゆじんこう
)
だ。
144
様子
(
やうす
)
あつて
船頭
(
せんどう
)
はして
居
(
を
)
るが
普通
(
ふつう
)
の
駄賃
(
だちん
)
取
(
と
)
りの
船頭
(
せんどう
)
とはチツと
違
(
ちが
)
ふのだ。
145
お
前
(
まへ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
は
俺
(
おれ
)
が
引受
(
ひきう
)
けてやるから
心配
(
しんぱい
)
するな』
146
鶴公
(
つるこう
)
『それは
有難
(
ありがた
)
い、
147
然
(
しか
)
し
本当
(
ほんたう
)
か』
148
東助
(
とうすけ
)
『
本当
(
ほんたう
)
でなうて
何
(
なん
)
とせう。
149
昔
(
むかし
)
から
正直者
(
しやうぢきもの
)
の
名
(
な
)
を
取
(
と
)
つた
東助
(
とうすけ
)
とは
俺
(
おれ
)
の
事
(
こと
)
だ。
150
男
(
をとこ
)
が
仮
(
か
)
りにも
嘘
(
うそ
)
を
言
(
い
)
へるものかい』
151
鶴公
(
つるこう
)
『さう
聞
(
き
)
けばさうかも
知
(
し
)
れぬな』
152
と
話
(
はな
)
し
居
(
を
)
る
所
(
ところ
)
へ
風
(
かぜ
)
の
吹
(
ふ
)
き
廻
(
まは
)
しにて
一旦
(
いつたん
)
沖
(
おき
)
へ
流
(
なが
)
されて
居
(
ゐ
)
た
東助
(
とうすけ
)
の
持船
(
もちぶね
)
は、
153
ダンダンと
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
近
(
ちか
)
づいて
来
(
く
)
るのが
目
(
め
)
に
付
(
つ
)
いた。
154
東助
(
とうすけ
)
は
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて、
155
東助
(
とうすけ
)
『アヽ
嬉
(
うれ
)
しい、
156
風
(
かぜ
)
のお
蔭
(
かげ
)
で
流
(
なが
)
れて
居
(
を
)
つた
船
(
ふね
)
が、
157
ドウヤラ
此方
(
こちら
)
へ
流
(
なが
)
れて
来
(
き
)
さうだ。
158
皆
(
みな
)
さま、
159
喜
(
よろこ
)
びなさい』
160
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
立
(
た
)
つて
海面
(
かいめん
)
を
眺
(
なが
)
めながら、
161
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれて
近
(
ちか
)
より
来
(
きた
)
る
船
(
ふね
)
を
見
(
み
)
て、
162
思
(
おも
)
はず
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち『ウローウロー』と
叫
(
さけ
)
び
居
(
ゐ
)
る。
163
東助
(
とうすけ
)
『
最早
(
もはや
)
此方
(
こつち
)
のものだ。
164
俊寛
(
しゆんくわん
)
の
島流
(
しまなが
)
しも、
165
ドウヤラ
赦免
(
しやめん
)
の
船
(
ふね
)
が
来
(
き
)
た
様
(
やう
)
だ。
166
サア
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
帰
(
かへ
)
らねばなるまい。
167
此
(
こ
)
んな
処
(
ところ
)
に
長居
(
ながゐ
)
をして
居
(
を
)
れば、
168
又
(
また
)
最前
(
さいぜん
)
の
様
(
やう
)
に
濃霧
(
のうむ
)
に
包
(
つつ
)
まれ
神罰
(
しんばつ
)
を
蒙
(
かうむ
)
るか
分
(
わか
)
つたものではない。
169
……これ
貫州
(
くわんしう
)
さま、
170
早
(
はや
)
く
高姫
(
たかひめ
)
さまを
呼
(
よ
)
んで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい、
171
船
(
ふね
)
の
用意
(
ようい
)
をするから』
172
貫州
(
くわんしう
)
『オイ
鶴公
(
つるこう
)
、
173
清公
(
きよこう
)
、
174
武公
(
たけこう
)
、
175
確
(
しつか
)
り
船
(
ふね
)
を
捉
(
つか
)
まへて
東助
(
とうすけ
)
さまを
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けよ。
176
俺
(
おれ
)
は
急
(
いそ
)
いで
大将
(
たいしやう
)
を
呼
(
よ
)
んで
来
(
く
)
るから』
177
東助
(
とうすけ
)
『アハヽヽヽ、
178
滅多
(
めつた
)
に
逃
(
に
)
げて
帰
(
かへ
)
りも
致
(
いた
)
さぬ。
179
安心
(
あんしん
)
して
此
(
この
)
山中
(
さんちう
)
を
探
(
さが
)
して
来
(
き
)
なさい。
180
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
るから……
併
(
しか
)
し
我
(
わが
)
家
(
や
)
に
帰
(
かへ
)
つて……』
181
と
小声
(
こごゑ
)
にて
後
(
あと
)
を
付
(
つ
)
けた。
182
貫州
(
くわんしう
)
は
一目散
(
いちもくさん
)
に
勇
(
いさ
)
んで
高姫
(
たかひめ
)
に
報告
(
はうこく
)
す
可
(
べ
)
く
森林
(
しんりん
)
へ
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
183
船
(
ふね
)
は
磯端
(
いそばた
)
に
漸
(
やうや
)
く
寄
(
よ
)
つて
来
(
き
)
た。
184
東助
(
とうすけ
)
は
拍手
(
はくしゆ
)
しながら、
185
東助
(
とうすけ
)
『アヽ、
186
船神
(
ふながみ
)
様
(
さま
)
、
187
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
188
サアサ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
方々
(
かたがた
)
乗
(
の
)
つたり
乗
(
の
)
つたり』
189
鶴公
(
つるこう
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さまと
貫州
(
くわんしう
)
はまだ
見
(
み
)
えませぬから、
190
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つてやつて
下
(
くだ
)
さいな』
191
東助
(
とうすけ
)
『
待
(
ま
)
つてはやるが
家
(
うち
)
に
帰
(
かへ
)
つて
待
(
ま
)
つ
事
(
こと
)
にせう。
192
サア
乗
(
の
)
つたり
乗
(
の
)
つたり』
193
鶴公
(
つるこう
)
『ハヽヽヽヽ、
194
矢張
(
やつぱり
)
両人
(
りやうにん
)
は
島流
(
しまなが
)
しだな。
195
アーそれもよからう。
196
何分
(
なにぶん
)
にも
日
(
ひ
)
の
出神
(
でかみ
)
が
憑
(
つ
)
いて
御座
(
ござ
)
るから
滅多
(
めつた
)
な
事
(
こと
)
はあるまい。
197
マアとつくりと
御
(
ご
)
修業
(
しうげふ
)
が
出来
(
でき
)
てよからう』
198
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
四
(
よ
)
人
(
にん
)
はひらりと
船
(
ふね
)
へ
飛乗
(
とびの
)
り、
199
艪
(
ろ
)
をギクギクと
漕出
(
こぎだ
)
し
始
(
はじ
)
めた。
200
猜疑心
(
さいぎしん
)
深
(
ふか
)
き
高姫
(
たかひめ
)
は
最前
(
さいぜん
)
より、
201
傍
(
かたはら
)
の
森林
(
しんりん
)
に
身
(
み
)
を
潜
(
ひそ
)
め、
202
一同
(
いちどう
)
の
話
(
はなし
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
たが、
203
コリヤ
大変
(
たいへん
)
と
貫州
(
くわんしう
)
を
誘
(
さそ
)
ひながら
磯端
(
いそばた
)
に
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
204
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
東助
(
とうすけ
)
さま、
205
お
前
(
まへ
)
は
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
くのだ。
206
妾
(
わし
)
をどうする
積
(
つも
)
りだい』
207
東助
(
とうすけ
)
『
何処
(
どこ
)
へも
行
(
ゆ
)
きませぬ。
208
淡路
(
あはぢ
)
の
洲本
(
すもと
)
迄
(
まで
)
帰
(
かへ
)
るのだ』
209
高姫
(
たかひめ
)
『そら
約束
(
やくそく
)
が
違
(
ちが
)
うぢやないか。
210
チヨツと
船
(
ふね
)
を
此方
(
こつち
)
へ
着
(
つ
)
けて
下
(
くだ
)
さい。
211
妾
(
わたし
)
も
乗
(
の
)
つて
帰
(
かへ
)
らねばならぬから、
212
そんなことをなさると
今迄
(
いままで
)
の
賃銀
(
ちんぎん
)
は
払
(
はら
)
ひませぬぞ』
213
東助
(
とうすけ
)
『
賃銀
(
ちんぎん
)
を
取
(
と
)
つて
生活
(
せいくわつ
)
して
居
(
を
)
る
東助
(
とうすけ
)
とはチツと
違
(
ちが
)
ふのだ。
214
私
(
わし
)
はこう
見
(
み
)
えても
淡路島
(
あはぢしま
)
第一
(
だいいち
)
の
財産家
(
ざいさんか
)
だ。
215
船頭
(
せんどう
)
は
道楽
(
だうらく
)
でやつて
居
(
を
)
るのだから、
216
賃銀
(
ちんぎん
)
なぞは
此方
(
こちら
)
から
平
(
ひら
)
にお
断
(
ことわ
)
り
申
(
まを
)
します。
217
金
(
かね
)
が
欲
(
ほ
)
しけりや
幾程
(
いくら
)
でも
此方
(
こつち
)
からやるワ。
218
マア
緩
(
ゆつ
)
くりと
此
(
この
)
島
(
しま
)
でお
二人
(
ふたり
)
さま、
219
修業
(
しうげふ
)
なさいませ』
220
と
又
(
また
)
もや
艪
(
ろ
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
す。
221
高姫
(
たかひめ
)
は
声
(
こゑ
)
限
(
かぎ
)
り、
222
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレそんな
無茶
(
むちや
)
な
事
(
こと
)
がありますか。
223
天罰
(
てんばつ
)
が
当
(
あた
)
りますぞ』
224
東助
(
とうすけ
)
『
天罰
(
てんばつ
)
の
当
(
あた
)
つたのはお
前
(
まへ
)
ら
二人
(
ふたり
)
だ。
225
余
(
あま
)
り
精神
(
せいしん
)
が
良
(
よ
)
くないから、
226
修業
(
しうげふ
)
の
為
(
た
)
めに
残
(
のこ
)
して
置
(
お
)
くのぢやから、
227
有難
(
ありがた
)
く
思
(
おも
)
ひなさい。
228
……コレコレ
鶴公
(
つるこう
)
、
229
清公
(
きよこう
)
、
230
武公
(
たけこう
)
、
231
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
私
(
わたし
)
の
船
(
ふね
)
に
助
(
たす
)
けてやつたのだから、
232
一挙
(
いつきよ
)
一動
(
いちどう
)
、
233
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
にするのだよ』
234
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
235
三人
『
承知
(
しようち
)
しました、
236
何分
(
なにぶん
)
宜敷
(
よろし
)
く
御
(
ご
)
指導
(
しだう
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
237
貫州
(
くわんしう
)
『オーイオーイ
東助
(
とうすけ
)
さま、
238
そりや
余
(
あんま
)
りぢや、
239
一遍
(
いつぺん
)
船
(
ふね
)
を
此方
(
こちら
)
へ
着
(
つ
)
けて
下
(
くだ
)
さい』
240
東助
(
とうすけ
)
は
舌
(
した
)
をペロツと
出
(
だ
)
す、
241
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあ
)
はして
同
(
おな
)
じく
舌
(
した
)
をペロツと
出
(
だ
)
す。
242
東助
(
とうすけ
)
『
折角
(
せつかく
)
だが
今日
(
けふ
)
は
荷物
(
にもつ
)
が
多
(
おほ
)
いからお
断
(
ことわ
)
り
申
(
まを
)
しませうかい。
243
此
(
この
)
上
(
うへ
)
罪
(
つみ
)
の
多
(
おほ
)
い
人間
(
にんげん
)
が
乗
(
の
)
ると
沈没
(
ちんぼつ
)
すると
迷惑
(
めいわく
)
だからなア』
244
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
口
(
くち
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
245
東助
(
とうすけ
)
の
言葉
(
ことば
)
其
(
その
)
儘
(
まま
)
を
繰返
(
くりかへ
)
す。
246
東助
(
とうすけ
)
は
何
(
なん
)
の
頓着
(
とんちやく
)
もなく
艪
(
ろ
)
を
漕
(
こ
)
ぎ、
247
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
船歌
(
ふなうた
)
を
唄
(
うた
)
ひながら
追々
(
おひおひ
)
島
(
しま
)
に
遠
(
とほ
)
ざかり
行
(
ゆ
)
く。
248
高姫
(
たかひめ
)
、
249
貫州
(
くわんしう
)
の
二人
(
ふたり
)
は
磯端
(
いそばた
)
に
地団太
(
ぢだんだ
)
踏
(
ふ
)
んで『オーイオーイ』と
呼
(
よ
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
250
東助
(
とうすけ
)
は、
251
(
追分
(
おひわけ
)
)
252
東助
『
家島
(
えじま
)
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で、
253
神島
(
かみじま
)
越
(
こ
)
えて、
254
向
(
むか
)
ふに
見
(
み
)
ゆるは
淡路島
(
あはぢしま
)
』
255
(同上)
256
東助
『
誠明石
(
まことあかし
)
の、
257
海峡
(
かいけふ
)
よぎり、
258
洲本
(
すもと
)
の
我
(
わが
)
家
(
や
)
へ
帰
(
かへ
)
ります』
259
(同上)
260
東助
『
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
りしお
二人
(
ふたり
)
の、
261
高姫
(
たかひめ
)
さまや
貫州
(
くわんしう
)
は、
262
鬼界
(
きかい
)
ケ
島
(
しま
)
の
俊寛
(
しゆんくわん
)
か。
263
どうして
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
るやら』
264
と
唄
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
、
265
海風
(
かいふう
)
に
送
(
おく
)
られて
両人
(
りやうにん
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
[
*
ママ
]
る。
266
二人
(
ふたり
)
は
狂気
(
きやうき
)
の
如
(
ごと
)
く
猛
(
たけ
)
び
狂
(
くる
)
ひ
騒
(
さわ
)
ぎ
廻
(
まは
)
れども、
267
何
(
な
)
んと
船影
(
せんえい
)
泣
(
な
)
く
涙
(
なみだ
)
、
268
トボトボと
力
(
ちから
)
なげに
深林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
に
薄
(
うす
)
き
影
(
かげ
)
を
隠
(
かく
)
すのであつた。
269
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
された
高姫
(
たかひめ
)
は
捨
(
す
)
て
鉢
(
ばち
)
気味
(
ぎみ
)
になり、
270
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げる
様
(
やう
)
に
横
(
よこ
)
たはりながら、
271
足
(
あし
)
をピンピン
動
(
うご
)
かし、
272
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
貫州
(
くわんしう
)
、
273
お
前
(
まへ
)
は
余程
(
よほど
)
イヽ
頓馬
(
とんま
)
だな。
274
アレ
丈
(
だ
)
け
噛
(
か
)
んで
呑
(
の
)
む
様
(
やう
)
に
言
(
い
)
うて
置
(
お
)
いたのに、
275
人
(
ひと
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
尻
(
しり
)
で
聞
(
き
)
き
居
(
を
)
るから、
276
天罰
(
てんばつ
)
が
当
(
あた
)
つて、
277
こんな
目
(
め
)
に
逢
(
あ
)
はされるのだよ。
278
是
(
こ
)
れから
妾
(
わし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
素直
(
すなほ
)
に
聞
(
き
)
くのだよ』
279
貫州
(
くわんしう
)
『
天罰
(
てんばつ
)
は
御
(
ご
)
同様
(
どうやう
)
だ。
280
貴女
(
あなた
)
も
矢張
(
やつぱ
)
り
此
(
こ
)
んなに
置
(
お
)
いとけ
放
(
ぼ
)
りを
食
(
く
)
はされたのは、
281
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
罪
(
つみ
)
があるからでせう。
282
私
(
わたし
)
は
貴女
(
あなた
)
の
罪
(
つみ
)
の
巻添
(
まきぞ
)
へに
逢
(
あ
)
うたのです。
283
誰
(
たれ
)
を
恨
(
うら
)
める
所
(
ところ
)
もない、
284
只
(
ただ
)
高姫
(
たかひめ
)
さまを
恨
(
うら
)
む
計
(
ばか
)
りだ』
285
高姫
(
たかひめ
)
『
誠
(
まこと
)
水晶
(
すゐしやう
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
に
罪
(
つみ
)
があつて
堪
(
たま
)
りますか。
286
つまりお
前
(
まへ
)
の
罪
(
つみ
)
の
巻添
(
まきぞ
)
へに
遭
(
あ
)
うたのだ。
287
それだから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
何時
(
いつ
)
も
水晶
(
すゐしやう
)
の
身魂
(
みたま
)
は、
288
汚
(
よご
)
れた
者
(
もの
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
置
(
お
)
くと
総損
(
そうぞこな
)
ひになると
仰有
(
おつしや
)
るのだ。
289
これを
折
(
しほ
)
にスツパリと
改心
(
かいしん
)
をなされ。
290
さうして
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
に
絶体
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
をするのだよ』
291
貫州
(
くわんしう
)
『
此
(
こ
)
んな
人影
(
ひとかげ
)
もない
島
(
しま
)
に
捨
(
す
)
てられる
様
(
やう
)
な
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまも、
292
頼
(
たよ
)
りない
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
なものですなア』
293
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
ぞと
云
(
い
)
うと、
294
直
(
すぐ
)
に
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
わざ
の
様
(
やう
)
に
云
(
い
)
ひなさる。
295
それが
第一
(
だいいち
)
慢心
(
まんしん
)
といふものだよ』
296
貫州
(
くわんしう
)
『
貴女
(
あなた
)
の
御
(
お
)
説教
(
せつけう
)
は
何時
(
いつ
)
も
隔靴
(
かくか
)
掻痒
(
さうよう
)
とか
言
(
い
)
つて
徹底
(
てつてい
)
せず、
297
恥
(
はぢ
)
を
掻
(
か
)
き、
298
あたまを
掻
(
か
)
き、
299
人
(
ひと
)
には
靴靴
(
くつくつ
)
笑
(
わら
)
はれ、
300
痛
(
いた
)
かゆい
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がしていけませぬワ』
301
高姫
(
たかひめ
)
『
動中静
(
どうちうせい
)
あり、
302
静中動
(
せいちうどう
)
あり、
303
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
、
304
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
、
305
虱
(
しらみ
)
の
放
(
こ
)
いた
糞
(
ふん
)
にわいた
虫
(
むし
)
の
様
(
やう
)
な
人間
(
にんげん
)
が、
306
苟
(
いやし
)
くも
天地
(
てんち
)
の
御
(
ご
)
先祖
(
せんぞ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
事
(
こと
)
に
対
(
たい
)
し、
307
ゴテゴテ
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ふ
資格
(
しかく
)
がありますか。
308
況
(
いは
)
んや
広大
(
くわうだい
)
無辺
(
むへん
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
の
備
(
そな
)
はり
給
(
たま
)
ふ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
に
於
(
おい
)
てをやだ。
309
モウ
是
(
これ
)
限
(
き
)
り
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し、
310
不足
(
ふそく
)
がましい
事
(
こと
)
は
言
(
い
)
はぬが
宜
(
よろ
)
しいぞや』
311
と
肩
(
かた
)
を
斜
(
なな
)
めに
揺
(
ゆ
)
りながら、
312
四辺
(
あたり
)
の
雑草
(
ざつさう
)
を
蹴散
(
けち
)
らす
様
(
やう
)
な
足
(
あし
)
つきで、
313
ピンピン
尻
(
しり
)
振
(
ふ
)
りつつ
坂路
(
さかみち
)
を
上
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
314
貫州
(
くわんしう
)
も
是非
(
ぜひ
)
なく
二三間
(
にさんげん
)
遅
(
おく
)
れて
不性
(
ふしよう
)
無精
(
ぶしよう
)
に
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
315
高姫
(
たかひめ
)
は
怒
(
いか
)
り
心頭
(
しんとう
)
に
達
(
たつ
)
し、
316
益々
(
ますます
)
肩
(
かた
)
をくねりくねりと
互
(
たが
)
ひ
違
(
ちが
)
ひに
揺
(
ゆす
)
り
乍
(
なが
)
ら、
317
見向
(
みむ
)
きもせず
山上
(
さんじやう
)
目蒐
(
めが
)
けて
上
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
318
貫州
(
くわんしう
)
は
後
(
うしろ
)
より
独語
(
ひとりごと
)
、
319
貫州
(
くわんしう
)
『アヽ
今年
(
ことし
)
は
何
(
な
)
んとしてこんな
年廻
(
としまは
)
りが
悪
(
わる
)
いだらうか。
320
力
(
ちから
)
に
思
(
おも
)
ふ
高姫
(
たかひめ
)
さまは
伊勢蝦
(
いせえび
)
の
様
(
やう
)
にピンピンとはねなさる、
321
船
(
ふね
)
には
見棄
(
みす
)
てられる。
322
こらマア
何
(
ど
)
うなるのであらうかなア。
323
…アー
此処
(
ここ
)
に
枝振
(
えだぶり
)
の
好
(
よ
)
い
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
がニユーツと
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
る。
324
一
(
ひと
)
つ
一思
(
ひとおも
)
ひに
徳利結
(
とくりむす
)
びをやつて、
325
一
(
ひと
)
はねプリンプリンと
出掛
(
でか
)
けやうかな。
326
アヽ
何
(
ど
)
うなり
行
(
ゆ
)
くも
因縁
(
いんねん
)
だ』
327
と
帯
(
おび
)
を
解
(
と
)
き
徳利結
(
とくりむすび
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
328
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
の
枝
(
えだ
)
よりプリンと
下
(
さが
)
つた。
329
此
(
この
)
物音
(
ものおと
)
に
高姫
(
たかひめ
)
は
後
(
あと
)
振返
(
ふりかへ
)
り
見
(
み
)
てびつくりし、
330
周章
(
あわただ
)
しく
七八間
(
しちはちけん
)
駆戻
(
かけもど
)
り、
331
貫州
(
くわんしう
)
の
体躯
(
からだ
)
に
取付
(
とりつ
)
き、
332
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
貫州
(
くわんしう
)
、
333
何
(
なん
)
といふ
短気
(
たんき
)
な
事
(
こと
)
をして
呉
(
く
)
れた。
334
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
放
(
はう
)
り
残
(
のこ
)
され、
335
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
むお
前
(
まへ
)
に
死
(
し
)
なれては、
336
どうして
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
がたまらうか。
337
何
(
なん
)
といふ
情
(
なさけ
)
ない
事
(
こと
)
をするのだいなア……』
338
貫州
(
くわんしう
)
はポイと
飛
(
と
)
んだ
拍子
(
へうし
)
に
灌木
(
くわんぼく
)
の
枝
(
えだ
)
に
足
(
あし
)
がツンと
引
(
ひ
)
つ
掛
(
か
)
かり、
339
首
(
くび
)
も
締
(
しま
)
らず
少
(
すこ
)
しの
痛
(
いた
)
さも
感
(
かん
)
じなかつた。
340
されど
心
(
こころ
)
の
内
(
うち
)
に『エー
序
(
ついで
)
だ、
341
高姫
(
たかひめ
)
の
我
(
が
)
を
折
(
を
)
つて
遣
(
や
)
らねばなるまい』と
態
(
わざ
)
と
細
(
ほそ
)
いイヤらしい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
342
貫州
(
くわんしう
)
『アーア
恨
(
うら
)
めしや、
343
私
(
わたし
)
は
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
の
余
(
あま
)
り
我
(
が
)
が
強
(
つよ
)
いので、
344
度々
(
たびたび
)
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
をするのだけれどもチツトも
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さらぬ。
345
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
死
(
し
)
んで
高姫
(
たかひめ
)
さまに
意見
(
いけん
)
をするのだ。
346
改心
(
かいしん
)
さへ
出来
(
でき
)
たらばまだ
死
(
し
)
んで
間
(
ま
)
が
無
(
な
)
いから、
347
直
(
すぐ
)
に
生
(
い
)
き
返
(
かへ
)
り
再
(
ふたた
)
び
御用
(
ごよう
)
をするのだけれども、
348
到底
(
たうてい
)
改心
(
かいしん
)
は
出来
(
でき
)
ない。
349
アヽ
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
もたつた
独
(
ひとり
)
で
淋
(
さび
)
しからう。
350
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らたつた
今
(
いま
)
迎
(
むか
)
ひに
来
(
き
)
て
上
(
あ
)
げる
程
(
ほど
)
に、
351
必
(
かなら
)
ず
心配
(
しんぱい
)
しなさるなヤア』
352
高姫
(
たかひめ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
353
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
貫幽
(
くわんいう
)
どの、
354
私
(
わたし
)
が
悪
(
わる
)
かつた。
355
これからもう
我
(
が
)
を
張
(
は
)
らぬから、
356
今
(
いま
)
一遍
(
いつぺん
)
娑婆
(
しやば
)
に
帰
(
かへ
)
つてお
呉
(
く
)
れ。
357
これこの
通
(
とほ
)
りだ』
358
と
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ
俯向
(
うつむ
)
く
途端
(
とたん
)
に、
359
貫州
(
くわんしう
)
は
灌木
(
くわんぼく
)
の
枝
(
えだ
)
に
両足
(
りやうあし
)
共
(
とも
)
チヨンと
止
(
とま
)
り、
360
首筋
(
くびすぢ
)
を
見
(
み
)
れば
徳利結
(
とくりむすび
)
はチツトも
締
(
しま
)
つて
居
(
ゐ
)
ない。
361
ハテ
不思議
(
ふしぎ
)
やと
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
けて
居
(
を
)
る
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に、
362
貫州
(
くわんしう
)
は
緩
(
ゆる
)
やかな
首縄
(
くびなは
)
をグイと
放
(
はな
)
し、
363
貫州
(
くわんしう
)
『アヽ
高姫
(
たかひめ
)
さま
よう
改心
(
かいしん
)
して
下
(
くだ
)
さつた。
364
お
蔭
(
かげ
)
で
肉体
(
にくたい
)
で
貴女
(
あなた
)
の
御用
(
ごよう
)
がさして
頂
(
いただ
)
け
升
(
ます
)
』
365
高姫
(
たかひめ
)
『アタ
阿呆
(
あはう
)
らしい。
366
お
前
(
まへ
)
は
狂言
(
きやうげん
)
をしたのだらう。
367
本当
(
ほんたう
)
かと
思
(
おも
)
つて
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
しかけた。
368
イヽ
加減
(
かげん
)
な
てんごう
して
置
(
お
)
きなされ』
369
貫州
(
くわんしう
)
『
てんごう
でも
何
(
な
)
んでもありませぬ。
370
本真剣
(
ほんしんけん
)
でやつたのだが、
371
折
(
をり
)
善
(
よ
)
くか
折
(
をり
)
悪
(
あし
)
くか
知
(
し
)
らぬが、
372
足
(
あし
)
の
止
(
と
)
まりが
出来
(
でき
)
て
遣
(
や
)
り
損
(
そこな
)
うたのだ。
373
そんなら
今度
(
こんど
)
は
改
(
あらた
)
めて
本真剣
(
ほんしんけん
)
にやりませうか』
374
高姫
(
たかひめ
)
は
又
(
また
)
もやツンとして、
375
高姫
(
たかひめ
)
『
勝手
(
かつて
)
にしなされ。
376
お
前
(
まへ
)
の
命
(
いのち
)
をお
前
(
まへ
)
が
失
(
うしな
)
ふのだから』
377
貫州
(
くわんしう
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う。
378
お
許
(
ゆる
)
しが
出
(
で
)
ましたら
即座
(
そくざ
)
に
決行
(
けつかう
)
します。
379
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
最前
(
さいぜん
)
の
様
(
やう
)
な
泣
(
な
)
き
言
(
ごと
)
は
言
(
い
)
うて
貰
(
もら
)
ひませぬぜ、
380
迷
(
まよ
)
ひますと
困
(
こま
)
りますからなア』
381
と
手早
(
てばや
)
く
松
(
まつ
)
の
枝
(
えだ
)
にくくり
付
(
つ
)
けた
帯
(
おび
)
をほどき、
382
再
(
ふたたび
)
徳利結
(
とくりむすび
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
383
適当
(
てきたう
)
な
枝振
(
えだぶり
)
を
探
(
さが
)
して
居
(
ゐ
)
る。
384
高姫
(
たかひめ
)
は、
385
高姫
(
たかひめ
)
『エーしつかりせぬかいな』
386
と
平手
(
ひらて
)
で
横面
(
よこづら
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つピシヤピシヤとやつた。
387
貫州
(
くわんしう
)
『アイタヽヽ、
388
高姫
(
たかひめ
)
さま、
389
そんな
無茶
(
むちや
)
をしなさるな。
390
何
(
なに
)
を
腹
(
はら
)
が
立
(
たち
)
ますか』
391
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は
今
(
いま
)
死神
(
しにがみ
)
に
憑
(
つ
)
かれて
首
(
くび
)
を
吊
(
つ
)
つて
居
(
を
)
つたぢやないか。
392
それだから
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けてやつたのだよ』
393
貫州
(
くわんしう
)
『ヘー』
394
と
生返事
(
なまへんじ
)
をしながら
顔色
(
かほいろ
)
をサツと
替
(
か
)
へ、
395
両方
(
りやうはう
)
の
手
(
て
)
で
頸
(
くび
)
の
辺
(
あた
)
りを、
396
嫌
(
いや
)
らしさうに
撫
(
な
)
で
廻
(
まは
)
して
居
(
ゐ
)
る。
397
高姫
(
たかひめ
)
『アヽ
今日
(
けふ
)
は
何
(
なん
)
となく
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
い。
398
ササ
貫州
(
くわんしう
)
、
399
磯辺
(
いそべ
)
に
行
(
い
)
つて、
400
広
(
ひろ
)
い
海
(
うみ
)
でも
眺
(
なが
)
めて
気
(
き
)
を
換
(
か
)
へて
来
(
こ
)
よう。
401
又
(
また
)
船
(
ふね
)
の
一艘
(
いつそう
)
も
流
(
なが
)
れて
来
(
く
)
るかも
知
(
し
)
れない。
402
ササしつかりしつかり』
403
と
背
(
せな
)
を
三
(
み
)
ツ
四
(
よ
)
ツ
叩
(
たた
)
き、
404
貫州
(
くわんしう
)
の
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
き
山坂
(
やまさか
)
を
下
(
くだ
)
つて、
405
再
(
ふたたび
)
元
(
もと
)
の
磯端
(
いそばた
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
406
見
(
み
)
れば
艪櫂
(
ろかい
)
の
付
(
つ
)
いた
新
(
あたら
)
しい
船
(
ふね
)
が
一隻
(
いつせき
)
磯端
(
いそばた
)
に
横付
(
よこづ
)
けになつて
居
(
ゐ
)
る。
407
好
(
よ
)
く
好
(
よ
)
く
見
(
み
)
れば
船
(
ふね
)
の
中側
(
なかべり
)
に『
玉能姫
(
たまのひめ
)
より
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
に
此
(
この
)
船
(
ふね
)
進上
(
しんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
ります』と
記
(
しる
)
して
在
(
あ
)
つた。
408
高姫
(
たかひめ
)
はこれを
見
(
み
)
て、
409
高姫
(
たかひめ
)
『オホヽヽヽ、
410
さすがの
玉能姫
(
たまのひめ
)
も
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
に
恐
(
おそ
)
れ、
411
寝心地
(
ねごこち
)
が
悪
(
わる
)
くなつたと
見
(
み
)
えて、
412
こんな
新
(
あたら
)
しい
船
(
ふね
)
を
何処
(
どこ
)
からか
買求
(
かひもと
)
め、
413
そつと
此処
(
ここ
)
へ
置
(
お
)
いといて
遁
(
に
)
げて
帰
(
い
)
んだのだな。
414
意地
(
いぢ
)
くね
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
に
似合
(
にあ
)
はず、
415
一寸
(
ちよつと
)
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
事
(
こと
)
を
遣
(
や
)
り
居
(
を
)
るワイ。
416
サア
此
(
この
)
船
(
ふね
)
さへあれば
何日
(
なんにち
)
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
居
(
を
)
つたつて
心配
(
しんぱい
)
は
無
(
な
)
いが、
417
余
(
あま
)
り
長
(
なが
)
らく
置
(
お
)
いて
置
(
お
)
くと
俄
(
にはか
)
に
心
(
こころ
)
が
変
(
かは
)
りあの
船
(
ふね
)
が
惜
(
をし
)
くなつたと
云
(
い
)
うて、
418
取返
(
とりかへ
)
しに
来
(
こ
)
られては、
419
それこそ
此方
(
こちら
)
が
取返
(
とりかへ
)
しの
付
(
つ
)
かぬ
縮尻
(
しくじり
)
をやらねばならぬから、
420
今日
(
けふ
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
此
(
この
)
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
して
来
(
こ
)
う。
421
どうも
此
(
この
)
島
(
しま
)
には
在
(
あ
)
りさうにない。
422
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に、
423
竜神
(
りうじん
)
が
持
(
も
)
つて
行
(
い
)
き
居
(
を
)
つたと
言
(
い
)
うた
事
(
こと
)
がある。
424
大方
(
おほかた
)
南洋
(
なんやう
)
の
竜宮島
(
りうぐうじま
)
へでも
納
(
をさ
)
まつて
居
(
を
)
るだらう。
425
此
(
この
)
島
(
しま
)
の
果物
(
くだもの
)
を
沢山
(
たくさん
)
に
積込
(
つみこ
)
み
兵糧
(
ひやうらう
)
をドンと
用意
(
ようい
)
して、
426
神
(
かみ
)
の
随意
(
まにまに
)
此
(
この
)
船
(
ふね
)
の
続
(
つづ
)
く
限
(
かぎ
)
り、
427
腕力
(
うでぢから
)
のあらむ
限
(
かぎ
)
り
探
(
さが
)
しに
行
(
ゆ
)
く。
428
お
前
(
まへ
)
も
結構
(
けつこう
)
な
御用
(
ごよう
)
だから、
429
御
(
お
)
伴
(
とも
)
をさして
上
(
あ
)
げるから
喜
(
よろこ
)
びなさい』
430
貫州
(
くわんしう
)
『
成
(
な
)
る
可
(
べ
)
くなら
此
(
この
)
お
伴
(
とも
)
ばかりは、
431
除隊
(
ぢよたい
)
にして
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものですなア』
432
高姫
(
たかひめ
)
『オホヽヽヽ、
433
お
前
(
まへ
)
も
中々
(
なかなか
)
の
しれ
物
(
もの
)
だ。
434
除隊
(
ぢよたい
)
のない
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るわい』
435
と
果物
(
くだもの
)
を
数多
(
あまた
)
積込
(
つみこ
)
み、
436
高姫
(
たかひめ
)
は
下手
(
へた
)
ながらも
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
り、
437
貫州
(
くわんしう
)
は
櫂
(
かい
)
を
使
(
つか
)
ひながら
家島
(
えじま
)
を
後
(
あと
)
に
瀬戸
(
せと
)
の
海
(
うみ
)
を
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
438
(
大正一一・六・一二
旧五・一七
谷村真友
録)
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