霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 清潔法(せいけつはふ)〔七八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻 篇:第1篇 聖地の秋 よみ(新仮名遣い):せいちのあき
章:第2章 清潔法 よみ(新仮名遣い):せいけつほう 通し章番号:784
口述日:1922(大正11)年07月22日(旧閏05月28日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年6月20日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫館の前をとおりかかった友彦は、奥の間から人の話し声が聞こえてくるのに立ち止まり、久しぶりに館に戻ってきた主の様子を窺おうと、門の戸を叩いた。
門番の安公は、意地の悪い友彦を中に入らすわけにはいかないと押し留める。友彦はむきになって入ろうと門を押し始める。安彦は、今中に入って高姫と波風立てられてはこちらが迷惑するのでやめてくれ、と懇願する。
友彦は、それなら今日は帰ってやるが、明日は秘密の話があると高姫に伝えるようにと安公に申し渡した。
安彦は、友彦が来たと高姫に知られたら、四足御魂が来たから邸内をすっかり掃除して清めろ、と言われるのが落ちだと独り言を言っていた。それを通りかかった高姫が聞きつけ、友彦が来たなら掃除をしておけ、と安彦に言いつけた。
安彦は月明かりに庭に水を撒きながら、明日も友彦がやってきたらまた掃除を言いつけられて、こちらの体がもたない、と泣き言を言っている。そして、高姫のような人使いの荒い者には仕えていられない、と国依別を頼って館を逃げ出してしまった。
勝公は高姫たちのお膳を据えていたが、高姫から、安公のように逃げ出さないようにしてくれ、と言われて、しまった、安公に先を越されたと漏らす。
高姫は、逃げるつもりだったのかと勝公に問いただした。勝公は、逃げたいのはやまやまだが、高姫の留守居役をしていたので、誰も使ってくれないので仕方なくここに居るだけだ、と高姫に本心を明かす。
高姫はそれを聞いて怒るが、勝公がいなくなると飯の支度をする者がいなくなると困るから、仕方なく置いてやろうという。一方勝公も、早く逃げ出したいとこぼしながら納戸の方に姿を隠した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-10-21 18:19:02 文字数:6013 OBC :rm2702
愛善世界社版:44頁 八幡書店版:第5輯 258頁 修補版: 校定版:45頁 普及版:19頁 初版: ページ備考:
001西(にし)に円山(まるやま)東(ひがし)に小雲(こくも)
002山(やま)と川(かは)とに挟(はさ)まれし
003並木(なみき)の松(まつ)の片傍(かたほと)り
004桧(ひのき)、松(まつ)、杉(すぎ)、柏木(かしはぎ)の
005丈余(ぢやうよ)にあまる大木(たいぼく)は
006天(てん)を封(ふう)じて立(た)ち並(なら)ぶ
007それの木蔭(こかげ)に瀟洒(せうしや)たる
008丸木柱(まるきばしら)に笹(ささ)の屋根(やね)
009青(あを)、白(しろ)、赤(あか)の庭石(にはいし)も
010どことは無(な)しに配置(はいち)よく
011敷(し)き並(なら)べたる庭(には)の奥(おく)
012幽(かす)かに聞(きこ)ゆる話声(はなしごゑ)
013聞(き)くともなしに友彦(ともひこ)は
014思(おも)はず門(もん)をかい潜(くぐ)り
015何(なに)かの綱(つな)に曳(ひ)かれしごと
016何時(いつ)の間(ま)にやら門(かど)の口(くち)
017此処(ここ)は高姫(たかひめ)御館(おんやかた)
018奥(おく)には幽(かす)かな人(ひと)の声(こゑ)
019何処(どこ)の客(きやく)かは知(し)らねども
020何(なに)は兎(と)もあれ戸(と)を叩(たた)き
021主人(あるじ)の様子(やうす)を窺(うかが)はん
022さうぢやさうぢやと独言(ひとりごと)
023忽(たちま)ち表戸(おもてど)打(う)ち叩(たた)き
024『教(をしへ)の道(みち)の友彦(ともひこ)が
025久方振(ひさかたぶり)にお館(やかた)へ
026帰(かへ)り来(き)ませる高姫(たかひめ)に
027敬意(けいい)を表(へう)して御(ご)挨拶(あいさつ)
028申(まを)さんものと取(と)る物(もの)も
029取(と)らずに尋(たづ)ね来(き)ましたぞ
030お構(かま)ひなくば表戸(おもてど)を
031早(はや)く開(あ)けさせ給(たま)へかし』
032呼(よ)べば中(なか)より安公(やすこう)が
033『折角(せつかく)乍(なが)ら友彦(ともひこ)よ
034お前(まへ)は意地久根(いぢくね)悪(わる)い故(ゆゑ)
035高姫(たかひめ)さまの気(き)に合(あ)はぬ
036今(いま)も今(いま)とて国(くに)さまや
037秋彦(あきひこ)さまがやつて来(き)て
038何(なん)ぢや彼(か)んぢやと駄句(だく)りつつ
039形勢(けいせい)不穏(ふおん)と見済(みす)まして
040尻(しり)を紮(から)げて去(い)にました
041お前(まへ)も立派(りつぱ)な男(をとこ)なら
042些(ちつ)とは考(かんが)へなされませ
043奥(おく)の一間(ひとま)に高姫(たかひめ)や
044高山彦(たかやまひこ)や黒姫(くろひめ)が
045夏彦(なつひこ)、常彦(つねひこ)前(まへ)に置(お)き
046秘密(ひみつ)の話(はなし)をして御座(ござ)る
047秘密(ひみつ)は何処(どこ)迄(まで)秘密(ひみつ)ぢやと
048高姫(たかひめ)さまの常套語(じやうたうご)
049今日(けふ)は風向(かぜむき)悪(わる)い故(ゆゑ)
050去(い)んだがお前(まへ)の得(とく)だらう
051男(をとこ)を下(さ)げて帰(かへ)るより
052貞操(ていさう)深(ふか)きテールスの
053姫(ひめ)の命(みこと)と親密(しんみつ)に
054尊(たふと)き神(かみ)の御(お)言葉(ことば)を
055調(しらべ)悟(さと)つた其(その)上(うへ)で
056喧嘩(けんくわ)の材料(ざいれう)を蓄(たくは)へて
057此(この)場(ば)を出直(でなほ)し堂々(だうだう)と
058捲土(けんど)重来(ぢうらい)するがよい
059七尺(しちしやく)男(をとこ)が高姫(たかひめ)や
060黒姫(くろひめ)さまに凹(へこ)まされ
061泡(あわ)を吹(ふ)くのも見(み)ともない
062お前(まへ)は私(わし)の好(す)きな人(ひと)
063お鼻(はな)の赤(あか)い愛嬌者(あいけうもの)
064木花姫(このはなひめ)の再来(さいらい)と
065勝公(かつこう)さまが云(い)うて居(ゐ)た
066一度(いちど)に開(ひら)く蓮花(はちすばな)
067此処(ここ)は聖地(せいち)の蓮華台(れんげだい)
068それの麓(ふもと)の神館(かむやかた)
069嘘(うそ)か誠(まこと)か知(し)らねども
070系統(ひつぽう)の身魂(みたま)に憑(かか)られし
071日(ひ)の出神(でのかみ)が御座(ござ)るぞや
072竜宮海(りうぐうかい)の乙姫(おとひめ)も
073黒姫(くろひめ)さまを機関(きくわん)とし
074天狗(てんぐ)の身魂(みたま)も引(ひ)き添(そ)うて
075高山彦(たかやまひこ)の夫婦(ふうふ)連(づ)れ
076三(さん)人(にん)世(よ)の元(もと)結構(けつこう)と
077済(す)ました顔(かほ)で御座(ござ)るのに
078赤鼻(あかはな)天狗(てんぐ)がやつて来(き)て
079鼻(はな)と鼻(はな)とが衝突(しようとつ)し
080又(また)もや悶着(もんちやく)起(おこ)りなば
081安公(やすこう)さまも勝公(かつこう)も
082何(ど)うして傍(そば)に居(を)られよか
083地震(ぢしん)雷(かみなり)火(ひ)の雨(あめ)も
084さまで恐(おそ)れぬ豪傑(がうけつ)の
085安公(やすこう)さまも高姫(たかひめ)の
086その鼻息(はないき)にや耐(たま)らない
087男(をとこ)一匹(いつぴき)助(たす)けると
088思(おも)うて帰(かへ)つて下(くだ)さんせ
089肝腎要(かんじんかなめ)の性念場(しやうねんば)
090秘密話(ひみつばなし)の最中(さいちう)に
091お前(まへ)が来(き)たと聞(き)いたなら
092忽(たちま)ち起(おこ)る暴風雨(ばうふうう)
093柱(はしら)は倒(たふ)れ屋根(やね)剥(めく)れ
094険難(けんのん)至極(しごく)の修羅(しゆら)場裏(ぢやうり)
095あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
096御霊(みたま)幸(さち)はへましまして
097白(しろ)い玉(たま)をば預(あづ)かつた
098ジヤンナの郷(さと)の救世主(きうせいしゆ)
099此処(ここ)では詮(つま)らぬ宣伝使(せんでんし)
100神(かみ)の上(うへ)には上(うへ)がある
101口(くち)が悪(わる)いと腹(はら)立(た)てて
102怒(おこ)つて呉(く)れなよ高姫(たかひめ)が
103今日(けふ)も今日(けふ)とて云(い)うて居(ゐ)た
104俺(おれ)が云(い)うので無(な)い程(ほど)に
105日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の
106御霊(みたま)が憑(うつ)つて説(と)き明(あか)す
107斯(こ)う云(い)ふ中(うち)にも高姫(たかひめ)の
108お耳(みみ)に入(はい)れば大変(たいへん)だ
109地異(ちい)天変(てんぺん)は目(ま)のあたり
110早(はや)く帰(かへ)れ』と促(うなが)せば
111友彦(ともひこ)フフンと鼻(はな)で息(いき)
112『魂(たま)ぬけ婆(ば)さまの高姫(たかひめ)が
113四股(しこ)の雄健(をたけ)び踏(ふ)み健(たけ)び
114何程(なにほど)勢(いきほひ)強(つよ)くとも
115バラモン教(けう)の友彦(ともひこ)と
116世(よ)に謳(うた)はれた俺(おれ)だもの
117高姫(たかひめ)位(くらゐ)が何(なに)怖(こは)い
118女(をんな)の一人(ひとり)や十(じふ)人(にん)が
119怖(こは)くて此(この)世(よ)に居(を)られよか
120腰抜(こしぬ)け野郎(やらう)』と云(い)ひながら
121力(ちから)の限(かぎ)り表戸(おもてど)を
122押(お)し分(わ)け入(い)らんとする所(ところ)
123『千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)
124友彦(ともひこ)如(ごと)きに這入(はい)られて
125何(ど)うして門番(もんばん)勤(つと)まろか
126後(あと)でゴテゴテ高姫(たかひめ)の
127お小言(こごと)聞(き)くのが耐(たま)らない
128友彦(ともひこ)お前(まへ)は夫(それ)程(ほど)に
129物(もの)の道理(だうり)が分(わか)らぬか
130荒浪(あらなみ)凪(な)いだ明朝(あすのあさ)
131又(また)出直(でなほ)して来(き)てお呉(く)れ
132其(その)時(とき)こそは喜(よろこ)んで
133𧘕𧘔(かみしも)つけて門口(かどぐち)へ
134私(わたし)が出迎(でむか)へ致(いた)します
135頼(たの)む頼(たの)む』と泣(な)き声(ごゑ)を
136放(はな)てば友彦(ともひこ)立(た)ち止(と)まり
137平地(へいち)に浪(なみ)を起(おこ)すよな
138悪戯(いたづら)しても済(す)まないと
139心(こころ)を柔(やはら)げ声(こゑ)を変(か)へ
140『お前(まへ)の云(い)ふのも尤(もつと)もだ
141そんなら今日(けふ)は帰(かへ)ります
142高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)に
143友彦(ともひこ)さまがやつて来(き)て
144秘密(ひみつ)の話(はなし)があるさうぢや
145お邪魔(じやま)をしてはならないと
146賢(かしこ)いお方(かた)の事(こと)なれば
147先見(せんけん)つけて我(わが)館(やかた)
148いそいそ帰(かへ)つて往(ゆ)きました
149万一(もしも)明日(みやうにち)来(き)たなれば
150高姫(たかひめ)さまも黒姫(くろひめ)も
151高山彦(たかやまひこ)も安公(やすこう)も
152𧘕𧘔(かみしも)姿(すがた)でお出迎(でむか)ひ
153必(かなら)ず粗相(そさう)あるまいぞ
154呉(く)れ呉(ぐ)れ申(まをし)て置(お)く程(ほど)に
155沢山(たくさん)さうに友彦(ともひこ)と
156お前(まへ)は思(おも)うて居(ゐ)るだらう
157黄金(こがね)花(はな)咲(さ)く竜宮(りうぐう)の
158一(ひと)つ島(じま)にて名(な)も高(たか)き
159ネルソン山(ざん)の峰続(みねつづ)き
160ジヤンナの郷(さと)の救世主(きうせいしゆ)
161小野(をの)の小町(こまち)か衣通(そとをり)か
162ネルソンパテイか楊貴妃(やうきひ)か
163テールス姫(ひめ)かと云(い)ふやうな
164古今(ここん)無双(むさう)のナイスをば
165女房(にようばう)に持(も)つた果報者(くわほうもの)
166必(かなら)ず必(かなら)ずこの言葉(ことば)
167忘(わす)れちやならぬぞ高姫(たかひめ)に
168頭(あたま)を低(ひく)ふ尻高(しりたか)く
169犬蹲踞(いぬつくばい)に身構(みがま)へし
170申伝(まをしつた)へて呉(く)れよかし
171高姫(たかひめ)さまも友彦(ともひこ)の
172光来(くわうらい)ありしと聞(き)くならば
173忽(たちま)ち顔色(かほいろ)青(あを)くして
174待(ま)ち兼(か)ね山(やま)の友彦(ともひこ)が
175訪(たづ)ねて来(き)たのを素気(すげ)なくも
176主人(あるじ)の我(われ)に無断(むだん)にて
177帰(かへ)すと云(い)ふ事(こと)あるものか
178気(き)の利(き)いた割(わり)に間(ま)の脱(ぬ)けた
179安公(やすこう)の野郎(やらう)と頭(あたま)から
180雷(かみなり)さまが落(お)ちるだろ
181夫(それ)を思(おも)へば安公(やすこう)が
182お気(き)の毒(どく)にて耐(たま)らない
183減(へ)らず口(ぐち)ぢやと思(おも)ふなよ
184武士(ぶし)の言葉(ことば)に二言(にごん)ない
185研(みが)き悟(さと)りし天眼通(てんがんつう)
186鏡(かがみ)に映(うつ)したその如(ごと)く
187一切(いつさい)万事(ばんじ)知(し)れて居(を)る
188あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
189御霊(みたま)幸倍(さちはへ)坐(まし)ませよ
190青垣山(あをがきやま)は裂(さ)けるとも
191和知(わち)の流(ながれ)は涸(か)れるとも
192友彦(ともひこ)さまの云(い)つた事(こと)
193一分(いちぶ)一厘(いちりん)違(ちが)はない
194大地(だいち)を狙(ねら)つて打(う)ち下(お)ろす
195此(この)棍棒(こんぼう)は外(はづ)れても
196我(わが)一言(いちごん)は外(はづ)れない
197頤(あご)が外(はづ)れて泡(あわ)吹(ふ)いて
198吠面(ほえづら)かわいて梟鳥(ふくろどり)
199夜食(やしよく)に外(はづ)れた時(とき)のよな
200妙(めう)な面(つら)つきせぬやうに
201親切心(しんせつごころ)で友彦(ともひこ)が
202一寸(ちよつと)お前(まへ)に気(き)をつける
203教(をしへ)の道(みち)の友達(ともだち)の
204好誼(よしみ)ぢや程(ほど)に安公(やすこう)よ
205決(けつ)して仇(あだ)に聞(き)くでない
206天(あめ)が下(した)には敵(てき)も無(な)く
207一人(ひとり)も悪(あく)は無(な)い程(ほど)に
208心(こころ)の隔(へだ)ての柴垣(しばがき)を
209早(はや)く取(と)り除(の)け世(よ)の中(なか)の
210人(ひと)を残(のこ)らず仁愛(じんあい)の
211ミロクの眼(まなこ)で見(み)るならば
212尊(たふと)き神(かみ)の御子(みこ)ばかり
213高姫(たかひめ)さまに此(この)事(こと)を
214重(かさ)ねて云(い)うて置(お)くがよい
215別(わか)れに望(のぞ)んで友彦(ともひこ)が
216一寸(ちよつと)憎(にく)まれ口(ぐち)叩(たた)く
217あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
218御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
219と歌(うた)ひ乍(なが)ら夕焼(ゆふやけ)の空(そら)を打(う)ち仰(あふ)ぎつつ、220いそいそと我(わが)家(や)をさして帰(かへ)り往(ゆ)く。
221 友彦(ともひこ)の帰(かへ)り往(ゆ)く後姿(うしろすがた)の見(み)えぬ迄(まで)見送(みおく)つた安公(やすこう)は、
222安公(やすこう)『アヽとんでも無(な)い奴(やつ)がやつて来(き)やがつて、223いらぬ気(き)を揉(も)ましやがつた。224褒(ほ)めて去(い)なさうと思(おも)へば調子(てうし)に乗(の)つて這入(はい)らうとする。225仕方(しかた)が無(な)いから悪(わる)く云(い)つて帰(かへ)さうと思(おも)へば、226無理(むり)やりに戸(と)を押(お)し開(あ)けて這入(はい)らうとする。227困(こま)つた奴(やつ)だ。228あんな男(をとこ)を此(こ)の結構(けつこう)な日(ひ)の出神(でのかみ)のお館(やかた)へ入(い)れやうものなら、229又(また)高姫(たかひめ)さまが四足(よつあし)身魂(みたま)が来(き)たから、230此辺(ここら)が汚(けが)れたから、231塩(しほ)をふれ、232水(みづ)を撒(ま)け、233其辺(そこら)を掃(は)けと矢釜(やかま)しく仰有(おつしや)るに違(ちが)ひない。234此(この)広(ひろ)い庭前(ていぜん)を俺(おれ)達(たち)二人(ふたり)が何程(なにほど)鯱(しやち)んなつても、235お気(き)に入(い)るやうな事(こと)は出来(でき)はしない。236マアマア高姫(たかひめ)さまに分(わか)らいで掃除(さうぢ)だけは助(たす)かつた。237友彦(ともひこ)の奴(やつ)減(へ)らず口(ぐち)を叩(たた)きやがつて、238𧘕𧘔(かみしも)姿(すがた)でお出迎(でむか)ひせよと馬鹿(ばか)にしやがる。239併(しか)し俺(おれ)が一寸(ちよつと)其(その)場(ば)逃(のが)れにお仕着(しき)せ言葉(ことば)を使(つか)つたのが誤(あやま)りだ。240……何(なに)、241変説(へんせつ)改論(かいろん)の世(よ)の中(なか)、242日進(につしん)月歩(げつぽ)だ。243今日(こんにち)の哲学者(てつがくしや)の以(も)つて真理(しんり)となす所(ところ)、244必(かなら)ずしも明日(あす)は真理(しんり)でない。245又(また)夫(それ)以上(いじやう)の大真理(だいしんり)が発見(はつけん)せられたら、246今日(こんにち)の真理(しんり)は三文(さんもん)の価値(かち)も無(な)く社会(しやくわい)から葬(はうむ)られて仕舞(しま)ふのだ。247エヽそんな事(こと)考(かんが)へて取越(とりこし)苦労(くらう)をするのは馬鹿(ばか)らしい。248刹那心(せつなしん)を楽(たの)しむのだ。249あゝ今(いま)と云(い)ふ此(この)刹那(せつな)の心配(しんぱい)と云(い)うたら有(あ)つたものでない。250併(しか)しマア無事(ぶじ)に帰(かへ)つて呉(く)れたので、251俺(おれ)も今晩(こんばん)は足(あし)を長(なが)うして寝(ね)られるワイ』
252と口(くち)の中(なか)で呟(つぶや)いて居(ゐ)たが、253いつしか声高(こわだか)になり、254高姫(たかひめ)が小便(こやう)に往(い)つた帰(かへ)りがけ、255フト耳(みみ)に入(い)り、
256高姫(たかひめ)『これこれ安公(やすこう)さま、257お前(まへ)今(いま)大(おほ)きな声(こゑ)で何(なに)を云(い)つて居(ゐ)たの』
258安公(やすこう)『ハイ、259眼下(がんか)に瞳(ひとみ)を放(はな)てば淙々(そうそう)たる小雲(こくも)の清流(せいりう)老松(らうしよう)の枝(えだ)を浸(ひた)し、260清鮮(せいせん)溌溂(はつらつ)たる魚(うを)は梢(こずゑ)に躍(をど)る。261実(じつ)に天下(てんか)の絶景(ぜつけい)だ。262それにつけても此(この)お庭先(にはさき)、263勝公(かつこう)と安公(やすこう)さま両人(りやうにん)の丹精(たんせい)により、264実(じつ)に清浄(きれい)なものだ。265実(じつ)に一点(いつてん)の塵(ちり)もなく汚(けが)れも無(な)い。266まるで御(ご)主人(しゆじん)の身魂(みたま)に好(よ)く似(に)た綺麗(きれい)な庭先(にはさき)だと、267感歎(かんたん)して居(ゐ)た所(ところ)で御座(ござ)いますワイ』
268高姫(たかひめ)『友彦(ともひこ)が何(なん)とか、269……云(い)うて居(ゐ)たぢやないか』
270安公(やすこう)『ヘー、271……ヘヽヽヽー、272左様(さやう)で御座(ござ)います。273舳(へ)解(と)き放(はな)ち艫(とも)解(と)き放(はな)ち、274あの水面(すゐめん)を漕(こ)ぎ渡(わた)る船(ふね)の美(うつく)しさ。275兎(と)も角(かく)も何(なん)ともかんとも云(い)はれぬ、276結構(けつこう)な眺(なが)めだと云(い)つて居(ゐ)ましたのですよ』
277高姫(たかひめ)『これ安公(やすこう)さま、278お前(まへ)は掃除(さうぢ)するのが嫌(きら)ひだらう』
279安公(やすこう)『ハイ、280決(けつ)して決(けつ)して、281身魂(みたま)の洗濯(せんたく)、282心(こころ)の掃除(さうぢ)するために此(この)聖地(せいち)へ修業(しうげふ)に参(まゐ)り、283貴女(あなた)のお館(やかた)の掃除番(さうぢばん)をさして頂(いただ)き、284日々(にちにち)身魂(みたま)を結構(けつこう)に研(みが)かして貰(もら)うて居(ゐ)ます』
285高姫(たかひめ)『何(ど)うも糞彦(くそひこ)の匂(にほ)ひがする。286厠(かはや)の穴(あな)から抜(ぬ)け出(で)た男(をとこ)の友彦(ともひこ)が来(き)たのぢやないかな』
287安公(やすこう)『何(なん)とまア貴女(あなた)の鼻(はな)は能(よ)う利(き)きますね。288恰(まる)でワンワンさまのやうですわ』
289高姫(たかひめ)『私(わし)の云(い)ふ事(こと)なれば聞(き)いて下(くだ)さるかな』
290安公(やすこう)『ハイハイ如何(いか)なる事(こと)でも聞(き)きまする。291仮令(たとへ)貴女(あなた)が死(し)ねと仰有(おつしや)つても背(そむ)かずに聞(き)きまする』
292高姫(たかひめ)『耳(みみ)だけ聞(き)くのぢやないよ。293聞(き)くと云(い)ふのは行(おこな)ひをする事(こと)ぢや。294サア是(これ)から屋敷中(やしきぢう)隅(すみ)から隅(すみ)まで箒(はうき)で掃(は)き浄(きよ)め、295塩(しほ)をふり、296水(みづ)を一面(いちめん)に打(う)つて下(くだ)さい。297さうして此(この)雨戸(あまど)にも何(ど)うやら四足(よつあし)の手(て)で押(お)したやうな臭(にほひ)がする、298此(この)戸(と)の薄(うす)くなる程(ほど)砂(すな)で磨(みが)いて擦(こす)つて置(お)きなさい』
299安公(やすこう)『それや……些(ちつ)と……ぢや御座(ござ)いませぬか』
300高姫(たかひめ)『些(ちつ)とで不足(ふそく)なら座敷(ざしき)から厠(かはや)の中(なか)迄(まで)掃除(さうぢ)をさして上(あ)げやう。301人間(にんげん)は苦労(くらう)せなくては神(かみ)様(さま)の事(こと)は分(わか)りませぬぞエ』
302安公(やすこう)『チー……、303チツト……、304ムヽヽヽですな』
305高姫(たかひめ)『そんならとつとと今日(けふ)限(かぎ)り帰(かへ)つて下(くだ)さい』
306安公(やすこう)『勝公(かつこう)さまと二人(ふたり)で掃除(さうぢ)をさして頂(いただ)くのでせうなア』
307高姫(たかひめ)『勝公(かつこう)さまは炊事(すゐじ)万端(ばんたん)、308座敷(ざしき)の用(よう)もあるし、309一息(ひといき)の間(ま)も手(て)が抜(ぬ)けませぬ。310エヽ何(なん)だか汚(きたな)い臭(にほひ)がする。311是(これ)から夜(よ)が明(あ)けても構(かま)はぬ、312掃除(さうぢ)をするのだよ』
313安公(やすこう)『アヽ掃除(さうぢ)ですか』
314と力(ちから)無(な)げに頸垂(うなだ)れる。
315高姫(たかひめ)『安公(やすこう)さま、316間違(まちがひ)無(な)からうなア』
317安公(やすこう)『ヘエー……』
318と長返辞(ながへんじ)し乍(なが)ら水桶(みづをけ)を持(も)つて井戸端(ゐどばた)に、319のそりのそりと進(すす)み行(ゆ)く。320高姫(たかひめ)は細(ほそ)い廊下(らうか)を伝(つた)つて奥(おく)の間(ま)に姿(すがた)を隠(かく)した。
321 安公(やすこう)はブツブツ云(い)ひ乍(なが)ら、322十三夜(じふさんや)の月(つき)の光(ひかり)を幸(さいはひ)に、323さしもに広(ひろ)き庭(には)の面(おも)に、324深(ふか)い井戸(ゐど)から撥釣瓶(はねつるべ)に汲(く)み上(あ)げては手桶(てをけ)に移(うつ)し、325撒布(さんぷ)しながら、326小言(こごと)を云(い)つて居(ゐ)る。
327安公(やすこう)『アヽ大変(たいへん)な事(こと)が起(おこ)つて来(き)た。328天変(てんぺん)地異(ちい)よりも何(なに)よりも俺(おれ)に取(と)つては大問題(だいもんだい)だ。329大国治立(おほくにはるたちの)尊(みこと)様(さま)が三千(さんぜん)世界(せかい)をお立替(たてか)へ遊(あそ)ばし、330綺麗(きれい)薩張(さつぱり)水晶(すゐしやう)の世(よ)になさる以上(いじやう)の大神業(だいしんげふ)だ。331併(しか)し乍(なが)ら折角(せつかく)ちやんと掃除(さうぢ)を済(す)まし、332高姫(たかひめ)衛生(えいせい)委員長(ゐゐんちやう)の試験(しけん)にやつと合格(がふかく)して、333やれやれと息(いき)を入(い)れる時分(じぶん)に、334又(また)もや友彦(ともひこ)が明日(あす)になるとやつて来(き)よる。335さうすりや又(また)同(おな)じ事(こと)を繰返(くりかへ)さねばなるまい。336高姫(たかひめ)も高姫(たかひめ)じや、337友彦(ともひこ)も友彦(ともひこ)ぢや、338鷹(たか)とも鳶(とんび)とも、339鬼(おに)とも、340蛇(じや)とも、341馬鹿(ばか)とも、342何(なん)とも訳(わけ)の分(わか)らぬ代者(しろもの)の寄合(よりあひ)だ。343さうぢやと云(い)つて此(この)儘(まま)掃除(さうぢ)をせずに置(お)く訳(わけ)にも往(ゆ)かず、344是非(ぜひ)とも皆(みな)やらねばならぬ。345旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも、346月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも、347仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも、348友彦(ともひこ)の命(いのち)のある限(かぎ)り、349やつて来(こ)ぬとも分(わか)らない。350困(こま)つたものだ。351同(おな)じ神(かみ)さまの道(みち)に居(ゐ)ながら、352何故(なぜ)犬(いぬ)と猿(さる)のやうに仲(なか)が悪(わる)いのだらう。353共(とも)に手(て)を引(ひ)き合(あ)うて往(ゆ)かねばならぬ神(かみ)のお道(みち)、354とも角(かく)も困(こま)つたものだなア、355エヽ焼糞(やけくそ)だツ。
356(安公)『今日(けふ)は九(く)月(ぐわつ)の十三夜(じふさんや)
357俺(おれ)の副守(ふくしゆ)よ能(よ)つく聞(き)け
358必(かなら)ず忘(わす)れちやならないぞ
359こんな苦(くる)しい目(め)に遭(あ)ふも
360鼻赤(はなあか)男(をとこ)の友彦(ともひこ)が
361来(き)やがつたばかりに肉体(にくたい)も
362お前(まへ)も共(とも)に苦労(くらう)する
363苦労(くらう)するのがイヤなれば
364俺(おれ)の体(からだ)を一寸(ちよつと)放(はな)れ
365鼻赤(はなあか)天狗(てんぐ)に憑依(ひようい)して
366又(また)しても友彦(ともひこ)が来(こ)ぬやうに
367頭(あたま)を痛(いた)め足(あし)痛(いた)め
368鉄条網(てつでうまう)を張(は)つて呉(く)れ
369毎日(まいにち)日日(ひにち)来(こ)られては
370俺(おれ)の肉体(からだ)がつづかない
371あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
372叶(かな)はん叶(かな)はん耐(たま)らない
373叶(かな)はん時(とき)の神頼(かみだの)み
374同(おな)じ主人(あるじ)を持(も)つならば
375言依別(ことよりわけの)神(かみ)さまや
376杢助(もくすけ)さまのやうな人(ひと)
377神(かみ)さま持(も)たして下(くだ)しやんせ
378鼻高姫(はなたかひめ)の頑固者(ぐわんこもの)
379偏狭(へんけふ)な心(こころ)を出(だ)しよつて
380気(き)に喰(く)はぬ奴(やつ)が来(き)たと云(い)ひ
381汚(よご)れて臭(くさ)いとは何(なん)の事(こと)
382我(わが)儘(まま)気儘(きまま)も程(ほど)がある
383人(ひと)を使(つか)はうと思(おも)つたら
384一度(いちど)は使(つか)はれ見(み)るがよい
385高姫(たかひめ)さまのやうな人(ひと)
386弥(いよいよ)嫌(いや)になつて来(き)た
387是(これ)から此(この)家(や)を夜抜(よぬ)けして
388国依別(くによりわけ)か秋彦(あきひこ)の
389館(やかた)を指(さ)して逃(に)げ込(こ)まうか
390宇都山(うづやま)郷(ごう)の破屋(あばらや)の
391松鷹彦(まつたかひこ)の真似(まね)をした
392俺(おれ)は矢張(やつぱり)国(くに)さまの
393親(おや)の御霊(みたま)か知(し)れないぞ
394エヽエヽ思(おも)へば高姫(たかひめ)が
395小癪(こしやく)に触(さは)つて耐(たま)らない
396小癪(こしやく)に触(さは)つて耐(たま)らない
397小杓(こしやく)を握(にぎ)つた此(この)手(て)さへ
398びりびり震(ふる)ひ出(だ)して来(き)た
399エヽ邪魔(じやま)くさい邪魔(じやま)くさい』
400云(い)ふより早(はや)く水桶(みづをけ)を
401頭上(づじやう)に高(たか)く差(さ)し上(あ)げて
402庭(には)に並(なら)んだ捨(す)て石(いし)を
403睨(にら)んでどつと打(う)ちつける
404桶(をけ)は忽(たちま)ちめきめきと
405木(こ)つ端(ぱ)微塵(みじん)に潰滅(くわいめつ)し
406水(みづ)は一度(いちど)に飛(と)び散(ち)つて
407高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)其(その)外(ほか)の
408居間(ゐま)の障子(しやうじ)に打(ぶ)つ突(つ)かる
409高姫(たかひめ)驚(おどろ)き外面(そとも)をば
410眺(なが)める途端(とたん)に安公(やすこう)は
411『お前(まへ)は高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)か
412長(なが)らくお世話(せわ)になりました
413お前(まへ)のやうなえぐい人(ひと)
414誰(たれ)がヘイヘイハイハイと
415粗末(そまつ)な粗末(そまつ)な椀給(わんきふ)で
416御用(ごよう)聞(き)く奴(やつ)がありませうか
417一先(ひとま)づ御免(ごめん)候(さふら)へ』と
418後(あと)を振(ふ)り向(む)き振(ふ)り向(む)いて
419月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)びながら
420黍畠(きびばた)深(ふか)く隠(かく)れける。
421高姫(たかひめ)『エヽ仕方(しかた)のないものだ。422とうとう彼奴(あいつ)は国依別(くによりわけ)の悪霊(あくれい)に憑(つ)かれて仕舞(しま)つたな。423是(これ)から国依別(くによりわけ)の館(やかた)に行(ゆ)くと、424独言(ひとりごと)を云(い)うて居(ゐ)た。425四(よ)つ足(あし)身魂(みたま)が出(で)て来(く)ると、426碌(ろく)な事(こと)は一(ひと)つも出来(でき)はしない。427……なア黒姫(くろひめ)さま、428確(しつか)りしないと貴方(あなた)も何時(いつ)悪神(わるがみ)に憑依(ひようい)せられるか分(わか)りませぬぜ』
429黒姫(くろひめ)『オホヽヽヽ』
430 斯(か)かる所(ところ)へ勝公(かつこう)は、
431勝公(かつこう)『もしもし御(ご)一同(いちどう)さま、432大変(たいへん)に御飯(ごはん)が遅(おく)れて済(す)みませぬ。433どうぞ此(この)窓(まど)を開(あ)けて、434お月(つき)さまを見(み)乍(なが)ら、435悠(ゆつ)くりとお食(あが)り下(くだ)さいませ』
436高姫(たかひめ)『あゝ夫(それ)は御(ご)苦労(くらう)だつた。437お前(まへ)も早(はや)う御飯(ごはん)をお食(あが)り、438安公(やすこう)のやうに飛(と)び出(だ)さぬやうにして下(くだ)されや』
439勝公(かつこう)『ヘエ、440もう彼奴(あいつ)は飛(と)び出(だ)しましたかな。441ヤヽ仕舞(しま)つた。442先立(さきだ)たれたか、443残念(ざんねん)だ』
444高姫(たかひめ)『これこれ勝公(かつこう)さま、445お前(まへ)は何(なに)を云(い)ふのだ。446高姫館(たかひめやかた)が嫌(いや)になつたので、447抜(ぬ)け出(だ)す積(つも)りで居(ゐ)たのだらう』
448勝公(かつこう)『何(なん)だか聖地(せいち)の方々(かたがた)に対(たい)しても肩身(かたみ)が狭(せま)いやうな気(き)が致(いた)しましてなア。449立寄(たちよ)れば大木(おほぎ)の蔭(かげ)とやら、450何程(なにほど)此(この)お館(やかた)に大木(たいぼく)が沢山(たくさん)あつても、451箸(はし)と親分(おやぶん)は丈夫(ぢやうぶ)なのがよいとか申(まを)しましてな。452実(じつ)は一寸(ちよつと)思案(しあん)をして居(を)りますので御座(ござ)いますワイ』
453高姫(たかひめ)『宜敷(よろし)い、454旗色(はたいろ)のよい方(はう)につくのが当世(たうせい)だ。455体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の杢助(もくすけ)さまにでも引(ひ)き上(あ)げて貰(もら)ひなさい』
456勝公(かつこう)『今日(けふ)から此処(ここ)を出(だ)されては実(じつ)は困(こま)ります。457何(なん)と云(い)つても、458○○の留守(るす)をして居(を)つた奴(やつ)だからと云(い)つて、459誰(たれ)も彼(かれ)も排斥(はいせき)して使(つか)つて呉(く)れませぬから、460止(や)むを得(え)ず貴方(あなた)のお宅(たく)にお世話(せわ)になつて居(ゐ)ました。461よい口(くち)があれば誰(たれ)がこんな所(ところ)へ半時(はんとき)でも居(を)りませうか。462私(わたし)の口(くち)が出来(でき)る迄(まで)一寸(ちよつと)腰(こし)かけに置(お)いて下(くだ)さい』
463高姫(たかひめ)『エヽ汚(けが)らはしい。464そんな心(こころ)の人(ひと)はトツトと去(い)んで下(くだ)さい、465反吐(へど)が出(で)る』
466勝公(かつこう)『神(かみ)様(さま)は反吐(へど)の出(で)るやうな汚(きたな)い者(もの)を集(あつ)めて洗濯(せんたく)をなさるのぢやありませぬか。467清(きよ)らかな者(もの)計(ばか)りなら、468別(べつ)に教(をしへ)を立(た)てる必要(ひつえう)はありますまい。469高姫(たかひめ)さまもよい洗濯(せんたく)の材料(ざいれう)が出来(でき)たと思(おも)つて、470も少(すこ)し私(わたし)の身魂(みたま)を洗濯(せんたく)して下(くだ)さいな』
471高姫(たかひめ)『もう洗濯屋(せんたくや)は廃業(はいげふ)しました。472洗濯(せんたく)がして欲(ほつ)しければ一本木(いつぽんぎ)迄(まで)いつて来(き)なさい。473サアサアトツトと帰(かへ)つた帰(かへ)つた……とは云(い)ふものの、474明日(あす)から誰(たれ)が飯(めし)を炊(た)いて呉(く)れるだらう。475チヨツ、476いまいましいが、477そんなら暫(しばら)く置(お)いて上(あ)げよう』
478勝公(かつこう)『何(なん)だか安公(やすこう)が出(で)やがつてから俺(おれ)も出(で)たくなつた。479何(なん)ぼう置(お)いてやると云(い)うても居(を)る気(き)もせず、480あゝ仕方(しかた)がないなア』
481と小(ちい)さい声(こゑ)に呟(つぶや)きながら、482納戸(なんど)の方(はう)に姿(すがた)を隠(かく)した。
483(大正一一・七・二二 旧閏五・二八 加藤明子録)
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