霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 都入(みやこい)り〔一一一六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第2篇 神機赫灼 よみ(新仮名遣い):しんきかくしゃく
章:第12章 都入り よみ(新仮名遣い):みやこいり 通し章番号:1116
口述日:1922(大正11)年11月11日(旧09月23日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黄金姫母娘が峠を登りきると、右守の家老ユーフテスが、従者を連れて待っていた。ユーフテスはお告げにより、黄金姫母娘が来ることを知っていたのである。
ユーフテスはイルナの国の危機を救ってほしいと母娘に頼んだ。一行が話していると、下から騎馬隊が登ってきた。騎馬隊はシャールの手の者で、ヤスダラ姫を追ってきたのであった。ユーフテスは空とぼけて耳が聞こえないふりをした。
騎馬隊はヤスダラ姫一行を捜索していた。黄金姫と清照姫は、ヤスダラ姫らしき一行がイルナの都を指して峠を下って行ったと騎馬隊に空とぼけた。
騎馬隊をやり過ごし、黄金姫はヤスダラ姫は狼の岩窟に安全にかくまわれているとユーフテスに明かした。ユーフテスは、黄金姫母娘に狼の守護がついていると聞いてすっかりおびえてしまった。
黄金姫が自分たちは狼女母娘だとユーフテスをからかい、真に受けたユーフテスは短刀で母娘に切りかかったが、狼の声を聞いて恐ろしさにその場に倒れてしまった。
黄金姫に介抱されて元気を取り戻したユーフテスは、初めて黄金姫の心を悟り、頭を下げ両手を合わせてその親切を感謝し、二人の後に従って峠を下った。
ユーフテスは下りながら宣伝歌を歌った。自分は右守の家老と仕えながら、左守の娘セーリス姫への恋のために、主人の右守の企みに加担せず、王と左守一族を助けようと動いていることを歌った。
峠を下ると、先の右守の手先の騎士たちが弓をつがえて一行を待ち伏せていた。黄金姫は宣伝歌を歌いながら近くに進んだ。狼の声が聞こえると騎士たちの体は強直してしまった。
そこへ、テームス、レーブ、カルの三人は馬に乗ってやってきた。三人は副え馬を引いており、黄金姫と清照姫は馬に乗ってイルナの都に入場した。
ユーフテスは黄金姫に策を授けられ、強直した騎士たちを鎮魂して元に戻し、自分が右守の従臣であることを幸い、騎士たちと右守の館を目指した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-13 12:06:59 文字数:5640 OBC :rm4112
愛善世界社版:168頁 八幡書店版:第7輯 591頁 修補版: 校定版:176頁 普及版:79頁 初版: ページ備考:
001 黄金姫(わうごんひめ)、002清照姫(きよてるひめ)は、003三(さん)人(にん)の一行(いつかう)を高照山(たかてるやま)に遣(つか)はし、004肩(かた)の重荷(おもに)を卸(おろ)すやうな心持(こころもち)になつて、005さしもに嶮(けは)しき急坂(きふはん)をエチエチと登(のぼ)り行(ゆ)く。006漸(やうや)くにして頂上(ちやうじやう)に辿(たど)りついた。007此処(ここ)にはユーフテスと云(い)ふ右守司(うもりつかさ)の家老(からう)を勤(つと)めて居(ゐ)る不誠忠(ふせいちう)無比(むひ)の男(をとこ)が、008二三(にさん)人(にん)の家(いへ)の子(こ)を引(ひ)きつれ、009神(かみ)の告(つげ)によつて黄金姫(わうごんひめ)母娘(おやこ)の来(く)ることを知(し)り、010案内(あんない)と迎(むか)へを兼(か)ねて登(のぼ)つて来(き)た。011ユーフテスは、012二人(ふたり)の峠(たうげ)の頂上(ちやうじやう)に佇(たたず)み、013四方(よも)の景色(けしき)を眺(なが)め息(いき)をやすめて居(ゐ)るその側(そば)に、014恭(うやうや)しく頭(かしら)を下(さ)げながら進(すす)み寄(よ)り、
015ユーフテス『一寸(ちよつと)ものをお尋(たづ)ね申(まを)しますが、016私(わたし)はイルナの都(みやこ)の右守司(うもりつかさ)の館(やかた)に家老職(からうしよく)を勤(つと)めて居(を)りますユーフテスと申(まを)すもので厶(ござ)いますが、017若(も)しや貴女(あなた)様(さま)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)黄金姫(わうごんひめ)様(さま)、018清照姫(きよてるひめ)様(さま)の御(ご)一行(いつかう)では御座(ござ)いませぬか。019イルナの都(みやこ)はバラモン教(けう)の教(をしへ)をもつて民(たみ)を治(をさ)むる国(くに)で御座(ござ)いますれば、020三五教(あななひけう)の貴女(あなた)様(さま)をお迎(むか)へ申(まを)すと申上(まをしあ)げては、021怪(あや)しく思召(おぼしめ)さるるで御座(ござ)いませうが、022決(けつ)して汚(きたな)き心(こころ)で、023お迎(むか)へに参(まゐ)つたのでは御座(ござ)いませぬ。024何卒(どうぞ)お名乗(なの)り下(くだ)さいませぬか』
025黄金(わうごん)『ホー、026其方(そなた)はイルナの国(くに)の右守司(うもりつかさ)の館(やかた)に仕(つか)ふるユーフテス殿(どの)か、027それは御(ご)苦労(くらう)。028お察(さつ)しの通(とほ)り、029私(わたし)は黄金姫(わうごんひめ)、030清照姫(きよてるひめ)の母娘(おやこ)で御座(ござ)います。031王(わう)様(さま)の御(ご)身辺(しんぺん)は、032どうで御座(ござ)いますかな』
033ユーフテス『ハイ、034有難(ありがた)う、035唯今(ただいま)の処(ところ)では先(ま)づ御(ご)無事(ぶじ)で御座(ござ)いますが、036何時(いつ)大風(たいふう)一過(いつくわ)、037有名(いうめい)なるイルナ城(じやう)も破壊(はくわい)するかも分(わか)らない危機(きき)に瀕(ひん)して居(を)ります。038実(じつ)にイルナの都(みやこ)は暗雲(あんうん)低迷(ていめい)、039豪雨(がうう)臻(いた)らむとして、040先(ま)づ其(その)窓(まど)を鎖(とざ)すべき真人(しんじん)が御座(ござ)いませぬので、041王(わう)様(さま)は申(まを)すも更(さら)なり、042忠義(ちうぎ)にはやる真人(まさびと)等(たち)は夜(よ)も碌々(ろくろく)に寝(ね)られず、043心(こころ)を痛(いた)めて居(を)ります。044右守司(うもりつかさ)の放(はな)つた探偵(たんてい)は縦横(じうわう)無尽(むじん)に横行(わうかう)闊歩(くわつぽ)し、045大(おほ)きな声(こゑ)で物(もの)も碌(ろく)に云(い)へないと云(い)ふ有様(ありさま)で御座(ござ)います。046何卒(どうぞ)御(ご)推量(すゐりやう)下(くだ)さいまして、047貴女(あなた)の神力(しんりき)によつてイルナの国(くに)の危難(きなん)をお救(すく)ひ下(くだ)さいませ』
048黄金姫『反間(はんかん)苦肉(くにく)の策(さく)を弄(ろう)し、049大(だい)それた野望(やばう)を遂(と)げむとする悪人輩(あくにんばら)の巣窟(さうくつ)なれば、050うつかり高(たか)い声(こゑ)で物(もの)を言(い)ふ訳(わけ)にも往(ゆ)きませぬ。051此処(ここ)は山(やま)の頂(いただき)なれども、052矢張(やつぱり)悪神(あくがみ)の霊(れい)は吾(われ)等(ら)一行(いつかう)を遠(とほ)く巻(ま)いて居(を)りますれば、053込(こ)み入(い)つた事(こと)は申(まを)されませぬ。054何事(なにごと)も私(わたし)の胸(むね)にあれば御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
055 清照姫(きよてるひめ)はしとやかに、
056清照姫『貴方(あなた)がユーフテスさまで厶(ござ)いましたか。057御(ご)苦労(くらう)でしたなア、058これから都(みやこ)まではまだ余程(よほど)の道程(みちのり)がありますか』
059ユーフテス『ハイ、060もはや十(じふ)里(り)足(た)らずで御座(ござ)りますれば、061些(すこ)しく急(いそ)ぎますれば、062今晩(こんばん)の四(よ)つ時(どき)までには到着(たうちやく)出来(でき)るでせう。063丁度(ちやうど)夜中(やちう)に御(ご)入城(にふじやう)下(くだ)さる方(はう)が安全(あんぜん)で厶(ござ)いませう』
064 斯(か)く話(はな)す処(ところ)へ「オーイ オーイ」と坂(さか)の下(した)から呼(よ)ばはりながら登(のぼ)り来(く)る五(ご)人(にん)の騎馬隊(きばたい)がある。065三(さん)人(にん)は何事(なにごと)ならむと訝(いぶか)りながら、066峠(たうげ)の傍(かたはら)の石(いし)に腰(こし)打(う)ちかけ、067くだらぬ世間話(せけんばなし)を態(わざ)と交換(かうくわん)して居(ゐ)た。068ユーフテスは節(ふし)面白(おもしろ)く唄(うた)ひながら踊(をど)つて居(ゐ)る。
069ユーフテス『高(たか)い山(やま)から谷(たに)の底(そこ)見(み)れば
070かぼちやや茄子(なす)の花盛(はなざか)り
071とは云(い)ふもののこりや嘘(うそ)ぢや
072今(いま)は紅葉(もみぢ)の秋(あき)の末(すゑ)
073冬(ふゆ)の境(さかひ)となり果(は)てて
074木々(きぎ)の梢(こずゑ)はバラバラと
075散(ち)り敷(し)く木(こ)の葉(は)は雨(あめ)のごと
076高照山(たかてるやま)の紅葉(もみぢば)も
077衣(ころも)を脱(ぬ)ぎて丸裸体(まるはだか)
078老木(おいき)も若木(わかぎ)もぶるぶると
079慄(ふる)ひ戦(をのの)く哀(あは)れさよ
080照山峠(てるやまたうげ)と云(い)ふけれど
081木(こ)の葉(は)は雨(あめ)に叩(たた)かれて
082一(ひと)つも残(のこ)らず真裸体(まつぱだか)
083照山峠(てるやまたうげ)は忽(たちま)ちに
084なきやま峠(たうげ)となりました
085ドツコイドツコイドツコイシヨ』
086と唄(うた)つて居(ゐ)る。087其処(そこ)へ五(ご)人(にん)の騎馬隊(きばたい)が登(のぼ)つて来(き)て三(さん)人(にん)を眼下(がんか)に見下(みおろ)しながら、
088騎士『其(その)方(はう)は何者(なにもの)なるか』
089と大喝(たいかつ)すると、090ユーフテスは態(わざ)と空呆惚(そらとぼ)けて手(て)を耳(みみ)にあてがひ首(くび)を傾(かたむ)け、
091ユーフテス『ヘイ何(なん)と仰(あふ)せられますか。092此(この)下(くだ)り坂(ざか)は酷(きつ)いかとお尋(たづ)ねですか。093それはそれは随分(ずゐぶん)きつい坂(さか)で厶(ござ)いますよ』
094騎士(きし)『その方(はう)は察(さつ)する所(ところ)聾(つんぼ)と見(み)える。095エヽ仕方(しかた)がない。096それなる女(をんな)に尋(たづ)ねるが、097今(いま)此処(ここ)へ妙齢(めうれい)の美人(びじん)と一人(ひとり)の下男(げなん)が通(とほ)らなかつたか』
098 黄金姫(わうごんひめ)は態(わざ)と阿呆(あはう)げた顔(かほ)をして、
099黄金姫『ハイ、100此(この)峠(たうげ)の少(すこ)し手前(てまへ)で何(なん)とも云(い)へぬ美(うつく)しい女(をんな)が三(さん)人(にん)、101男(をとこ)が一人(ひとり)に出会(であ)ひましたが、102私(わたし)を見(み)るなり、103あゝ汚(きたな)い乞食(こじき)だと罵(ののし)りながら此(この)坂(さか)を一目散(いちもくさん)に登(のぼ)つて往(ゆ)きました。104何程(なにほど)落魄(おちぶ)れた乞食(こじき)だつて矢張(やつぱり)同(おな)じ人間(にんげん)ですもの、105そんなに軽蔑(けいべつ)したものぢやありませぬなア』
106騎士『ナニ女(をんな)が三(さん)人(にん)、107男(をとこ)が一人(ひとり)とは合点(がてん)が行(ゆ)かぬ。108確(たしか)に女(をんな)一人(ひとり)、109男(をとこ)一人(ひとり)通(とほ)つた筈(はず)だ。110嘘(うそ)を申(まを)して居(を)るのではないか』
111黄金姫『嘘(うそ)と思(おも)ふなら勝手(かつて)に思(おも)はつしやい。112此(この)婆(ばば)の目(め)には確(たしか)に女(をんな)が三(さん)人(にん)、113男(をとこ)が一人(ひとり)だ。114併(しか)も素敵(すてき)な別嬪(べつぴん)だつた。115一体(いつたい)お前(まへ)は何処(どこ)から何処(どこ)に行(ゆ)かしやるのだ。116大変(たいへん)景気(けいき)のよい駒(こま)に乗(の)つて、117あのまあ強(つよ)さうな事(こと)わいのう』
118清照姫『あのお母(かあ)さま、119今(いま)往(い)つた綺麗(きれい)な女(をんな)の方(かた)は、120ヤスだとかダラだとか云(い)つていらつしやつたやうですな』
121騎士『何(なに)、122ヤスと云(い)つて居(ゐ)たか、123そりや確(たしか)にヤスダラ姫(ひめ)に相違(さうゐ)あるまい。124踪跡(そうせき)を暗(くら)ますために、125何処(どこ)かで乞食(こじき)女(をんな)でも雇(やと)つて来(き)よつたのだなア。126ヤア女(をんな)共(ども)、127よう云(い)つて呉(く)れた。128サア皆(みな)の者(もの)、129一鞭(ひとむち)あてて下(くだ)らうではないか、130シヤール様(さま)に、131これで申訳(まをしわけ)が立(た)つと云(い)ふものだ』
132と下(くだ)り坂(ざか)を馬(うま)に跨(またが)つたまま進(すす)まうとする。133ユーフテスは、
134ユーフテス『あゝもしもし、135こんな下(くだ)り坂(ざか)を馬(うま)に乗(の)つて通(とほ)らうものなら、136それこそ忽(たちま)ちですぞ。137命(いのち)の惜(を)しくないものは乗(の)つて往(ゆ)かつしやい』
138騎士『何(なに)これしきの急坂(きふはん)が苦(く)になるか、139騎馬(きば)の達人(たつじん)の顔揃(かほぞろ)ひだ。140下(くだ)り坂(ざか)になつて馬(うま)を下(お)りるやうで、141どうして此(この)使命(しめい)が果(はた)されるか、142サア往(ゆ)かう』
143と云(い)ひながら手綱(たづな)を引(ひ)き締(し)め、144ハイ ハイ ハイと矢声(やごゑ)をあびせながら下(くだ)り往(ゆ)く。
145清照姫『お母(かあ)さま、146神(かみ)様(さま)は都合(つがふ)よくして下(くだ)さいますなア、147もう少(すこ)しの事(こと)でヤスダラ姫(ひめ)様(さま)は彼(かれ)等(ら)一行(いつかう)に捕(とら)へられなさる処(ところ)で厶(ござ)いました。148マアお仕合(しあは)せのお方(かた)ですこと』
149黄金姫『アヽさうだなア、150これだから神(かみ)様(さま)の御(ご)神力(しんりき)は尊(たふと)くて忘(わす)れられぬのだよ』
151ユーフテス『ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)にお会(あ)ひになりましたか、152どうして姫(ひめ)様(さま)がこんな処(ところ)へお出(いで)になつたのでせう。153テルマン国(ごく)のシヤールと云(い)ふ富豪(ふうがう)の家(いへ)に嫁(とつ)いで居(ゐ)られますのだから、154お帰(かへ)りになるなら沢山(たくさん)のお供(とも)がついて居(ゐ)なければならぬ筈(はず)、155何(なに)か変事(へんじ)でも起(おこ)つたのでは厶(ござ)りますまいか』
156黄金(わうごん)『何(いづ)れこれには訳(わけ)のあることです。157併(しか)し乍(なが)ら高照山(たかてるやま)の岩窟(がんくつ)に御(ご)案内(あんない)をして置(お)きましたから、158狼(おほかみ)が守(まも)つて居(ゐ)ます故(ゆゑ)、159御(ご)心配(しんぱい)は要(い)りますまい』
160ユーフテス『何(なん)と仰有(おつしや)います。161人々(ひとびと)の恐(おそ)れて寄(よ)りつかない高照山(たかてるやま)の狼(おほかみ)の巣窟(さうくつ)にヤスダラ姫(ひめ)様(さま)を御(ご)案内(あんない)なさるとは約(つま)り殺(ころ)しにおやりなさつたのですか』
162黄金姫『オホヽヽヽ、163苟(いやし)くも人(ひと)を助(たす)くる宣伝使(せんでんし)の身(み)として、164そんな事(こと)があつて堪(たま)りますか。165狼(おほかみ)だつて誠(まこと)をもつて向(むか)へば至極(しごく)柔順(じうじゆん)なもの、166私(わたし)にも、167かうして居(ゐ)るものの、168一(ひと)つ手(て)を叩(たた)けば五十(ごじふ)や百(ひやく)の狼(おほかみ)はすぐ此処(ここ)へ現(あら)はれて来(き)ますからなア。169オホヽヽヽ』
170 ユーフテスは顔色(かほいろ)をサツと変(か)へ、171足(あし)をワナワナさせながら、
172ユーフテス『ナヽヽヽ何(なん)と仰有(おつしや)います、173貴女(あなた)は狼(おほかみ)をお使(つか)ひ遊(あそ)ばすのですか』
174黄金姫『オホヽヽヽ、175大層(たいそう)慄(ふる)うて居(を)りますな。176私(わたし)は狼婆(おほかみばば)と狼娘(おほかみむすめ)の一行(いつかう)だから、177お前(まへ)も此(この)世(よ)が厭(いや)になつて死(し)にたいと思(おも)はしやつたら、178ちつとも心配(しんぱい)はない、179狼(おほかみ)に喰(く)はして上(あ)げる程(ほど)に喜(よろこ)びなさいよ』
180と態(わざ)と作(つく)り声(ごゑ)をして憎(にく)さげに云(い)つて見(み)せる。
181清照姫『オホヽヽヽ、182お母(かあ)さまとした事(こと)が、183これ程(ほど)臆病(おくびやう)な人(ひと)をつかまへて威嚇(おどか)すものぢやありませぬよ、184貴女(あなた)も余程(よほど)腹(はら)が悪(わる)うなりましたなア』
185黄金姫『実(じつ)は今(いま)通(とほ)つた騎士(きし)共(ども)が此(この)谷口(たにぐち)で吾々(われわれ)三(さん)人(にん)の行路(かうろ)を要(えう)してキツト待(ま)つて居(ゐ)るから、186其(その)時(とき)手(て)を打(う)つて百匹(ひやつぴき)許(ばか)り狼(おほかみ)を呼(よ)びあつめ追(お)つ払(ぱら)つてやる積(つも)りだ。187其(その)時(とき)このユーフテスさまが、188腰(こし)でも抜(ぬ)かしては大変(たいへん)だから、189今(いま)の中(うち)にビツクリの修業(しうげふ)をさして居(を)るのだ。190これこれユーフテス様(さま)、191何(なに)がそれ程(ほど)恐(こは)いのぢや、192お前様(まへさま)は王(わう)様(さま)のためには不惜(ふじやく)身命(しんみやう)の活動(くわつどう)をすると何時(いつ)も云(い)つて居(ゐ)るだらう。193命(いのち)の惜(を)しくないものが何故(なぜ)そんなに慄(ふる)ふのだろう。194不惜(ふしやく)身命(しんみやう)もあまり当(あて)にはなりませぬぞや。195口(くち)ではどんな甘(うま)い事(こと)も云(い)へますが、196イザ鎌倉(かまくら)となると皆(みな)逃腰(にげごし)になるのだから困(こま)つたものだよ』
197ユーフテス『君(きみ)のため、198世(よ)のために命(いのち)を捨(す)つるのなら捨(す)て甲斐(がひ)がありますが、199狼(おほかみ)などに、200バリバリやられては、201それこそ犬死(いぬじに)、202いや狼死(おほかみじに)ですからたまりませぬわ。203同(おな)じ事(こと)なら君(きみ)のため、204世(よ)のため、205人間(にんげん)の手(て)にかかつて死(し)ぬ方(はう)が何程(なにほど)幸福(かうふく)だか分(わか)りませぬからなア』
206黄金姫『私(わたし)も人間(にんげん)だから、207それなら御(ご)注文通(ちゆうもんどほ)り、208一(ひと)つ殺(ころ)して見(み)て上(あ)げませうかな。209それならお前(まへ)も得心(とくしん)だらう。210オホヽヽヽ』
211ユーフテス『アヽア、212イルナの都(みやこ)の助(たす)け神(がみ)さまかと思(おも)へば、213何(なん)だ狼婆(おほかみば)アさまだつたのか。214エヽ曲津(まがつ)の神(かみ)に騙(だま)されたか、215残念(ざんねん)だ。216もう此(この)上(うへ)は破(やぶ)れかぶれ、217窮鼠(きうそ)却(かへつ)て猫(ねこ)を食(は)むの譬(たとへ)の通(とほ)り、218此(この)ユーフテスがいまはの際(きは)の死物狂(しにものぐる)ひの手並(てなみ)を見(み)て置(お)けよ』
219と短剣(たんけん)をスラリと引(ひ)き抜(ぬ)き黄金姫(わうごんひめ)に向(むか)つて突(つ)いてかかる。220忽(たちま)ち後(うしろ)の叢(くさむら)よりオーン、221オーンと狼(おほかみ)の唸(うな)る声(こゑ)しきりに聞(きこ)え来(く)る。222ユーフテスは短刀(たんたう)をパタリと地(ち)に落(おと)し、223慄(ふる)ひ戦(をのの)き其(その)場(ば)にバタリと倒(たふ)れて了(しま)つた。
224黄金(わうごん)『君(きみ)のため道(みち)のためなら命(いのち)まで
225捨(す)つると云(い)ひし人(ひと)ぞをかしき。
226狼(おほかみ)の嘯(うそぶ)く声(こゑ)に驚(おどろ)きて
227腰(こし)を抜(ぬ)かせしやさ男(をとこ)もあり。
228口(くち)ばかりめでたき事(こと)を云(い)ひながら
229まさかの時(とき)に肝(きも)をつぶしつ。
230照山(てるやま)の峠(たうげ)に会(あ)ひし二人(ふたり)連(づ)れを
231狼使(おほかみづか)ひと聞(き)き驚(おどろ)くも。
232ユーフテスの神(かみ)の司(つかさ)よ村肝(むらきも)の
233心(こころ)を強(つよ)め起(お)き上(あが)りませ』
234 清照姫(きよてるひめ)は、
235清照姫『吾(わが)母(はは)はユーフテス司(つかさ)に打(う)ち向(むか)ひ
236醜(しこ)の言霊(ことたま)放(はな)ちたまひぬ。
237さりながらユーフテス司(つかさ)聞(きこ)し召(め)せ
238汝(なれ)が身魂(みたま)の御試(みため)しなれば。
239この先(さき)に醜(しこ)の司(つかさ)がかくれ居(ゐ)て
240吾(われ)等(ら)三人(みたり)を捕(とら)へむと待(ま)つも。
241其(その)時(とき)に汝(なれ)が命(みこと)は驚(おどろ)きて
242迷(まよ)はせまじと母(はは)の計(はか)らひ。
243必(かなら)ずも悪(あ)しくな思(おも)ひたまふまじ
244汝(なれ)が身魂(みたま)鍛(きた)えむと思(おも)へばこそ。
245惟神(かむながら)神(かみ)に仕(つか)へし吾(われ)なれば
246いかでか人(ひと)の命(いのち)とるべき。
247世(よ)の人(ひと)を普(あまね)く救(すく)ふ宣伝使(せんでんし)
248汝(なれ)に限(かぎ)りて救(すく)はであるべき』
249 ユーフテスは二人(ふたり)の歌(うた)を聞(き)いてやつと安心(あんしん)し、250フナフナ腰(ごし)にウンと力(ちから)を入(い)れ杖(つゑ)を力(ちから)に立(た)ち上(あが)り、
251ユーフテス『肝玉(きもだま)がどつかの国(くに)へ宿替(やどがへ)し
252今(いま)は藻抜(もぬけ)の殻(から)となりぬる。
253腰(こし)抜(ぬ)かし肝玉(きもだま)とられユーフテスは
254どうして道(みち)を歩(あゆ)み往(ゆ)かむか。
255これ程(ほど)に恐(こは)いお方(かた)と知(し)つたなら
256遥々(はるばる)迎(むか)ひに来(く)るぢやなかつたに。
257逃(に)げようとあせれど脛腰(すねこし)立(た)たぬ身(み)の
258詮術(せんすべ)さへもなき涙(なみだ)かな』
259 黄金姫(わうごんひめ)はユーフテスの腰(こし)を二三(にさん)回(くわい)撫(な)で擦(さす)り、260天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、261天(あま)の数歌(かずうた)を二三回(にさんくわい)唱(とな)へ上(あ)げた。262不思議(ふしぎ)やユーフテスの腰(こし)は俄(にはか)に強(つよ)くなり、263足(あし)の慄(ふる)ひもとまり、264今(いま)は神霊(しんれい)の感応(かんのう)によつて、265百万(ひやくまん)の敵(てき)も恐(おそ)れざる程(ほど)の勇猛心(ゆうまうしん)が臍下(せいか)丹田(たんでん)からむらむらと湧(わ)いて来(き)た。266ユーフテスは初(はじ)めて黄金姫(わうごんひめ)の心(こころ)を悟(さと)り、267幾回(いくくわい)となく頭(かしら)を下(さ)げ両手(りやうて)を合(あは)せ其(その)親切(しんせつ)を感謝(かんしや)し、268元気(げんき)百倍(ひやくばい)し二人(ふたり)の後(あと)に従(したが)ひ、269急坂(きふはん)を下(くだ)りながら一足(ひとあし)々々(ひとあし)拍子(ひやうし)を取(と)り歌(うた)ひ出(だ)す。
270ユーフテス『右守(うもり)の司(かみ)のカールチン
271テーナの姫(ひめ)の喉元(のどもと)へ
272甘(うま)く喰(く)ひ込(こ)み一(いち)家老(からう)と
273鰻登(うなぎのぼ)りに登(のぼ)つたる
274カールチン司(つかさ)の家(いへ)の子(こ)と
275仕(つか)へまつりしユーフテス
276朝(あさ)な夕(ゆふ)なに身(み)を尽(つく)し
277心(こころ)を尽(つく)し主(しう)のため
278勤(つと)むる折(をり)しも朝夕(あさゆふ)に
279慕(した)ひまつりしセーリス姫(ひめ)の
280貴(うづ)の命(みこと)の来訪(らいほう)に
281心(こころ)は忽(たちま)ち一変(いつぺん)し
282右守(うもり)の司(かみ)に表向(おもてむ)き
283忠実(ちうじつ)らしく仕(つか)へつつ
284心(こころ)はやつぱり裏表(うらおもて)
285セーリス姫(ひめ)の父上(ちちうへ)と
286現(あら)はれ給(たま)ふ神司(かむづかさ)
287左守(さもり)の司(かみ)のクーリンス
288助(たす)けにやならぬと内々(ないない)に
289右守(うもり)の司(かみ)を佯(いつは)つて
290恋(こひ)の犠牲(ぎせい)と知(し)りながら
291やつて来(き)たのは「ウントコシヨ」
292「ヤツトコドツコイ」恥(はづ)かしい
293これこれ右守(うもり)の司(つかさ)どの
294うつかり油断(ゆだん)をなさるなよ
295此(この)坂路(さかみち)を下(くだ)るよに
296どこに悪魔(あくま)が潜(ひそ)むやら
297何時(いつ)クレリツと変(かは)るやら
298人(ひと)の心(こころ)は分(わか)らない
299これを思(おも)へば世(よ)の中(なか)に
300恐(おそ)ろしものは女(をんな)ぞや
301女(をんな)の魂(たましひ)一(ひと)つにて
302古今(ここん)無双(むさう)の豪傑(がうけつ)も
303智者(ちしや)と聞(きこ)えしユーフテスも
304忽(たちま)ち「ドツコイ」落城(らくじやう)した
305ほんに恐(おそ)ろし恋(こひ)の道(みち)
306とは云(い)ふものの「ドツコイシヨ」
307今(いま)となつては及(およ)ばない
308改心(かいしん)するのが「ドツコイシヨ」
309善(よ)いか悪(わる)いか「ウントコシヨ」
310見当(けんたう)が取(と)れなくなつて来(き)た
311つらつら思(おも)ひ廻(めぐ)らせば
312国(くに)の柱(はしら)と現(あ)れませる
313セーラン王(わう)に刃向(はむか)ふは
314矢張(やつぱ)り悪(あく)に違(ちが)ひない
315さうすりや右守(うもり)の神司(かむづかさ)
316背(そむ)いた処(ところ)で「ドツコイシヨ」
317バラモン神(がみ)の神罰(しんばつ)が
318俺(おい)等(ら)に当(あた)る筈(はず)がない
319さう考(かんが)へりや安心(あんしん)だ
320これこれもうし二人(ふたり)様(さま)
321足許(あしもと)気(き)をつけなさいませ
322照山峠(てるやまたうげ)は国中(くにぢう)で
323最(もつと)も嶮(けは)しい坂道(さかみち)だ
324獅子(しし)さへ越(こ)さぬ難所(なんしよ)ぞと
325世(よ)に聞(きこ)えたる「ドツコイシヨ」
326行(ゆ)くに行(ゆ)かれぬ困(こま)り場所(ばしよ)
327道(みち)の案内(あんない)知(し)らずして
328偉(えら)そに馬腹(ばふく)に鞭(むち)をうち
329テルマン国(ごく)よりやつて来(き)た
330五(ご)人(にん)の騎士(きし)は今頃(いまごろ)は
331馬(うま)諸共(もろとも)に千仭(せんじん)の
332谷間(たにま)に「ドツコイ」転落(てんらく)し
333頭(あたま)を摧(くじ)き肱(ひぢ)を折(を)り
334ウンウンうめいて居(ゐ)るだらう
335思(おも)へば思(おも)へば気(き)の毒(どく)ぢや
336バラモン教(けう)の神(かみ)様(さま)よ
337彼(かれ)等(ら)に罪(つみ)はありませぬ
338此(この)先(さき)吾(われ)等(ら)に「ドツコイシヨ」
339敵対(てきた)ひ来(きた)る其(その)時(とき)は
340助(たす)けてやつて下(くだ)さるな
341私(わたし)が些(ち)つと困(こま)るから
342「ウントコドツコイ ドツコイシヨ」
343今(いま)行(い)つた騎士(きし)の五人(ごにん)連(づ)れ
344黄金姫(わうごんひめ)のお言葉(ことば)に
345此(この)山口(やまぐち)に身(み)をかくし
346吾(われ)等(ら)を待(ま)つてゐると聞(き)く
347「ウントコドツコイ」猪口才(ちよこざい)な
348そのよな事(こと)を致(いた)したら
349神力(しんりき)受(う)けたユーフテス
350生言霊(いくことたま)を発射(はつしや)して
351一人(ひとり)も残(のこ)らず打(う)ちきため
352根底(ねそこ)の国(くに)の旅立(たびだち)を
353「ウントコドツコイ」さしてやる
354もしも敵対(てきたい)せぬならば
355助(たす)けてやつて下(くだ)しやんせ
356梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
357オツトドツコイ国治立(くにはるたち)の
358神(かみ)の命(みこと)の御(おん)前(まへ)に
359慎(つつし)み敬(いやま)ひ願(ね)ぎまつる
360あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
361御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
362と歌(うた)ひながら母娘(おやこ)の後(あと)に従(したが)ひ、363漸(やうや)くにして照山峠(てるやまたうげ)を南(みなみ)に下(くだ)りついた。364五(ご)人(にん)の騎士(きし)は黄金姫(わうごんひめ)の予言(よげん)の如(ごと)く馬(うま)の頭(かしら)を立(た)て直(なほ)し、365やや広(ひろ)き谷間(たにあひ)に三(さん)人(にん)を待(ま)ち伏(ぶ)せ、366弓(ゆみ)を満月(まんげつ)の如(ごと)く絞(しぼ)り、367矢(や)を番(つが)へ、368今(いま)や遅(おそ)しと待(ま)つて居(ゐ)る。369黄金姫(わうごんひめ)は宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら、370つかつかと騎士(きし)の傍(そば)近(ちか)く進(すす)み寄(よ)つた刹那(せつな)、371忽(たちま)ち聞(きこ)ゆる狼群(らうぐん)の唸(うな)り声(ごゑ)、372如何(いかが)はしけむ五(ご)人(にん)の騎士(きし)は弓(ゆみ)を満月(まんげつ)の如(ごと)く引(ひ)き絞(しぼ)つたまま、373身体(しんたい)強直(きやうちよく)しデクの棒(ぼう)の如(ごと)くなつて居(ゐ)る。374斯(か)かる処(ところ)へ、375テームスやレーブ、376カルの三(さん)人(にん)は駒(こま)に跨(またが)り、377三頭(さんとう)の副馬(そへうま)を従(したが)へて蹄(ひづめ)の音(おと)戞々(かつかつ)と進(すす)み来(く)る勇(いさ)ましさ。378黄金姫(わうごんひめ)は、379三(さん)人(にん)の引(ひ)き連(つ)れ来(きた)りし駒(こま)に跨(またが)り、380清照姫(きよてるひめ)と共(とも)に五(ご)人(にん)轡(くつわ)を並(なら)べ、381勢(いきほひ)込(こ)んでイルナの都(みやこ)のセーラン王(わう)が館(やかた)をさして駆(かけ)り往(ゆ)く。382闇(やみ)の帳(とばり)はおろされ、383入城(にふじやう)には最(もつと)も適当(てきたう)の刻限(こくげん)である。384あゝ黄金姫(わうごんひめ)一行(いつかう)の今後(こんご)の活動(くわつどう)は如何(いか)に開展(かいてん)するだらうか。
385 因(ちなみ)に取(と)り残(のこ)されたユーフテスは黄金姫(わうごんひめ)の囁(ささや)きによつて五(ご)人(にん)の騎士(きし)に鎮魂(ちんこん)を施(ほどこ)し、386元(もと)の如(ごと)く身体(しんたい)自由(じいう)を得(え)せしめ、387表面(へうめん)右守司(うもりつかさ)の従臣(じゆうしん)なるを幸(さいは)ひ、388五(ご)人(にん)の騎士(きし)と共(とも)に右守(うもり)の館(やかた)をさして一目散(いちもくさん)に帰(かへ)り行(ゆ)く。389ユーフテスの今後(こんご)の活動(くわつどう)も亦(また)一(ひと)つの見物(みもの)であらう。
390(大正一一・一一・一一 旧九・二三 加藤明子録)
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