麻邇の宝珠公開日の当日、八尋殿に役員信者は溢れるばかりに集まり来たり、型の如く祭りも無事に終了した。上段の間には杢助をはじめとして英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、玉能姫、お玉の方、最高座には玉照彦と玉照姫が控えていた。
亀彦、音彦、国依別の幹部連、秋彦、常彦、夏彦をはじめ、英子姫と相並んで黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫が末端に控え、友彦は幹部の上席に顔を並べていた。
高姫、黒姫、高山彦は群集を掻き分けて、今日の玉検分役として意気揚々と盛装を凝らしてやって来て、英子姫よりも一段上座に着いた。
総務の杢助が立って挨拶をなした。杢助は本日言依別教主が病気で欠席の旨を一同に告げ、また自分は神業のために働きたいと思うところがあり、総務の後任に淡路島の東助を推薦しておいたと述べ、拍手を浴びた。
杢助は初稚姫、玉能姫、五十子姫、梅子姫を伴って社殿の奥深く進み、黄金の鍵で宝座を開くと、各々一個の柳箱を差し上げて高座に現れ、段上に行儀よく据えた。
高姫は段上にすっくと立って一同を見回し、演説を始めた。そして宝珠を三五教の宣伝使たちに授けたのも日の出神と竜宮の乙姫の慈悲であり、それがわからぬようでは三五教の神政の仕組は到底わからないと嘯いた。
そしてまず、黄色の玉の検めに取り掛かった。お民とテールス姫を傍らに立たせ、柳箱の紐をほどいて取ると、中に入っていたのは団子石であった。
よくよく見れば石には、「高姫・黒姫の身魂はこのとおり、改心せねば元の黄金色のたまには戻らぬぞ」と文字が記されていた。高姫は顔色烈火のごとくになり、お民とテールス姫に食ってかかった。
玉治別が高姫に口を出していなす。群集はわいわいと騒ぎ出したが、国依別は、今日は高姫と黒姫の身魂調べであり、最前高姫が言ったとおり、自身に懸る日の出神と竜宮の乙姫が仕組んだことだから、と呼びかけた。
高姫は仕方なく、今度は久助と友彦を呼んで、白色の玉の検めを始めた。中はやはり団子石で、同様の文字が記されていた。またしても群集は騒ぎ出した。国依別は、これは玉を扱った人の身魂が写ったのだと述べ立てた。
黒姫は国依別をたしなめて、これは玉を授かった久助と友彦の身魂のせいだと反論した。友彦は怒って、黒姫の首筋を取って叱り付けた。高山彦は友彦を掴んで段上から突き落とそうとしたが、友彦が体をかわしたため、高山彦が落ちてしまった。
大勢は高山彦を介抱しながら、黒姫館にかついで運んで行った。杢助は、友彦にも退場を命じた。友彦はそれにしたがって会場を後にした。高姫は杢助に文句を言い、お民、テールス姫、久助にも退場を言い渡すが、杢助が何事も自分の責任だからとその場をおさめた。
高姫は仕方なく次の玉を検めたが、結果は同じだった。玉治別は立ち上がって、せっかく竜宮島の聖地から苦労して持ち帰った宝玉を、高姫・黒姫が駄目にしたと怒って食ってかかった。
高姫は軽くいなして、今度は黄竜姫に当たりだした。黄竜姫はきっとして、高姫・黒姫に改心を促すが、高姫はせせら笑っている。
蜈蚣姫と玉能姫の玉検めになると、高姫は二人を口汚く罵り、箱の蓋を開けた。そこには黒い消し炭玉が入っていた。高姫は蜈蚣姫と玉能姫を罵りながら怒っている。
最後に紫の玉の検めを行うことになった。高姫はもうだいぶ嫌気がさしていたが、杢助に促されて、梅子姫と初稚姫を呼び、蓋を開いた。すると四方に輝くダイアモンドのごとき紫の光が射し、高姫もあっと驚いて後ずさりした。一同の拍手する音は雨霰のごとく会場に響いた。
そこへ佐田彦と波留彦があわてて走ってきて、杢助に注進した。言依別教主が消えてしまい、後に書置きが残してあったという。杢助が開いてみると、そこには、麻邇の宝珠の青、赤、黄、白の四個をはじめ、三個の宝玉、都合七個を訳有ってある地点に隠した、とあった。
そして、決してこのたびのことは玉の関係者のあずかり知ることではない、とあった。また杢助を総務の職から解任し、後任に淡路島の東助を任じるとあった。
また言依別命自身は、いつ聖地に帰るか未定であり、決して後を追ってはならないと書いてあった。杢助は黙然としてはらはらと涙を流し、千万無量の感に打たれる如くであった。