虻公(清彦)と蜂公(照彦)は、生田の森の館で駒彦より、言依別命教主が琉球に出かけたこと、それを追って高姫が船出したことを聞いた。
言依別命から清彦、照彦という名を授かって準宣伝使に抜擢されていた二人は、教主への忠心から、高姫が教主を妨害してはならじと、取るものも取り合えず、舟に乗って琉球に船出した。
途中、児島半島の沖合いの暗礁で難船している二人を発見し、救い出してみれば、これは比沼真奈井に仕えていた清子姫と照子姫であった。
四人は荒波を漕ぎぬけて、琉球の那覇の港に安着し、何ものにか引かれるように槻の木の大きな洞穴にやってきた。
照子姫と清子姫の祖先は行成彦命であり、四代目の孫に当たる。神勅を受けて豊国姫命が比沼真奈井に出現するに先立って現れ、比治山に草庵を結んで時を待っていたのであった。
過去にはウラナイ教時代の黒姫に出くわしていろいろ教理を聞かされ誘われたこともあったが、反駁もせずかといって付かず、表面上服従していたのみであった。
四人の男女は長い航海の間に、密かにお互いに意中の人を定めていた。清子姫と清彦、照子姫と照彦は互いに想いあっていたが、それを口に出さずにそれぞれ互いに胸中に秘めたままとしていた。
四人はここに一夜を明かすことにした。洞穴の中が整っていることから、ここは琉球の立派な酋長の住処かもしれないので、夜は清彦と照彦が交代で見張りに立つことにした。
一行はまず火をつけて、道々採ってきた木の実で夕食を済ませることにした。清彦は雑談のうちに、独身生活は不便なものだから、照彦は清子姫と夫婦になったら媒酌をしてやるのだが、と話を向けた。
清子姫、照彦はお互いに別に意中の人がいる風に答えた。そして照彦は逆に、照子姫と清彦が夫婦となったらどうか、と話を向けた。すると照子姫は、単刀直入に自分の意中の人は照彦だと明かした。
清子姫も、自分の意中の人は清彦だと明かす。四人がこのような話をしていると、洞穴の入口に二三人の話し声が聞こえてきた。清彦はそれが高姫一行だと気がつき、入口の方に偵察に行った。
高姫、春彦、常彦はおそるおそる入口から中をうかがいながら、お互いに先に入って様子を見てくるようにと譲り合っている。高姫は、言依別がすべての玉を持って高砂島へ渡り、高砂島の国王となる陰謀だと独り合点して、言依別命の改心を勝手に祈り、必死に祈願を凝らしている。
その様子に清彦は思わず噴出してしまう。清彦は声色を変えて高姫一行をからかった後、名乗り出た。高姫は相手が清彦たちだとわかると、俄かに勇気づいて春彦・常彦を引き連れて、清彦が止めるのも構わずに奥に入って行った。
高姫は、照彦が二人の美人を共に居るのを見て名乗った。清子姫と照子姫は手を付いて自己紹介をなした。高姫は、おおかた照彦と清彦が二人をかどわかしたか、たぶらかしたのだろう、と悪口を並べ立てる。
清彦が怒って高姫の胸倉をつかんだのを、照彦がひとしきりからかって間に割って入った。高姫は憤慨して、こんな乱暴な男をどう思うか、清子姫と照子姫に尋ねるが、案に相違して二人は、照彦・清彦が意に沿う方だと口にする。
高姫は言依別命がここに来たかと執念深く聞き出そうとする。一同は高姫を追い払おうと、すでに言依別命は琉球の玉を手に入れて台湾を経て、南米の高砂島に渡ったと答えて高姫の気をそらした。
高姫はそれを聞くと、春彦と常彦をせきたてて港に戻り、大海原に漕ぎ出して行ってしまった。