霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 狼(おほかみ)の岩窟(いはや)〔一一一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第2篇 神機赫灼 よみ(新仮名遣い):しんきかくしゃく
章:第10章 狼の岩窟 よみ(新仮名遣い):おおかみのいわや 通し章番号:1114
口述日:1922(大正11)年11月11日(旧09月23日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
イルナの都から四五里ほど離れたところに高照山という高い山脈が横たわっている。イルナの都に行くためには、この山を越す必要があった。高照山は昔、大洪水があったときに高照姫命が天降り給いて国人をその頂に救った因縁があった。
この山の峠は照山峠といった。今より十万年以前に世界的な大地震があり、ハルナの都は海底深く沈没してしまった。今のボンベイは、その時代の大雲山の頂に当たっている。
照山峠の二三里右手に、狼の岩窟があり、恐ろしい狼が群れて闊歩し、人間の侵入を許さない場所であった。黄金姫と清照姫は、イルナの森の手前から狼に誘われて、この岩窟に進み入ることになった。
二人は狼の歓呼の声に迎えられ、狼王の大岩窟に進み入った。岩窟の中は広く美しく、天国の宮殿のようであった。母娘は案に相違しながら狼に導かれて奥に進むと、そこには白髪異様の老人が美しい姫神とともに端座して狼に何事かささやいている。
母娘がよくよく見れば、三五教の宣伝使・天の目一つ神(北光神)と竹野姫の夫婦であった。黄金姫は、北光神夫婦がどうしてこのようなところに立て籠もっているのか尋ねた。
北光神は、神素盞嗚尊より猛獣を済度するようにと命じられたのだと答えた。竹野姫は、狼を使いとして母娘をここへ呼んだのは、イルナの国で大黒主の一派・右守のカールチンの陰謀を打ち破ってもらいたいためだ、と明かした。
イルナのセーラン王の一族を誘い出し、この狼の岩窟に一時かくまう必要があり、その役目を母娘に託したいのだという。母娘は任務を承諾した。
竹野姫は、任務中は狼の眷属が二人を守るであろうと告げた。また道中左守の娘・ヤスダラ姫の一行に会うだろうと告げ、一行中の竜雲に、北光神が岩窟で待っていると伝言してほしいと依頼した。
黄金姫母娘と北光神夫婦は互いに宣伝歌、和歌を交わして任務の成功を祈願した。黄金姫母娘は元来た道を引き換えし、狼の眷属に守られつつ峠を越えてイルナの都に進むことになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-12 12:15:54 文字数:4397 OBC :rm4110
愛善世界社版:142頁 八幡書店版:第7輯 582頁 修補版: 校定版:148頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 入那(いるな)の都(みやこ)より四五(しご)里(り)を隔(へだ)てたる所(ところ)に高照山(たかてるやま)といふ高山脈(かうさんみやく)が横(よこた)はつてゐる。002イルナの都(みやこ)へ行(ゆ)くには如何(どう)しても此(この)山(やま)を越(こ)さねばならぬ。003昔(むかし)大洪水(だいこうずゐ)のあつた時(とき)、004高照姫(たかてるひめの)命(みこと)が天降(あまくだ)り給(たま)ひて、005国人(くにびと)を此(この)高山(かうざん)の頂(いただき)に救(すく)はれた因縁(いんねん)に依(よ)つて今(いま)尚(なほ)高照山(たかてるやま)と称(とな)へられてゐるのである。006此(この)峠(たうげ)を照山峠(てるやまたうげ)と称(とな)へられてゐる。007今(いま)より十万(じふまん)年(ねん)以前(いぜん)に世界(せかい)的(てき)大地震(だいぢしん)があつて、008今(いま)の印度(いんど)は非常(ひじやう)な高原地(かうげんち)であつたのが、009大(おほい)に降下(かうか)して了(しま)つたものである。010ハルナの都(みやこ)も今(いま)は孟買(ボンベイ)となつてゐるが、011今(いま)の孟買(ボンベイ)は丁度(ちやうど)其(その)時代(じだい)の大雲山(たいうんざん)の頂(いただき)に当(あた)つてゐる。012ハルナの都(みやこ)は海底(かいてい)深(ふか)く沈没(ちんぼつ)して了(しま)つた。013故(ゆゑ)に今日(こんにち)の地理学(ちりがく)、014地質学(ちしつがく)より見(み)れば、015大変(たいへん)に此(この)物語(ものがたり)は相違(さうゐ)する点(てん)の多々(たた)あるは言(げん)を俟(ま)たない次第(しだい)である。
016 照山峠(てるやまたうげ)の二三(にさん)里(り)右手(みぎて)に当(あた)つて、017狼(おほかみ)の岩窟(いはや)といふのがある。018ここには実(じつ)に恐(おそ)ろしき狼(おほかみ)の群(むれ)が天地(てんち)を我物顔(わがものがほ)に横行(わうかう)闊歩(くわつぽ)して、019人間(にんげん)の一歩(いつぽ)も其(その)地点(ちてん)に踏(ふ)み入(い)る事(こと)を許(ゆる)さない狼窟(らうくつ)であつた。020黄金姫(わうごんひめ)、021清照姫(きよてるひめ)はイルナの森(もり)の少(すこ)しく手前(てまへ)から狼(おほかみ)の群(むれ)に誘(さそ)はれて、022此(この)狼(おほかみ)の岩窟(いはや)に進(すす)み入(い)る事(こと)となつた。023(狼(おほかみ)とは食人種(しよくじんしゆ)の別称(べつしよう))
024 噂(うはさ)に聞(き)く恐(おそ)ろしき狼(おほかみ)の棲処(すみか)とは言(い)ふものの、025母娘(おやこ)両人(りやうにん)が宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら、026狼(おほかみ)につれられて山(やま)深(ふか)く進(すす)み入(い)ると、027幾千万(いくせんまん)とも限(かぎ)りなく、028狼軍(らうぐん)は細谷路(ほそたにみち)の傍(かたはら)に列(れつ)を作(つく)り、029ウーウーと歓呼(くわんこ)の声(こゑ)を放(はな)ち、030二人(ふたり)の入(い)り来(きた)るをば嬉(うれ)しげに待(ま)ち迎(むか)へてゐる。031母娘(おやこ)はあたりに心(こころ)を配(くば)りながら、032漸(やうや)くにして狼王(らうわう)の棲息(せいそく)せる大岩窟(だいがんくつ)に進(すす)み入(い)つた。
033 岩窟(いはや)の中(なか)は大変(たいへん)に広(ひろ)く且(か)つ美(うつく)しく、034所々(しよしよ)に金(きん)、035銀(ぎん)、036瑪瑙(めなう)、037しやこ、038瑠璃(るり)などが光(ひか)つてゐる。039其(その)美(うる)はしさ、040恰(あだか)も天国(てんごく)の宮殿(きうでん)に進(すす)み入(い)つた如(ごと)き感(かん)じがした。041母娘(おやこ)は案(あん)に相違(さうゐ)しながら狼(おほかみ)に導(みちび)かれて奥(おく)深(ふか)く進(すす)み入(い)ると、042そこに白髪(はくはつ)異様(いやう)の老人(らうじん)が美(うる)はしき姫神(ひめがみ)と共(とも)に端坐(たんざ)し、043何事(なにごと)か狼(おほかみ)に囁(ささや)いてゐる。044狼(おほかみ)はよく人語(じんご)を解(かい)するものの如(ごと)くであつた。045母娘(おやこ)は怪(あや)しみながら老人(らうじん)の側(そば)近(ちか)く寄(よ)り見(み)れば、046豈(あに)図(はか)らむや三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、047天(あめ)の目一(まひと)つ神(かみ)夫婦(ふうふ)である。
048 黄金姫(わうごんひめ)は打驚(うちおどろ)き、049頓狂(とんきやう)な声(こゑ)を出(だ)して、
050黄金姫『ヨウ、051貴方(あなた)は北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)では厶(ござ)いませぬか。052珍(めづら)しい所(ところ)でお目(め)にかかりました。053どうしてマア斯様(かやう)な狼窟(らうくつ)へ御(ご)夫婦(ふうふ)とも御(お)立籠(たてこもり)になつてゐられますか』
054北光神『神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)より、055汝(なんぢ)は神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の神力(しんりき)を得(え)たれば、056最早(もはや)人間界(にんげんかい)を済度(さいど)するには及(およ)ばぬ。057人間界(にんげんかい)は他(た)の宣伝使(せんでんし)にて事足(ことた)れば、058汝(なんぢ)は之(これ)より猛獣(まうじう)の棲処(すみか)に進(すす)み入(い)り、059彼(かれ)等(ら)憐(あは)れなる獣類(じうるゐ)の霊(れい)を済度(さいど)し、060向上(かうじやう)せしめ、061生(しやう)を変(か)へて人間(にんげん)と生(うま)れしむべく、062恵(めぐみ)の露(つゆ)を施(ほどこ)せよとの御(ご)命令(めいれい)、063謹(つつし)んで承(うけたま)はり、064とうとう今(いま)は鷹依姫(たかよりひめ)、065竜国別(たつくにわけ)さまのやうに、066猛獣(まうじう)の王(わう)となりましたよ。067アハヽヽヽ』
068黄金姫『何(なん)とマア大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)仁慈(じんじ)は、069禽獣(きんじう)まで及(およ)ぼすとはここの事(こと)で厶(ござ)いますなア。070私(わたし)等(たち)母娘(おやこ)、071入那(いるな)の森(もり)を越(こ)えて都(みやこ)へ進(すす)まむとする折(をり)しも、072数十頭(すうじつとう)の狼(おほかみ)現(あら)はれ来(きた)り、073吾(われ)等(ら)母娘(おやこ)の袖(そで)を喰(くは)へ無理(むり)に引張(ひつぱ)りますので、074何事(なにごと)か神(かみ)様(さま)の思召(おぼしめし)ならむと、075ここ迄(まで)狼(おほかみ)にひかれて岩窟参(いはやまゐ)りをやつて来(き)ました。076オホヽヽヽ』
077竹野(たけの)『貴女(あなた)は三五教(あななひけう)にて御(おん)名(な)の高(たか)き黄金姫(わうごんひめ)の神司(かむつかさ)で厶(ござ)いましたか、078お若(わか)いのは清照姫(きよてるひめ)様(さま)で厶(ござ)いますか。079世(よ)の為(ため)道(みち)の為(ため)、080御(ご)苦労(くらう)さまで厶(ござ)いますなア』
081黄金姫『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います。082貴女(あなた)は黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)に於(おい)て桃(もも)の実(み)と仕(つか)へ給(たま)うた竹野姫(たけのひめ)様(さま)で厶(ござ)いましたか。083御(ご)高名(かうめい)は承(うけたま)はり、084一度(いちど)拝顔(はいがん)を得(え)たしと明暮(あけく)れ祈(いの)つてゐましたが、085これは又(また)思(おも)はぬ所(ところ)で拝顔(はいがん)を得(え)ました。086何分(なにぶん)身魂(みたま)の曇(くも)つた吾々(われわれ)母娘(おやこ)、087どうぞお叱(しか)りを願(ねが)ひます』
088竹野姫『御(ご)鄭重(ていちよう)な御(ご)挨拶(あいさつ)、089痛(いた)み入(い)ります。090どうぞ何分(なにぶん)にも宜(よろ)しく御(ご)交際(かうさい)を願(ねが)ひます』
091北光(きたてる)『貴女(あなた)は玉山峠(たまやまたうげ)に於(おい)て、092狼(おほかみ)に救(すく)はれたでせう』
093黄金(わうごん)『ハイ左様(さやう)で厶(ござ)います、094貴方(あなた)それを御存(ごぞん)じで厶(ござ)いますか』
095北光神『狼(おほかみ)共(ども)の注進(ちゆうしん)により、096貴女(あなた)の危急(ききふ)を救(すく)ふべく、097一小隊(いちせうたい)ばかり繰出(くりだ)しました、098アハヽヽヽヽ』
099黄金姫『それは御(ご)親切(しんせつ)に能(よ)う救(すく)うて下(くだ)さいました。100吾々(われわれ)は未(ま)だ人間心(にんげんごころ)がぬけませぬので、101猛獣(まうじう)迄(まで)もなづけることは出来(でき)ませぬ。102又(また)獣(けだもの)の言(ことば)を解(かい)する事(こと)も出来(でき)ない困(こま)つた女(をんな)で厶(ござ)います。103かやうな身魂(みたま)を以(もつ)て宣伝使(せんでんし)とは実(じつ)にお恥(はづか)しう厶(ござ)います』
104北光神『貴女(あなた)をここへお招(まね)きしたのは外(ほか)では厶(ござ)いませぬ。105実(じつ)は貴女(あなた)はハルナの都(みやこ)へお越(こ)し遊(あそ)ばす事(こと)になつて居(を)りますれども、106それ以前(いぜん)に一(ひと)つ、107不思議(ふしぎ)な働(はたら)きをして頂(いただ)かねばなりませぬから、108狼(おほかみ)を遣(つか)はして、109右(みぎ)の手続(てつづ)きを取(と)つたので御座(ござ)います。110実(じつ)はイルナの国(くに)にバラモン教(けう)の神司(かむつかさ)兼(けん)刹帝利(せつていり)なるセーラン王(わう)の部下(ぶか)にカールチンといふ心(こころ)汚(きたな)き右守(うもり)があつて、111ハルナの都(みやこ)の大黒主(おほくろぬし)と諜(しめ)し合(あは)せ、112セーラン王(わう)を打亡(うちほろ)ぼし、113自(みづか)ら刹帝利(せつていり)の位地(ゐち)に進(すす)まむと致(いた)して居(を)ります。114就(つ)いてはハルナの都(みやこ)より数千騎(すうせんき)を以(もつ)て、115近々(ちかぢか)にセーラン王(わう)の館(やかた)へ攻(せ)めよせ来(きた)る筈(はず)なれば、116貴女(あなた)は之(これ)よりイルナ城(じやう)に進(すす)み入(い)り、117セーラン王(わう)其(その)他(た)一族(いちぞく)を誘(さそ)ひ出(だ)し、118此(この)狼(おほかみ)の岩窟(いはや)へ迎(むか)へとり、119徐(おもむろ)に右守(うもり)の陰謀(いんぼう)を打破(うちやぶ)つて貰(もら)ひたい。120其(その)為(ため)に貴女(あなた)を御(ご)苦労(くらう)になつたのです』
121と始(はじ)めて狼(おほかみ)の迎(むか)へに来(き)た理由(りいう)を物語(ものがた)る。
122黄金姫『委細(ゐさい)承知(しようち)致(いた)しました。123左様(さやう)ならば母娘(おやこ)両人(りやうにん)が之(これ)よりイルナ城(じやう)へ進(すす)みませう。124何卒(なにとぞ)御(ご)保護(ほご)を願(ねが)ひます』
125北光神『眷族(けんぞく)共(ども)を数多(あまた)従(したが)へさせますれば御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ。126併(しか)しながら狼(おほかみ)といふ奴(やつ)は屋外(をくぐわい)の守護(しゆご)にはなりますが、127屋内(をくない)へ這入(はい)れば少(すこ)しも働(はたら)きの出来(でき)ない奴(やつ)ですから、128どうぞ気(き)をつけて行(い)つて下(くだ)さい。129貴女(あなた)は途中(とちう)に於(おい)て、130竜雲(りううん)を始(はじ)め、131ヤスダラ姫(ひめ)にキツト会(あ)ふでせう。132北光(きたてる)の神(かみ)が待(ま)つてゐたと言(い)つて下(くだ)さい』
133 黄金姫(わうごんひめ)は目(め)を丸(まる)くし、
134黄金姫『ナニ竜雲(りううん)と仰有(おつしや)るのは、135セイロン島(たう)に於(おい)て謀叛(むほん)を企(たく)んだ妖僧(えうそう)では厶(ござ)いませぬか』
136 北光(きたてる)の神(かみ)ニツコと笑(わら)ひ、
137北光神『左様(さやう)で厶(ござ)る。138如何(いか)に悪人(あくにん)なればとて改心(かいしん)した上(うへ)は尊(たふと)き神(かみ)様(さま)の御子(みこ)。139今(いま)は修行(しゆぎやう)の為(ため)、140月(つき)の国(くに)七千(しちせん)余国(よこく)を巡礼(じゆんれい)させてありますが、141時々(ときどき)狼(おほかみ)の眷族(けんぞく)をさし遣(つか)はし、142竜雲(りううん)を守(まも)らせ、143又(また)竜雲(りううん)より絶(た)えず手紙(てがみ)を眷族(けんぞく)に持(も)たせて送(おく)つて来(き)ます。144実(じつ)に狼(おほかみ)と雖(いへど)も、145なづいたら重宝(ちようほう)なものですよ。146アハヽヽヽ』
147黄金姫『丁度(ちやうど)吾々(われわれ)母娘(おやこ)のやうなものですなア。148私(わたし)も蜈蚣姫(むかでひめ)といつた頃(ころ)は、149随分(ずゐぶん)大神(おほかみ)様(さま)の教(をしへ)に敵対(てきた)ひ、150黄金(わうごん)の玉(たま)を盗(ぬす)みなどして、151悪(あく)の限(かぎ)りを尽(つく)して来(き)ましたが、152改心(かいしん)の結果(けつくわ)、153かやうな尊(たふと)き宣伝使(せんでんし)に採用(さいよう)されましたのですから、154実(じつ)に神(かみ)様(さま)の御(ご)仁慈(じんじ)は、155言葉(ことば)に尽(つく)すことが出来(でき)ませぬ』
156と声(こゑ)まで曇(くも)らせてホロリと涙(なみだ)を落(おと)し、157さし俯(うつ)むく。
158清照姫『北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)、159どうぞ清照(きよてる)も御(ご)守護(しゆご)をして下(くだ)さいませや。160キツト御(ご)使命(しめい)は果(はた)しますから。161竹野姫(たけのひめ)様(さま)、162宜(よろ)しく御(お)願(ねが)ひ致(いた)します』
163竹野姫『何(なん)と凛々(りり)しい清照姫(きよてるひめ)様(さま)の御(お)姿(すがた)、164どうぞ男(をとこ)の難(なん)に会(あ)はないやうに気(き)をつけて下(くだ)さいませ。165貴女(あなた)も一度(いちど)御(ご)経験(けいけん)が御(お)有(あ)りなさるのですからなア』
166 清照姫(きよてるひめ)は少(すこ)しく頬(ほほ)を赤(あか)らめて差俯(さしうつ)むくしほらしさ。167北光(きたてる)の神(かみ)は母娘(おやこ)の首途(かどで)を祝(しゆく)すべく、168音吐(おんと)朗々(らうらう)として宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ始(はじ)むる。
169北光神『神(かみ)の御稜威(みいづ)も高照(たかてる)の
170山奥(やまおく)深(ふか)く築(きづ)かれし
171狼(おほかみ)達(たち)の岩窟(いはやど)に
172教(をしへ)を開(ひら)く宣伝使(せんでんし)
173北光彦(きたてるひこ)や竹野姫(たけのひめ)
174黄金姫(わうごんひめ)や清照姫(きよてるひめ)の
175貴(うづ)の命(みこと)の首途(かどいで)を
176祝(しゆく)して清(きよ)き宣伝歌(せんでんか)
177謹(つつし)み敬(いやま)ひ宣(の)べ立(た)つる
178あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
179御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
180イルナの都(みやこ)に立向(たちむか)ふ
181秋(あき)の草野(くさの)の色(いろ)深(ふか)き
182黄金姫(わうごんひめ)や清照姫(きよてるひめ)の
183貴(うづ)の命(みこと)の御使(みつかひ)に
184仁慈(じんじ)無限(むげん)の大神(おほかみ)の
185大御力(おほみちから)を授(さづ)けまし
186眷族(けんぞく)共(ども)に守(まも)らせて
187セーラン王(わう)の館(やかた)へと
188遣(つか)はし奉(まつ)る勇(いさ)ましさ
189皇(すめ)大神(おほかみ)の御言(みこと)もて
190天(あめ)の目一(まひと)つ神司(かむつかさ)
191竹野(たけの)の姫(ひめ)と諸共(もろとも)に
192汝(なれ)が命(みこと)に打向(うちむか)ひ
193イルナの都(みやこ)の曲神(まがかみ)を
194言向和(ことむけやは)す出陣(しゆつぢん)を
195神(かみ)に代(かは)りて宣(の)べ伝(つた)ふ
196朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
197月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
198仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
199魔神(まがみ)はいかに荒(すさ)ぶとも
200皇(すめ)大神(おほかみ)の守(まも)ります
201三五教(あななひけう)の神司(かむつかさ)
202恐(おそ)るることは更(さら)になし
203悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の神司(かむつかさ)
204右守司(うもりつかさ)のカールチン
205それに従(したが)ふ曲神(まがかみ)は
206いかに沢山(さはやま)あるとても
207生言霊(いくことたま)の神力(しんりき)に
208言向和(ことむけやは)し三五(あななひ)の
209教(をしへ)にまつろへ和(やは)すこと
210火(ひ)を睹(み)るよりも明(あきら)けし
211さはさりながらバラモンの
212大黒主(おほくろぬし)は名(な)にし負(お)ふ
213八岐(やまた)大蛇(をろち)の生宮(いきみや)と
214下(くだ)り果(は)てたる霊(たま)なれば
215いかに尊(たふと)き神力(しんりき)も
216容易(ようい)に亡(ほろ)ぼす術(すべ)もなし
217心(こころ)ひそめて時(とき)を待(ま)ち
218彼(かれ)等(ら)が自(みづか)ら弱(よわ)りはて
219悔悟(くわいご)の念(ねん)の起(おこ)るまで
220ひそかに事(こと)を計(はか)るべし
221先(ま)づ第一(だいいち)にセーランの
222王(わう)をば救(すく)ひ一族(いちぞく)を
223助(たす)けてこれの岩窟(いはやど)に
224深(ふか)くかくした其(その)上(うへ)で
225大黒主(おほくろぬし)の軍勢(ぐんぜい)を
226生言霊(いくことたま)に悉(ことごと)く
227言向和(ことむけやは)し、さもなくば
228海(うみ)の彼方(あなた)に追(お)ひちらし
229三五教(あななひけう)の神力(しんりき)を
230時節(じせつ)をまつて照(て)らすべし
231時(とき)の力(ちから)は天地(あめつち)を
232造(つく)り給(たま)ひし大神(おほかみ)も
233左右(さいう)し給(たま)ふ事(こと)ならず
234ここの道理(だうり)を聞(き)き分(わ)けて
235慌(あわ)てず騒(さわ)がず悠々(いういう)と
236時節(じせつ)を待(ま)つて曲神(まがかみ)を
237言向(ことむ)け給(たま)へ惟神(かむながら)
238神(かみ)に代(かは)りて北光(きたてる)の
239神(かみ)の司(つかさ)が宣(の)べ伝(つた)ふ
240あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
241御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
242 竹野姫(たけのひめ)は又(また)黄金姫(わうごんひめ)母娘(おやこ)の首途(かどで)を祝(しゆく)し、243宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ふ。
244竹野姫『鬼熊別(おにくまわけ)が妻司(つまがみ)と
245現(あら)はれ給(たま)ひし蜈蚣姫(むかでひめ)
246心(こころ)の暗(やみ)の戸(と)押(お)し開(ひら)き
247真如(しんによ)の月(つき)の御光(みひかり)に
248照(て)らされ給(たま)ひ三五(あななひ)の
249神(かみ)の司(つかさ)と進(すす)みまし
250名(な)さへ目出度(めでた)き黄金姫(わうごんひめ)の
251貴(うづ)の命(みこと)と言(こと)あげし
252黄竜姫(わうりようひめ)と現(あら)はれて
253竜宮島(りうぐうじま)に時(とき)めきし
254小糸(こいと)の姫(ひめ)も今(いま)は早(はや)
255三五教(あななひけう)の神司(かむつかさ)
256清照姫(きよてるひめ)となり給(たま)ふ
257神(かみ)の恵(めぐみ)の幸(さち)はひて
258曲(まが)は忽(たちま)ち善(ぜん)となり
259曇(くもり)は晴(は)れて大空(おほぞら)の
260青(あを)きが如(ごと)く すくすくと
261心(こころ)勇(いさ)ませ給(たま)ひつつ
262神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
263御言(みこと)畏(かしこ)み秋(あき)の空(そら)
264草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)に身(み)をかため
265心(こころ)も軽(かる)き蓑笠(みのかさ)の
266そのいでたちの勇(いさ)ましさ
267思(おも)へば思(おも)へば三五(あななひ)の
268尊(たふと)き神(かみ)の御教(みをしへ)に
269魔司(まがみ)は忽(たちま)ち善(ぜん)となり
270鬼(おに)は仏(ほとけ)となり変(かは)り
271狼(おほかみ)さへも斯(か)くの如(ごと)
272いと従順(じうじゆん)になりをへぬ
273黄金姫(わうごんひめ)よ清照姫(きよてるひめ)の
274貴(うづ)の命(みこと)よ汝(なれ)は今(いま)
275イルナの都(みやこ)に到(いた)りなば
276我情(がじやう)我慢(がまん)の雲(くも)を去(さ)り
277仁慈(じんじ)無限(むげん)の大神(おほかみ)の
278清(きよ)き心(こころ)に神(かむ)ならひ
279あくまで争(あらそ)ひ競(きそ)ふなく
280無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)を発揮(はつき)して
281四方(よも)にさやれる曲司(まがかみ)を
282善(ぜん)に導(みちび)き救(すく)ひませ
283何程(なにほど)知識(ちしき)はさとくとも
284意念(いねん)はいかに強(つよ)くとも
285禽獣(きんじう)虫魚(ちうぎよ)を助(たす)くるは
286慈悲(じひ)の心(こころ)に及(およ)ぶまじ
287慈悲(じひ)博愛(はくあい)を禽獣(きんじう)に
288及(およ)ぼし救(すく)ふ神心(かみごころ)
289必(かなら)ず忘(わす)れ給(たま)ふまじ
290あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
291神(かみ)に祈(いの)りて竹野姫(たけのひめ)
292汝(なれ)が命(みこと)の出陣(しゆつぢん)に
293際(さい)して忠告(ちうこく)仕(つかまつ)る
294あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
295守(まも)らせ給(たま)へ天津(あまつ)神(かみ)
296国津(くにつ)神(かみ)たち八百万(やほよろづ)
297母娘(おやこ)二人(ふたり)の成功(せいこう)を
298指折(ゆびを)り数(かぞ)へ待(ま)ち暮(く)らす
299竹野(たけの)の姫(ひめ)の志(こころざし)
300心(こころ)に深(ふか)く刻(きざ)みつつ
301とく出(い)でませよ神司(かむつかさ)
302成功(せいこう)祈(いの)り奉(たてまつ)る』
303と歌(うた)ひ了(をは)り、304神殿(しんでん)の神酒(みき)を下(さ)げ来(きた)りて、305母娘(おやこ)に戴(いただ)かせ、306首途(かどで)を送(おく)る。307黄金姫(わうごんひめ)は簡単(かんたん)に三十一(みそひと)文字(もじ)を以(もつ)て答礼(たふれい)に代(か)ふ。
308黄金姫『北光(きたてる)の神(かみ)の命(みこと)や竹野姫(たけのひめ)
309その宣言(のりごと)を固(かた)く守(まも)らむ。
310世(よ)を救(すく)ふ心(こころ)のたけの清(きよ)ければ
311世(よ)に恐(おそ)るべき曲(まが)はあるらめ。
312いざさらばこれより進(すす)み入那国(いるなくに)
313セーラン王(わう)を守(まも)り助(たす)けむ』
314清照(きよてる)『二柱(ふたはしら)神(かみ)の御言(みこと)を畏(かしこ)みて
315母娘(おやこ)は心(こころ)勇(いさ)みて行(ゆ)かむ。
316狼(おほかみ)の御供(みとも)の司(かみ)に守(まも)られて
317入那(いるな)の国(くに)に進(すす)む嬉(うれ)しさ。
318北光(きたてる)の神(かみ)の命(みこと)よいざさらば
319待(ま)たせ給(たま)へよ帰(かへ)り来(く)る日(ひ)を。
320竹野姫(たけのひめ)神(かみ)の命(みこと)に物(もの)申(まを)す
321汝(な)が背(せ)の君(きみ)をよく守(まも)りませ』
322 竹野姫(たけのひめ)は之(これ)に答(こた)へて、
323竹野姫『大神(おほかみ)の御稜威(みいづ)も空(そら)に高照(たかてる)の
324イルナに進(すす)む人(ひと)ぞ尊(たふと)き。
325北光(きたてる)の神(かみ)の司(つかさ)は生神(いきがみ)よ
326今日(けふ)は岩窟(いはや)に明日(あす)は入那(いるな)に』
327黄金(わうごん)『いと清(きよ)き神(かみ)の司(つかさ)の御教(みをしへ)に
328われは進(すす)みて都(みやこ)に上(のぼ)らむ。
329いざさらば二柱(ふたはしら)ともまめやかに
330神(かみ)の大道(おほぢ)に仕(つか)へ給(たま)はれ』
331 かく歌(うた)ひ、332別(わか)れを告(つ)げて再(ふたた)び身(み)づくろひをなし、333黄金姫(わうごんひめ)、334清照姫(きよてるひめ)は狼(おほかみ)に送(おく)られ、335急坂(きふはん)を勇(いさ)み進(すす)んで下(くだ)り、336山口(やまぐち)に出(い)で、337再(ふたた)び元来(もとき)し道(みち)に引返(ひつかへ)し、338照山峠(てるやまたうげ)を越(こ)えて入那(いるな)の都(みやこ)に進(すす)むこととはなりぬ。
339(大正一一・一一・一一 旧九・二三 松村真澄録)
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