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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第41巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 天空地平
第1章 入那の野辺
第2章 入那城
第3章 偽恋
第4章 右守館
第5章 急告
第6章 誤解
第7章 忍術使
第2篇 神機赫灼
第8章 無理往生
第9章 蓮の川辺
第10章 狼の岩窟
第11章 麓の邂逅
第12章 都入り
第3篇 北光神助
第13章 夜の駒
第14章 慈訓
第15章 難問題
第16章 三番叟
第4篇 神出鬼没
第17章 宵企み
第18章 替へ玉
第19章 当て飲み
第20章 誘惑
第21章 長舌
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第41巻(辰の巻)
> 第1篇 天空地平 > 第2章 入那城
<<< 入那の野辺
(B)
(N)
偽恋 >>>
第二章
入那
(
いるな
)
城
(
じやう
)
〔一一〇六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻
篇:
第1篇 天空地平
よみ(新仮名遣い):
てんくうちへい
章:
第2章 入那城
よみ(新仮名遣い):
いるなじょう
通し章番号:
1106
口述日:
1922(大正11)年11月10日(旧09月22日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年6月15日
概要:
舞台:
イルナ城(入那城、セーラン王の館)
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
イルナの国王セーラン王は、叔父で左守のクーリンスの娘ヤスダラ姫を許嫁としていたが、大黒主に取り入って勢力を増した右守カールチンは、無理矢理自分の娘を王妃にしてしまった。
ヤスダラ姫は外国の毘舎の娘に追いやられてしまっていた。王はそのことを思い悩んで落涙にむせんでいる。カールチンの娘サマリー姫は、王がヤスダラ姫のことを思い悩んで自分を嫌っていることから王と喧嘩し、狂気のごとく駆け出して実家に帰ってしまった。
クーリンスは王のところにやってきて、王が剛直なあまり短気を起こすとかえって右守の思うつぼになると諫言した。王はあくまでよこしまな勢力に屈するのは嫌だと決意を面に表す。
王と左守は不思議なことに、昨晩同じ夢を見ていた。北光彦の神という白髪異様の神人が現れて、鬼熊別の妻子が三五教宣伝使となってイルナの国を通るから、城に迎え入れればバラモン教の勢力に対抗できる、と示したという。
クーリンスは早速、黄金姫母娘を探すべく王の居間を去った。しばらくすると、右守カールチンの腹心ユーフテスが案内も通さずに王の間に入ってきて、王がサマリー姫と喧嘩したことをなじった。
ユーフテスは、すでにカールチンが大黒主に事の顛末を早馬で知らせたと言い、王に謹慎を迫った。王はユーフテスの横柄な振る舞いに怒り、カールチン一族を追放すると怒鳴りたてた。ユーフテスは王の権幕に怖気づき、すごすごと帰っていく。
次に、ヤスダラ姫の妹・セーリス姫が王のもとにやってきた。姫は、カールチンが王位を奪おうと、サマリー姫の件を大黒主に讒言したと伝えた。王は、カールチンの腹心ユーフテスが、セーリス姫に執心していると聞いて、姫に策を授けた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-06 11:13:33
OBC :
rm4102
愛善世界社版:
29頁
八幡書店版:
第7輯 540頁
修補版:
校定版:
29頁
普及版:
13頁
初版:
ページ備考:
001
入那
(
いるな
)
の
国
(
くに
)
のセーラン
王
(
わう
)
の
館
(
やかた
)
は
東西南
(
とうざいなん
)
に
広
(
ひろ
)
き
沼
(
ぬま
)
を
囲
(
めぐ
)
らし、
002
北
(
きた
)
の
一方
(
いつぱう
)
のみ
原野
(
げんや
)
につづいて
居
(
ゐ
)
る。
003
此
(
この
)
国
(
くに
)
では
最
(
もつと
)
も
風景
(
ふうけい
)
好
(
よ
)
く
且
(
かつ
)
要害
(
えうがい
)
よき
地点
(
ちてん
)
を
選
(
えら
)
み
王
(
わう
)
の
館
(
やかた
)
が
築
(
きづ
)
かれてある。
004
セーラン
王
(
わう
)
は
早朝
(
さうてう
)
より
梵
(
ぼん
)
自在天
(
じざいてん
)
の
祀
(
まつ
)
りたる
神殿
(
しんでん
)
に
昇
(
のぼ
)
りて
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らし、
005
終
(
をは
)
つて
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
り、
006
ドツカと
坐
(
ざ
)
して
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み
思案
(
しあん
)
にくれながら
独言
(
ひとりごと
)
、
007
セーラン王
『あゝ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
に
行
(
ゆ
)
かないものだなア。
008
忠誠
(
ちうせい
)
無比
(
むひ
)
の
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
クーリンスの
娘
(
むすめ
)
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
を
幼少
(
えうせう
)
の
頃
(
ころ
)
から
父王
(
ちちわう
)
の
命
(
めい
)
に
依
(
よ
)
り
許嫁
(
いひなづけ
)
と
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
たものを、
009
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
媚
(
こ
)
び
諂
(
へつら
)
ふ
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
カールチンの
勢力
(
せいりよく
)
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
増大
(
ぞうだい
)
し、
010
殆
(
ほとん
)
ど
吾
(
われ
)
をなきものの
如
(
ごと
)
くに
扱
(
あつか
)
ひ、
011
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
をテルマン
国
(
こく
)
の
毘舎
(
びしや
)
シヤールの
女房
(
にようばう
)
に
追
(
お
)
ひやり、
012
わが
最
(
もつと
)
も
嫌
(
きら
)
ふ
所
(
ところ
)
の
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
が
娘
(
むすめ
)
サマリー
姫
(
ひめ
)
を
后
(
きさき
)
に
致
(
いた
)
したとは、
013
実
(
じつ
)
に
下
(
しも
)
、
014
上
(
かみ
)
を
犯
(
をか
)
すとは
言
(
い
)
ひながら
無暴
(
むばう
)
の
極
(
きは
)
まりだ。
015
あゝヤスダラ
姫
(
ひめ
)
は
今頃
(
いまごろ
)
は
如何
(
どう
)
してゐるだろう。
016
一度
(
いちど
)
姫
(
ひめ
)
に
会
(
あ
)
つて
幼少
(
えうせう
)
からの
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
を
打明
(
うちあ
)
かし、
017
ユツクリと
物語
(
ものがた
)
つて
見
(
み
)
たいものだが、
018
吾
(
われ
)
は
刹帝利
(
せつていり
)
の
王族
(
わうぞく
)
、
019
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
は
最早
(
もはや
)
毘舎
(
びしや
)
の
女房
(
にようばう
)
と
迄
(
まで
)
なり
下
(
さが
)
つた
以上
(
いじやう
)
は
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
では
面会
(
めんくわい
)
も
叶
(
かな
)
ふまい。
020
一国
(
いつこく
)
の
王者
(
わうじや
)
の
身
(
み
)
でありながら、
021
一生
(
いつしやう
)
の
大事
(
だいじ
)
たる
許嫁
(
いひなづけ
)
の
最愛
(
さいあい
)
の
妻
(
つま
)
に
生
(
い
)
き
別
(
わか
)
れ、
022
斯様
(
かやう
)
な
苦
(
くる
)
しき
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
らねばならぬとは
如何
(
いか
)
なる
宿世
(
すぐせ
)
の
因縁
(
いんねん
)
か、
023
あゝヤスダラ
姫
(
ひめ
)
よ、
024
余
(
よ
)
が
心
(
こころ
)
を
汲
(
く
)
み
取
(
と
)
つてくれ』
025
と
追恋
(
つゐれん
)
の
情
(
じやう
)
に
堪
(
た
)
へかねて
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
落涙
(
らくるい
)
に
咽
(
むせ
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
026
かかる
所
(
ところ
)
へ
襖
(
ふすま
)
をサラリと
引
(
ひ
)
き
開
(
あ
)
け、
027
少
(
すこ
)
しく
顔色
(
かほいろ
)
を
変
(
か
)
へて
絹
(
きぬ
)
ずれの
音
(
おと
)
サラサラと
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
りしはサマリー
姫
(
ひめ
)
なりき。
028
サマリー姫
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
、
029
貴方
(
あなた
)
の
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
の
悪
(
わる
)
いこと、
030
一通
(
ひととほ
)
りや
二通
(
ふたとほり
)
りでは
厶
(
ござ
)
いませぬ。
031
妾
(
わらは
)
も
日夜
(
にちや
)
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
不機嫌
(
ふきげん
)
なお
顔
(
かほ
)
を
拝
(
をが
)
みましては
到底
(
たうてい
)
やりきれませぬから、
032
本日
(
ほんじつ
)
限
(
かぎ
)
りお
暇
(
ひま
)
を
賜
(
たまは
)
りたう
存
(
ぞん
)
じます』
033
と
意味
(
いみ
)
ありげに
声
(
こゑ
)
を
震
(
ふる
)
はせて
詰
(
なじ
)
る
様
(
やう
)
に
云
(
い
)
ふ。
034
王
(
わう
)
は
驚
(
おどろ
)
いてサマリー
姫
(
ひめ
)
の
顔
(
かほ
)
をツクヅクと
見守
(
みまも
)
りながら、
035
セーラン王
『
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
其方
(
そなた
)
の
言葉
(
ことば
)
、
036
何
(
なに
)
かお
気
(
き
)
に
障
(
さは
)
つたかなア』
037
サマリー姫
『いえいえ、
038
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
気
(
き
)
に
障
(
さは
)
る
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
りませぬ。
039
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
しても
誠忠
(
せいちう
)
無比
(
むひ
)
の
左守
(
さもり
)
の
司様
(
かみさま
)
のお
娘
(
むすめ
)
、
040
許嫁
(
いひなづけ
)
のおありなすつたヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
カールチンが
放逐
(
はうちく
)
して、
041
貴方
(
あなた
)
のお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らない
妾
(
わたし
)
を
后
(
きさき
)
に
納
(
い
)
れられたのですから、
042
貴方
(
あなた
)
の
日夜
(
にちや
)
の
御
(
ご
)
不快
(
ふくわい
)
は
無理
(
むり
)
も
厶
(
ござ
)
りませぬ。
043
最早
(
もはや
)
今日
(
けふ
)
となつては
妾
(
わらは
)
もやりきれませぬ。
044
互
(
たがひ
)
に
愛
(
あい
)
のない、
045
諒解
(
りやうかい
)
のない
夫婦
(
ふうふ
)
位
(
くらゐ
)
不幸
(
ふかう
)
なものは
厶
(
ござ
)
りませぬから、
046
妾
(
わらは
)
は
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
いましても、
047
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
りお
暇
(
ひま
)
を
頂
(
いただ
)
き
父
(
ちち
)
の
館
(
やかた
)
へ
下
(
さが
)
ります』
048
セーラン王
『これサマリー
姫
(
ひめ
)
、
049
今更
(
いまさら
)
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてくれては
困
(
こま
)
るぢやないか。
050
少
(
すこ
)
しは
私
(
わたし
)
の
身
(
み
)
にもなつて
呉
(
く
)
れたら
如何
(
どう
)
だ』
051
サマリー姫
『はい、
052
貴方
(
あなた
)
のお
嫌
(
きら
)
ひな
妾
(
わらは
)
がお
側
(
そば
)
に
仕
(
つか
)
へて
居
(
ゐ
)
ましては、
053
却
(
かへつ
)
て
貴方
(
あなた
)
のお
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませ
苦
(
くる
)
しめます
道理
(
だうり
)
、
054
妾
(
わらは
)
の
如
(
ごと
)
き
卑
(
いや
)
しき
身分
(
みぶん
)
の
者
(
もの
)
がヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
地位
(
ちゐ
)
を
奪
(
うば
)
ひ、
055
斯様
(
かやう
)
な
地位
(
ちゐ
)
に
置
(
お
)
かれるのは
実
(
じつ
)
に
心苦
(
こころぐる
)
しう
厶
(
ござ
)
ります。
056
提灯
(
ちやうちん
)
に
釣鐘
(
つりがね
)
、
057
月
(
つき
)
に
鼈
(
すつぽん
)
の
配偶
(
はいぐう
)
も
同様
(
どうやう
)
、
058
互
(
たがひ
)
に
苦情
(
くじやう
)
の
出
(
で
)
ない
間
(
うち
)
に
別
(
わか
)
れさして
下
(
くだ
)
さいましたならば、
059
妾
(
わらは
)
は
何程
(
なにほど
)
幸福
(
かうふく
)
だか
知
(
し
)
れませぬ。
060
今
(
いま
)
貴方
(
あなた
)
の
独言
(
ひとりごと
)
を
聞
(
き
)
くとはなくに
承
(
うけたま
)
はれば、
061
誠忠
(
せいちう
)
無比
(
むひ
)
の
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
の
娘
(
むすめ
)
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
を
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
のカールチンが
放逐
(
はうちく
)
し、
062
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬサマリー
姫
(
ひめ
)
を
后
(
きさき
)
に
納
(
い
)
れたのは
残念
(
ざんねん
)
だと
仰有
(
おつしや
)
つたでは
厶
(
ござ
)
いませぬか。
063
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもお
隠
(
かく
)
しなされても、
064
もう
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
065
妾
(
わらは
)
はこれから
父
(
ちち
)
の
家
(
いへ
)
に
帰
(
かへ
)
り、
066
父
(
ちち
)
より
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
へ
伺
(
うかが
)
ひを
立
(
た
)
て、
067
其
(
その
)
上
(
うへ
)
で
妾
(
わらは
)
の
身
(
み
)
の
振
(
ふ
)
り
方
(
かた
)
を
定
(
き
)
めて
頂
(
いただ
)
きますから、
068
何卒
(
なにとぞ
)
これまでの
縁
(
えん
)
と
思
(
おも
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
069
と
早
(
はや
)
立上
(
たちあが
)
らうとするを
王
(
わう
)
は
狼狽
(
あは
)
てて
姫
(
ひめ
)
の
袖
(
そで
)
を
引掴
(
ひつつか
)
み、
070
セーラン王
『さう
短気
(
たんき
)
を
起
(
おこ
)
すものではない。
071
其方
(
そなた
)
は
私
(
わし
)
を
困
(
こま
)
らさうと
致
(
いた
)
すのだな』
072
サマリー姫
『いえいえ、
073
お
困
(
こま
)
らし
申
(
まを
)
す
所
(
どころ
)
か、
074
貴方
(
あなた
)
がお
気楽
(
きらく
)
におなり
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
にと
気
(
き
)
をもんで
居
(
ゐ
)
るので
厶
(
ござ
)
ります。
075
左様
(
さやう
)
なら、
076
御免
(
ごめん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
077
と
王
(
わう
)
の
手
(
て
)
を
振
(
ふ
)
り
放
(
はな
)
し、
078
怒
(
いか
)
りの
血相
(
けつさう
)
物凄
(
ものすご
)
く
父
(
ちち
)
の
館
(
やかた
)
へ
指
(
さ
)
して
一目散
(
いちもくさん
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
079
セーラン
王
(
わう
)
は
姫
(
ひめ
)
の
狂気
(
きやうき
)
の
如
(
ごと
)
く
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した
後
(
あと
)
に
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
黙然
(
もくねん
)
として
頭
(
かうべ
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
080
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
運命
(
うんめい
)
は
如何
(
いか
)
になり
行
(
ゆ
)
くかと、
081
トツ、
082
オイツ
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れ
居
(
ゐ
)
たる。
083
其処
(
そこ
)
へシヅシヅと
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
るは
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
のクーリンスなりける。
084
クーリンスはセーラン
王
(
わう
)
の
父
(
ちち
)
バダラ
王
(
わう
)
の
弟
(
おとうと
)
であつて、
085
言
(
い
)
はば
王
(
わう
)
の
叔父
(
をぢ
)
に
当
(
あた
)
る
刹帝利
(
せつていり
)
族
(
ぞく
)
である。
086
クーリンス
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
、
087
今日
(
けふ
)
はお
早
(
はや
)
う
厶
(
ござ
)
います。
088
只今
(
ただいま
)
登城
(
とじやう
)
の
際
(
さい
)
、
089
館
(
やかた
)
の
者
(
もの
)
の
噂
(
うはさ
)
を
聞
(
き
)
けば、
090
サマリー
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
何
(
なに
)
か
王
(
わう
)
様
(
さま
)
と
争
(
いさか
)
ひでもなさつたと
見
(
み
)
え、
091
血相
(
けつさう
)
変
(
か
)
へて
数多
(
あまた
)
の
家来
(
けらい
)
共
(
ども
)
の
御
(
お
)
引留
(
ひきとめ
)
申
(
まを
)
すのも
聞
(
き
)
かず、
092
蹴倒
(
けたふ
)
し
薙払
(
なぎはら
)
ひ
一目散
(
いちもくさん
)
にカールチンの
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
られたさうで
厶
(
ござ
)
います。
093
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
の
家来
(
けらい
)
をカールチンの
館
(
やかた
)
へ
差向
(
さしむ
)
け、
094
姫
(
ひめ
)
を
迎
(
むか
)
へ
帰
(
かへ
)
るべく
取扱
(
とりあつか
)
つておきましたが、
095
一体
(
いつたい
)
如何
(
どん
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
つたので
厶
(
ござ
)
りますか。
096
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
カールチンは
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
大変
(
たいへん
)
なお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
り、
097
王
(
わう
)
様
(
さま
)
も
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
も
殆
(
ほとん
)
ど
眼中
(
がんちう
)
にないと
云
(
い
)
ふ
旭日
(
きよくじつ
)
昇天
(
しようてん
)
の
勢
(
いきほひ
)
で
御座
(
ござ
)
りますれば、
098
今
(
いま
)
サマリー
姫
(
ひめ
)
の
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そん
)
じ、
099
カールチンの
立腹
(
りつぷく
)
を
招
(
まね
)
かうものなら、
100
忽
(
たちま
)
ち
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
身辺
(
しんぺん
)
も
危
(
あやふ
)
う
厶
(
ござ
)
りませう。
101
誠
(
まこと
)
に
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ました』
102
セーラン王
『
何事
(
なにごと
)
も
天命
(
てんめい
)
と
諦
(
あきら
)
めるより
仕方
(
しかた
)
がない。
103
吾
(
われ
)
は
決
(
けつ
)
して
顕要
(
けんえう
)
の
地位
(
ちゐ
)
を
望
(
のぞ
)
まない。
104
仮令
(
たとへ
)
首陀
(
しゆだ
)
でも
何
(
なん
)
でも
構
(
かま
)
はぬ。
105
夫婦
(
ふうふ
)
が
意気
(
いき
)
投合
(
とうがふ
)
して
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
渡
(
わた
)
ることが
出来
(
でき
)
たならば、
106
此
(
この
)
上
(
うへ
)
ない
余
(
よ
)
としての
喜
(
よろこ
)
びはないのだ』
107
クーリンス
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
、
108
何
(
なん
)
とした、
109
つまらぬ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るのですか。
110
貴方
(
あなた
)
が
左様
(
さやう
)
なお
心
(
こころ
)
で
如何
(
どう
)
して
此
(
この
)
入那
(
いるな
)
の
国
(
くに
)
が
治
(
をさ
)
まりませうぞ。
111
少
(
すこ
)
しは
気
(
き
)
を
強
(
つよ
)
くもつて
下
(
くだ
)
さらないと
吾々
(
われわれ
)
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
の
働
(
はたら
)
きが
出来
(
でき
)
ないぢやありませぬか。
112
王
(
わう
)
様
(
さま
)
あつての
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
では
厶
(
ござ
)
りませぬか』
113
セーラン王
『もう
斯
(
か
)
うなる
以上
(
いじやう
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
仕方
(
しかた
)
がない。
114
サマリー
姫
(
ひめ
)
が
帰
(
かへ
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
115
屹度
(
きつと
)
カールチンは
日頃
(
ひごろ
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
を
遂
(
と
)
ぐるは
今
(
いま
)
此
(
この
)
時
(
とき
)
と、
116
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
力
(
ちから
)
を
借
(
か
)
つて
遂
(
つひ
)
には
吾
(
わが
)
地位
(
ちゐ
)
を
奪
(
うば
)
ひ、
117
入那
(
いるな
)
の
国
(
くに
)
を
掌握
(
しやうあく
)
する
事
(
こと
)
になるだろう。
118
如何
(
どう
)
なりゆくも
運命
(
うんめい
)
だと
余
(
よ
)
は
諦
(
あきら
)
めて
居
(
ゐ
)
る』
119
クーリンス
『
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
のカールチンが
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
傍若
(
ばうじやく
)
無人
(
ぶじん
)
の
振舞
(
ふるまひ
)
は
怪
(
け
)
しからぬ、
120
とは
云
(
い
)
ひながら、
121
もとを
糺
(
ただ
)
せば
王
(
わう
)
様
(
さま
)
が
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
退隠
(
たいいん
)
の
件
(
けん
)
に
就
(
つ
)
いて
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
遊
(
あそ
)
ばしたのが
原因
(
げんいん
)
となり、
122
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
腹心
(
ふくしん
)
の
者
(
もの
)
と
睨
(
にら
)
まれ
給
(
たま
)
うたのが
起
(
おこ
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
123
悪人
(
あくにん
)
の
覇張
(
はば
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
124
阿諛
(
あゆ
)
諂侫
(
てんねい
)
の
徒
(
と
)
は
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
勢力
(
せいりよく
)
を
張
(
は
)
り
天下
(
てんか
)
に
横行
(
わうかう
)
闊歩
(
くわつぽ
)
し、
125
至誠
(
しせい
)
忠直
(
ちうちよく
)
の
士
(
し
)
は
圧迫
(
あつぱく
)
される
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ですから、
126
少
(
すこ
)
しは
王
(
わう
)
様
(
さま
)
も
其
(
その
)
間
(
かん
)
の
消息
(
せうそく
)
をお
考
(
かんが
)
へ
遊
(
あそ
)
ばし、
127
社交
(
しやかう
)
的
(
てき
)
の
頭脳
(
づなう
)
になつて
頂
(
いただ
)
かねばなりますまい。
128
クーリンスは
心
(
こころ
)
に
染
(
そ
)
まぬ
事
(
こと
)
とは
知
(
し
)
りながら、
129
お
家
(
いへ
)
の
為
(
た
)
めを
思
(
おも
)
ひ
剛直
(
がうちよく
)
一途
(
いちづ
)
の
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し
涙
(
なみだ
)
を
呑
(
の
)
んで
御
(
ご
)
忠告
(
ちうこく
)
を
申上
(
まをしあ
)
げます』
130
セーラン王
『
仮令
(
たとへ
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
に
睨
(
にら
)
まれ、
131
国
(
くに
)
は
奪
(
と
)
らるるとも
王位
(
わうゐ
)
を
剥
(
は
)
がるるとも、
132
仮令
(
たとへ
)
吾
(
わが
)
生命
(
いのち
)
は
奪
(
うば
)
はるるとも、
133
吾
(
われ
)
は
断
(
だん
)
じて
邪悪
(
じやあく
)
に
与
(
くみ
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
134
放埒
(
ほうらつ
)
不羈
(
ふき
)
にして
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
限
(
かぎ
)
りを
尽
(
つく
)
す
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
頤使
(
いし
)
に
甘
(
あま
)
んずるよりも、
135
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
の
趣旨
(
しゆし
)
に
賛
(
さん
)
し、
136
亡
(
ほろ
)
ぼさるるが
本望
(
ほんまう
)
だ。
137
あゝもう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
そんな
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れるな』
138
クーリンス
『だと
申
(
まを
)
して
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
打
(
う
)
ちやり
置
(
お
)
けば
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
になります』
139
セーラン王
『
余
(
よ
)
は
昨夜
(
さくや
)
の
夢
(
ゆめ
)
に、
140
北光彦
(
きたてるひこ
)
の
神
(
かみ
)
と
云
(
い
)
ふ
白髪
(
はくはつ
)
異様
(
いやう
)
の
神人
(
しんじん
)
顕
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り
諭
(
さと
)
し
給
(
たま
)
ふやう「
汝
(
なんぢ
)
の
一身
(
いつしん
)
を
始
(
はじ
)
め
入那
(
いるな
)
の
国家
(
こくか
)
は
実
(
じつ
)
に
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
の
秋
(
とき
)
に
瀕
(
ひん
)
せり、
141
之
(
これ
)
を
救
(
すく
)
ふに
一
(
ひと
)
つの
道
(
みち
)
がある。
142
それは
外
(
ほか
)
でもない、
143
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
の
妻子
(
さいし
)
なる
黄金姫
(
わうごんひめ
)
、
144
清照姫
(
きよてるひめ
)
は、
145
今
(
いま
)
や
三五教
(
あななひけう
)
の
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて
居
(
ゐ
)
る。
146
彼
(
かれ
)
はハルナの
都
(
みやこ
)
へ
言霊戦
(
ことたません
)
を
開始
(
かいし
)
すべく
出陣
(
しゆつぢん
)
の
途中
(
とちう
)
、
147
此
(
この
)
入那
(
いるな
)
の
国
(
くに
)
を
通過
(
つうくわ
)
すべければ、
148
彼
(
かれ
)
をカールチンの
部下
(
ぶか
)
の
捕
(
とら
)
へぬ
間
(
うち
)
に
汝
(
なんぢ
)
が
部下
(
ぶか
)
に
捜索
(
そうさく
)
せしめ、
149
密
(
ひそか
)
に
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
誘
(
いざな
)
ひ
帰
(
かへ
)
りなば、
150
カールチンやサマリー
姫
(
ひめ
)
の
勢力
(
せいりよく
)
如何
(
いか
)
に
強
(
つよ
)
くとも、
151
到底
(
たうてい
)
敵
(
てき
)
すべからず。
152
今
(
いま
)
や
大黒主
(
おほくろぬし
)
は
鬼春別
(
おにはるわけ
)
、
153
大足別
(
おほだるわけ
)
の
両将
(
りやうしやう
)
をして
大部隊
(
だいぶたい
)
の
軍卒
(
ぐんそつ
)
を
引率
(
いんそつ
)
せしめ
出陣
(
しゆつぢん
)
したる
後
(
あと
)
なれば、
154
今日
(
こんにち
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
勢力
(
せいりよく
)
は
前日
(
ぜんじつ
)
の
如
(
ごと
)
くならず、
155
早
(
はや
)
く
部下
(
ぶか
)
の
忠誠
(
ちうせい
)
なる
人物
(
じんぶつ
)
を
選
(
えら
)
み、
156
母娘
(
おやこ
)
両人
(
りやうにん
)
の
行手
(
ゆくて
)
を
擁
(
よう
)
し、
157
此
(
この
)
王城
(
わうじやう
)
にお
立寄
(
たちよ
)
りを
願
(
ねが
)
ふべし」との
事
(
こと
)
であつた。
158
クーリンス、
159
夢
(
ゆめ
)
であつたか
現
(
うつつ
)
であつたか、
160
余
(
よ
)
には
判然
(
はんぜん
)
と
分
(
わか
)
らないが、
161
屹度
(
きつと
)
これは
真実
(
しんじつ
)
であらうと
思
(
おも
)
ふ。
162
其方
(
そなた
)
は
如何
(
どう
)
思
(
おも
)
はるるか』
163
クーリンス
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
も
其
(
その
)
夢
(
ゆめ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になりましたか、
164
へー、
165
何
(
なん
)
と
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
があるものですな。
166
私
(
わたし
)
も
昨夜
(
さくや
)
その
夢
(
ゆめ
)
を
歴然
(
ありあり
)
と
見
(
み
)
ましたので、
167
実
(
じつ
)
は
夢
(
ゆめ
)
の
由
(
よし
)
を
申上
(
まをしあ
)
げむと
参
(
まゐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
ります。
168
こりや
屹度
(
きつと
)
正
(
ただ
)
しき
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
告
(
つ
)
げで
厶
(
ござ
)
りませう。
169
左様
(
さやう
)
ならば
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず
忠実
(
ちうじつ
)
なる
部下
(
ぶか
)
を
選
(
えら
)
んで
表面
(
へうめん
)
は
母娘
(
おやこ
)
を
生捕
(
いけど
)
ると
称
(
しよう
)
し、
170
迎
(
むか
)
へて
参
(
まゐ
)
る
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませう』
171
セーラン王
『
然
(
しか
)
らばクーリンス
殿
(
どの
)
、
172
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
其
(
その
)
用意
(
ようい
)
を
頼
(
たの
)
む』
173
クーリンス
『はい』
174
と
答
(
こた
)
へてクーリンスは
恭
(
うやうや
)
しく
暇
(
いとま
)
を
告
(
つ
)
げ
一目散
(
いちもくさん
)
に
吾
(
わが
)
家
(
や
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
175
王
(
わう
)
は
又
(
また
)
独
(
ひと
)
り
黙然
(
もくねん
)
として
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
み、
176
少
(
すこ
)
しく
光明
(
くわうみやう
)
にふれたやうな
気分
(
きぶん
)
にもなつて
居
(
ゐ
)
た。
177
セーラン王
『
昨夜
(
さくや
)
の
夢
(
ゆめ
)
が
実現
(
じつげん
)
したならば
自分
(
じぶん
)
も
亦
(
また
)
此
(
この
)
苦
(
く
)
が
逃
(
のが
)
れられるであらう。
178
うまく
行
(
ゆ
)
けば
再
(
ふたた
)
びヤスダラ
姫
(
ひめ
)
と
添
(
そ
)
ふことが
出来
(
でき
)
るかも
知
(
し
)
れない』
179
などと、
180
頼
(
たよ
)
りない
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
浮
(
う
)
かべながら
色々
(
いろいろ
)
と
考
(
かんが
)
へ
込
(
こ
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
181
そこへ
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
くカールチンの
一
(
いち
)
の
家来
(
けらい
)
と
聞
(
きこ
)
えたるユーフテスは、
182
虎
(
とら
)
の
威
(
ゐ
)
をかる
狐
(
きつね
)
の
勢
(
いきほひ
)
、
183
王者
(
わうじや
)
も
殆
(
ほとん
)
ど
眼中
(
がんちう
)
になき
有様
(
ありさま
)
にて、
184
案内
(
あんない
)
もなく
襖
(
ふすま
)
をサラリと
引
(
ひ
)
き
開
(
あ
)
け、
185
ユーフテス
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
、
186
只今
(
ただいま
)
カールチン
様
(
さま
)
のお
使
(
つかひ
)
で
参
(
まゐ
)
りましたが、
187
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
はサマリー
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
虐待
(
ぎやくたい
)
遊
(
あそ
)
ばし、
188
王者
(
わうじや
)
の
身
(
み
)
としてあるまじき
乱暴
(
らんばう
)
をお
働
(
はたら
)
きなさつたさうで
厶
(
ござ
)
りますな。
189
吾
(
わが
)
主人
(
しゆじん
)
カールチン
様
(
さま
)
は
表向
(
おもてむ
)
き
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
なり、
190
又
(
また
)
サマリー
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
父親
(
ちちおや
)
なれば、
191
王
(
わう
)
様
(
さま
)
にとつてはお
父
(
とう
)
様
(
さま
)
も
同然
(
どうぜん
)
で
厶
(
ござ
)
りませう。
192
親
(
おや
)
として
子
(
こ
)
の
不埒
(
ふらち
)
を、
193
何程
(
なにほど
)
王者
(
わうじや
)
なりとて
戒
(
いまし
)
められずには
居
(
を
)
れないと
云
(
い
)
つて、
194
ハルナの
都
(
みやこ
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
許
(
もと
)
に
早馬使
(
はやうまづかひ
)
をお
立
(
た
)
てになりました。
195
何分
(
なにぶん
)
のお
沙汰
(
さた
)
あるまで
別館
(
べつくわん
)
に
行
(
い
)
つて
御
(
ご
)
謹慎
(
きんしん
)
をなさりませ』
196
と
横柄面
(
わうへいづら
)
に
打
(
う
)
ちつけるやうに
云
(
い
)
ふ。
197
その
無礼
(
ぶれい
)
さ
加減
(
かげん
)
、
198
言語
(
ごんご
)
に
絶
(
ぜつ
)
した
振舞
(
ふるまひ
)
である。
199
王
(
わう
)
はカツと
怒
(
いか
)
り、
200
セーラン王
『
汝
(
なんぢ
)
、
201
臣下
(
しんか
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
余
(
よ
)
に
向
(
むか
)
つて
無礼
(
ぶれい
)
千万
(
せんばん
)
な、
202
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
は
聞
(
き
)
く
耳
(
みみ
)
もたぬ。
203
ユーフテス、
204
汝
(
なんぢ
)
が
主人
(
しゆじん
)
カールチンに
対
(
たい
)
して
余
(
よ
)
は
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
りサマリー
姫
(
ひめ
)
と
共
(
とも
)
に
暇
(
いとま
)
を
遣
(
つか
)
はす、
205
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
を
立出
(
たちい
)
で、
206
何処
(
どこ
)
へなりと
勝手
(
かつて
)
に
行
(
ゆ
)
けと
申伝
(
まをしつた
)
へよ』
207
と
声
(
こゑ
)
荒
(
あ
)
らげてグツと
睨
(
ね
)
めつけ
叱
(
しか
)
りつくれば、
208
ユーフテスは
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
王
(
わう
)
の
権幕
(
けんまく
)
に
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
り、
209
頭
(
あたま
)
をガシガシ
掻
(
か
)
きつつ、
210
狼
(
おほかみ
)
に
出会
(
であ
)
うた
痩犬
(
やせいぬ
)
の
様
(
やう
)
に
尾
(
を
)
を
垂
(
た
)
れ、
211
影
(
かげ
)
まで
薄
(
うす
)
くなつてシヨビ シヨビとして
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
212
セーラン王
『アハヽヽヽヽ、
213
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
の
悪人
(
あくにん
)
に
仕
(
つか
)
ふるユーフテス
奴
(
め
)
、
214
余
(
よ
)
が
一喝
(
いつかつ
)
に
遇
(
あ
)
うて
悄気返
(
せうげかへ
)
り、
215
初
(
はじ
)
めの
勢
(
いきほひ
)
何処
(
どこ
)
へやら、
216
スゴスゴ
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
其
(
その
)
有様
(
ありさま
)
、
217
ほんに
悪
(
あく
)
といふものはマサカの
時
(
とき
)
になれば
弱
(
よわ
)
いものだな、
218
アハヽヽヽヽ』
219
と
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
高笑
(
たかわら
)
ひして
居
(
ゐ
)
る。
220
そこへスタスタと
足早
(
あしばや
)
に
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのはヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
妹
(
いもうと
)
セーリス
姫
(
ひめ
)
なり。
221
セーリス姫
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
、
222
今日
(
けふ
)
は
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
なお
顔
(
かほ
)
を
拝
(
はい
)
し、
223
セーリス
姫
(
ひめ
)
誠
(
まこと
)
に
恐悦
(
きようえつ
)
に
存
(
ぞん
)
じます。
224
就
(
つ
)
きましては
早速
(
さつそく
)
ながら、
225
父
(
ちち
)
クーリンスの
命
(
めい
)
により
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
をも
顧
(
かへり
)
みず
罷
(
まか
)
り
出
(
い
)
でました。
226
カールチンは
年来
(
ねんらい
)
の
野心
(
やしん
)
を
成就
(
じやうじゆ
)
するは
今
(
いま
)
此
(
この
)
時
(
とき
)
と、
227
ハルナの
都
(
みやこ
)
へ
早馬使
(
はやうまづかひ
)
を
立
(
た
)
て
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
廃立
(
はいりつ
)
を
図
(
はか
)
つて
居
(
を
)
りまする。
228
就
(
つ
)
いては
吾
(
わが
)
父
(
ちち
)
クーリンスはそれに
対
(
たい
)
する
準備
(
じゆんび
)
も
致
(
いた
)
さねばなりませず、
229
家老
(
からう
)
のテームスに
命
(
めい
)
じ
黄金姫
(
わうごんひめ
)
母娘
(
おやこ
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
すべく
準備
(
じゆんび
)
の
最中
(
さいちう
)
なれば、
230
父
(
ちち
)
が
参
(
まゐ
)
る
暇
(
ひま
)
が
厶
(
ござ
)
りませぬので
不束
(
ふつつか
)
なる
女
(
をんな
)
の
妾
(
わらは
)
が
参
(
まゐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
ります。
231
又
(
また
)
父
(
ちち
)
が
幾度
(
いくど
)
も
登城
(
とじやう
)
致
(
いた
)
しますれば
右守
(
うもり
)
の
身内
(
みうち
)
の
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
に
益々
(
ますます
)
疑
(
うたが
)
はれ
事面倒
(
ことめんだう
)
となりますれば、
232
向後
(
かうご
)
を
慮
(
おもんぱか
)
り
妾
(
わらは
)
を
代理
(
だいり
)
として
参
(
まゐ
)
らせたので
厶
(
ござ
)
ります』
233
セーラン王
『あゝさうか。
234
事
(
こと
)
さへ
分
(
わか
)
れば
女
(
をんな
)
でも
結構
(
けつこう
)
だ。
235
時
(
とき
)
にセーリス
姫
(
ひめ
)
、
236
其方
(
そなた
)
はユーフテスに
今
(
いま
)
会
(
あ
)
はなかつたか』
237
セーリス姫
『ハイ、
238
只今
(
ただいま
)
お
廊下
(
らうか
)
で
会
(
あ
)
ひました。
239
大変
(
たいへん
)
な
悄気方
(
せうげかた
)
で
帰
(
かへ
)
つて
参
(
まゐ
)
りました。
240
あの
男
(
をとこ
)
は
実
(
じつ
)
に
好
(
す
)
かない
人物
(
じんぶつ
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
241
毎日
(
まいにち
)
日々
(
ひにち
)
妾
(
わらは
)
の
許
(
もと
)
へ
艶書
(
えんしよ
)
を
送
(
おく
)
り、
242
それはそれは
嫌
(
いや
)
らしい
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
参
(
まゐ
)
ります。
243
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
ります』
244
セーラン王
『ホー、
245
そりや
都合
(
つがふ
)
のいい
事
(
こと
)
だ。
246
これセーリス
姫
(
ひめ
)
、
247
近
(
ちか
)
う
近
(
ちか
)
う』
248
と
手招
(
てまね
)
きすれば、
249
セーリス
姫
(
ひめ
)
は「はい」と
答
(
こた
)
へて
王
(
わう
)
の
側近
(
そばちか
)
くににじり
寄
(
よ
)
る。
250
王
(
わう
)
は
姫
(
ひめ
)
の
耳
(
みみ
)
に
口寄
(
くちよ
)
せ
何事
(
なにごと
)
か
囁
(
ささや
)
けば、
251
セーリス
姫
(
ひめ
)
はニツコと
笑
(
わら
)
つて
打頷
(
うちうなづ
)
き
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
252
(
大正一一・一一・一〇
旧九・二二
北村隆光
録)
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