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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第41巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 天空地平
第1章 入那の野辺
第2章 入那城
第3章 偽恋
第4章 右守館
第5章 急告
第6章 誤解
第7章 忍術使
第2篇 神機赫灼
第8章 無理往生
第9章 蓮の川辺
第10章 狼の岩窟
第11章 麓の邂逅
第12章 都入り
第3篇 北光神助
第13章 夜の駒
第14章 慈訓
第15章 難問題
第16章 三番叟
第4篇 神出鬼没
第17章 宵企み
第18章 替へ玉
第19章 当て飲み
第20章 誘惑
第21章 長舌
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<<< 誘惑
(B)
(N)
余白歌 >>>
第二一章
長舌
(
ちやうぜつ
)
〔一一二五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻
篇:
第4篇 神出鬼没
よみ(新仮名遣い):
しんしゅつきぼつ
章:
第21章 長舌
よみ(新仮名遣い):
ちょうぜつ
通し章番号:
1125
口述日:
1922(大正11)年11月12日(旧09月24日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
カールチンは一人館の中で王の位についたら何から着手しようかと都合のよい考えにふけっていた。そこへユーフテスがあわただしく入ってきて、ヤスダラ姫がカールチンに恋をしてしまい、妹を通じて自分に面会を求めてきたと報告にした。
カールチンは真に受けて有頂天になり、ユーフテスについて城内を指していく。ユーフテスは舌を出しながらカールチンを先導する。
ユーフテスは高い石につまづいて倒れ、舌を噛んでしまい血を吐いて倒れてしまった。カールチンはヤスダラ姫のことで有頂天になり、ユーフテスが人事不省になっているのも気づかずに進んで行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-17 00:08:57
OBC :
rm4121
愛善世界社版:
288頁
八幡書店版:
第7輯 636頁
修補版:
校定版:
301頁
普及版:
137頁
初版:
ページ備考:
001
右守司
(
うもりつかさ
)
のカールチンは
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
端坐
(
たんざ
)
して、
002
やがて
二カ月
(
にかげつ
)
の
末
(
すゑ
)
には
日頃
(
ひごろ
)
の
願望
(
ぐわんばう
)
成就
(
じやうじゆ
)
し、
003
刹帝利
(
せつていり
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
進
(
すす
)
むだらう、
004
さうすれば
城内
(
じやうない
)
の
大改革
(
だいかいかく
)
を
施
(
ほどこ
)
さねばなるまい。
005
先
(
ま
)
ず
第一
(
だいいち
)
着手
(
ちやくしゆ
)
として
何
(
なに
)
から
始
(
はじ
)
めようかなどと、
006
猿猴
(
ゑんこう
)
が
水
(
みづ
)
の
月
(
つき
)
を
掴
(
つか
)
むやうな
虫
(
むし
)
のよい
考
(
かんが
)
へに
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
007
其処
(
そこ
)
へユーフテスは
慌
(
あわただ
)
しく
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
008
ユーフテス
『モシモシ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
009
お
喜
(
よろこ
)
びなされませ。
010
イヒヽヽヽヽ、
011
お
目出度
(
めでた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
012
貴方
(
あなた
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
偉
(
えら
)
い
方
(
かた
)
ですなア、
013
偉大
(
ゐだい
)
の
人格者
(
じんかくしや
)
ですよ。
014
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
貴方
(
あなた
)
のお
顔
(
かほ
)
を
一寸
(
ちよつと
)
拝
(
をが
)
み
遊
(
あそ
)
ばしてから、
015
俄
(
にはか
)
に
病気
(
びやうき
)
になられましてブラブラとして
居
(
を
)
られます。
016
何卒
(
どうぞ
)
一遍
(
いつぺん
)
見舞
(
みまひ
)
に
往
(
い
)
つてあげて
下
(
くだ
)
さいませな。
017
ドクトル・オブ・メヂチーネでもイルナの
湯
(
ゆ
)
でも、
018
どうしてもかうしても
治癒
(
なほ
)
らないと
云
(
い
)
ふ
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
になられまして、
019
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
までウンウンと
唸
(
うな
)
り
通
(
とほ
)
し、
020
それはそれは
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
目
(
め
)
を
開
(
あ
)
けて
見
(
み
)
ては
居
(
を
)
られませぬ。
021
そこでセーリス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
大変
(
たいへん
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
遊
(
あそ
)
ばして、
022
其
(
その
)
病源
(
びやうげん
)
をお
探
(
さぐ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたところ、
023
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は、
024
エヽヽヽヽと
細
(
ほそ
)
い
細
(
ほそ
)
い
柳
(
やなぎ
)
の
葉
(
は
)
の
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
をして「
妾
(
わたし
)
の
病
(
やまひ
)
は
気
(
き
)
の
病
(
やまひ
)
だ、
025
ウヽヽモヽヽリヽヽ』と
云
(
い
)
つて
俯
(
うつ
)
むいて
後
(
あと
)
は
何
(
なに
)
も
仰有
(
おつしや
)
いませぬ。
026
そこで
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
みのよいセーリス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が「ハヽアこれは
右守
(
うもり
)
さまに
ホ
の
字
(
じ
)
と
レ
の
字
(
じ
)
だな。
027
これは
到底
(
たうてい
)
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
のお
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せねば
本復
(
ほんぷく
)
は
出来
(
でき
)
まい」とちやんと
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
で
裁判
(
さいばん
)
して、
028
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
向
(
むか
)
ひ
言葉
(
ことば
)
淑
(
しと
)
やかに「モシ
姉上
(
あねうへ
)
様
(
さま
)
、
029
何
(
なに
)
か
心
(
こころ
)
に
秘密
(
ひみつ
)
があるのでせう。
030
妹
(
いもうと
)
の
私
(
わたし
)
に
云
(
い
)
はれない
事
(
こと
)
はありますまいから、
031
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
032
どんな
事
(
こと
)
でも
姉様
(
ねえさま
)
の
事
(
こと
)
なら
御用
(
ごよう
)
を
承
(
うけたま
)
はりませう」と
鶯
(
うぐひす
)
か
鈴虫
(
すずむし
)
のやうな
声
(
こゑ
)
で
尋
(
たづ
)
ねられた
処
(
ところ
)
、
033
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
はやうやう
涙
(
なみだ
)
の
顔
(
かほ
)
を
上
(
あ
)
げ「あゝ
妹
(
いもうと
)
、
034
よう
親切
(
しんせつ
)
に
尋
(
たづ
)
ねて
下
(
くだ
)
さつた。
035
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
は
嬉
(
うれ
)
しいが、
036
余
(
あま
)
り
恥
(
はづ
)
かしうて
口籠
(
くちごも
)
り
何
(
なに
)
も
云
(
い
)
へませぬ。
037
もう
私
(
わたくし
)
は
生
(
い
)
きて
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
望
(
のぞ
)
みのない
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
だから、
038
潔
(
いさぎよ
)
う
死
(
し
)
にます」と、
039
とつけ
もない
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るのでセーリス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
益々
(
ますます
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なされ、
040
いろいろと
手
(
て
)
を
変
(
か
)
へ
品
(
しな
)
を
替
(
か
)
へ
探
(
さぐ
)
つて
見
(
み
)
なされた
処
(
ところ
)
、
041
姉計
(
あねはか
)
らむや
妹計
(
いもうとはか
)
らむや、
042
立派
(
りつぱ
)
な
奥様
(
おくさま
)
のある
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
に
恋慕
(
れんぼ
)
して
厶
(
ござ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がハツキリと
分
(
わか
)
りました。
043
エヘヽヽヽ、
044
お
目出度
(
めでた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
045
お
浦山吹
(
うらやまぶき
)
で
厶
(
ござ
)
いますわい』
046
カールチンは
忽
(
たちま
)
ち
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
うし
涎
(
よだれ
)
をくりながら、
047
カールチン
『ウツフン、
048
そんな
事
(
こと
)
があつたら、
049
それこそ
天地
(
てんち
)
が
ひつくり
返
(
かへ
)
るぢやないか。
050
若
(
わか
)
い
者
(
もの
)
なら
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
051
こんな
年寄
(
としよ
)
つた
五十
(
ごじふ
)
男
(
をとこ
)
にそんな
事
(
こと
)
がありやうがないぢやないか。
052
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い、
053
そんなに
人
(
ひと
)
を
煽
(
おだ
)
てるものぢやないわ』
054
ユーフテス
『イエイエ
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
にそんな
嘘
(
うそ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げて
済
(
す
)
みますか。
055
恋
(
こひ
)
と
云
(
い
)
ふものは
老若
(
らうにやく
)
上下
(
じやうげ
)
の
区別
(
くべつ
)
はありませぬ。
056
又
(
また
)
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものは
虚栄心
(
きよえいしん
)
の
強
(
つよ
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますから、
057
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
がやがて
刹帝利
(
せつていり
)
におなり
遊
(
あそ
)
ばすのを
聞
(
き
)
いて
益々
(
ますます
)
恋
(
こひ
)
が
募
(
つの
)
つたものと
見
(
み
)
えます。
058
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
059
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
には
立派
(
りつぱ
)
な
奥様
(
おくさま
)
がおありなさるのですから、
060
そんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うては
済
(
す
)
まないと、
061
セーリス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
懇々
(
こんこん
)
と
説諭
(
せつゆ
)
をなさつたさうですけれど、
062
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
はどうしてもお
聞
(
き
)
き
遊
(
あそ
)
ばさず「
此
(
この
)
恋
(
こひ
)
が
叶
(
かな
)
はねば
淵川
(
ふちかは
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
ぬから
後
(
あと
)
の
弔
(
とむら
)
ひを
頼
(
たの
)
むぞや」と、
063
それはそれはエライ
御
(
ご
)
決心
(
けつしん
)
、
064
どうにもかうにも、
065
手
(
て
)
に
合
(
あ
)
ひませぬ。
066
どうぞ
一度
(
いちど
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
館
(
やかた
)
へ、
067
助
(
たす
)
けると
思
(
おも
)
うて
奥様
(
おくさま
)
へ
内証
(
ないしよう
)
で
行
(
い
)
つて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいませ。
068
さうして
貴方
(
あなた
)
から
篤
(
とつ
)
くりと
説諭
(
せつゆ
)
して
下
(
くだ
)
さいましたら、
069
恋
(
こひ
)
の
夢
(
ゆめ
)
も
醒
(
さ
)
めるでせう』
070
カールチンは
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
くしながら、
071
カールチン
『
何
(
なん
)
と
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たものだなア。
072
どれどれそれなら
是
(
これ
)
からヤスダラ
姫
(
ひめ
)
に
会
(
あ
)
ひ、
073
篤
(
とつ
)
くり
道理
(
だうり
)
を
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かし
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
らしてやらう』
074
といそいそとして
座
(
ざ
)
を
立
(
た
)
つ。
075
ユーフテスは
後
(
うしろ
)
を
向
(
む
)
いて
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し、
076
再
(
ふたた
)
び
向
(
む
)
き
直
(
なほ
)
つて
顔
(
かほ
)
を
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
くキチンと
整理
(
せいり
)
し、
077
ユーフテス
『
色男
(
いろをとこ
)
様
(
さま
)
、
078
オツトドツコイ、
079
大切
(
たいせつ
)
な
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
080
左様
(
さやう
)
ならばユーフテスがお
供
(
とも
)
致
(
いた
)
しませう。
081
万々一
(
まんまんいち
)
情約
(
じやうやく
)
締契
(
ていけい
)
が
調
(
ととの
)
ふやうな
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
いましたら、
082
貴方
(
あなた
)
は
私
(
わたし
)
の
相婿
(
あひむこ
)
のお
兄
(
にい
)
様
(
さま
)
、
083
なるべくお
兄
(
にい
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
はれるやうになつて
貰
(
もら
)
ひたいものですな。
084
エヘヽヽヽヽ』
085
カールチン
『ユーフテス、
086
矢釜
(
やかま
)
しいぞ、
087
女房
(
にようばう
)
に
悟
(
さと
)
られちや
大変
(
たいへん
)
だからなア』
088
ユーフテス
『
奥様
(
おくさま
)
に
気兼
(
きがね
)
なさる
処
(
ところ
)
を
見
(
み
)
ると
矢張
(
やはり
)
ちつとは
脈
(
みやく
)
がありますなア。
089
イヤお
目出度
(
めでた
)
う、
090
お
祝
(
いは
)
ひ
申
(
まを
)
します』
091
カールチンは
押
(
おさ
)
へ
切
(
き
)
れぬやうな
嬉
(
うれ
)
しさうな
顔
(
かほ
)
を
晒
(
さら
)
しつつ、
092
カールチン
『オイ、
093
ユーフテス、
094
しようもない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものでないぞ。
095
エヘヽヽヽヽ』
096
と
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
笑
(
ゑみ
)
をこぼし
城内
(
じやうない
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
097
ユーフテスも
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
098
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
しながら
跟
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
099
カールチンはフト
走
(
はし
)
りながら
後
(
あと
)
を
見
(
み
)
ると、
100
ユーフテスが
長
(
なが
)
い
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
して
頤
(
あご
)
をシヤクつて
走
(
はし
)
つて
来
(
く
)
るのが
目
(
め
)
についた。
101
カールチン
『こりや、
102
ユーフテス、
103
何
(
なん
)
だ
長
(
なが
)
い
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
して
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
104
ユーフテス
『
余
(
あま
)
りお
目出度
(
めでた
)
いので、
105
きつと
結婚
(
けつこん
)
の
時
(
とき
)
にはどつさり
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
をして
下
(
くだ
)
さると
思
(
おも
)
ひ、
106
今
(
いま
)
から
舌
(
した
)
なめずりを
した
ので
厶
(
ござ
)
います。
107
これは
誠
(
まこと
)
に
失敬
(
しつけい
)
しま
した
、
108
エヘヽヽヽヽ』
109
カールチン
『こりや こりやユーフテス、
110
先
(
さき
)
へ
往
(
ゆ
)
け、
111
貴様
(
きさま
)
が
後
(
あと
)
から
来
(
く
)
ると
何
(
なん
)
だか
小忙
(
こぜは
)
しくつて
仕方
(
しかた
)
がないわい』
112
ユーフテスは、
113
ユーフテス
『それなら
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
114
お
先
(
さき
)
に
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
ります』
115
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
116
もうかうなつちや
後
(
あと
)
に
目鼻
(
めはな
)
はついて
居
(
ゐ
)
ない、
117
何程
(
なにほど
)
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
したつて
見
(
み
)
とがめらるる
心配
(
しんぱい
)
はないと、
118
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
長
(
なが
)
い
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し
頤
(
あご
)
をしやくりながら、
119
とんとんとんと
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
す
途端
(
とたん
)
、
120
高
(
たか
)
い
石
(
いし
)
につまづいてバタリと
倒
(
たふ
)
れる
機
(
はづみ
)
に
舌
(
した
)
を
噛
(
か
)
み、
121
ウンと
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
血
(
ち
)
を
吐
(
は
)
いて
打
(
う
)
ち
倒
(
たふ
)
れた。
122
カールチンはヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
事
(
こと
)
のみに
現
(
うつつ
)
になつて、
123
ユーフテスの
舌
(
した
)
を
噛
(
か
)
んで
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
るのに
気
(
き
)
がつかず、
124
其
(
その
)
体
(
からだ
)
に
躓
(
つまづ
)
いて
三間
(
さんげん
)
ばかり
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
にドスンと
打
(
う
)
ち
倒
(
たふ
)
れ「アイタヽヽヽ」と
膝頭
(
ひざがしら
)
を
撫
(
な
)
でながら、
125
まだ
気
(
き
)
がつかず、
126
カールチン
『ユーフテスの
奴
(
やつ
)
何
(
なん
)
だ、
127
俺
(
おれ
)
が
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
るのも
知
(
し
)
らずに、
128
主人
(
しゆじん
)
を
後
(
あと
)
にして
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
何処
(
どこ
)
かへ
行
(
ゆ
)
きやがつた。
129
何
(
なん
)
と
脚
(
あし
)
の
早
(
はや
)
い
奴
(
やつ
)
ぢやなア』
130
と
呟
(
つぶや
)
きながら、
131
とんとんとんと
道端
(
みちばた
)
のイトドやキリギリスを
驚
(
おどろ
)
かせて
城内
(
じやうない
)
指
(
さ
)
して
一目散
(
いちもくさん
)
に
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
132
(
大正一一・一一・一二
旧九・二四
加藤明子
録)
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