霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 替(か)へ玉(だま)〔一一二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第4篇 神出鬼没 よみ(新仮名遣い):しんしゅつきぼつ
章:第18章 替へ玉 よみ(新仮名遣い):かえだま 通し章番号:1122
口述日:1922(大正11)年11月12日(旧09月24日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台:イルナ城(入那城、セーラン王の館) あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
イルナ城の奥の間では、清照姫がヤスダラ姫への変装をしていた。黄金姫は、セーリス姫に三五教の教えの意味を説いて聞かせている。
その間に廊下に足音が聞こえてきた。黄金姫は王の間に姿を隠し、中から錠を下ろしてしまった。ヤスダラ姫に化けた清照姫とセーリス姫は、煙草盆を前に煙を吐いている。
やってきたのは、ユーフテスに先導されたカールチンとマンモスだった。清照姫は、ヤスダラ姫の声を作ってカールチンに声をかけた。
清照姫は、カールチンの妻テーナ姫がテルマン国にやってきて夫のシャールに讒言したことの怨みをぶちまけ、カールチンを非難した。そしてセーラン王との許嫁の仲を無理矢理割いたことについても非難し、怒鳴りつけた。
カールチンは怒って右守の権限でヤスダラ姫を捕縛しようとする。一方ヤスダラ姫(清照姫)は王の代行としてカールチンを捕縛せよと命令する。ユーフテス、マンモスは途方に暮れてしまう。
ヤスダラ姫(清照姫)は傲然として右守を威喝する。右守は怒ってヤスダラ姫(清照姫)をにらみつけている。そこへサマリー姫がやってきた。ヤスダラ姫(清照姫)は、これまでの怨みを晴らすはこのときと叫び、サマリー姫に襲い掛かろうとする。
右守は呼子を出して吹き、十数人の捕り手を呼び寄せたが、ヤスダラ姫(清照姫)は武者ぶりつく捕り手を振り払い、身構えして叱りつける。その権幕に捕り手たちも呆然として遠巻きにするのみであった。
黄金姫は、セーラン王の間から王のつくり声をして、一同に控えるように命じた。ヤスダラ姫(清照姫)はサマリー姫を離縁して自分を正妻にするようにとセーラン王(黄金姫)に頼み込んだ。
黄金姫はセーラン王の作り声で、バラモン教の大黒主にならって一夫多妻主義を取り、サマリー姫を正妻とし、ヤスダラ姫を第二夫人とすると言い渡した。そして右守に対し、改心すれば位を譲って自分は退位するつもりだから、自分の病気が回復したら改めて登城するようにと宣言した。
右守はこれを聞いて喜び勇み、マンモスとサマリー姫を連れて館に引き下がった。後に王の間から出てきた黄金姫は、清照姫、セーリス姫、ユーフテスらとともに笑い転げた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-16 14:18:50 文字数:5888 OBC :rm4118
愛善世界社版:252頁 八幡書店版:第7輯 623頁 修補版: 校定版:264頁 普及版:119頁 初版: ページ備考:
001 イルナ城(じやう)の奥(おく)の間(ま)には黄金姫(わうごんひめ)、002清照姫(きよてるひめ)、003セーリス姫(ひめ)の三(さん)人(にん)が首(くび)を鳩(あつ)めて姦(かしま)しく喋々(てふてふ)喃々(なんなん)と論戦(ろんせん)を戦(たたか)はして居(ゐ)る。
004セーリス『あのまア、005清照姫(きよてるひめ)様(さま)のお美(うつく)しい事(こと)、006ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)そつくりですわ。007ようまアお顔(かほ)も御覧(ごらん)になつたことがないのに、008それ程(ほど)似(に)るやうに造(つく)れましたねえ』
009清照姫『照山峠(てるやまたうげ)の麓(ふもと)でお目(め)にかかつたのですよ。010其(その)時(とき)のお顔(かほ)を記憶(きおく)に止(と)めて居(ゐ)て作(つく)つたのですから、011写真(しやしん)に取(と)つたやうなものですわ。012何事(なにごと)も新(あたら)しい女(をんな)の覇張(はば)る世(よ)の中(なか)ですから、013清照姫(きよてるひめ)もどうやら新(あたら)しいヤスダラ姫(ひめ)様(さま)になつて仕舞(しま)ひました。014オホヽヽヽヽ』
015セーリス姫『併(しか)し、016新(あたら)しい世(よ)の中(なか)が建設(けんせつ)されるとか、017されたとか、018三五教(あななひけう)では仰有(おつしや)るぢや厶(ござ)いませぬか』
019 黄金姫(わうごんひめ)はしたり顔(がほ)にて答(こた)ふ。
020黄金姫『新(あたら)しき天(てん)と新(あたら)しき地(ち)とが今度(こんど)は三五教(あななひけう)の神力(しんりき)によつて現(あら)はれるのですよ。021今迄(いままで)の天(てん)と今迄(いままで)の地(ち)は既(すで)に過(す)ぎ去(さ)つた今日(こんにち)です。022是(これ)から聖城(せいじやう)なる新(あたら)しきヱルサレムが地(ち)に下(くだ)り、023国治立(くにはるたちの)尊(みこと)が降(くだ)り給(たま)うて天下(てんか)万民(ばんみん)も亦(また)新(あたら)しく生(い)き返(かへ)らせ給(たま)ふ時代(じだい)に近(ちか)づいたのです。024ヱルサレムの城(しろ)は四方(しはう)になつて居(ゐ)て長(なが)さと幅(はば)と同一(どういつ)です。025木花姫(このはなひめの)命(みこと)様(さま)が天教山(てんけうざん)より出雲姫(いづもひめの)命(みこと)を遣(つか)はし給(たま)うて、026竿(さを)を以(もつ)てエルサレムの城(しろ)を測量(そくりやう)させられた所(ところ)が一万(いちまん)二千(にせん)フアーロングあるといふことです。027城(しろ)の長(なが)さも広(ひろ)さも高(たか)さも皆(みな)相等(あひひと)しく、028其(その)石垣(いしがき)は百(ひやく)四十四(しじふし)キユーピツトあつて、029碧玉(へきぎよく)にて石垣(いしがき)を築(きづ)き、030其(その)城(しろ)は清(きよ)らかな玻璃(はり)の如(ごと)き純金(じゆんきん)で造(つく)り、031城(しろ)の石垣(いしがき)の礎(いしずゑ)は各(かく)様々(さまざま)の宝石(はうせき)で飾(かざ)られてあります。032十二(じふに)の門(もん)は十二(じふに)の真珠(しんじゆ)で造(つく)られ、033透(す)き徹(とほ)る様(やう)な黄金造(わうごんづく)りの建物(たてもの)ばかりで目(め)も眩(まば)ゆきばかりであります』
034 セーリス姫(ひめ)は驚(おどろ)いて、
035セーリス姫『新(あたら)しい天(てん)や新(あたら)しい地(ち)が現(あら)はれるとはソリヤ大変(たいへん)な事(こと)ぢやありませぬか。036地異(ちい)天変(てんぺん)も爰(ここ)に到(いた)つて極(きは)まれりと謂(い)ふべしですな』
037黄金姫『新(あたら)しき天地(てんち)とは新(あたら)しき教会(けうくわい)のことで、038要(えう)するに埴安彦(はにやすひこ)、039埴安姫(はにやすひめ)の神(かみ)様(さま)が三五教(あななひけう)の道場(だうぢやう)をお開(ひら)き遊(あそ)ばしたことを指(さ)して謂(い)ふのですワ』
040セーリス姫『天(てん)より下(くだ)り来(きた)るエルサレム城(じやう)といふことは全体(ぜんたい)何(なに)をいふのでせうか』
041黄金姫『救世(きうせい)主神(しゆしん)埴安彦(はにやすひこ)の神(かみ)の示(しめ)し給(たま)ふ所(ところ)の天地(てんち)の誠(まこと)、042三五教(あななひけう)の教説(けうせつ)のことであります』
043セーリス姫『その長(なが)さ広(ひろ)さ高(たか)さ相(あひ)等(ひと)しくして各(かく)一万(いちまん)二千(にせん)フアーロングあると仰有(おつしや)つたのは、044如何(いか)なる意味(いみ)で厶(ござ)いますか』
045黄金姫『三五教(あななひけう)の教説中(けうせつちう)の真(しん)と善(ぜん)と美(び)とを合一(がふいつ)して言(い)つたのです。046又(また)城(しろ)の石垣(いしがき)といふのは此(この)教(をしへ)を守護(しゆご)し宣伝(せんでん)する神司(かむつかさ)のことです。047百(ひやく)四十四(しじふし)キユーピツトあるとは三五教(あななひけう)の真(しん)と善(ぜん)と美(び)の三相(さんさう)を悉(ことごと)く挙(あ)げて称讃(しようさん)したもので、048宣伝使(せんでんし)たるものの純良(じゆんりやう)なる性相(せいさう)を言(い)つたのです。049又(また)真珠(しんじゆ)より成(な)つた十二(じふに)の門(もん)とは能道(のうだう)の真(しん)を言(い)つたのです。050宝石(はうせき)より成(な)れる石垣(いしがき)の礎(いしずゑ)といふのも彼(かれ)の説教(せつけう)を聞(き)いて立(た)つ所(ところ)の諸々(もろもろ)の知識(ちしき)を云(い)ふのであります。051城(しろ)を造(つく)れる清(きよ)く透(とう)れる玻璃(はり)に似(に)たる黄金(わうごん)とは至仁(しじん)至愛(しあい)の徳(とく)を指(さ)して言(い)つたのです。052教説(けうせつ)と其(その)真(しん)と善(ぜん)と美(び)は愛(あい)の力(ちから)に由(よ)つて倍々(ますます)透明(とうめい)となるものですからなア』
053セーリス姫『さうすると「天地(てんち)が逆様(さかさま)になるぞよ」といふ三五教(あななひけう)の御(ご)神諭(しんゆ)も矢張(やはり)右(みぎ)の式(しき)で解釈(かいしやく)すれば宜(よ)いのですかなア』
054黄金姫『三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)や幹部(かんぶ)の中(なか)には今(いま)でも天(てん)と地(ち)とが現実(げんじつ)的(てき)に顛覆(てんぷく)するやうに思(おも)つて居(を)る人々(ひとびと)もあり、055御(ご)経綸(けいりん)の霊地(れいち)に真珠(しんじゆ)の十二(じふに)の門(もん)が現実(げんじつ)的(てき)に建(た)つ様(やう)に思(おも)つて居(ゐ)る人々(ひとびと)があるのだから、056それで困(こま)るのですよ。057セーリス姫(ひめ)様(さま)も矢張(やつぱり)さう思(おも)つて居(を)られませうなア』
058セーリス姫『ヘイヘイ、059最(もつと)も現実(げんじつ)に立派(りつぱ)な宮(みや)が建(た)つたり、060お城(しろ)が築造(ちくざう)されるものだと、061思(おも)つて居(ゐ)ましたワ』
062黄金姫『現実(げんじつ)的(てき)にソンナ立派(りつぱ)な宮(みや)を建(た)てようものなら、063忽(たちま)ちウラルやバラモンから睨(にら)まれて叩(たた)き潰(つぶ)されて了(しま)ひますぞや。064オホヽヽヽ』
065セーリス姫『オホヽヽヽ』
066清照姫『本当(ほんたう)に神(かみ)様(さま)の教(をしへ)といふものは六ケ敷(むつかし)いもののやうな易(やす)いものですなア。067何故(なぜ)コンナ事(こと)が肝腎(かんじん)の幹部(かんぶ)の連中(れんちう)さまに解(わか)らなかつたのでせうかなア、068お母(かあ)さま』
069黄金姫『是(これ)も時世(ときよ)時節(じせつ)だから仕方(しかた)がありませぬわ、070アーアー』
071セーリス姫『かうして、072清照姫(きよてるひめ)様(さま)のヤスダラ姫(ひめ)は出来上(できあが)りましたが、073右守(うもり)はもう来(き)さうなものですなア。074ユーフテスも何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)るのでせうか』
075 斯(か)く話(はな)す折(をり)しも廊下(らうか)に聞(きこ)ゆる足音(あしおと)、076黄金姫(わうごんひめ)はツと立(た)つて王(わう)の籠(こも)りし室(しつ)に身(み)を隠(かく)し、077中(なか)より錠(ぢやう)を下(おろ)して了(しま)つた。078清照姫(きよてるひめ)、079セーリス姫(ひめ)は煙草盆(たばこぼん)を前(まへ)に置(お)きスパスパと煙(けむり)を吐(は)いて居(ゐ)る。
080 そこへユーフテスの案内(あんない)で足音(あしおと)高(たか)くやつて来(き)たのは、081カールチン、082マンモスの両人(りやうにん)である。083清照姫(きよてるひめ)は、084ヤスダラ姫(ひめ)の声(こゑ)を一度(いちど)聞(き)き覚(おぼ)えて居(ゐ)るのを幸(さいは)ひ、085作(つく)り声(ごゑ)をして、
086ヤスダラ姫(実は清照姫)『オヽ其方(そなた)は右守(うもり)の司(つかさ)カールチン殿(どの)、087先(ま)づ御(ご)無事(ぶじ)で重畳(ちようでふ)々々(ちようでふ)、088ヤスダラ姫(ひめ)も其方(そなた)の壮健(さうけん)の姿(すがた)を見(み)て安心(あんしん)致(いた)したぞや』
089 カールチンは周章(あわ)てて、
090カールチン『イヤ、091姫(ひめ)様(さま)のお帰(かへ)りと承(うけたま)はり早速(さつそく)お伺(うかが)ひに参(まゐ)るところで厶(ござ)いましたが、092あまり突然(とつぜん)の事(こと)で信(しん)ずる訳(わけ)にもゆかず、093ユーフテスをして実否(じつぴ)を伺(うかが)はせました処(ところ)、094正(まさ)しく姫(ひめ)様(さま)のお帰(かへ)りと聞(き)き、095取(と)るものも取敢(とりあ)へず伺(うかが)ひました。096先(ま)づ御(ご)壮健(さうけん)で何(なに)よりお目出度(めでた)う厶(ござ)います』
097と気乗(きの)らぬ声(こゑ)で嫌(いや)さうな挨拶(あいさつ)をして居(ゐ)る。
098ヤスダラ姫(実は清照姫)『コレ右守殿(うもりどの)、099其方(そなた)の言葉(ことば)には極(きは)めて冷淡(れいたん)の色(いろ)が現(あら)はれて居(ゐ)ますぞや。100御(ご)叮嚀(ていねい)にテーナ姫(ひめ)を遥々(はるばる)とテルマン国(ごく)まで使者(ししや)にお立(た)て下(くだ)さいまして、101罪(つみ)もない妾(わらは)をシヤールに牢獄(らうごく)を作(つく)らして投(な)げ込(こ)んで下(くだ)さつた御(ご)親切(しんせつ)は決(けつ)して忘(わす)れはしませぬぞや。102弱(よわ)い女(をんな)と見(み)えても左守(さもり)の血統(けつとう)を享(う)けた刹帝利(せつていり)の女(むすめ)、103如何(いか)なる鉄牢(てつらう)でも、104この細腕(ほそうで)で一(ひと)つ押(お)せば、105何(なん)の雑作(ざふさ)もありませぬ。106鼻糞(はなくそ)で的(まと)をはつたやうな牢獄(らうごく)に繋(つな)がれて苦(くる)しんで居(ゐ)るやうな女(をんな)だつたら、107さつぱり駄目(だめ)ですよ』
108カールチン『これは異(い)なことを承(うけたま)はります。109テーナ姫(ひめ)は、110二三(にさん)ケ月(げつ)の間(あひだ)、111館(やかた)の門(もん)を潜(くぐ)つたことはありませぬ。112そりや何(なに)かの間違(まちが)ひか、113但(ただし)は何者(なにもの)かの計画(けいくわく)で厭(にせ)テーナ姫(ひめ)が貴女(あなた)を苦(くる)しめるべく参(まゐ)つたのでせう。114左様(さやう)なことを仰(あふ)せらるるからは、115キツト貴女(あなた)も此(この)右守(うもり)がテーナと腹(はら)を合(あは)せ、116善(よ)からぬ事(こと)を企(たく)んで居(ゐ)ると思(おも)はれるでせう。117これはこれは近頃(ちかごろ)大変(たいへん)な迷惑(めいわく)、118どうぞ神直日(かむなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、119疑(うたがひ)を晴(は)らして下(くだ)さいませ』
120ヤスダラ姫(実は清照姫)『あの白々(しらじら)しい右守殿(うもりどの)の言葉(ことば)、121妾(わらは)はテーナ殿(どの)の顔(かほ)をよく見知(みし)つて居(ゐ)るから、122疑(うたがひ)が晴(は)らしたくば此処(ここ)へテーナ殿(どの)を連(つ)れて来(き)なさい』
123カールチン『ハイ、124何時(なんどき)でも連(つ)れて参(まゐ)るのが本意(ほんい)で御座(ござ)いますが、125昨夜(さくや)より急病(きふびやう)が起(おこ)り大変(たいへん)苦(くる)しんで居(ゐ)るから、126本復(ほんぷく)次第(しだい)お目(め)に懸(かか)らせませう』
127ヤスダラ姫(実は清照姫)『妾(わらは)は其方(そなた)に対(たい)し厚(あつ)くお礼(れい)を申上(まをしあ)げねばならぬ事(こと)がある。128右守殿(うもりどの)、129決(けつ)してお忘(わす)れではありますまいなア』
130カールチン『これは又(また)、131合点(がてん)の行(ゆ)かぬお言葉(ことば)、132貴女(あなた)様(さま)にお礼(れい)を云(い)うて頂(いただ)くやうな事(こと)は致(いた)した覚(おぼ)えは厶(ござ)いませぬがなア』
133ヤスダラ姫(実は清照姫)『オホヽヽヽ、134右守殿(うもりどの)も年(とし)が寄(よ)つたと見(み)えて健忘症(けんばうしやう)になられましたなア。135妾(わらは)は親(おや)と親(おや)との許嫁(いひなづけ)でセーラン王(わう)様(さま)と夫婦(ふうふ)と定(きま)つて居(ゐ)たのを、136其方(そなた)は御(ご)親切(しんせつ)にも妾(わらは)をテルマン国(ごく)の毘舎(びしや)の館(やかた)へ無理(むり)に追(お)ひやり、137吾(わが)娘(むすめ)サマリー様(さま)を王(わう)の妃(きさき)に押(お)しつけなさいましたでせう。138其(その)時(とき)の妾(わらは)の嬉(うれ)しさ、139否(いや)腹立(はらだた)しさ、140これがどうして寝(ね)ても醒(さ)めても忘(わす)れられませうぞいなア』
141と甲声(かんごゑ)を張(は)り上(あ)げて呶鳴(どな)りつけた。
142カールチン『貴女(あなた)は、143一切(いつさい)の経緯(いきさつ)を御存(ごぞん)じないから、144左様(さやう)な御(ご)立腹(りつぷく)をなさいますが、145これには深(ふか)い様子(やうす)のあることで厶(ござ)います。146セーラン王(わう)様(さま)や左守(さもり)の司(かみ)クーリンスは大黒主(おほくろぬし)の神(かみ)様(さま)に内々(ないない)反対(はんたい)なされ、147鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の御(ご)贔屓(ひいき)ばかり遊(あそ)ばすと云(い)ふことがハルナの都(みやこ)に知(し)れ渡(わた)り、148この右守(うもり)に対(たい)して厳(きび)しい御(ご)質問(しつもん)、149お家(いへ)の一大事(いちだいじ)を思(おも)ひ、150イルナの国(くに)を救(すく)ふべく、151また王(わう)様(さま)を安全(あんぜん)に守(まも)るべく、152貴女(あなた)にはお気(き)の毒(どく)ながら、153あゝいふ手段(しゆだん)を取(と)つたのです。154さうして吾(わが)娘(むすめ)サマリー姫(ひめ)を妃(きさき)に差(さ)し上(あ)げたのも、155大黒主(おほくろぬし)様(さま)に安心(あんしん)させる為(ため)の安全弁(あんぜんべん)、156何卒(どうぞ)この右守(うもり)の胸中(きようちう)を御(ご)推察(すゐさつ)あらむ事(こと)を希望(きばう)致(いた)します』
157ヤスダラ姫(実は清照姫)『あゝさうだつたかなア。158右守司(うもりつかさ)の六韜(りくたう)三略(さんりやく)の兵法(へいはふ)をも知(し)らず、159貴方(そなた)を今迄(いままで)恨(うら)んで居(ゐ)たのは誠(まこと)にもつて恥(はづ)かしい、160女(をんな)の身(み)の浅薄(あさはか)さ、161それでは妾(わらは)も是(これ)から再(ふたた)び此処(ここ)を立(た)ち出(い)で、162サマリー姫(ひめ)様(さま)のお邪魔(じやま)をしないやうに致(いた)しますから、163御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
164カールチン『貴女(あなた)はこれからテルマン国(ごく)のシヤールの館(やかた)へ帰(かへ)つて下(くだ)さいますか。165さう願(ねが)へれば大変(たいへん)結構(けつこう)で厶(ござ)いますが』
166ヤスダラ姫(実は清照姫)『そりや真平(まつぴら)御免(ごめん)蒙(かうむ)りませう。167又(また)してもギス籠(かご)の中(なか)へ投込(なげこ)まれますと、168叩(たた)き潰(つぶ)して出(で)て来(こ)ねばなりませぬからなア、169ホヽヽヽヽ』
170カールチン『キツト此(この)右守(うもり)が保護(ほご)致(いた)しまして左様(さやう)な不心得(ふこころえ)な事(こと)は、171シヤールに厳命(げんめい)して致(いた)させませぬから、172どうぞお帰(かへ)り遊(あそ)ばして下(くだ)さい。173さうして貴女(あなた)は王(わう)様(さま)にお会(あ)ひになりましたか』
174ヤスダラ姫(実は清照姫)『折角(せつかく)お目(め)にかからうと思(おも)ひ、175遥々(はるばる)虎口(ここう)を遁(のが)れ、176ここう迄(まで)やつて来(き)ました所(ところ)、177拍子(ひやうし)の悪(わる)い時(とき)には悪(わる)いものです。178王(わう)様(さま)は俄(にはか)の大病(たいびやう)でお引(ひ)き籠(こも)り遊(あそ)ばし、179何人(なんぴと)にも面会(めんくわい)せないとのこと、180妾(わらは)の心(こころ)もちつとは推量(すゐりやう)して下(くだ)さいませ、181右守(うもり)殿(どの)』
182と態(わざ)とに泣声(なきごゑ)を出(だ)して芝居(しばゐ)をして見(み)せた。
183 カールチンは威丈高(ゐたけだか)になり、
184カールチン『王(わう)様(さま)が御(ご)面会(めんくわい)せぬと仰有(おつしや)るのに、185貴女(あなた)は御(ご)命令(めいれい)に背(そむ)き、186たつて会(あ)はうと遊(あそ)ばすのか、187何(なん)と云(い)ふ不届(ふとど)きな御(お)心(こころ)で厶(ござ)る。188今日(けふ)は右守(うもり)の司(つかさ)、189王(わう)様(さま)に代(かは)つてヤスダラ姫(ひめ)を放逐(はうちく)致(いた)すから、190サ早(はや)くお立(た)ち召(め)され』
191ヤスダラ姫(実は清照姫)『セーラン王(わう)の許嫁(いひなづけ)の誠(まこと)の妻(つま)ヤスダラ姫(ひめ)、192今日(けふ)より汝(なんぢ)右守(うもり)に対(たい)して退職(たいしよく)を命(めい)ずる。193エヽ汚(けが)らはしい、194一刻(いつこく)も早(はや)く退城(たいじやう)召(め)され』
195カールチン『これはしたり、196ヤスダラ姫(ひめ)は狂気(きやうき)召(め)されたなア。197狂人(きやうじん)をお館(やかた)へ置(お)くは危険(きけん)千万(せんばん)、198火(ひ)の用心(ようじん)の程(ほど)も案(あん)ぜらるる。199イヤ、200マンモス、201ユーフテス、202速(すみやか)にヤスダラ姫(ひめ)を捕縛(ほばく)して座敷牢(ざしきろう)にぶち込(こ)み御(ご)静養(せいやう)をさせ奉(たてまつ)れ。203彼様(かやう)な事(こと)が外部(ぐわいぶ)に洩(も)れては王(わう)様(さま)の御(ご)信用(しんよう)に関(くわん)する一大事(いちだいじ)だから』
204ヤスダラ姫(実は清照姫)『アイヤ、205ヤスダラ姫(ひめ)が命令(めいれい)する。206ユーフテス、207マンモス、208セーリス姫(ひめ)、209速(すみやか)にカールチンを高手(たかて)小手(こて)に縛(いまし)め牢獄(らうごく)に投入(とうにふ)せよ。210主(しゆ)に向(むか)つて無礼(ぶれい)千万(せんばん)の行(や)り方(かた)、211容赦(ようしや)はならぬぞ。212セーラン王(わう)に代(かは)り固(かた)く申(まを)しつくる』
213 マンモスは途方(とはう)に暮(く)れながら、
214マンモス『オイ、215ユーフテス、216どちらを聞(き)いたらよいのだらうかなア』
217 セーリス姫(ひめ)は、
218セーリス姫『オホヽヽヽ。219一層(いつそう)の事(こと)どちらも牢獄(らうごく)に投(な)げ込(こ)んだらどうでせう。220喧嘩(けんくわ)両成敗(りやうせいばい)と云(い)ふから、221まさか片手(かたて)落(お)ちの処置(しよち)も取(と)れますまい』
222カールチン『マンモス、223ユーフテス、224主人(しゆじん)カールチンの命令(めいれい)を聞(き)かぬか』
225マンモス『ハイハイ、226聞(き)かぬ訳(わけ)では厶(ござ)いませぬ、227一寸(ちよつと)暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ。228マンモスは俄(にはか)に便所(べんじよ)へ行(ゆ)きたくなりましたから』
229カールチン『ユーフテス、230早(はや)く捕縛(ほばく)せぬか』
231ユーフテス『ハイ、232捕縛(ほばく)致(いた)しませう、233併(しか)し一(ひと)つ考(かんが)へさして下(くだ)さいませ。234セーリス姫(ひめ)様(さま)に篤(とく)と相談(さうだん)を致(いた)しますから』
235ヤスダラ姫(実は清照姫)『オホヽヽヽ、236このヤスダラ姫(ひめ)に指一本(ゆびいつぽん)でも触(さ)へるなら触(さ)へて御覧(ごらん)、237面白(おもしろ)い活劇(くわつげき)が演(えん)ぜられ、238手足(てあし)首(くび)胴(どう)所(ところ)を異(こと)にし、239小児(こども)のお玩具箱(おもちやばこ)の人形(にんぎやう)のやうになりますよ。240それでも構(かま)はねば何人(なんぴと)に限(かぎ)らず手向(てむか)ひして御覧(ごらん)』
241 右守(うもり)の司(かみ)は眼(め)を瞋(いか)らし、242清照姫(きよてるひめ)を睨(ね)めつけて居(ゐ)る。243マンモスはブルブルブルと地震(ぢしん)の孫(まご)宜(よろ)しく慄(ふる)へて居(ゐ)る。244セーリス姫(ひめ)、245ユーフテスは平然(へいぜん)として沈黙(ちんもく)を続(つづ)けてゐる。246其処(そこ)へスタスタ駆(かけ)つて来(き)たのはサマリー姫(ひめ)である。
247カールチン『ヤアお前(まへ)はサマリー姫(ひめ)、248こんな処(ところ)へ来(く)るものでない、249控(ひか)へて居(ゐ)なさい。250何故(なぜ)家(うち)に居(ゐ)ないのか、251誰人(だれ)に聞(き)いてやつて来(き)たのだ』
252サマリー姫『父上(ちちうへ)、253そんな気楽(きらく)なことが云(い)うて居(を)れますか。254王(わう)様(さま)は御(ご)大病(たいびやう)、255妻(つま)の私(わたし)として、256どうして知(し)らぬ顔(かほ)がして居(を)られませう』
257カールチン『其方(そなた)は此(この)間(あひだ)から夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)をおつ始(ぱじ)め、258未(ま)だ其(その)和解(わかい)も出来(でき)て居(ゐ)ないのだから、259話(はなし)のつく迄(まで)早(はや)く吾(わが)館(やかた)へ帰(かへ)つて待(ま)つて居(ゐ)るがよからうぞよ』
260ヤスダラ姫(実は清照姫)『ヤア珍(めづ)らしや其方(そなた)はサマリー姫(ひめ)殿(どの)、261妾(わらは)は其方(そなた)の為(ため)に許嫁(いひなづけ)の夫(をつと)に添(そ)ふ事(こと)も出来(でき)ず、262テルマンの国(くに)に追(お)ひやられたヤスダラ姫(ひめ)で厶(ござ)いますぞ。263日頃(ひごろ)の恨(うらみ)を晴(は)らすは今(いま)此(この)時(とき)、264よい処(ところ)へ出(で)て厶(ござ)つた。265サア覚悟(かくご)なされ』
266と襷(たすき)十字(じふじ)に綾取(あやど)つて見(み)せた。267サマリー姫(ひめ)は打(う)ち驚(おどろ)き、268カールチンの腰(こし)に喰(くら)ひつき、269ぶるぶる慄(ふる)へながら、
270サマリー姫『もしもしお父(とう)様(さま)、271どうしませう、272助(たす)けて下(くだ)さいませな』
273カールチン『ウン今(いま)に待(ま)て、274ヤスダラ姫(ひめ)をふん縛(じば)つて、275其方(そなた)の邪魔(じやま)を除(のぞ)いてやるから』
276と云(い)ひつつ、277懐中(ふところ)より呼子(よびこ)の笛(ふえ)を取(と)り出(だ)し、278ヒユウヒユウと吹(ふ)き立(た)つれば、279忽(たちま)ち十数(じふすう)人(にん)の捕手(とりて)、280バラバラバラと此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、281清照姫(きよてるひめ)に向(むか)つて武者(むしや)振(ぶ)りつくを、282清照姫(きよてるひめ)は両手(りやうて)を拡(ひろ)げ四股(しこ)を踏(ふ)みしめながら、
283ヤスダラ姫(実は清照姫)『イヤ面白(おもしろ)し面白(おもしろ)し、284ヤスダラ姫(ひめ)が武勇(ぶゆう)の現(あら)はし時(どき)、285木端(こつぱ)武者(むしや)共(ども)、286一人(ひとり)も残(のこ)らず懲(こら)してくれむ。287サア来(こ)い来(きた)れ』
288と身構(みがま)へする。289美人(びじん)の雄々(をを)しき権幕(けんまく)に捕手(とりて)は茫然(ばうぜん)として手出(てだ)しもせず遠巻(とほまき)に巻(ま)いて居(ゐ)る。290次(つぎ)の間(ま)より戸(と)を隔(へだ)ててセーラン王(わう)の声(こゑ)、
291セーラン王(実は黄金姫)『アイヤ右守(うもり)の司(つかさ)、292吾(われ)はセーラン王(わう)なるぞ。293サマリー姫(ひめ)静(しづ)かにせよ。294ヤスダラ姫(ひめ)に向(むか)つて手向(てむか)ひ致(いた)せば、295最早(もはや)吾(われ)は許(ゆる)さぬぞよ。296サマリー姫(ひめ)、297吾(わが)言(げん)を用(もち)ひずば唯今(ただいま)限(かぎ)り夫婦(ふうふ)の縁(えん)を切(き)る。298それでもよいか』
299と呶鳴(どな)つたのは、300云(い)ふまでもなく、301隣室(りんしつ)に隠(かく)れて居(ゐ)た黄金姫(わうごんひめ)の作(つく)り声(ごゑ)である。302カールチンは王(わう)の声(こゑ)としては少(すこ)し年(とし)が寄(よ)つて居(ゐ)るやうである。303併(しか)し病気(びやうき)のため体(からだ)が弱(よわ)り声(こゑ)が慄(ふる)うて居(ゐ)るのであらうと心(こころ)にきめて了(しま)ひ、304俄(にはか)に言葉(ことば)を柔(やはら)げて、
305カールチン『御(ご)病気(びやうき)中(ちう)をお気(き)を揉(も)ましまして誠(まこと)に済(す)みませぬ。306何卒(どうぞ)お許(ゆる)しを願(ねが)ひます』
307サマリー姫『王(わう)様(さま)、308どうぞ許(ゆる)して下(くだ)さいませ』
309とサマリー姫(ひめ)は泣(な)きすする。
310ヤスダラ姫(実は清照姫)『王(わう)様(さま)、311妾(わらは)はテルマン国(ごく)から貴方(あなた)を慕(した)ひ申(まを)し遥々(はるばる)参(まゐ)りました許嫁(いひなづけ)の妻(つま)、312ヤスダラ姫(ひめ)で厶(ござ)います。313何卒(どうぞ)サマリー姫(ひめ)との縁(えん)を切(き)り、314私(わたし)を貴方(あなた)の妻(つま)として下(くだ)さいませ。315さうしてどうぞ一度(ひとたび)尊(たふと)きお顔(かほ)を拝(をが)まして下(くだ)さいませ』
316と態(わざ)と涙(なみだ)を流(なが)しさし俯(うつむ)く。
317 次(つぎ)の間(ま)より又(また)もや王(わう)の作(つく)り声(ごゑ)にて、
318セーラン王(実は黄金姫)『バラモン教(けう)の大棟梁(だいとうりやう)大黒主(おほくろぬし)様(さま)は、319一夫(いつぷ)多妻(たさい)主義(しゆぎ)だ。320先(せん)の妻(つま)を逐出(おひだ)して第二(だいに)の石生能(いその)姫(ひめ)を本妻(ほんさい)に遊(あそ)ばし、321吾々(われわれ)に手本(てほん)をお示(しめ)し下(くだ)さつた以上(いじやう)は何(なに)も憚(はばか)る事(こと)はない。322サマリー姫(ひめ)を元(もと)の如(ごと)く本妻(ほんさい)と致(いた)し、323ヤスダラ姫(ひめ)は第二(だいに)夫人(ふじん)として上女中(かみぢよちう)の取締(とりしま)りに使(つか)うてやるから安心(あんしん)を致(いた)せ。324右守(うもり)の司(つかさ)も、325これに違背(ゐはい)はあるまいがなア』
326カールチン『ハイ、327理義(りぎ)明白(めいはく)なる御(おん)仰(あふ)せ、328決(けつ)して違背(ゐはい)は致(いた)しませぬ。329サマリー姫(ひめ)をどこ迄(まで)も本妻(ほんさい)として愛(あい)してやつて下(くだ)さいますか』
330 次(つぎ)の間(ま)より王(わう)の声(こゑ)、
331セーラン王(実は黄金姫)『サマリー姫(ひめ)の心次第(こころしだい)だ。332次(つい)では右守(うもり)の司(つかさ)の改心(かいしん)次第(しだい)だ。333最早(もはや)余(よ)も刹帝利(せつていり)の職(しよく)に飽(あ)き果(は)てたから、334ここ一二(いちに)ケ月(げつ)の間(あひだ)に吾(わが)位(くらゐ)を汝(なんぢ)に譲(ゆづ)る程(ほど)に、335早(はや)くサマリー姫(ひめ)を連(つ)れ帰(かへ)り、336余(よ)が本復(ほんぷく)を待(ま)つて改(あらた)めて登城(とじやう)致(いた)すがよからう。337又(また)ヤスダラ姫(ひめ)も、338サマリー姫(ひめ)に余(よ)が面会(めんくわい)するまでは面会(めんくわい)は許(ゆる)さぬぞ。339さう心得(こころえ)たらよからう。340コンコンコン、341あゝ苦(くる)しい、342余(よ)は咳(せき)に悩(なや)んで居(を)るから、343病気(びやうき)本復(ほんぷく)する迄(まで)神殿(しんでん)に籠(こも)り御(ご)祈願(きぐわん)を凝(こ)らすによつて、344右守殿(うもりどの)、345余(よ)が後(あと)を継(つ)ぐ用意(ようい)を万事(ばんじ)万端(ばんたん)館(やかた)に帰(かへ)つて整(ととの)へたがよからうぞ』
346 右守(うもり)は此(この)言葉(ことば)を聞(き)いて雀躍(こをどり)しながら、
347カールチン『ハイ何分(なにぶん)宜敷(よろし)くお願(ねが)ひ申(まを)します。348然(しか)らばサマリー姫(ひめ)を一先(ひとま)づ吾(わが)家(や)に連(つ)れ帰(かへ)り本復(ほんぷく)を待(ま)つて登城(とじやう)致(いた)させませう。349何卒(なにとぞ)一(いち)日(にち)も早(はや)く御(ご)本復(ほんぷく)あらむ事(こと)をお願(ねが)ひ申(まを)します。350サア、351サマリー姫(ひめ)、352マンモス、353是(これ)より館(やかた)へ帰(かへ)らう。354ヤア者(もの)共(ども)、355余(よ)を館(やかた)へ送(おく)つて参(まゐ)れ。356ユーフテス、357汝(なんぢ)はセーリス姫(ひめ)と共(とも)に此処(ここ)に止(とど)まり万事(ばんじ)に気(き)をつけ召(め)され』
358と云(い)ひ捨(す)て意気(いき)揚々(やうやう)と己(おの)が館(やかた)をさしてドヤドヤと帰(かへ)り往(ゆ)く。
359 其(その)後(あと)へ黄金姫(わうごんひめ)は戸(と)を排(はい)して現(あら)はれ来(きた)り、360清照姫(きよてるひめ)、361セーリス姫(ひめ)、3611ユーフテスと顔(かほ)を見合(みあは)せ、
362四人『オホヽヽヽ、363ウフヽヽヽ、364エヘヽヽヽ、365アハヽヽヽ』
366と笑(わら)ひ倒(こ)ける。367日(ひ)は漸(やうや)く西天(せいてん)に姿(すがた)を没(ぼつ)し、368双樹(さうじゆ)の枝(えだ)に止(とま)つた九官鳥(からす)は大口(おほぐち)を開(あ)けて、369阿呆(あはう)々々(あはう)と鳴(な)き立(た)てて居(ゐ)る。
370(大正一一・一一・一二 旧九・二四 加藤明子録)
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