霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 湖上(こじやう)の怪物(くわいぶつ)〔七九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻 篇:第4篇 竜神昇天 よみ(新仮名遣い):りゅうじんしょうてん
章:第12章 湖上の怪物 よみ(新仮名遣い):こじょうのかいぶつ 通し章番号:794
口述日:1922(大正11)年07月25日(旧06月02日) 口述場所: 筆録者:谷村真友 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年6月20日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
言依別命は、国依別らの身に変事があったとは思わず、一心不乱に神言を奏上しながら、千畳敷の岩石が散乱する谷間にやってきた。そこには山と山との間に紺碧の淵が広がり、風もないのに波騒いでいた。
若彦は波が騒いでいるのを見て、国依別が途中の太平柿を取って竜神の機嫌を損ねたのではないかと心配になる。
言依別と待っていると、常楠が息せききってやってきた。常楠はさいぜんの出来事を包み隠さず報告した。そこへ、国依別とチャール、ベースが宣伝歌を歌いながら登ってきた。
国依別はまた茶目っ気を出して軽口を叩いている。すると一陣の暴風が水面から吹き起こり、巨大な岩石を巻き上げる勢いになってきた。国依別は大木の幹に抱きついて必死に祈念していた。
言依別をはじめその他の人々は、暴風にも裾もふかれず端座していた。一同は国依別の様子を見てからかっている。国依別以外の人々には、暴風を感じていないようであった。言依別命は国依別をたしなめた。
夜が更けてきた。一同が月に祈願を凝らしていると、雨つぶてがばらばらと降ってきた。湖面は鉢のように窪みがいくつも生じてきた。雨が止まると湖底に火柱のようなものが横たわって輝き始めた。
四方の山々から怪音が響き出し、四辺は真っ暗となって見えなくなってしまった。湖面を渡ってくる白色の長大な怪物があった。白髪・髭を長く垂らして金色さんぜんたる角を生やし、口は耳まで裂け、金色の牙をむき出していた。
怪物は、竜神の眷属・竜若彦神であると名乗った。ハーリス山の竜神・大竜別命、大竜別姫命は、言依別命らが玉照彦・玉照姫の神命によって琉球の玉を受け取りに来たことを喜んでいる、と伝えた。
しかし言依別命幕下の国依別が、柿を盗んで喰ったために、眷属たちは大いに立腹し、琉球の玉を引き渡すことは考え直さなければならないと大評定の真っ最中であると伝えた。
国依別は自分が交渉しようと前に出ると、竜若彦命に対して、怪物の姿で現れて脅したことを非難した。また柿については、竜神が食べるわけでもないのに、人間に食べることを禁じて、天与の珍味を木に腐らせたことを、天恵を無視する大逆と非難した。
国依別が背水の陣で自棄になって力限りに天の数歌を歌うと、竜若彦命と名乗る竜神は次第に容積を減じて小さくなり、消えてしまった。
国依別は、竜神が執着心から難癖をつけて少しでも長く玉を手元に置いておこうとしていることを見抜き、水底に向かって、玉が三五教に渡るべき時節が来たことを告げ、大喝した。国依別の面はこのとき、崇高な威厳に満たされていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-11-02 18:36:44 文字数:4071 OBC :rm2712
愛善世界社版:203頁 八幡書店版:第5輯 315頁 修補版: 校定版:209頁 普及版:89頁 初版: ページ備考:
001 言依別(ことよりわけ)は若彦(わかひこ)と共(とも)に、002途中(とちう)に国依別(くによりわけ)の身(み)に対(たい)し、003斯(か)かる変事(へんじ)ありとは夢(ゆめ)にも知(し)らず一心(いつしん)不乱(ふらん)に神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し乍(なが)ら、004千畳敷(せんぜうじき)の岩石(がんせき)、005彼方(あなた)此方(こなた)に伍列(ごれつ)する谷間(たにま)に、006漸(やうや)く辿(たど)り着(つ)き、007目(め)を放(はな)てば紺碧(こんぺき)の淵(ふち)、008際限(さいげん)もなく山(やま)と山(やま)との谷間(たにま)に押(お)し拡(ひろ)がり、009風(かぜ)も無(な)きに波(なみ)高(たか)く立(た)ち騒(さわ)いで居(ゐ)る。010一見(いつけん)して実(じつ)に凄惨(せいさん)の気(き)に襲(おそ)はるる如(ごと)くである。011言依別(ことよりわけ)は後(あと)振(ふ)り返(かへ)り、
012言依別(ことよりわけ)『若彦(わかひこ)さま、013ここは琉(りう)と球(きう)との宝玉(ほうぎよく)を持(も)つて居(ゐ)る竜神(りうじん)の棲処(すみか)でせう』
014若彦(わかひこ)『ハイ左様(さやう)で御座(ござ)います。015今日(けふ)は大変(たいへん)に浪(なみ)が荒(あ)れて居(を)ります。016屹度(きつと)途中(とちう)に於(おい)て国依別(くによりわけ)、017常楠(つねくす)が、018何(なに)か神慮(しんりよ)に叶(かな)はぬ事(こと)を行(や)つたのではあるまいかと、019気(き)に掛(かか)つてなりませぬ。020………アレアレ御覧(ごらん)なさいませ。021此(この)無風(むふう)地帯(ちたい)に浪(なみ)は増々(ますます)荒(あら)くなつて来(き)たではありませぬか。022アレアレ山(やま)の如(ごと)き波(なみ)が立(た)つて来(き)ました』
023言依別(ことよりわけ)『成程(なるほど)、024此(この)湖水(こすゐ)は余程(よほど)趣(おもむ)きが違(ちが)つて居(を)ります。025此(この)波(なみ)の立(た)つ様子(やうす)から考(かんが)へても、026貴(たつと)き竜神(りうじん)が潜伏(せんぷく)して居(を)られるのは明(あきら)かであります。027併(しか)し乍(なが)ら国依別(くによりわけ)や常楠(つねくす)其(その)他(た)の方々(かたがた)は、028如何(どう)なつたのでせうか。029大変(たいへん)に遅(おそ)いぢやありませぬか』
030若彦(わかひこ)『途中(とちう)に於(おい)て、031竜神(りうじん)の守護(しゆご)すると云(い)ふ太平柿(たいへいがき)が、032枝(えだ)もたわわに実(み)のつて居(を)りましたが、033大方(おほかた)彼(あ)の柿(かき)でも国依別(くによりわけ)さまが取(と)つて喰(く)ひ、034竜神(りうじん)の怒(いか)りに触(ふ)れて、035一騒動(ひとさうどう)をオツ始(ぱじ)めて居(ゐ)るのではありますまいかと気(き)が気(き)でなりませぬ』
036言依別(ことよりわけ)『あの男(をとこ)は茶目(ちやめ)式(しき)で、037揶揄(からかひ)専門(せんもん)より外(ほか)に芸能(げいのう)のない男(をとこ)だ。038然(しか)し淡白(たんぱく)で正直(しやうぢき)で面白(おもしろ)い奴(やつ)だから、039人(ひと)の恐(おそ)れる柿(かき)を取(と)つて見(み)ようなぞと、040痩我慢(やせがまん)を出(だ)したのかも知(し)れませぬよ。041常楠翁(つねくすをう)は実(じつ)に真面目(まじめ)な人(ひと)だから、042矢張(やつぱり)国依別(くによりわけ)の巧(うま)い口(くち)に乗(の)せられて、043犠牲(まきぞへ)を喰(く)つて居(ゐ)るのでせう。044何(なに)は兎(と)もあれ一同(いちどう)無事(ぶじ)な様(やう)に此処(ここ)で祈願(きぐわん)を致(いた)しませう』
045と両手(りやうて)を合(あは)せ、046湖面(こめん)に向(むか)つて両人(りやうにん)は天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、047天(あま)の数歌(かずうた)を唄(うた)ひ上(あ)げて稍(やや)時(とき)を費(つい)やした。
048 木(こ)の間(ま)を漏(も)れて笠(かさ)が揺(ゆら)ついて来(く)る。049よくよく見(み)れば常楠(つねくす)は只(ただ)一人(ひとり)、050息(いき)せききつて登(のぼ)り来(きた)り、051二人(ふたり)の前(まへ)に手(て)を突(つ)いて、
052常楠(つねくす)『ドウも御(お)待(ま)たせ致(いた)しました。053嘸(さぞ)御(ご)退屈(たいくつ)で居(ゐ)らせられたでせう。054これには少(すこ)し訳(わけ)が御座(ござ)いますので、055ツイ時間(じかん)を潰(つぶ)しました。056どうぞ御(お)赦(ゆる)しを願(ねが)ひたう御座(ござ)います』
057言依別(ことよりわけ)『大方(おほかた)国依別(くによりわけ)が、058竜神(りうじん)の柿(かき)を採(と)つて喰(く)つたのぢやありませぬか』
059常楠(つねくす)『ハイ其(その)為(た)めに大変(たいへん)な珍事(ちんじ)突発(とつぱつ)致(いた)し、060イヤもう気(き)を揉(も)みましたが、061稍(やや)安心(あんしん)する事(こと)が出来(でき)ましたので、062取(と)るものも取(と)り敢(あへ)ず、063此処迄(ここまで)急(いそ)いで登(のぼ)つて参(まゐ)りました』
064と息(いき)をつぎつぎ苦(くる)しさうに物語(ものがた)る。065言依別(ことよりわけ)は膝(ひざ)を進(すす)め猶(なほ)も次(つぎ)から次(つぎ)へと、066詳細(しやうさい)に尋(たづ)ねた。067常楠(つねくす)は有(あ)りし事(こと)ども一切(いつさい)包(つつ)まず隠(かく)さず物語(ものがた)つた。
068 三(さん)人(にん)は又(また)もや国依別(くによりわけ)の無事(ぶじ)を祝(しゆく)し、069再(ふたた)び感謝(かんしや)祈願(きぐわん)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)しつつあつた。070其処(そこ)へ以前(いぜん)の歌(うた)を歌(うた)ひ乍(なが)ら、071意気(いき)揚々(やうやう)として国依別(くによりわけ)は、072チヤール、073ベース外(ほか)五(ご)人(にん)を引(ひ)き連(つ)れ、074三(さん)人(にん)の前(まへ)に現(あら)はれ、075頭(あたま)を掻(か)き乍(なが)ら、
076国依別(くによりわけ)『イヤどうも、077長(なが)らく御(お)待(ま)たせ申(まを)して申訳(まをしわけ)が御座(ござ)いませぬ。078様子(やうす)は残(のこ)らず常楠翁(つねくすをう)から御(お)聞取(ききとり)の事(こと)と存(ぞん)じますれば、079何(なに)も申上(まをしあ)げませぬ。080これにて私(わたし)も副(ふく)守護神(しゆごじん)の茶目坊(ちやめぼう)が悉皆(しつかい)退散(たいさん)致(いた)しまして、081本当(ほんたう)に真摯(しんし)な、082率直(そつちよく)な、083清廉(せいれん)な、084潔白(けつぱく)な、085勇壮(ゆうさう)活溌(くわつぱつ)な人物(じんぶつ)に生(うま)れ代(かは)りました』
086若彦(わかひこ)『アハヽヽヽ、087国依別(くによりわけ)さま、088茶目坊(ちやめぼう)は……益々(ますます)猛烈(ひどく)なつたぢやありませぬか』
089国依別(くによりわけ)『灯火(とうくわ)の滅(めつ)せんとするや其(その)光(ひかり)殊(こと)に強(つよ)し……とか云(い)つて、090副守(ふくしゆ)の奴(やつ)、091今(いま)や滅亡(めつぼう)の断末魔(だんまつま)の悲痛(ひつう)の叫(さけ)びで御座(ござ)います。092実(じつ)に悲痛(ひつ)こい守護神(しゆごじん)で、093国依別(くによりわけ)も誠(まこと)に迷惑(めいわく)千万(せんばん)。094チヤール、095ベースの両人(りやうにん)も、096鰒(ふぐ)の如(ごと)く腹(はら)膨(ふく)れ、097臨月(りんげつ)の女房(にようばう)が三(み)ツ児腹(ごばら)を抱(かか)へた様(やう)な体裁(ていさい)、098ウンウンキヤアキヤア唸(うな)り通(とほ)し、099揚句(あげく)にや皮癬(ひぜん)掻(か)いて、100おまけに疳瘡(かんさう)で、101陰金(いんきん)たむしで………』
102若彦(わかひこ)『国依別(くによりわけ)さま、103又(また)脱線(だつせん)しましたぞ。104好(い)い加減(かげん)に茶目坊(ちやめぼう)を追(お)ひ出(だ)しなさらぬか』
105国依別(くによりわけ)『何程(なにほど)チヤール、106ベース坊(ぼう)を追(お)ひ出(だ)さうと思(おも)うても、107私(わたし)に引付(ひつつ)いて生命(いのち)の親(おや)ぢやと思(おも)うて、108副守(ふくしゆ)が放(はな)れぬのですから仕方(しかた)がありませぬ……なア、109チヤール、110ベース、111若彦(わかひこ)さまの仰有(おつしや)る通(とほ)り、112モウ私(わたし)の副(ふく)守護神(しゆごじん)になる必要(ひつえう)はないから、113トツトと離(はな)れて下(くだ)さい』
114常楠(つねくす)『オホヽヽヽ、115何(なん)とまア、116戦場(せんぢやう)に臨(のぞ)んで気楽(きらく)な事(こと)を言(い)うて居(を)る方(かた)だ事(こと)』
117国依別(くによりわけ)『強敵(きやうてき)を前(まへ)に控(ひか)へて横笛(よこぶえ)を吹(ふ)き、118悠揚(いうやう)迫(せま)らざる其(その)態度(たいど)、119これで無(な)くては本当(ほんたう)の言霊戦(ことたません)に参加(さんか)し、120大勝利(だいしようり)を羸(か)ち得(う)る事(こと)は不可能(ふかのう)でせう。121アハヽヽヽ』
122 此(この)時(とき)一陣(いちぢん)の暴風(ばうふう)水面(すゐめん)より吹(ふ)き起(おこ)り、123巨大(きよだい)なる岩石(がんせき)迄(まで)空中(くうちう)に巻(ま)き上(あ)げる勢(いきほひ)となつて来(き)た。124「コリヤ大変(たいへん)」と国依別(くによりわけ)は、125大木(たいぼく)の幹(みき)に抱付(だきつ)き、126一生(いつしやう)懸命(けんめい)に声(こゑ)迄(まで)震(ふる)はせて祈念(きねん)して居(ゐ)る。127何故(なにゆゑ)か言依別(ことよりわけ)、128若彦(わかひこ)、129常楠(つねくす)其(その)他(た)一同(いちどう)は、130さしもの暴風(ばうふう)に裾(すそ)さへも吹(ふ)かれず依然(いぜん)として其(その)場(ば)に端坐(たんざ)して居(ゐ)た。
131言依別(ことよりわけ)『国依別(くによりわけ)さま、132強敵(きやうてき)を前(まへ)に控(ひか)へて、133余裕(よゆう)綽々(しやくしやく)たる貴下(あなた)の態度(たいど)、134実(じつ)に感(かん)じ入(い)りました』
135 若彦(わかひこ)可笑(をか)しさを耐(こら)へて「キユーキユーキユープー」と吹(ふ)き出(だ)して居(ゐ)る。136常楠(つねくす)は真面目(まじめ)な顔(かほ)をして控(ひか)へて居(ゐ)る。
137国依別(くによりわけ)『綽々(しやくしやく)として根(ね)つから余裕(よゆう)は有(あ)りませぬ。138神直日(かむなほひ)、139大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)して下(くだ)さいませ。140どうぞ此(この)烈風(れつぷう)を止(と)まるやうに御(ご)祈念(きねん)して下(くだ)さい。141あのやうな大岩石(だいがんせき)が頭上(づじやう)に落下(らくか)しようものなら、142それこそ五体(ごたい)は微塵(みじん)になりませう。143何(なん)だか体躯(からだ)の筋肉(きんにく)が細密(さいみつ)に活動(くわつどう)し初(はじ)めました』
144若彦(わかひこ)『国依別(くによりわけ)さま、145何処(どこ)に烈風(れつぷう)が吹(ふ)いて居(を)りますか。146少(すこ)し風(かぜ)が欲(ほ)しい位(くらゐ)だ。147余(あま)り暑(あつ)いからなア……貴下(あなた)の目(め)には風(かぜ)が吹(ふ)くやうに見(み)えますか』
148国依別(くによりわけ)『アヽどうしても……コリヤ……私(わたくし)はどうかして居(を)るワイ。149ほんに矢張(やつぱり)風(かぜ)は吹(ふ)いて居(を)りませぬなア。150大方(おほかた)過去(くわこ)か未来(みらい)の烈風(れつぷう)の惨状(さんじやう)が時間(じかん)空間(くうかん)を超越(てうゑつ)して、151私(わたくし)の目(め)に映(うつ)つたのでせう』
152若彦(わかひこ)『何処迄(どこまで)も徹底(てつてい)した何々(なになに)ですな、153アハヽヽヽ』
154と笑(わら)ふ。
155 言依別(ことよりわけの)命(みこと)は厳然(げんぜん)として、
156言依別(ことよりわけ)『サア、157国依別(くによりわけ)さま、158是(これ)からが正念場(しやうねんば)だ。159今晩(こんばん)は此(この)谷間(たにま)の湖水(こすゐ)を眺(なが)めて祈願(きぐわん)を凝(こ)らし、160竜神(りうじん)の宝玉(ほうぎよく)を受取(うけと)らねばならない、161大切(たいせつ)な用(よう)でありますぞ。162是(これ)限(かぎ)り真面目(まじめ)になつて善言(ぜんげん)美詞(びし)の一点張(いつてんば)り、163気(き)を付(つ)けなされませ』
164国依別(くによりわけ)『ハイ』
165と淑(しと)やかに夢(ゆめ)から覚(さ)めたる如(ごと)く、166両手(りやうて)を突(つ)き真面目(まじめ)くさつて、167頭(あたま)を下(さ)げて居(ゐ)る。168一同(いちどう)は三間(さんげん)計(ばか)り距離(きより)を隔(へだ)てて、169谷川(たにがは)の湖辺(こへん)に伍列(ごれつ)する岩影(いはかげ)に身(み)を忍(しの)ばせ、170暗祈(あんき)黙祷(もくたう)し乍(なが)ら時(とき)の移(うつ)るを待(ま)つ事(こと)とした。
171 夜(よ)は追々(おひおひ)と更(ふ)けて来(く)る。172西(にし)から東(ひがし)から延長(えんちやう)した、173山(やま)と山(やま)との谷間(たにま)は、174二十三(にじふさん)夜(や)の利鎌(とがま)の様(やう)な月(つき)、175漸(やうや)く雲(くも)を押(お)し分(わ)けて昇(のぼ)つて来(き)た。176一同(いちどう)は月光(げつくわう)に向(むか)つて祈願(きぐわん)を凝(こ)らし居(を)る際(さい)、177礫(つぶて)の雨(あめ)、178まばらにパラパラと石(いし)を撒(ま)くやうに降(ふ)つて来(き)た。179湖面(こめん)を見(み)れば幾(いく)つともなく、180水鉢(みづばち)を並(なら)べた様(やう)に水面(すゐめん)に凹(くぼ)みを印(いん)し、181円(まる)き波紋(はもん)は互(たがひ)に重(かさ)なり重(かさ)なりて、182時計(とけい)の蓋(ふた)の生地(きぢ)の様(やう)に見(み)えて来(き)た。183暫(しばら)くにして大粒(おほつぶ)の雨(あめ)は止(と)まつた。184湖底(うみぞこ)に得(え)も言(い)はれぬ蜒々(えんえん)たる火柱(ひばしら)の如(ごと)きもの横(よこ)たはり輝(かがや)き初(はじ)めた。185一同(いちどう)は声(こゑ)を潜(ひそ)めて、186此(この)光景(くわうけい)を見守(みまも)つて居(ゐ)る。187微妙(びめう)の音楽(おんがく)に引(ひき)かへ、188四辺(あたり)の谷々(たにだに)山々(やまやま)より何(なん)とも云(い)へぬ殺風景(さつぷうけい)な怪音(くわいおん)が一(いち)時(じ)に響(ひび)いて来(き)た。189大地(だいち)は唸(うな)りを立(た)てて震動(しんどう)し、190一同(いちどう)の体(からだ)迄(まで)がビリビリと響(ひび)き出(だ)した。191忽(たちま)ち四辺(しへん)は暗澹(あんたん)として咫尺(しせき)を弁(べん)ぜざるに立至(たちいた)つた。
192 其(その)時(とき)忽然(こつぜん)として波(なみ)の上(うへ)を歩(あゆ)み乍(なが)ら、193此方(こなた)に向(むか)つて進(すす)み来(きた)る白色(はくしよく)の長大(ちやうだい)なる怪物(くわいぶつ)がある。194近(ちか)づくに従(したが)つてよくよく見(み)れば、195頭髪(とうはつ)飽迄(あくまで)白(しろ)く背後(はいご)に垂(た)れ、196髯(ひげ)は臍(へそ)の辺(あたり)まで垂(た)らし、197顔(かほ)は紅(べに)の如(ごと)く目(め)は鏡(かがみ)の如(ごと)く、198金色(きんしよく)燦然(さんぜん)たる二本(にほん)の角(つの)四五寸(しごすん)許(ばか)りのもの、199額(ひたい)の左右(さいう)に行儀(ぎやうぎ)よく並立(へいりつ)し、200耳(みみ)迄(まで)引裂(ひきさ)けたる鰐口(わにぐち)に金色(きんしよく)の牙(きば)を剥(む)き出(だ)し、201何(なん)とも言(い)へぬ妙(めう)な石原(いしばら)薬鑵声(やくわんごゑ)で、
202怪物(くわいぶつ)『我(われ)こそはハーリス山(ざん)の竜神(りうじん)、203大竜別(おほたつわけの)命(みこと)、204大竜姫(おほたつひめの)命(みこと)の一(いち)の眷属(けんぞく)、205竜若彦(たつわかひこの)神(かみ)であるぞよ。206其(その)方(はう)事(こと)聖地(せいち)に於(おい)て、207玉照彦(たまてるひこ)、208玉照姫(たまてるひめの)命(みこと)より神命(しんめい)を奉(ほう)じ、209琉(りう)、210球(きう)の宝玉(ほうぎよく)を大竜別(おほたつわけの)命(みこと)、211大竜姫(おほたつひめの)命(みこと)より受取(うけと)らんと、212遥々(はるばる)此処(ここ)に来(きた)れる事(こと)、213大神(おほかみ)様(さま)に於(おい)ても止(や)むを得(え)ずとして、214御(ご)満足(まんぞく)遊(あそ)ばして御座(ござ)る。215併(しか)し乍(なが)ら言依別(ことよりわけの)命(みこと)の幕下(ばくか)に仕(つか)ふる、216国依別(くによりわけの)命(みこと)、217竜神(りうじん)の柿(かき)を盗(ぬす)み喰(くら)ひし其(その)為(た)めに、218我(わが)眷属(けんぞく)共(ども)大(おほい)に立腹(りつぷく)致(いた)し、219斯(か)かる天地(てんち)の道理(だうり)を弁(わきま)へざる家来(けらい)を持(も)つ言依別(ことよりわけ)に渡(わた)す事(こと)は、220一(ひと)つ考(かんが)へねばならぬと大変(たいへん)な大評定(だいへうぢやう)で御座(ござ)る。221も一度(いちど)聖地(せいち)へ帰(かへ)り、222出直(でなほ)して修行(しうぎやう)を一(いち)から行(や)り替(か)へ、223改(あらた)めて二(ふた)つの宝玉(ほうぎよく)を御(お)迎(むか)ひに参(まゐ)つたがよからうぞ』
224若彦(わかひこ)『それ見(み)よ、225国依別(くによりわけ)さま、226お前(まへ)一人(ひとり)で皆(みな)の者(もの)が総崩(そうくづ)れになつたぢやないか。227それだから一匹(いつぴき)の馬(うま)が狂(くる)へば千匹(せんびき)の馬(うま)が狂(くる)うと云(い)ふのだ』
228国依別(くによりわけ)『八釜敷(やかまし)う云(い)ふな。229俺(おれ)が竜若彦(たつわかひこ)に直接(ちよくせつ)談判(だんぱん)をやつて、230見(み)ん事(ごと)受取(うけと)つて帰(かへ)る。231……コラコラ竜若彦(たつわかひこ)とやら、232汝(なんぢ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)に向(むか)つて、233礼儀(れいぎ)を知(し)らず不届(ふとど)きな奴(やつ)だ。234種々(いろいろ)と化様(ばけやう)もあらうに、235其(その)方(はう)の失敬(しつけい)千万(せんばん)なる顔(かほ)は一体(いつたい)何(なん)だ。236人(ひと)に対(たい)する時(とき)は最(もつと)も美(うる)はしき顔色(かんばせ)を以(もつ)て、237笑顔(ゑがほ)を十二分(じふにぶん)に湛(たた)え、238挨拶(あいさつ)するが神(かみ)の礼儀(れいぎ)なるに、239鬼面(きめん)人(ひと)を驚(おどろ)かすと云(い)ふ、240其(その)方(はう)の遣(や)り方(かた)、241国依別(くによりわけ)中々(なかなか)承知(しようち)仕(つかまつ)らぬぞ。242これに返答(へんたふ)有(あ)らば承(うけたま)はらう。243……又(また)竜神(りうじん)の柿(かき)を採(と)り喰(くら)ひしを、244汝(なんぢ)は非常(ひじやう)に罪悪(ざいあく)の如(ごと)く今(いま)申(まを)したが、245彼(あ)の柿(かき)なるもの、246竜神(りうじん)の平素(へいそ)食(しよく)す可(べ)きものなるや返答(へんたふ)聞(き)かう。247柿(かき)は人間(にんげん)の喰(く)うべきもの、248人間(にんげん)に次(つ)いでは猿(さる)、249烏(からす)の食(しよく)す可(べ)き物(もの)だ。250人(ひと)にも喰(く)はさず、251棚(たな)にも置(お)かず、252あたら天与(てんよ)の珍味(ちんみ)を毎年(まいねん)木(き)に腐(くさ)らし、253天恵(てんけい)を無視(むし)する大逆(だいぎやく)無道(ぶだう)、254国依別(くによりわけ)…サアこれより言霊(ことたま)の神力(しんりき)を以(もつ)て、255汝(なんぢ)等(ら)は申(まを)すに及(およ)ばず、256大竜別(おほたつわけの)命(みこと)、257大竜姫(おほたつひめの)命(みこと)を言向(ことむ)け和(やは)し、258天晴(あつぱれ)、259琉(りう)、260球(きう)の玉(たま)を奉(たてまつ)らせ呉(く)れん。261此(この)方(はう)の言(げん)に向(むか)つて一言(いちごん)の弁解(べんかい)あるか……一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)………』
262と国依別(くによりわけ)は自暴自棄(やけくそ)になり、263背水(はいすゐ)の陣(ぢん)を張(は)つて力(ちから)限(かぎ)りに言霊(ことたま)を奏上(そうじやう)した。264竜若彦(たつわかひこの)命(みこと)と称(しよう)する怪物(くわいぶつ)は、265次第(しだい)々々(しだい)に容積(ようせき)を減(げん)じ、266遂(つひ)には豆(まめ)の如(ごと)くになつて消(き)えて了(しま)つた。267国依別(くによりわけ)は、
268国依別(くによりわけ)『アハヽヽヽ、269コレ若彦(わかひこ)さま、270御(ご)心配(しんぱい)御(ご)無用(むよう)になされませ。271これより国依別(くによりわけ)、272飽迄(あくまで)も言霊(ことたま)を以(もつ)て奮戦(ふんせん)し、273目的(もくてき)の琉(りう)、274球(きう)の宝玉(ほうぎよく)を受取(うけと)つて見(み)せませう。275最早(もはや)吾々(われわれ)に渡(わた)す可(べ)き時機(じき)が到来(たうらい)したのだ。276さうでなくては大神(おほかみ)の直司(ぢきつかさ)なる、277玉照彦(たまてるひこ)様(さま)、278玉照姫(たまてるひめ)様(さま)が何(なに)しに教主(けうしゆ)に御(ご)命令(めいれい)あるものか。279此(この)竜神(りうじん)執着心(しふちやくしん)未(いま)だ晴(は)れやらず、280小(ちい)さき事(こと)にかこ付(つ)けて、281すつた揉(も)んだと一(いち)日(にち)なりとも永(なが)く手(て)に持(も)たんと、282吝嗇(けち)な奴根性(どこんじやう)から申(まを)して居(ゐ)たのである。283………ヤアヤア湖底(こてい)にある竜神(りうじん)、284よつく聞(き)け。285三五教(あななひけう)の神(かみ)の司(つかさ)言依別(ことよりわけの)命(みこと)、286国依別(くによりわけの)命(みこと)、287若彦(わかひこ)、288常楠(つねくす)の四魂(しこん)揃(そろ)うて玉(たま)受取(うけと)りに向(むか)うたり。289時節(じせつ)には叶(かな)ふまい、290速(すみや)かに我(わが)前(まへ)に持来(もちきた)り目出度(めでた)く授受(じゆじゆ)を終(をは)れツ』
291と大喝(だいかつ)した。292此(この)時(とき)の国依別(くによりわけ)の顔面(がんめん)は、293四辺(あたり)を射(い)るが如(ごと)く崇高(すうかう)なる権威(けんゐ)に、294何処(どこ)となく充(みた)されて居(を)つた。
295(大正一一・七・二五 旧六・二 谷村真友録)
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