霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 茶目式(ちやめしき)〔七九三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻 篇:第3篇 神仙霊境 よみ(新仮名遣い):しんせんれいきょう
章:第11章 茶目式 よみ(新仮名遣い):ちゃめしき 通し章番号:793
口述日:1922(大正11)年07月25日(旧06月02日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年6月20日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三人は谷川に流されていく。常楠は、ハーリス山頂のご神業参加に急がねばならず、さりとて三人を救わねば命が危うく、やや迷っていたが、ご神業は遅れても参加できようが、三人の命は急を要すると腹を決め、島人を指揮して下流に三人を追っていった。
谷川がやや広く浅くなった場所で、人々は三人を救い上げて人工呼吸を施し、水を吐かせて反魂歌を歌って蘇生させた。常楠は三人を槻の大樹に送って介抱させ、自らは言依別、若彦を追って山頂に登って行った。
国依別、チャール、ベースの三人はようやく元気回復してきたが、竜神の柿を食ったせいか、腹が膨れてきて苦しみ出した。国依別は大蛇退散と言って、天の数歌を繰り返すと、腹は元のとおりに治って苦しさが収まった。国依別は神恩に感謝し、祝詞を上げた。
国依別はチャールとベースのためにも出任せの歌を歌いながら祈願をこらした。すると二人の腹も元のとおりに治ってしまった。島人たちはこの神力に驚き、国依別に合掌した。
国依別はチャール、ベースと共に大神に全快を感謝する祝詞を唱えると、足を早めてハーリス山に登り、力いっぱい宣伝歌を歌いながら言依別命一行を追って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-10-31 18:33:10 文字数:5217 OBC :rm2711
愛善世界社版:182頁 八幡書店版:第5輯 308頁 修補版: 校定版:188頁 普及版:81頁 初版: ページ備考:
001言依別(ことよりわけ)に従(したが)ひて
002ハーリス山(ざん)に登(のぼ)り行(ゆ)く
003国依別(くによりわけ)はその途中(とちう)
004谷(たに)の向(むか)ふに美(うる)はしく
005枝(えだ)もたわわに実(みの)りたる
006太平柿(たいへいがき)を見(み)るよりも
007俄(にはか)に食欲(しよくよく)勃発(ぼつぱつ)し
008空腹(くうふく)まぎれに道端(みちばた)に
009芭蕉(ばせう)の葉(は)をば敷具(しきぐ)とし
010悠々(いういう)端坐(たんざ)なし乍(なが)ら
011弥勒(みろく)如来(によらい)のその如(ごと)く
012左手(ゆんで)を腿(もも)にチヨイと載(の)せ
013右手(めて)の拳(こぶし)を握(にぎ)りつつ
014食指(ひとさしゆび)を突(つ)き出(だ)して
015無言(むごん)の儘(まま)に谷底(たにそこ)の
016太平柿(たいへいがき)を指(ゆび)さしつ
017続(つづ)いて我(わが)口(くち)我(わが)腹(はら)を
018幾度(いくたび)となく指示(さししめ)し
019チヤール、ベースや其(その)他(ほか)の
020木登(きのぼ)り上手(じやうず)の人(ひと)あらば
021谷間(たにま)を越(こ)えて攀上(よぢのぼ)り
022さも甘(うま)さうな彼(あ)の柿(かき)を
023われに一二個(いちにこ)献(たてまつ)れ
024口(くち)に言(い)はねど仕方(しかた)にて
025頻(しき)りに示(しめ)す可笑(をか)しさよ
026ハーリス山(ざん)の竜神(りうじん)が
027餌食(ゑじき)としたる太平柿(たいへいがき)
028野心(やしん)を起(おこ)し人々(ひとびと)が
029一個(いつこ)なりとも取(と)るならば
030忽(たちま)ち神(かみ)の御怒(みいか)りに
031触(ふ)れて腹部(ふくぶ)は膨張(ばうてう)し
032遂(つひ)には蛇(へび)の子(こ)を生(う)みて
033生命(いのち)を果(はた)すと聞(きこ)えたる
034危険(きけん)極(きは)まる果実(くわじつ)なり
035国依別(くによりわけ)の食欲(しよくよく)は
036旺(さかん)に起(おこ)り矢(や)も楯(たて)も
037怺(たま)らぬままに常楠(つねくす)に
038採(と)つて呉(く)れよと促(うなが)せば
039常楠(つねくす)不安(ふあん)を感(かん)じつつ
040已(や)むを得(え)ずして供人(ともびと)の
041チヤール、ベースに命令(めいれい)し
042国依別(くによりわけ)の要求(えうきう)を
043充(みた)しやらんと気(き)を配(くば)る
044チヤール、ベースは生神(いきがみ)の
045託宣(たくせん)否(いな)むに由(よし)も無(な)く
046蔓(つる)に下(さが)つて絶壁(ぜつぺき)を
047谷間(たにま)に下(くだ)り激流(げきりう)の
048中(なか)に浮(うか)べる岩頭(がんとう)を
049飛(と)び越(こ)え飛(と)び越(こ)え向(むか)ふ側(がは)
050漸(やうや)く渡(わた)りて柿(かき)の根(ね)を
051抱(いだ)いて空(そら)を眺(なが)むれば
052甘(うま)さうな香(にほひ)がプンプンと
053二人(ふたり)の鼻(はな)をついて来(く)る
054忽(たちま)ち二人(ふたり)は意(い)を決(けつ)し
055猿(ましら)の如(ごと)く攀上(よぢのぼ)り
056蚕(かひこ)の虫(むし)が桑(くは)の葉(は)を
057食(く)ひつくす如(ごと)小口(こぐち)から
058赤(あか)い熟柿(じゆくし)をむしり取(と)り
059ものをも言(い)はず大口(おほぐち)を
060開(ひら)いて頬張(ほほば)る可笑(をか)しさよ
061余(あま)りの甘(うま)さに両人(りやうにん)は
062己(おの)が役目(やくめ)を忘却(ばうきやく)し
063一生(いつしやう)懸命(けんめい)むしり取(と)り
064遮二(しやに)無二(むに)口(くち)に放(ほ)り込(こ)めば
065忽(たちま)ち膨(ふく)れた布袋腹(ほていばら)
066息(いき)をスウスウ喘(はづ)ませつ
067鰒(ふぐ)の木登(きのぼ)りした様(やう)な
068怪体(けたい)な姿(すがた)となりにけり
069国依別(くによりわけ)は打仰(うちあふ)ぎ
070一(ひと)つでよいから甘(うま)い奴(やつ)
071落(おと)して呉(く)れと呼(よ)ばはれど
072馬耳(ばじ)東風(とうふう)の両人(りやうにん)は
073生命(いのち)知(し)らずに食(く)つて居(ゐ)る
074国依別(くによりわけ)は思(おも)ふやう
075三五教(あななひけう)の神(かみ)の教(のり)
076必(かなら)ず人(ひと)に頼(たよ)るなよ
077わが身(み)の事(こと)は我(わが)身(み)にて
078やらねばならぬと云(い)ひ乍(なが)ら
079芭蕉葉(ばせうば)の席(せき)を立上(たちあが)り
080猿(ましら)の如(ごと)く断崖(だんがい)を
081蔓(つる)を力(ちから)に谷底(たにぞこ)に
082漸(やうや)く下(くだ)り対岸(むかふぎし)
083柿(かき)の大木(おほき)に抱(いだ)きつき
084登(のぼ)りついたる一(いち)の枝(えだ)
085ここに息(いき)をば休(やす)めつつ
086眼下(がんか)を見(み)ればいと高(たか)く
087激流(げきりう)飛沫(ひまつ)の水煙(みづけむり)
088水声(すゐせい)轟々(ぐわうぐわう)凄(すさま)じく
089肝(きも)も抜(ぬ)かるる許(ばか)りなり
090頭上(づじやう)の二人(ふたり)は右左(みぎひだり)
091猿(ましら)の如(ごと)く飛(と)び交(か)ひて
092五臓(ござう)六腑(ろつぷ)の裂(さ)ける迄(まで)
093生命(いのち)知(し)らずに食(く)つてゐる
094国依別(くによりわけ)は怺(たま)りかね
095危(あやふ)き所(ところ)に上(のぼ)らねば
096甘(うま)い熟柿(じゆくし)は食(く)へないと
097生命(いのち)を的(まと)に細枝(ほそえだ)に
098つかまり乍(なが)ら漸々(やうやう)に
099一(ひと)つの熟柿(じゆくし)をむしり取(と)り
100天下(てんか)無上(むじやう)の珍味(ちんみ)ぞと
101口(くち)にふくめば忽(たちま)ちに
102腹(はら)はふくれて吹(ふ)く息(いき)も
103漸(やうや)く苦(くる)しくなりにけり
104柿(かき)の根元(ねもと)を見下(みお)ろせば
105亀甲形(きつかふがた)の斑紋(はんもん)ある
106大蛇(をろち)の群(むれ)の数多(かずおほ)く
107目(め)を瞋(いか)らして上(のぼ)り来(く)る
108その形相(ぎやうさう)の凄(すさま)じさ
109進退(しんたい)茲(ここ)に谷(きは)まりて
110国依別(くによりわけ)は意(い)を決(けつ)し
111運(うん)をば天(てん)に任(まか)せつつ
112生死(せいし)の外(ほか)に超越(てうゑつ)し
113激潭(げきたん)飛沫(ひまつ)の青淵(あをぶち)を
114目蒐(めが)けて飛込(とびこ)む放(はな)れ業(わざ)
115ザンブと許(ばか)り水煙(みづけぶり)
116立(た)つよと見(み)る間(ま)に国依別(くによりわけ)の
117姿(すがた)は水泡(みなわ)と消(き)え失(う)せぬ
118チヤール、ベースの両人(りやうにん)は
119上(のぼ)り来(きた)れる蛇(へび)を見(み)て
120怖(おそ)れ戦(をのの)き国依別(くによりわけ)の
121珍(うづ)の命(みこと)が飛込(とびこ)みし
122青淵(あをぶち)目蒐(めが)けて飛込(とびこ)めば
123これ又(また)姿(すがた)は消(き)えにけり
124此(この)有様(ありさま)を目(ま)の当(あた)り
125眺(なが)めて居(ゐ)たる常楠(つねくす)や
126四五(しご)の土人(どじん)の供人(ともびと)は
127驚(おどろ)き周章(あわて)ワイワイと
128谷(たに)の流(なが)れに沿(そ)ひ乍(なが)ら
129三人(みたり)の姿(すがた)は何処(いづこ)ぞと
130右往(うわう)左往(さわう)に奔走(ほんそう)し
131狂(くる)ひ廻(まは)るぞ是非(ぜひ)なけれ
132谷間(たにま)を渡(わた)る風(かぜ)の音(おと)
133いと轟々(ぐわうぐわう)と吹(ふ)き荒(すさ)ぶ
134言依別(ことよりわけ)や若彦(わかひこ)は
135斯(かか)る事(こと)とは知(し)らずして
136三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)
137声(こゑ)も涼(すず)しく歌(うた)ひつつ
138谷(たに)を伝(つた)ひて奥(おく)深(ふか)く
139足(あし)を早(はや)めて進(すす)み行(ゆ)く。
140 常楠(つねくす)は此処(ここ)に於(おい)て迷(まよ)はざるを得(え)なかつた。141肝腎要(かんじんかなめ)の御(ご)神業(しんげふ)に参加(さんか)せざればならず、142又(また)国依別(くによりわけ)以下(いか)を助(たす)けなくては人間(にんげん)の道(みち)が立(た)たず………。
143常楠(つねくす)『あゝ如何(どう)したらよからうか。144末代(まつだい)に一度(いちど)の此(この)御(ご)神業(しんげふ)を外(はづ)しても国依別(くによりわけ)その外(ほか)を助(たす)けねばならぬであらうか。145それだと云(い)つて、146国依別(くによりわけ)の生命(いのち)もヤツパリ一(ひと)つだ。147グズグズして居(を)れば取返(とりかへ)しのつかない事(こと)になつて了(しま)ふ。148彼方(あちら)に尽(つく)せば此方(こちら)を救(すく)ふ事(こと)が出来(でき)ぬ。149此方(こちら)を救(すく)はんとすれば、150大切(たいせつ)な御(ご)神業(しんげふ)を放棄(はうき)せねばならず。151神(かみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)は最(もつと)も重(おも)く、152人命(じんめい)も亦(また)実(じつ)に大切(たいせつ)である』
153 兎(と)やせん角(かく)やせんと暫(しばら)くは四五間(しごけん)の間(あひだ)を上(のぼ)りつ、154下(くだ)りつ処置(しよち)に迷(まよ)うてゐた。
155常楠(つねくす)『アヽ、156グヅグヅしてゐると、157一方(いつぱう)は息(いき)の根(ね)が止(と)まつて了(しま)ふ。158御(ご)神業(しんげふ)は半時(はんとき)や一時(ひととき)遅(おく)れたとこで勤(つと)まらない事(こと)は無(な)い。159オーさうだ。160国依別(くによりわけ)を助(たす)ける方(はう)が本当(ほんたう)だらう』
161と独語(ひとりごと)云(い)ひ乍(なが)ら、162土人(どじん)の声(こゑ)のする方(はう)を尋(たづ)ねて谷川(たにがは)を伝(つた)ひ、163灌木(くわんぼく)を分(わ)けて下(くだ)つて往(ゆ)く。
164 四五丁(しごちやう)下流(しも)に当(あた)つて四五(しご)人(にん)の供人(ともびと)は声(こゑ)を限(かぎ)りに、
165『アレヨ アレヨ』
166とさざめいてゐる。167見(み)れば三(みつ)つの黒(くろ)い影(かげ)、168浮(う)きつ沈(しづ)みつ激流(げきりう)に流(なが)されて下(くだ)り往(ゆ)く。169何分(なにぶん)両方(りやうはう)は壁(かべ)の如(ごと)き岩(いは)、170容易(ようい)に近寄(ちかよ)る事(こと)は出来(でき)ない。171常楠(つねくす)は大声(おほごゑ)を上(あ)げて、
172常楠(つねくす)『下流(しも)へ 下流(しも)へ』
173と呼(よ)ばはり乍(なが)ら、174一目散(いちもくさん)に下流(かりう)を指(さ)して十丁(じつちやう)許(ばか)り駆出(かけだ)した。
175 此処(ここ)には谷川(たにがは)稍(やや)広(ひろ)く展開(てんかい)し水(みづ)も余程(よほど)浅(あさ)くなり流(なが)れも亦(また)緩(ゆる)やかになつて、176川底(かはぞこ)の小砂利(こじやり)迄(まで)がハツキリ見(み)えて居(ゐ)る。177常楠(つねくす)を始(はじ)め四五(しご)の供人(ともびと)はザブザブと川(かは)に飛入(とびい)り、178流(なが)れ来(きた)る三(さん)人(にん)の身体(からだ)を拾(ひろ)ひ上(あ)げんと横梯陣(わうていぢん)を作(つく)つて待(ま)つてゐる。
179 漸(やうや)く流(なが)れついたのは国依別(くによりわけ)、180続(つづ)いて二人(ふたり)も無事(ぶじ)に此処(ここ)に流(なが)れて来(き)た。181各(おのおの)一人(ひとり)の肉体(にくたい)を二人(ふたり)宛(づつ)手分(てわ)けして岸(きし)に引上(ひきあ)げ、182水(みづ)を吐(は)かせ、183種々(いろいろ)と人工(じんこう)呼吸(こきふ)を施(ほどこ)した末(すゑ)、184常楠(つねくす)は老人(らうじん)の皺嗄(しわが)れ声(ごゑ)を張(は)り上(あ)げ乍(なが)ら、185反魂歌(はんこんか)を繰返(くりかへ)し繰返(くりかへ)し高唱(かうしやう)した。186国依別(くによりわけ)は漸(やうや)くにして手足(てあし)を動(うご)かし出(だ)した。187常楠(つねくす)の面(かほ)は忽(たちま)ち輝(かがや)き初(そ)めた。188又(また)もや二人(ふたり)に向(むか)つて反魂歌(はんこんか)の数歌(かずうた)を唱(とな)へ上(あ)げるや、189漸(やうや)くにして二人(ふたり)も蘇生(そせい)した。190一同(いちどう)の悦(よろこ)びは譬(たと)ふるに物(もの)なきまでであつた。191常楠(つねくす)の命令(めいれい)に依(よ)つて国依別(くによりわけ)其(その)他(た)を天然(てんねん)ホテルの槻木(つきのき)の洞穴(どうけつ)に送(おく)り、192土人(どじん)に介抱(かいほう)させ置(お)き乍(なが)ら、193常楠(つねくす)は時(とき)遅(おく)れては一大事(いちだいじ)と、194疲(つか)れた老(おい)の足(あし)を引(ひき)ずり乍(なが)ら、195多羅(たら)の木(き)の杖(つゑ)を力(ちから)にハーリス山(ざん)の谷間(たにま)を目(め)がけて再(ふたた)び登(のぼ)り行(ゆ)く。
196 国依別(くによりわけ)、197チヤール、198ベースの三(さん)人(にん)は漸(やうや)く元気(げんき)恢復(くわいふく)した。199されど竜神(りうじん)の柿(かき)を食(く)つた天罰(てんばつ)か、200腹(はら)は追々(おひおひ)膨張(ばうてう)して臨月(りんげつ)の女(をんな)の様(やう)になつて来(き)た。201チヤール、202ベースの二人(ふたり)は、203ゴロリゴロリと身体中(からだぢう)丸(まる)くなつて毬(まり)のやうに転(ころ)げ廻(まは)り苦(くる)しみ乍(なが)ら、
204チヤール『モシモシ、205国依別(くによりわけの)神(かみ)様(さま)、206何(なん)とかして下(くだ)さいな』
207国依別(くによりわけ)『マア待(ま)つて呉(く)れ。208俺(おれ)の腹(はら)から癒(なほ)さなくちやならないのだ』
209チヤール『元(もと)は貴方(あなた)の為(ため)に、210斯(こ)んな目(め)に会(あ)つたのですから、211助(たす)けて頂(いただ)かねばつまりませぬ。212何(なん)だか腹(はら)の中(なか)に大蛇(をろち)の児(こ)がウヨウヨして居(ゐ)るやうに苦(くる)しくて怺(たま)りませぬワ。213大蛇(をろち)の赤児(あかご)が出産(しゆつさん)するや否(いな)や、214男女(だんぢよ)の区別(くべつ)なく即座(そくざ)に死(し)んで了(しま)うと言(い)ふことです。215これ丈(だ)け苦(くる)しくては死(し)んだ方(はう)が優(まし)だが、216死(し)んでもつまらない。217宅(うち)には女房(にようばう)や子(こ)が残(のこ)つてゐる。218何(なん)とかして早(はや)く助(たす)けて貰(もら)はねば、219追々(おひおひ)苦(くる)しくなつて来(き)ました』
220国依別(くによりわけ)『いやしさに世間(せけん)へ恥(はぢ)をかきの実(み)の
221腹(はら)ふくれても大蛇(だいじや)あるまい』
222と二度(にど)くり返(かへ)し口吟(くちずさ)み、223自分(じぶん)の腹(はら)を拳骨(げんこつ)を固(かた)めて三(みつ)つ四(よ)つ撲(なぐ)りつけ、
224国依別(くによりわけ)『大蛇(をろち)、225退散(たいさん)々々(たいさん)』
226と云(い)ひ了(をは)つて、227天(あま)の数歌(かずうた)を力(ちから)限(かぎ)りに苦(くる)しき息(いき)をつき乍(なが)ら奏上(そうじやう)した。228不思議(ふしぎ)や今迄(いままで)脹満(てうまん)のやうにふくれてゐた国依別(くによりわけ)の腹部(ふくぶ)は、229元(もと)の如(ごと)くに癒(なほ)り、230息(いき)も平常(へいぜい)の通(とほ)りになつて来(き)た。231国依別(くによりわけ)は直(ただ)ちに天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、232感謝(かんしや)祈願(きぐわん)の言葉(ことば)を唱(とな)へて神恩(しんおん)を涙(なみだ)乍(なが)らに感謝(かんしや)するのであつた。
233 チヤール、234ベースの二人(ふたり)は、235断末魔(だんまつま)の様(やう)な声(こゑ)を出(だ)して、236ウンウンと肩(かた)で息(いき)をし乍(なが)ら呻(うめ)いてゐる。237その惨状(さんじやう)目(め)も当(あ)てられぬ許(ばか)りであつた。
238 国依別(くによりわけ)は両人(りやうにん)の為(ため)に一生(いつしやう)懸命(けんめい)に汗水(あせみづ)を垂(た)らして感謝(かんしや)祈願(きぐわん)をしてゐる。
239国依別(くによりわけ)『竜神(りうじん)の柿(かき)食(く)て布袋(ほてい)になつチヤール
240腹(はら)は忽(たちま)ちヘースなるらん。
241柿(かき)取(と)つて見(み)ればヘースが当(あた)りまへ
242腹(はら)ふくれチヤール道理(だうり)わからぬ。
243チヤール、ヘース、国依別(くによりわけ)も諸共(もろとも)に
244天(あま)のはらから下(くだ)りけるかな。
245ハラハラと涙(なみだ)流(なが)してはらを撫(な)で
246柿(かき)を盗(ぬす)んだ腹(はら)いせに逢(あ)ひ。
247腹(はら)が立(た)てども仕方(しかた)なし
248竜神(りうじん)腹(はら)を立(た)てたのか
249汝(なんぢ)は横(よこ)に長(なが)い奴(やつ)
250腹(はら)立(た)て通(とほ)しもならうまい
251高天原(たかあまはら)にあれませる百(もも)の神(かみ)たち
252大海原(おほうなばら)にあれませる速(はや)秋津姫(あきつひめの)神(かみ)
253はらの悩(なや)みを祓(はら)ひ玉(たま)へ清(きよ)め玉(たま)へ
254ハラハラと降(ふ)り来(く)る雨(あめ)に空(そら)晴(は)れて
255大蛇(をろち)の空(そら)も澄(す)み渡(わた)りけり。』
256と口(くち)から出任(でまか)せの腰折(こしを)れ歌(うた)を詠(うた)ひ乍(なが)ら、257チヤール、258ベースの真(ま)ん中(なか)にチヨコナンと坐(すわ)り、259両人(りやうにん)の布袋腹(ほていばら)を両方(りやうはう)の手(て)で撫(な)で廻(まは)して居(ゐ)る。260薄紙(うすがみ)を剥(は)いだ様(やう)に二人(ふたり)の腹(はら)は漸次(ぜんじ)容積(ようせき)を減(げん)じて来(き)た。
261国依別(くによりわけ)『それ見(み)たか女房(にようばう)が撫(な)でるふぐの腹(はら)
262オツトドツコイ
263それ見(み)たか国依(くにより)なでる柿(かき)つぱら
264天津(あまつ)神(かみ)国津(くにつ)神(かみ)はらひ玉(たま)へ清(きよ)め玉(たま)へ
265高山(たかやま)の伊保理(いほり)、短山(ひきやま)の伊保理(いほり)
266かき分(わ)けて聞召(きこしめ)せよ
267これが盲(めくら)の柿(かき)のぞき
268節季(せつき)が来(き)たぞ節季(せつき)が来(き)たぞ
269かき出(だ)せかき出(だ)せ
270四(し)月(ぐわつ)と二(に)月(ぐわつ)の死際(しにぎは)ではないぞ
271今(いま)が二人(ふたり)の生命(いのち)の瀬戸際(せとぎは)
272万劫(まんごう)末代(まつだい)生(い)き通(どほ)し
273皇(すめ)大神(おほかみ)の守(まも)る身(み)は
274仮令(たとへ)大蛇(だいじや)の潜(ひそ)むとも
275大蛇(だいじや)あるまい二人(ふたり)連(づ)れ
276あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
277御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
278チヤール、ベースが苦(くる)しみを
279片時(かたとき)も早(はや)く救(すく)はせ玉(たま)へ
280その源(みなもと)を尋(たづ)ぬれば
281国依別(くによりわけ)より出(い)でし事(こと)
282罪(つみ)は全(まつた)く我(わが)身(み)にあれば
283何卒(なにとぞ)早(はや)く両人(りやうにん)の腹(はら)をひすぼらせ旧(もと)の元気(げんき)に恢復(くわいふく)せしめ玉(たま)へ
284あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
285と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に汗(あせ)みどろになつて祈念(きねん)し乍(なが)ら両手(りやうて)にて、286両人(りやうにん)の腹(はら)を撫(な)で下(お)ろした。287神徳(しんとく)忽(たちま)ち現(あら)はれ、288二人(ふたり)は半時(はんとき)余(あま)りの間(あひだ)に旧(もと)の如(ごと)くになつて了(しま)つた。289四五(しご)の供人(ともびと)も国依別(くによりわけ)の祈願(きぐわん)に依(よ)つて忽(たちま)ち全快(ぜんくわい)せし事(こと)を感歎(かんたん)し、290各(おのおの)口(くち)を揃(そろ)へて、
291『国依別(くによりわけ)の生神(いきがみ)様(さま)』
292と合掌(がつしやう)するのであつた。
293 国依別(くによりわけ)は大神(おほかみ)にチヤール、294ベースと共(とも)に感謝(かんしや)の祝詞(のりと)を奏(そう)し了(をは)り、295足(あし)を早(はや)めて再(ふたた)びハーリス山(ざん)指(さ)して登(のぼ)り行(ゆ)く。296国依別(くによりわけ)は道々(みちみち)宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら元気(げんき)旺盛(わうせい)八人(はちにん)連(づ)れにて、297言依別(ことよりわけ)の登(のぼ)りたる場所(ばしよ)を辿(たど)り進(すす)み行(ゆ)く。
298国依別(くによりわけ)『朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
299月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
300仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
301誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ
302神(かみ)の御稜威(みいづ)は目(ま)の当(あた)り
303わが改心(かいしん)と言霊(ことたま)の
304力(ちから)に依(よ)りて三柱(みはしら)の
305尊(たふと)き御子(みこ)は救(すく)はれぬ
306あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
307御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
308一(いち)時(じ)も早(はや)く片時(かたとき)も
309言依別(ことよりわけ)や若彦(わかひこ)の
310神(かみ)の命(みこと)の御(おん)前(まへ)へ
311導(みちび)き玉(たま)へハーリスの
312山(やま)を守(まも)らす高津(たかつ)神(かみ)
313不知(しらず)不識(しらず)の過(あやま)ちを
314直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
315助(たす)け玉(たま)ひし竜神(たつがみ)の
316恵(めぐ)みを感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る
317常楠翁(つねくすをう)は今(いま)何処(いづこ)
318定(さだ)めて吾(われ)等(ら)が進退(しんたい)を
319言依別(ことよりわけ)の御(おん)前(まへ)に
320完全(うまら)に詳細(つばら)に宣(の)り終(を)へて
321今(いま)は三人(みたり)の笑(わら)ひ草(ぐさ)
322森(もり)の木霊(こだま)に響(ひび)くらん
323天(てん)を封(ふう)じて聳(そそ)り立(た)つ
324老木林(おいきばやし)の谷(たに)の道(みち)
325進(すす)む吾(われ)等(ら)の涼(すず)しさよ
326名(な)は太平(たいへい)の柿(かき)なれど
327乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎの此(この)始末(しまつ)
328太乱柿(たいらんがき)と名(な)をつけて
329以後(いご)の戒(いまし)め何人(なにびと)も
330此(この)柿(かき)計(ばか)りは食(く)はぬ様(やう)に
331標(しるし)を立(た)てて置(お)かうかな
332いや待(ま)て暫(しば)し待(ま)て暫(しば)し
333太平柿(たいへいがき)は古(いにし)[*ママ]より
334食(く)てはならぬと里人(さとびと)が
335よつく承知(しようち)の上(うへ)なれば
336私(わし)の様(やう)なる周章者(あわてもの)
337よもや一人(ひとり)も此(この)島(しま)に
338必(かなら)ず住(す)んで居(を)らうまい
339そんな事(こと)して暇(ひま)を取(と)り
340肝腎要(かんじんかなめ)の神業(しんげふ)に
341ガラリ外(はづ)れて了(しま)うたら
342聖地(せいち)へ帰(かへ)り玉照彦(たまてるひこ)の
343厳(いづ)の命(みこと)や玉照姫(たまてるひめ)の
344瑞(みづ)の命(みこと)の御(おん)前(まへ)に
345どうして言(い)ひ訳(わけ)立(た)つものか
346国依別(くによりわけ)も今日(けふ)よりは
347心(こころ)の底(そこ)から立直(たてなほ)し
348茶目(ちやめ)式(しき)からかひ薩張(さつぱり)と
349止(や)めて真面目(まじめ)になりませう
350天然(てんねん)ホテルの入口(いりぐち)で
351若彦(わかひこ)、常楠(つねくす)両人(りやうにん)に
352向(むか)つて茶目(ちやめ)式(しき)発揮(はつき)なし
353ハーリス山(ざん)の竜神(たつがみ)の
354化(ば)けた女神(めがみ)と偽(いつは)つて
355悦(えつ)に入(い)つたるその罰(ばち)で
356俄(にはか)にこんな失敗(しつぱい)を
357神(かみ)から言(い)ひつけられたのだ
358あゝ後(おく)れしか後(おく)れしか
359嘸(さぞ)今頃(いまごろ)は言依別(ことよりわけ)の
360神(かみ)の司(つかさ)や若彦(わかひこ)が
361常楠(つねくす)さまと諸共(もろとも)に
362人(ひと)は見(み)かけによらぬもの
363国依別(くによりわけ)の宣伝使(せんでんし)
364立派(りつぱ)な奴(やつ)ぢやと思(おも)うたに
365神(かみ)の禁(きん)じた柿(かき)を喰(く)ひ
366谷(たに)に落(お)ちこみ他(ひと)の手(て)に
367かかつて救(すく)はれ何(なん)の態(ざま)
368神(かみ)の司(つかさ)と云(い)ひ乍(なが)ら
369有名(いうめい)無実(むじつ)のタワケ者(もの)
370チヤール、ベースの両人(りやうにん)に
371決(けつ)して罪(つみ)はない程(ほど)に
372口(くち)の賤(いや)しい国依(くにより)の
373わけが分(わか)からぬその為(ため)に
374あれ丈(だけ)苦(くるし)い目(め)に会(あ)うた
375常楠(つねくす)さまの報告(はうこく)で
376ヤツと安心(あんしん)したものの
377可哀相(かはいさう)なは両人(りやうにん)ぢや
378国依別(くによりわけ)は神勅(しんちよく)を
379叛(そむ)いて神(かみ)の冥罰(めいばつ)を
380喰(く)つたのなれば何(ど)うならうと
381仮令(たとへ)死(し)んでも構(かま)はない
382二人(ふたり)の奴(やつ)を助(たす)けたい
383なぞと今頃(いまごろ)三(さん)人(にん)は
384首(くび)を鳩(あつ)めてひそびそと
385小田原(をだはら)評定(へうぢやう)の最中(さいちう)だろ
386あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
387御霊(みたま)の幸(さち)を蒙(かうむ)りて
388空中(くうちう)飛行(ひかう)の曲芸(きよくげい)を
389うまく演(えん)じた吾々(われわれ)は
390お蔭(かげ)で生命(いのち)に別条(べつでう)なく
391シヤンシヤンここ迄(まで)やつて来(き)た
392言依別(ことよりわけ)や若彦(わかひこ)も
393よもやこれ丈(だけ)達者(たつしや)ぞと
394思(おも)ひ初(そ)めては居(を)られまい
395其処(そこ)へヌツクリ顔(かほ)出(だ)せば
396死(し)んだ我(わが)子(こ)が我(わが)家(いへ)に
397笑(わら)つて皈(かへ)つて来(き)たやうに
398悦(よろこ)び勇(いさ)んで呉(く)れるだろ
399オツトドツコイ言(い)ひ過(す)ぎた
400又(また)茶目(ちやめ)式(しき)になりかけた
401直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
402宣(の)り直(なほ)しませ天津(あまつ)神(かみ)
403国津(くにつ)御神(みかみ)の御(おん)前(まへ)に
404国依別(くによりわけ)が生命(せいめい)を
405助(たす)けられたる嬉(うれ)しさに
406感謝(かんしや)の歌(うた)を奉(たてまつ)る
407手(て)の舞(ま)ひ足(あし)の踏(ふ)むところ
408知(し)らずと云(い)ふは此(この)事(こと)か
409余(あんま)り嬉(うれ)しうて持前(もちまへ)の
410茶目(ちやめ)が出(で)て来(き)て脱線(だつせん)し
411不都合(ふつがふ)な事(こと)を云(い)ひました
412幾重(いくへ)にも御(お)詫(わび)申(まを)します
413朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
414月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
415仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
416今度(こんど)の事(こと)に懲々(こりこり)し
417毛筋(けすぢ)の巾(はば)の横幅(よこはば)も
418反(そむ)かず神(かみ)の御教(みをしへ)を
419必(かなら)ず守(まも)り奉(たてまつ)る
420あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
421御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
422と元気(げんき)に任(まか)せて声(こゑ)高(たか)らかに歌(うた)ひ乍(なが)ら、423足並(あしなみ)揃(そろ)へて奥(おく)へ奥(おく)へと進(すす)み行(ゆ)く。
424(大正一一・七・二五 旧六・二 外山豊二録)
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