霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 魚水心(ぎよすゐしん)〔七八五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻 篇:第1篇 聖地の秋 よみ(新仮名遣い):せいちのあき
章:第3章 魚水心 よみ(新仮名遣い):ぎょすいしん 通し章番号:785
口述日:1922(大正11)年07月22日(旧閏05月28日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年6月20日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫、黒姫、高山彦は、夏彦、常彦と夕餉を済ませてひそひそ話にふけっている。高姫は夏彦と常彦に、麻邇の宝珠の神業の様子を尋ねた。そして、黄竜姫、蜈蚣姫、友彦、テールス姫らの手柄を聞いて、憤慨する。
そして、玉が聖地に来たのも自分たちを守護する日の出神と竜宮の乙姫のはからいだと嘯き出す。常彦は、それだから言依別教主は、高姫と黒姫が来ないと玉をお披露目できないと言って、二人が来るのを待っているのだ、と高姫に伝えた。
高姫は相好を崩して、言依別もこのごろはやっと出来てきた、と独りごちる。そして、それなら言依別の方からこちらにやってきて、懇願するべきだとまた嘯き出す。夏彦は、なんとか理屈をつけて、高姫・黒姫を動かそうと説得する。
話は杢助の話になり、高姫は杢助をけなし出す。夏彦はそれに同調する振りをして、杢助の本心を高姫・黒姫に諭そうと、たとえ話で説得する。
常彦は、国依別に石魚を持ってこさせたのも、実は言依別教主の指図で、それは高姫・黒姫がまだ寛大な心になっていないのではないか、という懸念から、それを試そうとしたのだ、と明かした。
高姫は、そんな心配は無用だと憤慨し、そこまで言うなら自分の大精神を見せてやる、と言って教主館に行くことをほとんど承諾した。
そこへ外から宣伝歌が聞こえて来て、亀彦が高姫館の門を叩いた。高姫は、今日は来客があるからと言って亀彦を帰した。高姫、黒姫、高山彦は、亀彦も国依別の計略の片棒をかついで後ろめたいのだろう、と笑っている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-10-22 20:41:41 文字数:6184 OBC :rm2703
愛善世界社版:63頁 八幡書店版:第5輯 264頁 修補版: 校定版:65頁 普及版:26頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)、002黒姫(くろひめ)、003高山彦(たかやまひこ)、004夏彦(なつひこ)、005常彦(つねひこ)の五(ご)人(にん)は、006四方山(よもやま)の話(はなし)に耽(ふけ)り乍(なが)ら晩餐(ばんさん)を済(す)ませ、007窓(まど)を開(あ)けて月(つき)を拝(はい)し乍(なが)ら、008ヒソヒソ話(ばなし)に耽(ふけ)つてゐる。
009高姫(たかひめ)『夏彦(なつひこ)、010常彦(つねひこ)さま、011お前(まへ)さまは言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)に随(つ)いて、012五色(いついろ)の御玉(みたま)を御(お)迎(むか)へに秋山彦(あきやまひこ)の館(やかた)まで往(い)つたぢやありませぬか』
013夏彦(なつひこ)『ハイ行(ゆ)きました。014それはそれは御(ご)立派(りつぱ)な事(こと)で御座(ござ)いましたよ。015なんでも初稚姫(はつわかひめ)、016玉能姫(たまのひめ)、017玉治別(たまはるわけ)、018久助(きうすけ)、019お民(たみ)の五(ご)人(にん)さまが、020竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)の諏訪(すは)の湖(みづうみ)の竜(たつ)の宮居(みやゐ)とかで、021乙姫(おとひめ)さまから五色(いついろ)の結構(けつこう)な玉(たま)を御(お)頂(いただ)きなされ、022それを自分(じぶん)の手柄(てがら)にするのも勿体(もつたい)ないと云(い)ふ御(ご)精神(せいしん)から、023初稚姫(はつわかひめ)さまは紫(むらさき)の玉(たま)を梅子姫(うめこひめ)様(さま)に御(お)渡(わた)し遊(あそ)ばされ、024それに倣(なら)うて四人(よつたり)の御(お)方(かた)は黄竜姫(わうりようひめ)、025蜈蚣姫(むかでひめ)、026友彦(ともひこ)、027テールス姫(ひめ)にその玉(たま)を無言(むごん)の儘(まま)渡(わた)されたといふ事(こと)です。028人間(にんげん)も、029アー云(い)ふ工合(ぐあひ)に私(わたくし)を捨(す)て譲(ゆづ)り合(あ)つて行(ゆ)けば、030何事(なにごと)も円満(ゑんまん)に行(ゆ)くのですがなア』
031高姫(たかひめ)『何(なに)ツ、032黄竜姫(わうりようひめ)や蜈蚣姫(むかでひめ)、033彼(あ)の友彦(ともひこ)にテールス姫(ひめ)、034彼(あ)んな輩(やから)がそんな御用(ごよう)をしましたかい。035何程(なにほど)人物(じんぶつ)払底(ふつてい)だと云(い)つても、036あんまり酷(ひど)いぢやありませぬか。037さうしてその玉(たま)は今(いま)聖地(せいち)に納(をさ)まつてあるだらうな。038竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまの肉(にく)の宮(みや)、039黒姫(くろひめ)さまが此処(ここ)に御座(ござ)るのだから、040謂(ゐ)はば黒姫(くろひめ)さまが二三(にさん)年(ねん)も竜宮(りうぐう)の島(しま)に渡(わた)つて御(お)仕組(しぐみ)をして置(お)かれたのだ。041それも此(こ)の高姫(たかひめ)が神(かみ)様(さま)の御(ご)都合(つがふ)で、042黒姫(くろひめ)さまを聖地(せいち)から追出(おひだ)したのが矢張(やつぱり)御用(ごよう)になつて居(ゐ)るのだ。043そんな事(こと)の分(わか)つた奴(やつ)は一人(ひとり)も有(あ)りますまい。044何(なに)を云(い)つても杢助(もくすけ)のやうな没分暁漢(わからずや)が総務(そうむ)さまだからね』
045夏彦(なつひこ)『それは誰(たれ)もよく存(ぞん)じて居(を)ります。046これは全(まつた)く日(ひ)の出神(でのかみ)さまや、047竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の御(お)蔭(かげ)で授(さづ)かつたのだと云(い)つて居(ゐ)ますで』
048高姫(たかひめ)『それは定(きま)つて居(ゐ)るぢやないか。049併(しか)し日(ひ)の出神(でのかみ)の肉(にく)の宮(みや)と、050竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまの肉(にく)の宮(みや)は、051何方(どなた)ぢやと云(い)ふ事(こと)が分(わか)つて居(を)らねば駄目(だめ)ですよ』
052常彦(つねひこ)『それは云(い)はいでも定(きま)つてゐますがな。053系統(ひつぽう)の肉体(にくたい)に憑(うつ)らいで何処(どこ)へ憑(うつ)らはりませう。054乙姫(おとひめ)さまだつて、055依然(やつぱり)日(ひ)の出神(でのかみ)さまの生宮(いきみや)に引添(ひきそ)うて御座(ござ)る御(お)方(かた)に定(きま)つとるぢやありませぬか。056それで言依別(ことよりわけの)神(かみ)様(さま)が信者(しんじや)一同(いちどう)に玉(たま)を開(あ)けて一度(いちど)拝(をが)まし度(た)いのだけれど、057肝腎(かんじん)の系統(ひつぽう)の生宮(いきみや)さまが御(お)帰(かへ)りになる迄(まで)、058吾々(われわれ)は開(あ)ける事(こと)は出来(でき)ないと云(い)つて、059御(ご)自分(じぶん)で何処(どこ)かへ御(お)納(をさ)めになりました。060貴方(あなた)が些(ちつ)とも言依別(ことよりわけ)さまの御(お)館(やかた)へ顔出(かほだ)しをなさらぬものだから、061待(ま)つてゐられるのですよ』
062高姫(たかひめ)『言依別(ことよりわけ)も大分(だいぶ)此(この)頃(ごろ)は改心(かいしん)が出来(でき)たと見(み)えますワイ。063此(こ)の肉体(にくたい)が日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)ぢやと云(い)ふ事(こと)が徐々(そろそろ)と気(き)が付(つ)いたらしい。064なア竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さま、065それに就(つ)いても、066些(ちつ)と分(わか)らぬぢやありませぬか。067吾々(われわれ)が訪(たづ)ねに行(ゆ)かずとも、068それが分(わか)つた以上(いじやう)は日(ひ)の出神(でのかみ)や竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)へ御(お)礼(れい)に来(こ)ねばならない筈(はず)だ。069本末(ほんまつ)顛倒(てんたう)も実(じつ)に甚(はなはだ)しい』
070夏彦(なつひこ)『決(けつ)して決(けつ)して、071言依別(ことよりわけ)様(さま)はそんな御(お)考(かんが)へは些(ちつ)とも無(な)いのですが、072貴方(あなた)は何時(いつ)も言依別(ことよりわけ)の奴灰殻(どはひから)だとか、073四足(よつあし)身魂(みたま)だとか仰有(おつしや)るものだから言依別(ことよりわけ)様(さま)は、074貴方(あなた)の御(お)宅(たく)を御(お)訪(たづ)ねなされ度(た)いのは胸一杯(むねいつぱい)になつて居(ゐ)らつしやるのですが、075人手(ひとで)の少(すくな)いのに、076又々(またまた)秋季(しうき)大(だい)清潔法(せいけつはふ)をなさらんならぬ様(やう)な事(こと)が起(おこ)ると、077御(お)気(き)の毒(どく)だと云(い)つて控(ひか)へて御座(ござ)るのですよ』
078高姫(たかひめ)『そんな御(ご)心配(しんぱい)は要(い)りませぬわ。079日(ひ)の出神(でのかみ)や竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)の生宮(いきみや)が分(わか)る丈(だけ)の身魂(みたま)なら、080最早(もはや)四足(よつあし)身魂(みたま)は退散(たいさん)して居(ゐ)るに違(ちが)ひないから、081高姫(たかひめ)、082黒姫(くろひめ)が待(ま)ちかねてゐるから一遍(いつぺん)御(お)出(い)でなさいと云(い)つて下(くだ)さい。083いろいろと言(い)うて聞(き)かしたい事(こと)もある。084何程(なにほど)賢(かしこ)い教主(けうしゆ)だと云(い)つても年(とし)の若(わか)い経験(けいけん)の無(な)い社会(しやくわい)大学(だいがく)を卒業(そつげふ)せない人(ひと)だから、085言(い)はねばならぬ事(こと)が山(やま)程(ほど)あるのだけれど、086又(また)煩(うる)さがられると思(おも)うて今迄(いままで)云(い)はずに居(を)つたのだよ。087それが本当(ほんたう)なら言依別(ことよりわけ)も見上(みあ)げたものぢや。088オツホヽヽヽ』
089夏彦(なつひこ)『折角(せつかく)立派(りつぱ)な御玉(みたま)が納(をさ)まつて皆(みな)の信者(しんじや)が拝観(はいくわん)したいと云(い)つて待(ま)つて居(を)ります。090何卒(どうぞ)その玉(たま)を貴女(あなた)の御(おん)手(て)で開(ひら)いて貰(もら)はなければ誰(たれ)も開(ひら)く事(こと)が出来(でき)ぬのですから、091何卒(どうぞ)早(はや)く御(ご)機嫌(きげん)を直(なほ)して錦(にしき)の宮(みや)へ御(ご)参詣(さんけい)の上(うへ)、092言依別(ことよりわけ)様(さま)と御(ご)相談(さうだん)して下(くだ)さいな』
093高姫(たかひめ)『ソリヤ道(みち)が違(ちが)ひませう。094言依別(ことよりわけ)は教主(けうしゆ)だと云(い)つても、095それは人間(にんげん)が定(き)めたもの、096誠生粋(まこときつすゐ)の日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)や竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の御(お)鎮(しづ)まり遊(あそ)ばす肉(にく)の宮(みや)へ、097一度(いちど)の面会(めんくわい)にも出(で)て来(こ)ぬと云(い)ふ失礼(しつれい)な事(こと)がありますかい』
098 夏彦(なつひこ)は言(い)ひ憎(にく)さうに一寸(ちよつと)頭(かしら)へ手(て)を上(あ)げて、
099夏彦(なつひこ)『あなたの仰有(おつしや)る事(こと)も一応(いちおう)は御尤(ごもつと)ものやうに考(かんが)へますが、100そこはさう四角張(しかくば)らずに、101言依別(ことよりわけ)様(さま)は言依別(ことよりわけ)様(さま)として、102教主(けうしゆ)と云(い)ふ名(な)に対(たい)し貴方(あなた)から御(ご)訪問(はうもん)なさるが至当(したう)だと思(おも)ひます。103それも亦(また)直接(ちよくせつ)に御(お)会(あ)ひになつてはいけませぬ。104何程(なにほど)御(お)嫌(きら)ひになつても総務(そうむ)の杢助(もくすけ)さまの手(て)を経(へ)て御(ご)面会(めんくわい)をなさいませ。105それが至当(したう)だと此(こ)の夏彦(なつひこ)は御(お)神徳(かげ)を頂(いただ)いてゐます』
106高姫(たかひめ)『あんな杢助(もくすけ)や国依別(くによりわけ)のやうな行儀(ぎやうぎ)知(し)らずに、107阿呆(あはう)らしくて面会(めんくわい)が出来(でき)ぬぢやありませぬか。108二(ふた)つ目(め)には四足(よつあし)かなんぞのやうにゴロンと横(よこ)になり、109不作法(ぶさはふ)な…生宮(いきみや)の前(まへ)でも寝(ね)て話(はなし)をすると云(い)ふ代物(しろもの)だから、110国依別(くによりわけ)までが同(おな)じ様(やう)に猿(さる)の人真似(ひとまね)をしよつて、111好(い)いかと思(おも)つてグレンと仰向(あふむ)けになり応対(おうたい)をして居(を)るから、112この高姫(たかひめ)が「些(ちつ)と心得(こころえ)なさい、113失礼(しつれい)ぢや無(な)いか」とたしなめてやれば、114霊界(れいかい)物語(ものがたり)でさへも仰向(あふむ)けになつて、115足(あし)をピンピン上(あ)げ以(もつ)て結構(けつこう)な神界(しんかい)の因縁(いんねん)を説(と)かれるぢやないかと、116屁理屈(へりくつ)をこねる仕方(しかた)の無(な)い奴(やつ)だ。117そんな奴(やつ)を又(また)言依別(ことよりわけ)さまも人間(にんげん)が好(い)いものだから、118悦(よろこ)んで使(つか)つてゐると云(い)ふ御(お)目出度(めでた)さ。119第一(だいいち)これからが退(しりぞ)けて了(しま)はなくちや、120三五教(あななひけう)も何時(いつ)になつても駄目(だめ)ですよ』
121夏彦(なつひこ)『あなたの御(お)言葉(ことば)は実(じつ)に御尤(ごもつと)もです。122私(わたくし)も時々(ときどき)杢助(もくすけ)さまが仰向(あふむ)けになつて、123私(わたくし)達(たち)にいろいろの事(こと)を御(お)指図(さしづ)をなさるので時々(ときどき)ムツとしてその訳(わけ)を詰問(きつもん)すると杢助(もくすけ)さまの言草(いひぐさ)が面白(おもしろ)い。124「今(いま)のやうな百鬼(ひやくき)昼行(ちうかう)の世(よ)の中(なか)の人間(にんげん)は、125みんな鬼(おに)や蛇(へび)や悪魔(あくま)が人間(にんげん)の真似(まね)をして立(た)つて歩(ある)いて居(ゐ)るのだ。126さうして蟹(かに)が行(ゆ)く横(よこ)さの道(みち)計(ばか)り平気(へいき)でやつてゐるから耐(たま)らない。127今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)を革正(かくせい)しようと思(おも)へば、128何(ど)うしても人(ひと)のようせぬ事(こと)を致(いた)さねば立替(たてかへ)、129立直(たてなほ)しは出来(でき)ない。130今日(こんにち)の社会(しやくわい)を見(み)なさい、131その潮流(てうりう)は滔々(たうたう)として横(よこ)へ横(よこ)へと流(なが)れてゐるぢやないか。132それが所謂(いはゆる)天地(てんち)自然(しぜん)の道(みち)だ。133川(かは)の水(みづ)でも潮水(てうすゐ)でも横(よこ)に流(なが)れて居(ゐ)るべきものだ。134数多(あまた)の人命(じんめい)を乗(の)せて走(はし)る汽車(きしや)も矢張(やつぱり)横(よこ)に長(なが)うなつてゐる。135レールでさへもさうぢやないか。136もしもレールがチヨコンと坐(すわ)つたり、137立(た)てつて見(み)なされ、138汽車(きしや)は忽(たちま)ち転覆(てんぷく)するぢやないか。139横(よこ)に流(なが)れて居(ゐ)る河川(かせん)は洋々(やうやう)として少(すこ)しも淹滞(えんたい)なく、140又(また)愛(あい)らしい雛(ひな)を育(そだ)てる牝鳥(めんどり)は翼(つばさ)の中(なか)へ大切(たいせつ)に抱(かか)えて巣(す)の中(なか)へ寝(ね)てゐます。141卵(たまご)を孵(かへ)すのだつて寝(ね)て居(を)らねば孵(かへ)りはしない。142ノアの方舟(はこぶね)だつて矢張(やつぱ)り水面(すゐめん)を横(よこ)に進(すす)んで流(なが)れてゐる、143水平社(すゐへいしや)の運動(うんどう)でも……」と仰有(おつしや)いましたよ』
144高姫(たかひめ)『そんな屁理屈(へりくつ)がありますか。145この庭先(にはさき)の松(まつ)や篠竹(しのたけ)を見(み)なさい。146皆(みんな)地(ぢ)から真直(まつすぐ)に上(うへ)へ向(むか)つて立(た)つてるぢやありませぬか。147横(よこ)になつてる奴(やつ)は幹(みき)が腐(くさ)つて風(かぜ)に吹(ふ)き倒(たふ)された木(き)許(ばか)りぢや。148又(また)本打(もとうち)切(き)り末(すゑ)打断(うちた)ちて皮(かは)を剥(む)かれた枯木(かれき)の材木(ざいもく)ばつかりだ。149横(よこ)になつてる奴(やつ)に碌(ろく)なものがありますか。150さうだから杢助(もくすけ)では駄目(だめ)だと云(い)ふのですよ』
151と力(ちから)をこめて握拳(にぎりこぶし)で閾(しきゐ)を思(おも)はずポンと叩(たた)き、152『アイタヽヽ』と云(い)はんとしたが、153『アイ……』と云(い)つた限(き)り顔(かほ)を顰(しか)めて左(ひだり)の手(て)でコツソリと撫(な)でてゐるその気(き)の毒(どく)さ。
154常彦(つねひこ)『なんと理屈(りくつ)は何方(どちら)へでもつくものですな。155火中水(くわちうすゐ)あり、156水中火(すゐちうくわ)あり、157火(ひ)は水(みづ)の力(ちから)を借(か)つて燃(も)え上(あが)り、158水(みづ)は火(ひ)の力(ちから)に依(よ)つて動(うご)かされる道理(だうり)で、159何方(どちら)から聞(き)いても理屈(りくつ)は合(あ)ひますワイ。160それで経(たて)が変性(へんじやう)男子(なんし)、161緯(よこ)が変性(へんじやう)女子(によし)と神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)るのでせう。162経糸(たていと)計(ばか)りでは所詮(しよせん)駄目(だめ)で、163矢張(やつぱ)り緯糸(よこいと)が無(な)ければ錦(にしき)の機(はた)は織(お)る事(こと)は出来(でき)ませぬ』
164高姫(たかひめ)『その緯(よこ)がいかぬのですよ。165緯(よこ)は梭(さとく)が落(お)ちたり、166糸(いと)が切(き)れたり致(いた)すから、167それで変性(へんじやう)女子(によし)の行方(やりかた)は駄目(だめ)だと云(い)ふのだよ……
168 機(はた)の緯(よこ)織(お)る身魂(みたま)こそ苦(くる)しけれ 一(ひと)つ通(とほ)せば一(ひと)つ打(う)たれつ
169なんて弱音(よわね)を吹(ふ)いて居(ゐ)るやうな言依別(ことよりわけ)に何(なに)が出来(でき)ますかいな。170イヤイヤ矢張(やつぱり)言依別(ことよりわけ)は出来(でき)ぬとも限(かぎ)らぬ。171此(この)頃(ごろ)は大分(だいぶ)に改心(かいしん)をしかけたから、172変性(へんじやう)男子(なんし)の経糸(たていと)に対(たい)して、173私(わたし)がサトクとなつて立派(りつぱ)な機(はた)を織(お)つて見(み)せませう。174緯糸(よこいと)になる緯役(よこやく)さへサトクの言(い)ふ通(とほ)り従(つ)いてくれば好(よ)いのだ。175……ナア黒姫(くろひめ)さま、176さうぢやありませぬか』
177黒姫(くろひめ)『左様(さやう)々々(さやう)、178貴方(あなた)の仰有(おつしや)る通(とほ)り一分(いちぶ)一厘(いちりん)毛筋(けすぢ)の横巾(よこはば)程(ほど)も違(ちが)ひはありませぬ。179何卒(どうぞ)一(いち)時(じ)も早(はや)う杢助(もくすけ)さまが改心(かいしん)さへしてくるれば、180何(なん)にも云(い)ふ事(こと)はありませぬがなア』
181常彦(つねひこ)『杢助(もくすけ)さまの方(はう)では何卒(どうぞ)一(いち)日(にち)も早(はや)く高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)が改心(かいしん)さへしてくれれば何(なに)も云(い)ふ事(こと)はないがなア…と首(くび)を傾(かた)げて大変(たいへん)に考(かんが)へてゐましたよ。182国依別(くによりわけ)だつてあんたの敵対役(てきたいやく)に実際(じつさい)の所(ところ)はこしらへてあるのですよ。183此(この)間(あひだ)もお肴(さかな)だと云(い)つて石(いし)を持(も)つて来(き)たでせう。184それは大(おほ)きな声(こゑ)では云(い)へぬが全(まつた)く言依別(ことよりわけ)様(さま)の御(お)指図(さしづ)ですよ』
185高姫(たかひめ)『ナニ、186言依別(ことよりわけ)が……あんまりぢやないか』
187常彦(つねひこ)『言依別(ことよりわけ)様(さま)は深(ふか)い思召(おぼしめ)しがあつて国依別(くによりわけ)にあーいふ事(こと)をさせて、188お前(まへ)さまが怒(おこ)るか怒(おこ)らないか、189怒(おこ)るやうでは玉(たま)の御用(ごよう)をさす時機(じき)がまだ来(き)て居(を)らぬのだし、190それを耐(た)へ忍(しの)ぶやうな高姫(たかひめ)さまなら、191モウ大丈夫(だいぢやうぶ)だからと云(い)つて気(き)を御(お)引(ひ)きなさつたのですよ。192お前(まへ)さまは矢張(やつぱり)腹(はら)が立(た)ちませうね』
193高姫(たかひめ)『エー腹(はら)が立(た)つといふやうな、194そんな小(ち)つぽけな精神(せいしん)で、195大和(やまと)魂(だましひ)と云(い)はれますかい。196大海(たいかい)は塵(ちり)を選(えら)まず、197百川(ひやくせん)の濁流(だくりう)を呑(の)んで濁(にご)らずと云(い)ふ高姫(たかひめ)の態度(たいど)ですからなア。198天(てん)の高(たか)くして諸鳥(もろどり)の飛翔(ひしよう)するに任(まか)するが如(ごと)く、199海(うみ)の濶(ひろ)く深(ふか)くして魚鼈(ぎよべつ)の躍(をど)るに任(まか)すが如(ごと)しといふ広大(くわうだい)無辺(むへん)の大精神(だいせいしん)ですから……ヘン……あんまり見損(みそこな)ひをして貰(もら)ひますまいかい。200妾(わたし)を試(ため)すなんて猪口才(ちよこざい)過(す)ぎる。201矢張(やつぱり)自分(じぶん)の心(こころ)が小(ちい)さいからだよ。202自分(じぶん)の心(こころ)の尺度(しやくど)を以(もつ)て、203生神(いきがみ)様(さま)の大精神(だいせいしん)を測量(そくりやう)しようと思(おも)ふのが、204テンから間違(まちが)つてゐる。205併(しか)し乍(なが)らそこまで言依別(ことよりわけ)もなつたか、206ホンに可愛(かあい)いものだ。207……そんなら常彦(つねひこ)さま、208お前(まへ)、209言依別(ことよりわけ)さまに逢(あ)つて、210高姫(たかひめ)さまは彼(あ)の位(くらゐ)な事(こと)は、211何処(いづこ)を風(かぜ)が吹(ふ)くらんといふやうな態度(たいど)で、212余裕(よゆう)綽々(しやくしやく)、213泰然(たいぜん)自若(じじやく)として笑(わら)つて御座(ござ)つたと、214実地(じつち)正真(まこと)らしく……オツトドツコイ……実地(じつち)正真(まこと)の立派(りつぱ)な態度(たいど)を、215よく腹(はら)へシメこんで置(お)いて申上(まをしあ)げるのだよ』
216常彦(つねひこ)『兎(と)も角(かく)今日(けふ)の有(あ)りの儘(まま)を申上(まをしあ)げたら好(い)いのですか。217嘘(うそ)は一寸(ちよつと)も云(い)はれぬ御(お)道(みち)ですからなアー』
218高姫(たかひめ)『エー矢張(やつぱり)モウ云(い)うて下(くだ)さるな。219妾(わたし)が直接(ちよくせつ)に御(お)目(め)にかかつてその寛大振(くわんだいぶり)を見(み)せて来(く)るから、220今日(けふ)の事(こと)は何(なん)にも云(い)ひつてはなりませぬぞ』
221常彦(つねひこ)『魚心(うをごころ)あれば水心(みづごころ)あり、222打(う)てば響(ひび)くとやら……、223ナア夏彦(なつひこ)、224さうぢやないか。225チツトはコンミツシヨンとか、226ボーナスとか有(あ)りさうなものだなア』
227黒姫(くろひめ)『オホヽヽヽ、228何(なん)と現金(げんきん)なお方(かた)だこと』
229常彦(つねひこ)『何分(なにぶん)此(この)肉体(にくたい)は融通(ゆうづう)の利(き)く人間(にんげん)ですが、230三五教(あななひけう)の誠(まこと)の教(をしへ)を守護神(しゆごじん)の奴(やつ)、231腹中(はらのなか)で、232すつかりと聞(き)き居(を)つたものだから、233相手(あひて)の通(とほ)り云(い)ひたがつて仕様(しやう)がありませぬ。234この肉体(にくたい)は何(なに)も云(い)ひませぬ。235副守(ふくしゆ)の奴(やつ)に何(なに)か気(き)をつけてやつて下(くだ)さい。236袂(たもと)が重(おも)ければ重(おも)い程(ほど)都合(つがふ)が宜(よろ)しいで。237少々(せうせう)の重味(おもみ)位(くらゐ)乗(の)せた所(ところ)で、238中々(なかなか)の強(つよ)い奴(やつ)ですからなア』
239高姫(たかひめ)『マアマア成功(せいこう)の後(のち)、240御(ご)注文通(ちうもんどほ)りボーナス(棒茄子(ぼうなす))なつと、241ボーウリ(棒瓜(ぼううり))なつと、242干瓢(かんぺう)なつと上(あ)げませうかい』
243常彦(つねひこ)『そいつはなりませぬぞ。244何事(なにごと)も前銭(さきぜに)を出(だ)して註文(ちうもん)して置(お)かねば、245何程(なにほど)変換(へんがへ)されても仕方(しかた)がありますまい。246証拠金(しようこきん)とか手付金(てつけきん)とか先(さき)へ頂(いただ)いて公証(こうしよう)役場(やくば)へ行(い)つて、247公正(こうせい)証書(しようしよ)でも取(と)つて置(お)きませうかな。248アハヽヽヽ』
249高姫(たかひめ)『コレ常彦(つねひこ)さま、250冗談(ぜうだん)もよい加減(かげん)にしなさい。251……千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)ぢやありませぬか』
252常彦(つねひこ)『ソラさうでせう。253あなたにとつては千騎(せんき)一騎(いつき)、254吾々(われわれ)は及(およ)ばず乍(なが)ら麻邇(まに)宝珠(ほつしゆ)の御(お)迎(むか)へを御(お)勤(つと)め申(まを)し、255一寸(ちよつと)休養(きうやう)を賜(たま)はつて居(ゐ)るところですから、256極(きは)めて悠々(いういう)閑々(かんかん)たるものです。257兎(と)も角(かく)他(ひと)の苦労(くらう)で徳(とく)をとらうと云(い)ふのは、258却(かへつ)て骨(ほね)が折(を)れるものですワイ。259併(しか)しこれは世間(せけん)の話(はな)しですよ。260お前(まへ)さまは気(き)が早(はや)いから直(すぐ)に自分(じぶん)の事(こと)に取(と)つて怒(おこ)る癖(くせ)があるから剣呑(けんのん)だ』
261高姫(たかひめ)『何(なに)を仰有(おつしや)る。262それは大(おほ)きな声(こゑ)で云(い)はれぬが、263言依別(ことよりわけの)命(みこと)の事(こと)でせうがなア』
264常彦(つねひこ)『あんたはさう思(おも)つてますか。265それで安心(あんしん)だ……。266なア夏彦(なつひこ)さま』
267夏彦(なつひこ)『オホヽヽヽ、268イヤモウ何(ど)うも感心(かんしん)いたしました』
269 斯(か)かる処(ところ)へ夜(よ)の閑寂(かんじやく)を破(やぶ)つて宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。
270(亀彦)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
271善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
272此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
273心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
274唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
275直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞直(ききなほ)せ
276身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)せ
277頑迷(ぐわんめい)不霊(ふれい)の高姫(たかひめ)も
278執着(しふちやく)深(ふか)き黒姫(くろひめ)も
279天(あめ)と地(つち)との御水火(みいき)より
280現(あら)はれませる神(かみ)の御子(みこ)
281神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
282仁慈(じんじ)無限(むげん)の御心(みこころ)を
283酌(く)みとりまして言依別(ことよりわけ)の
284瑞(みづ)の御魂(みたま)は八尋殿(やひろどの)
285麻邇(まに)の御珠(みたま)を奥(おく)深(ふか)く
286納(をさ)め給(たま)ひて高姫(たかひめ)や
287黒姫(くろひめ)さまの帰(かへ)るまで
288拝観(はいくわん)する事(こと)ならないと
289言葉(ことば)厳(きび)しく宣(の)り伝(つた)へ
290高姫(たかひめ)さまの一行(いつかう)が
291聖地(せいち)を指(さ)して帰(かへ)り来(く)る
292その吉日(きちにち)を待(ま)ち玉(たま)ふ
293思(おも)へば深(ふか)し神(かみ)の恩(おん)
294仰(あふ)げば高(たか)し御(おん)恵(めぐ)み
295露(つゆ)だも知(し)らぬ高姫(たかひめ)が
296聖地(せいち)に帰(かへ)り来(き)乍(なが)らも
297錦(にしき)の宮(みや)の大前(おほまへ)に
298未(いま)だ詣(まう)でし状(さま)も無(な)し
299玉照彦(たまてるひこ)や玉照姫(たまてるひめ)の
300神(かみ)の柱(はしら)は言(い)ふも更(さら)
301神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
302珍(うづ)の御(おん)子(こ)とあれませる
303五十子(いそこ)の姫(ひめ)や梅子姫(うめこひめ)
304わけて尊(たふと)き英子姫(ひでこひめ)
305言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)等(ら)に
306未(いま)だ一度(いちど)も挨拶(あいさつ)の
307便(たよ)りもきかぬうたてさよ
308あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
309御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましまして
310執着心(しふちやくしん)と片意地(かたいぢ)に
311とりからまれし両人(りやうにん)や
312高山彦(たかやまひこ)の身魂(みたま)をば
313神(かみ)の御稜威(みいづ)にさらさらと
314清(きよ)め玉(たま)ひて片時(かたとき)も
315疾(と)く速(すむや)けく大前(おほまへ)に
316詣(まう)で来(きた)りて神業(かむわざ)に
317参加(さんか)なさしめ玉(たま)へかし
318如何(いか)に高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)が
319頑強(ぐわんきやう)不霊(ふれい)と云(い)ひ乍(なが)ら
320神(かみ)の御裔(みすえ)の方々(かたがた)に
321無礼(ぶれい)の罪(つみ)を重(かさ)ぬるは
322実(じつ)に悲(かな)しき事(こと)ぞかし
323教(をしへ)の道(みち)の友彦(ともひこ)を
324一度(いちど)遣(つか)はし見(み)たれども
325金門(かなど)を守(まも)る安公(やすこう)に
326追(お)ひ退(やら)はれて減(へ)らず口(ぐち)
327叩(たた)いて館(やかた)へ立帰(たちかへ)り
328面(つら)を膨(ふく)らせブツブツと
329小言(こごと)の限(かぎ)り列(なら)べ立(た)て
330とりつく島(しま)もなき別(わか)れ
331われは亀彦(かめひこ)宣伝使(せんでんし)
332英子(ひでこ)の姫(ひめ)の御言(みこと)もて
333高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)両人(りやうにん)を
334今(いま)や迎(むか)へに来(きた)りけり
335月(つき)は御空(みそら)に皎々(かうかう)と
336輝(かがや)き渡(わた)り万有(ばんいう)に
337恵(めぐ)みの露(つゆ)を賜(たま)へども
338心(こころ)の空(そら)の村雲(むらくも)に
339十重(とへ)に二十重(はたへ)に包(つつ)まれて
340黒白(あやめ)も分(わ)かぬ胸(むね)の闇(やみ)
341晴(は)らし玉(たま)へよ天津(あまつ)神(かみ)
342国津(くにつ)神(かみ)達(たち)八百万(やほよろづ)
343三五教(あななひけう)を守(まも)ります
344皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
345万代(よろづよ)祝(いは)ふ亀彦(かめひこ)が
346謹(つつし)み敬(うやま)ひ祈(ね)ぎ奉(まつ)る
347あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
348御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
349と歌(うた)ひつつ高姫館(たかひめやかた)を指(さ)して次第(しだい)々々(しだい)に近(ちか)づき来(きた)る。
350 亀彦(かめひこ)は門(もん)の開(ひら)きあるを幸(さいは)ひ、351つかつかと進(すす)み来(きた)り、
352亀彦(かめひこ)『モシモシ夜中(やちう)にお邪魔(じやま)を致(いた)しまするが、353私(わたし)は亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)で御座(ござ)りまする。354江州(ごうしう)の竹生島(ちくぶしま)より英子姫(ひでこひめ)様(さま)と同道(どうだう)にて聖地(せいち)へ参(まゐ)つて居(を)りまする。355承(うけたま)はりますれば高姫(たかひめ)様(さま)、356黒姫(くろひめ)様(さま)、357高山彦(たかやまひこ)と共(とも)にお帰(かへ)り遊(あそ)ばしたとのこと、358御(ご)機嫌(きげん)をお伺(うかが)ひに参(まゐ)りました。359お差支(さしつかへ)なくばお通(とほ)し下(くだ)さいませ』
360高姫(たかひめ)『ヤア貴方(あなた)は亀彦(かめひこ)さまか。361よくマア竹生島(ちくぶしま)に於(おい)て国依別(くによりわけ)さまと東西(とうざい)相応(あひおう)じ、362御(ご)親切(しんせつ)に何(なに)から何(なに)まで御(ご)注意(ちうい)下(くだ)さいまして有難(ありがた)う御座(ござ)います。363私(わたし)も一度(いちど)英子姫(ひでこひめ)様(さま)始(はじ)め、364貴方(あなた)達(たち)にもお礼(れい)のためにお伺(うかが)ひ致(いた)したいと思(おも)つて居(ゐ)ましたが、365何(なん)とは無(な)しに貧乏(びんばふ)暇(ひま)なしで御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)して居(を)りまする。366併(しか)し乍(なが)ら今日(けふ)は来客(らいきやく)がありますので、367失礼(しつれい)乍(なが)らお帰(かへ)り下(くだ)さいませ。368只今(ただいま)の宣伝歌(せんでんか)を拝聴(はいちやう)いたしましたが、369随分(ずゐぶん)立派(りつぱ)なお声(こゑ)でお節(ふし)もお上手(じやうづ)になられました。370丁度(ちやうど)竹生島(ちくぶしま)の社(やしろ)の後(うしろ)に現(あら)はれ玉(たま)うた女神(めがみ)様(さま)のお声(こゑ)その儘(まま)でしたよ。371オホヽヽヽ』
372亀彦(かめひこ)『御(お)差支(さしつかへ)とあれば是非(ぜひ)が御座(ござ)いませぬ。373左様(さやう)ならば、374お暇(いとま)致(いた)しませう』
375と云(い)ひつつ月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)び乍(なが)ら足早(あしばや)に帰(かへ)り行(ゆ)く。376後(あと)見送(みおく)つて高姫(たかひめ)は、
377高姫(たかひめ)『オホヽヽヽ、378やつぱり気(き)が咎(とが)めると見(み)えますワイなア。379……黒姫(くろひめ)さま、380高山彦(たかやまひこ)さま、381あの亀彦(かめひこ)が恐(こは)相(さう)な帰(かへ)り様(やう)、382計略(けいりやく)の裏(うら)をかかれて、383コソコソと鼠(ねずみ)のやうになつて逃(に)げたぢやありませぬか』
384黒姫(くろひめ)『ウフヽヽヽ』
385高山彦(たかやまひこ)『アハヽヽヽ』
386(大正一一・七・二二 旧閏五・二八 外山豊二録)
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