霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一七章 沼(ぬま)の女神(めがみ)〔七九九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻 篇:第5篇 清泉霊沼 よみ(新仮名遣い):せいせんれいしょう
章:第17章 沼の女神 よみ(新仮名遣い):ぬまのめがみ 通し章番号:799
口述日:1922(大正11)年07月28日(旧06月05日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年6月20日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
琉球の島に残った三人は親子親密に島を納めて、人々の尊敬を集めていた。ある夜、清彦の夢に、琉球沼という沼の対岸に、清子姫と照子姫が現れて歌い踊り、清彦を差し招いた。
清彦は目が覚めてから島人に尋ねると、確かに島にはその沼があるとのことであった。沼の中央の珊瑚礁の地下には千畳敷があるという伝説から、島人は誰も近づかないという。清彦は照彦を沼に行こうと誘った。常楠も島を探検するよう二人に命じた。
清彦と照彦は従者を連れて沼に到着した。二人は沼に着くと、湖面を眺めながら清子姫、照子姫への想いを歌った。
一行は砂を敷き詰めた麗しい沼を進んで行った。水深が深くて進めない所に来ると、八尋鰐の群れが現れて橋となり、一行はその上を渡って行き珊瑚礁に着いた。
清彦は珊瑚礁の上で、自分たちが到着したことを知らせる歌を歌った。すると珊瑚礁の小島の岩窟の中から四人の男が現れて一同の前で黙礼し、岩窟を降って一行を案内した。
広場に着いた一行が休んでいると、盛装した清子姫と照子姫が現れた。清子姫は、自分たちは天使長・広宗彦の系統だが、常楠はその従臣であった国彦・国姫の子孫であることを述べた。そして、これこそ言依別教主が定めた因縁であることを明かした。
清彦は、差し招く清子姫の手を取り、清子姫に夫婦の契りを承諾する返歌を返した。同様に照子姫と照彦も夫婦の契りの歌を交わした。
清彦と清子姫は、この沼を中心として島を治めて、琉の島の守り神となって子孫栄え、世は太平に治まった。照彦と照子姫は南の島に渡って治め、人々の尊敬を集めた。南の島を球の島と言い、現在の八重山群島はこの一部が残っている者である。照彦夫婦は台湾島北部にまで教勢を伸ばした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-10-20 10:21:34 文字数:6453 OBC :rm2717
愛善世界社版:263頁 八幡書店版:第5輯 337頁 修補版: 校定版:271頁 普及版:116頁 初版: ページ備考:
001 言依別(ことよりわけの)命(みこと)、002国依別(くによりわけ)は高砂島(たかさごじま)へ、003若彦(わかひこ)は自転倒(をのころ)島(じま)へ、004照子姫(てるこひめ)、005清子姫(きよこひめ)は言依別(ことよりわけ)の後(あと)を慕(した)うて立去(たちさ)つた。後(あと)の清彦(きよひこ)、006照彦(てるひこ)は[※「立ち去つた。後の」は初版、校定版、愛世版では、「後を慕うて立去つた後の清彦、照彦は」になっている。しかしそれでは文章がおかしい。霊界物語ネットでは句点が欠落していると判断し、句点を挿入した。]、007父(ちち)の常楠(つねくす)と共(とも)に此(この)離(はな)れ島(じま)に残(のこ)され、008恰(あたか)も遠島(ゑんたう)に流(なが)されし如(ごと)き淋(さび)しみを感(かん)じた。009これより親子(おやこ)三(さん)人(にん)の交際(かうさい)は益々(ますます)親密(しんみつ)を加(くは)へ、010よく父子(おやこ)兄弟(きやうだい)の順序(じゆんじよ)行(おこな)はれ、011数多(あまた)の土人(どじん)の益々(ますます)崇敬(すうけい)の的(まと)となつて居(ゐ)た。
012 此(この)島(しま)に琉球沼(りうきうぬま)と云(い)ふ至(いた)つて広(ひろ)き藺(ゐ)の密生(みつせい)した沼(ぬま)がある。013或(ある)夜(よ)清彦(きよひこ)の夢(ゆめ)に……清子姫(きよこひめ)照子姫(てるこひめ)の二人(ふたり)、014沼(ぬま)の対岸(むかふぎし)に現(あら)はれ、015白(しろ)き細(ほそ)き手(て)をさし延(の)べて清彦(きよひこ)に向(むか)ひ、
016清子姫、照子姫『琉球(りうきう)へおじやるなら、017草鞋(わらぢ)穿(は)いておじやれ、018琉球(りうきう)は石原(いしはら)、019小石原(こいしはら)』
020と歌(うた)つて踊(をど)りしと夢(ゆめ)見(み)て目(め)が醒(さ)めた。
021 土人(どじん)のエムとセムとの従者(じゆうしや)に向(むか)つて清彦(きよひこ)は、
022清彦(きよひこ)『此(この)島(しま)に琉球沼(りうきうぬま)と云(い)ふ広大(くわうだい)無辺(むへん)な清泉(せいせん)を湛(たた)へた沼(ぬま)があるか』
023と尋(たづ)ねて見(み)た。024エム、025セムの二人(ふたり)は言下(げんか)に首(くび)を縦(たて)にふり乍(なが)ら、
026エム『有(あ)ります有(あ)ります、027確(たしか)に立派(りつぱ)な沼(ぬま)があつて、028藺(ゐ)が周辺(しうへん)に密生(みつせい)し、029比較(ひかく)的(てき)浅(あさ)く、030さうして外(ほか)の沼(ぬま)とは違(ちが)つて、031水底(みなそこ)は小砂利(こじやり)を以(もつ)て敷(しき)つめた様(やう)な気分(きぶん)の良(よ)い沼(ぬま)です。032その中央(ちうあう)に珊瑚礁(さんごせう)で作(つく)られた立派(りつぱ)な岩(いは)があり、033其(その)岩(いは)には大(おほ)きな穴(あな)が明(あ)いて居(を)る。034其(その)穴(あな)を這入(はい)ると中(なか)は千畳敷(せんぜうじき)で、035時々(ときどき)立派(りつぱ)な美人(びじん)が其(その)穴(あな)より二人(ふたり)現(あら)はれ、036金扇(きんせん)を拡(ひろ)げて踊(をど)り狂(くる)ひ舞(ま)ふとの事(こと)です』
037セム『此(この)里(さと)の者(もの)は伝説(でんせつ)に聞(き)く計(ばか)り、038恐(おそ)れて近寄(ちかよ)つた者(もの)はありませぬ』
039清彦(きよひこ)『お前(まへ)知(し)つて居(ゐ)るなら、040そこまで案内(あんない)をして呉(く)れないか』
041エム『御(ご)案内(あんない)は致(いた)しますが、042うつかり沼(ぬま)の中(なか)へでも這入(はい)つて貰(もら)つたら大変(たいへん)です』
043清彦(きよひこ)『照彦(てるひこ)、044お前(まへ)も行(ゆ)かうぢやないか。045清子姫(きよこひめ)、046照子姫(てるこひめ)と寸分(すんぶん)違(ちが)はぬ美人(びじん)が扇(あふぎ)を拡(ひろ)げて我々(われわれ)兄弟(きやうだい)両人(りやうにん)を待(ま)つて居(ゐ)るぞよ』
047照彦(てるひこ)『兄貴(あにき)、048それは夢(ゆめ)だないか。049余(あんま)り清(きよ)さま照(てる)さまに精神(せいしん)を取(と)られて居(ゐ)るものだから、050そんな夢(ゆめ)を見(み)たのだよ。051キツと大蛇(をろち)の御(お)化(ばけ)にきまつてゐる。052私(わし)はマア止(や)めておかうか』
053清彦(きよひこ)『ハテ気(き)の弱(よわ)い。054兎(と)も角(かく)経験(けいけん)の為(ため)に行(い)つて見(み)たら如何(どう)だ。055別(べつ)に外(ほか)に忙(いそが)しい用(よう)があると云(い)ふのではない。056物(もの)は経験(けいけん)ぢやないか。057将来(しやうらい)此(この)島(しま)の覇王(はわう)とならうと思(おも)へば、058隅々(すみずみ)までも探険(たんけん)しておく必要(ひつえう)があるだらう。059……お父(とう)さま、060如何(どう)でせう。061我々(われわれ)兄弟(きやうだい)、062エムとセムを案内者(あんないしや)として一度(いちど)探険(たんけん)に行(い)つて来(き)たいと思(おも)ひますが……』
063常楠(つねくす)『何(なに)を言(い)つても、064ここは世界(せかい)の秘密国(ひみつこく)だ。065御(ご)苦労(くらう)だが一(ひと)つ調(しら)べて貰(もら)ひたい。066……エム、067セムの両人(りやうにん)、068お前(まへ)御(ご)苦労(くらう)だが、069二人(ふたり)の案内(あんない)をしてやつて呉(く)れ』
070 エム、071セムの二人(ふたり)は一(いち)も二(に)もなく承諾(しようだく)をした。072茲(ここ)に四(よ)人(にん)は常楠(つねくす)と共(とも)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、073成功(せいこう)を祈願(きぐわん)し終(をは)つて、074草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)の軽装(けいさう)にて、075一本(いつぽん)の杖(つゑ)を携(たづさ)へ、076芭蕉(ばせう)の葉(は)で編(あ)んだ一文字(いちもんじ)笠(がさ)を頭(かしら)に頂(いただ)き乍(なが)ら、077一天(いつてん)雲(くも)なき青空(あをぞら)を草(くさ)を分(わ)けて、078琉球沼(りうきうぬま)の畔(ほとり)に辿(たど)り着(つ)いた。079里程(りてい)は殆(ほとん)ど今(いま)の十(じふ)里(り)位(くらゐ)である。080湖辺(こへん)に着(つ)いた頃(ころ)は太陽(たいやう)は既(すで)にセークス山(ざん)の頂(いただ)きに没(ぼつ)し、081山(やま)の影(かげ)は湖面(こめん)を蔽(おほ)ふ頃(ころ)であつた。
082 清彦(きよひこ)は沼(ぬま)の畔(ほとり)に立(た)つて、083湖面(こめん)を眺(なが)め歌(うた)つて見(み)た。
084清彦(きよひこ)『神(かみ)の教(をしへ)に清(きよ)められ
085魂(たま)を研(みが)いた清彦(きよひこ)や
086身魂(みたま)も四方(よも)に照(て)り渡(わた)る
087照彦(てるひこ)宣伝使(せんでんし)
088琉球(りうきう)の沼(ぬま)に永久(とこしへ)に
089鎮(しづ)まりゐます心(こころ)も清(きよ)き清子姫(きよこひめ)
090身魂(みたま)もてれる照子姫(てるこひめ)
091清(きよ)と清(きよ)との清(きよ)い仲(なか)
092照(てる)と照(てる)との明(あか)い仲(なか)
093エムとセムとの案内(あない)にて
094お前(まへ)に会(あ)はんとこがれこがれて
095出(で)て来(き)たやさしい男(をとこ)
096セークス山(ざん)に日(ひ)が隠(かく)れ
097早(はや)烏羽玉(うばだま)の夜(よ)は近(ちか)づいた
098清(きよ)い清(きよ)い朝日(あさひ)の如(ごと)く
099明(あか)き明(あか)き天津(あまつ)日(ひ)の
100照(て)り輝(かがや)く如(ごと)く
101実(げ)に麗(うるは)しき男(をとこ)と男(をとこ)
102夢(ゆめ)の中(なか)なる女(をんな)を尋(たづ)ね
103夢(ゆめ)に夢見(ゆめみ)る心地(ここち)して
104此処(ここ)まで訪(たづ)ねて来(き)た男(をとこ)
105沼(ぬま)の女神(めがみ)よ心(こころ)あらば
106男(をとこ)の切(せつ)ない思(おも)ひを汲(く)めよ
107夢(ゆめ)の中(なか)とは言(い)ひ乍(なが)ら
108お前(まへ)は私(わし)を清(きよ)い心(こころ)で
109呼(よ)んだでないか
110白(しろ)きただむき淡雪(あはゆき)の
111若(わか)やる胸(むね)を素(す)だたき
112たたきまながり真玉手(またまで)玉手(たまで)
113互(たがひ)にさしまき腿長(ももなが)に
114水火(いき)を合(あは)して此(この)島(しま)の
115守(まも)りの神(かみ)とならうでないか
116夢(ゆめ)の中(なか)なる清子姫(きよこひめ)
117照子(てるこ)の姫(ひめ)よ遥々(はるばる)と
118訪(たづ)ね来(きた)れる清彦(きよひこ)や
119照彦(てるひこ)の真心(まごころ)を
120仇(あだ)に思(おも)ふな沼(ぬま)の主(ぬし)』
121と歌(うた)つた。
122 照彦(てるひこ)は清彦(きよひこ)の歌(うた)の終(をは)るを待(ま)ち兼(か)ねた様(やう)に、
123照彦(てるひこ)『かくれた かくれた日輪(にちりん)様(さま)は
124セークス山(ざん)の頂(いただ)きに
125沼(ぬま)を包(つつ)んだ涼(すず)しい影(かげ)に
126我(われ)等(ら)が心(こころ)も涼(すず)しくなつた
127心(こころ)は照(て)る照(て)る身魂(みたま)は清(きよ)く
128小石(こいし)の並(なら)んだ沼(ぬま)の底(そこ)
129小魚(さな)の躍(をど)りもよく見(み)える
130踊(をど)るは小魚(こうを)のみでない
131照彦(てるひこ)心(こころ)も勇(いさ)み立(た)ち
132思(おも)はず手足(てあし)が踊(をど)り出(だ)す
133照(て)れよ照(て)れ照(て)れ心(こころ)の光(ひかり)
134清(きよ)い身魂(みたま)に宿(やど)つた神(かみ)の
135分(わけ)の霊魂(みたま)の清彦(きよひこ)兄貴(あにき)
136兄弟(きやうだい)二人(ふたり)が姉妹(おとどい)を
137訪(たづ)ねて来(き)たのも外(ほか)でない
138昨夜(ゆうべ)兄貴(あにき)が見(み)た夢(ゆめ)の
139沼(ぬま)の女(をんな)に会(あ)ひたさに
140木(き)の丸殿(まるどの)を立出(たちい)でて
141エムとセムとに送(おく)られて
142草野(くさの)を分(わ)けてやつて来(き)た
143男心(をとこごころ)を汲(く)み取(と)つて
144早(はや)く姿(すがた)を現(あら)はせよ
145沼(ぬま)に泛(うか)んだ珊瑚礁(さんごせう)
146エムとセムとの話(はなし)を聞(き)けば
147黄金(こがね)の扇(あふぎ)打(うち)ひろげ
148天女(てんによ)の様(やう)な乙女子(をとめご)が
149何時(いつ)も現(あら)はれますと聞(き)く
150私(わし)等(ら)二人(ふたり)は琉球(りうきう)の
151国(くに)の頭(かしら)に任(ま)けられて
152此処(ここ)に現(あら)はれ照(て)りわたる
153月日(つきひ)の光(ひかり)を身(み)に受(う)けて
154二人(ふたり)と二人(ふたり)の心(こころ)を合(あは)せ
155北(きた)と南(みなみ)の夫婦島(めをとじま)
156千代(ちよ)の契(ちぎり)を結(むす)ばうと
157お前(まへ)にこがれて来(き)た男(をとこ)
158仇(あだ)に返(かへ)すな沼(ぬま)の主(ぬし)』
159と歌(うた)ひ終(をは)つて、160四(よ)人(にん)は美(うる)はしき砂(すな)の布(し)きつめた様(やう)な浅(あさ)き沼(ぬま)を、161小(ちい)さき雑魚(ざこ)を驚(おどろ)かせ乍(なが)らバサバサと、162時(とき)ならぬ波(なみ)を立(た)てて進(すす)んで行(ゆ)く。
163 遥(はるか)彼方(あなた)に黒(くろ)ずんで浮(う)いて居(を)る珊瑚礁(さんごせう)の影(かげ)、164日(ひ)は漸(やうや)く地平線(ちへいせん)下(か)に没(ぼつ)し、165そろそろ暗(やみ)の帳(とばり)は下(おろ)されて来(き)た。166涼(すず)しき風(かぜ)は一行(いつかう)の面(おもて)を撫(な)で、167水深(すゐしん)は最早(もはや)太腿(ふともも)の所(ところ)まで浸(ひた)された。168忽(たちま)ち島(しま)はポーツと明(あか)くなつた。169四(よ)人(にん)は何(なん)となく心(こころ)勇(いさ)み明(あか)りを目当(めあて)に進(すす)んで行(ゆ)く。
170 忽(たちま)ち現(あら)はれた八尋鰐(やひろわに)、171此処(ここ)よりは水深(すゐしん)俄(にはか)に増(ま)して到底(たうてい)前進(ぜんしん)する事(こと)が出来(でき)ない。172ハタと当惑(たうわく)して居(ゐ)る矢先(やさき)、173八尋鰐(やひろわに)は橋(はし)の様(やう)になつて其(その)前(まへ)に横(よこ)たはつた。174幾十(いくじふ)とも知(し)れぬ鰐(わに)は珊瑚礁(さんごせう)を基点(きてん)として、175長(なが)き橋(はし)を架(か)けた様(やう)に単縦陣(たんじうぢん)を作(つく)り、176四(よ)人(にん)の男(をとこ)に此(この)上(うへ)を渡(わた)れ……と言(い)はぬ許(ばか)りの意思(いし)を示(しめ)した。
177 清彦(きよひこ)外(ほか)三(さん)人(にん)は神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し乍(なが)ら、178鰐(わに)の背(せ)を覚束(おぼつか)なげに踏(ふ)みこえ踏(ふ)みこえ、179漸(やうや)くにしてポツと明(あか)い珊瑚礁(さんごせう)に辿(たど)り着(つ)いた。180振(ふ)りかへり見(み)れば今迄(いままで)現(あら)はれた八尋鰐(やひろわに)の姿(すがた)は水泡(みなわ)の如(ごと)く消(き)え果(は)て、181後(あと)には波(なみ)静(しづ)かに魚鱗(ぎよりん)の如(ごと)く漂(ただよ)うて居(ゐ)た。
182 清彦(きよひこ)は珊瑚礁(さんごせう)に安着(あんちやく)した祝(いは)ひに、183心(こころ)も何(なん)となくいそいそし乍(なが)ら、184又(また)も歌(うた)ひ踊(をど)つて居(ゐ)た。
185清彦(きよひこ)『ここは琉球(りうきう)の中心(ちうしん)地点(ちてん)
186夢(ゆめ)の中(なか)なる恋妻(こひづま)の
187堅磐(かきは)常磐(ときは)に隠(かく)れたる
188高砂島(たかさごじま)か珍島(うづしま)か
189珍(うづ)の女神(めがみ)の御玉(みたま)の住処(すみか)
190琉球(りうきう)へおじやるなら
191草鞋(わらぢ)穿(は)いておじやれ
192琉球(りうきう)は石原(いしはら)小石原(こいしはら)
193唄(うた)つて聞(き)かした二人(ふたり)のナイス
194今(いま)はいづくに身(み)をかくす
195はるばる訪(たづ)ねて来(き)た男(をとこ)
196出迎(でむか)へせぬとは無礼(ぶれい)ぞや
197私(わし)も男(をとこ)の端(はし)ではないか
198竜(たつ)の化身(けしん)か天女(てんによ)の果(はて)か
199但(ただし)は清子(きよこ)照子(てるこ)の幻像(げんざう)か
200真偽(しんぎ)の程(ほど)は我々(われわれ)の
201恋(こひ)に迷(まよ)うた眼(まなこ)には
202ハツキリ分(わか)らない
203夢(ゆめ)に踊(をど)つたお前(まへ)の姿(すがた)
204白(しろ)い肌(はだへ)や白(しろ)い腿(もも)
205太(ふと)い乳房(ちぶさ)をブラブラと
206見(み)せたる時(とき)の心持(こころもち)
207俺(おれ)はどうしても忘(わす)られぬ
208恋(こひ)の暗路(やみぢ)に迷(まよ)うた男(をとこ)
209琉球(りうきう)の沼(ぬま)で兄弟(きやうだい)が
210恋(こひ)の虜(とりこ)とならうとは
211夢(ゆめ)にも思(おも)はぬ清彦(きよひこ)が
212赤(あか)き心(こころ)を知(し)るならば
213夢(ゆめ)を破(やぶ)つて現実(げんじつ)の
214清子(きよこ)の姫(ひめ)や照子姫(てるこひめ)
215早(はや)く姿(すがた)を現(あら)はせよ
216お前(まへ)に会(あ)ひたさ顔(かほ)見(み)たさ
217千代(ちよ)も八千代(やちよ)も添(そ)ひたさに
218父(ちち)の前(まへ)にて言挙(ことあ)げし
219弟(おとうと)までも誘(いざな)うて
220やつて来(き)たのは阿呆(あほ)らしい
221清姫(きよひめ)、照姫(てるひめ)心(こころ)あらば
222夢(ゆめ)の姿(すがた)を現実(げんじつ)に
223早(はや)く現(あら)はせ自転倒(おのころ)の
224神(かみ)の島(しま)をば後(あと)にして
225遥々(はるばる)訪(たづ)ねて来(き)た男(をとこ)
226児島(こじま)半島(はんたう)の磯端(いそばた)近(ちか)く
227波(なみ)に揉(も)まれて暗礁(あんせう)に
228船(ふね)を乗(の)りあげ玉(たま)の緒(を)の
229消(き)ゆる命(いのち)を助(たす)けた俺(おれ)達(たち)兄弟(きやうだい)
230瑞(みづ)の宝座(ほうざ)に仕(つか)へて居(を)つた
231お前(まへ)二人(ふたり)を女房(にようばう)にしようと
232兄弟(きやうだい)二人(ふたり)が目星(めぼし)をつけて
233互(たがひ)に恋(こひ)を争(あらそ)ひつ
234其(その)煩(うるさ)さに烏羽玉(うばたま)の
235暗(やみ)に紛(まぎ)れて逃(に)げ出(だ)した
236お前(まへ)は清(きよ)さま照(てる)さまだらう
237言依別(ことよりわけ)の後(あと)追(お)うて
238万里(ばんり)の波濤(はたう)を横(よこ)ぎりつ
239高砂島(たかさごじま)へ渡(わた)り越(こ)したと思(おも)うたお前(まへ)
240やはり琉球(りうきう)が恋(こひ)しうて
241五月蠅(うるさ)い二人(ふたり)を振棄(ふりすて)て
242水(みづ)で囲(かこ)んだ此(この)沼(ぬま)の
243珊瑚礁(さんごせう)をば宝座(ほうざ)とし
244千代(ちよ)に八千代(やちよ)に永久(とこしえ)に
245此(この)岩窟(がんくつ)に身(み)を潜(ひそ)め
246恋(こひ)を葬(ほうむ)るお前(まへ)の心(こころ)
247とは言(い)ふものの魂(たましひ)は
248ヤツパリ我々(われわれ)兄弟(きやうだい)を
249忘(わす)れかねてか昨夜(ゆうべ)の夢(ゆめ)に
250黄金(こがね)の扇子(せんす)を打(うち)ひろげ
251心(こころ)も清(きよ)き清彦(きよひこ)を
252笑(ゑみ)を湛(たた)へて招(まね)いたぢやないか
253神(かみ)の結(むす)んだ尊(たふと)い夫(をつと)
254出迎(でむか)へせぬとは没義道(もぎだう)だ
255恋(こひ)に上下(じやうげ)の隔(へだ)てはなかろ
256三国一(さんごくいち)の婿(むこ)が来(き)た
257早(はや)く鉄門(かなど)を押(お)しあけて
258二人(ふたり)の男(をとこ)を迎(むか)へ入(い)れ
259お前(まへ)の初恋(はつこひ)うまうまと
260叶(かな)へてやらう又(また)私(わし)の
261初恋(はつこひ)ならぬ二度目(にどめ)の恋路(こひぢ)
262国(くに)に残(のこ)した妻子(さいし)はあれど
263何時(いつ)の間(ま)にやら人(ひと)の妻(つま)
264行方(ゆくへ)も知(し)らぬ妻子(つまこ)の身(み)の上(うへ)
265かうなる上(うへ)はよもや
266天則(てんそく)違反(ゐはん)に問(と)はれはすまい
267何(なん)の躊躇(ちうちよ)も要(い)るものか』
268と歌(うた)ひ終(をは)つた。269此(この)時(とき)岩窟(がんくつ)の中(なか)より、270岩(いは)の戸(と)を取外(とりはづ)して現(あら)はれ出(い)でた、271ダラダラ筋(すぢ)の被衣(はつぴ)をつけた四(よ)人(にん)の男(をとこ)、272四(よ)人(にん)の前(まへ)に目礼(もくれい)し、273無言(むごん)の儘(まま)差(さ)し招(まね)き、274うす暗(ぐら)い岩窟(がんくつ)を先(さき)に立(た)つて下(くだ)つて行(ゆ)く。275四(よ)人(にん)は後(あと)に従(したが)ひ、276細(ほそ)き岩窟(がんくつ)を稍(やや)腰(こし)を屈(かが)めて、277右(みぎ)に左(ひだり)に上(のぼ)りつ下(くだ)りつ、278パツと明(あか)るい広場(ひろば)に辿(たど)り着(つ)いた。
279 迎(むか)への男(をとこ)は手真似(てまね)で、280ここに暫(しばら)く休息(きうそく)せよと示(しめ)した。281四(よ)人(にん)は恰好(かつかう)の岩(いは)の突起(とつき)に腰(こし)を打(う)ちかけ、282暫(しばら)く息(いき)を休(やす)むることとなつた。283迎(むか)への男(をとこ)は其(その)儘(まま)どこともなく姿(すがた)を隠(かく)した。284嚠喨(りうりやう)たる音楽(おんがく)の音(ね)四辺(あたり)より響(ひび)き来(きた)る。
285 暫(しばら)くあつて二人(ふたり)の美人(びじん)桃色(ももいろ)の顔容(かんばせ)に纓絡(ようらく)の付(つ)いたる冠(かむり)を戴(いただ)き、286玉串(たまぐし)を両手(りやうて)に捧(ささ)げ、287悠々(いういう)として此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、288一人(ひとり)は稍(やや)丸顔(まるがほ)に少(すこ)しく身体(しんたい)太(ふと)り、289一人(ひとり)は少(すこ)しく年(とし)若(わか)く顔(かほ)は細型(ほそがた)に体(からだ)もそれに応(おう)じて稍(やや)細(ほそ)く、290三十二(さんじふに)相(さう)の具備(ぐび)したる観(くわん)自在天(じざいてん)の如(ごと)き容色(ようしよく)端麗(たんれい)にして、291其(その)崇高(けだか)き事(こと)譬(たと)ふる物(もの)なき許(ばか)りであつた。292清彦(きよひこ)、293照彦(てるひこ)は余(あま)りの美(うる)はしさと荘厳(さうごん)さと、294どこともなく犯(をか)す可(べか)らざる威厳(ゐげん)の備(そな)はるあるに、295稍(やや)怖気(おぢけ)づき、296呆然(ばうぜん)として其(その)姿(すがた)を看守(みまも)るのみであつた。297先(さき)に立(た)つた女神(めがみ)は清子姫(きよこひめ)である。298花(はな)の如(ごと)き唇(くちびる)を淑(しと)やかに開(ひら)いて清彦(きよひこ)に向(むか)ひ、299歌(うた)つて言(い)ふ。
300清子姫(きよこひめ)『妾(わらは)は聖地(せいち)エルサレム
301神(かみ)の都(みやこ)に仕(つか)へたる
302天使(てんし)の長(をさ)と現(あ)れませる
303広宗彦(ひろむねひこ)が四代(よだい)の孫(まご)
304身魂(みたま)も清(きよ)き清子姫(きよこひめ)
305汝(なれ)が父(ちち)の常楠(つねくす)は
306国彦(くにひこ)、国姫(くにひめ)が三代目(さんだいめ)の曾孫(ひまご)
307元(もと)を糾(ただ)せば古(いにしへ)より
308切(き)つても切(き)れぬ神(かみ)の綱(つな)
309恋(こひ)の懸橋(かけはし)永久(とこしへ)に
310落(お)ちず流(なが)れず清彦(きよひこ)が
311妻(つま)となるべき清子姫(きよこひめ)
312お前(まへ)は身魂(みたま)の因縁(いんねん)を
313顧(かへり)みずして照子姫(てるこひめ)に
314思(おも)ひをかけし恋男(こひをとこ)
315モウ斯(か)うなる上(うへ)は
316定(さだ)まる縁(えにし)と諦(あきら)めて
317清子姫(きよこひめ)の夫(をつと)となり
318夫婦(ふうふ)仲(なか)よく此(この)島(しま)に
319いや永久(とこしへ)に住居(すまゐ)して
320国(くに)の司(つかさ)とならうでないか
321槻(つき)の洞(ほら)にて出会(であ)うた女(をんな)
322姿(すがた)も顔(かほ)も少(すこ)しも変(かは)らぬ清子姫(きよこひめ)
323最早(もはや)お前(まへ)の怪(あや)しの夢(ゆめ)は
324醒(さ)めたであらう
325あなにやし好男(えーをとこ)
326あなにやし好乙女(えーをとめ)よと
327八千代(やちよ)を契(ちぎ)る玉椿(たまつばき)
328幾千代(いくちよ)迄(まで)も添(そ)ひ遂(と)げて
329神(かみ)の御旨(みむね)に叶(かな)へまつれよ
330我(わが)恋(こ)ふる清彦(きよひこ)の司(つかさ)
331これぞ全(まつた)く言依別(ことよりわけ)の
332教主(けうしゆ)の定(さだ)め玉(たま)ひし
333二人(ふたり)の縁(えにし)
334よもや否応(いやおう)ありますまいぞ
335色(いろ)好(よ)き応答(いらへ)を松虫(まつむし)の
336泣(な)いて暮(くら)した我(わが)心(こころ)
337仇(あだ)には棄(す)てな三五(あななひ)の
338神(かみ)の司(つかさ)の清彦(きよひこ)よ
339朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
340月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
341仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
342神(かみ)の結(むす)んだ此(この)縁(えにし)
343お前(まへ)が心(こころ)の怪(あや)しき曲者(くせもの)に
344破(やぶ)られさうな事(こと)はない』
345 『サアサアおじや』……と手(て)を執(と)れば、346清彦(きよひこ)は案(あん)に相違(さうゐ)の面持(おももち)にて、347清子(きよこ)の姫(ひめ)をよつく凝視(みつ)め、348俄(にはか)に姫(ひめ)が恋(こひ)しくなり、349手(て)を引(ひ)かれ乍(なが)ら歌(うた)ひ出(だ)した。
350清彦(きよひこ)『神(かみ)の結(むす)んだ二人(ふたり)のえにし
351深(ふか)い仕組(しぐみ)は知(し)らずして
352汚(けが)れ果(は)てたる身魂(みたま)を持(も)ち乍(なが)ら
353お前(まへ)は好(すき)ぢや嫌(きら)ひぢやと
354小言(こごと)を云(い)うた恥(はづ)かしさ
355照子(てるこ)の姫(ひめ)に弥(いや)まさる
356今(いま)のお前(まへ)の姿(すがた)を眺(なが)め
357頓(とみ)に恋(こひ)しくなつて来(き)た
358ホンニお前(まへ)は美(うつく)しい
359実(げ)に愛(あい)らしい妹(いも)ぢやぞえ
360夢(ゆめ)に牡丹餅(ぼたもち)、地獄(ぢごく)で仏(ほとけ)
361何(なん)に譬(たとへ)ん今日(けふ)の喜悦(よろこび)
362夢(ゆめ)の中(なか)なるナイスに出会(であ)ひ
363未(いま)だ夢見(ゆめみ)る心地(ここち)して
364胸(むね)の鼓動(こどう)はドキドキと
365まだ治(をさ)まらぬ清彦(きよひこ)が
366心(こころ)の切(せつ)なさ嬉(うれ)しさよ
367是(これ)も夢(ゆめ)ではあるまいか
368夢(ゆめ)なら夢(ゆめ)でも是非(ぜひ)はない
369いついつまでも此(この)儘(まま)に
370夢(ゆめ)は醒(さ)めざれ夢(ゆめ)に夢見(ゆめみ)る
371浮世(うきよ)の夢(ゆめ)は
372天国(てんごく)浄土(じやうど)のパラダイス
373芙蓉(はちす)の山(やま)に永久(とこしえ)に
374鎮(しづ)まりゐます木花(このはな)咲耶姫(さくやひめ)
375神(かみ)の恵(めぐみ)の露(つゆ)にぬれ
376此(この)儘(まま)此処(ここ)で我(あ)と汝(なれ)と
377夫婦(ふうふ)の契(ちぎり)いや永(なが)く
378相生(あひおひ)の松(まつ)の色(いろ)深(ふか)く
379褪(あ)せずにあれや惟神(かむながら)
380御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
381心(こころ)清彦(きよひこ)、清子姫(きよこひめ)
382幾久(いくひさ)しくも夢(ゆめ)の浮世(うきよ)の
383夢(ゆめ)は覚(さ)めざれ』
384と歌(うた)ひつつ奥(おく)深(ふか)く導(みちび)かれ行(ゆ)く。385音楽(おんがく)の声(こゑ)頻(しき)りに響(ひび)き来(きた)り、386得(え)も言(い)はれぬ芳香(はうかう)四辺(しへん)を包(つつ)む。
387 照子姫(てるこひめ)は莞爾(につこ)として照彦(てるひこ)に向(むか)ひ、
388照子姫(てるこひめ)『アヽ好男(えーをとこ)好男(えーをとこ)
389心(こころ)の色(いろ)も照彦(てるひこ)が
390離久(りきう)の暗(やみ)を吹(ふ)き払(はら)ひ
391神(かみ)の結(むす)びし妹(いも)と背(せ)の
392えにしを契(ちぎ)る今日(けふ)の生日(いくひ)の足日(たるひ)こそ
393神(かみ)の都(みやこ)のエルサレム
394源(みなもと)遠(とほ)く広宗彦(ひろむねひこ)の
395珍(うづ)の血筋(ちすぢ)と生(うま)れたる
396照子(てるこ)の姫(ひめ)は今(いま)茲(ここ)に
397汝(なんぢ)の来(きた)るを待受(まちう)けて
398心(こころ)も清(きよ)き藺草(ゐぐさ)をば
399刈(か)り干(ほ)し来(きた)り香(か)も高(たか)き
400藺草(ゐぐさ)の畳(たたみ)織(お)りなして
401今迄(いままで)待(ま)ちし恋(こひ)の淵(ふち)
402心(こころ)に浮(うか)ぶ日月(じつげつ)は
403沼(ぬま)の清水(しみづ)の面(おも)清(きよ)く
404照子(てるこ)の姫(ひめ)の真心(まごころ)を
405いとも詳(つぶ)さに現(あら)はしぬ
406離久(りきう)の夢(ゆめ)も今(いま)さめて
407神(かみ)の結(むす)びし我(あが)夫(つま)に
408巡(めぐ)り会(あ)ひしも古(いにしへ)の
409深(ふか)きえにしの循(めぐ)り来(き)て
410汝(なれ)と再(ふたた)び添臥(そひぶ)しの
411夢路(ゆめぢ)を辿(たど)る新枕(にひまくら)
412身魂(みたま)の筋(すぢ)を白浪(しらなみ)の
413淵(ふち)に沈(しづ)んだお前(まへ)の心(こころ)
414照子(てるこ)の姫(ひめ)を余所(よそ)にして
415心(こころ)も清(きよ)き清子姫(きよこひめ)
416秋波(しうは)を送(おく)り玉(たま)ひたる
417心(こころ)の空(そら)の情(つれ)なさよ
418恨(うら)み歎(かこ)つぢやなけれども
419尽(つ)きぬえにしに搦(から)まれて
420結(むす)ぶの神(かみ)の結(むす)びてし
421二人(ふたり)の仲(なか)は此(この)沼(ぬま)の
422いと浅(あさ)からぬ契合(ちぎりあ)ひ
423久遠(くをん)の夢(ゆめ)は今(いま)爰(ここ)に
424漸(やうや)く晴(は)れてたらちねの
425神(かみ)の身魂(みたま)のいそいそと
426歓(ゑら)ぎ玉(たま)へる今日(けふ)の日(ひ)よ
427千代(ちよ)も八千代(やちよ)も永久(とこしへ)に
428汝(なれ)は我(わが)身(み)の背(せ)となりて
429いつくしみませ吾(あ)れも亦(また)
430汝(なれ)をこよなき夫(せ)となして
431神(かみ)の依(よ)さしの神業(かむわざ)に
432仕(つか)へ奉(まつ)らむあが願(ねが)ひ
433汝(なれ)が心(こころ)の岩(いは)の戸(と)を
434開(ひら)いて語(かた)れ胸(むね)の奥(おく)
435あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
436御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
437此(この)岩窟(いはやど)のいや堅(かた)く
438弥(いや)永久(とこしへ)に変(かは)りなく
439天(あま)の御柱(みはしら)つき固(かた)め
440国(くに)の御柱(みはしら)永遠(とことは)に
441固(かた)く契(ちぎ)らん夫婦仲(めをとなか)
442あゝ照彦(てるひこ)よ照彦(てるひこ)よ
443天津(あまつ)御空(みそら)に月(つき)は照(て)る
444日(ひ)は照(て)る曇(くも)る世(よ)の中(なか)に
445二人(ふたり)の仲(なか)は永久(とこしへ)に
446心(こころ)に浮(うか)ぶ日月(じつげつ)は
447互(たがひ)に照彦(てるひこ)、照子姫(てるこひめ)
448月日(つきひ)は照(て)る照(て)る常世(とこよ)は曇(くも)る
449愛(あい)と愛(あい)との互(たがひ)の胸(むね)に
450神(かみ)の情(なさけ)の雨(あめ)が降(ふ)る』
451と言(い)ひ終(をは)つて、452照彦(てるひこ)の手(て)を取(と)り奥(おく)深(ふか)く導(みちび)き入(い)る。453照彦(てるひこ)は手(て)を曳(ひ)かれ乍(なが)ら、454此(この)やさしき美(うる)はしき女神(めがみ)の後(あと)に従(したが)ひ、455精神(せいしん)恍惚(くわうこつ)として、456前後(ぜんご)も弁(わきま)へず、457只々(ただただ)感謝(かんしや)喜悦(きえつ)の涙(なみだ)に咽(むせ)び乍(なが)ら歌(うた)ひ出(だ)した。
458照彦(てるひこ)『琉球(りうきう)の沼(ぬま)の水(みづ)清(きよ)く
459塵(ちり)をも止(と)めぬ清子姫(きよこひめ)
460心(こころ)の色(いろ)も清彦(きよひこ)が
461水火(いき)を合(あは)せて神業(しんげふ)に
462仕(つか)へ奉(まつ)るぞ目出度(めでた)けれ
463汝(なれ)の心(こころ)も照子姫(てるこひめ)
464引(ひ)かれて進(すす)む照彦(てるひこ)は
465初(はじ)めて晴(は)れた恋(こひ)の暗(やみ)
466二人(ふたり)の妻(つま)に手(て)を引(ひ)かれ
467黄金(こがね)の橋(はし)を渡(わた)るよな
468涼(すず)しき心地(ここち)の二人(ふたり)の男(を)の子(こ)
469雲井(くもゐ)の空(そら)に弥(いや)高(たか)く
470神(かみ)の救(すく)ひの舟(ふね)として
471金(きん)銀(ぎん)銅(どう)の三橋(さんけう)を
472昔(むかし)の神(かみ)の渡(わた)りたる
473清(きよ)き思(おも)ひに充(み)たされて
474天教山(てんけうざん)に降(くだ)るごと
475日頃(ひごろ)恋(こ)ひたる我(わが)思(おも)ひ
476ここに愈(いよいよ)撞(つき)の御柱(みはしら)巡(めぐ)り合(あ)ひ
477あなにやし好男(えーをとこ)
478あなにやし好乙女(えーをとめ)をと
479千代(ちよ)の契(ちぎり)の礎(いしずゑ)固(かた)めたる
480清(きよ)けき神(かみ)の行(おこな)ひを
481繰返(くりかへ)す如(ごと)き心地(ここち)して
482引(ひ)かれ行(ゆ)く身(み)ぞ楽(たの)しけれ
483月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
484仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
485三五(さんご)の月(つき)の御教(みをしへ)は
486堅磐(かきは)常磐(ときは)に照(て)れよかし
487我(われ)等(ら)二人(ふたり)の其(その)仲(なか)は
488三五(さんご)の月(つき)の何時(いつ)迄(まで)も
489天津(あまつ)御空(みそら)にいと円(まる)く
490琉球(りうきう)の沼(ぬま)に影(かげ)映(うつ)し
491天(あめ)に輝(かがや)く照彦(てるひこ)や
492沼(ぬま)に映(うつ)りし照子姫(てるこひめ)
493天(あめ)と地(つち)とは永久(とこしへ)に
494照(て)る照(て)る光(ひか)る花(はな)は咲(さ)く
495弥(いや)永久(とこしへ)に桃(もも)の実(み)の
496落(お)ちずにあれや夫婦仲(めをとなか)
497神(かみ)の結(むす)びし此(この)えにし
498幾億万(いくおくまん)年(ねん)末(すゑ)までも
499二人(ふたり)は手(て)に手(て)を取(と)りかはし
500天津(あまつ)御空(みそら)の星(ほし)の如(ごと)
501浜(はま)の真砂(まさご)の数多(かずおほ)く
502御子(みこ)を生(う)め生(う)め永久(とこしへ)に
503人子(ひとご)の司(つかさ)となりなりて
504此(この)浮島(うきじま)の守(まも)り神(がみ)
505あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
506御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
507二人(ふたり)の夢(ゆめ)は何時(いつ)迄(まで)も
508醒(さ)めずにあれや永久(とこしへ)に
509神(かみ)の御前(みまへ)に願(ね)ぎまつる』
510と歌(うた)ひ終(をは)つた。511忽(たちま)ち奥(おく)の間(ま)の隔(へだ)ての戸(と)を引開(ひきあ)けて中(なか)より現(あら)はれた、512清彦(きよひこ)、513清子姫(きよこひめ)の二人(ふたり)、514顔色(がんしよく)麗(うるは)しく笑(ゑみ)を湛(たた)へて、515清子姫(きよこひめ)は照子姫(てるこひめ)の手(て)を取(と)り、516清彦(きよひこ)は照彦(てるひこ)の手(て)を取(と)り、517琉球畳(りうきうたたみ)を布(し)きつめた、518岩窟(いはや)に似合(にあ)はぬ美(うる)はしき居間(ゐま)に導(みちび)いた。519バナナ、520いちご、521柿(かき)、522木茄子(きなすび)、523林檎(りんご)其(その)外(ほか)種々(くさぐさ)の美(うる)はしき果物(くだもの)、524沼(ぬま)の特産物(とくさんぶつ)たる赤貝(あかがひ)の肉(にく)、525石茸(いしたけ)なぞ数多(あまた)並(なら)べられ、526ここに二夫婦(ふたふうふ)は芽出度(めでた)く夫婦(めをと)の契(ちぎり)を結(むす)ぶ事(こと)となつた。
527 是(これ)より清彦(きよひこ)、528清子姫(きよこひめ)の二人(ふたり)は此(この)沼(ぬま)を中心(ちうしん)として、529さしもに広(ひろ)き琉(りう)の島(しま)の守(まも)り神(がみ)となり、530子孫(しそん)永遠(ゑいゑん)に栄(さか)へて、531神(かみ)の如(ごと)くに敬(うやま)はれ、532数多(あまた)の土人(どじん)は其(その)徳(とく)に悦服(えつぷく)し、533世(よ)は太平(たいへい)に治(をさ)まつたのである。534次(つぎ)に照彦(てるひこ)は照子姫(てるこひめ)と共(とも)に、535南(みなみ)の島(しま)に渡(わた)り、536同(おな)じく此(この)島(しま)の守(まも)り神(がみ)となつて子孫(しそん)繁栄(はんゑい)し、537土人(どじん)に神(かみ)の如(ごと)く、538親(おや)の如(ごと)く尊敬(そんけい)された。
539 南(みなみ)の島(しま)を一名(いちめい)球(きう)の島(しま)と云(い)ふ。540今(いま)の八重山(やへやま)群島(ぐんたう)は球(きう)の島(しま)の一部(いちぶ)が残(のこ)つて居(ゐ)るのである。541照彦(てるひこ)夫婦(ふうふ)は時々(ときどき)球(きう)の島(しま)より、542遠(とほ)く海路(うなぢ)を渡(わた)り、543台湾島(たいわんたう)の北部(ほくぶ)にまで、544其(その)勢力(せいりよく)を拡充(くわくじゆう)して居(ゐ)た。
545(大正一一・七・二八 旧六・五 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→