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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第28巻(卯の巻)
序歌
総説歌
第1篇 高砂の島
第1章 カールス王
第2章 無理槍
第3章 玉藻山
第4章 淡渓の流
第5章 難有迷惑
第6章 麻の紊れ
第2篇 暗黒の叫
第7章 無痛の腹
第8章 混乱戦
第9章 当推量
第10章 縺れ髪
第11章 木茄子
第12章 サワラの都
第3篇 光明の魁
第13章 唖の対面
第14章 二男三女
第15章 願望成就
第16章 盲亀の浮木
第17章 誠の告白
第18章 天下泰平
第4篇 南米探険
第19章 高島丸
第20章 鉈理屈
第21章 喰へぬ女
第22章 高砂上陸
跋(暗闇)
余白歌
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霊界物語
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第28巻(卯の巻)
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<<< 木茄子
(B)
(N)
唖の対面 >>>
第一二章 サワラの
都
(
みやこ
)
〔八一二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
篇:
第2篇 暗黒の叫
よみ(新仮名遣い):
あんこくのさけび
章:
第12章 サワラの都
よみ(新仮名遣い):
さわらのみやこ
通し章番号:
812
口述日:
1922(大正11)年08月08日(旧06月16日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年8月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
三人はサワラの都にたどり着いた。広い平原の中央に築かれた新都会である。サワラの都は広大な堀で四方をめぐらしている。三十万年前の都としては、かなり大きな街であった。
三人は夕方に門から街区に入り、城門の前で門番に声をかけた。門番は誰もすでに居眠りをしており、起こそうとする日楯に文句を言って寝てしまう。
そこへ表門が開かれ、中から立派な行列が現れた。行列の大将は三人に声をかけ、台湾島の真道彦の子息一行ではないか、と問うた。日楯は丁寧に挨拶を返した。男は自分は照彦王の側近でセルと名乗った。数日前に照子姫に竜世姫が神懸かり、三人の来島を告げたという。一行は、セルに続いて城内に入って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-11-26 18:51:08
OBC :
rm2812
愛善世界社版:
138頁
八幡書店版:
第5輯 404頁
修補版:
校定版:
142頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
玉藻
(
たまも
)
の
山
(
やま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
に
002
遠
(
とほ
)
き
神代
(
かみよ
)
の
昔
(
むかし
)
より
003
三五教
(
あななひけう
)
を
開
(
ひら
)
きたる
004
真道
(
まみち
)
の
彦
(
ひこ
)
の
末流
(
まつりう
)
と
005
世
(
よ
)
に
聞
(
きこ
)
えたる
真道彦
(
まみちひこ
)
006
泰安城
(
たいあんじやう
)
の
急変
(
きふへん
)
を
007
救
(
すく
)
はむ
為
(
ため
)
に
三五
(
あななひ
)
の
008
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
や
信徒
(
まめひと
)
を
009
集
(
あつ
)
めて
神軍
(
しんぐん
)
組織
(
そしき
)
なし
010
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
現
(
あら
)
はれて
011
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
る
敵
(
てき
)
を
打払
(
うちはら
)
ひ
012
遂
(
つひ
)
には
奇禍
(
きくわ
)
を
蒙
(
かうむ
)
りて
013
カールス
王
(
わう
)
に
疑
(
うたが
)
はれ
014
暗
(
くら
)
き
牢獄
(
ひとや
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まれ
015
逃
(
にげ
)
るる
由
(
よし
)
も
泣
(
な
)
く
許
(
ばか
)
り
016
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
も
諸共
(
もろとも
)
に
017
聞
(
き
)
くもいまはし
寃罪
(
ゑんざい
)
に
018
かかりて
暗
(
やみ
)
に
呻吟
(
しんぎん
)
し
019
苦
(
くる
)
しき
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
ります
020
其
(
その
)
惨状
(
さんじやう
)
を
救
(
すく
)
はむと
021
父
(
ちち
)
を
思
(
おも
)
ふの
真心
(
まごころ
)
に
022
日楯
(
ひたて
)
、
月鉾
(
つきほこ
)
両人
(
りやうにん
)
は
023
聖地
(
せいち
)
を
後
(
あと
)
にユリコ
姫
(
ひめ
)
024
夜
(
よる
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
蓑笠
(
みのかさ
)
の
025
軽
(
かる
)
き
姿
(
すがた
)
に
身
(
み
)
を
装
(
よそ
)
ひ
026
アーリス
山
(
ざん
)
の
頂
(
いただ
)
きに
027
息
(
いき
)
もせきせき
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
き
028
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
び
乍
(
なが
)
ら
029
片方
(
かたへ
)
の
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
をかけ
030
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
むる
折柄
(
をりから
)
に
031
泰嶺山
(
たいれいざん
)
の
聖地
(
せいち
)
より
032
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
月鉾
(
つきほこ
)
が
033
後
(
あと
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
追
(
お
)
ひ
来
(
きた
)
る
034
テーリン
姫
(
ひめ
)
の
執拗
(
しつえう
)
な
035
恋
(
こひ
)
の
縺
(
もつ
)
れの
糸
(
いと
)
をとき
036
言葉
(
ことば
)
を
尽
(
つく
)
して
聖場
(
せいぢやう
)
に
037
帰
(
かへ
)
らしめむと
思
(
おも
)
へども
038
恋
(
こひ
)
に
曇
(
くも
)
りしテーリンは
039
とけば
説
(
と
)
く
程
(
ほど
)
もつれ
来
(
く
)
る
040
時
(
とき
)
しもあれや
木
(
こ
)
かげより
041
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でし
人影
(
ひとかげ
)
に
042
一同
(
いちどう
)
驚
(
おどろ
)
き
見廻
(
みまは
)
せば
043
思
(
おも
)
ひ
掛
(
が
)
けなきマリヤス
姫
(
ひめ
)
の
044
珍
(
うづ
)
の
命
(
みこと
)
の
出現
(
しゆつげん
)
に
045
漸
(
やうや
)
く
急場
(
きふば
)
を
逃
(
のが
)
れ
出
(
い
)
で
046
日楯
(
ひたて
)
、
月鉾
(
つきほこ
)
、ユリコ
姫
(
ひめ
)
047
三人
(
みたり
)
の
司
(
つかさ
)
はやうやうに
048
ヤツと
蘇生
(
そせい
)
の
心地
(
ここち
)
して
049
アーリス
山
(
ざん
)
の
峰
(
みね
)
を
越
(
こ
)
え
050
須安
(
シユアン
)
の
山脈
(
さんみやく
)
打渡
(
うちわた
)
り
051
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
についで
漸々
(
やうやう
)
に
052
テルナの
里
(
さと
)
に
辿
(
たど
)
りつき
053
谷間
(
たにま
)
にまたたく
一
(
ひと
)
つ
火
(
び
)
を
054
目
(
め
)
あてに
進
(
すす
)
む
折柄
(
をりから
)
に
055
喉
(
のんど
)
は
渇
(
かわ
)
き
腹
(
はら
)
は
飢
(
う
)
ゑ
056
根気
(
こんき
)
も
尽
(
つ
)
きて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
057
とある
木蔭
(
こかげ
)
に
休
(
やす
)
らひつ
058
幽
(
かす
)
かに
漏
(
も
)
れ
来
(
く
)
る
人声
(
ひとごゑ
)
を
059
耳
(
みみ
)
をすまして
聞
(
き
)
き
居
(
を
)
れば
060
俄
(
にはか
)
に
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
谷
(
たに
)
の
風
(
かぜ
)
061
三人
(
みたり
)
の
頭
(
あたま
)
に
何物
(
なにもの
)
か
062
触
(
さわ
)
ると
見
(
み
)
れば
木茄子
(
きなすび
)
の
063
香
(
かを
)
りゆかしき
果物
(
くだもの
)
に
064
飛
(
と
)
びつく
計
(
ばか
)
り
喜
(
よろこ
)
びて
065
忽
(
たちま
)
ち
三人
(
みたり
)
は
木茄子
(
きなすび
)
を
066
一個
(
いつこ
)
も
残
(
のこ
)
らず
むし
り
取
(
と
)
り
067
腹
(
はら
)
をふくらせ
横
(
よこた
)
はり
068
いつしか
眠
(
ねむ
)
りにつきにける。
069
折
(
をり
)
も
折
(
をり
)
とてバラモンの
070
神
(
かみ
)
の
祭典
(
まつり
)
の
真最中
(
まつさいちう
)
071
四五
(
しご
)
の
土人
(
どじん
)
は
木茄子
(
きなすび
)
を
072
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
供
(
そな
)
へむと
073
冠
(
かむり
)
装束
(
しやうぞく
)
いかめしく
074
幣
(
ぬさ
)
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
075
素
(
もと
)
より
三人
(
みたり
)
は
白河
(
しらかは
)
の
076
夜船
(
よぶね
)
を
操
(
あやつ
)
る
真最中
(
まつさいちう
)
077
土人
(
どじん
)
は
忽
(
たちま
)
ち
木茄子
(
きなすび
)
の
078
一個
(
いつこ
)
も
残
(
のこ
)
らず
何者
(
なにもの
)
にか
079
盗
(
ぬす
)
まれたるに
肝
(
きも
)
潰
(
つぶ
)
し
080
明
(
あか
)
りに
照
(
てら
)
して
眺
(
なが
)
むれば
081
雷
(
らい
)
のやうなる
鼾声
(
いびきごゑ
)
082
驚
(
おどろ
)
き
直
(
ただち
)
に
此
(
この
)
由
(
よし
)
を
083
テルナの
里
(
さと
)
の
酋長
(
しうちやう
)
に
084
報告
(
はうこく
)
すればゼームスは
085
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず
駆来
(
かけきた
)
り
086
三人
(
みたり
)
の
男女
(
だんぢよ
)
に
打向
(
うちむか
)
ひ
087
団栗眼
(
どんぐりまなこ
)
を
怒
(
いか
)
らせて
088
『テルナの
里
(
さと
)
の
人々
(
ひとびと
)
が
089
生命
(
いのち
)
に
代
(
か
)
へて
守
(
まも
)
り
居
(
を
)
る
090
神
(
かみ
)
に
捧
(
ささ
)
ぐる
木茄子
(
きなすび
)
を
091
取
(
と
)
りて
食
(
くら
)
ひし
横道者
(
わうだうもの
)
092
汝
(
なんぢ
)
三人
(
みたり
)
の
生命
(
せいめい
)
を
093
奪
(
うば
)
ひて
神
(
かみ
)
の
贄
(
いけにへ
)
に
094
奉
(
たてまつ
)
らむ』と
居丈高
(
ゐたけだか
)
095
罵
(
ののし
)
りちらせばユリコ
姫
(
ひめ
)
096
酋長
(
しうちやう
)
の
前
(
まへ
)
に
手
(
て
)
をついて
097
『
長途
(
ちやうと
)
の
旅
(
たび
)
に
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
て
098
喉
(
のんど
)
は
渇
(
かわ
)
き
腹
(
はら
)
は
飢
(
う
)
ゑ
099
かかる
尊
(
たふと
)
き
果物
(
くだもの
)
と
100
知
(
し
)
らずに
取
(
と
)
つて
食
(
く
)
ひました
101
何卒
(
なにとぞ
)
深
(
ふか
)
き
此
(
この
)
罪
(
つみ
)
を
102
広
(
ひろ
)
き
心
(
こころ
)
に
見直
(
みなほ
)
して
103
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
赦
(
ゆる
)
し
給
(
たま
)
へかし』
104
願
(
ねが
)
へば
酋長
(
しうちやう
)
はユリコ
姫
(
ひめ
)
の
105
顔
(
かほ
)
打眺
(
うちなが
)
め
笑
(
わら
)
ひ
顔
(
がほ
)
106
『
汝
(
なんぢ
)
は
吾
(
わ
)
れの
要求
(
えうきう
)
を
107
容
(
い
)
れて
女房
(
にようばう
)
となるならば
108
汝
(
なんぢ
)
の
罪
(
つみ
)
を
赦
(
ゆる
)
すべし
109
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
は
如何
(
どう
)
しても
110
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
つて
神前
(
しんぜん
)
の
111
尊
(
たふと
)
き
犠牲
(
ぎせい
)
に
供
(
きよう
)
さねば
112
神
(
かみ
)
の
怒
(
いか
)
りを
如何
(
いか
)
にせむ
113
覚悟
(
かくご
)
せよや』と
睨
(
ね
)
めつける
114
ユリコの
姫
(
ひめ
)
はいろいろと
115
詞
(
ことば
)
を
尽
(
つく
)
し
身
(
み
)
を
尽
(
つく
)
し
116
口説
(
くど
)
き
立
(
た
)
つれば
酋長
(
しうちやう
)
は
117
漸
(
やうや
)
く
心
(
こころ
)
和
(
やは
)
らぎて
118
苦
(
くる
)
しき
荒行
(
あらぎやう
)
いろいろと
119
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
に
言
(
い
)
ひ
付
(
つ
)
けて
120
漸
(
やうや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
は
鳧
(
けり
)
がつき
121
大祭壇
(
だいさいだん
)
の
傍
(
かたはら
)
に
122
三人
(
みたり
)
の
男女
(
なんによ
)
を
伴
(
ともな
)
ひて
123
ユリコの
姫
(
ひめ
)
には
美
(
うる
)
はしき
124
衣服
(
いふく
)
を
与
(
あた
)
へ
二人
(
ふたり
)
には
125
『
猛火
(
まうくわ
)
の
中
(
なか
)
をくぐれよ』と
126
言葉
(
ことば
)
厳
(
きび
)
しく
下知
(
げち
)
すれば
127
日楯
(
ひたて
)
、
月鉾
(
つきほこ
)
両人
(
りやうにん
)
は
128
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
129
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
ひそびそと
130
小声
(
こごゑ
)
になりて
唱
(
とな
)
へつつ
131
猛火
(
まうくわ
)
の
中
(
なか
)
を
幾度
(
いくたび
)
も
132
いと
易々
(
やすやす
)
と
潜
(
くぐ
)
りぬけ
133
大祭壇
(
だいさいだん
)
の
其
(
その
)
前
(
まへ
)
に
134
火傷
(
やけど
)
もせずに
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
る
135
並
(
な
)
みゐる
人々
(
ひとびと
)
両人
(
りやうにん
)
が
136
其
(
その
)
神力
(
しんりき
)
に
驚
(
おどろ
)
きて
137
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せつ
138
舌
(
した
)
巻
(
ま
)
き
居
(
ゐ
)
たる
折柄
(
をりから
)
に
139
何処
(
いづこ
)
ともなく
大火光
(
だいくわくわう
)
140
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
忽
(
たちま
)
ち
落下
(
らくか
)
して
141
酋長
(
しうちやう
)
ゼームス
果敢
(
あへ
)
なくも
142
身
(
み
)
は
中空
(
ちうくう
)
に
飛
(
と
)
びあがり
143
行方
(
ゆくへ
)
も
知
(
し
)
らずなりにける。
144
並
(
な
)
み
居
(
ゐ
)
る
数多
(
あまた
)
の
里人
(
さとびと
)
は
145
此
(
この
)
爆発
(
ばくはつ
)
に
驚
(
おどろ
)
きて
146
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
147
逃
(
に
)
げ
遅
(
おく
)
れたる
人々
(
ひとびと
)
は
148
胆
(
きも
)
をば
潰
(
つぶ
)
し
腰
(
こし
)
抜
(
ぬ
)
かし
149
呻吟
(
うめ
)
き
苦
(
くるし
)
む
折柄
(
をりから
)
に
150
ユリコの
姫
(
ひめ
)
は
酋長
(
しうちやう
)
に
151
与
(
あた
)
へられたる
衣
(
きぬ
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
152
直
(
ただち
)
に
火中
(
くわちう
)
に
投
(
とう
)
ずれば
153
日楯
(
ひたて
)
、
月鉾
(
つきほこ
)
両人
(
りやうにん
)
は
154
ユリコの
姫
(
ひめ
)
の
右左
(
みぎひだり
)
155
立現
(
たちあら
)
はれて
宣伝歌
(
せんでんか
)
156
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
宣
(
の
)
りつれば
157
醜
(
しこ
)
の
曲霊
(
まがひ
)
は
何時
(
いつ
)
しかに
158
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せたるか
風
(
かぜ
)
清
(
きよ
)
く
159
何
(
なん
)
とはなしに
心地
(
ここち
)
よく
160
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
を
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
161
喜
(
よろこ
)
ぶ
折
(
をり
)
しもゼームスは
162
衣紋
(
ゑもん
)
を
整
(
ととの
)
へ
供人
(
ともびと
)
を
163
数多
(
あまた
)
引連
(
ひきつ
)
れ
珍
(
めづら
)
しき
164
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
を
器
(
うつは
)
に
盛
(
も
)
り
乍
(
なが
)
ら
165
三人
(
みたり
)
が
前
(
まへ
)
に
手
(
て
)
をついて
166
以前
(
いぜん
)
の
無礼
(
ぶれい
)
を
心
(
こころ
)
より
167
詫入
(
わびい
)
る
姿
(
すがた
)
の
殊勝
(
しゆしよう
)
さよ
168
茲
(
ここ
)
に
三人
(
みたり
)
は
三五
(
あななひ
)
の
169
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
細々
(
こまごま
)
と
170
ゼームス
始
(
はじ
)
め
里人
(
さとびと
)
に
171
伝
(
つた
)
へて
直
(
ただ
)
ちに
三五
(
あななひ
)
の
172
教
(
をしへ
)
の
柱
(
はしら
)
をつき
固
(
かた
)
め
173
酋長
(
しうちやう
)
始
(
はじ
)
め
数十
(
すうじふ
)
の
174
里人
(
さとびと
)
達
(
たち
)
に
送
(
おく
)
られて
175
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
に
継
(
つ
)
いで
高砂
(
たかさご
)
の
176
北
(
きた
)
の
端
(
はし
)
なるキールンの
177
漸
(
やうや
)
く
浜辺
(
はまべ
)
に
着
(
つ
)
きにけり
178
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
179
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
180
○
181
常世
(
とこよ
)
の
波
(
なみ
)
も
竜世姫
(
たつよひめ
)
182
高砂島
(
たかさごじま
)
の
胞衣
(
えな
)
として
183
神
(
かみ
)
の
造
(
つく
)
りし
台湾島
(
たいわんたう
)
184
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
も
豊
(
ゆたか
)
に
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
く
185
禽獣
(
きんじう
)
虫魚
(
ちうぎよ
)
も
生
(
お
)
ひたちて
186
天与
(
てんよ
)
の
楽土
(
らくど
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
187
台湾島
(
たいわんたう
)
の
中心地
(
ちうしんち
)
188
玉藻
(
たまも
)
の
山
(
やま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
を
189
三人
(
みたり
)
は
後
(
あと
)
に
立出
(
たちい
)
でて
190
艱難
(
かんなん
)
辛苦
(
しんく
)
を
嘗
(
な
)
め
乍
(
なが
)
ら
191
テルナの
里
(
さと
)
の
酋長
(
しうちやう
)
に
192
長
(
なが
)
き
道程
(
だうてい
)
を
守
(
まも
)
られて
193
キールの
港
(
みなと
)
に
安着
(
あんちやく
)
し
194
船
(
ふね
)
を
傭
(
やと
)
ひて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
195
波
(
なみ
)
のまにまに
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
しぬ
196
折柄
(
をりから
)
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
北風
(
きたかぜ
)
に
197
山
(
やま
)
なす
浪
(
なみ
)
は
容赦
(
ようしや
)
なく
198
三人
(
みたり
)
の
船
(
ふね
)
に
衝
(
つ
)
き
当
(
あた
)
る
199
ユリコの
姫
(
ひめ
)
は
船頭
(
せんとう
)
に
200
立
(
た
)
ちて
波
(
なみ
)
をば
静
(
しづ
)
めつつ
201
神
(
かみ
)
のまにまに
琉球
(
りうきう
)
の
202
八重山
(
やへやま
)
島
(
たう
)
を
指
(
さ
)
して
行
(
ゆ
)
く
203
やうやう
茲
(
ここ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
204
エルの
港
(
みなと
)
に
安着
(
あんちやく
)
し
205
岸辺
(
きしべ
)
に
船
(
ふね
)
をつなぎおき
206
声名
(
せいめい
)
轟
(
とどろ
)
く
照彦
(
てるひこ
)
の
207
千代
(
ちよ
)
の
住家
(
すみか
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
208
サワラの
都
(
みやこ
)
を
指
(
さ
)
して
行
(
ゆ
)
く。
209
サワラの
都
(
みやこ
)
に、
210
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
漸
(
やうや
)
く
辿
(
たど
)
りついた。
211
ここは
際限
(
さいげん
)
もなき
広原
(
くわうげん
)
の
中央
(
まんなか
)
に
築
(
きづ
)
かれたる
新都会
(
しんとくわい
)
にして、
212
白楊樹
(
はくやうじゆ
)
の
森
(
もり
)
四辺
(
しへん
)
を
包
(
つつ
)
み、
213
芭蕉
(
ばせう
)
の
林
(
はやし
)
は
所々
(
ところどころ
)
に
点綴
(
てんてつ
)
してゐる。
214
国人
(
くにびと
)
は
大抵
(
たいてい
)
、
215
芭蕉実
(
ばなな
)
、
216
苺
(
いちご
)
、
217
林檎
(
りんご
)
、
218
木茄子
(
きなすび
)
、
219
柿
(
かき
)
などを
常食
(
じやうしよく
)
とし、
220
或
(
あるひ
)
は
山
(
やま
)
の
芋
(
いも
)
、
221
淡水魚
(
たんすゐぎよ
)
などを
副食物
(
ふくしよくもつ
)
として
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けてゐる。
222
サワラの
都
(
みやこ
)
には、
223
広大
(
くわうだい
)
なる
堀
(
ほり
)
を
以
(
もつ
)
て
四方
(
しはう
)
を
囲
(
めぐ
)
らしてゐる。
224
其
(
その
)
巾
(
はば
)
殆
(
ほとん
)
ど
一丁
(
いつちやう
)
計
(
ばか
)
りの
広
(
ひろ
)
さである。
225
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぼく
)
に
堅固
(
けんご
)
なる
橋梁
(
けうりやう
)
を
渡
(
わた
)
し、
226
稍
(
やや
)
北方
(
ほくぱう
)
にサワラの
高峰
(
かうはう
)
、
227
雲表
(
うんぺう
)
に
聳
(
そび
)
え、
228
四神
(
しじん
)
相応
(
さうおう
)
の
聖地
(
せいち
)
と
称
(
しよう
)
せられてゐる。
229
城内
(
じやうない
)
には
数百
(
すうひやく
)
の
人家
(
じんか
)
立並
(
たちなら
)
び、
230
今
(
いま
)
より
三十万
(
さんじふまん
)
年前
(
ねんぜん
)
の
都会
(
とくわい
)
としては、
231
最
(
もつと
)
も
大
(
だい
)
なるものと
称
(
しよう
)
されて
居
(
ゐ
)
た。
232
サワラの
城
(
しろ
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
其
(
その
)
中心
(
ちうしん
)
に
宏大
(
くわうだい
)
なる
地域
(
ちゐき
)
を
構
(
かま
)
へ、
233
石造
(
せきざう
)
の
館
(
やかた
)
高
(
たか
)
く
老樹
(
らうじゆ
)
の
上
(
うへ
)
にぬき
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
る。
234
城内
(
じやうない
)
には
畑
(
はたけ
)
もあれば、
235
川
(
かは
)
もあり、
236
沼
(
ぬま
)
もあり、
237
何一
(
なにひと
)
つ
不自由
(
ふじゆう
)
なき
様
(
やう
)
に
作
(
つく
)
られてゐた。
238
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
東
(
ひがし
)
の
門
(
もん
)
より
橋
(
はし
)
を
渡
(
わた
)
つて、
239
門内
(
もんない
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
つた。
240
黄
(
くわう
)
紅
(
こう
)
白
(
はく
)
紫
(
し
)
紺
(
こん
)
いろいろの
花
(
はな
)
は
木
(
き
)
の
枝
(
えだ
)
に、
241
草
(
くさ
)
の
先
(
さき
)
に、
242
爛漫
(
らんまん
)
と
咲
(
さ
)
き
乱
(
みだ
)
れてゐる。
243
又
(
また
)
道
(
みち
)
の
両側
(
りやうがは
)
には
百日紅
(
さるすべり
)
や
日和花
(
ひよりばな
)
の
類
(
たぐひ
)
密生
(
みつせい
)
し、
244
白
(
しろ
)
き
砂
(
すな
)
は
日光
(
につくわう
)
に
輝
(
かがや
)
き、
245
台湾島
(
たいわんたう
)
の
日月潭
(
じつげつたん
)
に
比
(
ひ
)
して、
246
幾層倍
(
いくそうばい
)
とも
知
(
し
)
れぬ
気分
(
きぶん
)
のよき
土地
(
とち
)
である。
247
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
何
(
なん
)
となく
恥
(
はづか
)
しき
様
(
やう
)
な、
248
おめる
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
にて、
249
小声
(
こごゑ
)
に
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
250
照彦
(
てるひこ
)
が
千代
(
ちよ
)
の
住家
(
すみか
)
と
定
(
さだ
)
めたる
城門
(
じやうもん
)
の
前
(
まへ
)
に
漸
(
やうや
)
くにして
歩
(
ほ
)
を
運
(
はこ
)
んだ。
251
四五
(
しご
)
の
門番
(
もんばん
)
は
頬杖
(
ほほづゑ
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
252
何
(
いづ
)
れも
睡魔
(
すゐま
)
に
襲
(
おそ
)
はれて、
253
コクリコクリと
居睡
(
いねむ
)
つてゐる
其
(
その
)
長閑
(
のどか
)
さ、
254
天国
(
てんごく
)
の
門番
(
もんばん
)
も
斯
(
か
)
くやと
思
(
おも
)
ふ
計
(
ばか
)
りの
気楽
(
きらく
)
さを
現
(
あら
)
はし
居
(
ゐ
)
る。
255
日楯
(
ひたて
)
は
門番
(
もんばん
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
256
日楯
(
ひたて
)
『
頼
(
たの
)
みます
頼
(
たの
)
みます』
257
と
声
(
こゑ
)
をかけた。
258
門番
(
もんばん
)
の
一
(
いち
)
、
259
ねむた
目
(
め
)
をこすり
乍
(
なが
)
ら、
260
門番
(
もんばん
)
ノ
一
(
いち
)
『アヽ
此
(
この
)
真夜中
(
まよなか
)
に
誰
(
たれ
)
か
知
(
し
)
らぬが、
261
人
(
ひと
)
を
起
(
おこ
)
しやがつて、
262
ねむたいワイ。
263
此
(
この
)
門
(
もん
)
は
暮
(
くれ
)
六
(
む
)
つから
明
(
あ
)
け
六
(
む
)
つ
迄
(
まで
)
は
開
(
あ
)
ける
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
264
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けたら、
265
誰
(
たれ
)
か
知
(
し
)
らぬが
行
(
や
)
つて
来
(
こ
)
い。
266
キツと
開
(
あ
)
けて
通
(
とほ
)
してやる、
267
ムニヤ ムニヤ ムニヤ……』
268
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
又
(
また
)
ゴロンと
横
(
よこ
)
になる。
269
月鉾
(
つきほこ
)
『モシモシ
門番
(
もんばん
)
様
(
さま
)
、
270
まだ
日中
(
につちう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
271
暮
(
くれ
)
六
(
む
)
つ
迄
(
まで
)
には
余程
(
よほど
)
間
(
ま
)
も
御座
(
ござ
)
いますから、
272
どうぞ
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まして、
273
此
(
この
)
門
(
もん
)
をお
開
(
あ
)
け
下
(
くだ
)
さいませ』
274
門番
(
もんばん
)
ノ
二
(
に
)
『お
前
(
まへ
)
は
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けとるか
知
(
し
)
らぬが、
275
俺
(
おれ
)
の
目
(
め
)
ではそこら
中
(
ぢう
)
が
真暗
(
まつくら
)
がりだ。
276
暗
(
くら
)
い
時
(
とき
)
は
夜分
(
やぶん
)
にきまつて
居
(
ゐ
)
る。
277
アタねむたい、
278
喧
(
やかま
)
しう
言
(
い
)
はずにトツトと
出直
(
でなほ
)
して
来
(
こ
)
い』
279
月鉾
(
つきほこ
)
『アハヽヽヽ、
280
あなた
目
(
め
)
をおあけなさい。
281
さう
目蓋
(
まぶた
)
を
固
(
かた
)
く
密着
(
みつちやく
)
させてゐては、
282
昼
(
ひる
)
でもヤツパリ
暗
(
くら
)
く
見
(
み
)
えますぞ』
283
門番
(
もんばん
)
ノ
二
(
に
)
『
喧
(
やかま
)
しう
言
(
い
)
ふない。
284
暗
(
くら
)
く
も
何
(
なに
)
もあつたものかい。
285
苦楽
(
くらく
)
一如
(
いちによ
)
だ。
286
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
寝
(
ね
)
る
程
(
ほど
)
楽
(
らく
)
はなきものを、
287
起
(
おき
)
てガヤガヤ
騒
(
さわ
)
ぐ
馬鹿
(
ばか
)
のたわけ。
288
おれはまだ
夜中
(
よなか
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
るのだ。
289
おれの
目
(
め
)
の
引明
(
ひきあ
)
けに
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い。
290
そしたら、
291
あけてやらぬ
事
(
こと
)
もないワイ』
292
とダル
相
(
さう
)
な
声
(
こゑ
)
でブツブツ
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
293
又
(
また
)
横
(
よこ
)
にゴロンとなる。
294
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はもどかしがり、
295
稍
(
やや
)
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
佇
(
たたず
)
んで
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
しも、
296
表門
(
おもてもん
)
はサラリと
左右
(
さいう
)
に
開
(
ひら
)
かれ、
297
中
(
なか
)
より
立派
(
りつぱ
)
なる
男女
(
だんぢよ
)
幾十
(
いくじふ
)
人
(
にん
)
となく
行列
(
ぎやうれつ
)
を
作
(
つく
)
り、
298
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
恭
(
うやうや
)
しく
手
(
て
)
をつき
乍
(
なが
)
ら
大将
(
たいしやう
)
らしき
一人
(
ひとり
)
は、
299
一人の男(セル)
『エヽあなたは
台湾島
(
たいわんたう
)
の
玉藻山
(
たまもやま
)
の
霊場
(
れいぢやう
)
にまします、
300
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
子息
(
しそく
)
様
(
さま
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
301
日楯
(
ひたて
)
丁寧
(
ていねい
)
に
礼
(
れい
)
を
返
(
かへ
)
し、
302
日楯
『ハイ
御
(
お
)
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り、
303
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
の
伜
(
せがれ
)
、
304
日楯
(
ひたて
)
、
305
月鉾
(
つきほこ
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
、
306
これなる
女
(
をんな
)
は
私
(
わたし
)
の
妻
(
つま
)
ユリコ
姫
(
ひめ
)
と
申
(
まを
)
します。
307
竜世姫
(
たつよひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神勅
(
しんちよく
)
に
依
(
よ
)
り、
308
当国
(
たうこく
)
の
城主
(
じやうしゆ
)
照彦
(
てるひこ
)
様
(
さま
)
、
309
照子姫
(
てるこひめ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
の
筋
(
すぢ
)
ありて、
310
大海原
(
おほうなばら
)
を
渡
(
わた
)
り、
311
漸
(
やうや
)
くこれへ
参
(
まゐ
)
つた
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います』
312
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
(セル)
『
私
(
わたし
)
はセルと
申
(
まを
)
して、
313
照彦王
(
てるひこわう
)
の
御
(
お
)
側
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
仕
(
つか
)
ふる
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
314
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
より、
315
照子姫
(
てるこひめ
)
様
(
さま
)
に
高砂島
(
たかさごじま
)
の
竜世姫
(
たつよひめの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
御
(
お
)
神懸
(
かむがか
)
り
遊
(
あそ
)
ばし、
316
あなた
方
(
がた
)
御
(
ご
)
三人
(
さんにん
)
様
(
さま
)
がここへ
御
(
お
)
越
(
こ
)
しになるから、
317
出迎
(
でむか
)
ひに
出
(
で
)
よとのお
告
(
つげ
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
318
それ
故
(
ゆゑ
)
今日
(
けふ
)
はお
越
(
こ
)
しの
日
(
ひ
)
と
早朝
(
さうてう
)
よりいろいろと、
319
あなた
方
(
がた
)
の
歓迎
(
くわんげい
)
の
用意
(
ようい
)
を
致
(
いた
)
し、
320
照彦
(
てるひこ
)
様
(
さま
)
、
321
照子姫
(
てるこひめ
)
様
(
さま
)
、
322
奥
(
おく
)
にお
待
(
まち
)
で
御座
(
ござ
)
います。
323
サア
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
しますから、
324
早
(
はや
)
くお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
325
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
一度
(
いちど
)
に
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げ、
326
三人
『
有難
(
ありがた
)
う』
327
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らセルの
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
328
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
329
門番
(
もんばん
)
は
漸
(
やうや
)
く
目
(
め
)
を
醒
(
さま
)
し、
330
甲
(
かふ
)
『オイ、
331
ベース、
332
チヤール、
333
起
(
お
)
きぬか
起
(
お
)
きぬか、
334
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
たぞ。
335
お
側役
(
そばやく
)
のセル
様
(
さま
)
が
沢山
(
たくさん
)
の
御
(
ご
)
近侍
(
きんじ
)
の
方々
(
かたがた
)
と
共
(
とも
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のお
客
(
きやく
)
さまをお
迎
(
むか
)
へ
遊
(
あそ
)
ばして、
336
奥
(
おく
)
へお
這入
(
はい
)
りになつた。
337
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
はなまくらを
構
(
かま
)
へて、
338
寝真似
(
ねまね
)
をし、
339
糟
(
かす
)
に
酔
(
よ
)
うた
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
をぬかしてをつたが、
340
たつた
今
(
いま
)
ドテライお
目玉
(
めだま
)
だぞ。
341
サア
早
(
はや
)
く
何
(
なん
)
とか、
342
言訳
(
いひわけ
)
を
拵
(
こしら
)
へて、
343
セル
様
(
さま
)
へお
断
(
ことわ
)
りに
行
(
ゆ
)
かねば、
344
足袋屋
(
たびや
)
の
看板
(
かんばん
)
だ。
345
サツパリ
足
(
あし
)
あがりになつて
了
(
しま
)
ふぞよ』
346
エル『バカを
言
(
い
)
ふな、
347
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
寝真似
(
ねまね
)
をして
居
(
を
)
つたのを
知
(
し
)
つてゐた
以上
(
いじやう
)
は、
348
貴様
(
きさま
)
もチヨボチヨボだ。
349
俺
(
おれ
)
が
足
(
あし
)
があがる
位
(
くらゐ
)
なら、
350
貴様
(
きさま
)
は
頭
(
かしら
)
だから、
351
キツト
首
(
くび
)
が
飛
(
と
)
ぶぞよ。
352
貴様
(
きさま
)
は
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
組頭
(
くみがしら
)
だからお
詫
(
わび
)
に
往
(
い
)
つて
来
(
く
)
るがよからう。
353
俺
(
おれ
)
や、
354
こんな
門番
(
もんばん
)
なんか、
355
何時
(
なんどき
)
足
(
あし
)
があがつても
構
(
かま
)
やしないのだ。
356
常世城
(
とこよじやう
)
の
門番
(
もんばん
)
を
見
(
み
)
い、
357
失敗
(
しつぱい
)
して
王
(
わう
)
様
(
さま
)
のお
側附
(
そばつき
)
になつたぢやないか。
358
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
門番
(
もんばん
)
を
厳重
(
げんぢゆう
)
に
勤
(
つと
)
めて
居
(
を
)
つたら、
359
彼奴
(
あいつ
)
は
門番
(
もんばん
)
に
適当
(
てきたう
)
な
奴
(
やつ
)
だと、
360
セルの
大将
(
たいしやう
)
に
見込
(
みこ
)
まれたが
最後
(
さいご
)
、
361
金槌
(
かなづち
)
の
川流
(
かはなが
)
れ、
362
一生
(
いつしやう
)
頭
(
あたま
)
の
上
(
あが
)
る
事
(
こと
)
はないぞよ。
363
それより
日中
(
につちう
)
にグウグウと
寝
(
ね
)
てる
方
(
はう
)
が、
364
何時
(
いつ
)
栄達
(
ゑいたつ
)
の
途
(
みち
)
が
開
(
ひら
)
けるか
知
(
し
)
れないぞ。
365
大体
(
だいたい
)
こんな
智者
(
ちしや
)
学者
(
がくしや
)
を
門番
(
もんばん
)
にさしておくのが
見当
(
けんたう
)
違
(
ちが
)
ひだ。
366
マア
見
(
み
)
て
居
(
を
)
れ、
367
明日
(
あす
)
になつたら、
368
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
は
門番
(
もんばん
)
に
不適当
(
ふてきたう
)
だから、
369
奥勤
(
おくづと
)
めに
使
(
つか
)
つてやらうとの
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
が
下
(
くだ
)
るに
違
(
ちがひ
)
ない。
370
余
(
あま
)
り
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
をするものでない。
371
マア
刹那心
(
せつなしん
)
を
楽
(
たのし
)
むのだなア。
372
待
(
ま
)
てば
海路
(
かいろ
)
の
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くとやら、
373
何事
(
なにごと
)
も
運
(
うん
)
は
天
(
てん
)
にありだ。
374
そんな
事
(
こと
)
に
心配
(
しんぱい
)
するよりも、
375
酒
(
さけ
)
でも
呑
(
の
)
み、
376
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
騒
(
さわ
)
ぎ、
377
ステテコでも
踊
(
をど
)
つて、
378
今度
(
こんど
)
のお
客様
(
きやくさま
)
のお
慰
(
なぐさ
)
みに
供
(
きよう
)
したら、
379
照彦王
(
てるひこわう
)
様
(
さま
)
も
面白
(
おもしろ
)
い
奴
(
やつ
)
だと
云
(
い
)
つて、
380
……
苦
(
くる
)
しうない、
381
門番
(
もんばん
)
近
(
ちか
)
く
参
(
まゐ
)
れ……とか
何
(
なん
)
とか
仰有
(
おつしや
)
つて、
382
お
手
(
て
)
づから
盃
(
さかづき
)
を
下
(
くだ
)
され、
383
結構
(
けつこう
)
な
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
に
預
(
あづか
)
るやらも
知
(
し
)
れたものだない。
384
サアサア、
385
酒
(
さけ
)
だ
酒
(
さけ
)
だ、
386
酒
(
さけ
)
なくて
何
(
なん
)
のおのれが
門番
(
もんばん
)
かなだ。
387
アハヽヽヽヽ』
388
と
他愛
(
たあい
)
もなき
無駄事
(
むだごと
)
を
囀
(
さへづ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
389
バナナで
作
(
つく
)
つた
強烈
(
きつ
)
い
酒
(
さけ
)
を、
390
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
門番
(
もんばん
)
が
胡坐座
(
あぐらざ
)
になつてガブリガブリと
呑
(
の
)
み
始
(
はじ
)
め、
391
ヘベレケになつて、
392
妙
(
めう
)
な
手
(
て
)
つきをし
乍
(
なが
)
ら、
393
踊
(
をど
)
りつ
舞
(
ま
)
ひつ、
394
奥殿
(
おくでん
)
指
(
さ
)
して
転
(
ころ
)
げ
込
(
こ
)
んだ。
395
(
大正一一・八・八
旧六・一六
松村真澄
録)
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