霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 右守(うもり)館(やかた)〔一一〇八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第1篇 天空地平 よみ(新仮名遣い):てんくうちへい
章:第4章 右守館 よみ(新仮名遣い):うもりやかた 通し章番号:1108
口述日:1922(大正11)年11月10日(旧09月22日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
右守のカールチンは、妻のテーナと酒を酌み交わしながら、セーラン王を追放する姦策を謀っていた。テーナは、娘セーリス姫は内心王を慕っているので、自分たちの計略が王に漏れないかと心配する。
カールチンは、万一そのようなことがあれば娘を手討ちにすればよいと無慈悲さをあらわにする。テーナは、自分のためなら妻も娘もためらわずに犠牲にすると豪語するカールチンを非難する。
父母の話を立ち聞きしていたサマリー姫は、王への反逆の罪により父母に改心を迫るが、カールチンは姫を取り押さえるとしばりつけ、地下室に幽閉してしまった。
そこへ、カールチンの部下マンモスがあわただしく入ってきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-09 10:10:17 文字数:4727 OBC :rm4104
愛善世界社版:55頁 八幡書店版:第7輯 550頁 修補版: 校定版:56頁 普及版:27頁 初版: ページ備考:
001 右守(うもり)の司(かみ)カールチンは妻(つま)のテーナと共(とも)に酒(さけ)汲(く)み交(かは)しながら、002夜(よ)の更(ふ)くる迄(まで)、003ホロ酔(よひ)機嫌(きげん)になつて、004セーラン王(わう)追放(つゐはう)の奸策(かんさく)を謀(はか)つてゐる。
005テーナ姫『旦那(だんな)様(さま)、006今度(こんど)こそは大黒主(おほくろぬし)様(さま)も御(ご)承知(しようち)下(くだ)さるでせうなア。007セーラン王(わう)様(さま)は、008大黒主(おほくろぬし)様(さま)の最(もつと)も御(お)嫌(いや)な鬼熊別(おにくまわけ)の一派(いつぱ)だと云(い)ふ事(こと)を、009あれ丈(だけ)何回(なんくわい)も虚実(きよじつ)交々(こもごも)取交(とりま)ぜて内通(ないつう)しておいたのですから』
010カールチン『今度(こんど)こそは本望(ほんまう)成就(じやうじゆ)の時(とき)が来(き)たのだ。011いよいよ願望(ぐわんばう)成就(じやうじゆ)する上(うへ)は、012吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)は入那(いるな)の刹帝利(せつていり)となるのだから、013長生(ながい)きはせにやならないものだ。014今(いま)までサマリー姫(ひめ)を犠牲(ぎせい)にして后(きさき)に上(あ)げてゐたが、015どうやら王(わう)は俺(おれ)達(たち)の企(たく)みを悟(さと)つたらしく、016サマリー姫(ひめ)に対(たい)して、017大変(たいへん)にキツく当(あた)るので、018姫(ひめ)は泣(な)きもつて逃(に)げて帰(かへ)つて来(き)よつた。019グヅグヅしてゐると悪(あく)の企(たく)みの現(あら)はれ口(ぐち)だ。020先(さき)んずれば人(ひと)を制(せい)すと云(い)ふから、021姫(ひめ)が帰(かへ)つたのをキツカケに早馬使(はやうまづかひ)をハルナの都(みやこ)へ遣(つか)はしたのだから、022キツトこちらの使(つかひ)が、023先(さき)に到着(たうちやく)してるに違(ちが)ひない。024セーラン王(わう)が使(つかひ)をやつた所(ところ)で、025最早(もはや)あとのまつり、026何(なん)と俺(おれ)のやり方(かた)は敏捷(びんせう)なものだらう。027アハヽヽヽ』
028テーナ姫『旦那(だんな)様(さま)は何時(いつ)とても機(き)をみるに敏(びん)なる方(かた)ですから、029私(わたし)も貴郎(あなた)のやうな夫(をつと)に添(そ)うたのは何程(なにほど)幸福(かうふく)だか知(し)れませぬワ。030時(とき)に可哀相(かあいさう)なのはサマリー姫(ひめ)ぢや厶(ござ)いませぬか。031娘(むすめ)にトツクリと言(い)ひ含(ふく)めて、032セーラン王(わう)の后(きさき)に上(あ)げたのだけれど、033今(いま)ではどうやら親(おや)の意思(いし)は忘却(ばうきやく)し、034王(わう)様(さま)に恋着心(れんちやくしん)を持(も)つてゐるやうな塩梅(あんばい)だ。035実(ほん)に罪(つみ)な事(こと)をしたものですなア。036あゝして帰(かへ)つては来(き)て居(ゐ)るものの、037私(わたし)が考(かんが)へて居(を)れば、038寝言(ねごと)に迄(まで)王(わう)を慕(した)うてゐるのだから困(こま)つたものです。039さうだから如何(いか)に吾(わが)生(う)んだ娘(むすめ)だと云(い)つて、040此(この)計略(けいりやく)を、041今日(けふ)となつては娘(むすめ)の前(まへ)では云(い)ふ訳(わけ)には行(ゆ)かず、042万一(まんいち)娘(むすめ)が聞(き)かうものなら、043王(わう)に内通(ないつう)をするかも知(し)れませぬからなア』
044カールチン『そんな不心得(ふこころえ)な事(こと)を致(いた)し、045親(おや)に反(そむ)くやうな奴(やつ)は、046埒(らち)よく手討(てう)ちに致(いた)せばいいぢやないか。047こんな大望(たいまう)を抱(いだ)いてる吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)が、048子(こ)の一人(ひとり)二人(ふたり)犠牲(ぎせい)にするのは前(まへ)以(もつ)て覚悟(かくご)して居(ゐ)なくてはならぬではないか』
049テーナ姫『それは又(また)、050余(あま)り胴欲(どうよく)ぢや厶(ござ)りませぬか。051何程(なにほど)吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)が出世(しゆつせ)をしたとて、052肝腎(かんじん)の後(あと)を継(つ)ぐ子(こ)がなくては、053何(なん)にもなりますまい。054千(せん)年(ねん)も万(まん)年(ねん)も生(い)きられるものではなし、055子(こ)が可愛(かあい)いばかりに、056こんな心配(しんぱい)をして居(ゐ)るのぢやありませぬか』
057カールチン『さう云(い)へばさうだが、058諺(ことわざ)にも言(い)ふぢやないか、059子(こ)を捨(す)てる藪(やぶ)はあつても吾(わが)身(み)を捨(す)てる藪(やぶ)はないと。060まさかになつたら子(こ)をすてて自分(じぶん)の命(いのち)を全(まつた)うするのが当世(たうせい)だ…………イヤ人情(にんじやう)だ。061俺(おれ)だつて立派(りつぱ)に目的(もくてき)を達(たつ)し、062吾(わが)子(こ)に後(あと)を継(つ)がしたいのは山々(やまやま)だが、063その子(こ)のために陰謀(いんぼう)露顕(ろけん)して、064吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)の命(いのち)をとられるやうなことが出来(しゆつたい)致(いた)したら、065それこそ大変(たいへん)ぢやないか』
066テーナ姫『あなたは吾(わが)子(こ)に対(たい)し、067左様(さやう)な水臭(みづくさ)い御(お)考(かんが)へですか。068私(わたし)は自分(じぶん)の命(いのち)は如何(どう)ならうとも、069吾(わが)子(こ)さへ立派(りつぱ)になつてくれれば、070それで満足(まんぞく)を致(いた)します』
071カールチン『馬鹿(ばか)だなア、072それだから母親(ははおや)は甘(あま)いと云(い)ふのだ。073吾(わが)子(こ)だと云(い)つても、074体(からだ)を分(わ)けた以上(いじやう)は他人(たにん)ぢやないか。075其(その)証拠(しようこ)には吾(わが)子(こ)が何程(なにほど)大病(たいびやう)で苦(くる)しんで居(を)つても、076親(おや)の体(からだ)にチツとも痛痒(つうやう)を感(かん)じないではないか』
077テーナ姫『何(なん)とマアあなたはどこ迄(まで)も無慈悲(むじひ)な方(かた)ですなア。078私(わたし)は娘(むすめ)が大病(たいびやう)になつた時(とき)、079自分(じぶん)の体(からだ)が苦(くる)しくなつて寝(ね)られず、080出来(でき)る事(こと)なら、081娘(むすめ)に代(かは)つて患(わづら)うてやりたいと迄(まで)思(おも)ひましたよ』
082カールチン『俺(おれ)だつてチツとばかりは娘(むすめ)の苦(くる)しんでるのを見(み)た時(とき)は体(からだ)にこたへたが、083併(しか)し娘(むすめ)の苦痛(くつう)に比(くら)ぶれば、084二十分(にじふぶん)の一(いち)位(くらゐ)な苦(くる)しさだつた。085ヤツパリ自分(じぶん)が苦(くる)しむのは辛(つら)いから、086如何(どう)しても秘密(ひみつ)がばれるとあれば、087娘(むすめ)を手討(てうち)にしてでも、088夫婦(ふうふ)の命(いのち)を助(たす)からねばならない。089親(おや)の云(い)ふ事(こと)をきかぬ奴(やつ)は不孝者(ふかうもの)だから、090親(おや)が手討(てうち)にするのが、091何(なに)それが悪(わる)い。092アカの他人(たにん)でさへも吾々(われわれ)の秘密(ひみつ)をもらし、093規則(きそく)を破(やぶ)つたならば、094大根(だいこん)を切(き)るやうにヅボリヅボリと首(くび)を切(き)り捨(す)てるぢやないか。095切(き)られた奴(やつ)だつて、096ヤツパリ親(おや)も兄弟(きやうだい)も子(こ)もあるのだから、097苦(くる)しいのは同(おな)じ事(こと)だ。098そんな事(こと)を言(い)つてゐたら、099到底(たうてい)此(この)世(よ)に立派(りつぱ)に暮(くら)して行(ゆ)くことは出来(でき)ない。100自己(じこ)を守(まも)るのが第一(だいいち)だよ』
101テーナ姫『其(その)筆法(ひつぱふ)で参(まゐ)りますと、102あなたは自分(じぶん)の命(いのち)を助(たす)ける為(ため)に、103私(わたし)の命(いのち)を取(と)らねばならぬ時(とき)が来(き)たら、104私(わたし)を殺(ころ)しますか』
105カールチン『きまつた事(こと)だ。106夫(をつと)の為(ため)に女房(にようばう)が代理(だいり)となつて殺(ころ)され、107夫(をつと)の命(いのち)を救(すく)ふのは、108名誉(めいよ)ぢやないか。109後世(こうせい)迄(まで)貞女(ていぢよ)の鑑(かがみ)として謳(うた)はれるのだから、110殺(ころ)された女房(にようばう)の方(はう)が何程(なにほど)光栄(くわうえい)だか知(し)れないぞ』
111テーナ姫『貴郎(あなた)はハルナの都(みやこ)へお参(まゐ)りになつてから、112大変(たいへん)に冷酷(れいこく)になられましたなア。113大方(おほかた)八岐(やまた)の大蛇(をろち)が憑依(ひようい)してるのではありますまいか』
114カールチン『上(かみ)のなす所(ところ)下(しも)之(これ)に倣(なら)ふと云(い)ふ、115川上(かはかみ)の水(みづ)はキツと川下(かはしも)へ流(なが)れて来(く)るものだ。116俺(おれ)も大黒主(おほくろぬし)様(さま)のお気(き)に入(い)るやうになつた位(くらゐ)だから、117大功(たいこう)は細瑾(さいきん)を顧(かへり)みず、118チツとばかりの犠牲(ぎせい)位(くらゐ)は春風(はるかぜ)が面(おもて)を吹(ふ)く位(くらゐ)にも思(おも)つてゐないのだ』
119テーナ姫『さうすると、120貴郎(あなた)は大黒主(おほくろぬし)様(さま)が鬼雲姫(おにくもひめ)様(さま)を追出(おひだ)し遊(あそ)ばした様(やう)に、121外(ほか)に立派(りつぱ)な女(をんな)があつたら、122追(お)ひ出(だ)すのでせうなア』
123カールチン『オイ、124そこ迄(まで)追窮(つゐきう)するな、125水臭(みづくさ)くなるからなア』
126テーナ姫『ヘン、127よう仰有(おつしや)いますワイ。128親子(おやこ)は一世(いつせい)、129夫婦(ふうふ)は二世(にせ)と云(い)つて、130切(き)つても切(き)れぬ親子(おやこ)をば、131自己(じこ)保全(ほぜん)の為(ため)には殺(ころ)しても差支(さしつかへ)ないと云(い)ふ主義(しゆぎ)の貴郎(あなた)が、132何時(いつ)でも取替(とりか)へこの出来(でき)る女房(にようばう)に対(たい)し、133離縁(りえん)する位(くらゐ)は朝飯前(あさめしまへ)のことでせう。134本当(ほんたう)にここ迄(まで)思想(しさう)も悪化(あくくわ)すれば申分(まをしぶん)はありますまい』
135カールチン『コリヤ、136人(ひと)のことだと思(おも)ふと、137吾(わが)事(こと)だぞ。138貴様(きさま)もセーラン王(わう)を廃(はい)する事(こと)に就(つ)いて、139俺(おれ)と始終(しじう)相談(さうだん)をした悪人(あくにん)ぢやないか。140其(その)発頭人(ほつとうにん)は貴様(きさま)だらうがな。141貴様(きさま)が何時(いつ)も右守(うもり)となつてクーリンスの下役(したやく)になつてゐるのは腑甲斐(ふがひ)ない男(をとこ)だと、142口癖(くちぐせ)のやうに悔(くや)んだものだから、143元(もと)から善人(ぜんにん)でもない俺(おれ)が、144つい貴様(きさま)に感染(かんせん)してこんな善(よ)くもない、145自分(じぶん)としては悪(わる)くもない企(たく)みを始(はじ)めたのぢやないか』
146テーナ姫『オホヽヽヽようマアそんな白々(しらじら)しいことを仰有(おつしや)りますワイ、147流石(さすが)は大黒主(おほくろぬし)様(さま)のお気(き)に入(い)り丈(だけ)あつて、148エライ事(こと)を仰有(おつしや)りますなア』
149カールチン『夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)はいい加減(かげん)に切上(きりあ)げようぢやないか。150サマリー姫(ひめ)の耳(みみ)へ這入(はい)つたら大変(たいへん)だからのう』
151テーナ姫『ナアニ、152這入(はい)つたつて構(かま)ひますものか。153貴郎(あなた)はマサカ違(ちが)へば一人(ひとり)よりない娘(むすめ)を殺(ころ)し、154私(わたし)を鬼雲姫(おにくもひめ)様(さま)の二(に)の舞(まひ)にするといふ残酷(ざんこく)な御(ご)精神(せいしん)だから、155そんなこと思(おも)ふと阿呆(あはう)らしくて、156こんな危(あぶ)ない芸当(げいたう)は出来(でき)ませぬワ。157サマリー姫(ひめ)だつて貴郎(あなた)一人(ひとり)の子(こ)ではなし、158私(わたし)の腹(はら)を痛(いた)めて出来(でき)た娘(むすめ)、159そんな水臭(みづくさ)いことを仰有(おつしや)ると、160私(わたし)が承知(しようち)しませぬぞや』
161と話(はな)す所(ところ)へサマリー姫(ひめ)は目(め)を腫(はら)しながら、162恐(こは)さうに現(あら)はれ来(きた)り、
163サマリー姫『お父(とう)さま、164お母(か)アさま、165モウお寝(やす)みになつたら如何(いかが)で厶(ござ)いますか』
166 カールチンは打驚(うちおどろ)き、
167カールチン『お前(まへ)はサマリー姫(ひめ)、168何故(なぜ)今頃(いまごろ)にこんな所(ところ)へ出(で)て来(く)るのだ。169いい加減(かげん)に寝間(ねま)へ行(い)つて寝(やす)まないか。170大方(おほかた)二人(ふたり)の話(はなし)を立聞(たちぎき)したのだらう』
171サマリー姫『ハイ、172委細(ゐさい)の様子(やうす)残(のこ)らず承(うけたま)はりました。173どうぞ私(わたし)を御(ご)存分(ぞんぶん)に遊(あそ)ばして下(くだ)さいませ。174鬼(おに)の親(おや)を持(も)つたと思(おも)うて諦(あきら)めますから………』
175カールチン『コリヤ娘(むすめ)、176何(なん)と云(い)ふ事(こと)を申(まを)すか、177鬼(おに)の親(おや)とは何(なん)だ』
178サマリー姫『オホヽヽヽ此(この)サマリー姫(ひめ)は王(わう)様(さま)と争論(いさかひ)をしてカールチンの館(やかた)へ帰(かへ)つて来(き)ては居(ゐ)るものの、179実際(じつさい)を言(い)へば王(わう)の后(きさき)、180サマリー姫(ひめ)だよ。181親(おや)とは云(い)ひながら、182汝(なんぢ)は臣下(しんか)の身分(みぶん)だ。183不届(ふとどき)な事(こと)を申(まを)すと了簡(れうけん)は致(いた)さぬぞや。184サア存分(ぞんぶん)にして貰(もら)ひませう』
185と身(み)をすりよせ、186カールチンの前(まへ)に投出(なげだ)す。
187カールチン『ヨシ、188最早(もはや)陰謀(いんぼう)露(あら)はれた上(うへ)は、189到底(たうてい)許(ゆる)しておくべき汝(なんぢ)でない。190主従(しゆじゆう)もクソもあつたものかい。191サア覚悟(かくご)を致(いた)せ』
192と立上(たちあが)り、193刀(かたな)を掴(つか)み引抜(ひきぬ)かむとするを、194テーナはグツと其(その)手(て)を握(にぎ)り、
195テーナ姫『コレ、196カールチン殿(どの)、197滅多(めつた)な事(こと)をしてはなりませぬぞや』
198カールチン『今(いま)となつてはサマリー姫(ひめ)を殺(ころ)し、199陰謀(いんぼう)の露顕(ろけん)を防(ふせ)ぐよりほかに途(みち)はない。200サア覚悟(かくご)を致(いた)せ』
201と又(また)もや柄(つか)に手(て)をかけるを、202テーナは後(うしろ)より力限(ちからかぎ)りに抱(いだ)き止(と)め、203声(こゑ)を限(かぎ)りに、
204テーナ姫『サマリー姫(ひめ)殿(どの)、205早(はや)く逃(に)げさせられよ』
206と促(うなが)すを、207サマリー姫(ひめ)は平然(へいぜん)としてビクとも動(うご)かず、
208サマリー姫『ホツホヽヽ、209カールチン殿(どの)も随分(ずゐぶん)耄碌(まうろく)しましたねえ。210妾(わらは)一人(ひとり)の命(いのち)を取(と)つて、211それで此(この)陰謀(いんぼう)が現(あら)はれないと思(おも)つてゐますか。212最早(もはや)王(わう)様(さま)のお耳(みみ)に入(い)つた以上(いじやう)は駄目(だめ)ですよ。213何程(なにほど)大黒主(おほくろぬし)様(さま)の御(ご)威勢(ゐせい)が強(つよ)くても、214数百(すうひやく)里(り)を隔(へだ)てたハルナの都(みやこ)から、215さう早速(さつそく)に御(ご)加勢(かせい)は出来(でき)ますまい。216又(また)王(わう)様(さま)には忠誠(ちうせい)無比(むひ)の家来(けらい)も沢山(たくさん)に従(つ)いて居(を)りますれば、217貴郎(あなた)が何程(なにほど)あせつても駄目(だめ)でせう。218妾(わらは)はこれよりカールチンの首(くび)を取(と)り、219王(わう)様(さま)にお土産(みやげ)となし、220疑(うたがひ)を晴(はら)し、221元(もと)の如(ごと)く可愛(かあい)がつて頂(いただ)きますから、222夫婦(ふうふ)共(とも)、223其処(そこ)に、224姫(ひめ)の命令(めいれい)だ、225お坐(すわ)り召(め)され。226入那(いるな)の国王(こくわう)の后(きさき)サマリー姫(ひめ)、227キツと申付(まをしつ)ける』
228テーナ『コレコレ姫(ひめ)様(さま)、229そんな没義道(もぎだう)なことがありますか。230海山(うみやま)の恩(おん)を受(う)けたる両親(りやうしん)を刃(やいば)にかくるとは、231人間(にんげん)にあるまじき仕業(しわざ)では厶(ござ)らぬか』
232サマリー姫『親(おや)の教育(けういく)が祟(たた)つたのだから、233仕方(しかた)がありますまい。234吾(わが)身(み)の為(ため)には子(こ)の命(いのち)でも取(と)ると、235只今(ただいま)仰有(おつしや)つたでせう。236骨肉(こつにく)相食(あひは)む、237無道(ぶだう)の教(をしへ)をなさつた貴方(あなた)、238已(や)むを得(え)ますまい。239サア覚悟(かくご)をなされ』
240カールチン『イヤ姫(ひめ)様(さま)、241暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ。242つい酒(さけ)の上(うへ)で女房(にようばう)を揶揄(からか)つてゐたまでで厶(ござ)います。243決(けつ)して決(けつ)して勿体(もつたい)ない。244仮令(たとへ)吾(わが)子(こ)といひながら、245王(わう)の后(きさき)とおなり遊(あそ)ばした貴方(あなた)に対(たい)し如何(どう)して不義(ふぎ)の刃(やいば)が当(あ)てられませうか』
246サマリー姫『貴方(あなた)は既(すで)に王(わう)様(さま)に対(たい)し、247無形(むけい)の刃(やいば)を当(あ)てがつて居(ゐ)るではありませぬか。248大(だい)それた野心(やしん)を起(おこ)し、249自分(じぶん)が王位(わうゐ)に取(と)つて代(かは)らうとは、250人道(じんだう)にあるまじき悪業(あくげふ)、251大自在天(だいじざいてん)様(さま)に畏(おそ)れは厶(ござ)いませぬか。252貴方(あなた)は、253妾(わらは)を陰謀(いんぼう)の犠牲(ぎせい)になさつたのでせう。254これ位(くらゐ)残酷(ざんこく)なことは厶(ござ)いますまい。255妾(わらは)の朝夕(てうせき)の心遣(こころづか)ひと云(い)ふものは一通(ひととほ)り二通(ふたとほり)りでは厶(ござ)いませぬぞ。256王(わう)様(さま)に対(たい)し、257お気(き)の毒(どく)でなりませぬから、258何時(いつ)とはなしに王(わう)様(さま)に同情(どうじやう)をする様(やう)になり、259今(いま)では恋(こ)ひしくなつて参(まゐ)りました。260然(しか)るに王(わう)様(さま)は左守(さもり)様(さま)のお娘(むすめ)ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)に、261寝(ね)ても起(お)きても心(こころ)を寄(よ)せ給(たま)ひ、262妾(わらは)に対(たい)しては極(きは)めて冷淡(れいたん)な御(お)扱(あつか)ひ、263これといふのも両親(りやうしん)の心(こころ)が善(よ)くないから、264何(なん)とはなしに王(わう)様(さま)の心(こころ)に叶(かな)はないのでせう。265どうか一(いち)日(にち)も早(はや)く御(ご)改心(かいしん)を願(ねが)ひます。266さうでなければサマリー姫(ひめ)、267改(あらた)めて両人(りやうにん)を手討(てうち)に致(いた)す、268覚悟(かくご)めされ』
269と懐剣(くわいけん)をスラリと引抜(ひきぬ)けば、270カールチンは自棄糞(やけくそ)になり、
271カールチン『ナアニ、272猪口才(ちよこざい)千万(せんばん)な、273不孝娘(ふかうむすめ)』
274と云(い)ひながら、275手早(てばや)く懐剣(くわいけん)を奪(うば)ひ取(と)り、276グツと後手(うしろで)に縛(しば)り上(あ)げ、277地下室(ちかしつ)へ姫(ひめ)を閉(と)ぢ込(こ)めて了(しま)つた。
278 姫(ひめ)は無念(むねん)の歯(は)を喰(く)ひしばり、279声(こゑ)を限(かぎ)りにカールチンの無道(ぶだう)を罵(ののし)りながら大自在天(だいじざいてん)大国彦(おほくにひこの)命(みこと)守(まも)り給(たま)へ幸(さち)はひ給(たま)へ……と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈願(きぐわん)を凝(こ)らして居(ゐ)る。
280 カールチンはヤツと胸(むね)を撫(な)でおろし、
281カールチン『あゝコレで一安心(ひとあんしん)だ。282世(よ)の中(なか)は思(おも)ふ様(やう)に行(ゆ)かぬものだなア。283体(からだ)は生(う)みつけても、284魂(たましひ)は生(う)みつけられぬとは此処(ここ)の事(こと)だ。285オイ、286テーナ、287お前(まへ)の腹(はら)から出(で)た娘(むすめ)ながら、288随分(ずゐぶん)義(ぎ)の固(かた)い立派(りつぱ)な者(もの)だなア。289彼奴(あいつ)の言(い)ふ事(こと)は真(しん)に道理(だうり)に叶(かな)つてゐる。290併(しか)しながら今(いま)となつては如何(どう)する事(こと)も出来(でき)ない。291可哀相(かあいさう)ながら暫(しばら)く牢獄(ひとや)に放(はふ)り込(こ)んで置(お)くより途(みち)はない。292陰謀(いんぼう)露顕(ろけん)の虞(おそれ)があるからのう……』
293テーナ姫『今(いま)サマリー姫(ひめ)の言葉(ことば)に依(よ)れば、294吾々(われわれ)の陰謀(いんぼう)は最早(もはや)王(わう)様(さま)や其(その)他(た)の人々(ひとびと)に分(わか)つてゐるやうですから、295サマリー姫(ひめ)只(ただ)一人(ひとり)位(ぐらゐ)暗室(あんしつ)へ放(はふ)り込(こ)んだ所(ところ)で、296何(なん)の効(かう)もありますまい。297吾(わが)耳(みみ)を抑(おさ)へて鈴(すず)を盗(ぬす)むやうな話(はなし)ぢやありませぬか』
298カールチン『アハヽヽヽ、299女童(をんなわらべ)の分際(ぶんざい)として英雄(えいゆう)の心事(しんじ)や智謀(ちぼう)が分(わか)るものかい。300女(をんな)は女(をんな)らしく神妙(しんめう)に夫(をつと)の命令(めいれい)に服従(ふくじゆう)すれば良(よ)いのだ。301四(し)の五(ご)の申(まを)すと、302貴様(きさま)も姫(ひめ)の如(ごと)くに牢獄(ひとや)にブチ込(こ)んで了(しま)ふぞ』
303と稍(やや)声(こゑ)を高(たか)めて睨(ね)めつけ叱(しか)り付(つ)くる。
304テーナ姫『オホヽヽヽ怖(こは)い事(こと)怖(こは)い事(こと)、305モウこれきり、306何(なに)も申(まを)しますまい』
307カールチン『女(をんな)は沈黙(ちんもく)が第一(だいいち)だ。308牝鶏(めんどり)暁(あかつき)を告(つ)げる家(いへ)には凶事(きようじ)多(おほ)しといふ。309今後(こんご)は俺(おれ)のする事(こと)に就(つ)いて一口(ひとくち)でも容喙(ようかい)しようものなら、310了簡(れうけん)は致(いた)さぬぞ。311合点(がつてん)致(いた)したか』
312と駄目(だめ)を押(お)してゐる。313テーナは顔色(かほいろ)青(あを)ざめて稍(やや)怒(いか)りを帯(お)び、314夫(をつと)の顔(かほ)を恨(うら)めしげに眺(なが)めてゐる。315そこへ慌(あわただ)しくやつて来(き)たのは、316カールチンが股肱(ここう)と頼(たの)むマンモスである。317カールチン、318テーナは素知(そし)らぬ風(ふう)を装(よそほ)ひ、
319カールチン『イヤ、320マンモス、321何(なに)か急用(きふよう)でも起(おこ)つたのかな』
322マンモス『ハイ、323少(すこ)しく申上(まをしあ)げ度(た)き事(こと)が厶(ござ)いまして……』
324(大正一一・一一・一〇 旧九・二二 松村真澄録)
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