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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第28巻(卯の巻)
序歌
総説歌
第1篇 高砂の島
第1章 カールス王
第2章 無理槍
第3章 玉藻山
第4章 淡渓の流
第5章 難有迷惑
第6章 麻の紊れ
第2篇 暗黒の叫
第7章 無痛の腹
第8章 混乱戦
第9章 当推量
第10章 縺れ髪
第11章 木茄子
第12章 サワラの都
第3篇 光明の魁
第13章 唖の対面
第14章 二男三女
第15章 願望成就
第16章 盲亀の浮木
第17章 誠の告白
第18章 天下泰平
第4篇 南米探険
第19章 高島丸
第20章 鉈理屈
第21章 喰へぬ女
第22章 高砂上陸
跋(暗闇)
余白歌
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第28巻(卯の巻)
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(B)
(N)
喰へぬ女 >>>
第二〇章
鉈理屈
(
なたりくつ
)
〔八二〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
篇:
第4篇 南米探険
よみ(新仮名遣い):
なんべいたんけん
章:
第20章 鉈理屈
よみ(新仮名遣い):
なたりくつ
通し章番号:
820
口述日:
1922(大正11)年08月10日(旧06月18日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年8月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
常彦と春彦は、高姫にやたらなことを言わずに船中はおとなしくしているように懇願する。しかし高姫は反省するどころか、神がタルチールを使って自分を帆柱の上に上げて陸の様子を見させたのだ、とますます強弁する。
常彦と春彦は、船長に目を付けられないように船中では師弟の縁を切ってもらうことにした。高姫は怒って二人の縁を切り、さんざん憎まれ口を叩いた。
常彦はやけくそになって海に向かって宣伝歌を歌った。高姫への苛立ちを籠めつつも、三人そろって失われた宝珠を見つけ出してつつがなく聖地に帰ることができるよう、神に祈願をこらす歌を歌った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-12-12 16:54:09
OBC :
rm2820
愛善世界社版:
249頁
八幡書店版:
第5輯 442頁
修補版:
校定版:
258頁
普及版:
111頁
初版:
ページ備考:
001
常彦
(
つねひこ
)
、
002
春彦
(
はるひこ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
003
高姫
(
たかひめ
)
の
縛
(
いましめ
)
を
解
(
と
)
き、
004
抱起
(
だきおこ
)
し、
005
常彦
(
つねひこ
)
『
先生
(
せんせい
)
、
006
どうも
御座
(
ござ
)
いませなんだが、
007
大変
(
たいへん
)
な
危
(
あぶ
)
ないこつて
御座
(
ござ
)
いました。
008
モウどうぞこれから
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
は、
009
云
(
い
)
ひたい
事
(
こと
)
があつても
仰有
(
おつしや
)
らずに
辛抱
(
しんばう
)
して
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいませ。
010
両人
(
りやうにん
)
が
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
します』
011
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
はそれだから
腰抜
(
こしぬけ
)
といふのだよ。
012
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
団子
(
だんご
)
にせうと
餅
(
もち
)
にせうと、
013
三角
(
さんかく
)
にせうと、
014
四角
(
しかく
)
にせうと、
015
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
遊
(
あそ
)
ばす
国治立
(
くにはるたちの
)
尊
(
みこと
)
の
片腕
(
かたうで
)
とお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばす
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
016
たかの
知
(
し
)
れた
高島丸
(
たかしままる
)
の
船頭
(
せんどう
)
位
(
くらゐ
)
に
尾
(
を
)
を
巻
(
ま
)
いてなるものか、
017
ヘン
余
(
あんま
)
り
見損
(
みぞこな
)
ひをして
下
(
くだ
)
さるなや。
018
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
は
丁度
(
ちやうど
)
猫
(
ねこ
)
に
小判
(
こばん
)
を
見
(
み
)
せた
様
(
やう
)
なものだ。
019
小判
(
こばん
)
よりもダイヤモンドよりも
立派
(
りつぱ
)
な
光
(
ひかり
)
の
強
(
つよ
)
い、
020
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
御座
(
ござ
)
る。
021
チツと
確
(
しつか
)
りなさらぬか。
022
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
吾々
(
われわれ
)
を
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
をして
御座
(
ござ
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
023
仮令
(
たとへ
)
船頭
(
せんどう
)
の
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
や
千
(
せん
)
人
(
にん
)
、
024
束
(
たば
)
になつて
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
で、
025
指一本
(
ゆびいつぽん
)
さへさす
様
(
やう
)
な
高姫
(
たかひめ
)
ぢやありませぬぞえ』
026
春彦
(
はるひこ
)
『それでも
貴女
(
あなた
)
、
027
タルチールさまに
後手
(
うしろで
)
に
縛
(
しば
)
られ、
028
帆柱
(
ほばしら
)
へ
逆
(
さか
)
さまにして
吊
(
つ
)
り
上
(
あ
)
げられたぢやありませぬか』
029
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なん
)
とマア、
030
身魂
(
みたま
)
の
曇
(
くも
)
つた
者
(
もの
)
は、
031
御
(
お
)
神徳
(
かげ
)
の
頂
(
いただ
)
きようが
拙劣
(
へた
)
だから
困
(
こま
)
りますワイ。
032
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
一寸
(
ちよつと
)
高砂島
(
たかさごじま
)
の
様子
(
やうす
)
を
見
(
み
)
やうと
思
(
おも
)
ひ、
033
タルチールを
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
てて、
034
帆柱
(
ほばしら
)
の
上
(
うへ
)
まで
手
(
て
)
も
使
(
つか
)
はず、
035
足
(
あし
)
も
労
(
らう
)
せず、
036
エレベータ
式
(
しき
)
に
上
(
あ
)
げさしたのだよ。
037
何
(
なん
)
でも
人
(
ひと
)
は
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
038
善意
(
ぜんい
)
に
解釈
(
かいしやく
)
しなくてはなりませぬぞや。
039
それが
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまの
水
(
みづ
)
も
洩
(
も
)
らさぬ
結構
(
けつこう
)
なお
仕組
(
しぐみ
)
、
040
それだから
何時
(
いつ
)
も
身魂
(
みたま
)
を
研
(
みが
)
き
改心
(
かいしん
)
をなされと、
041
耳
(
みみ
)
が
蛸
(
たこ
)
になる
程
(
ほど
)
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
るのだよ。
042
タルチールの
奴
(
やつ
)
たうとう、
043
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御光
(
ごくわう
)
に
恐
(
おそ
)
れて、
044
どつかへ
鼠
(
ねずみ
)
の
様
(
やう
)
に
隠
(
かく
)
れて
了
(
しま
)
つた』
045
常彦
(
つねひこ
)
『
私
(
わたし
)
は
余
(
あま
)
り
感心
(
かんしん
)
して
目
(
め
)
も
碌
(
ろく
)
に
見
(
み
)
えず、
046
ハツキリした
事
(
こと
)
は
分
(
わか
)
りませぬが、
047
何
(
なん
)
でも
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
が
二人
(
ふたり
)
現
(
あら
)
はれて、
048
船頭
(
せんどう
)
さまに
何
(
なに
)
か
言
(
い
)
ひつけられたと
思
(
おも
)
へば、
049
船頭
(
せんどう
)
は
匆惶
(
さうくわう
)
として
綱
(
つな
)
をゆるめ、
050
あなたを
吊
(
つ
)
りおろして、
051
どつかへ
隠
(
かく
)
れましたよ』
052
高姫
(
たかひめ
)
『サアさうだから、
053
高姫
(
たかひめ
)
は
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
054
船頭
(
せんどう
)
の
奴
(
やつ
)
、
055
帆柱
(
ほばしら
)
の
上
(
うへ
)
へ
吊
(
つ
)
りあげて
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
、
056
余
(
あま
)
り
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御光
(
ごくわう
)
がきつうて、
057
目
(
め
)
が
眩
(
くら
)
みさうになり、
058
お
客
(
きやく
)
までが
目舞
(
めまひ
)
が
来
(
き
)
さうなので
代表者
(
だいへうしや
)
が
二人
(
ふたり
)
やつて
来
(
き
)
て、
059
船頭
(
せんどう
)
に
掛合
(
かけあ
)
ひ、
060
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ずおろしよつたのだ。
061
そこが
所謂
(
いはゆる
)
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
、
062
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
ある
所
(
ところ
)
だ。
063
こんな
水
(
みづ
)
も
洩
(
も
)
らさぬ
仕組
(
しぐみ
)
が、
064
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
分
(
わか
)
つて
堪
(
たま
)
るものかい』
065
常彦
(
つねひこ
)
『オイ
春彦
(
はるひこ
)
、
066
何
(
なん
)
とマア
剛情
(
がうじやう
)
な
先生
(
せんせい
)
だないか。
067
今日
(
けふ
)
と
云
(
い
)
ふ
今日
(
けふ
)
は
俺
(
おれ
)
も
本当
(
ほんたう
)
に
呆
(
あき
)
れて
了
(
しま
)
つたよ。
068
こんな
人
(
ひと
)
の
弟子
(
でし
)
だと
思
(
おも
)
はれたら、
069
それこそ
無事
(
ぶじ
)
に
高砂島
(
たかさごじま
)
へ
着
(
つ
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
やしないぞ。
070
大陸
(
たいりく
)
へ
上
(
あが
)
つてからなら、
071
はしやぎなりと、
072
法螺吹
(
ほらふ
)
くなりと、
073
如何
(
どう
)
なつと、
074
高姫
(
たかひめ
)
さまの
勝手
(
かつて
)
になさつてもよいが、
075
こんな
所
(
ところ
)
で
分
(
わか
)
りきつた
負惜
(
まけをし
)
みを
出
(
だ
)
し、
076
へらず
口
(
ぐち
)
を
叩
(
たた
)
き、
077
船長
(
せんちやう
)
に
憎
(
にく
)
まれたら
大変
(
たいへん
)
だぞ。
078
コりや
茲
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
にお
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
して、
079
師弟
(
してい
)
の
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
つて
貰
(
もら
)
ひ、
080
アカの
他人
(
たにん
)
となつて
了
(
しま
)
はうぢやないか。
081
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
切
(
き
)
つて
頂
(
いただ
)
かうと
云
(
い
)
ふのぢやない。
082
此
(
この
)
船
(
ふね
)
の
上
(
うへ
)
だけ、
083
表面
(
へうめん
)
的
(
てき
)
に
切
(
き
)
つて
貰
(
もら
)
ひたいのぢや』
084
春彦
(
はるひこ
)
『それは
至極
(
しごく
)
妙案
(
めうあん
)
だ。
085
直様
(
すぐさま
)
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
にお
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
さうぢやないか』
086
常彦
(
つねひこ
)
『
春彦
(
はるひこ
)
と
私
(
わたし
)
との
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
087
暫
(
しばら
)
くあなたと
師弟
(
してい
)
の
関係
(
くわんけい
)
を
絶
(
た
)
つて
下
(
くだ
)
さいませぬか。
088
それも
表面
(
へうめん
)
丈
(
だけ
)
で、
089
高砂島
(
たかさごじま
)
へ
無事
(
ぶじ
)
に
着
(
つ
)
いたならば、
090
又
(
また
)
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
りに
使
(
つか
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
091
さうせないと
険呑
(
けんのん
)
で
堪
(
たま
)
りませぬから……』
092
高姫
(
たかひめ
)
『
帳
(
ちやう
)
を
切
(
き
)
つてくれと
云
(
い
)
ふのかい。
093
お
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
から
言
(
い
)
はいでも、
094
高姫
(
たかひめ
)
の
方
(
はう
)
からお
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
なガラクタの
弱虫
(
よわむし
)
は、
095
足手纏
(
あしでまと
)
ひになつて
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
つたのだ。
096
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
くうるさいから、
097
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
らうと
思
(
おも
)
うたけれど、
098
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
に
見放
(
みはな
)
されたが
最後
(
さいご
)
、
099
乞食
(
こじき
)
一
(
ひと
)
つよう
致
(
いた
)
さぬ、
100
奴甲斐性
(
どかひしやう
)
なしだから、
101
可哀相
(
かはいさう
)
と
思
(
おも
)
つて
今
(
いま
)
まで
助
(
たす
)
けて
来
(
き
)
たのだ。
102
お
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
から
暇
(
ひま
)
くれと
云
(
い
)
ふのなら、
103
こつちは
得手
(
えて
)
に
帆
(
ほ
)
だ。
104
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
帳
(
ちやう
)
を
切
(
き
)
るから、
105
二度
(
にど
)
と
再
(
ふたた
)
び
高姫
(
たかひめ
)
の
目
(
め
)
に
障
(
さは
)
る
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
つて
下
(
くだ
)
さるな。
106
ガラクタ
野郎
(
やらう
)
奴
(
め
)
、
107
あゝ
盲万人
(
めくらまんにん
)
目明
(
めあ
)
き
一人
(
ひとり
)
とはよくも
言
(
い
)
うたものだ。
108
高姫
(
たかひめ
)
の
真
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
を
知
(
し
)
つて
呉
(
く
)
れる
者
(
もの
)
は
此
(
この
)
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
ばつかりだ。
109
人民
(
じんみん
)
を
相手
(
あひて
)
にする
位
(
くらゐ
)
うるさいものはないワイ。
110
サア
常
(
つね
)
、
111
春
(
はる
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
112
早
(
はや
)
くどつかへ
行
(
ゆ
)
きなさらぬか。
113
名残
(
なごり
)
惜
(
をし
)
さうに、
114
男
(
をとこ
)
らしうもない、
115
何
(
なに
)
マゴマゴして
居
(
を
)
るのだ、
116
エヽ』
117
と
頬
(
ほほ
)
をプツと
膨
(
ふく
)
らし、
118
体
(
からだ
)
を
角
(
かく
)
に
振
(
ふ
)
つて
甲板
(
かんばん
)
の
上
(
うへ
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
強
(
つよ
)
く
踏
(
ふ
)
みならし、
119
二三遍
(
にさんぺん
)
くるりと
廻
(
まは
)
つて
見
(
み
)
せた。
120
常彦
(
つねひこ
)
『モシモシ
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
121
さう
怒
(
おこ
)
つて
貰
(
もら
)
つては
堪
(
たま
)
りませぬ。
122
ホンの
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
の
間
(
あひだ
)
、
123
表
(
おもて
)
むき
丈
(
だけ
)
お
暇
(
ひま
)
を
下
(
くだ
)
されとお
願
(
ねがひ
)
して
居
(
を
)
るので
御座
(
ござ
)
います……なア
春彦
(
はるひこ
)
、
124
お
前
(
まへ
)
もさうだろう』
125
春彦
(
はるひこ
)
『さうだとも、
126
高姫
(
たかひめ
)
さまに
見
(
み
)
すてられて、
127
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
如何
(
どう
)
なるものか。
128
どうぞ
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
さう
短気
(
たんき
)
を
出
(
だ
)
さずに、
129
吾々
(
われわれ
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
を
善意
(
ぜんい
)
に
解釈
(
かいしやく
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
130
高姫
(
たかひめ
)
『
仮令
(
たとへ
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
でも
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
つたが
最後
(
さいご
)
、
131
アカの
他人
(
たにん
)
ぢや。
132
三日
(
みつか
)
や
五日
(
いつか
)
の
間
(
あひだ
)
縁
(
えん
)
切
(
き
)
るのは
邪魔
(
じやま
)
臭
(
くさ
)
い。
133
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
序
(
ついで
)
に
五六七
(
みろく
)
の
世
(
よ
)
の
末
(
すゑ
)
迄
(
まで
)
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
りますぞや。
134
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な
蛆虫
(
うじむし
)
がたかつて
居
(
ゐ
)
ると、
135
そこら
中
(
ぢう
)
がムザムザして
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
い。
136
あゝこれで
病晴
(
やまひは
)
れがしたやうだ。
137
縁
(
えん
)
切
(
き
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
138
師匠
(
ししやう
)
でも
弟子
(
でし
)
でもない。
139
どうぞ
早
(
はや
)
う、
140
どつこへなりと
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
141
見
(
み
)
ても
厭
(
いや
)
らしい、
142
胸
(
むね
)
が
悪
(
わる
)
うなる』
143
常彦
(
つねひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
144
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
う、
145
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
せとか、
146
厭
(
いや
)
らしいとか、
147
胸
(
むね
)
が
悪
(
わる
)
いとか、
148
丸
(
まる
)
で
座敷
(
ざしき
)
へ
青大将
(
あをだいしやう
)
が
這
(
は
)
うて
来
(
き
)
た
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますなア』
149
高姫
(
たかひめ
)
『きまつた
事
(
こと
)
だよ、
150
お
前
(
まへ
)
は
本当
(
ほんたう
)
の
阿呆
(
あはう
)
大将
(
だいしやう
)
だ。
151
グヅグヅしてをると、
152
線香
(
せんかう
)
を
立
(
た
)
ててくすべますぞ。
153
あゝ
面倒
(
めんだう
)
臭
(
くさ
)
い、
154
一昨日
(
おととひ
)
来
(
こ
)
い
一昨日
(
おととひ
)
来
(
こ
)
い』
155
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
156
歯
(
は
)
のぬけた
口
(
くち
)
から、
157
ブツブツと、
158
唾
(
つばき
)
を
矢
(
や
)
たらに、
159
両人
(
りやうにん
)
に
向
(
むか
)
つて
吹
(
ふ
)
きかける。
160
春彦
(
はるひこ
)
『
蛛蜘
(
くも
)
か
何
(
なん
)
ぞの
様
(
やう
)
に
一昨日
(
おととひ
)
来
(
こ
)
いとは、
161
そりや
余
(
あんま
)
りぢやありませぬか』
162
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は
蜘蛛
(
くも
)
だよ。
163
一寸先
(
いつすんさき
)
の
見
(
み
)
えぬ
暗雲
(
やみくも
)
の
雲助
(
くもすけ
)
だ。
164
今迄
(
いままで
)
高姫
(
たかひめ
)
のおかげで、
165
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
をして
威張
(
ゐば
)
つて
来
(
き
)
たが、
166
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
高姫
(
たかひめ
)
から
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
られたが
最後
(
さいご
)
、
167
雲助
(
くもすけ
)
にでもならねば
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか。
168
何程
(
なにほど
)
平
(
ひら
)
た
蜘蛛
(
くも
)
になつて
謝
(
あやま
)
つても、
169
苦悶
(
くもん
)
しても
駄目
(
だめ
)
ですよ。
170
オツホヽヽヽ』
171
常彦
(
つねひこ
)
は
稍
(
やや
)
顔色
(
かほいろ
)
を
赤
(
あか
)
らめ、
172
常彦
(
つねひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
173
吾々
(
われわれ
)
は
決
(
けつ
)
して
貴女
(
あなた
)
の
弟子
(
でし
)
ではありませぬよ。
174
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
の
教主
(
けうしゆ
)
から
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
を
命
(
めい
)
ぜられて
居
(
ゐ
)
る
者
(
もの
)
、
175
言
(
い
)
はばあなたと
同格
(
どうかく
)
だ。
176
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
長幼
(
ちやうえう
)
の
序
(
じよ
)
を
守
(
まも
)
り、
177
先輩
(
せんぱい
)
の
貴女
(
あなた
)
を
師匠
(
ししやう
)
と、
178
義務
(
ぎむ
)
上
(
じやう
)
から
尊敬
(
そんけい
)
して
居
(
を
)
る
丈
(
だけ
)
の
者
(
もの
)
、
179
弟子扱
(
でしあつかひ
)
をしておき
乍
(
なが
)
ら、
180
帳
(
ちやう
)
を
切
(
き
)
るも
切
(
き
)
らぬも
有
(
あ
)
るものか。
181
グヅグヅ
仰有
(
おつしや
)
ると、
182
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
から
絶交
(
ぜつかう
)
致
(
いた
)
しますよ……なア
春彦
(
はるひこ
)
、
183
お
前
(
まへ
)
もさうぢやないか』
184
春彦
(
はるひこ
)
『さう
聞
(
き
)
けばさうだ。
185
モシ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
186
誠
(
まこと
)
にお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
乍
(
なが
)
ら、
187
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
貴女
(
あなた
)
と
万劫
(
まんがふ
)
末代
(
まつだい
)
、
188
五六七
(
みろく
)
の
世
(
よ
)
の
末
(
すゑ
)
迄
(
まで
)
縁
(
えん
)
をきりますから、
189
否
(
いや
)
絶交
(
ぜつかう
)
しますから、
190
厭
(
いや
)
らしい……
阿呆
(
あほう
)
臭
(
くさ
)
いから
早
(
はや
)
く
何処
(
どこ
)
かへ
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
191
渋
(
しぶ
)
たうして
御座
(
ござ
)
ると
線香
(
せんかう
)
を
立
(
た
)
てますぞ。
192
アハヽヽヽ』
193
高姫
(
たかひめ
)
『それもよからう。
194
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
195
高姫
(
たかひめ
)
との
交際
(
かうさい
)
は
絶
(
た
)
つても、
196
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
に
離
(
はな
)
れる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい』
197
常彦
(
つねひこ
)
『
尤
(
もつと
)
も、
198
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
には
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
ですから、
199
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
離
(
はな
)
れは
致
(
いた
)
しませぬ。
200
春彦
(
はるひこ
)
、
201
お
前
(
まへ
)
もさうだらうなア』
202
春彦
(
はるひこ
)
『
勿論
(
もちろん
)
の
事
(
こと
)
だ』
203
高姫
(
たかひめ
)
『それ
御覧
(
ごらん
)
、
204
ヤツパリさうすると、
205
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
高姫
(
たかひめ
)
には
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
をせなくてはなりますまい』
206
常彦
(
つねひこ
)
『
誠
(
まこと
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
には
服従
(
ふくじゆう
)
しますが、
207
俄作
(
にはかづく
)
りの
自称
(
じしよう
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
には
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
致
(
いた
)
しませぬ。
208
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
に
玉
(
たま
)
を
隠
(
かく
)
されて、
209
隠
(
かく
)
され
場所
(
ばしよ
)
が
分
(
わか
)
らいで、
210
世界中
(
せかいぢう
)
うろつき
廻
(
まは
)
る
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまなら、
211
余
(
あんま
)
り
立派
(
りつぱ
)
な
身魂
(
みたま
)
でもあるまい。
212
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
所
(
どころ
)
か、
213
真暗
(
まつくら
)
がりのまつくろ
黒助
(
くろすけ
)
の
身魂
(
みたま
)
が
憑
(
うつ
)
つてゐる
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
の
鼻
(
はな
)
の
高姫
(
たかひめ
)
さま、
214
誰
(
たれ
)
が
馬鹿
(
ばか
)
らしい。
215
服従
(
ふくじゆう
)
する
者
(
もの
)
がありますか。
216
自惚
(
うぬぼれ
)
も
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
にしておいたが
宜
(
よろ
)
しからうぜ。
217
アツハヽヽヽ』
218
高姫
(
たかひめ
)
『
常彦
(
つねひこ
)
の
結構
(
けつこう
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
219
春彦
(
はるひこ
)
の
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
なデモ
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
220
勝手
(
かつて
)
にホラを
吹
(
ふ
)
き、
221
勝手
(
かつて
)
に
自惚
(
うぬぼれ
)
ておきなさい。
222
左様
(
さやう
)
なら』
223
と
体
(
からだ
)
をしやくり
乍
(
なが
)
ら、
224
足音
(
あしおと
)
荒
(
あら
)
く、
225
次
(
つぎ
)
の
船室
(
せんしつ
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
了
(
しま
)
つた。
226
常彦
(
つねひこ
)
は
甲板
(
かんばん
)
の
上
(
うへ
)
に
立
(
た
)
ち、
227
春彦
(
はるひこ
)
と
手
(
て
)
をつなぎ
高姫
(
たかひめ
)
の
去
(
さ
)
つた
後
(
あと
)
で、
228
いろいろと
高姫話
(
たかひめばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
229
焼糞
(
やけくそ
)
になつて、
230
海風
(
うなかぜ
)
に
向
(
むか
)
ひ
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
231
常彦
(
つねひこ
)
『
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
か
232
系統
(
ひつぽう
)
の
身魂
(
みたま
)
か
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
233
自負心
(
じふしん
)
強
(
つよ
)
い
鼻高
(
はなだか
)
の
234
男女郎
(
をとこめろう
)
の
高姫
(
たかひめ
)
に
235
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
づくめにたらされて
236
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
な
自転倒島
(
おのころ
)
の
237
秀妻
(
ほつま
)
の
国
(
くに
)
の
中心地
(
ちうしんち
)
238
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
を
後
(
あと
)
にして
239
遠
(
とほ
)
き
山坂
(
やまさか
)
打渡
(
うちわた
)
り
240
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
海原
(
うなばら
)
の
241
荒波
(
あらなみ
)
わけて
琉球
(
りうきう
)
の
242
島
(
しま
)
に
漸
(
やうや
)
く
上陸
(
じやうりく
)
し
243
言依別
(
ことよりわけ
)
や
国依別
(
くによりわけ
)
の
244
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひ
245
執念深
(
しふねんぶか
)
くも
麻邇
(
まに
)
の
玉
(
たま
)
246
高姫
(
たかひめ
)
さまの
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れて
247
人
(
ひと
)
も
羨
(
うらや
)
む
神業
(
しんげふ
)
に
248
奉仕
(
ほうし
)
せむとて
両人
(
りやうにん
)
が
249
欲
(
よく
)
の
皮
(
かは
)
をば
引
(
ひつ
)
ぱり
乍
(
なが
)
ら
250
可愛
(
かあい
)
い
女房
(
にようばう
)
をふりすてて
251
ここまで
来
(
き
)
たのが
馬鹿
(
ばか
)
らしい
252
琉球
(
りうきう
)
の
島
(
しま
)
へ
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
253
言依別
(
ことよりわけ
)
の
神
(
かみ
)
さまは
254
琉
(
りう
)
と
球
(
きう
)
との
宝玉
(
ほうぎよく
)
を
255
すでに
受取
(
うけと
)
り
国依別
(
くによりわけ
)
と
256
小舟
(
こぶね
)
に
乗
(
の
)
つて
高砂
(
たかさご
)
の
257
島
(
しま
)
に
行
(
ゆ
)
かれた
後
(
あと
)
だつた
258
高姫
(
たかひめ
)
さまは
気
(
き
)
をいらち
259
夜叉
(
やしや
)
の
如
(
ごと
)
くに
相恰
(
さうがう
)
を
260
変
(
か
)
へて
又
(
また
)
もや
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
り
261
フーリン
島
(
たう
)
や
台湾島
(
たいわんたう
)
262
後
(
あと
)
に
眺
(
なが
)
めて
漸
(
や
)
う
漸
(
や
)
うに
263
テルの
連峰
(
れんぽう
)
霞
(
かす
)
みつつ
264
目
(
め
)
に
入
(
い
)
る
迄
(
まで
)
に
近寄
(
ちかよ
)
りし
265
時
(
とき
)
しもあれや
生命
(
せいめい
)
の
266
綱
(
つな
)
とも
頼
(
たの
)
む
吾
(
わが
)
船
(
ふね
)
は
267
波間
(
なみま
)
に
潜
(
ひそ
)
む
暗礁
(
あんせう
)
に
268
衝突
(
しようとつ
)
なして
粉砕
(
ふんさい
)
し
269
何
(
なん
)
と
詮方
(
せんかた
)
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
270
辛
(
から
)
くも
進
(
すす
)
む
折柄
(
をりから
)
に
271
俄
(
にはか
)
に
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
荒風
(
あらかぜ
)
に
272
波
(
なみ
)
立
(
たち
)
さわぎ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
273
生命
(
せいめい
)
最早
(
もはや
)
これ
迄
(
まで
)
と
274
慌
(
あわ
)
てふためく
時
(
とき
)
もあれ
275
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
幸
(
さち
)
はひて
276
高島丸
(
たかしままる
)
は
走
(
は
)
せ
来
(
きた
)
り
277
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
三人
(
みたり
)
を
救
(
すく
)
ひあげ
278
船長室
(
せんちやうしつ
)
に
招
(
まね
)
かれて
279
国
(
くに
)
や
所
(
ところ
)
や
姓名
(
せいめい
)
を
280
一々
(
いちいち
)
詳
(
くは
)
しく
尋
(
たづ
)
ねられ
281
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
282
高姫
(
たかひめ
)
さまの
法螺貝
(
ほらがい
)
に
283
船長殿
(
せんちやうどの
)
も
舌
(
した
)
を
巻
(
ま
)
き
284
押
(
お
)
し
問答
(
もんだふ
)
の
末
(
すゑ
)
遂
(
つひ
)
に
285
高姫
(
たかひめ
)
さまを
発狂
(
はつきやう
)
と
286
見
(
み
)
なして
手足
(
てあし
)
を
縛
(
しば
)
りあげ
287
身
(
み
)
を
逆
(
さか
)
しまに
帆柱
(
ほばしら
)
に
288
クルリクルリと
巻
(
まき
)
あげる
289
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
は
肝
(
きも
)
潰
(
つぶ
)
し
290
驚
(
おどろ
)
き
倒
(
たふ
)
れて
居
(
を
)
る
内
(
うち
)
に
291
何処
(
どこ
)
の
人
(
ひと
)
かは
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
292
尊
(
たふと
)
き
二人
(
ふたり
)
の
影
(
かげ
)
見
(
み
)
えて
293
タルチールの
船長
(
せんちやう
)
に
294
何
(
なに
)
かヒソビソ
囁
(
ささや
)
けば
295
タルチールは
匆惶
(
さうくわう
)
と
296
畏
(
かしこ
)
まりつつ
高姫
(
たかひめ
)
を
297
即座
(
そくざ
)
にここに
巻
(
まき
)
おろし
298
一間
(
ひとま
)
の
内
(
うち
)
に
隠
(
かく
)
れ
行
(
ゆ
)
く
299
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
300
厳
(
きび
)
しき
縛
(
いまし
)
めとき
放
(
はな
)
ち
301
いと
親切
(
しんせつ
)
に
労
(
いた
)
はれば
302
高姫
(
たかひめ
)
さまのへらず
口
(
ぐち
)
303
分
(
わか
)
りきつたる
負惜
(
まけをし
)
み
304
流石
(
さすが
)
の
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
も
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
て
305
暇
(
ひま
)
を
呉
(
く
)
れよと
掛合
(
かけあ
)
へば
306
高姫
(
たかひめ
)
さまは
驚
(
おどろ
)
いて
307
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
帳
(
ちやう
)
きると
308
おどし
文句
(
もんく
)
を
並
(
なら
)
べ
立
(
た
)
て
309
ヤツサモツサと
嘅
(
いが
)
み
合
(
あ
)
ひ
310
揚句
(
あげく
)
の
果
(
はて
)
は
四股
(
しこ
)
をふみ
311
肩
(
かた
)
をゆすつてどこへやら
312
婆
(
ばば
)
の
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
された
313
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
314
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
315
折角
(
せつかく
)
茲
(
ここ
)
まで
来
(
き
)
た
三人
(
みたり
)
316
どうぞ
互
(
たがひ
)
に
睦
(
むつ
)
まじう
317
高砂島
(
たかさごじま
)
に
上陸
(
じやうりく
)
し
318
麻邇
(
まに
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
所在
(
ありか
)
をば
319
索
(
もと
)
めて
聖地
(
せいち
)
に
恙
(
つつが
)
なく
320
帰
(
かへ
)
らせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
321
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
322
常彦
(
つねひこ
)
、
春彦
(
はるひこ
)
謹
(
つつし
)
みて
323
畏
(
かしこ
)
み
畏
(
かしこ
)
み
願
(
ね
)
ぎまつる
324
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
325
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
326
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
舞
(
ま
)
ひ
狂
(
くる
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
327
左右
(
さいう
)
一丈
(
いちぢやう
)
計
(
ばか
)
りの
羽
(
はね
)
を
拡
(
ひろ
)
げた
信天翁
(
あはうどり
)
は
二人
(
ふたり
)
の
頭上
(
づじやう
)
を
掠
(
かす
)
めて
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
潔
(
いさぎよ
)
く
翺翔
(
かうしやう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
328
(
大正一一・八・一〇
旧六・一八
松村真澄
録)
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(N)
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