霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 鉈理屈(なたりくつ)〔八二〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻 篇:第4篇 南米探険 よみ(新仮名遣い):なんべいたんけん
章:第20章 鉈理屈 よみ(新仮名遣い):なたりくつ 通し章番号:820
口述日:1922(大正11)年08月10日(旧06月18日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年8月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
常彦と春彦は、高姫にやたらなことを言わずに船中はおとなしくしているように懇願する。しかし高姫は反省するどころか、神がタルチールを使って自分を帆柱の上に上げて陸の様子を見させたのだ、とますます強弁する。
常彦と春彦は、船長に目を付けられないように船中では師弟の縁を切ってもらうことにした。高姫は怒って二人の縁を切り、さんざん憎まれ口を叩いた。
常彦はやけくそになって海に向かって宣伝歌を歌った。高姫への苛立ちを籠めつつも、三人そろって失われた宝珠を見つけ出してつつがなく聖地に帰ることができるよう、神に祈願をこらす歌を歌った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-12-12 16:54:09 文字数:4174 OBC :rm2820
愛善世界社版:249頁 八幡書店版:第5輯 442頁 修補版: 校定版:258頁 普及版:111頁 初版: ページ備考:
001 常彦(つねひこ)、002春彦(はるひこ)は驚(おどろ)いて、003高姫(たかひめ)の縛(いましめ)を解(と)き、004抱起(だきおこ)し、
005常彦(つねひこ)『先生(せんせい)、006どうも御座(ござ)いませなんだが、007大変(たいへん)な危(あぶ)ないこつて御座(ござ)いました。008モウどうぞこれから船(ふね)の中(なか)は、009云(い)ひたい事(こと)があつても仰有(おつしや)らずに辛抱(しんばう)して居(ゐ)て下(くだ)さいませ。010両人(りやうにん)が御(お)願(ねがひ)致(いた)します』
011高姫(たかひめ)『お前(まへ)達(たち)はそれだから腰抜(こしぬけ)といふのだよ。012三千(さんぜん)世界(せかい)を団子(だんご)にせうと餅(もち)にせうと、013三角(さんかく)にせうと、014四角(しかく)にせうと、015自由(じいう)自在(じざい)に遊(あそ)ばす国治立(くにはるたちの)尊(みこと)の片腕(かたうで)とお成(な)り遊(あそ)ばす日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)の生宮(いきみや)、016たかの知(し)れた高島丸(たかしままる)の船頭(せんどう)位(くらゐ)に尾(を)を巻(ま)いてなるものか、017ヘン余(あんま)り見損(みぞこな)ひをして下(くだ)さるなや。018お前(まへ)等(ら)は丁度(ちやうど)猫(ねこ)に小判(こばん)を見(み)せた様(やう)なものだ。019小判(こばん)よりもダイヤモンドよりも立派(りつぱ)な光(ひかり)の強(つよ)い、020日(ひ)の出神(でのかみ)の此(この)生宮(いきみや)を何(なん)と心得(こころえ)て御座(ござ)る。021チツと確(しつか)りなさらぬか。022神(かみ)様(さま)が吾々(われわれ)を御(ご)守護(しゆご)をして御座(ござ)る以上(いじやう)は、023仮令(たとへ)船頭(せんどう)の百(ひやく)人(にん)や千(せん)人(にん)、024束(たば)になつて来(き)た所(ところ)で、025指一本(ゆびいつぽん)さへさす様(やう)な高姫(たかひめ)ぢやありませぬぞえ』
026春彦(はるひこ)『それでも貴女(あなた)、027タルチールさまに後手(うしろで)に縛(しば)られ、028帆柱(ほばしら)へ逆(さか)さまにして吊(つ)り上(あ)げられたぢやありませぬか』
029高姫(たかひめ)『何(なん)とマア、030身魂(みたま)の曇(くも)つた者(もの)は、031御(お)神徳(かげ)の頂(いただ)きようが拙劣(へた)だから困(こま)りますワイ。032日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)が一寸(ちよつと)高砂島(たかさごじま)の様子(やうす)を見(み)やうと思(おも)ひ、033タルチールを御用(ごよう)に立(た)てて、034帆柱(ほばしら)の上(うへ)まで手(て)も使(つか)はず、035足(あし)も労(らう)せず、036エレベータ式(しき)に上(あ)げさしたのだよ。037何(なん)でも人(ひと)は神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、038善意(ぜんい)に解釈(かいしやく)しなくてはなりませぬぞや。039それが日(ひ)の出神(でのかみ)さまの水(みづ)も洩(も)らさぬ結構(けつこう)なお仕組(しぐみ)、040それだから何時(いつ)も身魂(みたま)を研(みが)き改心(かいしん)をなされと、041耳(みみ)が蛸(たこ)になる程(ほど)云(い)うて居(ゐ)るのだよ。042タルチールの奴(やつ)たうとう、043日(ひ)の出神(でのかみ)の御光(ごくわう)に恐(おそ)れて、044どつかへ鼠(ねずみ)の様(やう)に隠(かく)れて了(しま)つた』
045常彦(つねひこ)『私(わたし)は余(あま)り感心(かんしん)して目(め)も碌(ろく)に見(み)えず、046ハツキリした事(こと)は分(わか)りませぬが、047何(なん)でも立派(りつぱ)なお方(かた)が二人(ふたり)現(あら)はれて、048船頭(せんどう)さまに何(なに)か言(い)ひつけられたと思(おも)へば、049船頭(せんどう)は匆惶(さうくわう)として綱(つな)をゆるめ、050あなたを吊(つ)りおろして、051どつかへ隠(かく)れましたよ』
052高姫(たかひめ)『サアさうだから、053高姫(たかひめ)は神(かみ)の生宮(いきみや)と云(い)ふのだ。054船頭(せんどう)の奴(やつ)、055帆柱(ほばしら)の上(うへ)へ吊(つ)りあげて見(み)た所(ところ)、056余(あま)り日(ひ)の出神(でのかみ)の御光(ごくわう)がきつうて、057目(め)が眩(くら)みさうになり、058お客(きやく)までが目舞(めまひ)が来(き)さうなので代表者(だいへうしや)が二人(ふたり)やつて来(き)て、059船頭(せんどう)に掛合(かけあ)ひ、060其(その)為(ため)に止(や)むを得(え)ずおろしよつたのだ。061そこが所謂(いはゆる)神(かみ)の御(ご)神力(しんりき)、062御(ご)都合(つがふ)ある所(ところ)だ。063こんな水(みづ)も洩(も)らさぬ仕組(しぐみ)が、064お前(まへ)達(たち)に分(わか)つて堪(たま)るものかい』
065常彦(つねひこ)『オイ春彦(はるひこ)、066何(なん)とマア剛情(がうじやう)な先生(せんせい)だないか。067今日(けふ)と云(い)ふ今日(けふ)は俺(おれ)も本当(ほんたう)に呆(あき)れて了(しま)つたよ。068こんな人(ひと)の弟子(でし)だと思(おも)はれたら、069それこそ無事(ぶじ)に高砂島(たかさごじま)へ着(つ)く事(こと)は出来(でき)やしないぞ。070大陸(たいりく)へ上(あが)つてからなら、071はしやぎなりと、072法螺吹(ほらふ)くなりと、073如何(どう)なつと、074高姫(たかひめ)さまの勝手(かつて)になさつてもよいが、075こんな所(ところ)で分(わか)りきつた負惜(まけをし)みを出(だ)し、076へらず口(ぐち)を叩(たた)き、077船長(せんちやう)に憎(にく)まれたら大変(たいへん)だぞ。078コりや茲(ここ)で一(ひと)つ高姫(たかひめ)様(さま)にお願(ねがひ)申(まを)して、079師弟(してい)の縁(えん)を切(き)つて貰(もら)ひ、080アカの他人(たにん)となつて了(しま)はうぢやないか。081心(こころ)の底(そこ)から切(き)つて頂(いただ)かうと云(い)ふのぢやない。082此(この)船(ふね)の上(うへ)だけ、083表面(へうめん)的(てき)に切(き)つて貰(もら)ひたいのぢや』
084春彦(はるひこ)『それは至極(しごく)妙案(めうあん)だ。085直様(すぐさま)高姫(たかひめ)様(さま)にお願(ねがひ)致(いた)さうぢやないか』
086常彦(つねひこ)『春彦(はるひこ)と私(わたし)との御(お)願(ねがひ)で御座(ござ)います。087暫(しばら)くあなたと師弟(してい)の関係(くわんけい)を絶(た)つて下(くだ)さいませぬか。088それも表面(へうめん)丈(だけ)で、089高砂島(たかさごじま)へ無事(ぶじ)に着(つ)いたならば、090又(また)元(もと)の通(とほ)りに使(つか)つて下(くだ)さい。091さうせないと険呑(けんのん)で堪(たま)りませぬから……』
092高姫(たかひめ)『帳(ちやう)を切(き)つてくれと云(い)ふのかい。093お前(まへ)の方(はう)から言(い)はいでも、094高姫(たかひめ)の方(はう)からお前(まへ)の様(やう)なガラクタの弱虫(よわむし)は、095足手纏(あしでまと)ひになつて困(こま)つて居(を)つたのだ。096一時(いつとき)も早(はや)くうるさいから、097縁(えん)を切(き)らうと思(おも)うたけれど、098此(この)高姫(たかひめ)に見放(みはな)されたが最後(さいご)、099乞食(こじき)一(ひと)つよう致(いた)さぬ、100奴甲斐性(どかひしやう)なしだから、101可哀相(かはいさう)と思(おも)つて今(いま)まで助(たす)けて来(き)たのだ。102お前(まへ)の方(はう)から暇(ひま)くれと云(い)ふのなら、103こつちは得手(えて)に帆(ほ)だ。104万劫(まんごふ)末代(まつだい)帳(ちやう)を切(き)るから、105二度(にど)と再(ふたた)び高姫(たかひめ)の目(め)に障(さは)る所(ところ)に居(を)つて下(くだ)さるな。106ガラクタ野郎(やらう)奴(め)、107あゝ盲万人(めくらまんにん)目明(めあ)き一人(ひとり)とはよくも言(い)うたものだ。108高姫(たかひめ)の真(まこと)の力(ちから)を知(し)つて呉(く)れる者(もの)は此(この)広(ひろ)い世界(せかい)に日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)ばつかりだ。109人民(じんみん)を相手(あひて)にする位(くらゐ)うるさいものはないワイ。110サア常(つね)、111春(はる)の両人(りやうにん)、112早(はや)くどつかへ行(ゆ)きなさらぬか。113名残(なごり)惜(をし)さうに、114男(をとこ)らしうもない、115何(なに)マゴマゴして居(を)るのだ、116エヽ』
117と頬(ほほ)をプツと膨(ふく)らし、118体(からだ)を角(かく)に振(ふ)つて甲板(かんばん)の上(うへ)を二(ふた)つ三(み)つ強(つよ)く踏(ふ)みならし、119二三遍(にさんぺん)くるりと廻(まは)つて見(み)せた。
120常彦(つねひこ)『モシモシ高姫(たかひめ)様(さま)、121さう怒(おこ)つて貰(もら)つては堪(たま)りませぬ。122ホンの二三(にさん)日(にち)の間(あひだ)、123表(おもて)むき丈(だけ)お暇(ひま)を下(くだ)されとお願(ねがひ)して居(を)るので御座(ござ)います……なア春彦(はるひこ)、124お前(まへ)もさうだろう』
125春彦(はるひこ)『さうだとも、126高姫(たかひめ)さまに見(み)すてられて、127俺(おれ)達(たち)は如何(どう)なるものか。128どうぞ高姫(たかひめ)様(さま)さう短気(たんき)を出(だ)さずに、129吾々(われわれ)の申(まを)す事(こと)を善意(ぜんい)に解釈(かいしやく)して下(くだ)さいませ』
130高姫(たかひめ)『仮令(たとへ)一(いち)日(にち)でも縁(えん)を切(き)つたが最後(さいご)、131アカの他人(たにん)ぢや。132三日(みつか)や五日(いつか)の間(あひだ)縁(えん)切(き)るのは邪魔(じやま)臭(くさ)い。133万劫(まんごふ)末代(まつだい)序(ついで)に五六七(みろく)の世(よ)の末(すゑ)迄(まで)縁(えん)を切(き)りますぞや。134お前(まへ)の様(やう)な蛆虫(うじむし)がたかつて居(ゐ)ると、135そこら中(ぢう)がムザムザして気分(きぶん)が悪(わる)い。136あゝこれで病晴(やまひは)れがしたやうだ。137縁(えん)切(き)つた以上(いじやう)は、138師匠(ししやう)でも弟子(でし)でもない。139どうぞ早(はや)う、140どつこへなりと姿(すがた)を隠(かく)して下(くだ)さい。141見(み)ても厭(いや)らしい、142胸(むね)が悪(わる)うなる』
143常彦(つねひこ)『高姫(たかひめ)様(さま)、144一時(いつとき)も早(はや)う、145姿(すがた)を隠(かく)せとか、146厭(いや)らしいとか、147胸(むね)が悪(わる)いとか、148丸(まる)で座敷(ざしき)へ青大将(あをだいしやう)が這(は)うて来(き)た様(やう)な事(こと)を仰有(おつしや)いますなア』
149高姫(たかひめ)『きまつた事(こと)だよ、150お前(まへ)は本当(ほんたう)の阿呆(あはう)大将(だいしやう)だ。151グヅグヅしてをると、152線香(せんかう)を立(た)ててくすべますぞ。153あゝ面倒(めんだう)臭(くさ)い、154一昨日(おととひ)来(こ)い一昨日(おととひ)来(こ)い』
155と云(い)ひ乍(なが)ら、156歯(は)のぬけた口(くち)から、157ブツブツと、158唾(つばき)を矢(や)たらに、159両人(りやうにん)に向(むか)つて吹(ふ)きかける。
160春彦(はるひこ)『蛛蜘(くも)か何(なん)ぞの様(やう)に一昨日(おととひ)来(こ)いとは、161そりや余(あんま)りぢやありませぬか』
162高姫(たかひめ)『お前(まへ)は蜘蛛(くも)だよ。163一寸先(いつすんさき)の見(み)えぬ暗雲(やみくも)の雲助(くもすけ)だ。164今迄(いままで)高姫(たかひめ)のおかげで、165結構(けつこう)な神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)をして威張(ゐば)つて来(き)たが、166今日(けふ)限(かぎ)り高姫(たかひめ)から縁(えん)を切(き)られたが最後(さいご)、167雲助(くもすけ)にでもならねば仕方(しかた)がないぢやないか。168何程(なにほど)平(ひら)た蜘蛛(くも)になつて謝(あやま)つても、169苦悶(くもん)しても駄目(だめ)ですよ。170オツホヽヽヽ』
171 常彦(つねひこ)は稍(やや)顔色(かほいろ)を赤(あか)らめ、
172常彦(つねひこ)『高姫(たかひめ)さま、173吾々(われわれ)は決(けつ)して貴女(あなた)の弟子(でし)ではありませぬよ。174言依別(ことよりわけの)命(みこと)の教主(けうしゆ)から立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)を命(めい)ぜられて居(ゐ)る者(もの)、175言(い)はばあなたと同格(どうかく)だ。176併(しか)し乍(なが)ら長幼(ちやうえう)の序(じよ)を守(まも)り、177先輩(せんぱい)の貴女(あなた)を師匠(ししやう)と、178義務(ぎむ)上(じやう)から尊敬(そんけい)して居(を)る丈(だけ)の者(もの)、179弟子扱(でしあつかひ)をしておき乍(なが)ら、180帳(ちやう)を切(き)るも切(き)らぬも有(あ)るものか。181グヅグヅ仰有(おつしや)ると、182私(わたし)の方(はう)から絶交(ぜつかう)致(いた)しますよ……なア春彦(はるひこ)、183お前(まへ)もさうぢやないか』
184春彦(はるひこ)『さう聞(き)けばさうだ。185モシ高姫(たかひめ)さま、186誠(まこと)にお気(き)の毒(どく)乍(なが)ら、187只今(ただいま)限(かぎ)り貴女(あなた)と万劫(まんがふ)末代(まつだい)、188五六七(みろく)の世(よ)の末(すゑ)迄(まで)縁(えん)をきりますから、189否(いや)絶交(ぜつかう)しますから、190厭(いや)らしい……阿呆(あほう)臭(くさ)いから早(はや)く何処(どこ)かへ姿(すがた)を隠(かく)して下(くだ)さい。191渋(しぶ)たうして御座(ござ)ると線香(せんかう)を立(た)てますぞ。192アハヽヽヽ』
193高姫(たかひめ)『それもよからう。194併(しか)し乍(なが)ら、195高姫(たかひめ)との交際(かうさい)は絶(た)つても、196日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)に離(はな)れる事(こと)は出来(でき)ますまい』
197常彦(つねひこ)『尤(もつと)も、198日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)には絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)ですから、199誰(たれ)が何(なん)と云(い)つても離(はな)れは致(いた)しませぬ。200春彦(はるひこ)、201お前(まへ)もさうだらうなア』
202春彦(はるひこ)『勿論(もちろん)の事(こと)だ』
203高姫(たかひめ)『それ御覧(ごらん)、204ヤツパリさうすると、205日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の高姫(たかひめ)には絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)をせなくてはなりますまい』
206常彦(つねひこ)『誠(まこと)の日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)には服従(ふくじゆう)しますが、207俄作(にはかづく)りの自称(じしよう)日(ひ)の出神(でのかみ)には絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)致(いた)しませぬ。208言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)に玉(たま)を隠(かく)されて、209隠(かく)され場所(ばしよ)が分(わか)らいで、210世界中(せかいぢう)うろつき廻(まは)る日(ひ)の出神(でのかみ)さまなら、211余(あんま)り立派(りつぱ)な身魂(みたま)でもあるまい。212日(ひ)の出(で)所(どころ)か、213真暗(まつくら)がりのまつくろ黒助(くろすけ)の身魂(みたま)が憑(うつ)つてゐる肉(にく)の宮(みや)の鼻(はな)の高姫(たかひめ)さま、214誰(たれ)が馬鹿(ばか)らしい。215服従(ふくじゆう)する者(もの)がありますか。216自惚(うぬぼれ)も良(い)い加減(かげん)にしておいたが宜(よろ)しからうぜ。217アツハヽヽヽ』
218高姫(たかひめ)『常彦(つねひこ)の結構(けつこう)な宣伝使(せんでんし)様(さま)、219春彦(はるひこ)の結構(けつこう)な結構(けつこう)なデモ宣伝使(せんでんし)さま、220勝手(かつて)にホラを吹(ふ)き、221勝手(かつて)に自惚(うぬぼれ)ておきなさい。222左様(さやう)なら』
223と体(からだ)をしやくり乍(なが)ら、224足音(あしおと)荒(あら)く、225次(つぎ)の船室(せんしつ)に姿(すがた)を隠(かく)して了(しま)つた。
226 常彦(つねひこ)は甲板(かんばん)の上(うへ)に立(た)ち、227春彦(はるひこ)と手(て)をつなぎ高姫(たかひめ)の去(さ)つた後(あと)で、228いろいろと高姫話(たかひめばなし)に耽(ふけ)り乍(なが)ら、229焼糞(やけくそ)になつて、230海風(うなかぜ)に向(むか)ひ歌(うた)ひ出(だ)した。
231常彦(つねひこ)『日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)か
232系統(ひつぽう)の身魂(みたま)か知(し)らね共(ども)
233自負心(じふしん)強(つよ)い鼻高(はなだか)の
234男女郎(をとこめろう)の高姫(たかひめ)に
235甘(うま)い事(こと)づくめにたらされて
236結構(けつこう)な結構(けつこう)な自転倒島(おのころ)の
237秀妻(ほつま)の国(くに)の中心地(ちうしんち)
238錦(にしき)の宮(みや)を後(あと)にして
239遠(とほ)き山坂(やまさか)打渡(うちわた)り
240命(いのち)を的(まと)に海原(うなばら)の
241荒波(あらなみ)わけて琉球(りうきう)の
242島(しま)に漸(やうや)く上陸(じやうりく)し
243言依別(ことよりわけ)や国依別(くによりわけ)の
244神(かみ)の命(みこと)の後(あと)を追(お)ひ
245執念深(しふねんぶか)くも麻邇(まに)の玉(たま)
246高姫(たかひめ)さまの手(て)に入(い)れて
247人(ひと)も羨(うらや)む神業(しんげふ)に
248奉仕(ほうし)せむとて両人(りやうにん)が
249欲(よく)の皮(かは)をば引(ひつ)ぱり乍(なが)ら
250可愛(かあい)い女房(にようばう)をふりすてて
251ここまで来(き)たのが馬鹿(ばか)らしい
252琉球(りうきう)の島(しま)へ来(き)て見(み)れば
253言依別(ことよりわけ)の神(かみ)さまは
254琉(りう)と球(きう)との宝玉(ほうぎよく)を
255すでに受取(うけと)り国依別(くによりわけ)と
256小舟(こぶね)に乗(の)つて高砂(たかさご)の
257島(しま)に行(ゆ)かれた後(あと)だつた
258高姫(たかひめ)さまは気(き)をいらち
259夜叉(やしや)の如(ごと)くに相恰(さうがう)を
260変(か)へて又(また)もや船(ふね)に乗(の)り
261フーリン島(たう)や台湾島(たいわんたう)
262後(あと)に眺(なが)めて漸(や)う漸(や)うに
263テルの連峰(れんぽう)霞(かす)みつつ
264目(め)に入(い)る迄(まで)に近寄(ちかよ)りし
265時(とき)しもあれや生命(せいめい)の
266綱(つな)とも頼(たの)む吾(わが)船(ふね)は
267波間(なみま)に潜(ひそ)む暗礁(あんせう)に
268衝突(しようとつ)なして粉砕(ふんさい)し
269何(なん)と詮方(せんかた)波(なみ)の上(うへ)
270辛(から)くも進(すす)む折柄(をりから)に
271俄(にはか)に吹(ふ)き来(く)る荒風(あらかぜ)に
272波(なみ)立(たち)さわぎ三(さん)人(にん)の
273生命(せいめい)最早(もはや)これ迄(まで)と
274慌(あわ)てふためく時(とき)もあれ
275神(かみ)の恵(めぐみ)の幸(さち)はひて
276高島丸(たかしままる)は走(は)せ来(きた)り
277吾(われ)等(ら)三人(みたり)を救(すく)ひあげ
278船長室(せんちやうしつ)に招(まね)かれて
279国(くに)や所(ところ)や姓名(せいめい)を
280一々(いちいち)詳(くは)しく尋(たづ)ねられ
281日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)と
282高姫(たかひめ)さまの法螺貝(ほらがい)に
283船長殿(せんちやうどの)も舌(した)を巻(ま)き
284押(お)し問答(もんだふ)の末(すゑ)遂(つひ)に
285高姫(たかひめ)さまを発狂(はつきやう)と
286見(み)なして手足(てあし)を縛(しば)りあげ
287身(み)を逆(さか)しまに帆柱(ほばしら)に
288クルリクルリと巻(まき)あげる
289吾々(われわれ)二人(ふたり)は肝(きも)潰(つぶ)し
290驚(おどろ)き倒(たふ)れて居(を)る内(うち)に
291何処(どこ)の人(ひと)かは知(し)らね共(ども)
292尊(たふと)き二人(ふたり)の影(かげ)見(み)えて
293タルチールの船長(せんちやう)に
294何(なに)かヒソビソ囁(ささや)けば
295タルチールは匆惶(さうくわう)と
296畏(かしこ)まりつつ高姫(たかひめ)を
297即座(そくざ)にここに巻(まき)おろし
298一間(ひとま)の内(うち)に隠(かく)れ行(ゆ)く
299吾(われ)等(ら)二人(ふたり)は高姫(たかひめ)の
300厳(きび)しき縛(いまし)めとき放(はな)ち
301いと親切(しんせつ)に労(いた)はれば
302高姫(たかひめ)さまのへらず口(ぐち)
303分(わか)りきつたる負惜(まけをし)み
304流石(さすが)の吾(われ)等(ら)も呆(あき)れ果(は)て
305暇(ひま)を呉(く)れよと掛合(かけあ)へば
306高姫(たかひめ)さまは驚(おどろ)いて
307万劫(まんごふ)末代(まつだい)帳(ちやう)きると
308おどし文句(もんく)を並(なら)べ立(た)て
309ヤツサモツサと嘅(いが)み合(あ)ひ
310揚句(あげく)の果(はて)は四股(しこ)をふみ
311肩(かた)をゆすつてどこへやら
312婆(ばば)の姿(すがた)を隠(かく)された
313あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
314御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
315折角(せつかく)茲(ここ)まで来(き)た三人(みたり)
316どうぞ互(たがひ)に睦(むつ)まじう
317高砂島(たかさごじま)に上陸(じやうりく)し
318麻邇(まに)の宝珠(ほつしゆ)の所在(ありか)をば
319索(もと)めて聖地(せいち)に恙(つつが)なく
320帰(かへ)らせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
321尊(たふと)き神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
322常彦(つねひこ)、春彦(はるひこ)謹(つつし)みて
323畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
324あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
325御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
326と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に歌(うた)ひ乍(なが)ら舞(ま)ひ狂(くる)うて居(ゐ)る。327左右(さいう)一丈(いちぢやう)計(ばか)りの羽(はね)を拡(ひろ)げた信天翁(あはうどり)は二人(ふたり)の頭上(づじやう)を掠(かす)めて前後(ぜんご)左右(さいう)に潔(いさぎよ)く翺翔(かうしやう)して居(ゐ)る。
328(大正一一・八・一〇 旧六・一八 松村真澄録)
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