霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 麻(あさ)の紊(みだ)れ〔八〇六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻 篇:第1篇 高砂の島 よみ(新仮名遣い):たかさごのしま
章:第6章 麻の紊れ よみ(新仮名遣い):あさのみだれ 通し章番号:806
口述日:1922(大正11)年08月06日(旧06月14日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年8月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
カールス王は、嫌っていたセールス姫を王妃に押し付けられ、病を発して蟄居させられてしまった。セールス姫は従兄のセウルスチンと関係を結び、セウルスチンと共に暴政を敷いた。
国内は混乱し、至るところに騒乱が起こり、心ある人々は密かに国を出て玉藻山の聖地に逃れた。
一方、日楯は湖水のほとりで、アーリス山の木こりと称する男を助けた。男は、自分の娘がセウルスチンに目を付けられたのを拒否したため、斬り付けられて命からがら逃げてきたのだ、という。
介抱の結果、男の怪我は全快し、日楯の僕として忠実に働くようになった。しかしこの男・ハールは、実はセールス姫がつかわした間者であった。これ以外にも、二三の者が間者として玉藻山の聖地に入り込んだ。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-11-19 17:36:21 文字数:3713 OBC :rm2806
愛善世界社版:71頁 八幡書店版:第5輯 378頁 修補版: 校定版:72頁 普及版:32頁 初版: ページ備考:
001 泰安(たいあん)の都(みやこ)に於(お)けるカールス王(わう)は、002最愛(さいあい)のヤーチン姫(ひめ)を失(うしな)ひ、003怏々(あうあう)として楽(たのし)まず、004且(か)つ蛇蝎(だかつ)の如(ごと)く忌(い)み嫌(きら)ひし、005サアルボースの娘(むすめ)セールス姫(ひめ)を無理(むり)矢理(やり)に王妃(わうひ)に強要(きやうえう)され、006懊悩(おうなう)の結果(けつくわ)遂(つひ)に病(やまひ)を発(はつ)し、007淡渓(たんけい)の畔(ほとり)にささやかなる館(やかた)を作(つく)り、008これに静養(せいやう)の名(な)の下(もと)に、009蟄居(ちつきよ)せしめらるる事(こと)となつた。010而(しか)して四五(しご)の役員(やくゐん)、011館(やかた)の内外(ないぐわい)を警固(けいご)し、012他人(たにん)の出入(しゆつにふ)を厳禁(げんきん)しつつあつた。
013 セールス姫(ひめ)は吾(わが)父(ちち)のサアルボースを宰相(さいしやう)となし、014吾(あが)叔父(をぢ)に当(あた)るホーロケースを副宰相(ふくさいしやう)として、015新高山(にひたかやま)以北(いほく)の政権(せいけん)を握(にぎ)り、016且(かつ)バラモン教(けう)の教主(けうしゆ)を兼(か)ねて居(ゐ)た。017セールス姫(ひめ)の従兄(いとこ)にセウルスチンと云(い)ふ美男子(びだんし)があつた。018これはホーロケースの独息子(ひとりむすこ)である。
019 茲(ここ)にセールス姫(ひめ)の発起(ほつき)にて、020泰安(たいあん)の館(やかた)を改築(かいちく)し、021城塞(じやうさい)を築(きづ)き、022国民(こくみん)を使役(しえき)し、023殆(ほとん)ど三(さん)年(ねん)を費(つひ)やして漸(やうや)くにして宏大(くわうだい)なる城廓(じやうくわく)は築造(ちくざう)された。024何時(いつ)の間(ま)にやら、025セウルスチンとセールス姫(ひめ)の間(あひだ)には怪(あや)しき糸(いと)が結(むす)ばるる事(こと)となつた。026セウルスチンは殆(ほとん)ど城中(じやうちう)に坐臥(ざぐわ)し、027セールス姫(ひめ)の背後(はいご)に在(あ)りて、028凡(あら)ゆる暴政(ばうせい)を行(おこな)はしめた。
029 茲(ここ)に城内(じやうない)の重臣(ぢうしん)共(ども)はセウルスチンの傍若(ばうじやく)無人(ぶじん)なるに愛想(あいさう)をつかし、030怨嗟(ゑんさ)の声(こゑ)城(しろ)の内外(ないぐわい)に溢(あふ)るるに至(いた)つた。031国内(こくない)は各所(かくしよ)に騒擾(さうぜう)勃発(ぼつぱつ)し、032掠奪(りやくだつ)闘争(とうそう)日々(ひび)に行(おこな)はれ、033乱麻(らんま)の如(ごと)き状態(じやうたい)となつて了(しま)つた。034茲(ここ)に心(こころ)有(あ)る正(ただ)しき人々(ひとびと)は、035泰安城(たいあんじやう)を窃(ひそか)に脱出(だつしゆつ)して、036遠(とほ)く玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)に逃(のが)れ、037真道彦(まみちひこの)命(みこと)、038ヤーチン姫(ひめ)の教(をしへ)に従(したが)ひ、039花鳥(くわてう)風月(ふうげつ)を友(とも)として、040時(とき)の到(いた)るを待(ま)つ者(もの)踵(きびす)を接(せつ)するに至(いた)つた。
041 泰安城(たいあんじやう)にはセウルスチンの意(い)を迎(むか)へて、042吾(わが)身(み)の名利(めいり)栄達(ゑいだつ)を望(のぞ)む悪人(あくにん)のみ跋扈(ばつこ)し、043政教(せいけう)は日(ひ)に月(つき)にすたれて、044殆(ほとん)ど収拾(しうしふ)す可(べか)らざるに至(いた)り、045国内(こくない)の各地(かくち)には革命(かくめい)の煙花(のろし)上(あが)つて、046騒擾(さうぜう)を起(おこ)し、047民家(みんか)を焼(や)き、048婦女(ふぢよ)を辱(はづかし)め、049財物(ざいぶつ)を掠奪(りやくだつ)し、050乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)到(いた)らざるなく、051恰(あたか)も餓鬼(がき)畜生(ちくしやう)修羅道(しゆらだう)を現出(げんしゆつ)せし如(ごと)く、052混乱(こんらん)に混乱(こんらん)を重(かさ)ね、053呪咀(じゆそ)の声(こゑ)は五月蠅(さばへ)の如(ごと)く湧(わ)き充(み)ちた。054猛獣(まうじう)毒蛇(どくじや)は白昼(はくちう)に濶歩(くわつぽ)し、055鰐(わに)、056水牛(すゐぎう)などは池(いけ)、057沼(ぬま)などを根拠(こんきよ)とし、058民家(みんか)近(ちか)く襲(おそ)ひ来(きた)つて、059人(ひと)を傷(きず)つけ、060国内(こくない)恰(あたか)も阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)の惨状(さんじやう)を呈(てい)するに至(いた)つた。061され共(ども)民心(みんしん)を失(うしな)ひたる泰安城(たいあんじやう)のセールス姫(ひめ)を始(はじ)め、062サアルボース、063ホーロケースの威力(ゐりよく)を以(もつ)てしても、064最早(もはや)如何(いかん)ともする事(こと)能(あた)はざるに立到(たちいた)つた。
065 泰安城(たいあんじやう)は最早(もはや)風前(ふうぜん)の灯火(ともしび)と、066誰(たれ)云(い)ふとなく称(とな)ふるに至(いた)つた。067数多(あまた)の国人(くにびと)は遠(とほ)く難(なん)を避(さ)けて、068アーリス山(ざん)を越(こ)え、069天嶺(てんれい)、070泰嶺(たいれい)を始(はじ)め、071玉藻山(たまもやま)の聖地(せいち)に避難(ひなん)する者(もの)日夜(にちや)踵(きびす)を接(せつ)した。072中(なか)にも、
073ホールサース。074マールエース。075テールスタン。076ホーレンス。077ユウトピヤール。078ツーレンス。079シーリンス。080エール。081ハーレヤール。082オーイツク。083ヒユーズ。084アンデーヤ。085ニユージエール。
086などの錚々(そうそう)たる人物(じんぶつ)はヤーチン姫(ひめ)を中心(ちうしん)として三五教(あななひけう)の幹部(かんぶ)を組織(そしき)し、087表面(へうめん)的(てき)教理(けうり)を宣布(せんぷ)し乍(なが)ら、088時(とき)の到(いた)るを待(ま)つて、089泰安城(たいあんじやう)の佞人輩(ねいじんばら)を却(しりぞ)け、090カールス王(わう)を城内(じやうない)に迎(むか)へ入(い)れ、091ヤーチン姫(ひめ)を元(もと)の如(ごと)く妃(きさき)となして、092新(あらた)に善政(ぜんせい)を布(し)かむ事(こと)を心(こころ)私(ひそ)かに期待(きたい)しつつ、093盛(さかん)に教理(けうり)を宣布(せんぷ)し、094新高山(にひたかやま)以北(いほく)の地(ち)まで隈(くま)なく勢力(せいりよく)を扶植(ふしよく)しつつあつた。
095 セールス姫(ひめ)は国内(こくない)の日々(ひび)に乱(みだ)れ行(ゆ)くを、096吾(わが)身(み)の不心得(ふこころえ)より来(きた)りしものとは夢(ゆめ)にも知(し)らず、097セウルスチンを始(はじ)め其(その)他(た)の邪神(じやしん)共(ども)の誣言(ぶげん)を信(しん)じ、098斯(かく)の如(ごと)く吾(わが)領内(りやうない)の日々(ひび)に乱(みだ)れ行(ゆ)くは全(まつた)く玉藻山(たまもやま)の霊地(れいち)に、099三五教(あななひけう)の教(をしへ)を樹(た)つる真道彦(まみちひこの)命(みこと)頭領(とうりやう)となり、100ヤーチン姫(ひめ)、101マリヤス姫(ひめ)の王族(わうぞく)を擁立(ようりつ)し、102城内(じやうない)の重臣(ぢうしん)を言葉(ことば)巧(たくみ)に引付(ひきつ)け、103時(とき)を待(ま)つて泰安城(たいあんじやう)を攻(せ)め亡(ほろ)ぼし、104真道彦(まみちひこの)命(みこと)自(みづか)ら、105台湾(たいわん)全島(ぜんたう)を統一(とういつ)し、106政教(せいけう)の両権(りやうけん)を握(にぎ)るものとなし、107怨恨(えんこん)止(や)み難(がた)く、108種々(しゆじゆ)の画策(くわくさく)をめぐらせ共(ども)、109阿里山(アーリスざん)を区域(くゐき)として、110東南(とうなん)の地(ち)は容易(ようい)に近付(ちかづ)く可(べか)らず、111千思(せんし)万慮(ばんりよ)の結果(けつくわ)、112土民(どみん)の中(なか)より二三(にさん)の者(もの)を抜擢(ばつてき)し、113敵地(てきち)に深(ふか)く入(い)り込(こ)ませ、114其(その)内情(ないじやう)を探(さぐ)らしめつつありき。
115 アーリス山(ざん)を区域(くゐき)として東南(とうなん)の地方(ちはう)は、116花森彦(はなもりひこの)命(みこと)の子孫(しそん)及(およ)び遠祖(ゑんそ)真道彦(まみちひこの)命(みこと)の裔(すゑ)、117国内(こくない)に充(み)ち、118清廉(せいれん)潔白(けつぱく)の民(たみ)最(もつと)も多(おほ)きに引替(ひきか)へ、119新高山(にひたかやま)以北(いほく)の地(ち)は玉手姫(たまてひめ)の魔神(まがみ)の子孫(しそん)蕃殖(ばんしよく)して、120邪悪(じやあく)行(おこな)はれ、121天災(てんさい)地妖(ちよう)切(しき)りに到(いた)り、122住民(ぢうみん)は常(つね)に塗炭(とたん)の苦(くるし)みに陥(おちい)り、123一(いち)日(にち)として安(やす)き日(ひ)とてはなかつたのである。
124 花森彦(はなもりひこの)命(みこと)の直系(ちよくけい)なるアークス王(わう)の奇禍(きくわ)に係(かか)つて上天(しやうてん)せし後(あと)は、125カールス王(わう)病(やまひ)に罹(かか)り殆(ほとん)ど幽閉(いうへい)同様(どうやう)の身(み)となりたれば、126玉手姫(たまてひめ)の血(ち)を引(ひ)けるサアルボースの娘(むすめ)セールス姫(ひめ)の政権(せいけん)を握(にぎ)りてより、127其(その)混乱(こんらん)は急速度(きふそくど)を以(もつ)て増(ま)し来(きた)り、128今(いま)や国民(こくみん)怨嗟(えんさ)の声(こゑ)は天(てん)に冲(ちう)する如(ごと)く、129さしもに難攻(なんこう)不落(ふらく)として築造(ちくざう)させし泰安城(たいあんじやう)も、130何時(いつ)根底(こんてい)より顛覆(てんぷく)するやも計(はか)り難(がた)き情勢(じやうせい)に差迫(さしせま)つて居(ゐ)た。
131○
132 話(はなし)変(かは)つて、133日楯(ひたて)は天嶺(てんれい)の聖地(せいち)を後(あと)に、134玉藻(たまも)の湖辺(こへん)にユリコ姫(ひめ)の手(て)を携(たづさ)へ、135二三(にさん)の従者(じゆうしや)と共(とも)に湖面(こめん)を眺(なが)めて逍遥(せうえう)しつつあつた。136此(この)時(とき)捩鉢巻(ねぢはちまき)をした男(をとこ)、137額(ひたい)に血(ち)をタラタラと流(なが)し乍(なが)ら、138勢(いきほ)ひ込(こ)んで駆来(かけきた)り、139従者(じゆうしや)の一人(ひとり)に衝突(しようとつ)し、140ヨロヨロとして其(その)場(ば)にパタリと倒(たふ)れて人事(じんじ)不省(ふせい)となつた。141日楯(ひたて)は従臣(じうしん)に命(めい)じ、142湖水(こすゐ)の水(みづ)を彼(かれ)が面部(めんぶ)に注(そそ)がしめた。143彼(かれ)は漸(やうや)くにして正気(しやうき)に返(かへ)り、144額(ひたい)の血汐(ちしほ)を拭(ぬぐ)ひ乍(なが)ら、
145男(をとこ)『何(いづ)れの方様(かたさま)かは存(ぞん)じませぬが、146御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました上(うへ)に、147生命(いのち)迄(まで)も御(お)助(たす)け下(くだ)さいまして……此(この)御恩(ごおん)は決(けつ)して忘(わす)れは致(いた)しませぬ。148私(わたくし)はアーリス山(ざん)の渓谷(けいこく)に住居(ぢうきよ)致(いた)す樵夫(きこり)の一人(ひとり)で厶(ござ)います。149泰安城(たいあんじやう)のセールス姫(ひめ)が部下(ぶか)の悪者(わるもの)に虐(しへた)げられ、150生命(いのち)カラガラ何処(どこ)を当途(あてど)ともなく、151ここ迄(まで)逃(に)げて参(まゐ)りました。152斯(か)く云(い)ふ間(うち)にも如何(いか)なる追手(おつて)が来(きた)るやも計(はか)り知(し)れませぬ。153どうぞ一(いち)時(じ)も早(はや)く私(わたくし)を御(お)匿(かく)まひ下(くだ)さいますまいか』
154と落(おち)つかぬ態(てい)に頼(たの)み入(い)る。
155日楯(ひたて)『汝(なんぢ)はアーリス山(ざん)の渓谷(けいこく)に住(す)む樵夫(きこり)と聞(き)きしが、156何故(なにゆゑ)セールス姫(ひめ)の部下(ぶか)に追(お)はるる理由(りいう)あるか。157詳細(しやうさい)に物語(ものがた)れよ』
158となじれば、159其(その)男(をとこ)は涙(なみだ)を払(はら)ひ、
160樵夫(きこり)『私(わたくし)には親(おや)一人(ひとり)、161子(こ)一人(ひとり)の大切(たいせつ)なヨブと云(い)ふ娘(むすめ)が御座(ござ)いました。162私(わたくし)の名(な)はハールと申(まを)します。163セールス姫(ひめ)がセウルスチンと云(い)ふ立派(りつぱ)な大将(たいしやう)とアーリス山(ざん)に数多(あまた)の家来(けらい)を召連(めしつ)れ、164狩(かり)にお越(こ)し遊(あそ)ばした時(とき)、165吾(わが)草庵(さうあん)に立寄(たちよ)り玉(たま)ひ、166吾(わが)娘(むすめ)ヨブを見(み)て……此(この)女(をんな)を吾(わが)侍女(じぢよ)に奉(たてまつ)れよ……と仰(あふ)せられました。167天(てん)にも地(ち)にも、168親(おや)一人(ひとり)子(こ)一人(ひとり)の間柄(あひだがら)、169最愛(さいあい)の娘(むすめ)を泰安城(たいあんじやう)内(ない)深(ふか)く連(つ)れ行(ゆ)かれては、170最早(もはや)吾々(われわれ)は一生涯(いつしやうがい)親子(おやこ)の対面(たいめん)は叶(かな)ふまじと思(おも)ひました故(ゆゑ)、171いろいろと言葉(ことば)を尽(つく)して、172御(お)断(ことわ)りを申上(まをしあ)げますれば、173セウルスチンと云(い)ふ御(おん)大将(たいしやう)の御(お)言葉(ことば)に……然(しか)らば此(この)娘(むすめ)は吾(わが)女房(にようばう)に遣(つか)はすべし……と数多(あまた)の家来(けらい)に命(めい)じ、174無理(むり)矢理(やり)に泣(な)き叫(さけ)ぶ娘(むすめ)を引抱(ひつかか)え、175連(つ)れて行(ゆ)かれました。176私(わたくし)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)後(あと)を追(お)はむとすれば、177セウルスチンは一刀(いつたう)を引抜(ひきぬ)き、178吾(わが)眉間(みけん)に斬(き)りつけ、179猶(なほ)も数多(あまた)の家来(けらい)に命(めい)じ……彼(かれ)が生命(いのち)を取(と)れよ……と下知(げち)致(いた)しました。180数多(あまた)の家来衆(けらいしう)は私(わたし)の後(あと)を追(お)つかけ来(きた)る。181され共(ども)山途(やまみち)の勝手(かつて)を知悉(ちしつ)したる私(わたし)は、182巧(うま)く間道(かんだう)を通(とほ)り抜(ぬ)け、183漸(やうや)くにして此処迄(ここまで)逃(に)げのびました様(やう)な次第(しだい)で御座(ござ)います。184何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)早(はや)く御(お)匿(かく)まひ下(くだ)さいませ』
185と両手(りやうて)を合(あは)せ涙(なみだ)と共(とも)に頼(たの)み入(い)る。186日楯(ひたて)を始(はじ)めユリコ姫(ひめ)は之(これ)を憐(あはれ)み、187二三(にさん)の従者(じゆうしや)に彼(かれ)が身辺(しんぺん)を守(まも)らせ、188天嶺(てんれい)の聖地(せいち)に連(つ)れ帰(かへ)り親切(しんせつ)に介抱(かいほう)させ、189漸(やうや)くにして額(ひたい)の疵(きず)は全快(ぜんくわい)し、190茲(ここ)に日楯(ひたて)の従僕(しもべ)となつて忠実(ちうじつ)に仕(つか)ふる事(こと)となつた。191併(しか)し此(この)男(をとこ)はセールス姫(ひめ)が意(い)を含(ふく)めて遣(つか)はしたる間者(かんじや)なりけり。
192ヤーチン姫(ひめ)やマリヤス姫(ひめ)の
193珍(うづ)の命(みこと)やカールス王(わう)の
194泰安館(たいあんやかた)を出(い)でしより
195鳥(とり)なき里(さと)の蝙蝠(かうもり)と
196羽振(はぶ)りを利(き)かしセールス姫(ひめ)が
197傍若(ばうじやく)無人(ぶじん)の悪政(あくせい)に
198居(ゐ)たたまらず重臣(ぢうしん)は
199次第(しだい)々々(しだい)に逃走(たうそう)し
200玉藻(たまも)の山(やま)の霊場(れいぢやう)に
201身(み)を忍(しの)びつつ三五(あななひ)の
202教司(をしへつかさ)と身(み)を変(へん)じ
203花(はな)咲(さ)く春(はる)を待(ま)ち居(ゐ)たる
204サアルボースやホーロケースの両人(りやうにん)は
205カールス王(わう)を淡渓(たんけい)の
206森(もり)の彼方(あなた)に放逐(はうちく)し
207形(かたち)ばかりの館(やかた)を建(た)てて
208四五(しご)の部下(ぶか)をば派遣(はけん)しつ
209人(ひと)の出入(でいり)を警戒(けいかい)し
210苦(くる)しめ居(ゐ)たるぞ忌々(ゆゆ)しけれ。
211セールス姫(ひめ)は只(ただ)一人(ひとり)
212閨(ねや)淋(さび)しさに従兄(いとこ)なる
213セウルスチンを寝間(ねま)近(ちか)く
214招(まね)きて秘密(ひみつ)の謀計(はかりごと)
215酒池(しゆち)肉林(にくりん)の贅沢(ぜいたく)を
216極(きは)めて民(たみ)の苦(くる)しみは
217空(そら)吹(ふ)く風(かぜ)と聞(き)き流(なが)し
218あらむ限(かぎ)りの暴政(ばうせい)を
219行(おこな)ひければ国人(くにびと)は
220益々(ますます)塗炭(とたん)の苦(くるし)みに
221堪(たま)りかねてか遠近(をちこち)の
222山(やま)の尾(を)の上(へ)や川(かは)の瀬(せ)に
223三(さん)人(にん)五(ご)人(にん)と集(あつ)まりて
224大革命(だいかくめい)の謀計(はかりごと)
225目引(めひ)き袖引(そでひ)き語(かた)り合(あ)ふ
226暗夜(やみよ)とこそはなりにけれ。
227ヤーチン姫(ひめ)やマリヤス姫(ひめ)の
228珍(うづ)の命(みこと)は国内(こくない)の
229此(この)惨状(さんじやう)を耳(みみ)にして
230心(こころ)は矢竹(やたけ)と逸(はや)れども
231詮術(せんすべ)もなき今(いま)の身(み)の
232神(かみ)に祈(いの)りて木(こ)の花(はな)の
233開(ひら)くる春(はる)を待(ま)つばかり
234松(まつ)の名(な)に負(お)ふ高砂(たかさご)の
235胞衣(えな)と聞(きこ)えし此(この)島(しま)も
236今(いま)は果敢(はか)なき曲津身(まがつみ)の
237荒(あら)ぶる世(よ)とはなりにけり
238あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
239御霊(みたま)幸(さち)はひましませと
240朝(あさ)な夕(ゆふ)なに真心(まごころ)を
241こめてぞ祈(いの)る神(かみ)の前(まへ)
242真道彦(まみちのひこ)を始(はじ)めとし
243日楯(ひたて)、月鉾(つきほこ)諸共(もろとも)に
244日月潭(じつげつたん)の湖(みづうみ)に
245朝(あさ)な夕(ゆふ)なに禊(みそぎ)して
246高砂島(たかさごじま)の安泰(あんたい)を
247只管(ひたすら)祈(いの)る真心(まごころ)は
248いつしか願(ねが)ひ竜世姫(たつよひめ)
249国魂神(くにたまがみ)の功績(いさをし)に
250常夜(とこよ)の暗(やみ)も晴(は)れ渡(わた)り
251天津(あまつ)御空(みそら)に日(ひ)の神(かみ)の
252影(かげ)も豊(ゆたか)に昇(のぼ)りまし
253神(かみ)の御稜威(みいづ)も高砂(たかさご)の
254尾(を)の上(へ)の松(まつ)の末永(すえなが)く
255栄(さか)えよ栄(さか)え何時(いつ)迄(まで)も
256世(よ)は平(たひら)けく安(やす)らけく
257治(をさ)まりませと一同(いちどう)が
258朝(あさ)な夕(ゆふ)なの神言(かみごと)を
259神(かみ)も諾(うべ)なひ玉(たま)ふらむ
260あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
261御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
262三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)を
263此(この)神島(かみしま)に隈(くま)もなく
264完全(うまら)に委曲(つばら)に宣(の)り伝(つた)へ
265昔(むかし)の神代(かみよ)の其(その)儘(まま)の
266清(きよ)き心(こころ)に上下(うへした)の
267司(つかさ)も民(たみ)も睦(むつ)び合(あ)ひ
268栄(さか)え久(ひさ)しき松(まつ)の世(よ)を
269来(きた)させ玉(たま)へと真心(まごころ)を
270こめて祈(いの)るぞ尊(たふと)けれ。
271 セールス姫(ひめ)の間者(かんじや)として入(い)り込(こ)みしハールを始(はじ)め、272其(その)外(ほか)数名(すうめい)の間者(かんじや)、273日月潭(じつげつたん)を始(はじ)め、274玉藻(たまも)の山(やま)の聖地(せいち)に入(い)り込(こ)みたる件(けん)は、275一々(いちいち)述(の)ぶるも、276くどくどしければ、277今(いま)は之(こ)れを略(りやく)し事(こと)の序(ついで)に述(の)ぶる事(こと)となすべし。
278(大正一一・八・六 旧六・一四 松村真澄録)
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