霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 難問題(なんもんだい)〔一一一九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第3篇 北光神助 よみ(新仮名遣い):きたてるしんじょ
章:第15章 難問題 よみ(新仮名遣い):なんもんだい 通し章番号:1119
口述日:1922(大正11)年11月12日(旧09月24日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
竜雲はセーラン王を出迎え、北光神の指示にしたがって岩窟内の一室に案内し準備を整えている。
王が一室で控えていると、北光神が現れた。お互いに挨拶を交わし、王は岩窟に至る経緯を北光神に語った。
北光神は王に対して、望まない政略結婚でめあわされた政敵の娘・サマリー姫を、今後どうするつもりかと尋ねた。王はついに、サマリー姫は自分の意にそぐわず、元の許嫁であるヤスダラ姫と夫婦になれるのであれば、王の地位を捨ててもかまわないと北光神に告げた。
北光神は、天則違反の場合にはヤスダラ姫をあきらめるようにと釘をさし、王とヤスダラ姫を二人で面会させた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-15 11:47:59 文字数:4083 OBC :rm4115
愛善世界社版:213頁 八幡書店版:第7輯 608頁 修補版: 校定版:224頁 普及版:100頁 初版: ページ備考:
001 セーラン王(わう)は、002テームス、003レーブ、004カルの三(さん)人(にん)を従(したが)へ蹄(ひづめ)の音(おと)も勇(いさ)ましく、005漸(やうや)くにして北光(きたてる)の神(かみ)の岩窟(がんくつ)の館(やかた)に着(つ)いた。006竜雲(りううん)は岩窟(がんくつ)の口(くち)まで出(い)で迎(むか)へ、
007竜雲『貴方(あなた)はセーラン王(わう)様(さま)で厶(ござ)いますか、008お待(ま)ち受(う)け致(いた)して居(を)りました。009一寸(ちよつと)暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ、010主人(しゆじん)に申上(まをしあ)げて来(き)ますから』
011セーラン王『何分(なにぶん)宜(よろ)しく頼(たの)み入(い)る、012吾々(われわれ)は黄金姫(わうごんひめ)、013清照姫(きよてるひめ)様(さま)の指揮(さしづ)に従(したが)ひ、014暗夜(あんや)を幸(さいは)ひ、015イルナの城(しろ)より忍(しの)んで参(まゐ)つたもので厶(ござ)る。016どうぞ北光彦(きたてるひこ)の神(かみ)様(さま)に宜敷(よろし)くお取(と)りなしを願(ねが)ひます』
017竜雲『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。018暫(しばら)くお待(ま)ちを願(ねが)ひます』
019と其(その)儘(まま)踵(きびす)をかへし奥(おく)深(ふか)く進(すす)み入(い)り、020北光(きたてる)の神(かみ)の前(まへ)に手(て)を支(つか)へ、
021竜雲『正(まさ)しくセーラン王(わう)様(さま)のお出(いで)で御座(ござ)いました。022どちらへお通(とほ)し申(まを)しませうか』
023 ヤスダラ姫(ひめ)の顔色(かほいろ)は嬉(うれ)しさと恥(はづ)かしさと驚(おどろ)きとにサツと変(かは)つた。024北光(きたてる)の神(かみ)は欣然(きんぜん)として、
025北光神『只今(ただいま)御(ご)面会(めんくわい)致(いた)すから、026第三号(だいさんがう)室(しつ)に御(ご)案内(あんない)申(まを)して置(お)け。027さうしてお湯(ゆ)でも差上(さしあ)げて、028暫(しばら)くお待(ま)ちを願(ねが)つて置(お)いて呉(く)れ。029吾(われ)は是(これ)より神殿(しんでん)に参(まゐ)り、030神(かみ)様(さま)にお礼(れい)を申上(まをしあ)げて来(く)る。031サア竹野姫(たけのひめ)、032ヤスダラ姫(ひめ)殿(どの)、033奥(おく)へ参(まゐ)りませう』
034と先(さき)に立(た)ち神前(しんぜん)の間(ま)に進(すす)み行(ゆ)く。035竜雲(りううん)は表(おもて)へさしてセーラン王(わう)を迎(むか)ふべく駆(か)け出(だ)す。036リーダーは後(あと)に両手(りやうて)を組(く)んで独(ひと)り言(ごと)、
037リーダー『何(なん)と怪(け)つ体(たい)な事(こと)があるものだなア。038狼(おほかみ)の山(やま)へ怖々(こはごは)やつて来(き)て見(み)れば、039沢山(たくさん)の狼(おほかみ)は犬(いぬ)のやうに柔順(おとな)しい。040そこへ北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)のやうな、041一(ひと)つ目(め)のお爺(ぢい)さまと、042花(はな)を欺(あざむ)くやうな奥様(おくさま)、043妙(めう)なコントラストだ。044ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)のお供(とも)をして此処(ここ)へやつて来(き)たと思(おも)へば、045セーラン王(わう)様(さま)がお出(い)でなさるとは何(なん)とした不思議(ふしぎ)の事(こと)だらう。046定(さだ)めし姫(ひめ)様(さま)も王(わう)様(さま)のお顔(かほ)を御覧(ごらん)になつたら、047ビツクリと喜(よろこ)びとで妙(めう)な顔(かほ)をなさるだらう………(浄瑠璃(じやうるり)口調(くてう))生者(しやうじや)必滅(ひつめつ)会者(ゑしや)定離(ぢやうり)、048浮世(うきよ)の常(つね)とは云(い)ひながら、049親(おや)と親(おや)との許嫁(いひなづけ)、050怪(あや)しき雲(くも)に隔(へだ)てられ、051国(くに)と都(みやこ)に引(ひ)き分(わか)れ、052朝(あさ)な夕(ゆふ)なに君(きみ)の御(おん)身(み)の上(うへ)、053案(あん)じ暮(くら)して居(を)りました。054今日(けふ)は如何(いか)なる吉日(きちにち)ぞ。055焦(こが)れ焦(こが)れた其(その)人(ひと)に、056所(ところ)もあらうに狼(おほかみ)の住(す)む高照山(たかてるやま)の岩窟(がんくつ)でお目(め)に懸(かか)らうとは、057神(かみ)ならぬ身(み)の知(し)るよしもなく、058泣(な)いてばかり居(を)りました。059思(おも)へば思(おも)へば有難(ありがた)や、060尊(たふと)き神(かみ)の引(ひ)き合(あは)せ、061天(あま)の岩戸(いはと)も開(ひら)けたやうな、062私(わたし)や心(こころ)になりました。063嬉(うれ)しいわいな、064なつかしいわいな………と人目(ひとめ)も恥(は)ぢず縋(すが)りつき、065互(たがひ)に手(て)に手(て)を取(と)り交(かは)し、066泣(な)き叫(さけ)ぶこそ可憐(いぢ)らしき。067チヤン、068チヤン、069チヤン………と云(い)ふ場合(ばあひ)だ。070俺(おれ)も一度(いちど)こんなローマンスを味(あぢ)はつて見(み)たいものだ。071青春(せいしゆん)の血(ち)に燃(も)ゆる壮者(そうしや)と美人(びじん)、072どんなに嬉(うれ)しからうぞ。073互(たがひ)に焦(こが)れ慕(した)うた男(をとこ)と女(をんな)が思(おも)はぬ処(ところ)で遇(あ)ふのだもの、074これが嬉(うれ)しうなうて何(なん)とせうぞいのう………。075アハヽヽヽ、076目出度(めでた)い目出度(めでた)い、077お目出度(めでた)い。078北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)も苦労人(くらうにん)丈(だけ)あつて、079中々(なかなか)粋(すゐ)が利(き)いて居(を)るわい。080こんな事(こと)の分(わか)つた宣伝使(せんでんし)にお仕(つか)へするのなら、081俺(おれ)だつてどんな苦労(くらう)だつて厭(いと)ひはしない。082岩(いは)より固(かた)い千代(ちよ)の固(かた)めを、083千引(ちびき)の岩(いは)の岩窟(いはや)の中(なか)で、084北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)の目(め)ぢやないが、085確(しつか)りカタメと云(い)ふ洒落(しやれ)だな、086ウフヽヽヽ』
087 斯(か)かる所(ところ)へセーラン王(わう)一行(いつかう)を三号室(さんがうしつ)に導(みちび)き置(お)き、088北光(きたてる)の神(かみ)に報告(はうこく)すべく走(はし)つて来(き)た竜雲(りううん)は、089リーダーの唯(ただ)一人(ひとり)面白(おもしろ)さうに笑(わら)うて居(ゐ)るのを見(み)て、
090竜雲『おいリーダー、091何(なに)を笑(わら)つて居(ゐ)るのだ。092お客(きやく)さまが見(み)えたのだよ。093此(この)館(やかた)は御(ご)夫婦(ふうふ)二人(ふたり)きりでお手(て)が足(た)らぬのだから、094早(はや)くお客(きやく)さまのお湯(ゆ)でも汲(く)んでお世話(せわ)をしないか、095気(き)の利(き)かぬ男(をとこ)だなア』
096リーダー『私(わたし)だつて今(いま)来(き)たばつかし、097お客(きやく)さまぢやありませぬか。098客(きやく)の分際(ぶんざい)として、099そんな勝手(かつて)な事(こと)が出来(でき)ますか。100北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)のお許(ゆる)しさへあれば、101お湯(ゆ)も汲(く)みませう、102どんな御用(ごよう)も致(いた)します』
103竜雲『エヽ何(なん)と気(き)の利(き)かぬ男(をとこ)だなア』
104リーダー『余(あま)り気(き)が利(き)いたり融通(ゆうづう)が利(き)くと、105シロの島(しま)の神地(かうぢ)の都(みやこ)で失敗(しつぱい)なさつたやうな事(こと)が出来(でき)ますからなア。106まあヂツクリと落着(おちつ)きなさい。107「大鳥(おほとり)は翼(つばさ)を急(いそ)がぬ」と云(い)ひまして、108度量(どりやう)の大(おほ)きいものは、109さう小(ちひ)さい事(こと)にコセつきませぬからなア。110エヘヽヽヽ』
111竜雲『大男(おほをとこ)総身(そうみ)に智慧(ちゑ)が廻(まは)り兼(か)ねとか云(い)つて、112胴柄(どうがら)ばかり大(おほ)きくつて、113間(ま)に合(あ)はぬ男(をとこ)だなア。114お前(まへ)のやうなものは仁王(にわう)さまにでもなつて門(もん)の入口(いりぐち)にシヤチコ張(ば)つて居(ゐ)るのが適当(てきたう)だ』
115リーダー『モシ竜雲(りううん)さま、116貴方(あなた)に誠(まこと)があるなら、117不言(ふげん)実行(じつかう)ですよ。118師匠(ししやう)を杖(つゑ)にするな、119人(ひと)を力(ちから)にするな、120とは三五教(あななひけう)の教理(けうり)だと、121道々(みちみち)お説教(せつけう)をなさいましたなア。122私(わたし)はよく覚(おぼ)えて居(を)りますよ』
123竜雲『エヽ仕方(しかた)がない、124それなら是(これ)から不言(ふげん)実行(じつかう)だ』
125と第三号(だいさんがう)室(しつ)に向(むか)つて走(はし)り行(ゆ)かうとするのを、126リーダーは裾(すそ)をグツと握(にぎ)り、
127リーダー『モシモシ竜雲(りううん)さま、128不言(ふげん)実行(じつかう)だと今(いま)仰有(おつしや)つたが、129それがもはや不言(ふげん)実行(じつかう)の原則(げんそく)を破(やぶ)つて居(を)られるでは厶(ござ)いませぬか』
130竜雲『エヽ八釜(やかま)しい、131俺(おれ)のは特別製(とくべつせい)の准(じゆん)不言(ふげん)実行(じつかう)だ』
132と云(い)ひながら袖(そで)振(ふ)りきつてセーラン王(わう)の室(しつ)に走(はし)り出(い)で、133恭(うやうや)しく両手(りやうて)を支(つか)へて、
134竜雲『セーラン王(わう)様(さま)、135折角(せつかく)のお越(こ)しえらうお待(ま)たせ申(まを)しまして不都合(ふつがふ)で厶(ござ)いました。136併(しか)し乍(なが)ら、137私(わたし)もたつた今(いま)初(はじ)めて参(まゐ)つたもの、138まだ席(せき)も温(あたた)かくならない位(くらゐ)で厶(ござ)います。139と云(い)つても最早(もはや)二三(にさん)日(にち)は暮(く)れましたが、140此処(ここ)の召使(めしつかひ)と云(い)ふ訳(わけ)でもなし、141貴方(あなた)に一足(ひとあし)お先(さき)に参(まゐ)つた珍客(ちんきやく)で厶(ござ)いますから、142どうぞ悪(あ)しからず見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し下(くだ)さいませ』
143セーラン王『イヤ有難(ありがた)う、144北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)はまだお越(こ)しになりませぬか』
145竜雲『今(いま)お見(み)えになるでせう。146暫(しばら)くお待(ま)ちを願(ねが)ひます』
147王(わう)『高照(たかてる)の嶮(けは)しき山(やま)を登(のぼ)り来(き)て
148岩窟(いはや)の中(なか)に身(み)をやすめぬる。
149北光(きたてる)の神(かみ)の命(みこと)に会(あ)はむとて
150神(かみ)の随々(まにまに)訪(たづ)ね来(こ)しはや』
151竜雲(りううん)『今(いま)しばし待(ま)たせたまはれ神司(かむづかさ)
152やがては此処(ここ)に北光(きたてる)の神(かみ)。
153生身魂(いくみたま)清(きよ)く直(すぐ)なる竹野姫(たけのひめ)
154妻(つま)の命(みこと)も共(とも)にいませり。
155汝(な)が命(みこと)慕(した)ひたまひし姫神(ひめがみ)に
156会(あ)はせたまはむ時(とき)は迫(せま)れり。
157ヤスダラ姫(ひめ)貴(うづ)の命(みこと)は君(きみ)を慕(した)ひ
158朝(あさ)な夕(ゆふ)なに祈(いの)りたまへる』
159王(わう)『摩訶(まか)不思議(ふしぎ)ヤスダラ姫(ひめ)が如何(いか)にして
160これの岩窟(いはや)に潜(ひそ)み居(を)るにや』
161竜雲(りううん)『何事(なにごと)も神(かみ)のまにまに人(ひと)の身(み)は
162まもられて行(ゆ)く夢(ゆめ)の世(よ)なるよ』
163 かく語(かた)り合(あ)ふ所(ところ)へ、164北光(きたてる)の神(かみ)は衣服(いふく)を着替(きか)へ威儀(ゐぎ)を正(ただ)して入(い)り来(きた)り、165王(わう)に向(むか)ひ、
166北光神『私(わたし)は北光彦(きたてるひこ)で厶(ござ)る。167能(よ)くまア此(この)岩窟(いはや)に入(い)らせられました。168黄金姫(わうごんひめ)、169清照姫(きよてるひめ)殿(どの)は機嫌(きげん)よくして居(を)られますかなア』
170セーラン王『初(はじ)めてお目(め)にかかりました。171貴方(あなた)は三五教(あななひけう)にて御(おん)名(な)も高(たか)き北光(きたてる)の神(かみ)様(さま)、172一目(ひとめ)其(その)お姿(すがた)を拝(はい)しまして、173誠(まこと)の生神(いきがみ)様(さま)にお目(め)にかかつたやうな心(こころ)に力(ちから)づきました。174何卒(なにとぞ)今後(こんご)の御(ご)教導(けうだう)をお願(ねが)ひ致(いた)します。175御存(ごぞん)じの通(とほ)りイルナの城(しろ)は危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)で厶(ござ)りますれば、176黄金姫(わうごんひめ)様(さま)の御(お)指図(さしづ)に従(したが)ひ、177卑怯(ひけふ)未練(みれん)とは承知(しようち)しながら神命(しんめい)を奉(ほう)じて微行(びかう)致(いた)して参(まゐ)りました』
178とやや涙(なみだ)ぐみける。
179北光神『アハヽヽヽ、180決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)遊(あそ)ばすな。181何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)の御(ご)経綸(けいりん)に任(まか)すより道(みち)はありませぬ。182これから吾々(われわれ)は神策(しんさく)を施(ほどこ)しますから、183気(き)を落着(おちつ)けてゆつくりとなさつたがよろしからう。184此処(ここ)は御存(ごぞん)じの通(とほ)り狼(おほかみ)の巣窟(さうくつ)、185如何(いか)なる英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)も、186此(この)岩窟(がんくつ)ばかりは窺(うかが)ふ事(こと)は出来(でき)ませぬ。187御(ご)安心(あんしん)なさいませ。188併(しか)し乍(なが)ら、189貴方(あなた)に一(ひと)つお尋(たづ)ねして置(お)かなければならぬ事(こと)が厶(ござ)ります。190それは余(よ)の儀(ぎ)では厶(ござ)らぬ、191貴方(あなた)にはサマリー姫(ひめ)と云(い)ふお妃(きさき)があるでせう、192其(その)妃(きさき)は今後(こんご)どうなさるお積(つも)りですか』
193 王(わう)は此(この)言葉(ことば)にハタとつまり、194如何(いかが)答(こた)へむと心(こころ)を悩(なや)ませ、195黙然(もくねん)として暫(しば)しが間(あひだ)さし俯(うつ)むいて居(ゐ)る。
196北光神『一旦(いつたん)妻(つま)と定(きま)つたサマリー姫(ひめ)を何処迄(どこまで)も連(つ)れて、197共々(ともども)に苦労(くらう)をなさるお考(かんが)へでせうなア。198万一(まんいち)貴方(あなた)の恋(こ)ひ慕(した)ふ立派(りつぱ)な女(をんな)が此処(ここ)に現(あら)はれたとすれば、199貴方(あなた)は自分(じぶん)の意志(いし)に従(したが)つて其(その)女(をんな)を妻(つま)に致(いた)しますか。200但(ただし)は気(き)に入(い)らぬサマリー姫(ひめ)をどこ迄(まで)も愛(あい)して行(ゆ)きますか。201それを聞(き)かして頂(いただ)きたい。202北光(きたてる)の神(かみ)にも少(すこ)し考(かんが)へが厶(ござ)るから』
203 王(わう)は如何(いかが)は答(こた)へむかと、204とつおいつ思案(しあん)に暮(く)れながら、205漸(やうや)くにして、
206セーラン王『ハイ何事(なにごと)も惟神(かむながら)に任(まか)しませう。207心(こころ)の曇(くも)つた吾々(われわれ)、208どうしてよいか判断(はんだん)がつきませぬ。209どうぞ貴方(あなた)のお考(かんが)へを承(うけたま)はりたう御座(ござ)います』
210と甘(うま)く言葉(ことば)をそらし、211北光(きたてる)の神(かみ)に其(その)解決(かいけつ)をおつつけてしまつた。
212北光神『オツホヽヽヽ、213隅(すみ)にもおけぬ王(わう)様(さま)だなア、214かう北光(きたてる)が申(まを)せば御(ご)返答(へんたふ)にお困(こま)りだらうと思(おも)つたが、215反対(はんたい)にこちらへ大問題(だいもんだい)をおつかぶせられ、216北光彦(きたてるひこ)も聊(いささ)か迷惑(めいわく)を致(いた)しました』
217セーラン王『何(なに)も彼(か)も御存(ごぞん)じの貴方(あなた)の前(まへ)で包(つつ)み隠(かく)すも無駄(むだ)で厶(ござ)います。218又(また)私(わたし)も心(こころ)にもなき事(こと)を申上(まをしあ)げたくはありませぬ。219お叱(しか)りかは存(ぞん)じませぬが、220実(じつ)はサマリー姫(ひめ)はどう考(かんが)へても厭(いや)で厭(いや)で仕方(しかた)がありませぬ。221何(なに)かの策略(さくりやく)があつて、222右守(うもり)の司(かみ)が私(わたし)の許嫁(いひなづけ)を追(お)ひ出(だ)し、223娘(むすめ)を無理(むり)に押(お)しつけたので厶(ござ)いますから、224要(えう)するに愛(あい)のなき縁談(えんだん)で厶(ござ)います。225かかる虚偽(きよぎ)的(てき)愛(あい)の夫婦(ふうふ)は却(かへつ)て神(かみ)様(さま)に対(たい)し済(す)まないやうな気(き)も致(いた)します。226又(また)一方(いつぱう)より考(かんが)へて見(み)れば、227今日(こんにち)の処(ところ)サマリー姫(ひめ)は心(こころ)の底(そこ)から私(わたし)に対(たい)して愛慕(あいぼ)の念(ねん)を起(おこ)して居(ゐ)るやうで厶(ござ)います。228それ故(ゆゑ)に日夜(にちや)心(こころ)を痛(いた)め、229どうしたらよいかと迷(まよ)うて居(ゐ)る次第(しだい)で厶(ござ)います。230サマリー姫(ひめ)一人(ひとり)のためにイルナの城(しろ)の興亡(こうばう)に関(くわん)する問題(もんだい)ですから、231私(わたし)も決(けつ)し兼(か)ねて居(を)ります』
232北光神『何(なん)と気(き)の弱(よわ)いお方(かた)だなア。233なぜ男(をとこ)らしく、234初(はじ)めにポンと断(ことわ)りを云(い)はなかつたのですか。235貴方(あなた)はセーラン王(わう)の位地(ゐち)に恋々(れんれん)として、236心(こころ)にもなき結婚(けつこん)を承諾(しようだく)したのでせう。237貴方(あなた)には親(おや)の許(ゆる)した許嫁(いひなづけ)があつた筈(はず)、238なぜ先約(せんやく)を履行(りかう)なさらなかつたか。239それから第一(だいいち)間違(まちが)つて居(ゐ)る。240両親(りやうしん)の許(ゆる)した許嫁(いひなづけ)を無視(むし)して途中(とちう)から変更(へんかう)するといふ事(こと)は第一(だいいち)孝(かう)の道(みち)に欠(か)けて居(ゐ)る。241仮令(たとへ)如何(いか)なる事情(じじやう)があらうとも父王(ちちわう)様(さま)の命令(めいれい)を遵守(じゆんしゆ)し、242一身(いつしん)を賭(と)してなぜ争(あらそ)はなかつたのですか』
243セーラン王『そのお言葉(ことば)を聞(き)いて今更(いまさら)の如(ごと)く自分(じぶん)の薄志(はくし)弱行(じやくかう)を悔(くや)みます。244私(わたし)も何(なん)とかして天則(てんそく)違反(ゐはん)か知(し)らねどもヤスダラ姫(ひめ)と夫婦(ふうふ)となる事(こと)を得(え)ば、245たとへ王位(わうゐ)を捨(す)てても悔(く)ゆる処(ところ)は厶(ござ)いませぬ』
246北光神『ウフヽヽヽ、247とうとう本音(ほんね)を吹(ふ)きましたな。248それが偽(いつは)りのなき貴方(あなた)の真心(まごころ)だ。249併(しか)しながら、250其(その)ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)が、251夫(をつと)に一回(いつくわい)なりとも交(まじ)はりを結(むす)んで居(を)られたならどうなされますか。252それでも貴方(あなた)は喜(よろこ)んで夫婦(ふうふ)になるお考(かんが)へですか。253もしヤスダラ姫(ひめ)に対(たい)し貞節(ていせつ)を守(まも)り、254一回(いつくわい)の交(まじ)はりもして居(ゐ)なかつたとすれば兎(と)も角(かく)、255どうでもかまはぬ、256添(そ)ひさへすればよいと云(い)ふお考(かんが)へなれば、257貴方(あなた)はもはや人間(にんげん)ではない、258恋(こひ)の奴隷(どれい)と云(い)ふものですよ』
259セーラン王『ハイ、260仰(あふ)せの如(ごと)くヤスダラ姫(ひめ)にして左様(さやう)な事(こと)がありとすれば私(わたし)は断念(だんねん)致(いた)します。261併(しか)し彼(かれ)に限(かぎ)つて左様(さやう)な事(こと)はあるまいと思(おも)ひます』
262北光神『今(いま)貴方(あなた)に会(あ)はせたいものがある。263驚(おどろ)かないやうにして下(くだ)さい』
264セーラン王『それはヤスダラ姫(ひめ)で厶(ござ)いますか。265何(なん)とはなしにそのやうな気分(きぶん)が浮(うか)んで参(まゐ)りました』
266北光神『アハヽヽヽ、267矢張(やつぱ)り蛇(じや)の道(みち)は蛇(へび)だなア』
268(大正一一・一一・一二 旧九・二四 加藤明子録)
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