霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 誤解(ごかい)〔一一一〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第1篇 天空地平 よみ(新仮名遣い):てんくうちへい
章:第6章 誤解 よみ(新仮名遣い):ごかい 通し章番号:1110
口述日:1922(大正11)年11月10日(旧09月22日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
左守クーリンスの家老・テームスの奥座敷には、レーブとカルが招かれて会議が開かれた。テームスは秘密の会議とのことで、妻のべリス姫を退座させた。
テームスは神夢に三五教の黄金姫と清照姫が国を通るから、助けを乞うようにとお告げを受けたことを明かし、カルとレーブに行方を尋ねた。レーブは、黄金姫と清照姫は狼の守護を得ているから、困ったときにきっと現れるとクーリンスに答えた。
そこへ左守クーリンスの娘・セーリス姫が、右守方の計略を探知したことをテームスに伝えに夜分人目を忍んでやってきた。
応対したべリス姫は、セーリス姫をクーリンスの愛人だと勘違いしてとんちんかんな対応をするが、セーリス姫が奥に入って素性を明かしたので誤解が解けた。
テームスは、セーリス姫が右守の家老ユーフテスから聞き出した計略を聞いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-10 13:38:49 文字数:6401 OBC :rm4106
愛善世界社版:79頁 八幡書店版:第7輯 559頁 修補版: 校定版:82頁 普及版:39頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎全集 > 第一巻 皇道編 > 第七篇 高天原 > 第十二章 仁愛の真相
001 セーラン王(わう)の左守(さもり)の司(かみ)と仕(つか)へたるクーリンスの家老職(からうしよく)テームスの奥座敷(おくざしき)にはレーブ、002カルの両人(りやうにん)と妻(つま)のベリス姫(ひめ)四(よ)人(にん)が車座(くるまざ)となつて私々話(ひそびそばなし)を始(はじ)めて居(ゐ)る。003テームスはベリス姫(ひめ)を遠(とほ)ざけ、004いよいよ熟談(じゆくだん)に取(と)りかかつた。005注意深(ちういぶか)きテームスは最(もつと)も信用(しんよう)するわが女房(にようばう)でさへも秘密(ひみつ)の他(た)に洩(も)れむ事(こと)を恐(おそ)れて態(わざ)とに遠(とほ)ざけたのである。006ベリス姫(ひめ)は夫(をつと)の言葉(ことば)に是非(ぜひ)もなく立(た)つてわが居間(ゐま)に行(ゆ)く。007後(あと)に三(さん)人(にん)は首(くび)を鳩(あつ)め密々話(ひそびそばなし)に耽(ふけ)り出(だ)した。
008テームス『実(じつ)の所(ところ)はセーラン王(わう)様(さま)のお館(やかた)には悪人(あくにん)はびこり、009右守(うもり)の司(かみ)のカールチンは大棟梁(だいとうりやう)大黒主(おほくろぬし)に甘(うま)く取(と)り入(い)り、010吾々(われわれ)が主人(しゆじん)左守(さもり)の司(かみ)なるクーリンス様(さま)を初(はじ)め、011王(わう)様(さま)迄(まで)も排斥(はいせき)せむと企(たく)んで居(ゐ)るのだ。012さうなつちや大変(たいへん)だから、013何(なん)とかしてこの難関(なんくわん)を切(き)り抜(ぬ)け、014悪人(あくにん)を懲(こ)らしめてやらむと考(かんが)へて見(み)た処(ところ)が、015別(べつ)に之(これ)と云(い)ふ好(よ)い方法(はうはふ)も考案(かうあん)も出(で)て来(こ)ない。016それからこれは到底(たうてい)吾々(われわれ)の考(かんが)へでは往(い)かない、017神(かみ)様(さま)にお願(ねが)ひするより途(みち)はないとクーリンス様(さま)が三七(さんしち)日(にち)の間(あひだ)梵天王(ぼんてんわう)様(さま)の祠(ほこら)に立籠(たてこも)り御(ご)神勅(しんちよく)を乞(こ)はれた処(ところ)、018豈(あに)計(はか)らむや「三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)黄金姫(わうごんひめ)、019清照姫(きよてるひめ)がやがてイルナの都(みやこ)をお通(とほ)りになるから、020甘(うま)く両人(りやうにん)に頼(たの)み込(こ)んで此(この)解決(かいけつ)をつけて貰(もら)へよ」とのお諭(さと)し、021左守(さもり)の司(かみ)も合点(がてん)行(ゆ)かずと幾度(いくど)もお伺(うかが)ひになつたところ、022依然(いぜん)として神(かみ)様(さま)のお告(つげ)は変(かは)らない。023そこで左守(さもり)の司様(かみさま)はこのテームスを私(ひそ)かに招(まね)き、024お二人(ふたり)様(さま)のお出(いで)を途(みち)にお待(ま)ち受(う)け申(まを)し城内(じやうない)に連(つ)れ帰(かへ)り、025この解決(かいけつ)を付(つ)けて貰(もら)はうと七八(しちはち)人(にん)の部下(ぶか)をつれ関所(せきしよ)迄(まで)立(た)ち出(い)で、026土中(どちう)の洞(ほら)に身(み)をひそめ窺(うかが)ひ居(を)れば、027貴方(あなた)等(がた)お二人(ふたり)の道々(みちみち)の話(はなし)、028時(とき)こそ来(きた)れと、029洞穴(ほらあな)を這(は)ひ出(だ)し、030お二人(ふたり)の様子(やうす)を聞(き)かむとした処(ところ)、031貴方(あなた)等(がた)は、032王(わう)様(さま)の前(まへ)で話(はな)すと云(い)はれたが、033さうしては却(かへつ)て敵(てき)に悟(さと)られてはならないから、034どうぞ吾々(われわれ)に其(その)所在(ありか)を知(し)らして頂(いただ)く事(こと)は出来(でき)まいかなア』
035カル『ハイ、036実(じつ)はイルナの森(もり)迄(まで)お供(とも)をして来(き)たのだが、037俄(にはか)に狼(おほかみ)の群(むれ)がやつて来(き)て、038お二人(ふたり)様(さま)を何処(どこ)かへ、039くはへて往(い)つて了(しま)つたのだから、040ほんとの詳(くは)しい事(こと)は、041吾々(われわれ)は分(わか)りませぬわい』
042テームス『そりや困(こま)りましたなア。043そんな事(こと)なら態々(わざわざ)こんな処(ところ)迄(まで)来(き)て貰(もら)ふのぢやなかつたに』
044レーブ『いや御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。045カルは新米(しんまい)で何(なに)も知(し)らぬのです。046私(わたし)は一伍(いちぶ)一什(しじふ)を知(し)つて居(ゐ)ます。047実(じつ)の所(ところ)はお二人(ふたり)は狼(おほかみ)を眷族(けんぞく)にお使(つか)ひになつて居(ゐ)ます。048危急(ききふ)存亡(そんばう)の時(とき)には、049いつも二人(ふたり)をお助(たす)けする事(こと)になつて居(ゐ)ますから、050御(ご)両人(りやうにん)様(さま)が眷族(けんぞく)に殺(ころ)されるやうな事(こと)は決(けつ)してありませぬ。051神(かみ)様(さま)は貴方(あなた)等(がた)が七八(しちはち)人(にん)の部下(ぶか)を連(つ)れて洞穴(ほらあな)に待(ま)つて居(を)られる事(こと)を前知(ぜんち)せられ、052狼(おほかみ)を出(だ)して外(ほか)の方面(はうめん)へお隠(かく)しなさつたのです』
053テームス『さうすると、054このテームスはお二人(ふたり)様(さま)の敵(てき)と見(み)られたのでせうか。055さうなると仮令(たとへ)お二人(ふたり)様(さま)の所在(ありか)が分(わか)つても、056容易(ようい)に吾々(われわれ)の願(ねが)ひはお聞(き)き下(くだ)さいますまい。057はて、058困(こま)つた事(こと)ぢやな』
059レーブ『イエイエ決(けつ)して決(けつ)して左様(さやう)な道理(だうり)はありませぬ。060貴方(あなた)のお引(ひ)き連(つ)れになつた八(はち)人(にん)の中(うち)には半分(はんぶん)以上(いじやう)カールチンの部下(ぶか)が混(まじ)つて居(ゐ)ますから、061態(わざ)とにお外(はづ)しなさつたのですよ。062此(この)レーブも其(その)事(こと)を感付(かんづ)いたので、063あのやうな不得(ふとく)要領(えうりやう)な訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)を態(わざ)とに申(まを)し上(あ)げたのです。064きつと一両日(いちりやうじつ)の中(うち)には数多(あまた)の狼(おほかみ)を引(ひ)きつれ悪人(あくにん)を調伏(てうふく)せむとお越(こ)しになるでせう。065あの方(かた)は神通力(じんつうりき)を持(も)つて居(を)られますから、066レーブ、067カルの両人(りやうにん)が何処(どこ)に居(を)ると云(い)ふ事(こと)を御存(ごぞん)じですから、068キツと見(み)えます。069此(この)大事(だいじ)な臣(けらい)を振(ふ)りまいて勝手(かつて)に往(ゆ)くと云(い)ふやうな水臭(みづくさ)い御(ご)主人(しゆじん)では厶(ござ)いませぬからなア』
070 カルは、
071カル『さうかなア』
072とやや首(くび)を傾(かたむ)けて不安(ふあん)の色(いろ)を浮(うか)べてゐる。
073 表門(おもてもん)には二人(ふたり)の門番(もんばん)、074大欠伸(おほあくび)をしながら睡(ねむ)た目(め)を擦(こす)つて、075下(くだ)らぬ話(はなし)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。
076門番の一人(シャール)『オイ、077ピー州(しう)、078もう何時(なんどき)だらうなア、079イイ加減(かげん)に就寝(しうしん)の振鈴(しんれい)が聞(きこ)えさうなものぢやないか』
080ピー州『さうだなア、081もう二十三(にじふさん)時(じ)、082百十五(ひやくじふご)分(ふん)位(くらゐ)なものだよ。083もう五(ご)分間(ふんかん)待(ま)て……さうすれば就寝(しうしん)の振鈴(しんれい)が鳴(な)るだらう。084監督(かんとく)が廻(まは)つて来(く)ると面倒(めんだう)だから、085もチツと目(め)を擦(こす)つて辛抱(しんばう)するのだなア』
086シャール『モウいい加減(かげん)に監督(かんとく)が廻(まは)つて来(き)て呉(く)れぬと俺(おれ)達(たち)も睡(ねむ)たくなつて仕方(しかた)がないわ。087併(しか)し家(うち)の大将(たいしやう)が妙(めう)な男(をとこ)を二人(ふたり)連(つ)れて帰(かへ)つたぢやないか。088あれは大方(おほかた)右守(うもり)の司(かみ)の諜者(まはしもの)か知(し)れやしないがなア。089家(うち)の大将(たいしやう)は人(ひと)が好(よ)いから又(また)騙(だま)されやしないかと思(おも)うてそれが心配(しんぱい)で耐(たま)らないわ』
090ピー州『こりやシヤール、091何(なに)をおつシヤールのだ。092門番(もんばん)位(くらゐ)がピーピー云(い)つたとて何(なん)になるかい。093何事(なにごと)も御(ご)主人(しゆじん)様(さま)の胸(むね)にあるのだから、094俺(おれ)達(たち)は神妙(しんめう)に門番(もんばん)さへして居(を)ればよいのだ。095こんな事(こと)を喋(しやべ)つて右守(うもり)の司(かみ)の親類(しんるゐ)にでも聞(き)かれようものなら大変(たいへん)だぞ』
096 斯(か)く話(はな)す所(ところ)へ館(やかた)の監督(かんとく)エムが足音(あしおと)高(たか)く現(あら)はれ来(きた)り、
097エム『コリヤ コリヤ、098ピー、099シヤールの両人(りやうにん)、100今(いま)何(なに)を云(い)つて居(を)つたか』
101ピー『ハイ此(この)頃(ごろ)はよう日和(ひより)の続(つづ)くことだ。102お月様(つきさま)は下弦(かげん)になりなさつたけれど、103冬(ふゆ)の初(はじめ)の月(つき)は又(また)格別(かくべつ)なものだとピーから切(き)りまで賞(ほ)めて居(を)りました』
104エム『貴様(きさま)、105家(いへ)の中(なか)から月(つき)が拝(をが)めるか、106馬鹿(ばか)な事(こと)を申(まを)せ、107エーム』
108ピー州『今(いま)此(この)武者窓(むしやまど)から覗(のぞ)いて見(み)た所(ところ)で厶(ござ)います、109なあシヤール、110好(よ)い月(つき)だつたなア』
111エム『馬鹿(ばか)を申(まを)せ、112まだ月(つき)は昇(のぼ)つてゐないぢやないか。113貴様(きさま)大方(おほかた)門番(もんばん)を怠(をこた)り、114夢(ゆめ)でも見(み)て居(ゐ)たのだらう。115何故(なぜ)振鈴(しんれい)の鳴(な)る迄(まで)起(お)きて居(ゐ)ないのか。116貴様(きさま)はいつもサボる癖(くせ)があるから駄目(だめ)だ。117明日(みやうにち)限(かぎ)り御(ご)主人(しゆじん)に申上(まをしあ)げて暇(ひま)を遣(つか)はすぞ』
118ピー州『イエ昨日(きのふ)の月(つき)の話(はなし)をして居(ゐ)たので厶(ござ)います。119何卒(どうぞ)今晩(こんばん)はお見逃(みのが)し下(くだ)さいませ』
120エム『それなら今日(けふ)は旦那(だんな)様(さま)に報告(はうこく)をするのを止(や)めてやらう。121よく気(き)をつけよ。122未(ま)だ半時(はんとき)ばかり振鈴(しんれい)が鳴(な)るには間(ま)があるから、123それ迄(まで)はキツト勤(つと)めるのだぞ。124睡(ねむ)たければ目(め)を出(だ)せ。125唐辛子(たうがらし)の粉(こ)でも塗(ぬ)つてやらう』
126ピー州『メヽ滅相(めつさう)な、127そんな事(こと)をしられて耐(たま)りますか。128目(め)が腫(は)れ上(あが)つて了(しま)ひます』
129エム『オイ、130シヤール、131其(その)方(はう)は唐辛子(たうがらし)のお見舞(みまひ)はどうぢや。132大分(だいぶ)睡(ねむ)たさうな顔(かほ)をして居(を)るぢやないか』
133シャール『イヤ別(べつ)に睡(ねむ)たいことはありませぬ。134私(わたし)の目(め)はピーのやうな柔(やはら)かい目(め)とは違(ちが)ひます。135かたいかたい目(め)で厶(ござ)います。136只(ただ)時々(ときどき)上瞼(うはまぶた)と下瞼(したまぶた)とが集会(しふくわい)をしたり、137結婚(けつこん)をするだけのもので厶(ござ)います』
138エム『サア其(その)集会(しふくわい)が不可(いか)ぬのぢや、139目(め)はぢきでもかけて団栗眼(どんぐりめ)をむいて居(ゐ)ろよ。140好(よ)いか、141アーン』
142シャール『それでも、143この間(あひだ)も目(め)つけ役(やく)と目(め)つけ役(やく)が集会(しふくわい)をして居(を)られましたぜ。144どうぞ大目(おほめ)に見(み)て下(くだ)さいな。145旦那(だんな)様(さま)に何時(いつ)もサボつて居(を)るなどと報告(はうこく)をせられては、146私(わたし)のみか女房(にようぼう)子(こ)までがめい惑(わく)を致(いた)しますから』
147 エムは「ウン」と横柄(わうへい)な返事(へんじ)をしながら棒千切(ぼうちぎれ)を打(う)ちふり打(う)ちふり暗(やみ)に姿(すがた)をかくした。148暫(しばら)くすると東(ひがし)の空(そら)を分(わ)けて下弦(かげん)の月(つき)、149利鎌(とがま)のやうな影(かげ)を地上(ちじやう)に投(な)げて昇(のぼ)り始(はじ)めた。150門口(もんぐち)に女(をんな)の声(こゑ)、
151女(セーリス姫)『モシモシ門番(もんばん)さまえ、152余(あま)り遅(おそ)くて済(す)みませぬが、153一寸(ちよつと)様子(やうす)あつてテームス殿(どの)にお目(め)に懸(かか)りに参(まゐ)つたもの、154どうぞ通(とほ)して下(くだ)さい』
155ピー州『オイオイ シヤール、156今頃(いまごろ)に女(をんな)がやつて来(き)たぞ。157此奴(こいつ)は迂濶(うつかり)相手(あひて)になれないぞ。158狐(きつね)か狸(たぬき)が化(ば)けて居(ゐ)やがるのだ。159日(ひ)の暮(くれ)の十八(じふはち)時(じ)過(す)ぎたら女(をんな)は歩(ある)くものぢやない。160それに今頃(いまごろ)あんな優(やさ)しい声(こゑ)を出(だ)しやがつて、161此(この)門戸(もんこ)を叩(たた)くものはキツトばの字(じ)にけの字(じ)だ。162知(し)らぬ顔(かほ)をして居(を)るが一番(いちばん)よい』
163 門外(もんぐわい)から、
164女(セーリス姫)『もしもし門番(もんばん)さま、165早(はや)く開(あ)けて下(くだ)さい』
166とトントンと小(ちひ)さく叩(たた)く。
167ピー州『オイオイ来(き)たぞ来(き)たぞ。168あの門(もん)の叩(たた)きやうを見(み)い。169狐(きつね)が化(ば)けやがつて尻尾(しつぽ)で門(もん)の戸(と)を叩(たた)いて居(ゐ)やがるのだよ、170のうシヤール』
171シャール『それでもありやきつと人間(にんげん)だぞ。172どんな秘密(ひみつ)の御用(ごよう)でどんな方(かた)がお出(いで)になつたのか知(し)れやしないぞ。173開(あ)けて見(み)たらどうだ。174もし怪(あや)しいものと見(み)たら此(この)棒(ぼう)で撲(なぐ)り付(つ)けて正体(しやうたい)を現(あら)はしさへすりやよいぢやないか。175もし狐(きつね)ででもあつて見(み)い。176その肉(にく)を剥焼(すきやき)にして酒(さけ)の肴(さかな)にすりや大変(たいへん)美味(うま)いぞ』
177ピー州『それなら開(あ)けてやらうか。178シヤール、179貴様(きさま)も棍棒(こんぼう)を放(はな)すな。180俺(おれ)も怪(あや)しいと見(み)たら撲(なぐ)りつけてやるのだから』
181と片手(かたて)に棒(ぼう)を握(にぎ)り片手(かたて)で門(もん)を開(ひら)いた。182女(をんな)は待(ま)ち兼(か)ねたやうに細(ほそ)く開(ひら)いた所(ところ)から転(こ)けるが如(ごと)く飛(と)び込(こ)んだ。183女(をんな)の白(しろ)い顔(かほ)、184美(うつく)しき衣(きぬ)の色(いろ)は、185折(をり)から昇(のぼ)る月(つき)に輝(かがや)いて恰(あだか)も天女(てんによ)の如(ごと)く見(み)えて来(き)た。186二人(ふたり)は此奴(こいつ)テツキリ化物(ばけもの)と、187双方(さうはう)より棍棒(こんぼう)をもつて打(う)つてかかるを、188女(をんな)もしれもの引(ひ)き外(はづ)し、189小股(こまた)を掬(すく)つて大地(だいち)にドツと二人(ふたり)を投(な)げつけ、190平然(へいぜん)として後(あと)振(ふ)り向(む)き、
191女(セーリス姫)『ホヽヽヽヽ危険(あぶな)い事(こと)』
192と云(い)ひながら、193スタスタと奥(おく)を目蒐(めが)けて進(すす)み往(ゆ)く。194二人(ふたり)は女(をんな)の強力(がうりき)に投(な)げつけられ胆(きも)を潰(つぶ)して声(こゑ)を震(ふる)はせ、
195ピー州『オイ、196シヤールよ』
197シャール『オイ、198ピー………よ』
199ピー州『薩張(さつぱり)だなア、200シヤール』
201シャール『ウン薩張(さつぱり)だ。202これだから門番(もんばん)は気(き)に喰(く)はぬと云(い)ふのだ。203キツト明日(あす)は免職(めんしよく)だよ。204門番(もんばん)もかうなつては面色(めんしよく)無(な)しだから免職(めんしよく)されても仕方(しかた)がないわ。205アヽ大変(たいへん)に大腿骨(だいたいこつ)を打(う)つたと見(み)えて、206チヨツくらチヨツとには動(うご)けないわ。207ピー、208貴様(きさま)はどうだい』
209ピー州『俺(おれ)だつて矢張(やつぱり)大地(だいち)に投(な)げ付(つ)けられたのだもの、210大抵(たいてい)定(きま)つたものだよ』
211 斯(か)く話(はな)す折(をり)しも四辺(あたり)に響(ひび)く振鈴(しんれい)の声(こゑ)、
212二人『ヤアヤア有難(ありがた)い、213これから暫(しばら)く俺(おれ)の天下(てんか)だ』
214と二人(ふたり)は四這(よつばひ)になつて門番(もんばん)部屋(べや)に這込(はひこ)み、215足腰(あしこし)の痛(いた)さを耐(こら)へながら寝(しん)につくのであつた。
216 ベリス姫(ひめ)は夫(をつと)に相談(さうだん)の場所(ばしよ)から退去(たいきよ)を命(めい)ぜられ、217心(こころ)の中(うち)で「水臭(みづくさ)い夫(をつと)だ、218秘密(ひみつ)が洩(も)れると云(い)つたつて一生(いつしやう)連(つ)れ添(そ)ふ女房(にようばう)に云(い)はれぬ秘密(ひみつ)がどこにあるものか。219キツト自分(じぶん)に隠(かく)して綺麗(きれい)な女(をんな)をどこかに囲(かこ)つて居(を)るのだらう。220それでなくては女房(にようばう)が傍(そば)に居(を)られぬ筈(はず)がない。221レーブ、222カルの両人(りやうにん)はきつとナイスを取(と)りもち、223終(しまひ)の果(はて)には此(この)ベリスを追(お)ひ出(だ)し大黒主(おほくろぬし)様(さま)の二(に)の舞(まひ)をさするのかも知(し)れない。224エヽ気分(きぶん)の悪(わる)い。225男(をとこ)と云(い)ふものは油断(ゆだん)のならぬものだ。226斯(か)うなつて来(く)ると世(よ)の中(なか)が厭(いや)になつて来(き)た」と呟(つぶや)きながら睡(ねむ)りもならず玄関口(げんくわんぐち)にヒヨロリ ヒヨロリとやつて来(き)た。227玄関口(げんくわんぐち)には妙齢(めうれい)の美人(びじん)が月(つき)に照(て)らされて細(ほそ)き涼(すず)しき声(こゑ)にて、
228女(セーリス姫)『もしもし、229テームス様(さま)に至急(しきふ)の用事(ようじ)が厶(ござ)いますから、230一寸(ちよつと)取(と)り次(つ)いで下(くだ)さいませ』
231と云(い)つて居(ゐ)る。232ベリス姫(ひめ)はむつとして、
233ベリス姫『どこの魔性(ましやう)の女(をんな)か知(し)りませぬが、234夜夜中(よるよなか)に大(だい)それた男(をとこ)の名(な)を呼(よ)んでかい出(だ)しに来(く)るものが何処(どこ)にあるかえ。235テームスにはベリスと云(い)ふ立派(りつぱ)な家内(かない)が厶(ござ)りますぞや。236お前(まへ)達(たち)に夫(をつと)の名(な)を呼(よ)んで貰(もら)ふ必要(ひつえう)はありませぬ、237とつとと帰(かへ)つて下(くだ)さい』
238女(セーリス姫)『貴女(あなた)が、239ベリス姫(ひめ)様(さま)で厶(ござ)いましたか。240御(ご)壮健(さうけん)でお目出度(めでた)う厶(ござ)います。241テームス様(さま)は御(ご)在宅(ざいたく)で厶(ござ)いますか』
242ベリス姫『ハイ、243居(を)るか居(を)らぬか早速(さつそく)お答(こた)へは出来(でき)ませぬわい。244貴女(あなた)もテームスと永(なが)らくの御(ご)関係(くわんけい)、245私(わたし)の死(し)ぬのを待(ま)つて居(ゐ)られましたらうが、246憎(にく)まれ子(ご)世(よ)に覇張(はば)るとか……これこの通(とほ)りピチピチと千(せん)年(ねん)も万(まん)年(ねん)も生(い)きるやうな此(この)体(からだ)、247あまり御(ご)壮健(さうけん)で貴女(あなた)の身(み)に取(と)つて余(あま)りお目出度(めでた)うは厶(ござ)いますまい』
248女(セーリス姫)『一寸(ちよつと)急(きふ)に申(まを)しあげ度(た)い事(こと)が厶(ござ)いまして参(まゐ)つたので厶(ござ)いますから、249お疑(うたが)ひ遊(あそ)ばさずに、250どうぞ奥(おく)へお取(と)り次(つぎ)を願(ねが)ひます』
251ベリス姫『オホヽヽヽ、252何(なん)とまあ家(うち)の旦那(だんな)をチヨロまかすだけの腕前(うでまへ)をもつて居(を)られると見(み)え、253甘(うま)い事(こと)を仰有(おつしや)いますわい。254此(この)ベリス姫(ひめ)はそんな馬鹿(ばか)ではありませぬ。255用(よう)があるなら昼(ひる)来(き)て下(くだ)さい。256今頃(いまごろ)出(で)て来(く)るものにどうで碌(ろく)なものはない。257断(だん)じて取次(とりつぎ)は致(いた)しませぬ。258いつ迄(まで)なと其処(そこ)に待(ま)つて居(ゐ)らつしやい。259お気(き)の毒(どく)様(さま)、260アバよ』
261と頤(あご)を二(ふた)つ三(み)つしやくつて奥(おく)深(ふか)く姿(すがた)をかくした。262此(この)女(をんな)は左守(さもり)の司(かみ)クーリンスの娘(むすめ)セーリス姫(ひめ)である。263ユーフテスの口(くち)より聞(き)いた一切(いつさい)の秘密(ひみつ)を今夜(こんや)の中(うち)にテームスに知(し)らせ、264其(その)準備(じゆんび)に取(と)りかからせむ為(ため)に人目(ひとめ)を忍(しの)んでソツとやつて来(き)たのである。265ベリス姫(ひめ)は面(つら)を膨(ふく)らし畳触(たたみざは)り荒々(あらあら)しくテームスの部屋(へや)に駆(か)け込(こ)み、266レーブ、267カルの両人(りやうにん)をカツと睨(ね)め付(つ)け、268声(こゑ)を震(ふる)はせ地団駄(ぢだんだ)を踏(ふ)みながら、
269ベリス姫『こりや、270レーブ、271カルの悪人(あくにん)共(ども)、272ようまア旦那(だんな)様(さま)を煽(おだ)てあげ魔性(ましやう)の女(をんな)を世話(せわ)致(いた)したな。273家(いへ)を乱(みだ)す大悪人(だいあくにん)、274了簡(れうけん)致(いた)さぬぞや。275これ旦那(だんな)様(さま)、276私(わたし)を今迄(いままで)よくお騙(だま)しなさいました。277貴方(あなた)のお腕前(うでまへ)には此(この)ベリスも感心(かんしん)致(いた)しました。278何(なに)も男(をとこ)の御(ご)器量(きりやう)でなさる事(こと)だもの、279私(わたし)に包(つつ)み隠(かく)しをせずに、280何故(なぜ)公然(こうぜん)と女(をんな)を引(ひ)き入(い)れ大黒主(おほくろぬし)様(さま)のやうに私(わたし)を放逐(はうちく)なさらぬのか、281余(あま)り遣方(やりかた)が姑息(こそく)ぢやありませぬか。282エヽ残念(ざんねん)や口惜(くや)しやなア』
283と其(その)辺(へん)にあつた小道具(こだうぐ)を狂気(きやうき)の如(ごと)く投(な)げつけ狂(くる)ひ廻(まは)る。284レーブ、285カルの両人(りやうにん)は合点(がてん)往(ゆ)かず、286唖然(あぜん)としてベリス姫(ひめ)の乱暴(らんばう)を打(う)ち見守(みまも)つて居(ゐ)る。287テームスは声(こゑ)を尖(とが)らし、
288テームス『こりやベリス姫(ひめ)、289其(その)方(はう)は狂気(きやうき)致(いた)したか。290このテームスに女(をんな)があるとは以(もつ)ての外(ほか)の事(こと)、291何(なに)を証拠(しようこ)に左様(さやう)なことを申(まを)すか。292証拠(しようこ)なくして大切(たいせつ)なお客様(きやくさま)の前(まへ)で左様(さやう)な事(こと)を申(まを)すと、293第一(だいいち)夫(をつと)の名折(なを)れ、294教(をしへ)の道(みち)に傷(きず)がつく。295サア返答(へんたふ)を致(いた)せ』
296 ベリス姫(ひめ)は恨(うら)めし気(げ)に涙(なみだ)を拭(ぬぐ)ひながら、
297ベリス姫『オホヽヽヽ何(なん)とまア白々(しらじら)しい事(こと)を仰有(おつしや)いますわい。298証拠(しようこ)がなくて何(なに)そんな事(こと)を申(まを)しませうぞ。299貴方(あなた)の名誉(めいよ)を思(おも)ひ、300教(をしへ)を大切(たいせつ)だと思(おも)へばこそ私(わたし)が気(き)を揉(も)むのぢや厶(ござ)いませぬか。301よう此処(ここ)の所(ところ)を聞分(ききわ)けて下(くだ)さい。302貴方(あなた)の改心(かいしん)が出来(でき)ねば、303私(わたし)は此(この)場(ば)で自殺(じさつ)致(いた)します。304何卒(どうぞ)それを見(み)て御(ご)改心(かいしん)を願(ねが)ひます』
305と早(はや)くも懐剣(くわいけん)抜(ぬ)き放(はな)ち喉(のど)に突(つ)き立(た)てむとするを、306レーブは慌(あわ)てて其(その)手(て)を握(にぎ)り短刀(たんたう)を引(ひ)つたくり、
307レーブ『コレコレ奥様(おくさま)、308誤解(ごかい)なさつては困(こま)りますよ。309此方(こなた)の旦那(だんな)様(さま)に限(かぎ)つてそんな事(こと)をなさる気遣(きづか)ひはありませぬ。310そりや何(なに)かの間違(まちが)ひでせう。311キツト私(わたし)が保証(ほしよう)致(いた)しますから御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
312 ベリスは冷笑(れいせう)を浮(うか)べながら、
313ベリス姫『オホヽヽヽ措(お)いて下(くだ)さいませ。314そんな巧妙(かうめう)な辞令(じれい)を百万遍(ひやくまんべん)お並(なら)べなさつても、315そんな事(こと)に胡麻化(ごまか)されるやうなベリスではありませぬ。316よい加減(かげん)に人(ひと)を馬鹿(ばか)にしておきなさい。317レーブとカルが、318家(うち)のテームスと腹(はら)を合(あは)せたる同(おな)じ穴(あな)の貉(むじな)でせう。319どこを押(おさ)へたら、320そんな素々(しらじら)しい事(こと)がよく言(い)はれるものですかなア。321オホヽヽヽ』
322 テームス、323レーブ、324カルの三(さん)人(にん)は一向(いつかう)合点(がてん)往(ゆ)かず、325両手(りやうて)を組(く)んで思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)る。326其処(そこ)へ監督(かんとく)のエムが、327セーリス姫(ひめ)を伴(ともな)ひ現(あら)はれ来(きた)り恭(うやうや)しく両手(りやうて)をついて、
328エム『旦那(だんな)様(さま)、329只今(ただいま)、330左守(さもり)の司様(かみさま)の御(おん)息女(そくぢよ)、331セーリス姫(ひめ)様(さま)が、332至急(しきふ)の御用(ごよう)があつて、333夜中(やちう)にも拘(かかは)らず何(なに)か御用(ごよう)が出来(でき)たと見(み)えてお越(こ)しになりましたから、334此処迄(ここまで)御(ご)案内(あんない)を致(いた)しました』
335 テームスはセーリス姫(ひめ)の来訪(らいほう)と聞(き)き、336ハツと驚(おどろ)き叮嚀(ていねい)に首(くび)を畳(たたみ)に擦(す)り付(つ)けながら、
337テームス『これはこれはセーリス姫(ひめ)様(さま)、338よくまア夜中(やちう)にも拘(かかは)らず此(この)破家(あばらや)をお訪(たづ)ね下(くだ)さいました。339何(なに)か変(かは)つた御用(ごよう)で厶(ござ)いますか』
340セーリス姫『ハイ、341今晩(こんばん)是非(ぜひ)申(まを)し上(あ)げねばならぬ事(こと)が出来(でき)ましたので、342夜中(やちう)お驚(おどろ)かせ申(まを)しまして誠(まこと)にすみませぬ』
343 ベリス姫(ひめ)は、344セーリス姫(ひめ)と聞(き)きて今更(いまさら)の如(ごと)く打(う)ち驚(おどろ)き、345鯱鉾立(しやちほこだち)になつて頭(あたま)をペコペコ打(う)ちつけながら、
346ベリス姫『これはこれは尊(たふと)き尊(たふと)きセーリス姫(ひめ)様(さま)で御座(ござ)いましたか。347存(ぞん)ぜぬ事(こと)とて重々(ぢゆうぢゆう)の御(ご)無礼(ぶれい)、348どうぞお赦(ゆる)し下(くだ)さいませ』
349 セーリス姫(ひめ)は何気(なにげ)なき体(てい)にて、
350セーリス姫『オホヽヽヽ、351誠(まこと)に夜中(やちう)に参(まゐ)りまして強(きつ)い誤解(ごかい)をさせました。352定(さだ)めしテームス様(さま)の情婦(いろ)が出(で)て来(き)たと誤解(ごかい)をおさせしたと思(おも)うて居(ゐ)ました。353あの時(とき)お名乗(なのり)をすればよかつたのですが、354天(てん)に口(くち)、355壁(かべ)に耳(みみ)と言(い)ふ事(こと)がありますから申上(まをしあ)げませぬでした。356どうぞテームス様(さま)に対(たい)して、357怪(あや)しき関係(くわんけい)を持(も)つて居(を)る女(をんな)ぢや厶(ござ)いませぬから、358御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
359 ベリス姫(ひめ)は、
360ベリス姫『ハイハイ』
361と恐(おそ)れ入(い)り頭(あたま)も得上(えあ)げず、362顔(かほ)を真紅(まつか)にして畏縮(ゐしゆく)してゐる。
363テームス『ベリス姫(ひめ)、364毎度(まいど)云(い)つてお前(まへ)の気(き)を揉(も)ますか知(し)らぬが、365一寸(ちよつと)秘密(ひみつ)の御用(ごよう)があるさうだから席(せき)を外(はづ)して居(ゐ)て呉(く)れ』
366 ベリスは、
367ベリス姫『ヘー』
368と長返事(ながへんじ)しながら、369少(すこ)しく不安心(ふあんしん)の面持(おももち)にて、370不承(ふしよう)々々(ぶしよう)に挨拶(あいさつ)もせず次(つぎ)の間(ま)に立(た)つて行(ゆ)く。371テームスはセーリス姫(ひめ)に対(たい)して気(き)の毒(どく)でならず心(こころ)を痛(いた)めながら、
372テームス『セーリス姫(ひめ)様(さま)、373御存(ごぞん)じの通(とほ)りの困(こま)つた女房(にようばう)ですから、374どうぞお気(き)に触(さ)へられないやうに願(ねが)ひます』
375セーリス姫『そんなお心遣(こころづか)ひは御(ご)無用(むよう)にして下(くだ)さいませ。376夫(をつと)のある方(かた)に対(たい)し、377若(わか)い女(をんな)が尋(たづ)ねて来(く)るのが元来(ぐわんらい)間違(まちが)つて居(ゐ)ます。378併(しか)しながら、379そんなことを言(い)つて居(を)られないのでお訪(たづ)ね致(いた)しました。380時(とき)にこのお二人(ふたり)の方(かた)は此処(ここ)に居(を)られても差支(さしつか)へ厶(ござ)いますまいかなア。381何(なん)だか申上(まをしあ)げ悪(にく)うて困(こま)ります』
382レーブ『イヤ、383私(わたし)も長(なが)らく座談(ざだん)に時(とき)を費(つひ)やし尻(しり)も痛(いた)くなりましたから一寸(ちよつと)外(そと)へ出(で)て月(つき)でも賞(ほ)めて来(き)ませう。384サア、385カルさま、386暫(しばら)く屋外(をくぐわい)の空気(くうき)を吸(す)うて来(こ)ようぢやありませぬか』
387と云(い)ひながら早(はや)くも立(た)つて外(そと)に出(い)でて往(ゆ)く。388カルも従(したが)つて屋外(をくぐわい)に姿(すがた)を現(あら)はした。389無心(むしん)の月(つき)は、390皎々(かうかう)として遺憾(ゐかん)なく万物(ばんぶつ)を照臨(せうりん)してゐる。391奥(おく)の一間(ひとま)にはテームスとセーリス姫(ひめ)との間(あひだ)に重要(ぢうえう)なる問答(もんだふ)が交換(かうくわん)された様子(やうす)である。
392(大正一一・一一・一〇 旧九・二二 加藤明子録)
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