霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 慈訓(じくん)〔一一一八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第3篇 北光神助 よみ(新仮名遣い):きたてるしんじょ
章:第14章 慈訓 よみ(新仮名遣い):じくん 通し章番号:1118
口述日:1922(大正11)年11月12日(旧09月24日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高照山の岩窟では主客五人が何事か話にふけっている。竜雲は神話をしつつ、北光神に問われてインドの国情を報告した。
続いてヤスダラ姫はこれまでの苦労を告白した。北光神と竹野姫は、ヤスダラ姫のこれまでの苦難をねぎらいつつ、これからの神界のための活動に向けた使命を諭し、勇気を与えた。
そこへ蹄の音が岩窟内に聞こえてきた。北光神はセーラン王の一行が到着したと、竜雲に出迎えを命じた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:雛形(雛型) データ凡例: データ最終更新日:2025-02-14 20:36:49 文字数:4805 OBC :rm4114
愛善世界社版:200頁 八幡書店版:第7輯 603頁 修補版: 校定版:211頁 普及版:93頁 初版: ページ備考:
001 狼(おほかみ)守(まも)る高照山(たかてるやま)の岩窟(がんくつ)には主客(しゆきやく)五(ご)人(にん)膝(ひざ)を交(まじ)へて何事(なにごと)か話(はなし)に耽(ふけ)つてゐる。002北光(きたてる)の神(かみ)は宣伝使(せんでんし)の傍(かたはら)鍛冶(かぢ)の名人(めいじん)なれば、003数多(あまた)の精巧(せいかう)なる機械(きかい)を閑暇(かんか)ある毎(ごと)に製造(せいざう)し、004鑿(のみ)、005槌(つち)、006鶴嘴(つるはし)、007鍬(くは)等(など)を造(つく)つて岩窟(がんくつ)を穿(うが)ち、008今(いま)や八咫(やた)の大広間(おほひろま)は幾(いく)つとなく穿(うが)たれ、009難攻(なんこう)不落(ふらく)の金城(きんじやう)鉄壁(てつぺき)となつたのである。010それに数百千(すうひやくせん)の狼(おほかみ)は北光(きたてる)の神(かみ)の恩威(おんゐ)に服(ふく)し、011恰(あだか)も飼犬(かひいぬ)の如(ごと)くよく其(その)命(めい)を守(まも)り、012且(か)つ人語(じんご)を解(かい)する様(やう)になつてゐた。013岩窟(がんくつ)の一間(ひとま)には天(あめ)の目一(まひと)つの神(かみ)を上座(じやうざ)に、014其(その)右側(みぎがは)には竹野姫(たけのひめ)、015少(すこ)し下(さ)がつてヤスダラ姫(ひめ)、016竜雲(りううん)、017リーダーの順(じゆん)に湯(ゆ)をすすりながら神話(しんわ)に耽(ふけ)る。
018竜雲(りううん)『北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)、019私(わたくし)も悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の悪魔(あくま)に憑依(ひようい)され、020サガレン王(わう)に対(たい)し不臣(ふしん)の罪(つみ)を重(かさ)ね、021已(すで)に霊魂(みたま)は根底(ねそこ)の国(くに)へ投(な)げ込(こ)まるる所(ところ)で御座(ござ)りましたが、022貴神(あなた)の御(ご)親切(しんせつ)なる御(ご)教訓(けうくん)によつて、023貪瞋痴(どんしんち)の夢(ゆめ)も覚(さ)め、024漸(やうや)く真人間(まにんげん)にして頂(いただ)きました。025一(いち)時(じ)勢(いきほひ)に乗(じやう)じ、026サガレン王(わう)の後(あと)を襲(おそ)うて権利(けんり)を揮(ふる)うた時(とき)の苦(くる)しさに比(くら)ぶれば、027今日(こんにち)の気楽(きらく)さ楽(たの)しさは、028天地(てんち)の相違(さうゐ)で御座(ござ)ります。029体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の欲望(よくばう)にかられ、030知(し)らず知(し)らずに身魂(みたま)を地獄(ぢごく)に落(おと)してゐるものは、031決(けつ)して竜雲(りううん)ばかりでは御座(ござ)りますまい。032何(なん)とかして其(その)迷(まよ)ひを醒(さ)まさせ、033身魂(みたま)を安楽(あんらく)にさせてやりたいもので御座(ござ)りますワ』
034北光(きたてる)『其方(そなた)は月(つき)の国(くに)を巡回(じゆんくわい)して来(き)たのだから、035最早(もはや)天下(てんか)の人情(にんじやう)はよく分(わか)つただらう。036随分(ずゐぶん)世(よ)の中(なか)は憐(あは)れむべきものが多(おほ)いだらうな』
037竜雲『ハイ、038仰(あふ)せの通(とほ)り何処(どこ)の国(くに)へ参(まゐ)りましても宗教(しうけう)争(あらそ)ひや名利(めいり)の欲(よく)に搦(から)まれて、039互(たがひ)に鎬(しのぎ)を削(けづ)る惨状(さんじやう)は、040まるで地獄(ぢごく)餓鬼(がき)畜生道(ちくしやうだう)其(その)儘(まま)の出現(しゆつげん)で御座(ござ)ります。041丁度(ちやうど)以前(いぜん)のセイロン島(たう)に於(お)ける竜雲(りううん)の雛形(ひながた)は到(いた)る所(ところ)に散見(さんけん)せられます。042併(しか)し乍(なが)ら不思議(ふしぎ)な事(こと)には三五教(あななひけう)の少(すこ)しでも息(いき)のかかつた地方(ちはう)は、043極(きは)めて人心(じんしん)平穏(へいおん)、044寡欲(くわよく)恬淡(てんたん)にして、045上下(しやうか)相親(あひした)しみ、046小天国(せうてんごく)が築(きづ)かれてゐるのを目撃(もくげき)致(いた)しまして、047最(もつと)も愉快(ゆくわい)に感(かん)じた事(こと)も御座(ござ)ります』
048北光神『其方(そなた)が七千(しちせん)余(よ)ケ国(こく)を巡(めぐ)つた中(うち)、049比較(ひかく)的(てき)治(をさ)まり難(にく)い処(ところ)は何処(どこ)々々(どこ)だと思(おも)ひましたか』
050竜雲『ハイ、051随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)で一々(いちいち)申上(まをしあ)げる訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ。052併(しか)し乍(なが)ら第一(だいいち)にカルマタ国(こく)、053第二(だいに)にイルナの国(くに)などは今(いま)や大騒乱(だいさうらん)の勃発(ぼつぱつ)せむとする間際(まぎは)になつてゐる様(やう)で御座(ござ)ります。054カルマタ国(こく)は東北(とうほく)に地教山(ちけうざん)を控(ひか)へ、055地教山(ちけうざん)には三五教(あななひけう)の神柱(かむばしら)が誠(まこと)の道(みち)を守(まも)つて附近(ふきん)の人民(じんみん)を教養(けうやう)して居(を)られる。056そこへウラル教(けう)の常暗彦(とこやみひこ)が現(あら)はれて本拠(ほんきよ)を構(かま)へ、057間隙(かんげき)あれば地教山(ちけうざん)を併呑(へいどん)せむと企(たく)んでゐる。058此(この)頃(ごろ)は又(また)ウラル教(けう)の勢(いきほ)ひがあまり盛(さかん)なと云(い)うて、059ハルナの都(みやこ)の大黒主(おほくろぬし)が、060大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)に数多(あまた)の軍隊(ぐんたい)を引率(いんそつ)せしめ攻(せ)め来(きた)るとの飛報(ひはう)頻(しき)りに来(きた)り、061人心(じんしん)恟々(きようきよう)たる有様(ありさま)で御座(ござ)ります。062次(つぎ)にはイルナの国(くに)のセーラン王(わう)に対(たい)する嫉視(しつし)反目(はんもく)日(ひ)に月(つき)に加(くは)はり、063正義派(せいぎは)と不正義(ふせいぎ)派(は)とが断(た)えず暗闘(あんとう)をつづけ、064今(いま)にも右守(うもり)の司(かみ)は大黒主(おほくろぬし)の威勢(ゐせい)を頼(たの)みイルナの王(わう)を放逐(はうちく)し、065自(みづか)らとつて代(かは)らむとの計画中(けいくわくちう)だとの城下(じやうか)の人々(ひとびと)のとりどりの噂(うはさ)、066何時(いつ)イルナの都(みやこ)は戦塵(せんぢん)の巷(ちまた)と変(かは)るやも知(し)れぬとの事(こと)で御座(ござ)ります。067何(なん)とかして此(この)惨状(さんじやう)を未発(みはつ)に防(ふせ)ぎたいと存(ぞん)じ、068竜雲(りううん)も都下(とか)を徘徊(はいくわい)致(いた)して宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ廻(まは)りました所(ところ)、069右守(うもり)のカールチンが部下(ぶか)に圧迫(あつぱく)され、070已(すで)に生命(いのち)までとられむとせし所(ところ)、071不思議(ふしぎ)にも何処(どこ)ともなく狼(おほかみ)の群(むれ)、072白昼(はくちう)に現(あら)はれ来(きた)り、073咆哮(はうかう)怒号(どごう)して敵(てき)を追散(おひち)らし、074煙(けむり)の如(ごと)く姿(すがた)を隠(かく)しました。075その機(き)を窺(うかが)ひ一目散(いちもくさん)に都(みやこ)を逃(に)げ出(だ)し、076照山峠(てるやまたうげ)を越(こ)えてスタスタ帰(かへ)り来(く)る途中(とちう)、077蓮川(はちすがは)の辺(ほとり)に於(おい)てヤスダラ姫(ひめ)様(さま)主従(しゆじゆう)に出会(であ)ひ、078お二人(ふたり)様(さま)の危難(きなん)を救(すく)ひ、079後(あと)になり前(さき)になり、080見(み)えつ隠(かく)れつ照山峠(てるやまたうげ)の麓(ふもと)まで送(おく)つて来(き)ました所(ところ)、081三五教(あななひけう)の黄金姫(わうごんひめ)様(さま)母娘(おやこ)に出会(であ)ひ、082一(いち)時(じ)も早(はや)く北光彦(きたてるひこ)の神(かみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)だから高照山(たかてるやま)へ参(まゐ)れとのお言葉(ことば)、083取(と)るものも取(と)りあへず姫(ひめ)様(さま)のお供(とも)をして此処(ここ)迄(まで)参(まゐ)つたもので御座(ござ)ります。084実(じつ)に危険(きけん)至極(しごく)の世(よ)の中(なか)となつて参(まゐ)りました』
085北光神『成(な)る程(ほど)、086それは御(ご)苦労(くらう)。087此(この)館(やかた)は猛獣(まうじう)の眷族(けんぞく)数多(あまた)守(まも)り居(を)れば、088天下(てんか)第一(だいいち)の安全(あんぜん)地帯(ちたい)だ。089ヤスダラ姫(ひめ)殿(どの)も御(ご)安心(あんしん)なされませ』
090ヤスダラ姫『ハイ有難(ありがた)う御座(ござ)ります。091女(をんな)の道(みち)を踏(ふ)み外(はづ)した妾(わたし)をお咎(とが)めもなくお助(たす)け下(くだ)さいまして何(なん)とも恐(おそ)れ多(おほ)くて申上(まをしあ)げやうも御座(ござ)りませぬ。092何卒(なにとぞ)宜(よろ)しく今後(こんご)の御(ご)教養(けうやう)を、093偏(ひとへ)にお願(ねが)ひ申(まを)します』
094北光神『随分(ずゐぶん)ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)、095貴女(あなた)も悪人(あくにん)共(ども)の欲望(よくばう)の犠牲(ぎせい)となつて苦(くる)しみましたな。096身魂(みたま)の合(あ)はぬ夫(をつと)を持(も)たされ、097嘸(さぞ)日々(にちにち)不愉快(ふゆくわい)をお感(かん)じになつたでせう。098御(ご)心中(しんちう)お察(さつ)し申(まを)します』
099と情(なさけ)ある言葉(ことば)に、100ヤスダラ姫(ひめ)はヤツと安心(あんしん)し、101嬉(うれ)し涙(なみだ)を袖(そで)に拭(ぬぐ)ひながら、
102ヤスダラ姫『思(おも)ひもよらぬ御(ご)親切(しんせつ)な御(お)言葉(ことば)、103有難(ありがた)う御座(ござ)ります。104何(なに)を隠(かく)しませう、105妾(わたし)はイルナの都(みやこ)の左守(さもり)クーリンスの長女(ちやうぢよ)と生(うま)れ、106セーラン王(わう)様(さま)の許嫁(いひなづけ)で御座(ござ)りました所(ところ)が、107ハルナの都(みやこ)の大黒主(おほくろぬし)様(さま)に諂(こ)び諛(へつら)ふ右守(うもり)カールチンの為(た)めに遮(さへぎ)られ、108種々(いろいろ)と難癖(なんくせ)をつけられた挙句(あげく)、109テルマン国(ごく)の毘舎(びしや)が妻(つま)とせられ、110今日(こんにち)まで面白(おもしろ)からぬ月日(つきひ)を送(おく)つて来(き)ました。111今(いま)貴神(あなた)のお言葉(ことば)の通(とほ)り身魂(みたま)が合(あ)はないのか存(ぞん)じませぬが、112夫(をつと)のシヤールに対(たい)して少(すこ)しも愛(あい)の念(ねん)が起(おこ)らず、113夫(をつと)も亦(また)妾(わたし)に対(たい)して至極(しごく)冷淡(れいたん)、114路傍(ろばう)相(あひ)会(あ)ふ人(ひと)の如(ごと)く、115夫婦(ふうふ)としての暖味(あたたかみ)は夢(ゆめ)にも味(あぢ)はつた事(こと)は御座(ござ)りませぬ。116妻(つま)として夫(をつと)に対(たい)して愛(あい)を捧(ささ)げるが道(みち)なれども、117如何(どう)したものか其(その)心(こころ)が湧(わ)いて来(き)ませぬ。118勿体(もつたい)ない事(こと)ながら、119明(あ)けても暮(く)れても親(おや)の許嫁(いひなづけ)の夫(をつと)セーラン王(わう)様(さま)の事(こと)が目(め)にちらつき、120お声(こゑ)が耳(みみ)に響(ひび)き、121王(わう)様(さま)の事(こと)のみ夢現(ゆめうつつ)に恋(こ)ひ慕(した)ひ心(こころ)に罪(つみ)を重(かさ)ねて居(を)りました。122所(ところ)へ右守(うもり)の妻(つま)テーナ姫(ひめ)が夫(をつと)の館(やかた)に右守(うもり)の使者(ししや)として現(あら)はれ来(きた)り、123妾(わたし)に対(たい)し無理(むり)難題(なんだい)を吹(ふ)きかけ、124夫(をつと)のシヤールを威喝(ゐかつ)して遂(つひ)に獄舎(ひとや)を造(つく)り妾(わたし)を投(な)げ込(こ)み、125非常(ひじやう)な虐待(ぎやくたい)を致(いた)すので御座(ござ)ります。126妾(わたし)は最早(もはや)運命(うんめい)つきたりと覚悟(かくご)を極(き)め、127涙(なみだ)にくるる折(をり)しも、128雨風(あめかぜ)烈(はげ)しき夜半(よは)、129これなる忠僕(ちうぼく)リーダーが獄舎(ひとや)を打破(うちやぶ)り、130妾(わたし)を背負(せお)ひ暗(やみ)に紛(まぎ)れて此処(ここ)まで漸(やうや)う連(つ)れて来(き)てくれました。131之(これ)も全(まつた)く神(かみ)様(さま)のお蔭(かげ)と竜雲殿(りううんどの)の御(ご)保護(ほご)で御座(ござ)ります。132最早(もはや)此(この)世(よ)に望(のぞ)みは御座(ござ)りませぬが、133せめて一度(いちど)父(ちち)のクーリンスや妹(いもうと)のセーリス姫(ひめ)に面会(めんくわい)したう御座(ござ)ります。134又(また)成(な)る事(こと)ならば一目(ひとめ)なりとも王(わう)様(さま)のお姿(すがた)を拝(をが)みたく存(ぞん)じます。135それさへ出来(でき)れば最早(もはや)死(し)んでも怨(うら)みは御座(ござ)りませぬ』
136と身(み)の上(うへ)話(ばなし)にホロリと涙(なみだ)を落(おと)し差俯(さしうつ)むく。
137北光神『それでスツカリ事情(じじやう)は分(わか)りました。138やがて親兄妹(おやきやうだい)は申(まを)すに及(およ)ばず、139セーラン王(わう)様(さま)に会(あ)はせませう。140さうして屹度(きつと)身魂(みたま)同士(どうし)の夫婦(ふうふ)だから肉体(にくたい)の上(うへ)でも夫婦(ふうふ)となつて、141イルナの都(みやこ)の花(はな)と謳(うた)はれ遊(あそ)ばす様(やう)に守(まも)つてあげませう。142此(この)手筈(てはず)は已(すで)に此方(こちら)に於(おい)て神示(しんじ)の下(もと)に行(おこな)はれつつありますから御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
143ヤスダラ姫『左様(さやう)な有難(ありがた)い事(こと)になりませうかな。144そんな事(こと)が出来(でき)ますならば、145妾(わたし)を初(はじ)め親兄妹(おやきやうだい)はどれほど喜(よろこ)ぶか知(し)れませぬ。146王(わう)様(さま)も嘸(さぞ)御(ご)満足(まんぞく)を遊(あそ)ばすで御座(ござ)りませう』
147竹野(たけの)『ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)、148貴女(あなた)もこれから神(かみ)様(さま)のために余程(よほど)御(ご)苦労(くらう)を遊(あそ)ばさねばなりませぬぞや。149妾(わたし)も随分(ずゐぶん)若(わか)い時(とき)は両親(りやうしん)に別(わか)れ、150淋(さび)しい月日(つきひ)を送(おく)りましたが、151風(かぜ)の便(たよ)りに父(ちち)の命(みこと)は高砂島(たかさごじま)に在(ま)しますと聞(き)き、152姉妹(きやうだい)三(さん)人(にん)が色々(いろいろ)と艱難(かんなん)苦労(くらう)を致(いた)しまして、153珍(うづ)の都(みやこ)を立(た)ち出(い)でてエデンの川辺(かはべ)へ進(すす)み行(ゆ)く折(をり)しも、154悪者(わるもの)共(ども)に取巻(とりま)かれ、155困(こま)りきつて居(ゐ)る所(ところ)へ、156月照彦(つきてるひこ)様(さま)の御(ご)化身(けしん)照彦(てるひこ)と云(い)ふ館(やかた)の僕(しもべ)が追(お)つ掛(か)け来(きた)り危難(きなん)を救(すく)ひ呉(く)れられました。157それより父(ちち)の在(ま)します珍(うづ)の都(みやこ)へ、158主従(しゆじゆう)四(よ)人(にん)訪(たづ)ねて参(まゐ)り、159ヤレ嬉(うれ)しやと思(おも)うたのも束(つか)の間(ま)、160木花姫(このはなひめの)命(みこと)様(さま)の化身(けしん)なる珍山彦(うづやまひこ)の神(かみ)に導(みちび)かれ恋(こ)ひしき父(ちち)の都(みやこ)を後(あと)に、161テルの国(くに)にて照彦(てるひこ)に別(わか)れ、162それより船(ふね)に乗(の)つてアタルの港(みなと)へ上陸(じやうりく)し、163ヒル、164カルの国々(くにぐに)を姉妹(きやうだい)三(さん)人(にん)離(はな)れ離(ばな)れに宣伝(せんでん)を致(いた)し、165ウラル教(けう)の魔神(まがみ)鷹依別(たかよりわけ)の目付(めつけ)に追(お)ひ捲(まく)られ、166情(なさけ)ある春山彦(はるやまひこ)の館(やかた)に隠(かく)され漸(やうや)く危難(きなん)を免(まぬが)れ、167黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)の戦(たたか)ひに参加(さんか)致(いた)しましたが、168随分(ずゐぶん)種々(いろいろ)の神(かみ)様(さま)のお試(ため)しに会(あ)ひました。169それより又(また)アジヤに渡(わた)り所々(しよしよ)方々(はうばう)と宣伝(せんでん)に廻(まは)るうち、170神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)のお媒酌(なかだち)によつてコーカス山(ざん)に於(おい)て北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)と結婚式(けつこんしき)を挙(あ)げましたが、171それから長(なが)い間(あひだ)夫婦(ふうふ)同居(どうきよ)した事(こと)もなく、172お道(みち)の為(た)め活動(くわつどう)をつづけ、173此(この)頃(ごろ)漸(やうや)く夫婦(ふうふ)が一緒(いつしよ)に斯(か)うして御用(ごよう)を勤(つと)める様(やう)になりました。174最早(もはや)夫(をつと)も年(とし)が寄(よ)り、175妾(わたし)もこんな婆(ばば)になつて了(しま)ひました。176オホヽヽヽ』
177と涙(なみだ)をかくして笑(わら)ひに紛(まぎ)らす。
178 ヤスダラ姫(ひめ)は竹野姫(たけのひめ)の話(はなし)に感(かん)じ、179且(か)つ自分(じぶん)の苦労(くらう)の足(た)らぬのを恥(はづ)かしく顔(かほ)赤(あか)らめてオゾオゾしながら、
180ヤスダラ姫『左様(さやう)で厶(ござ)りましたか、181人間(にんげん)と云(い)ふものは中々(なかなか)容易(ようい)な事(こと)で一生(いつしやう)を送(おく)る事(こと)は出来(でき)ませぬな。182妾(わたし)等(たち)は貴女(あなた)の事(こと)を思(おも)へばお話(はなし)になりませぬ。183少(すこ)しの忍耐(にんたい)もなく夫(をつと)の牢獄(らうごく)を脱(ぬ)け出(だ)し、184ノメノメと親兄妹(おやきやうだい)や思(おも)ふ夫(をつと)を慕(した)うて帰(かへ)つて来(き)た心(こころ)のきたなさ、185恥(はづ)かしさ、186実(じつ)に汗顔(かんがん)の至(いた)りで厶(ござ)ります』
187北光神『ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)、188御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。189貴女(あなた)はこれから神界(しんかい)のため御(ご)活動(くわつどう)遊(あそ)ばすのだ。190人(ひと)の一生(いつしやう)は重荷(おもに)を負(お)うて険(けは)しい山坂(やまさか)を登(のぼ)るやうなものです。191何時(いつ)険呑(けんのん)な目(め)に遭(あ)ふやら、192倒(たふ)れるやら分(わか)りませぬ。193そこを神(かみ)様(さま)の御(ご)神力(しんりき)で助(たす)けられ、194波風(なみかぜ)荒(あら)き世(よ)の中(なか)を安々(やすやす)と渡(わた)るのですよ。195さうして自分(じぶん)の身(み)を守(まも)りながら神(かみ)様(さま)の貴(うづ)の御子(みこ)たる天下(てんか)の万民(ばんみん)に誠(まこと)の道(みち)を教(をし)へ諭(さと)して、196天国(てんごく)に救(すく)ひ、197霊肉(れいにく)ともに安心(あんしん)立命(りつめい)を与(あた)へるのが神(かみ)より選(えら)まれたる貴女(あなた)等(がた)の任務(にんむ)だから、198如何(いか)なる艱難(かんなん)辛苦(しんく)に遭(あ)ふとも決(けつ)して落胆(らくたん)したり怨(うら)んだりしてはなりませぬ。199何事(なにごと)も此(この)世(よ)の中(なか)は人間(にんげん)の自由(じいう)には木(こ)の葉(は)一(いち)枚(まい)だつてなるものではない。200みんな神(かみ)の御心(みこころ)のまにまに操縦(さうじう)されて居(ゐ)るのだから、201如何(いか)なる事(こと)が出(で)て来(こ)ようとも惟神(かむながら)に任(まか)し、202人間(にんげん)は人間(にんげん)としての最善(さいぜん)の努力(どりよく)を捧(ささ)ぐれば宜(よ)いのです。203此(この)竜雲(りううん)さまだつて始(はじ)めは随分(ずゐぶん)虫(むし)のよい考(かんが)へを起(おこ)し得意(とくい)の時代(じだい)もあつたが、204忽(たちま)ち夢(ゆめ)は覚(さ)めて千仭(せんじん)の谷間(たにま)へ身(み)を落(おと)した様(やう)に見(み)すぼらしい乞食(こじき)とまでなり果(は)て、205此処(ここ)に翻然(ほんぜん)として天地(てんち)の誠(まこと)を覚(さと)り、206諸国(しよこく)行脚(あんぎや)をなし、207今(いま)は完全(くわんぜん)な神司(かむつかさ)となり、208御(ご)神力(しんりき)を身(み)に備(そな)ふるやうにおなりなさつたのですから、209人(ひと)は如何(どう)しても苦労(くらう)を致(いた)さねば誠(まこと)の神柱(かむばしら)にはなる事(こと)は出来(でき)ませぬ。210此(この)北光(きたてる)の神(かみ)が都矣刈(つむがり)の太刀(たち)を鍛(きた)ふるにも、211鉄(てつ)や鋼(はがね)を烈火(れつくわ)の中(なか)へ投(な)げ入(い)れ、212金床(かなどこ)の上(うへ)に置(お)いて、213金槌(かなづち)を以(もつ)て幾度(いくたび)となく錬(ね)り鍛(きた)へ叩(たた)き伸(のば)し、214遂(つひ)には光芒(くわうばう)陸離(りくり)たる名刀(めいたう)と鍛(きた)へる様(やう)なもので、215人間(にんげん)も神(かみ)様(さま)の鍛錬(たんれん)を経(へ)なくては駄目(だめ)です。216一(ひと)つでも多(おほ)く叩(たた)かれた剣(つるぎ)は切(き)れ味(あぢ)もよく匂(にほひ)も美(うる)はしき様(やう)なもので、217人間(にんげん)も十分(じふぶん)に叩(たた)かれ苦(くる)しめられ、218水火(すゐくわ)の中(なか)を潜(くぐ)つて来(こ)ねば駄目(だめ)です。219これから此(この)北光(きたてる)の神(かみ)が貴女(あなた)の恋(こ)ふるセーラン王(わう)に面会(めんくわい)させますが、220決(けつ)して安心(あんしん)をしてはなりませぬぞ。221吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)の如(ごと)く互(たがひ)に手配(てくば)りをして誠(まこと)の道(みち)に尽(つく)さねばなりませぬ。222いつ迄(まで)も若(わか)い身(み)を以(もつ)て天下(てんか)擾乱(ぜうらん)の此(この)場合(ばあひ)、223夫婦(ふうふ)が安楽(あんらく)に情味(じやうみ)を楽(たの)しむと云(い)ふ事(こと)は出来(でき)ませぬ。224生者(しやうじや)必滅(ひつめつ)会者(ゑしや)定離(ぢやうり)、225別離(べつり)の苦(くる)しみは人間(にんげん)は愚(おろ)か、226万物(ばんぶつ)に至(いた)るまで免(のが)れ難(がた)き所(ところ)、227此(この)点(てん)を十分(じふぶん)に御(ご)承知(しようち)を願(ねが)つておかねばなりませぬ。228やがてセーラン王(わう)は二三(にさん)の忠誠(ちうせい)なる僕(しもべ)に守(まも)られ、229此処(ここ)にお出(い)でになりませう』
230ヤスダラ姫『ハイ、231有難(ありがた)う厶(ござ)ります。232何(なに)から何(なに)まで御(ご)親切(しんせつ)の御(ご)教訓(けうくん)、233屹度(きつと)肝(きも)に銘(めい)じて忘却(ばうきやく)致(いた)しませぬ。234否(いな)何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)の仰(あふ)せを遵奉(じゆんぽう)致(いた)しまして、235天晴(あつぱ)れ神柱(かむばしら)と鍛(きた)へて頂(いただ)く覚悟(かくご)で厶(ござ)ります』
236竹野(たけの)『ヤスダラ姫(ひめ)貴(うづ)の命(みこと)の言(こと)の葉(は)を
237聞(き)くにつけても涙(なみだ)ぐまるる。
238勇(いさ)ましき汝(なれ)が御言(みこと)を聞(き)きしより
239竹野(たけの)の姫(ひめ)の胸(むね)も輝(かがや)く』
240ヤスダラ『有難(ありがた)し北光神(きたてるがみ)や竹野姫(たけのひめ)
241御言(みこと)のままに道(みち)に仕(つか)へむ。
242セーラン王(わう)貴(うづ)の命(みこと)の今(いま)此処(ここ)に
243来(き)ますと聞(き)きて胸(むね)轟(とどろ)きぬ。
244相見(あひみ)ての後(のち)の心(こころ)に比(くら)ぶれば
245今(いま)の吾(われ)こそ楽(たの)しかるらむ』
246北光(きたてる)『セーラン王(わう)貴(うづ)の命(みこと)は今(いま)此処(ここ)に
247北光神(きたてるがみ)の住家(すみか)訪(たづ)ねて。
248惟神(かむながら)神(かみ)の御(おん)手(て)に導(みちび)かれ
249妹背(いもせ)の山(やま)の谷間(たにま)を行(ゆ)きませ』
250竜雲(りううん)『打仰(うちあふ)ぎ空(そら)行(ゆ)く雲(くも)を眺(なが)むれば
251人(ひと)の行末(ゆくすゑ)思(おも)ひやられつ。
252高照(たかてる)の山(やま)に棲(す)まへる狼(おほかみ)も
253夫婦(めをと)の道(みち)は忘(わす)れざるらむ。
254妻(つま)となり夫(をつと)となるも天地(あめつち)の
255神(かみ)の結(むす)びし縁(えにし)なるらむ』
256リーダー『はるばるとテルマン国(ごく)を立出(たちい)でて
257姫(ひめ)を守(まも)りつ今(いま)此処(ここ)にあり。
258テルマンのシヤールの館(やかた)を出(い)でし時(とき)
259行末(ゆくすゑ)如何(いか)にと思(おも)ひなやみしよ。
260かくばかり尊(たふと)き神(かみ)に会(あ)ひし上(うへ)は
261世(よ)に恐(おそ)るべきものあらじとぞ思(おも)ふ。
262惟神(かむながら)神(かみ)の御言(みこと)を畏(かしこ)みて
263世人(よびと)の為(た)めに身(み)をや尽(つく)さむ』
264 斯(か)く歌(うた)ひ終(をは)る時(とき)しも、265俄(にはか)に聞(きこ)ゆる蹄(ひづめ)の音(おと)カツカツと岩窟内(がんくつない)まで響(ひび)き来(きた)る。
266北光(きたてる)『ヤア、267あの足音(あしおと)はセーラン王(わう)の一行(いつかう)ならむ。268竜雲殿(りううんどの)、269お出迎(でむか)へ頼(たの)み入(い)る』
270ヤスダラ『えツ!』
271竜雲(りううん)『畏(かしこ)まりました』
272と身(み)を起(おこ)し岩窟(がんくつ)の入口(いりぐち)指(さ)して一目散(いちもくさん)にかけり行(ゆ)く。
273(大正一一・一一・一二 旧九・二四 北村隆光録)
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