霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 玉藻山(たまもやま)〔八〇三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻 篇:第1篇 高砂の島 よみ(新仮名遣い):たかさごのしま
章:第3章 玉藻山 よみ(新仮名遣い):たまもやま 通し章番号:803
口述日:1922(大正11)年08月06日(旧06月14日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年8月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
真道彦命は、国治立大神の御代より台湾島に鎮まり、子孫はみな真道彦の名を名乗り、新高山の北方に居を定めていた。しかしアークス王は島に漂着したバラモン教に帰依したため、真道彦一派は、アークス王の権力が及ばない、新高山の南方に移って教勢を維持していた。
真道彦は新高山の東南にある高原地・日月潭に居を構えた。サアルボース兄弟は、この地を征服しようと何度も兵を送っていた。
あるとき、ホーロケースは三五教の巡礼に化けて聖地に入り込み、日月潭の玉藻山の聖地に押し寄せた。真道彦は、息子の日楯・月鉾とともに防戦に当たった。
ホーロケースの勢いすさまじく、その剣は真道彦の胸を貫いたと見えた。真道彦は突き倒され、その体から白煙が上がり、女神の姿となって雲の彼方に姿を隠してしまった。
真道彦の軍は敗れて散り散りとなり、玉藻山はホーロケースに占領されてしまった。日楯と月鉾は日月潭の竜の島にのがれ、島山の頂上の岩窟に身を隠した。二人は岩窟の奥へ進んで行くと、日月潭を見渡せる断崖に着いた。
そこから見える玉藻山は、すでにホーロケースに占領されてしまっている。兄弟はもやはこれまでと、この断崖から大神に祈願を籠めて飛び降り、生きていたなら再びバラモン教を打ち負かすことができるだろうと言って、決行しようとした。
すると傍らの木のかげから宣伝歌が聞こえてきた。宣伝歌の主は、言依別命と国依別であると名乗り、兄弟に玉藻山を取り戻す神宝を授けようと歌った。
兄弟は夢かとばかり驚いて平身低頭したが、二人が面を上げると、不思議にも二人の宣伝使の姿はなかった。これより兄弟は勇気百倍し、再び玉藻山に向かって言霊戦を開始しようと、七日七夜の禊を修し、言霊の練習に全力を尽くした。
マリヤス姫は、玉藻山の聖地に逃げていたが、ホーロケースの襲来により、捕われてしまった。ホーロケースは玉藻山を占領して我が物顔に振舞っていたが、マリヤス姫を幽閉し、自分の妻となるよう迫っていた。
マリヤス姫がホーロケースの横恋慕に苦しんで述懐の歌を歌っていると、俄かに館内騒がしく、バラモン軍たちが慌しく逃げ出した。ホーロケースは慌ててやってくると、変事が突発したと言って、マリヤス姫を連れ出そうとした。
そこへ琉球の玉の威徳によって五色の霊光を放射しながら、日楯・月鉾が入ってきた。ホーロケースは太刀打ちできず、数多の部下とともに逃げて行った。
玉藻山の聖地は再び三五教に戻り、広大な神殿が造営された。日楯・月鉾の名声は近隣にとどろいた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-11-12 19:01:58 文字数:4628 OBC :rm2803
愛善世界社版:37頁 八幡書店版:第5輯 366頁 修補版: 校定版:38頁 普及版:17頁 初版: ページ備考:
001 真道彦(まみちひこの)命(みこと)は国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)の時代(じだい)より、002此(この)島(しま)に鎮(しづ)まり、003子孫(しそん)皆(みな)真道彦(まみちひこ)の名(な)を継(つ)いで、004新高山(にひたかやま)の北方(ほくぱう)に、005聖場(せいぢやう)を定(さだ)め、006三五(あななひ)の道(みち)を全島(ぜんたう)に拡充(くわくじゆう)し、007神国(みくに)魂(だましひ)の根源(こんげん)を培(つちか)ひつつあつた。008然(しか)るにバラモン教(けう)の一派(いつぱ)此(この)島(しま)に漂着(へうちやく)してより、009花森彦(はなもりひこの)命(みこと)の子孫(しそん)なるアークス王(わう)は、010三五(あななひ)の教(をしへ)を棄(す)ててバラモン教(けう)に帰順(きじゆん)せしため、011住民(ぢうみん)は上下(じやうか)の区別(くべつ)なく、012残(のこ)らずバラモンの教(をしへ)に帰順(きじゆん)して了(しま)つた。013されど新高山(にひたかやま)の以北(いほく)にのみアークス王(わう)の権力(けんりよく)も、014バラモンの教権(けうけん)も行(おこな)はれて居(ゐ)たのみで、015新高山(にひたかやま)以南(いなん)は少(すこ)しも勢力(せいりよく)が及(およ)ばなかつた。
016 真道彦(まみちひこ)は遠(とほ)く新高山(にひたかやま)を越(こ)えて、017東南方(とうなんぱう)に当(あた)る高原地(かうげんち)日月潭(じつげつたん)に居(きよ)を構(かま)へ、018東南西(とうなんせい)の地(ち)を教化(けうくわ)しつつありき。019然(しか)るにアークス王(わう)の宰相(さいしやう)たるサアルボース兄弟(きやうだい)は、020此(この)地点(ちてん)をも占領(せんりやう)し第二(だいに)の王国(わうこく)を建(た)てんと、021時々(ときどき)兵(へい)を引連(ひきつ)れ、022玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)に向(むか)つて攻(せ)めよせた。023されど竜世姫(たつよひめ)の永久(とことは)に鎮(しづ)まり玉(たま)ふ大湖水(だいこすゐ)を南(みなみ)へ越(こ)ゆることは容易(ようい)に出来(でき)なかつた。
024 或(ある)時(とき)ホーロケースはバラモンの信徒(しんと)を数多(あまた)引連(ひきつ)れ、025三五教(あななひけう)の巡礼(じゆんれい)に身(み)をやつし、026玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)に、027雲霞(うんか)の如(ごと)く押寄(おしよ)せ、028隙(すき)を覗(うかが)つて真道彦(まみちひこの)命(みこと)を生擒(せいきん)し、029一挙(いつきよ)に全島(ぜんたう)を占領(せんりやう)せむと試(こころ)みつつあつた。030真道彦(まみちひこの)命(みこと)はホーロケースの悪竦(あくらつ)なる計画(けいくわく)を前知(ぜんち)し、031数多(あまた)の信徒(しんと)を駆(か)り集(あつ)め、032言霊戦(ことたません)を以(もつ)て、033之(こ)れに向(むか)ふこととなし、034玉藻山(たまもやま)の山頂(さんちやう)に、035祭壇(さいだん)を新(あらた)に設(まう)けて、036寄(よ)せ来(く)る敵(てき)に向(むか)つて、037言霊線(ことたません)を発射(はつしや)しつつあつた。038され共(ども)、039バラモン教(けう)のホーロケースは少(すこ)しも屈(くつ)せず、040獅子(しし)奮迅(ふんじん)の勢(いきほひ)を以(もつ)て各(おのおの)隠(かく)し持(も)つたる兇器(きようき)を振(ふ)り翳(かざ)し、041鬨(とき)を作(つく)つて一挙(いつきよ)に亡(ほろ)ぼさむと斬(き)り込(こ)んで来(き)た。
042 真道彦(まみちひこ)の子(こ)に日楯(ひたて)、043月鉾(つきほこ)と云(い)ふ二人(ふたり)の信神(しんじん)堅固(けんご)なる屈強(くつきやう)盛(ざか)りの二児(にじ)があつた。044父(ちち)真道彦(まみちひこ)はホーロケースに向(むか)つて、045言霊(ことたま)を奏上(そうじやう)するや、046ホーロケースは怒(いか)つて、047真道彦(まみちひこ)の胸板(むないた)を長剣(ちやうけん)を以(もつ)て突(つ)き刺(さ)し、048此(この)場(ば)に打殪(うちたふ)し、049凱歌(がいか)を奏(そう)し、050其(その)勢(いきほひ)天地(てんち)も震(ふる)ふ計(ばか)りであつた。051突刺(つきさ)されて其(その)場(ば)に倒(たふ)れた真道彦(まみちひこ)の身体(しんたい)より白烟(はくえん)忽(たちま)ち濛々(もうもう)として立(たち)あがり、052美(うる)はしき女神(めがみ)となつて、053雲(くも)の彼方(かなた)に姿(すがた)を隠(かく)した。
054 日楯(ひたて)、055月鉾(つきほこ)の兄弟(きやうだい)は父(ちち)真道彦(まみちひこ)の行方(ゆくへ)不明(ふめい)となりしを歎(なげ)き、056如何(いか)にもして、057ホーロケースの一族(いちぞく)を亡(ほろ)ぼし、058父(ちち)の仇(あだ)を報(はう)じ、059三五教(あななひけう)の教(をしへ)を再(ふたた)び樹立(じゆりつ)せむと苦心(くしん)の結果(けつくわ)、060湖中(こちう)に泛(うか)べる竜(たつ)の島(しま)に夜(よる)秘(ひそ)かに漕(こ)ぎつけ、061祈願(きぐわん)をこらして居(ゐ)た。062此(この)時(とき)既(すで)に玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)は、063ホーロケースの占領(せんりやう)する所(ところ)となつて居(ゐ)た。064真道彦(まみちひこ)の部下(ぶか)は四方(しはう)に散乱(さんらん)して、065其(その)影(かげ)さへも止(とど)めなかつた。
066 竜(たつ)の島(しま)は樹木(じゆもく)鬱蒼(うつさう)として、067湖水(こすゐ)の中心(ちうしん)に浮(うか)び、068周囲(しうゐ)殆(ほとん)ど一(いち)里(り)計(ばか)りもある霊島(れいたう)であつた。069二人(ふたり)は島山(しまやま)の頂上(ちやうじやう)目蒐(めが)けて登(のぼ)り行(ゆ)く。070此処(ここ)に高大(かうだい)なる巨岩(きよがん)壁(かべ)の如(ごと)く立並(たちなら)び、071中央(ちうあう)に人(ひと)の入(はい)れる計(ばか)りの岩穴(いはあな)が開(あ)いて居(ゐ)た。072兄弟(きやうだい)は其(その)岩窟(がんくつ)に思(おも)はず足(あし)を向(む)けた。073炎熱(えんねつ)焼(や)くが如(ごと)き夏(なつ)の空(そら)に得(え)も言(い)はれぬ涼(すず)しき香(かん)ばしき風(かぜ)、074坑内(かうない)より頻(しき)りに吹(ふ)き来(きた)る。075二人(ふたり)は何(なん)となく此(この)窟内(くつない)を探険(たんけん)したき心持(こころもち)となつて、076思(おも)はず知(し)らず四五丁(しごちやう)計(ばか)り奥(おく)へ進(すす)んで行(い)つた。
077 俄(にはか)に強烈(きやうれつ)なる光線(くわうせん)何処(いづこ)よりかさし来(き)たる。078振(ふり)かへり見(み)れば、079最早(もはや)岩窟(がんくつ)の終点(しうてん)と見(み)えて、080両方(りやうはう)に円(まる)き天然(てんねん)の穴(あな)が穿(うが)たれ、081そこより太陽(たいやう)の光線(くわうせん)が直射(ちよくしや)してゐた。082あたりを見(み)れば、083階段(かいだん)の如(ごと)きもの自然(しぜん)にきざまれてゐる。084日楯(ひたて)、085月鉾(つきほこ)の二人(ふたり)は、086此(この)階段(かいだん)を登(のぼ)り詰(つ)め、087前方(ぜんぱう)を遥(はる)かに見渡(みわた)せば、088紺碧(こんぺき)の波(なみ)を湛(たた)へた玉藻(たまも)の湖水(こすい)、089小(ちい)さき島影(しまかげ)は彼方(あなた)此方(こなた)に浮(うか)み、090白(しろ)き翼(つばさ)を拡(ひろ)げたる数多(あまた)の水鳥(みづどり)は前後(ぜんご)左右(さいう)に飛(と)び交(か)ふ様(さま)、091実(じつ)に美(うる)はしく、092二人(ふたり)は此(この)光景(くわうけい)に見惚(みと)れて居(ゐ)た。093遠(とほ)く目(め)を東南(とうなん)に注(そそ)げば、094玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)は以前(いぜん)の儘(まま)なれど、095ホーロケースが襲来(しふらい)せしより、096バラモン教(けう)の拠(よ)る所(ところ)となり、097何(なん)となく恨(うら)めしき心地(ここち)せられて、098稍(やや)今昔(こんじやく)の念(ねん)に沈(しづ)み居(ゐ)たり。
099日楯(ひたて)『オイ弟(おとうと)、100斯(かく)の如(ごと)き聖場(せいぢやう)を敵(てき)に蹂躙(じうりん)され、101父上(ちちうへ)は行方(ゆくへ)不明(ふめい)とならせ玉(たま)ひ、102吾々(われわれ)兄弟(きやうだい)は身(み)の置所(おきどころ)なく、103漸(やうや)くにして此(この)竜(たつ)の島(しま)に逃(に)げ来(きた)りしものの、104未(いま)だ安心(あんしん)する所(ところ)へは往(ゆ)かない。105罷(まか)り違(ちが)へばバラモン教(けう)の奴原(やつばら)、106此(この)島(しま)迄(まで)吾(われ)等(ら)が後(あと)を追跡(つゐせき)し来(きた)るやも計(はか)られ難(がた)し、107吾(われ)等(ら)兄弟(きやうだい)は今(いま)此処(ここ)に於(おい)て、108三五教(あななひけう)の大神(おほかみ)に祈願(きぐわん)をこらし、109運(うん)を一(いち)時(じ)に決(けつ)せば如何(いか)に。110見下(みおろ)せば千丈(せんぢやう)の断崖(だんがい)絶壁(ぜつぺき)、111神(かみ)に祈願(きぐわん)をこめ、112此(この)青淵(あをぶち)に飛(と)び込(こ)み、113生死(せいし)の程(ほど)を試(ため)し見(み)む。114万一(まんいち)吾(われ)等(ら)両人(りやうにん)生命(いのち)を取(と)り止(と)めなば、115再(ふたた)び三五教(あななひけう)は元(もと)の如(ごと)く勢力(せいりよく)も盛返(もりかへ)し、116バラモン教(けう)の一派(いつぱ)を新高山(にひたかやま)の北方(ほつぱう)に追返(おひかへ)し得(え)む。117月鉾(つきほこ)、118汝(なんぢ)如何(いか)に思(おも)ふや』
119と決心(けつしん)の色(いろ)を顕(あら)はして話(はな)しかけた。
120月鉾(つきほこ)『兄上(あにうへ)の仰(あふ)せの如(ごと)く、121これより天地(てんち)神明(しんめい)に祈願(きぐわん)をこめ、122此(この)断崖(だんがい)より湖中(こちう)に飛(と)び込(こ)み、123神慮(しんりよ)を伺(うかが)ひ見(み)む』
124と同意(どうい)を表(へう)し、125二人(ふたり)は天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、126此(この)世(よ)の名残(なごり)と天(あま)の数歌(かずうた)を数回(すうくわい)繰返(くりかへ)し唱(とな)へて居(ゐ)た。127傍(かたはら)の密樹(みつじゆ)の蔭(かげ)より、
128(言依別命、国依別)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
129善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわけ)る
130此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
131心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
132只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
133直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞直(ききなほ)せ
134身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)せ
135三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
136言依別(ことよりわけ)や国依別(くによりわけ)の
137神(かみ)の司(つかさ)は此処(ここ)に在(あ)り
138国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)の
139教(をしへ)を伝(つた)ふる真道彦(まみちひこ)
140脆(もろ)くも敵(てき)に聖地(せいち)を追(お)はれ
141玉藻(たまも)の山(やま)を後(あと)にして
142雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ去(さ)りぬ
143後(あと)に残(のこ)りし兄弟(きやうだい)は
144力(ちから)と頼(たの)む父(ちち)には別(わか)れ
145教(をしへ)の御子(みこ)には見棄(みす)てられ
146寄辺渚(よるべなぎさ)の捨小船(すてをぶね)
147泣(な)く泣(な)く聖地(せいち)を立出(たちい)でて
148ここに荒波(あらなみ)竜(たつ)の島(しま)
149涙(なみだ)の雨(あめ)に濡(ぬ)れ乍(なが)ら
150此(この)岩窟(いはやど)に尋(たづ)ね来(き)て
151玉藻(たまも)の湖面(こめん)を打眺(うちなが)め
152感慨(かんがい)無量(むりやう)の思(おも)ひ出(で)に
153今(いま)や生死(せいし)を決(けつ)せむと
154思(おも)ひ煩(わづら)ふ憐(あは)れさよ
155日楯(ひたて)、月鉾(つきほこ)両人(りやうにん)よ
156必(かなら)ず心(こころ)を悩(なや)ますな
157琉(りう)と球(きう)との宝玉(ほうぎよく)の
158御稜威(みいづ)を吾(あ)が身(み)に負(お)ひ来(きた)る
159三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
160汝(なれ)等(ら)二人(ふたり)に玉藻山(たまもやま)
161元(もと)の昔(むかし)に恢復(くわいふく)し
162誠(まこと)の道(みち)にバラモンの
163敵(てき)を言向(ことむ)け和(やは)すてふ
164珍(うづ)の神宝(しんぽう)授(さづ)けなむ
165あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
166御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
167と歌(うた)ひながら、168此(この)場(ば)に二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)は現(あら)はれ来(きた)り、169兄弟(きやうだい)の前(まへ)に直立(ちよくりつ)して、170軽(かる)く目礼(もくれい)した。
171 兄弟(きやうだい)は夢(ゆめ)かと計(ばか)り打驚(うちおどろ)き、172平身(へいしん)低頭(ていとう)稍(やや)少時(しばし)、173何(なん)の応(いら)へもなく計(ばか)り。174やうやうにして両人(りやうにん)面(おもて)をあぐれば、175こはそも如何(いか)に、176二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)の影(かげ)は何処(どこ)へ消(き)え失(う)せしか、177山(やま)の尾(を)の上(へ)を通(かよ)ふ風(かぜ)の音(おと)颯々(さつさつ)と響(ひび)き亘(わた)るのみなり。
178 これより二人(ふたり)の兄弟(きやうだい)は、179勇気(ゆうき)日頃(ひごろ)に百倍(ひやくばい)し、180天(あま)の数歌(かずうた)を歌(うた)ひ乍(なが)ら、181湖上(こじやう)に泛(うか)べる島々(しまじま)を残(のこ)る隈(くま)なく駆巡(かけめぐ)り、182二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)の所在(ありか)を尋(たづ)ねたれ共(ども)、183何(いづ)れへ行(ゆ)きたりしか、184其(その)影(かげ)さへも見(み)ることは出来(でき)なかつた。185されど二人(ふたり)は何(なん)となく勇気(ゆうき)に充(み)ち、186再(ふたた)び玉藻山(たまもやま)に向(むか)つて言霊戦(ことたません)を開始(かいし)せむと、187湖水(こすゐ)に浮(う)きつ沈(しづ)みつ、188七日(なぬか)七夜(ななや)の御禊(みそぎ)を修(しう)し、189言霊(ことたま)の練習(れんしふ)に全力(ぜんりよく)を尽(つく)す事(こと)となつた。
190○
191 セールス姫(ひめ)の侍女(じぢよ)として永(なが)く仕(つか)へ居(ゐ)たるアークス王(わう)の落胤(らくいん)なるマリヤス姫(ひめ)は、192サアルボースの館(やかた)を脱(ぬ)け出(い)で、193夜(よ)を日(ひ)に次(つい)で、194新高山(にひたかやま)を東南(とうなん)に越(こ)え、195玉藻(たまも)の湖辺(こへん)を巡(めぐ)つて、196玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)に救(すく)はれて居(ゐ)た。197然(しか)るに、198此(この)度(たび)のホーロケースの襲来(しふらい)に依(よ)りて、199真道彦(まみちひこの)命(みこと)は行方(ゆくへ)不明(ふめい)となり、200数多(あまた)の部下(ぶか)は四方(しはう)に散乱(さんらん)し、201日楯(ひたて)、202月鉾(つきほこ)の二人(ふたり)はこれ亦(また)、203行方(ゆくへ)不明(ふめい)となり、204進退(しんたい)谷(きは)まる折(をり)しも、205ホーロケースに捕(とら)へられ、206散々(さんざん)な責苦(せめく)に会(あ)ひ、207遂(つひ)には一室(いつしつ)に厳重(げんぢう)なる監視人(かんしにん)をつけ、208幽閉(いうへい)されにける。
209 ホーロケースは兄(あに)のサアルボースと相応(あひおう)じて、210此(この)全島(ぜんたう)の主権(しゆけん)を握(にぎ)らむと、211意気(いき)昇天(しようてん)の勢(いきほひ)にて、212玉藻山(たまもやま)にバラモン教(けう)の聖場(せいぢやう)を開(ひら)き、213吾物顔(わがものがほ)に振(ふ)るまつて居(ゐ)た。214さうしてマリヤス姫(ひめ)を幽閉(いうへい)し、215時々(ときどき)其(その)居間(ゐま)に到(いた)りて、216強談判(こはだんぱん)を開始(かいし)することもあつた。
217 話(はな)し変(かは)つて、218マリヤス姫(ひめ)は、219悲歎(ひたん)の涙(なみだ)に暮(く)れ乍(なが)ら、220独(ひとり)ごちつつ、221心(こころ)の憂(う)さを歌(うた)ひ居(ゐ)たり。
222マリヤス姫『水(みづ)の流(なが)れと人(ひと)の行末(ゆくすゑ)
223変(かは)れば変(かは)る世(よ)の中(なか)よ
224遠津(とほつ)御祖(みおや)の其(その)源(みなもと)を尋(たづ)ぬれば
225高天原(たかあまはら)のエルサレム
226花森彦(はなもりひこ)のエンゼルと
227仕(つか)へ玉(たま)ひし吾(わが)御祖(みおや)
228美(うま)しの命(みこと)の御裔(みすゑ)なる
229アークス王(わう)が子(こ)と生(うま)れ
230浮世(うきよ)を忍(しの)ぶ落胤(らくいん)の
231吾(われ)は果敢(はか)なき身(み)の因果(いんぐわ)
232高砂島(たかさごじま)を所知食(しろしめ)す
233カールス王(わう)の妹(いもうと)と生(うま)れ
234心(こころ)汚(きた)なきサアルボースが娘(むすめ)
235セールス姫(ひめ)の侍女(じぢよ)となり
236醜(しこ)の企(たく)みを探(さぐ)らむと
237父(ちち)の御言(みこと)を畏(かしこ)みて
238心(こころ)を尽(つく)す折柄(をりから)に
239セールス姫(ひめ)のあぢきなき
240其(その)振舞(ふるまひ)に追(お)ひ立(た)てられ
241今(いま)は果敢(はか)なき独身(ひとりみ)の
242行方(ゆくへ)も知(し)らぬ旅枕(たびまくら)
243神(かみ)の情(なさけ)に助(たす)けられ
244真道彦(まみちひこの)神(かみ)の開(ひら)きます
245三五教(あななひけう)の霊場(れいぢやう)と
246音(おと)に聞(きこ)えし玉藻山(たまもやま)
247これの館(やかた)に救(すく)はれて
248楽(たの)しき月日(つきひ)を送(おく)る折(をり)
249月(つき)に村雲(むらくも)、花(はな)には嵐(あらし)
250浮世(うきよ)の風(かぜ)に煽(あふ)られて
251今日(けふ)は悲(かな)しき幽閉(いうへい)の身(み)
252あゝ何(なん)とせむ只(ただ)泣(な)く涙(なみだ)
253かはき果(は)てたる夕(ゆふ)まぐれ
254恋(こひ)しと思(おも)ふ月鉾(つきほこ)の
255神(かみ)は何(いづ)れにましますか
256親子(おやこ)兄弟(きやうだい)諸共(もろとも)に
257夜半(よは)の嵐(あらし)に散(ち)らされて
258行方(ゆくへ)も分(わ)かぬ旅(たび)の空(そら)
259仮令(たとへ)何処(いづこ)にますとても
260マリヤス姫(ひめ)の真心(まごころ)は
261山野(やまの)海河(うみかは)幾千(いくせん)里(り)
262隔(へだ)つるとても何(なん)のその
263尋(たづ)ねて行(ゆ)かむ君(きみ)が側(そば)
264とは言(い)ひ乍(なが)ら情(なさけ)無(な)や
265心(こころ)汚(きた)なき醜神(しこがみ)の
266ホーロケースに捉(とら)へられ
267暗(くら)き一間(ひとま)に幽閉(いうへい)されて
268面白(おもしろ)からぬ月日(つきひ)を送(おく)る吾(わが)身(み)の上(うへ)
269朝(あさ)に夕(ゆふべ)に涙(なみだ)の袖(そで)を絞(しぼ)りつつ
270恋(こひ)しき人(ひと)の行方(ゆくへ)を尋(たづ)ね
271夢(ゆめ)になりとも吾(わが)恋(こ)ふる
272月鉾(つきほこ)神(かみ)に会(あ)はせかしと
273木花姫(このはなひめ)の御(おん)前(まへ)に
274祈(いの)りし甲斐(かひ)もあら悲(かな)しや
275ホーロケースの横恋慕(よこれんぼ)
276牢獄(ひとや)の暗(くら)き吾(わが)居間(ゐま)に
277夜(よ)な夜(よ)な来(きた)りてかき口説(くど)く
278其(その)言(こと)の葉(は)の厭(いや)らしさ
279消(き)え入(い)りたくは思(おも)へ共(ども)
280神(かみ)ならぬ身(み)の如何(いか)にせむ
281逃(のが)るる由(よし)もなくばかり
282恋(こひ)しき人(ひと)は来(き)まさずに
283蝮(まむし)の如(ごと)く忌(い)み嫌(きら)ふ
284醜(しこ)の曲霊(まがひ)の執念深(しふねんぶか)く
285朝(あさ)な夕(ゆふ)なに附(つ)け狙(ねら)ふ
286バラモン教(けう)の神司(かむづかさ)
287吾(わが)身(み)に翼(つばさ)あるならば
288牢獄(ひとや)の窓(まど)を飛(と)び越(こ)えて
289恋(こひ)しき主(ぬし)が御(おん)許(もと)に
290天翔(あまかけ)り行(ゆ)かむものを
291あゝもどかしや苦(くる)しや』と
292小声(こごゑ)になつて涙(なみだ)と共(とも)に掻口説(かきくど)く。
293○
294折(をり)しもあれや館内(くわんない)俄(にはか)に騒々(さうざう)しく
295数多(あまた)の人々(ひとびと)右往(うわう)左往(さわう)に逃(に)げ惑(まど)ふ
296其(その)様子(やうす)の一方(ひとかた)ならざるに
297マリヤス姫(ひめ)は『真道彦(まみちひこの)命(みこと)
298味方(みかた)を数多(あまた)引連(ひきつ)れて
299弔戦(とむらひいくさ)に向(むか)ひ玉(たま)ひしか
300但(ただし)は日楯(ひたて)、月鉾(つきほこ)の二人(ふたり)
301数多(あまた)の神軍(しんぐん)を引率(いんそつ)して
302茲(ここ)に現(あら)はれ玉(たま)ひしか
303何(なん)とはなしに吾(わ)が心(こころ)
304勇(いさ)ましくなりぬ
305あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
306御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
307と思(おも)はず合掌(がつしやう)する。308其処(そこ)へ密室(みつしつ)の戸(と)を荒(あら)らかに押開(おしあ)けて、309形相(ぎやうさう)凄(すさ)まじく入(い)り来(きた)れるホーロケースは、
310ホーロケース『ヤア、311マリヤス姫(ひめ)、312変事(へんじ)突発(とつぱつ)致(いた)した。313サア吾(わ)れに続(つづ)いて来(きた)れ』
314と無理(むり)に引(ひ)つ抱(かか)へ、315此(この)場(ば)を逃(に)げ出(いだ)さむとする其(その)周章(あわて)加減(かげん)、316マリヤス姫(ひめ)はキツとなり、
317マリヤス姫『仮(か)りにもバラモン教(けう)の神司(かむづかさ)、318数多(あまた)の部下(ぶか)を引率(いんそつ)し玉(たま)ふ御(おん)身(み)を以(もつ)て、319其(その)周章(あわて)方(かた)は何事(なにごと)ぞ。320先(ま)づ先(ま)づ鎮(しづ)まり玉(たま)へ。321様子(やうす)を承(うけたま)はりし上(うへ)にては、322あなたの御(お)後(あと)に従(したが)ひ、323参(まゐ)らうも知(し)れませぬ』
324とワザとに落付払(おちつきはら)つて、325時(とき)を移(うつ)さうとする。326ホーロケースは、
327ホーロケース『時(とき)遅(おく)れては一大事(いちだいじ)』
328と有無(うむ)を言(い)はせず、329小脇(こわき)にひんだき、330密室(みつしつ)を駆出(かけいだ)さむとする時(とき)しも、331日楯(ひたて)、332月鉾(つきほこ)の両人(りやうにん)は、333琉(りう)、334球(きう)の玉(たま)の威徳(ゐとく)に感(かん)じたりけむ、335身体(しんたい)より強烈(きやうれつ)なる五色(ごしき)の光(ひかり)を放射(はうしや)し乍(なが)ら、336此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、
337両人(りやうにん)『ヤア、338ホーロケース、339暫(しばら)く待(ま)たれよ』
340と声(こゑ)をかけた。341ホーロケースは転(こ)けつ輾(まろ)びつ、342マリヤス姫(ひめ)を後(あと)に残(のこ)し、343数多(あまた)の部下(ぶか)と共(とも)に、344雲(くも)を霞(かすみ)と夜陰(やいん)に紛(まぎ)れ、345何処(いづこ)ともなく姿(すがた)を隠(かく)した。
346月鉾(つきほこ)『あゝマリヤス姫(ひめ)殿(どの)、347御(ご)無事(ぶじ)で御座(ござ)つたか、348芽出度(めでた)い芽出度(めでた)い。349これと云(い)ふも全(まつた)く、350大神(おほかみ)様(さま)の御(お)恵(めぐ)み』
351と両手(りやうて)を合(あは)せて、352感謝(かんしや)の涙(なみだ)を流(なが)して居(ゐ)る。
353 マリヤス姫(ひめ)は夢(ゆめ)か現(うつつ)か幻(まぼろし)かと、354飛(と)び立(た)つ計(ばか)り喜(よろこ)び勇(いさ)み、355あたりをキヨロキヨロ見廻(みまは)し乍(なが)ら、356ヤツと胸(むね)を撫(な)でおろし、
357マリヤス『悲(かな)しき恐(おそ)ろしき苦(くる)しき所(ところ)へお越(こ)し下(くだ)さいまして、358妾(わたし)を救(すく)ひ賜(たま)はり、359嬉(うれ)しいやら、360有難(ありがた)いやら、361何(なん)とも申上(まをしあ)ぐる言葉(ことば)は御座(ござ)いませぬ。362……日楯(ひたて)様(さま)、363月鉾(つきほこ)様(さま)、364最早(もはや)館(やかた)の内(うち)は別状(べつじやう)は御座(ござ)いませぬか』
365と云(い)ひつつ、366月鉾(つきほこ)にすがり着(つ)いた。
367月鉾(つきほこ)『マリヤス姫(ひめ)殿(どの)、368御(ご)安心(あんしん)なさりませ。369最早(もはや)敵(てき)は残(のこ)らず散乱(さんらん)致(いた)しました。370今後(こんご)の警戒(けいかい)が最(もつと)も肝要(かんえう)で御座(ござ)います。371まづまづ御(お)心(こころ)を落着(おちつ)けられよ』
372日楯(ひたて)『サアサア、373皆(みな)さま、374打揃(うちそろ)うて神前(しんぜん)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)致(いた)しませう』
375 茲(ここ)に玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)は再(ふたた)び、376三五教(あななひけう)に返(かへ)り、377宏大(くわうだい)なる神殿(しんでん)は造営(ざうえい)され、378日楯(ひたて)、379月鉾(つきほこ)の声名(せいめい)は遠近(をちこち)に押(お)し拡(ひろ)まり、380旭日(きよくじつ)昇天(しようてん)の勢(いきほひ)となり来(き)たれり。381あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
382(大正一一・八・六 旧六・一四 松村真澄録)
383(昭和一〇・六・六 王仁校正)
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