霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 女神(めがみの)託宣(たくせん)〔七九一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻 篇:第3篇 神仙霊境 よみ(新仮名遣い):しんせんれいきょう
章:第9章 女神託宣 よみ(新仮名遣い):めがみのたくせん 通し章番号:791
口述日:1922(大正11)年07月25日(旧06月02日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年6月20日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
国依別は、もし数万の土人の襲来であれば衆寡敵せず、三五教は権謀術数は禁じられているが、ここは言依別命が熟睡しているのを幸い、茶目式で土人たちを驚かせて荒肝を取ってやろうと一人ごちた。
見れば、人々は白髪の老人を先頭に洞に近づいて来る。国依別は突然、虎狼が吠え猛るような唸り声を発した。声は洞穴に反響して、いっそう大きくなった。
外の男たちが二三人、小声で相談するのが聞こえた。人々は、ハーリス山の竜神征服のために出かけていたが、国依別の吠え声を聞いて、その間に虎狼か、あるいは竜神の片割れが洞穴に入り込んだと思い込んでいるようであった。そして、数歌を歌って征服しようか、と相談している。
国依別はこれを聞くと、先にこちらから数歌を怒鳴って聞かせた。人々は驚いて、魔神に自分たちの位置を悟られないようにといっせいに松明の火を消してしまった。あたりは真っ暗になった。
大勢の中から一人の男が大幣を打ち振りながらやってきて、洞穴の中の国依別に、正体を現すようにと問いかけた。国依別はその声に聞き覚えがあるように思ったが、ここぞとばかり南洋語でまくしたてた。
琉球の人々の中から現れたのは、若彦であった。国依別はハーリス山の竜神の振りをして若彦に語りかけて託宣を告げた。若彦は、一緒にいた常楠に、人々に竜神の託宣を告げるように言ったが、常楠は、声色が国依別の仕業ではないかと疑っていた。
国依別はなおも洞穴の中から話していたが、地声が現れてしまった。国依別はまた作り声に戻したが、問答するうちについに正体を現してしまった。
言依別命は目を覚まし、常楠と若彦が来ているだろうと声をかけた。一同は座して改めて会した。若彦は久しぶりの教主との対面となり、常楠は初対面となった。
常楠の語るに、先日から若彦の供としてこの島に渡り、ハーリス山の竜神と言霊戦を開始しているとのことであった。そのおかげで暴風が収まり、島人たちが二人を尊敬するようになった、また竜神は九分九厘恭順しており、あと一息執着心を絶てば宝玉を明け渡すところまで来ている、と報告した。
言依別命は、国依別の茶目式をたしなめた。夜が明けると、言依別命は四五十人の島人たちを引き連れて、ハーリス山に登って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-10-29 18:28:33 文字数:5807 OBC :rm2709
愛善世界社版:153頁 八幡書店版:第5輯 298頁 修補版: 校定版:159頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 国依別(くによりわけ)は空洞(くうどう)の入口(いりぐち)に立(た)ち、002刻々(こくこく)に近(ちか)より来(きた)る人影(ひとかげ)、003篝火(かがりび)の光(ひかり)を眺(なが)めて独語(ひとりごと)、
004国依別(くによりわけ)『あの仰々(ぎやうぎやう)しい松明(たいまつ)の光(ひか)り、005数多(あまた)の人(ひと)の足音(あしおと)、006唯事(ただごと)ではあるまい。007万一(まんいち)猛悪(まうあく)なる土人(どじん)の襲来(しふらい)せし者(もの)とすれば、008到底(たうてい)我々(われわれ)一人(ひとり)や二人(ふたり)、009如何(いか)に言霊(ことたま)の神力(しんりき)を応用(おうよう)すればとて、010容易(ようい)に降服(かうふく)致(いた)すまい。011権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)は神(かみ)の許(ゆる)し玉(たま)はざる所(ところ)なれ共(ども)、012爰(ここ)は一(ひと)つ言依別(ことよりわけ)様(さま)の御(お)睡眠(やすみ)を幸(さいは)ひ茶目(ちやめ)式(しき)を発揮(はつき)して、013裏手(うらて)を用(もち)ひ、014寄(よ)せ来(く)る数万(すうまん)の連中(れんちう)をアツと驚(おどろ)かせ、015荒肝(あらぎも)を取(と)りて置(お)かねばなるまい。016オヽさうぢや さうぢや』
017と諾(うなづ)き乍(なが)ら入口(いりぐち)の暗(くら)がりに、018ボンヤリと浮(う)いた様(やう)に立(た)つて居(ゐ)る。019最早(もはや)間近(まぢか)くなつて来(き)た。020暗(くら)がりにも確(たしか)に男女(なんによ)の区別(くべつ)位(くらゐ)はつく様(やう)になつた。021先頭(せんとう)に立(た)つた人(ひと)の姿(すがた)を見(み)れば、022確(たしか)に白髪(はくはつ)の老人(らうじん)らしい。023国依別(くによりわけ)は突然(とつぜん)洞穴内(どうけつない)より虎(とら)狼(おほかみ)の吼(ほ)えたける如(ごと)き唸(うな)り声(ごゑ)を立(た)て、024力(ちから)限(かぎ)り、
025国依別『ウーツ』
026と唸(うな)つてみた。027其(その)声(こゑ)は洞穴内(どうけつない)に反響(はんきやう)して一層(いつそう)巨声(きよせい)になつた。028外(そと)の男(をとこ)二三(にさん)人(にん)小声(こごゑ)で、
029男(をとこ)『ヤアこりや大変(たいへん)だぞ。030我々(われわれ)がハーリス山(ざん)へ竜神(りうじん)征服(せいふく)の為(ため)に行(い)つて居(を)つた不在中(るすちう)に、031何(なん)だか怪(あや)しい虎(とら)狼(おほかみ)か或(あるひ)は竜神(りうじん)の片割(かたわ)れか、032先廻(さきまは)りして我々(われわれ)の天然(てんねん)ホテルを占領(せんりやう)しやがつたと見(み)える。033コリヤうつかり這入(はい)らうものなら大変(たいへん)だぞ。034オイどうだ。035数歌(かずうた)を唱(とな)へて征服(せいふく)して見(み)ようぢやないか』
036 国依別(くによりわけ)はさとくも其(その)囁(ささやき)の一端(いつたん)を耳(みみ)に挟(はさ)み、
037国依別(くによりわけ)『ヤア面白(おもしろ)い、038虎(とら)狼(おほかみ)か竜神(りうじん)の片割(かたわ)れだらうと云(い)つて居(を)るな。039ヨシ此方(こつち)にも覚悟(かくご)がある』
040と独語(ひとりごち)し乍(なが)ら、041満身(まんしん)の息(いき)をこめて、042反対(はんたい)にこちらから「一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)」と含(ふく)んだ様(やう)な声(こゑ)でワザと呶鳴(どな)つて見(み)せた。043此(この)声(こゑ)と共(とも)に今迄(いままで)木(こ)の間(ま)に瞬(またた)いてゐた松明(たいまつ)は言(い)ひ合(あ)はした様(やう)にパツタリと消(き)えて、044洞穴(どうけつ)の内外(ないぐわい)は真(しん)の暗(やみ)となつて了(しま)つた。045寄(よ)せ手(て)は驚(おどろ)いて、046魔神(まがみ)に自分(じぶん)等(ら)の所在(ありか)を探(さぐ)られない為(ため)と火(ひ)を消(け)したのであつた。047外(そと)からは流暢(りうちやう)な声(こゑ)で天(あま)の数歌(かずうた)が聞(きこ)えて来(き)た。048一同(いちどう)はそれに合(あは)して、049森林(しんりん)の木谺(こだま)に響(ひび)く声(こゑ)、050天(てん)にも届(とど)く許(ばか)り思(おも)はれた。051大勢(おほぜい)の中(なか)より一人(ひとり)の男(をとこ)稍(やや)近(ちか)くに進(すす)み来(きた)り、052大麻(おほぬさ)を左右左(さいうさ)に打振(うちふ)り乍(なが)ら、
053男(をとこ)『ヤア我々(われわれ)の不在中(ふざいちう)を狙(ねら)つて住(す)み込(こ)む奴(やつ)は大蛇(をろち)か、054曲鬼(まがおに)か、055或(あるひ)は猛獣(まうじう)か、056言語(げんご)の通(つう)ずるものならば、057速(すみや)かに返答(へんたふ)致(いた)せ。058それとも畜生(ちくしやう)ならば、059一刻(いつこく)も早(はや)く此処(ここ)を退散(たいさん)致(いた)せ。060若(も)し神(かみ)様(さま)ならば御名(みな)を名乗(なの)らせ玉(たま)へ』
061 国依別(くによりわけ)は何(なん)だか其(その)言葉(ことば)に馴染(なじみ)のある様(やう)な気分(きぶん)がした。062併(しか)し乍(なが)ら此(この)琉球(りうきう)の離(はな)れ島(じま)に我々(われわれ)の知人(ちじん)が来(き)て居(を)るべき筈(はず)もない。063あの声(こゑ)は確(たしか)に男子(だんし)であつた。064さうして何(なん)となく言霊(ことたま)が冴(さ)えて居(ゐ)た。065こりや決(けつ)して案(あん)ずるには及(およ)ぶまい。066機先(きせん)を制(せい)するは今(いま)の此(この)時(とき)だ……と心(こころ)に思(おも)ひ乍(なが)ら、067暗(くら)がりを幸(さいは)ひ、
068国依別(くによりわけ)『アール、069シヤイト、070チーチヤーバンド、071ジヤンジヤヘール、072サーチライト、073パツクス、074エール、075シーエー、076ピツク、077ホース』
078と云(い)つた。
079外(そと)の男(をとこ)『ヤア此奴(こいつ)ア南洋(なんやう)の土人(どじん)が漂着(へうちやく)して来(き)よつたのだなア。080天(あま)の数歌(かずうた)まがひの事(こと)を言(い)つて居(ゐ)やがつたぞ。081大方(おほかた)ジヤンナの郷(さと)の三五教(あななひけう)の信者(しんじや)が、082此(この)島(しま)に漂着(へうちやく)して此(この)洞穴(どうけつ)を見付(みつ)け出(だ)し、083這入(はい)つて居(ゐ)やがるのだらう。084困(こま)つた奴(やつ)が来(き)たものだ。085土人(どじん)の言葉(ことば)はこちらでは分(わか)らないし、086如何(どう)云(い)つてやらうかなア』
087国依別(くによりわけ)『此(この)方(はう)はハーリス山(ざん)に、088遠(とほ)き神代(かみよ)の昔(むかし)より住居(すまゐ)致(いた)す大竜神(だいりうじん)であるぞよ。089此(この)度(たび)神勅(しんちよく)に依(よ)つて高天原(たかあまはら)より言依別(ことよりわけの)命(みこと)、090其(その)玉(たま)を受取(うけと)りにお越(こ)し遊(あそ)ばされたるを以(もつ)て、091今迄(いままで)大切(たいせつ)に保存(ほぞん)して居(ゐ)た琉(りう)、092球(きう)の二(ふた)つの玉(たま)も、093已(や)むを得(え)ず御(お)渡(わた)し致(いた)さねばならぬ事(こと)になつて来(き)た。094神勅(しんちよく)はもだし難(がた)し、095執着心(しふちやくしん)を去(さ)つてスツパリと渡(わた)し切(き)る考(かんが)へだ。096此(この)二(ふた)つの玉(たま)の琉球(りうきう)を去(さ)るや否(いな)や、097如何(いか)なる事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)すも分(わか)りはせぬぞ。098其(その)方(はう)は我(われ)を是(これ)より誠(まこと)の神(かみ)と尊敬(そんけい)致(いた)し、099此(この)洞穴(どうけつ)の中(なか)を我(わが)居宅(きよたく)に献(たてまつ)り、100山海(さんかい)の珍味(ちんみ)を以(もつ)て供養(くやう)せば、101地異(ちい)天変(てんぺん)の災害(さいがい)を免(まぬが)れしめ、102汝(なんぢ)等(ら)一同(いちどう)をして安(やす)く楽(たの)しく長寿(ちやうじゆ)を与(あた)へ、103天国(てんごく)の喜(よろこ)びを永久(とこしへ)に保(たも)たしめむ。104返答(へんたふ)如何(いか)に』
105と声(こゑ)まで十七八(じふしちはち)位(くらゐ)の女(をんな)になつた気(き)で、106若々(わかわか)しげに述(の)べ立(た)てた。107外(そと)の男(をとこ)の一人(ひとり)、108稍(やや)前(まへ)に進(すす)み寄(よ)り、
109外(そと)の男(をとこ)『早速(さつそく)のあなたの御(ご)承諾(しようだく)、110若彦(わかひこ)身(み)にとりて、111有難(ありがた)き仕合(しあは)せに存(ぞん)じます。112先日(せんじつ)より一(いち)日(にち)も欠(か)かさず、113ハーリス山(ざん)に駆上(かけのぼ)り、114言霊(ことたま)を手向(たむ)け候(さふらう)処(ところ)、115竜(たつ)の腮(あぎと)の琉(りう)と球(きう)、116容易(ようい)に御(お)渡(わた)し下(くだ)さる形跡(けいせき)も見(み)えず、117実(じつ)の所(ところ)は、118心中(しんちう)稍(やや)不安(ふあん)の念(ねん)に駆(か)られて居(を)りました。119其(その)お言葉(ことば)を聞(き)くからは、120これなる土人(どじん)に命(めい)じ、121あらゆる珍(めづら)しき果物(くだもの)を持(も)たせお供(そな)へ致(いた)します。122どうか今迄(いままで)の様(やう)に時々(ときどき)暴風雨(ばうふうう)を起(おこ)し、123人民(じんみん)を苦(くるし)むるなどの暴行(ばうかう)は是(こ)れ限(かぎ)り御(お)止(とど)め下(くだ)さいまする様(やう)に、124三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)若彦(わかひこ)、125慎(つつし)んで御(お)願(ねが)ひ致(いた)します』
126 国依別(くによりわけ)、127中(なか)より、
128国依別(くによりわけ)『言(い)ふにや及(およ)ぶ。129我(われ)こそは国依(くにより)……オツト違(ちが)うた、130国(くに)よりも我(わが)身(み)が大事(だいじ)と、131今迄(いままで)は執着心(しふちやくしん)にかられ、132琉(りう)、133球(きう)の二(ふた)つの玉(たま)を私有物(しいうぶつ)として楽(たの)しんでゐた。134さうして此(この)玉(たま)を以(もつ)て、135風雨(ふうう)雷霆(らいてい)を駆使(くし)し、136種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)の乱暴(らんばう)を致(いた)したが、137今日(こんにち)限(かぎ)り根本(こんぽん)より悔(く)い改(あらた)めて若彦(わかひこ)の言葉(ことば)に従(したが)ふ程(ほど)に、138必(かなら)ず必(かなら)ず心配(しんぱい)致(いた)すな。139サア早(はや)く芳醇(はうじゆん)なる酒(さけ)を献(けん)じ、140林檎(りんご)、141バナナ、142竜眼肉(りうがんにく)を我(わが)前(まへ)に献上(けんじやう)致(いた)せ。143随分(ずゐぶん)空腹(くうふく)に悩(なや)んで居(ゐ)るぞよ。144言依別(ことよりわけの)神(かみ)様(さま)やがて日(ひ)を移(うつ)さず此処(ここ)に御(お)越(こ)しあらん。145大勢(おほぜい)ここに集(あつ)まるも無益(むえき)なれば、146大半(たいはん)は浜辺(はまべ)に到(いた)つて言依別(ことよりわけ)様(さま)御(ご)到着(たうちやく)の御(お)出迎(でむか)への準備(じゆんび)をいたすがよからうぞ。147其(その)時(とき)には三五教(あななひけう)の大(だい)宣伝使(せんでんし)国依別(くによりわけ)お供(とも)に仕(つか)へ居(を)る筈(はず)なれば、148待遇(たいぐう)に区別(くべつ)をつけず、149極(ごく)鄭重(ていちよう)にもてなしを致(いた)せよ。150ハーリス山(ざん)の竜神(りうじん)、151汝(なんぢ)等(ら)一統(いつとう)に気(き)をつけるぞよ。152若彦(わかひこ)、153及(およ)び其(その)前(まへ)に立(た)つ白髪(はくはつ)の老人(らうじん)にも申(まを)しわたす仔細(しさい)あらば此処(ここ)に居(ゐ)よ。154其(その)他(た)の住民(ぢうみん)共(ども)は浜辺(はまべ)へさして一刻(いつこく)も早(はや)く御(お)迎(むか)へに参(まゐ)り、155万事(ばんじ)落度(おちど)なく心(こころ)を配(くば)り気(き)を配(くば)れよ。156ウーン』
157と唸(うな)り止(や)んだ。
158若彦(わかひこ)『委細(ゐさい)承知(しようち)仕(つかまつ)りました。159……モシ常楠(つねくす)様(さま)、160あなた何卒(どうぞ)、161大勢(おほぜい)の連中(れんちう)に此(この)由(よし)を御(お)伝(つた)へ下(くだ)さいまして、162言依別(ことよりわけ)様(さま)の御(ご)到着(たうちやく)の待受(まちうけ)準備(じゆんび)にかかるべく御(ご)命令(めいれい)下(くだ)さいませ』
163常楠(つねくす)『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。164併(しか)し乍(なが)ら嘘(うそ)ではありますまいかな。165どうも我々(われわれ)の考(かんが)へでは言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)は、166此(この)洞穴内(どうけつない)に安々(やすやす)と御(お)休(やす)みなされてるような心持(こころもち)が致(いた)します。167そして此(この)竜神(りうじん)の化身(けしん)女神(めがみ)様(さま)は、168私(わたし)の心(こころ)のひがみか存(ぞん)じませぬが、169国依別(くによりわけ)様(さま)のように思(おも)はれてなりませぬ。170悪戯好(いたづらずき)の国依別(くによりわけ)の宣伝使(せんでんし)の事(こと)とて、171ワザとに女神(めがみ)の声色(こわいろ)を使(つか)つて居(を)られるのでは御座(ござ)いますまいか。172数多(あまた)の土人(どじん)を引(ひき)つれ浜辺(はまべ)へ参(まゐ)り、173言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)今(いま)か今(いま)かと待呆(まちぼう)けに遭(あ)はせ、174あとでアフンとさして大笑(おほわら)ひをしようと云(い)ふ企(たく)みだなからうかと思(おも)はれます。175そんな手(て)に乗(の)るものなら折角(せつかく)我々(われわれ)を神(かみ)と信(しん)じてる土人(どじん)の信用(しんよう)はサツパリ地(ち)におち、176却(かへつ)て我(われ)等(ら)の身辺(しんぺん)に危険(きけん)の及(およ)ぶやも計(はか)り知(し)れませぬ。177コリヤうかうかと聞(き)く訳(わけ)には行(ゆ)けますまいぞ』
178 国依別(くによりわけ)洞穴内(どうけつない)より、179一層(いつそう)やさしき女(をんな)の作(つく)り声(ごゑ)で甲高(かんだか)に、
180国依別(くによりわけ)『来(く)るか来(く)るかと浜(はま)へ出(で)て見(み)れば
181浜(はま)の松風(まつかぜ)音(おと)ばかり
182待(ま)ちに待(ま)つたる国(くに)さまは
183遠(とほ)の昔(むかし)に此(この)島(しま)に
184上(あが)つて御座(ござ)るを知(し)らないか
185ホンニ盲(めくら)は仕様(しやう)がない
186あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
187御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
188と追々(おひおひ)鍍金(めつき)がはげて、189知(し)らぬ間(ま)に自分(じぶん)の地声(ぢごゑ)になつて居(ゐ)たのに気(き)がついた。
190国依別『ヤア是(こ)りや失策(しま)つた』
191と思(おも)ひ乍(なが)ら、192又(また)声(こゑ)を改(あらた)めて、
193国依別(くによりわけ)『我(われ)こそは琉(りう)と球(きう)との玉(たま)を守護(しゆご)致(いた)す国依別(くによりわけ)の姫神(ひめがみ)であるぞよ。194国依別(くによりわけ)とはタマで代物(しろもの)が違(ちが)ふぞよ。195国依別(くによりわけ)が例(たと)へば黄金(わうごん)なれば、196此(この)方(はう)は銅(あかがね)位(くらゐ)なものであるぞよ。197今迄(いままで)の国依別(くによりわけ)は、198実(じつ)に困(こま)つた奴(やつ)であつたなれども、199身魂(みたま)の因縁(いんねん)現(あら)はれて此(この)頃(ごろ)は、200立派(りつぱ)な立派(りつぱ)な言依別(ことよりわけの)命(みこと)の片腕(かたうで)にお成(な)り遊(あそ)ばして御座(ござ)るぞよ。201其(その)方(はう)は紀州(きしう)の辺鄙(へんぴ)に永(なが)らく蟄居(ちつきよ)致(いた)して居(を)つた故(ゆゑ)、202知(し)らぬは無理(むり)なき事(こと)であるぞよ。203今(いま)に国依別(くによりわけの)命(みこと)参(まゐ)りなば鄭重(ていちよう)にいたし、204琉(りう)、205球(きう)二(ふた)つの玉(たま)を汝(なんぢ)等(ら)手(て)に入(い)れなば、206一(いつ)は言依別(ことよりわけの)命(みこと)に献(けん)じ、207一(いつ)は国依別(くによりわけの)命(みこと)に献(けん)ぜよ。208これ国依姫(くによりひめの)命(みこと)の御心(みこころ)であるぞよ。209ゆめゆめ疑(うたが)ふこと勿(なか)れ』
210若彦(わかひこ)『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。211誰(たれ)の御(お)手(て)に渡(わた)しまするも天下(てんか)を救(すく)ふ宝玉(ほうぎよく)ならば、212結構(けつこう)で御座(ござ)います。213三五教(あななひけう)の物(もの)とならば之(これ)に越(こ)したる喜(よろこ)びは御座(ござ)いませぬ』
214 常楠(つねくす)小声(こごゑ)で、
215常楠(つねくす)『モシ若彦(わかひこ)さま、216どう思(おも)うても私(わたくし)は腑(ふ)に落(お)ちませぬ。217……コレコレ女神(めがみ)と称(しよう)する国依別(くによりわけ)さま、218良(い)い加減(かげん)に茶目(ちやめ)式(しき)を発揮(はつき)しておいたらどうだい。219そんな事(こと)ア若彦(わかひこ)さまなれば、220一(いち)時(じ)誤魔化(ごまくわ)しが利(き)くだらうが、221何(なに)もかも世(よ)の中(なか)の辛酸(しんさん)を嘗(な)めつくした此(この)常楠(つねくす)の前(まへ)には通用(つうよう)致(いた)しませぬぞよ』
222国依別(くによりわけ)『真偽(しんぎ)の判断(はんだん)は其(その)方(はう)に任(まか)す。223我(われ)に従(したが)ひ遠慮(ゑんりよ)は要(い)らぬ。224汝(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)奥(おく)の間(ま)に進(すす)み来(きた)れ』
225と先(さき)に立(た)つて暗(くら)がりを進(すす)んで行(ゆ)く。
226国依別(くによりわけ)『待(ま)てよ、227前(まへ)へ無茶(むちや)苦茶(くちや)に進(すす)むと云(い)うと、228壁際(かべぎは)に頭(あたま)を打(う)ち、229言依別(ことよりわけ)様(さま)のお眠(やす)みの上(うへ)を踏(ふ)みなどしたら大変(たいへん)だ。230コリヤ一(ひと)つ松明(たいまつ)をつけさしてやらうかな』
231と小声(こごゑ)で囁(ささや)き乍(なが)ら、
232国依別(くによりわけ)『ヤア若彦(わかひこ)、233松明(たいまつ)をつけよ。234暗(くら)くて少(すこ)しも見(み)えぬでないか』
235若彦(わかひこ)『私(わたくし)はここへ参(まゐ)つてから余程(よほど)慣(な)れましたから、236松明(たいまつ)がなくても大抵(たいてい)分(わか)つて居(ゐ)ます。237あなたは神(かみ)様(さま)なれば夜(よる)目(め)が見(み)えさうなものですなア……神(かみ)は無遠近(むゑんきん)、238無大小(むだいせう)、239無明暗(むめいあん)、240無広狭(むくわうけふ)、241一(いつ)も見(み)ざるなしと云(い)ふではありませぬか』
242 国依別(くによりわけ)ヒヤリとし乍(なが)ら、243尚(なほ)も荘重(さうちよう)な口調(くてう)にて、
244国依別(くによりわけ)『若彦(わかひこ)、245馬鹿(ばか)を申(まを)せ。246暗(くら)がりの目(め)の見(み)える者(もの)は畜生(ちくしやう)であるぞよ。247人間(にんげん)は暗(くら)がりに目(め)の見(み)えぬのは神(かみ)の分霊(ぶんれい)たる証拠(しようこ)であるぞよ。248すべて高等(かうとう)動物(どうぶつ)になる程(ほど)、249夜分(やぶん)に目(め)が見(み)えないものだ。250それだから最高級(さいかうきふ)にある神(かみ)は目(め)が見(み)えぬが道理(だうり)だらうがな。251それだから人民(じんみん)が神(かみ)に灯明(とうみやう)を献(けん)ずると云(い)ふ事(こと)を知(し)らないか』
252 常楠(つねくす)吹(ふ)き出(だ)して、
253常楠『オホヽヽヽ』
254国依別(くによりわけ)『アイヤ常楠(つねくす)とやら、255神(かみ)の言葉(ことば)が何故(なぜ)それ程(ほど)可笑(をか)しいか』
256常楠(つねくす)『あなたは余程(よほど)鈍(どん)な神(かみ)様(さま)と見(み)えますな。257道路神(だうろくじん)とかいつて、258盲神(めくらがみ)様(さま)があると云(い)ふ事(こと)だ。259大方(おほかた)お前(まへ)さまは道路神(だうろくじん)か道楽神(だうらくじん)だらう。260宗彦(むねひこ)、261お勝(かつ)の昔(むかし)を思(おも)ひ出(だ)しになつたら、262さぞ今日(こんにち)は感慨(かんがい)無量(むりやう)で御座(ござ)いませうナ』
263国依別(くによりわけ)『何(なん)でも宜(よろ)しい。264炬火(たいまつ)をつけて下(くだ)さらぬか。265実(じつ)は御(お)察(さつ)しの通(とほ)り国依別(くによりわけ)ですよ。266アハヽヽヽ』
267常楠(つねくす)『オホヽヽヽ』
268若彦(わかひこ)『なんだ、269又(また)いかれたか。270エー仕方(しかた)がない。271よく化(ば)ける男(をとこ)だな。272そんなら炬火(たいまつ)をつけて上(あ)げませうかい』
273と懐(ふところ)より燧石(ひうち)をとり出(だ)し「カチカチ」とやつて居(ゐ)る。274言依別(ことよりわけ)は二三(にさん)人(にん)の人声(ひとごゑ)何(なに)かザワザワ聞(きこ)えるのに目(め)をさまし、275耳(みみ)をすまして聞(き)いて居(を)れば、276国依別(くによりわけ)とか常楠(つねくす)とか若彦(わかひこ)とかの声(こゑ)がきこえて来(き)た。
277(言依別?)『ハテなア』
278と無言(むごん)のまま考(かんが)へ込(こ)んで居(ゐ)る。279どうしたものか火(ひ)は打(う)つても打(う)つても火口(ほくち)につかぬ。
280若彦(わかひこ)『アヽ今日(けふ)は盲(めくら)の神(かみ)さまの守護(しゆご)と見(み)えて、281暗(くら)がりの御(ご)守護(しゆご)らしい。282何程(なんぼ)打(う)つても火(ひ)は出(で)ませぬワ。283……ナア常楠(つねくす)さま如何(どう)しませう』
284常楠(つねくす)『エー仕方(しかた)がない。285そんなら暗(くら)がりで休(やす)みませうかい。286……時(とき)に国依別(くによりわけ)さま、287言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)様(さま)はここに居(を)られるのだらうな。288ウカウカ歩(ある)くとお眠(やす)みになつて居(を)る所(ところ)を踏(ふ)みでもしたら大変(たいへん)だから、289在否(ざいひ)を言(い)つて下(くだ)さいな』
290国依別(くによりわけ)『お前(まへ)さまの最前(さいぜん)仰(あふ)せられた通(とほ)り、291盲神(めくらがみ)の国依別(くによりわけ)、292まして此(この)暗夜(あんや)、293言依別(ことよりわけ)様(さま)の在否(ざいひ)が見(み)えて堪(たま)りますか。294アハヽヽヽ』
295 言依別(ことよりわけの)命(みこと)は声(こゑ)を掛(か)け、
296言依別(ことよりわけ)『イヤ国依別(くによりわけ)、297何(なん)とかして火(ひ)をつけて呉(く)れないか。298常楠(つねくす)、299若彦(わかひこ)の両人(りやうにん)が見(み)えて居(ゐ)るであらう』
300国依別(くによりわけ)『ハイ、301確(たしか)にお見(み)えになりませぬ。302あなたでさへも見(み)えぬ位(くらゐ)ですから……』
303言依別(ことよりわけ)『暗(くら)がりで見(み)えるか見(み)えぬかと云(い)つたのだない。304来(き)て居(を)られるか居(を)られぬかと言(い)ふのだ』
305国依別(くによりわけ)『来(き)て居(を)られますが、306サツパリ見(み)えて居(を)られませぬ。307アハヽヽヽ』
308 かくする所(ところ)へ入口(いりぐち)よりチヤール、309ベースと云(い)ふ二人(ふたり)の男(をとこ)、310松明(たいまつ)をかがやかし乍(なが)ら這入(はい)つて来(き)た。
311 チヤール、312ベース両人(りやうにん)腰(こし)を届(かが)めて、
313両人(りやうにん)『嘸(さぞ)御(ご)不自由(ふじゆう)で御座(ござ)いましたでせう。314ついうつかり致(いた)してをりました。315松明(たいまつ)をここに灯(とも)しておきますから……私(わたくし)は入口(いりぐち)に立番(たちばん)を致(いた)しますから、316御用(ごよう)があらば直(すぐ)に手(て)を御(お)拍(う)ち下(くだ)さいませ』
317国依別(くによりわけ)『ハーリス山(ざん)の竜神(りうじん)、318国依姫(くによりひめの)命(みこと)、319チヤール、320ベースの両人(りやうにん)、321よくも気(き)を利(き)かしよつた。322神(かみ)満足(まんぞく)に思(おも)ふぞよ』
323両人(りやうにん)『ハー、324有難(ありがた)う存(ぞん)じます』
325と恐(おそ)る恐(おそ)る、326坑外(かうぐわい)に出(で)て行(ゆ)く。327坑内(かうない)は二(ふた)つの松明(たいまつ)にて昼(ひる)の如(ごと)く明(あか)くなつた。328所々(ところどころ)に節穴(ふしあな)の窓(まど)が開(あ)いて居(ゐ)た。329煙(けぶり)は其(その)穴(あな)より逸出(いつしゆつ)すると見(み)えて、330少(すこ)しも、331けむたさを感(かん)じなかつた。
332 言依別(ことよりわけの)命(みこと)は起(お)き上(あが)り、333行儀(ぎやうぎ)よく菅莚(すがむしろ)の上(うへ)に端坐(たんざ)し、334常楠(つねくす)、335若彦(わかひこ)の顔(かほ)を見(み)て、336『ヤア』と言(い)つた。
337若彦(わかひこ)『これはこれは教主(けうしゆ)様(さま)、338よくも御(お)入来(いで)下(くだ)さいました』
339と早(はや)くも嬉(うれ)し涙(なみだ)にくれて居(ゐ)る。
340言依別(ことよりわけ)『若彦(わかひこ)殿(どの)、341御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)つた。342此(この)老人(らうじん)は噂(うはさ)の高(たか)い秋彦(あきひこ)、343駒彦(こまひこ)の縁類(えんるゐ)なる常楠翁(つねくすをう)かなア』
344若彦(わかひこ)『ハイ左様(さやう)で御座(ござ)います』
345常楠(つねくす)『教主(けうしゆ)様(さま)、346一度(いちど)御(お)伺(うかが)ひを致(いた)したく存(ぞん)じて居(を)りましたが、347遠方(ゑんぱう)の事(こと)と云(い)ひ、348老人(としより)の事(こと)とて山道(やまみち)を歩(あゆ)むのが辛労(おつくう)になり、349つい御(ご)無沙汰(ぶさた)致(いた)して居(を)りました。350伜(せがれ)共(ども)が篤(あつ)き御(お)世話(せわ)に預(あづか)りまして、351有難(ありがた)う御(お)礼(れい)申(まを)し上(あ)げます。352今度(こんど)は私(わたくし)も千騎(せんき)一騎(いつき)の最後(さいご)の活動(くわつどう)と思(おも)ひ、353神恩(しんおん)の万分一(まんぶいち)に報(はう)ぜむと、354若彦(わかひこ)様(さま)のお伴(とも)をなし、355先日(せんじつ)より此(この)島(しま)へ参(まゐ)り、356ハーリス山(ざん)の竜神(りうじん)に向(むか)つて、357言霊戦(ことたません)を開始(かいし)して居(を)ります。358其(その)御(お)蔭(かげ)で毎日(まいにち)毎晩(まいばん)吹(ふ)き荒(すさ)ぶ暴風(ばうふう)も凪(な)ぎわたり、359それが為(ため)土人(どじん)は我々(われわれ)二人(ふたり)を大変(たいへん)に神(かみ)の如(ごと)く尊敬(そんけい)いたして居(を)ります。360どこへ行(い)つても日輪(にちりん)さまの御(お)光(ひかり)は照(て)らせ給(たま)ふ如(ごと)く、361大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)の満遍(まんべん)なく行(ゆ)きわたつて居(ゐ)らせられるには感謝(かんしや)の至(いた)りにたへませぬ。362何分(なにぶん)耄碌爺(まうろくおやぢ)の私(わたくし)、363どうぞ御(お)見捨(みすて)なく御(ご)用命(ようめい)あらん事(こと)を懇願(こんぐわん)仕(つかまつ)ります』
364と言(い)ひ終(をは)つて、365嬉(うれ)し涙(なみだ)を袖(そで)に拭(ぬぐ)ふ。
366言依別(ことよりわけ)『神(かみ)様(さま)の御(お)示(しめ)し通(どほ)り、367これで愈(いよいよ)四魂(しこん)揃(そろ)ひました。368玉照彦(たまてるひこ)様(さま)、369玉照姫(たまてるひめ)様(さま)の御(ご)神力(しんりき)は今更(いまさら)乍(なが)ら恐(おそ)れ入(い)る外(ほか)はありませぬ。370いよいよ願望(ぐわんもう)成就(じやうじゆ)して、371琉(りう)、372球(きう)の宝玉(ほうぎよく)手(て)に入(い)るは目(ま)のあたりでせう』
373常楠(つねくす)『最早(もはや)九分(くぶ)九厘(くりん)まで、374竜神(りうじん)は帰順(きじゆん)して居(を)ります。375モウ一(ひと)つ執着心(しふちやくしん)さへ取(と)れれば渡(わた)して呉(く)れるでせう。376我々(われわれ)は若彦(わかひこ)さまと共(とも)に能(あた)ふ限(かぎ)りの最善(さいぜん)のベストを尽(つく)して来(き)ましたがモウ此(この)上(うへ)は教主(けうしゆ)様(さま)の御(お)力(ちから)を借(か)りるより仕方(しかた)がありませぬ』
377若彦(わかひこ)『如何(いか)に神(かみ)様(さま)の御(お)仕組(しぐみ)だと云(い)つても、378かような所(ところ)で教主(けうしゆ)様(さま)にお目(め)にかかるとは、379今(いま)の今迄(いままで)、380神(かみ)ならぬ身(み)の存(ぞん)じて居(を)りませなんだ。381アヽ人間(にんげん)は脆(もろ)いもので御座(ござ)いますワイ。382現(げん)に目(め)の前(まへ)に居(を)る国依別(くによりわけ)さまにさへ瞞(だま)された位(くらゐ)で御座(ござ)いますから』
383国依別(くによりわけ)『クツクツクツ、384ウツプーツ』
385と吹(ふ)き出(だ)して居(を)る。
386言依別(ことよりわけ)『国依別(くによりわけ)さま、387此(この)島(しま)へ来(き)た以上(いじやう)は余程(よほど)謹厳(きんげん)の態度(たいど)を持(も)つて居(ゐ)て貰(もら)はぬと、388中々(なかなか)強敵(きやうてき)ですから、389茶目(ちやめ)式(しき)所(どころ)ぢやありませぬぞ』
390国依別(くによりわけ)『左様(さやう)で御座(ござ)います。391斯様(かやう)な所(ところ)で茶目坊(ちやめばう)をやつても、392サツパリ茶目(ちやめ)ですから、393只今(ただいま)限(かぎ)り左様(さやう)なことは茶目(ちやめ)に致(いた)しますから、394どうぞ御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな』
395言依別(ことよりわけ)『仕方(しかた)のない面白(おもしろ)い男(をとこ)だなア』
396 若彦(わかひこ)、397肩(かた)をゆすり乍(なが)ら、398可笑(をか)しさをこらへて、
399若彦『キユーキユー』
400と言(い)つて居(ゐ)る。401常楠(つねくす)は何(なに)が可笑(をか)しい、402若(わか)い奴(やつ)と云(い)ふ者(もの)は、403箸(はし)のこけたのでも可笑(をか)しがるものだ……と云(い)ふ様(やう)な態度(たいど)で真面目(まじめ)くさつて控(ひか)へて居(ゐ)た。404漸(やうや)くにして夜(よ)は明(あ)け放(はな)れた。405言依別(ことよりわけの)命(みこと)は三(さん)人(にん)の外(ほか)にチヤール、406ベース外(ほか)四五(しご)人(にん)の土人(どじん)を引率(ひきぐ)し、407ハーリス山(ざん)の谷道(たにみち)を若彦(わかひこ)の案内(あんない)にて進(すす)む事(こと)となつた。
408(大正一一・七・二五 旧六・二 松村真澄録)
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