霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 蓮(はちす)の川辺(かはべ)〔一一一三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第2篇 神機赫灼 よみ(新仮名遣い):しんきかくしゃく
章:第9章 蓮の川辺 よみ(新仮名遣い):はちすのかわべ 通し章番号:1113
口述日:1922(大正11)年11月11日(旧09月23日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
ヤスダラ姫とリーダーは虎口を逃れ、姫の故郷・イルナ国の国境にある蓮川のたもとまで逃げてきた。
主従二人が川辺で休息していると、叢の中から数十人の黒い影が二人を取り巻いた。リーダーは我こそは左守の娘・ヤスダラ姫を守る武術の達人だと呼ばわった。
男たちの中の頭らしき大男がリーダーの前に立ちふさがり、武術の達人ハルマンと名乗った。自分たちは右守の命令でヤスダラ姫一行をとらえるべく潜んでいたのだと凄み、素直に縛につくようにと降伏を呼びかけた。
リーダーはハルマンに攻めかかる。ハルマンは、部下たちにヤスダラ姫を捕えるよう下知した。ヤスダラ姫は奮闘するが、衆寡敵せず男たちに抑え込まれてしまった。
すると、後方からあたりを響かせて三五教の宣伝歌が聞こえてきた。宣伝歌は皇神を祀る三五教をたたえ、バラモン教徒たちに皇神を祀るよう促す歌であった。
この宣伝歌に打たれて、ハルマンたちは一目散に逃げて行ってしまった。ヤスダラ姫は危急を救ってくれた宣伝歌の主にお礼を述べ、名を尋ねた。
宣伝歌の主は、セイロン島でサガレン王家を騒がせた悪僧・竜雲であると明かした。竜雲は、三五教の天の目一つの神の訓戒を受けて身魂を救われ、放浪の身となって月の国に三五教を説いて回る身の上となった経緯を涙ながらに語った。
ヤスダラ姫は竜雲の身の上話を聞き、思わず国治立大神に祈願をこらした。
ヤスダラ姫とリーダーは、自分たちがシャールの館から逃げて、イルナ国の姫の父・左守の館に戻る途中であることを明かした。イルナ国の右守の立ち回りについては竜雲も聞き及んでおり、竜雲は二人をイルナの都まで陰ながら守り送っていくことを約した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-12 11:40:06 文字数:4794 OBC :rm4109
愛善世界社版:126頁 八幡書店版:第7輯 577頁 修補版: 校定版:131頁 普及版:62頁 初版: ページ備考:
001空(そら)照(て)り渡(わた)る月(つき)の国(くに)
002朝日(あさひ)も清(きよ)くテルマンの
003国(くに)の都(みやこ)に名(な)も高(たか)き
004毘舎族(びしやぞく)シヤールの富豪(ふうがう)の
005妻(つま)と降(くだ)りし刹帝利(せつていり)
006セーラン王(わう)の従妹(いとこ)なる
007ヤスダラ姫(ひめ)は朝夕(あさゆふ)に
008其(その)身(み)の不運(ふうん)をなげきつつ
009悲(かな)しき月日(つきひ)を送(おく)る折(をり)
010思(おも)ひもかけぬイルナ国(こく)
011右守(うもり)の司(かみ)と仕(つか)へたる
012醜(しこ)の司(つかさ)のカールチンが
013女房(にようばう)のテーナは遥々(はるばる)と
014シヤールの館(やかた)に立(た)ち向(むか)ひ
015右守(うもり)の司(かみ)の使者(ししや)となり
016四辺(あたり)を払(はら)ひ堂々(だうだう)と
017進(すす)み来(きた)るぞ忌々(ゆゆ)しけれ
018シヤールは使者(ししや)と聞(き)くよりも
019打(う)ち驚(おどろ)きて吾(わが)居間(ゐま)に
020茶菓(さくわ)の饗応(きやうおう)慇懃(いんぎん)に
021テーナの姫(ひめ)をあしらひつ
022ヤスダラ姫(ひめ)の館守(やかたもり)
023リーダー其(その)他(た)に命令(めいれい)し
024館(やかた)の内外(うちと)を清(きよ)めしめ
025時分(じぶん)はよしとテーナ姫(ひめ)
026導(みちび)きながら入(い)り来(きた)り
027ヤスダラ姫(ひめ)に打(う)ち向(むか)ひ
028無理(むり)無体(むたい)の暴言(ばうげん)を
029吐(は)きかけながらテーナ姫(ひめ)の
030心(こころ)を損(そこ)ねちやならないと
031諂侫(てんねい)阿諛(あゆ)のありたけを
032尽(つく)して尾(を)をふる卑怯者(ひけふもの)
033二世(にせ)の妻(つま)なるヤスダラ姫(ひめ)の
034妻(つま)の命(みこと)を哀(あは)れにも
035堅牢(けんらう)無比(むひ)の牢獄(らうごく)に
036投(な)げ込(こ)み置(お)きて胸(むね)を撫(な)で
037やつと急場(きふば)をのがれたる
038姑息(こそく)の仕打(しうち)ぞ憎(にく)らしき
039ヤスダラ姫(ひめ)に心(こころ)より
040至誠(しせい)を捧(ささ)げて尽(つく)したる
041下僕(しもべ)のリーダーは雨風(あめかぜ)の
042はげしき夜(よる)を幸(さいは)ひに
043鋭(するど)き鉞(まさかり)うちふるひ
044獄屋(ひとや)を苦(く)もなく打(う)ち破(やぶ)り
045姫(ひめ)をば背(せな)に負(お)ひながら
046警戒(けいかい)厳(きび)しき邸内(ていない)を
047闇(やみ)に紛(まぎ)れてすたすたと
048荒野(あらの)を渡(わた)る夜(よる)の道(みち)
049北(きた)へ北(きた)へと進(すす)みつつ
050ヤスダラ姫(ひめ)の恋慕(こひした)ふ
051故国(ここく)にイルナの国境(くにざかひ)
052蓮(はちす)の川(かは)の畔(ほとり)まで
053逃(に)げ帰(かへ)り往(ゆ)く折(をり)もあれ
054カールチン等(ら)が部下(ぶか)の者(もの)
055幾十(いくじふ)人(にん)とも限(かぎ)りなく
056蓮(はちす)の川(かは)の両岸(りやうがん)に
057手具脛(てぐすね)引(ひ)いて両人(りやうにん)が
058逃(のが)れ来(きた)るを待(ま)ち居(ゐ)たり
059あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
060神(かみ)の恵(めぐみ)の幸(さち)はひて
061一日(ひとひ)も早(はや)く本国(ほんごく)へ
062二人(ふたり)の男女(なんによ)を恙(つつが)なく
063帰(かへ)らせ給(たま)へと瑞月(ずゐげつ)が
064心(こころ)の空(そら)にかけまくも
065バラモン神(がみ)の御(おん)前(まへ)に
066代(かは)りて謹(つつし)み願(ね)ぎまつる
067旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
068月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
069仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
070曲津(まがつ)の神(かみ)は猛(たけ)ぶとも
071忠義(ちうぎ)一途(いちづ)の下僕(しもべ)等(ら)が
072主人(あるじ)の君(きみ)を守(まも)りつつ
073往(ゆ)く手(て)の道(みち)を隈(くま)もなく
074開(ひら)かせ給(たま)へ惟神(かむながら)
075神(かみ)の心(こころ)になり代(かは)り
076往(ゆ)く手(て)の道(みち)を案(あん)じつつ
077茲(ここ)にそろそろ述(の)べ立(た)つる
078あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
079御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ。
080 ヤスダラ姫(ひめ)、081リーダーの両人(りやうにん)は千辛(せんしん)万苦(ばんく)の結果(けつくわ)、082やつと虎口(ここう)を逃(のが)れ蓮川(はちすがは)の袂(たもと)迄(まで)逃(に)げ来(きた)る。083頃(ころ)しも秋(あき)の末(すゑ)つ頃(ごろ)、084少(すこ)し虧(か)けたる清朗(せいらう)の月(つき)は、085主従(しゆじゆう)二人(ふたり)の頭(かうべ)を遺憾(ゐかん)なく照(て)らし給(たま)ひ、086二人(ふたり)の行路(ゆくみち)をあつく守(まも)らせ給(たま)ふ。087二人(ふたり)は川辺(かはべ)に安着(あんちやく)し、088漸(やうや)く西(にし)に傾(かたむ)いた月影(つきかげ)を眺(なが)めながら、089ヤスダラ姫(ひめ)は、
090ヤスダラ姫『天伝(あまつた)ふ月(つき)の光(ひかり)に照(て)らされて
091蓮(はちす)の川辺(かはべ)に着(つ)きにけらしな』
092リーダー『月(つき)もよし御空(みそら)も清(きよ)き月(つき)の国(くに)
093ヤスダラ姫(ひめ)につき従(したが)ひし吾(われ)。
094村肝(むらきも)の心(こころ)もやうやく晴(は)れ渡(わた)り
095イルナの国(くに)の月(つき)はかがやく』
096ヤスダラ『やすやすと下僕(しもべ)の神(かみ)に守(まも)られて
097故国(ここく)にイルナの吾(われ)ぞ嬉(うれ)しき。
098セーラン王(わう)神(かみ)の命(みこと)は如何(いか)にして
099今宵(こよひ)の月(つき)を眺(なが)めますらむ。
100さゆる夜(よ)に君(きみ)の面影(おもかげ)偲(しの)ばれぬ
101昔(むかし)イルナに見(み)し月(つき)を思(おも)へば。
102附添(つきそ)ひしリーダーの身(み)をば照(て)らしつつ
103吾(われ)等(ら)を守(まも)る月夜見(つきよみ)尊(たふと)し』
104リーダー『仰(あふ)ぎ見(み)る御空(みそら)の月(つき)は清(きよ)けれど
105テーナの住(す)める館(やかた)ぞ濁(にご)れる。
106大空(おほぞら)に輝(かがや)き渡(わた)る月影(つきかげ)も
107醜(しこ)の村雲(むらくも)覆(おほ)ふぞ忌々(ゆゆ)しき。
108この旅路(たびぢ)いとやすやすと守(まも)れかし
109大国彦(おほくにひこ)の神(かみ)の恵(めぐみ)に』
110ヤスダラ『テルマンの夫(つま)の館(やかた)を忍(しの)び出(で)て
111やうやくここに月(つき)の影(かげ)さゆ。
112胸(むね)の闇(やみ)一度(いちど)に開(ひら)くハチス川(がは)
113渡(わた)る浮世(うきよ)にさやる鬼(おに)なし。
114さりながら天(てん)に風雨(ふうう)の障(さはり)あり
115人(ひと)に禍(わざはひ)なしとも限(かぎ)らず。
116心(こころ)せよリーダーの下僕(しもべ)この川(かは)は
117イルナの国(くに)の関所(せきしよ)なりせば』
118リーダー『謹(つつし)みて前(まへ)や後(うしろ)に村肝(むらきも)の
119心(こころ)を注(そそ)ぎ守(まも)り仕(つか)へむ』
120ヤスダラ『朝夕(あさゆふ)に慕(した)ひまつりし吾(わが)君(きみ)と
121父(ちち)のまします国(くに)近(ちか)づきぬ。
122心(こころ)のみ先(さき)に立(た)ちつつ吾(わが)足(あし)の
123進(すす)み兼(か)ねたるもどかしさかな』
124リーダー『大空(おほぞら)の月(つき)照(て)り渡(わた)る夜(よる)の道(みち)
125如何(いか)でか曲(まが)の襲(おそ)ひ来(く)べきや。
126惟神(かむながら)神(かみ)の心(こころ)に任(まか)しつつ
127誠(まこと)を力(ちから)に進(すす)み往(ゆ)くべし。
128今(いま)しばしヤスダラ姫(ひめ)の神司(かむつかさ)
129忍(しの)ばせたまへ二日(ふつか)三日(みつか)路(ぢ)』
130 かく歌(うた)ひながら空(そら)を仰(あふ)いで主従(しゆじゆう)は息(いき)を休(やす)めて居(ゐ)る。131忽(たちま)ち川辺(かはべ)の草叢(くさむら)より、132現(あら)はれ出(い)でたる数十(すうじふ)人(にん)の黒(くろ)い影(かげ)、133見(み)る間(ま)に両人(りやうにん)が前後(ぜんご)左右(さいう)を取(と)り囲(かこ)み、134四五間(しごけん)の距離(きより)を保(たも)つて近(ちか)よりもせず、135人垣(ひとがき)を造(つく)り睨(ね)めつけて居(ゐ)る。136リーダーは声(こゑ)を張(は)り上(あ)げ、
137リーダー『吾(われ)こそは左守(さもり)の司(かみ)、138クーリンス様(さま)の御(お)息女(むすめ)ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)のお供(とも)を致(いた)す武術(ぶじゆつ)の達人(たつじん)リーダーなるぞ。139何者(なにもの)の指揮(さしづ)か知(し)らねども、140吾々(われわれ)が往手(ゆくて)にさやるは不都合(ふつがふ)千万(せんばん)、141一刻(いつこく)も早(はや)く、142道(みち)を開(ひら)き土下座(どげざ)をなして姫(ひめ)様(さま)に謝罪(しやざい)を致(いた)せ。143猶予(いうよ)に及(およ)ばば、144目(め)に物(もの)見(み)せて呉(く)れる、145サア早(はや)く、146命(いのち)の惜(を)しい奴(やつ)は此(この)方(はう)の申(まを)す様(やう)に致(いた)すが好(よ)からうぞ』
147 大勢(おほぜい)の中(なか)より、148小頭(こがしら)らしき大(だい)の男(をとこ)、149忽(たちま)ちリーダーの前(まへ)に立(た)ち塞(ふさ)がり大口(おほぐち)あけて高笑(たかわら)ひ、
150男(ハルマン)『アハヽヽヽヽ、151只今(ただいま)の汝(なんぢ)が広言(くわうげん)片腹(かたはら)痛(いた)し。152吾(われ)こそはイルナの国(くに)にて武術(ぶじゆつ)の達者(たつしや)と聞(きこ)えたる強力(がうりき)無双(むさう)のハルマンなるぞ。153カールチン様(さま)の命令(めいれい)に依(よ)り、154汝(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)を生擒(いけどり)にせむため、155この関所(せきしよ)に人数(にんず)を集(あつ)め、156今(いま)や遅(おそ)しと待(ま)ち疲(つか)れて居(ゐ)た所(ところ)だ。157愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)さず、158速(すみやか)に縛(ばく)につけ』
159リーダー『アハヽヽヽヽ吐(ぬか)したりな、160ハルマンの空(う)つけ者(もの)め、161このリーダーが、162苦(にが)き目(め)見(み)せて呉(く)れむ』
163と云(い)ふより早(はや)く鉄拳(てつけん)を打(う)ち振(ふ)りながら、164ハルマンに向(むか)つて攻(せ)め寄(よ)つた。165ハルマンは一歩(ひとあし)二歩(ふたあし)後(あと)へすざり、166キツト身構(みがま)へしながら、
167ハルマン『ヤアヤア家来(けらい)の者共(ものども)、168吾(われ)はリーダー一人(ひとり)にかかつて居(ゐ)るから、169其(その)間(ま)にヤスダラ姫(ひめ)を捕縛(ほばく)致(いた)せよ』
170と下知(げち)すれば、171オーと答(こた)へて数十(すうじふ)人(にん)は唯(ただ)一人(ひとり)のヤスダラ姫(ひめ)に向(むか)ひ遮二(しやに)無二(むに)飛(と)びつき来(きた)る。172ヤスダラ姫(ひめ)は忽(たちま)ち下紐(したひも)を解(と)き、173襷(たすき)十文字(じふもんじ)に綾取(あやど)り、174後鉢巻(うしろはちまき)リンと締(し)めたる女武者(をんなむしや)の勇(いさ)ましさ。175寄(よ)り来(きた)る木端(こつぱ)武者(むしや)を片端(かたつぱし)からスツテンドウと或(あるひ)は草中(くさなか)へ或(あるひ)は川底(かはぞこ)へ投(な)げ込(こ)み防(ふせ)ぎ戦(たたか)へど、176立(た)ち代(かは)り入(い)り代(かは)り寄(よ)せ来(く)る敵(てき)に疲(つか)れ果(は)て、177ドウと其(その)場(ば)に打(う)ち倒(たふ)れて仕舞(しま)つた。178其(その)機(き)を逸(いつ)せず数人(すうにん)の大男(おほをとこ)は、179重(かさ)なり合(あ)うて姫(ひめ)を力限(ちからかぎ)りに押(おさ)へつけ、180腕(うで)を捻(ね)ぢ今(いま)や縄(なは)をかけむとする時(とき)しもあれ、181後(うしろ)の方(はう)より四方(あたり)を響(ひび)かす宣伝歌(せんでんか)聞(きこ)え来(きた)る。
182(竜雲)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
183正邪(せいじや)と理非(りひ)を立(た)て別(わ)ける
184ウラルの神(かみ)に仕(つか)へたる
185吾(われ)は尊(たふと)き宣伝使(せんでんし)
186セイロン島(たう)に打(う)ち渡(わた)り
187バラモン教(けう)の神司(かむつかさ)
188サガレン王(わう)を放逐(はうちく)し
189ケーリス姫(ひめ)を手(て)に入(い)れて
190意気(いき)揚々(やうやう)と神地城(かうぢじやう)
191神(かみ)の司(つかさ)となりし折(をり)
192三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
193天(あめ)の目一(まひと)つ神司(かむつかさ)
194現(あら)はれ来(きた)りていと清(きよ)き
195尊(たふと)き言霊(ことたま)打(う)ち出(いだ)し
196神地(かうぢ)の城(しろ)は忽(たちま)ちに
197紅蓮(ぐれん)の舌(した)に舐(な)められぬ
198吾(わが)身(み)に永(なが)く憑依(ひようい)せし
199八岐(やまた)の大蛇(をろち)は驚(おどろ)きて
200雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ出(だ)せば
201今迄(いままで)迷(まよ)ひし夢(ゆめ)もさめ
202誠(まこと)の心(こころ)に立(た)ち帰(かへ)り
203勇(いさ)み進(すす)みて三五(あななひ)の
204貴(うづ)の信徒(しんと)となりにけり
205三五教(あななひけう)の司(つかさ)等(ら)が
206仁慈(じんじ)無限(むげん)のやり方(かた)に
207心(こころ)の底(そこ)より感歎(かんたん)し
208神地(かうぢ)の都(みやこ)を後(あと)にして
209月(つき)の国(くに)へと打(う)ち渡(わた)り
210七千(しちせん)余国(よこく)を隈(くま)もなく
211三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)
212歌(うた)ひて進(すす)む吾(われ)なるぞ
213バラモン教(けう)やウラル教(けう)
214三五教(あななひけう)といろいろに
215教(をしへ)の区別(くべつ)はありとても
216此(この)世(よ)を造(つく)り固(かた)めたる
217元(もと)つ御祖(みおや)は一柱(ひとはしら)
218吾(われ)等(ら)の父(ちち)といます神(かみ)
219天(あめ)が下(した)なる人草(ひとぐさ)は
220一人(ひとり)も残(のこ)らず皇神(すめかみ)の
221御息(みいき)に現(あ)れし貴(うづ)の御子(みこ)
222互(たがひ)に憎(にく)み争(あらそ)ひて
223神慮(しんりよ)を悩(なや)ませまつるなよ
224人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
225尊(たふと)き身魂(みたま)と生(あ)れながら
226虎(とら)狼(おほかみ)に劣(おと)るべき
227醜(しこ)の行(おこな)ひつづけつつ
228自(みづか)ら吾(わが)身(み)の品格(ひんかく)を
229傷(きず)つけ破(やぶ)り根(ね)の国(くに)や
230底(そこ)の国(くに)なる苦(くる)しみを
231決(けつ)して受(う)くる事(こと)なかれ
232悪(あく)の身魂(みたま)の善心(ぜんしん)に
233立(た)ち帰(かへ)りたる竜雲(りううん)が
234四海(しかい)同胞(どうはう)の好誼(よしみ)にて
235茲(ここ)に忠告(ちうこく)仕(つかまつ)る
236バラモン教(けう)の人々(ひとびと)よ
237直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞(き)き直(なほ)せ
238互(たがひ)に吾(わが)身(み)の過(あやま)ちを
239顧(かへり)みなして皇神(すめかみ)の
240心(こころ)を安(やす)んじ奉(たてまつ)り
241黄金(わうごん)花(はな)咲(さ)く天国(てんごく)の
242救(すく)ひの門(もん)を開(ひら)くべし
243あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
244御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
245 此(この)宣伝歌(せんでんか)に打(う)たれてや、246ハルマンを初(はじ)め数十(すうじふ)人(にん)の人影(ひとかげ)は雲(くも)の風(かぜ)に散(ち)る如(ごと)く、247一目散(いちもくさん)に北(きた)へ北(きた)へと蓮川(はちすがは)を横(よこ)ぎり先(さき)を争(あらそ)ひ逃(に)げて往(ゆ)く。248ヤスダラ姫(ひめ)は宣伝歌(せんでんか)の主(ぬし)に向(むか)ひ、249いと叮嚀(ていねい)に会釈(ゑしやく)しながら、
250ヤスダラ姫『いづくの方(かた)か存(ぞん)じませぬが、251剣呑(けんのん)千万(せんばん)の所(ところ)へお越(こ)し下(くだ)さいまして、252尊(たふと)き宣伝歌(せんでんか)をお歌(うた)ひ下(くだ)され、253吾々(われわれ)主従(しゆじゆう)は其(その)御(ご)神力(しんりき)に依(よ)つて救(すく)はれまして厶(ござ)ります。254あゝ私(わたし)もかういふ場合(ばあひ)に宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ、255寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を言向和(ことむけやは)せばよかつたのですが、256あまり俄(にはか)の敵(てき)の襲来(しふらい)に挙措(きよそ)其(その)度(ど)を失(しつ)し、257恥(はづか)しながら女(をんな)の分際(ぶんざい)としてあられもない腕立(うでだて)を致(いた)しました。258そして貴方(あなた)は何処(どこ)の何人(なにびと)で厶(ござ)いますか』
259男(竜雲)『ハイ、260私(わたし)は卑(いや)しき首陀(しゆだ)の家(いへ)に生(うま)れたもので厶(ござ)います。261お聞(き)き及(およ)びでも厶(ござ)いませうが、262セイロン島(たう)の神地(かうぢ)の都(みやこ)に於(おい)て曲津(まがつ)神(かみ)に誑惑(きやうわく)され、263大国別(おほくにわけの)命(みこと)様(さま)の御(ご)実子(じつし)国別彦(くにわけひこ)様(さま)が、264サガレン王(わう)となつてバラモンの教(をしへ)を神地(かうぢ)の城(しろ)に於(おい)てお開(ひら)き遊(あそ)ばす処(ところ)へ参(まゐ)り、265姫(ひめ)様(さま)をチヨロまかし、266悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の振舞(ふるまひ)を致(いた)しました竜雲(りううん)で厶(ござ)います。267只今(ただいま)歌(うた)で申(まを)し上(あ)げました通(とほ)り三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)天(あめ)の目一(まひと)つの神(かみ)の御(ご)訓誡(くんかい)やサガレン王(わう)様(さま)の御(ご)仁慈(じんじ)に依(よ)つて、268曇(くも)りきつたる身魂(みたま)を救(すく)はれ、269今(いま)は果敢(はか)なき放浪(はうらう)の身(み)となり、270月(つき)の国(くに)七千余(しちせんよ)の国々(くにぐに)を廻(まは)り廻(まは)りて今(いま)此処(ここ)へ参(まゐ)ります途中(とちう)怪(あや)しき人声(ひとごゑ)に何事(なにごと)ならむと駆(か)けつけ見(み)れば、271御(ご)両人(りやうにん)様(さま)が大勢(おほぜい)に取囲(とりかこ)まれ御(ご)困難(こんなん)の最中(さいちう)、272それ故(ゆゑ)、273及(およ)ばずながら三五(あななひ)の道(みち)の宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ敵(てき)を追(お)ひ散(ち)らしたので厶(ござ)います』
274と、275包(つつ)まず隠(かく)さず己(おの)が素性(すじやう)を打(う)ち明(あ)け、276落涙(らくるい)しながら其(その)事実(じじつ)を物語(ものがた)る殊勝(しゆしよう)さに、277ヤスダラ姫(ひめ)は感(かん)に打(う)たれ、
278ヤスダラ姫『貴方(あなた)が音(おと)に名高(なだか)き竜雲(りううん)様(さま)で厶(ござ)いましたか。279ようまあ其処迄(そこまで)御(ご)改心(かいしん)が出来(でき)ました。280実(じつ)に御(ご)立派(りつぱ)な御(ご)人格(じんかく)とおなり遊(あそ)ばしましたなア』
281竜雲『お褒(ほ)めに預(あづ)かつては畏(おそ)れ入(い)ります。282私(わたし)も神(かみ)様(さま)のお蔭(かげ)によつていろいろと苦労(くらう)を与(あた)へられ、283身魂(みたま)を研(みが)いて頂(いただ)きました。284これも全(まつた)く三五教(あななひけう)のお蔭(かげ)で厶(ござ)います』
285ヤスダラ姫『三五教(あななひけう)はそれだけ感化力(かんくわりよく)が厶(ござ)りますか、286実(じつ)に結構(けつこう)な教(をしへ)で厶(ござ)いますなア。287私(わたくし)も一度(いちど)其(その)教(をしへ)が聞(き)かして頂(いただ)きたいもので厶(ござ)います』
288竜雲『貴女(あなた)さへ聞(き)きたいお心(こころ)におなりなさつたならば、289神(かみ)様(さま)はキツト聞(き)かして下(くだ)さるでせう。290先日(せんじつ)も三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、291照国別(てるくにわけ)様(さま)が数多(あまた)の人(ひと)の前(まへ)で、292結構(けつこう)な話(はなし)をして居(を)られた。293其(その)教(をしへ)を聞(き)いた人間(にんげん)は貴賤(きせん)老幼(らうえう)の嫌(きら)ひなく残(のこ)らず帰順(きじゆん)して仕舞(しま)ひました。294誠(まこと)一(ひと)つを立(た)て抜(ぬ)く無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)の三五(あななひ)の教(をし)へは、295其(その)伝播力(でんぱりよく)も強(つよ)く、296恰(あだか)も燎原(れうげん)の火(ひ)の如(ごと)き勢(いきほひ)で厶(ござ)います』
297 ヤスダラ姫(ひめ)は、
298ヤスダラ姫『あゝ左様(さやう)で厶(ござ)いますか』
299と云(い)つたきり、300さし俯(うつむ)いて両手(りやうて)を合(あは)せ「国治立(くにはるたち)の神(かみ)、301吾(わが)身(み)の将来(ゆくゑ)を守(まも)らせたまへ」と小声(こごゑ)になつて祈(いの)つて居(ゐ)る。302リーダーは膝頭(ひざがしら)の負傷(ふしやう)を撫(な)で擦(さす)りながら漸(やうや)くにして立(た)ち上(あが)り、303竜雲(りううん)に向(むか)ひ叮嚀(ていねい)に頭(かしら)を下(さ)げ、
304リーダー『今(いま)承(うけたま)はれば貴方(あなた)は有名(いうめい)な竜雲(りううん)様(さま)で厶(ござ)いましたか、305思(おも)はぬ所(ところ)でお目(め)に懸(かか)りました。306これも何彼(なにか)の因縁(いんねん)で厶(ござ)いませう。307よくまあ姫(ひめ)様(さま)の御(ご)危難(きなん)をお救(すく)ひ下(くだ)さいました。308私(わたし)は下僕(しもべ)のリーダーで厶(ござ)います。309何分(なにぶん)宜敷(よろしく)此(この)後(ご)の御(ご)指導(しだう)を願(ねが)ひます』
310 竜雲(りううん)も頭(かしら)を下(さ)げ叮嚀(ていねい)な言葉(ことば)つきで、
311竜雲『ハイ、312お言葉(ことば)恐(おそ)れ入(い)ります。313袖(そで)振(ふ)り合(あ)はすも他生(たしやう)の縁(えん)とやら、314罪(つみ)深(ふか)き竜雲(りううん)、315何卒(なにとぞ)お互様(たがひさま)に助(たす)け合(あ)ひを願(ねが)ひたいもので厶(ござ)います。316そして貴方(あなた)等(がた)はどちらへお越(こ)し遊(あそ)ばすので厶(ござ)いますか』
317リーダー『ハイ、318テルマン国(ごく)のシヤールの館(やかた)からイルナの都(みやこ)、319クーリンス様(さま)のお宅(たく)へ指(さ)して姫(ひめ)様(さま)がお帰(かへ)り遊(あそ)ばすので、320私(わたし)はお供(とも)に参(まゐ)つたので厶(ござ)います。321然(しか)るに此(この)川辺(かはべ)に於(おい)て、322右守(うもり)の司(かみ)のカールチンが部下(ぶか)共(ども)、323姫(ひめ)様(さま)を此処(ここ)にて捕(とら)へむと致(いた)しましたについては、324何(なに)か都(みやこ)に大変事(だいへんじ)が起(おこ)つて居(ゐ)るので厶(ござ)いませうと実(じつ)に心配(しんぱい)でなりませぬ』
325竜雲『左守(さもり)、326右守(うもり)お二方(ふたかた)の間(あひだ)に大変(たいへん)な暗闘(あんとう)が出来(でき)て居(ゐ)ると云(い)ふ事(こと)は、327此(この)竜雲(りううん)も薄々(うすうす)聞(き)き及(およ)んで居(を)ります。328カールチンと云(い)ふ男(をとこ)は実(じつ)に奸侫(かんねい)邪智(じやち)の痴者(しれもの)で、329国人(くにびと)の受(う)けの悪(わる)い神司(かむつかさ)、330それに引(ひ)きかへ左守(さもり)の人気(にんき)のよい事(こと)、331羨(うらや)ましい位(くらゐ)で厶(ござ)います。332そんな事(こと)から右守(うもり)が嫉妬心(しつとしん)を起(おこ)し、333悶着(もんちやく)が起(おこ)つて居(ゐ)るのでせう。334これから及(およ)ばずながら竜雲(りううん)が姫(ひめ)様(さま)をイルナの都(みやこ)迄(まで)お送(おく)り致(いた)しますから御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
335ヤスダラ姫『ハイ有難(ありがた)う、336地獄(ぢごく)で仏(ほとけ)に会(あ)うたと申(まを)さうか、337根底(ねそこ)の国(くに)で救(すく)ひの神(かみ)に会(あ)うたと申(まを)さうか、338こんな嬉(うれ)しい事(こと)は厶(ござ)りませぬ。339何分(なにぶん)かよわき女(をんな)の旅(たび)、340宜敷(よろしく)お願(ねが)ひ致(いた)します』
341竜雲『然(しか)らば私(わたし)が後(あと)になり前(さき)になり御(ご)身辺(しんぺん)を保護(ほご)して参(まゐ)ります、342サア往(ゆ)きませう』
343と云(い)ふかと見(み)れば、344竜雲(りううん)の姿(すがた)は忽(たちま)ち草(くさ)の茂(しげ)みに隠(かく)れて仕舞(しま)つた。345主従(しゆじゆう)二人(ふたり)は宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら蓮(はちす)の川(かは)を横(よこ)ぎり、346何(なん)となく勇気(ゆうき)加(くは)はり、347足許(あしもと)もいと軽(かる)げに北(きた)へ北(きた)へと進(すす)み往(ゆ)く。
348(大正一一・一一・一一 旧九・二三 加藤明子録)
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