霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 サワラの都(みやこ)〔八一二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻 篇:第2篇 暗黒の叫 よみ(新仮名遣い):あんこくのさけび
章:第12章 サワラの都 よみ(新仮名遣い):さわらのみやこ 通し章番号:812
口述日:1922(大正11)年08月08日(旧06月16日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年8月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三人はサワラの都にたどり着いた。広い平原の中央に築かれた新都会である。サワラの都は広大な堀で四方をめぐらしている。三十万年前の都としては、かなり大きな街であった。
三人は夕方に門から街区に入り、城門の前で門番に声をかけた。門番は誰もすでに居眠りをしており、起こそうとする日楯に文句を言って寝てしまう。
そこへ表門が開かれ、中から立派な行列が現れた。行列の大将は三人に声をかけ、台湾島の真道彦の子息一行ではないか、と問うた。日楯は丁寧に挨拶を返した。男は自分は照彦王の側近でセルと名乗った。数日前に照子姫に竜世姫が神懸かり、三人の来島を告げたという。一行は、セルに続いて城内に入って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-09-12 04:16:23 文字数:4587 OBC :rm2812
愛善世界社版:138頁 八幡書店版:第5輯 404頁 修補版: 校定版:142頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001玉藻(たまも)の山(やま)の聖場(せいぢやう)に
002遠(とほ)き神代(かみよ)の昔(むかし)より
003三五教(あななひけう)を開(ひら)きたる
004真道(まみち)の彦(ひこ)の末流(まつりう)と
005世(よ)に聞(きこ)えたる真道彦(まみちひこ)
006泰安城(たいあんじやう)の急変(きふへん)を
007救(すく)はむ為(ため)に三五(あななひ)の
008神(かみ)の司(つかさ)や信徒(まめひと)を
009集(あつ)めて神軍(しんぐん)組織(そしき)なし
010泰安城(たいあんじやう)に現(あら)はれて
011寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を打払(うちはら)ひ
012遂(つひ)には奇禍(きくわ)を蒙(かうむ)りて
013カールス王(わう)に疑(うたが)はれ
014暗(くら)き牢獄(ひとや)に投(な)げ込(こ)まれ
015逃(にげ)るる由(よし)も泣(な)く許(ばか)り
016ヤーチン姫(ひめ)も諸共(もろとも)に
017聞(き)くもいまはし寃罪(ゑんざい)に
018かかりて暗(やみ)に呻吟(しんぎん)し
019苦(くる)しき月日(つきひ)を送(おく)ります
020其(その)惨状(さんじやう)を救(すく)はむと
021父(ちち)を思(おも)ふの真心(まごころ)に
022日楯(ひたて)、月鉾(つきほこ)両人(りやうにん)は
023聖地(せいち)を後(あと)にユリコ姫(ひめ)
024夜(よる)に紛(まぎ)れて蓑笠(みのかさ)の
025軽(かる)き姿(すがた)に身(み)を装(よそ)ひ
026アーリス山(ざん)の頂(いただ)きに
027息(いき)もせきせき辿(たど)り着(つ)き
028月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)び乍(なが)ら
029片方(かたへ)の岩(いは)に腰(こし)をかけ
030息(いき)を休(やす)むる折柄(をりから)に
031泰嶺山(たいれいざん)の聖地(せいち)より
032神(かみ)の司(つかさ)の月鉾(つきほこ)が
033後(あと)を尋(たづ)ねて追(お)ひ来(きた)る
034テーリン姫(ひめ)の執拗(しつえう)な
035恋(こひ)の縺(もつ)れの糸(いと)をとき
036言葉(ことば)を尽(つく)して聖場(せいぢやう)に
037帰(かへ)らしめむと思(おも)へども
038恋(こひ)に曇(くも)りしテーリンは
039とけば説(と)く程(ほど)もつれ来(く)る
040時(とき)しもあれや木(こ)かげより
041現(あら)はれ出(い)でし人影(ひとかげ)に
042一同(いちどう)驚(おどろ)き見廻(みまは)せば
043思(おも)ひ掛(が)けなきマリヤス姫(ひめ)の
044珍(うづ)の命(みこと)の出現(しゆつげん)に
045漸(やうや)く急場(きふば)を逃(のが)れ出(い)で
046日楯(ひたて)、月鉾(つきほこ)、ユリコ姫(ひめ)
047三人(みたり)の司(つかさ)はやうやうに
048ヤツと蘇生(そせい)の心地(ここち)して
049アーリス山(ざん)の峰(みね)を越(こ)え
050須安(シユアン)の山脈(さんみやく)打渡(うちわた)り
051夜(よ)を日(ひ)についで漸々(やうやう)に
052テルナの里(さと)に辿(たど)りつき
053谷間(たにま)にまたたく一(ひと)つ火(び)を
054目(め)あてに進(すす)む折柄(をりから)に
055喉(のんど)は渇(かわ)き腹(はら)は飢(う)ゑ
056根気(こんき)も尽(つ)きて三(さん)人(にん)は
057とある木蔭(こかげ)に休(やす)らひつ
058幽(かす)かに漏(も)れ来(く)る人声(ひとごゑ)を
059耳(みみ)をすまして聞(き)き居(を)れば
060俄(にはか)に吹(ふ)き来(く)る谷(たに)の風(かぜ)
061三人(みたり)の頭(あたま)に何物(なにもの)か
062触(さわ)ると見(み)れば木茄子(きなすび)の
063香(かを)りゆかしき果物(くだもの)に
064飛(と)びつく計(ばか)り喜(よろこ)びて
065忽(たちま)ち三人(みたり)は木茄子(きなすび)を
066一個(いつこ)も残(のこ)らずむしり取(と)り
067腹(はら)をふくらせ横(よこた)はり
068いつしか眠(ねむ)りにつきにける。
069折(をり)も折(をり)とてバラモンの
070神(かみ)の祭典(まつり)の真最中(まつさいちう)
071四五(しご)の土人(どじん)は木茄子(きなすび)を
072神(かみ)の御前(みまへ)に供(そな)へむと
073冠(かむり)装束(しやうぞく)いかめしく
074幣(ぬさ)振(ふ)り乍(なが)ら進(すす)み来(く)る
075素(もと)より三人(みたり)は白河(しらかは)の
076夜船(よぶね)を操(あやつ)る真最中(まつさいちう)
077土人(どじん)は忽(たちま)ち木茄子(きなすび)の
078一個(いつこ)も残(のこ)らず何者(なにもの)にか
079盗(ぬす)まれたるに肝(きも)潰(つぶ)し
080明(あか)りに照(てら)して眺(なが)むれば
081雷(らい)のやうなる鼾声(いびきごゑ)
082驚(おどろ)き直(ただち)に此(この)由(よし)を
083テルナの里(さと)の酋長(しうちやう)に
084報告(はうこく)すればゼームスは
085時(とき)を移(うつ)さず駆来(かけきた)り
086三人(みたり)の男女(だんぢよ)に打向(うちむか)ひ
087団栗眼(どんぐりまなこ)を怒(いか)らせて
088『テルナの里(さと)の人々(ひとびと)が
089生命(いのち)に代(か)へて守(まも)り居(を)る
090神(かみ)に捧(ささ)ぐる木茄子(きなすび)を
091取(と)りて食(くら)ひし横道者(わうだうもの)
092汝(なんぢ)三人(みたり)の生命(せいめい)を
093奪(うば)ひて神(かみ)の贄(いけにへ)に
094奉(たてまつ)らむ』と居丈高(ゐたけだか)
095罵(ののし)りちらせばユリコ姫(ひめ)
096酋長(しうちやう)の前(まへ)に手(て)をついて
097『長途(ちやうと)の旅(たび)に疲(つか)れ果(は)て
098喉(のんど)は渇(かわ)き腹(はら)は飢(う)ゑ
099かかる尊(たふと)き果物(くだもの)と
100知(し)らずに取(と)つて食(く)ひました
101何卒(なにとぞ)深(ふか)き此(この)罪(つみ)を
102広(ひろ)き心(こころ)に見直(みなほ)して
103吾(われ)等(ら)を赦(ゆる)し給(たま)へかし』
104願(ねが)へば酋長(しうちやう)はユリコ姫(ひめ)の
105顔(かほ)打眺(うちなが)め笑(わら)ひ顔(がほ)
106『汝(なんぢ)は吾(わ)れの要求(えうきう)を
107容(い)れて女房(にようばう)となるならば
108汝(なんぢ)の罪(つみ)を赦(ゆる)すべし
109二人(ふたり)の男(をとこ)は如何(どう)しても
110命(いのち)を取(と)つて神前(しんぜん)の
111尊(たふと)き犠牲(ぎせい)に供(きよう)さねば
112神(かみ)の怒(いか)りを如何(いか)にせむ
113覚悟(かくご)せよや』と睨(ね)めつける
114ユリコの姫(ひめ)はいろいろと
115詞(ことば)を尽(つく)し身(み)を尽(つく)し
116口説(くど)き立(た)つれば酋長(しうちやう)は
117漸(やうや)く心(こころ)和(やは)らぎて
118苦(くる)しき荒行(あらぎやう)いろいろと
119二人(ふたり)の男(をとこ)に言(い)ひ付(つ)けて
120漸(やうや)く此(この)場(ば)は鳧(けり)がつき
121大祭壇(だいさいだん)の傍(かたはら)に
122三人(みたり)の男女(なんによ)を伴(ともな)ひて
123ユリコの姫(ひめ)には美(うる)はしき
124衣服(いふく)を与(あた)へ二人(ふたり)には
125『猛火(まうくわ)の中(なか)をくぐれよ』と
126言葉(ことば)厳(きび)しく下知(げち)すれば
127日楯(ひたて)、月鉾(つきほこ)両人(りやうにん)は
128天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し
129天(あま)の数歌(かずうた)ひそびそと
130小声(こごゑ)になりて唱(とな)へつつ
131猛火(まうくわ)の中(なか)を幾度(いくたび)も
132いと易々(やすやす)と潜(くぐ)りぬけ
133大祭壇(だいさいだん)の其(その)前(まへ)に
134火傷(やけど)もせずに帰(かへ)り来(く)る
135並(な)みゐる人々(ひとびと)両人(りやうにん)が
136其(その)神力(しんりき)に驚(おどろ)きて
137互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せつ
138舌(した)巻(ま)き居(ゐ)たる折柄(をりから)に
139何処(いづこ)ともなく大火光(だいくわくわう)
140此(この)場(ば)に忽(たちま)ち落下(らくか)して
141酋長(しうちやう)ゼームス果敢(あへ)なくも
142身(み)は中空(ちうくう)に飛(と)びあがり
143行方(ゆくへ)も知(し)らずなりにける。
144並(な)み居(ゐ)る数多(あまた)の里人(さとびと)は
145此(この)爆発(ばくはつ)に驚(おどろ)きて
146雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げて行(ゆ)く
147逃(に)げ遅(おく)れたる人々(ひとびと)は
148胆(きも)をば潰(つぶ)し腰(こし)抜(ぬ)かし
149呻吟(うめ)き苦(くるし)む折柄(をりから)に
150ユリコの姫(ひめ)は酋長(しうちやう)に
151与(あた)へられたる衣(きぬ)を脱(ぬ)ぎ
152直(ただち)に火中(くわちう)に投(とう)ずれば
153日楯(ひたて)、月鉾(つきほこ)両人(りやうにん)は
154ユリコの姫(ひめ)の右左(みぎひだり)
155立現(たちあら)はれて宣伝歌(せんでんか)
156声(こゑ)も涼(すず)しく宣(の)りつれば
157醜(しこ)の曲霊(まがひ)は何時(いつ)しかに
158消(き)え失(う)せたるか風(かぜ)清(きよ)く
159何(なん)とはなしに心地(ここち)よく
160神(かみ)の恵(めぐみ)を三(さん)人(にん)が
161喜(よろこ)ぶ折(をり)しもゼームスは
162衣紋(ゑもん)を整(ととの)へ供人(ともびと)を
163数多(あまた)引連(ひきつ)れ珍(めづら)しき
164木(こ)の実(み)を器(うつは)に盛(も)り乍(なが)ら
165三人(みたり)が前(まへ)に手(て)をついて
166以前(いぜん)の無礼(ぶれい)を心(こころ)より
167詫入(わびい)る姿(すがた)の殊勝(しゆしよう)さよ
168茲(ここ)に三人(みたり)は三五(あななひ)の
169神(かみ)の教(をしへ)を細々(こまごま)と
170ゼームス始(はじ)め里人(さとびと)に
171伝(つた)へて直(ただ)ちに三五(あななひ)の
172教(をしへ)の柱(はしら)をつき固(かた)め
173酋長(しうちやう)始(はじ)め数十(すうじふ)の
174里人(さとびと)達(たち)に送(おく)られて
175夜(よ)を日(ひ)に継(つ)いで高砂(たかさご)の
176北(きた)の端(はし)なるキールンの
177漸(やうや)く浜辺(はまべ)に着(つ)きにけり
178あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
179御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ。
180○
181常世(とこよ)の波(なみ)も竜世姫(たつよひめ)
182高砂島(たかさごじま)の胞衣(えな)として
183神(かみ)の造(つく)りし台湾島(たいわんたう)
184木(こ)の実(み)も豊(ゆたか)に水(みづ)清(きよ)く
185禽獣(きんじう)虫魚(ちうぎよ)も生(お)ひたちて
186天与(てんよ)の楽土(らくど)と聞(きこ)えたる
187台湾島(たいわんたう)の中心地(ちうしんち)
188玉藻(たまも)の山(やま)の聖場(せいぢやう)を
189三人(みたり)は後(あと)に立出(たちい)でて
190艱難(かんなん)辛苦(しんく)を嘗(な)め乍(なが)ら
191テルナの里(さと)の酋長(しうちやう)に
192長(なが)き道程(だうてい)を守(まも)られて
193キールの港(みなと)に安着(あんちやく)し
194船(ふね)を傭(やと)ひて三(さん)人(にん)は
195波(なみ)のまにまに漕(こ)ぎ出(だ)しぬ
196折柄(をりから)吹(ふ)き来(く)る北風(きたかぜ)に
197山(やま)なす浪(なみ)は容赦(ようしや)なく
198三人(みたり)の船(ふね)に衝(つ)き当(あた)る
199ユリコの姫(ひめ)は船頭(せんとう)に
200立(た)ちて波(なみ)をば静(しづ)めつつ
201神(かみ)のまにまに琉球(りうきう)の
202八重山(やへやま)島(たう)を指(さ)して行(ゆ)く
203やうやう茲(ここ)に三(さん)人(にん)は
204エルの港(みなと)に安着(あんちやく)し
205岸辺(きしべ)に船(ふね)をつなぎおき
206声名(せいめい)轟(とどろ)く照彦(てるひこ)の
207千代(ちよ)の住家(すみか)と聞(きこ)えたる
208サワラの都(みやこ)を指(さ)して行(ゆ)く。
209 サワラの都(みやこ)に、210三(さん)人(にん)は漸(やうや)く辿(たど)りついた。211ここは際限(さいげん)もなき広原(くわうげん)の中央(まんなか)に築(きづ)かれたる新都会(しんとくわい)にして、212白楊樹(はくやうじゆ)の森(もり)四辺(しへん)を包(つつ)み、213芭蕉(ばせう)の林(はやし)は所々(ところどころ)に点綴(てんてつ)してゐる。214国人(くにびと)は大抵(たいてい)、215芭蕉実(ばなな)、216苺(いちご)、217林檎(りんご)、218木茄子(きなすび)、219柿(かき)などを常食(じやうしよく)とし、220或(あるひ)は山(やま)の芋(いも)、221淡水魚(たんすゐぎよ)などを副食物(ふくしよくもつ)として生活(せいくわつ)を続(つづ)けてゐる。
222 サワラの都(みやこ)には、223広大(くわうだい)なる堀(ほり)を以(もつ)て四方(しはう)を囲(めぐ)らしてゐる。224其(その)巾(はば)殆(ほとん)ど一丁(いつちやう)計(ばか)りの広(ひろ)さである。225東西(とうざい)南北(なんぼく)に堅固(けんご)なる橋梁(けうりやう)を渡(わた)し、226稍(やや)北方(ほくぱう)にサワラの高峰(かうはう)、227雲表(うんぺう)に聳(そび)え、228四神(しじん)相応(さうおう)の聖地(せいち)と称(しよう)せられてゐる。229城内(じやうない)には数百(すうひやく)の人家(じんか)立並(たちなら)び、230今(いま)より三十万(さんじふまん)年前(ねんぜん)の都会(とくわい)としては、231最(もつと)も大(だい)なるものと称(しよう)されて居(ゐ)た。232サワラの城(しろ)は殆(ほとん)ど其(その)中心(ちうしん)に宏大(くわうだい)なる地域(ちゐき)を構(かま)へ、233石造(せきざう)の館(やかた)高(たか)く老樹(らうじゆ)の上(うへ)にぬき出(で)て居(ゐ)る。234城内(じやうない)には畑(はたけ)もあれば、235川(かは)もあり、236沼(ぬま)もあり、237何一(なにひと)つ不自由(ふじゆう)なき様(やう)に作(つく)られてゐた。
238 三(さん)人(にん)は東(ひがし)の門(もん)より橋(はし)を渡(わた)つて、239門内(もんない)に進(すす)み入(い)つた。240黄(くわう)紅(こう)白(はく)紫(し)紺(こん)いろいろの花(はな)は木(き)の枝(えだ)に、241草(くさ)の先(さき)に、242爛漫(らんまん)と咲(さ)き乱(みだ)れてゐる。243又(また)道(みち)の両側(りやうがは)には百日紅(さるすべり)や日和花(ひよりばな)の類(たぐひ)密生(みつせい)し、244白(しろ)き砂(すな)は日光(につくわう)に輝(かがや)き、245台湾島(たいわんたう)の日月潭(じつげつたん)に比(ひ)して、246幾層倍(いくそうばい)とも知(し)れぬ気分(きぶん)のよき土地(とち)である。
247 三(さん)人(にん)は何(なん)となく恥(はづか)しき様(やう)な、248おめる様(やう)な心持(こころもち)にて、249小声(こごゑ)に宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら、250照彦(てるひこ)が千代(ちよ)の住家(すみか)と定(さだ)めたる城門(じやうもん)の前(まへ)に漸(やうや)くにして歩(ほ)を運(はこ)んだ。251四五(しご)の門番(もんばん)は頬杖(ほほづゑ)をつき乍(なが)ら、252何(いづ)れも睡魔(すゐま)に襲(おそ)はれて、253コクリコクリと居睡(いねむ)つてゐる其(その)長閑(のどか)さ、254天国(てんごく)の門番(もんばん)も斯(か)くやと思(おも)ふ計(ばか)りの気楽(きらく)さを現(あら)はし居(ゐ)る。255日楯(ひたて)は門番(もんばん)の前(まへ)に進(すす)み寄(よ)り、
256日楯(ひたて)『頼(たの)みます 頼(たの)みます』
257と声(こゑ)をかけた。258門番(もんばん)の一(いち)、259ねむた目(め)をこすり乍(なが)ら、
260門番(もんばん)ノ一(いち)『アヽ此(この)真夜中(まよなか)に誰(たれ)か知(し)らぬが、261人(ひと)を起(おこ)しやがつて、262ねむたいワイ。263此(この)門(もん)は暮(くれ)六(む)つから明(あ)け六(む)つ迄(まで)は開(あ)ける事(こと)は出来(でき)ぬ。264夜(よ)が明(あ)けたら、265誰(たれ)か知(し)らぬが行(や)つて来(こ)い。266キツと開(あ)けて通(とほ)してやる、267ムニヤ ムニヤ ムニヤ……』
268と云(い)ひ乍(なが)ら又(また)ゴロンと横(よこ)になる。
269月鉾(つきほこ)『モシモシ門番(もんばん)様(さま)、270まだ日中(につちう)で御座(ござ)います。271暮(くれ)六(む)つ迄(まで)には余程(よほど)間(ま)も御座(ござ)いますから、272どうぞ目(め)を醒(さ)まして、273此(この)門(もん)をお開(あ)け下(くだ)さいませ』
274門番(もんばん)ノ二(に)『お前(まへ)は夜(よ)が明(あ)けとるか知(し)らぬが、275俺(おれ)の目(め)ではそこら中(ぢう)が真暗(まつくら)がりだ。276暗(くら)い時(とき)は夜分(やぶん)にきまつて居(ゐ)る。277アタねむたい、278喧(やかま)しう言(い)はずにトツトと出直(でなほ)して来(こ)い』
279月鉾(つきほこ)『アハヽヽヽ、280あなた目(め)をおあけなさい。281さう目蓋(まぶた)を固(かた)く密着(みつちやく)させてゐては、282昼(ひる)でもヤツパリ暗(くら)く見(み)えますぞ』
283門番(もんばん)ノ二(に)『喧(やかま)しう言(い)ふない。284暗(くら)くも何(なに)もあつたものかい。285苦楽(くらく)一如(いちによ)だ。286世(よ)の中(なか)に寝(ね)る程(ほど)楽(らく)はなきものを、287起(おき)てガヤガヤ騒(さわ)ぐ馬鹿(ばか)のたわけ。288おれはまだ夜中(よなか)の夢(ゆめ)を見(み)て居(ゐ)るのだ。289おれの目(め)の引明(ひきあ)けに出(で)て来(こ)い。290そしたら、291あけてやらぬ事(こと)もないワイ』
292とダル相(さう)な声(こゑ)でブツブツ云(い)ひ乍(なが)ら、293又(また)横(よこ)にゴロンとなる。294三(さん)人(にん)はもどかしがり、295稍(やや)思案(しあん)に暮(く)れて佇(たたず)んで居(ゐ)る時(とき)しも、296表門(おもてもん)はサラリと左右(さいう)に開(ひら)かれ、297中(なか)より立派(りつぱ)なる男女(だんぢよ)幾十(いくじふ)人(にん)となく行列(ぎやうれつ)を作(つく)り、298三(さん)人(にん)の前(まへ)に恭(うやうや)しく手(て)をつき乍(なが)ら大将(たいしやう)らしき一人(ひとり)は、
299一人の男(セル)『エヽあなたは台湾島(たいわんたう)の玉藻山(たまもやま)の霊場(れいぢやう)にまします、300真道彦(まみちひこの)命(みこと)様(さま)の御(ご)子息(しそく)様(さま)では御座(ござ)いませぬか』
301 日楯(ひたて)丁寧(ていねい)に礼(れい)を返(かへ)し、
302日楯『ハイ御(お)察(さつ)しの通(とほ)り、303吾(われ)等(ら)は真道彦(まみちひこの)命(みこと)の伜(せがれ)、304日楯(ひたて)、305月鉾(つきほこ)と申(まを)す者(もの)、306これなる女(をんな)は私(わたし)の妻(つま)ユリコ姫(ひめ)と申(まを)します。307竜世姫(たつよひめ)様(さま)の御(ご)神勅(しんちよく)に依(よ)り、308当国(たうこく)の城主(じやうしゆ)照彦(てるひこ)様(さま)、309照子姫(てるこひめ)様(さま)に御(お)願(ねがひ)の筋(すぢ)ありて、310大海原(おほうなばら)を渡(わた)り、311漸(やうや)くこれへ参(まゐ)つた者(もの)で御座(ござ)います』
312一人(ひとり)の男(をとこ)(セル)『私(わたし)はセルと申(まを)して、313照彦王(てるひこわう)の御(お)側(そば)近(ちか)く仕(つか)ふる者(もの)で御座(ござ)います。314二三(にさん)日(にち)以前(いぜん)より、315照子姫(てるこひめ)様(さま)に高砂島(たかさごじま)の竜世姫(たつよひめの)命(みこと)様(さま)御(お)神懸(かむがか)り遊(あそ)ばし、316あなた方(がた)御(ご)三人(さんにん)様(さま)がここへ御(お)越(こ)しになるから、317出迎(でむか)ひに出(で)よとのお告(つげ)で御座(ござ)いました。318それ故(ゆゑ)今日(けふ)はお越(こ)しの日(ひ)と早朝(さうてう)よりいろいろと、319あなた方(がた)の歓迎(くわんげい)の用意(ようい)を致(いた)し、320照彦(てるひこ)様(さま)、321照子姫(てるこひめ)様(さま)、322奥(おく)にお待(まち)で御座(ござ)います。323サア御(ご)案内(あんない)致(いた)しますから、324早(はや)くお這入(はい)り下(くだ)さいませ』
325 三(さん)人(にん)は一度(いちど)に頭(あたま)を下(さ)げ、
326三人『有難(ありがた)う』
327と言(い)ひ乍(なが)らセルの後(あと)に従(したが)ひ、328奥(おく)深(ふか)く進(すす)み入(い)る。329門番(もんばん)は漸(やうや)く目(め)を醒(さま)し、
330甲(かふ)『オイ、331ベース、332チヤール、333起(お)きぬか起(お)きぬか、334大変(たいへん)な事(こと)が出来(でき)て来(き)たぞ。335お側役(そばやく)のセル様(さま)が沢山(たくさん)の御(ご)近侍(きんじ)の方々(かたがた)と共(とも)に三(さん)人(にん)のお客(きやく)さまをお迎(むか)へ遊(あそ)ばして、336奥(おく)へお這入(はい)りになつた。337貴様(きさま)達(たち)はなまくらを構(かま)へて、338寝真似(ねまね)をし、339糟(かす)に酔(よ)うた様(やう)な事(こと)をぬかしてをつたが、340たつた今(いま)ドテライお目玉(めだま)だぞ。341サア早(はや)く何(なん)とか、342言訳(いひわけ)を拵(こしら)へて、343セル様(さま)へお断(ことわ)りに行(ゆ)かねば、344足袋屋(たびや)の看板(かんばん)だ。345サツパリ足(あし)あがりになつて了(しま)ふぞよ』
346エル『バカを言(い)ふな、347俺(おれ)達(たち)が寝真似(ねまね)をして居(を)つたのを知(し)つてゐた以上(いじやう)は、348貴様(きさま)もチヨボチヨボだ。349俺(おれ)が足(あし)があがる位(くらゐ)なら、350貴様(きさま)は頭(かしら)だから、351キツト首(くび)が飛(と)ぶぞよ。352貴様(きさま)は俺(おれ)達(たち)の組頭(くみがしら)だからお詫(わび)に往(い)つて来(く)るがよからう。353俺(おれ)や、354こんな門番(もんばん)なんか、355何時(なんどき)足(あし)があがつても構(かま)やしないのだ。356常世城(とこよじやう)の門番(もんばん)を見(み)い、357失敗(しつぱい)して王(わう)様(さま)のお側附(そばつき)になつたぢやないか[※第10巻第7章「思はぬ光栄」のエピソード。門番の蟹彦が常世神王のお側付きに抜擢された。]。358何時(いつ)迄(まで)も門番(もんばん)を厳重(げんぢゆう)に勤(つと)めて居(を)つたら、359彼奴(あいつ)は門番(もんばん)に適当(てきたう)な奴(やつ)だと、360セルの大将(たいしやう)に見込(みこ)まれたが最後(さいご)、361金槌(かなづち)の川流(かはなが)れ、362一生(いつしやう)頭(あたま)の上(あが)る事(こと)はないぞよ。363それより日中(につちう)にグウグウと寝(ね)てる方(はう)が、364何時(いつ)栄達(ゑいたつ)の途(みち)が開(ひら)けるか知(し)れないぞ。365大体(だいたい)こんな智者(ちしや)学者(がくしや)を門番(もんばん)にさしておくのが見当(けんたう)違(ちが)ひだ。366マア見(み)て居(を)れ、367明日(あす)になつたら、368貴様(きさま)達(たち)は門番(もんばん)に不適当(ふてきたう)だから、369奥勤(おくづと)めに使(つか)つてやらうとの御(ご)命令(めいれい)が下(くだ)るに違(ちがひ)ない。370余(あま)り取越(とりこし)苦労(くらう)をするものでない。371マア刹那心(せつなしん)を楽(たのし)むのだなア。372待(ま)てば海路(かいろ)の風(かぜ)が吹(ふ)くとやら、373何事(なにごと)も運(うん)は天(てん)にありだ。374そんな事(こと)に心配(しんぱい)するよりも、375酒(さけ)でも呑(の)み、376一生(いつしやう)懸命(けんめい)に騒(さわ)ぎ、377ステテコでも踊(をど)つて、378今度(こんど)のお客様(きやくさま)のお慰(なぐさ)みに供(きよう)したら、379照彦王(てるひこわう)様(さま)も面白(おもしろ)い奴(やつ)だと云(い)つて、380……苦(くる)しうない、381門番(もんばん)近(ちか)く参(まゐ)れ……とか何(なん)とか仰有(おつしや)つて、382お手(て)づから盃(さかづき)を下(くだ)され、383結構(けつこう)な御(ご)褒美(ほうび)に預(あづか)るやらも知(し)れたものだない。384サアサア、385酒(さけ)だ酒(さけ)だ、386酒(さけ)なくて何(なん)のおのれが門番(もんばん)かなだ。387アハヽヽヽヽ』
388と他愛(たあい)もなき無駄事(むだごと)を囀(さへづ)り乍(なが)ら、389バナナで作(つく)つた強烈(きつ)い酒(さけ)を、390五(ご)人(にん)の門番(もんばん)が胡坐座(あぐらざ)になつてガブリガブリと呑(の)み始(はじ)め、391ヘベレケになつて、392妙(めう)な手(て)つきをし乍(なが)ら、393踊(をど)りつ舞(ま)ひつ、394奥殿(おくでん)指(さ)して転(ころ)げ込(こ)んだ。
395(大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)
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