霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第28巻(卯の巻)
序歌
総説歌
第1篇 高砂の島
第1章 カールス王
第2章 無理槍
第3章 玉藻山
第4章 淡渓の流
第5章 難有迷惑
第6章 麻の紊れ
第2篇 暗黒の叫
第7章 無痛の腹
第8章 混乱戦
第9章 当推量
第10章 縺れ髪
第11章 木茄子
第12章 サワラの都
第3篇 光明の魁
第13章 唖の対面
第14章 二男三女
第15章 願望成就
第16章 盲亀の浮木
第17章 誠の告白
第18章 天下泰平
第4篇 南米探険
第19章 高島丸
第20章 鉈理屈
第21章 喰へぬ女
第22章 高砂上陸
跋(暗闇)
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい|
サブスク
のお知らせ
霊界物語
>
海洋万里(第25~36巻)
>
第28巻(卯の巻)
> 第1篇 高砂の島 > 第2章 無理槍
<<< カールス王
(B)
(N)
玉藻山 >>>
第二章
無理槍
(
むりやり
)
〔八〇二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
篇:
第1篇 高砂の島
よみ(新仮名遣い):
たかさごのしま
章:
第2章 無理槍
よみ(新仮名遣い):
むりやり
通し章番号:
802
口述日:
1922(大正11)年08月06日(旧06月14日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年8月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
タールスの報告を聞いて、サアルボースとホーロケースはヤーチン姫に対して大いに怒った。そして、ヤーチン姫に見方をした侍女のマリヤス姫を詰問した。
マリヤス姫は、血だらけになりながら、自分は実は先代アークス王の落胤であり、サアルボースとホーロケースの身辺を探るために侍女となって忍び込んでいたのだ、と明かした。
サアルボースらはそれを知ってマリヤス姫に斬ってかかったが、マリヤス姫は刃をかいくぐってサアルボースとタールスを投げ飛ばすと、その場を逃げてしまった。
一方カールス王は、日ごろ想いを寄せるヤーチン姫の病気が重いとの報を受けて落胆し、新高山の渓谷から身を投げて死のうと、夜密かに館を抜け出して谷のほとりをさまよっていた。
するとヤーチン姫の姿をした美人が、中空を歩きながら現れ、王の手を取って館まで送ると、その姿は忽然と消えうせた。これは、王の自殺を押し留めようとの邪霊の計略であった。また王は姫の姿が煙のように消えてしまったことでヤーチン姫に対して疑念を抱くことになった。
そこへ、病気が快癒したヤーチン姫が、王に面会しようとやってきた。しかし王は姫に対して疑念を抱いたままであった。そこへサアルボースとホーロケースがやってきた。サアルボースは本物の姫はすでに死して、邪神が化けているのだと王の前に申し立てた。
ヤーチン姫と父・エーリスをはじめ従臣たちは、サアルボースの讒言に怒った。しかしカールス王は前夜の邪神の姿に惑わされ、疑いを晴らすことができなかった。サアルボースは王の疑心に乗じて、数多の部下に命じてヤーチン姫を捕らえてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-11-11 18:37:16
OBC :
rm2802
愛善世界社版:
22頁
八幡書店版:
第5輯 360頁
修補版:
校定版:
22頁
普及版:
9頁
初版:
ページ備考:
001
タールスの
報告
(
はうこく
)
によつて、
002
サアルボース、
003
ホーロケースの
二人
(
ふたり
)
は
足音
(
あしおと
)
荒々
(
あらあら
)
しく、
004
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
005
セールス
姫
(
ひめ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
006
サアルボース『
只今
(
ただいま
)
タールスの
注進
(
ちうしん
)
に
依
(
よ
)
れば、
007
姫
(
ひめ
)
はヤーチン
姫
(
ひめ
)
の
病気
(
びやうき
)
見舞
(
みまひ
)
に
参
(
まゐ
)
り、
008
名状
(
めいじやう
)
す
可
(
べか
)
らざる
虐待
(
ぎやくたい
)
を
蒙
(
かうむ
)
り、
009
拭
(
ぬぐ
)
ふ
可
(
べか
)
らざる
侮辱
(
ぶじよく
)
を
被
(
かうぶ
)
りしと
聞
(
き
)
く。
010
果
(
はた
)
して
真
(
まこと
)
か。
011
サアルに
於
(
おい
)
ても
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
さねばならぬ。
012
事
(
こと
)
の
顛末
(
てんまつ
)
を
包
(
つつ
)
まず
隠
(
かく
)
さず
物語
(
ものがた
)
つて
呉
(
く
)
れ。
013
怪我
(
けが
)
は
大
(
おほ
)
きくはなかつたか。
014
気分
(
きぶん
)
はどうだ』
015
と
流石
(
さすが
)
の
悪人
(
あくにん
)
も、
016
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
の
愛
(
あい
)
に
引
(
ひ
)
かされて、
017
胸
(
むね
)
を
轟
(
とどろ
)
かせ
乍
(
なが
)
ら、
018
慌
(
あわた
)
だしく
問
(
と
)
ひつめた。
019
セールス
姫
(
ひめ
)
はさも
苦
(
くる
)
しげに
漸
(
やうや
)
く
顔
(
かほ
)
をあげ、
020
セールス姫
『
御
(
お
)
父上
(
ちちうへ
)
様
(
さま
)
、
021
叔父上
(
をぢうへ
)
様
(
さま
)
、
022
残念
(
ざんねん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
023
……どうぞ
此
(
この
)
讐敵
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
024
サアルボースは
首
(
くび
)
を
縦
(
たて
)
に
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
025
サアルボース
『ヤア
心配
(
しんぱい
)
するな。
026
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも
掛替
(
かけがへ
)
のない
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
、
027
仮令
(
たとへ
)
台湾島
(
たいわんたう
)
を
全部
(
ぜんぶ
)
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
るとも、
028
汝
(
そなた
)
の
生命
(
いのち
)
には
換
(
か
)
へられ
難
(
がた
)
し。
029
大切
(
たいせつ
)
なる
娘
(
むすめ
)
を
打擲
(
ちやうちやく
)
致
(
いた
)
せし
憎
(
につ
)
くきヤーチン
姫
(
ひめ
)
、
030
今
(
いま
)
に
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
らせてやらう』
031
と
子
(
こ
)
の
愛
(
あい
)
に
掛
(
か
)
けては、
032
目
(
め
)
の
中
(
なか
)
へ
這入
(
はい
)
つても
痛
(
いた
)
くないセールス
姫
(
ひめ
)
の
針
(
はり
)
を
棒
(
ぼう
)
に
変
(
か
)
へての
陳弁
(
ちんべん
)
を
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
もなく
信
(
しん
)
じて
了
(
しま
)
つた。
033
セールス『それにつけても
残念
(
ざんねん
)
なのは、
034
マリヤス
姫
(
ひめ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
035
彼
(
かれ
)
はいつも
妾
(
わらは
)
が
侍女
(
じぢよ
)
として
仕
(
つか
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
036
一事
(
ひとこと
)
々々
(
ひとこと
)
口答
(
くちごたへ
)
を
申
(
まを
)
し、
037
今日
(
けふ
)
も
今日
(
けふ
)
とて、
038
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
に
無体
(
むたい
)
の
乱暴
(
らんばう
)
と
恥辱
(
ちじよく
)
を
受
(
う
)
けたる
主人
(
しゆじん
)
の
妾
(
わらは
)
をいたはらず、
039
却
(
かへつ
)
て
痛快
(
つうくわい
)
げに
欣々
(
いそいそ
)
と
立帰
(
たちかへ
)
り、
040
タールスの
訊問
(
じんもん
)
に
対
(
たい
)
しても
一言
(
ひとこと
)
も
答
(
こた
)
へず、
041
つまり
妾
(
わらは
)
親子
(
おやこ
)
の
悪虐
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
を
天
(
てん
)
の
戒
(
いまし
)
め
玉
(
たま
)
ふものなりと、
042
口
(
くち
)
には
言
(
い
)
はねど、
043
其
(
その
)
面色
(
めんしよく
)
にありありと
画
(
ゑが
)
いてゐます。
044
それ
故
(
ゆゑ
)
妾
(
わらは
)
は
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
乱暴
(
らんばう
)
とは
知
(
し
)
り
乍
(
なが
)
ら、
045
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
より
蒙
(
かうむ
)
りたる
迫害
(
はくがい
)
と
恥辱
(
ちじよく
)
を
彼
(
かれ
)
に
移
(
うつ
)
して、
046
タールスに
見
(
み
)
せました。
047
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
としての
乱暴
(
らんばう
)
狼藉
(
ろうぜき
)
、
048
心
(
こころ
)
きつき
娘
(
むすめ
)
と、
049
どうぞ
御
(
お
)
叱
(
しか
)
り
下
(
くだ
)
さいませぬ
様
(
やう
)
、
050
余
(
あま
)
り
残念
(
ざんねん
)
が
凝
(
こ
)
つて、
051
マリヤス
姫
(
ひめ
)
を
打擲
(
ちやうちやく
)
致
(
いた
)
しました』
052
とワツと
許
(
ばか
)
りに
声
(
こゑ
)
をあげて
泣
(
な
)
き
倒
(
たふ
)
れ、
053
身
(
み
)
を
揺
(
ゆす
)
つて
悶
(
もだ
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
054
ホーロケースはニヤリと
笑
(
わら
)
ひ、
055
ホーロケース
『ヤア
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
056
斯
(
こ
)
ういふ
事
(
こと
)
がなければ、
057
吾々
(
われわれ
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
は
成就
(
じやうじゆ
)
致
(
いた
)
さぬ。
058
……セールス
姫
(
ひめ
)
、
059
能
(
よ
)
くも
打擲
(
ちやうちやく
)
されて
帰
(
かへ
)
つた。
060
如何
(
いか
)
に
病気
(
びやうき
)
とは
言
(
い
)
へ、
061
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
の
乱暴
(
らんばう
)
狼藉
(
ろうぜき
)
、
062
到底
(
たうてい
)
カールス
王
(
わう
)
の
妃
(
きさき
)
としての
資格
(
しかく
)
はこれにて
絶無
(
ぜつむ
)
となつた。
063
あゝセールス
姫
(
ひめ
)
、
064
汝
(
そなた
)
が
今日
(
こんにち
)
受
(
う
)
けたる
虐待
(
ぎやくたい
)
と
侮辱
(
ぶじよく
)
は、
065
却
(
かへつ
)
て
汝
(
そなた
)
が
身
(
み
)
の
仕合
(
しあは
)
せ、
066
よくもマア
苦
(
くるし
)
められた。
067
……
時
(
とき
)
にマリヤス
姫
(
ひめ
)
、
068
汝
(
なんぢ
)
はセールス
姫
(
ひめ
)
の
侍女
(
じぢよ
)
として、
069
昼夜
(
ちうや
)
身辺
(
しんぺん
)
に
仕
(
つか
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
070
何故
(
なぜ
)
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
に
向
(
むか
)
つて
抵抗
(
ていかう
)
せなかつたか。
071
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
の
侍女
(
じぢよ
)
であるか。
072
汝
(
なんぢ
)
の
不忠
(
ふちゆう
)
不義
(
ふぎ
)
の
天罰
(
てんばつ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
眼前
(
がんぜん
)
に
巡
(
めぐ
)
り
来
(
きた
)
つて、
073
此
(
この
)
有様
(
ありさま
)
、
074
天
(
てん
)
はセールス
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
を
借
(
か
)
つて
汝
(
なんぢ
)
を
戒
(
いまし
)
め
玉
(
たま
)
うたのだ。
075
必
(
かなら
)
ず
恨
(
うら
)
むことはならぬぞ。
076
恵
(
めぐみ
)
の
鞭
(
むち
)
と
思
(
おも
)
つて、
077
有難
(
ありがた
)
くセールス
姫
(
ひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
両手
(
りやうて
)
をついて
謝罪
(
しやざい
)
致
(
いた
)
せよ』
078
マリヤス
姫
(
ひめ
)
、
079
漸
(
やうや
)
く
血汐
(
ちしほ
)
の
滴
(
したた
)
る
顔
(
かほ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
080
つと
身
(
み
)
を
起
(
おこ
)
し、
081
四
(
よ
)
人
(
にん
)
をハツタと
睨
(
にら
)
みつけ、
082
マリヤス姫
『
妾
(
われ
)
こそは
賤
(
いや
)
しき
汝
(
なんぢ
)
が
娘
(
むすめ
)
セールス
姫
(
ひめ
)
の
侍女
(
じぢよ
)
となり、
083
汝
(
なんぢ
)
親子
(
おやこ
)
が
日夜
(
にちや
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
を
監視
(
かんし
)
せむ
為
(
ため
)
、
084
前
(
ぜん
)
アークス
王
(
わう
)
の
旨
(
むね
)
を
受
(
う
)
け、
085
汝
(
なんぢ
)
が
家
(
いへ
)
に
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
みし
者
(
もの
)
なるぞ。
086
妾
(
わらは
)
はアークス
王
(
わう
)
の
落胤
(
らくいん
)
マリヤス
姫
(
ひめ
)
……
言
(
い
)
はばカールス
王
(
わう
)
とは
兄妹
(
けうだい
)
の
間柄
(
あひだがら
)
、
087
汝
(
なんぢ
)
が
如
(
ごと
)
き
賤
(
いや
)
しき
親子
(
おやこ
)
の
侍女
(
じぢよ
)
として
仕
(
つか
)
へしも、
088
深
(
ふか
)
き
仔細
(
しさい
)
あつての
事
(
こと
)
、
089
天
(
てん
)
は
何時
(
いつ
)
までも、
090
汝
(
なんぢ
)
親子
(
おやこ
)
が
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
を
赦
(
ゆる
)
し
玉
(
たま
)
はず。
091
妾
(
わらは
)
はこれより、
092
カールス
王
(
わう
)
の
御
(
おん
)
兄
(
あに
)
の
前
(
まへ
)
に
出
(
い
)
で、
093
汝
(
なんぢ
)
が
陰謀
(
いんぼう
)
を
一々
(
いちいち
)
申告
(
しんこく
)
し
国内
(
こくない
)
一般
(
いつぱん
)
に
発表
(
はつぺう
)
せむ。
094
さは
去
(
さ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
095
汝
(
なんぢ
)
只今
(
ただいま
)
より
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めて、
096
善道
(
ぜんだう
)
に
帰
(
かへ
)
りなば、
097
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にて
差許
(
さしゆる
)
す
可
(
べ
)
し。
098
返答
(
へんたふ
)
如何
(
いかに
)
』
099
と、
100
勢
(
いきほひ
)
烈
(
はげ
)
しく
詰責
(
きつせき
)
し
始
(
はじ
)
めた。
101
サアルボース
外
(
ほか
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はマリヤス
姫
(
ひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
102
如何
(
いかが
)
はせむと
暫
(
しば
)
しためらひ
居
(
ゐ
)
たりしが、
103
茲
(
ここ
)
まで
企
(
たく
)
みし
陰謀
(
いんぼう
)
、
104
いかで
初心
(
しよしん
)
を
翻
(
ひるがへ
)
さむや、
105
互
(
たがひ
)
に
目
(
め
)
と
目
(
め
)
を
見合
(
みあは
)
し、
106
各
(
おのおの
)
長刀
(
ちやうたう
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
き、
107
マリヤス
姫
(
ひめ
)
に
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
より、
108
斬
(
き
)
つてかかる。
109
マリヤス
姫
(
ひめ
)
は
刃
(
やいば
)
の
中
(
なか
)
を
上下
(
じやうげ
)
左右
(
さいう
)
に
潜
(
くぐ
)
りぬけ、
110
サアルボースの
襟首
(
えりくび
)
をグツと
握
(
にぎ
)
つて、
111
庭前
(
ていぜん
)
の
溜池
(
ためいけ
)
に
投
(
な
)
げつけた。
112
マリヤス『ナニ
猪口才
(
ちよこざい
)
な』
113
と
抱
(
だき
)
つくタールスの
又
(
また
)
もや
襟首
(
えりがみ
)
とつて
高殿
(
たかどの
)
より
眼下
(
がんか
)
の
泉水
(
せんすゐ
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んだ。
114
残
(
のこ
)
り
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
態
(
てい
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
115
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つた。
116
マリヤス
姫
(
ひめ
)
は
悠々
(
いういう
)
として
鏡
(
かがみ
)
の
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
ち、
117
髪
(
かみ
)
をつくろひ、
118
衣服
(
いふく
)
を
着替
(
きがへ
)
、
119
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
120
何処
(
いづく
)
ともなく、
121
玉
(
たま
)
の
如
(
ごと
)
き
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
了
(
しま
)
つた。
122
あゝマリヤス
姫
(
ひめ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
はどうなつたであらう。
123
○
124
カールス
王
(
わう
)
は
日頃
(
ひごろ
)
念頭
(
ねんとう
)
にかけたるヤーチン
姫
(
ひめ
)
の
危篤
(
きとく
)
の
報
(
はう
)
に
接
(
せつ
)
し、
125
失望
(
しつばう
)
落胆
(
らくたん
)
の
余
(
あま
)
り、
126
新高山
(
にひたかやま
)
の
淡渓
(
たんけい
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げ、
127
恋愛
(
れんあい
)
の
苦痛
(
くつう
)
を
免
(
まぬが
)
れむと、
128
夜
(
よる
)
窃
(
ひそか
)
に
館
(
やかた
)
を
立出
(
たちい
)
で、
129
谷
(
たに
)
の
畔
(
ほとり
)
に
到
(
いた
)
り、
130
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
と
死場所
(
しにばしよ
)
を
求
(
もと
)
めて
彷徨
(
さまよ
)
ひつつあつた。
131
谷
(
たに
)
の
彼方
(
かなた
)
に
忽然
(
こつぜん
)
として
一塊
(
いつくわい
)
の
火光
(
くわくわう
)
現
(
あら
)
はれ、
132
其
(
その
)
中
(
なか
)
より
容色
(
ようしよく
)
端麗
(
たんれい
)
なる
美人
(
びじん
)
、
133
莞爾
(
くわんじ
)
として
中空
(
ちうくう
)
を
歩
(
あゆ
)
み
乍
(
なが
)
ら、
134
カールス
王
(
わう
)
の
前
(
まへ
)
に
近付
(
ちかづ
)
き
来
(
きた
)
り
涙
(
なみだ
)
を
腮辺
(
しへん
)
にたらし
乍
(
なが
)
ら、
135
細
(
ほそ
)
き
繊手
(
せんしゆ
)
をさし
伸
(
の
)
べて、
136
カールス
王
(
わう
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
つた。
137
カールス
王
(
わう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
精神
(
せいしん
)
恍惚
(
くわうこつ
)
として
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
此処
(
ここ
)
にある
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
るる
計
(
ばか
)
りであつた。
138
能
(
よ
)
く
能
(
よ
)
く
見
(
み
)
れば、
139
夢寐
(
むび
)
にも
忘
(
わす
)
れぬヤーチン
姫
(
ひめ
)
に
容貌
(
ようばう
)
、
140
骨格
(
こつかく
)
、
141
言葉
(
ことば
)
の
綾
(
あや
)
までも
其
(
その
)
儘
(
まま
)
であつた。
142
女
(
をんな
)
、
143
言葉
(
ことば
)
静
(
しづ
)
かに、
144
女
『
妾
(
わらは
)
が
最
(
もつと
)
も
愛
(
あい
)
するカールス
王
(
わう
)
よ』
145
と
言
(
い
)
つた
限
(
き
)
り、
146
恨
(
うら
)
めしげに
両眼
(
りやうがん
)
に
涙
(
なみだ
)
を
湛
(
たた
)
へて
居
(
ゐ
)
る
其
(
その
)
愛
(
あい
)
らしさ。
147
カールス
王
(
わう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
心
(
こころ
)
輝
(
かがや
)
き、
148
今迄
(
いままで
)
の
悲哀
(
ひあい
)
の
情
(
じやう
)
は
全
(
まつた
)
く
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せた。
149
カールス『
御
(
おん
)
身
(
み
)
はヤーチン
姫
(
ひめ
)
ならずや。
150
病気
(
びやうき
)
危篤
(
きとく
)
に
陥
(
おちい
)
り、
151
汝
(
そなた
)
が
命
(
めい
)
旦夕
(
たんせき
)
に
迫
(
せま
)
ると
聞
(
き
)
きしより、
152
吾
(
われ
)
は
失恋
(
しつれん
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
153
此
(
この
)
渓流
(
けいりう
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて、
154
汝
(
そなた
)
の
来
(
きた
)
るのを
幽界
(
いうかい
)
にて
待
(
ま
)
たむと
思
(
おも
)
ひしに、
155
俄
(
にはか
)
に
変
(
かは
)
る
汝
(
そなた
)
の
容貌
(
ようばう
)
、
156
且
(
か
)
つ
健全
(
けんぜん
)
なる
其
(
その
)
身体
(
からだ
)
、
157
如何
(
いかが
)
せしぞ』
158
と
不審顔
(
ふしんがほ
)
に
問
(
と
)
ひつめた。
159
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
は
莞爾
(
くわんじ
)
として
打諾
(
うちうなづ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
160
カールス
王
(
わう
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り、
161
館
(
やかた
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
162
館
(
やかた
)
の
前
(
まへ
)
に
近付
(
ちかづ
)
き
見
(
み
)
れば、
163
今迄
(
いままで
)
伴
(
ともな
)
ひ
来
(
きた
)
りし
姫
(
ひめ
)
の
姿
(
すがた
)
は
煙
(
けぶり
)
の
如
(
ごと
)
く
消
(
き
)
え、
164
月
(
つき
)
は
中天
(
ちうてん
)
に
皎々
(
かうかう
)
と
輝
(
かがや
)
き、
165
油蝉
(
あぶらぜみ
)
の
声
(
こゑ
)
は
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
に
騒
(
さわ
)
がしく
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
166
カールス
王
(
わう
)
はフツと
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
き、
167
カールス王
『サテ
訝
(
いぶ
)
かしや、
168
吾
(
われ
)
は
失恋
(
しつれん
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
169
渓流
(
けいりう
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げむとせし
時
(
とき
)
、
170
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
来
(
きた
)
りて、
171
此処
(
ここ
)
まで
伴
(
ともな
)
ひ
帰
(
かへ
)
りしと
見
(
み
)
しは
夢
(
ゆめ
)
なりしか。
172
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
173
館
(
やかた
)
に
入
(
い
)
りて
休息
(
きうそく
)
し、
174
其
(
その
)
上
(
うへ
)
にて
決心
(
けつしん
)
の
臍
(
ほぞ
)
を
固
(
かた
)
めむ』
175
と
独語
(
ひとりごち
)
つつ、
176
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
忍
(
しの
)
び
足
(
あし
)
にて
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
177
今
(
いま
)
現
(
あら
)
はれしヤーチン
姫
(
ひめ
)
は、
178
セールス
姫
(
ひめ
)
が
使役
(
しえき
)
せる
金狐
(
きんこ
)
の
邪霊
(
じやれい
)
の
変化
(
へんくわ
)
であつた。
179
カールス
王
(
わう
)
の
変死
(
へんし
)
を
喰
(
く
)
ひ
止
(
と
)
め、
180
吾
(
わが
)
目的
(
もくてき
)
を
達成
(
たつせい
)
せむとの
計略
(
けいりやく
)
より
出
(
い
)
でたる
魔術
(
まじゆつ
)
であつた。
181
カールス
王
(
わう
)
は
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
端坐
(
たんざ
)
し
双手
(
もろで
)
を
組
(
く
)
んで、
182
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
の
雲
(
くも
)
に
乗
(
の
)
り
谷
(
たに
)
を
渡
(
わた
)
り、
183
或
(
あるひ
)
は
吾
(
わ
)
が
館
(
やかた
)
の
前
(
まへ
)
にて
煙
(
けぶり
)
の
如
(
ごと
)
く
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せたるを
見
(
み
)
て、
184
稍
(
やや
)
怖気
(
おぢけ
)
づき、
185
疑惑
(
ぎわく
)
の
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られて
其
(
その
)
夜
(
よ
)
は
一睡
(
いつすゐ
)
もせず
夜
(
よ
)
を
明
(
あ
)
かした。
186
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
神徳
(
しんとく
)
に
依
(
よ
)
つて、
187
さしもの
重病
(
ぢうびやう
)
も
全
(
まつた
)
く
恢復
(
くわいふく
)
したれば、
188
ユリコ
姫
(
ひめ
)
、
189
キールスタンを
伴
(
ともな
)
ひ、
190
カールス
王
(
わう
)
の
館
(
やかた
)
を
訪問
(
はうもん
)
した。
191
表門
(
おもてもん
)
には
門番
(
もんばん
)
のホールいかめしく
控
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
192
キールスタン『あいやホール、
193
只今
(
ただいま
)
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
来城
(
らいじやう
)
、
194
何卒
(
なにとぞ
)
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
くテーレンス
殿
(
どの
)
に
申上
(
まをしあ
)
げ、
195
カールス
王
(
わう
)
の
御前
(
ごぜん
)
に
奏聞
(
そうもん
)
して
下
(
くだ
)
さい』
196
ホール『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
197
暫
(
しばら
)
く
此
(
この
)
門前
(
もんぜん
)
に
御
(
お
)
待
(
ま
)
ち
願
(
ねが
)
ひます』
198
と
足早
(
あしばや
)
に
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
199
テーレンスに
委細
(
ゐさい
)
を
報告
(
はうこく
)
した。
200
テーレンスは
直
(
ただ
)
ちにカールス
王
(
わう
)
の
御前
(
ごぜん
)
に
伺候
(
しこう
)
し、
201
テーレンス
『
只今
(
ただいま
)
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
、
202
御
(
ご
)
来城
(
らいじやう
)
で
厶
(
ござ
)
います』
203
との
声
(
こゑ
)
に、
204
カールス
王
(
わう
)
はハツと
驚
(
おどろ
)
き、
205
カールス王
『ナニ、
206
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
が
参
(
まゐ
)
つたか。
207
雲
(
くも
)
に
乗
(
の
)
つて
参
(
まゐ
)
つたのでないか。
208
又
(
また
)
館
(
やかた
)
の
入口
(
いりぐち
)
にて
消滅
(
せうめつ
)
は
致
(
いた
)
さぬか。
209
よく
調
(
しら
)
べて
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れ』
210
テーレンス『これは
又
(
また
)
異
(
い
)
な
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はります。
211
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
ならぬヤーチン
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
212
雲
(
くも
)
に
乗
(
の
)
り、
213
或
(
あるひ
)
は
煙
(
けぶり
)
の
如
(
ごと
)
く
消滅
(
せうめつ
)
し
玉
(
たま
)
ふ
道理
(
だうり
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
214
立派
(
りつぱ
)
なる
玉
(
たま
)
の
輿
(
こし
)
に
御
(
お
)
乗
(
の
)
り
遊
(
あそ
)
ばし、
215
キールスタン、
216
ユリコ
姫
(
ひめ
)
御
(
お
)
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
して
参
(
まゐ
)
られました。
217
直様
(
すぐさま
)
御
(
お
)
通
(
とほ
)
し
申
(
まを
)
しませうか』
218
カールス
王
(
わう
)
は
暫
(
しばら
)
く
小首
(
こくび
)
をかたげ、
219
吐息
(
といき
)
をもらし
乍
(
なが
)
ら、
220
カールス王
『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
も
有
(
あ
)
れ、
221
吾
(
わが
)
目通
(
めどほり
)
へ
通
(
とほ
)
せ』
222
『ハイ』と
答
(
こた
)
へて、
223
テーレンスは
自
(
みづか
)
ら
門前
(
もんぜん
)
に
迎
(
むか
)
へ、
224
王
(
わう
)
の
前
(
まへ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
案内
(
あんない
)
した。
225
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
恭
(
うやうや
)
しく
両手
(
りやうて
)
を
仕
(
つか
)
へ、
226
ヤーチン姫
『
妾
(
わらは
)
は、
227
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
228
永
(
なが
)
らく
病気
(
びやうき
)
に
付
(
つ
)
き、
229
いろいろと
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
掛
(
か
)
けまして、
230
御
(
お
)
蔭
(
かげ
)
によりて
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
全快
(
ぜんくわい
)
を
致
(
いた
)
しました。
231
どうぞ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
232
カールス
王
(
わう
)
は
稍
(
やや
)
暫
(
しば
)
し
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
、
233
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
の
姿
(
すがた
)
に
目
(
め
)
を
放
(
はな
)
たず、
234
考
(
かんが
)
へ
込
(
こ
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
235
夜前
(
やぜん
)
現
(
あら
)
はれたヤーチン
姫
(
ひめ
)
に
寸分
(
すんぶん
)
違
(
ちが
)
はぬ
訝
(
いぶ
)
かしさ。
236
又
(
また
)
もや
昨夜
(
さくや
)
の
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
にはあらざるかと、
237
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
考
(
かんが
)
へ
込
(
こ
)
んで
居
(
ゐ
)
た。
238
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
宰相神
(
さいしやうがみ
)
のサアルボース、
239
ホーロケースの
両人
(
りやうにん
)
は、
240
セールス
姫
(
ひめ
)
を
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
て
数多
(
あまた
)
の
従者
(
じゆうしや
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
241
カールス
王
(
わう
)
の
館
(
やかた
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
指
(
さ
)
して、
242
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り、
243
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
見
(
み
)
て、
244
冷笑
(
れいせう
)
を
向
(
む
)
け
乍
(
なが
)
ら、
245
カールス
王
(
わう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
246
サアルボース『これはこれはカールス
王殿
(
わうどの
)
、
247
いつとても
御
(
ご
)
健勝
(
けんしやう
)
で
吾々
(
われわれ
)
恐悦
(
きようえつ
)
の
至
(
いた
)
りに
存
(
ぞん
)
じます。
248
就
(
つ
)
いては
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
249
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
は
発狂
(
はつきやう
)
致
(
いた
)
し、
250
身体
(
からだ
)
は
痩衰
(
やせおとろ
)
へ、
251
最早
(
もはや
)
削
(
けづ
)
るべき
肉
(
にく
)
もなく、
252
骨
(
ほね
)
計
(
ばかり
)
の
醜
(
みにく
)
き
有様
(
ありさま
)
、
253
到底
(
たうてい
)
台湾島
(
たいわんたう
)
のカールス
王
(
わう
)
が
妃
(
きさき
)
として
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
る
事
(
こと
)
は
不可能
(
ふかのう
)
となりました。
254
実
(
じつ
)
に
吾々
(
われわれ
)
は
御
(
お
)
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
と
申
(
まを
)
さうか、
255
残念
(
ざんねん
)
至極
(
しごく
)
と
申
(
まを
)
さうか、
256
憂苦
(
いうく
)
の
結果
(
けつくわ
)
申上
(
まをしあ
)
げる
言葉
(
ことば
)
も
知
(
し
)
りませぬ。
257
就
(
つ
)
いては
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
妃
(
きさき
)
なくして、
258
万機
(
ばんき
)
の
政事
(
せいじ
)
を
総裁
(
そうさい
)
することは
出来
(
でき
)
ますまい。
259
不束
(
ふつつか
)
乍
(
なが
)
ら
吾
(
わが
)
一人娘
(
ひとりむすめ
)
セールス
姫
(
ひめ
)
を
王
(
わう
)
の
御
(
お
)
妃
(
きさき
)
として
献上
(
けんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
りまする。
260
どうぞ
不束者
(
ふつつかもの
)
なれ
共
(
ども
)
、
261
幾久
(
いくひさ
)
しく
御
(
お
)
納
(
をさ
)
め
下
(
くだ
)
されまする
様
(
やう
)
に、
262
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
申上
(
まをしあ
)
げまする』
263
と
稍
(
やや
)
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
にセールス
姫
(
ひめ
)
を
妃
(
きさき
)
となすべき
事
(
こと
)
を
申込
(
まをしこ
)
みたり。
264
カールス
王
(
わう
)
は
五里
(
ごり
)
霧中
(
むちゆう
)
に
彷徨
(
はうくわう
)
する
如
(
ごと
)
き
面色
(
おももち
)
にて、
265
何
(
なん
)
の
応答
(
いらへ
)
もなく
黙然
(
もくぜん
)
として、
266
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
、
267
セールス
姫
(
ひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見比
(
みくら
)
べてゐた。
268
キールスタンは
不審
(
ふしん
)
の
眉
(
まゆ
)
をひそめ、
269
キールスタン
『サアルボース
殿
(
どの
)
の
只今
(
ただいま
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
270
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
病気
(
びやうき
)
の
為
(
ため
)
、
271
身体
(
からだ
)
痩衰
(
やせおとろ
)
へ
醜
(
みにく
)
き
御
(
お
)
姿
(
すがた
)
到底
(
たうてい
)
王妃
(
わうひ
)
としての
御用
(
ごよう
)
は
勤
(
つと
)
まらないかの
如
(
ごと
)
く
仰
(
あふ
)
せられましたが、
272
御覧
(
ごらん
)
の
通
(
とほ
)
りヤーチン
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
は
既
(
すで
)
に
既
(
すで
)
に
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
遊
(
あそ
)
ばされ、
273
斯
(
こ
)
の
通
(
とほ
)
り
御
(
ご
)
健勝
(
けんしよう
)
なる
御
(
お
)
身体
(
からだ
)
、
274
英気
(
えいき
)
に
充
(
み
)
ちた
御
(
ご
)
容色
(
ようしよく
)
、
275
然
(
しか
)
るに
何
(
なに
)
を
以
(
もつ
)
てか、
276
宰相
(
さいしやう
)
殿
(
どの
)
は
左様
(
さやう
)
なことを
仰
(
あふ
)
せられまするか』
277
と
反問
(
はんもん
)
した。
278
サアルボースはニツコと
笑
(
わら
)
ひ、
279
サアルボース
『
只今
(
ただいま
)
此処
(
ここ
)
に
安坐
(
あんざ
)
し
居
(
ゐ
)
るヤーチン
姫
(
ひめ
)
は
本者
(
ほんもの
)
にあらず、
280
これ
全
(
まつた
)
く
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
の
偽者
(
にせもの
)
で
御座
(
ござ
)
る。
281
雲
(
くも
)
に
乗
(
の
)
り、
282
或
(
あるひ
)
は
身
(
み
)
を
白烟
(
はくえん
)
と
消
(
け
)
し、
283
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
の
魔術
(
まじゆつ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
284
王
(
わう
)
の
館
(
やかた
)
に
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
み、
285
巧言
(
かうげん
)
令色
(
れいしよく
)
の
限
(
かぎ
)
りを
尽
(
つく
)
し、
286
王
(
わう
)
の
心胆
(
しんたん
)
を
奪
(
うば
)
ひ、
287
国内
(
こくない
)
を
攪乱
(
かくらん
)
せむとする
悪魔
(
あくま
)
の
再来
(
さいらい
)
で
厶
(
ござ
)
る。
288
某
(
それがし
)
は
不肖
(
ふせう
)
なれ
共
(
ども
)
、
289
バラモン
教
(
けう
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
神力
(
しんりき
)
に
依
(
よ
)
りて
天眼通
(
てんがんつう
)
を
得
(
え
)
たれば、
290
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
の
真偽
(
しんぎ
)
を
分別
(
ふんべつ
)
する
位
(
くらゐ
)
は
朝飯前
(
あさめしまへ
)
の
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
る。
291
あゝサテモ サテモ、
292
当館内
(
たうやかたない
)
には
盲神
(
めくらがみ
)
許
(
ばか
)
りの……よくも
集
(
あつ
)
まつたもので
厶
(
ござ
)
るワイ。
293
アツハヽヽヽ』
294
と
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆす
)
り、
295
パツとキールスタンを
睨
(
ね
)
め
付
(
つ
)
けた。
296
キールスタン『
益々
(
ますます
)
以
(
もつ
)
て
不届
(
ふとど
)
き
至極
(
しごく
)
の
宰相
(
さいしやう
)
の
言葉
(
ことば
)
、
297
何
(
なに
)
を
証拠
(
しようこ
)
に
左様
(
さやう
)
の
事
(
こと
)
を
仰
(
あふ
)
せらるるか』
298
サアルボース『
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
如
(
ごと
)
き
盲神
(
めくらがみ
)
の
関知
(
くわんち
)
する
所
(
ところ
)
ではない。
299
賢明
(
けんめい
)
なるカールス
王
(
わう
)
に
於
(
おい
)
ては、
300
よくも
其
(
その
)
真偽
(
しんぎ
)
を
御存
(
ごぞん
)
じの
筈
(
はず
)
、
301
吾々
(
われわれ
)
が
弁明
(
べんめい
)
するの
必要
(
ひつえう
)
は
御座
(
ござ
)
らぬ。
302
……
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
らカールス
王
(
わう
)
様
(
さま
)
、
303
如何
(
いかが
)
思召
(
おぼしめ
)
しまするや』
304
カールス
王
(
わう
)
は
黙然
(
もくねん
)
として
腕
(
うで
)
をこまねき、
305
俯
(
うつ
)
むいて
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
306
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
『アイヤ
宰相
(
さいしやう
)
殿
(
どの
)
、
307
妾
(
わらは
)
を
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
とは、
308
何
(
なに
)
を
証拠
(
しようこ
)
に
仰
(
あふ
)
せらるるか。
309
詳細
(
しやうさい
)
に
弁明
(
べんめい
)
なされよ。
310
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
に
依
(
よ
)
つては、
311
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
容赦
(
ようしや
)
は
致
(
いた
)
しませぬぞ』
312
カールス
王
(
わう
)
の
叔父
(
をぢ
)
エーリスは
稍
(
やや
)
言葉
(
ことば
)
を
荒
(
あら
)
らげ
憤怒
(
ふんど
)
の
面色
(
めんしよく
)
物凄
(
ものすご
)
く、
313
エーリス
『ヤア、
314
サアルボース、
315
汝
(
なんぢ
)
は
無礼
(
ぶれい
)
千万
(
せんばん
)
にも
吾
(
わが
)
娘
(
むすめ
)
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
と
申
(
まを
)
すは
何故
(
なにゆゑ
)
ぞ。
316
これには
深
(
ふか
)
き
企
(
たく
)
みのある
事
(
こと
)
ならむ。
317
詳
(
つぶ
)
さに
事情
(
じじやう
)
を
申述
(
まをしの
)
べよ』
318
ホーロケースは
立
(
たち
)
あがりて、
319
ホーロケース
『エーリス
殿
(
どの
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます。
320
貴方
(
あなた
)
の
御
(
おん
)
娘
(
むすめ
)
、
321
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
先
(
さき
)
つ
頃
(
ころ
)
重病
(
ぢうびやう
)
に
罹
(
かか
)
らせられ、
322
身体
(
からだ
)
は
痩衰
(
やせおとろ
)
へ、
323
見
(
み
)
る
影
(
かげ
)
もなき
御
(
お
)
姿
(
すがた
)
と
御
(
お
)
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばされ、
324
到底
(
たうてい
)
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
の
見込
(
みこ
)
みもなく、
325
カールス
王
(
わう
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め、
326
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
憂苦
(
いうく
)
の
情
(
じやう
)
に
堪
(
た
)
へず、
327
如何
(
いか
)
にもして
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
と、
328
バラモン
神
(
がみ
)
に
祈願
(
きぐわん
)
を
籠
(
こ
)
め
居
(
を
)
りました
所
(
ところ
)
、
329
三五教
(
あななひけう
)
の
邪神
(
じやしん
)
忽
(
たちま
)
ち
来
(
きた
)
つて
姫
(
ひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
喰
(
くら
)
ひ、
330
己
(
おのれ
)
代
(
かは
)
つてヤーチン
姫
(
ひめ
)
と
成
(
な
)
りすまし、
331
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
堂々
(
だうだう
)
として、
332
此処
(
ここ
)
に
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はして
居
(
を
)
りまする。
333
現在
(
げんざい
)
御
(
おん
)
父上
(
ちちうへ
)
なる
貴方
(
あなた
)
の
御
(
おん
)
目
(
め
)
にさへも、
334
其
(
その
)
真偽
(
しんぎ
)
が
判明
(
はんめい
)
せないまで、
335
よく
化込
(
ばけこ
)
んだ
枉神
(
まがかみ
)
、
336
到底
(
たうてい
)
一通
(
ひととほ
)
りや
二通
(
ふたとほり
)
りでは、
337
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はす
様
(
やう
)
なチヨロコイ
奴
(
やつ
)
では
御座
(
ござ
)
らぬ。
338
此
(
この
)
真偽
(
しんぎ
)
はカールス
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
既
(
すで
)
に
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
の
事
(
こと
)
と
存
(
ぞん
)
じまする。
339
言
(
い
)
はば
貴方
(
あなた
)
の
御
(
おん
)
娘
(
むすめ
)
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
の
仇敵
(
きうてき
)
で
御座
(
ござ
)
いますれば、
340
此
(
この
)
場
(
ば
)
で
御
(
お
)
手討
(
てうち
)
に
遊
(
あそ
)
ばされたう
存
(
ぞん
)
じます。
341
万一
(
まんいち
)
御
(
お
)
疑
(
うたが
)
ひとあらば、
342
憚
(
はばか
)
り
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
ホーロケースが
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
於
(
おい
)
て
退治
(
たいぢ
)
し
御
(
お
)
目
(
め
)
にかけませう』
343
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
『コレコレ、
344
ホーロケース、
345
そなたは
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだ。
346
気
(
き
)
が
違
(
ちが
)
うたか。
347
トツクリと
妾
(
わらは
)
が
顔
(
かほ
)
を
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
よ』
348
ホーロケース『カールス
王
(
わう
)
様
(
さま
)
、
349
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へは
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
いまする』
350
カールス
王
(
わう
)
『
如何
(
いか
)
にも
合点
(
がてん
)
の
往
(
ゆ
)
かぬヤーチン
姫
(
ひめ
)
、
351
昨夜
(
さくや
)
雲
(
くも
)
に
乗
(
の
)
り、
352
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ、
353
再
(
ふたた
)
び
館
(
やかた
)
の
前
(
まへ
)
にて
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せたる
不思議
(
ふしぎ
)
の
女
(
をんな
)
に
寸分
(
すんぶん
)
違
(
たが
)
はぬ
此
(
この
)
女
(
をんな
)
。
354
吾
(
われ
)
は
正
(
まさ
)
しく
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
と
見
(
み
)
るより
外
(
ほか
)
に
手段
(
てだて
)
はない』
355
サアルボース、
356
ホーロケースの
両人
(
りやうにん
)
は
王
(
わう
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
くより、
357
俄
(
にはか
)
に
鼻息
(
はないき
)
荒
(
あら
)
く、
358
サアルボース『
王者
(
わうしや
)
の
言葉
(
ことば
)
に
二言
(
にごん
)
なし。
359
汝
(
なんぢ
)
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
、
360
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
にきはまつたり。
361
此
(
この
)
国
(
くに
)
の
掟
(
おきて
)
に
従
(
したが
)
ひ、
362
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
籠
(
かご
)
に
乗
(
の
)
せ、
363
新高山
(
にひたかやま
)
の
淡渓
(
たんけい
)
に
投
(
な
)
げ
棄
(
す
)
て、
364
災
(
わざはひ
)
の
根
(
ね
)
を
絶
(
た
)
たむ。
365
……
如何
(
いか
)
にエーリス
殿
(
どの
)
、
366
これでも
猶
(
なほ
)
御
(
お
)
疑
(
うたが
)
ひあるや』
367
と
睨
(
ね
)
めつけた。
368
エーリスは
暫
(
しばら
)
く
首
(
かうべ
)
を
傾
(
かたむ
)
けて
居
(
ゐ
)
たが、
369
頓
(
やが
)
て
王
(
わう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
370
エーリス
『カールス
王
(
わう
)
よ、
371
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
に
相違
(
さうゐ
)
なしと
断定
(
だんてい
)
さるるや』
372
と
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ、
373
問
(
と
)
ひつめた。
374
カールス
王
(
わう
)
は
首
(
かうべ
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り、
375
カールス王
『
否々
(
いやいや
)
吾
(
われ
)
は
決
(
けつ
)
して
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
と
断定
(
だんてい
)
はせない。
376
只
(
ただ
)
訝
(
いぶ
)
かしき
昨夜
(
さくや
)
出会
(
であ
)
ひたる
女
(
をんな
)
に、
377
容貌
(
ようばう
)
其
(
その
)
他
(
た
)
寸毫
(
すんがう
)
の
差
(
さ
)
なきを
不思議
(
ふしぎ
)
と
思
(
おも
)
ふのみ。
378
果
(
はた
)
して
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
なりや、
379
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
なりや、
380
これは
未
(
いま
)
だ
判明
(
はんめい
)
せず』
381
エーリスはサアルボース
兄弟
(
きやうだい
)
に
向
(
むか
)
ひ、
382
エーリス
『
宰相
(
さいしやう
)
殿
(
どの
)
、
383
今
(
いま
)
の
王
(
わう
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
に
依
(
よ
)
れば、
384
未
(
いま
)
だ
的確
(
てきかく
)
なる
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
と
認
(
みと
)
め
玉
(
たま
)
はざるに
非
(
あら
)
ざるか。
385
然
(
しか
)
るに
軽々
(
かるがる
)
しくヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
として、
386
渓流
(
けいりう
)
に
棄
(
す
)
つるは
没義道
(
もぎだう
)
で
御座
(
ござ
)
らう。
387
今
(
いま
)
一息
(
ひといき
)
御
(
ご
)
熟考
(
じゆくかう
)
を
願
(
ねが
)
ひませう』
388
ホーロケースは
言下
(
げんか
)
に、
389
ホーロケース
『お
黙
(
だま
)
りなさい。
390
カールス
王
(
わう
)
の
叔父
(
をぢ
)
たるの
地位
(
ちゐ
)
を
利用
(
りよう
)
して、
391
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
忠言
(
ちうげん
)
を
遮
(
さへぎ
)
らむとする
貴神
(
あなた
)
の
振舞
(
ふるまひ
)
、
392
如何
(
いか
)
に
親子
(
おやこ
)
の
愛情
(
あいじやう
)
に
眼
(
まなこ
)
眩
(
くら
)
めばとて、
393
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
を
以
(
もつ
)
てカールス
王
(
わう
)
の
妃
(
きさき
)
となし、
394
国家
(
こくか
)
を
紊乱
(
ぶんらん
)
せむとするは
不忠
(
ふちゆう
)
不義
(
ふぎ
)
の
至
(
いた
)
りで
御座
(
ござ
)
らう。
395
御
(
お
)
控
(
ひか
)
へめされ』
396
サアルボースは
又
(
また
)
もや
立上
(
たちあが
)
つて、
397
サアルボース
『
一旦
(
いつたん
)
王者
(
わうしや
)
の
口
(
くち
)
より
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
ならむと
宣示
(
せんじ
)
されたる
以上
(
いじやう
)
は、
398
再
(
ふたたび
)
撤回
(
てつくわい
)
す
可
(
べ
)
からず。
399
且
(
かつ
)
又
(
また
)
現在
(
げんざい
)
目前
(
もくぜん
)
に
居
(
ゐ
)
る
妖怪
(
えうくわい
)
に
対
(
たい
)
し、
400
真偽
(
しんぎ
)
に
迷
(
まよ
)
ふが
如
(
ごと
)
き
暗君
(
あんくん
)
なれば、
401
王
(
わう
)
としての
資格
(
しかく
)
は
絶無
(
ぜつむ
)
なり。
402
速
(
すみや
)
かに
退位
(
たいゐ
)
さるるか、
403
さなくば
吾
(
わが
)
言葉
(
ことば
)
を
容
(
い
)
れ、
404
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
と
変
(
へん
)
じたる
妖怪
(
えうくわい
)
を
淡渓
(
たんけい
)
に
捨
(
す
)
て、
405
セールス
姫
(
ひめ
)
を
容
(
い
)
れて
妃
(
きさき
)
となし
玉
(
たま
)
はば、
406
上下
(
じやうか
)
一致
(
いつち
)
、
407
天下
(
てんか
)
泰平
(
たいへい
)
の
祥兆
(
しやうてう
)
を
見
(
み
)
む
事
(
こと
)
火
(
ひ
)
を
睹
(
み
)
るより
明
(
あきら
)
かならむ、
408
返答
(
へんたふ
)
承
(
うけたま
)
はらむ』
409
のつぴきさせぬ
釘
(
くぎ
)
鎹
(
かすがひ
)
にカールス
王
(
わう
)
も
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
なく、
410
うつうつとして
顔色
(
かほいろ
)
青
(
あを
)
ざめ、
411
二三
(
にさん
)
の
従臣
(
じうしん
)
と
共
(
とも
)
に
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
412
サアルボース、
413
ホーロケースの
二人
(
ふたり
)
は
数多
(
あまた
)
の
従臣
(
じゆうしん
)
に
命
(
めい
)
じ、
414
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
高手
(
たかて
)
小手
(
こて
)
に
縛
(
いまし
)
め、
415
粗末
(
そまつ
)
な
吊籠
(
つりかご
)
に
入
(
い
)
れ、
416
父
(
ちち
)
のエーリス
始
(
はじ
)
め、
417
キールスタン、
418
ユリコ
姫
(
ひめ
)
の
止
(
と
)
むるのも
聞
(
き
)
かばこそ、
419
突
(
つ
)
きのけ
撥
(
は
)
ねのけ、
420
凱歌
(
がいか
)
を
奏
(
そう
)
しつつ
淡渓
(
たんけい
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
421
(
大正一一・八・六
旧六・一四
松村真澄
録)
422
(昭和一〇・六・五 王仁校正)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< カールス王
(B)
(N)
玉藻山 >>>
霊界物語
>
海洋万里(第25~36巻)
>
第28巻(卯の巻)
> 第1篇 高砂の島 > 第2章 無理槍
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第2章 無理槍|第28巻|海洋万里|霊界物語|/rm2802】
合言葉「みろく」を入力して下さい→