霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 混乱戦(こんらんせん)〔八〇八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻 篇:第2篇 暗黒の叫 よみ(新仮名遣い):あんこくのさけび
章:第8章 混乱戦 よみ(新仮名遣い):こんらんせん 通し章番号:808
口述日:1922(大正11)年08月08日(旧06月16日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年8月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
エールは二三の供人らとともに聖地を脱出し、泰安城近くの山に身を忍ばせて、形成を伺っていた。
聖地の重臣たちは出陣と意向を固め、泰安城に攻め寄せることとなった。真道彦は必死で自分の意ではないことを説いて回ったが、重臣たちは真道彦の言を逆に取り、逆に真道彦も推されて出陣することになってしまった。
日楯・月鉾をそれぞれ天嶺、泰嶺の要所に守りとして残し、聖地にはヤーチン姫、マリヤス姫を残して、三万の兵を率いて泰安城に向かった。
先に泰安城付近に潜んでいたエールは、数十人の部下を集めていた。そして、真道彦の神軍を待ち伏せていた。エールたちを見た、真道彦軍先頭のテールスタンは、仲間割れはやめて共に闘おうと呼びかけた。
エールは感激し、カールス王救出のために一軍を割いてくれないかとテールスタンに頼み込んだ。テールスタンは自分が率いる軍を、カールス王の救出に向かわせることになった。
セールス姫一派のサアルボースは、カールス王を幽閉した淡渓の館を警護していた。トロレンスは王を自分の手中に収めようと、淡渓の館を取り囲んだ。
落城寸前の状況に、サアルボースはカールス王に自害を迫り、王が承諾しないと自ら手を下そうとした。すると一塊の大火光が落下して、サアルボースは失神して倒れてしまった。
トロレンスは勝ちに乗じて館に乱入しようとしたが、そこへテールスタンとエールの神軍が現れ、不意を付かれたトロレンス軍は泰安城方面に敗走した。正気づいたサアルボースも、三五教軍が現れたことに驚いてその場を逃げ出した。
テールスタンとエールはカールス王を救い出し、淡渓をさかのぼった新高山の岩窟を仮の城塞となして立て籠もり、状況を窺うこととなった。
泰安城はセールス姫軍の本体が守り、シャーカルタンの革命軍を防いでいた。そこへテールスタンの一隊が攻め寄せたため、シャーカルタン軍は窮地に陥った。
また、真道彦軍の本隊も到着して攻め寄せたが、はからずもテールスタン軍と衝突してしまった。テールスタン軍は敗走して、新高山岩窟に逃げ帰った。テールスタンは、真道彦のことをカールス王に讒言したため、王は真道彦を疑うこととなった。
真道彦軍は泰安城をセールス姫一派らから奪い返すと、三五教の大神を祀り、戦勝の祝いの宴を開いた。
真道彦は、聖地からヤーチン姫、マリヤス姫を泰安城に招いた。そして、新高山の岩窟にカールス王が隠れていることを知ると、王を城に迎えようと重臣を使いに出した。しかし使いはいつまで待っても帰ってこなかった。そのため後から数人の重臣を使いに出したが、いずれも帰ってこなかった。
真道彦はマリヤス姫に泰安城を任せると、ついに自らヤーチン姫とともに、王の元に向かうこととなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-11-21 17:46:35 文字数:3782 OBC :rm2808
愛善世界社版:96頁 八幡書店版:第5輯 387頁 修補版: 校定版:99頁 普及版:45頁 初版: ページ備考:
001 エールは乱暴(らんばう)を働(はたら)き、002大勢(おほぜい)に取巻(とりま)かれ、003進退(しんたい)谷(きは)まつて、004捷(すば)しこくも満座(まんざ)総立(さうだち)となつて立騒(たちさわ)いで居(ゐ)る人々(ひとびと)の股(また)をくぐり、005聖地(せいち)を後(あと)に、006二三(にさん)の知己(ちき)と共(とも)に、007アーリス山(ざん)を越(こ)え、008泰安城(たいあんじやう)の間近(まぢか)の山(やま)に身(み)を忍(しの)ばせ、009形勢(けいせい)如何(いか)にと窺(うかが)ひつつあつた。
010 一方(いつぱう)八尋殿(やひろどの)に於(おい)てはホールサース、011マールエース、012テールスタン、013ホーレンス其(その)他(た)の幹部(かんぶ)連(れん)は再(ふたた)び議論(ぎろん)の花(はな)を咲(さ)かした。014テールスタンは立上(たちあが)りて、015決心(けつしん)の色(いろ)を面(おもて)に現(あら)はし、016満座(まんざ)に向(むか)つて云(い)ふ。
017テールスタン『満場(まんぢやう)の諸君(しよくん)よ、018一時(いつとき)も早(はや)く出陣(しゆつぢん)を致(いた)さうでは御座(ござ)らぬか。019グヅグヅ致(いた)して居(を)れば、020シヤーカルタンやトロレンスの一派(いつぱ)の為(ため)に、021泰安城(たいあんじやう)を占領(せんりやう)せられ、022彼(かれ)が手(て)に依(よ)つてカールス王(わう)を救(すく)ひ出(だ)す事(こと)あらば、023吾(われ)等(ら)が今迄(いままで)の希望(きばう)も苦心(くしん)も全(まつた)く水泡(すゐほう)に帰(き)すべし。024六菖(ろくしやう)十菊(じつきく)の悔(くい)を後日(ごじつ)に残(のこ)すよりは、025若(し)かず、026一刻(いつこく)も早(はや)く衆(しう)を率(ひき)ゐ、027破竹(はちく)の勢(いきほひ)を以(もつ)て、028旗鼓(きこ)堂々(だうだう)と泰安城(たいあんじやう)に押寄(おしよ)せ、029セールス姫(ひめ)の一派(いつぱ)を撃退(げきたい)し、030且(か)つカールス王(わう)を救(すく)ひ、031シヤーカルタン、032トロレンスの一派(いつぱ)に先鞭(せんべん)をつけ、033本島(ほんたう)の統治権(とうぢけん)を掌握(しやうあく)致(いた)すは、034今(いま)を措(お)いて又(また)とある可(べか)らず。035千戴(せんざい)一遇(いちぐう)の此(この)好機(かうき)、036躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)して、037後日(ごじつ)に呑噬(どんぜい)の悔(くい)を残(のこ)す事(こと)勿(なか)れ。038如何(いか)に真道彦(まみちひこの)命(みこと)、039表面(へうめん)無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)を唱(とな)へ給(たま)へばとて、040決(けつ)して其(その)本心(ほんしん)には非(あら)ざるべし。041先(さき)んずれば人(ひと)を制(せい)すとかや、042吾(われ)等(ら)率先(そつせん)して衆(しう)を引率(いんそつ)し、043泰安城(たいあんじやう)に立向(たちむか)ひなば、044真道彦(まみちひこの)命(みこと)も、045ヤーチン姫(ひめ)も必(かなら)ず承諾(しようだく)し玉(たま)ふべし。046三五教(あななひけう)の教主(けうしゆ)として、047あらはに神軍(しんぐん)を率(ひき)ゐ、048泰安城(たいあんじやう)の主権(しゆけん)を握(にぎ)らむなどとは口外(こうぐわい)し玉(たま)はざるは当然(たうぜん)である。049そこは吾々(われわれ)幹部(かんぶ)たる者(もの)一(いち)を聞(き)いて十(じふ)を悟(さと)るの知識(ちしき)なかる可(べか)らず。050学(がく)古今(ここん)を絶(ぜつ)し、051識(しき)東西(とうざい)を貫(ぬ)き玉(たま)ふ教主(けうしゆ)にして、052目前(もくぜん)に落下(らくか)し来(きた)る此(この)天運(てんうん)を袖手(しうしゆ)傍観(ばうくわん)して受(う)け入(い)れ玉(たま)はざるの理(り)あらむや。053不肖(ふせう)乍(なが)らテールスタンの観察(くわんさつ)は謬(あやま)りますまい。054皆様(みなさま)、055何卒(なにとぞ)御(ご)賛成(さんせい)を願(ねが)ひませう』
056 一同(いちどう)は何(なん)となく心(こころ)勇(いさ)み、057歓声(くわんせい)をあげ、058賛意(さんい)を表(へう)しける。
059 茲(ここ)にホールサースを大将(たいしやう)と仰(あふ)ぎ、060マールエース、061テールスタンを副将(ふくしやう)とし、062日月潭(じつげつたん)の信徒(しんと)を加(くは)へて、063殆(ほとん)ど三万(さんまん)有余(いうよ)人(にん)、064竹槍(たけやり)を携(たづさ)へ、065愈(いよいよ)時(とき)を移(うつ)さず、066泰安城(たいあんじやう)に立向(たちむか)ふ事(こと)となつた。
067 真道彦(まみちひこの)命(みこと)は大(おほい)に驚(おどろ)き、068一同(いちどう)に向(むか)つて吾(わが)意(い)にあらざる事(こと)を言葉(ことば)を尽(つく)して、069説(と)き明(あか)せ共(ども)、070逸(はや)り切(き)つたる数多(あまた)の人々(ひとびと)、071真道彦(まみちひこ)の言葉(ことば)を却(かへ)つて逆(さか)に取(と)り、072容易(ようい)に一人(ひとり)として其(その)命(めい)に従(したが)ふ者(もの)はなかつた。073真道彦(まみちひこ)は止(や)むを得(え)ず、074幹部(かんぶ)其(その)他(た)に推(お)されて出陣(しゆつぢん)する事(こと)となつた。075日楯(ひたて)、076月鉾(つきほこ)の兄弟(きやうだい)を天嶺(てんれい)、077泰嶺(たいれい)の両所(りやうしよ)に残(のこ)し、078玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)にはヤーチン姫(ひめ)、079マリヤス姫(ひめ)をしてこれを守(まも)らしめ、080馬上(ばじやう)豊(ゆたか)に衆(しう)を率(ひき)ゐて、081心(こころ)ならずも泰安城(たいあんじやう)に向(むか)ふ事(こと)となつた。082あゝ真道彦(まみちひこの)命(みこと)の運命(うんめい)は如何(いか)になるらむか。
083 先(さき)に逃走(たうそう)したるエールは、084セールス姫(ひめ)の間者(かんじや)として玉藻山(たまもやま)に忍(しの)び入(い)り込(こ)みたるマルチル、085ウラール、086キングス、087トーマス、088マーシヤル等(ら)の一味(いちみ)と共(とも)に、089数十(すうじふ)人(にん)の部下(ぶか)を集(あつ)め、090アーリス山(ざん)の北麓(ほくろく)に、091真道彦(まみちひこ)の神軍(しんぐん)の到(いた)るを待伏(まちぶ)せて居(ゐ)た。092先頭(せんとう)に立(た)つたるテールスタンはこれを見(み)て大音声(だいおんじやう)、
093テールスタン『ヤア、094エール、095汝(なんぢ)は聖地(せいち)を脱出(だつしゆつ)し、096少数(せうすう)の一味(いちみ)の奴原(やつばら)を引率(いんそつ)し、097吾(われ)等(ら)が大軍(たいぐん)を待討(まちう)たむとするか。098弱小(じやくせう)の味方(みかた)を以(もつ)て、099雲霞(うんか)の如(ごと)き大軍(たいぐん)に抵抗(ていかう)せむとするは、100実(じつ)に険呑(けんのん)千万(せんばん)であらうぞ。101それよりも悔(く)い改(あらた)めて、102再(ふたた)び吾(わが)軍(ぐん)に加(くは)はり、103共(とも)に共(とも)に抜群(ばつぐん)の功名(こうみやう)を致(いた)さうではないか』
104と教(をし)ゆる様(やう)に言(い)つた。105エールは笑顔(ゑがほ)を以(もつ)てこれを迎(むか)へ、106つかつかとテールスタンの前(まへ)に近(ちか)づき、107堅(かた)く手(て)を握(にぎ)り、108両眼(りやうがん)より熱涙(ねつるい)を落(おと)し乍(なが)ら、
109エール『あゝテールスタンよ、110よくも云(い)つて下(くだ)さつた。111一(いち)時(じ)の怒(いか)りより聖場(せいぢやう)を脱出(だつしゆつ)し、112泰安(たいあん)の都(みやこ)近(ちか)く立帰(たちかへ)つて見(み)れば、113シヤーカルタンやトロレンスの勢(いきほひ)、114頗(すこぶ)る猖獗(せうけつ)にして侮(あなど)る可(べか)らず。115吾(われ)等(ら)少数(せうすう)の味方(みかた)を以(もつ)て彼(かれ)等(ら)に当(あた)るとも、116何(なん)の効果(かうくわ)もなきのみか、117却(かへつ)て自(みづか)ら滅亡(めつぼう)の淵(ふち)に飛(と)び込(こ)む如(ごと)きもので御座(ござ)る。118それに付(つ)いても、119カールス王(わう)の御(お)身(み)の上(うへ)、120サアルボースの一派(いつぱ)、121淡渓(たんけい)の館(やかた)を十重(とへ)廿重(はたへ)に取巻(とりま)き、122シヤーカルタンの寄手(よせて)に向(むか)つて王(わう)を奪(うば)はれまじと厳(きび)しく警固(けいご)し居(を)れば、123王(わう)の命(めい)は早(はや)旦夕(たんせき)に迫(せま)れり。124思(おも)ふにセールス姫(ひめ)一派(いつぱ)は、125シヤーカルタン等(ら)にカールス王(わう)を奪(うば)はれ、126これを擁立(ようりつ)して泰安城(たいあんじやう)に新(あたら)しき政事(せいじ)を布(し)くならば、127吾(われ)等(ら)一派(いつぱ)の一大事(いちだいじ)と心得(こころえ)、128王(わう)を寄手(よせて)に渡(わた)さじと全力(ぜんりよく)を籠(こ)めて守(まも)り居(ゐ)るものの如(ごと)し。129さり乍(なが)ら寄手(よせて)の勢(いきほひ)益々(ますます)猛烈(まうれつ)にして、130到底(たうてい)守(まも)る可(べか)らざるを知(し)らば、131サアルボースの一派(いつぱ)は後難(こうなん)を恐(おそ)れて、132王(わう)を弑(しい)し、133遁走(とんそう)するやも計(はか)り難(がた)し、134これを思(おも)へば一刻(いつこく)も猶予(いうよ)す可(べか)らず。135何卒(なにとぞ)三五教(あななひけう)の神軍(しんぐん)の一部(いちぶ)を吾(われ)に賜(たま)はらば、136王(わう)の生命(いのち)は安全(あんぜん)に守(まも)り奉(たてまつ)る事(こと)を得(え)む。137曲(ま)げて此(この)儀(ぎ)御(お)許(ゆる)しあれ』
138と言葉(ことば)を尽(つく)して頼(たの)み入(い)る。139テールスタンは直(ただ)ちに自己(じこ)の率(ひき)ゆる神軍(しんぐん)を以(もつ)てエールの請(こ)ふが儘(まま)に、140淡渓(たんけい)の王(わう)が館(やかた)に応援(おうゑん)の為(ため)、141出(い)で向(むか)ふ事(こと)となつた。
142 淡渓(たんけい)の館(やかた)にはサアルボースの部下(ぶか)の者(もの)十重(とへ)二十重(はたへ)に取巻(とりま)き王(わう)の警固(けいご)に当(あた)つて居(ゐ)る。143トロレンスの一隊(いつたい)は淡渓(たんけい)の館(やかた)に攻(せ)め寄(よ)せ、144王(わう)を奪(うば)はむとして、145サアルボースの部下(ぶか)と衝突(しようとつ)し、146互(たがひ)に一勝(いつしよう)一敗(いつぱい)、147死力(しりよく)を尽(つく)して戦(たたか)ひしが、148寄(よ)せ手(て)の勢(いきほひ)刻々(こくこく)に加(くは)はり、149サアルボースは最早(もはや)身(み)を以(もつ)て免(まぬが)るるの余儀(よぎ)なきに立到(たちいた)つた。150カールス王(わう)を敵手(てきしゆ)に渡(わた)しては、151後日(ごじつ)の為(ため)に面白(おもしろ)からずと、152今(いま)は覚悟(かくご)を極(き)め、153王(わう)に向(むか)つて自殺(じさつ)を逼(せま)り、154万一(まんいち)肯(がえ)んぜざれば、155サアルボース自(みづか)ら手(て)を下(くだ)して、156王(わう)を弑(しい)せむとする折(をり)しもあれ、157何処(いづこ)よりともなく、158一塊(いつくわい)の大火光(だいくわくわう)飛来(ひらい)して、159サアルボースの前(まへ)に爆発(ばくはつ)し、160大音響(だいおんきやう)を立(た)てた。161サアルボースは忽(たちま)ち失心(しつしん)して其(その)場(ば)に倒(たふ)れた。
162 トロレンスの寄手(よせて)は勝(かち)に乗(じやう)じて早(はや)くも館内(くわんない)に乱入(らんにふ)せむとする。163時(とき)しもあれ、164テールスタン、165エールの率(ひき)ゆる竹槍隊(たけやりたい)は雲霞(うんか)の如(ごと)く鬨(とき)を作(つく)つて此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、166忽(たちま)ち寄手(よせて)に向(むか)つて遮二(しやに)無二(むに)突込(つつこ)めば、167トロレンスを始(はじ)め全軍(ぜんぐん)狼狽(らうばい)の結果(けつくわ)、168泰安城(たいあんじやう)を指(さ)して敗走(はいそう)して了(しま)つた。
169 サアルボースは漸(やうや)くにして正気(しやうき)づき、170あたりを見(み)れば、171トロレンスの寄手(よせて)は影(かげ)もなく、172それに代(かは)つてテールスタン、173エールの三五軍(あななひぐん)の襲来(しふらい)せるに再(ふたた)び肝(きも)を潰(つぶ)し、174僅(わづか)に身(み)を以(もつ)て此(この)場(ば)を逃(のが)るる事(こと)を得(え)た。175テールスタン、176エールはカールス王(わう)の前(まへ)に出(い)で、177恭(うやうや)しく手(て)を仕(つか)へて王(わう)の危急(ききふ)を知(し)り、178遥々(はるばる)救援(きうゑん)に向(むか)ひし事(こと)を奏上(そうじやう)した。179王(わう)は立(た)つて両人(りやうにん)が手(て)を固(かた)く握(にぎ)り、180涙(なみだ)と共(とも)に感謝(かんしや)の辞(じ)を与(あた)へた。
181 これより二人(ふたり)は王(わう)を奉(ほう)じ、182淡渓(たんけい)を溯(さかのぼ)り新高山(にひたかやま)の岩窟(がんくつ)を仮(か)りの城塞(じやうさい)となし、183テールスタンは一軍(いちぐん)の半(なかば)を割(さ)いて泰安城(たいあんじやう)の攻撃(こうげき)に向(むか)ひ、184残(のこ)りの神軍(しんぐん)はエールこれを統率(とうそつ)し、185王(わう)の身辺(しんぺん)を堅(かた)く守(まも)り、186時機(じき)を窺(うかが)ひつつあつた。187これよりテールスタン、188エールの二人(ふたり)はカールス王(わう)の殊寵(しゆちよう)を蒙(かうむ)り、189得意(とくい)の時代(じだい)に見舞(みま)はるる事(こと)となりぬ。
190○
191 一方(いつぱう)泰安城(たいあんじやう)にてはセールス姫(ひめ)、192セウルスチン、193ホーロケースの大将株(たいしやうかぶ)、194城内(じやうない)の兵(へい)を指揮(しき)し、195華々(はなばな)しく立働(たちはたら)き、196容易(ようい)に落城(らくじやう)せず。197寄(よ)せ手(て)のシヤーカルタンの攻軍(こうぐん)も素(もと)より烏合(うがふ)の衆(しう)なれば、198稍(やや)厭気(いやき)を生(しやう)じ、199内訌(ないこう)を起(おこ)し、200内部(ないぶ)より瓦解(ぐわかい)せむとする危急(ききふ)の場合(ばあひ)であつた。
201 此(この)時(とき)淡渓(たんけい)より逃(に)げ去(さ)つたるサアルボースは、202散乱(さんらん)せる味方(みかた)を集(あつ)め、203応援(おうゑん)の為(ため)に此(この)場(ば)に集(あつ)まり来(きた)る。204民軍(みんぐん)の勢(いきほひ)は稍(やや)回復(くわいふく)し、205此(この)機(き)を逸(いつ)せず一挙(いつきよ)に攻(せ)め寄(よ)せむと城塞(じやうさい)を攀(よ)ぢ、206乱入(らんにふ)せむとする時(とき)しも、207テールスタンの率(ひき)ゆる一隊(いつたい)、208後方(こうはう)より鬨(とき)を作(つく)つて攻(せ)めよせ来(きた)り、209民軍(みんぐん)は内外(ないぐわい)より敵(てき)を受(う)け、210再(ふたた)び窮地(きうち)に陥(おちい)り最早(もはや)敗走(はいそう)の余儀(よぎ)なき立場(たちば)となつた。211此(この)時(とき)後方(こうはう)より真道彦(まみちひこの)命(みこと)の率(ひき)ゆる大軍(たいぐん)は、212ホールサース、213マールエースと共(とも)に軍(ぐん)を三隊(さんたい)に分(わか)ち、214三方(さんぱう)より泰安城(たいあんじやう)に攻寄(せめよ)せ来(きた)る。215此(この)勢(いきほひ)に辟易(へきえき)し、216セールス姫(ひめ)、217セウルスチン、218ホーロケース、219サアルボースも又(また)寄(よ)せ手(て)の民軍(みんぐん)も、220敵味方(てきみかた)の区別(くべつ)なく、221雪崩(なだれ)の如(ごと)く敗走(はいそう)したり。
222 茲(ここ)にテールスタンの率(ひき)ゆる三五軍(あななひぐん)と、223真道彦(まみちひこの)命(みこと)の率(ひき)ゆる三五軍(あななひぐん)とは、224ゆくりもなくも大衝突(だいしようとつ)を来(きた)し、225テールスタンは形勢(けいせい)非(ひ)なりと見(み)るより、226部下(ぶか)と共(とも)にカールス王(わう)の臨時(りんじ)の城塞(じやうさい)に引返(ひきかへ)し、227虚実(きよじつ)交々(こもごも)真道彦(まみちひこの)命(みこと)の暴状(ぼうじやう)を進言(しんげん)したり。228カールス王(わう)は怒(いか)り心頭(しんとう)に達(たつ)し、229如何(いか)にもして真道彦(まみちひこ)一派(いつぱ)を滅(ほろ)ぼさむと、230腕(うで)を扼(やく)し、231歯(は)を喰(く)ひしばり、232怒(いか)りの涙(なみだ)ハラハラと流(なが)し、233無念(むねん)さを堪(こら)へて居(ゐ)たり。
234 一方(いつぱう)真道彦(まみちひこの)命(みこと)の神軍(しんぐん)は悠々(いういう)として泰安城(たいあんじやう)に進(すす)み入(い)り、235真道彦(まみちひこの)命(みこと)を始(はじ)め、236ホールサース、237マールエースの副将(ふくしやう)以下(いか)、238ホーレンス、239ユートピヤール、240ツーレンス、241シーリンス、242ハーレヤール、243オーイツク、244ヒユーズ、245アンデーヤ、246ニユヂエール其(その)他(た)の勇将(ゆうしやう)と共(とも)に、247チユーリツクを脱(ぬ)ぎ捨(す)て戦勝(せんしよう)の酒宴(しゆえん)を催(もよほ)し、248数多(あまた)の軍卒(ぐんそつ)を犒(ねぎら)うた。249城内(じやうない)の奥殿(おくでん)には三五教(あななひけう)の大神(おほかみ)を斎(まつ)り、250戦勝(せんしよう)の礼代(いやしろ)として各神殿(かくしんでん)に音楽(おんがく)を奏(そう)し、251舞曲(ぶきよく)を演(えん)じ、252神慮(しんりよ)を慰(なぐさ)め、253城内(じやうない)は忽(たちま)ち天国(てんごく)楽園(らくゑん)の如(ごと)くになつて来(き)た。
254 真道彦(まみちひこの)命(みこと)はホールサースに命(めい)じ、255玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)に在(あ)るヤーチン姫(ひめ)、256マリヤス姫(ひめ)を奉迎(ほうげい)して泰安城(たいあんじやう)に帰(かへ)らるべしと、257信書(しんしよ)を持(も)たせ、258急遽(きふきよ)、259聖地(せいち)に遣(つか)はした。260又(また)一方(いつぱう)カールス王(わう)の御在処(みあらか)を探(さぐ)り得(え)たれば、261マールエースをして少(すこ)しの従者(じゆうしや)と共(とも)に、262王(わう)を泰安城(たいあんじやう)に奉迎(ほうげい)せしめむと、263急(いそ)ぎ派遣(はけん)したり。
264 ホールサースはヤーチン姫(ひめ)、265マリヤス姫(ひめ)を首尾(しゆび)克(よ)く迎(むか)へ帰(かへ)りたれ共(ども)、266何故(なにゆゑ)かマールエースは旬日(じゆんじつ)を経(ふ)れ共(ども)帰(かへ)り来(きた)らず、267何(なん)の音沙汰(おとさた)もなきに不審(ふしん)を抱(いだ)き、268此(この)度(たび)はホーレンスをして再(ふたた)び、269王(わう)を迎(むか)ふべく、270王(わう)の陣所(ぢんしよ)に差(さ)し向(む)けた。271これ又(また)幾日(いくにち)を経(ふ)るも何(なん)の音沙汰(おとさた)無(な)ければ、272ユートピヤール、273ツーレンス、274シーリンス、275ハーレヤールをして王(わう)を迎(むか)ふべく差(さ)し遣(つか)はしたれ共(ども)これ又(また)何(なん)の音沙汰(おとさた)も無(な)かりけり。
276 茲(ここ)に真道彦(まみちひこの)命(みこと)は稍(やや)不安(ふあん)の念(ねん)に駆(か)られ乍(なが)ら、277此(この)度(たび)はヤーチン姫(ひめ)を促(うなが)し、278自(みづか)ら王(わう)の隠(かく)れ家(が)に到(いた)りて、279泰安城(たいあんじやう)に奉迎(ほうげい)せむとし、280マリヤス姫(ひめ)其(その)他(た)に城(しろ)を守(まも)らしめ、281淡渓(たんけい)の上流(じやうりう)なる王(わう)の陣屋(ぢんや)に自(みづか)ら出張(しゆつちやう)したりける。
282(大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)
283(昭和一〇・六・七 王仁校正)
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