霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 急告(きふこく)〔一一〇九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第1篇 天空地平 よみ(新仮名遣い):てんくうちへい
章:第5章 急告 よみ(新仮名遣い):きゅうこく 通し章番号:1109
口述日:1922(大正11)年11月10日(旧09月22日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
マンモスは、同じカールチン配下のユーフテスと出世を争っていた。マンモスはセーラン王の館の玄関口でサモア姫と出くわした。サモア姫は、ユーフテスが左守クーリンスの娘・セーリス姫と密会してカールチンの計略を洩らしていたことを告げた。
マンモスは、そのことをカールチンに注進に来たのであった。しかしカールチンは、マンモスとユーフテスが地位争いをしていることを知っていたので、事の真偽を図りかねていた。
そこへユーフテスがやってきた。マンモスは突然のことでまごついた。カールチンは、ユーフテスに直々に尋ねたいことがあるとマンモスを下がらせた。
カールチンは、セーリス姫の居間に行ったことについてユーフテスを問いただした。ユーフテスは平然として、自分に惚れているセーリス姫を利用して王の動向を探らせているのだ、とカールチンに報告した。
そしてユーフテスは、セーリス姫の探偵の結果をカールチンに報告した。セーラン王は実はサマリー姫を愛するあまり、姫と元のように添えるならば王位をカールチンに譲って退位する心であるという。
カールチン夫婦はこの報告を信じて、サマリー姫を引き出して盛装を整えさせ、イルナ城に送り届けることになった。マンモスはユーフテスによって牢獄に投げ込まれてしまった
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-09 10:09:49 OBC :rm4105
愛善世界社版:67頁 八幡書店版:第7輯 555頁 修補版: 校定版:69頁 普及版:33頁 初版: ページ備考:
001 セーラン(わう)(やかた)玄関口(げんくわんぐち)にて出会(であ)つたのは右守(うもり)のカールチンが(みぎ)(うで)(たの)むマンモスとサモア(ひめ)である。
002サモア姫『オー、003マンモス(さま)004今日(けふ)大変(たいへん)にお(はや)()登城(とじやう)(ござ)りますな。005貴方(あなた)()出世(しゆつせ)(さまた)げになると何時(いつ)仰有(おつしや)るユーフテスの(こと)()いて、006(わたし)(ひと)(たしか)証拠(しようこ)(にぎ)りましたから、007何卒(どうぞ)ソツと一寸(ちよつと)(わたし)居間(ゐま)まで()(くだ)さいませぬか。008ここでは人目(ひとめ)がはげしう(ござ)りますから、009()かれちや大変(たいへん)ですワ』
010 マンモスは(こゑ)(ひそ)めて、
011マンモス(なに)012ユーフテスの(なに)欠点(けつてん)見出(みい)だしたと()ふのか。013よしよしそれなら()きませう』
014サモア姫何卒(どうぞ)足音(あしおと)(しの)ばせて(わたし)(しつ)まで()(くだ)さいませ』
015四五間(しごけん)(はな)れて(さき)()つて()く。
016 マンモスは(ひめ)(うしろ)から何喰(なにく)はぬ(かほ)して(したが)ひつつ後姿(うしろすがた)(なが)めて、
017マンモス(なん)()(をんな)だなア。018何処(どこ)ともなしに()()いてる(やつ)だ。019器量(きりやう)()ひ、020あの(あし)(はこ)(やう)()ひ、021何処(どこ)欠点(けつてん)のない(をんな)だ。022(おれ)(はや)思惑(おもわく)()ててサモア(ひめ)歓心(くわんしん)()ひ、023(いち)(にち)(はや)結婚(けつこん)(しき)()げたいものだ。024(ひめ)(ひめ)(おれ)には特別(とくべつ)秘密(ひみつ)(あか)して()れるのだから()めたものだ。025(おれ)(ぐらゐ)幸福(かうふく)(もの)(この)イルナの(くに)には、026一人(ひとり)とあるまい。027先方(むかふ)(おれ)にはチヨイ()れなり(おれ)(はう)からは大惚(おほぼ)れと()()るのだから(たま)らないわ、028エヘヽヽヽ』
029(ひと)(わら)(ひと)(ささや)き、030サモア(ひめ)(しつ)(しの)()る。031サモア(ひめ)長煙管(ながぎせる)煙草(たばこ)をつぎ一服(いつぷく)()ひつけて、032吸口(すひぐち)着物(きもの)(そで)()きながら(やなぎ)()(やう)(ほそ)()をして、
033サモア姫『さあマンモスさま、034一服(いつぷく)(あが)り』
035差出(さしだ)す。036マンモスも(また)団栗眼(どんぐりまなこ)無理(むり)(ほそ)くし、037(ねこ)(やう)(のど)をゴロゴロならせ、038色男(いろをとこ)気取(きど)りですまし()んで、039サモア(ひめ)差出(さしだ)煙管(きせる)をソツと受取(うけと)り、040(たい)(しや)(かま)へスパスパと(けむり)()()いて()る。041サモア(ひめ)小声(こごゑ)になつて、
042サモア姫『これ、043マンモスさま、044大変(たいへん)(こと)見付(みつ)かりましたよ。045屹度(きつと)貴方(あなた)()出世(しゆつせ)(たね)ですわ』
046 マンモス(また)小声(こごゑ)になり、
047マンモス『サモアさま、048(なん)ですか、049(はや)()つて(くだ)さいな』
050 サモア(ひめ)はツと立上(たちあが)戸口(とぐち)(すこ)しく(ひら)き、051(かほ)(そと)へつき()して四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)し、052(さいは)(ひと)()きにヤツと安心(あんしん)したものの(ごと)く、053ピシヤリと()()め、054(なか)から(かた)(ぢやう)(おろ)し、055マンモスの(まへ)(しづか)()し、056マンモスの(ひだり)()をグツと(にぎ)り、057(ふた)()左右(さいう)()()て、
058サモア姫『これマンモスさま、059(しつ)かりなさいませ。060ここが貴方(あなた)登竜門(とうりうもん)だ。061ユーフテスさまが内証(ないしよう)でクーリンスの(むすめ)セーリス(ひめ)のお居間(ゐま)(しの)()り、062カールチン(さま)(すべ)ての計略(けいりやく)密々(ひそびそ)()らしてゐましたよ。063屹度(きつと)二人(ふたり)情約(じやうやく)締結(ていけつ)(わたし)貴方(あなた)(やう)()んでゐると()えますワ。064そしてセーラン(わう)(さま)一切(いつさい)秘密(ひみつ)打明(うちあ)ける(かんが)へらしう(ござ)りましたよ』
065マンモス『そりや本当(ほんたう)(こと)ですか。066本当(ほんたう)ならば(わたし)貴女(あなた)にとつては大変(たいへん)幸運(かううん)()いて()たやうなものです』
067サモア姫『もしマンモスさま』
068(みみ)(くち)をよせ何事(なにごと)(しばら)くの(あひだ)(ささや)いて()る。069マンモスは幾度(いくたび)打頷(うちうなづ)きながら、
070マンモス『サモア(ひめ)殿(どの)071随分(ずゐぶん)()をおつけなさい。072(わたし)はこれからカールチン(さま)(やかた)(まゐ)つて注進(ちゆうしん)(いた)し、073ユーフテスの反逆(はんぎやく)逐一(ちくいち)申上(まをしあ)げ、074(かれ)制敗(せいばい)(いた)して(もら)ひませう。075さうすれば、076吾々(われわれ)はカールチン(さま)(いち)家来(けらい)となり、077(まへ)さまと安楽(あんらく)立派(りつぱ)(たの)しい月日(つきひ)(おく)れますからな。078何程(なにほど)セーラン(わう)(さま)()威勢(ゐせい)(たか)いと()つても、079鬼熊別(おにくまわけ)(さま)()系統(ひつぱう)だから(けつ)して(おそ)るるには()りますまい。080カールチン(さま)右守(うもり)でも大黒主(おほくろぬし)(さま)のお()()りだから(たい)したものですよ。081(なん)()つても旗色(はたいろ)のよい(はう)へつくが利口(りこう)人間(にんげん)のやり(かた)ですからな』
082(あく)抜目(ぬけめ)のないマンモスは一生(いつしやう)懸命(けんめい)城内(じやうない)()()で、083カールチンの(やかた)(あわただ)しく()()む。084マンモスはカールチンの(やかた)裏口(うらぐち)から(しの)()り、085(その)(まま)(おく)(すす)み、086カールチン、087テーナ(ひめ)夫婦(ふうふ)(まへ)両手(りやうて)をつき、
088マンモス旦那(だんな)(さま)089奥様(おくさま)090大変(たいへん)(こと)(おこ)りました。091()用心(ようじん)なされませ』
092 カールチンは(この)言葉(ことば)(おどろ)立膝(たてひざ)になつて、
093カールチン(なに)094大変(たいへん)とは何事(なにごと)ぞ。095(はや)委細(ゐさい)物語(ものがた)れ』
096とせき()てる。097マンモスは(あせ)(ぬぐ)ひ、
098マンモス『はい、099貴方(あなた)()信任(しんにん)(あそ)ばすユーフテスの(こと)(ござ)ります。100貴方(あなた)(かれ)此上(こよ)なき(もの)()信用(しんよう)(あそ)ばして()られますが、101(かれ)はセーラン(わう)間者(かんじや)(ござ)りますから用心(ようじん)なさいませ。102(ひと)もあらうにクーリンスの(むすめ)セーリス(ひめ)(じやう)(つう)じ、103一切(いつさい)秘密(ひみつ)をセーラン(わう)やクーリンスの(もと)報告(はうこく)(いた)して()りまする。104(いま)(うち)(かれ)()制敗(せいばい)(あそ)ばされねば、105貴方(あなた)()生命(いのち)にも(かか)はる一大事(いちだいじ)何時(いつ)(おこ)るかも()れませぬ。106(わたし)はサモア(ひめ)()(ふく)めて様子(やうす)(かんが)へさして()りました(ところ)107(たしか)証拠(しようこ)(にぎ)りましたから、108(いま)にも(かれ)()()して()制敗(せいばい)なさるのがお(いへ)のため、109()のためと(おそ)れながら(かんが)へます』
110カールチン(なに)111ユーフテスが左様(さやう)裏返(うらがへ)(てき)行動(かうどう)()つて()るか。112そりや()しからぬ。113(この)(まま)()ておく(わけ)には()くまい』
114テーナ姫『もし旦那(だんな)(さま)115ユーフテスは(じつ)吾々(われわれ)(たい)忠実(ちうじつ)(をとこ)(ござ)りますから、116よもや、117そんな(こと)(いた)しますまい。118(ひと)()(こと)(すぐ)(しん)じてはなりませぬ。119一応(いちおう)取調(とりしら)べた(うへ)でなくては是非(ぜひ)判断(はんだん)はつきますまい。120これマンモス、121(まへ)大変(たいへん)(あわ)てて()様子(やうす)だが、122トツクリ調(しら)べた(うへ)(こと)か。123(あるひ)(ひと)(うはさ)()いたのか』
124マンモス『テーナ(ひめ)(さま)125(わたし)旦那(だんな)(さま)()恩顧(おんこ)()けて()(もの)(ござ)ります。126(なに)しに証拠(しようこ)なき(こと)申上(まをしあ)げて()夫婦(ふうふ)のお()()ませませうか。127正真(しやうしん)正銘(しやうめい)生中(きなか)掛値(かけね)もない証拠(しようこ)(ござ)ります。128何卒(どうぞ)(とき)(うつ)さずユーフテスを召捕(めしと)(あそ)ばしてお(いへ)禍根(くわこん)をお(のぞ)(くだ)さいませ。129何程(なにほど)事務(じむ)()れると()つても、130あの(をとこ)のする(ぐらゐ)(こと)(わたし)でも(いた)します。131(とき)おくれては一大事(いちだいじ)132さあ(はや)()決心(けつしん)(ねが)ひます』
133 カールチンはマンモスの言葉(ことば)(なかば)(しん)(なかば)(うたが)つて()る。134(その)理由(わけ)はユーフテスは自分(じぶん)(もつと)信任(しんにん)する(をとこ)であり、135二人(ふたり)(なか)地位(ちゐ)(あらそ)ひが(あん)(おこ)つてゐる(こと)をよく承知(しようち)して()たから、136マンモスが()んな(こと)捏造(ねつざう)してユーフテスを(おとしい)れる(かんが)へではあるまいかとも(おも)つてゐたのである。
137カールチン『マンモス、138其方(そち)()(こと)一分(いちぶ)一厘(いちりん)間違(まちが)ひはないか』
139マンモス(けつ)して(けつ)して(うそ)(いつは)りは(まを)しませぬ。140愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ればお(やかた)一大事(いちだいじ)ですから、141()(もの)()()へず城内(じやうない)()()内報(ないはう)(まゐ)りました』
142 カールチン、143テーナの二人(ふたり)双手(もろて)()みマンモスの報告(はうこく)虚実(きよじつ)(はん)じかね、144(しば)黙然(もくねん)として(かんが)へこんで()る。145そこへ何気(なにげ)なうやつて()たのはユーフテスである。146ユーフテスは(この)()様子(やうす)(ただ)ならざると、147マンモスの(その)()()るに(すこ)しく不審(ふしん)(おこ)し、
148ユーフテス旦那(だんな)(さま)149奥様(おくさま)150()機嫌(きげん)(よろ)しう(ござ)りますか。151ヤア其方(そなた)はマンモス、152吾々(われわれ)(ゆる)しもなく直接(ちよくせつ)旦那(だんな)(さま)面会(めんくわい)(ねが)ふとは合点(がてん)(まゐ)らぬ。153(なに)急用(きふよう)(こと)でも(おこ)つたのか』
154(すこ)しく(こゑ)(ちから)()れて(なじ)(やう)()ひつめる。155マンモスは不意(ふい)()たれて(にはか)返答(へんたふ)(こま)り、
156マンモス『ハイ、157いやもう貴方(あなた)()壮健(さうけん)恐悦(きようえつ)至極(しごく)(ぞん)じます。158旦那(だんな)(さま)もお達者(たつしや)で、159まあまあ目出度(めでた)目出度(めでた)い』
160上下(じやうげ)言葉(ことば)使(づか)ひを取違(とりちが)へ、161マゴついてゐる。
162ユーフテス(なん)とも合点(がてん)()かぬマンモスの挙動(きよどう)163(なに)拙者(せつしや)行動(かうどう)について旦那(だんな)(さま)内通(ないつう)をしに()たのだらう。164(なんぢ)()下役(したやく)()るべき(ところ)でない、165(さが)()され』
166カールチン(なに)()もあれ、167ユーフテスに(たづ)()ふべき仔細(しさい)あれば、168マンモス、169其方(そなた)(しば)居間(ゐま)(さが)つて、170此方(こちら)命令(めいれい)()つがよかろうぞ』
171(きび)しき(つる)一声(ひとこゑ)にマンモスは(かへ)言葉(ことば)もなく、172手持(てもち)無沙汰(ぶさた)(あと)(こころ)(のこ)し、173(わが)居間(ゐま)さして(かへ)()く。
174 カールチンは半信(はんしん)半疑(はんぎ)(くも)(つつ)まれながら言葉(ことば)(おごそ)かに、
175カールチン『ユーフテス、176(まへ)(ひと)(たづ)ねたい(こと)があるが、177セーリス(ひめ)居間(ゐま)()つたのは何用(なによう)あつてか、178その理由(わけ)(つつ)まず(かく)さず(わが)(まへ)陳述(ちんじゆつ)せよ』
179語気(ごき)()らげ()ひかけた。180ユーフテスは平然(へいぜん)として、
181ユーフテス(じつ)(その)(こと)()いて旦那(だんな)(さま)一伍(いちぶ)一什(しじふ)申上(まをしあ)げむと、182登城(とじやう)()ませ、183(いそ)いで御前(ごぜん)(まか)()でました(ところ)(ござ)ります。184マンモスの(やつ)185(なに)申上(まをしあ)げたのでは(ござ)りませぬか』
186カールチン『うん』
187テーナ姫其方(そなた)はセーリス(ひめ)(なに)(たく)んで()るのではありませぬか。188セーリス(ひめ)(たれ)(むすめ)だと(おも)つて()ますか。189(まへ)さまの行動(かうどう)(あや)しいと()ふので、190(いま)マンモスが注進(ちゆうしん)()(ところ)だよ。191旦那(だんな)(さま)(うたがひ)()らすために、192何事(なにごと)(つつ)まず(かく)さず()つたが()かろうぞや』
193ユーフテス『お(たづ)ねまでもない一切(いつさい)万事(ばんじ)様子(やうす)申上(まをしあ)げむと参上(さんじやう)(いた)しましたので(ござ)ります。194(じつ)はセーリス(ひめ)195(わたし)(をとこ)らしい(ところ)属根(ぞつこん)()()み、196幾度(いくたび)となく艶書(えんしよ)(おく)()可笑(をか)しさ。197こいつはテツキリ、198クーリンスの内命(ないめい)自分(じぶん)(はら)(さぐ)らして()るに(ちが)ひないと(ぞん)じ、199固造(かたざう)仇名(あだな)をとつた(この)ユーフテスは幾度(いくたび)となく肱鉄(ひぢてつ)をかまし、200昨日(きのふ)まで()れて()ました(ところ)201(をんな)一心(いつしん)()ふものは(えら)いもので、202セーリス(ひめ)態々(わざわざ)(わが)()(たづ)ねて(まゐ)り、203(らち)もない(こと)(まを)して、204(こひ)しいの(なん)のと口説(くど)()て、205いやもう()(あし)もつけやうなく、206(この)(うへ)(つれ)なく(いた)せば自害(じがい)(いた)しかねまじき権幕(けんまく)207そこで(わたし)(おも)ふやうには、208こりや(けつ)して(まは)(もの)ではない。209(こひ)上下(じやうげ)(へだ)てはないと(かんが)へ、210(わざ)(やはら)かく()()れば、211(ひめ)益々(ますます)本性(ほんしやう)(あら)はし、212ぞつこん(わたくし)(ほれ)きつて()ると()ふことが明白(めいはく)になりました。213さうなれば(かれ)利用(りよう)してセーラン(わう)動静(どうせい)(さぐ)り、214(かつ)先方(むかふ)計略(けいりやく)あらば(その)(うら)()くには()つて()いと(ぞん)じまして、215旦那(だんな)(さま)には内証(ないしよう)なれど、216一寸(ちよつと)(この)ユーフテスが()()かしたので(ござ)ります』
217カールチン『あゝさうだつたか、218(まへ)(こと)だから如才(じよさい)はあるまいと(おも)つてゐた。219()つべきものは家来(けらい)なりけりだ。220そりや()いことをして()れた。221よい探偵(たんてい)手蔓(てづる)出来(でき)たものだな。222大自在天(だいじざいてん)(さま)も、223まだ(この)カールチンを()(たま)はぬと()えるわい。224アハヽヽヽ、225いやテーナ、226安心(あんしん)(いた)せよ』
227テーナ姫『それ()いてチツとばかり安心(あんしん)(いた)しましたが、228まだ十分(じふぶん)()(ゆる)(ところ)へは(まゐ)りますまい。229そしてユーフテス、230(なに)かよい(こと)(さぐ)つて()たであらうな』
231ユーフテス『ハイ、232(わう)(さま)信任(しんにん)()けて()るセーリス(ひめ)(こと)ですから、233(なん)でもよく()つてゐます。234(をんな)()ふものは(かしこ)(やう)でもあだといものですワ。235一伍(いちぶ)一什(しじふ)(わたし)口車(くちぐるま)にのつて(みな)(しやべ)つて(しま)ひました』
236カールチン『どんなことを()つて()たのかな』
237ユーフテス(わたし)もまだ一度(いちど)()つたきりで十分(じふぶん)のことは()きませなんだ。238そして(また)あまり追究(つゐきふ)(いた)しますと(あや)しく(おも)はれてはならぬと(ぞん)じ、239(すこ)しばかり、240それとはなしに(さぐ)つて()ました(ところ)が、241(わう)(さま)非常(ひじやう)にサマリー(ひめ)(さま)をお(した)(あそ)ばし、242(ひめ)()ふのならば王位(わうゐ)()てて、243(ひめ)父親(てておや)カールチン(さま)(あと)()がせても()いとのお(かんが)へで(ござ)ります。244あまり()夫婦(ふうふ)(なか)がいいものですから意茶(いちや)づき喧嘩(げんくわ)(あそ)ばし、245到頭(とうとう)サマリー(ひめ)(さま)(わが)()へお(かへ)りになつたので(わう)(さま)()心配(しんぱい)246(くち)(まを)(やう)のことでは(ござ)りませぬ』
247テーナ姫(なに)248(わう)(さま)はサマリー(ひめ)をそれだけ(あい)して()られるのか、249そらさうだらう。250夫婦(ふうふ)情愛(じやうあい)(また)格別(かくべつ)のものだからな』
251(うれ)しげにテーナはうなづく。
252ユーフテス(ひめ)(さま)(もと)(ごと)()はれるのならば、253刹帝利(せつていり)王位(わうゐ)()てて右守(うもり)司様(かみさま)(あと)()いで(もら)つても差支(さしつかへ)ないと時々(ときどき)()らしぢやさうです。254もはや(わう)(さま)(おい)(その)(こころ)ある(うへ)は、255(いち)(にち)(はや)くサマリー(ひめ)(わう)(さま)御許(みもと)(かへ)し、256大黒主(おほくろぬし)(さま)応援(おうゑん)(ことわ)つて、257円満(ゑんまん)解決(かいけつ)(みち)(かう)じられる(はう)将来(しやうらい)()め、258大変(たいへん)結構(けつこう)(ござ)りませう。259国民(こくみん)(たい)しても信用(しんよう)(じやう)大変(たいへん)都合(つがふ)(よろ)しいだらうと(ぞん)じます』
260カールチン『そりや(はた)して真実(しんじつ)か、261それが真実(しんじつ)とすれば此方(こちら)(ひと)(かんが)へねばなるまい。262平地(へいち)(なみ)(おこ)必要(ひつえう)もないからのう』
263ユーフテス『そら、264さうで(ござ)いますとも。265吾々(われわれ)だつて旦那(だんな)(さま)刹帝利(せつていり)(くらゐ)におつき(あそ)ばす以上(いじやう)左守(さもり)(かみ)(にん)じて(いただ)けるのですから、266一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、267ここ(まで)(さぐ)つたので(ござ)ります。268これ以上(いじやう)(また)明日(あす)登城(とじやう)(いた)しましてセーリス(ひめ)(とく)(まを)()かせ、269(わう)信任(しんにん)ある(かれ)(くち)より、270(いち)(にち)(はや)(わう)(さま)自決(じけつ)される(やう)(すす)めませう』
271(はや)くもユーフテスはセーリス(ひめ)(わな)にかかり、272カールチン夫婦(ふうふ)をうまくチヨロまかして(しま)つた。273さうしてサマリー(ひめ)獄舎(ひとや)より()()両親(りやうしん)にお(わび)をさせ、274盛装(せいさう)(ととの)輿(こし)打乗(うちの)せて入那城(いるなじやう)(おく)(とど)ける(こと)となつた。275マンモスはユーフテスの(はか)らひにて(たちま)牢獄(らうごく)()()まれて(しま)つた。
276大正一一・一一・一〇 旧九・二二 北村隆光録)
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